説明

液体噴射ヘッド及び液体噴射装置

【課題】圧電素子の応力集中を低減して圧電素子の破壊を抑制することができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】ノズルに連通する圧力発生室12が複数並設された流路形成基板10と、該流路形成基板の一方面側に前記圧力発生室に対応して設けられて、第1電極60、該第1電極上に設けられた圧電体層70及び該圧電体層上に設けられた第2電極80を有する圧電素子300と、を具備し、前記圧力発生室の並設方向と交差する方向の少なくとも一方の端部において、前記流路形成基板が薄い一定の厚さとなって当該圧力発生室の深さが浅くなった段差部110を具備し、前記圧電体層の前記第1及び第2電極の両者に挟まれて電界が発生される活性部320と前記第1及び第2電極の何れかが存在しないで電界が発生しない非活性部330との境界が、前記段差部に対向する位置に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子を具備する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドには、ノズルに連通する圧力発生室が設けられた流路形成基板の一方面側に、第1電極、圧電体層及び第2電極からなる圧電素子を設け、圧電素子の駆動によって圧力発生室に圧力変化を生じさせて、ノズルからインク滴を吐出するインクジェット式記録ヘッドがある。このようなインクジェット式記録ヘッドに採用されている圧電素子は、例えば、湿気等の外部環境に起因して破壊され易いという問題がある。この問題を解決するために、例えば、圧電体層の外周面を第2電極で覆うように構成したものがある(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1では、第1電極が共通電極、第2電極が個別電極となっている。
【0003】
また、圧電素子の第1電極を圧力発生室毎に設けて個別電極とし、第2電極を複数の圧力発生室に亘って連続して設けて共通電極としたものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。この構造によれば、第2電極自身が圧電体層の沿面部の保護膜として寄与するため、別途保護膜を設ける必要がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−88441号公報
【特許文献2】特開2009−172878号公報(図2及び図4参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2の図2及び図4に示すような圧電素子では、圧力発生室の並設方向と交差する方向において第1及び第2電極の両者が設けられて電界が発生する領域(活性部)と、何れかの電極が設けられずに電界が発生しない領域(非活性部)との境界が圧力発生室に相対向する領域に設けられていると、境界部分の屈曲が大きくなってクラックが発生するという問題があった。特に、第2電極が共通電極の場合、個別電極である第1電極が圧力発生室の並設方向に交差する方向の端部から圧力発生室の外まで引き出されている端部側で、第2電極の端部が圧力発生室に対向する領域にある場合に生じる。また、この場合において、第2電極の端部を圧力発生室の外側の領域に位置するようにすると、流路形成基板で固定されている領域に電界が発生するので、第2電極の端部近傍に応力が集中して破壊が生じて焼損するという問題があった。
【0006】
なお、このような問題は、インクジェット式記録ヘッドだけではなく、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにおいても同様に存在する。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑み、圧電素子の応力集中を低減して圧電素子の破壊を抑制することができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成する本発明の態様は、ノズルに連通する圧力発生室が複数並設された流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に前記圧力発生室に対応して設けられて、第1電極、該第1電極上に設けられた圧電体層及び該圧電体層上に設けられた第2電極を有する圧電素子と、を具備し、前記圧力発生室の並設方向と交差する方向の少なくとも一方の端部において、前記流路形成基板が薄い一定の厚さとなって当該圧力発生室の深さが浅くなった段差部を具備し、前記圧電体層の前記第1及び第2電極の両者に挟まれて電界が発生される活性部と前記第1及び第2電極の何れかが存在しないで電界が発生しない非活性部との境界が、前記段差部に対向する位置に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる態様では、活性部と非活性部の境界が、比較的薄い段差部に対向して設けられて適度に固定されることになるので、応力集中による膜剥がれや極端な変形によるクラックの発生が防止される。すなわち、流路形成基板によって完全に固定されて境界部に応力が集中して膜剥がれが生じて焼損することなく、また、完全にフリー状態で過度に変形してクラックが発生することもない。
【0009】
ここで、前記第1電極が、前記圧力発生室に対応して独立して設けられている個別電極であると共に、前記第2電極が、前記圧力発生室の並設方向に亘って連続して設けられている共通電極であるのが好ましい。これによれば、第2電極が共通電極である場合の問題を解消することができる。
【0010】
また、前記段差部が、前記第1電極が前記圧力発生室の並設方向に交差する方向の外まで延接される側の端部に設けられているのが好ましい。これによれば、共通電極である第1電極を圧力発生室の外まで延設した場合の活性部と非活性部との境界の問題を解消することができる。
【0011】
また、前記段差部の前記圧力発生室の内側の端面が、前記ノズル側に向かって拡開する傾斜面となっており、前記境界が前記傾斜面ではなく段差部に対向する位置に設けられているのが好ましい。これによれば、段差部の厚さを境界の動きを適度に規制する厚さとした場合、この段差部の厚さが一定の部分に境界が配置されるようにすることが比較的容易であり、傾斜面に対向する位置となって規制が不十分となることを防止することができる。
【0012】
本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。これにより、応力集中による膜剥がれや極端な変形によるクラックの発生が防止されたヘッドを具備し、信頼性及び耐久性を向上した液体噴射装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの要部拡大平面図及び断面図である。
【図4】一実施形態に係る記録装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、図2(a)は、インクジェット式記録ヘッドの断面図であり、図2(b)は、図2(a)のX−X′線拡大断面図である。
【0015】
図示するように、本実施形態の流路形成基板10は、シリコン単結晶基板からなり、その一方の面には二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
【0016】
流路形成基板10には、複数の圧力発生室12が並設されている(並設方向又は第1の方向という)。また、流路形成基板10の圧力発生室12の並設方向と交差する方向(第2の方向ともいう)の外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板のマニホールド部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールドの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。
【0017】
なお、本実施形態では、流路形成基板10には、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14からなる液体流路が設けられていることになる。
【0018】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
【0019】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、絶縁体膜55が形成されている。また、この絶縁体膜55上には、第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80とが積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、圧電体層70の2つの電極に挟まれて圧電体層70に電界が生じる領域で、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を活性部320という。本実施形態では、第1電極60を各圧力発生室12毎に設けることで、圧電素子300の個別電極とし、第2電極80を複数の圧力発生室12に亘って設けることで共通電極としている。すなわち、圧電体層70の第1電極60及び第2電極80に挟まれて実質的に駆動する領域を活性部320とし、圧電体層70の一方の電極60、80又は両方の電極が設けられておらず、電界が生じないで実質的に駆動しない領域を非活性部330としている。また、ここでは、変位可能な圧電素子300を有する装置をアクチュエーター装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び第1電極60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0020】
ここで、圧電素子300の構成について図3を参照して詳細に説明する。
図3に示すように、圧電素子300を構成する第1電極60は、各圧力発生室12に対応して独立して設けられている。ここで、第1電極60が各圧力発生室12に対応して独立して設けられているとは、第1電極60が圧力発生室12の並設方向において不連続となるように切り分けられていることを言う。本実施形態では、第1電極60を圧力発生室12の並設方向の幅よりも幅狭に設けることで、第1電極60を各圧力発生室12に対応して独立して設けるようにした。
【0021】
また、このような圧力発生室12毎に独立して設けられた第1電極60同士は、電気的に導通されないようにすることで、圧電素子300の個別電極として機能する。
【0022】
さらに、圧力発生室12の並設方向とは交差する第2の方向において、第1電極60のインク供給路14とは反対側の端部には、圧電体層70の端部よりも外側まで延設された延設部65が設けられている。この延設部65の端部は、圧電体層70によって覆われずに露出されることで、詳しくは後述する駆動回路120と電気的に接続される接続端子となっている。すなわち、第1電極60は、圧電素子300から引き出されて駆動回路120が接続される引き出し配線としても機能する。もちろん、第1電極60とは異なる導電性を有する配線を引き出し配線として別途設けるようにしてもよい。
【0023】
圧電体層70は、圧力発生室12の並設方向において、第1電極60よりも幅広で、且つ圧力発生室12の並設方向の幅よりも幅狭に設けられており、圧電体層70は第1電極60の幅方向の端面を覆っている。
【0024】
また、圧電体層70は、圧力発生室12の並設方向と交差する第2の方向において、圧力発生室12よりも長く設けられている。本実施形態では、圧電体層70は、圧力発生室12の並設方向とは交差する第2の方向において第1電極60のインク供給路14側の端部を覆う大きさで設けられている。
【0025】
さらに、圧電体層70は、圧力発生室12の並設方向とは交差する第2の方向において、第1電極60の連通部13とは反対側の端部よりも短く設けられており、第1電極60の引き出し配線の一部を露出している。この露出された第1電極60の端部に駆動回路120が電気的に接続される。
【0026】
なお、圧電体層70は、電気機械変換作用を示す圧電材料、例えば、ペロブスカイト構造を有し金属としてZrやTiを含む強誘電体材料、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電体材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等からなる。具体的には、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O)、チタン酸ジルコン酸バリウム(Ba(Zr,Ti)O)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O)又はマグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O)等が挙げられる。
【0027】
圧電体層70の厚さについては、特に限定されないが、製造工程でクラックが発生しない程度に厚さを抑え、且つ十分な変位特性を呈する程度に厚く形成すればよい。例えば、圧電体層70を0.2〜5μm前後の厚さで形成することで、所望の結晶構造を得ることが容易となる。本実施形態においては、最適な圧電特性を得るため、圧電体層70の膜厚を1.2μmとした。
【0028】
また、圧電体層70の製造方法は特に限定されず、例えば、有機金属化合物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成することができる。もちろん、圧電体層70の製造方法は、ゾル−ゲル法に限定されず、例えば、MOD(Metal-Organic Decomposition)法やスパッタリング法等を用いてもよい。
【0029】
なお、本実施形態では、圧電体層70を圧力発生室12毎に独立して設けるようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、圧電体層70を複数の圧力発生室12に亘って連続するように設けてもよい。本実施形態では、圧電体層70を圧力発生室12毎に切り分けて独立して設けることで、圧電体層70が圧電素子300の変位を阻害することがない。
【0030】
第2電極80は、複数の圧力発生室12の並設方向に亘って連続して設けられている。ここで、第2電極80が複数の圧力発生室12に連続して設けられているとは、図3(a)に示すように、隣り合う圧力発生室12の間で連続しているものも、また、隣り合う圧力発生室12の間で一部切り分けられているものも含む。
【0031】
また、第2電極80は、圧力発生室12の並設方向と交差する第2の方向において、圧力発生室12に相対向する領域内に設けられている。すなわち、第2電極80の圧力発生室12の並設方向と交差する第2の方向の端部は、圧力発生室12の領域内に位置するように設けられている。
【0032】
また、第2電極80は、第1電極60の延設部65側で、第1電極60よりも内側(圧力発生室12の中央側)、すなわち、第1電極60よりも圧力発生室12側が端部となるように設けられており、第2電極80の端部81が圧電体層70の活性部320の第2の方向の端部を規定し、活性部320と非活性部330との境界Aとなっている。
【0033】
このような第1電極60、圧電体層70及び第2電極80で構成される圧電素子300では、第1電極60の圧力発生室12の並設方向の端部によって、圧電体層70の実質的な駆動部である活性部320の並設方向の端部が規定され、第2電極80の第2の方向(圧力発生室12の並設方向と交差する方向)の端部81によって、活性部320の端部が規定されている。そして、それ以外の圧電体層70の領域、すなわち、第1電極60及び第2電極80の何れか一方又は両方が設けられていない領域が非活性部330となり、端部81が活性部320と非活性部330との境界Aとなっている。ここで、本実施形態では、圧力発生室12の第2の方向における活性部320と非活性部330との境界について、インク供給路14とは反対側(延設部65側)を境界A、インク供給路14側を境界Bとしている。
【0034】
このような圧電素子300の境界Aに対向する流路形成基板10の圧力発生室12の端部には、流路形成基板10の厚さより薄い厚さを有する段差部110が形成されている。段差部110は、圧力発生室12をエッチングする際にハーフエッチングを行うことにより形成することができる。本実施形態では、境界Aを段差部110に対向する位置に配置することにより、圧電素子300の駆動時における境界Aの拘束を適度に行い、膜剥がれによる焼損や極度の変形によるクラックの発生を防止している。よって、段差部110の厚さは、圧電素子300の駆動電圧、変形の度合いなど種々の要件を考慮して設定するものである。なお、段差部110を形成する際には圧力発生室12内側の端面がノズル21側に向かって拡開する傾斜面111が形成される場合があるが、境界Aは傾斜面111に対向する領域に位置させないようにするのが好ましい。傾斜面111に対向させた場合には、境界Aの拘束の度合いを制御し難いからである。本実施形態では、厚さがほぼ一定の段差部110に対向する領域に境界Aを配置するようにしたので、境界Aの拘束の度合いを精度よく設計でき、膜剥がれによる焼損や極度の変形によるクラックの発生を防止することができる。
【0035】
なお、境界Bに関しては、第1電極60が圧力発生室12の外側まで延設されていないので、膜剥がれによる焼損や極度の変形によるクラックの発生が境界A側と比較して少ないので、段差部を設ける必要はない。
【0036】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60及び絶縁体膜55上には、マニホールド100の少なくとも一部を構成するマニホールド部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このマニホールド部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールド100を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、マニホールド部31のみをマニホールドとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にマニホールドと各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
【0037】
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0038】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0039】
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120と第1電極60及び第2電極80とは、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
【0040】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってマニホールド部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、マニホールド100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0041】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部のインク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、マニホールド100からノズル21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、第1電極60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル21からインク滴が吐出する。
【0042】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の基本的な構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、第1電極60を個別電極、第2電極80を共通電極とする場合を説明したが、逆にしても同様な効果が得られる。
【0043】
さらに、上述した例では、流路形成基板10として、シリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
【0044】
また、上述した例では、圧電素子300の上に耐湿度性を有する保護膜を設けなくても、第1電極60の圧力発生室12の第2の方向における一端部は、圧電体層70によって覆われているため、第1電極60と第2電極80との間で電流がリークすることがなく、圧電素子300の破壊を抑制することができる。なお、第1電極60の圧力発生室12の第2の方向の他端部は圧電体層70に覆われていないが、第1電極60と第2電極80との間に距離があるため、特に影響が無い。もちろん、上述した例の圧電素子300に耐湿度性を有する保護膜を設けることで、圧電素子300をさらに確実に保護することができるが、上述した例の圧電素子300のように保護膜を設けないようにすることで、保護膜が圧電素子300の変位を阻害することがなく、大きな変位量を得ることができる。
【0045】
さらに、上述した例では、圧電体層70を各圧力発生室12毎に切り分けるようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、圧力発生室12の並設方向に亘って連続する圧電体層70を設けるようにしてもよい。
【0046】
また、これら各実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図4は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0047】
図4に示すインクジェット式記録装置IIにおいて、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0048】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0049】
また、上述したインクジェット式記録装置IIでは、インクジェット式記録ヘッドI(ヘッドユニット1A、1B)がキャリッジ3に搭載されて主走査方向に移動するものを例示したが、特にこれに限定されず、例えば、インクジェット式記録ヘッドIが固定されて、紙等の記録シートSを副走査方向に移動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
【0050】
なお、上述した例では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【符号の説明】
【0051】
A、B 境界、 I インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 II インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル、 30 保護基板、 31 マニホールド部、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 55 絶縁体膜、 60 第1電極、 65 延設部、 70 圧電体層、 80 第2電極、 100 マニホールド、 110 段差部、 111 傾斜面、 120 駆動回路、 300 圧電素子、 320 活性部、 330 非活性部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルに連通する圧力発生室が複数並設された流路形成基板と、
該流路形成基板の一方面側に前記圧力発生室に対応して設けられて、第1電極、該第1電極上に設けられた圧電体層及び該圧電体層上に設けられた第2電極を有する圧電素子と、を具備し、
前記圧力発生室の並設方向と交差する方向の少なくとも一方の端部において、前記流路形成基板が薄い一定の厚さとなって当該圧力発生室の深さが浅くなった段差部を具備し、前記圧電体層の前記第1及び第2電極の両者に挟まれて電界が発生される活性部と前記第1及び第2電極の何れかが存在しないで電界が発生しない非活性部との境界が、前記段差部に対向する位置に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記第1電極が、前記圧力発生室に対応して独立して設けられている個別電極であると共に、前記第2電極が、前記圧力発生室の並設方向に亘って連続して設けられている共通電極であることを特徴とする請求項1記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記段差部が、前記第1電極が前記圧力発生室の並設方向に交差する方向の外まで延接される側の端部に設けられていることを特徴とする請求項2記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記段差部の前記圧力発生室の内側の端面が、前記ノズル側に向かって拡開する傾斜面となっており、前記境界が前記傾斜面ではなく段差部に対向する位置に設けられていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−218254(P2012−218254A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84924(P2011−84924)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】