説明

液体噴射ヘッド及び液体噴射装置

【課題】噴射効率及び液体噴射特性が向上する液体噴射ヘッド及びノズルプレートを提供する。
【解決手段】液体噴射ヘッドは、貫通孔であるノズル孔21が形成されたノズルプレート20を備え、ノズル孔から液体を噴射する液体噴射ヘッドであって、ノズル孔が、ノズルプレートのノズルから液体が噴射される噴射面側に開口した第1ノズル部21aと、第1ノズル部に連通し、ノズルプレートの噴射面とは逆側の面に開口し、この開口の大きさが第1ノズル部の噴射面における開口よりも大きい第2ノズル部21bとからなり、第1ノズル部の内壁面全体は、ノズルプレートの基材よりも撥液性の高い撥液膜201により覆われており、第2ノズル部の内壁には、撥液膜よりも撥液性の低い領域が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液滴を噴射する液体噴射ヘッドの代表例であるインクジェット式記録ヘッドとし
ては、例えば、多数の圧力発生室が形成された流路形成基板と、流路形成基板の一方面側
に前記各圧力発生室に対応させて設けられた圧電アクチュエーターと、流路形成基板の他
方面側に設けられ、圧力発生室に連通するノズル孔を備えたノズルプレートとを具備し、
各圧電アクチュエーターの変位によって圧力発生室内に圧力を付与することで、各ノズル
孔からインク滴を噴射させるものがある。
【0003】
このようにノズル孔からインク滴を噴射することから、ノズル孔内に例えば親水性膜を
形成して液体の噴射特性を向上させている。即ち、ノズル孔内に親水性膜を形成して、イ
ンクとの濡れ性を高くしてノズル内に発生した気泡がノズル孔の内壁に付着しにくいよう
にすることで、ノズル孔におけるインク噴射不良を抑制して、噴射特性を向上させている

【0004】
また、このようなノズル孔内に親水性膜を形成する場合に、さらにノズルプレートの噴
射面側に撥水性膜を形成することが知られている(特許文献1参照)。この場合には、め
っきを行うことで撥水膜を形成することから、貫通孔であるノズル孔の内壁の噴射面側の
一部にも撥水膜が形成される。このように撥水膜を形成することで、その部分にインクが
付着せず、インク滴の噴射方向、噴射速度のばらつきを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−161679号公報(請求項1等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の構造では、ノズル孔の内壁全体が親水化されている
ことで、内壁はインクとの濡れ性が高く、インク噴射時にメニスカスがノズル孔内を上下
方向に移動する場合に大きな圧力を必要とするという問題がある。また、このように内壁
はインクとの濡れ性が高いので、インク噴射時において内壁に位置しているメニスカスが
内壁の影響を受けやすく、飛行曲がりが生じやすいという問題がある。
【0007】
また、ノズル孔の開口付近にのみ撥水膜が形成されている場合にも、結局はメニスカス
は親水膜が形成されているインクとの濡れ性の高い面に位置していることから、インク噴
射時にメニスカスがノズル孔内を上下方向に移動する場合に大きな圧力を必要として噴射
効率が低いと共に、飛行曲がりが発生して液体噴射特性が低下してしまうことが考えられ
る。
【0008】
そこで、本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決することにあり、噴射効率及び
液体噴射特性が向上する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供しようとするものである

【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の液体噴射ヘッドは、ノズル孔が形成されたノズルプレートを備えた液体噴射ヘ
ッドであって、前記ノズル孔は、液体を噴射する噴射面に開口する第1ノズル部と、前記
第1ノズル部に連通し前記第1ノズル部より内径の大きい第2ノズル部と、を有し、前記
第1ノズル部の内壁面全体に、前記ノズルプレートの基材より撥液性の高い撥液膜が形成
されると共に、前記第2ノズル部の内壁面の少なくとも一部は、前記撥液膜より撥液性が
低いことを特徴とする。
【0010】
本発明の液体噴射ヘッドでは、第1ノズル部の内壁面全体が前記ノズルプレートの基材
よりも撥液性の高い撥液膜により覆われていることで、圧力印加の効率を向上させること
ができる。また、第1ノズル部の内壁面全体が前記ノズルプレートの基材よりも撥液性の
高い撥液膜により覆われていることで、インク噴射時において内壁に位置しているメニス
カスが内壁の影響を受けにくく、飛行曲がりが生じにくい。さらに、前記第2ノズル部の
内壁面の少なくとも一部は前記撥液膜より撥液性が低いことで、気泡の付着を抑制できる
。従って、本発明の液体噴射ヘッドは、噴射効率及び液体噴射特性が向上する。ここで、
撥液性とは、インクジェット式記録ヘッドから噴射される液体に対する撥油性と撥水性の
両方を意味するものである。
【0011】
前記第2ノズル部の内壁面全体が、前記撥液膜より撥液性が低いことか、前記第2ノズ
ル部の少なくとも一部にまで前記撥液膜が延設されていることが好ましい。このように構
成されていることで、第2ノズル部の撥液性が第1ノズル部よりも低いのでより気泡の付
着を抑制することができる。
【0012】
前記第2ノズル部の内壁面の少なくとも一部に、前記ノズルプレートの基材よりも親液
性の高い親液膜が形成されていることが好ましい。親液膜が形成されていることで、さら
に気泡の付着を抑制することができる。ここで、親液性とは、インクジェット式記録ヘッ
ドから噴射される液体に対する親油性と親水性の両方を意味するものである。
【0013】
本発明の好ましい実施形態としては、前記第2ノズル部は、前記第1ノズル部より長い
ことが挙げられる。
【0014】
また、本発明の好ましい実施形態としては、前記第1ノズル部が、前記ノズル孔からの
液体の噴射方向に対し直線状に設けられていることが挙げられる。
【0015】
さらにまた、本発明の好ましい実施形態としては、前記第2ノズル部が、前記ノズル孔
からの液体の噴射方向に向かって径が小さくなるテーパ状に設けられていること、又は前
記第2ノズル部が、前記ノズル孔からの液体の噴射方向に対し直線状に設けられているこ
とが挙げられる。
【0016】
前記第1ノズル部の内壁面に凹凸が形成されていることが好ましい。これにより、撥液
性を高めることが可能である。
【0017】
本発明の液体噴射装置は、前記したいずれかの液体噴射ヘッドを備える。前記したいず
れかの噴射効率及び液体噴射特性が向上した液体噴射ヘッドを備えることで、液体噴射特
性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドを示す分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドを示す平面図及びその断面図である。
【図3】実施形態1に係るノズルプレートの一部を示す断面図である。
【図4】実施形態1に係るノズルプレートの一部を示す断面図である。
【図5】従来のノズルプレートの一部を示す断面図である。
【図6】別の実施形態に係るノズルプレートの一部を示す断面図である。
【図7】別の実施形態に係るノズルプレートの一部を示す断面図である。
【図8】別の実施形態に係るノズルプレートの一部を示す断面図である。
【図9】別の実施形態に係るノズルプレートの一部を示す断面図である。
【図10】一実施形態に係る記録装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解
斜視図であり、図2は、図1の平面図及びそのA−A'断面図である。
【0020】
図示するように、流路形成基板10は、シリコン単結晶基板からなり、その一方の面に
は二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
【0021】
流路形成基板10には、複数の圧力発生室12が並設されている。また、流路形成基板
10の圧力発生室12のその並設方向とは直行する方向の外側の領域には連通部13が形
成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供
給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板のマ
ニホールド部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールドの一
部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連
通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。
【0022】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反
対側の端部近傍に連通する貫通孔であるノズル孔21が穿設されたノズルプレート20が
、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例
えばガラスセラミックス、シリコン単結晶基板又はステンレス鋼などからなる。ノズルプ
レート20及びノズル孔21については、詳しくは後述する。
【0023】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように、弾性膜
50が形成されている。弾性膜50上には、酸化ジルコニウムからなる絶縁体層55が形
成される。さらに、この絶縁体層55上には、第1電極60と圧電体層70と第2電極8
0とが、後述する製造方法で積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、
圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。一
般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層
70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。本実施形態では、第1電極60
を圧電素子300の共通電極とし、第2電極80を圧電素子300の個別電極としている
が、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、ここでは、圧電素子3
00と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせてアクチュエータ
ー装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体層55及び第1電極60が
振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び
絶縁体層55を設けずに、第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。
また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0024】
上述した第1電極60は、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)な
どの白金族金属及び金(Au)からなる群から選択される金属からなり、複数層積層した
ものであってもよい。
【0025】
圧電体層70は、このような第1電極60上に形成され、電気機械変換作用を示す圧電
材料からなる。圧電体層70は、ペロブスカイト構造の結晶膜である圧電体膜を積層して
なるものであり、Pb、Ti及びZrを少なくとも含むものである。本実施形態では、チ
タン酸ジルコン酸鉛を用いている。
【0026】
また、圧電素子300の個別電極である各第2電極80には、インク供給路14側の端
部近傍から引き出され、絶縁体層55上にまで延設される、例えば、金(Au)等からな
るリード電極90が接続されている。
【0027】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60
、絶縁体層55及びリード電極90上には、マニホールド100の少なくとも一部を構成
するマニホールド部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。こ
のマニホールド部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生
室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と
連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールド100を構成している

【0028】
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻
害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32
は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封
されていても、密封されていなくてもよい。
【0029】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例え
ば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板
10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0030】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられて
いる。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔
33内に露出するように設けられている。
【0031】
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路12
0が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路
(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、ボン
ディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線121を介して電気的に接続され
ている。
【0032】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプラ
イアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する
材料からなり、この封止膜41によってマニホールド部31の一方面が封止されている。
また、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のマニホール
ド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、
マニホールド100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0033】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給
手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、マニホールド100からノズル孔2
1に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発
生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性
膜50、絶縁体層55、第1電極60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、
各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル孔21からインク滴が噴射される。
【0034】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドに用いられるノズルプレート20
について、図3を用いて説明する。図3は、ノズルプレート20の一部拡大断面図である

【0035】
図3に示すように、ノズルプレート20に形成されたノズル孔21は、ノズルプレート
20の噴射面22側に開口した第1ノズル部21aと、ノズルプレート20の噴射面22
側とは逆側の面(流路形成基板の開口面側)に開口した第2ノズル部21bとからなる。
第1ノズル部21aと第2ノズル部21bとは連通して貫通孔であるノズル孔21が形成
されている。
【0036】
また、第1ノズル部21aは、開口面とは垂直な方向(軸方向)に内径が同一(噴射方
向に対し直線状)、即ち、円柱状の空間となっている。第1ノズル部21aがこのように
円柱状の空間となっていることで、ノズル孔21の形成時の工程誤差による噴射特性のば
らつきを抑制することができる。
【0037】
また、この第1ノズル部21aは、図4(1)に示すようにインクが充填された場合に
インクのメニスカスMが形成される領域となる。このメニスカスMは、噴射時には、図4
(2)に示すように、一旦第1ノズル部21aの軸方向を圧力発生室側に移動し、その後
、図4(3)に示すように、第1ノズル部21aの軸方向を噴射面22側に移動して噴射
される。このようにメニスカスMは、第1ノズル部21aの軸方向に亘って移動する。な
お、第1ノズル部21aが円柱状の空間となっていることで、噴射時にメニスカスMに一
定の圧力を印加してメニスカスMを移動させることができ、これにより、各ノズル孔にお
ける噴射特性のばらつきを抑制することができる。
【0038】
第2ノズル部21bは、その第2開口23bが第1ノズル部21aの第1開口23aよ
りも径が大きい。第2ノズル部21bでは、第2開口23bから第1ノズル部21aに向
かって、即ち液体の噴射方向に向かって径が小さくなっている。
【0039】
本実施形態におけるノズルプレート20では、撥液膜201が噴射面22と第1ノズル
部21aの内壁面全体とを覆い、親液膜202が第2ノズル部21bの内壁面全体を覆う
ように形成されている。ここで、撥液性とはインクジェット式記録ヘッドから噴射される
液体に対する撥油性と撥水性の両方を意味している。つまり、インクジェット式記録ヘッ
ドから噴射される液体の溶液(主に溶媒)の主成分が油であるものに対しては撥油性を意
味し、インクジェット式記録ヘッドから噴射される液体の溶液(主に溶媒)の主成分が水
であるものに対しては撥水性を意味している。撥液膜201とは、この撥液性がノズルプ
レート20の基材よりも高いものをいう。
【0040】
これに対し、親液性とは、インクジェット式記録ヘッドから噴射される液体に対する親
油性と親水性の両方を意味している。つまり、インクジェット式記録ヘッドから噴射され
る液体の溶液(主に溶媒)の主成分が油であるものに対しては親油性を意味し、インクジ
ェット式記録ヘッドから噴射される液体の溶液(主に溶媒)の主成分が水であるものに対
しては親水性を意味している。親液膜202とは、この親液性がノズルプレート20の基
材よりも高いものをいう。
【0041】
ここで、撥水性も撥油性も高いものとしては、エラストマーを含むフッ素系高分子が挙
げられる。フッ素系高分子としては、フルオロカーボン、パーフルオロカーボン、フルオ
ロアルキルシラン、パーフロロアルキルシラン、アルキルピロール、ポリテトラフルオロ
エチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ペルフ
ルオロアルコキシフッ素、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体、エチレン・
四フッ化エチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリバー
フルオロアルコキシブタジエン、ポリフルオロビニリデン、ポリフルオロビニル、ポリジ
パーフルオロアルキルフマレート、パーフロロエラストマー、商品名フロロサーフ(フロ
ロテクノロジー社製)などが挙げられる。
【0042】
撥油性が高いが、撥水性が低いものとしては、例えば金属や金属酸化物が挙げられる。
金属酸化物としては、SUS材の最表面に形成される酸化被膜や、チタニア、酸化シリコ
ン(SiO)、アルミナ、酸化ニッケル、などが好ましい。なお、撥油性が高いが、撥水
性が低いポリマー物質などは、水との相溶性が高すぎるために有機高分子(OH基等)が
一部溶解・膨潤するためにノズル孔21に用いるには好ましくない。
【0043】
撥水性を有するが、撥油性が低いものとしては、エラストマーを含むシリコーン系高分
子やエラストマーを含むセルロース系高分子など有機高分子一般が挙げられる。
【0044】
従って、インクの特性に合わせて撥液膜201、親液膜202に対して適宜好適な材料
を選べばよい。
【0045】
本実施形態では、上述したような撥液膜201が第1ノズル部21aの内壁面全体を覆
っていることから、インク噴射時におけるメニスカスの移動領域である第1ノズル部21
aでは、インクとの濡れ性が低い。これにより、メニスカスMを移動させるために印加す
る圧力が小さくてもよく、圧電素子の駆動によりメニスカスMに印加される圧力の印加効
率がよい。
【0046】
また、この場合にインクとの濡れ性が低い撥液膜201が第1ノズル部21aの内壁全
体を覆っていることから、メニスカスMの移動領域である第1ノズル部21aで形成され
るメニスカスMの接触角が小さくなる。これにより、形成されるメニスカスMの面積が減
少し、インク乾燥速度が低下してインク乾燥によって発生する噴射不良(例えば、インク
乾燥によるノズル孔の詰まりや、インク乾燥による異物形成による飛行曲がり)が生じに
くい。
【0047】
因みに、図5に示す従来例では、撥液膜201が第1ノズル部21aの開口側のみ設け
られており(深さ方向に約7μm程度)、第1ノズル部21aの残部及び第2ノズル部2
1bに親液膜202が形成されているとすれば、メニスカスMが噴射時に親液膜202の
形成された領域に移動することで、図4に示す場合よりも印加する電圧が大きく、圧力の
印加効率が低下していた。
【0048】
また、第1ノズル部21aにはその開口23a付近以外にはインクとの濡れ性が高い親
液膜202が形成されているので、メニスカスMの接触角が図4に示すメニスカスと比較
して大きくなる。これにより、乾燥しやすく、異物が形成されやすかった。この場合にこ
の撥液膜201と親液膜202との境界には異物がより形成されやすい上にこのような境
界が開口に近い位置にあることから乾燥しやすいため、特に異物が形成されやすかった。
このように第1ノズル部21a内に異物があると、飛行曲がり等の噴射不良が問題となっ
た。これに対し、本実施形態では、上述のように第1ノズル部21aの全ての内壁には撥
液膜201が形成されていることで噴射不良が生じにくい。
【0049】
他方で、撥液膜201が第2ノズル部21bの全ての内壁面に形成されているとすれば
、気泡が第2ノズル部21bに付着しやすく、これにより気泡が集まって巨大化し、噴射
不良を発生させることも考えられる。従って、第2ノズル部21bの内壁面には、少なく
とも第1ノズル部21aよりも撥液性の低い領域が設けられていればよい。このように撥
液性の低い領域が設けられていることで、気泡の付着を抑制することができる。
【0050】
従って、本実施形態では、第1ノズル部21aの全ての内壁面には撥液膜201が形成
されて、圧力の印加効率の低下を抑制することで、噴射効率を向上させると共に異物の付
着を抑制して飛行曲がりなどの噴射不良を抑制し、かつ、第2ノズル部21bの内壁面に
は親液膜202が形成されて、気泡の付着を抑制して噴射不良等を抑制して液体噴射特性
を向上させているのである。
【0051】
このような本発明のノズルプレートの製造方法としては、例えば、ディッピングにより
ノズルプレート20全体、即ちノズル孔21の内壁を含めて全体に撥液膜201を形成す
る。なお、ノズルプレートの製造方法としては、他にドライプロセス(CVD法、蒸着法
、スパッタリング法)を用いても良い。
【0052】
次いで、ノズルプレート20の噴射面22とは逆側の面から例えばプラズマ処理を行う
ことにより第2ノズル部21bの内壁に付着した撥液膜を除去して、第2ノズル部21b
の表面を露出させる。なお、プラズマ処理によらず、可視光、UV光、X線などの露光処
理等によって撥液膜を除去してもよい。
【0053】
その後、第2ノズル部21b側の面から例えばスパッタ法や蒸着法等により親液膜20
2を第2ノズル部21bの内壁に形成する。このようにして本発明のノズルプレート20
を形成することができる。なお、ノズルプレート20の製造方法としては、これに限定さ
れない。
【0054】
本発明の別の実施形態としては、図6に示すように、図3に示す実施形態とは第2ノズ
ル部21cの内径が同一である点が異なるものが挙げられる。即ち、ノズル孔21は異な
る内径の第1ノズル部21aと、第2ノズル部21cとを備える。この場合であっても、
第1ノズル部21aの内壁全体を撥液膜201が覆うと共に、第2ノズル部21cの内壁
全体を親液膜202が覆っている。このようにノズル孔21の形状は異なっていても、メ
ニスカスの移動部である第1ノズル部21aに撥液膜201が形成されると共に第2ノズ
ル部21cに親液膜202が形成されることで、図3に示す実施形態と同様に、インクの
噴射効率がよく、かつ、噴射特性がよい。
【0055】
また、本発明の別の実施形態としては、図7に示すように、図3に示す実施形態とは、
親液膜202が形成されていない点が異なるものが挙げられる。このような場合であって
も、第2ノズル部21bの内壁自体が、即ちノズルプレート20の基材が撥液膜201よ
りも撥液性が低ければ、気泡が付着しにくいため、噴射特性がよい。
【0056】
つまり、第2ノズル部21bには、上述のように少なくとも第1ノズル部21aよりも
撥液性の低い領域が設けられていればよい。図3に示した実施形態では、第2ノズル部2
1bに親水膜を形成することで第2ノズル部21bに撥液性の低い領域を設けたが、図7
に示す実施形態では、第2ノズル部21bで撥液膜よりも撥液性の低いノズルプレート2
0の基材を露出させることで第2ノズル部21bに撥液性の低い領域を設けている。
【0057】
このようにノズルプレート20の基材自体が撥液膜201よりも親液性を有している場
合には、親液性の高い膜を形成しなくても噴射効率や噴射特性の向上を図ることができる
。この場合にノズルプレート20として用いられることができる比較的親液性の高い基材
としては、液体がいわゆる水系インクである場合には、SUSや、シリコン等の通常ノズ
ルプレートとして用いられている基材を挙げることができる。
【0058】
さらに、本発明の別の実施形態としては、図8に示すように、図7に示す実施形態とは
撥液膜201が第2ノズル部21bまで延設されている点が異なるものが挙げられる。こ
の場合であっても、撥液膜201は、第2ノズル部21bの全てを覆うことはなく、第2
ノズル部21bには、撥液膜201が形成されていないで基材が露出した撥液膜201よ
りも撥液性の低い領域が設けられている。第2ノズル部21bの全てを撥液膜201が覆
うと、上述したように気泡が溜まりやすくなってしまうからである。即ち、撥液膜201
は、なるべく第1ノズル部21aのみを覆うように構成されることが好ましいが、本実施
形態のように第2ノズル部21bの第1ノズル部21a側を撥液膜201が覆っていても
よい。
【0059】
なお、図7、図8に示す実施形態では、例えば撥液膜201としてフッ素系高分子から
なる膜を形成すれば、ノズル孔21の最表面はSiOであるため、親液性が高い。
【0060】
また、図9に示すように、図3に示す実施形態とは、第1ノズル部の長さを変更しても
よい。即ち、図9においては、第1ノズル部21dは、図3に示す実施形態における第1
ノズル部よりも短い。このように構成することで第1ノズル部21dの流路抵抗を低くす
ることができるので、粘度の高いインクを用いることができる。このような場合であって
も、撥液膜201は、第1ノズル部21dを覆うように構成されていると共に、親液膜2
02が第2ノズル部21bを覆うように構成することで、インクジェット式記録ヘッドの
噴射特性がよく、かつ、印加効率がよい。
【0061】
上述した各実施形態で説明したように、ノズルプレート20においては、第1ノズル部
21aの内壁全体が少なくとも撥液膜201で覆われていればよい。また、第2ノズル部
21b(21c)の形状は問わないが、第2ノズル部21b(21c)はその全面が撥液
膜201よりも親液性が高い状態となっていればよい。このように構成されていることで
、インクジェット式記録ヘッドの噴射特性がよく、かつ、印加効率がよい。
【0062】
また、撥液性、つまり撥水性又は撥油性を向上させたい場合には、撥液膜201の表面
に凹凸を作ることによって、その表面積を増加させてその撥水性・撥油性を大きく上昇さ
せることが可能である。例えば、蓮の葉やバラの花弁などの表面構造を模して液体との接
触面積を極大化させるフラクタル構造とすれば、平坦な面と比較して表面積が増加し、撥
水性又は撥油性を向上させることができる。このような凹凸の形成方法としては、ノズル
プレート20がシリコンノズルプレートである場合には、BOSCH法が挙げられる。B
OSCH法によってノズル孔を形成すれば、ノズル孔に1μmを下回る微細な凹凸を設け
ることが可能である。このような凹凸上に撥液膜201が形成されれば、撥液膜201の
表面に凹凸が形成されて、撥水性又は撥油性を向上させることが可能である。
【0063】
また上述した液体噴射ヘッドは、インクジェット式記録装置に搭載される。図10は、
そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0064】
インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供
給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニ
ット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸
5に軸方向移動可能に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば
、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を噴射するものとしている。
【0065】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を
介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキ
ャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5
に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙
等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになって
いる。
【0066】
さらに上述の実施形態では、液体噴射ヘッドの一例として液体噴射ヘッドを挙げて本発
明について説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド及びそれを具備する液体射装置全般
を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッド及びそれを具備す
る液体噴射装置にも勿論適用することができる。液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリ
ンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフ
ィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出
ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用
いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【符号の説明】
【0067】
10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、
20 ノズルプレート、 21 ノズル孔、 21a 第1ノズル部、 21b 第2
ノズル部、 30 保護基板 31 マニホールド部、 32 圧電素子保持部、 33
貫通孔、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 60 第1電極、 70
圧電体層、 80 第2電極、 201 撥液膜、 202 親液膜、 300 圧電
素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル孔が形成されたノズルプレートを備えた液体噴射ヘッドであって、
前記ノズル孔は、液体を噴射する噴射面に開口する第1ノズル部と、前記第1ノズル部
に連通し前記第1ノズル部より内径の大きい第2ノズル部と、を有し、
前記第1ノズル部の内壁面全体に、前記ノズルプレートの基材より撥液性の高い撥液膜
が形成されると共に、前記第2ノズル部の内壁面の少なくとも一部は、前記撥液膜より撥
液性が低いことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記第2ノズル部の内壁面全体が、前記撥液膜より撥液性が低いことを特徴とする請求
項1記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記第2ノズル部の少なくとも一部にまで前記撥液膜が延設されていることを特徴とす
る請求項1記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記第2ノズル部の内壁面の少なくとも一部に、前記ノズルプレートの基材よりも親液
性の高い親液膜が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の
液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記第2ノズル部は、前記第1ノズル部より長いことを特徴とする請求項1〜4のいず
れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記第1ノズル部が、前記ノズル孔からの液体の噴射方向に対し直線状に設けられてい
ることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記第2ノズル部が、前記ノズル孔からの液体の噴射方向に向かって径が小さくなるテ
ーパ状に設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の液体噴射
ヘッド。
【請求項8】
前記第2ノズル部が、前記ノズル孔からの液体の噴射方向に対し直線状に設けられてい
ることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項9】
前記第1ノズル部の内壁面に凹凸が形成されていることを特徴とする請求項1〜8のい
ずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドを備えることを特徴とする液体噴
射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−28101(P2013−28101A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166461(P2011−166461)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】