説明

液体噴射装置および液体噴射ヘッドの液体吸引装置

【課題】カシメ部分に落下した液体を吸収材に十分に流し込むことができる液体噴射装置等を提供すること。
【解決手段】液体噴射ヘッド30の液体吸引装置20を備える液体噴射装置10であって、液体吸引装置20は、ノズル面に密着してノズル開口を封止可能な本体であり、本体の内側の底部から突出している突出部材が設けられている本体と、本体内に配置されてノズル開口からの液体を吸収するための吸収材と、吸収材90へ突出部材を通した状態で、吸収材を本体の内側の底部とにより挟んで、突出部材の端部をカシメて得られるカシメ部分により固定するための押さえ部材と、を備え、カシメ部分160は、カシメ部分に落下した液体を吸収材90へ流し込むための傾斜平面部160Bを有し、傾斜平面部160Bは、吸収材90に線接触又は面接触の態様で接する吸収材接触部160Bbを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を噴射する液体噴射ヘッドのノズル面に当ててノズル面からの液体を吸
引したり、ノズル面に当ててノズル面を保湿する液体噴射装置および液体噴射ヘッドの液体吸引装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ターゲットに対して液体を噴射させる液体噴射装置として、記録ヘッドから記録媒体に
対してインク滴を噴射させて印刷を行うインクジェット式記録装置が知られている。
そして、このようなインクジェット式記録装置は、記録ヘッドのノズルから記録媒体に対して微小なインク滴を吐出させて、所望の文字や図形等の画像を記録する。
【0003】
インクジェット式記録装置は、インクカートリッジからのインクの供給を受けるインク
ジェット式記録ヘッドと、記録用紙を記録ヘッドに対して相対的に移動させる紙送り手段
を備え、記録ヘッドをキャリッジ上で記録用紙の幅方向に移動させながら記録用紙に対し
てインク滴を吐出させることで記録が行われる。
【0004】
インクジェット式記録ヘッドは、圧力発生室で加圧したインクをノズル開口からインク
滴として記録用紙に吐出させて印刷を行う関係上、ノズル開口からの溶媒の蒸発に起因す
るインク粘度の上昇や、インクの固化、塵埃の付着、さらには気泡の混入等によりノズル
開口に目詰まりを発生し、印刷不良を起こすという問題を抱えている。
【0005】
このために、インクジェット式記録装置には、非印刷時に記録ヘッドのノズル開口を封
止するためのキャッピング手段と、必要に応じてノズルプレートを清掃するクリーニング
装置を備えている。
このキャッピング手段は、印刷の休止時にノズル開口のインクの乾燥を防止する保湿機
能を発揮するだけでなく、ノズル開口に目詰まりが生じた場合には、キャップ部材により
ノズルプレート面を封止し、吸引ポンプからの負圧により、ノズル開口からインク滴を吸
引してノズル開口の目詰まりを解消する機能をも備えている。
この種のキャッピング手段を備えるインクジェット式記録装置が提案されている(例え
ば、特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特開2004−216913号公報(図8等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されているキャップ部材の中には、インク吸収材が配置されている。
このインク吸収材は、押さえ部材とピン部によりキャップ部材の中において固定される構
造になっている。
このピン部の先端部分は熱によってカシメることによってカシメ部分を形成し、押さえ部材とキャップ部材の内面との間でインク吸収材を固定している。
【0008】
ところが、キャップ部材が記録ヘッドのノズル面に対して密着した状態で、ノズル面から微量のインクの吸引を行ったり、あるいは保湿目的のためにキャップ部材内の吸収材に対してインクのフラッシング動作を行うと、吸収材を固定するカシメ部分の上にもインクが落下し、カシメ部分の上にインクがたまる現象が生じる。
カシメ部分の上にインクがたまって堆積すると、堆積したインクがノズル面に接触する。このために、ノズル面がインクにより汚れ、印字不良が生じる場合があるという問題がある。
これに関して、カシメ部分を吸収材に接するようにして、カシメ部分に落下したインクを吸収材に流しこむことも考えられるが、単に、カシメ部分を吸収材に接するように構成するだけでは、インクを吸収材に流し込む効果が不十分である場合がある。
【0009】
そこで本発明は上記課題を解消し、カシメ部分に落下した液体を吸収材に十分に流し込むことができる液体噴射装置および液体噴射ヘッドの液体吸引装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的は、本発明にあっては、液体噴射ヘッドのノズル面に当てて前記ノズル面のノズル開口からの液体を吸引して外部に排出したり、前記ノズル面に当てて前記ノズル面を保湿する液体噴射ヘッドの液体吸引装置を備える液体噴射装置であって、前記液体吸引装置は、前記ノズル面に密着して前記ノズル開口を封止可能な本体であり、前記本体の内側の底部から突出している突出部材が設けられている前記本体と、前記本体内に配置されて前記ノズル開口からの前記液体を吸収するための吸収材と、前記吸収材へ前記突出部材を通した状態で、前記吸収材を前記本体の内側の前記底部とにより挟んで、前記突出部材の端部をカシメて得られるカシメ部分により固定するための押さえ部材と、を備え、前記カシメ部分は、前記カシメ部分に落下した前記液体を前記吸収材へ流し込むための傾斜平面部を有し、前記傾斜平面部は、前記吸収材に線接触又は面接触の態様で接する吸収材接触部を有することを特徴とする液体噴射装置によって達成される。
【0011】
このような構成によれば、前記カシメ部分は前記傾斜平面部を有し、前記傾斜平面部は前記吸収材接触部を有する。このため、前記カシメ部分に落下した前記液体は、前記傾斜平面部上を前記吸収材側に滑り落ちる。このように、前記傾斜平面部によって、前記カシメ部分に落下した前記液体を積極的に前記吸収材側に流し込むことができる。
そして、前記傾斜平面部は前記吸収材接触部を有し、前記吸収材接触部は前記吸収材と、点で接触するのではなくて、線接触又は面接触の態様で接する。このため、前記傾斜平面部は、前記液体を前記吸収材との接触部において滞留させることなく、迅速に前記吸収材に吸収させることができる。
これにより、カシメ部分に落下した液体を吸収材に十分に流し込むことができる。
【0012】
この場合、前記カシメ部分の前記傾斜平面部の表面は、撥水加工されていることが望ましい。
【0013】
このような構成によれば、前記傾斜平面部は、効率よく前記液体を前記吸収材側へ流し込むことができる。
【0014】
また、上述の目的は、本発明にあっては、液体噴射ヘッドのノズル面に当てて前記ノズル面のノズル開口からの液体を吸引して外部に排出したり、前記ノズル面に当てて前記ノズル面を保湿する液体噴射ヘッドの液体吸引装置であって、前記ノズル面に密着して前記ノズル開口を封止可能な本体であり、前記本体の内側の底部から突出している突出部材が設けられている前記本体と、前記本体内に配置されて前記ノズル開口からの前記液体を吸収するための吸収材と、前記吸収材へ前記突出部材を通した状態で、前記吸収材を前記本体の内側の前記底部とにより挟んで、前記突出部材の端部をカシメて得られるカシメ部分により固定するための押さえ部材と、を備え、前記カシメ部分は、前記カシメ部分に落下した前記液体を前記吸収材へ流し込むための傾斜平面部を有し、前記傾斜平面部は、前記吸収材に線接触又は面接触の態様で接する吸収材接触部を有することを特徴とする液体噴射ヘッドの液体吸引装置によって達成される。
【0015】
この場合、前記カシメ部分の前記傾斜平面部の表面は、撥水加工されていることが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明の液体噴射装置の実施形態であるインクジェット式記録装置10を示し
ている。
図1に示すインクジェット式記録装置10は、インクジェットプリンタとも呼んでいる
。インクジェット式記録装置10は、本体部1を有している。この本体部1は、ガイドレ
ール17、プラテン12、キャリッジ14、インク吸引装置20、記録ヘッド30を備え
ている。記録ヘッド30は、液体噴射ヘッドの一例であり、印刷ヘッドとも言う。このインク吸引装置20は廃液システムとも呼ぶことができる。
【0017】
このインクジェット式記録装置10は、いわゆるオンキャリッジ形の記録装置であり、
キャリッジ14の上部には、複数のインクカートリッジ2,3,4,5が着脱可能に装着
できる。キャリッジ14の下部には、記録ヘッド30が設けられている。キャリッジ14
は、ベルト15を介してモータ16に接続されている。モータ16が作動することによっ
て、キャリッジ14はガイドレール17に沿ってプラテン12の軸方向である主走査方向
Tに往復走行する。
本体部1のホームポジション18は、ガイドレール17の一方の端部に位置している。
このホームポジション18は、キャリッジ14の走行経路の末端にある非印刷領域である
。このホームポジション18には、本体部1の上にインク吸引装置20が配置されている
。このインク吸引装置20は、液体吸引装置の一例であり、キャッピングシステムもしく
はキャッピング手段とも呼んでいる。
【0018】
インク吸引装置20は、以下の2つの機能を有する。すなわち、インク吸引装置20は
、長時間放置された時に記録ヘッド30のノズル開口のインクの乾燥を防止する保湿機能
と、吸引ポンプ19からの負圧をノズル開口に作用させてノズル開口からインクを強制的
に吸引して排出させる吸引機能を備える。この吸引ポンプ19は、インク吸引装置20を
構成する一構成要素である。各インクカートリッジ2,3,4,5の各インクは液体の一
例である。
この他に、インク吸引装置20の横には、ワイピング部材400が設けられている。こ
のワイピング部材400は、必要に応じて記録ヘッド30の後述のノズルプレート面61(図3参照)のインクを払拭する。
【0019】
図2は、図1に示すインクジェット式記録装置10の電気的な接続例を示している。イ
ンクジェット式記録装置10の制御装置7は、ローカルプリンタケーブルまたは通信ネッ
トワークを介してホストコンピュータ40のプリンタドライバ41に接続されている。プ
リンタドライバ41は、インクジェット式記録装置10の各構成要素に対して印刷やクリ
ーニング動作あるいはインク吸引動作を実行させるためのコマンドを送るソフトウェアを
搭載している。
【0020】
図2に示すインクジェット式記録装置10は、制御装置7の他に、センサー8、インク
吸引装置20、インクカートリッジ2,3,4,5、記録ヘッド30、キャリッジ14、
用紙搬送機構15Aを含んでいる。
図1の実施形態では、複数のインクカートリッジ2ないし5が、キャリッジ14の上に
直接搭載されているが、これに限らずインクカートリッジ2ないし5をキャリッジとは別
の位置に搭載している、いわゆるオフキャリッジ形のインクジェット式記録装置を採用し
ても勿論構わない。
図2の用紙搬送機構15Aは、図1の用紙29をプラテン12上を搬送するようになっ
ている。用紙29は記録媒体の一種である。
【0021】
図3は、図1に示す記録ヘッド30の構造例を示す断面図である。
インクジェット式記録装置10は、特にカラープリンタとして用いられる場合には、こ
の記録ヘッド30は、互いに種類の異なる複数種類のインクを吐出するために、インクの
種類ごとに独立したインク経路50を有している。
各インクカートリッジ2ないし5からのインクは、インク供給針50Aを介してインク
経路50に流入する。インクの種類ごとに独立したインク経路50は、それぞれ複数の圧
力室51に接続されている。各圧力室51には、各ノズル開口列54A,54B,54C
,54Dが接続されている。
ノズルプレート62はノズルプレート面61を有していて、このノズルプレート面61
には複数のノズル開口列54が設けられている。圧力室51から押し出されたインク滴が
、ノズル開口列54A〜54Dのノズル開口55A〜55Dから吐出される。
【0022】
図4は、ノズルプレート面61におけるノズル開口列54A〜54Dの配列例を示して
いる。異なるインクの種類とは、見かけ上の色の違いにとどまらず、インクの構成成分の
種類や比率が異なることを意味する。各ノズル開口列54A〜54Dは、例えば数10か
ら数1000のノズル開口55A〜55Dから構成されている。
【0023】
図5は、本発明のインクジェット式記録装置10の記録ヘッド30の内部構造例を示している。上述したインクカートリッジから供給されるインクは、インク経路50を通って圧力室51へ供給される。印刷の際には、圧力発生素子としての圧電振動子39が伸縮動作することによって、圧力室51の容積を変化させて、圧力室51内のインクに圧力変動を生じさせる。これによって、ノズル開口55A〜55Dからインク滴が吐出できる。圧電振動子39は各ノズル開口55A〜55Dに対応して設けられている。
記録ヘッド30内のインク中に気泡が混入したり、インク経路50や圧力室51内に増
粘したインクが存在すると、インクの正常な流れが阻害されて、正常なインクの吐出が行
えないことがある。この場合には、インク吸引装置20が用いられ、このインク吸引装置20によるインクの強制排出が必要となる。
【0024】
また、インクジェット式記録装置10を最初に使用する際の開始時や、インクカートリ
ッジを別の種類のインクカートリッジに交換した場合には、図3の記録ヘッド30内のイ
ンク経路50の中にインクを充填する必要がある。このような初期のインクの充填に際し
ても、インク吸引装置20が使用され、このインク吸引装置20を用いることで、図3の
記録ヘッド30のノズル開口55A〜55Dから空気およびインクが、強制的に吸引され
てノズル開口55A〜55Dから排出される。
【0025】
図6と図7は、インクジェット式記録装置10のインク吸引装置20、記録ヘッド30およびインクカートリッジ2ないし5の構造例を示している。図6では、インク吸引装置20はノズルプレート面61から離れた待機状態である。図7では、インク吸引装置20はノズルプレート面61に密着もしくは圧着されて、ノズルプレート面61を封止している状態(保湿状態)を示している。
図6と図7においては、記録ヘッド30とインクカートリッジ2ないし5が、ホームポ
ジション18に位置決めされており、この記録ヘッド30は、インク吸引装置20の上方
に位置決めされている。
【0026】
図1に示すキャリッジ14は、記録ヘッド30とともに、ガイドレール17に沿って主
走査方向Tに沿って往復移動可能である。キャリッジ14とともに記録ヘッド30は、ヘ
ッド移動方向T1に移動することにより、記録ヘッド30は図6に示すホームポジション
18に位置決めすることができる。
記録ヘッド30はキャリッジ14の下面側に設けられている。記録ヘッド30の下面は、ノズルプレート面61である。このノズルプレート面61は、ノズル面の一例であり、図3と図4にノズルプレート面61の形状例を示している。ノズルプレート面61は、ノズルプレート62(図3参照)の下面である。
ノズルプレート62は、上述したような複数のノズル開口列、図3と図4の図示例では
4列のノズル開口列54A〜54Dを有している。各ノズル開口列54A〜54Dは、図
4に示すT方向とは直交するU方向に沿っており、T方向に沿って同じ間隔で平行に形成
されている。
【0027】
次に、図6ないし図15を参照して、インク吸引装置20の構造について詳しく説明す
る。
図6では、上述したように記録ヘッド30はホームポジション18に位置決めされてい
るが、インク吸引装置20とノズルプレート面61とは離れている待機状態を示している
。図7では、インク吸引装置20がノズルプレート面61を封止して、ノズルプレート面
61からのインクの吸引状態またはノズルプレート面61の保湿状態の例を示している。
この場合にはインク吸引装置20は、昇降手段250の動作により、図6の待機状態から
図7に示すようにZ2方向に押し上げられた状態になっている。
図8は、図6のインク吸引装置20のA−Aにおける断面構造例を示している。図9は
、記録ヘッド30、インク吸引装置20等を示す分解斜視図である。
【0028】
図6と図8に示すように、インク吸引装置20は、廃液システムまたは廃液装置とも言
い、ホームポジション18に配置されていて、このインク吸引装置20は、キャップ本体
80、吸収材90、押さえ部材130、吸引ポンプ19を有している。
図6と図8と図9に示すキャップ本体80は、本体の一例であり、キャップ本体80は
、底部92、4つの側面部93,94,95,96を有している箱形状の部材である。キ
ャップ本体80は、プラスチックにより作ることができる。4つの側面部93,94,9
5,96の上端部97は、図7に示すようにノズルプレート面61に対して密着もしくは
圧着することができる弾性変形可能な部分である。
キャップ本体80の内部には、吸収材90が固定されている。この吸収材90は、イン
クを吸収可能な材料により作られていて、例えばポリビニルアルコール(PVA)のスポ
ンジにより作ることができる。吸収材90は、好ましくは親水性に優れて、微細な連続し
た気孔構造を有しており、インクの吸収能力を有している。
【0029】
図6と図9に示す押さえ部材130は、耐蝕性に優れる材料、例えば弾性変形可能な金
属材料により作られている。この金属材料としては、例えばステンレス鋼等を採用するこ
とができる。
押さえ部材130は、吸収材90の表面90A(図8参照)の上に載っていて、押さえ部材130とキャップ本体80の底部92の内面底部92Aの間において、複数本のピン150により挟むようにして固定されている。この押さえ部材130は、インクを吸収した吸収材90の膨潤による盛り上がりを防止するために、吸収材90の表面90Aを機械的に押さえる機能を有している。
【0030】
図9に示すように吸収材90は、キャップ本体80の中に収容できる好ましくは例えば
直方体形状の部材である。
キャップ本体80は、図6に示すようにその内部の中央位置に好ましくは隔壁81を有
している。
この隔壁81は、側面部96,94の間において、Z2方向に沿って平行に垂直に立て
て形成されている。
【0031】
吸収材90は、側面部96と隔壁81の間および隔壁81と側面部94の間にそれぞれ
収容されている。
このように隔壁81を設けることにより、2列のノズル列54A,54Bの組と、2列
のノズル開口列54C,54Dの組を分けることができ、2つの吸収材90,90では互
いに混色させない。
しかしこの隔壁81を必ずしも設ける必要は無く、隔壁81は取り除いても勿論構わな
い。
【0032】
図6に示すようにキャップ本体80の底部92には、排出部240,241が、それぞ
れの吸収材90,90に対応する位置に形成されている。
排出部240,241は、吸引ポンプ19のチューブ19Aに対してそれぞれ着脱可能
に接続されている。吸引ポンプ19は、廃インクタンク100に接続されている。この廃
インクタンク100は、インク吸引装置20から吸引されてくるインクを格納するための
タンクである。
【0033】
図6に示す上部開口270は、側面部96と側面部94とそれぞれの上端部97により形成されている。
各側面部の上端部97は、ノズルプレート面61に対して密着もしくは圧着される時に、多少の柔軟性をもって弾性変形することにより、ノズルプレート面に対して確実に封止できるような柔軟性のある材質により作られているのが望ましい。
【0034】
図9では、上述したキャップ本体80の構造例と2つの吸収材90,90、そして押さえ部材130の形状例を示している。
上述したように2つの吸収材90,90は例えば直方体形状を有していて例えば同じサ
イズのものである。キャップ本体80は、これらの吸収材90,90を隔壁81を介して
別々の収容空間S1とS2内に収容することができる。
【0035】
図9に示すキャップ本体80は、図8にも示すように、それぞれ収容空間S1,S2内
において、例えば3本のピン150を備えている。この円柱状のピン150は、突出部材
の一例であり、各ピン150は、Z2方向に向けて、すなわちノズルプレート面61に向
けて、それぞれ垂直に平行に好ましくは等間隔で突出して設けられている。
各ピン150の下端部は図8と図9に示すようにキャップ本体80の内側底部92Aか
ら直接形成されている。ピン150はキャップ本体80を形成する際に一体的に形成する
ことが望ましい。したがってピン150の材質は、キャップ本体80の材質と同じ物で作
られていて、熱により塑性変形することができる。
【0036】
ピン150の端部(先端部分)151は、例えば平坦面になっている。このように端部
151が平坦面になっているのは、後で説明するように端部151を熱によりカシメる場
合にカシメ易くするためである。
図8では、既にピン150の各端部151が熱カシメによりカシメられて、カシメ部分
160が形成された状態を示している。図9ではまだカシメ部分160は形成されておら
ず、端部151は平坦面となっている。カシメ部分160は、カシメ部分の一例である。
【0037】
図9に示すように、吸収材90の各貫通孔190の中には、キャップ本体80のピン1
50が通るようになっている。これによって、キャップ本体80の収容空間S1,S2に
おいてそれぞれ吸収材90のT方向とu方向における位置決めを行うことができる。T方
向およびu方向はZ2方向と互いに垂直な方向である。この貫通孔190は吸収材90に
あらかじめ設けておいてもよいし、吸収材90をピン150に突きさして形成してもよい

【0038】
次に、図10乃至図15を参照しながら、押さえ部材130の形状例について詳しく説明する。
図10は、押さえ部材13を図9の記録ヘッド30側からみた平面図である。
図11はランド部300A,302Aおよびランド部301Aの形状例を拡大して示す
平面図である。
図12及び図13は、図6に示すインク吸引装置20の上部開口側から見た平面図である。
図14は、カシメ部分160の製造工程の要部の概略図である。
図15は、カシメ部分160の形態を示す概略図である。
押さえ部材130は、上述したように好ましくは弾性変形可能な金属材料により作られた薄板状の部材である。押さえ部材130は、例えば薄板状の金属材料を打ち抜くことにより形成できる。
【0039】
説明の便宜上、図10に示すように、押さえ部材130を第1部130a及び第2部130bに分け、以下、第1部130aの構成を説明する。
図10に示すように、押さえ部材130は、3つのランド部300A,301A,302Aと、帯状部分340と連結部341,342,343,344,345,346を有している。
帯状部分340,340は、ランド部300A,301Aを連結している。
連結部341ないし346は、帯状部分340,340と中央のランド部302Aを連結するための補強部分としても機能する。
連結部342,345は、帯状部分340に対して略垂直方向に形成されており、残り
の連結部341,343,344,346は斜め方向に形成されている。
ランド部300A,301Aおよび302Aの形状的な特徴について説明する。
両側のランド部300A,301Aは、R1−R1線において左右対称形状に形成されている。これに対してランド部302Aは、ランド部300Aと同じ向きに形成されている。
【0040】
図11は、ランド部300A,302Aおよびランド部301Aの形状例を拡大して示す平面図である。図11におけるハッチングされた部分はピン150の円形断面を示している。
ランド部300A等は、略リング状であるが、押し付け用部分400と隙間形成部分430を有している。例えば押し付け用部分400は、ピン150の中心CLからの半径L1を有する半円弧状の部分である。隙間形成部分430は、中心CLから半径L2を有する円弧状部分である。この半径L2は半径L1よりも大きく設定されている。
押し付け用部分400の内径L3はピン150の半径と略等しく設定されていて、ピン
150の外周面150Hは押し付け用部分400の内周部401に接している。
これにより、ピン150の外周面150Hと隙間形成部分430の内周部の間には、隙
間435が積極的に形成できるようになっている。
押し付け用部分400と隙間形成部分430は、それぞれ帯状部分の連結部340A,
340Aに接続されている。
【0041】
押さえ部材130は、金属板(図示せず)から打ち抜いて形成され、その後、撥水加工される。撥水加工には、例えば、シリコーン樹脂系撥水防汚剤や、フッ素樹脂系撥水防汚剤を使用する。
【0042】
図12に示すように、押さえ部材130の帯状部分340は、ノズル開口列54A,54B,54C,54Dにそれぞれほぼ対応した位置にある。したがってランド部300A等は、ノズル開口列54A等の間に位置している。
図10の第2部130bの構成は、上述の第1部130aの構成と同様である。
【0043】
次に、図12,図13,図14及び図15を参照しながら、ピン150の端部にカシメ部分160を形成した状態、およびそのカシメ部分160により得られる作用効果について説明する。
図12は図14(a)に対応しており、図13は図14(c)に対応している。図12
と図14(a)は、ピン150の端部151をカシメる前の状態を示しており、図13お
よび図14(c)はその端部151にカシメ部分160が形成された状態を示している。
【0044】
図14(a)に示すように熱カシメ用の工具600を用いてピン150の端部151を熱によりカシメる。工具600は、図14(b)に示すように、カシメ部分160の形状を規定する凹部602を有する。凹部602は、カシメ部分160の後述の半球部160Aを形成するための半球面602a、及び、後述の傾斜平面部160Bを形成するための平面部602bを有する。
これによって、図13および図14(c)に示すようにピン150の端部151にはカシメ部分160が形成される。
このカシメ部分160は、図14(c)に示すように、半球部160Aと傾斜平面部160Bを有している。半球部160Aは押し付け用部分400を押し付けるようにして形成されている。傾斜平面部160Bは隙間435側に形成されている。この傾斜平面部160Bは、傾斜平面部の一例である。
これによって図14(c)に示すように、半球部160Aは押し付け用部分400を吸収材90の表面90Aに押し付けることで、押し付け用部分400は吸収材90を内側底面92Aとの間で挟み込むようにして固定することができる。押さえ部材130は、押し付け用部分400を介して全体的に弾性力を発揮しながら吸収材90を内側底面92Aに押し付けるようにして固定することができるのである。
【0045】
一方、図14(c)に示す傾斜平面部160Bは隙間435の一部分側に塑性変形して伸びていて、傾斜平面部160Bは吸収材90の表面90Aに直接接触している。しかも傾斜平面部160Bと隙間形成部分430との間にはさらに隙間435が残っている。
このことから、液体滴としてのインク滴500が仮にノズル開口からカシメ部分160
の上に落下したとしても、インク滴500は傾斜平面部160Bの表面を滑り落ちるから、インク滴500を直接吸収材90側に導いて吸収させることができるという大きなメリットがある。
【0046】
以下、図15を使用して、傾斜平面部160Bについて詳細に説明する。
図15(a)は、カシメ部分160を図14(c)の矢印W方向から見た概略平面図である。
図15(b)は、カシメ部160の概略斜視図である。
図15(a)に示すように、カシメ部分160は、半球部160Aと傾斜平面部160Bから構成されている。傾斜平面部160Bは、カシメ部分160に落下したインクを吸収材90へ流し込むための構成である。
図15(b)では、半球部160Aは傾斜平面部160Bの影になって見えなくなっており、傾斜平面図160Bだけが見えている。傾斜平面部160の底部160Bbは、吸収材90の表面90Aと面接触の態様で接触している。底部160Bbは、吸収材接触部の一例である。
このため、傾斜平面部160Bは、インクを吸収材90との接触部において滞留させることなく、迅速に吸収材90に吸収させることができる。
なお、本実施の形態とは異なり、傾斜平面部160Bの底部160Bbは、吸収材90の表面90Aと線接触するように構成してもよい。
また、傾斜平面部160Bの表面160Baは、撥水加工されており、インク滴500を迅速に吸収材90側へ流し込むことができるようになっている。図15(b)に示すように、傾斜平面部160Bは、傾斜部と160Ba1と、垂直部160Ba2とから構成され、傾斜部160Ba1上すべり落ちたインク滴500は、垂直部160Ba2を通過して、吸収材90側へ流れ込むようになっている。
このように、カシメ部分160は、吸収材90に接触している。このため、図7のようにインク吸引装置20がノズルプレート面61に密着された状態で、ノズル開口からの液体を微小吸引したり、ノズル面にあててノズル面を保湿する際に、インクがカシメ部分160に仮に載ったとしても、カシメ部分160に載ったインクを吸収材90側に導いて吸収材90側に吸収させることができる。つまり、ノズル開口からインクを吸引して外部に排出したりノズルプレート面にあててノズル面を保湿する際に、カシメ部分160におけるインクだまりの形成現象を確実に防ぐことができるので、カシメ部分160にはインク球が形成されずにノズルプレート面が液体により汚染されることが無くなる。
カシメ部分にはインクだまりが生じないので、ノズル開口とカシメ部分の位置が対向し
ていても対向していなくても良く、ノズル開口列54A〜54Dとカシメ部分160の相
対的な位置の設定に制約が無く、この設定の自由度が上がる。
【0047】
本実施の形態のインクジェット式記録装置10は、上述のように構成されている。
上述のように、カシメ部分160は傾斜平面部160Bを有する。このため、カシメ部分160に落下したインクは、傾斜平面部160B上を吸収材90側に滑り落ちる。このように、傾斜平面部160Bによって、カシメ部分160に落下したインクを積極的に吸収材90側に流し込むことができる。
そして、傾斜平面部160Bは底部160Bbを有し、底部160Bbは吸収材90と、点で接触するのではなくて、面接触の態様で接する。このため、傾斜平面部160Bは、インクを吸収材90との接触部において滞留させることなく、迅速に吸収材90に吸収させることができる。
これにより、カシメ部分に落下した液体を吸収材に十分に流し込むことができる。
【0048】
また、傾斜平面部160Bの表面は、撥水加工されているから、傾斜平面部160Bは、効率よくインクを吸収材90側へ流し込むことができる。
【0049】
これに対して、図16は本願とは異なる従来のインク球ができる従来例を比較例として
示している。図16に示すようにピン2000のカシメ部分2001の上にインク滴が載ると、インク球2003として表面張力の影響で成長していく。このインク球が大きく
なるとノズル面2004に接触する。しかもインク球2003は押さえ部材2005によ
り遮られているので、インク球2003は従来例では吸収材2006とは遮られた状態に
ある。
【0050】
本発明は、インクジェット式記録装置としての上記実施形態に限定されず、特許請求の
範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。さらに、上述の各実施形態は、
相互に組み合わせて構成するようにしてもよい。また、本発明は、インクジェット式記録
装置に限らず、プリンタ等の画像記録装置に用いられる記録ヘッド、液晶ディスプレイ等
のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(
面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ製造に
用いられる生体有機物噴射ヘッド等の液体を吐出する液体噴射ヘッドを用いた液体噴射装
置、精密ピペットとしての試料噴射装置等にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置を示す斜視図である。
【図2】図1のインクジェット式記録装置の電気的接続例を示す図である。
【図3】インクジェット式記録装置の記録ヘッドの構造例を示す断面図である。
【図4】記録ヘッドのノズルプレート面の形状例を示す図である。
【図5】記録ヘッドの圧電振動子の付近の構造を示す図である。
【図6】キャップ本体がノズルプレート面から離れた待機状態を示す図である。
【図7】キャップ本体がノズルプレート面を封止している状態を示す図である。
【図8】図6のインク吸引装置のA−A線における断面図である。
【図9】記録ヘッドとインク吸引装置を示す分解斜視図である。
【図10】押さえ部材を示す概略平面図である。
【図11】ランド部の形状例を拡大して示す図である。
【図12】キャップ本体内の吸収材と押さえ部材およびピン等を示す平面図である。
【図13】図12におけるピンの端部にカシメ部分が形成された状態を示す平面図である。
【図14】カシメ部分の製造工程の要部の概略図である。
【図15】カシメ部分の形態等を示す概略図である。
【図16】比較例として従来のカシメ部分にインク球が形成された例を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
2,3,4,5・・・インクカートリッジ、10・・・インクジェット式記録装置(液体噴射装置の一例)、19・・・吸引ポンプ、20・・・インク吸引装置(液体吸引装置の一例)、30・・・記録ヘッド(液体噴射ヘッドの一例)、54A,54B,54C,54D・・・ノズル開口列、55A,55B,55C,55D・・・ノズル開口、61・・・ノズルプレート面(ノズル面の一例)、80・・・キャップ本体(本体)、90・・・吸収材、130・・・押さえ部材、150・・・ピン(突出部材の一例)、160・・・ピンのカシメ部分、160A・・・半球部、160B・・・傾斜平面部、300A,300B,301A,301B,302A,302B・・・ランド部、400・・・押し付け用部分、430・・・隙間形成部分、435・・・隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体噴射ヘッドのノズル面に当てて前記ノズル面のノズル開口からの液体を吸引して外
部に排出したり、前記ノズル面に当てて前記ノズル面を保湿する液体噴射ヘッドの液体吸
引装置を備える液体噴射装置であって、
前記液体吸引装置は、
前記ノズル面に密着して前記ノズル開口を封止可能な本体であり、前記本体の内側の底
部から突出している突出部材が設けられている前記本体と、
前記本体内に配置されて前記ノズル開口からの前記液体を吸収するための吸収材と、
前記吸収材へ前記突出部材を通した状態で、前記吸収材を前記本体の内側の前記底部と
により挟んで、前記突出部材の端部をカシメて得られるカシメ部分により固定するための
押さえ部材と、を備え、
前記カシメ部分は、前記カシメ部分に落下した前記液体を前記吸収材へ流し込むための傾斜平面部を有し、
前記傾斜平面部は、前記吸収材に線接触又は面接触の態様で接する吸収材接触部を有することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記カシメ部分の前記傾斜平面部の表面は、撥水加工されていることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
液体噴射ヘッドのノズル面に当てて前記ノズル面のノズル開口からの液体を吸引して外
部に排出したり、前記ノズル面に当てて前記ノズル面を保湿する液体噴射ヘッドの液体吸
引装置であって、
前記ノズル面に密着して前記ノズル開口を封止可能な本体であり、前記本体の内側の底
部から突出している突出部材が設けられている前記本体と、
前記本体内に配置されて前記ノズル開口からの前記液体を吸収するための吸収材と、
前記吸収材へ前記突出部材を通した状態で、前記吸収材を前記本体の内側の前記底部と
により挟んで、前記突出部材の端部をカシメて得られるカシメ部分により固定するための
押さえ部材と、を備え、
前記カシメ部分は、前記カシメ部分に落下した前記液体を前記吸収材へ流し込むための傾斜平面部を有し、
前記傾斜平面部は、前記吸収材に線接触又は面接触の態様で接する吸収材接触部を有することを特徴とする液体噴射ヘッドの液体吸引装置。
【請求項4】
前記カシメ部分の前記傾斜平面部の表面は、撥水加工されていることを特徴とする請求項3に記載の液体噴射ヘッドの液体吸引装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−112034(P2007−112034A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306737(P2005−306737)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】