説明

液体噴射装置及び液体噴射ヘッドの駆動方法

【課題】吐出される液滴の尾部を縮小させて、高速吐出を行わせることができると共に、吐出安定性を向上した液体噴射装置の提供。
【解決手段】液体を吐出するノズル開口に連通する圧力発生室と、圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧力発生手段とを具備する液体噴射ヘッドと、圧力発生手段に、圧力発生室を膨張させる膨張要素P01と、圧力発生室を収縮させる収縮要素P03と、収縮要素によってノズル開口から液体が吐出される前に圧力発生室を膨張させて液体を吐出させる再膨張要素P05〜P07とを具備する駆動信号を供給する駆動手段とを具備し、再膨張要素P05〜P07が、収縮要素側に設けられて圧力発生室を膨張させる一次膨張要素P05と、一次膨張要素P05に連続して一次膨張要素P05の電圧変化率と異なる電圧変化率を有する変化部P06を少なくとも有すると共に圧力発生室を膨張させる二次膨張要素P06〜P07とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル開口から液体を噴射する液体噴射ヘッドを具備する液体噴射装置及び液体噴射ヘッドの駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット式プリンタやプロッタ等のインクジェット式記録装置は、インクカートリッジやインクタンク等のインク貯留手段に貯留されたインクを、インク滴として吐出可能なインクジェット式記録ヘッドを有する。
【0003】
ここで、インクジェット式記録ヘッドとしては、ノズル開口に連通する圧力発生室と、複数の圧力発生室に連通する共通の液体室であるリザーバと、圧力発生室に圧力変化を生じさせてノズル開口から液滴を吐出させる圧力発生手段とを具備する。そして、インクジェット式記録ヘッドに搭載される圧力発生手段としては、例えば、縦振動型の圧電素子、撓み振動型の圧電素子、静電気力を用いたもの、発熱素子を用いたものなどが挙げられる。
【0004】
このようなインクジェット式記録ヘッドにインク滴の吐出を行わせた際に、吐出されたインク滴の尾部が長くなってしまうという問題や、二次的な微小なインク滴が吐出されるなどの問題が発生する場合がある。そして、このような問題が生じると、早いタイミングで複数のインク滴を吐出させる高周波吐出を行わせることができず、高速印刷を行うことができない。
【0005】
このため、圧電素子等の圧力発生手段に供給する駆動信号として、圧力発生室の体積を収縮させてインク滴を吐出させた収縮要素の後、圧力発生室を膨張させてインク柱を切断する膨張要素を設けたものが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平2−184449号公報
【特許文献2】特開2006−306076号公報
【特許文献3】特許第3275965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、さらなる高速印刷が望まれており、インク滴の尾部をさらに低減することが必要である。このため、インク柱を切断する膨張要素の駆動電圧を高めると共に、電圧を印加する時間を短くして、電圧変化を急峻にすることが考えられるが、このような急峻な電圧変化を行うと、インク滴を吐出させた後のノズル開口のインクのメニスカスの振動が大きくなり、二次的なインク滴が吐出されてしまうことや、次のインク滴の吐出に悪影響を与えてしまうなどの問題がある。
【0008】
そして、このような問題は、上記特許文献1〜3では、解決することができるものではない。また、このような問題は、特に高粘度のインクを吐出させる場合に、顕著に現れる。
【0009】
なお、このような問題はインクジェット式記録装置だけではなく、インク以外の液体を噴射する液体噴射装置においても同様に存在する。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑み、吐出される液滴の尾部を縮小させて、高速吐出を行わせることができると共に、吐出安定性を向上した液体噴射装置及び液体噴射ヘッドの駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明の態様は、液体を吐出するノズル開口に連通する圧力発生室と、該圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧力発生手段とを具備する液体噴射ヘッドと、前記圧力発生手段に、前記圧力発生室を膨張させる膨張要素と、前記圧力発生室を収縮させる収縮要素と、該収縮要素によって前記ノズル開口から液体が吐出される前に前記圧力発生室を膨張させて液体を吐出させる再膨張要素とを具備する駆動信号を供給する駆動手段とを具備し、前記再膨張要素が、前記収縮要素側に設けられて前記圧力発生室を膨張させる一次膨張要素と、前記一次膨張要素に連続して当該一次膨張要素の電圧変化率と異なる電圧変化率を有する変化部を少なくとも有すると共に前記圧力発生室を膨張させる二次膨張要素とを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
かかる態様では、一次膨張要素と二次膨張要素とを有する再膨張要素を設けることで、吐出する液滴の尾部を短くすることができると共に、液滴を吐出した後のメニスカスの振動を安定させることができる。これにより、液滴の高速吐出(高周波吐出)を実現できる。
【0012】
ここで、前記変化部が、前記一次膨張要素に連続すると共に当該一次膨張要素の終了時の電位を維持するホールド要素からなると共に、前記二次膨張要素が、前記ホールド要素に連続して前記圧力発生室を膨張させる三次膨張要素をさらに具備することが好ましい。また、前記二次膨張要素を、前記一次膨張要素に連続して、前記一次膨張要素の電圧変化率と異なる前記変化部だけで構成することもできる。これによれば、再膨張要素における電圧の変化を短時間で行って吐出された液滴の尾部を短くすることができると共に、電圧の変化が短時間であっても、液滴吐出後のメニスカスを安定させることができる。
【0013】
また、前記膨張要素が、前記圧力発生室を基準体積よりも大きな体積となるように膨張させると共に前記収縮要素が、前記圧力発生室を前記基準体積よりも小さな体積となるように収縮させ、前記再膨張要素が、前記圧力発生室を前記基準体積よりも大きく、且つ前記膨張要素による前記圧力発生室の体積よりも小さな体積となるように膨張させるものであることが好ましい。これによれば、液滴の吐出特性を向上することができると共に、液滴の尾部を確実に短くすることができる。
【0014】
また、前記収縮要素が終了したタイミングと、前記再膨張要素を開始するタイミングとの間隔が、前記圧力発生室の固有振動周期以下であることが好ましい。これによれば、再膨張要素が供給される前に液滴が振動により吐出されるのを防止して、吐出した液滴の尾部を短くすることができる。
【0015】
また、前記駆動信号が、前記再膨張要素の後に前記圧力発生室の体積を戻す再収縮要素をさらに具備し、前記再膨張要素から前記再収縮要素が終了する時間が、前記膨張要素が開始されてから前記収縮要素が終了する時間よりも長いことが好ましい。これによれば、再膨張要素によって液滴を吐出した後にノズル開口のメニスカスが暴れるのを防止することができる。
【0016】
また、前記液体噴射ヘッドに、10m・Pas以上の粘度の液体を供給する供給手段をさらに具備することが好ましい。これによれば、特に液滴の尾部が長くなる高粘度インクを、短い尾部で吐出させることができる。
【0017】
さらに、本発明の他の態様は、液体を吐出するノズル開口に連通する圧力発生室と、該圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧力発生手段とを具備する液体噴射ヘッドの駆動方法であって、前記圧力発生室を膨張させる膨張要素と、前記圧力発生室を収縮させる収縮要素と、該収縮要素によって前記ノズル開口から液体が吐出される前に前記圧力発生室を膨張させて液体を吐出させる再膨張要素とを具備し、且つ前記再膨張要素に、前記収縮要素側に設けられて前記圧力発生室を膨張させる一次膨張要素と、前記一次膨張要素に連続して当該一次膨張要素の電圧変化率と異なる電圧変化率を有する変化部を少なくとも有すると共に前記圧力発生室を膨張させる二次膨張要素とを設けた駆動信号によって前記圧力発生手段を駆動することを特徴とする液体噴射ヘッドの駆動方法にある。
かかる態様では、一次膨張要素と二次膨張要素とを有する再膨張要素を設けることで、吐出する液滴の尾部を短くすることができると共に、液滴を吐出した後のメニスカスの振動を安定させることができる。これにより、液滴の高速吐出(高周波吐出)を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の一実施形態に係る液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置の概略斜視図である。
【0019】
本実施形態の液体噴射装置は、例えば、インクジェット式記録装置であり、図1に示すように、詳しくは後述するインクジェット式記録ヘッドを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インクジェット式記録ヘッドにインクを供給する供給手段を構成するインクカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0020】
また、キャリッジ軸5の一端部近傍には、駆動モータ6が設けられており、駆動モータ6の軸の先端部には外周に溝を有する第1のプーリ6aが設けられている。さらに、キャリッジ軸5の他端部近傍には、駆動モータ6の第1のプーリ6aに対応する第2のプーリ6bが回転自在に設けられており、これら第1のプーリ6aと第2のプーリ6bとの間には環状でゴム等の弾性部材からなるタイミングベルト7が掛けられている。
【0021】
そして、駆動モータ6の駆動力がタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ3に沿ってプラテン8が設けられている。このプラテン8は図示しない紙送りモータの駆動力により回転できるようになっており、給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0022】
ここで、上述のようなインクジェット式記録装置Iに搭載されるインクジェット式記録ヘッドについて説明する。図2は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの一例を示す断面図である。
【0023】
図2に示すインクジェット式記録ヘッド10は、縦振動型の圧電素子を有するタイプであり、流路基板11には、複数の圧力発生室12が並設され、流路基板11の両側は、各圧力発生室12に対応してノズル開口13を有するノズルプレート14と、振動板15とにより封止されている。また、流路基板11には、各圧力発生室12毎にそれぞれインク供給口16を介して連通されて複数の圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ17が形成されており、リザーバ17には、図示しないインクカートリッジが接続される。
【0024】
一方、振動板15の圧力発生室12とは反対側には、各圧力発生室12に対応する領域にそれぞれ圧電素子18の先端が当接されて設けられている。これらの圧電素子18は、圧電材料19と、電極形成材料20及び21とを縦に交互にサンドイッチ状に挟んで積層され、振動に寄与しない不活性領域が固定基板22に固着されている。
【0025】
このように構成されたインクジェット式記録ヘッド10では、インクカートリッジに連通されるインク流路を介してリザーバ17にインクが供給され、インク供給口16を介して各圧力発生室12に分配される。実際には、圧電素子18に電圧を印加することにより圧電素子18を収縮させる。これにより、振動板15が圧電素子18と共に変形されて(図中上方向に引き上げられて)圧力発生室12の容積が広げられ、圧力発生室12内にインクが引き込まれる。そして、ノズル開口13に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路からの記録信号に従い、圧電素子18の電極形成材料20及び21に印加していた電圧を解除すると、圧電素子18が伸張されて元の状態に戻る。これにより、振動板15も変位して元の状態に戻るため圧力発生室12が収縮され、内部圧力が高まりノズル開口13からインク滴が吐出される。すなわち、本実施形態では、圧力発生室12に圧力変化を生じさせる圧力発生手段として縦振動型の圧電素子18が設けられている。
【0026】
図3は、インクジェット式記録装置の制御構成を示すブロック図である。ここで、図3を参照して、本実施形態のインクジェット式記録装置の制御について説明する。本実施形態のインクジェット式記録装置は、図3に示すように、プリンタコントローラ111とプリントエンジン112とから概略構成されている。プリンタコントローラ111は、外部インターフェース113(以下、外部I/F113という)と、各種データを一時的に記憶するRAM114と、制御プログラム等を記憶したROM115と、CPU等を含んで構成した制御部116と、クロック信号を発生する発振回路117と、液体噴射ヘッド10へ供給するための駆動信号を発生する駆動信号発生回路119と、駆動信号や印刷データに基づいて展開されたドットパターンデータ(ビットマップデータ)等をプリントエンジン112に送信する内部インターフェース120(以下、内部I/F120という)とを備えている。
【0027】
外部I/F113は、例えば、キャラクタコード、グラフィック関数、イメージデータ等によって構成される印刷データを、図示しないホストコンピュータ等から受信する。また、この外部I/F113を通じてビジー信号(BUSY)やアクノレッジ信号(ACK)が、ホストコンピュータ等に対して出力される。RAM114は、受信バッファ121、中間バッファ122、出力バッファ123、及び、図示しないワークメモリとして機能する。そして、受信バッファ121は外部I/F113によって受信された印刷データを一時的に記憶し、中間バッファ122は制御部116が変換した中間コードデータを記憶し、出力バッファ123はドットパターンデータを記憶する。なお、このドットパターンデータは、階調データをデコード(翻訳)することにより得られる印字データによって構成してある。
【0028】
また、ROM115には、各種データ処理を行わせるための制御プログラム(制御ルーチン)の他に、フォントデータ、グラフィック関数等を記憶させてある。制御部116は、受信バッファ121内の印刷データを読み出すと共に、この印刷データを変換して得た中間コードデータを中間バッファ122に記憶させる。また、中間バッファ122から読み出した中間コードデータを解析し、ROM115に記憶させているフォントデータ及びグラフィック関数等を参照して、中間コードデータをドットパターンデータに展開する。そして、制御部116は、必要な装飾処理を施した後に、この展開したドットパターンデータを出力バッファ123に記憶させる。
【0029】
そして、インクジェット式記録ヘッド10の1行分に相当するドットパターンデータが得られたならば、この1行分のドットパターンデータは、内部I/F120を通じて液体噴射ヘッド118に出力される。また、出力バッファ123から1行分のドットパターンデータが出力されると、展開済みの中間コードデータは中間バッファ122から消去され、次の中間コードデータについての展開処理が行われる。
【0030】
プリントエンジン112は、インクジェット式記録ヘッド10と、紙送り機構124と、キャリッジ機構125とを含んで構成してある。紙送り機構124は、紙送りモータとプラテン8等から構成してあり、記録紙等の印刷記憶媒体をインクジェット式記録ヘッド10の記録動作に連動させて順次送り出す。即ち、この紙送り機構124は、印刷記憶媒体を副走査方向に相対移動させる。
【0031】
キャリッジ機構125は、インクジェット式記録ヘッド10を搭載可能なキャリッジ3と、このキャリッジ3を主走査方向に沿って走行させるキャリッジ駆動部とから構成してあり、キャリッジ3を走行させることによりインクジェット式記録ヘッド10を主走査方向に移動させる。なお、キャリッジ駆動部は、上述したように駆動モータ6及びタイミングベルト7等で構成されている。
【0032】
インクジェット式記録ヘッド10は、副走査方向に沿って多数のノズル開口13を有し、ドットパターンデータ等によって規定されるタイミングで各ノズル開口13から液滴を吐出する。そして、このようなインクジェット式記録ヘッド10の圧電素子18には、図示しない外部配線を介して電気信号、例えば、後述する駆動信号(COM)や印字データ(SI)等が供給される。なお、このように構成されるプリンタコントローラ111及びプリントエンジン112では、プリンタコントローラ111と、駆動信号発生回路119から出力された所定の駆動波形を有する駆動信号を選択的に圧電素子18に入力するラッチ132、レベルシフタ133及びスイッチ134等を有する駆動回路(図示なし)とが圧電素子18に所定の駆動信号を印加する駆動手段となる。
【0033】
なお、これらのシフトレジスタ131、ラッチ132、レベルシフタ133、スイッチ134及び圧電素子18は、それぞれ、インクジェット式記録ヘッド10の各ノズル開口13毎に設けられており、これらのシフトレジスタ131、ラッチ132、レベルシフタ133及びスイッチ134は、駆動信号発生回路119が発生した吐出駆動信号や緩和駆動信号から駆動パルスを生成する。ここで、駆動パルスとは実際に圧電素子18に印加される印加パルスのことである。
【0034】
このようなインクジェット式記録ヘッド10では、最初に発振回路117からのクロック信号(CK)に同期して、ドットパターンデータを構成する印字データ(SI)が出力バッファ123からシフトレジスタ131へシリアル伝送され、順次セットされる。この場合、まず、全ノズル開口21の印字データにおける最上位ビットのデータがシリアル伝送され、この最上位ビットのデータシリアル伝送が終了したならば、上位から2番目のビットのデータがシリアル伝送される。以下同様に、下位ビットのデータが順次シリアル伝送される。
【0035】
そして、当該ビットの印字データが全ノズル分が各シフトレジスタ131にセットされたならば、制御部116は、所定のタイミングでラッチ132へラッチ信号(LAT)を出力させる。このラッチ信号により、ラッチ132は、シフトレジスタ131にセットされた印字データをラッチする。このラッチ132がラッチした印字データ(LATout)は、電圧増幅器であるレベルシフタ133に印加される。このレベルシフタ133は、印字データが例えば「1」の場合に、スイッチ134が駆動可能な電圧値、例えば、数十ボルトまでこの印字データを昇圧する。そして、この昇圧された印字データは各スイッチ134に印加され、各スイッチ134は、当該印字データにより接続状態になる。
【0036】
そして、各スイッチ134には、駆動信号発生回路119が発生した駆動信号(COM)も印加されており、スイッチ134が選択的に接続状態になると、このスイッチ134に接続された圧電素子18に選択的に駆動信号が印加される。このように、例示したインクジェット式記録ヘッド10では、印字データによって圧電素子18に吐出駆動信号を印加するか否かを制御することができる。例えば、印字データが「1」の期間においてはラッチ信号(LAT)によりスイッチ134が接続状態となるので、駆動信号(COMout)を圧電素子18に供給することができ、この供給された駆動信号(COMout)により圧電素子18が変位(変形)する。また、印字データが「0」の期間においてはスイッチ134が非接続状態となるので、圧電素子18への駆動信号の供給は遮断される。なお、この印字データが「0」の期間において、各圧電素子18は直前の電位を保持するので、直前の変位状態が維持される。
【0037】
なお、上記の圧電素子18は、上述のように縦振動型の圧電素子18である。この縦振動型の圧電素子18を用いると、充電により圧電素子18が縦方向に縮んで圧力発生室12を膨張させ、放電により圧電素子18が縦方向に伸長して圧力発生室12を収縮させる。このようなインクジェット式記録ヘッド10では、圧電素子18に対する充放電に伴って対応する圧力発生室12の容積が変化するので、圧力発生室12の圧力変動を利用してノズル開口13から液滴を吐出させることができる。
【0038】
ここで、圧電素子18に入力される本実施形態の駆動信号(COM)を表す駆動波形について説明する。なお、図4は、本実施形態の駆動信号を示す駆動波形である。
【0039】
圧電素子18に入力される駆動波形は、共通電極を基準電位(本実施形態では0V)として、個別電極に印加されるものである。駆動波形は、図4に示すように、中間電位Vmを維持した状態から第1電位V1まで上昇させる第1膨張要素P01と、第1電位V1を一定時間維持する第1ホールド要素P02と、第1電位V1から第2電位V2まで降下させる第1収縮要素P03と、第2電位V2を一定時間維持する第2ホールド要素P04と、ノズル開口13からインク滴が吐出される前に第2電位V2から第3電位V3まで上昇させる第2膨張要素P05と、第3電位V3を一定時間維持する第3ホールド要素P06と、第3電位V3から第4電位V4まで上昇させる第3の膨張要素P07と、第4電位V4を一定時間維持する第4ホールド要素P08と、第4電位V4から中間電位Vmまで戻す第1制振要素P09とで構成されている。
【0040】
そして、このような駆動波形が圧電素子18に供給されると、第1膨張要素P01によって、圧電素子18が圧力発生室12の容積を膨張させる方向に変形して、ノズル開口13内のメニスカスが圧力発生室12側に引き込まれると共に、圧力発生室12にはリザーバ17側からインクが供給される。そして、圧力発生室12の膨張状態は、第1ホールド要素P02で維持される。次に、第1収縮要素P03が供給されて圧電素子18が伸長する。これにより、圧力発生室12は膨張容積から第2電位V2に対応する収縮容積まで急激に収縮され、圧力発生室12内のインクが加圧されてノズル開口13からインク滴の吐出が開始される(ノズル開口13のメニスカスが柱状に盛り上がった状態)。そして、圧力発生室12の収縮状態は第2ホールド要素P04によって維持される。この第2ホールド要素P04によって、メニスカスの柱状部分の成長が促される。そして、ノズル開口13からインク滴が吐出する前、すなわち、メニスカスが固有振動により引きちぎられる前に、第2膨張要素P05、第3ホールド要素P06及び第3膨張要素P07を供給することで、圧力発生室12を収縮容積から第4電位V4に対応する膨張容積まで急激に膨張し、柱状に盛り上がったメニスカスを引きちぎることでノズル開口13からインク滴が吐出される。
【0041】
その後は、圧力発生室12の膨張状態は、第4ホールド要素P08で維持され、この間にインク滴の吐出によって上昇した圧力発生室12内のインク圧力は、その固有振動によって再び下降・上昇を繰り返す。そして圧力発生室12の圧力の上昇タイミングに合わせて第1制振要素P09が供給されて、圧力発生室12が基準容積まで復帰(収縮)し、圧力発生室12内の圧力変動が吸収される。
【0042】
このような本実施形態の駆動波形では、第1膨張要素P01が、特許請求の範囲に記載の膨張要素、第1収縮要素P03が特許請求の範囲に記載の収縮要素に相当する。また、駆動波形の第2膨張要素P05、第3ホールド要素P06及び第3膨張要素P07が、特許請求の範囲に記載の再膨張要素に相当し、第2膨張要素P05が一次膨張要素、第3ホールド要素P06及び第3膨張要素P07が二次膨張要素に相当する。また、第3ホールド要素P06が、特許請求の範囲に記載の二次膨張要素を構成する変化部(ホールド要素)に相当し、第3膨張要素P07が、特許請求の範囲に記載の三次膨張要素に相当する。さらに、第1制振要素P09が、特許請求の範囲に記載の再収縮要素に相当する。
【0043】
そして、このような駆動波形によって、インク滴を吐出させることで、吐出されたインク滴の尾部を短くすることができると共に、インク滴吐出後のメニスカスの振動を安定させることができる。すなわち、上述した駆動波形では、第1収縮要素P03及び第2ホールド要素P04によってノズル開口13から柱状に盛り上がったメニスカスを、再膨張要素に相当する第2膨張要素P05、第3ホールド要素P06、第3膨張要素P07によって、第2電位V2から第4電位V4までの急峻な電圧変化を短時間で行って引きちぎることができるため、吐出されたインク滴の尾部を短くすることができる。また、再膨張要素内に第3ホールド要素P06を設けることによって、第2電位V2から第4電位V4まで一定の電圧変化率(時間に対する電圧の変化率;波形の傾き)で印加するのに比べて、二次的なインク滴の吐出を防止することができると共に、インク滴吐出後のメニスカスの振動を安定させることができる。このように、インク滴の尾部を短くすると共に、インク滴吐出後のメニスカスの安定性を高めることで、次のインク滴を吐出するまでの間隔を短くしても、吐出されたインク滴の尾部が次のインク滴に干渉することなく、常に同じインク吐出特性で安定したインク滴の吐出を行わせることができる。この結果、インク滴の高速吐出(高周波吐出)を行って高速印刷を行わせることができる。
【0044】
なお、再膨張要素に相当する第2膨張要素P05及び第3膨張要素P07の駆動電圧VH2は、第1収縮要素P03の駆動電圧VH1よりも低くするのが好ましい。これは、駆動電圧VH2が高いと、再膨張要素に第3ホールド要素P06を設けたとしても、第2膨張要素P05及び第3膨張要素P07によってメニスカスが暴れ、二次的なインク滴が吐出されてしまう虞があると共に、インク滴吐出後のメニスカスの振動の収束に時間がかかるからである。
【0045】
また、第2膨張要素P05から第1制振要素P09(再収縮要素)が終了するまでの時間T2、すなわち、再膨張要素を構成する第2膨張要素P05、第3ホールド要素P06、第3膨張要素P07と、その後の第4ホールド要素P08及び第1制振要素P09との総時間T2は、第1膨張要素P01から第1収縮要素P03が終了する時間T1、すなわち、第1膨張要素P01、第1ホールド要素P02、第1収縮要素P03の総時間T1よりも長くするのが好ましい。これは、時間T2を短くすると、時間に対する電圧変化量(電圧変化率)が高くなり、再膨張要素に第3ホールド要素P06を設けたとしても、再膨張要素(P05〜P07)によってメニスカスが暴れ、二次的なインク滴が吐出されてしまう虞があると共に、インク滴吐出後のメニスカスの振動の収束に時間がかかるからである。なお、再膨張要素の電圧と時間とをそれぞれ短くすることで、電圧変化率を緩やかにすることもできるが、再膨張要素の電圧と時間とをそれぞれ短くすると、インク滴の尾部を引きちぎる力が弱くなり、吐出されたインク滴の尾部が長くなってしまう。
【0046】
さらに、第1収縮要素P03が終了してから再膨張要素を構成する第2膨張要素P05の供給タイミング、すなわち、第1収縮要素P03が終了した時間と第2膨張要素P05を開始するタイミングとの間隔Δt1(第2ホールド要素P04の時間Δt1)は、圧力発生室12の固有振動周期Tc以下であることが好ましい。これは、例えば、第2ホールド要素P04の時間が、固有振動周期Tcよりも大きいと、再膨張要素を供給する前に柱状に成長したメニスカスが引きちぎられてしまい、尾部の長いインク滴が吐出されてしまうからである。
【0047】
なお、このような駆動波形は、インクジェット式記録ヘッド10に粘度が10m・Pas以上のインクを吐出させる場合に使用することで、特にインク滴の尾部を短くして、吐出後のメニスカスの暴れを防止して、安定したインク吐出特性を得ることができるものである。ちなみに、高粘度のインクをインクジェット式記録ヘッド10に供給するには、本実施形態のインクジェット式記録ヘッド10にインクを供給する供給手段であるインクカートリッジ2A、2Bに高粘度のインクを保持させて、保持した高粘度インクをインクジェット式記録ヘッド10に供給させればよい。
【0048】
(実施例1)
上述したインクジェット式記録ヘッド10を実施形態1の駆動波形(駆動信号)で駆動し、粘度が30m・Pasのインクを吐出させた。
【0049】
(比較例1)
実施例1と同じインクジェット式記録ヘッド10を図5に示す駆動波形で駆動し、粘度が30m・Pasのインクを吐出させた。
【0050】
なお、図5に示す比較例1の駆動波形は、実施形態1と同じ第1膨張要素P01、第1ホールド要素P02、第1収縮要素P03を有し、第1収縮要素P03の後、上述した第2ホールド要素P04の時間Δt1よりも長い時間Δt2の第5ホールド要素P101と、第2電位V2を中間電位Vmに戻す第2制振要素P102とを具備するものである。なお、第5ホールド要素P101の時間Δt2は、圧力発生室12の固有振動周期Tcよりも長い時間で設定されている。
【0051】
そして、実施例1と比較例1との吐出されたインク滴の状態を撮影した。この結果を図6に示す。なお、図6(a)、(c)は、比較例1のインク滴の状態を撮影した画像であり、図6(b)、(d)は、実施例1のインク滴の状態を撮影した画像である。
【0052】
図6(a)に示すように、比較例1の吐出されたインク滴140には尾部141が長く形成されている。これに対して、図6(b)に示すように、実施例1の吐出されたインク滴40には、比較例1に比べて短い尾部41が形成されていた。そして、比較例1では、連続したインク滴の吐出を26KHzで実施した際に、図6(c)に示すように、吐出されたインク滴140の尾部141が次のインク滴140に干渉して、正常な印刷を実行することができなかったのに対し、実施例1では、連続したインク滴の吐出を30KHzで行っても、図6(d)に示すように、インク滴40の尾部41が次のインク滴40に干渉することなく、正常な印刷を実現できた。
【0053】
このような結果からも分かるように、本発明の駆動信号を用いることで、インク滴40の尾部41を短くすることができると共に、インク滴40を吐出後のメニスカスの安定性を高めることができ、高速吐出(高周波吐出)を行って高速印刷を行わせることができる。
【0054】
(実施形態2)
図7は、本発明の実施形態2に係る駆動信号を示す波形図である。なお、上述した実施形態1と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0055】
図7に示すように、本実施形態の駆動信号を示す駆動波形は、中間電位Vmを維持した状態から第1電位V1まで上昇させる第1膨張要素P01と、第1電位V1を一定時間維持する第1ホールド要素P02と、第1電位V1から第2電位V2まで降下させる第1収縮要素P03と、第2電位V2を一定時間維持する第2ホールド要素P04と、ノズル開口13からインク滴が吐出される前に第2電位V2から第5電位V5まで上昇させる第4膨張要素P11と、第5電位V5から第6電位V6まで上昇させる第5膨張要素P12と、第6電位V6を一定時間維持する第6ホールド要素P13と、第6電位V6から中間電位Vmまで戻す第3制振要素P14とで構成されている。
【0056】
そして、このような駆動波形が圧電素子18に供給されると、第1膨張要素P01によって、圧電素子18が圧力発生室12の容積を膨張させる方向に変形して、ノズル開口13内のメニスカスが圧力発生室12側に引き込まれると共に、圧力発生室12にはリザーバ17側からインクが供給される。そして、圧力発生室12の膨張状態は、第1ホールド要素P02で維持される。次に、第1収縮要素P03が供給されて圧電素子18が伸長する。これにより、圧力発生室12は膨張容積から第2電位V2に対応する収縮容積まで急激に収縮され、圧力発生室12内のインクが加圧されてノズル開口13からインク滴の吐出が開始される(ノズル開口13のメニスカスが柱状に盛り上がった状態)。そして、圧力発生室12の収縮状態は第2ホールド要素P04によって維持される。この第2ホールド要素P04によって、これによりメニスカスの柱状部分の成長が促される。その後、第4膨張要素P11及び第5膨張要素P12によって、圧力発生室12を収縮容積から第6電位V6に対応する膨張容積まで急激に膨張され、柱状に盛り上がったメニスカスを引きちぎることで、ノズル開口13からインク滴が吐出される。
【0057】
その後は、圧力発生室12の膨張状態は、第6ホールド要素P13で維持され、この間にインク滴の吐出によって上昇した圧力発生室12内のインク圧力は、その固有振動によって再び下降・上昇を繰り返す。そして圧力発生室12の圧力の上昇タイミングに合わせて第3制振要素P14が供給されて、圧力発生室12が基準容積まで復帰(収縮)し、圧力発生室12内の圧力変動が吸収される。
【0058】
このような本実施形態の駆動波形では、第1膨張要素P01が、特許請求の範囲に記載の膨張要素、第1収縮要素P03が特許請求の範囲に記載の収縮要素に相当する。また、駆動波形の第4膨張要素P11及び第5膨張要素P12が、特許請求の範囲に記載の再膨張要素に相当し、第4膨張要素P11が一次膨張要素、第5膨張要素P12が二次膨張要素に相当する。また、第5膨張要素P12が、特許請求の範囲に記載の二次膨張要素を構成する変化部(ホールド要素)に相当する。さらに、第3制振要素P14が、特許請求の範囲に記載の再収縮要素に相当する。
【0059】
なお、再膨張要素に相当する第4膨張要素P11及び第5膨張要素P12の駆動電圧VH3は、第1収縮要素P03の駆動電圧VH1よりも低くするのが好ましい。これは、駆動電圧VH3が高いと、第4膨張要素P11及び第5膨張要素P12によってメニスカスが暴れ、二次的なインク滴が吐出されてしまう虞があると共に、インク滴吐出後のメニスカスの振動の収束に時間がかかるからである。
【0060】
また、要素P01〜P03の時間T1と、要素P11〜P14までの時間T2についても、上述した実施形態1と同様に、時間T2が時間T1よりも長く設定するのが好ましい。さらに、第2ホールド要素P04の時間Δt1についても、上述した実施形態1と同様に、圧力発生室12の固有振動周期Tc以下に設定するのが好ましい。
【0061】
また、第5膨張要素P12は、第4膨張要素P11に対して、電圧変化率、すなわち、傾きが大きくなるように設けられている。これは、第1収縮要素P03及び第2ホールド要素P04で柱状に盛り上がったメニスカスを、第4膨張要素P11によって最初は比較的緩やかに引きちぎる方向に圧力を加え、その後、第5膨張要素P12によって急峻に引きちぎることによって、インク滴が吐出された後のメニスカスを安定させているからである。
【0062】
このような構成の駆動信号を用いることで、上述した実施形態1と同様に、インク滴の尾部を短くすると共に、インク滴吐出後のメニスカスの安定性を高めることで、次のインク滴を吐出するまでの間隔を短くしても、吐出されたインク滴の尾部が次のインク滴に干渉することなく、常に同じインク吐出特性で安定したインク滴の吐出を行わせることができる。この結果、インク滴を高速吐出(高周波吐出)することができ、高速印刷を行わせることができる。
【0063】
(実施形態3)
図8は、本発明の実施形態3に係る駆動信号を示す波形図である。なお、上述した実施形態1と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0064】
本実施形態の駆動信号を示す駆動波形は、スモールドットを吐出させる駆動波形であり、図8に示すように、中間電位Vmから第7膨張電位V7まで印加する第6膨張要素P21と、第7電位V7を維持する第7ホールド要素P22と、第7電位V7から第8電位V8まで電位を下降させる第2収縮要素P23と、第8電位V8を維持する第8ホールド要素P24と、第8電位V8から第9電位V9まで電位を下降させる第3収縮要素P25と、第9電位V9を維持する第9ホールド要素P26と、ノズル開口13からインク滴が吐出される前に第9電位V9から第10電位V10まで上昇させる第7膨張要素P27と、第10電位V10を一定時間維持する第10ホールド要素P28と、第10電位V10から第11電位V11まで上昇させる第8膨張要素P29と、第11電位V11を一定時間維持する第11ホールド要素P30と、第11電位V11から中間電位Vmまで戻す第4制振要素P31とで構成されている。
【0065】
このような駆動波形が圧電素子18に供給されると、第6膨張要素P21によって圧力発生室12が膨張してメニスカスが圧力発生室12側に引き込まれると共にリザーバ17側から圧力発生室12にインクが供給される。そして、圧力発生室12の膨張状態が第7ホールド要素P22で維持される。このとき、メニスカスの中心部分が吐出方向に反転し、柱状に盛り上がった状態となる。その後、第2収縮要素P23によって圧力発生室12を収縮させる。これによりメニスカスの柱状部分の成長が促される。そして、第8ホールド要素P24によって短時間維持された後、第3収縮要素P25によってさらに圧力発生室12が収縮する。これにより、圧力発生室12内のインクが加圧されてノズル開口13からインク滴の吐出が開始される(ノズル開口13のメニスカスが柱状に盛り上がった状態)。そして、圧力発生室12の収縮状態は第9ホールド要素P26によって維持される。この第9ホールド要素P26によって、メニスカスの柱状部分の成長が促される。そして、ノズル開口13からインク滴が吐出する前、すなわち、メニスカスが固有振動により引きちぎられる前に、第7膨張要素P27、第10ホールド要素P28及び第8膨張要素P29を供給することで、圧力発生室12を収縮容積から第11電位V11に対応する膨張容積まで急激に膨張し、柱状に盛り上がったメニスカスを引きちぎることでノズル開口13からインク滴が吐出される。その後の第11ホールド要素P30及び第4制振要素P31については、上述した実施形態1の第4ホールド要素P08及び第1制振要素P09と同様である。
【0066】
このような本実施形態の駆動波形では、第6膨張要素P21が、特許請求の範囲に記載の膨張要素、第2収縮要素P23、第8ホールド要素P24及び第3収縮要素P25が特許請求の範囲に記載の収縮要素に相当する。また、駆動波形の第7膨張要素P27、第10ホールド要素P28及び第8膨張要素P29が、特許請求の範囲に記載の再膨張要素に相当し、第7膨張要素P27が一次膨張要素、第10ホールド要素P28及び第8膨張要素P29が二次膨張要素に相当する。また、第10ホールド要素P28が、特許請求の範囲に記載の二次膨張要素を構成する変化部(ホールド要素)に相当し、第8膨張要素P29が、特許請求の範囲に記載の三次膨張要素に相当する。さらに、第4制振要素P31が、特許請求の範囲に記載の再収縮要素に相当する。
【0067】
このような駆動波形によって、圧電素子18を駆動することによって、ノズル開口13からは、実施形態1に比べて小径のインク滴(スモールドット)が吐出される。そして、この小径のインク滴を吐出する場合であっても、収縮要素に相当する第2収縮要素P23、第8ホールド要素P24及び第3収縮要素P25によってノズル開口13から柱状に盛り上がったメニスカスを、再膨張要素に相当する第7膨張要素P27、第10ホールド要素P28、第8膨張要素P29によって、第9電位V9から第11電位V11までの急峻な電圧変化を短時間で行って引きちぎることができるため、吐出されたインク滴の尾部を短くすることができる。また、再膨張要素内に第10ホールド要素P28を設けることによって、第9電位V9から第11電位V11まで一定の電圧変化率(時間に対する電圧の変化率;波形の傾き)で印加するのに比べて、二次的なインク滴の吐出を防止することができると共に、インク滴吐出後のメニスカスの振動を安定させることができる。このように、インク滴の尾部を短くすると共に、インク滴吐出後のメニスカスの安定性を高めることで、次のインク滴を吐出するまでの間隔を短くしても、吐出されたインク滴の尾部が次のインク滴に干渉することなく、常に同じインク吐出特性で安定したインク滴の吐出を行わせることができる。この結果、インク滴の高速吐出(高周波吐出)を行って高速印刷を行わせることができる。
【0068】
なお、上述した実施形態1と同様に、再膨張要素に相当する第7膨張要素P27及び第8膨張要素P29の駆動電圧VH5は、収縮要素に相当する第2収縮要素P23及び第3収縮要素P25の駆動電圧VH4よりも低くするのが好ましい。また、上述した実施形態1と同様に、要素P27〜P31までの時間T4は、要素P21〜P25までの時間T3に比べて長くするのが好ましい。さらに、上述した実施形態1と同様に、収縮要素と再膨張要素との間の間隔Δt3(第9ホールド要素P26の時間Δt3)は、圧力発生室12の固有振動周期Tc以下であることが好ましい。
【0069】
このように駆動信号の波形成分を規定することで、インク滴の尾部を短くして安定したインク滴の吐出を行わせることができる。
【0070】
また、本実施形態では、駆動信号の再膨張要素として、上述した実施形態1と同様に、第7膨張要素P27、第10ホールド要素P28及び第8膨張要素P29を設けるようにしたが、特にこれに限定されず、要素P27〜29に変えて、上述した実施形態2の再膨張要素、すなわち、第4膨張要素P11及び第5膨張要素P12を設けるようにしてもよい。
【0071】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した駆動信号にインクが吐出しない程度に圧電素子18を微振動させる微振動パルスを設けるようにしてもよい。なお、微振動パルスとしては、台形状の波形形状を有する台形パルスを用いることができる。また、例えば、微振動パルスを、実施形態1〜3の制振要素P09、P14、P31に連続して設けるようにしてもよい。すなわち、制振要素を中間電位Vmよりも低い電位まで印加して、その後、この電位を維持するホールド要素と、この電位を中間電位まで戻す膨張要素を設けるようにすればよい。
【0072】
また、上述した実施形態1〜3では、圧力発生手段として、縦振動型の圧電素子18を用いるようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、下電極と圧電体層と上電極とを積層形成した撓み変形型の圧電素子を用いるようにしてもよい。ちなみに、縦振動型の圧電素子18を用いると、充電により圧電素子18が縦方向に縮んで圧力発生室12を膨張させ、放電により圧電素子18が縦方向に伸長して圧力発生室12を収縮させる。これに対して、圧力発生手段として撓み変形型の圧電素子を用いた場合には、充電により圧電素子が圧力発生室12側に変形して圧力発生室12を収縮し、放電により圧電素子が圧力発生室12とは反対側に変形して圧力発生室12を膨張させる。このような圧電素子を駆動する駆動信号は、上述した駆動信号の電位極性が反転した形状となる。
【0073】
また、圧力発生手段として、振動板と電極との間に静電気を発生させて、静電気力によって振動板を変形させてノズル開口13から液滴を吐出させるいわゆる静電式アクチュエータなどを使用してもよい。
【0074】
また、上述したインクジェット式記録装置Iでは、インクジェット式記録ヘッド10(ヘッドユニット1A、1B)がキャリッジ3に搭載されて主走査方向に移動するものを例示したが、特にこれに限定されず、例えば、インクジェット式記録ヘッド10が固定されて、紙等の記録シートSを副走査方向に移動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
【0075】
さらに、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種のインクジェット式記録ヘッド等の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも適用することができる。勿論、このような液体噴射ヘッドを搭載した液体噴射装置も特に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の実施形態1に係る記録装置の概略斜視図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
【図3】本発明の実施形態1に係る記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施形態1に係る駆動信号を示す波形図である。
【図5】本発明の比較例1に係る駆動信号を示す波形図である。
【図6】インク滴の吐出状態を撮影した画像である。
【図7】本発明の実施形態2に係る駆動信号を示す波形図である。
【図8】本発明の実施形態3に係る駆動信号を示す波形図である。
【符号の説明】
【0077】
I インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 10 インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 12 圧力発生室、 13 ノズル開口、 17 リザーバ、 18 圧電素子(圧力発生手段)、 40、140 インク滴、 41、141 尾部、 111 プリンタコントローラ、 112 プリントエンジン、 116 制御部、 119 駆動信号発生回路、 131 シフトレジスタ、 132 ラッチ、 133 レベルシフタ、 134 スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するノズル開口に連通する圧力発生室と、該圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧力発生手段とを具備する液体噴射ヘッドと、
前記圧力発生手段に、前記圧力発生室を膨張させる膨張要素と、前記圧力発生室を収縮させる収縮要素と、該収縮要素によって前記ノズル開口から液体が吐出される前に前記圧力発生室を膨張させて液体を吐出させる再膨張要素とを具備する駆動信号を供給する駆動手段とを具備し、
前記再膨張要素が、前記収縮要素側に設けられて前記圧力発生室を膨張させる一次膨張要素と、前記一次膨張要素に連続して当該一次膨張要素の電圧変化率と異なる電圧変化率を有する変化部を少なくとも有すると共に前記圧力発生室を膨張させる二次膨張要素とを具備することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記変化部が、前記一次膨張要素に連続すると共に当該一次膨張要素の終了時の電位を維持するホールド要素からなると共に、前記二次膨張要素が、前記ホールド要素に連続して前記圧力発生室を膨張させる三次膨張要素をさらに具備することを特徴とする請求項1記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記二次膨張要素が、前記一次膨張要素に連続して、前記一次膨張要素の電圧変化率と異なる前記変化部だけで構成されていることを特徴とする請求項1記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記膨張要素が、前記圧力発生室を基準体積よりも大きな体積となるように膨張させると共に前記収縮要素が、前記圧力発生室を前記基準体積よりも小さな体積となるように収縮させ、
前記再膨張要素が、前記圧力発生室を前記基準体積よりも大きく、且つ前記膨張要素による前記圧力発生室の体積よりも小さな体積となるように膨張させるものであることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記収縮要素が終了したタイミングと、前記再膨張要素を開始するタイミングとの間隔が、前記圧力発生室の固有振動周期以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
前記駆動信号が、前記再膨張要素の後に前記圧力発生室の体積を戻す再収縮要素をさらに具備し、前記再膨張要素から前記再収縮要素が終了する時間が、前記膨張要素が開始されてから前記収縮要素が終了する時間よりも長いことを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項7】
前記液体噴射ヘッドに、10m・Pas以上の粘度の液体を供給する供給手段をさらに具備することを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項8】
液体を吐出するノズル開口に連通する圧力発生室と、該圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧力発生手段とを具備する液体噴射ヘッドの駆動方法であって、
前記圧力発生室を膨張させる膨張要素と、前記圧力発生室を収縮させる収縮要素と、該収縮要素によって前記ノズル開口から液体が吐出される前に前記圧力発生室を膨張させて液体を吐出させる再膨張要素とを具備し、且つ前記再膨張要素に、前記収縮要素側に設けられて前記圧力発生室を膨張させる一次膨張要素と、前記一次膨張要素に連続して当該一次膨張要素の電圧変化率と異なる電圧変化率を有する変化部を少なくとも有すると共に前記圧力発生室を膨張させる二次膨張要素とを設けた駆動信号によって前記圧力発生手段を駆動することを特徴とする液体噴射ヘッドの駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−234110(P2009−234110A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84659(P2008−84659)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】