説明

液体噴射装置

【課題】噴射ヘッド内の沈降性の液体を排出するとともに、キャップ内に排出された沈降
性の液体が増粘、固化することを防止可能とする。
【解決手段】噴射ヘッドから噴射するための第1の液体と、第1の液体が噴射ヘッド内で
増粘、固化することを回避するための第2の液体とを供給可能な液体噴射装置において、
噴射ヘッド内の第2の液体を第1の液体に入れ替える場合には、液体受け部と噴射ノズル
とを離間させた状態で、液体受け部の凹部に向けて液体を噴射することによって噴射ヘッ
ド内の液体を入れ替える。逆に、第1の液体から第2の液体に入れ替える場合には、液体
受け部を噴射ノズルに当接させて吸引ポンプを作動させることによって噴射ヘッド内の液
体を入れ替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴射ノズルから液体を噴射する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
微細な噴射ノズルが設けられた噴射ヘッドから、インクなどの液体を噴射する液体噴射
装置が知られている。この液体噴射装置では、噴射しようとする液体(たとえばインク)
を専用の容器(たとえばインクカートリッジ)に収容しておき、容器内の液体を、通路を
介して噴射ヘッドに供給することによって噴射している。また、液体を噴射しない間は噴
射ノズルをキャップで覆うことにより、噴射ノズルから水分が蒸発することを防いで液体
の増粘を抑制することが行われる。
【0003】
また、噴射しようとする液体の成分には、沈降性の成分が使用されることがある。たと
えばインクの場合であれば、いわゆる耐候性を高めたり、あるいは発色性を改善したりす
るなどの目的で顔料が用いられることがある。顔料は、インクの溶媒(水やアルコールな
ど)には溶けずに懸濁した状態となっているので、インクを長期間放置していると溶媒中
で顔料が沈降する。その結果、噴射ノズルをキャップで覆っていても、顔料濃度が濃くな
った部分の粘度が上昇することで噴射ノズルが目詰まりしてしまい、画像を適切に印刷す
ることができなくなってしまうことがある。
【0004】
そこで、沈降性の成分を含むインク(以下、「沈降性のインク」という)を搭載したイ
ンクジェットプリンターでは、沈降性の成分を含まない保存用の液体を用意しておき、印
刷を行わない状態では噴射ヘッド内の沈降性のインクをキャップ内に排出して保存用の液
体に入れ替えるとともに、印刷を行う際には噴射ヘッド内の保存用の液体をキャップ内に
排出して沈降性のインクに入れ替える技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−268997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した従来技術では、噴射ヘッドの目詰まりを回避できる反面、噴射ヘッド
から排出された沈降性のインクがキャップ内で増粘あるいは固化することで、キャップ内
に堆積してしまう問題があった。例えば、キャップ内に排出されたインクはキャップに接
続された吸引ポンプによって吸引された後、キャップの外部に排出されようになっている
が、増粘、固化した沈降性のインクがキャップ内の空間を塞いでしまうと、キャップ内の
インクをうまく排出することができなくなってしまうという問題があった。
【0007】
この発明は、従来の技術における上述した課題に対応してなされたものであり、噴射ヘ
ッド内の沈降性のインクを排出するとともに、キャップ内に排出された沈降性のインクが
増粘、固化することを防止可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明の液体噴射装置は次の構成を
採用した。すなわち、
噴射ヘッドに設けられた噴射ノズルから液体を噴射する液体噴射装置であって、
前記噴射ノズルからの液体を受ける凹部が形成された液体受け部と、
前記液体受け部の凹部に接続されて、該凹部内の液体を吸引する吸引ポンプと、
前記噴射ノズルから噴射するための第1の液体が収容された第1液体収容部と、
前記噴射ヘッド内で前記第1の液体が増粘あるいは固化することを回避するために、該
第1の液体に替えて、該噴射ヘッドに供給される第2の液体が収容された第2液体収容部
と、
前記第1液体収容部または前記第2液体収容部の何れか一方を選択して前記噴射ヘッド
に接続する選択接続手段と、
前記選択接続手段によって選択された液体を前記噴射ヘッドに供給することにより、該
噴射ヘッド内の液体を入れ替える液体入替手段と
を備え、
前記液体入替手段は、
前記選択された液体が前記第1の液体から前記第2の液体に変更された場合には、前
記液体受け部を前記噴射ヘッドに当接させて前記噴射ノズルの周囲に前記凹部による閉空
間を形成した状態で、前記吸引ポンプを作動させることによって、該噴射ヘッド内の該第
1の液体を該第2の液体に入れ替え、
前記選択された液体が前記第2の液体から前記第1の液体に変更された場合には、前
記液体受け部と前記噴射ヘッドとを離間させた状態で、前記噴射ノズルから前記凹部に向
けて液体を噴射することによって、該噴射ヘッド内の該第2の液体を該第1の液体に入れ
替える手段であることを要旨とする。
【0009】
また、上記の液体噴射装置に対応する本発明の液体噴射装置の液体入替方法は、
液体を噴射する噴射ノズルが設けられた噴射ヘッドと、
前記噴射ノズルから噴射するための第1の液体が収容された第1液体収容部と、
前記噴射ヘッド内で前記第1の液体が増粘あるいは固化することを回避するために、該
第1の液体に替えて、該噴射ヘッドに供給される第2の液体が収容された第2液体収容部
と、
前記噴射ノズルからの液体を受ける凹部が形成された液体受け部と、
前記液体受け部の凹部に接続されて、該凹部内の液体を吸引する吸引ポンプと
を備えた液体噴射装置に適用されて、該噴射ヘッド内の液体を入れ替える液体入替方法
であって、
前記第1液体収容部または前記第2液体収容部の何れか一方を選択して前記噴射ヘッド
に接続する第1の工程と、
前記第1の工程によって選択された液体を前記噴射ヘッドに供給することにより、該噴
射ヘッド内の液体を入れ替える第2の工程と
を備え、
前記第2の工程は、
前記第1の工程で選択された液体が前記第1の液体から前記第2の液体に変更された
場合には、前記液体受け部を前記噴射ヘッドに当接させて前記噴射ノズルの周囲に前記凹
部による閉空間を形成した状態で、前記吸引ポンプを作動させることによって、該噴射ヘ
ッド内の該第1の液体を該第2の液体に入れ替え、
前記第1の工程で選択された液体が前記第2の液体から前記第1の液体に変更された
場合には、前記液体受け部と前記噴射ヘッドとを離間させた状態で、前記噴射ノズルから
前記凹部に向けて液体を噴射することによって、該噴射ヘッド内の該第2の液体を該第1
の液体に入れ替える工程であることを要旨とする。
【0010】
こうした本発明の液体噴射装置および液体入替方法においては、第1の液体収容部を噴
射ヘッドに接続することで、噴射ノズルから第1の液体を噴射することができる。また、
長時間液体を噴射しない場合などには、第2の液体収容部を噴射ヘッドに接続し、第1の
液体に替えて第2の液体を供給して噴射ヘッド内の液体を入れ替えておくことで、第1の
液体が噴射ヘッド内で増粘あるいは固化することを回避することができる。尚、ここでい
う液体の増粘あるいは固化とは、液体内の成分が蒸発あるいは揮発することによって液体
の粘度が増加することに限られず、液体内の成分が重力の影響で沈降あるいは浮力の影響
で浮上して、成分濃度が偏ることにより増粘あるいは固化する場合も含まれる。また、第
2の液体が噴射ヘッドに供給されている状態から第1の液体を噴射する際には、再び第1
液体収容部を噴射ヘッドに接続することにより、噴射ヘッド内の液体を第2の液体から第
1の液体に入れ替えればよい。そして、本発明の液体噴射装置および液体入替方法では、
噴射ヘッド内の第2の液体を第1の液体に入れ替える場合には、液体受け部と噴射ノズル
とを離間させた状態で、液体受け部の凹部に向けて液体を噴射することによって噴射ヘッ
ド内の液体を入れ替える。逆に、第1の液体から第2の液体に入れ替える場合には、液体
受け部を噴射ノズルに当接させて吸引ポンプを作動させることによって噴射ヘッド内の液
体を入れ替えるようになっている。
【0011】
噴射ヘッド内の第1の液体を第2の液体に入れ替える際には、噴射ノズルから第1の液
体が吸い出され、続いて第2の液体が吸い出されて、液体受け部の凹部に流入する。液体
受け部の凹部に存在する第1の液体は、噴射ヘッドから流入したばかりなので増粘や固化
などが進んでおらず、そこに第2の液体が流入して吸引ポンプで吸引されるので、第1の
液体は第2の液体によって洗い流されるような状態となって、凹部内からほとんど完全に
吸引される。また、こうして液体受け部の凹部内の第1の液体をほとんど完全に吸引して
おけば、たとえ、液体を噴射することなく、そのままの状態で長時間放置されたとしても
、液体受け部の凹部内で第1の液体が増粘あるいは固化して、凹部内で堆積する虞は生じ
ない。
【0012】
そして逆に、噴射ヘッド内の第2の液体を第1の液体に入れ替える際には、噴射ヘッド
内の液体を、噴射ノズルから液体受け部の凹部に向かって噴射することによって入れ替え
る。上述したように液体受け部の凹部内には第1の液体が存在していないので、凹部内で
第1の液体が増粘あるいは固化する虞はなく、従って吸引ポンプで凹部内を吸引する必要
はない。もちろん、噴射ヘッド内の第2の液体が第1の液体に入れ替わった後は、噴射ノ
ズルから、多少の第1の液体が、液体受け部の凹部内に噴射されることになる。しかし、
このとき噴射された第1の液体が凹部内で増粘あるいは固化する前に、液体の噴射が終了
して、噴射ヘッド内の第1の液体が第2の液体に入れ替えられ、その際に、第2の液体と
ともに吸引ポンプによって吸引されるので、凹部内で第1の液体が増粘あるいは固化する
虞は生じない。
【0013】
また、吸引ポンプで吸引するよりも、噴射ノズルから噴射するほうが、精度良く液体を
排出することができる。このため、噴射ヘッド内の第2の液体を第1の液体に入れ替える
際には、噴射ノズルから液体を噴射して入れ替えることとすることで、噴射ヘッド内の液
体が第1の液体に入れ替わった後に、噴射ノズルから無駄に噴射される第1の液体を少な
くすることができる。その結果、第1の液体の消費量を抑制することも可能となる。
【0014】
また、こうした本発明の液体噴射装置においては、液体受け部が当接されて液体受け部
の凹部との間で閉空間を形成する噴射ヘッドの位置に、第2液体収容部と接続された液体
通路の開口部を設けることとしてもよい。
【0015】
こうした噴射ヘッドを備えた液体噴射装置では、噴射ヘッド内の第1の液体を第2の液
体に入れ替える際に、液体受け部の凹部には、噴射ノズルから第1の液体が吸い出される
と同時に、開口部から第2の液体が吸い出される。このように、第1の液体だけを液体受
け部の凹部に流入させるのではなく、液体受け部の凹部内に第1の液体と第2の液体とを
同時に流入させれば、第2の液体によって第1の液体をより確実に洗い流すことができる

【0016】
また、上述した液体噴射装置では、液体受け部の凹部内に第1の液体が流入している段
階から第2の液体も流入させているので、噴射ヘッド内の液体が第2の液体に入れ替わっ
た時点で凹部内に残存する第1の液体をたいへんに少なくすることができる。このため、
噴射ヘッド内の液体が入れ替わった後に凹部内の第1の液体を洗い流すために必要な第2
の液体を大幅に抑制することができる。その結果、未だ第1の液体が凹部内に流入してい
る段階から第2の液体も凹部内に流入させているにも拘わらず、全体としてみれば、凹部
内の第1の液体を洗い流すために要する第2の液体の総量も少なくすることが可能となる
。更に、第1の液体は吸引ポンプによって吸い出されるので、第1の液体とともに第2の
液体を吸い出すこととしても、噴射ヘッド内の第1の液体を吸い出すために要する時間が
それほど長くなることはない。その一方で、第1の液体を吸い出した後に、凹部内の第1
の液体を洗い出すために第2の液体のみを流入させる時間は大幅に短縮されるので、結局
、凹部内の第1の液体を洗い流す時間も含めて、噴射ヘッド内の液体を第1の液体から第
2の液体に入れ替えるために要する時間を短縮することが可能となる。
【0017】
また、こうした本発明の液体噴射装置においては、上述したように、噴射ヘッドに第2
液体収容部と接続された液体通路の開口部を設ける代わりに、第2の液体を噴射する噴射
ノズルを設けることとしてもよい。
【0018】
こうした噴射ヘッドを備えた液体噴射装置では、第1の液体を第2の液体に入れ替える
とき以外で液体受け部内の凹部に第1の液体を受ける際(例えば、第1の液体を噴射中に
、噴射ノズルから液体内の水分が蒸発するなどして性状が劣化した液体を、液体受け部の
凹部に向けて噴射する際)、液体受け部の凹部に向けて第2の液体を噴射することができ
る。こうすれば、液体受け部の凹部内を第2の液体で湿らせることで、凹部内に噴射され
た第1の液体が、増粘あるいは固化することを防ぐことができる。従って、上述したよう
に、噴射ヘッド内の第1の液体を第2の液体に入れ替えると同時に液体受け部の凹部内の
第1の液体を洗い流す際、噴射ノズルから吸い出した第1の液体とともに、先に液体受け
部の凹部で受けた第1の液体も確実に洗い流すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施例の液体噴射装置としてのインクジェットプリンターを例示した説明図である。
【図2】噴射ヘッドを往復動させるための駆動部やロール紙を紙送りするための紙送り部の大まかな構成を示した説明図である。
【図3】本実施例のインクジェットプリンターが実行するするヘッド内液切替処理を示したフローチャートである。
【図4】噴射ヘッド内のインクを保存液に切り替える際のキャップ内の様子について示した説明図である。
【図5】噴射ヘッド内のインクを保存液に切り替えるタイミングでキャップの内部を洗浄する理由を示した説明図である。
【図6】変形例のインクジェットプリンターにおいて、キャップの内部が洗浄される様子を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施
例を説明する。
A.装置構成:
B.本実施例のヘッド内液切替処理:
C.変形例:
【0021】
A.装置構成 :
図1は、本実施例の液体噴射装置としてのインクジェットプリンター100を例示した
説明図である。図示したインクジェットプリンター100は、JIS規格のA1判やB1
判などのいわゆる大判サイズの印刷用紙に印刷するラージフォーマットプリンター(LF
P)であるが、A4判やハガキ判などの小さな印刷用紙に印刷する家庭用のプリンターで
あっても構わない。
【0022】
図示されるように、インクジェットプリンター100は、大まかに言うと、本体ケース
110と、本体ケース110の上面側に設けられて印刷用紙が装填される給紙部120と
によって構成されており、本体ケース110の内部には、印刷用紙に向かってインクを噴
射するためのインク噴射部130や、インクの乾燥を防ぐなどインクの状態を管理するた
めのインクメンテナンス部140や、インクジェットプリンター100の全体の動作を制
御する制御部150などが搭載されている。
【0023】
給紙部120は、スピンドル部122や、カバー部124などから構成されている。ス
ピンドル部122は、両端を回転可能に軸支された軸状部材であり、ロール状の印刷用紙
(以下、ロール紙という)が装着される。また、スピンドル部122の両端には、軸方向
に沿って摺動可能なロール紙押さえが設けられており、スピンドル部122に装着された
ロール紙が軸方向に動かないように固定することが可能となっている。更に、スピンドル
部122に装着したロール紙が汚損することを回避するために、跳ね上げ式のカバー部1
24が設けられている。ロール紙をスピンドル部122に装着する際には、カバー部12
4を跳ね上げてスピンドル部122を露出させ、給紙部120から取り出したスピンドル
部122にロール紙を装着する。そして、ロール紙が装着されたスピンドル部122を給
紙部120にセットした後、カバー部124の先端を押し下げるようにしてカバー部12
4を閉じてやる。
【0024】
インク噴射部130には、インクを噴射する噴射ヘッド131や、噴射ヘッド131で
噴射するインクが収容されているインクカートリッジ132や、インクカートリッジ13
2内のインクを噴射ヘッド131に供給するためのインクチューブ133が設けられてい
る。また本実施例のインクジェットプリンター100には、噴射ヘッド131の目詰まり
防止用の液体(以下、保存液と呼ぶ)が収容されている保存液カートリッジ134や、保
存液カートリッジ134内の保存液を噴射ヘッド131に供給するための保存液チューブ
135などもインク噴射部130に設けられている。噴射ヘッド131は、印刷用紙と向
き合う側の面に、複数の微細な噴射ノズルが設けられており、噴射ノズルからインクを噴
射することによって、印刷用紙上に文字や画像などを印刷することが可能となっている。
【0025】
また、噴射ノズルからインクを噴射しないときには、噴射ヘッド131に設けられた図
示しないセレクターによって噴射ヘッド131内の流路を切り替えることで、噴射ヘッド
131に保存液を供給する。こうして噴射ヘッド131内のインクを保存液に切り替える
ことで、長期間、印刷が行われない場合に噴射ノズルが目詰まりすることを防いでいる。
尚、噴射ヘッド131の印刷用紙と向き合う側で、複数の噴射ノズルが形成されている部
分の表面は、「ノズル面」と呼ばれている。また、インクジェットプリンター100では
、シアンインクや、マゼンタインク、イエローインク、ブラックインク、ホワイトインク
などの複数種類のインクが用いられており、インクカートリッジ132や噴射ヘッド13
1、インクチューブ133は、インクの種類毎に設けられているが、図1では、図示が煩
雑となることを避けるために、1つのインク種類についてのみ表示されている。
【0026】
インクメンテナンス部140は、中央に凹部が形成されたキャップ142や、性状が劣
化したために噴射ヘッド131から排出されたインクを貯めておくための廃インクタンク
144などから構成されている。キャップ142は、図示しない駆動機構によって噴射ヘ
ッド131のノズル面に当接させたり、ノズル面から離間させたりすることが可能となっ
ており、画像の印刷を行わない間はノズル面に当接されている。こうすることで、噴射ノ
ズルがキャップ142によって封止され、噴射ノズルからインクが乾燥することを抑制す
ることができる。それでもインクの乾燥が進むなどしてインクの性状が劣化した場合には
、キャップ142の凹部に向かって噴射ヘッド131からインクを噴射したり、あるいは
噴射ヘッド131のノズル面にキャップ142を当接したまま、図示しない吸引ポンプを
作動させて、キャップ142の凹部に負圧を作用させることにより、劣化したインクを噴
射ノズルから吸引したりする。こうして噴射ヘッド131から排出されたインクは、チュ
ーブを介して廃インクタンク144に流入して蓄えられる。
【0027】
本体ケース110の上面には、ユーザーがインクジェットプリンター100を操作する
ための操作パネル112が設けられている。操作パネル112には、液層装置などによっ
て構成される表示画面や、各種の操作ボタンなどが搭載されており、ユーザーは、表示画
面を確認しながら操作ボタンを操作することで、インクジェットプリンター100を操作
することが可能である。
【0028】
また、図1では図示が省略されているが、本体ケース110の内部には、印刷用紙の表
面に沿って噴射ヘッド131を往復動させるための駆動部や、給紙部120のロール紙を
巻き出して紙送りするための紙送り部なども設けられている。
【0029】
図2は、噴射ヘッド131を往復動させるための駆動部160や、ロール紙を紙送りす
るための紙送り部170の大まかな構成を示した説明図である。図示されるように駆動部
160は、噴射ヘッド131が往復動する動きをガイドするガイドレール162や、ガイ
ドレール162に沿って噴射ヘッド131を往復動するための駆動ベルト164や、駆動
ベルト164を張設する一対のプーリー166や、駆動ベルト164を駆動するための駆
動モーター168などから構成されている。駆動ベルト164の一箇所には噴射ヘッド1
31が固定されており、駆動モーター168を正方向あるいは負方向に回転させて駆動ベ
ルト164を駆動すると、ガイドレール162にガイドされながら噴射ヘッド131が往
復動するようになっている。
【0030】
また、紙送り部170は、ガイドレール162と平行に設けられて、ロール紙を幅方向
に横断する長さを有する長尺の紙送りローラー172や、紙送りローラー172を回転さ
せる紙送りモーター174や、ローラー172に沿って設けられた図示しない従動ローラ
ーなどから構成されている。給紙部120に装填されたロール紙は、紙送りローラー17
2の位置まで巻き出されて、紙送りローラー172と従動ローラーとの間に一端が挿入さ
れる。するとロール紙は、従動ローラーによって適度な力で紙送りローラー172に押し
付けられた状態となり、この状態で紙送りモーター174を回転させると、紙送りローラ
ー172の回転に従って、ロール紙が少しずつ引き出されながら噴射ヘッド131の方向
に紙送りされていく。
【0031】
以上に説明した駆動モーター168や紙送りモーター174の動作は、制御部150に
よって制御されている。また、噴射ヘッド131がインクを噴射する動作や、前述した噴
射ヘッド131のノズル面に当接させるためにキャップ142を移動させる動作、あるい
はノズル面にキャップ142を当接した状態で吸引ポンプを作動させて噴射ノズルからイ
ンクを吸い出す動作も、制御部150の制御の下で行われている。更に、前述したように
、噴射ヘッド131内のインクを保存液に切り替えたり、反対に噴射ヘッド131内の保
存液をインクに切り替えるために、セレクター136によって噴射ヘッド131内の流路
を切り替える動作も、制御部150の制御の下で行われている。尚、制御部150は、印
刷を実行するに先立って、インクジェットプリンター100に接続された外部機器(例え
ばパソコン)などから、印刷を行うために必要なデータ(以下、印刷データと呼ぶ)を受
信するようになっている。従って、印刷の開始時期を把握したり、今回実行する印刷に関
する情報(例えば今回の印刷に使用するインクの種類など)を把握することができるよう
になっている。
【0032】
以上のように、本実施例の制御部150は、インクジェットプリンター100のあらゆ
る動作の制御に関わっている。そして、制御部150の制御の下で印刷動作が開始される
と、噴射ヘッド131は、ガイドレール162に沿って往復動しながら、印刷用紙(ロー
ル紙)に向かってインクを噴射することによって画像を印刷する。噴射ヘッド131とイ
ンクカートリッジ132とは、十分な長さのインクチューブ133によって接続されてお
り、図示しないインク加圧機構によって、絶えずインクカートリッジ132から噴射ヘッ
ド131にインクが供給されるようになっている。また、印刷を終了すると、噴射ヘッド
131をキャップ142の位置まで移動させ、図示しない駆動機構によってキャップ14
2を押し上げて噴射ヘッド131のノズル面に当接させる。こうすると、噴射ノズルをキ
ャップ142で封止することができるので、印刷を行わない間に噴射ノズルの開口部分か
らインクの水分や揮発成分などが蒸発あるいは揮発して、インクの性状が劣化することを
抑制することができる。
【0033】
また、インクは、水やアルコールなどの溶媒に、色を出すための色材や、粘度を調整す
るための添加剤や、界面活性剤などの各種成分を加えることによって製造されるが、溶媒
に溶けない成分が加えられることがある。たとえば、耐候性に優れた色材である顔料は、
染料とは違って水やアルコールなどには溶けないので、界面活性剤の作用によって溶媒中
に懸濁した状態で存在している。こうした顔料を含むインクを長い間放置しておくと、懸
濁していた顔料が重力の影響で次第に沈降し、顔料濃度の濃い部分と、顔料濃度の薄い部
分とができてしまう。その結果、顔料濃度が濃くなった部分ではインクの粘度が上昇し、
インクが噴射ノズルを塞いで目詰まりさせてしまうことがある。尚、本明細書では、顔料
のように、インクの溶媒に溶けずに懸濁した状態で存在する成分を、「沈降性の成分」と
呼ぶことにする。また、沈降性の成分を含むインクを、「沈降性のインク」と呼び、更に
、インク中の沈降性の成分が沈降することを、「インクの沈降」と呼ぶことがあるものと
する。
【0034】
そこで、沈降性のインク(例えばホワイトインク)を使用して印刷を行った後、長期間
にわたって印刷が行われる予定がない場合(例えば、インクジェットプリンター100の
電源がOFFにされた場合)には、噴射ヘッド131をキャップ142の位置まで移動さ
せ、その後、セレクター136を切り替えて、噴射ヘッド131を保存液チューブ135
に接続する。この状態で、噴射ヘッド131内のインクをキャップ142に排出すると、
保存液カートリッジ134から噴射ヘッド131に保存液が供給される。こうして噴射ヘ
ッド131内のインクを保存液に切り替えておけば、たとえ長い間、印刷されずに放置さ
れたとしても噴射ノズルが目詰まりする虞がない。一方で、再び印刷を開始する際には、
セレクター136を切り替えて噴射ヘッド131とインクチューブ133とを接続させた
後、噴射ヘッド131内の保存液をキャップ142に排出する。すると、インクカートリ
ッジ132から印刷用のインク(例えばホワイトインク(Wインク)など)が噴射ヘッド
131に供給されて、いつでも印刷を開始することが可能となる。
【0035】
ここで、沈降性のインクが長時間にわたって放置されることで悪影響が生ずる箇所は、
噴射ヘッド131だけではない。例えば、上述したように、キャップ142は、噴射ヘッ
ド131内のインクを保存液に切り替える際、噴射ヘッド131から排出されたインクを
受け止めている。こうしてキャップ142で受け止めたインクは、キャップ142に接続
する吸引ポンプ146を作動させることで、ある程度はキャップ142の外に排出するこ
とができる。しかし、たとえ吸引ポンプ146を作動させても、全てのインクを完全に排
出することはできないので、どうしてもキャップ142内にWインクが残ってしまう。こ
うしてキャップ142内に残存したWインクは時間の経過とともに増粘、固化するので、
キャップ142内に残存したWインクが増粘、固化する工程が繰り返されると、Wインク
が堆積していく。その結果、キャップ142の内部の空間が塞がれてしまい、インクを上
手く排出することができなくなってしまう。
【0036】
そこで、本実施例では、噴射ヘッド131内の液体の種類を切り替える際に、次のよう
な方法で切り替えることで、こうした問題が生じることを回避している。
【0037】
B.本実施例のヘッド内液切替処理 :
図3は、本実施例のヘッド内液切替処理を示したフローチャートである。尚、本実施例
のヘッド内液切替処理は、インクジェットプリンター100に電源が投入されることで開
始される処理であり、インクジェットプリンター100全体の動作を制御する制御部15
0(図2を参照)によって実行される。
【0038】
ヘッド内液切替処理を開始すると、まず始めに、これから印刷を開始するか否かを判断
する(ステップS100)。前述したように、制御部150は、印刷を開始するに先立っ
て、インクジェットプリンター100に接続された外部機器などから、印刷に必要な情報
を含む印刷データを受信している(図2を参照)。そこで、ステップS100では、この
印刷データを受け取ったか否かによって、これから印刷を開始するか否かを判断する(ス
テップS100)。そして、未だ印刷データを受信していない(ステップS100:no
)と判断される間は、ステップS100で待機状態となり、やがて印刷データを受信する
ことでこれから印刷を開始すると判断したら(ステップS100:yes)、次に今回の
印刷でWインクを使用するか否かを判断する(ステップS102)。
【0039】
Wインクは、特にインクの発色を重視する様な特殊な印刷を行う場合に使用されるイン
クであり、前述したように、制御部150が受信する印刷データの中には、今回の印刷で
Wインクを使用するか否かに関する情報が含まれている。従って、上述したステップS1
00で印刷データを受信することで印刷を開始すると判断したら(ステップS100:y
es)、受信した印刷データの内容をもとに、今回の印刷でWインクを使用するか否かを
判断する(ステップS102)。このとき今回の印刷ではWインクを使用しないと判断さ
れた場合には(ステップS102:no)、保存液をWインクに切り替える必要はない。
そこで、上述したステップS100に戻って、印刷を開始するか否かの判断を繰り返す。
そして、印刷データを受信したことでこれから印刷を開始すると判断したら(ステップS
100:yes)、再び印刷データの内容から今回の印刷でWインクを使用するか否かを
判断する(ステップS102)。
【0040】
このように、ヘッド内液切替処理を開始すると、Wインクを使用して印刷を行う(ステ
ップS102:yes)と判断されるまで、ステップS100およびステップS102の
判断が繰り返される。ここで、前述したように、本実施例では電源をOFFにする際、噴
射ヘッド131内のインクが保存液に切り替えられており、このことに伴ってセレクター
136の接続状態は、噴射ヘッド131と保存液チューブ135とを接続した状態となっ
ている。そこで、ヘッド内液切替処理は、上述したステップS102でWインクを使用し
て印刷を行うと判断すると(ステップS102:yes)、噴射ヘッド131がインクチ
ューブ133に接続された状態にセレクター136の接続状態を切り替えた後(ステップ
S104)、噴射ヘッド131を駆動して噴射ヘッド131内の保存液をキャップ142
に向かって噴射する(ステップS106)。
【0041】
以上のように、噴射ヘッド131をインクチューブ133に接続した状態で、噴射ヘッ
ド131内の保存液をキャップ142に向かって噴射すると(ステップS104、ステッ
プS106)、やがて、噴射ヘッド131内の液体(ここでは保存液)が全てWインクに
切り替わる。こうして噴射ヘッド131内の保存液をWインクに切り替えたら、いつでも
Wインクを使用して印刷を行うことが可能な状態となる。
【0042】
また、印刷が終了したら、ヘッド内液切替処理は、インクジェットプリンター100の
電源スイッチがOFFに切り替えられたか否かを判断する(ステップS108)。ここで
、本実施例の制御部150は、インクジェットプリンター100に設けられた図示しない
電源スイッチと接続しており、電源スイッチがON/OFFの何れの状態にあるかを把握
することが可能となっている。
【0043】
このとき、たとえ印刷を終了しても、再び印刷を行う予定がある場合は、印刷が終了し
たからといってすぐに電源スイッチがOFFに切り替えられることはない。従って、電源
スイッチがOFFにされるまでの間は、ステップS108の判断が繰り返されている。そ
して、使用者によって電源スイッチがOFFに切り替えられると、ヘッド内液切替処理の
ステップS108では電源スイッチがOFFに切り替えられたと判断される(ステップS
108:yes)。
【0044】
こうして電源スイッチがOFFに切り替えられると(ステップS108:yes)、所
定の時間が経過した後、インクジェットプリンター100への電力の供給が停止して、イ
ンクジェットプリンター100は休止状態となる。ここで、前述したように、インクジェ
ットプリンター100が休止状態となって、噴射ヘッド131内に沈降性のWインクが長
時間にわたり放置されると、噴射ヘッド131が目詰まりしてしまう。そこで、ヘッド内
液切替処理は、ステップS108で電源スイッチがOFFの状態に切り替わったと判断し
たら(ステップS108)、インクジェットプリンター100が休止状態となる前に、セ
レクター136を切り替えて噴射ヘッド131が保存液チューブに接続された状態とし(
ステップS110)、続いてキャップ142を噴射ノズルに当接させた状態で吸引ポンプ
146を作動させ、所定量の液体を吸引する(ステップS112)。尚、ヘッド内液切替
処理のステップS112では、吸引ポンプ146を一定時間、作動させることで、噴射ノ
ズルから所定量の液体を吸引することとしている。
【0045】
ここで、ヘッド内液切替処理のステップS112では、比較的長い時間、吸引ポンプ1
46を作動させることで、多くの液体が噴射ノズルから吸引されるようになっている。従
って、液体を吸引している途中で噴射ヘッド131内のWインクはキャップ142に吸い
出され、代わりに保存液カートリッジ134内の保存液が噴射ヘッド131に引き込まれ
る。その結果、噴射ヘッド131内のインクは全て保存液に切り替わる。そして、噴射ノ
ズルから所定量の液体を吸引し終えたら(ステップS112)、ヘッド内液切替処理を終
了する。
【0046】
ここで、上述したように、本実施例のヘッド内液切替処理のステップS112では、比
較的長い時間、吸引ポンプ146を作動させるので、噴射ヘッド131内のインクが保存
液に切り替わった後も、しばらくの間は噴射ノズルから液体(すなわち保存液)が吸引さ
れる。その結果、噴射ノズルに当接されたキャップ142の内部では、キャップ142内
に排出されたWインクが増粘、固化することを回避可能となる。以下、この理由について
説明する。
【0047】
図4は、噴射ヘッド131内のWインクを保存液に切り替える際のキャップ142内の
様子について示した説明図である。尚、図4では、Wインクは黒色で示されており、保存
液は白色で示されている。
【0048】
前述したように、噴射ヘッド131と保存液チューブ135とを接続した状態でキャッ
プ142を噴射ノズルに当接させ、その後吸引ポンプ146を作動させて液体を吸引する
と、図4(a)に示されるように、キャップ142内には噴射ノズルから吸い出されたW
インクが排出され、噴射ヘッド131内には、Wインクの代わりに保存液が供給される。
そして、この状態で噴射ノズルから液体を吸引し続けると、図4(b)に示されるように
、噴射ヘッド131内の保存液がキャップ142内に導かれる。このとき保存液がキャッ
プ142に流入する勢いによって、キャップ142内には液体の流れが発生する。加えて
、本実施例の保存液には顔料などの成分が含まれておらず、インクを薄めやすい液体とな
っているので、図4(c)に示されるように、先にキャップ142に排出されたWインク
は保存液によって薄められた状態となる。特に、Wインクはキャップ142に排出されて
から間がないためインクから水分が蒸発しておらず、従ってほとんど増粘していないので
保存液によって簡単に薄められる。こうして保存液によって薄められたWインクは、噴射
ノズルから保存液を吸引している間にも、吸引ポンプ146によってキャップ142の外
に排出される。
【0049】
そして、所定の時間、吸引ポンプ146を作動させたら、図4(d)に示すように、キ
ャップ142に設けられた大気解放弁148を解放し、噴射ノズルとキャップ142の密
閉を解いた状態で吸引ポンプ146を作動させることで、キャップ142内の液体をキャ
ップ142の外に排出していく。その結果、図4(e)に示されるように。先にキャップ
142内に排出されたWインクはキャップ142内に残存することなく洗い流される。
【0050】
以上のようにして、本実施例では、噴射ヘッド131内のWインクを保存液に切り替え
る際には、噴射ノズルから所定量の液体を吸引することで生ずる液体の流れによって、キ
ャップ142内に排出されたWインクが増粘、固化する前に洗い流すことができる。従っ
て、キャップ内でWインクが堆積することを防止することが可能となる。一方で、前述し
たように、噴射ヘッド131内の保存液をWインクに切り替える際には、保存液をキャッ
プ142に吐出することで、噴射ヘッド131内の液体を切り替える動作のみを行うよう
になっている。これは以下のような理由による。
【0051】
図5は、噴射ヘッド131内のWインクを保存液に切り替えるタイミングでキャップ1
42の内部を洗浄する理由を示した説明図である。尚、図5(a)には、インクジェット
プリンター100の電源がONとなってから、電源がOFFとなるまでの間にインクジェ
ットプリンター100が行う動作のうち、キャップ142内へのWインクの排出を伴う動
作が時間の経過とともに示されている。また、図5(b)、図5(c)、および図5(c
)には、インクジェットプリンター100が図5(a)に示した動作を実行する際のキャ
ップ142内の様子がそれぞれ示されている。
【0052】
前述したように、インクジェットプリンター100の電源がONとなってから、初めて
Wインクを使用して印刷を行うまでの間は、噴射ヘッド131内に保存液が入ったままの
状態となっている。従って、この間にキャップ142に向けてWインクが排出されること
はなく、たとえ長期間放置されたとしてもキャップ142内でインクの堆積が進むことは
ない。
【0053】
また、図5(a)に示されるように、インクジェットプリンター100の電源をONに
した後、噴射ヘッド131内の保存液をWインクに切り替える際には、噴射ヘッド131
内の保存液を完全に押し出すために、図5(b)に示すように、キャップ142内に少量
のWインクが吐出される。
【0054】
更に、噴射ヘッド131内の保存液をWインクに切り替えた後は、適宜Wインクを噴射
して印刷が行われるが、印刷が行われている間は、印刷に使用していない噴射ノズルから
水分が蒸発するなどしてWインクの粘度が上昇していく。このことに対応して、図5(c
)に示すように、印刷中は噴射ヘッド131内のWインクを定期的にキャップ142に噴
射する動作が行われ、キャップ142内にはWインクが排出される。
【0055】
その後、前述したように、インクジェットプリンター100の電源をOFFにするタイ
ミングでは、噴射ヘッド内のWインクが保存液に切り替えられ、このとき、図5(d)に
示すように、噴射ヘッド131内の全てのWインクがキャップ142に排出される。
【0056】
以上のように、キャップ142には、噴射ヘッド131内の保存液をWインクに切り替
えるタイミングと、印刷中と、噴射ヘッド131内のWインクを保存液に切り替えるタイ
ミングとで、噴射ヘッド131からWインクが排出される。こうして排出されたWインク
はキャップ142内で少しずつ増粘していく。そこで、噴射ヘッド131内のWインクを
保存液に切り替える際には、切り替えのために必要な量よりも多くの液体(Wインクおよ
び保存液)を吸引することにより、キャップ142内に溜まったWインクを洗い流してや
る。こうしてキャップ142内のWインクを洗い流しておけば、その後、長い時間放置さ
れたとしても、キャップ142内でWインクの堆積が進むことはない。また、こうしてキ
ャップ142内のWインクを保存液で洗い流す動作は、インクジェットプリンター100
の電源がOFFにされて、噴射ヘッド131内のWインクを保存液に切り替える際に行え
ば充分である。こうすれば、キャップ142でWインクの増粘が進む前に保存液で洗い流
すことができるので、効率よく洗浄することができる。その結果、キャップ142での洗
浄に利用する保存液の量を極力少なくすることができるので、保存液の消費量を抑制する
ことも可能となる。
【0057】
C.変形例 :
前述した実施例では、キャップ142を洗浄する保存液は、噴射ヘッド131内のWイ
ンクを排出した後に、Wインクを噴射するための噴射ノズルからキャップ142に供給さ
れるものと説明した。しかし、Wインクを噴射する噴射ノズルとは別に、キャップ142
に保存液を供給するための専用の開口部を噴射ヘッド131に設けておくこととしてもよ
い。
【0058】
図6は、変形例のインクジェットプリンター100において、キャップ142の内部が
洗浄される様子を示した説明図である。図6(a)には、噴射ヘッド131とその周辺部
の構成が示されている。また、図6(b)および図6(c)には、噴射ヘッド131内の
Wインクを保存液に切り替える際のキャップ142内の様子が示されている。
【0059】
図6(a)に示されているように、変形例の噴射ヘッド131には、Wインクを噴射す
るための噴射ノズルとは別に、キャップ142に保存液を供給するための専用の開口部が
設けられている。そして、噴射ヘッド131には、上述した保存液用の開口部に保存液を
導くための第2の保存液チューブ137が接続している。尚、第2の保存液チューブ13
7を用意しない場合には、前述した保存液チューブ135を分岐させることで、保存液用
の開口部に保存液を導いてもよい。
【0060】
上述した図6(a)の噴射ヘッド131を用いると、噴射ヘッド131内のWインクを
保存液に切り替える際、図6(b)に示されるように、噴射ノズルからキャップ142内
にWインクが引き込まれるのと同時に、保存液用の開口部から保存液が引き込まれる。従
って、キャップ142に排出されたWインクと保存液との混合を速やかに開始できる。こ
うすれば、Wインクをより薄めやすくすることができるので、Wインクがキャップ142
内に付着して残留することをより確実に回避することが可能となる。
【0061】
また、図6(a)に示されるように、キャップ142内にWインクが流入している段階
から保存液も流入させているので、噴射ヘッド131内の液体が保存液に入れ替わった時
点でキャップ142内に残存するWインクをたいへんに少なくすることができる。このた
め、噴射ヘッド131内の液体が入れ替わった後にキャップ142内のWインクを洗い流
すために必要な保存液を大幅に抑制することができる。その結果、未だWインクがキャッ
プ142内に流入している段階から保存液もキャップ142内に流入させているにも拘わ
らず、全体としてみれば、キャップ142内のWインクを洗い流すために要する保存液の
総量も少なくすることが可能となる。更に、噴射ヘッド131内のWインクを全てキャッ
プ142に排出し終えた後は、図6(c)に示されるように、保存液用の開口部からだけ
でなく、噴射ノズルからも保存液が引き込まれる。このことにより、Wインクを吸い出し
た後に、キャップ142内のWインクを洗い出すために保存液のみを流入させる時間は大
幅に短縮されるので、キャップ内のWインクを洗い流す時間を短縮することが可能となる

【0062】
また、上述した変形例では、キャップ142に保存液を供給するための専用の開口部が
設けられているものと説明したが、保存液用の開口部としては、保存液を噴射することが
可能な噴射ノズルを設けることとしてもよい。こうすれば、上述した有利な効果が得られ
ることに加えて、次のような効果も得ることができる。例えば、前述したように、印刷中
に乾燥などによって性状が劣化したインクを噴射する際、保存液も同時に噴射することで
キャップ142内に排出されたWインクを薄めることができる。その結果、キャップ14
2内のWインクの増粘を抑えておくことができるので、噴射ヘッド131内のWインクを
保存液に交換する際、噴射ノズルから吸引した保存液によってキャップ142内のWイン
クを洗い流しやすくすることが可能となる。
【0063】
以上、本願発明の実施例について説明したが、本発明は上記に限られるものではなく、
その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
100…インクジェットプリンター、 131…噴射ヘッド、
132…インクカートリッジ、 134…保存液カートリッジ、
142…キャップ、 146…吸引ポンプ、
150…制御部、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴射ヘッドに設けられた噴射ノズルから液体を噴射する液体噴射装置であって、
前記噴射ノズルからの液体を受ける凹部が形成された液体受け部と、
前記液体受け部の凹部に接続されて、該凹部内の液体を吸引する吸引ポンプと、
前記噴射ノズルから噴射するための第1の液体が収容された第1液体収容部と、
前記噴射ヘッド内で前記第1の液体が増粘あるいは固化することを回避するために、該
第1の液体に替えて、該噴射ヘッドに供給される第2の液体が収容された第2液体収容部
と、
前記第1液体収容部または前記第2液体収容部の何れか一方を選択して前記噴射ヘッド
に接続する選択接続手段と、
前記選択接続手段によって選択された液体を前記噴射ヘッドに供給することにより、該
噴射ヘッド内の液体を入れ替える液体入替手段と
を備え、
前記液体入替手段は、
前記選択された液体が前記第1の液体から前記第2の液体に変更された場合には、前
記液体受け部を前記噴射ヘッドに当接させて前記噴射ノズルの周囲に前記凹部による閉空
間を形成した状態で、前記吸引ポンプを作動させることによって、該噴射ヘッド内の該第
1の液体を該第2の液体に入れ替え、
前記選択された液体が前記第2の液体から前記第1の液体に変更された場合には、前
記液体受け部と前記噴射ヘッドとを離間させた状態で、前記噴射ノズルから前記凹部に向
けて液体を噴射することによって、該噴射ヘッド内の該第2の液体を該第1の液体に入れ
替える手段である液体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射装置であって、
前記噴射ヘッドは、前記液体受け部が当接されると前記凹部によって周囲に閉空間が形
成される位置に、前記第2液体収容部と接続された液体通路の開口部が設けられた噴射ヘ
ッドである液体噴射装置。
【請求項3】
前記液体通路の開口部が、前記第2の液体を噴射する噴射ノズルである請求項2に記載
の液体噴射装置。
【請求項4】
液体を噴射する噴射ノズルが設けられた噴射ヘッドと、
前記噴射ノズルから噴射するための第1の液体が収容された第1液体収容部と、
前記噴射ヘッド内で前記第1の液体が増粘あるいは固化することを回避するために、該
第1の液体に替えて、該噴射ヘッドに供給される第2の液体が収容された第2液体収容部
と、
前記噴射ノズルからの液体を受ける凹部が形成された液体受け部と、
前記液体受け部の凹部に接続されて、該凹部内の液体を吸引する吸引ポンプと
を備えた液体噴射装置に適用されて、該噴射ヘッド内の液体を入れ替える液体入替方法
であって、
前記第1液体収容部または前記第2液体収容部の何れか一方を選択して前記噴射ヘッド
に接続する第1の工程と、
前記第1の工程によって選択された液体を前記噴射ヘッドに供給することにより、該噴
射ヘッド内の液体を入れ替える第2の工程と
を備え、
前記第2の工程は、
前記第1の工程で選択された液体が前記第1の液体から前記第2の液体に変更された
場合には、前記液体受け部を前記噴射ヘッドに当接させて前記噴射ノズルの周囲に前記凹
部による閉空間を形成した状態で、前記吸引ポンプを作動させることによって、該噴射ヘ
ッド内の該第1の液体を該第2の液体に入れ替え、
前記第1の工程で選択された液体が前記第2の液体から前記第1の液体に変更された
場合には、前記液体受け部と前記噴射ヘッドとを離間させた状態で、前記噴射ノズルから
前記凹部に向けて液体を噴射することによって、該噴射ヘッド内の該第2の液体を該第1
の液体に入れ替える工程である液体入替方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−104878(P2011−104878A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262617(P2009−262617)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】