説明

液体噴射装置

【課題】液体噴射装置の液体室内に気泡が滞留し難くすることによって、安定した液体の噴射を可能とする。
【解決手段】液体室の内部に、変形可能な壁で仕切られた渦巻き状の流路(渦巻き流路)を設けて、流体室の周縁部に開口する流入口から供給される液体を、中央部に開口する流出口まで渦巻き流路に沿って流す。こうすれば、液体室内の液体の流れが渦巻き流路に沿って規制されるので、流れの遅い箇所に気泡が滞留することを抑制して、液体室内の気泡を速やかに排出することができる。また、液体室の容積を減少させて液体を噴射する際には、変形可能な壁が液体室の中央に向けて変形することによって、壁がない場合と同様に、液体室内の加圧された液体が中央の流出口に向けて移動するので、流出口に周囲から液体を集めて適切に噴射することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液体を噴射する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
水や生理食塩水などの液体を加圧して、細くしぼられたノズルから生体組織に向けて噴射することによって、生体組織を切開あるいは切除する液体噴射装置が開発されている。このような液体噴射装置を用いた手術では、神経や血管等を傷つけることなく臓器などの組織だけを選択的に切開あるいは切除することが可能であり、周囲の組織に与える損傷が少ないので、患者の負担を小さくすることが可能である。
【0003】
また、単にノズルから連続的に液体を噴射するのではなく、噴流を周期的に変化させてパルス状に液体を噴射することで、少ない噴射量で生体組織の切開や切除を可能にした液体噴射装置が提案されている(特許文献1)。この液体噴射装置では、ノズルに接続された液体室に液体を供給し、液体室の容積を急速に減少させることで、液体室内の圧力を急速に上昇させ、その圧力によって液体をノズルからパルス状に噴射する。続いて、液体室の容積を元に戻して再び液体を供給する。こうした動作を繰り返すことで、パルス状の噴流を周期的に発生させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−082202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このように液体をパルス状に噴射する液体噴射装置では、液体中に存在している気泡や、液体中に溶解していた気体が条件によって気泡化して発生した気泡が液体室内に滞留することで、切開や切除の能力を低下させるという問題があった。通常、液体室内の気泡は、液体の流れに乗って移動することによってノズルから排出されるが、液体室内には流れの速い箇所と流れの遅い箇所とがあるので、流れの遅い箇所に気泡が滞留することがある。そして、上述したように、液体室の容積を急速に減少させて、液体を加圧することによって圧力波を発生させている。従って、液体室内に気泡があると、液体室の容積を減少させても気泡が圧縮されることにより、液体室の圧力が十分に上昇しないため、液体を適切に噴射できず、切開や切除する能力が低下してしまう。
【0006】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題を解決するためになされたものであり、液体噴射装置の液体室内に気泡が滞留し難くすることによって、安定して液体を噴射することが可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明の液体噴射装置は次の構成を採用した。すなわち、
ノズルから液体を噴射する液体噴射装置であって、
前記液体が供給される流入口と、
前記流入口に連通し、所与の容積を有する液体室と、
前記液体室の容積を前記所与の容積よりも減少させる第1方向に、該液体室を変形させる容積変更部と、
前記液体室を構成する前記第1方向側の面の中央部に連通し、かつ、前記ノズルに連通する流出口と、
前記流入口から供給される液体が前記液体室に充填された状態で、前記容積変更部を駆動することによって、前記ノズルから液体をパルス状に噴射させる噴射制御手段と
を備え、
前記流入口は、前記液体室の周縁部に連通し、
前記液体室は、前記流入口から供給される液体を前記流出口へ導く流路であって、変形可能な壁で形成され、前記第1方向からの断面視において渦巻き形状の流路を有する
ことを要旨とする。
【0008】
このような本発明の液体噴射装置においては、流入口から供給される液体が液体室に充填された状態で、容積変更部を駆動すると、液体室が第1方向に変形して容積変更部の駆動前よりも液体室の容積が減少するので、液体室内で加圧された液体が流出口を通ってノズルから噴射される。この液体室の内部には、第1方向からの断面視が渦巻き形状の流路(渦巻き流路)が変形可能な壁で形成されており、液体室の周縁部に連通する流入口から供給される液体は、渦巻き流路に沿って流れて、液体室の第1方向側の面の中央部に連通する流出口まで導かれるようになっている。
【0009】
液体室内の液体の流れが不規則で流れの速い箇所と遅い箇所とがあると、流れの遅い箇所に気泡が滞留し易く、こうした気泡の存在によって液体室の圧力が十分に上昇しないので、液体を適切に噴射できなくなってしまう。そこで、流入口から流出口まで液体を導く渦巻き流路を液体室内に形成しておけば、液体室内の液体の流れが渦巻き流路に沿って規制されて、液体室内の全ての部分で液体が十分な速さの流速で流れるので、流れの遅い箇所に気泡が滞留することを抑制して、液体室内の気泡を速やかに排出することができる。結果として、気泡の影響を受けることなく、安定した液体の噴射が可能となる。
【0010】
また、渦巻き流路を形成する壁は変形可能に設けられていることから、容積変更部の駆動によって液体室の容積が減少する際には、渦巻き形状の壁が液体室の中央に向かって渦巻きを収縮させる(渦巻きの中央に寄せる)ように変形することによって、壁を設けない場合と同様に、液体室内の加圧された液体は液体室の中央の流出口に向かって移動することができる。その結果、渦巻き形状の壁の最内郭より内側には、中央の流出口に液体を集める流れが生じる。このように本発明の液体噴射装置では、液体室の内部が渦巻き形状の壁で仕切られているものの、この壁が流出口に向かって変形することで、壁がないときと同様に、流出口に周囲から液体が集められるので、液体を適切に噴射することができる。
【0011】
上述した本発明の液体噴射装置では、渦巻き流路を形成する壁を、液体室の第1方向側の面、または第1方向側の面と向かい合う第2面のいずれか一方の面から立設し、かつ、壁の先端が固定されていない状態で設けておいてもよい。
【0012】
このような構成によれば、容積変更部の駆動によって液体室の容積が減少する際には、壁の先端側が液体室の中央に向けて倒れるように変形可能なので、液体室の内部に、壁を乗り越えて中央の流出口に向かう液体の流れを発生させることができる。このように渦巻き流路を横切る流れによって中央の流出口に周囲から液体が集められるので、液体を適切に噴射することができる。
【0013】
尚、渦巻き流路を形成する壁は、必ずしも液体室の内面から立設されていなくてもよく、液体室の第1方向側の面および第2面のいずれの面にも固定されていない状態で設けておいてもよい。この場合には、容積変更部の駆動によって液体室の容積が減少すると、壁が液体室の中央に向けて移動する(渦巻きの中央に向かって収縮する)ことによって、液体室内の液体も液体室の中央の流出口に向かって移動することができる。
【0014】
また、前述した本発明の液体噴射装置では、渦巻き流路を形成する壁を、液体室の第1方向側の面、または第1方向側の面と向かい合う第2面のいずれか一方の面から立設し、かつ、その一方の面と向かい合う他方の面に壁の先端が固定された状態で設けておいてもよい。
【0015】
このような構成の液体噴射装置では、容積変更部の駆動によって液体室の容積が減少する際には、液体室に対して両端(基部および先端)が固定された壁の中央部分が液体室の中央に向けて撓むように変形することによって、液体室内の液体は液体室の中央の流出口に向かって移動することができる。これにより、液体室の内部に渦巻き形状の壁が設けられていても、この渦巻き形状の壁の最内郭の内側には中央の流出口に向かう液体の流れが生じて、流出口に周囲から液体が集められるので、液体を適切に噴射することができる。
【0016】
また、こうした本発明の液体噴射装置では、渦巻き流路を、断面積が均一となるように形成しておいてもよい。
【0017】
このように渦巻き流路の断面積を均一にしておけば、液体室に供給される液体を渦巻き流路に沿って一定の流速で流すことができる。そのため、流れの遅い箇所に気泡が滞留することは無く、液体室内の気泡を一定の流速の流れに乗せて速やかに排出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施例の液体噴射装置の大まかな構成を示した説明図である。
【図2】脈動発生部の詳細な構成を示した断面図である。
【図3】脈動発生部の内部に設けられた流路形成部材の形状を示した説明図である。
【図4】脈動発生部の液体室に液体が充填される様子を示した説明図である。
【図5】圧電素子への駆動電圧の印加によって液体が噴射される様子を示した説明図である。
【図6】第1変形例の脈動発生部の内部構造を示した説明図である。
【図7】第2変形例の脈動発生部の内部構造を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施例を説明する。
A.液体噴射装置の構成:
B.脈動発生部の構成:
C.液体の噴射動作:
D.変形例:
D−1.第1変形例:
D−2.第2変形例:
【0020】
A.液体噴射装置の構成 :
図1は、本実施例の液体噴射装置10の大まかな構成を示した説明図である。図示した液体噴射装置10は、水や生理食塩水などの液体を生体組織に向けて噴射することで、生体組織を切開あるいは切除する手術方法に用いられるものである。
【0021】
図示されているように、本実施例の液体噴射装置10は、水や生理食塩水などの液体をパルス状に噴射する脈動発生部100や、脈動発生部100から噴射する液体を脈動発生部100に供給する液体供給手段300や、噴射する液体を収容する液体容器306や、脈動発生部100および液体供給手段300の動作を制御する制御部200などから構成されている。
【0022】
脈動発生部100は、第2ケース106と第1ケース108とを重ねてネジ止めしたような構造となっており、第2ケース106の前面には円管形状の液体噴射管104が接続され、液体噴射管104の先端にはノズル102が設けられている。第2ケース106と第1ケース108との合わせ面には、薄い円板形状の液体室110が設けられており、この液体室110は、液体噴射管104を介してノズル102に接続されている。また、第1ケース108の内部には、積層型の圧電素子によって構成された圧電素子112が設けられており、駆動電圧波形を印加して圧電素子112を駆動する(伸縮させる)ことにより、液体室110の容積を変動させて、液体室110内の液体をノズル102からパルス状に噴射することが可能となっている。尚、脈動発生部100の詳細な構成については後述する。
【0023】
液体供給手段300は、第1接続チューブ302を介して液体容器306と接続されており、液体容器306から吸い上げた液体を、第2接続チューブ304を介して脈動発生部100の液体室110に供給する。本実施例の液体供給手段300は、2つのピストンがシリンダ内で摺動する構成となっており、双方のピストンを適切な速度で駆動することにより、脈動発生部100に向かって液体を脈動なく圧送することが可能である。
【0024】
制御部200は、脈動発生部100に内蔵された圧電素子112の動作や、液体供給手段300の動作を制御している。本実施例の液体噴射装置10では、液体供給手段300から供給する液体の流量や、圧電素子112に印加する駆動電圧の波形、最大電圧値および周波数を変更することによって、ノズル102からの液体の噴射態様を変化させることが可能となっている。
【0025】
B.脈動発生部の構成 :
図2は、脈動発生部100の断面を取った分解組立図である。前述したように、脈動発生部100は、第2ケース106と第1ケース108とを合わせてネジ止めして構成されている。第1ケース108には、第2ケース106と合わさる面のほぼ中央に、円形の浅い凹部108cが形成されており、凹部108cの中央位置には、第1ケース108を貫通する円形断面の貫通穴108hが形成されている。そして、凹部108cの底面には、貫通穴108hを塞ぐように、金属薄板などで形成された円形のダイアフラム114が気密に固着されている。
【0026】
ダイアフラム114によって塞がれた貫通穴108hには、圧電素子112が収納されて、更に、貫通穴108hの開口部は第3ケース118によって塞がれている。また、圧電素子112とダイアフラム114との間には、円形の補強板116が挿入されている。そして、第1ケース108の貫通穴108hに圧電素子112を収納して、第3ケース118で貫通穴108hを塞いだ状態では、ダイアフラム114と、補強板116と、圧電素子112と、第3ケース118とがちょうど接するように、補強板116の厚さが設定されている。尚、圧電素子112の一端は、第3ケース118に固着されており、圧電素子112の他端は、補強板116に固着されている。また、補強板116の圧電素子112とは反対側の面は、ダイアフラム114に固着されている。
【0027】
ダイアフラム114の上(第2ケース106と向かい合う側)からは、円形の支持板120bの片面に仕切壁120wが立設された流路形成部材120が、支持板120bをダイアフラム114と重ね合わせるように凹部108cに嵌め込まれている。支持板120bは、仕切壁120wが立設された面とは反対側の面がダイアフラム114に固着されており、さらに、支持板120bとダイアフラム114とを足した厚さが凹部108cの深さと同じになるように形成されている。また、詳しくは後述するが、流路形成部材120は、可撓性の材料で変形可能に形成されている。尚、流路形成部材120の仕切壁120wの形状については、後ほど別図を用いて説明する。
【0028】
一方、第2ケース106には、第1ケース108と合わさる面に、円形の浅い凹部106cが形成されている。この凹部106cの内径は、第1ケース108に嵌め込まれた流路形成部材120の支持板120bの外径より小さく、かつ、支持板120bに立設された仕切壁120wを内包可能な大きさに設定されている。また、凹部106cの深さは、仕切壁120wの高さと同じになるように設定されている。そして、第2ケース106と第1ケース108とを合わせてネジ止めすると、第2ケース106の凹部106cと、第1ケース108側に設けられた流路形成部材120の支持板120bとによって、円板形状の液体室110が形成される。さらに、流路形成部材120の仕切壁120wの先端(第2ケース106と向かい合う側の端部)は、第2ケース106の凹部106cの底面に固着されて、液体室110の内部には、仕切壁120wによって仕切られた流路が形成される。
【0029】
尚、上述のように本実施例の脈動発生部100では、流路形成部材120の支持板120bが第1ケース108の凹部108cに嵌め込まれて、第2ケース106と第1ケース108とを合わせてネジ止めした状態では、流路形成部材120の仕切壁120wの先端が第2ケース106の凹部106cの底面に固着されている。しかし、これとは逆に、流路形成部材120の支持板120bが第2ケース106の凹部106cの底面に固着されて、第2ケース106と第1ケース108とを合わせてネジ止めした状態では、流路形成部材120の仕切壁120wの先端(第1ケース108と向かい合う側の端部)が、第1ケース108に設けられたダイアフラム114に固着されていてもよい。
【0030】
また、第2ケース106には、第2ケース106に接続された第2接続チューブ304から供給される液体を液体室110まで導く入口流路106a、および液体室110内で加圧された液体を液体噴射管104へと導く出口流路106bが設けられている。このうち、入口流路106aは、凹部106cの周縁の位置に開口しており、出口流路106bは、凹部106cの中央の位置に開口している。尚、本実施例の入口流路106aの開口部は、本発明の「流入口」に相当しており、本実施例の出口流路106bの開口部は、本発明の「流出口」に相当している。
【0031】
第2ケース106の前面(第1ケース108と合わさる面とは反対側の面)に接続された液体噴射管104の内径は、出口流路106bの内径に比べて大きく設定されている。また、液体噴射管104の先端には、出口流路106bよりも内径が小さく設定された液体噴射開口部を有するノズル102が挿着されている。従って、液体室110から流出した液体が進む流路は、出口流路106bを通って液体噴射管104に到ると断面積が広くなり、液体噴射管104の先端のノズル102の部分で再び断面積が狭くなるようになっている。
【0032】
図3は、脈動発生部100の内部に設けられた流路形成部材120の形状を示した説明図である。図3では、流路形成部材120を第2ケース106と向かい合う側から見た状態を示している。図示されているように、流路形成部材120の支持板120bは、ダイアフラム114と同一の円形に形成されており、この支持板120bの上面(第2ケース106と向かい合う面)に、支持板120bの中心に向かって巻き込みながら旋回する渦巻き状に仕切壁120wが立設されている。また、この渦巻き状の仕切壁120wは、最外郭の外周面が凹部106cの内周面と接するように形成されており、さらに、多重(図3の例では5重)に巻かれた仕切壁120wと仕切壁120wとの間隔は、一定に設定されている。このような流路形成部材120の仕切壁120wによって、前述したように、第2ケース106と第1ケース108とを合わせてネジ止めすると、液体室110の内部には、周縁部から旋回しつつ中央に向かう渦巻き状の流路(以下、渦巻き流路という)が形成される。尚、本実施例の仕切壁120wは、本発明の「壁」に相当しており、本実施例の渦巻き流路は、本発明の「流路」に相当している。
【0033】
また、前述したように、第2ケース106の凹部106cには、入口流路106aおよび出口流路106bが接続されており、第2ケース106と第1ケース108とを適切な位置で合わせてネジ止めすると、液体室110の内部に形成される渦巻き流路の中央側の突き当たり部分に出口流路106bが開口し、渦巻き流路の周縁側の突き当たり部分に入口流路106aが開口するようになっている。
【0034】
以上のように構成された脈動発生部100では、圧電素子112に駆動電圧波形を印加して圧電素子112を駆動する(伸縮させる)ことによって、ノズル102から液体をパルス状に噴射することが可能となっている。以下では、脈動発生部100が液体を噴射する動作について詳しく説明する。
【0035】
C.液体の噴射動作 :
図4および図5は、脈動発生部100が液体を噴射する様子を示した説明図である。先ず、図4には、圧電素子112を駆動していない状態(圧電素子112に駆動電圧波形を印加する前の状態)が示されている。この状態では、図4(a)に示すように、液体供給手段300から第2接続チューブ304を介して脈動発生部100に供給される液体が入口流路106aを通って液体室110へと流入することにより、液体室110内が液体で満たされる。尚、図中の破線の矢印は、液体の流れを模式的に表している。
【0036】
また、前述したように、液体室110の内部には、流路形成部材120の仕切壁120wで仕切られることによって、渦巻き流路が形成されており、図4(b)に示すように、液体室110の周縁部に開口する入口流路106aから流入した液体は、渦巻き流路(仕切壁120w)に沿って旋回しながら、液体室110の中央に開口する出口流路106bへと導かれる。このように渦巻き流路に沿って液体の流れを規制することによって、液体室110内に流れの速い箇所と遅い箇所とが生じることは無く、入口流路106aから流入した液体を出口流路106bまでほぼ均一な流速で流すことができる。
【0037】
尚、前述したように、液体供給手段300からは液体が途切れることなく供給されるので、液体室110内が液体で満たされると、圧電素子112が駆動していなくても、液体室110内の液体が出口流路106bを通って液体噴射管104に向けて押し出されることになる。
【0038】
このように液体室110が液体で満たされた状態で、圧電素子112に駆動電圧波形が印加されると、図5(a)に示すように、圧電素子112が駆動電圧の増加によって伸長し、補強板116を介してダイアフラム114および流路形成部材120の支持板120bを液体室110に向けて押すので、液体室110の容積が減少し、その結果、液体室110内の液体が加圧される。こうして液体室110内で加圧された液体は、図5(a)中に破線の矢印で示したように、出口流路106bおよび液体噴射管104を介して、ノズル102からパルス状に噴射される。
【0039】
尚、液体室110には、入口流路106aおよび出口流路106bの2つの流路が接続されている。従って、液体室110内で加圧された液体は、出口流路106bだけでなく、入口流路106aからも流出すると考えられる。しかし、流路の液体の流れ易さは、流路の断面積や流路の長さ等によって定まるので、入口流路106aおよび出口流路106bの断面積や長さを適切に設定しておけば、入口流路106aよりも出口流路106bから液体が流出し易くすることが可能である。また、入口流路106aでは、液体供給手段300から圧送される液体が液体室110内に流入しようとする流れがあるので、液体室110内の液体の流出を妨げるのに対して、出口流路106bでは、液体室110内の液体の流出を妨げるような流れは存在しない。そのため、液体室110内で加圧された液体は、もっぱら出口流路106bから流出して、液体噴射管104を介して先端のノズル102から噴射される。
【0040】
また、前述したように、本実施例の液体室110の内部は、流路形成部材120の仕切壁120wによって渦巻き状に仕切られている。しかし、圧電素子112の伸張によって液体室110の容積が減少する際には、渦巻き状の仕切壁120w(渦巻き流路)に沿って液体が流れるのではなく、仕切壁120wが出口流路106b側(液体室110の中央)に向けて変形することによって、液体室110内の液体は液体室110の中央に向かって移動するようになっている。この点について捕捉して説明する。
【0041】
先ず、多重に巻かれた渦巻き状の仕切壁120wの最も内郭を成す仕切壁120wを例に考えると、最内郭の仕切壁120wの内側では、出口流路106bが液体室110の中央に開口しているので、液体室110の容積が減少する際には、液体が出口流路106bから流出することによって圧力の上昇が抑えられる。これに対して、仕切壁120wの外側では、渦巻き流路が液体で満たされていて液体の逃げ場がないので、仕切壁120wの内側に比べて圧力が上昇することになる。前述したように仕切壁120wは、可撓性の材料で変形可能に形成されていることから、圧力の高い外側から圧力の低い内側に向けて仕切壁120wを押して変形させて、内側と外側との圧力差が減少させようとする。尚、本実施例の仕切壁120wは、支持板120bから立設されており、かつ、先端が第2ケース106の凹部106cに固着されているので、図5(a)に示すように、仕切壁120wの中央部分が外側から押されて内側に撓むように変形する。
【0042】
こうした仕切壁120wの内側と外側との圧力差は、最内郭の仕切壁120wだけでなく、最内郭の仕切壁120wが内側に変形して外側の圧力が低下することによって、2重目の仕切壁120wにも生じ、同様に、3重目の仕切壁120wにも伝播する。従って、渦巻き状の仕切壁120wは、全体的に液体室110の中央に向かって渦巻きを収縮させるように変形する。尚、仕切壁120wの変位は、図5(a)に示すように、内径の小さい最内郭の仕切壁120wで最も大きくなっている。
【0043】
このように圧電素子112の伸張によって液体室110の容積が減少する際には、渦巻き状の仕切壁120wの中央部分が液体室110の中央に向けて撓むように変形することで、液体室110内の液体は、図5(b)に示すように、液体室110の中央の出口流路106bに向かって移動することになる。
【0044】
ここで、圧電素子112の伸張によって液体室110の容積が減少すると、それに対応する分量の液体が出口流路106bに集められて押し出されることで、液体噴射管104の先端のノズル102から液体が噴射される。このとき、液体室110内の渦巻き状の仕切壁120wが妨げとなって、中央の出口流路106bに周囲から十分な量の液体を集めることができないとも考えられる。しかし、本実施例の脈動発生部100では、圧電素子112の伸張による変位量はわずかであり、1回のパルスで噴射される液体の量(噴射量)は、液体室110の容積に対して1/100程度であることから、仕切壁120wが液体室110の中央に向けてわずかに変形するだけで、出口流路106bに周囲から十分な量の液体が集められる。
【0045】
例えば、噴射量Vを液体室110の容積の1/100として、液体室110の内半径をR、液体室110の厚さ(凹部106cの深さ)をHとすると、
V=πRH/100 式(1)
と表すことができる。また、渦巻き状の仕切壁120wの最内郭の内半径をrとして、最内郭の仕切壁120wが液体室110の中央に向けて距離sだけ変位することで出口流路106bに集められて押し出された分量の液体がノズル102から噴射されるとすると、噴射量Vは、変形前の最内郭の内側の容積V1、変形後の最内郭の内側の容積V2との差であることから、
V1=πr
V2=π(r−s)
V=V1−V2=πH{r−(r−2rs+s)}
=πH(2rs−s
と表すことができる。ここで、sがわずかな変位量であれば、sは極めて小さな値となる。従って、
V=2πrsH 式(2)
と近似することができる。そして、例えば、最内郭の仕切壁120wの内半径rが液体室110の内半径Rの半分(1/2)に設定されている場合には、上記の式(1)および式(2)の2つの式から、
2π(R/2)sH=πRH/100
s=R/100
となり、最内郭の仕切壁120wが液体室110の中央に向けて、液体室110の内半径の1/100というスケールでわずかに変位するだけで、噴射量に相当する液体が出口流路106bに集められるので、液体の噴射に際して液体室110内の渦巻き状の仕切壁120wが妨げとなることはない。
【0046】
このようにして液体を噴射したら、駆動電圧の減少によって圧電素子112が収縮して元の長さに戻ることから、それに伴って液体室110の容積が元の容積に復元する。また、液体供給手段300から液体室110に供給される液体が渦巻き流路(仕切壁120w)に沿って流れることで液体室110内を満たし、液体室110内の仕切壁120wも元の直立した状態に復元する。その結果、図4に示した圧電素子112が駆動する前の状態に復帰する。そして、再び駆動電圧の増加によって圧電素子112が伸長すると、図5に示したように液体室110内で加圧された液体がノズル102から噴射される。こうした動作を繰り返すことによって、本実施例の脈動発生部100では、ノズル102から液体をパルス状に噴射することが可能となっている。尚、駆動電圧の増加によって伸張して液体室110の容積を減少させる本実施例の圧電素子112は、本発明の「容積変更部」に相当している。また、圧電素子112の駆動を制御している本実施例の制御部200は、本発明の「噴射制御手段」に相当している。
【0047】
以上に説明したように、本実施例の液体噴射装置10では、液体室110の内部に仕切壁120wで仕切られた渦巻き流路が形成されており、液体室110の周縁部に開口する入口流路106aから流入した液体は、渦巻き流路(仕切壁120w)に沿って、液体室110の中央に開口する出口流路106bへと流れることから、液体室110内に気泡が滞留し難くすることが可能である。すなわち、液体室110内の気泡は液体の流れに乗って出口流路106bから排出されるが、単に液体室110に入口流路106aと出口流路106bとを接続しただけの構成では、液体室110内に液体の流れが速い箇所と遅い箇所とが生じ易く、流れの遅い箇所に気泡が滞留することがある。そして、液体室110内に気泡が存在すると、液体の圧力が十分に上昇せず、液体を適切に噴射できなくなってしまう。これに対して、液体室110の内部に渦巻き流路を形成しておけば、液体室110内の液体の流れを渦巻き流路に沿って一定の流れに規制することができるので、流れの遅い箇所に気泡が滞留することが無く、液体室110内の気泡の排出が容易となる。結果として、安定した液体の噴射を維持することが可能となる。
【0048】
また、液体室110の内部で渦巻き流路を形成する仕切壁120wは、可撓性の材料で変形可能に設けられていることから、圧電素子112が伸張して液体室110の容積が減少する際には、渦巻き状の仕切壁120wの中央部分が液体室110の中央に向けて撓むように変形することによって、仕切壁120wがない場合と同様に、液体室110内の加圧された液体は、液体室110の中央に向かって移動することができる。そのため、渦巻き状の仕切壁120wの最内郭よりも内側には、中央に開口する出口流路106bに向かう液体の流れが生じて、出口流路106bに周囲から液体が集められる。このように本実施例の液体噴射装置10では、液体室110の内部に仕切壁120wが設けられているものの、液体を噴射するに際して仕切壁120wが妨げとなることはなく、液体を適切に噴射することができる。
【0049】
D.変形例 :
以上に説明した本実施例の液体噴射装置10には、幾つかの変形例が存在している。以下では、これら変形例について説明する。尚、変形例の説明にあたっては、前述した実施例と同様の構成部分については、先に説明した実施例と同様の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0050】
D−1.第1変形例 :
上述した実施例では、流路形成部材120の仕切壁120wは、支持板120bから立設されており、かつ、先端が第2ケース106の凹部106cの底面に固着されていた。しかし、仕切壁120wの先端は、必ずしも第2ケース106の凹部106cに固着されていなくてもよい。
【0051】
図6は、第1変形例の脈動発生部100の内部構造を示した説明図である。図6(a)には、圧電素子112が駆動していない状態が示されており、図6(b)には、駆動電圧の印加によって圧電素子112が伸張した状態が示されている。図6(a)に示されているように、第1変形例の脈動発生部100にも、前述した実施例(図4参照)と同様に、支持板120bに渦巻き状の仕切壁120wが立設された流路形成部材120が設けられており、液体室110の内部には、仕切壁120wによって仕切られた渦巻き流路が形成されている。ただし、第1変形例では、前述した実施例と異なり、仕切壁120wの先端(第2ケース106と向かい合う側の端部)が第2ケース106の凹部106cに固着されておらず、仕切壁120wの先端と凹部106cとの間には、わずかに間隙が設けられている。
【0052】
このような第1変形例の脈動発生部100においても、前述した実施例と同様に、液体室110の周縁部に開口する入口流路106aから流入した液体が、渦巻き流路(仕切壁120w)に沿って旋回しながら、中央の出口流路106bへと流れることによって、液体室110内が液体で満たされる。尚、仕切壁120wの先端と凹部106cとの間隙はわずかであることから、液体室110に流入した液体は、もっぱら渦巻き流路に沿って流れる。
【0053】
こうして液体室110が液体で満たされた状態で、駆動電圧の印加によって圧電素子112が伸張すると、液体室110の容積が減少して、液体室110内の液体が加圧される。このとき、前述したように仕切壁120wの内側と外側とで圧力差が生じるので、圧力の高い外側から圧力の低い内側に向けて仕切壁120wが押されて変形する。第1変形例の脈動発生部100では、仕切壁120wの先端が第2ケース106の凹部106cに固着されていないので、図6(b)に示すように、仕切壁120wの先端側が液体室110の中央に向けて倒れるように変形する。
【0054】
このように仕切壁120wの先端側が液体室110の中央に向けて倒れると、仕切壁120wの外側の液体が仕切壁120wを乗り越えて内側に流れ込むことから、液体室110の内部には、渦巻き流路を横切って中央の出口流路106bに向かう液体の流れが生じる。
【0055】
以上に説明したように、第1変形例の脈動発生部100では、仕切壁120wの先端が第2ケース106の凹部106cに固着されていないものの、液体室110に液体が充填される際には、前述した実施例と同様に、液体室110内の液体の流れを、仕切壁120wによって形成される渦巻き流路に沿って一定の流れに規制することができる。したがって、流れの遅い箇所に気泡が滞留することが無く、液体室110内の気泡を速やかに排出することが可能となる。
【0056】
また、圧電素子112が伸張して液体室110の容積が減少する際には、第2ケース106の凹部106cに固着されていない仕切壁120wの先端が液体室110の中央に向けて倒れることによって、液体室110の内部には、仕切壁120wを乗り越えて中央の出口流路106bに向かう液体の流れが生じる。このように、渦巻き流路を横切る流れによって中央の出口流路106bに周囲から液体が集められるので、液体を適切に噴射することができる。
【0057】
D−2.第2変形例 :
上述した第1変形例では、流路形成部材120の仕切壁120wは、支持板120bから立設されていた。しかし、仕切壁120wは、必ずしも支持板120bから立設されていなくてもよい。
【0058】
図7は、第2変形例の脈動発生部100の内部構造を示した説明図である。図7(a)には、圧電素子112が駆動していない状態が示されており、図7(b)には、駆動電圧の印加によって圧電素子112が伸張した状態が示されている。図7(a)に示されているように、第2変形例の脈動発生部100においても、前述した実施例と同様に、液体室110の内部には、渦巻き状の仕切壁120wによって仕切られた渦巻き流路が形成されている。この仕切壁120wは、第2ケース106の凹部106cに固着されておらず、凹部106cとの間にわずかな間隙が設けられている。また、仕切壁120wの全体が支持板120bから立設されているわけではなく、多重に巻かれた渦巻き状の仕切壁120wのうち最も外郭を成す部分だけが支持板120bに立設されており(図3参照)、残りの部分は、渦巻き状に一連であるものの、支持板120bに固定されてはいない。
【0059】
このような第2変形例の脈動発生部100においても、液体室110に液体が充填される際には、前述した実施例と同様に、液体室110内の液体の流れが、仕切壁120wによって形成される渦巻き流路に沿って一定の流れに規制されるので、その流れに乗せて液体室110内の気泡を速やかに排出することが可能となる。
【0060】
一方、圧電素子112の伸張によって液体室110の容積が減少して、前述したように仕切壁120wの内側と外側とで圧力差が生じると、圧力の高い外側から圧力の低い内側に向けて仕切壁120wが押される。このとき、渦巻き状の仕切壁120wの支持板120bに固定されていない部分は、ちょうどゼンマイが巻き上げられるように、液体室110の中央に向けて移動することから、液体室110内の加圧された液体は、液体室110の中央に向かって移動する。加えて、仕切壁120wを乗り越えて渦巻き流路に交差するように中央の出口流路106bに向かう液体の流れが生じて、出口流路106bに周囲から液体が集められるので、液体を適切に噴射することができる。
【0061】
以上、本発明の液体噴射装置について各種の実施形態を説明したが、本発明は上記すべての実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【0062】
例えば、上述した各実施形態においては、液体室110に供給された液体を最も効率的に出口流路106bへと導くために、出口流路106bが、液体室110を構成する凹部106cの中央の位置に開口する構成としていた。しかし、出口流路106bが開口する位置は、凹部106cの中央の位置に限られるわけではなく、少なくとも出口流路106bが入口流路106aよりも凹部106cの中央に近い位置に開口する位置関係になっていればよい。
【0063】
また、上述した各実施形態においては、液体室110の内部に仕切壁120wによって渦巻き状の流路を形成していた。しかし、液体室110の内部に形成する流路は、液体室110の周縁部から旋回しつつ中央に向かう形状であれば特に限定されず、例えば、つづら折り形状等の変形を加えてもよい。
【符号の説明】
【0064】
10…液体噴射装置、 100…脈動発生部、 102…ノズル、
104…液体噴射管、 106…第2ケース、 106a…入口流路、
106b…出口流路、 108…第1ケース、 110…液体室、
112…圧電素子、 114…ダイアフラム、 116…補強板、
118…第3ケース、 120…流路形成部材、 120b…支持板、
120w…仕切壁、 200…制御部、 300…液体供給手段、
302…第1接続チューブ、 304…第2接続チューブ、 306…液体容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルから液体を噴射する液体噴射装置であって、
前記液体が供給される流入口と、
前記流入口に連通し、所与の容積を有する液体室と、
前記液体室の容積を前記所与の容積よりも減少させる第1方向に、該液体室を変形させる容積変更部と、
前記液体室を構成する前記第1方向側の面の中央部に連通し、かつ、前記ノズルに連通する流出口と、
前記流入口から供給される液体が前記液体室に充填された状態で、前記容積変更部を駆動することによって、前記ノズルから液体をパルス状に噴射させる噴射制御手段と
を備え、
前記流入口は、前記液体室の周縁部に連通し、
前記液体室は、前記流入口から供給される液体を前記流出口へ導く流路であって、変形可能な壁で形成され、前記第1方向からの断面視において渦巻き形状の流路を有する液体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射装置であって、
前記流路を形成する壁は、前記液体室を構成する前記第1方向側の面、または前記第1方向側の面と向かい合う第2面のいずれか一方の面から立設され、かつ、先端が固定されていない状態で設けられている液体噴射装置。
【請求項3】
請求項1に記載の液体噴射装置であって、
前記流路を形成する壁は、前記液体室を構成する前記第1方向側の面、または前記第1方向側の面と向かい合う第2面のいずれか一方の面から立設され、かつ、先端が前記一方の面と向かい合う他方の面に固定された状態で設けられている液体噴射装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか一項に記載の液体噴射装置であって、
前記流路は、断面積が均一に形成されている液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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