説明

液体噴射装置

【課題】ノズルにおける液体の溶媒の蒸発を低減して、噴射不良を抑制することが可能な液体噴射装置を提供する。
【解決手段】記録ヘッドが噴射するインクは、固形分として平板状粒子である光輝系顔料Pgを含む。プリンターは、記録ヘッドによるインク噴射動作の後、ノズル43におけるメニスカスMの振動を相殺するタイミングで圧力発生手段を駆動して当該メニスカスを制振させることで、メニスカスの気液界面に沿った光輝系顔料の配向を促進させる処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録装置などの液体噴射装置に関し、特に、ノズルから液体の溶媒の蒸発を抑制することが可能な液体噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置は液体を液滴として噴射可能な液体噴射ヘッドを備え、この液体噴射ヘッドから各種の液体を噴射する装置である。この液体噴射装置の代表的なものとして、例えば、インクジェット式記録ヘッド(以下、記録ヘッドという)を備え、この記録ヘッドから液体状のインクをインク滴として噴射させて記録を行うインクジェット式記録装置(プリンター)等の画像記録装置を挙げることができる。また、近年においては、この画像記録装置に限らず、ディスプレイ製造装置などの各種の製造装置にも応用されている。
【0003】
ここで、上記プリンターは、リザーバーから圧力室を通りノズルに至る一連のインク流路や、圧力室の容積を変動させるための圧力発生手段(例えば、圧電振動子)等を有する記録ヘッドを搭載し、また、圧力発生手段を駆動するための駆動信号を発生する駆動信号発生手段等を備えている。そして、駆動信号に含まれる駆動パルスを圧電振動子に印加して圧力室内のインクに圧力変動を生じさせ、この圧力変動を利用してノズルからインクを噴射するように構成されている。このようなプリンターでは、ノズルに露出したインクの表面(メニスカス)が大気に晒されることにより溶媒が蒸発してインクが増粘することによって、噴射されたインクの飛翔方向が曲がったり、目詰まりを起こしてインクが噴射されなかったりする等の噴射不良が生じる場合がある。
【0004】
このため、上記噴射不良を防止してインクの噴射を良好に維持するために、種々のメンテナンス処理に関する技術が提案されてきた。例えば、ノズルをキャップで一時的に封止して、この封止状態でキャップ内部を負圧にすると共に、噴射駆動パルスを圧電振動子に印加して圧力室内のインクに圧力変動を生じさせてインクの噴射を行い、増粘インクや気泡をキャップ内に排出させるクリーニング処理が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、この種のプリンターでは、印刷処理中などにおいて一定期間毎あるいは記録ヘッドの走査単位である所定回数のパス毎に、記録紙等の記録媒体から外れた位置においてノズルからインクを噴射させるフラッシング処理と呼ばれるメンテナンス処理も行われている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−299347号公報
【特許文献1】特開2011−046091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようなメンテナンス処理を頻繁に実行した場合、その分の処理時間を要するため、スループットの低下を招き、加えて、インクを無駄に多く消費してしまう問題があった。
【0007】
なお、このような問題は、上記のプリンターだけに限られず、インク以外の液滴を噴射する他の液体噴射ヘッドを搭載した液体噴射装置においても同様に存在する。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、スループットの低下や液体の浪費を抑制しつつ、ノズルにおける液体の溶媒の蒸発を低減して噴射不良を抑制することが可能な液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の液体噴射装置は、上記目的を達成するために提案されたものであり、ノズルに連通する圧力室の容積を変動させる圧力発生手段を駆動することで前記ノズルから液体を噴射可能な液体噴射ヘッドと、
前記圧力発生手段を駆動してノズルから前記液体を噴射させる噴射駆動パルスを複数含む駆動信号を繰り返し発生する駆動信号発生手段と、
前記駆動信号発生手段から発生される噴射駆動パルスを前記圧力発生手段に印加することで前記液体噴射ヘッドのノズルからの液体噴射を制御する制御手段と、
を備える液体噴射装置であって、
前記液体は、固形分として平板状粒子を含み、
前記制御手段は、前記液体噴射ヘッドによる液体噴射動作の後、前記ノズルにおけるメニスカスの気液界面に沿った前記平板状粒子の配向を促進させる処理を実行することを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、液体噴射ヘッドによる液体噴射動作の後、ノズルにおけるメニスカスの気液界面に沿った平板状粒子の配向を促進させることで、配向した平板状粒子により、メニスカスに膜が形成される。そして、この膜によってノズルにおける液体の溶媒の蒸発が低減される。これにより、フラッシング処理やクリーニング処理の回数を低減することができ、スループットの向上や液体の消費量の削減が可能となる。
【0011】
上記構成において、前記制御手段は、前記液体噴射動作後において、メニスカスの振動を相殺するタイミングで前記圧力発生手段を駆動して当該メニスカスを制振させることで、平板状粒子の配向を促進させる構成を採用することができる。
【0012】
また、前記制御手段は、前記圧力発生手段を駆動することにより、前記メニスカスを、前記圧力発生手段を駆動する前の定常位置から前記圧力室側に引き込んだ後、前記定常位置に戻すことで、平板状粒子の配向を促進させる構成を採用することも可能である。
【0013】
そして、上記各構成において、前記制御手段は、前記液体噴射動作の開始に先立って、前記圧力発生手段を駆動することにより、平板状粒子の配向によりメニスカスに形成された膜を破る処理を行う構成を採用することが望ましい。
【0014】
当該構成によれば、液体噴射動作の開始に先立って、メニスカスに形成された膜が破られるので、次の液体噴射動作を行う際に、ノズルから液体を円滑に噴射させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】プリンターの電気的な構成を説明するブロック図である。
【図2】プリンターの内部構成を説明する斜視図である。
【図3】記録ヘッドの要部断面図である。
【図4】ノズルの構成を説明する軸方向の断面図である。
【図5】各種駆動パルスの構成を示す波形図である。
【図6】駆動パルスの波形とメニスカスの挙動(変位)を示すグラフとを対応させて示した模式図である。
【図7】ノズルにおけるインクに含まれる光輝系顔料の分散の様子を説明する模式図である。
【図8】膜破駆動パルスによってノズルからインクが噴射される様子を説明する模式図である。
【図9】第2実施形態において配向促進処理に用いられる配向促進駆動パルスの構成を説明する波形図である。
【図10】配向促進駆動パルスによるメニスカスの変位を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体噴射装置として、インクジェット式記録装置(以下、プリンター)を例に挙げて説明する。
【0017】
図1は、プリンター1の電気的な構成を説明するブロック図である。また、図2は、プリンター1の内部構成を説明する斜視図である。
例示したプリンター1は、記録用紙、布、樹脂フィルム等の記録媒体9に向けてインクを噴射する。記録媒体9は、液体が噴射されて着弾する対象となる着弾対象の一種である。外部装置としてのコンピューターCPは、プリンター1と通信可能に接続されている。プリンター1に画像を印刷させるため、コンピューターCPは、その画像に応じた印刷データをプリンター1に送信する。
【0018】
本実施形態におけるプリンター1は、搬送機構2、キャリッジ用移動機構3、駆動信号生成回路4(駆動信号発生手段の一種)、ヘッドユニット5、検出器群6、リニアエンコーダー20、及び、プリンターコントローラー7を有する。搬送機構2は、記録媒体9を搬送方向に搬送させる。キャリッジ用移動機構3は、ヘッドユニット5が取り付けられたキャリッジを所定の移動方向(例えば紙幅方向)に移動させる。駆動信号生成回路4は、図示しないDAC(Digital Analog Converter)を含む。そして、プリンターコントローラー7から送られた駆動信号の波形に関する波形データに基づいて、アナログの電圧信号を生成する。また、駆動信号生成回路4は図示しない増幅回路も含んでおり、DACからの電圧信号を電力増幅し、駆動信号COMを生成する。
【0019】
駆動信号COMは、記録媒体9に対する印刷処理(記録処理或いは噴射処理の一種)時に記録ヘッド8の圧電振動子32(図3参照)に印加されるものである。駆動信号COMは、駆動信号の発生繰り返し周期である単位期間T内に噴射駆動パルスDP(図5参照)を少なくとも1つ以上含む信号である。ここで、噴射駆動パルスDPとは、記録ヘッド8から液滴状のインク(詳細については後述)を噴射させるために、圧電振動子32に所定の動作を行わせるものである。また、本実施形態における駆動信号生成回路4は、上記の噴射駆動パルスDPの他に、印刷処理後のノズル43におけるメニスカスの振動を制振するための制振駆動パルスDPb、および、メニスカスに形成された膜を破るための膜破駆動パルスDPdを発生する(何れも図5参照)。この点の詳細については後述する。
【0020】
ヘッドユニット5は、記録ヘッド8およびヘッド制御部11を有する。記録ヘッド8は、液体噴射ヘッドの一種であり、ノズル43からインクを記録媒体9に向けて噴射させて、当該記録媒体9の所定の領域(画像等の形成単位である画素に対応する領域)に着弾させてドットを形成する。このドットを複数マトリクス状に並べることで記録媒体9に画像等が記録される。ヘッド制御部11は、プリンターコントローラー7からのヘッド制御信号に基づき、記録ヘッド8を制御する。なお、記録ヘッド8の構成については後で説明する。検出器群6は、プリンター1の状況を監視する複数の検出器によって構成される。この検出器群6には、プリンター内部の環境温度を検出する温度センサー(図示せず)やキャリッジ12の加速度を検出する加速度センサー等が含まれる。
【0021】
搬送機構2は、記録ヘッド8の走査方向に直交する方向(以下、搬送方向という)に記録媒体9を搬送させるための機構である。この搬送機構2は、搬送モーター14と、搬送ローラー15と、プラテン16と、を有する。搬送ローラー15は、記録媒体9を印刷可能な領域であるプラテン16上まで搬送するローラーであり、搬送モーター14によって駆動される。プラテン16は、印刷中の記録媒体9を支持する。
【0022】
プリンターコントローラー7は、プリンターの制御を行うための制御ユニットである。プリンターコントローラー7は、インターフェース部24と、CPU25と、メモリー26とを有する。インターフェース部24は、外部装置であるコンピューターCPとプリンター1との間でデータの送受信を行う。CPU25は、プリンター全体の制御を行うための演算処理装置である。メモリー26は、CPU25のプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものであり、RAM、EEPROM等の記憶素子を有する。CPU25は、メモリー26に格納されているプログラムに従って、各ユニットを制御する。また、プリンターコントローラー7は、コンピューターCPからの印刷データに基づき、記録媒体9上のどの位置にどのような大きさのドットを形成するかを示すドット形成データSIを生成し、当該ドット形成データSIをヘッド制御部11に送信する。そして、ヘッド制御部11は、プリンターコントローラー7からのドット形成データSIに基づき、駆動信号COMに含まれる各駆動パルスを選択して圧電振動子32に印加するための選択データを生成する。これらのプリンターコントローラー7及びヘッド制御部11は、本発明における制御手段として機能する。
【0023】
さらに、プリンターコントローラー7は、上記のドット形成データSIの他、例えば、転送クロックCLK、ラッチ信号LAT、チェンジ信号CHなどのヘッド制御信号を記録ヘッド8に出力したり、駆動信号COMを生成させるための制御信号を駆動信号生成回路4に出力したりする。駆動信号COMを生成させるための制御信号は、例えばDAC(Digital to Analog Converter)値である。このDAC値は、駆動信号生成回路4から出力させる電圧を指示するための情報であり、極めて短い更新周期毎に更新される。
【0024】
図2に示すように、キャリッジ12は、主走査方向に架設されたガイドロッド19に軸支された状態で取り付けられており、キャリッジ用移動機構3の作動により、ガイドロッド19に沿って記録媒体9の搬送方向に直交する主走査方向に往復移動するように構成されている。キャリッジ12の主走査方向の位置は、リニアエンコーダー20によって検出され、その検出信号、即ち、エンコーダーパルス(位置情報の一種)がプリンターコントローラー7のCPU25に送信される。リニアエンコーダー20は位置情報出力手段の一種であり、記録ヘッド8の走査位置に応じたエンコーダーパルスを、主走査方向における位置情報として出力する。これにより、プリンターコントローラー7はこのリニアエンコーダー20からのエンコーダーパルスEPに基づいてキャリッジ12(記録ヘッド8)の走査位置を認識しながら、記録ヘッド8による記録動作を制御することができる。そして、プリンター1は、このホームポジションから反対側の端部(フルポジション)へ向けてキャリッジ12が移動する往動時と、フルポジションからホームポジション側にキャリッジ12が戻る復動時との双方向で記録媒体9上に文字や画像等を記録する。
【0025】
上記リニアエンコーダー20からのエンコーダーパルスEPは、プリンターコントローラー7に入力されている。プリンターコントローラー7は、このエンコーダーパルスEPからタイミングパルスPTS(Print Timing Signal)を生成し、このタイミングパルスPTSに同期させて印刷データの転送や駆動信号COMの発生等を行っている。そして、駆動信号生成回路4は、タイミングパルスPTSに基づくタイミングで駆動信号COMを出力する。また、プリンターコントローラー7は、タイミングパルスPTSに基づいて、ラッチ信号LAT等のタイミング信号を生成して記録ヘッド8に出力する。ラッチ信号LATは、記録周期の開始タイミングを規定する信号である。したがって、駆動信号COMの単位周期は、このラッチ信号LATで区切られる区間であると言える。さらに、チェンジ信号CHは、駆動信号COMに含まれる各駆動パルスの供給タイミングを規定する。ラッチ信号LATの後に各チェンジ信号CHが発生するタイミングは予め一定の値に規定されている。
【0026】
次に、図3を参照しながら記録ヘッド8の構成について説明する。
記録ヘッド8は、ケース28と、このケース28内に収納される振動子ユニット29と、ケース28の底面(先端面)に接合される流路ユニット30等を備えている。上記のケース28は、例えば、エポキシ系樹脂により作製され、その内部には振動子ユニット29を収納するための収納空部31が形成されている。振動子ユニット29は、圧力発生手段の一種として機能する圧電振動子32と、この圧電振動子32が接合される固定板33と、圧電振動子32に駆動信号等を供給するためのフレキシブルケーブル34とを備えている。圧電振動子32は、圧電体層と電極層とを交互に積層した圧電板を櫛歯状に切り分けることで作製された積層型であって、積層方向(電界方向)に直交する方向に伸縮可能(電界横効果型)な縦振動モードの圧電振動子である。
【0027】
流路ユニット30は、流路基板36の一方の面にノズルプレート37を、流路基板36の他方の面に振動板38をそれぞれ接合して構成されている。この流路ユニット30には、リザーバー39(共通液体室またはマニホールドとも言う)と、インク供給口40と、圧力室41と、ノズル連通口42と、ノズル43と、が設けられている。そして、インク供給口40から圧力室41及びノズル連通口42を経てノズル43に至る一連のインク流路が、各ノズル43に対応して形成されている。上記ノズルプレート37は、ドット形成密度に対応したピッチ(例えば180dpi)で複数(例えば、180個)のノズル43が副走査方向に沿って列状に穿設された部材であり、本実施形態では、例えば、ステンレス鋼によって作製されている。また、ノズルプレート37は、シリコン単結晶基板によって作製される場合もある。
【0028】
図4は、ノズル43の構成を説明する軸方向の断面図であり、同図の上側が圧力室41側、下側が噴射側(プラテン16側)である。本実施形態におけるノズル43は、ストレート部43aと、テーパー部43bと、から構成されている。ストレート部43aは、一端がノズルプレート37における噴射側の面に開口し、他端がテーパー部43bと連通した、内径が略一定な円筒状の空部である。テーパー部43bは、その内径がストレート部43aの他端側から圧力室側に向かって次第に拡大する空部である。
【0029】
上記振動板38は、支持板45の表面に弾性体膜46を積層した二重構造である。本実施形態では、金属板の一種であるステンレス板を支持板45とし、この支持板45の表面に樹脂フィルムを弾性体膜46としてラミネートした複合板材を用いて振動板38を作製している。この振動板38には、圧力室41の容積を変化させるダイヤフラム部47が設けられている。また、この振動板38には、リザーバー39の一部を封止するコンプライアンス部48が設けられている。
【0030】
上記のダイヤフラム部47は、エッチング加工等によって支持板45を部分的に除去することで作製される。即ち、このダイヤフラム部47は、圧電振動子32の自由端部の先端面が接合される島部49と、この島部49を囲む薄肉弾性部50と、からなる。上記のコンプライアンス部48は、リザーバー39の開口面に対向する領域の支持板45を、ダイヤフラム部47と同様にエッチング加工等によって除去することにより作製され、リザーバー39に貯留された液体の圧力変動を吸収するダンパーとして機能する。
【0031】
そして、上記の島部49には圧電振動子32の先端面が接合されているので、この圧電振動子32の自由端部を伸縮させることで圧力室41の容積を変動させることができる。この容積変動に伴って圧力室41内のインクに圧力変動が生じる。そして、記録ヘッド8は、この圧力変動を利用してノズル43からインク滴を噴射させるようになっている。
【0032】
本実施形態におけるプリンター1が噴射するインクとして、固形分としての光輝系顔料を含むインク(本発明における液体の一種)が用いられる。光輝系顔料としては、例えば、アルミニウム等の金属から成る金属顔料や、雲母の表面を金属酸化物でコーティングしたパール顔料を用いることができる。そして、この光輝系顔料を構成する粒子は、扁平な平板状(鱗片状)を呈する。すなわち、光輝系顔料は、本発明における平板状粒子に相当する。ここで、「平板状粒子」とは、略平坦な面(X−Y平面)を有し、これらのX、Yそれぞれに対して、或いは、後述する円相当径の50%平均粒子径R50に対して、厚みZが十分に小さい粒子を意味する。また、「略平坦な面」とは、当該平板状粒子の投影面積が最大となる面を意味する。そして、本実施形態における光輝系顔料は、金属蒸着膜を破砕して作製されている。このため、略平坦な面と、略均一な厚みの金属粒子を得ることができる。従って、この平板状粒子の平面上の長径をX、短径をY、厚みをZと定義することができる。
【0033】
光輝系顔料の寸法に関し、光散乱法による球換算50%平均粒子径d50が0.8〜1.2μmとなっている。この「光散乱法による球換算50%平均粒子径d50」とは、以下のようにして得られる値である。すなわち、分散媒中の粒子に光を照射し、当該分散媒の前方・側方・後方にそれぞれ配置された検出器によって、発生する回折散乱光を測定する。この測定値を利用して、本来は不定形である粒子を、球形であると仮定し、当該粒子の体積と等しい球に換算された粒子集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その際の累積値が50%となる点を、「光散乱法による球換算50%平均粒子径(d50)」とする。測定装置としては、例えば、レーザー回折散乱式粒度分布測定器 LMS−2000e(株式会社セイシン企業製)などが挙げられる。
【0034】
また、光輝性顔料のX−Y平面の面積より求めた円相当径の50%平均粒子径R50が0.5〜3μmであることが望ましい。なお、「円相当径」は、光輝性顔料の平板状粒子の略平坦な面(X−Y平面)の投影面積と等しい面積を持つ円の直径である。この平均粒子径R50は、ノズル43からのインクの噴射安定性の観点から、0.5〜3μmであることがより好ましく、0.75〜2μmであることがより好ましい。50%平均粒子径R50が0.5μm未満の場合は、後述するメニスカスにおける面配向性が低下する虞がある。一方、50%平均粒子径R50が3μmを超える場合、噴射安定性が低下する虞がある。
【0035】
また、後述するように、メニスカスにおける光輝性顔料の配向性を確保する観点から、円相当径の50%平均粒子径R50と厚みZとの関係において、R50/Z>2を満たすことが望ましい。R50/Zが2以下の場合は、メニスカスにおける配向が困難となる虞がある。なお、厚みZについては、透過型電子顕微鏡、あるいは走査型電子顕微鏡を用いて測定され、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM,JEOL, JEM-2000EX)、電界放射走査型電子顕微鏡(FE-SEM, Hitachi, S-4700)などが挙げられる。そして、厚みZとは、平均厚みを意味し、前記測定を10回行った平均値とする。また、平板状粒子としては、上記の寸法・形状についても条件を満たすものであれば、必ずしも例示した光輝性顔料には限られず、他の種々の顔料を採用することもできる。
【0036】
本発明に係るプリンター1は、上記の平板状粒子を含むインクの性質を利用してノズル43からのインクの溶媒の蒸発を抑制し、インクの増粘を低減している点に特徴を有している。具体的には、記録媒体9に対する一連の印刷・記録処理(液体噴射動作)の後、ノズル43におけるメニスカスの気液界面に沿って平板状粒子の光輝性顔料を積極的に配向させて、当該メニスカスに膜を形成することで、溶媒の蒸発を抑制する。そして、本発明における制御手段として機能するプリンターコントローラー7およびヘッド制御部11は、メニスカスにおける光輝性顔料の配向を促進させる処理を実行する。本実施形態においては、図5(a)に示す噴射駆動パルスDPを用いた記録媒体9に対する画像等の記録処理の後に、ノズル43のメニスカスの振動を相殺するタイミングで、図5(b)に示す制振駆動パルスDPbを圧電振動子32に印加して駆動して当該メニスカスを制振させることで、当該メニスカスにおける光輝性顔料の配向を促進させる。以下、この点について説明する。
【0037】
図5は、駆動信号生成回路4によって生成される噴射駆動パルスDP(図5(a))、制振駆動パルスDPb(図5(b))、および、膜破駆動パルスDPd(図5(c))の構成の一例を説明する波形図である。
まず、図5(a)の噴射駆動パルスDPについて説明する。同図に示すように、噴射駆動パルスDPは、予備膨張部p11と、膨張ホールド部p12と、収縮部p13と、収縮ホールド部p14と、復帰膨張部p15とからなる。予備膨張部p11は、基準電位Vbから第1膨張電位VH1(VH1>Vb)まで一定勾配で電位がプラス側に変化(上昇)する波形要素であり、膨張ホールド部p12は、予備膨張部p11の終端電位である第1膨張電位VH1で一定な波形要素である。また、収縮部p13は、第1膨張電位VH1から基準電位Vbよりも低い第1収縮電位VL1まで電位がマイナス側に一定の勾配で変化(下降)する波形要素であり、収縮ホールド部p14は、第1収縮電位VL1で一定な波形要素であり、復帰膨張部p15は、第1収縮電位VL1から基準電位Vbまで電位が上昇して復帰する波形要素である。
【0038】
上記のように構成された噴射駆動パルスDPが圧電振動子32に印加されると、まず、予備膨張部p11によって圧電振動子32が素子長手方向に収縮し、これに伴って圧力室41が基準電位Vbに対応する基準容積から第1膨張電位VH1に対応する膨張容積まで膨張する(膨張工程)。この膨張により、ノズル43におけるメニスカスが圧力室41側に引き込まれると共に、圧力室41内にはリザーバー39側からインク供給口40を通じてインクが供給される。そして、この圧力室41の膨張状態は、膨張ホールド部p12の供給期間中に亘って維持される(ホールド工程)。膨張ホールド部p12による膨張状態が維持された後、収縮部p13が圧電振動子32に印加されてこれに応じて圧電振動子32が伸長する。これに伴い、圧力室41は膨張容積から第1収縮電位VL1に対応する収縮容積まで収縮される(加圧工程)。これにより、圧力室41内のインクが加圧されて、ノズル43メニスカスの中央部分が噴射側に押し出され、この押し出された部分が液柱のように伸びる。続いて、収縮ホールド部p14により、圧力室41の収縮状態が一定時間維持される。この間にメニスカスと液柱とが分離し、分離した部分がインク滴としてノズル43から噴射されて記録媒体9に向けて飛翔する。このインクの噴射によって減少した圧力室41内のインク圧力が再び上昇するタイミングにあわせて復帰膨張部p15が圧電振動子32に印加される。この復帰膨張部p15の印加により、圧力室41が定常容積まで膨張復帰する。なお、噴射駆動パルスDPとしては、例示したものには限られず、ノズル43からインクを噴射し得るものであれば、種々の波形のものを採用することができる。
【0039】
次に、図5(b)に示す制振駆動パルスDPbについて説明する。
制振駆動パルスDPbは、ノズル43からインクが噴射されない程度に、圧力室41内のインクに圧力変動を生じさせる波形であり、予備膨張部p21と、膨張ホールド部p22と、収縮部p23とからなる。予備膨張部p21は、基準電位Vbから第2膨張電位VH2まで一定勾配で電位がプラス側に変化(上昇)する波形要素であり、膨張ホールド部p22は、予備膨張部p21の終端電位である第2膨張電位VH2で一定な波形要素である。また、収縮部p23は、第2膨張電位VH2から基準電位Vbまで、ノズル43からインクが噴射されない程度の勾配で電位がマイナス側に変化(下降)する波形要素である。ここで、制振駆動パルスDPbの駆動電圧Vd2(最低電位である基準電位Vbから最高電位である第2膨張電位VH2までの電位差)は、噴射駆動パルスDPの駆動電圧Vd1(最低電位である第1収縮電位VL1から最高電位である第1膨張電位VH1までの電位差)よりも少し低く設定されている(Vd2<Vd1)。また、予備膨張部p21の電位勾配(単位時間あたりの電位変化率)θ3は、噴射駆動パルスDPの予備膨張部p11の電位勾配θ1と同程度に揃えられている(θ3≒θ1)。また、収縮部p23の電位勾配θ4は、噴射駆動パルスDPの収縮部p14の電位勾配θ2よりも十分に小さく設定されている(θ4<θ2)。
【0040】
上記のように構成された制振駆動パルスDPbが圧電振動子32に印加されると、まず、予備膨張部p21によって圧電振動子32が素子長手方向に収縮し、これに伴って圧力室41が基準電位Vbに対応する基準容積から第2膨張電位VH2に対応する膨張容積まで膨張する。この膨張により、ノズル43におけるメニスカスが圧力室41側に引き込まれると共に、圧力室41内にはリザーバー39側からインク供給口40を通じてインクが供給される。そして、この圧力室41の膨張状態は、膨張ホールド部p22の供給期間中に亘って維持される。膨張ホールド部p22による膨張状態が維持された後、収縮部p23が圧電振動子32に印加されてこれに応じて圧電振動子32が伸長する。これに伴い、圧力室41は膨張容積から基準容積まで比較的長い時間を掛けて収縮される。
【0041】
ここで、図6は、駆動パルスの波形と、この駆動パルスによって圧電振動子32を駆動したときのメニスカスの挙動(変位)を示すグラフを対応させて示した模式図であり、(a)は、噴射駆動パルスDPとこれによって生じるメニスカス振動との対応を示し、(b)は、制振駆動パルスDPbとこれにより生じるメニスカス振動との対応を示している。なお、振動波形において縦軸はメニスカスのノズル43における位置を示し、上側が噴射側、下側が圧力室側である。また、横軸は時間である。さらに、駆動パルスの波形において縦軸が電位、横軸が時間である。
図6(a)に示すように、噴射駆動パルスDPによって圧電振動子32を駆動することでノズル43からインクが噴射された後には、メニスカスに残留振動が生じる(破線部分)。この残留振動は、複数の周期の振動が重畳したものであるが、ここでは、比較的短い周期でメニスカスを変位させる振動、具体的には、固有振動周期Tcに着目する。これよりも周期の長い振動については、光輝性顔料の配向性に対する影響が少ないため、その説明については省略する。上記の周期Tcは、以下の式(1)で表される。
Tc=2π√[〔(Mn×Ms)/(Mn+Ms)〕×Cc]…(1)
上記式(1)において、Mnはノズル43におけるイナータンス、Msはインク供給口40におけるイナータンス、Ccは圧力室41におけるコンプライアンス(単位圧力あたりの容積変化、柔らかさの度合いを示す。)である。また、イナータンスとは、インク流路におけるインクの移動し易さを示し、単位断面積あたりのインクの質量である。そして、インクの密度をρ、流路のインク流れ方向と直交する面の断面積をS、流路の長さをLとしたとき、イナータンスMは次式(2)で近似して表すことができる。
イナータンスM=(密度ρ×長さL)/断面積S ・・・ (2)
【0042】
本発明に係るプリンターでは、記録媒体9に対する画像等の記録処理が終了した後、
すなわち、一連のインク噴射動作においてノズル43から最後にインクが噴射された後、当該ノズル43に対応する圧電振動子32を制振駆動パルスDPbによって駆動することにより、インク噴射後の残留振動を打ち消す制振振動を生じさせるようにしている。即ち、噴射駆動パルスDPが圧電振動子32に印加されることでノズル43からインクが噴射された後、当該ノズル43におけるメニスカスが噴射側に移動している状態(図6の例では、残留振動の変位が圧力室側から噴射側に反転するタイミング)で、制振駆動パルスDPbの予備膨張部p21が圧電振動子32に印加されるように、噴射駆動パルスDPと制振駆動パルスDPbとの発生間隔(時間Td)が設定されている。この時間Tdは、記録ヘッド8の製造時の検査段階等において、インク噴射時に圧力室41内に生じる残留振動の周期を測定し、測定された周期に応じて定められる。
【0043】
上記制振駆動パルスDPbによって圧電振動子32を駆動することにより、圧力室41には、図6(b)に示すように、圧力振動(制振振動)が生じる。そして、圧力室41内では、残留振動に制振振動が合成(相殺)されることにより、図6(a)に示すように、インク噴射後の振動の振幅が低減される(実線部分)。なお、本実施形態では、制振駆動パルスDPbの立ち上がりである予備膨張部p21によってメニスカスの残留振動を相殺する構成を例示したが、これには限られず、制振駆動パルスDPbの立ち下がりである収縮部p23によってメニスカスの残留振動を相殺する構成を採用することも可能である。
【0044】
図7は、ノズル43におけるインクに含まれる光輝系顔料Pgの分散の様子を説明する模式図であり、(a)は、一連のインク噴射動作においてノズル43から最後にインクが噴射された後、制振が行われる前の状態、(b)は、制振後(配向促進処理後)の状態をそれぞれ示している。同図に示すように、一連のインク噴射動作においてノズル43から最後にインクが噴射された後、制振が行われる前の状態では、メニスカスに残留振動が残った状態であるため、ノズル43におけるインクに含まれる光輝系顔料Pgは不規則に分散している。その後、メニスカスをさらに揺動させなければ、光輝系顔料Pgが自重によって次第に沈殿するため、図7(b)に示すように、メニスカスMの近傍の光輝系顔料Pgは、表面張力の作用により最も安定した姿勢に配向する。すなわち、メニスカスMの近傍の各光輝系顔料Pgは、当該メニスカスMにおける気液界面に上記の平坦面を沿わせた状態でそれぞれ配向する。このように配向した光輝系顔料Pgにより、当該メニスカスMに膜が形成される。そして、この膜によってノズル43からのインクの溶媒の蒸発が低減される。そして、本発明に係るプリンター1では、上記の制振駆動パルスDPbを用いてインク噴射後のメニスカスMの残留振動を制振させて当該メニスカスMにおける光輝系顔料Pgの配向を促進することで、より速やかに膜が形成されるので、インク溶媒の蒸発をより確実に低減することが可能となる。これにより、従来のプリンターで行われていたフラッシング処理やクリーニング処理の回数を低減することができ、スループットの向上やインク消費量の削減が可能となる。
【0045】
また、本発明に係るプリンター1では、メニスカスMに膜が形成された状態から、次のインク噴射動作の開始に先立って、図5(c)の膜破駆動パルスDPdを圧電振動子32に印加して駆動することにより、メニスカスに形成された膜を破る処理が行われる。
上記の膜破駆動パルスDPdは、第1膨張部p31と、第1膨張ホールド部p32と、第1収縮部p33と、中間ホールド部p34と、第2膨張部p35と、第2膨張ホールド部p36と、第2収縮部p37とからなる。第1膨張部p31は、基準電位Vbから当該基準電位Vbよりも高い第3膨張電位VH3まで電位がプラス側に変化する波形要素であり、第1膨張ホールド部p32は、第1膨張部p31の終端電位である第3膨張電位VH3で一定な波形要素である。また、第1収縮部p33は、第3膨張電位VH3から中間電位VM(Vb<VM<VH3)まで電位がマイナス側に変化する波形要素であり、中間ホールド部p34は、中間電位VMで一定な波形要素である。さらに、第2膨張部p35は、中間電位VMから第4膨張電位VH4(VM<VH4<VH3))まで電位がプラス側に変化する波形要素であり、第2膨張ホールド部p36は、第2膨張部p35の終端電位である第4膨張電位VH4で一定な波形要素である。そして、第2収縮部p37は、第4膨張電位VH4から基準電位Vbまで電位がマイナス側に一定の勾配で変化する波形要素である。なお、第1膨張部p31、第1膨張ホールド部p32、および、第1収縮部p33は、第1の圧力変動部を構成し、第2膨張部p35、第2膨張ホールド部p36、および、第2収縮部p37は、第2の圧力変動部を構成している。なお圧力変動部とは、メニスカスを圧力室41側に引き込んだ後、当該メニスカスを噴射側に押し出すように、圧電振動子32を駆動して圧力室41内のインクに圧力変動を生じさせ得る波形成分を意味する。
【0046】
この膜破駆動パルスDPdは、他の噴射駆動パルスDP等と比較して、メニスカスをより急峻に変位させて、メニスカスに対して局所的により強い力を作用することができるように構成されている。具体的には、第1膨張部p31の電位勾配θ5は、噴射駆動パルスDPの予備膨張部p11の電位勾配θ1および制振駆動パルスDPbの予備膨張部p21の電位勾配θ3よりも大きく設定されている(θ5>θ1、θ5>θ3)。これにより、メニスカスM(特に、後述するように、メニスカス中央部)をより速く変位させることができる。同様に、第1収縮部p33の電位勾配θ6は、噴射駆動パルスDPの収縮部p13の電位勾配θ2および制振駆動パルスDPbの収縮部p23の電位勾配θ4よりも十分に大きく設定されている(θ6>θ2、θ6>θ4)。さらに、膜破駆動パルスDPdは、前半の第1の圧力変動部と、後半の第2の圧力変動部との2つの圧力変動部を有するので、メニスカスをより大きく揺動させることができる。なお、本実施形態における第2の圧力変動部の第2膨張部p35の電位勾配は、第1膨張部p31の電位勾配θ5と同程度に揃えられている。同様に、第2収縮部p37の電位勾配は、第1収縮部p33の電位勾配θ6と同程度に揃えられている。
【0047】
図8は、膜破駆動パルスDPdが圧電振動子32に印加されることによりノズル43のメニスカスにおける膜が破壊される様子を説明する模式図(ノズル軸方向の断面図)である。上記のように構成された膜破駆動パルスDPdが圧電振動子32に印加されると、まず、第1膨張部p31によって圧電振動子32は素子長手方向に収縮し、これに伴って圧力室41が基準電位Vbに対応する基準容積から第3膨張電位VH3に対応する膨張容積まで比較的速い速度で膨張する。この膨張により、図8(a)に示すように、ノズル43におけるメニスカスが圧力室41側に急激に引き込まれると共に、圧力室41内にはリザーバー39側からインク供給口40を通じてインクが供給される。そして、この圧力室41の膨張状態は、第1膨張ホールド部p32の供給期間中に亘って維持される。
【0048】
第1膨張ホールド部p32による膨張状態が維持された後、第1収縮部p33が圧電振動子32に印加されることで、当該圧電振動子32が急激に伸長して圧力室41内の容積が膨張容積から中間電位VMに対応する中間容積まで収縮される。この圧力室41容積の急激な収縮によって圧力室41内のインクが加圧されて、図8(b)に示すように、ノズル43におけるメニスカスの中央部分が噴射側に押し出され、この押し出された部分が液柱のように伸びる。続いて、中間ホールド部p34により、中間容積が僅かな時間だけ維持される。これにより、圧電振動子32の伸長が一時的に停止される。この間にノズル43におけるメニスカスの中央部に形成された液柱部は、慣性力によって噴射側に移動を続ける。
【0049】
中間ホールド部p34によるホールドの後、第2膨張部p35が圧電振動子32に印加されることで、圧電振動子32が収縮して圧力室41が中間容積から第4膨張電位VH4に対応する膨張容積まで再度膨張する。これにより、図8(c)に示すように、メニスカスにおける液柱部の周囲が圧力室35側に引き込まれる。一方、液柱部は、第1収縮部p33による加圧によって噴射側に押し出されたときの慣性力により、噴射側にさらに移動を続ける。続いて、第2収縮部p37によって圧電振動子32が伸長し、圧力室41の容積が膨張容積から基準容積まで収縮される。これにより、メニスカス全体が噴射方向に押し出され、液柱の後端部分が加速される。そして、図8(d)に示すように、メニスカスと液柱とが分離し、分離した部分がインク滴としてノズル43から噴射されて記録媒体9に向けて飛翔する。そして、この膜破駆動パルスDPdは、他の噴射駆動パルスDP等と比較して、メニスカスをより急峻に変位させて、メニスカスに対して局所的により強い力を作用することができるので、メニスカスに形成された光輝系顔料Pgの膜を破って、当該光輝系顔料Pgを分散させることができる。これにより、次のインク噴射動作を行う際に、ノズル43からインクを円滑に噴射させることが可能となる。なお、本実施形態において、膜破駆動パルスDPdを用いたメニスカスに形成された膜を破る処理ではノズル43からインクが噴射されるが、これには限られず、メニスカスに形成された膜を破ることができれば、ノズル43からインクを噴射させなくても良い。すなわち、膜破駆動パルスDPdに関し、駆動電圧Vd3(最低電位である基準電位Vbから最高電位である第3膨張電位VH3までの電位差)をより低く設定することで、ノズル43からインクが噴射されない程度にメニスカスを揺動する波形としても良い。
【0050】
なお、本発明は、上記した第1の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。
【0051】
例えば、メニスカスにおける光輝性顔料の配向促進処理に関し、上記第1の実施形態では、制振駆動パルスDPbを圧電振動子32に印加して駆動して当該メニスカスを制振させることで、当該メニスカスにおける光輝性顔料の配向を促進させる例を示したが、これには限られない。例えば、図9および図10に示す第2実施形態のように、メニスカスの所定の変位により、光輝性顔料の配向を促進させることもできる。
図9は、第2実施形態において配向促進処理に用いられる配向促進駆動パルスDPeの構成を説明する波形図である。また、図10は、配向促進駆動パルスDPeによるメニスカスの変位を説明する模式図である。この配向促進駆動パルスDPeは、ノズル43からインクが噴射されない程度にメニスカスを変位させる波形であり、膨張部p41と、膨張ホールド部p42と、収縮部p43とからなる。膨張部p41は、基準電位Vbから第5膨張電位VH5(VH5>Vb)まで一定勾配で電位がプラス側に変化(上昇)する波形要素であり、膨張ホールド部p42は、膨張部p41の終端電位である第5膨張電位VH5で一定な波形要素である。また、収縮部p43は、第5膨張電位VH5から基準電位Vbまで、ノズル43からインクが噴射されない程度の勾配で電位がマイナス側に変化する波形要素である。ここで、配向促進駆動パルスDPeの駆動電圧Vd4(最低電位である基準電位Vbから最高電位である第5膨張電位VH5までの電位差)は、噴射駆動パルスDPの駆動電圧Vd1よりも大きく設定されている(Vd4>Vd1)。また、膨張部p41の電位勾配θ7は、噴射駆動パルスDPの予備膨張部p11の電位勾配θ1よりも十分に小さく設定されている(θ7<θ1)。また、収縮部p43の電位勾配θ8は、噴射駆動パルスDPの収縮部p14の電位勾配θ2よりも十分に小さく設定されている(θ8<θ2)。
【0052】
上記のように構成された配向促進駆動パルスDPeが圧電振動子32に印加されると、まず、膨張部p41によって圧電振動子32が素子長手方向に収縮し、これに伴って圧力室41が基準電位Vbに対応する基準容積から第5膨張電位VH5に対応する膨張容積まで膨張する。この膨張により、ノズル43におけるメニスカスが、ストレート部43a内の定常位置(圧力室41が基準容積であるときのメニスカスの位置)から圧力室41側に引き込まれると共に、圧力室41内にはリザーバー39側からインク供給口40を通じてインクが供給される。上記のように、配向促進駆動パルスDPeの駆動電圧Vd4は、他の駆動パルスと比較して大きく設定されているので、圧電振動子32がより大きく収縮し、これに伴って、メニスカスも圧力室41側により大きく引き込まれる。具体的には、メニスカス全体が、ノズル43のストレート部43aとテーパー部43bの境界部を超えてテーパー部43b側まで変位する。テーパー部43bの内径(内法)は、ストレート部37aの内径(内法)よりも大きいため、メニスカスの表面積が一時的に拡大される。
【0053】
圧力室41の膨張状態は、膨張ホールド部p42の供給期間中に亘って維持される。膨張ホールド部p42による膨張状態が維持された後、収縮部p43が圧電振動子32に印加され、これに応じて圧電振動子32が伸長する。これに伴い、圧力室41は膨張容積から基準容積まで比較的長い時間を掛けて収縮される。これにより、テーパー部43bに位置していたメニスカスが、ストレート部37aまで再度移動し、圧力室41の基準容積に対応する定常位置まで復帰する。このようにメニスカスの表面積を一時的に拡大した後、当該表面積を元の大きさに戻すようにメニスカスを比較的ゆっくり変位させることにより、メニスカスに光輝系顔料を凝集させることができ、当該光輝系顔料の配向を促進させることができる。なお、その他の構成については、上記の第1実施形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0054】
また、第1の実施形態における光輝性顔料の配向促進処理に関し、インクの噴射に伴うメニスカスの振動を制振させる構成を例示したが、これには限られない。例えば、キャリッジ12(記録ヘッド8)の移動に伴う振動など、他の振動についても制振するように構成しても良い。より具体的には、例えば、上記の検出器群6の一つとしてキャリッジ12の加速度センサーを設け、当該加速度センサーの検出値に基づいてメニスカスに生じる振動の周期や大きさを把握し、当該振動を相殺するタイミングで制振駆動パルスを圧電振動子32に印加することで、当該振動を制振する構成を採用することも可能である。
【0055】
さらに、上記各実施形態では、記録媒体9に対して記録ヘッド8を移動させながらインクの噴射を行う構成を例示したが、これには限られない。例えば、記録ヘッド8の位置を固定した状態で、当該記録ヘッド8に対して記録媒体9を移動させながらインクの噴射を行う構成を採用することもできる。要は、記録ヘッド8と記録媒体9とが相対移動しながらインクを噴射して記録媒体9にインクを着弾させる構成であれば、本発明を適用することができる。
【0056】
また、上記実施形態では、圧力発生手段として、所謂縦振動型の圧電振動子32を例示したが、これには限られず、例えば、所謂撓み振動型の圧電振動子を採用することも可能である。この場合、上記実施形態で例示した各駆動パルスに関し、電位の変化方向、つまり上下が反転した波形となる。
さらに、圧力発生手段としては圧電振動子には限らず、圧力室内に気泡を発生させる発熱素子や静電気力を利用して圧力室の容積を変動させる静電アクチュエーター等の各種圧力発生手段を用いる場合にも本発明を適用することができる。
【0057】
そして、以上では、液体噴射装置の一種であるインクジェット式プリンター1を例に挙げて説明したが、本発明は、駆動パルスを用いて液体の噴射を行う他の液体噴射装置にも適用することができる。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターを製造するディスプレイ製造装置,有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイやFED(面発光ディスプレイ)等の電極を形成する電極製造装置,バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置,ごく少量の試料溶液を正確な量供給するマイクロピペットにも適用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1…プリンター,2…搬送機構,3…キャリッジ用移動機構,4…駆動信号生成回路,6…検出器群,7…プリンターコントローラー,8…記録ヘッド,9…記録媒体,11…ヘッド制御部,12…キャリッジ,32…圧電振動子,41…圧力室,43…ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルに連通する圧力室の容積を変動させる圧力発生手段を駆動することで前記ノズルから液体を噴射可能な液体噴射ヘッドと、
前記圧力発生手段を駆動してノズルから前記液体を噴射させる噴射駆動パルスを複数含む駆動信号を繰り返し発生する駆動信号発生手段と、
前記駆動信号発生手段から発生される噴射駆動パルスを前記圧力発生手段に印加することで前記液体噴射ヘッドのノズルからの液体噴射を制御する制御手段と、
を備える液体噴射装置であって、
前記液体は、固形分として平板状粒子を含み、
前記制御手段は、前記液体噴射ヘッドによる液体噴射動作の後、前記ノズルにおけるメニスカスの気液界面に沿った前記平板状粒子の配向を促進させる処理を実行することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記液体噴射動作後において、メニスカスの振動を相殺するタイミングで前記圧力発生手段を駆動して当該メニスカスを制振させることで、平板状粒子の配向を促進させることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記圧力発生手段を駆動することにより、前記メニスカスを、前記圧力発生手段を駆動する前の定常位置から前記圧力室側に引き込んだ後、前記定常位置に戻すことで、平板状粒子の配向を促進させることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記液体噴射動作の開始に先立って、前記圧力発生手段を駆動することにより、平板状粒子の配向によりメニスカスに形成された膜を破る処理を行うことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−245713(P2012−245713A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119854(P2011−119854)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】