液体噴射装置
【課題】誤噴射を有効に防止しながら微振動により液体を充分に撹拌する。
【解決手段】圧電振動子422は、駆動信号COMに応じて圧力室50内の圧力を変動させて圧力室50内のインクをノズル56から噴射する。駆動信号COMは、インクが噴射されない程度に圧力室50内の圧力を変化させる微振動パルスPSを含む。微振動パルスPSは、圧電振動子422に圧力室50を加圧させる負方向に基準電位VREFから電位が変化する第1変化要素Wv1と、第1変化要素Wv1の後に発生して正方向に基準電位VREFを跨いで電位が変化する第2変化要素Wv2と、第2変化要素Wv2の後に発生して負方向に基準電位VREFまで電位が変化する第3変化要素Wv3とを含む。
【解決手段】圧電振動子422は、駆動信号COMに応じて圧力室50内の圧力を変動させて圧力室50内のインクをノズル56から噴射する。駆動信号COMは、インクが噴射されない程度に圧力室50内の圧力を変化させる微振動パルスPSを含む。微振動パルスPSは、圧電振動子422に圧力室50を加圧させる負方向に基準電位VREFから電位が変化する第1変化要素Wv1と、第1変化要素Wv1の後に発生して正方向に基準電位VREFを跨いで電位が変化する第2変化要素Wv2と、第2変化要素Wv2の後に発生して負方向に基準電位VREFまで電位が変化する第3変化要素Wv3とを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液体を噴射する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電振動子や発熱素子等の圧力発生素子により圧力室内の圧力を変化させることで圧力室内の液体(例えばインク)をノズルから噴射する液体噴射技術が従来から提案されている。液体噴射技術では、圧力室内の液体の増粘を低減して安定的な噴射を実現する観点から、液体が噴射されない程度の微振動を圧力室内に付与することで液体を適度に撹拌する構成が採用される。圧力室の微振動は圧力発生素子に対する微振動パルスの供給で発生する。
【0003】
特許文献1には図10の波形の微振動パルスQAが開示されている。図10の微振動パルスQAは、圧力室内を減圧させる方向(圧力室を膨張させる方向)に電位が変化する第1変化要素Ea1と、第1変化要素Ea1の終端の電位を維持する維持要素Ea2と、圧力室内を加圧させる方向に電位が変化する第2変化要素Ea3とを含む台形状に生成される(減圧→加圧)。
【0004】
また、特許文献2には図11の波形の微振動パルスQBが開示されている。図11の微振動パルスQBは、圧力室内を減圧させる方向に電位が変化する第1変化要素Eb1と、第1変化要素Eb1の終端の電位から圧力室内を加圧させる方向に電位が変化する第2変化要素Eb2と、第2変化要素Eb2の終端の電位から圧力室内を減圧させる方向に電位が変化する第3変化要素Eb3とを含んで構成される(減圧→加圧→減圧)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−113858号公報
【特許文献2】特開2005−280199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や特許文献2の技術のもとで微振動により液体を充分に撹拌するためには、微振動パルスの振幅を増加させる必要がある。しかし、図10や図11の微振動パルスの振幅を増加させた場合、圧力発生素子に対する第2変化要素(Ea3,Eb2)の供給時に圧力室が過剰に加圧されて液体がノズルから誤噴射する可能性がある。以上の事情を考慮して、本発明は、誤噴射を有効に防止しながら微振動により液体を充分に撹拌することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するために本発明が採用する手段を説明する。なお、本発明の理解を容易にするために、以下の説明では、本発明の要素と後述の実施形態の要素との対応を括弧書で付記するが、本発明の範囲を実施形態の例示に限定する趣旨ではない。
【0008】
本発明の液体噴射装置は、圧力発生手段(例えば圧電振動子422)により圧力室(例えば圧力室50)内の圧力を変動させて圧力室内の液体をノズルから噴射する液体吐出部(例えば記録ヘッド22)と、圧力発生手段を作動させる駆動信号(例えば駆動信号COM)を生成する駆動信号生成部(例えば駆動信号発生部64)とを具備する液体噴射装置(例えば印刷装置100)であって、駆動信号は、ノズルから液体が噴射されない程度に圧力室内の圧力を変化させる微振動パルス(例えば微振動パルスPS)を含み、微振動パルスは、圧力発生手段に圧力室を加圧させる第1方向に基準電位(例えば基準電位VREF)から電位が変化する第1変化要素(例えば第1変化要素Wv1)と、第1変化要素の後に発生して第1方向とは反対の第2方向に基準電位を跨いで電位が変化する第2変化要素(例えば第2変化要素Wv2)と、第2変化要素の後に発生して第1方向に基準電位まで電位が変化する第3変化要素(例えば第3変化要素Wv3)とを含む。
【0009】
以上の構成においては、第1変化要素による圧力室の加圧後に第2変化要素で圧力室が減圧され、第2変化要素による圧力室の減圧後に第3変化要素で圧力室が加圧される。すなわち、圧力室の加圧工程が減圧工程の前後に分散される。以上の構成によれば、特許文献1や特許文献2の構成(微振動パルスの供給で圧力室が1回だけ加圧される構成)と比較して、1回の加圧における圧力室の圧力変動が低減される。したがって、圧力室内の液体が充分に撹拌されるように微振動パルスの振幅を充分に確保した場合でも、圧力室の加圧に起因した液体の誤噴射を防止することが可能である。
【0010】
本発明の好適な態様において、微振動パルスは、第1変化要素と第2変化要素とを連結するとともに第1変化要素の終端の電位を維持する第1維持要素(例えば第1維持要素Wh1)を含み、圧力室内のヘルムホルツ共振周期TCに対し、第1維持要素の時間長(例えば時間長Th1)と第2変化要素の時間長(例えば時間長Tv2)との合計時間(例えば合計時間LA)は、3TC/4以上かつ5TC/4以下に設定される。以上の態様においては、第1維持要素と第2変化要素の合計時間が3TC/4以上かつ5TC/4以下に設定されるから、第1変化要素の供給で圧力室に発生する圧力変動(例えば圧力変動X1)が第2変化要素の供給で迅速に抑制される。したがって、圧力室内の圧力変動の継続に起因した不具合(例えば液体の誤噴射や圧力室内への気泡の引込や噴射量の誤差)を防止することが可能である。第1変化要素に起因した圧力変動を第2変化要素の供給で抑制する作用は、第1維持要素と第2変化要素との合計時間を7TC/8以上かつ9TC/8以下に設定した態様で更に有効となり、第1維持要素と第2変化要素との合計時間をTCに設定した態様で格別に顕著となる。
【0011】
本発明の好適な態様において、微振動パルスは、第2変化要素と第3変化要素とを連結するとともに第2変化要素の終端の電位を維持する第2維持要素(例えば第2維持要素Wh2)を含み、圧力室内のヘルムホルツ共振周期TCに対し、第2維持要素の時間長(例えば時間長Th2)と第3変化要素の時間長(例えば時間長Tv3)との合計時間(例えば合計時間LB)は、3TC/4以上かつ5TC/4以下に設定される。以上の態様においては、第2維持要素と第3変化要素との合計時間が3TC/4以上かつ5TC/4以下に設定されるから、第2変化要素の供給で圧力室に発生する圧力変動(例えば圧力変動X12)が第3変化要素の供給で迅速に抑制される。したがって、圧力室内の圧力変動の継続に起因した不具合(例えば液体の誤噴射や圧力室内への気泡の引込や噴射量の誤差)を防止することが可能である。第2変化要素に起因した圧力変動を第3変化要素の供給で抑制する作用は、第2維持要素と第3変化要素との合計時間を7TC/8以上かつ9TC/8以下に設定した態様で更に有効となり、第2維持要素と第3変化要素との合計時間をTCに設定した態様で格別に顕著となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態に係る印刷装置の部分的な模式図である。
【図2】記録ヘッドの断面図である。
【図3】印刷装置の電気的な構成のブロック図である。
【図4】駆動信号の波形図である。
【図5】記録ヘッドの電気的な構成のブロック図である。
【図6】微振動パルスの波形図である。
【図7】第2実施形態における第1維持要素の時間長の説明図である。
【図8】第2実施形態における第2維持要素の時間長の説明図である。
【図9】変形例における微振動パルスの波形図である。
【図10】特許文献1に開示された微振動パルスの波形図である。
【図11】特許文献2に開示された微振動パルスの波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<A:第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るインクジェット方式の印刷装置100の部分的な模式図である。印刷装置100は、微細な液滴状のインクを記録紙200に噴射する液体噴射装置であり、キャリッジ12と移動機構14と用紙搬送機構16とを含んで構成される。キャリッジ12には、液体吐出部として機能する記録ヘッド22が設置されるとともに、記録ヘッド22に供給されるインクを貯留するインクカートリッジ24が着脱可能に搭載される。なお、印刷装置100の筐体(図示略)にインクカートリッジ24を固定して記録ヘッド22にインクを供給する構成も採用され得る。
【0014】
移動機構14は、案内軸32に沿ってキャリッジ12を主走査方向(図1の矢印が示す記録紙200の幅方向)に往復させる。キャリッジ12の位置は、リニアエンコーダ等の検出器(図示略)で検出されて移動機構14の制御に利用される。用紙搬送機構16は、キャリッジ12の往復に並行して記録紙200を副走査方向に搬送する。キャリッジ12の往復時に記録ヘッド22が記録紙200にインクを噴射することで所望の画像が記録紙200に記録(印刷)される。なお、キャリッジ12の往復の端点の近傍には、記録ヘッド22のノズル形成面を封止するキャップ34や、ノズル形成面を払拭するワイパー36が設置される。
【0015】
図2は、記録ヘッド22の断面図(主走査方向に垂直な断面)である。図2に示すように、記録ヘッド22は、振動ユニット42と収容体44と流路ユニット46とを具備する。振動ユニット42は、圧電振動子422とケーブル424と固定板426と含んで構成される。圧電振動子422は、圧電材料と電極とが交互に積層された縦振動型の圧電素子であり、ケーブル424を介して供給される駆動信号に応じて振動する。圧電振動子422を固定した固定板426が収容体44の内壁面に接合された状態で振動ユニット42は収容体44に収容される。
【0016】
流路ユニット46は、相互に対向する基板462と基板464との間隙に流路形成板466を介挿した構造体である。流路形成板466は、圧力室50と供給路52と貯留室54とを含む空間を基板462と基板464との間隙に形成する。圧力室50は、振動ユニット42毎に隔壁で個別に区画されるとともに供給路52を介して貯留室54に連通する。各圧力室50に対応する複数のノズル(吐出口)56が基板462に列状に形成される。各ノズル56は、圧力室50を外部に連通させる貫通孔である。インクカートリッジ24から供給されるインクは貯留室54に貯留される。以上の説明から理解されるように、貯留室54から供給路52と圧力室50とノズル56とを経由して外部に至るインクの流路が形成される。
【0017】
基板464は、弾性材料で形成された平板材である。基板464のうち圧力室50の反対側の領域には島状の振動板48が形成される。振動板48には圧電振動子422の先端面(自由端)が接合される。したがって、駆動信号の供給により圧電振動子422が振動すると、振動板48を介して基板464が変位することで圧力室50の容積が変化して圧力室50内のインクの圧力が変動する。すなわち、圧電振動子422は、圧力室50内の圧力を変動させる圧力発生手段として機能する。以上に説明した圧力室50内の圧力の変動に応じてノズル56からインクを噴射することが可能である。
【0018】
図3は、印刷装置100の電気的な構成のブロック図である。図3に示すように、印刷装置100は、制御装置102と印刷処理部(プリントエンジン)104とを具備する。制御装置102は、印刷装置100の全体を制御する要素であり、制御部60と記憶部62と駆動信号発生部64と外部I/F(interface)66と内部I/F68とを含んで構成される。記録紙200に印刷される画像を示す印刷データが外部装置(例えばホストコンピュータ)300から外部I/F66に供給され、内部I/F68には印刷処理部104が接続される。印刷処理部104は、制御装置102による制御のもとで記録紙200に画像を記録する要素であり、前述の記録ヘッド22と移動機構14と用紙搬送機構16とを含んで構成される。
【0019】
記憶部62は、制御プログラム等を記憶するROMと、画像の印刷(ノズル56毎のインクの吐出)に必要な各種のデータを一時的に記憶するRAMとを含んで構成される。制御部60は、記憶部62に記憶された制御プログラムの実行で印刷装置100の各要素(例えば印刷処理部104の移動機構14や用紙搬送機構16)を統括的に制御する。また、制御部60は、外部装置300から外部I/F66に供給される印刷データを、記録ヘッド22の各ノズル56からのインクの噴射/非噴射を圧電振動子422毎に指示する噴射データDに変換する。
【0020】
駆動信号発生部64は、駆動信号COMを生成する。駆動信号COMは、各圧電振動子422を駆動する周期信号である。図4に示すように、駆動信号COMの1周期(記録周期)に相当する期間内には噴射パルスDPと微振動パルスPSとが配置される。噴射パルスDPは、圧電振動子422に供給された場合に所定量のインクがノズル56から噴射するように圧力室50を振動させる駆動パルスであり、電位VDHと電位VDLとの間で電位が変動する波形に成形される。具体的には、噴射パルスDPは、所定の基準電位VREFから高位側の電位VDHに上昇する波形部と、電位VDHから基準電位VREFを跨いで低位側の電位VDLに低下する波形部と、電位VDLから基準電位VREFに上昇する波形部とを含んで構成される。
【0021】
他方、微振動パルスPSは、圧電振動子422に供給された場合に圧力室50内のインクがノズル56から噴射されない程度に圧力室50内の圧力を変化させる駆動パルスであり、電位VHと電位VLとの間で電位が変動する波形に成形される。圧電振動子422に対する微振動パルスPSの供給で圧力室50内のインクが撹拌されるから、圧力室50内のインクの増粘が低減される。図4に示すように、微振動パルスPSの高位側の電位VHは噴射パルスDPの電位VDHを下回り、微振動パルスPSの低位側の電位VLは噴射パルスDPの電位VDLを上回る。すなわち、微振動パルスPSの電位振幅APS(APS=VH−VL)は、噴射パルスDPの電位振幅ADP(ADP=VDH−VDL)を下回る。例えば、微振動パルスPSの電位振幅APSは7.0V(ボルト)程度に設定される。
【0022】
図5は、記録ヘッド22の電気的な構成の模式図である。図5に示すように、記録ヘッド22は、相異なるノズル56(圧電振動子422)に対応する複数の駆動回路220を含んで構成される。駆動信号発生部64が生成した駆動信号COMは、内部I/F68を介して複数の駆動回路220に共通に供給される。また、制御部60が生成した噴射データDは内部I/F68を介して各駆動回路220に供給される。
【0023】
各駆動回路220は、噴射データDに応じた駆動パルスを駆動信号COMから選択して圧電振動子422に供給する。具体的には、噴射データDがインクの噴射を指示する場合、駆動回路220は、駆動信号COMの噴射パルスDPを選択して圧電振動子422に供給する。したがって、圧力室50内のインクがノズル56から記録紙200に噴射される。他方、噴射データDがインクの非噴射(噴射の停止)を指示する場合、駆動回路220は、駆動信号COMの微振動パルスPSを選択して圧電振動子422に供給する。したがって、圧力室50内のインクは噴射されずに適度に撹拌される。
【0024】
図6は、駆動信号COMの微振動パルスPSの波形図である。図6の縦軸は電位を意味し、横軸は時間を意味する。図6に示すように、微振動パルスPSは、第1変化要素Wv1と第1維持要素Wh1と第2変化要素Wv2と第2維持要素Wh2と第3変化要素Wv3とを以上の順番で連結した波形である。第1変化要素Wv1および第3変化要素Wv3の各々の時間長は例えば4.0μs程度に設定され、第2変化要素Wv2の時間長は例えば4.5μs程度に設定される。また、第1維持要素Wh1および第2維持要素Wh2の各々の時間長は例えば4.5μs程度に設定される。
【0025】
第1変化要素Wv1は、所定の基準電位VREFから電位VLまで負方向(電位が減少する方向)に所定の勾配で電位が変動する波形部である。第1変化要素Wv1が供給されると圧電振動子422は圧力室50を加圧する。すなわち、圧力室50が収縮するように振動板48(圧電振動子422の先端部)が変位する。
【0026】
第1維持要素Wh1は、第1変化要素Wv1に後続するとともに第1変化要素Wv1と第2変化要素Wv2とを連結する波形部であり、第1変化要素Wv1の終端の電位VLを維持する。したがって、圧力室50内の圧力が第1変化要素Wv1の終端での圧力に維持された状態で圧電振動子422の動作(振動板48の変位)が停止する。圧電振動子422の振動が停止した状態が図6では「待機」と表記されている。
【0027】
第2変化要素Wv2は、第1維持要素Wh1に後続する波形部であり、第1維持要素Wh1の終端(第1変化要素Wv1の終端)の電位VLから電位VHまで、第1変化要素Wv1での電位変化とは反対の正方向(電位が増加する方向)に所定の勾配で電位が変動する。第2変化要素Wv2が供給されると圧電振動子422は圧力室50を減圧する。すなわち、圧力室50が膨張するように振動板48が変位する。
【0028】
第2変化要素Wv2での電位の変化量APSは、第1変化要素Wv1での電位の変化量A1(A1=VREF−VL)を上回る。したがって、第2変化要素Wv2では基準電位VREFを跨いで電位が変動する。具体的には、第1変化要素Wv1での電位の変化量A1は、第2変化要素Wv2での電位の変化量APSの約半分(3.5V)に設定される。
【0029】
第2維持要素Wh2は、第2変化要素Wv2に後続するとともに第2変化要素Wv2と第3変化要素Wv3とを連結する波形部であり、第2変化要素Wv2の終端の電位VHを維持する。したがって、圧力室50内の圧力が第2変化要素Wv2の終端での圧力に維持された状態で圧電振動子422の動作が停止する。
【0030】
第3変化要素Wv3は、第2維持要素Wh2に後続する波形部であり、第2維持要素Wh2の終端(第2変化要素Wv2の終端)の電位VHから基準電位VREFまで、第2変化要素Wv2の電位変化とは反対の負方向に所定の勾配で電位が変動する。第3変化要素Wv3が供給されると圧電振動子422は圧力室50を加圧する。すなわち、圧力室50が収縮するように振動板48が変位する。
【0031】
第3変化要素Wv3での電位の変化量A2(A2=VH−VREF)は、第2変化要素Wv2での電位の変化量APSを下回る。具体的には、第3変化要素Wv3での電位の変化量A2は、第2変化要素Wv2の電位の変化量APSと第1変化要素Wv1の電位の変化量A1との差分(A2=APS−A1)の電圧(3.5V)に設定される。
【0032】
以上に説明したように、第1実施形態では、第1変化要素Wv1による圧力室50の加圧後に第2変化要素Wv2で圧力室50が減圧され、第2変化要素Wv2による圧力室50の減圧後に第3変化要素Wv3で圧力室50が加圧される(加圧→減圧→加圧)。すなわち、圧力室50を加圧する工程が、圧力室50を減圧する工程の前後に分散される。以上の構成によれば、図10の微振動パルスQAや図11の微振動パルスQBを使用した場合(微振動パルスの供給で圧力室が1回だけ加圧される場合)と比較して、1回の加圧における圧力室50の圧力変動が低減される。したがって、圧力室50内のインクが有効に撹拌されるように微振動パルスPSの電位振幅APSを充分に確保した場合でも、圧力室50の加圧に起因したインクの誤噴射が防止されるという利点がある。
【0033】
<B:第2実施形態>
本発明の第2実施形態を以下に説明する。なお、以下に例示する各態様において機能や作用が第1実施形態と同等である要素については、以上の説明で参照した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0034】
第1変化要素Wv1の供給で圧力室50を加圧すると、直後の第1維持要素Wh1の供給で圧電振動子422(振動板48)の振動を停止させた以後も、圧力室50内の周期的な圧力変動は継続する。しかし、圧力室50内の圧力変動が長期にわたって継続すると、他の圧力室50から到来する振動との干渉等の影響で、圧力室50内の圧力が過度に上昇してインクが誤噴射されたり、圧力室50内の圧力が過度に低下してノズル56から圧力室50内に気泡が引込まれたりする可能性がある。また、インクの誤噴射や気泡の引込までは発生しない場合でも、圧力室50内の圧力変動が次回のインクの噴射時まで継続することでインクの噴射量に誤差(目標値との相違)が発生する可能性がある。したがって、第1変化要素Wv1の供給で発生した圧力室50内の圧力変動は、第1変化要素Wv1の終了後に迅速に制動されることが望ましい。第2変化要素Wv2の供給で発生する圧力室50内の周期的な圧力変動についても同様であり、第2変化要素Wv2の終了後に迅速に制動されることが望ましい。
【0035】
以上の事情を考慮して、第2実施形態では、第1変化要素Wv1の供給で発生した圧力室50内の圧力変動が第2変化要素Wv2の供給で抑制(相殺)され、かつ、第2変化要素Wv2の供給で発生した圧力室50内の圧力変動が第3変化要素Wv3の供給で抑制されるように、微振動パルスPSの波形(各要素の時間長)が設定される。
【0036】
図7の部分(A)は、第1変化要素Wv1と第1維持要素Wh1とを圧電振動子422に単独で(微振動パルスPSの他の要素を供給せずに)供給した場合の圧力室50内の圧力変動を意味し、図7の部分(B)は、静止状態にある圧電振動子422に第2変化要素Wv2と第2維持要素Wh2とを単独で供給したと仮定した場合の圧力室50内の圧力変動を意味する。
【0037】
図7の部分(A)に示すように、第1変化要素Wv1の供給による圧電振動子422の振動で圧力室50内の圧力を強制的に上昇させると、第1維持要素Wh1の始点th1(第1変化要素Wv1の終点)にて圧電振動子422の振動が停止した以後も、圧力室50内には周期的な圧力変動(自由振動)X1が残留する。図7の部分(A)から理解されるように、第1変化要素Wv1に起因した圧力変動X1は、第1維持要素Wh1の始点th1を極大点(振動の腹)とする周期TCの振動で近似される。周期TCは、圧力室50内でのヘルムホルツ共振による固有振動周期(記録ヘッド22やインク等を含んだ振動系全体の固有周期)に相当し、例えば7.0μs程度である。
【0038】
他方、図7の部分(B)に示すように、第2変化要素Wv2の供給による圧電振動子422の振動で圧力室50内の圧力を強制的に低下させると、第2維持要素Wh2の始点(第2変化要素Wv2の終点)th2で極小となる周期TCの圧力変動X2が圧力室50内に発生する。以上の事情を考慮して、第2実施形態では、第1変化要素Wv1に起因した圧力変動X1が第2変化要素Wv2に起因した圧力変動X2で低減(相殺)されるように、第2維持要素Wh2の始点th2の位置が圧力変動X1の周期TCに応じて設定される。
【0039】
具体的には、第1変化要素Wv1に起因した圧力変動X1の強度が第1維持要素Wh1の開始後に最初に極大となる時点tAと、第2変化要素Wv2に起因した圧力変動X2の強度が最初に極小となる時点th2とが合致した場合に圧力変動X1の低減の効果が顕在化することが、図7の部分(A)および部分(B)から把握される。圧力変動X1が極大となる時点tAは、第1維持要素Wh1の始点th1から周期TCが経過した時点であり、圧力変動X2の強度が極小となる時点th2は、第1維持要素Wh1の始点th1から第1維持要素Wh1と第2変化要素Wv2とが経過した時点である。以上の知見から、第2実施形態では、圧力変動X2が極小となる時点th2が、時点tAを含む所定の範囲(Ra1,Ra2)内に位置するように、第1維持要素Wh1の時間長Th1と第2変化要素Wv2の時間長Tv2との合計時間LAが設定される。
【0040】
例えば、図7の部分(C)に示すように、時点tAの前方TC/4および後方TC/4にわたる範囲Ra1内に第2維持要素Wh2の始点(すなわち圧力変動X2の極小点)th2が位置するように、第1維持要素Wh1と第2変化要素Wv2との合計時間LAは、3TC/4(=TC−TC/4)以上かつ5TC/4(=TC+TC/4)以下に設定される。更に好適には、図7の部分(D)に示すように、時点tAの前方TC/8および後方TC/8にわたる範囲Ra2内に第2維持要素Wh2の始点th2が位置するように、第1維持要素Wh1と第2変化要素Wv2との合計時間LAは、7TC/8(=TC−TC/8)以上かつ9TC/8(=TC+TC/8)に設定される。更に具体的には、第2維持要素Wh2の始点th2が時点tAに合致するように、第1維持要素Wh1と第2変化要素Wv2との合計時間LAはTCに設定される。
【0041】
以上の構成によれば、第1変化要素Wv1の供給で圧力室50内に発生する圧力変動X1が第2変化要素Wv2の供給で迅速に抑制されるから、圧力変動X1の継続に起因した前述の問題(インクの誤噴射や圧力室50内への気泡の引込や噴射量の誤差)を防止することが可能である。
【0042】
他方、第2変化要素Wv2での電位の変化量APSは、第1変化要素Wv1での電位の変化量A1を上回るから、第2変化要素Wv2で発生する圧力変動の振幅は第1変化要素Wv1で発生する圧力変動を上回る。したがって、図8の部分(A)に示すように、第2維持要素Wh2の始点th2(第2変化要素Wv2の終点)で圧電振動子422の振動が停止した以後も、第2変化要素Wv2に起因した圧力変動X2と第1変化要素Wv1に起因した圧力変動X1との差分に相当する圧力変動X12が圧力室50内には残留する。図8の部分(A)から理解されるように、第2変化要素Wv2に起因した圧力変動X12は、第2維持要素Wh2の始点th2を極小点とする周期TC(ヘルムホルツ共振周期)の振動で近似される。
【0043】
他方、図8の部分(B)には、静止状態にある圧電振動子422に第3変化要素Wv3を単独で供給したと仮定した場合の圧力室50内の圧力変動が図示されている。図8の部分(B)に示すように、第3変化要素Wv3の供給による圧電振動子422の振動で圧力室50内の圧力を強制的に上昇させると、第3変化要素Wv3の終点th3で極大となる周期TCの圧力変動X3が圧力室50内に発生する。以上の事情を考慮して、第2実施形態では、第1変化要素Wv1および第2変化要素Wv2に起因した圧力変動X12が第3変化要素Wv3に起因した圧力変動X3で低減(相殺)されるように、第3変化要素Wv3の終点th3の位置が圧力変動X12の周期TCに応じて設定される。
【0044】
具体的には、圧力変動X12の強度が第2維持要素Wh2の開始後に最初に極小となる時点tBと、第3変化要素Wv3に起因した圧力変動X3の強度が最初に極大となる時点th3とが合致した場合に圧力変動X12の低減の効果が顕在化することが、図8の部分(A)および部分(B)から把握される。圧力変動X12が極小となる時点tBは、第2維持要素Wh2の始点th2から周期TCが経過した時点であり、圧力変動X3の強度が極大となる時点th3は、第2維持要素Wh2の始点th2から第2維持要素Wh2と第3変化要素Wv3とが経過した時点である。以上の知見から、第2実施形態では、圧力変動X3が極大となる時点th3が、時点tBを含む所定の範囲(Rb1,Rb2)内に位置するように、第2維持要素Wh2の時間長Th2と第3変化要素Wv3の時間長Tv3との合計時間LBが設定される。
【0045】
例えば、図8の部分(C)に示すように、時点tBの前方TC/4および後方TC/4にわたる範囲Rb1内に第3変化要素Wv3の終点(すなわち圧力変動X3の極大点)th3が位置するように、第2維持要素Wh2と第3変化要素Wv3との合計時間LBは、3TC/4(=TC−TC/4)以上かつ5TC/4(=TC+TC/4)以下に設定される。更に好適には、図8の部分(D)に示すように、時点tBの前方TC/8および後方TC/8にわたる範囲Rb2内に第3変化要素Wv3の終点th3が位置するように、第2維持要素Wh2と第3変化要素Wv3との合計時間LBは、7TC/8(=TC−TC/8)以上かつ9TC/8(=TC+TC/8)に設定される。更に具体的には、第3変化要素Wv3の終点th3が時点tBに合致するように、第2維持要素Wh2と第3変化要素Wv3との合計時間LBはTCに設定される。
【0046】
以上の構成によれば、第1変化要素Wv1および第2変化要素Wv2の供給で圧力室50内に発生する圧力変動X12が第3変化要素Wv3の供給で迅速に抑制されるから、圧力変動X12の継続に起因した前述の問題(インクの誤噴射や圧力室50内への気泡の引込や噴射量の誤差)を防止することが可能である。
【0047】
なお、微振動パルスPSの各要素の具体的な時間長は任意であるが、例えば以下の第1例および第2例が採用され得る。なお、時間長Tv1は第1変化要素Wv1の時間長である。なお、ヘルムホルツ共振周期TCは前述のように7.0μsである。
第1例 : Tv1=Th1=Tv2=Th2=Tv3=3.5[μs]
第2例 : Tv1=Tv3=Th1=Th2=4.0[μs],Tv2=4.5[μs]
【0048】
第1例では、時間長LA(=Th1+Tv2)および時間長LB(=Th2+Tv3)の双方がヘルムホルツ共振周期TCに一致する(LA=LB=7.0[μs])から、圧力室50内の圧力変動を迅速に抑制するという効果は格別に顕著となる。第2例では、時間長LAは図7の部分(C)の範囲Ra1内の数値(LA=8.5)となり、時間長LBは図8の部分(C)の範囲Rb1内の数値(LB=8.0)となるから、圧力室50内の圧力変動を迅速に抑制できるという効果は確かに実現される。
【0049】
<C:変形例>
以上の各形態は多様に変形される。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は適宜に併合され得る。
【0050】
(1)変形例1
微振動パルスPSの波形は適宜に変更される。例えば、以上の各形態では第1変化要素Wv1と第3変化要素Wv3とで時間長や電位変化量(A1,A2)が相等しい場合を例示したが、例えば図9に示すように、第1変化要素Wv1と第3変化要素Wv3とで時間長や電位変化量を相違させた構成も採用され得る。ただし、微振動パルスPSの電位が基準電位VREFから開始して基準電位VREFで終了するように、第1変化要素Wv1の電位変化量A1と第3変化要素Wv3の電位変化量A2との合計が第2変化要素Wv2の電位変化量APSに等しくなるように各要素での電位の変化量を設定した構成が好適である。また、以上の各形態における第1維持要素Wh1や第2維持要素Wh2は省略され得る。
【0051】
(2)変形例2
以上の各形態では、基準電位VREFに対して負極性の電位の供給で圧力室50が加圧されるとともに正極性の電位の供給で圧力室50が減圧されるように圧電振動子422を動作させたが、圧電振動子422に供給される電位の極性と加圧/減圧との関係は反転され得る。例えば、負極性の電位の供給で圧力室50が減圧されるとともに正極性の電位の供給で圧力室50が加圧される構成では、図6の微振動パルスPSの電位の高低を逆転させた波形(すなわち、第1変化要素Wv1および第3変化要素Wv3の各々で電位が上昇するとともに第2変化要素Wv2で電位が低下する波形)の微振動パルスが圧電振動子422の駆動に利用される。第1維持要素Wh1の時間長Th1や第2維持要素Wh2の時間長Th2の設定には第2実施形態と同様の方法が適用される。
【0052】
(3)変形例3
以上の各形態では、1種類の駆動信号COMを記録ヘッド22に供給したが、相異なるパルスが設定された複数種の駆動信号を記録ヘッド22に供給して各圧電振動子422の駆動に使用する構成も採用され得る。前述の各形態で説明した微振動パルスPSは、複数種の駆動信号COMのうち1種類以上の駆動信号に設定される。また、駆動信号における噴射パルスDPの形状は任意である。
【0053】
(4)変形例4
以上の各形態では縦振動型の圧電振動子422を例示したが、圧力室50内の圧力を変化させる要素(圧力発生手段)の構成は以上の例示に限定されない。例えば、例えば撓み振動型の圧電振動子や静電アクチュエータ等の振動体を利用することも可能である。また、本発明の圧力発生手段は、圧力室50に機械的な振動を付与する要素に限定されない。例えば、圧力室50の加熱で気泡を発生させて圧力室50内の圧力を変化させる発熱素子(ヒーター)を圧力発生手段として利用することも可能である。すなわち、本発明の圧力発生手段は、圧力室50内の圧力を変化させる要素として包括され、圧力を変化させる方法(ピエゾ方式/サーマル方式)や構成の如何は不問である。
【0054】
(5)変形例5
以上の各形態の印刷装置100は、プロッターやファクシミリ装置,コピー機等の各種の機器に採用され得る。もっとも、本発明の液体噴射装置の用途は画像の印刷に限定されない。例えば、各色材の溶液を噴射する液体噴射装置は、液晶表示装置のカラーフィルタを形成する製造装置として利用される。また、液体状の導電材料を噴射する液体噴射装置は、例えば有機EL(Electroluminescence)表示装置や電界放出表示装置(FED:Field Emission Display)等の表示装置の電極を形成する電極製造装置として利用される。また、生体有機物の溶液を噴射する液体噴射装置は、生物科学素子(バイオチップ)を製造するチップ製造装置として利用される。
【0055】
また、以上の各形態では、記録ヘッド24を搭載したキャリッジ12が主走査方向に移動するシリアル型の印刷装置100を例示したが、記録紙の幅方向の全域にわたって複数のノズルが配列するように主走査方向に長尺状に構成されたライン型の記録ヘッドを利用した印刷装置にも本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
100……印刷装置、12……キャリッジ、14……移動機構、16……用紙搬送機構、22……記録ヘッド、24……インクカートリッジ、42……振動ユニット、422……圧電振動子、46……流路ユニット、462,464……基板、466……流路形成板、48……振動板、50……圧力室、52……供給路、54……貯留室、56……ノズル、102……制御装置、104……印刷処理部、60……制御部、62……記憶部、64……駆動信号発生部、66……外部I/F、68……内部I/F、220……駆動回路、200……記録紙、300……外部装置、COM……駆動信号、DP……噴射パルス、PS……微振動パルス、Wv1……第1変化要素、Wv2……第2変化要素、Wv3……第3変化要素、Wh1……第1維持要素、Wh2……第2維持要素。
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液体を噴射する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電振動子や発熱素子等の圧力発生素子により圧力室内の圧力を変化させることで圧力室内の液体(例えばインク)をノズルから噴射する液体噴射技術が従来から提案されている。液体噴射技術では、圧力室内の液体の増粘を低減して安定的な噴射を実現する観点から、液体が噴射されない程度の微振動を圧力室内に付与することで液体を適度に撹拌する構成が採用される。圧力室の微振動は圧力発生素子に対する微振動パルスの供給で発生する。
【0003】
特許文献1には図10の波形の微振動パルスQAが開示されている。図10の微振動パルスQAは、圧力室内を減圧させる方向(圧力室を膨張させる方向)に電位が変化する第1変化要素Ea1と、第1変化要素Ea1の終端の電位を維持する維持要素Ea2と、圧力室内を加圧させる方向に電位が変化する第2変化要素Ea3とを含む台形状に生成される(減圧→加圧)。
【0004】
また、特許文献2には図11の波形の微振動パルスQBが開示されている。図11の微振動パルスQBは、圧力室内を減圧させる方向に電位が変化する第1変化要素Eb1と、第1変化要素Eb1の終端の電位から圧力室内を加圧させる方向に電位が変化する第2変化要素Eb2と、第2変化要素Eb2の終端の電位から圧力室内を減圧させる方向に電位が変化する第3変化要素Eb3とを含んで構成される(減圧→加圧→減圧)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−113858号公報
【特許文献2】特開2005−280199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や特許文献2の技術のもとで微振動により液体を充分に撹拌するためには、微振動パルスの振幅を増加させる必要がある。しかし、図10や図11の微振動パルスの振幅を増加させた場合、圧力発生素子に対する第2変化要素(Ea3,Eb2)の供給時に圧力室が過剰に加圧されて液体がノズルから誤噴射する可能性がある。以上の事情を考慮して、本発明は、誤噴射を有効に防止しながら微振動により液体を充分に撹拌することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するために本発明が採用する手段を説明する。なお、本発明の理解を容易にするために、以下の説明では、本発明の要素と後述の実施形態の要素との対応を括弧書で付記するが、本発明の範囲を実施形態の例示に限定する趣旨ではない。
【0008】
本発明の液体噴射装置は、圧力発生手段(例えば圧電振動子422)により圧力室(例えば圧力室50)内の圧力を変動させて圧力室内の液体をノズルから噴射する液体吐出部(例えば記録ヘッド22)と、圧力発生手段を作動させる駆動信号(例えば駆動信号COM)を生成する駆動信号生成部(例えば駆動信号発生部64)とを具備する液体噴射装置(例えば印刷装置100)であって、駆動信号は、ノズルから液体が噴射されない程度に圧力室内の圧力を変化させる微振動パルス(例えば微振動パルスPS)を含み、微振動パルスは、圧力発生手段に圧力室を加圧させる第1方向に基準電位(例えば基準電位VREF)から電位が変化する第1変化要素(例えば第1変化要素Wv1)と、第1変化要素の後に発生して第1方向とは反対の第2方向に基準電位を跨いで電位が変化する第2変化要素(例えば第2変化要素Wv2)と、第2変化要素の後に発生して第1方向に基準電位まで電位が変化する第3変化要素(例えば第3変化要素Wv3)とを含む。
【0009】
以上の構成においては、第1変化要素による圧力室の加圧後に第2変化要素で圧力室が減圧され、第2変化要素による圧力室の減圧後に第3変化要素で圧力室が加圧される。すなわち、圧力室の加圧工程が減圧工程の前後に分散される。以上の構成によれば、特許文献1や特許文献2の構成(微振動パルスの供給で圧力室が1回だけ加圧される構成)と比較して、1回の加圧における圧力室の圧力変動が低減される。したがって、圧力室内の液体が充分に撹拌されるように微振動パルスの振幅を充分に確保した場合でも、圧力室の加圧に起因した液体の誤噴射を防止することが可能である。
【0010】
本発明の好適な態様において、微振動パルスは、第1変化要素と第2変化要素とを連結するとともに第1変化要素の終端の電位を維持する第1維持要素(例えば第1維持要素Wh1)を含み、圧力室内のヘルムホルツ共振周期TCに対し、第1維持要素の時間長(例えば時間長Th1)と第2変化要素の時間長(例えば時間長Tv2)との合計時間(例えば合計時間LA)は、3TC/4以上かつ5TC/4以下に設定される。以上の態様においては、第1維持要素と第2変化要素の合計時間が3TC/4以上かつ5TC/4以下に設定されるから、第1変化要素の供給で圧力室に発生する圧力変動(例えば圧力変動X1)が第2変化要素の供給で迅速に抑制される。したがって、圧力室内の圧力変動の継続に起因した不具合(例えば液体の誤噴射や圧力室内への気泡の引込や噴射量の誤差)を防止することが可能である。第1変化要素に起因した圧力変動を第2変化要素の供給で抑制する作用は、第1維持要素と第2変化要素との合計時間を7TC/8以上かつ9TC/8以下に設定した態様で更に有効となり、第1維持要素と第2変化要素との合計時間をTCに設定した態様で格別に顕著となる。
【0011】
本発明の好適な態様において、微振動パルスは、第2変化要素と第3変化要素とを連結するとともに第2変化要素の終端の電位を維持する第2維持要素(例えば第2維持要素Wh2)を含み、圧力室内のヘルムホルツ共振周期TCに対し、第2維持要素の時間長(例えば時間長Th2)と第3変化要素の時間長(例えば時間長Tv3)との合計時間(例えば合計時間LB)は、3TC/4以上かつ5TC/4以下に設定される。以上の態様においては、第2維持要素と第3変化要素との合計時間が3TC/4以上かつ5TC/4以下に設定されるから、第2変化要素の供給で圧力室に発生する圧力変動(例えば圧力変動X12)が第3変化要素の供給で迅速に抑制される。したがって、圧力室内の圧力変動の継続に起因した不具合(例えば液体の誤噴射や圧力室内への気泡の引込や噴射量の誤差)を防止することが可能である。第2変化要素に起因した圧力変動を第3変化要素の供給で抑制する作用は、第2維持要素と第3変化要素との合計時間を7TC/8以上かつ9TC/8以下に設定した態様で更に有効となり、第2維持要素と第3変化要素との合計時間をTCに設定した態様で格別に顕著となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態に係る印刷装置の部分的な模式図である。
【図2】記録ヘッドの断面図である。
【図3】印刷装置の電気的な構成のブロック図である。
【図4】駆動信号の波形図である。
【図5】記録ヘッドの電気的な構成のブロック図である。
【図6】微振動パルスの波形図である。
【図7】第2実施形態における第1維持要素の時間長の説明図である。
【図8】第2実施形態における第2維持要素の時間長の説明図である。
【図9】変形例における微振動パルスの波形図である。
【図10】特許文献1に開示された微振動パルスの波形図である。
【図11】特許文献2に開示された微振動パルスの波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<A:第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るインクジェット方式の印刷装置100の部分的な模式図である。印刷装置100は、微細な液滴状のインクを記録紙200に噴射する液体噴射装置であり、キャリッジ12と移動機構14と用紙搬送機構16とを含んで構成される。キャリッジ12には、液体吐出部として機能する記録ヘッド22が設置されるとともに、記録ヘッド22に供給されるインクを貯留するインクカートリッジ24が着脱可能に搭載される。なお、印刷装置100の筐体(図示略)にインクカートリッジ24を固定して記録ヘッド22にインクを供給する構成も採用され得る。
【0014】
移動機構14は、案内軸32に沿ってキャリッジ12を主走査方向(図1の矢印が示す記録紙200の幅方向)に往復させる。キャリッジ12の位置は、リニアエンコーダ等の検出器(図示略)で検出されて移動機構14の制御に利用される。用紙搬送機構16は、キャリッジ12の往復に並行して記録紙200を副走査方向に搬送する。キャリッジ12の往復時に記録ヘッド22が記録紙200にインクを噴射することで所望の画像が記録紙200に記録(印刷)される。なお、キャリッジ12の往復の端点の近傍には、記録ヘッド22のノズル形成面を封止するキャップ34や、ノズル形成面を払拭するワイパー36が設置される。
【0015】
図2は、記録ヘッド22の断面図(主走査方向に垂直な断面)である。図2に示すように、記録ヘッド22は、振動ユニット42と収容体44と流路ユニット46とを具備する。振動ユニット42は、圧電振動子422とケーブル424と固定板426と含んで構成される。圧電振動子422は、圧電材料と電極とが交互に積層された縦振動型の圧電素子であり、ケーブル424を介して供給される駆動信号に応じて振動する。圧電振動子422を固定した固定板426が収容体44の内壁面に接合された状態で振動ユニット42は収容体44に収容される。
【0016】
流路ユニット46は、相互に対向する基板462と基板464との間隙に流路形成板466を介挿した構造体である。流路形成板466は、圧力室50と供給路52と貯留室54とを含む空間を基板462と基板464との間隙に形成する。圧力室50は、振動ユニット42毎に隔壁で個別に区画されるとともに供給路52を介して貯留室54に連通する。各圧力室50に対応する複数のノズル(吐出口)56が基板462に列状に形成される。各ノズル56は、圧力室50を外部に連通させる貫通孔である。インクカートリッジ24から供給されるインクは貯留室54に貯留される。以上の説明から理解されるように、貯留室54から供給路52と圧力室50とノズル56とを経由して外部に至るインクの流路が形成される。
【0017】
基板464は、弾性材料で形成された平板材である。基板464のうち圧力室50の反対側の領域には島状の振動板48が形成される。振動板48には圧電振動子422の先端面(自由端)が接合される。したがって、駆動信号の供給により圧電振動子422が振動すると、振動板48を介して基板464が変位することで圧力室50の容積が変化して圧力室50内のインクの圧力が変動する。すなわち、圧電振動子422は、圧力室50内の圧力を変動させる圧力発生手段として機能する。以上に説明した圧力室50内の圧力の変動に応じてノズル56からインクを噴射することが可能である。
【0018】
図3は、印刷装置100の電気的な構成のブロック図である。図3に示すように、印刷装置100は、制御装置102と印刷処理部(プリントエンジン)104とを具備する。制御装置102は、印刷装置100の全体を制御する要素であり、制御部60と記憶部62と駆動信号発生部64と外部I/F(interface)66と内部I/F68とを含んで構成される。記録紙200に印刷される画像を示す印刷データが外部装置(例えばホストコンピュータ)300から外部I/F66に供給され、内部I/F68には印刷処理部104が接続される。印刷処理部104は、制御装置102による制御のもとで記録紙200に画像を記録する要素であり、前述の記録ヘッド22と移動機構14と用紙搬送機構16とを含んで構成される。
【0019】
記憶部62は、制御プログラム等を記憶するROMと、画像の印刷(ノズル56毎のインクの吐出)に必要な各種のデータを一時的に記憶するRAMとを含んで構成される。制御部60は、記憶部62に記憶された制御プログラムの実行で印刷装置100の各要素(例えば印刷処理部104の移動機構14や用紙搬送機構16)を統括的に制御する。また、制御部60は、外部装置300から外部I/F66に供給される印刷データを、記録ヘッド22の各ノズル56からのインクの噴射/非噴射を圧電振動子422毎に指示する噴射データDに変換する。
【0020】
駆動信号発生部64は、駆動信号COMを生成する。駆動信号COMは、各圧電振動子422を駆動する周期信号である。図4に示すように、駆動信号COMの1周期(記録周期)に相当する期間内には噴射パルスDPと微振動パルスPSとが配置される。噴射パルスDPは、圧電振動子422に供給された場合に所定量のインクがノズル56から噴射するように圧力室50を振動させる駆動パルスであり、電位VDHと電位VDLとの間で電位が変動する波形に成形される。具体的には、噴射パルスDPは、所定の基準電位VREFから高位側の電位VDHに上昇する波形部と、電位VDHから基準電位VREFを跨いで低位側の電位VDLに低下する波形部と、電位VDLから基準電位VREFに上昇する波形部とを含んで構成される。
【0021】
他方、微振動パルスPSは、圧電振動子422に供給された場合に圧力室50内のインクがノズル56から噴射されない程度に圧力室50内の圧力を変化させる駆動パルスであり、電位VHと電位VLとの間で電位が変動する波形に成形される。圧電振動子422に対する微振動パルスPSの供給で圧力室50内のインクが撹拌されるから、圧力室50内のインクの増粘が低減される。図4に示すように、微振動パルスPSの高位側の電位VHは噴射パルスDPの電位VDHを下回り、微振動パルスPSの低位側の電位VLは噴射パルスDPの電位VDLを上回る。すなわち、微振動パルスPSの電位振幅APS(APS=VH−VL)は、噴射パルスDPの電位振幅ADP(ADP=VDH−VDL)を下回る。例えば、微振動パルスPSの電位振幅APSは7.0V(ボルト)程度に設定される。
【0022】
図5は、記録ヘッド22の電気的な構成の模式図である。図5に示すように、記録ヘッド22は、相異なるノズル56(圧電振動子422)に対応する複数の駆動回路220を含んで構成される。駆動信号発生部64が生成した駆動信号COMは、内部I/F68を介して複数の駆動回路220に共通に供給される。また、制御部60が生成した噴射データDは内部I/F68を介して各駆動回路220に供給される。
【0023】
各駆動回路220は、噴射データDに応じた駆動パルスを駆動信号COMから選択して圧電振動子422に供給する。具体的には、噴射データDがインクの噴射を指示する場合、駆動回路220は、駆動信号COMの噴射パルスDPを選択して圧電振動子422に供給する。したがって、圧力室50内のインクがノズル56から記録紙200に噴射される。他方、噴射データDがインクの非噴射(噴射の停止)を指示する場合、駆動回路220は、駆動信号COMの微振動パルスPSを選択して圧電振動子422に供給する。したがって、圧力室50内のインクは噴射されずに適度に撹拌される。
【0024】
図6は、駆動信号COMの微振動パルスPSの波形図である。図6の縦軸は電位を意味し、横軸は時間を意味する。図6に示すように、微振動パルスPSは、第1変化要素Wv1と第1維持要素Wh1と第2変化要素Wv2と第2維持要素Wh2と第3変化要素Wv3とを以上の順番で連結した波形である。第1変化要素Wv1および第3変化要素Wv3の各々の時間長は例えば4.0μs程度に設定され、第2変化要素Wv2の時間長は例えば4.5μs程度に設定される。また、第1維持要素Wh1および第2維持要素Wh2の各々の時間長は例えば4.5μs程度に設定される。
【0025】
第1変化要素Wv1は、所定の基準電位VREFから電位VLまで負方向(電位が減少する方向)に所定の勾配で電位が変動する波形部である。第1変化要素Wv1が供給されると圧電振動子422は圧力室50を加圧する。すなわち、圧力室50が収縮するように振動板48(圧電振動子422の先端部)が変位する。
【0026】
第1維持要素Wh1は、第1変化要素Wv1に後続するとともに第1変化要素Wv1と第2変化要素Wv2とを連結する波形部であり、第1変化要素Wv1の終端の電位VLを維持する。したがって、圧力室50内の圧力が第1変化要素Wv1の終端での圧力に維持された状態で圧電振動子422の動作(振動板48の変位)が停止する。圧電振動子422の振動が停止した状態が図6では「待機」と表記されている。
【0027】
第2変化要素Wv2は、第1維持要素Wh1に後続する波形部であり、第1維持要素Wh1の終端(第1変化要素Wv1の終端)の電位VLから電位VHまで、第1変化要素Wv1での電位変化とは反対の正方向(電位が増加する方向)に所定の勾配で電位が変動する。第2変化要素Wv2が供給されると圧電振動子422は圧力室50を減圧する。すなわち、圧力室50が膨張するように振動板48が変位する。
【0028】
第2変化要素Wv2での電位の変化量APSは、第1変化要素Wv1での電位の変化量A1(A1=VREF−VL)を上回る。したがって、第2変化要素Wv2では基準電位VREFを跨いで電位が変動する。具体的には、第1変化要素Wv1での電位の変化量A1は、第2変化要素Wv2での電位の変化量APSの約半分(3.5V)に設定される。
【0029】
第2維持要素Wh2は、第2変化要素Wv2に後続するとともに第2変化要素Wv2と第3変化要素Wv3とを連結する波形部であり、第2変化要素Wv2の終端の電位VHを維持する。したがって、圧力室50内の圧力が第2変化要素Wv2の終端での圧力に維持された状態で圧電振動子422の動作が停止する。
【0030】
第3変化要素Wv3は、第2維持要素Wh2に後続する波形部であり、第2維持要素Wh2の終端(第2変化要素Wv2の終端)の電位VHから基準電位VREFまで、第2変化要素Wv2の電位変化とは反対の負方向に所定の勾配で電位が変動する。第3変化要素Wv3が供給されると圧電振動子422は圧力室50を加圧する。すなわち、圧力室50が収縮するように振動板48が変位する。
【0031】
第3変化要素Wv3での電位の変化量A2(A2=VH−VREF)は、第2変化要素Wv2での電位の変化量APSを下回る。具体的には、第3変化要素Wv3での電位の変化量A2は、第2変化要素Wv2の電位の変化量APSと第1変化要素Wv1の電位の変化量A1との差分(A2=APS−A1)の電圧(3.5V)に設定される。
【0032】
以上に説明したように、第1実施形態では、第1変化要素Wv1による圧力室50の加圧後に第2変化要素Wv2で圧力室50が減圧され、第2変化要素Wv2による圧力室50の減圧後に第3変化要素Wv3で圧力室50が加圧される(加圧→減圧→加圧)。すなわち、圧力室50を加圧する工程が、圧力室50を減圧する工程の前後に分散される。以上の構成によれば、図10の微振動パルスQAや図11の微振動パルスQBを使用した場合(微振動パルスの供給で圧力室が1回だけ加圧される場合)と比較して、1回の加圧における圧力室50の圧力変動が低減される。したがって、圧力室50内のインクが有効に撹拌されるように微振動パルスPSの電位振幅APSを充分に確保した場合でも、圧力室50の加圧に起因したインクの誤噴射が防止されるという利点がある。
【0033】
<B:第2実施形態>
本発明の第2実施形態を以下に説明する。なお、以下に例示する各態様において機能や作用が第1実施形態と同等である要素については、以上の説明で参照した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0034】
第1変化要素Wv1の供給で圧力室50を加圧すると、直後の第1維持要素Wh1の供給で圧電振動子422(振動板48)の振動を停止させた以後も、圧力室50内の周期的な圧力変動は継続する。しかし、圧力室50内の圧力変動が長期にわたって継続すると、他の圧力室50から到来する振動との干渉等の影響で、圧力室50内の圧力が過度に上昇してインクが誤噴射されたり、圧力室50内の圧力が過度に低下してノズル56から圧力室50内に気泡が引込まれたりする可能性がある。また、インクの誤噴射や気泡の引込までは発生しない場合でも、圧力室50内の圧力変動が次回のインクの噴射時まで継続することでインクの噴射量に誤差(目標値との相違)が発生する可能性がある。したがって、第1変化要素Wv1の供給で発生した圧力室50内の圧力変動は、第1変化要素Wv1の終了後に迅速に制動されることが望ましい。第2変化要素Wv2の供給で発生する圧力室50内の周期的な圧力変動についても同様であり、第2変化要素Wv2の終了後に迅速に制動されることが望ましい。
【0035】
以上の事情を考慮して、第2実施形態では、第1変化要素Wv1の供給で発生した圧力室50内の圧力変動が第2変化要素Wv2の供給で抑制(相殺)され、かつ、第2変化要素Wv2の供給で発生した圧力室50内の圧力変動が第3変化要素Wv3の供給で抑制されるように、微振動パルスPSの波形(各要素の時間長)が設定される。
【0036】
図7の部分(A)は、第1変化要素Wv1と第1維持要素Wh1とを圧電振動子422に単独で(微振動パルスPSの他の要素を供給せずに)供給した場合の圧力室50内の圧力変動を意味し、図7の部分(B)は、静止状態にある圧電振動子422に第2変化要素Wv2と第2維持要素Wh2とを単独で供給したと仮定した場合の圧力室50内の圧力変動を意味する。
【0037】
図7の部分(A)に示すように、第1変化要素Wv1の供給による圧電振動子422の振動で圧力室50内の圧力を強制的に上昇させると、第1維持要素Wh1の始点th1(第1変化要素Wv1の終点)にて圧電振動子422の振動が停止した以後も、圧力室50内には周期的な圧力変動(自由振動)X1が残留する。図7の部分(A)から理解されるように、第1変化要素Wv1に起因した圧力変動X1は、第1維持要素Wh1の始点th1を極大点(振動の腹)とする周期TCの振動で近似される。周期TCは、圧力室50内でのヘルムホルツ共振による固有振動周期(記録ヘッド22やインク等を含んだ振動系全体の固有周期)に相当し、例えば7.0μs程度である。
【0038】
他方、図7の部分(B)に示すように、第2変化要素Wv2の供給による圧電振動子422の振動で圧力室50内の圧力を強制的に低下させると、第2維持要素Wh2の始点(第2変化要素Wv2の終点)th2で極小となる周期TCの圧力変動X2が圧力室50内に発生する。以上の事情を考慮して、第2実施形態では、第1変化要素Wv1に起因した圧力変動X1が第2変化要素Wv2に起因した圧力変動X2で低減(相殺)されるように、第2維持要素Wh2の始点th2の位置が圧力変動X1の周期TCに応じて設定される。
【0039】
具体的には、第1変化要素Wv1に起因した圧力変動X1の強度が第1維持要素Wh1の開始後に最初に極大となる時点tAと、第2変化要素Wv2に起因した圧力変動X2の強度が最初に極小となる時点th2とが合致した場合に圧力変動X1の低減の効果が顕在化することが、図7の部分(A)および部分(B)から把握される。圧力変動X1が極大となる時点tAは、第1維持要素Wh1の始点th1から周期TCが経過した時点であり、圧力変動X2の強度が極小となる時点th2は、第1維持要素Wh1の始点th1から第1維持要素Wh1と第2変化要素Wv2とが経過した時点である。以上の知見から、第2実施形態では、圧力変動X2が極小となる時点th2が、時点tAを含む所定の範囲(Ra1,Ra2)内に位置するように、第1維持要素Wh1の時間長Th1と第2変化要素Wv2の時間長Tv2との合計時間LAが設定される。
【0040】
例えば、図7の部分(C)に示すように、時点tAの前方TC/4および後方TC/4にわたる範囲Ra1内に第2維持要素Wh2の始点(すなわち圧力変動X2の極小点)th2が位置するように、第1維持要素Wh1と第2変化要素Wv2との合計時間LAは、3TC/4(=TC−TC/4)以上かつ5TC/4(=TC+TC/4)以下に設定される。更に好適には、図7の部分(D)に示すように、時点tAの前方TC/8および後方TC/8にわたる範囲Ra2内に第2維持要素Wh2の始点th2が位置するように、第1維持要素Wh1と第2変化要素Wv2との合計時間LAは、7TC/8(=TC−TC/8)以上かつ9TC/8(=TC+TC/8)に設定される。更に具体的には、第2維持要素Wh2の始点th2が時点tAに合致するように、第1維持要素Wh1と第2変化要素Wv2との合計時間LAはTCに設定される。
【0041】
以上の構成によれば、第1変化要素Wv1の供給で圧力室50内に発生する圧力変動X1が第2変化要素Wv2の供給で迅速に抑制されるから、圧力変動X1の継続に起因した前述の問題(インクの誤噴射や圧力室50内への気泡の引込や噴射量の誤差)を防止することが可能である。
【0042】
他方、第2変化要素Wv2での電位の変化量APSは、第1変化要素Wv1での電位の変化量A1を上回るから、第2変化要素Wv2で発生する圧力変動の振幅は第1変化要素Wv1で発生する圧力変動を上回る。したがって、図8の部分(A)に示すように、第2維持要素Wh2の始点th2(第2変化要素Wv2の終点)で圧電振動子422の振動が停止した以後も、第2変化要素Wv2に起因した圧力変動X2と第1変化要素Wv1に起因した圧力変動X1との差分に相当する圧力変動X12が圧力室50内には残留する。図8の部分(A)から理解されるように、第2変化要素Wv2に起因した圧力変動X12は、第2維持要素Wh2の始点th2を極小点とする周期TC(ヘルムホルツ共振周期)の振動で近似される。
【0043】
他方、図8の部分(B)には、静止状態にある圧電振動子422に第3変化要素Wv3を単独で供給したと仮定した場合の圧力室50内の圧力変動が図示されている。図8の部分(B)に示すように、第3変化要素Wv3の供給による圧電振動子422の振動で圧力室50内の圧力を強制的に上昇させると、第3変化要素Wv3の終点th3で極大となる周期TCの圧力変動X3が圧力室50内に発生する。以上の事情を考慮して、第2実施形態では、第1変化要素Wv1および第2変化要素Wv2に起因した圧力変動X12が第3変化要素Wv3に起因した圧力変動X3で低減(相殺)されるように、第3変化要素Wv3の終点th3の位置が圧力変動X12の周期TCに応じて設定される。
【0044】
具体的には、圧力変動X12の強度が第2維持要素Wh2の開始後に最初に極小となる時点tBと、第3変化要素Wv3に起因した圧力変動X3の強度が最初に極大となる時点th3とが合致した場合に圧力変動X12の低減の効果が顕在化することが、図8の部分(A)および部分(B)から把握される。圧力変動X12が極小となる時点tBは、第2維持要素Wh2の始点th2から周期TCが経過した時点であり、圧力変動X3の強度が極大となる時点th3は、第2維持要素Wh2の始点th2から第2維持要素Wh2と第3変化要素Wv3とが経過した時点である。以上の知見から、第2実施形態では、圧力変動X3が極大となる時点th3が、時点tBを含む所定の範囲(Rb1,Rb2)内に位置するように、第2維持要素Wh2の時間長Th2と第3変化要素Wv3の時間長Tv3との合計時間LBが設定される。
【0045】
例えば、図8の部分(C)に示すように、時点tBの前方TC/4および後方TC/4にわたる範囲Rb1内に第3変化要素Wv3の終点(すなわち圧力変動X3の極大点)th3が位置するように、第2維持要素Wh2と第3変化要素Wv3との合計時間LBは、3TC/4(=TC−TC/4)以上かつ5TC/4(=TC+TC/4)以下に設定される。更に好適には、図8の部分(D)に示すように、時点tBの前方TC/8および後方TC/8にわたる範囲Rb2内に第3変化要素Wv3の終点th3が位置するように、第2維持要素Wh2と第3変化要素Wv3との合計時間LBは、7TC/8(=TC−TC/8)以上かつ9TC/8(=TC+TC/8)に設定される。更に具体的には、第3変化要素Wv3の終点th3が時点tBに合致するように、第2維持要素Wh2と第3変化要素Wv3との合計時間LBはTCに設定される。
【0046】
以上の構成によれば、第1変化要素Wv1および第2変化要素Wv2の供給で圧力室50内に発生する圧力変動X12が第3変化要素Wv3の供給で迅速に抑制されるから、圧力変動X12の継続に起因した前述の問題(インクの誤噴射や圧力室50内への気泡の引込や噴射量の誤差)を防止することが可能である。
【0047】
なお、微振動パルスPSの各要素の具体的な時間長は任意であるが、例えば以下の第1例および第2例が採用され得る。なお、時間長Tv1は第1変化要素Wv1の時間長である。なお、ヘルムホルツ共振周期TCは前述のように7.0μsである。
第1例 : Tv1=Th1=Tv2=Th2=Tv3=3.5[μs]
第2例 : Tv1=Tv3=Th1=Th2=4.0[μs],Tv2=4.5[μs]
【0048】
第1例では、時間長LA(=Th1+Tv2)および時間長LB(=Th2+Tv3)の双方がヘルムホルツ共振周期TCに一致する(LA=LB=7.0[μs])から、圧力室50内の圧力変動を迅速に抑制するという効果は格別に顕著となる。第2例では、時間長LAは図7の部分(C)の範囲Ra1内の数値(LA=8.5)となり、時間長LBは図8の部分(C)の範囲Rb1内の数値(LB=8.0)となるから、圧力室50内の圧力変動を迅速に抑制できるという効果は確かに実現される。
【0049】
<C:変形例>
以上の各形態は多様に変形される。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は適宜に併合され得る。
【0050】
(1)変形例1
微振動パルスPSの波形は適宜に変更される。例えば、以上の各形態では第1変化要素Wv1と第3変化要素Wv3とで時間長や電位変化量(A1,A2)が相等しい場合を例示したが、例えば図9に示すように、第1変化要素Wv1と第3変化要素Wv3とで時間長や電位変化量を相違させた構成も採用され得る。ただし、微振動パルスPSの電位が基準電位VREFから開始して基準電位VREFで終了するように、第1変化要素Wv1の電位変化量A1と第3変化要素Wv3の電位変化量A2との合計が第2変化要素Wv2の電位変化量APSに等しくなるように各要素での電位の変化量を設定した構成が好適である。また、以上の各形態における第1維持要素Wh1や第2維持要素Wh2は省略され得る。
【0051】
(2)変形例2
以上の各形態では、基準電位VREFに対して負極性の電位の供給で圧力室50が加圧されるとともに正極性の電位の供給で圧力室50が減圧されるように圧電振動子422を動作させたが、圧電振動子422に供給される電位の極性と加圧/減圧との関係は反転され得る。例えば、負極性の電位の供給で圧力室50が減圧されるとともに正極性の電位の供給で圧力室50が加圧される構成では、図6の微振動パルスPSの電位の高低を逆転させた波形(すなわち、第1変化要素Wv1および第3変化要素Wv3の各々で電位が上昇するとともに第2変化要素Wv2で電位が低下する波形)の微振動パルスが圧電振動子422の駆動に利用される。第1維持要素Wh1の時間長Th1や第2維持要素Wh2の時間長Th2の設定には第2実施形態と同様の方法が適用される。
【0052】
(3)変形例3
以上の各形態では、1種類の駆動信号COMを記録ヘッド22に供給したが、相異なるパルスが設定された複数種の駆動信号を記録ヘッド22に供給して各圧電振動子422の駆動に使用する構成も採用され得る。前述の各形態で説明した微振動パルスPSは、複数種の駆動信号COMのうち1種類以上の駆動信号に設定される。また、駆動信号における噴射パルスDPの形状は任意である。
【0053】
(4)変形例4
以上の各形態では縦振動型の圧電振動子422を例示したが、圧力室50内の圧力を変化させる要素(圧力発生手段)の構成は以上の例示に限定されない。例えば、例えば撓み振動型の圧電振動子や静電アクチュエータ等の振動体を利用することも可能である。また、本発明の圧力発生手段は、圧力室50に機械的な振動を付与する要素に限定されない。例えば、圧力室50の加熱で気泡を発生させて圧力室50内の圧力を変化させる発熱素子(ヒーター)を圧力発生手段として利用することも可能である。すなわち、本発明の圧力発生手段は、圧力室50内の圧力を変化させる要素として包括され、圧力を変化させる方法(ピエゾ方式/サーマル方式)や構成の如何は不問である。
【0054】
(5)変形例5
以上の各形態の印刷装置100は、プロッターやファクシミリ装置,コピー機等の各種の機器に採用され得る。もっとも、本発明の液体噴射装置の用途は画像の印刷に限定されない。例えば、各色材の溶液を噴射する液体噴射装置は、液晶表示装置のカラーフィルタを形成する製造装置として利用される。また、液体状の導電材料を噴射する液体噴射装置は、例えば有機EL(Electroluminescence)表示装置や電界放出表示装置(FED:Field Emission Display)等の表示装置の電極を形成する電極製造装置として利用される。また、生体有機物の溶液を噴射する液体噴射装置は、生物科学素子(バイオチップ)を製造するチップ製造装置として利用される。
【0055】
また、以上の各形態では、記録ヘッド24を搭載したキャリッジ12が主走査方向に移動するシリアル型の印刷装置100を例示したが、記録紙の幅方向の全域にわたって複数のノズルが配列するように主走査方向に長尺状に構成されたライン型の記録ヘッドを利用した印刷装置にも本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
100……印刷装置、12……キャリッジ、14……移動機構、16……用紙搬送機構、22……記録ヘッド、24……インクカートリッジ、42……振動ユニット、422……圧電振動子、46……流路ユニット、462,464……基板、466……流路形成板、48……振動板、50……圧力室、52……供給路、54……貯留室、56……ノズル、102……制御装置、104……印刷処理部、60……制御部、62……記憶部、64……駆動信号発生部、66……外部I/F、68……内部I/F、220……駆動回路、200……記録紙、300……外部装置、COM……駆動信号、DP……噴射パルス、PS……微振動パルス、Wv1……第1変化要素、Wv2……第2変化要素、Wv3……第3変化要素、Wh1……第1維持要素、Wh2……第2維持要素。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力発生手段により圧力室内の圧力を変動させて前記圧力室内の液体をノズルから噴射する液体吐出部と、前記圧力発生手段を作動させる駆動信号を生成する駆動信号生成部とを具備する液体噴射装置であって、
前記駆動信号は、前記ノズルから前記液体が噴射されない程度に前記圧力室内の圧力を変化させる微振動パルスを含み、
前記微振動パルスは、前記圧力発生手段に前記圧力室を加圧させる第1方向に基準電位から電位が変化する第1変化要素と、前記第1変化要素の後に発生して前記第1方向とは反対の第2方向に前記基準電位を跨いで電位が変化する第2変化要素と、前記第2変化要素の後に発生して前記第1方向に前記基準電位まで電位が変化する第3変化要素とを含む
液体噴射装置。
【請求項2】
前記微振動パルスは、前記第1変化要素と前記第2変化要素とを連結するとともに前記第1変化要素の終端の電位を維持する第1維持要素を含み、
前記圧力室内のヘルムホルツ共振周期TCに対し、前記第1維持要素の時間長と前記第2変化要素の時間長との合計時間は、3TC/4以上かつ5TC/4以下に設定される
請求項1の液体噴射装置。
【請求項3】
前記第1維持要素の時間長と前記第2変化要素の時間長との合計時間は、7TC/8以上かつ9TC/8以下に設定される
請求項2の液体噴射装置。
【請求項4】
前記第1維持要素の時間長と前記第2変化要素の時間長との合計時間は、TCに設定される
請求項3の液体噴射装置。
【請求項5】
前記微振動パルスは、前記第2変化要素と前記第3変化要素とを連結するとともに前記第2変化要素の終端の電位を維持する第2維持要素を含み、
前記圧力室内のヘルムホルツ共振周期TCに対し、前記第2維持要素の時間長と前記第3変化要素の時間長との合計時間は、3TC/4以上かつ5TC/4以下に設定される
請求項1から請求項4の何れかの液体噴射装置。
【請求項6】
前記第2維持要素の時間長と前記第3変化要素の時間長との合計時間は、7TC/8以上かつ9TC/8以下に設定される
請求項5の液体噴射装置。
【請求項7】
前記第2維持要素の時間長と前記第3変化要素の時間長との合計時間は、TCに設定される
請求項6の液体噴射装置。
【請求項1】
圧力発生手段により圧力室内の圧力を変動させて前記圧力室内の液体をノズルから噴射する液体吐出部と、前記圧力発生手段を作動させる駆動信号を生成する駆動信号生成部とを具備する液体噴射装置であって、
前記駆動信号は、前記ノズルから前記液体が噴射されない程度に前記圧力室内の圧力を変化させる微振動パルスを含み、
前記微振動パルスは、前記圧力発生手段に前記圧力室を加圧させる第1方向に基準電位から電位が変化する第1変化要素と、前記第1変化要素の後に発生して前記第1方向とは反対の第2方向に前記基準電位を跨いで電位が変化する第2変化要素と、前記第2変化要素の後に発生して前記第1方向に前記基準電位まで電位が変化する第3変化要素とを含む
液体噴射装置。
【請求項2】
前記微振動パルスは、前記第1変化要素と前記第2変化要素とを連結するとともに前記第1変化要素の終端の電位を維持する第1維持要素を含み、
前記圧力室内のヘルムホルツ共振周期TCに対し、前記第1維持要素の時間長と前記第2変化要素の時間長との合計時間は、3TC/4以上かつ5TC/4以下に設定される
請求項1の液体噴射装置。
【請求項3】
前記第1維持要素の時間長と前記第2変化要素の時間長との合計時間は、7TC/8以上かつ9TC/8以下に設定される
請求項2の液体噴射装置。
【請求項4】
前記第1維持要素の時間長と前記第2変化要素の時間長との合計時間は、TCに設定される
請求項3の液体噴射装置。
【請求項5】
前記微振動パルスは、前記第2変化要素と前記第3変化要素とを連結するとともに前記第2変化要素の終端の電位を維持する第2維持要素を含み、
前記圧力室内のヘルムホルツ共振周期TCに対し、前記第2維持要素の時間長と前記第3変化要素の時間長との合計時間は、3TC/4以上かつ5TC/4以下に設定される
請求項1から請求項4の何れかの液体噴射装置。
【請求項6】
前記第2維持要素の時間長と前記第3変化要素の時間長との合計時間は、7TC/8以上かつ9TC/8以下に設定される
請求項5の液体噴射装置。
【請求項7】
前記第2維持要素の時間長と前記第3変化要素の時間長との合計時間は、TCに設定される
請求項6の液体噴射装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−76366(P2012−76366A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223579(P2010−223579)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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