説明

液体菌根接種物

本発明は、農業分野、土壌生物工学及び、詳細には、植物による栄養摂取の効率、水分レベル、作物生産高及び特定の根の疾患に対する保護等を改善する微生物であるアーバスキュラー菌根菌の製造及び施用に関する。本発明は、菌根散布体の安定性を達成し、それによって土壌粒団の形成、及び12から18カ月の間の液体培地中の実証された生存度を可能にする水性培地を使用して、アーバスキュラー菌根菌に施用され、灌漑システム及び養液栽培システム中で使用することができる液体製品からなる。本発明の接種物は、畑、又は保護栽培下の温室に直接施用され、胞子の休眠機構を克服するために、又、取扱い及び輸送を可能にし容易にする、増加した濃度レベルを得るために使用することもできる。本発明の製品は、生産性及び環境への影響を改善しつつ、大規模灌漑システム下の作物における菌根菌を管理するために施用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術的解決法は、農業科学、特に有機バイオ肥料生産、より詳細には直接及び灌漑システム経由の両方で土壌及び植物に施用しうる液体菌根接種物を得るための有機バイオ肥料生産に関する。
【背景技術】
【0002】
多様な機能が、菌根群集によるとされているが、それらの中には、系の著しい増加を通しての吸収する根系の表面の改善、土壌の毒性の耐性の増加、特定の養分(N、P、Ca、Mg、Mn、Cu、Zn、B、等)の可溶化、干ばつ、塩分、吸収選択性等の悪条件への耐性、安定な粒団の形成から導かれる土壌物理特性の改善、及び根の病原体に対する一定の保護がある。この群集の農業への利用は、強い環境への影響を暗示する。というのは、それは、菌根菌植物共生の菌根圏及び根圏に存在する種々の微生物個体群間のより良いバランス、並びに生物及び非生物的なストレス効果に対する一般的により高い保護を助けるためである。
【0003】
植物中のアーバスキュラー菌根菌に基づく接種物を得ること及びその後の適用は、際立った特徴を有する。というのは、それらは純培養の培地だけでは成長しないが、宿主の植物の根でその生命のサイクルを達成し、従って、植物の生命のサイクルが完結次第(これらの接種物の製作には、3から4カ月齢の短サイクル植物が使用される)、菌によってコロニーをつくられた根系が抽出され、同様に共生の間に発生した菌の散布体(外部基質の菌糸及び胞子)も、それらが実施される基底も抽出され、固体ベースの菌根接種物の全てのこれらの成分が構成されるからである(Fernandez,F.Chapter3.Bases Cientifico Tecnicas para el manejo de Ios sistemas micorrizados eficientemente.In:Rivera,Fernandez,eds.INCA,Havana.2003)。
【0004】
接種物のこのタイプの現行の作製においては、次の基底が使用されている[Feldman,F.及びIdozak,E.熱帯の苗床への使用のためのベシキュラーアーバスキュラー菌根菌の接種物生産(Inoculum production of Vesicular−arbuscular Mycorrhizal Fungi for use in tropical nurseries.)In:Methods in Microbiology.Volume 24 ISBN 0−12−521524−X.Eds.Academic Press Limited.1992;Fernandez,F他、Author’s Certificate 22641.OCPI.1999]。
土壌
土壌+有機物
有機物

粘土
粘土+砂
粘土+有機物
砂+有機物+土壌
液体流れ槽中の栄養溶液
バーミキュライト
パーライト
ピートモス
膨張モンモリロナイト粘土
全てのこれらの基底の組合せ
【0005】
前述の基底から生じた菌根製品は、畑に直接まくべき種子の全重量に対して10%で粉衣した種子に直接施用され(Fernandez,F他、Author’s Certificate 22641.OCPI.1999)、又は1から2T/hの量で接種物の直接施用が行われる。まき床及び苗床作物の場合、施用量は、1kg/m、及び10g/種子を超えず、常に上記製品をそれぞれまかれる種子の下に置くべきである[Sieverding,E.、熱帯農業システムにおけるベシキュラーアーバスキュラー菌根(Vesicular. Arbuscular Mycorrhiza in Tropical Agrosystem.)Deutsche Gesellsschaft fur tecniische Zusammenarbeit(GTZ)GMBH,Federal Republic of Germany.1991.371p]。
【0006】
灌漑システム又は養液栽培によるこのような接種物の施用は、主として、適切な特性に合致し、灌漑用チューブ中に生じる静水圧の急な変化にそれが耐えることを可能にする液体接種物の欠如による。
【0007】
アーバスキュラー菌根の接種物の製造は、固体、半固体を凝集剤の基底に施すこと及びより小規模でのこれらの微生物の液体媒体中での使用に基づき開発されてきた。
【0008】
固体培地に関しては、いくつかの増殖基底を使用した特許のいくつかの例、例えばUS4945059、JP7123979、JP4187081、DE10161443、及びDE10221762がある。これらの接種物は、適切ではない。というのは、これらの接種物が、一般的に大量の基底を取り扱い、胞子発芽が長期の休眠期間の影響を受け、この製品の散布体濃度が自然である、即ち、所望の量に濃縮することができないからである。
【0009】
半固体の接種物の場合、次の特許、即ち、EP0726305、EP0596217、EP0072213、US5120344、EP0495108、EP0475433、US5436218、US3437625、US3557562、EP0023347、US2856380、US3857991、及びGB2381264が公開されている。これらの製品は、凝集剤の培地中でゲル、コポリマー、粘土のように使用されるt基底をベースにしている。前述の場合のように、大量の基底が、農業用途で取り扱われ、菌根菌の胞子の休眠期間を克服することができない。
【0010】
特許と共に報告された液体の接種物は、基本的に外菌根(CN1420167、US2004208852)に関係し、我々は、胞子を保護するための安定剤(クエン酸又はその塩)の使用に基づく、日本の人々(JP4141023)により報告された液体のみを見出した。
【0011】
一般的に、周知の菌根製品は、一様な胞子発芽を有さず、これらの菌種の休眠機構は、未だ改良することができない。というのは、これらの接種物が施用される基底は、畑の条件下に接種され次第に胞子の発芽プロセスを促進するストレスを与える状態を散布体に付与しないからである。
【0012】
一方、菌根の散布体の自然の限界を有する、これまで作製されている菌根の接種物は、報告されていない。というのは、得られる手順が個々の散布体のより高い量の濃度を産出しないからである。現在、より高い濃度を有する周知の菌根製品は、胞子関係:基底1g当たり50個の胞子の菌糸:基底当たり65mgの菌糸を有する(Fernandez,F.Chapter3.Bases Cientifico Tecnicas para el manejo de los sistemas micorrizados eficientemente.In:Rivera,Fernandez,eds.INCA,Havana.2003)。
【0013】
グロマリン(Glomaline)と呼ばれるこれらの菌の固有の糖タンパク質は、土壌中の安定な微小な粒団の形成プロセスを促進して、その物理的構造を改良し、酸素レベルを増加させ、且つ微生物のより良いコロニー形成を可能にする。グロマリンは、共生の間に自然な方法で、又は排出の特定の培地の作用下でのみ排出されるので、それは周知の菌根接種物中の固体担体に排出されないようであり、それが土壌中に見出されるレベルは、微生物との共生の状態により、それらはこの共生が許すものを超えて上昇することはできない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の主要な目的は、特に既設の灌漑システム又は別の灌漑システムによって適切且つ有益な用量で直接施用することができる、より高い品質及び効率を有する、菌根菌の大量の取扱いを可能にする液体製品を得ることからなる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この接種物を得るために、次のステップが開発された。
1.繁殖用の基底、即ち、土壌、カオリナイトの又はモンモリロナイトの粘土、パーライト、ゼオライト、バーミキュライト及び有機物(共生の必要性に応じて使用される)の上に成長する、ブラクイアリア・デクムベンス(Braquiaria decumbens)、ソルグム・ブルガレ(Sorghum vulgare)又は宿主植物の他の微栄養絶対種の宿主植物の種をまくこと。
2.これらの植物に、種子の下に10gの純粋な菌根菌の株を置くことによって直接接種し、それらの製造のために、次の種、即ち、グロムス・ファシクラツム(Glomus fasciculatum)、グロムス・クラルム(Glomus clarum)、グロムス・スプルクム(Glomus spurcum)、グルムス・モセアエ(Glomus mosseae)、グロムス・イントララジス(Glomus intrarradices)、ギガスポラ・マルガリタ(Gigaspora margarita)及びグロムス目(Glomales)及びディバージスポラ目(Diversisporales)の他の種を個別に使用したが、他の種の菌根菌も使用しうる。
3.植物の生命サイクルの最後において、その頂部を取り除き、菌根の散布体(コロニーが形成された根、菌糸及び抵抗性胞子)及び初期担体の混合物中に安定な固体の基底が得られる。
4.後に、菌根の散布体を、問題の菌根菌種に応じた400から40μmの範囲(rancid)のいくつかの篩を通した湿式デカント篩い分け法によって抽出し、最も細かい篩で集めた固体画分を遠心分離機にかけ、次いで液体画分を菌の散布体でデカントする。
5.全ての菌根の成分が分離されたときに、これらを、表面的に5分間クロラミンT(2%)の溶液で洗浄し、無菌の蒸留水で3回洗浄し、24時間ストレプトマイシンの硫酸塩中に置いた。完了次第、それらを、ソルビトール(5から10%の間)、マンニトール(2%)、Tween40(5%)、Tween80(2%)、100から500mg/Lの間の範囲で使用するポリエチレングリコール4000から0.8から0.1%の寒天を含む含水混合物に詰めた。この場合、製品を、許容される物理的限界の散布体単位/培地1mLまで製造することができる。
6.散布体を含む含水溶液は、次の要素によって構成される。
a)活性成分:
菌根の散布体:抵抗性胞子、アーバスキュラー外部基質菌糸、グロマリン及び問題の菌によってコロニー形成された40μm未満の根。
b)他の成分:
5から10%の間の範囲のソルビトール
2から5%の間の範囲のマンニトール
5から7%の間の範囲のTween40
2から7%の間の範囲のTween80
100から500mg/Lの間の範囲で使用するポリエチレングリコール
0.8から0.1%の間の範囲の寒天
【発明の効果】
【0016】
これらの手順が完了次第、製品が、畑に又は既設の灌漑システムによって施用できるようになり、菌根の散布体、特に胞子が表面の浸透圧の影響に対して保護されること、及びそれらが水に施用され次第、胞子の休眠メカニズムを終わらせ、強いコロニー形成能力を得、完全な作物の応答を発展させ得ることが保証される。
【0017】
本提案の発明は、その製造の形態により、この水溶解を可能にする物理的な制限以外のより多くの制限なしに非常に高い濃度に到達しうるために、又はその施用が便利であるために、極めて感染性になりうる接種物を構成し、1百万又は2百万個の胞子/L並びに1及び2グラムの菌糸/Lのオーダーの濃度が達成される。
【0018】
また、菌根の散布体が水性培地にあるという事実のために、グロマリンの分泌が刺激され、この接種物の組成物中に高い濃度で存在し、特別な特徴が付与され、直接の施用で、土壌中の安定な微細粒団の形成プロセス、その物理的構造の即時の改善、及び酸素レベルの増加が促進され、これによりこの微生物のより良いコロニー形成が可能になり、効率的な菌根共生の発展が保証される。
【0019】
その濃度を増加させる場合にその体積を減少させ、その取扱い及び輸送を容易にし、労働を排除するので、本接種物は、土壌への製品の直接の施用を促進する。
【0020】
それは、濃縮された液体担体に組み込まれ、8カ月の生存度を有し、養液栽培システムを通して完全に施用することができ、均一な分配を達成し、種々のスケールでの実験で確認される。この事実は、灌漑システム下での全ての植物の好結果の接種を保証しており、これは有意な収率増加により観測される(技術報告書を参照されたい)。
(参考文献)




【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の組成:
a.抵抗性胞子、アーバスキュラー外部菌糸、グロマリン及び問題の菌によってコロニー形成された40μm未満の根からなる菌根散布体と、
b.5から10%の間の範囲のソルビトールと、
c.2から5%の間の範囲のマンニトールと、
d.5から7%の間の範囲のTween40と、
e.2から7%の間の範囲のTween80と、
f.100から500mg/Lの間の範囲で使用されるポリエチレングリコールと、
g.0.1%の寒天と
を含むことを特徴とする液体菌根接種物。
【請求項2】
灌漑システム又は養液栽培システムにより水中に施用し得ることを特徴とする、請求項1に記載の液体菌根接種物。
【請求項3】
1百万又は2百万個の胞子/L並びに1及び2グラムの菌糸/Lのオーダーの濃度レベルを可能にすることを特徴とする、請求項1に記載の液体菌根接種物。
【請求項4】
前記ポリエチレングリコールを、4000から10000の間の範囲でのいくつかの分子量で、100から500mg/Lの間の範囲での、分子量による溶解濃度で使用することができる、請求項1に記載の液体菌根接種物。

【公表番号】特表2008−522932(P2008−522932A)
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−544720(P2007−544720)
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【国際出願番号】PCT/CU2005/000010
【国際公開番号】WO2006/060968
【国際公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(507191072)インスティチュート ナシオナル デ シエンシアス アグリコラス (1)
【Fターム(参考)】