説明

液体輸送装置

【課題】小型でコンパクトな液体輸送装置を提供することにある。
【解決手段】内部に液体を含有するシリンジ外筒及びシリンジ外筒の内部を摺動するピストンで構成されたシリンジと、一方の端部が前記シリンジ外筒に連結されたチューブと、ピストンを押す押し子と、を有し、押し子によりピストンを押し、シリンジ外筒からチューブに液体を供給することで、チューブの他端から液体を供給する液体輸送装置であって、シリンジ外筒を支持する支持部と、シリンジと略平行に配置され、かつ、押し子を支持部に対して、ピストンの移動方向に直線的に相対移動させる直線移動機構と、ピストンと押し子との間に配置され、押し子がピストンを押すことで発生する圧力を検出する圧力検出部と、を備えかつ、圧力検出部で検出した圧力に基づいて、直線移動機構の動作を制御する制御部と、を有することで上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を供給または吸引することにより液体を輸送する液体輸送装置、特にマイクロチップに形成された流路に液体を供給(または吸引)するような、少量の液体に対する高精度な流量制御に適した液体輸送装置とその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体に含まれる微小な試料や、複数の液体の混合状態を観察する方法として、マイクロチップに形成した流路に液体を流し、その流路を流れる液体を顕微鏡やカメラで観察する方法がある。ここで、マイクロチップの流路に液体を流す装置としては、シリンジを用いてマイクロチップの流路に液体を流す装置がある。
【0003】
また、特許文献1には、所定量の液体を滴下または排出する分注装置であるが、チップに気体を供給する気体供給装置と、チップ内部の圧力を検出する圧力センサを設置し、チップが液面下にチップの先端部が位置した状態で気体をチップの先端から放出し、この時のチップの内部の圧力を検出することにより制御回路において表面張力を算出し、この算出された表面張力の値に基づいてシリンジの動作を制御する分注装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−174602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の装置では、分注前に、試料となる液体の表面張力を計測し、その計測結果に基づいてピストンの移動量を調整することで、分注の精度を高くするようにしている。このように、特許文献1に記載の装置は、試料となる液体の種類に応じてピストンの移動量を制御することで、チップから滴下(または排出)する試料の量を制御しているが、条件を設定してもその条件に基づいて正確に駆動しない場合もある。また、マイクロチップに液体を流して観察を行う場合は、試料の流速が増減すると試料の観察が行いにくいという問題がある。ここで、特許文献1に記載の装置は、液体が流れる流路に分岐路を設け、その分岐路に加わる圧力を圧力センサで計測する構成である。このように流路を分岐している構成であるため、ピストンから加えられる圧力に対して損失が発生する。そのため、ピストンから加えられる圧力を検出することができない。
【0006】
また、試料の移動速度が高速である場合は、肉眼では、試料の状態を観察することができないため、高速度カメラなどの特殊な機材が必要となり、装置コストが高くなってしまうという問題もある。また、液体輸送装置は、装置が大きくなってしまうという問題もある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、小型でコンパクトな液体輸送装置を提供することを目的とする。また、本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、上記目的に加え、液体を安定した速度で輸送することができる液体輸送装置を提供することを目的とする。さらに、マイクロチップで観察しやすいように、試料を安定した低速度でマイクロチップの流路に流すことができる液体輸送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、内部に液体を含有するシリンジ外筒及びシリンジ外筒の内部を摺動するピストンで構成されたシリンジと、一方の端部が前記シリンジ外筒に連結されたチューブと、前記ピストンを押す押し子と、を有し、前記押し子により前記ピストンを押し、前記シリンジ外筒から前記チューブに液体を供給することで、前記チューブの他端から液体を供給する液体輸送装置であって、前記シリンジ外筒を支持する支持部と、前記シリンジと略平行に配置され、かつ、前記押し子を前記支持部に対して、前記ピストンの移動方向に直線的に相対移動させる直線移動機構と、前記ピストンと前記押し子との間に配置され、前記押し子が前記ピストンを押すことで発生する圧力を検出する圧力検出部と、を備えかつ、前記圧力検出部で検出した圧力に基づいて、前記直線移動機構の動作を制御する制御部と、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、シリンジと平行に配置された直線移動機構によって、装置軸方向の長さを短縮でき、装置のコンパクト化を実現できる。また、ピストンと押し子の間に配置された圧力検出部と制御部によって、駆動部から押し子への力の伝達を精度よくコントロールすることができる。
【0010】
ここで、前記直線移動機構は、前記押し子を支持する支持部材と、前記支持部材と螺合したボールねじと、前記支持部材を直動方向に案内する直動案内部と、前記ボールねじを回転させるモータとを有し、前記制御部は、前記モータの回転数を制御することで、前記押し子の位置及び前記押し子が前記ピストンを押す圧力を制御することが好ましい。なお、移動機構としては、空気圧と磁気力で押し子を移動させる機構を用いることも好ましい。
【0011】
本発明によれば、より高い精度で押し子を移動させることができ、供給対象に供給する試料の流量をより少ない流量とすることができ、また流量をより安定させることができる。また、本発明によれば、例えば、マイクロチップに液体を供給する場合は、マイクロチップで観察しやすいように、試料を安定した低速度でマイクロチップの流路に流すことができる。
【0012】
また、前記制御部は、前記圧力検出部で検出した圧力の値が設定された範囲となるように、前記モータの回転数を制御することが好ましい。
【0013】
本発明によれば、圧力値が設定された範囲となるようにすることで、流路を流れる試料の速度を安定させることができ、また、流速が速くなりすぎることを防止できる。
【0014】
また、前記ピストンの端部に連結された連結部材を有し、前記圧力検出部は、前記連結部材に固定され、前記ピストンは、前記連結部材と前記圧力検出部を介して、前記押し子からの力が加えられることが好ましい。
【0015】
本発明によれば、連結部材を用いることで、押し子からピストンに安定して力を伝えることができ、また、圧力検出部を的確に保持することができる。
【0016】
また、連結部材は、ピストンと連結する面を、凹部とし、その凹部の一部をピストン側の面から離れるに従って径が小さくなる円錐形状または断面がテーパとなる形状とすることが好ましい。これにより、シリンジ外筒の形状、ピストンの径によらず、凹部にピストンを的確に保持することができ、ピストンがピストンの軸方向に直交する方向にずれることを抑制することができる。よって本発明の液体輸送装置は、種々の容量のシリンジに対応できる。
【0017】
また、前記圧力検出部が前記押し子と前記ピストンの間に連結された構造で、前記押し子を前記ピストンが前記シリンジから引き抜かれる方向に引っ張った際に発生する圧力を検出する機能を有しており、前記圧力検出部で検出した圧力に基づいて、前記移動機構の動作を制御する制御部を有する構成としても良い。これにより、シリンジで液体を吸引することで液体を輸送することができる。
【0018】
なお、圧力検出部としては、圧力を検出できる種々の検出素子を用いることができる。
また、圧力検出部としては、ロードセルを用いることが好ましく、特に小型圧縮型ロードセル、引張圧縮両用ロードセルを用いることが好ましい。
【0019】
また、前記圧力検出部の圧力値より、前記液体流路の詰まりや異常を判断することが好ましい。これにより、前記チューブおよび前記マイクロチップの破損等が防止できる。
【0020】
また、マイクロチップに形成された液体流路に前記チューブの他方の端部が接続され、前記液体流路に液体を供給することが好ましい。本発明の液体輸送装置は、液体流路に液体を供給することで、上記の種々の効果を得ることができる。
【0021】
また、マイクロチップに形成された液体流路に前記チューブの他方の端部が接続され、前記液体流路より液体を吸引しても良い。本発明の液体輸送装置は、液体流路から液体を吸引することでも、上記の種々の効果を得ることができる。
【0022】
また、上述した液体輸送装置の前記シリンジ外筒の先端に、液体吸引するためのノズルを有した配管を取り付け、基板上に滴下した微小物質を分散させた溶液を吸引し、吸引する速さを前記モーターで制御することで、基板表面に微小物質を均一に固定化することが可能となる。
【0023】
また、微小物質を分散させた溶液を満たした容器について、前記配管を前記容器の底部に接続し、前記基板を垂直方向に向けた状態で液体に浸した状態で微小物質を分散させた溶液を上述の液体輸送装置で吸引し、吸引する速さを前記モーターで制御することで、基板の両面に微小物質を均一に固定化することが可能となる。
【0024】
また、前記微小物質は、抗体、タンパク質、DNA、細胞などの生体高分子や、金粒子、シリコン粒子などの金属粒子、カーボンナノチューブなどを使用することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明にかかる液体輸送装置は、シリンジと平行に配置された直線移動機構によって、装置軸方向の長さを短縮でき、装置のコンパクト化を実現できるという効果を奏する。また、ピストンと押し子の間に配置された圧力検出部と制御部によって、駆動部から押し子への力の伝達を制御よくコントロールすることができるという効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本発明の液体輸送装置を有する観察システムの第1の実施形態の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、図1に観察システムのマイクロチップの概略構成を示す分解斜視図である。
【図3−1】図3−1は、図1に示す連結部材の概略構成を示す正面図である。
【図3−2】図3−2は、図3−1のA−A線断面図である。
【図4】図4は、移動機構の概略構成を示す斜視図である。
【図5−1】図5−1は、図4に示す移動機構の上面図である。
【図5−2】図5−2は、図5−1に示す移動機構の正面図である。
【図5−3】図5−3は、図5−1に示すB−B線断面図である。
【図6】図6は、モニタに表示される画面の一例を示す説明図である。
【図7−1】図7−1は、圧力検出部で検出した圧力の変位の一例を示すグラフである。
【図7−2】図7−2は、圧力検出部で検出した圧力の変位の一例を示すグラフである。
【図8−1】図8−1は、本発明の装置の理論変位と測定変位との関係の一例を示すグラフである。
【図8−2】図8−2は、従来の装置の理論変位と測定変位との関係の一例を示すグラフである。
【図9−1】図9−1は、本発明の装置により試料を供給した流路の一例を示す説明図である。
【図9−2】図9−2は、従来の装置により試料を供給した流路の一例を示す説明図である。
【図9−3】図9−3は、図9−1と同様の装置を用い、検出した圧力に基づいて制御を行わずに試料を供給した流路の他の一例を示す説明図である。
【図10−1】図10−1は、本発明の装置により試料を供給した流路の他の例を示す説明図である。
【図10−2】図10−2は、本発明の装置により試料を供給した流路の他の例を示す説明図である。
【図10−3】図10−3は、本発明の装置により試料を供給した流路の他の例を示す説明図である。
【図10−4】図10−4は、図10−3と同様の装置を用い、検出した圧力に基づいて制御を行わずに試料を供給した流路の他の一例を示す説明図である。
【図11】図11は、第2の実施形態の液体輸送装置の概略構成を示す説明図である。
【図12】図12は、第3の実施形態の液体輸送装置の概略構成を示す説明図である。
【図13−1】図13−1は、図12に示すピストン、ピストン固定具、ロードセル及び押し子の概略構成を示す斜視図である。
【図13−2】図13−2は、図13−1の組付手順を示す斜視図である。
【図14−1】図14−1は、図12に示すシリンジ外筒及び支持部の概略構成を示す斜視図である。
【図14−2】図14−2は、図14−1の組付手順を示す斜視図である。
【図15−1】図15−1は、圧力検出部で検出した引張り荷重の変位の一例を示すグラフである。
【図15−2】図15−2は、圧力検出部で検出した引張り荷重の変位の一例を示すグラフである。
【図16】図16は、本発明に係る液体輸送装置を用いた微小物質の固定化方法の概略構成を示す説明図である。
【図17】図17は、図16において液体輸送装置を用いて液体を吸引した際の基板上の液体及び微小物質の挙動を示す模式図である。
【図18】図18は、微小物質を抗体とした場合の基板上の液体及び微小物質の挙動を示す模式図である。
【図19】図19は、本発明に係る液体輸送装置を用いた微小物質の固定化方法の概略構成を示す説明図である。
【図20】図20は、図19において液体輸送装置を用いて液体を吸引した際の基板上の液体及び微小物質の挙動を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(第1の実施形態)
(観察システムの構成に関する説明)
以下に、本発明にかかる液体輸送装置を有する観察システムの一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。例えば、以下の実施形態では、1つのマイクロチップに1つの液体輸送装置を接続した構成としたが、1つのマイクロチップに複数の液体輸送装置を接続した構成としてもよい。
【0028】
図1は、本発明の液体輸送装置を有する観察システムの第1の実施形態の概略構成を示すブロック図である。図1に示すように観察システム10は、液体が流れる流路が形成されたマイクロチップ12と、マイクロチップ12に液体を供給する液体輸送装置14と、マイクロチップ12の流路を拡大して観察した画像を取得する光学機器16と、光学機器16で取得した画像を検出する検出部18とを有する。観察システム10は、液体輸送装置14からマイクロチップ12に供給され、マイクロチップ12の流路を流れる液体の画像を光学機器16及び検出部18で取得し、取得した画像をモニタに表示させること、操作者が流路を流れる液体を観察できるようにするシステムである。
【0029】
以下、まず、図1及び図2を用いてマイクロチップ12の説明をする。ここで、図2は、図1に観察システムのマイクロチップの概略構成を示す分解斜視図である。図1及び図2に示すように、マイクロチップ12は、チップホルダ60と、流体チップ62と、チップ押さえ板64と、複数のOリング66とで構成されている。
【0030】
チップホルダ60は、金属製の板状部材であり、面積が大きい面には、流体チップ62を保持するための凹部61が形成されている。凹部61は、一方の辺の幅が流体チップ62の幅と略同じ長さで形成されており、流体チップ62が位置ずれしないように、流体チップ62の対向する側面を挟み込んで所定位置に支持している。また、チップホルダ60は、凹部61の底面を構成する面にガラス板が配置されている。また、チップホルダ60には、ねじ止めするためのねじ穴が形成されている。
【0031】
流体チップ62は、内部に流路68が形成されている。また、流路68の端部には、流路68と外部とを繋げる開口69が形成されている。ここで、本実施形態では、流路68は、一本の長い線分部と、その長い線分部68aに直交する方向に伸びた、二本の線分部68bとで構成されている。また、二本の線分部68bは、一定間隔離れて、平行に配置されており、それぞれ、該一本の長い線分部68aの交差している。つまり、一本の長い線分部68aと、二本の線分部68bとは、繋がっている。また、流体チップ62の開口69には、Oリング66が配置されている。なお、流体チップ62の開口は、流路68を構成する線分部の両端に形成されているため、本実施形態では、6つの開口が形成されている。また、流体チップ62は、少なくともチップホルダ60と対向していない面(チップ押さえ板64と対向する面)が、透明な材料で形成されている。また、流体チップ62とチップホルダ60との間には、ウレタンシートが配置されている。
【0032】
なお、流路68が形成された流体チップ62は、種々の方法で作製することができる。例えば、工作機械により溝を形成した2枚の樹脂プレートを作製し、作製した2枚の樹脂プレートを張り合わせることで、内部に流路を有する流体チップ62を作製することができる。なお、流路68の端部に形成された開口は、樹脂プレートを張り合わせる前に形成しても、張り合わせた後に形成してもよい。
【0033】
チップ押さえ板64は、金属で形成された板状部材であり、Oリング66が配置された開口とそれぞれ連通する注入口70と、排出口71とが形成されている。なお、注入口70は、流路68を構成する長い線分部68aの一方の端部に設けられた開口69と連通しており、排出口71と、流路68を構成する長い線分部68aの一方の端部に設けられた開口69と連通している。また、チップ押さえ板64には、注入口70と排出口71に加え、4つの開口69に対応して、4つの開口72が形成されている。また、流路68の長い線分部68aの上面に相当する領域は、線分部68aが観察できるように開口73が形成されている。また、チップ押さえ板64は、チップホルダ60のねじ穴に対応する位置にねじ穴が形成されている。
【0034】
マイクロチップ12は、流体チップ62をチップホルダ60の凹部61にはめ込み、凹部61を塞ぐようにチップ押さえ板64を配置し、チップホルダ60とチップ押さえ板64とをねじによりねじ止めすることで、構成されている。これにより、流体チップ62は、チップホルダ60とチップ押さえ板64とにより固定され、流体チップ62から液体が漏れることを抑制することができる。また、チップホルダ60と流体チップ62との間にウレタンシートを配置することで、密着性を高くすることができ、好適に密着させることができる。また、開口69と注入口70、開口69と排出口71、開口69と開口72とは、Oリング66を介して連結されている、これにより流体チップ62とチップ押さえ板64との開口の連結部から液体が漏れることを抑制することができる。
【0035】
なお、マイクロチップ12の形状は、特に限定されず、流路が形成されたマイクロチップであればよく、種々のマイクロチップを用いることができる。例えば、本出願人が出願した、特開2008−224500号公報に記載された流路形成チップや、特開2008−151658号公報に記載された物質捕集装置も用いることができる。
【0036】
次に、図1に戻り、観察システム10の他の部分を説明する。液体輸送装置14は、マイクロチップ12の流路68に液体の試料を流す装置であり、シリンジ20と、供給配管22と、排出配管24と、連結部材26と、支持部28と、押し子30と、移動機構32と、圧力検出部34と、制御部36と、モニタ38と、入力部40とを有する。
【0037】
シリンジ20は、内部に液体の試料が溜められたシリンジ外筒42と、前後に移動することでシリンジ外筒42の容積を変化させるピストン44とで構成されており、ピストン44を押し、シリンジ外筒42の内部の容積を小さくすることで、シリンジ外筒42のピストン側とは反対側の端部(先端)に形成された開口から試料を排出する。
【0038】
供給配管22は、チューブ状の部材であり、一方の端部がシリンジ外筒42の開口と接続され、他方の端部が注入口70と接続されている。供給配管22は、シリンジ外筒42から供給された試料を注入口70に送る。排出配管24は、チューブ状の部材であり、一方の端部が、マイクロチップ12の排出口71に接続されている。排出配管24は、排出口71から排出される試料を他方の端部から排出する。なお、排出配管24は、他方の端部が廃液受け皿等、試料を廃棄することができる部材と繋がっている。
【0039】
連結部材26は、ピストン44の端部、具体的には、シリンジ外筒42と連結していない側の端部と連結している。また、連結部材26のピストン44と連結している面とは反対側の面には、後述する圧力検出部34のロードセル51が配置されている。以下、図3−1及び図3−2を用いて、連結部材26の形状を説明する。ここで、図3−1は、図1に示す連結部材の概略構成を示す正面図であり、図3−2は、図3−1のA−A線断面図である。なお、図3−2には、ロードセル51と、ねじ77も示す。図3−1及び図3−2に示すように連結部材26は、円柱状の部材であり、内部に、ピストン保持凹部74と、検出部設置凹部76とが形成されている。また、連結部材26は、ピストン44と押し子30との間に加わる圧力では、実質的に変形(伸縮)しない剛性の部材で形成されている。
【0040】
ピストン保持凹部74は、ピストン44側の端部からロードセル51側の端部に向かって、開口の径が変化しない直動部と開口の径が徐々に小さくなるテーパ部(つまり、先端が切り落とされた円錐形状となる部分)とが繋がった形状で形成されている。ピストン保持凹部74は、ロードセル51側の一部、つまり凹部の底となる部分をテーパ部とすることで、ピストン44の端部の形状や径が種々の形状であっても、ピストン44の移動方向(軸方向)に直交する方向にずれないように保持することができる。これにより、ロードセル51側の面から加えられた力を、ピストン44の軸方向に的確に伝達することができる。
【0041】
また、検出部設置凹部76は、ロードセル51が配置される面に形成された凹部であり、ロードセル51がはめ込まれる。検出部設置凹部76にはめ込まれたロードセル51は、ピストン44の移動方向に直交する方向にずれないように保持される。連結部材26は、以上のような構成でありロードセル51とピストン44と押し子30とがピストンの軸方向において同軸上(直線的)となるように、ピストン44に連結され、ロードセル51を保持している。また、ロードセル51は、ねじ77により連結部材26に固定されている。
【0042】
図1に戻り、各部の説明を続ける。支持部28は、シリンジ20のシリンジ外筒42を支持する部材であり、シリンジ外筒42の長手方向に伸びた箱状の部材であり、シリンジ外筒42の長手方向に延びた溝が形成されている。シリンジ外筒42は、この溝に配置されている。なお、支持部28は、シリンジ外筒42を安定して保持する形状であればよく、その形状は限定されない。
【0043】
押し子30は、板状部材であり、表面(面積が一番大きい面)が、連結部材26のロードセル51が配置された面に対面して配置されている。また、押し子30は、後述する移動機構32の移動部47に固定されており、移動部47ともに、ピストン44の移動方向と平行な方向に移動される。
【0044】
次に、図1、図4及び図5−1から図5−3を用いて移動機構32について説明する。なお、図4は、移動機構の概略構成を示す斜視図であり、図5−1は、図4に示す移動機構の上面図であり、図5−2は、図5−1に示す移動機構の正面図であり、図5−3は、図5−1に示すB−B線断面図である。移動機構32は、押し子30をピストンの移動方向と平行な方向に移動させる機構であり、筐体45と、ボールねじ46と、移動部47と、ガイドレール48と、モータ49とで構成されている。なお、図4、図5−1から図5−3では、モータ49の図示を省略している。
【0045】
筐体45は、ピストン44の軸方向が長手方向となる箱状部材であり、内部にボールねじ46、移動部47、ガイドレール48が収納されている。また、筐体45の上面には、支持部28が固定されている。
【0046】
ボールねじ46は、ピストンの移動方向と平行な方向が長手方向(軸方向)となる向きで配置されており、移動部47が螺合している。また、ボールねじ46は、筐体45に回転可能で、かつ、ピストンの移動方向と平行な方向に移動しない状態で支持されている。また、ボールねじ46は、一方の端部(シリンジ20が配置されていない側の端部)が筐体45から突出しており、後述するモータ49と連結している。
【0047】
移動部47は、ねじ溝が形成されたねじ穴を有し、そのねじ穴がボールねじ46に螺合している部材である。移動部47は、ボールねじ46が回転することで軸方向に移動する。また、移動部47は、ボールねじ46の回転方向により移動方向が切り替えられ、また、ボールねじ46が一回転されると、ボールねじのねじ溝の1ピッチ分移動する。
【0048】
ガイドレール48は、断面がU字となる細長い部材、レール状の部材であり、ボールねじ46と平行に、ボールねじ46の外周を囲うように、つまり、U字を構成する3つの辺を結んだ空間の内部にボールねじ46が入るように配置されている。また、ガイドレール48は、図5−1から図5−3に示すように、移動部47の外周に対面または接触するように配置されている。つまり、ガイドレール48は、移動部47と略隙間がない状態で配置されている。なお、ガイドレール48は、移動部47の押し子30が設けられている面以外の面に対面している。ガイドレール48は、移動部47がボールねじと共に回転しないように保持しつつ、移動部47を移動方向に案内する。
【0049】
モータ49は、ボールねじ46を回転させる駆動機構である。また、モータ49は、回転数及び回転方向を変更することができる駆動機構である。移動機構32は、モータ49を回転させ、ボールねじ46を回転させることで、ボールねじ46に螺合している押し子30をピストンの移動方向と平行な方向に移動させる。また、移動機構32は、モータ49の回転数、回転速度、回転方向を変化させることで、押し子の位置、移動速度を変化させることができる。なお、本実施形態では、液体輸送装置の小型化と、かつ、マイクロチップへ供給する必要な容量を考慮し、移動機構として日本精工社製、MCM02005H02K型モノキャリアを用いた。
【0050】
圧力検出部34は、押し子30からピストン44に加えられる力を検出するロードセル51と、ロードセル51で検出された圧力値を信号として検出する信号検出部52とで構成される。ロードセル51は、上述したように連結部材26の検出部設置凹部76にねじ77によって固定されている。ロードセル51は、小型圧縮型のロードセルである。なお、後述する測定では、直径12mm、厚さ4mm、定格容量10Nの小型圧縮型ロードセル(KYOWA社製、LMA−A−10N型)を使用した。また、ロードセル51は、図3に示すように、その先端が、連結部材26よりも押し子30側に突出している。これにより、ロードセル51は、連結部材26と押し子30との間に配置され、ロードセル51を介して押し子30から連結部材26に力が伝達される。つまり、押し子30から連結部材26に加えられる力をロードセル51で検出することができる。信号検出部52は、ロードセル51で検出された圧力値を信号化し制御部36に送る。
【0051】
制御部36は、CPU、メモリ等で構成された処理装置である。制御部36としては、パソコン(パーソナルコンピュータ)として使用されている処理装置(演算装置)を用いることができる。つまり、パソコンが制御部36の機能をソフトウェアの1つとして有する構成とし、パソコンにより制御部36の処理を行うようにしてもよい。制御部36は、後述する入力部40から入力された情報や、信号検出部52から送られる情報に基づいて、移動機構32のモータ49の回転数、回転方向を制御する。また、制御部36は、操作者が入力部40から情報を入力する画面をモニタ38に表示させたり、後述する検出部18から取得した画像をモニタ38に表示させたりする。
【0052】
モニタ38は、液晶表示ディスプレイやブラウン管の画像表示装置であり、制御部36から出力される信号(映像信号)に基づいて画像を表示させる。入力部40は、操作者が操作して指示を入力する手段であり、キーボードやマウスで構成される。入力部40は、操作者により行われた操作に対応する信号を操作信号として制御部36に送る。液体輸送装置14は、以上のような構成である。
【0053】
光学機器16は、対象領域の画像を拡大して取得する装置であり、マイクロチップ12の流路68の映像、画像を取得する。本実施形態では、光学機器16として、蛍光顕微鏡を用いる。なお、光学機器としては、蛍光顕微鏡に限定されず、各種顕微鏡やカメラを用いることができる。光学機器16は、取得した画像や動画をデジタルデータとして取得し検出部18に送る。なお、本実施形態では、光学機器16として画像をデジタルデータとして取得するようにしたが、本発明はこれに限定されず、光学機器としては、マイクロチップ12の流路68を肉眼で観察できるのみの顕微鏡も用いることができる。
【0054】
検出部18は、光学機器16で取得したがデジタルデータを制御部36に送る。なお、制御部36は、検出部18から送られたデータを処理し、光学機器16で取得した流路68の画像、動画をモニタ38に表示させる。観察システム10は、以上のような構成である。上記構成とし、圧力検出部であるロードセルを押し子とピストンの間に配置し、また、移動機構をシリンダポンプの軸方向に平行、特に本実施形態のように並列となるように配置することで、装置を小型化することができる。
【0055】
(観察システムの動作及び液体輸送装置の動作の説明)
次に、図6から図8−2を用いて、観察システム10の動作、特に液体輸送装置14の動作について説明する。液体輸送装置14がマイクロチップ12に液体を供給する動作について説明する。まず、準備として、操作者は、シリンジ外筒42の内部に液体が溜められたシリンジ20を支持部28に設置する。また、光学機器16に対向する位置にマイクロチップ12を配置する。具体的には、光学機器16の撮影領域(光学機器16を用いて観察可能な領域)に流路68が入るようにマイクロチップ12を設置する。その後、供給配管22の一方の端部をマイクロチップ12の注入口70に繋げ、他方の端部をシリンジ外筒42の先端に繋げる。
【0056】
次に、操作者により、モータ回転速度が入力されることによって、シリンジ20から液体を供給する速度、つまり単位時間当たりにシリンジ20から排出する液体の量(以下「供給流量」)が設定される。操作者による供給流量の設定は、モニタ38の画面に表示された情報に基づいて、入力部40を用いて値、指示が入力されることで設定される。
【0057】
ここで、図6は、モニタに表示される画面の一例を示す説明図である。操作者による供給流量の設定の際、モニタ38には、図6に示す画面100が表示される。なお、画面100はモニタ38の一部に表示させるようにしても、全面に表示させてもよい。画面100には、流量設定欄102と、モータ設定欄104と、スタートボタン106と、ストップボタン108と、緊急停止ボタン110とが表示されている。なお、画面100の各欄やボタンへの移動は、入力部40のキーボードのタブボタンを押下したり、マウスによりカーソルを移動させてクリックしたりすることで行うことができる。
【0058】
流量設定欄102には、シリンジ外筒の径(シリンジ径)と、モータ回転速度の設定値を入力する部分がある。操作者がこの部分に数値を入力することで、シリンジ20から排出液体の流量の計算値(計算流量(ml/h))が算出される。なお、シリンジ径は、設置したシリンジ20の径(内径)を入力すればよい。モータの回転数は、操作者が所望の回転数を入力すればよい。この計算値が設定された流量となる。なお、操作者が入力したモータの回転数は設定値であり、制御部36の制御によりモータの回転数は、算出された計算流量で試料を排出するために適時変動する。
【0059】
モータ設定欄104は、モータの各種設定を選択するボタンと、現在位置とモータ負荷を表示する部分とがある。また、スタートボタン106は、操作者によりクリックまたは決定されることでモータの制御を開始する指示を出力するボタンであり、ストップボタン108は、操作者によりクリックまたは決定されることでモータの停止処理を開始する指示を出力するボタンであり、緊急停止ボタン110は、モータの状態にかかわらず、強制的にモータの駆動を停止する指示を出力するボタンである。
【0060】
操作者は、このように表示されている画面に、シリンジ外筒の径(シリンジ径)の値と、モータ回転速度の値を入力して算出された計算流量が所望の流量であったら、スタートボタンを押し、制御を開始する。
【0061】
ここで、制御部36は、計算流量を算出したら、シリンジ20から計算流量で試料を排出するときに、ロードセル51で検出される予定の圧力値(理論圧力値)、つまり、条件を満たした流量で試料を排出するときに、押し子30がピストン44に加える適切な圧力(ロードセルで検出される圧力)を算出する。なお、理論圧力値の算出には、予め実験等で算出した流量と圧力値との関係を用いて算出すればよい。なお、圧力の値は、1つの値として算出しても、所定の数値範囲として算出してもよい。また、制御部36は、試料の位置に応じて、適切な圧力の値、範囲を設定するようにしてもよい。例えば、試料がマイクロチップ12に到達していない場合と、マイクロチップ12に到達している場合とで範囲を設定してもよい。また、マイクロチップ12の流路68内に試料が流れている間のみ制御を行うようにしてもよい。
【0062】
制御部36は、理論圧力値を算出し、さらに処理開始の指示が入力されたら、モータ49を回転させて押し子30をピストン44に近づけ、押し子30によりピストン44を押し始める。なお、このとき、押し子30から加えられた力は、ロードセル51、連結部材26を介してピストン44に伝わる。また、ロードセル51は、押し子30からピストン44に加えられる圧力を検出し、信号検出部52を介して制御部36に伝えられる。
【0063】
制御部36は、押し子30がピストン44を押し始めたら、圧力検出部34の検出値に基づいて、圧力検出部34で検出される圧力が設定値となるようにモータ49の回転数を制御する。制御部36により、制御された圧力で押し子30がピストン44を押し続けると、ピストン44が供給配管22側に押され、シリンジ外筒42の内部に圧力が付加され、シリンジ外筒42の内部に蓄えられている試料が、シリンジ外筒42から供給配管22に押し出される。
【0064】
ここで、液体輸送装置14は、制御部36が、圧力検出部34で検出される圧力が設定値となるように制御とすることで、押し子30がピストン44に加える圧力を安定させることができる。
【0065】
制御部36は、例えば、圧力(押し込み力)の設定値を5N(ニュートン)と設定している場合に、検出した圧力が2Nでモータ49の回転が停止しているときは、ピストン44を押す方向に押し子30が移動するようにモータ49を回転させる。また、押し子30がピストン44を押す方向にモータ49を回転させている場合は、モータ49の回転数をより高くする。また、検出した圧力が6Nでモータ49の回転が停止しているときは、押し子30とピストン44とを離す方向にピストンを移動させるようにモータ49を回転させる。つまり、上記の場合とは反対方向にモータ49を回転させ、押し子30がピストン44を押す力を緩和させる。また、押し子30がピストン44を押す方向にモータ49を回転させている場合は、モータ49の回転数をより低くする。
【0066】
供給配管22に押し出された試料は、供給配管22を通過して注入口70からマイクロチップ12の流路68に送られ、流路68の長い線分部68aを通過する。長い線分部68aを流れ、通過した試料は、排出口71から排出配管24に送られる。また、光学機器16は、試料が流れている状態の流路68の長い線分部68aの画像、動画を取得し、制御部36に送る。制御部36は、取得した画像をモニタ38に表示させる。操作者は、モニタ38に表示された画像を観察することで、流路68を流れる試料の状態を観察する。
【0067】
このように、液体輸送装置14を有する観察システム10は、押し子30によりピストン44を一定の力で押し続けることができることで、シリンジ20から供給配管22に液体を一定流量(一定範囲の流量)で安定して供給することができる。また、本発明によれば、押し子からピストン44に加える力を小さい力で安定させることができるため、試料を少ない流量で流すことができる。これにより、流路68で試料が流れる流速を低くすることができ、動画をコマ送りにしなくても試料の流れを的確に観察することができる。また、流路68の画像を取得した場合でも、試料の流れが速すぎて、映像がぶれたりすることを抑制することができる。これにより、高速度カメラ等の特殊で比較的高価な機材を用いることなく、一般的な顕微鏡のみで的確な観察を行うことが可能となる。
【0068】
次に、図7−1及び図7−2を用いて、制御部36による圧力の調整の一例について説明する。図7−1は、モータ駆動開始時の圧力検出部で検出した押し子側から受けられた圧力の変位の一例を示すグラフであり、図7−2は、その後(図7−1の後)、圧力検出部で検出した押し子側から受けられた圧力の変位の一例を示すグラフである。ここで、図7−1及び図7−2において横軸は、制御開始からの時間[s]でり、縦軸は圧力検出部34で検出した圧力値である。また、図7−1と図7−2に示すグラフは、時間軸が異なるのみで、1つの制御例である。図7−1には、0sから300sまでの検出結果(グラフの軸上では350sまで表示)を示し、図7−2には、300sから600sまでの検出結果を示す。
【0069】
図7−1及び図7−2に示す測定例では、0sの段階で押し子30とピストン44とが接触しており、押し子30とピストン44との間には、押し込み力が作用しており、圧力検出部34は、1N弱の圧力が検出されている。その後、計算流量を0.17ml/hに設定して、液体輸送装置14のシリンジ20の駆動を開始し、モータ49を回転させると、一時的に2.5Nまで押し込み力が増加した。なお、本測定例では、制御を開始するまでは、モータを一定回転速度(初期設定、計算流量を0.17ml/hの設定の回転数)で回転させている。
【0070】
その後、150s付近までは1.5N程度まで押し込み力が低下した状態で推移した。駆動開始後から150s付近までは、試料が供給配管22を流れている状態であり、マイクロチップ12の流路68には試料が流れていない状態であった。その後、流路68に試料が到達し、流路68への試料の供給が開始したら、押し込み力が徐々に上昇していった。このように徐々に押し込み力が上昇している状態から、400s経過後、制御を開始した。なお、測定例では、押し込み力が4N以上6N以下となるように制御を行った。これにより、制御開始した後600s経過の間まで押し込み力を約4Nから6Nの間の力で維持することができた。また、本測定例では、流体の流れを目視で確認することができた。つまり、コマ送りさせずに、1倍速での再生またはリアルタイムで見ることで確認することができた。また、画像も流体を的確に確認することができた。
【0071】
これに対して、同様の実験条件で圧力センサの検出値に基づいて押し込み力及びモータの回転数の制御を行わなかった場合は、押し込み力が10N程度まで上昇し、その後、10N付近で安定した。しかしながら、押し込み力が10Nでは、流体の流れが速くなりすぎ、目視で流体の流れを確認することができなかった。また、画像を取得した場合も流体がぶれた状態で撮影された画像となった。この点は後ほど説明する。
【0072】
ここで、押し子の押し込み力の設定値は、通常タイプのマイクロチップへ注入するように、10N以下とすることが好ましく、つまり押し込み力が10N以下となるように制御することが好ましく、4N以上6N以下とすることがより好ましい。押し込み力を10N以下とすることで、スロー再生することなく流路を流れる試料を好適に観察することができ、4N以上6N以下とすることで、より的確に試料を観察することができる。
【0073】
ここで、移動機構は、本実施形態のように、ボールねじをモータで回転させる移動機構を用いることが好ましい。上記構成とすることで、ボールねじにより押し子を確実に送ることができ、押し子の位置を正確に制御することができ、ピストンに加える押し込み力をより正確に制御することができる。これにより、ピストンポンプから供給する試料の流速をより安定させることができる。
【0074】
以下、図8−1及び図8−2を用いて説明する。図8−1は、本発明の装置の理論変位と測定変位との関係の一例を示すグラフであり、図8−2は、従来の装置の理論変位と測定変位との関係の一例を示すグラフである。ここで、図8−1及び図8−2では、横軸を理論変位[μm]とし、縦軸を測定変位[μm]とした。ここで、理論変位とは、制御条件から算出される押し子の基準位置からの変位であり、測定変位とは、各理論変位の制御条件のときに測定された押し子の基準位置からの変位である。
【0075】
ここで、本実施形態の装置では、理論変位は、モータの回転数とボールねじのリード(ねじのピッチ)から算出した。また、測定変位は、押し子に反射板を設置し、支持部側に固定されたレーザ干渉変位計により反射板に当てて反射されたレーザ光を検出することにより計測した。測定結果を図8−1に示す。また、比較のために、上述の測定にも用いた、他の機構によりピストンを押す液体輸送装置(Kd Scientific社製、型式IC3100)についても同様の測定を行った。比較例の計測結果を図8−2に示す。
【0076】
図8−1及び図8−2に示すように、本実施形態の移動機構を用いることで、従来の移動機構よりも理論変位と測定変位との誤差を小さくすることができることがわかる。具体的には、図8−1に示す本発明では、測定変位と理論変位が略比例関係を維持したまま変位しているのに対し、図8−2に示す測定例では、測定変位と理論変位がステップ状に変化しているため、押し子の位置を適切に制御することが困難であることがわかる。これにより適切に押し子の位置を制御でき、押し子の位置が正確に制御できることで、移動機構の制御に基づいて押し込み力を適切に制御することができる。
【0077】
ここで、上記実施形態では、1つのマイクロチップに1つの液体輸送装置を繋げた観察システムとしたが、本発明はこれに限定されず、1つのマイクロチップと複数の液体輸送装置で観察システムを構成してもよい。具体的には、マイクロチップに複数の注入口を儲け、それぞれの注入口に別々の液体輸送装置を繋げ、各液体輸送装置からマイクロチップに試料を供給するようにしてもよい。なおこの場合、マイクロチップを図2に示すように複数の流路が繋がっている構成とすることで、流路の連結部で各液体輸送装置から供給される試料が接触する状態を観察することができる。また、一方の試料で他方の試料を分断することもできる。
【0078】
ここで、図9−1は、本発明の装置により試料(液体)を供給した流路の一例を示す説明図であり、図9−2は、従来の装置により試料を供給した流路の一例を示す説明図であり、図9−3は、図9−1と同様の装置を用い、検出した圧力に基づいて制御を行わずに試料を供給した流路の他の一例を示す説明図である。図9−1に示す例では、2つの液体輸送装置を用い、一方の液体輸送装置からは有機相の液体としてオレイン酸を供給し、他方の液体輸送装置からは水相の液体として水を供給した。また、マイクロチップの流路は、2本の線分の流路が直交して連結された十字の流路とし、2本の線分のそれぞれに液体輸送装置を繋げた。また、液体輸送装置のシリンジとして、内径10.5mmのガスタイトシリンジを用いた。有機相を供給する液体輸送装置は、計算流量を0.25ml/hと設定して駆動した後、押し込み力が1.7Nとなったときに、圧力を維持するように制御した。水相を供給する液体輸送装置は、計算流量を0.17ml/hとして駆動した後、有機相と同じ押し込み力となるように制御した。
【0079】
この条件で水相の液体と有機相の液体を供給した結果、図9−1に示すように、水相の液体と有機相の液体は、2本の線分が交わる位置でぶつかり、水相が有機相を分断して、水相の液滴が生成されることを確認することができた。また、液体の流速が低速であるため、図9−1に示すように、液滴の輪郭を確実に把握することができ、スロー再生しなくとも、観察を行うことができた。
【0080】
これに対して、従来の液体輸送装置を使用した場合は、設定値をその装置の最低速度(0.02ml/h)として、駆動させても、生成する液体の流速が早く、観察に高速度カメラを用いる必要があった。また、流速が早いため、図9−2に示すように、液滴の輪郭の一部(点線で示す部分)がぼけてしまい、適切に観察をすることが困難であった。また、図9−2に示す液滴を生成する従来の液体輸送装置に比べて、本実施例の液体輸送装置は、液滴の流速を20分の1から10分の1にすることができた。
【0081】
さらに、図9−1に示す測定と同様の条件で、圧力検出部の検出結果に基づいた制御を行わずに試料を供給した場合、つまり、回転数等の制御条件を初期設定値のまま変化させなかった場合は、図9−3に示すように、適切な大きさの水相の液滴が形成されず、適切な観察を行うことが困難であった。また、このとき、水相(水)の流速は、0.06ml/hであり、有機相(オレイン酸)の流速は、2.0ml/hであった。このように、圧力制御を行わない場合は、相対的な流速も適切に制御することができないため、流量も安定させることができず、流速も早くなっていることがわかる。
【0082】
ここで、上記実施形態では、いずれも流路が十字となっているマイクロチップを用いたが流路の形状は特に限定されない。ここで、図10−1から図10−3は、それぞれ本発明の装置により試料を供給した流路の状態の他の例を示す説明図である。また、図10−4は、図10−3と同様の装置を用い、検出した圧力に基づいて制御を行わずに試料を供給した流路の他の一例を示す説明図である。マイクロチップの流路は、図10−1に示すようにT字の流路としてもよい。また、図10−2に示すように直線と曲線の流路を組み合わせた構成としてもよい。さらに、図10−3に示すように直線の流路としてもよい。また、図10−1から図10−3に示すように、流路の形状によらず、本発明の装置を用いることで、液体輸送装置からマイクロチップに少ない流量で安定して液体を供給することができるため、流路を流れる試料を好適に観察することができる。ここで、図10−3の同様の直線の流路である場合も、圧力検出値に基づいて回転数の制御を行わない場合は、図10−4に示すように、流速が早くなりすぎ、適切な観察ができなかった。また、わかりにくいが、図10−4に示す場合でも、小さな液滴は形成されていたが、流速が早いため、一倍速での適切な観察は困難であった。
【0083】
また、液体輸送装置がマイクロチップに供給する液体(試料)としては、種々の液体を用いることができ、例えば、水相としては、超純水、塩化カルシウム溶液等を用いることができる。また、有機相としては、オレイン酸以外にもデカンを用いることができる。また、水相と有機相にたんぱく質を加えて試料としてもよい。たんぱく質としては、例えばバクテリオロドプシン(bR)がある。また、たんぱく質の類似品としては、カルシウムイオン透過イオノフォア(A23187)がある。また、水相と有機相とたんぱく質等の組み合わせとしては、水、デカン、バクテリオロボプシンを組み合わせることができ、塩化カルシウム溶液、オレイン酸、カルシウムイオン透過イオノフォアを組み合わせることができる。
【0084】
(第2の実施形態)
また、上記実施形態では、移動機構として、ボールねじをモータによって回転させることで押し子の位置、押し子がピストンに加える圧力を調整する機構を用いたが、本発明はこれに限定されない。以下、図11を用いて、第2の実施形態の液体輸送装置について説明する。ここで、図11は、第2の実施形態の液体輸送装置の概略構成を示す説明図である。図11に示す液体輸送装置の移動機構90は、固定部92と、移動部94と、磁気フィルム96と、ストッパ98とを有するエアスライダであり、空気圧と磁力により、固定部92に対して移動部94を相対的に移動させる。
【0085】
固定部92は、支持部28または、土台に載置された部分であり、所定位置に固定されている。また、固定部92は、移動部94を移動させる駆動機構が設けられている。移動部94は、固定部92に対してピストン44の軸方向移動自在に配置されている。また、移動部94には、押し子30が固定されている。磁気フィルム96は、移動部94の内部に配置され、固定部92に対する移動部94の相対移動時に固定部92との間で磁界を発生させて、移動部94のピストン44の軸方向への移動を補助する。ストッパ98は、クッションとなる材料で構成されており、移動部94の移動領域の両端部となる位置の固定部92にそれぞれ配置されており、移動領域の端部まで移動された移動部94が固定部92に接触しないように保護している。
【0086】
移動機構90は、以上のような構成であり、固定部92に備えられた駆動機構により、移動部94と固定部92との間に空気を供給し、空気圧により移動部94と固定部92とを相対的に移動させる。また、この移動時に磁気フィルム96と固定部92との間に磁界を発生させ、磁力も発生させることで、移動部94と固定部92との相対移動を補助する。移動機構90は、このようにして押し子30が固定された移動部94を移動させる。液体輸送装置は、移動機構として移動機構90を用いた場合でも、圧力検出部で検出した圧力に基づいて、移動部94の位置を制御することで、押し子30がピストン44を押す力を調整することができる。これにより、空気圧と磁力により移動部を移動させる移動機構を用いた場合でも、シリンジから少ない流量で安定して液体の試料を供給することができる。
【0087】
なお、上記実施形態では、圧力を検出する圧力検出手段として、ロードセルを用いたが、圧力を検出できる検出素子であればよく、ロードセルには限定されない。なお、ロードセルとしては、小型圧縮型ロードセル、引張圧縮両用ロードセルを用いることが好ましい。
【0088】
また、移動機構には、送りねじとしてボールねじを用いたが、すべりねじを用いることもできる。そのほか、移動方向の位置決め精度を向上するために、ガイドレールを設けたが、ガイドレール以外の案内機構を用いることもできる。例えば、ボールねじに平行に配置され、移動部を貫通した棒状部材も案内機構として用いることができる。また、移動部の側面のみを回転しないように保持したレールも案内機構として用いることができる。また、移動機構は、移動部の位置を検出する位置検出部を設け、位置検出部の情報に基づいて、移動部の位置を検出しつつ、モータの回転の制御を行うようにしてもよい。このように位置検出部を設け、その検出結果に基づいて制御を行うことで、移動部の位置をより正確に制御することができる。
【0089】
また、上記実施形態では、いずれマイクロチップの流路に試料を供給する場合として説明したが、液体を供給する対象は特に限定されない。微量の液体を断続的に、または、連続的に供給する必要がある種々の対象に液体を供給することができる。
【0090】
(第3の実施形態)
次に、本発明にかかる液体輸送装置を有する観察システムの一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、第1及び第2の実施形態と同一または同等部分については、図面に同一符号を付してその説明を省略或いは簡略化する。また、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。例えば、以下の実施形態では、1つのマイクロチップに1つの液体輸送装置を接続した構成としたが、1つのマイクロチップに複数の液体輸送装置を接続した構成としてもよい。
【0091】
図12は、本発明の液体輸送装置を有する観察システムの第3の実施形態の概略構成を示すブロック図である。図12に示すように観察システム100は、液体が流れる流路が形成されたマイクロチップ12と、マイクロチップ12から液体を吸引する液体輸送装置114と、マイクロチップ12の流路を拡大して観察した画像を取得する光学機器16と、光学機器16で取得した画像を検出する検出部18とを有する。観察システム100は、マイクロチップ12の流路を流れる液体の画像を光学機器16及び検出部18で取得し、取得した画像をモニタに表示させること、操作者が流路を流れる液体を観察できるようにするシステムである。
【0092】
液体輸送装置114は、シリンジ120と、供給配管22と、排出配管24と、ピストン固定具180と、ロードセル151と、支持部128と、押し子130と、移動機構32と、圧力検出部34と、制御部36と、モニタ38と、入力部40とを有する。
【0093】
シリンジ120は、吸引した液体を内部に溜めるためのシリンジ外筒142と、前後に移動することでシリンジ外筒142の容積を変化させるピストン144とで構成されており、ピストン144をシリンジ外筒142と逆側に引っ張り、シリンジ外筒142の内部の容積を大きくすることで、シリンジ外筒142のピストン144側とは反対側の端部(先端)に形成された開口から試料を吸引する。
【0094】
供給配管22及び排出配管24、及びマイクロチップ12の注入口70と排出口71は第1の実施形態(図1)とは逆の配置となっている。供給配管22は、一方の端部がマイクロチップ12の供給口70に接続されている。供給配管22は、試料となる液体を保持する不図示のタンク等の部材から供給された試料を注入口70に送る。排出配管24は、一方の端部がシリンジ外筒142の開口と接続され、他方の端部が排出口71と接続されている。排出配管24は、排出口71からシリンジ外筒142へ試料を送る。
【0095】
ロードセル151は、ピストン144の端部、具体的には、シリンジ外筒142と連結していない側の端部と、ピストン固定具180を介して連結している。また、ロードセル151のピストン固定具180と連結している面とは反対側の面には、押し子151が配置されている。以下、図13−1を用いて、ピストン144とピストン固定具180、ロードセル151の形状について説明する。ここで、図13−1は、ピストン144とピストン固定具180、ロードセル151、押し子130それぞれの概略構成を示す斜視図である。なお、押し子130は第1の実施形態と同様の構成である。
【0096】
ピストン144は、シリンジ外筒142の内周面と嵌合する円筒部144aと、ピストン固定具180と連結する鍔部144bとを有する。鍔部144bは円筒部144aよりも径方向外方に突出している。ピストン固定具180は、ピストンと連結する第1固定部材181と、ロードセル151と連結する第2固定部材182とを有する。
【0097】
第1固定部材181は、側面の周方向の一部分に切欠部分を有する円筒側面181a、ピストン144側に底面181bを持つ有底の略円筒状となっている。前記切欠部分の幅はピストン144の鍔部144bの直径以上の大きさを有する。底面にはU字状の空隙が形成され、このU字の円弧部分はピストン144の円筒部144aの外形と略一致する。また、底部181bと隣接して、円筒側面181aの内周面には、前記空隙と略相似のU字形状をした凹溝部181cが形成されており、このU字の円弧部分はピストン144の鍔部144bの外形と略一致する。さらに、凹溝部181cよりも反ピストン側の円筒側面181aの内周は、雌ねじ溝が設けられた雌ねじ部181dとなっている。
【0098】
ピストン固定具180の第2固定部材182は円筒形状を有し、第1固定部材181の雌ねじ部181dと対応する雄ねじが形成された雄ねじ部182aを外周面に有する。第2固定部材182の軸方向反ピストン側には、外周面182aと同心に形成された円形凹部182bを有する。また、ピストン固定具180を構成する第1固定部材181及び第2固定部材182は、ピストン144と押し子130との間に加わる圧力では、実質的に変形(伸縮)しない剛性の部材で形成されている。
【0099】
ロードセル151は、ピストン144側から第1円筒部151a、第2円筒部151b、第3円筒部151cを有し、第2円筒部151bの外周面は第1円筒部151a、第3円筒部151cよりも大径となっている。このロードセル151は、引張荷重及び圧縮荷重を検出することが可能である。
【0100】
次に図13−2を用いて、ピストン144とピストン固定具180、ロードセル151及び押し子130の組付手順について説明する。まず、第1固定部材181の円筒側面181aの切欠部分の径方向外方から、第1円筒部材181の凹溝部181cにピストン144の鍔部144bが係合するように、第1固定部材181の内方へピストン144を挿入し、固定する(図13−2(a))。前記空隙の幅がピストン144の端部144bよりも小さくなっているため、端部144bは第1固定部材181の軸方向外方へ抜けることがない。
【0101】
続いて、第2固定部材182の円形凹部182b内周に、ロードセル151の第1円筒部151aを嵌合させる(図13−2(b))。ロードセル151には不図示のねじ孔が設けられ、ロードセル151と第2固定部材とは不図示のねじにより固定される。
【0102】
次に、第2固定部材182の雄ねじ部182aと第1固定部材181の雌ねじ部181dとを、それぞれにピストン144及びロードセル151が組み付いた状態で締結させる(図13−2(c))。このとき、ピストン144が固定された状態となるまで、雌ねじ部181dと雄ねじ部182aとを締め付ける。
【0103】
最後に、押し子130とロードセル151の第3円筒部151cとを固定する(図13−2(d))。ロードセル151には不図示のねじ孔が設けられ、押し子130とロードセル151を不図示のねじにより固定している。以上のような構成により、ロードセル151側の面から加えられた力を、ピストン144の軸方向に的確に伝達することができ、高精度な制御を実現することができる。
【0104】
図12に戻り、各部の説明を続ける。支持部128は、シリンジ120のシリンジ外筒142を支持する部材であり、シリンジ外筒142全体を支持する第1支持部材128Aと、シリンジ外筒142の軸方向移動を抑制する第2支持部材128Bとからなる。以下、図14−1を用いて、シリンジ外筒142と、支持部128の第1支持部材128A、第2支持部材128Bについて説明する。ここで、図14−1は、シリンジ外筒142と第1支持部材128A、第2支持部材128Bそれぞれの概略構成を示す斜視図である。
【0105】
シリンジ外筒142は、吸引した液体を内包する円筒部142aと、ピストン側端部に形成された鍔部142bとを有する。鍔部142bは円筒部142aよりも径方向外方に突出している。
【0106】
第1支持部材128Aは、シリンジ外筒142の長手方向に伸びた箱状の部材であり、シリンジ外筒142の長手方向に延びた第1の溝128Aaが形成されている。第1の溝128Aaはシリンジ外筒142の円筒部142aと略同径の円弧状断面を有する。また、第1支持部材128Aのピストン側端部には、第1の溝128Aaより大径の断面円弧状の第2の溝128Abが形成されている。第2の溝128Abはシリンジ外筒142の鍔部142bと略同径であり、鍔部142bのシリンジ外筒長手方向長さと略同一の長さを有する。さらに、第1支持部材128Aのピストン側には、側面に段部128Acが形成されており、第1支持部材128Aのピストン側幅が狭くなっている。(なお、ここで幅とはシリンジ外筒142の長手方向及び図面上下方向と直行する方向の長さである)
【0107】
第2支持部材128Bは、第1支持部材128Aと同等の幅を有するシリンジ外筒押さえ部128Baと、シリンジ外筒押さえ部128Baの幅方向両端に、第1支持部材128Aの段部128Ac対応する形状で形成された側面部128Bb、128Bbを有する。
【0108】
次に図14−2を用いて、シリンジ外筒142と第1支持部材128A、第2支持部材128Bの組付手順について説明する。まず、第1支持部材128A上にシリンジ外筒142を載置する(図14−2(a))。このとき、シリンジ外筒142の鍔部142bと第1支持部材128Aの第2の溝128Abとが係合するようにする。
【0109】
続いて、第1支持部材128Aに第2支持部材128Bを固定する(図14−2(b))。第1支持部材128Aの段部128Acを、第2支持部材128Bの壁面部128Bb、128Bbで挟むようにすると同時に、第1支持部材128Aと第2支持部材128Bとでシリンジ外筒142の鍔部142bを挟む。第1支持部材128Aには不図示のねじ孔が設けられ、第1支持部材128Aと第2支持部材128Bとは不図示のねじにより固定される。このような構成により、シリンジ外筒142は長手方向に移動することがない。
【0110】
以上のような本実施形態に係る観察システム100によれば、ピストン144をシリンジ外筒142からピストンがシリンジから引き抜かれる方向へ引っ張ることにより、液体を吸引できる。また、ピストン144と連結させたロードセル151により、ピストン144に作用した引張り荷重を検出することが可能となる。図15−1は、流路の詰まり等により液体の吸引が妨げられなかった場合の引張り荷重の時間変化を示している。ここで、図15−1において、横軸は制御開始からの時間であり、縦軸は圧力検出部34で検出した引張り荷重値である。
【0111】
図15−1に示すように、引張り荷重は動作開始時より徐々に増加していき、液体の吸引が安定してくると略一定値となる(安定化領域)。この引張り荷重をリアルタイムで計測することにより、液体の吸引状態を確認することができる。例えば、流路が詰まり液体の吸引が妨げられた場合、図15−2に示すように、引張り荷重が急激に上昇する現象が見られる。この際に、シリンジの動作を停止することで、流路の破損を未然に防止できる。
【0112】
以上のように、引張り荷重を前記安定化領域に保つよう制御することで、マイクロチップに少ない流量で安定して液体を供給することができるため、流路を流れる試料を好適に観察することが可能となる。また、本実施形態に係る液体輸送装置は、第1の実施形態と同様に液体輸送装置として用いることができる。その他の構成及び作用効果は第1の実施形態と同様である。
【0113】
(応用例)
以上の実施形態では、本発明に係る液体輸送装置を、マイクロチップ内での液体の挙動を観察する観察システムの一部として用いる手法について説明してきた。本発明に係る液体輸送装置及び液体輸送装置は、これ以外にも液体の安定した移動が必要なシステムに適用できる。以下に、第1〜第3実施形態の液体輸送装置を好適に利用できる応用例を示す。
【0114】
(微小物質の均一固定法(1))
第3の実施形態を用いた応用例として、微小物質の均一固定法を説明する。
【0115】
微小物質を基板上に固定化する方法として、基板の上に微小物質を分散させた液体を滴下し、液体を除去することにより、微小物質を基板上に留め固定する方法が知られている。本例では、この方法における液体の除去に本発明に係る液体輸送装置を利用する。ここで、微小物質とは、大きさが数十ナノメートルから数百マイクロメートルの物質のことであり、DNA、タンパク質といった生体高分子や、金やシリコンを数百ナノメートルの大きさの粒形に加工した無機系微粒子、カーボンナノチューブなどが挙げられる。
【0116】
本例に係る微小物質均一固定システム200の具体的な構成を図16に示す。微小物質均一固定システム200は、基板210を固定する基板固定具230と、基板210上に滴下された液体220を吐出または吸引するためのノズル240と、前記液体220を吐出または吸引する液体輸送装置250と、一端をノズル240と一体に形成され他端を液体輸送装置250と連結された配管260と、ノズル240と配管260を支持固定する配管固定具270からなる。
【0117】
配管固定具270は、基板固定具230から鉛直上方に伸びる脚部280に接続され、基板固定具230の基板固定部分の鉛直上方に固定される。ノズル240は、液体220と接するように調整できる不図示の調整機構を備える。なお、配管固定具270を上下する調整機構を脚部280に設けても良い。液体輸送装置250は、第3の実施形態(図12)におけるシリンジ120と、ピストン固定具180と、ロードセル151と、支持部128と、押し子130と、移動機構32と、圧力検出部34と、制御部36と、モニタ38と、入力部40とを少なくとも有する。
【0118】
次に、微小物質均一固定システム200を用いた微小物質の均一固定方法について説明する。まず、基板210の上に微小物質を分散させた液体220を滴下し基板固定具230の上に乗せる。続いて、液体輸送装置250を駆動し、液体220をシリンジで吸引する。この吸引の際の基板210上の液体220の挙動を図17に模式的に示す。シリンジの吸引によって、基板210上では液体220が除去されていく。この時、微小物質221と基板210との間の電気的または化学的結合力が、液体220を除去する際に発生する液体220の流速によって生じる力よりも大きい場合は、微小物質221は基板210上に留まり固定される。
【0119】
微小物質221の留まる量は液体220を除去する速度に依存し、速度が不安定であると微小物質221の留まる量は場所によってバラツキが発生し、微小物質221は不均一な配置になる。例えば、図8−2に示した従来の液体輸送装置を本例に用いた場合、測定変位と理論変位がステップ状に変化するため、微小物質221の均一配置は困難である。それに対し本発明に係る液体輸送装置250の場合、押し子の駆動が安定しているため、微小物質221の均一配置が高精度に可能となる。
【0120】
上述のような微小物質を基板上に均一に固定することのできる方法は、例えば、2次元のフォトニック結晶の製作に好適である。フォトニック結晶とは、屈折率の異なる物質をナノメートル間隔の周期で配列させたナノ周期構造体のことで、特定波長の光のみを除外する性質を有している。その為、フォトニック結晶は光ファイバーやレーザーとして利用され、情報通信や光学分野での利用が期待されている。フォトニック結晶の製作は、半導体製造技術を使用して基板にナノ周期構造を加工する方法と、加工品の形状パターンを樹脂などに転写する方法が主流であるが、このような方法では製作コストや加工の困難性という問題がある。しかしながら本例の上述の方法によれば、微小物質を周期的かつ均一に基板上に配置することが容易であるので、低コストでのフォトニック結晶の製作が可能となる。また、上述のような操作を複数回行うことにより、3次元のフォトニック結晶の製作も可能となる。
【0121】
また、微小物質として抗体を用いることにより、高感度のバイオセンサを低コストで製作することが可能となる。抗体とはタンパク質の一種であり、特定の物質のみと結合する性質を有している為、特定の物質を検出するバイオセンサの検出部に抗体を使用する場合がある。この際に、抗体をセンサ上に均一に固定することでセンサ感度は向上する。
【0122】
図16に示すシステムを用いた場合、図18(a)のように、液体220が安定した速度で除去されるため、抗体222は基板210上へ均一に固定化される。一方、液体の除去が不安定に行われた場合は、基板210上に固定する抗体222の量は場所によってバラツキが発生し、図18(b)のように、抗体222が多量に固定化する箇所と全く固定化されない箇所が発生する。
このように、本発明の液体輸送装置を用いると、高感度のバイオセンサを低コストで製作することが可能となる。
【0123】
(微小物質の均一固定法(2))
図16に示した微小物質均一固定システム200について、基板を垂直に保持するタイプのした微小物質均一固定システム300を図19に示す。
【0124】
本例に係る微小物質均一固定システム300は、基板310を固定する基板固定具330と、微小物質を分散させた液体320を入れるための容器340と、前記液体320を吐出または吸引する液体輸送装置250と、一端を容器340と、他端を液体輸送装置250と連結された配管360と、容器340を載置する容器固定具370と、からなる。
【0125】
基板固定具330は、容器固定具370から鉛直上方に伸びる脚部380に接続され、容器固定具370の容器固定部分の鉛直上方に固定される。容器340の底面または底面近傍の側面の一部には孔が空けられ、この孔を通じて容器340内部と配管360は連通している。また、配管360の他端は液体輸送装置250と接続されている。この液体輸送装置250は図16の微小物質均一固定システム200と同様の構成を有している。
【0126】
次に、微小物質均一固定システム300を用いた微小物質の均一固定方法について説明する。まず、容器固定具370の上に容器340を乗せ、微小物質を分散させた液体320を容器の中に入れ、液体320の中に基板310を垂直にした状態で設置し、基板固定具330で基板310を固定する。続いて、液体輸送装置250を駆動し、液体320をシリンジで吸引することで、前述の原理によって、基板310上に微小物質321が均一に固定化する(図20)。図20に示した通り、本手法では基板310の両面への微小物質321の固定化が可能となる。また、複数の基板を容器内に設置しても良い。さらに、容器への液体の供給を液体輸送装置を用いて行うことも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0127】
以上のように、本発明にかかる液体輸送装置は、液体を安定して供給または吸引するのに有用であり、特に微量の液体を連続的に流路に供給または吸引するのに適している。
【符号の説明】
【0128】
10、100 観察システム
12 マイクロチップ
14、114、250 液体輸送装置
16 光学機器
18 検出部
20、120 シリンジ
22 供給配管
24 排出配管
26 連結部材
28、128 支持部
30、130 押し子
32、90 移動機構
34 圧力検出部
36 制御部
38 モニタ
40 入力部
42、142 シリンジ外筒
44、144 ピストン
45 筐体
46 ボールねじ
47 移動部
48 ガイドレール
49 モータ
51、151 ロードセル
52 信号検出部
60 チップホルダ
62 流体チップ
64 チップ押さえ板
66 Oリング
68 流路
70 注入口
71 排出口
74 ピストン保持凹部
76 検出部設置凹部
92 固定部
94 移動部
96 磁気フィルム
98 ストッパ
200、300 微小物質均一固定システム
210、310 基板
220、320 液体
230、330 基板固定具
240 ノズル
260、360 配管
270 配管固定具
280、380 脚部
340 容器
370 容器固定具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に液体を含有するシリンジ外筒及びシリンジ外筒の内部を摺動するピストンで構成されたシリンジと、一方の端部が前記シリンジ外筒に連結されたチューブと、前記ピストンを押す押し子と、を有し、前記押し子により前記ピストンを押し、前記シリンジ外筒から前記チューブに液体を輸送することで、前記チューブの他端から液体を供給する液体輸送装置であって、
前記シリンジ外筒を支持する支持部と、
前記シリンジと略平行に配置され、かつ、前記押し子を前記支持部に対して、前記ピストンの移動方向に直線的に相対移動させる直線移動機構と、
前記ピストンと前記押し子との間に配置され、前記押し子が前記ピストンを押すことで発生する圧力を検出する圧力検出部と、を備えかつ、
前記圧力検出部で検出した圧力に基づいて、前記直線移動機構の動作を制御する制御部と、を有することを特徴とする液体輸送装置。
【請求項2】
前記直線移動機構は、前記押し子を支持する支持部材と、前記支持部材と螺合したボールねじと、前記支持部材を直動方向に案内する直動案内部と、前記ボールねじを回転させるモータとを有し、
前記制御部は、前記モータの回転数を制御することで、前記押し子の位置及び前記押し子が前記シリンジ外筒を押す圧力を制御することを特徴とする請求項1に記載の液体輸送装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記圧力検出部で検出した圧力の値が設定された範囲となるように、前記モータの回転数を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の液体輸送装置。
【請求項4】
円錐状または断面形状がテーパ形状となる凹部が形成され、その凹部に前記ピストンの端部が連結されている連結部材を有し、
前記圧力検出部は、前記連結部材に固定され、
前記ピストンは、前記連結部材と前記圧力検出部を介して、前記押し子からの力が加え
られることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の液体輸送装置。
【請求項5】
前記圧力検出部が前記押し子と前記ピストンの間に連結された構造で、前記押し子を前記ピストンが前記シリンジから引き抜かれる方向に引っ張った際に発生する圧力を検出する機能を有しており、前記圧力検出部で検出した圧力に基づいて、前記移動機構の動作を制御する制御部を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の液体輸送装置。
【請求項6】
前記圧力検出部の圧力値より、前記液体流路の詰まりや異常を判断する請求項1から5のいずれか1項に記載の液体輸送装置。
【請求項7】
マイクロチップに形成された液体流路に前記チューブの他方の端部が接続され、前記液体流路に液体を供給することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の液体輸送装置。
【請求項8】
マイクロチップに形成された液体流路に前記チューブの他方の端部が接続され、前記液体流路より液体を吸引することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の液体輸送装置。
【請求項9】
基板表面に微小物質を均一に固定化する微小物質の固定化方法であって、
内部に液体を含有するシリンジ外筒及びシリンジ外筒の内部を摺動するピストンで構成されたシリンジと、一方の端部が前記シリンジ外筒に連結されたチューブと、前記ピストンを押す押し子と、を有し、
前記シリンジ外筒を支持する支持部と、
前記シリンジと略平行に配置され、かつ、前記押し子を前記支持部に対して、前記ピストンの移動方向に直線的に相対移動させる直線移動機構と、
前記ピストンと前記押し子との間に配置され、前記押し子が前記ピストンを押すことで発生する圧力を検出する圧力検出部と、前記圧力検出部で検出した圧力に基づいて、前記直線移動機構の動作を制御する制御部と、
前記直線移動機構は、前記押し子を支持する支持部材と、前記支持部材と螺合したボールねじと、前記支持部材を直動方向に案内する直動案内部と、前記ボールねじを回転させるモータと、を備え、
前記押し子により前記ピストンを押し、前記シリンジ外筒から前記チューブに液体を輸送することで、前記チューブの他端から液体を供給し、
前記制御部は、前記モータの回転数を制御することで、前記押し子の位置及び前記押し子が前記シリンジ外筒を押す圧力を制御する液体制御装置を用い、
前記シリンジ外筒の先端に、液体吸引するためのノズルを有した配管を取り付け、基板上に滴下した微小物質を分散させた溶液を吸引し、吸引する速さを前記モーターで制御することで、基板表面に微小物質を均一に固定化する微小物質の固定化方法。
【請求項10】
基板表面に微小物質を均一に固定化する微小物質の固定化方法であって、
内部に液体を含有するシリンジ外筒及びシリンジ外筒の内部を摺動するピストンで構成されたシリンジと、一方の端部が前記シリンジ外筒に連結されたチューブと、前記ピストンを押す押し子と、を有し、
前記シリンジ外筒を支持する支持部と、
前記シリンジと略平行に配置され、かつ、前記押し子を前記支持部に対して、前記ピストンの移動方向に直線的に相対移動させる直線移動機構と、
前記ピストンと前記押し子との間に配置され、前記押し子が前記ピストンを押すことで発生する圧力を検出する圧力検出部と、前記圧力検出部で検出した圧力に基づいて、前記直線移動機構の動作を制御する制御部と、
前記直線移動機構は、前記押し子を支持する支持部材と、前記支持部材と螺合したボールねじと、前記支持部材を直動方向に案内する直動案内部と、前記ボールねじを回転させるモータと、を備え、
前記押し子により前記ピストンを押し、前記シリンジ外筒から前記チューブに液体を輸送することで、前記チューブの他端から液体を供給し、
前記制御部は、前記モータの回転数を制御することで、前記押し子の位置及び前記押し子が前記ピストンを押す圧力を制御する液体制御装置を用い、
前記微小物質を分散させた溶液を満たした容器について、前記配管を前記容器の底部に接続し、前記基板を垂直方向に向けた状態で液体に浸した状態で微小物質を分散させた溶液を吸引し、吸引する速さを前記モーターで制御することで、基板の両面に微小物質を均一に固定化する微小物質の固定化方法。
【請求項11】
前記微小物質を抗体とした請求項9または請求項10に記載の微小物質の固定化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図9−3】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図10−3】
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【図10−4】
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【図11】
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【図12】
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【図13−1】
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【図13−2】
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【図14−1】
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【図14−2】
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【図15−1】
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【図15−2】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−130893(P2012−130893A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287331(P2010−287331)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】