説明

液体食品の消泡用組成物および泡立ち抑制方法

【課題】 つゆ類やポン酢醤油などの風味に悪影響を及ぼさず、むしろ好まれる風味を付与するような食品素材を用いて、液体食品の消泡効果のある消泡用組成物を提供すること、さらには前記消泡用組成物によって泡立ちの抑制された液体食品を提供することを課題とする。
【解決手段】 魚節のだし粕を焙乾してなる食品素材、;前記食品素材を親水性溶媒によって抽出し得られた抽出液からなる液体食品の消泡用組成物、;前記消泡用組成物を含有する液体食品、;前記消泡用組成物を液体食品に含有させることを特徴とする液体食品の泡立ち抑制方法、;を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体食品、特に液体調味料の消泡用組成物および泡立ち抑制方法に関し、詳しくは鰹節等の魚節のだし粕を焙乾してなる食品素材と、前記食品素材の抽出液からなる液体食品の消泡用組成物と、前記消泡用組成物を利用した液体食品の泡立ち抑制方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
つゆ類やポン酢醤油などの液体調味料は、醤油や魚節のだしなどを原材料として用いることが多い。醤油や魚節のだしなどは窒素分を豊富に含むそのため、調味料に旨味を付与することができるが、その反面、調味料の泡立ちを生じやすくするという性質も兼ね備えている。
【0003】
つゆなどの液体調味料の泡立ちは、工業的に調味料を製造する場合において特に不具合を生じさせることがある。
詳しく説明すると、工業的に大量に調味料を製造する場合、大型タンクにて原材料の混合が行われるが、その混合工程において、混合用の回転羽を高速に回転するため泡立ちが生じやすくなる。その結果、想定以上の泡立ちが生じると、混合用タンクから泡があふれ出てしまうという生産事故の危険性がある。
また、調味料を包装容器(PETボトルや瓶など)へ充填する工程においては、工業上は高速で充填するために泡立ちを生じやすくなるが、泡立ちが激しくなると適量を充填しようとしても容器から泡があふれ出てしまうという不具合を生じる可能性がある。
さらに、調味料の泡立ちは、充填量の誤差をもたらしたり、内容量を画像検査をする際の誤作動の原因にもなるため、泡立ちはできるだけ生じないことが望ましいものである。
【0004】
従来より、調味料の泡立ちを防止する方法が種々紹介されている。その一例を示すと、例えば、シリコンを用いる方法(特許文献1)、牛肉エキス及び/又は牛肉蛋白加水分解物を用いる方法(特許文献2)などが紹介されている。
しかしながら、シリコン樹脂や低級脂肪酸エステルなどの食品用消泡剤などは、不快な脂肪酸臭があったり、つゆなど清澄な調味液に添加すると濁ったりする場合がある。
さらに、牛肉エキスや牛肉蛋白加水分解物を使用する方法では特有の風味が付与されてしまい好ましくない。
これらはいずれも、通常はつゆ類やポン酢醤油にはあまり用いない添加物であり、そのような添加物を使用することは消費者には好まれない傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−181755号公報
【特許文献2】特開平3−187361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、つゆ類やポン酢醤油などの風味に悪影響を及ぼさず、むしろ好まれる風味を付与するような食品素材を用いて、液体食品の消泡効果のある消泡用組成物を提供することを目的とするものである。
また、本発明は、前記消泡用組成物によって泡立ちの抑制された液体食品を提供することを目的とするものである。
さらに、本発明は、前記消泡用組成物によって泡立ちの抑制された液体食品を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、魚節のだし粕を焙乾したものを、水などの親水性溶媒によって抽出し、得られた抽出液を、つゆ類やポン酢醤油などの調味料に添加することで、添加しないときに比べて泡立ちを抑制する効果があり、且つ、良い風味を付与できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の如きものである。
(1)魚節のだし粕を焙乾してなる食品素材。
(2)上記(1)に記載の食品素材を親水性溶媒によって抽出し得られた抽出液からなる、液体食品の消泡用組成物。
(3)前記抽出が、60〜99℃で1〜50倍量の親水性溶媒によって、行われたものである、上記(2)に記載の消泡用組成物。
(4)上記(2)又は(3)に記載の消泡用組成物を、液体食品あたり2〜40質量%の割合で含有する液体食品。
(5)前記液体食品が、全窒素量0.05質量%以上、2.0質量%以下のものである、上記(4)に記載の液体食品。
(6)前記液体食品が、前記全窒素量と前記消泡用組成物の含有量との比率が1対5〜1対200(質量比)のものである、上記(4)又は(5)に記載の液体食品。
(7)魚節のだし粕を焙乾した食品素材を親水性溶媒によって抽出し得られた抽出液からなる消泡用組成物を、液体食品に含有させることを特徴とする、液体食品の泡立ち抑制方法。
(8)前記抽出が、60〜99℃で1〜50倍量の親水性溶媒によって、行われたものである、上記(7)に記載の液体食品の泡立ち抑制方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、泡立ちが生じにくく(抑制され)、尚且つ、風味の良い液体食品、とりわけ液体調味料(特に、つゆ類やポン酢醤油などの液体調味料)を提供することができる。
また、液体食品、とりわけ液体調味料の原料の一つとして使用することで、泡立ちを生じにくく、風味の良い液体食品を作り上げることのできる、食品素材および液体食品の消泡用組成物を提供することができる。
【0010】
これにより、工業的に液体食品を製造する場合に、その製造工程中において泡立ちが原因となる不具合(原料混合工程においては混合用タンクから泡があふれ出るという不具合、包装容器への充填工程においては充填誤差や容器から泡があふれ出てしまうという不具合、充填後の工程においては内容量を画像検査をする際の誤作動の不具合、など)を解消することができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した一実施の形態を詳細に説明する。
本発明における魚節とは、だし取りの原料として通常用いるものでよく、鰹節、宗田鰹節、鯖節、鯵節、煮干など広く用いることができる。中でも、鰹節は日本人に風味が好まれるためより好ましい。
本発明に用いる魚節の節形状は、通常、だし取りに用いられる節であれば特に限定されないが、例えば、粒径が10mm以下の粗砕品などを用いることができる。
本発明においては、魚節をだし取りした後に焙乾するため、その焙乾工程で煙成分がより付着しやすくするためには、細かい方が表面積が増えるため好ましいと言える。
【0012】
だし粕とは、前記魚節について、一度以上だしをとった粕のことであり、だしを取る方法はつゆに用いるだしを製造する通常の方法を用いることができる。
だし取りの方法としては、浸漬方法であってもドリップ抽出方法であっても構わない。
浸漬方法の一例を示すと、鰹節を10倍量の水(90℃)に30分間くらい浸漬する方法がある。
また、ドリップ抽出方法の一例を示すと、多機能抽出機の抽出タンク内に鰹節を投入し、タンク上方から熱水をシャワー状にかけ、ドリップ抽出液を回収する方法がある。
【0013】
これらの方法によってだしを取った後、フィルタープレスなどを用いて、だし粕とだし汁(1番だし、2番だしなど)とを分離する。この工程でとっただし汁は、通常の調味料への添加などで用いることができ、本発明においては、残りのだし粕を用いる。
【0014】
フィルタープレスなどによるだし粕の圧搾程度は、通常のだし取り設備で用いる圧搾程度で十分であるが、例えば水分量として約50%程度になっていればよい。水分含量が多い状態であると(例えば70%を超えると)、焙乾工程の時間が多くかかってしまう。一方、水分含量が極めて少ない(例えば水分含量が15%など)状態にまで乾燥しているだし粕を作るには圧搾工程の後、乾燥工程が必要となり時間がかかる他、焙乾成分(煙成分)がだし粕につきにくくなることもある。
【0015】
本発明では、前記だし粕を焙乾することが必要である。
焙乾とは薪を燃やして、だし粕に煙と熱を当てて、燻し、乾燥をする工程である。焙乾工程に用いる薪の種類としては、燻製などを作製する場合に通常用いるものであればよく、カシ、ナラ、クヌギ、サクラ、ヒッコリー、リンゴなどの木を用いることができる。特にカシ、ナラ、クヌギは泡立ちを抑制する効果が大きく好ましく、さらにはこれらの混合品が好ましい。
【0016】
焙乾の方法の一例を紹介する。
例えば、だし粕約16kgを、約50cm×約60cmの金網7枚の上に、厚さが2〜4cm程度となるように調整し、燻煙装置(花木工業製のスモーキングマシーンSMA−112)内に設置する。庫内温度50〜80℃に設定し、薪約9kgを使用して約48時間かけて焙乾する。
なお、焙乾する時間は、短いより長いほうが最終的な泡立ち抑制効果は好ましくなるが、粕の形状や大きさ、焙乾室の広さや密度、薪や煙の量、などによって異なるため一概には言えず、自由に調節することになる。例えば、1時間〜75時間程度の焙乾が目安である。75時間以上焙乾をしても泡立ちを抑える効果はさほど向上しない場合が多い。逆に、焙乾するだし粕が少量であれば、10分程度の焙乾であっても効果がある場合もあるが、工業的に行う場合は、1時間以上、好ましくは3時間以上、さらに好ましくは10時間以上の焙乾を行うことが好ましい。
【0017】
本発明では、上記のようにしてだし粕を焙乾したもの(焙乾だし粕、つまりだし粕焙乾物)を「食品素材」とする。
即ち、本発明の食品素材とは、魚節を焙乾してなるものであり、魚節と相性のよい調味料(特に、つゆ類やポン酢醤油など)に対して、良い風味を付与しうるものである。
【0018】
本発明では、上記食品素材を親水性溶媒によって抽出して得られる抽出液を、「液体食品の消泡用組成物」とする。
前記親水性溶媒としては、だし取りに通常用いる溶媒を用いればよく、主には水を用いる。水の他、魚節や昆布などでだしを取っただし汁などを用いることもできるし、アルコールや含水アルコールなどを用いることもできる。
抽出工程は、上記しただし取り工程と同じにして行えば十分である。つまり、浸漬方法であってもドリップ抽出方法であっても構わない。
但し、具体的には、1〜50倍量(さらに好ましくは4〜15倍量、最も好ましくは約10倍量)の親水性溶媒によって、60〜99℃(好ましくは約90℃)で抽出を行うことができる。なお、浸漬方法で行う場合は、5〜30分間(例えば、約30分間)で行うことができる。
これらの方法によってだしを取った(抽出した)後、だし汁とだし粕を分離する。この工程で得られた、だし汁(抽出液)が「液体食品の消泡用組成物」である。
【0019】
前記消泡用組成物は、これを液体食品の原料の一部として加えて液体食品に含有させると、液体食品の泡立ちを抑制することができる。
本発明における泡立ちとは、例えば、液体食品製造時における攪拌や充填などの衝撃によって泡が生じる現象や、容器の中に液体食品を入れて振とうすることによって泡が生じる現象などである。工業的な液体食品製造において、混合や充填工程で問題にならないレベルとするためには、泡が生じた液体食品を静置して4時間未満、好ましくは3時間未満で、消滅する程度であることが好ましい。
【0020】
ここで、液体食品における泡立ちの原因は定かではないが、全窒素量が高いほど泡立ちが生じやすい傾向にある。
全窒素量が0.05質量%に満たない液体食品は、製造工程における泡立ちの問題が生じにくいため、本発明は、全窒素量が0.05質量%以上の液体食品、とりわけ液体調味料に好適に用いることができる。
また、液体食品における全窒素量は通常高くても2.0質量%程度である。
従って、本発明は全窒素量が0.05質量%以上、2.0質量%以下の液体食品、とりわけ液体調味料に好適に用いることができることになる。
【0021】
液体食品の全窒素量が多いほど、消泡用組成物を多く用いることが好ましい。例えば、液体食品全体の質量に対し、消泡用組成物を2質量%以上用いると消泡効果が得られやすく、さらには10質量%以上用いることが好ましい。
消泡用組成物の使用量は特に制限があるわけではないが、液体食品全体の40質量%以下の量で用いることが目安である。その理由は、消泡用組成物が多すぎると、その結果として味のバランスが崩れてしまう可能性があるためである。
従って、消泡用組成物の使用量は、一般に液体食品全体、とりわけ液体調味料全体の2〜40質量%である。
【0022】
また、全窒素量と消泡用組成物の比率としては、前者:後者が1:5(質量比)以上となる量の消泡用組成物を用いることが消泡効果の点で好ましい。一方、全窒素量と消泡用組成物の比率が1:200(質量比)以下となる量の消泡用組成物を用いることが目安である。その理由は、消泡用組成物の比率が高すぎると、その結果として味のバランスが崩れてしまう可能性があるためである。
【0023】
本発明における液体食品とは、液体調味料(例えば、めんつゆ,うどんつゆ,そばつゆ,鍋つゆなどのつゆ類や、ポン酢醤油、醤油、ドレッシングなど)、液体スープなど、液体状を呈している食品を指し、本発明はこれら泡立ちを生ずる液体食品に用いることができる。このような液体食品としては、粘性のあるものであってもよい。なお、本発明においては、最終製品としての食品形態が必ずしも液体状である必要はなく、その製造工程中において液体状の食品であれば、その泡立ちの抑制に適用することができる。
但し、本発明の消泡用組成物は魚節由来であり、また焙乾工程を経ているため、若干の魚節香や燻煙香がある。そのため、使用量や他の原料などにもよるが、それらの香りが付与されることを好まない調味料には不向きである。一方、つゆ類は通常でも魚節のだしを用いることが一般的であるし、鍋つゆやポン酢醤油なども魚節の香が嫌われることは少ない(むしろ好まれる傾向にある)ため、本発明を好適に用いることができる。
【実施例】
【0024】
以下に本発明をより具体化した実施例を記載するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
実施例1<消泡用組成物と調味料の調製>
(1)消泡用組成物(焙乾だし)の調製
粒径が約10mm以下となるように粗砕した鰹節を10倍量の水(90℃)に30分間浸漬してだし抽出をした後、フィルタープレスを用いて水分量約50%となるように搾ることで、「1番だし」と「だし粕」とに分離した。
得られた、だし粕約16kgを、約50cm×約60cmの金網7枚の上に、厚さが2〜4cm程度となるように調整し、燻煙装置(花木工業製のスモーキングマシーンSMA−112)内に設置した。庫内温度50〜80℃に設定し、カシ、ナラ、クヌギをそれぞれ約5cmに粉砕した混合品の薪約9kgを使用して約48時間かけて焙乾して、焙乾だし粕(だし粕焙乾物、つまり食品素材)を得た。
得られた焙乾だし粕を、10倍量の水(90℃)に30分間浸漬してだし抽出した後、フィルタープレスを用いて水分量約50%となるように搾ることで、だし粕と抽出液(以下、「焙乾だし」という。)とに分離した。
【0025】
また、上記「だし粕」を焙乾せずに用いて、同様に抽出して作製した抽出液(以下、「2番だし」という。)を得た。
【0026】
(2)調味料(めんつゆ)の調製
上記(1)で作製した1番だし、焙乾だし、2番だしを使用して表1に記載の処方(数字は質量%)のめんつゆを調製した。調味料調製の際には、水、醤油、砂糖、食塩、1番だし、焙乾だし、2番だしの順に混合し、殺菌温度90℃で10分間殺菌した。
表1において、‘調味料1’は1番だしのみをだしとして使用した従来のめんつゆであり(比較対照)、‘調味料2’は調味料1の水の一部を焙乾だしに代替して調製しためんつゆであり(本発明)、‘調味料3’は調味料1の水の一部を2番だしに代替して調製しためんつゆである(比較対照)。
【0027】
(3)調味料(めんつゆ)の泡立ち試験
上記(2)で調製した調味料1〜3を300ml容PETボトルに200mlずつ充填し、上下に激しく10回(10往復)振り泡を立てた。その後静置して、泡が消え液面の一部が見えるまでの時間を計測した。
そして、泡切れまでの時間が3時間未満の場合を「◎」、3時間以上4時間未満の場合を「○」、4時間以上6時間未満の場合を「△」、6時間以上の場合を「×」として4段階で表示した。なお、評価が○以上(即ち、○か◎)であれば、本発明が求める泡立ち抑制効果として十分である。その結果を表1に記載した。
【0028】
【表1】

【0029】
表1の結果を見て明らかなように、焙乾だしを添加した調味料2(本発明)は、調味料1(比較対照)に比べて泡切れが格段に向上していることがわかった。一方、調味料3(比較対照)は、調味料2(本発明品)とは逆に泡切れが悪化する傾向にあった。
この理由は定かではないが、本発明者は以下のように推察している。即ち、2番だしは水に比べ窒素分を多く含むために、調味料1より調味料3の方が窒素分を多く含むこととなって、泡切れが悪化したと考えられる。
一方、焙乾だしも水に比べ窒素分を多く含むものの、焙乾によってなんらかの泡切れ作用をもたらす成分が付加されたために、窒素分の増加による泡切れ悪化作用よりも、消泡効果の方が大きく働き、結果として調味料2(本発明)の泡切れが良くなったものと考えられる。
【0030】
実施例2<消泡用組成物の使用量の検討>
次に、消泡用組成物の使用量について検証した。
(1)調味料(めんつゆ)の調製
表2,3に記載の処方(数字は質量%)としたこと以外は実施例1と同様にして、めんつゆを調製した。また、各調味料の全窒素(質量%)及び全窒素と焙乾だしの比率(小数点以下1位を四捨五入した数値)を表2,3に記載した。
なお、全窒素量は、サンプルを200倍希釈し、メンブランフィルターろ過後、三菱化成工業製の微量全窒素分析装置TN−05型にて測定して得た数値である。
【0031】
(2)調味料(めんつゆ)の泡立ち試験
上記(1)で調製した調味料4〜17を実施例1と同様にして300ml容PETボトルに200mlずつ充填し、上下に激しく10回(10往復)振り泡を立てて、その後静置し、泡が消えて液面の一部が見えるまでの時間を計測した。そして、実施例1と同様にして、泡立ち抑制効果を評価した。
また、参考として、官能検査員によって各調味料の風味(だし感の強さ)について、実施例1の調味料1をコントロールとして比較評価した。評価は、「+++」:だし感が強い(特に好ましい)、「++」:だし感が同等、「+」:だし感が弱い、の3段階で評価した。
これらの結果を表2,3に記載した。
【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
表2,3の結果から、‘焙乾だし’を調味料当たり2質量%以上含有することが好ましいことがわかった。
一方、当然のことながら、焙乾だしは一番だしに比べて鰹風味は全体としては減少しているため、一番だしを用いずに焙乾だしのみで作っためんつゆ(調味料17)は、風味(だし感の強さ)の点において弱いことがわかった。
実施例3<消泡用組成物の使用量の検討2>
消泡用組成物の使用量についてさらに検証した。具体的には、その他の組成(1番だしの量が少ない場合、つまり全窒素量が少ない場合)の消泡用組成物を含有する調味料について、さらに検証した。
(1)調味料(めんつゆ)の調製
表4,5に記載の処方(数字は質量%)としたこと以外は実施例1と同様にして、めんつゆを調製した。また、各調味料の全窒素(質量%)及び全窒素と焙乾だしの比率(小数点以下1位を四捨五入した数値)を表4,5に記載した。
なお、全窒素量は、サンプルを200倍希釈し、メンブランフィルターろ過後、三菱化成工業製の微量全窒素分析装置TN−05型にて測定して得た数値である。
【0035】
(2)調味料(めんつゆ)の泡立ち試験
上記(1)で調製した調味料18〜25を実施例1と同様にして300ml容PETボトルに200mlずつ充填し、上下に激しく10回(10往復)振り泡を立てて、その後静置し、泡が消えて液面の一部が見えるまでの時間を計測した。そして、実施例1と同様にして、泡立ち抑制効果を評価した。
これらの結果を表4,5に記載した。
【0036】
【表4】

【0037】
【表5】

【0038】
表4,5の結果から、‘焙乾だし’を調味料当たり2質量%以上含有することが好ましく、また、‘全窒素量:焙乾だしの比率’としては、1:5(質量比)以上の比率となるように焙乾だしを添加することが泡切れを向上するのに好ましいことがわかった。
なお、調味料18(比較対照)は、焙乾だしを用いていないのに泡切れまでの時間が調味料1などと比較して短くなっているが、これは調味料における全窒素量が0.05質量%と比較的少ないために元々泡立ちが少なくなっているからと考えられる。
【0039】
実施例4<ポン酢醤油での消泡効果>
次に、つゆ以外の調味料(ポン酢醤油)の消泡効果について確認した。
(1)調味料(ポン酢醤油)の調製
表6に記載の処方(数字は質量%)としたこと以外は実施例1と同様にしてポン酢醤油を調製した。調味料調製の際には、水、醤油、砂糖、食酢、かんきつ果汁、食塩、焙乾だしの順に混合し、殺菌温度90℃で10分間殺菌した。
また、各調味料の全窒素(質量%)及び全窒素と焙乾だしの比率を表6に記載した。
(2)調味料の泡立ち試験
上記(1)で調製した調味料26〜29を、実施例1と同様にして300ml容PETボトルに200mlずつ充填し、上下に激しく10回(10往復)振り泡を立てた。その後静置して、泡が消え液面の一部が見えるまでの時間を計測した。そして、実施例1と同様にして、泡立ち抑制効果を評価した。その結果を表6に記載した。
【0040】
【表6】

【0041】
表6の結果から、ポン酢醤油においても焙乾だしを添加することで泡切れが向上することが明らかとなった。
【0042】
実施例5<焙乾だしに用いる魚節の種類及び焙乾方法>
次に、焙乾だしに用いる魚節の種類及び焙乾方法について検証した。
(1)焙乾だしの製造
魚節の種類、焙乾する薪の種類、焙乾時間、抽出時間を表7に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、焙乾だしA〜Hを製造した。
(2)調味料の調製
上記(1)で作製した焙乾だしA〜Hを用いて、実施例2の調味料9と同様の処方にてめんつゆを作製した。なお、焙乾だしA〜Hを用いた調味料をそれぞれ調味料30〜37とした。
(3)調味料の泡立ち試験
上記(2)で調製した調味料30〜37を実施例1と同様にして、300ml容PETボトルに200mlずつ充填し、上下に激しく10回(10往復)振り泡を立てて、その後静置してから泡が消えて液面の一部が見えるまでの時間を計測した。そして、実施例1と同様にして、泡立ち抑制効果を評価した。その結果を表7に記載した。
【0043】
【表7】

【0044】
表7の結果より、調味料30〜37は全て、「焙乾だし」を用いない場合(調味料1)に比べ、泡切れまでの時間が格段に短縮されたことがわかった(調味料1は6時間)。
魚節は鰹節に限らず用いることができ、焙乾する薪の種類も一般に焙乾に用いるものであれば特に限定されないこともわかった。
また、焙乾時間はより長いほうが好ましいが、1時間以上であれば効果があることもわかった。さらに、焙乾だしの抽出時間は10分程度行えば問題ないこともわかった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、泡立ちが抑制され、且つ風味が良い液体食品、特につゆ類やポン酢醤油などの液体調味料を提供することを可能とする。
これにより、工業的に液体食品を製造する場合に、泡立ちが原因となる不具合を解消することができることが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚節のだし粕を焙乾してなる食品素材。
【請求項2】
請求項1に記載の食品素材を親水性溶媒によって抽出し得られた抽出液からなる、液体食品の消泡用組成物。
【請求項3】
前記抽出が、60〜99℃で1〜50倍量の親水性溶媒によって、行われたものである、請求項2に記載の消泡用組成物。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の消泡用組成物を、液体食品あたり2〜40質量%の割合で含有する液体食品。
【請求項5】
前記液体食品が、全窒素量0.05質量%以上、2.0質量%以下のものである、請求項4に記載の液体食品。
【請求項6】
前記液体食品が、前記全窒素量と前記消泡用組成物の含有量との比率が1対5〜1対200(質量比)のものである、請求項4又は5に記載の液体食品。
【請求項7】
魚節のだし粕を焙乾した食品素材を親水性溶媒によって抽出し得られた抽出液からなる消泡用組成物を、液体食品に含有させることを特徴とする、液体食品の泡立ち抑制方法。
【請求項8】
前記抽出が、60〜99℃で1〜50倍量の親水性溶媒によって、行われたものである、請求項7に記載の液体食品の泡立ち抑制方法。

【公開番号】特開2010−193862(P2010−193862A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46071(P2009−46071)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(398065531)株式会社ミツカングループ本社 (157)
【出願人】(301058344)株式会社ミツカンナカノス (28)
【Fターム(参考)】