説明

液体飲食品の褐変抑制方法

【課題】添加物を加えることなく、褐変を抑制することができる液体飲食品の褐変抑制方法を提供する。
【解決手段】果汁飲料(ジュース)などの液体飲食品の褐変抑制方法は、液体飲食品に過熱水蒸気を接触させる過熱蒸気処理によって行われる。液体飲食品としては、茶飲料、果汁飲料又は野菜汁飲料が挙げられる。褐変は、ビタミンCの分解反応、メイラード反応及び酸化反応から選ばれる少なくとも一種の反応に起因するものであると考えられる。過熱蒸気処理は、過熱水蒸気を所定の供給量及び接触時間で液体飲食品に接触させることによって実施される。この過熱蒸気処理により、液体飲食品の温度を初期温度よりも5〜80℃上昇させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば茶飲料、果汁飲料などの密閉容器入りの液体飲食品を保存する場合に起こる褐変を抑制することができる液体飲食品の褐変抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ペットボトルなどの密閉容器入り茶飲料や青果物が褐色に変化すること(褐変)を防止する方法としては、各種添加物を加えることにより茶飲料や青果物の褐変を防止する方法が知られている(例えば、特許文献1又は2を参照)。そのような添加物として特許文献1にはトレハロースが記載され、特許文献2にはベタインが記載されている。トレハロースを用いることにより、酸化抑制などの作用によって茶飲料の褐変を抑制することができる。また、ベタインはポリフェノールオキシダーゼの活性を低下させ、青果物の変色を防止することができる。
【特許文献1】特開2001−112414号公報(第1頁及び第2頁)
【特許文献2】特開平11−243853号公報(第1頁及び第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、茶飲料、果汁飲料などの液体飲食品においては、色彩の変化が見た目においしさに影響すること、褐変により含有成分が変化して異味異臭を発することもあることなどから、褐変を抑制することが重要である。ところが、近年消費者の要求が添加物を減少する方向へ変化していることもあり、上記特許文献1及び2に記載されているような添加物を加える方法が受け入れられ難くなって来ている。そのため、添加物を加える方法ではなく、それ以外の方法で褐変を抑制することが要求されている。
【0004】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、添加物を加えることなく、褐変を抑制することができる液体飲食品の褐変抑制方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明の液体飲食品の褐変抑制方法は、液体飲食品に過熱水蒸気を接触させて過熱蒸気処理を行うことを特徴とするものである。
請求項2に係る発明の液体飲食品の褐変抑制方法は、請求項1に記載の発明において、前記褐変がビタミンCの分解反応、メイラード反応及び酸化反応から選ばれる少なくとも一種の反応に起因するものであることを特徴とするものである。
【0006】
請求項3に係る発明の液体飲食品の褐変抑制方法は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記過熱蒸気処理により液体飲食品の温度を初期温度よりも5〜80℃上昇させることを特徴とするものである。
【0007】
請求項4に係る発明の液体飲食品の褐変抑制方法は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記過熱蒸気処理を常圧下で行うことを特徴とするものである。
【0008】
請求項5に係る発明の液体飲食品の褐変抑制方法は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記液体飲食品が茶飲料、果汁飲料又は野菜汁飲料であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に係る発明の液体飲食品の褐変抑制方法は、液体飲食品に過熱水蒸気を接触させて過熱蒸気処理を行うものである。この過熱蒸気処理に用いられる過熱水蒸気は、不活性ガスと同様に酸素を含んでいないことから、過熱水蒸気を液体飲食品に接触させることで液体飲食品の酸化が抑えられると共に、メイラード反応が起こり難く、しかもビタミンCの分解が抑制されるものと推測される。従って、添加物を加えることなく、液体飲食品の褐変を抑制することができる。
【0010】
請求項2に係る発明の液体飲食品の褐変抑制方法では、褐変がビタミンCの分解反応、メイラード反応及び酸化反応から選ばれる少なくとも一種の反応に起因するものである。上記のように過熱水蒸気は、これらの反応を抑制することができるものと考えられることから、請求項1に係る発明の効果を十分に発揮することができる。
【0011】
請求項3に係る発明の液体飲食品の褐変抑制方法では、過熱蒸気処理により液体飲食品の温度を初期温度よりも5〜80℃上昇させるものである。このため、液体飲食品の品質を劣化させることなく、請求項1又は請求項2に係る発明の効果を十分に発揮させることができる。
【0012】
請求項4に係る発明の液体飲食品の褐変抑制方法では、過熱蒸気処理を常圧下で行うことから、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果に加えて、簡易な操作で過熱水蒸気を液体飲食品に接触させることができる。
【0013】
請求項5に係る発明の液体飲食品の褐変抑制方法では、液体飲食品が茶飲料、果汁飲料又は野菜汁飲料であることから、これらの液体飲食品について請求項1から請求項4のいずれかに係る発明の効果を十分に発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の最良と思われる実施形態について詳細に説明する。
本実施形態における液体飲食品の褐変抑制方法は、液体飲食品に過熱水蒸気を接触させて過熱蒸気処理を行うものである。この過熱蒸気処理により、ペットボトルなどに保管される果汁飲料などの液体飲食品が経時的に褐色に変化することを抑えることができる。
【0015】
対象となる液体飲食品は飲食品のうち液状を呈しているものをいい、具体的には茶飲料、果汁飲料、野菜汁飲料、コーヒー飲料、各種スープなどが挙げられる。茶飲料は茶葉から常法に従って抽出されるエキスを含有する飲料である。茶葉の種類としては、緑茶、ウーロン茶、紅茶、麦茶、ハト麦茶、ジャスミン茶、プアール茶、ルイボス茶、ハーブのような液体飲食品に使用可能なものが挙げられる。これらの茶葉は、単独で用いてもよく、複数種類の茶葉をブレンドして用いてもよい。
【0016】
また、果汁飲料は果物のエキスを含有する飲料であり、野菜汁飲料は野菜のエキスを含有する飲料である。果汁飲料又は野菜汁飲料は、果物又は野菜を搾ることで得られるが、搾り汁を濃縮した液、希釈した液又は水で還元した液も含まれる。果物としては、レモン、オレンジ、グレープフルーツ、ライム、ゆずのような柑橘類、ピーチ、グレープ、パインアップル、アップル、イチゴなどが挙げられる。野菜としては、キャロット(人参)、ほうれん草、トマトなどが挙げられる。
【0017】
液体飲食品には、各種副原料、添加物などが含まれていても良い。そのような副原料及び添加物としては、各種糖質、乳成分、合成甘味料、安定剤、乳化剤、pH調整剤のほか、香料などが用いられる。
【0018】
液体飲食品は、空気中に放置しておくと例えば茶飲料の場合には薄緑色、黄色から次第に赤褐色に変化する。このような褐変は、ビタミンCの分解反応、メイラード反応及び酸化反応から選ばれる少なくとも一種の反応に起因するものと推定される。これらの反応は、主に空気中の酸素に基づいて起こるものと考えられる。ビタミンCは液体飲食品に含まれている成分で、L−アスコルビン酸の別名である。このビタミンCは、熱や空気中の酸素によって分解反応を起こしやすい。メイラード反応は、還元糖とアミノ化合物(アミノ酸、ペプチド又はタンパク質)を加熱したときなどに見られる褐色物質(メラノイジン)を生成する反応である。液体飲食品には、タンパク質、糖質などの褐変を進行させやすい成分が高い割合で含まれている。メイラード反応は液体飲食品を貯蔵しておく際に着色、香気成分の生成に係わる反応であり、加熱によって短時間で進行するが、常温でも進行する。酸化反応は、液体飲食品中の成分が空気中の酸素と反応して酸化物を生成する反応である。この酸化反応は、温度が高くなるほど進行が速くなる。
【0019】
次に、そのような褐変を抑制するための過熱蒸気処理について説明する。
過熱蒸気処理に用いられる過熱水蒸気は、水蒸気をさらに加熱して100℃以上の高温状態にした無色透明の気体(ガス)である。この過熱水蒸気は、一般的な方法により作製される過熱水蒸気を使用することができ、具体的には飽和水蒸気を電磁誘導加熱、電気ヒータによる加熱又はバーナーでの加熱により作製される過熱水蒸気を使用することができる。過熱水蒸気は、低温の物質に触れると凝縮しそのときに失う熱を物質に与えて温度上昇させる性質と、加熱空気のように物質を加熱する性質とを併せ持っているため、短時間で物質の温度を上昇させることができる。
【0020】
過熱蒸気処理は、前述のように液体飲食品に過熱水蒸気を接触させることにより実施される。ここで、接触させるとは、吹き込み、混合、表面での接触などを含む概念であり、例えば液体飲食品を液滴として、或いは霧状に噴霧し、その噴霧された液体(液滴)に対して過熱水蒸気を吹付ける態様のほか、液体飲食品を容器内に貯留し、その中に過熱水蒸気を吹込むことなどを意味する。この蒸気処理は、バッチ処理又は連続処理のいずれもが可能である。いずれの処理においても、過熱蒸気処理を行うための装置(処理装置)を容器内又は配管内のいずれに設置しても差し支えない。バッチ処理は、好ましくは容器内に設置される処理装置により実施され、連続処理は、好ましくは配管内に設置される処理装置により実施される。
【0021】
過熱蒸気処理の具体的条件について述べると、過熱水蒸気の温度は常圧で100℃以上の温度であれば問題ないが、100〜500℃が好ましく、105〜400℃がより好ましく、120〜200℃が更に好ましい。過熱水蒸気の温度が100℃未満の場合には、過熱水蒸気が得られ難く、また過熱水蒸気として存在することも難しくなる。その一方、500℃を越える場合には、過熱水蒸気を発生させる装置が大掛かりになり、製造コストも嵩むため好ましくない。過熱水蒸気を発生させる装置は、熱効率を良くするために過熱水蒸気発生装置と水蒸気(飽和水蒸気)発生装置又は処理装置との距離を短くしたり、水蒸気や過熱水蒸気が通過する配管やタンクの保温効果を高めたりすることで無駄なく処理することができる。
【0022】
液体飲食品に接触させる過熱水蒸気の供給量は、液体飲食品1kg当たり好ましくは0.1〜100kg/hr、より好ましくは0.5〜50kg/hr、更に好ましくは、1〜30kg/hrであり、最も好ましくは10〜30kg/hrである。過熱水蒸気の供給量が0.1kg/hrより少ない場合には液体飲食品に接触させる時間が長時間必要になり、反対に過熱水蒸気の供給量が100kg/hrを越える場合には過熱水蒸気を製造する装置が大掛かりになって好ましくない。
【0023】
過熱蒸気処理の処理時間即ち接触時間は、使用する過熱水蒸気の量と、初期温度からの上昇温度とに基づいて適宜設定することができるが、5秒〜1分が好ましく、10〜40秒が更に好ましい。接触時間が5秒以内の場合には液体飲食品に過熱水蒸気を十分に接触させることができず、1分を越える場合には液体飲食品が過度に加熱されて変質したり、加熱臭が発生したりする傾向を示して好ましくない。
【0024】
過熱水蒸気を液体飲食品に接触させることにより、液体飲食品は過熱蒸気処理する前の液体飲食品の温度(初期温度)よりも好ましくは5〜80℃上昇し、より好ましくは10〜80℃上昇し、特に好ましくは15〜70℃上昇する。液体飲食品が過熱水蒸気の接触によって温度上昇することにより、過熱水蒸気の分散性や浸透性が向上し、その褐変抑制機能が十分に発揮される。この温度上昇が5℃未満の場合には過熱水蒸気による褐変抑制機能が十分に発現されず、80℃を越えると過熱水蒸気処理による液体飲食品の温度上昇による加熱臭の発生や加熱による褐変の進行が起きる傾向を示す。
【0025】
過熱蒸気処理は常圧下又は加圧下で行うことができる。加圧下で行うことにより、過熱水蒸気を液体飲食品に接触しやすくなるが、加圧状態を保持する必要があることから、装置、取扱いなどにおいて不便である。一方、常圧下で行えば、そのような制約はないため、簡易な操作で過熱水蒸気を液体飲食品に接触させることができる。
【0026】
上記過熱蒸気処理は酸素を含む常圧下(大気圧下)で行っても良いが、液体飲食品の酸化劣化を抑えて風香味的に優れた液体飲食品を得るために、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気(脱酸素状態)で行うことが望ましい。また、処理される液体飲食品の段階として茶やコーヒーの抽出液や濃縮果汁等の調合が行われる前(副原料や添加物が含まれない状態)や各種添加物が加えられて調合が行われた後(副原料や添加物が加えられた状態)のどの段階で実施されても差し支えない。
【0027】
乳成分を含有したり、温度により変化を受けやすい溶液を過熱蒸気処理した場合には、溶液が高温になっている時間を短縮するために、直ちに熱交換器による冷却を行うか、或いはフラッシュ冷却などの減圧操作にて冷却することが好ましい。冷却装置としてのフラッシュ冷却は、温度調整と水分調整が同時にできるため好ましい。このフラッシュ冷却は、密閉された耐圧容器内や耐圧配管内から気体を抜き取って該容器内や該配管内を急激に減圧することにより、容器内や配管内の気体が断熱膨張を引き起こすと共に、液体中の水分を蒸発させて気化熱を奪い、容器内や配管内を急冷する。なお、このとき液体中から水分が蒸発することから、過熱蒸気処理における過熱水蒸気の吹付け又は吹込みによって付加された余分な水分が取り除かれ、液体の濃度調整も同時に行われる。
【0028】
ちなみに、接触させた過熱水蒸気が過熱蒸気処理された溶液に溶け込むため、それを冷却した際に希釈水として利用することも可能である。つまり、濃縮された溶液を過熱蒸気処理して褐変を抑制することができると共に、溶液を希釈することにも利用することができる。逆に、過熱蒸気処理された溶液に過熱水蒸気が多く吹き込まれた場合には、過熱蒸気処理中に溶液に溶け込まない水蒸気を排出したり、過熱蒸気処理後に水蒸気の脱気処理やフラッシュ冷却等で水分除去し、過熱蒸気処理後の水分調整を行えばよい。
【0029】
以上のように過熱蒸気処理された液体飲食品は、容器に詰め密封して保存することができる。その場合の容器は常用される容器(ボトル)であれば何れでもよく、例えば缶、ビン、PET(ポリエチレンテレフタレート)ボトル等のプラスチック容器、紙容器などが挙げられる。そのように保存することで、長期的に褐変が抑えられた液体飲食品を得ることができる。
【0030】
さて、本実施形態の作用について説明すると、液体飲食品の過熱蒸気処理は、例えば液体飲食品としての果汁飲料に対し、120〜200℃の過熱水蒸気を10〜30kg/hrの供給量で10〜40秒吹き込むことにより行われる。果汁飲料に過熱水蒸気が吹き込まれると、果汁飲料は加熱されてその温度が15〜70℃上昇する。このため、果汁飲料は次第に温められると同時に、果汁飲料内に過熱水蒸気が均一に分散されていく。このとき、果汁飲料中に分散された過熱水蒸気には酸素が含まれていないことから、果汁飲料中にはそのような不活性なガスで満たされる。従って、果汁飲料の酸化が抑えられると共に、メイラード反応が抑えられ、かつビタミンCの分解が抑制されるものと考えられる。その結果、果汁飲料が経時的に褐色に変色してゆくことが抑制される。
【0031】
以上詳述した本実施形態により発揮される効果について以下にまとめて記載する。
・ 本実施形態における液体飲食品の褐変抑制方法は、液体飲食品に過熱水蒸気を接触させて過熱蒸気処理を行うものである。この過熱蒸気処理の作用により、添加物を加えることなく、液体飲食品の褐変を抑制することができる。更に、褐変が抑制されることにより、液体飲食品の異味異臭が軽減され、長期的に保持される。そのため、従来のように添加物により化学的に褐変を抑制するのではなく、水を利用して液体飲食品を処理することから、添加物について不安に思う消費者にも受け入れられやすい。
【0032】
・ 前記褐変はビタミンCの分解反応、メイラード反応及び酸化反応から選ばれる少なくとも一種の反応に起因するものである。上記のように過熱水蒸気は、これらの反応を抑制することができるものと考えられ、液体飲食品の褐変抑制効果を十分に発揮することができる。
【0033】
・ 過熱蒸気処理により液体飲食品の温度を初期温度よりも5〜80℃上昇させることによって、液体飲食品の品質を劣化させることなく、褐変を抑制することができる。
・ 過熱蒸気処理を常圧下で行うことにより、簡易な操作で過熱水蒸気を液体飲食品に接触させることができる。
【0034】
・ 液体飲食品として、特に茶飲料、果汁飲料又は野菜汁飲料について褐変の抑制を図ることができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1及び2、緑茶)
緑茶葉680gを62℃の温水23.8Lを用い、12分間ニーダー抽出機にて抽出を行った。次いで、固液分離を行い、得られた抽出液にイオン交換水を加え、液量を30Lとした。その後、本抽出液4.5Lに150℃の過熱水蒸気(供給量28kg/Hr)を13秒間(実施例1)又は25秒間(実施例2)吹き込んで過熱蒸気処理を行った。実施例1の過熱蒸気処理により、水温は45.3℃(初期水温29.8℃)に上昇し(Δt=15.5℃)、0.105kgの重量増加が見られた。また、実施例2の過熱蒸気処理により、水温は57.4℃(初期水温30.2℃)に上昇し(Δt=27.2℃)、0.16kgの重量増加が見られた。
【0036】
得られた処理液に、濃度0.4g/LとなるようにビタミンCを添加すると共に、濃度0.3g/Lとなるように重曹(炭酸水素ナトリウム)を添加し、タンニン量60mg/mlとなるようイオン交換水を用いて調整し、調合液15Lを作製した。本調合液について138℃、30秒間、超高温短時間殺菌(UHT殺菌)を行った後、PETボトル容器にホットパック充填した。加速度経時試験として、調合液を60℃で3週間保持し、褐変を測定するために日本電色工業(株)製の測色色差計ZE-2000を用いて黄色度YI値を測定した。それらの結果を表1に示した。
(比較例1、緑茶)
緑茶葉680gを62℃の温水23.8Lを用い、12分間ニーダー抽出機にて抽出を行った。次いで、固液分離を行い、得られた抽出液にイオン交換水を加え、液量を30Lとした。その後、本抽出液4.5Lに、濃度0.4g/LとなるようにビタミンCを添加すると共に、濃度0.3g/Lとなるように重曹を添加し、タンニン量60mg/mlとなるようイオン交換水を用いて調整し、調合液15Lを作製した。本調合液について138℃、30秒間のUHT殺菌を行った後、PETボトル容器にホットパック充填した。加速度経時試験として、調合液を60℃で3週間保持し、褐変を測定するために日本電色工業(株)製の測色色差計ZE-2000を用いてYI値を測定した。それらの結果を表1に示した。
(比較例2及び3、緑茶)
緑茶葉680gを62℃の温水23.8Lを用い、12分間ニーダー抽出機にて抽出を行った。次いで、固液分離を行い、得られた抽出液にイオン交換水を加え、液量を30Lとした。その後、本抽出液4.5Lを水蒸気(供給量28kg/Hr)にて15秒間(比較例2)又は30秒間(比較例3)処理を行った。比較例2の処理により、水温は52.7℃(初期水温37.4℃)に上昇し(Δt=15.3℃)、0.105kgの重量増加が見られた。また、比較例3の処理により、水温は63.2(初期水温33.8℃)に上昇し(Δt=29.4℃)、0.16kgの重量増加が見られた。
【0037】
その後、水蒸気処理液に、濃度0.4g/LとなるようにビタミンCを添加すると共に、濃度0.3g/Lとなるように重曹を添加し、タンニン量60mg/mlとなるようイオン交換水を用いて調整し、調合液を15L作製した。本調合液について138℃、30秒間、UHT殺菌を行った後、PETボトル容器にホットパック充填した。加速度経時試験として、水蒸気処理液を60℃で3週間保持し、褐変を測定するために日本電色工業(株)製の測色色差計ZE-2000を用いてYI値を測定した。この場合、未経時品のYI値を100%とした。それらの結果を表1に示した。
【0038】
【表1】

表1に示した結果から、過熱蒸気処理を行った実施例1及び2では、過熱蒸気処理を行わなかった比較例1〜3に比べ、経時的に進行する緑茶の褐変を抑制できることが分った。なお、実施例1ではYI値が143.6%で、比較例2ではYI値が144.0%であって、その差が0.4%でわずかに見えるが、この差は有意な差である。
(実施例3〜6、オレンジ果汁)
混濁濃縮オレンジ果汁〔可溶性固形分濃度(質量%)、Brix66〕をイオン交換水にて希釈し、Brix22のオレンジ果汁(ジュース)を得た。その後、Brix22のオレンジ果汁を2kg用いて150℃の過熱水蒸気(供給量12kg/Hr)を15秒間(実施例3)又は32秒間(実施例4)吹き込んで過熱蒸気処理を行った。また、過熱蒸気温度の違いによる効果を検討するため、更に190℃の過熱水蒸気(供給量11.4kg/Hr)をBrix22のオレンジ果汁2kgに12秒間(実施例5)又は32秒間(実施例6)吹き込んで過熱蒸気処理を実施した。
【0039】
実施例3の過熱蒸気処理により、水温は53.3℃(初期水温19℃)に上昇した(Δt=34.3℃)。実施例4の過熱蒸気処理により、水温は83℃(初期水温19℃)に上昇した(Δt=64℃)。実施例5の過熱蒸気処理により、水温は53℃(初期水温19℃)に上昇した(Δt=34℃)。実施例6の過熱蒸気処理により、水温は84.1℃(初期水温19℃)に上昇した(Δt=65.1℃)。これらの過熱蒸気処理後、イオン交換水を用い、Brix11となるようにオレンジ果汁を調製した。続いて、95℃、3秒間、瞬間殺菌を行った後、PETボトル容器にホットパック充填した。
【0040】
そして、加速度経時試験として、PETボトル容器にホットパック充填されたオレンジ果汁を45℃で2週間保持し、褐変を測定するために、100%エタノールを試料に等量加え、遠心分離により不溶性パルプを除去後、上清について光の波長420nmの吸光度を測定した。また、ヨウ素法を用いて還元型ビタミンC含量を測定し、未経時品を100%としたときのビタミンC残存率を求めた。それらの結果を表2及び表3に示した。
(比較例4、オレンジ果汁)
混濁濃縮オレンジ果汁(Brix66)をイオン交換水にて希釈し、Brix22のオレンジ果汁(ジュース)2kgを得た。これを更にイオン交換水にてBrix11となるようにオレンジ果汁を調製した。その後、95℃、3秒間、瞬間殺菌を行い、PETボトル容器にホットパック充填した。加速度経時試験として、PETボトル容器にホットパック充填されたオレンジ果汁を45℃で2週間保持し、褐変を測定するために、100%エタノールを試料に等量加え、遠心分離により不溶性パルプを除去後、上清について光の波長420nmの吸光度を測定した。また、ヨウ素法を用いて還元型ビタミンC含量を測定し、未経時品を100%としたときのビタミンC残存率を求めた。それらの結果を表2及び表3に示した。
(比較例5及び6、オレンジ果汁)
混濁濃縮オレンジ果汁(Brix66)をイオン交換水にて希釈し、Brix22のオレンジ果汁を得た。その後、Brix22のオレンジ果汁を2kg用いて水蒸気(供給量20.3kg/Hr)にて11秒間(比較例5)又は27秒間(比較例6)処理を行った。比較例5の水蒸気処理により、水温は49℃(初期水温18℃)に上昇した(Δt=31℃)。比較例6の水蒸気処理により、水温は81.2℃(初期水温18℃)に上昇した(Δt=63.2℃)。その後、イオン交換水を用い、Brix11となるようにオレンジ果汁を調製した。次いで、95℃、3秒間、瞬間殺菌を行った後、PETボトル容器にホットパック充填した。
【0041】
そして、加速度経時試験として、PETボトル容器にホットパック充填されたオレンジ果汁を45℃で2週間保持し、褐変を測定するために100%エタノールを試料に等量加え、遠心分離により不溶性パルプを除去後、上清について光の波長420nmの吸光度を測定した。この場合、未経時品の吸光度を100%とした。また、ヨウ素法を用いて還元型ビタミンC含量を測定し、未経時品を100%としたときのビタミンC残存率を求めた。それらの結果を表2及び表3に示した。
【0042】
【表2】

表2の結果から、過熱蒸気処理を行った実施例3〜6では、過熱蒸気処理を行わなかった比較例4〜6に比べてYI値の増加率が低く、経時的に進行するオレンジ果汁の褐変を十分に抑制できることが分かった。
【0043】
【表3】

表3に示した結果より、過熱蒸気処理を行った実施例3〜6ではビタミンC残存率が高く維持でき、経時的に進行するビタミンCの分解が十分に抑制されることが分かった。
(実施例7〜10、レモン果汁)
濃縮レモン果汁(Brix37)をイオン交換水にて希釈し、Brix19.2のレモン果汁を調製した。その後、Brix19.2のレモン果汁2kgを用いて150℃の過熱水蒸気(供給量12kg/Hr)にて15秒間(実施例7)又は32秒間(実施例8)処理を行った。また、過熱水蒸気温度の違いによる効果を検討するため、190℃の過熱水蒸気(過熱水蒸気量11.4kg/Hr)にてBrix19.2のレモン果汁2kgを12秒間(実施例9)又は32秒間(実施例10)処理を実施した。
【0044】
実施例7の過熱蒸気処理により、水温は53.6℃(初期水温19℃)に上昇した(Δt=34.6℃)。実施例8の過熱蒸気処理により、水温は83℃(初期水温19℃)に上昇した(Δt=64℃)。実施例9の過熱蒸気処理により、水温は54.4℃(初期水温19℃)に上昇した(Δt=35.4℃)。実施例10の過熱蒸気処理により、水温は85.4℃(初期水温19℃)に上昇した(Δt=66.4℃)。過熱蒸気処理後、イオン交換水を用い、Brix9.7となるようにレモン果汁を調製した。次いで、95℃、3秒間、瞬間殺菌を行った後、PETボトル容器にホットパック充填した。
【0045】
そして、加速度経時試験として、PETボトル容器にホットパック充填されたレモン果汁を45℃で1週間保持し、褐変として日本電色工業(株)製の測色色差計ZE-2000を用いてb値を測定した。この場合、未経時品のb値を100%とし、b値の増加率(%)を求めた。その結果を表4に示した。また、ヨウ素法を用いて還元型ビタミンC含量を測定し、未経時品を100%としたときのビタミンC残存率を求めた。その結果を表5に示した。
(比較例7、レモン果汁)
混濁濃縮レモン果汁(Brix37)をイオン交換水にて希釈し、Brix19.2のレモン果汁を得た。これを更にイオン交換水にてBrix9.6のレモン果汁を調製した。その後、95℃、3秒間、瞬間殺菌を行い、PETボトル容器にホットパック充填した。そして、加速度経時試験として、PETボトル容器にホットパック充填されたレモン果汁を45℃で1週間保持し、褐変を測定するために日本電色工業(株)製の測色色差計ZE-2000を用いてb値を測定した。また、ヨウ素法を用いて還元型ビタミンC含量を測定し、未経時品を100%としたときのビタミンC残存率を求めた。それらの結果を表5に示した。
(比較例8及び9、レモン果汁)
濃縮レモン果汁(Brix37)をイオン交換水にて希釈し、Brix19.2のレモン果汁を得た。その後、Brix19.2のレモン果汁2kgを用いて水蒸気(供給量20.3kg/Hr)にて11秒間(比較例8)又は27秒間(比較例9)処理を行った。比較例8の水蒸気処理により、水温は51.5℃(初期水温18℃)に上昇した(Δt=33.5℃)。比較例9の水蒸気処理により、水温は80℃(初期水温18℃)に上昇した(Δt=62℃)。その後、イオン交換水を用い、Brix9.6のレモン果汁を調製した。次いで、95℃、3秒間、瞬間殺菌を行った後、PETボトル容器にホットパック充填した。
【0046】
そして、加速度経時試験として、PETボトル容器にホットパック充填されたレモン果汁を45℃で1週間保持し、褐変を測定するために日本電色工業(株)製の測色色差計ZE-2000を用いてb値を測定した。また、ヨウ素法を用いて還元型ビタミンC含量を測定し、未経時品を100%としたときのビタミンC残存率を求めた。それらの結果を表5に示した。
【0047】
【表4】

表4に示した結果から、過熱蒸気処理を行った実施例7〜10では、過熱蒸気処理に代えて水蒸気処理を行った比較例7〜9に比べてb値の増加率が低く、経時的に進行するレモン果汁の褐変を十分に抑制できることが分かった。
【0048】
【表5】

表5の結果より、過熱蒸気処理を行った実施例7〜10では、45℃1週間後にビタミンCが十分に残存し、経時的に進行するビタミンCの分解が十分に抑制されることが分かった。
【0049】
なお、前記実施形態を次のように変更して具体化することも可能である。
・ 前記過熱蒸気処理を、複数段階に分けて行うことも可能である。その場合、液体飲食品の種類に応じ各段階で、過熱水蒸気の温度、供給量、接触時間などを適宜変化させることができる。
【0050】
・ 前記過熱水蒸気を液体飲食品に接触させるとき、過熱水蒸気をできるだけ微細なガスとして液体飲食品に吹き込み、液体飲食品に対する過熱水蒸気の分散性を向上させるように構成することもできる。
【0051】
・ 前記過熱蒸気処理を行うに際し、予め液体飲食品を所望の温度まで加熱した状態で過熱水蒸気を接触させるように構成することもできる。
次に、前記実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
【0052】
・ 前記過熱水蒸気の温度は120〜200℃であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の液体飲食品の褐変抑制方法。この方法によれば、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果を有効に発揮させることができる。
【0053】
・ 前記過熱水蒸気の供給量は10〜30kg/hrであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の液体飲食品の褐変抑制方法。この方法によれば、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果を十分に発揮させることができる。
【0054】
・ 前記過熱水蒸気の接触時間は10〜40秒であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の液体飲食品の褐変抑制方法。この方法によれば、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果を十分に発揮させることができる。
【0055】
・ 前記過熱蒸気処理を不活性ガス雰囲気下で行うことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の液体飲食品の褐変抑制方法。この方法によれば、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果を向上させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体飲食品に過熱水蒸気を接触させて過熱蒸気処理を行うことを特徴とする液体飲食品の褐変抑制方法。
【請求項2】
前記褐変がビタミンCの分解反応、メイラード反応及び酸化反応から選ばれる少なくとも一種の反応に起因するものであることを特徴とする請求項1に記載の液体飲食品の褐変抑制方法。
【請求項3】
前記過熱蒸気処理により液体飲食品の温度を初期温度よりも5〜80℃上昇させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体飲食品の褐変抑制方法。
【請求項4】
前記過熱蒸気処理を常圧下で行うことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の液体飲食品の褐変抑制方法。
【請求項5】
前記液体飲食品が茶飲料、果汁飲料又は野菜汁飲料であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の液体飲食品の褐変抑制方法。

【公開番号】特開2007−228867(P2007−228867A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−54017(P2006−54017)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(591134199)株式会社ポッカコーポレーション (31)
【Fターム(参考)】