説明

液体麹及び速醸型味噌様食材

【課題】うま味、コクが強く、濃厚感がある無塩味噌様食材の製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】麹菌を所定量の乳酸菌培養液又はその上清で培養して液体麹を調製する。このようにして得られた液体麹を食品素材に添加し、除菌された空気を連続的又は間欠供給しながら、密閉された状態の製麹機内で製麹する。次に、得られた麹に、乳酸菌培養液又はその上清を混合して、さらに必要により食品素材を混合し、該混合物をそのまま又はペースト状にして諸味を形成し、該諸味を食塩非存在下で加水分解する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は雑菌の増殖を抑制しながら製造する液体麹と、それを使用して短時間で安定的に製麹を行い、うま味、コクが強く、濃厚感がある無塩味噌様食材、及び骨代謝改善組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
味噌等の伝統的な醸造発酵食品は、製造期間が長いことが知られている。近年、労働時間の短縮や休日の増加などが進んでおり、生産現場においては効率的な製造方法の開発が望まれている。設備投資等をせずに、効率的な製造開発を行う上で、最も大きなボトルネックとなるのは製麹工程であり、製麹工程の時間短縮が製造期間の短縮という点で全工程に与える効果は多大なものがある。
【0003】
さて、製麹時間を短縮する方法として製麹温度を上昇させる方法がある。しかし、効果は高いが、原料や設備由来の汚染微生物、特にバチルス属細菌が増殖しやすい環境となり、結果として麹の品質低下を招くこととなる。この麹の品質低下は、最終製品の品質低下を招くことになり好ましくない。
また、伝統的な醸造発酵食品は仕込みの際に食塩を添加することにより、汚染微生物の増殖を阻止しているが、各種調味料やドレッシング類などに使用した場合に、内在していた汚染微生物がその製品中で増殖し、製品の変敗を招くこともある。
【0004】
更に、近年、醸造発酵食品の有する健康機能について各種報告されており、中でも味噌は大豆イソフラボンが多く含まれていることや、抗癌作用に関する報告もあることから健康食品としての需要が期待される。しかしながら、味噌は著量の塩分を含むことから、味噌の多用は塩分の取りすぎにつながるという懸念が強く、需要は伸び悩んでいるのが現実である。
【0005】
製麹時間が短縮され、かつ、低塩又は無塩の味噌又は味噌用食材の提供が長年望まれていた。製麹時間の短縮についてはいくつか報告があるが、短時間での製麹(一日〜二日麹)では安定した品質の麹を得ることは難しいといわれている(非特許文献1)。
例えば、製麹前に種麹の発芽を促進させて製麹を実施する方法が開示されているが(特許文献1)、実際の製麹時間の短縮については言及されていない。また、製麹時間を短縮した麹と通常の製麹の麹を混合して使用する方法(非特許文献2)、製麹助剤の使用、酵素製剤の添加などによる品質改良方法(非特許文献3)が報告されているが何れも工業化されていない。
【0006】
低塩味噌や無塩味噌の製法に関する従来技術として、希釈及び透析を行った低塩味噌を使用して高蛋白含有食品を製造する方法(特許文献2)、味噌を水で希釈して脱塩味噌を製造する方法(特許文献3)、仕込み時にエタノールを加えて発酵させる方法(非特許文献4)などが報告されている。さらに、バクテリオシンの1種であるナイシンを生産する乳酸菌を接種して乳酸発酵することにより、実験室規模において無塩味噌を調製する方法が報告されており、この方法ではバチルス及びその他の汚染細菌は検出されなかったとされている(非特許文献5)。
【0007】
しかしながら、実際の工業的規模での味噌の製造においては、ナイシン生産乳酸菌を加えるだけでは、外気より混入する様々な微生物、特にペディオコッカス属細菌、エンテロコッカス属細菌などの乳酸菌が熟成中に著しく増殖し、それらの乳酸菌が産する乳酸によりpHが低下し、いわゆる酸敗が生じる。また、大腸菌群などが属するグラム陰性菌に対しては、ナイシンの抗菌効果は無いことから(非特許文献6)、ナイシンだけではそれらの菌による変敗を有効に防ぐことはできない。すなわち、実験室規模での無塩味噌の調製は微生物制御の点で比較的容易であるが、工業規模の製造においては雑菌の制御は非常に困難であることから、工業規模での無塩味噌の製造は不可能に近いと考えられている。
非特許文献1には無塩味噌の工業生産について検討中との記載があるが、具体的な製造条件は開示されていない。勿論、本願発明の特徴の一つである製麹を密閉状態で行うことについて全く言及されていない。
【0008】
また、特許文献4には回転加圧缶を用いて、麹原料(麹に添加される大豆等の食品素材)の原料処理すなわち散水、蒸煮、冷却及び製麹を同一装置で麹を製造する方法が開示され、その方法では出麹について雑菌が検出されなかったという報告がされている。しかしながら、実際に製造で使用する粉状種麹には汚染菌が103−5cfu/gのレベルで混入していることが多く、工業的に安定して無菌性を保つのは困難なように思われる。更に特許文献4は麹の培養方法及び装置に関するものであり、食塩非存在下での諸味の分解すなわち無塩味噌の製造に関しては全く言及されていない。
【0009】
一方、味噌の健康機能成分の一つであるイソフラボンは、大豆や通常の大豆食品中では糖のついた配糖体として存在し、摂取後、腸内細菌によって糖が外されたアグリコンとなって初めて体内へ吸収される(非特許文献7)。故に、もともと糖が外れているアグリコンとしてイソフラボンを摂取することが出来れば、腸内細菌に因らないイソフラボン機能の高発現が期待できる。
【0010】
味噌などの大豆発酵食品においては、発酵中に麹菌のβグルコシダーゼによりイソフラボンのアグリコン化が起こる。しかし、通常、比較的高塩条件で製造される為、アグリコン化は短期間で進みにくいことが知られている。一般的な味噌のアグリコン化率は、米味噌で約65%、白味噌で約21%、あわせ味噌で約58%、麦味噌で約48%程度であり(非特許文献8)、高アグリコン化率の大豆発酵食品の開発が課題であった。
【0011】
尚、大豆を麹原料とする豆味噌のアグリコン化率は約90%(非特許文献8)であるが、長期間(約2年)の熟成が必要と考えられ(非特許文献9)、短期間の熟成で高アグリコン化率が達成するという報告は存在しない。
【特許文献1】特開2005−210903号公報
【特許文献2】特開昭58−175463号公報
【特許文献3】特開昭63−214154号公報
【特許文献4】特開平7−107966号公報
【非特許文献1】鵜木隆文 鹿児島県工業技術センター研究報告 No.16(2002)
【非特許文献2】早出昭雄 信州味噌研報告 43 p58-60(1993)
【非特許文献3】秋本隆史 味噌の科学と技術 39 p.355-363(1991)
【非特許文献4】渡辺聡 北陸農業研究成果情報15 p.169-170 (1999)
【非特許文献5】加藤丈雄 日本醸造協会誌 97 p.615-623 (2002)
【非特許文献6】松田敏生 食品の非加熱殺菌応用ハンドブック p.187
【非特許文献7】Setchell KD et al Am. J. Clin. Nutr. 76 2 p.447-453 (2002)
【非特許文献8】戸田登志也ら FFI journal 172 p.83-89 (1997)
【非特許文献9】木原ら 日本醤油研究所雑誌 17 1 p.1-4 (1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、1)雑菌の増殖が抑制された液体麹、2)当該液体麹を使用して得られる、うま味、こくが強く、濃厚感がある低塩又は無塩の速醸型味噌様食材、及び3)骨代謝改善作用を持つ組成物の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、麹菌を5〜500倍量の乳酸菌培養液にて培養する方法を見出した。また、得られた麹菌培養液を食品素材に添加し、除菌された空気を連続的又は間欠供給しながら、密閉された状態の製麹機内で16〜40時間製麹し、次に、得られた麹に、乳酸菌培養液若しくはその上清を混合して、さらに必要により麹重量の0.01〜50倍量の1種類以上の食品素材を混合し、該混合物をそのまま若しくはペースト状にして諸味を形成することにより、うま味、コク、濃厚感が強い、新規無塩味噌様食材が得られることを見出した。更に、大豆を麹原料として製造された新規無塩味噌様食材には骨代謝改善作用があることを見出した。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0014】
(1)麹菌を5〜500倍量の乳酸菌培養液又はその上清で培養して得られる液体麹。
(2)麹菌の培養条件が、培養温度が20〜45℃、培養時間が6〜30時間、であることを特徴とする(1)記載の液体麹。
(3)乳酸菌がバクテリオシン産生菌であることを特徴とする(1)記載の液体麹。
(4)バクテリオシン産生乳酸菌がナイシン産生乳酸菌である(3)記載の液体麹。
(5)(1)乃至(4)記載の液体麹を食品素材に添加する工程1と、除菌された空気を連続的又は間欠的に供給しながら、密閉された状態の製麹機内で20〜45℃で16〜40時間製麹する工程2と、このようにして得られた麹に、乳酸菌培養液又はその上清を混合し、さらに必要により麹重量の0.01〜50倍量の1種類以上の食品素材を混合する工程3と、該混合物をそのまま又はペースト状にして諸味を形成する工程4と、該諸味を実質的食塩非存在下で加水分解する工程5、を含むことを特徴とする速醸型味噌様食材。
(6)乳酸菌がバクテリオシン産生菌であることを特徴とする(5)記載の速醸型味噌様食材。
(7)バクテリオシン産生乳酸菌がナイシン産生乳酸菌である(6)記載の速醸型味噌様食材。
(8)(5)の工程1及び/又は工程3で使用される食品素材が米、麦、大豆及び大豆胚芽のいずれか1種以上である(5)記載の速醸型味噌様食材。
(9)(5)の工程1で使用される食品素材が大豆であり、工程3で使用される食品素材が米である(5)記載の速醸型味噌様食材。
(10)速醸型味噌様食材に含まれる大豆イソフラボンのアグリコン化率が80〜100%である(5)記載の速醸型味噌様食材。
(11)大豆イソフラボンのアグリコン化率が80〜100%である速醸型味噌様食材を含有してなる骨代謝改善組成物。
(12)アグリコン化率が80〜100%である速醸型味噌様食材が、液体麹を大豆に添加する工程1と、除菌された空気を連続的又は間欠的に供給しながら、密閉された状態の製麹機内で20〜45℃で16〜40時間製麹する工程2と、このようにして得られた麹に、乳酸菌培養液又はその上清を混合し、さらに必要により麹重量の0.01〜50倍量の1種類以上の食品素材を混合する工程3と、該混合物をそのまま又はペースト状にして諸味を形成する工程4と、該諸味を実質的食塩非存在下で加水分解する工程5、を含むものである骨代謝改善組成物。
(13)液体麹が麹菌を5〜500倍量の乳酸菌培養液又はその上清で培養して得られるものである(12)記載の骨代謝改善組成物。
(14)麹菌の培養条件が、培養温度が20〜45℃、培養時間が6〜30時間、であることを特徴とする(13)記載の骨代謝改善組成物。
(15)乳酸菌がバクテリオシン産生菌であることを特徴とする(13)記載の骨代謝改善組成物。
(16)バクテリオシン産生乳酸菌がナイシン産生乳酸菌である(15)記載の骨代謝改善組成物。
(17)(12)の工程1及び/又は工程3で使用される食品素材が米、麦、大豆及び大豆胚芽のいずれか1種以上である(12)記載の骨代謝改善組成物。
(18)(12)の工程1で使用される食品素材が大豆であり、工程3で使用される食品素材が米である(12)記載の骨代謝改善組成物。
(19)骨代謝改善組成物が飲食品である(11)記載の骨代謝改善組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、無塩(又は実質的に食塩非存在下)で製造されるので麹菌のプロテアーゼ、ペプチダーゼなどの酵素活性が食塩で阻害されることが無いため、通常の味噌より極めて短い発酵熟成期間で、うま味、コク、濃厚感の強い、新規無塩味噌様食材を製造することができる。また、新規無塩味噌様食材の内、大豆を麹の原料として得た大豆イソフラボンのアグリコン化率が80〜100%の新規無塩味噌様食材は骨代謝改善作用を有するので骨粗鬆症の予防、治療、改善への利用が期待できる。
【0016】
本発明の味噌様食材は無塩(又は実質的に食塩非存在)であることから、健康感があり、かつ、汚染菌が存在しないことから安心であるというメリットがある。更に、くり返し述べるが、製造期間が大幅に短縮できるというメリットもある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明において、麹菌を培養する乳酸菌培養液としては一般的な乳酸菌であれば良く、例えばラクトバチルス属菌、ラクトコッカス属菌、ワイセラ属菌などの培養液を用いることができる。その中でもバクテリオシンを産生する乳酸菌が好ましい。
更に、バクテリオシンの中でも、その抗菌スペクトルの広さからナイシンがより望ましいと言えるので、ナイシンを生産する乳酸菌培養液を用いるが最も好ましい。尚、乳酸菌が生産するナイシンの種類はナイシンA、ナイシンZならびにその類縁体のどれでもかまわない。
具体的には、ナイシンZを高生産するLactococcus lactis AJ110212(FERM BP−8552)等を使用することができる。尚、L.lactis AJ110212株は2003年11月19日に独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにFERM BP−8552の受託番号で寄託されている。
【0018】
当然のことながら、微生物の混入、増殖を防ぐには使用する乳酸菌培養液又はその上清中にバクテリオシンが含まれており、しかも、その活性も高い方が望ましい。
ナイシン活性は200IU/ml以上であればよく、通常、ナイシン活性が200〜2000IU/mlの培養液又はその上清を、麹菌の5〜500倍重量、好ましくは10〜200倍量、より好ましくは20〜100倍重量添加すればよい。
5倍重量より少ない場合では、麹菌を乳酸菌培養液中に均一に分散し難くなる為抗菌作用が少なく雑菌の汚染を免れない。また、対麹の500倍重量を超える場合では、水分含量が多くなり、次工程に使用する培養液の麹菌体濃度が低くなり製麹工程の遅延が生じる。
【0019】
また、使用する麹菌は原料の蛋白質をアミノ酸、ペプチドまで高分解し、得られる新規味噌様食材に強いうま味、コク、濃厚感を与えることができるものが望ましいが、特に制限を設けるものではない。例えば、味噌の製造に用いられるAspergillus oryzae、Aspergillus sojae等のアスペルギルス属麹菌を使用することができる。
【0020】
麹菌の5〜500重量部の乳酸菌培養液又はその上清中で培養して液体麹を調製するが、そのときの培養条件は特に限定させるものではない。即ち、麹菌の培養条件は通常、麹菌を培養する条件をそのまま用いればよい。例えば、培養温度としては20〜45℃で培養を行うのが好ましい。20℃以下、又は45℃以上では麹菌の生育が著しく悪化するからである。20〜45℃で培養するならば、通常、培養時間は6〜30時間でよい。6時間未満では菌の発芽が殆ど見られず、製麹時間を短縮することが出来ない。また、培養時間が30時間以上では菌糸の生育が旺盛で後述する工程1において食品素材に対して培養液を混合するのが困難となるからである。
【0021】
さて、麹菌を乳酸培養液又はその上清で培養することで調製した液体麹を麹原料と呼ばれる食品素材に添加、混合する(工程1)。液体麹の添加量は特に限定されるわけではないが、通常、麹原料に対して0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%添加するのが好ましい。
【0022】
次に、この混合物を除菌された空気を供給でき、密閉できる製麹機に盛込む。除菌された空気が供給でき、密閉できる製麹機とは、製麹機内に除菌された空気を供給する機能を持ち、製麹機内部と外気を遮断できる構造を持つものであればよい。例えば、回転ドラム式製麹機が挙げられるが、除菌された空気を製麹機内部に供給する構造を持ち、密閉状態が得られる開閉可能な蓋付の製麹機のほうが、構造がシンプルで安価なため好ましい。
【0023】
麹原料としては、通常の味噌を調製する時に用いる食品素材、即ち、大豆、米、麦、大豆胚芽などを用いればよい。また、必要により、これらの原料を水浸漬処理、脱皮処理、細断処理等の前処理、蒸煮処理、焙煎処理等の過熱処理をしたものを用いてもかまわない。
【0024】
本発明の特徴の1つは除菌された空気を連続的又は間欠的に供給しながら、密閉された状態で製麹すること(工程2)である。空気の除菌方法は0.3μm以上の塵を99.97%以上集塵できるフィルター、例えばHEPAフィルターなどを用いることができる。通風の方法は特に限定されるものではなく、内部通風方式、表面通風方式などを用いることができる。
尚、密閉できない製麹機、例えば円盤回転式製麹機、静置通風式製麹機などは、外気からの微生物の混入を免れず、特にペディオコッカス属細菌、エンテロコッカス属細菌などの乳酸菌が混入し、その結果、熟成中に乳酸を生産して、いわゆる酸敗を招く場合があり、可能なかぎり使用しない方がよい。
【0025】
麹原料と液体麹(麹菌培養液)の混合物を製麹機内に盛り込んだ後、製麹機内を密閉した状態で、除菌された空気を連続的又は間欠的に供給しながら、25〜40℃で16〜40時間、好ましくは34〜40℃で22〜31時間培養し麹を得る(工程2)。尚、製麹温度が40℃を超えると原料蛋白質の分解に必要な酵素活性が低くなり、又、温度が25℃未満になると麹菌の生育が悪くなる。いずれの場合も原料蛋白質の分解に必要な酵素を充分得られず、充分なうま味、コク、濃厚感を持った新規味噌様食材を得ることができない。
【0026】
また、製麹時間が16時間未満では麹菌を充分生育させることが困難であり、充分なうま味、コク、濃厚感を持った新規味噌様食材を得ることができない。また、製麹時間が40時間を越えると原料蛋白質の分解に必要な酵素活性が低くなり、充分なうま味、コク、濃厚感が得られないばかりか、苦味が付与される。
【0027】
次に、得られた麹に乳酸菌培養液又はその上清を諸味の水分含量が35〜60%、好ましくは40〜50%となるように添加する。具体的には、麹重量の0.01〜5倍量、好ましくは0.1〜1.0倍量添加すればよい。
また、必要により1種類以上の食品素材を麹重量の0.01〜50倍量添加し、諸味の形成を行う(工程3)。麹に添加し諸味を形成する食品素材(諸味原料と呼ばれる)も通常の味噌に用いられる大豆、米、麦、大豆胚芽などである。この場合、「必要により」とは、麹の原料を大豆とした豆麹を用いる場合は、諸味の形成において再度大豆は添加しなくてもよい場合があることを意味する。すなわち、麹の原料を大豆とした場合は、大豆、乳酸菌培養液又はその上清、麹菌からなる混合物を製麹した麹に、再び乳酸菌培養液又はその上清を添加し、諸味を形成することになる。
【0028】
また、麹に食品素材、例えば大豆、米、麦、大豆胚芽などを加えてもよい。その場合、あらかじめ蒸煮、もしくは炒煎したものを用いることもできる。例えば、麹の原料を米や麦とした米麹や麦麹を用いる場合、あらかじめ蒸煮もしくは炒煎した大豆を添加することができる。あるいは、豆麹を用いる場合、あらかじめ蒸煮もしくは炒煎した麦や、米を添加することができる。また、それぞれの植物原料の抽出物、またはその特定成分を加えることもできる。例えば大豆抽出物、米デンプン、小麦ふすまなどが例として挙げられる。
【0029】
また、この食品素材の種類、及び添加量により、色のほか、呈味、風味などをコントロールすることができるが、例えば米を添加することにより、甘味を付与することができる。特に、麹原料として大豆を用い、また、工程3で食品素材として米を添加したものは呈味、風味が優れている。
乳酸菌培養液又はその上清、米や麦等の食品素材を麹へ添加する順序は任意であり、麹へ食品素材を添加するのは、乳酸菌培養液又はその上清を麹に添加する前でも、後でも、また同時でもよい。
【0030】
乳酸菌培養液又はその上清の添加量であるが、上述したように、麹重量の0.01〜5重量部添加するのが通常である。0.01倍量未満では、微生物の増殖を抑えきれない。また、5倍量を超えると、蛋白質の分解が充分でなく、充分なうま味、コク、濃厚感を持った新規味噌様食材を得ることができないからである。
【0031】
次に、麹、ナイシン乳酸菌培養液若しくはその上清、必要により1種類以上の食品素材からなる混合物をチョッパーなどですり潰し、ペースト状にして諸味を形成する(工程4)。その諸味を無塩下(又は実質的に食塩非存在下)で20〜50℃、好ましくは20〜45℃、より好ましくは30〜40℃に保温し、1〜50日間、好ましくは4〜30日間、より好ましくは7〜21日間、さらに好ましくは10〜17日間発酵熟成し、加水分解する(工程5)。
【0032】
温度が20℃未満では蛋白質の分解が充分でなく、充分なうま味、コク、濃厚感を持った新規味噌様食材を得ることができない。また、50℃を超える温度では諸味に含まれる糖とアミノ酸が反応して、新規味噌様食材に褐変臭、焦げ臭、苦味が生じ好ましくない。
熟成の日数についても同様の傾向があり、24時間未満であれば蛋白質の分解が充分でなく、充分なうま味、コク、濃厚感を持った新規味噌様食材を得ることができない。また、50日間以上では諸味に含まれる糖とアミノ酸が反応して、新規味噌様食材に褐変臭、焦げ臭、苦味が生じ好ましくない。また、諸味をラミネートパウチ、プラスティック容器等に充填包装する等、諸味の加水分解は密閉系内で行なうのが雑菌汚染防止の観点でより好ましい。
【0033】
次に、必要な場合は熟成、加水分解が終了した諸味を、50〜130℃で1〜150分間加熱する。加熱の目的は、殺菌、及び諸味に含まれるプロテアーゼなどの酵素を失活させ、保存中の品質変化を防ぐことである。加熱の方法は限定されるものではなく、例えば味噌の火入れに使用される二重管式加熱機、多管式加熱機などが使用でき、又、諸味をパウチ等に充填包装した上で湯浴なども使用することができる。50℃未満では殺菌及び酵素の失活が充分でなく、130℃を超えると、褐変臭、焦げ臭、苦味が生じ好ましくない。時間についても同様の傾向があり、1分間未満では殺菌及び酵素の失活が充分でなく、150分を超えると、褐変臭、焦げ臭、苦味がついて好ましくない。
【0034】
本発明の方法で得られる味噌様食材はペースト状のままで使用することができるが、またスプレードライヤー、ドラムドライヤー、バキュームドラムドライヤー、フリーズドライヤーなどで乾燥させ、粉末として使用することもできる。本発明の方法で得られる新規味噌様食材の使用形態は、各種飲食品の製造又は加工時に配合使用する形態、液状又は顆粒状、粉末状の各種調味料に配合して使用する方法、そのまま喫食する形態等が挙げられる。
【0035】
本発明の方法で得られる味噌様食材は、無塩(又は実質的に無塩)であり、強いうま味、コク、濃厚感を有し、ムレ臭、収斂味が低減されているので、味噌汁のみならず各種の飲食品に幅広く利用できる。味噌の場合、含まれる塩分により、大量に摂取することはできないが、本味噌様食材は無塩(又は実質的に無塩)であるので大豆に含まれる健康機能成分を多量に摂取することができる。また、大豆を麹原料として本発明の方法により調製した速醸型味噌様食材はイソフラボンのアグリコン化率80〜100%であるので、イソフラボンが吸収されやすいというメリットがあり、イソフラボン機能の高発現、具体的には骨代謝改善機能の高発現が期待される。
【0036】
本発明の骨代謝改善組成物は大豆イソフラボンのアグリコン化率が80〜100%である速醸型味噌様食材を含有することが特徴である。大豆イソフラボンのアグリコン化率が80〜100%である速醸型味噌様食材であれば、如何なる製法で調製されたものでも、本発明の骨代謝改善組成物として用いることが出来る。
しかし、アグリコン化率が80〜100%である速醸型味噌様食材は上述した製造法、即ち、液体麹を大豆に添加する工程1と、除菌された空気を連続的又は間欠的に供給しながら、密閉された状態の製麹機内で20〜45℃で16〜40時間製麹する工程2と、このようにして得られた麹に、乳酸菌培養液又はその上清を混合し、さらに必要により麹重量の0.01〜50倍量の1種類以上の食品素材を混合する工程3と、該混合物をそのまま又はペースト状にして諸味を形成する工程4と、該諸味を実質的食塩非存在下で加水分解する工程5、を含む製造法で調製されたものが好ましい。
【0037】
尚、麹菌は5〜500重量部の乳酸菌培養液又はその上清中で培養して液体麹を調製すること、麹菌の培養条件は培養温度が20〜45℃、培養時間が6〜30時間が好ましいこと、乳酸菌がバクテリオシン産生菌であること、バクテリオシン産生乳酸菌がナイシン産生乳酸菌であることが好ましいこと、工程1及び/又は工程3で使用される食品素材が米、麦、大豆及び大豆胚芽のいずれか1種以上であること、更に、工程1で使用される食品素材が大豆であり、工程3で使用される食品素材が米であることが好ましいことは、上述した通りである。
【0038】
本発明の骨代謝組成物はそのまま食しても良いが、ジューズ、スープ、味噌汁、クッキー、だんご等の各種飲食品の形に加工して食してもよい。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例に従って説明する。勿論、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
ナイシンZ高生産乳酸菌であるLactococcus lactisAJ110212(FERM BP−8552)の培養液100gに、粉状種麹(ビオック社製)2.5gを混合し、35℃で18時間培養して液体麹を調製した。このときのナイシン活性は1350 IU/mlであった。
また、対象区として水100gに粉状種麹2.5gを混合したものを調整し、同様に35℃で18時間培養した。
培養終了後の汚染菌数及び発芽率の結果を表1に示した。表1記載の通り、水で培養した種麹からは、バチルス属細菌等の汚染菌が検出されたが、乳酸菌培養液で培養した種麹からは乳酸菌以外の雑菌は検出されなかった。また、発芽率に関しては、水、乳酸菌培養液どちらを使用した場合にも差が見られなかった。
【0041】
【表1】

【0042】
(実施例2)
実勢例1と同じナイシンZ高生産乳酸菌であるLactococcus lactis AJ110212(FERM BP−8552)培養液40gに、粉状種麹(ビオック社製)1gを混合し、35℃で18時間培養して液体麹を調製した。尚、ナイシン活性は1250 IU/mlであった。
このとき、種麹由来の汚染菌である、表2記載の菌を種麹1gあたり1×10個となるよう添加し強制的に汚染された状態とした。培養終了後の汚染菌数の結果を表2に示す。表2記載の通り、全ての添加した菌が検出されなかった。
【0043】
【表2】

【0044】
(実施例3)
実施例1と同じナイシンZ高生産乳酸菌であるLactococcus lactis AJ110212(FERM BP−8552)培養液0.2kg(ナイシン活性 1500 IU/ml)に、粉状種麹(Aspergillus oryzae, ビオック社製)0.005kgを混合し、35℃で18時間培養して液体麹を調製した。
一方、大豆5.0kgを水に浸漬し、吸水させた後、蒸煮釜にて114℃、30分蒸煮した。この蒸煮大豆に前述の培養液を混合し、密閉できる製麹機に盛込み、35℃、湿度90%で16〜31時間密閉された状態の製麹機内で製麹した。製麹中の発酵熱の除熱のためにHEPAフィルターを通して除菌した空気を連続的に通風した。
【0045】
次に、100℃、50分の蒸煮後、常温まで冷却した米と大豆胚芽を5.4kg添加し、同じ乳酸菌(Lactococcus lactis AJ110212、FERM BP−8552)培養液を1861gを添加した後、混合物をチョッパーにより粉砕、ペースト状とした。このペーストをラミネートパウチに1袋につき5kgとなるように充填した。このパウチを35℃、14日間保温後、味噌様食材を調製した。
【0046】
以上の操作によって取得した味噌様食材の微生物分析を行った。また、3名からなる専門の官能評価パネルによる官能評価を行った。官能評価は10%の水溶液で評価し、官能評点は5点を満点として3点以上を合格とした。評価項目はうま味(濃厚感)、コク、酸味、苦味であり、それらの総合評価を行った。その結果を表3に示す。その結果、製麹時間16時間以上で官能合格となり、22時間以上で官能良好となった。
【0047】
【表3】

【0048】
(実施例4)
実施例1と同じナイシンZ高生産乳酸菌であるLactococcus lactis AJ110212(FERM BP−8552)培養液2kg(ナイシン活性 850 IU/ml)に、粉状種麹(ビオック社製)40gを混合し、35℃で18時間培養し液体麹を調製した。一方、大豆40kgを水に浸漬し、吸水させた後、蒸煮釜にて114℃、30分蒸煮した。この蒸煮大豆に前述の培養液を混合し、密閉できるラボ製麹機に盛込み、35℃、湿度90%で25時間密閉された状態の製麹機内で製麹した。製麹中の発酵熱の除熱のため、HEPAフィルターを通して除菌した空気を連続的に通風した。本麹中の汚染菌数を確認した。
【0049】
次に100℃、50分の蒸煮後、常温まで冷却した米と大豆胚芽を55kg添加し、先程と同じ乳酸菌(Lactococcus lactis AJ110212、FERM BP-8552)培養液を3kgを添加した後、混合物をチョッパーにより粉砕、ペースト状とした。このペーストをラミネートパウチに1袋につき5kgとなるように充填した。このパウチを35℃、14日間保温後、味噌様食材を調製した。
【0050】
以上の操作によって取得した味噌様食材と、市販の味噌についてイソフラボン量(配糖体、アグリコン)分析を行った。また、2名からなる専門の官能評価パネルによる官能評価を行った。官能評価は5%の水溶液として行った。なお、その際の食塩濃度は1%に補正した。その結果を表4に示す。官能評価の基準は実施例3と同じである。
【0051】
評価の結果、市販味噌は、うま味、コク、濃厚感も弱かったのに対し、新規味噌様食材はコクがあり濃厚感が強かった。また、イソフラボンについても市販味噌では吸収性の良いとされるイソフラボンアグリコンの比率が35%であったのに対し、新規味噌様食材では99%と高い値を示していた。
【0052】
【表4】

【0053】
(実施例5)
大豆21kgを水に浸漬し、吸水させた後、蒸煮釜にて114℃、30分蒸煮した。蒸煮大豆を密閉製麹機に投入し、さらにLactococcus lactis AJ110212(FERM BP-8552)培養液(ナイシン活性3000IU/ml)420g、種麹(Aspergillus oryzae、ビオック社製)21gを混合し、30℃、43時間製麹した。
製麹中の発酵熱の除熱にはHEPAフィルターを通して除菌した空気を用いた。
【0054】
得られた麹にLactococcus lactis AJ 110212(FERM BP-8552)培養液(ナイシン活性3000IU/ml)を6.79kg添加し、混合した後、チョッパーにより粉砕、ペースト状とした。このペーストをラミネートパウチに1袋につき1kgとなるように充填した。このパウチを30℃、7日間保温後、80℃、55分間加熱した。このペースト32kgに賦形剤としてデキストリン8.8kg及び適量の水を添加し、斜軸ニーダーにて混合した。得られた調製液をバキュームドラムドライヤーにて乾燥させ、本発明の味噌様食品素材を含有する組成物約24kgを作製した。尚、味噌様食品素材は無塩条件下で調製した。
尚、このように調製した味噌様食品素材のアグリコン化率は100%であった。
【0055】
(実施例6)
上記実施例5で調製した本発明の組成物を試験サンプルとし、これを配合比59%で餌に混ぜて卵巣摘出ラット(閉経後骨粗鬆症モデル)に摂取させ、本発明の組成物の長期摂取が卵巣摘出ラットの骨代謝を改善するか否かを検討した。
対照として、原料大豆を水で蒸煮し、ペースト状にした大豆非発酵素材を同様に粉末化したものを使用した。すなわち、大豆28kgを水に浸漬し、吸水させた後、蒸煮釜にて114℃、40分蒸煮し、チョッパーにより粉砕したペースト状にした。得られたペースト32kgに賦形剤としてデキストリン8.8kg及び適量の水を添加し、斜軸ニーダーにて混合した。得られた調製液をバキュームドラムドライヤーにて乾燥させ、粉末状大豆非発酵素材を含有する組成物(対照サンプル)約24kg(アグリコン化率5%)を作製した。
【0056】
以下、試験方法の詳細を示す。8週齢雌性SD系ラットに、卵巣摘出術(OVX)を施した。術後経過の良好なラットを体重に差が出ないよう分け、一方には試験区として本発明組成物(試験サンプル)を、もう一方には対照区として大豆非発酵素材を含む組成物(対照サンプル)を、餌に混ぜて8週間摂取させた。
また、正常群として偽手術(Sham)を施す群を設定し、大豆非発酵素材を含む組成物(対照サンプル)を餌に混ぜて摂取させた。
【0057】
いずれの飼料とも、飼料中のイソフラボン含量が228μmol/100g(ラットの摂取量に直すと約120μmol/kgBW:BWとはBody Weight、即ち、体重である)となるよう、本発明組成物(試験サンプル)を59%、大豆非発酵素材を含む組成物(対照サンプル)を61%配合とした。このうち、本発明組成物(試験サンプル)のイソフラボンは100%アグリコンであり、大豆非発酵素材を含む組成物(対照サンプル)のイソフラボンは5%がアグリコン、残り95%が配糖体であることを分析により確認した。
飼料中、脂質11%、カルシウム0.5%、リン0.3%とし、総窒素含量も全群でそろえた。尚、いずれの飼料にもカルシウムの吸収を促進または阻害する物質等の添加は行っていない。
【0058】
OVXにより骨吸収の過度な亢進が起こることが多く報告されている。そこで、骨吸収マーカーである尿中デオキシピリジノリンを測定した。
すなわち、本発明組成物(試験サンプル)を配合した飼料をOVXラットに、大豆非発酵素材を含む組成物(対照サンプル)を配合した飼料をOVXラットとShamラットに、3週間摂取させ、3週間後に24時間蓄尿を行った。尚、各区はそれぞれ10匹のラットからなる。
得た尿を用いて、市販のキットであるオステオリンクス(DPD)(住友製薬バイオメディカル(株)製)を用いて、デオキシピリジノリン量を測定した。得られた値は尿中クレアチニン値により補正した。
【0059】
結果、OVXラットは、Shamラットに比べて、尿中デオキシピリジノリン量が有意に増加した。また、OVXラットにおいては、試験区ラットの方が対照区ラットに比べ、デオキシピリジノリン量の増加が有意に抑制されていた(図1)。より詳細に述べると、OVX処理を行った試験区ラットはShamラットに比較して危険率0.01以下で有意差があった(図1中の(1)に相当)。また、OVX処理を行った対照区ラットはShamラットに比較して危険率0.0001以下で有意差があった(図1中の(2)に相当)。更に、OVX処理を行った試験区ラットはOVX処理を行った対照区ラットに比べて危険率0.01以下で有意差があった(図1中の(3)に相当)。尚、統計値はmeans + SEMである。
これより、本発明の組成物(試験サンプル)は、OVXにより過度に亢進する骨吸収を、対照サンプルである大豆非発酵素材を含む組成物に比べて、有意に抑制することを確認した。
【0060】
本発明組成物(試験サンプル)を配合した飼料をOVXラットに、大豆非発酵素材を含む組成物(対照サンプル)を配合した飼料をOVXラットとShamラットに、8週間摂取させた後に、ラットの右脛骨を摘出し、XCT Resarch SA+(Stratec社製)を用いて、pQCT法により脛骨端部の海綿骨密度を測定した。各区はそれぞれ10匹のラットからなる。
結果、OVXラットは、Shamラットに比べて、脛骨海綿骨密度が有意に低下したが、OVXラットにおいては、試験区ラットの方が対照区ラットに比べ、骨密度の低下が少ない傾向がみられた(図2)。
より詳細に述べると、OVX処理を行った対照区ラットも、試験区ラットもShamラットに比較して危険率0.0001以下で有意差があった(図2中の(1)に相当)。尚、統計値はmeans + SEMである。
【0061】
本発明組成物(試験サンプル)を配合した飼料をOVXラットに、大豆非発酵素材を含む組成物(対照サンプル)を配合した飼料をOVXラットとShamラットに、8週間摂取させた後に、ラットの左脛骨を摘出し、乾燥(110℃12時間)、灰化(680℃24時間)させ、希塩酸に溶解させたサンプルについて、市販のキットであるC−テストワコー(和光純薬工業(株)製)を用いてカルシウム(Ca)重量を測定した。尚、各区のラット数はそれぞれ10匹である。
【0062】
結果、OVXラットは、Shamラットに比べて、脛骨Ca量が有意に低下したが、OVXラットにおいては、試験区ラットの方が対照区ラットに比べ、脛骨Ca量の低下が有意に抑制されていた(図3)。図中の値は体重あたりの値である。
より詳細に述べると、OVX処理を行った対照区ラットも、試験区ラットもShamラットに比較して危険率0.0001以下で有意差があった(図3中の(1)に相当)。また、OVX試験区ラットはOVX対照区ラットに比べて、危険率0.05以下で有意差があった(図3中の(2)に相当)。尚、統計値はmeans + SEMである。
【0063】
以上より、本発明の組成物は、対照サンプルである大豆非発酵素材を含む組成物に比べて、OVXによる過度な骨吸収を抑制し、骨密度及び骨Ca量を改善するなどの骨代謝改善作用を示すことが強く示唆された。
【0064】
本発明組成物(試験サンプル)を配合した飼料をOVXラットに、大豆非発酵素材を含む組成物(対照サンプル)を配合した飼料をOVXラットとShamラットに、8週間摂取させた。各区ともラット数はそれぞれ10匹である。摂取8週間後に、採尿し、イソフラボン量を分析した。すなわち、イソフラボンは生体内では主として抱合体として存在しているため、まずβ‐グルクロニダーゼで加水分解し、酢酸エチルにて抽出した後、カラムスイッチングHPLCを用いて分析を行った。得られた値は尿中クレアチニン値により補正した。
【0065】
結果、試験区ラットは対照区ラットに比べ、尿中の総イソフラボン量が高い傾向がみられた(図4)。より詳細に述べると、図4中のOVX処理を行った試験区ラットはOVX処理を行った対照区ラットに比較して危険率0.1以下で傾向がみられた。(図4中の(1)に相当)。
これより、本発明の組成物は、対照サンプルである大豆非発酵素材を含む組成物に比べて、イソフラボンの吸収が向上することが示唆された。
【0066】
以上より、本発明の組成物で示唆された骨代謝改善作用は、イソフラボンの吸収向上に起因することも示唆され、本発明の組成物の有用性を強く確認した。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の方法を利用することにより、製麹工程の短縮化を行い、生産効率を高めることができる。また、新規味噌様食材は、強いうま味、コク、濃厚感がある。このように、本発明により得られる新規味噌様食材は優れた呈味効果から調味料用途、食材として使用できる。具体的には、つゆ、たれ類などの各種調味料や、スープ類、菓子類を含む加工食品
への広範囲の利用が期待できる。従って、本発明は工業上、特に食品分野において極めて有用なものと考えられる。またイソフラボンアグリコン化率80〜100%の本発明の味噌様食材を含有する組成物はそのまま又は飲食品として利用すると、骨代謝改善作用を有するので、骨粗鬆症の予防や治療に優れた健康価値を与えるものとして有用であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の組成物(試験サンプル)及び大豆非発酵素材を含む組成物(対照サンプル)をラットに与えた場合の尿中デオキシピリジノリン量を示した図である。
【図2】本発明の組成物(試験サンプル)及び大豆非発酵素材(対照サンプル)を含む組成物をラットに与えた場合の脛骨海綿骨密度を示した図である。
【図3】本発明の組成物(試験サンプル)及び大豆非発酵素材を含む組成物(対照サンプル)をラットに与えた場合の体重あたりの脛骨Ca重量を示した図である。
【図4】本発明の組成物(試験サンプル)及び大豆非発酵素材を含む組成物(対照サンプル)をラットに与えた場合の尿中総イソフラボン量を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
麹菌を5〜500倍量の乳酸菌培養液又はその上清で培養して得られる液体麹。
【請求項2】
麹菌の培養条件が、培養温度が20〜45℃、培養時間が6〜30時間、であることを特徴とする請求項1記載の液体麹。
【請求項3】
乳酸菌がバクテリオシン産生菌であることを特徴とする請求項1記載の液体麹。
【請求項4】
バクテリオシン産生乳酸菌がナイシン産生乳酸菌である請求項3記載の液体麹。
【請求項5】
請求項1乃至4記載の液体麹を食品素材に添加する工程1と、除菌された空気を連続的又は間欠的に供給しながら、密閉された状態の製麹機内で20〜45℃で16〜40時間製麹する工程2と、このようにして得られた麹に、乳酸菌培養液又はその上清を混合し、さらに必要により麹重量の0.01〜50倍量の1種類以上の食品素材を混合する工程3と、該混合物をそのまま又はペースト状にして諸味を形成する工程4と、該諸味を実質的食塩非存在下で加水分解する工程5、を含むことを特徴とする速醸型味噌様食材。
【請求項6】
乳酸菌がバクテリオシン産生菌であることを特徴とする請求項5記載の速醸型味噌様食材。
【請求項7】
バクテリオシン産生乳酸菌がナイシン産生乳酸菌である請求項6記載の速醸型味噌様食材。
【請求項8】
請求項5の工程1及び/又は工程3で使用される食品素材が米、麦、大豆及び大豆胚芽のいずれか1種以上である請求項5記載の速醸型味噌様食材。
【請求項9】
請求項5の工程1で使用される食品素材が大豆であり、工程3で使用される食品素材が米である請求項5記載の速醸型味噌様食材。
【請求項10】
速醸型味噌様食材に含まれる大豆イソフラボンのアグリコン化率が80〜100%である請求項5記載の速醸型味噌様食材。
【請求項11】
大豆イソフラボンのアグリコン化率が80〜100%である速醸型味噌様食材を含有してなる骨代謝改善組成物。
【請求項12】
アグリコン化率が80〜100%である速醸型味噌様食材が、液体麹を大豆に添加する工程1と、除菌された空気を連続的又は間欠的に供給しながら、密閉された状態の製麹機内で20〜45℃で16〜40時間製麹する工程2と、このようにして得られた麹に、乳酸菌培養液又はその上清を混合し、さらに必要により麹重量の0.01〜50倍量の1種類以上の食品素材を混合する工程3と、該混合物をそのまま又はペースト状にして諸味を形成する工程4と、該諸味を実質的食塩非存在下で加水分解する工程5、を含むものである骨代謝改善組成物。
【請求項13】
液体麹が麹菌を5〜500倍量の乳酸菌培養液又はその上清で培養して得られるものである請求項12記載の骨代謝改善組成物。
【請求項14】
麹菌の培養条件が、培養温度が20〜45℃、培養時間が6〜30時間、であることを特徴とする請求項13記載の骨代謝改善組成物。
【請求項15】
乳酸菌がバクテリオシン産生菌であることを特徴とする請求項13記載の骨代謝改善組成物。
【請求項16】
バクテリオシン産生乳酸菌がナイシン産生乳酸菌である請求項15記載の骨代謝改善組成物。
【請求項17】
請求項12の工程1及び/又は工程3で使用される食品素材が米、麦、大豆及び大豆胚芽のいずれか1種以上である請求項12記載の骨代謝改善組成物。
【請求項18】
請求項12の工程1で使用される食品素材が大豆であり、工程3で使用される食品素材が米である請求項12記載の骨代謝改善組成物。
【請求項19】
骨代謝改善組成物が飲食品である請求項11記載の骨代謝改善組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−131930(P2008−131930A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−110402(P2007−110402)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】