説明

液化ガスタンクのドーム構造

【課題】液化ガスタンクのタンクドームのフランジ部に過大な応力が発生することを防ぐことができるドーム構造を提供する。
【解決手段】液化ガスタンク本体3の倉口5の上端から水平方向外側へ延びたフランジ部10と船体1との間がベローズ9で接続され、フランジ部10よりも下側位置に倉口5を閉塞する陥没天板11を備えて下部倉口5aと上部開放倉口5bを形成することにより、フランジ部10に大きな温度差を生じることが防止でき、過大な応力の発生を防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液化ガスタンクのドーム構造に関する。
【背景技術】
【0002】
液化ガス運搬船やFPSO(Floating Production, Storage and Offloading system :浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備)及びFSO(Floating Storage and Offloading system:浮体式海洋石油・ガス貯蔵積出設備)等における液化ガスを貯留するタンク本体は、該タンク本体内に対する液化ガスの給排を行うためのタンクドームが上部に備えられており、更に、タンク本体は外被体によって包囲された構造を有している。
【0003】
図5、図6は液化ガス運搬船の一例を示したもので、船体1(外被体)の船倉2内には、例えば、アルミ合金製或いはステンレス材製の自立角型のタンク本体3が支持台4を介して設置されており、前記タンク本体3の夫々の上部には、図6、図7に示すように、タンク本体3内と連通して上方に突出する倉口5が形成されており、該倉口5の上端には水平方向外側に突出したフランジ部6aを有するドーム天板6が気密に固定されて、タンクドーム7を形成している。前記倉口5は一般に、前記タンク本体3の平面視が矩形の場合には矩形を有し、タンク本体3が球形或いは円筒形の場合には円筒形を有したものが多く用いられている。又、前記ドーム天板6にはタンク本体3内に対する液化ガスの給排を行うための図示しない配管が気密に貫通配置されている。更に、前記タンク本体3の外面及びドーム天板6の上面には保冷材8が配置されている。
【0004】
上記液化ガス運搬船に設けるタンクドーム7は、液化ガスの給排を行う機能を有すると同時に、船体1(外被体)とタンク本体3との相対変位を吸収できるフレキシビリティを持つことが必要である。そのため、ドーム天板6の外側に突出したフランジ部6aの周縁部下面と、船体1(外被体)の甲板1aから前記タンクドーム7を取り巻くように形成された立上り部1bとの間には、フレキシビリティを有するネオプレン系又はシリコン系のゴム材等からなるベローズ9を接続配置して、タンクドーム7と船体1(外被体)との間の相対変位を吸収するようになっている。
【0005】
上記したようなタンクドームを有するドーム構造の一般的技術水準を示す先行文献情報としては、例えば特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08−091286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図7に示す従来のドーム構造では、該タンクドーム7のドーム天板6から水平方向外側に突出したフランジ部6aと船体1(外被体)の甲板1aとの間をベローズ9で接続しているが、従来、タンクドーム7の外周に保冷材8を設置する作業スペースを確保するために、タンクドーム7とベローズ9との間に大きな間隔を保持する必要があることから、ドーム天板6の水平方向外側に突出しているフランジ部6aの突出幅Hは大きくなり、このために、フランジ部6aに過大な応力が発生するという問題を有していた。
【0008】
即ち、タンク本体3にLNGを貯留した場合には、タンク本体3の温度は例えば−162℃の極低温に保持されており、従って、タンク本体3内と連通しているタンクドーム7もタンク本体3の温度に近い極低温に保持されることになる。又、前記ドーム天板6の外側に突出するフランジ部6aもタンクドーム7からの伝熱によって冷却されるが、フランジ部6aの周縁部が大きな突出幅Hで突出しているために、フランジ部6aの内周端と外周端との間には非常に大きな温度差が生じることになる。
【0009】
図8は前記図7に示したタンクドーム7の温度分布を示すために、倉口5とフランジ部6aが直線状になるように展開してそこに本発明者が検証した温度分布Aを重ねて示したものであり、倉口5の温度はLNGを貯留したタンク本体3の−162℃の温度よりも若干高いが略同等の温度となっており、このとき、フランジ部6aの内周端(ドーム天板6の位置)の温度は−145℃であり、フランジ部6aの外周端の温度は−32.8℃であった。
【0010】
即ち、フランジ部6aの内周端と外周端との間には122.2℃の温度差があり、この温度差のために、内周端に対して外周端の延びが大きくなり、フランジ部6aに過大な応力が発生するという問題を有していた。特に、熱伝導率が小さく、比較的強度が小さいステンレス材を用いてタンク本体3及びタンクドーム7を構成した場合には、上記応力の発生は更に顕著なもとなる。
【0011】
本発明は、斯かる実情に鑑み、タンクドームに過大な応力が発生する問題を防止するようにした液化ガスタンクのドーム構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、タンク本体内に対する液化ガスの給排を行う配管が設置される倉口を有するタンクドームと前記タンク本体を包囲する外被体との間をベローズで接続している液化ガスタンクのドーム構造であって、前記倉口の上端から水平方向外側へ延びたフランジ部と前記外被体との間がベローズで接続され、前記フランジ部よりも下側位置に倉口を閉塞する陥没天板を備えて下部倉口と上部開放倉口を形成したことを特徴とする液化ガスタンクのドーム構造、に係るものである。
上記液化ガスタンクのドーム構造において、前記上部開放倉口が円筒形を有することは好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の液化ガスタンクのドーム構造によれば、倉口の上端に設けたフランジ部よりも下側位置に倉口を閉塞する陥没天板を備えて下部倉口と上部開放倉口を形成したので、陥没天板よりも上部の上部開放倉口とフランジ部は温度の上昇によって拡径するようになって、フランジ部に大きな温度分布を生じることが防止され、よって、従来のようにフランジ部に過大な応力が発生する問題を確実に防止できるという優れた効果を奏し得る。
又、前記上部開放倉口が円筒形を有していると、応力の発生を更に確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の液化ガスタンクのドーム構造の一実施例を示す側断面図である。
【図2】矩形の下部倉口の上部に円筒形の上部開放倉口を形成した形態を示す切断平面図である。
【図3】図1のドーム構造の倉口とフランジ部が直線状になるように展開してそこに本発明者が検証した温度分布を重ねて示した説明図である。
【図4】図1のドーム構造の温度による変形を強調して示した説明図である。
【図5】タンクドームを有する液化ガス運搬船の一例を示す側面図である。
【図6】図5をVI−VI方向から見た切断正面図である。
【図7】従来のドーム構造の一例を示す側断面図である。
【図8】従来のドーム構造の倉口とフランジ部が直線状になるように展開してそこに本発明者が検証した温度分布を重ねて示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図示例と共に説明する。
【0016】
図1は本発明の一実施例を示すものであり、図中、図7と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図7に示す従来のものと同様であるが、上記実施例の特徴とするところは、図1に示す如く、倉口5の上端に水平方向に曲って外側に延びるフランジ部10を設けると共に、該フランジ部10よりも下側位置において、倉口5を水平に閉塞する陥没天板11を例えば溶接によって設けることにより、下部倉口5aと上部が開放された上部開放倉口5bとからなるタンクドーム12を形成した点にある。そして、上記タンクドーム12のフランジ部10の外周端下面と、タンク本体3を包囲する船体1(外被体)の甲板1aに設けた立上り部1bとの間をベローズ9からなる弾性部材で接続している。
【0017】
図1に示すように、倉口5の上下中間位置に陥没天板11を設けることによって、下部倉口5aと上部開放倉口5bを形成するようにしたタンクドーム12は、倉口5が矩形の場合であっても或いは円筒形の場合であっても適用することができる。
【0018】
一方、陥没天板11の上部に形成する上部開放倉口5bは円筒形を有していることが好ましい。このとき、倉口5が円筒形を有している場合には、倉口5の内部に円板状の陥没天板11を設ければよい。又、倉口5が矩形を有している場合には、図2に別の形態の切断平面図を示すように、矩形を有する下部倉口5aの上端を閉塞するように溶接固定した陥没天板11の上部に、陥没天板11よりも小径の円筒形の上部開放倉口5bを溶接固定している。
【0019】
図1に示す実施例の作用を説明する。
【0020】
図1に示すように、倉口5の上端に水平方向外側に延びたフランジ部10を設けると共に、該フランジ部10よりも下側位置において倉口5を閉塞する陥没天板11を設け、これにより下部倉口5aと上部開放倉口5bを有するタンクドーム12を構成したので、タンクドーム12に過大な応力が発生する問題を防止することができる。
【0021】
即ち、図3は、図1のドーム構造の倉口5とフランジ部10が直線状になるように展開してそこに本発明者が検証した温度分布Aを重ねて示したもので、図3に示す如く、下部倉口5aの温度はタンク本体3の−162℃の温度に比して若干高いが略同等の温度となっており、このとき陥没天板11の温度は−145℃となっており、陥没天板11よりも上部の上部開放倉口5bの温度は−145℃から急激に上昇し、フランジ部10の内周端では−18.2℃であった。又、フランジ部10は外周端に向かって温度が若干上昇するものの、フランジ部10の内周端と外周端の温度は略同等であった。
【0022】
従って、倉口5の陥没天板11よりも上部の上部開放倉口5bとフランジ部10は、前記した温度の上昇に伴って図4に示すように拡径することになるが、上部開放倉口5bとフランジ部10は共に拡径することから上部開放倉口5bとフランジ部10との間に応力が発生することはなく、又、フランジ部10も内周端と外周端の温度が略同等であることから応力を発生することはない。
【0023】
尚、前記陥没天板11の陥没深さL(フランジ部10と陥没天板11との間の距離)は、図4に示す上部開放倉口5bの温度変化による拡径の急激な変化によって、上部開放倉口5bに大きな応力が生じないように、例えば倉口5を形成する側壁の板厚の20倍程度以上の十分な深さを設定することが好ましい。
【0024】
上記したように、陥没天板11を備えて下部倉口5aと上部開放倉口5bを形成したタンクドーム12としたことにより、タンク本体3と外気との間において温度差が発生することが宿命であるタンクドーム12において、発生する温度差を、上部開放倉口5bとフランジ部10が拡径することで解消(吸収)するようにしたので、タンクドーム12のいずれの部分においても応力が発生する問題は防止することができる。
【0025】
上記陥没天板11を備えて下部倉口5aと上部開放倉口5bを形成するようにした構成は種々のタンクドームに適用することができ、例えば倉口5が矩形を有する場合には、倉口5の上下中間位置に矩形の陥没天板11を設けることにより、矩形を有する上部開放倉口5bが熱変形することで応力の低減を図ることができる。
【0026】
一方、陥没天板11の上部に円筒形の上部開放倉口5bを形成した場合には、上部開放倉口5bの熱変形が周方向で均等となるため、前記矩形を有する上部開放倉口5bに比して応力の発生を確実に低減することができる。
【0027】
尚、本発明の液化ガスタンクのドーム構造は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0028】
1 船体(外被体)
3 タンク本体
5 倉口
5a 下部倉口
5b 上部開放倉口
9 ベローズ(弾性部材)
10 フランジ部
11 陥没天板
12 タンクドーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンク本体内に対する液化ガスの給排を行う配管が設置される倉口を有するタンクドームと前記タンク本体を包囲する外被体との間を弾性部材で接続している液化ガスタンクのドーム構造であって、前記倉口の上端から水平方向外側へ延びたフランジ部と前記外被体との間が弾性部材で接続され、前記フランジ部よりも下側位置に倉口を閉塞する陥没天板を備えて下部倉口と上部開放倉口を形成したことを特徴とする液化ガスタンクのドーム構造。
【請求項2】
前記上部開放倉口が円筒形を有することを特徴とする請求項1に記載の液化ガスタンクのドーム構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−901(P2011−901A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143226(P2009−143226)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(502422351)株式会社アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド (159)
【Fターム(参考)】