液圧源システム
【課題】 実用性の高い液圧源システムを提供する。
【解決手段】 (a)作動液を吐出するポンプ30と、(b)区画部材によって内部が作動液室とガス室とに区画され、ポンプから吐出された作動液をその作動液室に貯めるアキュムレータ32とを備えた液圧源装置34と、ポンプの作動を制御する電子制御ユニット60とを含んで構成される液圧源システムであって、電子制御ユニット60が、アキュムレータ圧が下限閾圧を下回った場合にポンプの作動を開始させ、アキュムレータ圧が上限閾圧を上回った場合にポンプの作動を停止させつつ、下限閾圧と上限閾圧との少なくとも一方を、アキュムレータの温度に基づいて変更する。本液圧源システムによれば、作動液室およびガス室の容積変化、区画部材の変形量の変化を比較的小さくできる。
【解決手段】 (a)作動液を吐出するポンプ30と、(b)区画部材によって内部が作動液室とガス室とに区画され、ポンプから吐出された作動液をその作動液室に貯めるアキュムレータ32とを備えた液圧源装置34と、ポンプの作動を制御する電子制御ユニット60とを含んで構成される液圧源システムであって、電子制御ユニット60が、アキュムレータ圧が下限閾圧を下回った場合にポンプの作動を開始させ、アキュムレータ圧が上限閾圧を上回った場合にポンプの作動を停止させつつ、下限閾圧と上限閾圧との少なくとも一方を、アキュムレータの温度に基づいて変更する。本液圧源システムによれば、作動液室およびガス室の容積変化、区画部材の変形量の変化を比較的小さくできる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アキュムレータを備えた液圧源装置を含んで構成される液圧源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両の分野では、液圧ブレーキシステム,液圧懸架シリンダを有するサスペンションステム等における液圧源として、下記特許文献に記載されているような液圧源装置、つまり、ポンプとそのポンプから吐出される作動液を貯めるアキュムレータとを備えた液圧源装置が用いられている。そのような液圧源装置では、一般的に、アキュムレータ圧が所定の範囲となるように制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特願2002− 98101号公報
【特許文献2】特願2008−180279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の液圧源装置では、アキュムレータ圧が下限閾圧を下回った場合にポンプの作動を開始させ、アキュムレータ圧が上限閾圧を上回った場合にポンプの作動を停止させることで、アキュムレータ圧を所定範囲内に維持することができる。アキュムレータは内部に区画部材を有し、その区画部材によって、アキュムレータ内部には作動液室とガス室とが区画されている。ガス室には、ガスが封入されており、アキュムレータ圧の変動により、区画部材の変形量の変化を伴って、作動液室およびガス室の容積が変動する。
【0005】
上述のアキュムレータは、貯留される作動液の量をある程度確保することが必要とされるため、作動液室の容積変化が大きくなることを想定した場合、ある程度体格を大きくせざるを得ない。また、作動液室,ガス室の容積変化が大きくなると、区画部材の変形量の変化も大きくなり、区画部材の耐久性にとって不利になるという問題がある。その問題に対処するための改良を始め、上記アキュムレータを備えた液圧源装置を含んで構成される液圧源システムには、改良の余地が多分に存在している。したがって、何らかの改良を施せば、そのような液圧源システムの実用性を向上させることができるのである。本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高い液圧源システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の液圧源システムは、上記アキュムレータおよびポンプを備えた液圧源装置を含んで構成される液圧源システムであって、その液圧源装置を制御する制御装置が、アキュムレータ圧が維持されるべき範囲を規定する下限閾圧および上限閾圧の少なくとも一方を、温度に基づいて変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
アキュムレータのガス室には、ガスが封入されており、作動液室およびガス室の容積は、アキュムレータ圧のみならず温度にも依存する。本液圧限システムは、温度を考慮して、上記下限閾圧と上記上限閾圧との一方を変更することで、作動液室およびガス室の容積変化、区画部材の変形量の変化を比較的小さくすることが可能である。したがって、本発明の液圧源システムは、アキュムレータの体格が比較的小さく、アキュムレータが有する区画部材の耐久性に優れたシステムとなる。
【発明の態様】
【0008】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から何某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0009】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、(2)項が請求項2に、(4)項が請求項3に、(6)項が請求項4に、(8)項が請求項5に、(9)項が請求項6に、それぞれ相当する。
【0010】
(1)(a)作動液を吐出するポンプと、(b)区画部材によって内部が作動液室とガス室とに区画され、前記ポンプから吐出された作動液をその作動液室に貯めるアキュムレータとを備えた液圧源装置と、
そのポンプの作動を制御する制御装置と
を含んで構成される液圧源システムであって、
前記制御装置が、
アキュムレータ圧が下限閾圧を下回った場合に前記ポンプの作動を開始させ、アキュムレータ圧が上限閾圧を上回った場合に前記ポンプの作動を停止させることで、アキュムレータ圧を所定範囲内に維持するアキュムレータ圧維持制御部と、
前記下限閾圧と前記上限閾圧との少なくとも一方を、前記アキュムレータの温度に基づいて変更する閾圧変更部と
を有する液圧源システム。
【0011】
上記アキュムレータのガス室には、ガスが封入されており、そのガスは、ボイル‐シャルルの法則に従うため、ガス室および作動液室の容積は、アキュムレータ圧のみならずアキュムレータ温度にも依存する。例えば、アキュムレータが温度変化の大きな環境に置かれた場合、アキュムレータ圧を一定の範囲に維持したとしても、ガス室および作動液室の容積は、相当に大きく変化する。したがって、アキュムレータの温度を考慮して、アキュムレータ圧の維持されるべき範囲を規定する上記下限閾圧および上記上限閾圧の少なくとも一方を変更することによって、作動液室の容積の変化、区画部材の変形が許容される範囲を比較的小さく制限することが可能となる。したがって、本項の液圧源システムでは、要求される作動液の貯留量に対して大きなマージンを設けることを必要とせず、その要求貯留量の割にはアキュムレータ自体の体格を小さくできる。また、区画部材への負担を比較的小さくすることができ、アキュムレータの耐久性,詳しくは、それの区画部材の耐久性が良好となる。
【0012】
区画部材の弾性反力の影響が小さく、作動液室内の圧力とガス室内の圧力とにあまり差異がないと考えれば、本項における「アキュムレータ圧」として、作動液室内の作動液の圧力を採用してもよく、また、ガス室内のガスの圧力を採用してもよい。さらには、作動液室と連通する箇所における作動液室から供給された作動液の圧力を採用してもよい。同様に、「アキュムレータの温度(以下、単に、「アキュムレータ温度」という場合がある)」には、ガス室内の温度,作動液室の温度,アキュムレータが配置されている環境温度にあまり差異がないと考えれば、その環境温度のいずれかを採用してもよい。なお、多くのアキュムレータでは、ガス室の容積と作動液室の容積との和は一定と考えることができ、それらガス室と作動液室との一方の容積が増加した場合、他方の容積がその分だけ減少する。
【0013】
「制御装置」は、コンピュータを主体として構成すればよく、その場合、特定のプログラムの実行によって、上記「アキュムレータ圧維持制御部」,「閾圧変更部」等の機能部が実現されることになる。「閾圧変更部」による下限閾圧と上限閾圧との少なくとも一方の具体的な変更態様については、以下に掲げる項のうちのいくつかにて詳しく説明する。
【0014】
(2)前記アキュムレータが、それの内部に前記区画部材としての金属製ベローズを有し、その金属製ベローズによって内部が前記作動液室と前記ガス室とに区画されるように構成された(1)項に記載の液圧源システム。
【0015】
「区画部材」としては、ゴム製のダイヤフラム等を採用することもできるが、本項のシステムでは、区画部材が金属製ベローズに限定されている。金属製ベローズは、例えば、蛇腹状の筒部とその筒部の端面を塞ぐ板状の端面部とを有する構造のものを用いることができる。このような金属製ベローズは、蛇腹状の筒部が比較的薄く形成されており、その筒部がガス室および作動液室の容積変動に伴って繰り返し伸縮するため、耐久性が特に要求される。そのような観点から、金属製ベローズを有するアキュムレータを採用するシステムに対し、下限閾圧と上限閾圧との少なくとも一方をアキュムレータ温度に基づいて変更することは、特に有効である。なお、本項の態様におけるアキュムレータでは、金属製ベローズの内部が作動液室とされるとともに、外部がガス室とされてもよく、逆に、金属製ベローズの外部が作動液室とされ、内部がガス室とされてもよい。
【0016】
(3)前記アキュムレータの温度が基準温度となっている場合において、前記下限閾圧および前記上限閾圧が、それぞれ、基準下限閾圧および基準上限閾圧に設定されている(1)項または(2)項に記載の液圧源システム。
【0017】
本項は、下記の項のうちのいくつかのものの前提となる態様を示している。本項における「基準温度」は、例えば、20°C,25°Cといった常温、言い換えれば、アキュムレータが置かれる環境における通常の温度,平均の温度,温度変動範囲における中央値の温度、または、それらの近傍の温度とすればよい。なお、基準温度は、敢えて設定することを要しない。つまり、後に説明する設定低温度より高い任意の温度、設定高温度より低い任意の温度であればよい。
【0018】
(4)前記閾圧変更部が、
前記アキュムレータの温度が、前記基準温度以下に設定された設定低温度よりも低い場合に、前記上限閾圧を、前記基準上限閾圧より低くなるように変更する(3)項に記載の液圧源システム。
【0019】
アキュムレータ圧が低ければ低い程、また、アキュムレータ温度が高ければ高い程、ガス室の容積は大きくかつ作動液室の容積は小さくなり、逆に、アキュムレータ圧が高ければ高い程、また、アキュムレータ温度が低ければ低い程、ガス室の容積は小さくかつ作動液室の容積は大きくなる。したがって、ガス室の容積および作動液室の容積は、それぞれ、想定される最も低いアキュムレータ温度においてアキュムレータ圧が上限閾圧となっているとき(以下、「最低温上限圧時」という場合がある)の容積と、実際上想定される最も高いアキュムレータ温度においてアキュムレータ圧が下限閾圧となっているとき(以下、「最高温下限圧時」という場合がある)の容積との間で変化する。つまり、最低温上限圧時の容積(以下、「最低温上限圧時容積」という場合がある)と最高温下限圧時の容積(以下、「最高温下限圧時容積」という場合がある)との差が、ガス室および作動液室の各々の容積変化における最大量(以下、「最大容積変化量」という場合がある)となる。そして、ガス室および作動液室の容積変化に伴い、アキュムレータの区画部材の変形量は、最低温上限圧時の変形量と最高温下限圧時の変形量との間で変化する。つまり、最低温上限圧時の変形量と最高温下源圧時の変形量との差が、区画部材の変形量の変化における最大量(以下、「最大変形変化量」という場合がある)となる。
【0020】
上述のことを考慮し、本項の液圧源システムでは、アキュムレータ温度が「設定低温度」よりも低いとき(以下、単に、「低温時」という場合がある)に上限閾圧を低くすることによって、最低温上限圧時容積を最高温下限圧時容積に向かってシフトさせている。つまり、ガス室の最低温上限圧時容積を大きくし、言い換えれば、作動液室の最低温上限圧時容積を小さくしているのである。その結果、本システムでは、ガス室および作動液室の各々の最大容積変化量が大きくなることが抑制されるとともに、区画部材の最大変形変化量が大きくなることが抑制される。
【0021】
本項における「設定低温度」は、上記基準温度よりも低い温度に設定されてもよく、また、基準温度と等しい温度に設定されてもよい。なお、本項の態様は、下限閾圧を変更することを禁止するものではなく、また、アキュムレータ温度が設定低温度よりも高い場合において、上限閾圧を基準上限閾圧より高くすることを禁止するものではない。
【0022】
(5)前記設定低温度下において、アキュムレータ圧が前記上限閾圧となっているときの前記作動液室と前記ガス室との一方の容積を上限圧時限界容積と定義した場合に、
前記閾圧変更部が、前記アキュムレータの温度が前記設定低温度よりも低い場合に、前記上限閾圧を、前記アキュムレータの温度に依らず、その上限閾圧において前記作動液室と前記ガス室との一方の容積が前記上限圧時限界容積となるように変更する(4)項に記載の液圧源システム。
【0023】
本項の態様では、アキュムレータ圧が上限閾圧となっている場合のガス室および作動液室の各々の容積(以下、「上限圧時容積」という場合がある)が、低温時において、概ね一定となる。なお、設定低温度が基準温度とされた場合には、低温時において、上限圧時容積は、基準温度下における上限圧時容積と同じ容積で概ね一定となる。
【0024】
(6)前記閾圧変更部が、
前記アキュムレータの温度が、前記基準温度以上に設定された設定高温度よりも高い場合に、前記下限閾圧を、前記基準下限閾圧より高くなるように変更する(3)項ないし(5)項のいずれかに記載の液圧源システム。
【0025】
本項の液圧源システムでは、アキュムレータ温度が「設定高温度」よりも高いとき(以下、単に、「高温時」という場合がある)に下限閾圧を高くすることによって、最高温下限圧時容積を最低温上限圧時容積に向かってシフトさせている。つまり、ガス室の最高温下限圧時容積を小さくし、言い換えれば、作動液室の最高温下限圧時容積を大きくしているのである。その結果、本システムでは、ガス室および作動液室の各々の最大容積変化量が大きくなることが抑制されるとともに、区画部材の最大変形変化量が大きくなることが抑制される。
【0026】
本項における「設定高温度」は、上記基準温度よりも高い温度に設定されてもよく、また、基準温度と等しい温度に設定されてもよい。なお、本項の態様は、上限閾圧を変更することを禁止するものではなく、また、アキュムレータ温度が設定高温度よりも低い場合において、下限閾圧を基準下限閾圧より低くすることを禁止するものではない。
【0027】
(7)前記設定高温度下において、アキュムレータ圧が前記下限閾圧となっているときの前記作動液室と前記ガス室との一方の容積を下限圧時限界容積と定義した場合に、
前記閾圧変更部が、前記アキュムレータの温度が前記設定高温度よりも高い場合に、前記下限閾圧を、前記アキュムレータの温度に依らず、その下限閾圧において前記作動液室と前記ガス室との一方の容積が前記下限圧時限界容積となるように変更する(6)項に記載の液圧源システム。
【0028】
本項の態様では、アキュムレータ圧が下限閾圧となっている場合のガス室および作動液室の各々の容積(以下、「下限圧時容積」という場合がある)が、高温時において概ね一定となる。なお、設定高温度が基準温度とされた場合には、高温時において、下限圧時容積は、基準温度下における下限圧時容積と同じ容積で概ね一定となる。
【0029】
(8)前記閾圧変更部が、
前記アキュムレータ圧がその下限閾圧となった場合の前記作動液室と前記ガス室との一方の容積とその上限閾圧となった場合のその一方の容積との差が、前記アキュムレータの温度に依らず一定となるように、前記下限閾圧と前記上限閾圧との少なくとも一方を変更する(1)項ないし(7)項のいずれか1つに記載の液圧源システム。
【0030】
本項の態様では、ガス室および作動液室の各々の上限圧時容積と下限圧時容積との差である上記「差」(以下、「上下限容積差」という場合がある)が、アキュムレータ温度によらず概ね一定となる。本項の態様によれば、作動液の供給量を安定させることができ、また、上限閾圧における区画部材の変形量と下限閾圧における区画部材の変形量との差(以下、「上下限変形量差」という場合がある)が概ね一定となることから、区画部材の耐久性において相当に優れたシステムとなる。なお、本項の態様は、低温時若しくは高温時にのみ、上下限容積差が一定となるように下限閾圧と上限閾圧との少なくとも一方を変更してもよく、低温時と高温時との両方において、上下限容積差が一定となるように下限閾圧と上限閾圧との少なくとも一方を変更してもよい。また、想定される温度変動範囲の全域にわたって、上下限容積差が一定となるように下限閾圧と上限閾圧との少なくとも一方を変更してもよい。
【0031】
低温時において本項の態様を実現させるためには、例えば、(5)項の態様に従って上限閾圧を決定するとともに、上下限容積差が一定となるように、下限閾圧を決定すればよく、また、高温時において本項の態様を実現させるには、(7)項の態様に従って下限閾圧を決定するとともに、上下限容積差が一定となるように、上限閾圧を決定すればよい。さらに、温度変動範囲の全域にわたって、本項の態様を実現させる場合には、低温時および高温時において、上下限容積差が基準温度における上下限容積差(以下、「基準上下限容積差」という場合がある)となるようにして上記のように下限閾圧および上限閾圧を決定するとともに、設定低温度と設定高温度との間の温度域において、その温度域においても上下限容積差が基準上下限容積差となるように、上限閾圧と下限閾圧との一方を一定としつつ他方を決定すればよい。なお、設定低温度および設定高温度を基準温度と一致させて、低温度および高温度において本項の態様を実現させれば、アキュムレータ温度の変動範囲の全域にわたって、ガス室および作動液室の各々の下限圧時容積および上限圧時容積がともに概ね一定となり、ガス室および作動液室の各々の最大容積変化量および区画部材の最大変形変化量が、基準温度におけるそれらと、それぞれ概ね一致することになる。
【0032】
(9)前記制御装置が、
前記アキュムレータの温度を、前記ポンプが作動している状態におけるアキュムレータ圧の昇圧速度に基づいて推定するアキュムレータ温度推定部を有し、閾圧変更部が、そのアキュムレータ温度推定部によって推定された前記アキュムレータの温度に基づいて、前記下限閾圧と前記上限閾圧との少なくとも一方を変更するように構成された(1)項ないし(8)項のいずれか1つに記載の液圧源システム。
【0033】
ポンプの能力が一定であると考えた場合、ごく単純に考えれば、ポンプを作動させたときには、一定の速度でアキュムレータの作動液室に作動液が供給され、一定の速度で作動液室の容積が増加する。その増加に伴い、一定の速度で、ガス室の容積は減少する。この容積減少に伴うアキュムレータ圧の昇圧速度は、アキュムレータ温度に依存し、温度が高いほど、昇圧速度が高いと考えることができるのである。このことを利用し、本項のシステムでは、アキュムレータ圧の昇圧速度に基づいて、アキュムレータ温度を推定している。本項のシステムでは、アキュムレータ温度を検知するためのセンサを別途設けることを必要とせず、当該システムの単純化を図ることが可能である。
【0034】
アキュムレータ温度の推定は、例えば、特定のアキュムレータ圧から昇圧させたときの昇圧速度によって行えばよい。より具体的には、例えば、ポンプの作動が開始される下限閾圧から設定時間だけポンプを作動させた場合のアキュムレータ圧とその下限閾圧との差,アキュムレータ圧が下限閾圧からその下限閾圧より高い設定圧力に至るまでのポンプの作動時間等、昇圧速度を指標する適当な指標値によって推定すればよい。推定にあたって、例えば、その指標値を種々のアキュムレータ温度において予め実測して、その実測された指標値を参照指標値としてマップデータの形式で保持しておき、その保持されている参照指標値と現時点の指標値とを比較することによって現時点のアキュムレータ温度の推定を行えばよい。なお、アキュムレータ圧の昇圧速度は、ポンプを作動させるための電源電圧の変動等、他のファクターにも依存するため、それらのファクターをも加味して行うことが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】請求可能発明の実施例である液圧源システムを含んで構成された車両用液圧ブレーキシステムを示す油圧回路図である。
【図2】図1に示す液圧源装置が備えるアキュムレータの断面図である。
【図3】図2のアキュムレータのガス室の容積と圧力との関係を、種々の温度において示すグラフである。
【図4】図2のアキュムレータが最低温上限圧時容積および最高温下限圧時容積となった際のベローズの伸縮の様子を示す模式図である。
【図5】ガス室の容積と圧力との関係を種々のアキュムレータ温度において示すグラフである。
【図6】アキュムレータ温度に対する、上限閾圧および下限閾圧の変化を示すグラフ、および、ガス室の上限圧時容積および下限圧時容積の変化を示すグラフである。
【図7】下限閾圧から上限閾圧となるまでアキュムレータ圧を上昇させるのに必要なポンプの作動時間とアキュムレータ温度との関係を示すグラフ,下限閾圧の変化に対するアキュムレータ温度を補正する係数の変化を示すグラフ,および,ポンプを作動させるための電源電圧の変化に対するアキュムレータ温度を補正する係数の変化を示すグラフである。
【図8】液圧源装置を制御するために制御装置で実行される液圧源制御装置プログラムを示すフローチャートである。
【図9】ポンプが作動している時間に基づいてアキュムレータ温度を推定するために液圧源装置制御プログラムにおいて実行される温度推定サブルーチンを示すフローチャートである。
【図10】下限閾圧および上限閾圧をアキュムレータ温度に基づいて決定するために液圧源装置制御プログラムにおいて実行される上下限閾圧決定サブルーチンを示すフローチャートである。
【図11】アキュムレータ圧を所定範囲内に維持するために液圧源装置制御プログラムにおいて実行されるポンプ作動制御サブルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、請求可能発明を実施するための形態として、請求可能発明の実施例である液圧源システムを、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
【実施例】
【0037】
≪液圧ブレーキシステムの構成≫
実施例の液圧源システムは、図1に示す車両用液圧ブレーキシステムの一部を構成している。このブレーキシステムは、4つの車輪10(図のFL,FR,RL,RRは、左前輪,右前輪,左後輪,右後輪をそれぞれ示す符号である)に対応して設けられた4つのブレーキ装置12を有している。各ブレーキ装置12は、ホイールシリンダ,キャリパ,ブレーキパッド,ディスク等を含んで構成される一般的なディスクブレーキ装置である。当該システムは、低圧源であるリザーバ14に貯留された作動液(作動油)を運転者が操作部材(ブレーキペダル)16に加えた操作力によって加圧するマスタシリンダ18と、そのマスタシリンダ18と4つのブレーキ装置10との間に介在させられた制御弁装置20と、電磁式開閉弁22を介してマスタシリンダ18に繋がるストロークシミュレータ24とを備えている。当該システムは、さらに、リザーバ14に貯留された作動液を加圧するためのポンプ30と、それによって加圧された作動液を高圧で貯留するアキュムレータ32とを備えた液圧源装置34を有しており、この液圧源装置34からの作動液は、制御弁装置20を介して4つのブレーキ装置12に供給される。
【0038】
制御弁装置20は、4つのブレーキ装置10に対応した4対の電磁式リニア弁を主体とする一般的なものであり、各対の電磁式リニア弁は、増圧用リニア弁40,減圧用リニア弁42から構成されている。制御弁装置20は、他に、それぞれがマスタシリンダ18からの作動液の供給を禁止するための電磁式開閉弁である1対のマスタカット弁44、液圧源装置34からの作動液の圧力が高くなった場合にその圧力をリザーバ14に逃がすためのリリーフ弁46、それぞれが対応するブレーキ装置12に供給される作動液の圧力(以下、「ブレーキ圧」という場合がある)を検出するための4つのブレーキ圧センサ48、マスタシリンダ18から供給される作動液の圧力(以下、「マスタ圧」という場合がある)を検出するためのマスタ圧センサ50、液圧源装置34からの作動液の圧力すなわちアキュムレータ32の圧力(以下、「アキュムレータ圧」という場合がある)を検出するためのアキュムレータ圧センサ52を有している。
【0039】
本システムの制御、詳しくは、上記各電磁式弁およびポンプ30の制御は、コンピュータを主体とするとともに各電磁式弁,ポンプ30を駆動させる駆動回路を含んで構成される電子制御ユニット(ECU)60によって行われる。そのECU60には、その制御を実行するために、各センサ48,50,52や、操作部材16に設けられて上記操作力を検出するための操作力センサ62が接続されている。
【0040】
電気的失陥時には、マスタシリンダ18からの作動液が前輪の2つのブレーキ装置12に供給されることが許容されて、操作力に依存する制動力が発生させられるが、通常は、マスタシリンダ18からの作動液の供給が禁止されるとともに、液圧源装置34からの作動液が4つのブレーキ装置12に供給されて、液圧源装置34の作動液の圧力に依存した制動力が発生させられる。詳しく言えば、通常は、操作力センサ62によって検出された操作力に基づいて、増圧用リニア弁40,減圧用リニア弁42への供給電流が制御されることで、その操作力に応じた圧力の作動液が各ブレーキ装置12に供給されるのである。
【0041】
上記液圧源装置34は、自身の駆動源である電磁式モータによって作動する一般的なプランジャポンプであり、その液圧源装置34の制御、つまり、ポンプ30の制御は、アキュムレータ圧センサ52によって検出されるアキュムレータ圧が所定範囲内となるように実行される。詳しく言えば、所定範囲の上限および下限をそれぞれ規定する上限閾圧,下限閾圧が決定され、アキュムレータ圧が下限閾圧を下回った場合にポンプ30の作動が開始させられ、上限閾圧を上回った場合に、ポンプ30の作動が停止させられる。ECU60において、この制御を実行する部分は、液圧源装置制御部64という名称の機能部と考えることができ、その機能部は、液圧源装置34を制御するための制御装置ととして機能する。したがって、上記液圧源装置34,アキュムレータ圧センサ50,ECU60における上記機能部によって、実施例の液圧源システムが構成されることになる。
【0042】
≪アキュムレータの構造およびガス室および作動液室の容積変化≫
液圧源装置34が有するアキュムレータ32は、図2に断面を示すような構造を有している。アキュムレータ32は、大まかには、筐体となるハウジング70と、そのハウジング70の内部に、周囲が蛇腹状に形成された金属製のベローズ72とによって構成されている。ハウジング72は、筒状のハウジング本体74と、そのハウジング本体74の一端面に嵌め込まれたポート形成部材76と、ハウジング本体74の他端部を塞ぐ蓋78とを含んで構成されている。なお、蓋78には、自身を貫通する穴が設けられており、その穴はプラグ79によって塞がれている。
【0043】
ポート形成部材76には、自身を軸線方向に貫いてポートとして機能する穴80が設けられている。ポート形成部材76は、それの一端部が、ハウジング本体74の一端面に設けられた穴に嵌め込まれた状態で、ハウジング本体74に接合されている。その一端部の端面には、緩衝ゴム82が嵌め込まれている。一方、ポート形成部材76の他端部は、外部に向かって突出してポンプ30につながっており、ハウジング70内部には、ポンプ30によって加圧された作動液が流入する。
【0044】
ハウジング70内のベローズ72は、筒部となる蛇腹部材84と、その蛇腹部材84の一端部を塞ぐ端面部として蛇腹部材84に接合された円板86とを含んで構成されている。蛇腹部材84の他端部は、その他端部を塞ぐようにして、蓋78に接合されている。そのため、ベローズ72の内部は、密閉された状態となっている。蛇腹部材84は、比較的薄い金属からできており、伸縮することが可能となっている。なお、ベローズ72の伸びは、円板86が緩衝ゴム82に当接することによって規制されることになる。このような構造を有するアキュムレータ32では、それの内部が、区画部材であるベローズ72によって、ベローズ72の外部に形成された外部室と、ベローズ72の内部に形成された内部室とに区画されている。外部室は、ポンプ30から供給される高圧の作動液で満たされた作動液室R1となっている。一方、内部室には、蓋78に設けられた穴から、ガス、具体的には、窒素ガスが規定量だけ注入されており、プラグ79によって密閉されている。したがって、内部室は、規定量のガスで満たされたガス室R2となっている。
【0045】
上記構成とされたアキュムレータ32では、ポンプ30の作動によって作動液が作動液室R1に流入すると、作動液室R1の容積が増大し、ベローズ72が縮まり、ガス室R2の容積は減少する。一方、作動液室R1内の作動液が外部に流出すると、ベローズ72が伸び、ガス室R2の容積は増大する。このように、アキュムレータ32では、ベローズ72の伸縮による変形によって、作動液室R1およびガス室R2は、それぞれ、一方の容積変化量が他方の容積変化量と殆ど等しくなるように変化する。したがって、作動液室R1の容積とガス室R2の容積との合計は殆ど一定となっていると考えることができる。また、ベローズ72の蛇腹部材84の変形によって発生する弾性反力は、相当に小さいため、作動液室R1内の作動液の圧力やガス室R2内のガスの圧力に殆ど影響を与えないと考えることができる。したがって、アキュムレータ32では、作動液の圧力である作動液圧と、ガスの圧力であるガス圧とは、殆ど等しいと考えることができる。換言すれば、ベローズ72は、作動液圧とガス圧とが等しくなるように伸縮する。そのため、アキュムレータ32では、作動液圧またはガス圧のいづれもアキュムレータ圧と考えることができるのである。
【0046】
したがって、アキュムレータ圧は、作動液室R1およびガス室R2の容積に応じた大きさになる。つまり、前述の上限閾圧,下限閾圧と作動液室R1の容積およびガス室R2の容積との関係について説明すれば、アキュムレータ圧が上限閾圧となっているときの作動液室R1およびガス室R2の各々の容積である上限圧時容積は、作動液室R1で比較的大きくなり、ガス室R2で比較的小さくなる。つまり、アキュムレータ32には比較的多量の作動液が貯められる。一方、アキュムレータ圧が下限閾圧となっているときの作動液室R1およびガス室R2の各々の容積である下限圧時容積は、作動液室R1で比較的小さくなり、ガス室R2で比較的大きくなる。つまり、アキュムレータ32には比較的少量の作動液しか貯められない。
【0047】
アキュムレータ圧と作動液室R1内の作動液の量とが上記の関係となっている一方で、アキュムレータ圧とガス室R2の容積との関係は、ボイル‐シャルルの法則に従うため、アキュムレータ温度、つまり、アキュムレータ32の温度の変化に応じて、図3に示すように変化する。つまり、ガスの圧力P,容積V,温度Tの関係は、気体定数をRとすれば、1モルのガスにおいてPV/T=Rとなる。そのため、上限閾圧および下限閾圧のみに依存してポンプ30の作動を制御すると、それぞれの閾圧における作動液室R1の容積およびガス室R2の容積は、それぞれ、温度に応じて変化することとなる。また、アキュムレータ32の温度変化する範囲は、車両の使用される様々な環境を考慮すれば、−30℃〜90℃と広く想定されなければならない。そのため、アキュムレータ温度が−30℃の場合と90℃の場合とでは、作動液室R1の容積およびガス室R2の容積は、図4に示すように、相当に大きく変化する。具体的には、−30℃のアキュムレータ温度における作動液室R1の容積およびガス室R2の容積は、上限閾圧時と下限閾圧時とにおいて、それぞれ、図4(a)に示すように変化する。一方、90℃のアキュムレータ温度における作動液室R1の容積およびガス室R2の容積は、上限閾圧時と下限閾圧時とにおいて、それぞれ、図4(b)に示すように変化する。したがって、最低温上限圧時、つまり、−30℃での上限閾圧時において、作動液室R1は最も大きくなり、ガス室R2は最も小さくなる。また、最高温下限圧時、つまり、90℃での下限閾圧時において、作動液室R1は最も小さくなり、ガス室R2で最も大きくなる。つまり、最低温上限圧時容積、すなわち、最低温上限圧時の容積と、最高温下限圧時容積、すなわち、最高温下限圧時の容積との差が、作動液室R1およびガス室R2の各々の容積変化における最大容積変化量となる。そして、作動液室R1およびガス室R2の容積変化に伴い、ベローズ72の変形量は、最低温上限圧時の変形量と最高温下限圧時の変形量との間で変化する。つまり、最低温上限圧時の変形量と最高温下源圧時の変形量との差が、ベローズ72の変形量の変化における最大変形変化量となる。このようにベローズ72の変形量の変化が大きくなると、アキュムレータ32は、要求される作動液の貯留量に対して、大きなマージンを必要とすることになる。また、ベローズ72の変形量の変化が大きくなることは、ベローズ72の耐久性においても好ましくない。
【0048】
≪上限閾圧および下限閾圧の決定≫
本システムでは、アキュムレータ温度Tに応じて、上限閾圧PU,下限閾圧PLがそれぞれ決定され、それら上限閾圧PU,下限閾圧PLに基づいて、液圧源装置制御部64はポンプ30の作動を制御する。アキュムレータ32では、20℃がアキュムレータ温度Tの基準温度T20となっており、その基準温度における上限閾圧PUは基準上限閾圧P20U,下限閾圧PLは基準下限閾圧P20Lとなっている。したがって、アキュムレータ温度Tが20℃になっているとき(以下、「基準温時」という場合がある)には、アキュムレータ圧Pが基準下限閾圧P20L以下になると、ポンプ30の作動が開始させられ、アキュムレータ圧Pが基準上限閾圧P20U以上になると、ポンプ30の作動が停止させられる。すなわち、基準温時における上限閾圧PU,下限閾圧PLは、それぞれ、次の式によって決定される。
PU=P20U
PL=P20L
【0049】
アキュムレータ温度Tが、20℃より低く0℃以上の範囲にある(以下、「微低温時」という場合がある)には、上限閾圧PUは、上記基準上限閾圧P20Uと同じ大きさとされる。また、微低温時において、上下限容積差ΔV、つまり、作動液室R1およびガス室R2の各々の上限圧時容積と下限圧時容積との差は、基準上限閾圧P20Uにおけるガス室R2の容積である上限圧時基準容積V20Uと、基準下限閾圧P20Lにおけるガス室R2の容積である上限圧時基準容積V20Lとの差である基準上下限容積差ΔV20で、概ね一定に保たれる。そのため、上下限容積差が基準上下限容積差ΔV20で一定に保たれるように、下限閾圧PLが決定される。したがって、上限閾圧時の容積である上限圧時容積VUに基準上下限容積差ΔV20を加えた容積は、下限閾圧時の容積である下限圧時容積VLとなり、下限閾圧PLは、その下限圧時容積VLにおける圧力として算出される。すなわち、微低温時における上限閾圧PU,下限閾圧PLは、それぞれ、次の式によって決定される。
PU=P20U
PL=R・T/(VU+ΔV20)
=T/{(T/PU)+(T20/P20L−T20/P20U)}
なお、式に用いられるアキュムレータ温度Tおよび基準温度T20には、絶対温度に換算された値が用いられている。以下の式においても同様である。
【0050】
アキュムレータ温度Tが、0℃より低く−30℃以上の範囲にあるとき(以下、「低温時」という場合がある)には、ガス室R2の容積は、上限圧時限界容積V0U、つまり、アキュムレータ温度Tが0℃で、上限閾圧PUが基準上限閾圧P20Uの場合における上限圧時容積VUで概ね一定に保たれる。したがって、低温時における上限閾圧PUは、上限圧時限界容積V0Uにおける圧力として算出することができる。また、低温時においても、上下限容積差ΔVが基準上下限容積差ΔV20で概ね一定に保たれるように、下限閾圧PLが決定される。したがって、上限圧時限界容積V0Uに基準上下限容積差ΔV20を加えた容積が下限圧時容積VLとなり、下限閾圧PLは、その下限圧時容積VLにおける圧力として算出することができる。すなわち、低温時における上限閾圧PU,下限閾圧PLは、それぞれ、次の式によって決定される。
PU=R・T/V0U=T/(T0/P20U)
PL=R・T/(V0U+ΔV20)
=T/{(T0/P20U)+(T20/P20L−T20/P20U)}
【0051】
アキュムレータ温度Tが、20℃より高く50℃以下の範囲にあるとき(以下、「微高温時」という場合がある)には、下限閾圧PLは、上記基準下限閾圧P20Lと同じ大きさとさせられる。また、微高温時においては、上下限容積差ΔVが基準上下限容積差ΔV20で概ね一定に保たれるように、上限閾圧PUが決定される。したがって、下限圧時容積VLから基準上下限容積差ΔV20を差し引いた容積は上限圧時容積VUとなり、上限閾圧PUは、その上限圧時容積VUにおける圧力として算出される。すなわち、微高温時における上限閾圧PU,下限閾圧PLは、それぞれ、次の式によって決定される。
PU=R・T/(VL−ΔV20)
=T/{(T/PL)−(T20/P20L−T20/P20U)}
PL=P20L
【0052】
アキュムレータ温度Tが、50℃より高く90℃以下の範囲にあるとき(以下、「高温時」という場合がある)には、ガス室R2の容積は、下限圧時限界容積V50L、つまり、アキュムレータ温度Tが50℃において、下限閾圧PLが基準下限閾圧P20Lの場合における下限圧時容積VLで概ね一定に保たれる。したがって、この高温時における下限閾圧PLは、下限圧時限界容積V50Lにおける圧力として算出することができる。また、高温時においても、上下限容積差ΔVが基準上下限容積差ΔV20で概ね一定に保たれるように、上限閾圧PUが決定される。したがって、下限圧時限界容積V50Lから基準上下限容積差ΔV20を差し引いた容積が上限圧時容積VUとなり、上限閾圧PUは、その上限圧時容積VUにおける圧力として算出することができる。すなわち、高温時における上限閾圧PU,下限閾圧PLは、それぞれ、次の式によって決定される。
PU=R・T/(V50L−ΔV20)
=T/{(T50/P20L)−(T20/P20L−T20/P20U)}
PL=R・T/V50L=T/(T50/P20L)
【0053】
図5は、ガス室R2の容積Vと圧力Pとの関係をアキュムレータ温度Tに応じて示したグラフ上に、上記の上限閾圧PUの変化と下限閾圧PLの変化とを描いたグラフである。また、図6(a)は、アキュムレータ温度Tに対する上限閾圧PUおよび下限閾圧PLの変化を示すグラフであり、図6(b)は、アキュムレータ温度Tに対するガス室の上限圧時容積VUおよび下限圧時容積VLの変化を示すグラフである。また、図6(b)には、上記の上限閾圧PUおよび下限閾圧PLの変更を行わなかった場合、つまり、上限閾圧PUが基準上限閾圧 P20Uで一定とされ、下限閾圧PLが基準下限閾圧 P20Lで一定とされた場合におけるガス室容積Vの変化が、一点鎖線でそれぞれ示されている。これらの図が示すように、上限閾圧PUは、アキュムレータ温度Tが−30以上0℃未満の範囲にあるときに低くされている。そのため、最低温上限圧時容積は最高温下限圧時容積に向かってシフトさせられている。つまり、0℃は、本システムにおける設定低温度となっている。また、下限閾圧PLは、アキュムレータ温度Tが50より高く90℃以下の範囲にあるときに高くされている。そのため、最高温下限圧時容積は最低温上限圧時容積に向かってシフトさせられている。つまり、50℃は、本システムにおける設定高温度となっている。
【0054】
上述の上限閾圧PUおよび下限閾圧PLの変更によって、上下限容積差ΔVは、アキュムレータ温度Tによらず、基準上下限容積差ΔV20で概ね一定となる。したがって、本システムでは、作動液の供給量を安定させることができる。また、本システムでは、上下限変形量差、つまり、上限閾圧PUにおけるベローズ72の変形量と、下限閾圧PLにおけるベローズ72の変形量との差が概ね一定となるため、ベローズ72の耐久性を向上させることができる。さらに、本システムでは、ベローズ72が、上限圧時限界容積V0Uにおける変形量および下限圧時限界容積V50Lにおける変形量を超えて変形することがないように、上限閾圧PUおよび下限閾圧PLが変更される。その結果、本システムでは、作動液室R1およびガス室R2の各々の最大容積変化量が大きくなることが抑制されるとともに、ベローズ72の最大変形変化量が大きくなることが抑制されている。そのため、アキュムレータ32に要求される貯留量の割に、アキュムレータ32の体格は小さくなっている。
【0055】
≪アクチュエータ温度の推定≫
ECU60の液圧源装置制御部64では、アキュムレータ圧Pが、前述のように決定された下限閾圧PLを下回ると、ポンプ30の作動が開始され、上限閾圧PUを上回ると、ポンプ30の作動が停止されるように制御が実行されることになる。この際、ポンプ30の、作動液を吐出する能力は殆ど一定であると考えれば、基準上下限容積差ΔV20の量の作動液がアキュムレータ32に貯留されるのに必要な時間、つまり、ポンプ30が作動している時間tは、アキュムレータ温度Tが高いほど、短くなる。つまり、アキュムレータ温度Tが高いほど、ポンプ30は、短時間で、アキュムレータ圧Pを下限閾圧PLから上限閾圧PUまで増加させることができる。本システムでは、そのことを利用して、そのポンプ30の作動時間tを指標値として計測して、アキュムレータ温度Tが推定される。そのため、ECU60には、図7(a)に示すような、参照指標値がポンプ作動時間tとされたアキュムレータ温度Tのマップデータが格納されている。したがって本システムは、アキュムレータ温度を検知するためのセンサを別途必要とせず、アキュムレータ圧の昇圧速度に基づいて、アキュムレータ温度を推定することができるため、シンプルなシステムとなっている。
【0056】
しかしながら、本システムにおいては、前述のように、下限閾圧PLおよび上限閾圧PUは変化させられる。したがって、ECU60には、図7(b)に示すような、上記の推定されたアキュムレータ温度Tを下限閾圧PUに応じて補正するための下限閾圧依拠補正係数kPのマップデータが格納されている。また、ポンプ30は、車両に搭載されているバッテリから電力が供給されて作動する。その電力の電圧の大きさは、バッテリの蓄電量に応じて変化してしまい、ポンプ30の作動液を吐出する能力は、その電圧の大きさによって変化してしまう。そのため、ECU60には、図7(c)に示すような、上記の推定されたアキュムレータ温度Tをバッテリ電圧Eに応じて補正するための電圧依拠補正係数kEのマップデータが格納されている。したがって、図7(a)に示すマップデータによって、ポンプ作動時間tから推定されたアキュムレータ温度Tは、次の式によって補正される。
T=kP・kE・T
【0057】
≪制御プログラムとECUの機能部≫
ECU60の液圧源装置制御部64では、液圧源装置34を制御するためのプログラムである液圧源装置制御プログラムが実行される。このプログラムは、比較的短周期(例えば、数msec〜数十msec)で繰り返し実行される。図8には、液圧源装置制御プログラムのフローチャートを示す。このフローチャートに従う処理では、ステップ1(以下、「S1」と略す。他のステップも同様とする)において、アキュムレータ温度を推定するための温度推定サブルーチンが実行され、S2において、上限閾圧PU,下限閾圧PLを決定するための上下限閾圧決定サブルーチンが実行され、S3において、ポンプ30の作動を制御するためのポンプ作動制御サブルーチンが実行される。
【0058】
図9には、温度推定サブルーチンのフローチャートを示す。このフローチャートに従う処理では、S11において、ブレーキが操作中かどうかが判定される。ブレーキ操作中の場合には、温度の推定はキャンセルさせられる。一方、ブレーキ操作がされていない場合には、S12において、ポンプ30が停止中か、あるいは、作動中かが判定される。ポンプ30が作動中と判定された場合には、S13において、ポンプ30の作動している時間tが計測される。ポンプ作動時間tは、本サブルーチンが実行されるごとに、その実行される時間間隔Δtが積算されることによって計測される。また、ポンプ作動時間tの計測が開始されると、S14において、フラグF2が1とされる。S12において、ポンプ30が停止中と判定された場合には、S15において、フラグF2が1とされているかが判定される。フラグF2が1とされている場合には、それまでに積算されたΔtからポンプ作動時間tの計測が完了し、S16において、アキュムレータ温度Tが推定され、S17〜S19において、上述のマップデータが参照されて、下限閾圧依拠補正係数kPおよび電圧依拠補正係数kEがそれぞれ決定される。S20では、それらの補正係数によって、アキュムレータ温度Tが補正され、ポンプ作動時間t,フラグF2がそれぞれ初期化、つまり、0にされる。
【0059】
図10は、上下限閾圧決定サブルーチンを実行するサブルーチンのフローチャートを示す。このフローチャートに従う処理では、S31において、アキュムレータ温度Tが20℃、つまり、基準温度であるかどうかが判定され、20℃である場合には、上限閾圧PUは基準上限閾圧P20U,下限閾圧PLは基準下限閾圧P20Lとさせられる。S33においては、アキュムレータ温度Tが微低温時、つまり、T20>T≧T0にあるかどうかが判定され、微低温時にある場合は、S34において、上述の式に従って上限閾圧PUおよび下限閾圧PLがそれぞれ算出される。S35においては、アキュムレータ温度Tが低温時、つまり、T0>Tにあるかどうかが判定され、低温時にある場合は、S36において、上述の式に従って上限閾圧PUおよび下限閾圧PLがそれぞれ算出される。S37においては、アキュムレータ温度Tが微高温時、つまり、T20<T≦T50にあるかどうかが判定され、微高温時にある場合は、S38において、上述の式に従って上限閾圧PUおよび下限閾圧PLがそれぞれ算出される。アキュムレータ温度Tが上述のいずれの判定にも当てはまらない場合は、アキュムレータ温度Tが高温時、つまり、T50<Tにあると判定し、S39において、上述の式に従って上限閾圧PUおよび下限閾圧PLがそれぞれ算出される。なお、アキュムレータ温度Tは、初期値が基準温度である20℃にされている。
【0060】
図11には、ポンプ作動制御サブルーチンのフローチャートを示す。このフローチャートに従う処理では、S51において、フラグF1によって、ポンプ30が停止中か、あるいは、作動中かが判定される。フラグF1は、ポンプ30が停止中の場合には0とされており、作動中の場合には1とされている。ポンプ30が停止中と判定された場合には、S52において、アキュムレータ圧Pが下限閾圧PLを下回っているかが判定される。アキュムレータ圧Pが下限閾圧PLを下回っている場合には、ポンプ30が作動させられ、フラグF1が1とされる。一方、S51において、ポンプ30が作動中と判定された場合には、S55において、アキュムレータ圧Pが上限閾圧PUを上回っているかが判定される。アキュムレータ圧Pが上限閾圧PUを上回っている場合には、ポンプ30が停止させられ、フラグF1が0とされる。
【0061】
なお、車両のイグニッションがONとされる度に、液圧源装置制御プログラムは初期化される。その初期化によって、アキュムレータ温度Tは基準温度である20℃とされ、また、フラグF1,F2,ポンプ作動時間tの各々も0とされて、プログラムの実行が開始される。なお、20℃における閾圧、つまり、基準上限閾圧P20U,基準下限閾圧P20Lや、それらの閾圧におけるガス室R2の容積である上限圧時基準容積V20U,上限圧時基準容積V20Lは、あらかじめ計測された値がECU60に格納されている。
【0062】
≪制御プログラムとECUの機能部≫
ECU60において、液圧源装置制御プログラムの実行は、液圧源装置制御部64において行われると考えることができ、また、その液圧源装置制御部64は、上述したサブルーチンを実行するいくつかの機能部を有すると考えることができる。具体的には、図1に示すように、液圧源装置制御部64には、温度推定サブルーチンを実行する温度推定部90,上下限閾圧決定サブルーチンを実行する上下限閾圧決定部92,ポンプ作動制御サブルーチンを実行するポンプ作動制御部94を有していると考えることができる。つまり、温度推定部90は、ポンプ30が作動している状態におけるアキュムレータ圧の昇圧速度に基づいてアキュムレータ温度Tを推定するアキュムレータ温度推定部と、上下限閾圧決定部92は、下限閾圧PLと上限閾圧PUとの少なくとも一方をアキュムレータ温度Tに基づいて変更する閾圧変更部と、ポンプ作動制御部94は、アキュムレータ圧を所定範囲内に維持するアキュムレータ圧維持制御部と、それぞれ考えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
請求可能発明の液圧源システムは、上述した車両用液圧ブレーキシステムを始めとして、液圧によって作動する懸架シリンダを有する車両用サスペンションシステム等、広い分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0064】
30:ポンプ 32:アキュムレータ 34:液圧源装置 60:電子制御ユニット(制御装置) 72:ベローズ(区画部材) 90:温度推定部(アキュムレータ温度推定部) 92:上下限閾圧決定部(閾圧変更部) 94:ポンプ作動制御部(アキュムレータ圧維持制御部) R1:作動液室 R2:ガス室
【技術分野】
【0001】
本発明は、アキュムレータを備えた液圧源装置を含んで構成される液圧源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両の分野では、液圧ブレーキシステム,液圧懸架シリンダを有するサスペンションステム等における液圧源として、下記特許文献に記載されているような液圧源装置、つまり、ポンプとそのポンプから吐出される作動液を貯めるアキュムレータとを備えた液圧源装置が用いられている。そのような液圧源装置では、一般的に、アキュムレータ圧が所定の範囲となるように制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特願2002− 98101号公報
【特許文献2】特願2008−180279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の液圧源装置では、アキュムレータ圧が下限閾圧を下回った場合にポンプの作動を開始させ、アキュムレータ圧が上限閾圧を上回った場合にポンプの作動を停止させることで、アキュムレータ圧を所定範囲内に維持することができる。アキュムレータは内部に区画部材を有し、その区画部材によって、アキュムレータ内部には作動液室とガス室とが区画されている。ガス室には、ガスが封入されており、アキュムレータ圧の変動により、区画部材の変形量の変化を伴って、作動液室およびガス室の容積が変動する。
【0005】
上述のアキュムレータは、貯留される作動液の量をある程度確保することが必要とされるため、作動液室の容積変化が大きくなることを想定した場合、ある程度体格を大きくせざるを得ない。また、作動液室,ガス室の容積変化が大きくなると、区画部材の変形量の変化も大きくなり、区画部材の耐久性にとって不利になるという問題がある。その問題に対処するための改良を始め、上記アキュムレータを備えた液圧源装置を含んで構成される液圧源システムには、改良の余地が多分に存在している。したがって、何らかの改良を施せば、そのような液圧源システムの実用性を向上させることができるのである。本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高い液圧源システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の液圧源システムは、上記アキュムレータおよびポンプを備えた液圧源装置を含んで構成される液圧源システムであって、その液圧源装置を制御する制御装置が、アキュムレータ圧が維持されるべき範囲を規定する下限閾圧および上限閾圧の少なくとも一方を、温度に基づいて変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
アキュムレータのガス室には、ガスが封入されており、作動液室およびガス室の容積は、アキュムレータ圧のみならず温度にも依存する。本液圧限システムは、温度を考慮して、上記下限閾圧と上記上限閾圧との一方を変更することで、作動液室およびガス室の容積変化、区画部材の変形量の変化を比較的小さくすることが可能である。したがって、本発明の液圧源システムは、アキュムレータの体格が比較的小さく、アキュムレータが有する区画部材の耐久性に優れたシステムとなる。
【発明の態様】
【0008】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から何某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0009】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、(2)項が請求項2に、(4)項が請求項3に、(6)項が請求項4に、(8)項が請求項5に、(9)項が請求項6に、それぞれ相当する。
【0010】
(1)(a)作動液を吐出するポンプと、(b)区画部材によって内部が作動液室とガス室とに区画され、前記ポンプから吐出された作動液をその作動液室に貯めるアキュムレータとを備えた液圧源装置と、
そのポンプの作動を制御する制御装置と
を含んで構成される液圧源システムであって、
前記制御装置が、
アキュムレータ圧が下限閾圧を下回った場合に前記ポンプの作動を開始させ、アキュムレータ圧が上限閾圧を上回った場合に前記ポンプの作動を停止させることで、アキュムレータ圧を所定範囲内に維持するアキュムレータ圧維持制御部と、
前記下限閾圧と前記上限閾圧との少なくとも一方を、前記アキュムレータの温度に基づいて変更する閾圧変更部と
を有する液圧源システム。
【0011】
上記アキュムレータのガス室には、ガスが封入されており、そのガスは、ボイル‐シャルルの法則に従うため、ガス室および作動液室の容積は、アキュムレータ圧のみならずアキュムレータ温度にも依存する。例えば、アキュムレータが温度変化の大きな環境に置かれた場合、アキュムレータ圧を一定の範囲に維持したとしても、ガス室および作動液室の容積は、相当に大きく変化する。したがって、アキュムレータの温度を考慮して、アキュムレータ圧の維持されるべき範囲を規定する上記下限閾圧および上記上限閾圧の少なくとも一方を変更することによって、作動液室の容積の変化、区画部材の変形が許容される範囲を比較的小さく制限することが可能となる。したがって、本項の液圧源システムでは、要求される作動液の貯留量に対して大きなマージンを設けることを必要とせず、その要求貯留量の割にはアキュムレータ自体の体格を小さくできる。また、区画部材への負担を比較的小さくすることができ、アキュムレータの耐久性,詳しくは、それの区画部材の耐久性が良好となる。
【0012】
区画部材の弾性反力の影響が小さく、作動液室内の圧力とガス室内の圧力とにあまり差異がないと考えれば、本項における「アキュムレータ圧」として、作動液室内の作動液の圧力を採用してもよく、また、ガス室内のガスの圧力を採用してもよい。さらには、作動液室と連通する箇所における作動液室から供給された作動液の圧力を採用してもよい。同様に、「アキュムレータの温度(以下、単に、「アキュムレータ温度」という場合がある)」には、ガス室内の温度,作動液室の温度,アキュムレータが配置されている環境温度にあまり差異がないと考えれば、その環境温度のいずれかを採用してもよい。なお、多くのアキュムレータでは、ガス室の容積と作動液室の容積との和は一定と考えることができ、それらガス室と作動液室との一方の容積が増加した場合、他方の容積がその分だけ減少する。
【0013】
「制御装置」は、コンピュータを主体として構成すればよく、その場合、特定のプログラムの実行によって、上記「アキュムレータ圧維持制御部」,「閾圧変更部」等の機能部が実現されることになる。「閾圧変更部」による下限閾圧と上限閾圧との少なくとも一方の具体的な変更態様については、以下に掲げる項のうちのいくつかにて詳しく説明する。
【0014】
(2)前記アキュムレータが、それの内部に前記区画部材としての金属製ベローズを有し、その金属製ベローズによって内部が前記作動液室と前記ガス室とに区画されるように構成された(1)項に記載の液圧源システム。
【0015】
「区画部材」としては、ゴム製のダイヤフラム等を採用することもできるが、本項のシステムでは、区画部材が金属製ベローズに限定されている。金属製ベローズは、例えば、蛇腹状の筒部とその筒部の端面を塞ぐ板状の端面部とを有する構造のものを用いることができる。このような金属製ベローズは、蛇腹状の筒部が比較的薄く形成されており、その筒部がガス室および作動液室の容積変動に伴って繰り返し伸縮するため、耐久性が特に要求される。そのような観点から、金属製ベローズを有するアキュムレータを採用するシステムに対し、下限閾圧と上限閾圧との少なくとも一方をアキュムレータ温度に基づいて変更することは、特に有効である。なお、本項の態様におけるアキュムレータでは、金属製ベローズの内部が作動液室とされるとともに、外部がガス室とされてもよく、逆に、金属製ベローズの外部が作動液室とされ、内部がガス室とされてもよい。
【0016】
(3)前記アキュムレータの温度が基準温度となっている場合において、前記下限閾圧および前記上限閾圧が、それぞれ、基準下限閾圧および基準上限閾圧に設定されている(1)項または(2)項に記載の液圧源システム。
【0017】
本項は、下記の項のうちのいくつかのものの前提となる態様を示している。本項における「基準温度」は、例えば、20°C,25°Cといった常温、言い換えれば、アキュムレータが置かれる環境における通常の温度,平均の温度,温度変動範囲における中央値の温度、または、それらの近傍の温度とすればよい。なお、基準温度は、敢えて設定することを要しない。つまり、後に説明する設定低温度より高い任意の温度、設定高温度より低い任意の温度であればよい。
【0018】
(4)前記閾圧変更部が、
前記アキュムレータの温度が、前記基準温度以下に設定された設定低温度よりも低い場合に、前記上限閾圧を、前記基準上限閾圧より低くなるように変更する(3)項に記載の液圧源システム。
【0019】
アキュムレータ圧が低ければ低い程、また、アキュムレータ温度が高ければ高い程、ガス室の容積は大きくかつ作動液室の容積は小さくなり、逆に、アキュムレータ圧が高ければ高い程、また、アキュムレータ温度が低ければ低い程、ガス室の容積は小さくかつ作動液室の容積は大きくなる。したがって、ガス室の容積および作動液室の容積は、それぞれ、想定される最も低いアキュムレータ温度においてアキュムレータ圧が上限閾圧となっているとき(以下、「最低温上限圧時」という場合がある)の容積と、実際上想定される最も高いアキュムレータ温度においてアキュムレータ圧が下限閾圧となっているとき(以下、「最高温下限圧時」という場合がある)の容積との間で変化する。つまり、最低温上限圧時の容積(以下、「最低温上限圧時容積」という場合がある)と最高温下限圧時の容積(以下、「最高温下限圧時容積」という場合がある)との差が、ガス室および作動液室の各々の容積変化における最大量(以下、「最大容積変化量」という場合がある)となる。そして、ガス室および作動液室の容積変化に伴い、アキュムレータの区画部材の変形量は、最低温上限圧時の変形量と最高温下限圧時の変形量との間で変化する。つまり、最低温上限圧時の変形量と最高温下源圧時の変形量との差が、区画部材の変形量の変化における最大量(以下、「最大変形変化量」という場合がある)となる。
【0020】
上述のことを考慮し、本項の液圧源システムでは、アキュムレータ温度が「設定低温度」よりも低いとき(以下、単に、「低温時」という場合がある)に上限閾圧を低くすることによって、最低温上限圧時容積を最高温下限圧時容積に向かってシフトさせている。つまり、ガス室の最低温上限圧時容積を大きくし、言い換えれば、作動液室の最低温上限圧時容積を小さくしているのである。その結果、本システムでは、ガス室および作動液室の各々の最大容積変化量が大きくなることが抑制されるとともに、区画部材の最大変形変化量が大きくなることが抑制される。
【0021】
本項における「設定低温度」は、上記基準温度よりも低い温度に設定されてもよく、また、基準温度と等しい温度に設定されてもよい。なお、本項の態様は、下限閾圧を変更することを禁止するものではなく、また、アキュムレータ温度が設定低温度よりも高い場合において、上限閾圧を基準上限閾圧より高くすることを禁止するものではない。
【0022】
(5)前記設定低温度下において、アキュムレータ圧が前記上限閾圧となっているときの前記作動液室と前記ガス室との一方の容積を上限圧時限界容積と定義した場合に、
前記閾圧変更部が、前記アキュムレータの温度が前記設定低温度よりも低い場合に、前記上限閾圧を、前記アキュムレータの温度に依らず、その上限閾圧において前記作動液室と前記ガス室との一方の容積が前記上限圧時限界容積となるように変更する(4)項に記載の液圧源システム。
【0023】
本項の態様では、アキュムレータ圧が上限閾圧となっている場合のガス室および作動液室の各々の容積(以下、「上限圧時容積」という場合がある)が、低温時において、概ね一定となる。なお、設定低温度が基準温度とされた場合には、低温時において、上限圧時容積は、基準温度下における上限圧時容積と同じ容積で概ね一定となる。
【0024】
(6)前記閾圧変更部が、
前記アキュムレータの温度が、前記基準温度以上に設定された設定高温度よりも高い場合に、前記下限閾圧を、前記基準下限閾圧より高くなるように変更する(3)項ないし(5)項のいずれかに記載の液圧源システム。
【0025】
本項の液圧源システムでは、アキュムレータ温度が「設定高温度」よりも高いとき(以下、単に、「高温時」という場合がある)に下限閾圧を高くすることによって、最高温下限圧時容積を最低温上限圧時容積に向かってシフトさせている。つまり、ガス室の最高温下限圧時容積を小さくし、言い換えれば、作動液室の最高温下限圧時容積を大きくしているのである。その結果、本システムでは、ガス室および作動液室の各々の最大容積変化量が大きくなることが抑制されるとともに、区画部材の最大変形変化量が大きくなることが抑制される。
【0026】
本項における「設定高温度」は、上記基準温度よりも高い温度に設定されてもよく、また、基準温度と等しい温度に設定されてもよい。なお、本項の態様は、上限閾圧を変更することを禁止するものではなく、また、アキュムレータ温度が設定高温度よりも低い場合において、下限閾圧を基準下限閾圧より低くすることを禁止するものではない。
【0027】
(7)前記設定高温度下において、アキュムレータ圧が前記下限閾圧となっているときの前記作動液室と前記ガス室との一方の容積を下限圧時限界容積と定義した場合に、
前記閾圧変更部が、前記アキュムレータの温度が前記設定高温度よりも高い場合に、前記下限閾圧を、前記アキュムレータの温度に依らず、その下限閾圧において前記作動液室と前記ガス室との一方の容積が前記下限圧時限界容積となるように変更する(6)項に記載の液圧源システム。
【0028】
本項の態様では、アキュムレータ圧が下限閾圧となっている場合のガス室および作動液室の各々の容積(以下、「下限圧時容積」という場合がある)が、高温時において概ね一定となる。なお、設定高温度が基準温度とされた場合には、高温時において、下限圧時容積は、基準温度下における下限圧時容積と同じ容積で概ね一定となる。
【0029】
(8)前記閾圧変更部が、
前記アキュムレータ圧がその下限閾圧となった場合の前記作動液室と前記ガス室との一方の容積とその上限閾圧となった場合のその一方の容積との差が、前記アキュムレータの温度に依らず一定となるように、前記下限閾圧と前記上限閾圧との少なくとも一方を変更する(1)項ないし(7)項のいずれか1つに記載の液圧源システム。
【0030】
本項の態様では、ガス室および作動液室の各々の上限圧時容積と下限圧時容積との差である上記「差」(以下、「上下限容積差」という場合がある)が、アキュムレータ温度によらず概ね一定となる。本項の態様によれば、作動液の供給量を安定させることができ、また、上限閾圧における区画部材の変形量と下限閾圧における区画部材の変形量との差(以下、「上下限変形量差」という場合がある)が概ね一定となることから、区画部材の耐久性において相当に優れたシステムとなる。なお、本項の態様は、低温時若しくは高温時にのみ、上下限容積差が一定となるように下限閾圧と上限閾圧との少なくとも一方を変更してもよく、低温時と高温時との両方において、上下限容積差が一定となるように下限閾圧と上限閾圧との少なくとも一方を変更してもよい。また、想定される温度変動範囲の全域にわたって、上下限容積差が一定となるように下限閾圧と上限閾圧との少なくとも一方を変更してもよい。
【0031】
低温時において本項の態様を実現させるためには、例えば、(5)項の態様に従って上限閾圧を決定するとともに、上下限容積差が一定となるように、下限閾圧を決定すればよく、また、高温時において本項の態様を実現させるには、(7)項の態様に従って下限閾圧を決定するとともに、上下限容積差が一定となるように、上限閾圧を決定すればよい。さらに、温度変動範囲の全域にわたって、本項の態様を実現させる場合には、低温時および高温時において、上下限容積差が基準温度における上下限容積差(以下、「基準上下限容積差」という場合がある)となるようにして上記のように下限閾圧および上限閾圧を決定するとともに、設定低温度と設定高温度との間の温度域において、その温度域においても上下限容積差が基準上下限容積差となるように、上限閾圧と下限閾圧との一方を一定としつつ他方を決定すればよい。なお、設定低温度および設定高温度を基準温度と一致させて、低温度および高温度において本項の態様を実現させれば、アキュムレータ温度の変動範囲の全域にわたって、ガス室および作動液室の各々の下限圧時容積および上限圧時容積がともに概ね一定となり、ガス室および作動液室の各々の最大容積変化量および区画部材の最大変形変化量が、基準温度におけるそれらと、それぞれ概ね一致することになる。
【0032】
(9)前記制御装置が、
前記アキュムレータの温度を、前記ポンプが作動している状態におけるアキュムレータ圧の昇圧速度に基づいて推定するアキュムレータ温度推定部を有し、閾圧変更部が、そのアキュムレータ温度推定部によって推定された前記アキュムレータの温度に基づいて、前記下限閾圧と前記上限閾圧との少なくとも一方を変更するように構成された(1)項ないし(8)項のいずれか1つに記載の液圧源システム。
【0033】
ポンプの能力が一定であると考えた場合、ごく単純に考えれば、ポンプを作動させたときには、一定の速度でアキュムレータの作動液室に作動液が供給され、一定の速度で作動液室の容積が増加する。その増加に伴い、一定の速度で、ガス室の容積は減少する。この容積減少に伴うアキュムレータ圧の昇圧速度は、アキュムレータ温度に依存し、温度が高いほど、昇圧速度が高いと考えることができるのである。このことを利用し、本項のシステムでは、アキュムレータ圧の昇圧速度に基づいて、アキュムレータ温度を推定している。本項のシステムでは、アキュムレータ温度を検知するためのセンサを別途設けることを必要とせず、当該システムの単純化を図ることが可能である。
【0034】
アキュムレータ温度の推定は、例えば、特定のアキュムレータ圧から昇圧させたときの昇圧速度によって行えばよい。より具体的には、例えば、ポンプの作動が開始される下限閾圧から設定時間だけポンプを作動させた場合のアキュムレータ圧とその下限閾圧との差,アキュムレータ圧が下限閾圧からその下限閾圧より高い設定圧力に至るまでのポンプの作動時間等、昇圧速度を指標する適当な指標値によって推定すればよい。推定にあたって、例えば、その指標値を種々のアキュムレータ温度において予め実測して、その実測された指標値を参照指標値としてマップデータの形式で保持しておき、その保持されている参照指標値と現時点の指標値とを比較することによって現時点のアキュムレータ温度の推定を行えばよい。なお、アキュムレータ圧の昇圧速度は、ポンプを作動させるための電源電圧の変動等、他のファクターにも依存するため、それらのファクターをも加味して行うことが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】請求可能発明の実施例である液圧源システムを含んで構成された車両用液圧ブレーキシステムを示す油圧回路図である。
【図2】図1に示す液圧源装置が備えるアキュムレータの断面図である。
【図3】図2のアキュムレータのガス室の容積と圧力との関係を、種々の温度において示すグラフである。
【図4】図2のアキュムレータが最低温上限圧時容積および最高温下限圧時容積となった際のベローズの伸縮の様子を示す模式図である。
【図5】ガス室の容積と圧力との関係を種々のアキュムレータ温度において示すグラフである。
【図6】アキュムレータ温度に対する、上限閾圧および下限閾圧の変化を示すグラフ、および、ガス室の上限圧時容積および下限圧時容積の変化を示すグラフである。
【図7】下限閾圧から上限閾圧となるまでアキュムレータ圧を上昇させるのに必要なポンプの作動時間とアキュムレータ温度との関係を示すグラフ,下限閾圧の変化に対するアキュムレータ温度を補正する係数の変化を示すグラフ,および,ポンプを作動させるための電源電圧の変化に対するアキュムレータ温度を補正する係数の変化を示すグラフである。
【図8】液圧源装置を制御するために制御装置で実行される液圧源制御装置プログラムを示すフローチャートである。
【図9】ポンプが作動している時間に基づいてアキュムレータ温度を推定するために液圧源装置制御プログラムにおいて実行される温度推定サブルーチンを示すフローチャートである。
【図10】下限閾圧および上限閾圧をアキュムレータ温度に基づいて決定するために液圧源装置制御プログラムにおいて実行される上下限閾圧決定サブルーチンを示すフローチャートである。
【図11】アキュムレータ圧を所定範囲内に維持するために液圧源装置制御プログラムにおいて実行されるポンプ作動制御サブルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、請求可能発明を実施するための形態として、請求可能発明の実施例である液圧源システムを、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
【実施例】
【0037】
≪液圧ブレーキシステムの構成≫
実施例の液圧源システムは、図1に示す車両用液圧ブレーキシステムの一部を構成している。このブレーキシステムは、4つの車輪10(図のFL,FR,RL,RRは、左前輪,右前輪,左後輪,右後輪をそれぞれ示す符号である)に対応して設けられた4つのブレーキ装置12を有している。各ブレーキ装置12は、ホイールシリンダ,キャリパ,ブレーキパッド,ディスク等を含んで構成される一般的なディスクブレーキ装置である。当該システムは、低圧源であるリザーバ14に貯留された作動液(作動油)を運転者が操作部材(ブレーキペダル)16に加えた操作力によって加圧するマスタシリンダ18と、そのマスタシリンダ18と4つのブレーキ装置10との間に介在させられた制御弁装置20と、電磁式開閉弁22を介してマスタシリンダ18に繋がるストロークシミュレータ24とを備えている。当該システムは、さらに、リザーバ14に貯留された作動液を加圧するためのポンプ30と、それによって加圧された作動液を高圧で貯留するアキュムレータ32とを備えた液圧源装置34を有しており、この液圧源装置34からの作動液は、制御弁装置20を介して4つのブレーキ装置12に供給される。
【0038】
制御弁装置20は、4つのブレーキ装置10に対応した4対の電磁式リニア弁を主体とする一般的なものであり、各対の電磁式リニア弁は、増圧用リニア弁40,減圧用リニア弁42から構成されている。制御弁装置20は、他に、それぞれがマスタシリンダ18からの作動液の供給を禁止するための電磁式開閉弁である1対のマスタカット弁44、液圧源装置34からの作動液の圧力が高くなった場合にその圧力をリザーバ14に逃がすためのリリーフ弁46、それぞれが対応するブレーキ装置12に供給される作動液の圧力(以下、「ブレーキ圧」という場合がある)を検出するための4つのブレーキ圧センサ48、マスタシリンダ18から供給される作動液の圧力(以下、「マスタ圧」という場合がある)を検出するためのマスタ圧センサ50、液圧源装置34からの作動液の圧力すなわちアキュムレータ32の圧力(以下、「アキュムレータ圧」という場合がある)を検出するためのアキュムレータ圧センサ52を有している。
【0039】
本システムの制御、詳しくは、上記各電磁式弁およびポンプ30の制御は、コンピュータを主体とするとともに各電磁式弁,ポンプ30を駆動させる駆動回路を含んで構成される電子制御ユニット(ECU)60によって行われる。そのECU60には、その制御を実行するために、各センサ48,50,52や、操作部材16に設けられて上記操作力を検出するための操作力センサ62が接続されている。
【0040】
電気的失陥時には、マスタシリンダ18からの作動液が前輪の2つのブレーキ装置12に供給されることが許容されて、操作力に依存する制動力が発生させられるが、通常は、マスタシリンダ18からの作動液の供給が禁止されるとともに、液圧源装置34からの作動液が4つのブレーキ装置12に供給されて、液圧源装置34の作動液の圧力に依存した制動力が発生させられる。詳しく言えば、通常は、操作力センサ62によって検出された操作力に基づいて、増圧用リニア弁40,減圧用リニア弁42への供給電流が制御されることで、その操作力に応じた圧力の作動液が各ブレーキ装置12に供給されるのである。
【0041】
上記液圧源装置34は、自身の駆動源である電磁式モータによって作動する一般的なプランジャポンプであり、その液圧源装置34の制御、つまり、ポンプ30の制御は、アキュムレータ圧センサ52によって検出されるアキュムレータ圧が所定範囲内となるように実行される。詳しく言えば、所定範囲の上限および下限をそれぞれ規定する上限閾圧,下限閾圧が決定され、アキュムレータ圧が下限閾圧を下回った場合にポンプ30の作動が開始させられ、上限閾圧を上回った場合に、ポンプ30の作動が停止させられる。ECU60において、この制御を実行する部分は、液圧源装置制御部64という名称の機能部と考えることができ、その機能部は、液圧源装置34を制御するための制御装置ととして機能する。したがって、上記液圧源装置34,アキュムレータ圧センサ50,ECU60における上記機能部によって、実施例の液圧源システムが構成されることになる。
【0042】
≪アキュムレータの構造およびガス室および作動液室の容積変化≫
液圧源装置34が有するアキュムレータ32は、図2に断面を示すような構造を有している。アキュムレータ32は、大まかには、筐体となるハウジング70と、そのハウジング70の内部に、周囲が蛇腹状に形成された金属製のベローズ72とによって構成されている。ハウジング72は、筒状のハウジング本体74と、そのハウジング本体74の一端面に嵌め込まれたポート形成部材76と、ハウジング本体74の他端部を塞ぐ蓋78とを含んで構成されている。なお、蓋78には、自身を貫通する穴が設けられており、その穴はプラグ79によって塞がれている。
【0043】
ポート形成部材76には、自身を軸線方向に貫いてポートとして機能する穴80が設けられている。ポート形成部材76は、それの一端部が、ハウジング本体74の一端面に設けられた穴に嵌め込まれた状態で、ハウジング本体74に接合されている。その一端部の端面には、緩衝ゴム82が嵌め込まれている。一方、ポート形成部材76の他端部は、外部に向かって突出してポンプ30につながっており、ハウジング70内部には、ポンプ30によって加圧された作動液が流入する。
【0044】
ハウジング70内のベローズ72は、筒部となる蛇腹部材84と、その蛇腹部材84の一端部を塞ぐ端面部として蛇腹部材84に接合された円板86とを含んで構成されている。蛇腹部材84の他端部は、その他端部を塞ぐようにして、蓋78に接合されている。そのため、ベローズ72の内部は、密閉された状態となっている。蛇腹部材84は、比較的薄い金属からできており、伸縮することが可能となっている。なお、ベローズ72の伸びは、円板86が緩衝ゴム82に当接することによって規制されることになる。このような構造を有するアキュムレータ32では、それの内部が、区画部材であるベローズ72によって、ベローズ72の外部に形成された外部室と、ベローズ72の内部に形成された内部室とに区画されている。外部室は、ポンプ30から供給される高圧の作動液で満たされた作動液室R1となっている。一方、内部室には、蓋78に設けられた穴から、ガス、具体的には、窒素ガスが規定量だけ注入されており、プラグ79によって密閉されている。したがって、内部室は、規定量のガスで満たされたガス室R2となっている。
【0045】
上記構成とされたアキュムレータ32では、ポンプ30の作動によって作動液が作動液室R1に流入すると、作動液室R1の容積が増大し、ベローズ72が縮まり、ガス室R2の容積は減少する。一方、作動液室R1内の作動液が外部に流出すると、ベローズ72が伸び、ガス室R2の容積は増大する。このように、アキュムレータ32では、ベローズ72の伸縮による変形によって、作動液室R1およびガス室R2は、それぞれ、一方の容積変化量が他方の容積変化量と殆ど等しくなるように変化する。したがって、作動液室R1の容積とガス室R2の容積との合計は殆ど一定となっていると考えることができる。また、ベローズ72の蛇腹部材84の変形によって発生する弾性反力は、相当に小さいため、作動液室R1内の作動液の圧力やガス室R2内のガスの圧力に殆ど影響を与えないと考えることができる。したがって、アキュムレータ32では、作動液の圧力である作動液圧と、ガスの圧力であるガス圧とは、殆ど等しいと考えることができる。換言すれば、ベローズ72は、作動液圧とガス圧とが等しくなるように伸縮する。そのため、アキュムレータ32では、作動液圧またはガス圧のいづれもアキュムレータ圧と考えることができるのである。
【0046】
したがって、アキュムレータ圧は、作動液室R1およびガス室R2の容積に応じた大きさになる。つまり、前述の上限閾圧,下限閾圧と作動液室R1の容積およびガス室R2の容積との関係について説明すれば、アキュムレータ圧が上限閾圧となっているときの作動液室R1およびガス室R2の各々の容積である上限圧時容積は、作動液室R1で比較的大きくなり、ガス室R2で比較的小さくなる。つまり、アキュムレータ32には比較的多量の作動液が貯められる。一方、アキュムレータ圧が下限閾圧となっているときの作動液室R1およびガス室R2の各々の容積である下限圧時容積は、作動液室R1で比較的小さくなり、ガス室R2で比較的大きくなる。つまり、アキュムレータ32には比較的少量の作動液しか貯められない。
【0047】
アキュムレータ圧と作動液室R1内の作動液の量とが上記の関係となっている一方で、アキュムレータ圧とガス室R2の容積との関係は、ボイル‐シャルルの法則に従うため、アキュムレータ温度、つまり、アキュムレータ32の温度の変化に応じて、図3に示すように変化する。つまり、ガスの圧力P,容積V,温度Tの関係は、気体定数をRとすれば、1モルのガスにおいてPV/T=Rとなる。そのため、上限閾圧および下限閾圧のみに依存してポンプ30の作動を制御すると、それぞれの閾圧における作動液室R1の容積およびガス室R2の容積は、それぞれ、温度に応じて変化することとなる。また、アキュムレータ32の温度変化する範囲は、車両の使用される様々な環境を考慮すれば、−30℃〜90℃と広く想定されなければならない。そのため、アキュムレータ温度が−30℃の場合と90℃の場合とでは、作動液室R1の容積およびガス室R2の容積は、図4に示すように、相当に大きく変化する。具体的には、−30℃のアキュムレータ温度における作動液室R1の容積およびガス室R2の容積は、上限閾圧時と下限閾圧時とにおいて、それぞれ、図4(a)に示すように変化する。一方、90℃のアキュムレータ温度における作動液室R1の容積およびガス室R2の容積は、上限閾圧時と下限閾圧時とにおいて、それぞれ、図4(b)に示すように変化する。したがって、最低温上限圧時、つまり、−30℃での上限閾圧時において、作動液室R1は最も大きくなり、ガス室R2は最も小さくなる。また、最高温下限圧時、つまり、90℃での下限閾圧時において、作動液室R1は最も小さくなり、ガス室R2で最も大きくなる。つまり、最低温上限圧時容積、すなわち、最低温上限圧時の容積と、最高温下限圧時容積、すなわち、最高温下限圧時の容積との差が、作動液室R1およびガス室R2の各々の容積変化における最大容積変化量となる。そして、作動液室R1およびガス室R2の容積変化に伴い、ベローズ72の変形量は、最低温上限圧時の変形量と最高温下限圧時の変形量との間で変化する。つまり、最低温上限圧時の変形量と最高温下源圧時の変形量との差が、ベローズ72の変形量の変化における最大変形変化量となる。このようにベローズ72の変形量の変化が大きくなると、アキュムレータ32は、要求される作動液の貯留量に対して、大きなマージンを必要とすることになる。また、ベローズ72の変形量の変化が大きくなることは、ベローズ72の耐久性においても好ましくない。
【0048】
≪上限閾圧および下限閾圧の決定≫
本システムでは、アキュムレータ温度Tに応じて、上限閾圧PU,下限閾圧PLがそれぞれ決定され、それら上限閾圧PU,下限閾圧PLに基づいて、液圧源装置制御部64はポンプ30の作動を制御する。アキュムレータ32では、20℃がアキュムレータ温度Tの基準温度T20となっており、その基準温度における上限閾圧PUは基準上限閾圧P20U,下限閾圧PLは基準下限閾圧P20Lとなっている。したがって、アキュムレータ温度Tが20℃になっているとき(以下、「基準温時」という場合がある)には、アキュムレータ圧Pが基準下限閾圧P20L以下になると、ポンプ30の作動が開始させられ、アキュムレータ圧Pが基準上限閾圧P20U以上になると、ポンプ30の作動が停止させられる。すなわち、基準温時における上限閾圧PU,下限閾圧PLは、それぞれ、次の式によって決定される。
PU=P20U
PL=P20L
【0049】
アキュムレータ温度Tが、20℃より低く0℃以上の範囲にある(以下、「微低温時」という場合がある)には、上限閾圧PUは、上記基準上限閾圧P20Uと同じ大きさとされる。また、微低温時において、上下限容積差ΔV、つまり、作動液室R1およびガス室R2の各々の上限圧時容積と下限圧時容積との差は、基準上限閾圧P20Uにおけるガス室R2の容積である上限圧時基準容積V20Uと、基準下限閾圧P20Lにおけるガス室R2の容積である上限圧時基準容積V20Lとの差である基準上下限容積差ΔV20で、概ね一定に保たれる。そのため、上下限容積差が基準上下限容積差ΔV20で一定に保たれるように、下限閾圧PLが決定される。したがって、上限閾圧時の容積である上限圧時容積VUに基準上下限容積差ΔV20を加えた容積は、下限閾圧時の容積である下限圧時容積VLとなり、下限閾圧PLは、その下限圧時容積VLにおける圧力として算出される。すなわち、微低温時における上限閾圧PU,下限閾圧PLは、それぞれ、次の式によって決定される。
PU=P20U
PL=R・T/(VU+ΔV20)
=T/{(T/PU)+(T20/P20L−T20/P20U)}
なお、式に用いられるアキュムレータ温度Tおよび基準温度T20には、絶対温度に換算された値が用いられている。以下の式においても同様である。
【0050】
アキュムレータ温度Tが、0℃より低く−30℃以上の範囲にあるとき(以下、「低温時」という場合がある)には、ガス室R2の容積は、上限圧時限界容積V0U、つまり、アキュムレータ温度Tが0℃で、上限閾圧PUが基準上限閾圧P20Uの場合における上限圧時容積VUで概ね一定に保たれる。したがって、低温時における上限閾圧PUは、上限圧時限界容積V0Uにおける圧力として算出することができる。また、低温時においても、上下限容積差ΔVが基準上下限容積差ΔV20で概ね一定に保たれるように、下限閾圧PLが決定される。したがって、上限圧時限界容積V0Uに基準上下限容積差ΔV20を加えた容積が下限圧時容積VLとなり、下限閾圧PLは、その下限圧時容積VLにおける圧力として算出することができる。すなわち、低温時における上限閾圧PU,下限閾圧PLは、それぞれ、次の式によって決定される。
PU=R・T/V0U=T/(T0/P20U)
PL=R・T/(V0U+ΔV20)
=T/{(T0/P20U)+(T20/P20L−T20/P20U)}
【0051】
アキュムレータ温度Tが、20℃より高く50℃以下の範囲にあるとき(以下、「微高温時」という場合がある)には、下限閾圧PLは、上記基準下限閾圧P20Lと同じ大きさとさせられる。また、微高温時においては、上下限容積差ΔVが基準上下限容積差ΔV20で概ね一定に保たれるように、上限閾圧PUが決定される。したがって、下限圧時容積VLから基準上下限容積差ΔV20を差し引いた容積は上限圧時容積VUとなり、上限閾圧PUは、その上限圧時容積VUにおける圧力として算出される。すなわち、微高温時における上限閾圧PU,下限閾圧PLは、それぞれ、次の式によって決定される。
PU=R・T/(VL−ΔV20)
=T/{(T/PL)−(T20/P20L−T20/P20U)}
PL=P20L
【0052】
アキュムレータ温度Tが、50℃より高く90℃以下の範囲にあるとき(以下、「高温時」という場合がある)には、ガス室R2の容積は、下限圧時限界容積V50L、つまり、アキュムレータ温度Tが50℃において、下限閾圧PLが基準下限閾圧P20Lの場合における下限圧時容積VLで概ね一定に保たれる。したがって、この高温時における下限閾圧PLは、下限圧時限界容積V50Lにおける圧力として算出することができる。また、高温時においても、上下限容積差ΔVが基準上下限容積差ΔV20で概ね一定に保たれるように、上限閾圧PUが決定される。したがって、下限圧時限界容積V50Lから基準上下限容積差ΔV20を差し引いた容積が上限圧時容積VUとなり、上限閾圧PUは、その上限圧時容積VUにおける圧力として算出することができる。すなわち、高温時における上限閾圧PU,下限閾圧PLは、それぞれ、次の式によって決定される。
PU=R・T/(V50L−ΔV20)
=T/{(T50/P20L)−(T20/P20L−T20/P20U)}
PL=R・T/V50L=T/(T50/P20L)
【0053】
図5は、ガス室R2の容積Vと圧力Pとの関係をアキュムレータ温度Tに応じて示したグラフ上に、上記の上限閾圧PUの変化と下限閾圧PLの変化とを描いたグラフである。また、図6(a)は、アキュムレータ温度Tに対する上限閾圧PUおよび下限閾圧PLの変化を示すグラフであり、図6(b)は、アキュムレータ温度Tに対するガス室の上限圧時容積VUおよび下限圧時容積VLの変化を示すグラフである。また、図6(b)には、上記の上限閾圧PUおよび下限閾圧PLの変更を行わなかった場合、つまり、上限閾圧PUが基準上限閾圧 P20Uで一定とされ、下限閾圧PLが基準下限閾圧 P20Lで一定とされた場合におけるガス室容積Vの変化が、一点鎖線でそれぞれ示されている。これらの図が示すように、上限閾圧PUは、アキュムレータ温度Tが−30以上0℃未満の範囲にあるときに低くされている。そのため、最低温上限圧時容積は最高温下限圧時容積に向かってシフトさせられている。つまり、0℃は、本システムにおける設定低温度となっている。また、下限閾圧PLは、アキュムレータ温度Tが50より高く90℃以下の範囲にあるときに高くされている。そのため、最高温下限圧時容積は最低温上限圧時容積に向かってシフトさせられている。つまり、50℃は、本システムにおける設定高温度となっている。
【0054】
上述の上限閾圧PUおよび下限閾圧PLの変更によって、上下限容積差ΔVは、アキュムレータ温度Tによらず、基準上下限容積差ΔV20で概ね一定となる。したがって、本システムでは、作動液の供給量を安定させることができる。また、本システムでは、上下限変形量差、つまり、上限閾圧PUにおけるベローズ72の変形量と、下限閾圧PLにおけるベローズ72の変形量との差が概ね一定となるため、ベローズ72の耐久性を向上させることができる。さらに、本システムでは、ベローズ72が、上限圧時限界容積V0Uにおける変形量および下限圧時限界容積V50Lにおける変形量を超えて変形することがないように、上限閾圧PUおよび下限閾圧PLが変更される。その結果、本システムでは、作動液室R1およびガス室R2の各々の最大容積変化量が大きくなることが抑制されるとともに、ベローズ72の最大変形変化量が大きくなることが抑制されている。そのため、アキュムレータ32に要求される貯留量の割に、アキュムレータ32の体格は小さくなっている。
【0055】
≪アクチュエータ温度の推定≫
ECU60の液圧源装置制御部64では、アキュムレータ圧Pが、前述のように決定された下限閾圧PLを下回ると、ポンプ30の作動が開始され、上限閾圧PUを上回ると、ポンプ30の作動が停止されるように制御が実行されることになる。この際、ポンプ30の、作動液を吐出する能力は殆ど一定であると考えれば、基準上下限容積差ΔV20の量の作動液がアキュムレータ32に貯留されるのに必要な時間、つまり、ポンプ30が作動している時間tは、アキュムレータ温度Tが高いほど、短くなる。つまり、アキュムレータ温度Tが高いほど、ポンプ30は、短時間で、アキュムレータ圧Pを下限閾圧PLから上限閾圧PUまで増加させることができる。本システムでは、そのことを利用して、そのポンプ30の作動時間tを指標値として計測して、アキュムレータ温度Tが推定される。そのため、ECU60には、図7(a)に示すような、参照指標値がポンプ作動時間tとされたアキュムレータ温度Tのマップデータが格納されている。したがって本システムは、アキュムレータ温度を検知するためのセンサを別途必要とせず、アキュムレータ圧の昇圧速度に基づいて、アキュムレータ温度を推定することができるため、シンプルなシステムとなっている。
【0056】
しかしながら、本システムにおいては、前述のように、下限閾圧PLおよび上限閾圧PUは変化させられる。したがって、ECU60には、図7(b)に示すような、上記の推定されたアキュムレータ温度Tを下限閾圧PUに応じて補正するための下限閾圧依拠補正係数kPのマップデータが格納されている。また、ポンプ30は、車両に搭載されているバッテリから電力が供給されて作動する。その電力の電圧の大きさは、バッテリの蓄電量に応じて変化してしまい、ポンプ30の作動液を吐出する能力は、その電圧の大きさによって変化してしまう。そのため、ECU60には、図7(c)に示すような、上記の推定されたアキュムレータ温度Tをバッテリ電圧Eに応じて補正するための電圧依拠補正係数kEのマップデータが格納されている。したがって、図7(a)に示すマップデータによって、ポンプ作動時間tから推定されたアキュムレータ温度Tは、次の式によって補正される。
T=kP・kE・T
【0057】
≪制御プログラムとECUの機能部≫
ECU60の液圧源装置制御部64では、液圧源装置34を制御するためのプログラムである液圧源装置制御プログラムが実行される。このプログラムは、比較的短周期(例えば、数msec〜数十msec)で繰り返し実行される。図8には、液圧源装置制御プログラムのフローチャートを示す。このフローチャートに従う処理では、ステップ1(以下、「S1」と略す。他のステップも同様とする)において、アキュムレータ温度を推定するための温度推定サブルーチンが実行され、S2において、上限閾圧PU,下限閾圧PLを決定するための上下限閾圧決定サブルーチンが実行され、S3において、ポンプ30の作動を制御するためのポンプ作動制御サブルーチンが実行される。
【0058】
図9には、温度推定サブルーチンのフローチャートを示す。このフローチャートに従う処理では、S11において、ブレーキが操作中かどうかが判定される。ブレーキ操作中の場合には、温度の推定はキャンセルさせられる。一方、ブレーキ操作がされていない場合には、S12において、ポンプ30が停止中か、あるいは、作動中かが判定される。ポンプ30が作動中と判定された場合には、S13において、ポンプ30の作動している時間tが計測される。ポンプ作動時間tは、本サブルーチンが実行されるごとに、その実行される時間間隔Δtが積算されることによって計測される。また、ポンプ作動時間tの計測が開始されると、S14において、フラグF2が1とされる。S12において、ポンプ30が停止中と判定された場合には、S15において、フラグF2が1とされているかが判定される。フラグF2が1とされている場合には、それまでに積算されたΔtからポンプ作動時間tの計測が完了し、S16において、アキュムレータ温度Tが推定され、S17〜S19において、上述のマップデータが参照されて、下限閾圧依拠補正係数kPおよび電圧依拠補正係数kEがそれぞれ決定される。S20では、それらの補正係数によって、アキュムレータ温度Tが補正され、ポンプ作動時間t,フラグF2がそれぞれ初期化、つまり、0にされる。
【0059】
図10は、上下限閾圧決定サブルーチンを実行するサブルーチンのフローチャートを示す。このフローチャートに従う処理では、S31において、アキュムレータ温度Tが20℃、つまり、基準温度であるかどうかが判定され、20℃である場合には、上限閾圧PUは基準上限閾圧P20U,下限閾圧PLは基準下限閾圧P20Lとさせられる。S33においては、アキュムレータ温度Tが微低温時、つまり、T20>T≧T0にあるかどうかが判定され、微低温時にある場合は、S34において、上述の式に従って上限閾圧PUおよび下限閾圧PLがそれぞれ算出される。S35においては、アキュムレータ温度Tが低温時、つまり、T0>Tにあるかどうかが判定され、低温時にある場合は、S36において、上述の式に従って上限閾圧PUおよび下限閾圧PLがそれぞれ算出される。S37においては、アキュムレータ温度Tが微高温時、つまり、T20<T≦T50にあるかどうかが判定され、微高温時にある場合は、S38において、上述の式に従って上限閾圧PUおよび下限閾圧PLがそれぞれ算出される。アキュムレータ温度Tが上述のいずれの判定にも当てはまらない場合は、アキュムレータ温度Tが高温時、つまり、T50<Tにあると判定し、S39において、上述の式に従って上限閾圧PUおよび下限閾圧PLがそれぞれ算出される。なお、アキュムレータ温度Tは、初期値が基準温度である20℃にされている。
【0060】
図11には、ポンプ作動制御サブルーチンのフローチャートを示す。このフローチャートに従う処理では、S51において、フラグF1によって、ポンプ30が停止中か、あるいは、作動中かが判定される。フラグF1は、ポンプ30が停止中の場合には0とされており、作動中の場合には1とされている。ポンプ30が停止中と判定された場合には、S52において、アキュムレータ圧Pが下限閾圧PLを下回っているかが判定される。アキュムレータ圧Pが下限閾圧PLを下回っている場合には、ポンプ30が作動させられ、フラグF1が1とされる。一方、S51において、ポンプ30が作動中と判定された場合には、S55において、アキュムレータ圧Pが上限閾圧PUを上回っているかが判定される。アキュムレータ圧Pが上限閾圧PUを上回っている場合には、ポンプ30が停止させられ、フラグF1が0とされる。
【0061】
なお、車両のイグニッションがONとされる度に、液圧源装置制御プログラムは初期化される。その初期化によって、アキュムレータ温度Tは基準温度である20℃とされ、また、フラグF1,F2,ポンプ作動時間tの各々も0とされて、プログラムの実行が開始される。なお、20℃における閾圧、つまり、基準上限閾圧P20U,基準下限閾圧P20Lや、それらの閾圧におけるガス室R2の容積である上限圧時基準容積V20U,上限圧時基準容積V20Lは、あらかじめ計測された値がECU60に格納されている。
【0062】
≪制御プログラムとECUの機能部≫
ECU60において、液圧源装置制御プログラムの実行は、液圧源装置制御部64において行われると考えることができ、また、その液圧源装置制御部64は、上述したサブルーチンを実行するいくつかの機能部を有すると考えることができる。具体的には、図1に示すように、液圧源装置制御部64には、温度推定サブルーチンを実行する温度推定部90,上下限閾圧決定サブルーチンを実行する上下限閾圧決定部92,ポンプ作動制御サブルーチンを実行するポンプ作動制御部94を有していると考えることができる。つまり、温度推定部90は、ポンプ30が作動している状態におけるアキュムレータ圧の昇圧速度に基づいてアキュムレータ温度Tを推定するアキュムレータ温度推定部と、上下限閾圧決定部92は、下限閾圧PLと上限閾圧PUとの少なくとも一方をアキュムレータ温度Tに基づいて変更する閾圧変更部と、ポンプ作動制御部94は、アキュムレータ圧を所定範囲内に維持するアキュムレータ圧維持制御部と、それぞれ考えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
請求可能発明の液圧源システムは、上述した車両用液圧ブレーキシステムを始めとして、液圧によって作動する懸架シリンダを有する車両用サスペンションシステム等、広い分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0064】
30:ポンプ 32:アキュムレータ 34:液圧源装置 60:電子制御ユニット(制御装置) 72:ベローズ(区画部材) 90:温度推定部(アキュムレータ温度推定部) 92:上下限閾圧決定部(閾圧変更部) 94:ポンプ作動制御部(アキュムレータ圧維持制御部) R1:作動液室 R2:ガス室
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)作動液を吐出するポンプと、(b)区画部材によって内部が作動液室とガス室とに区画され、前記ポンプから吐出された作動液をその作動液室に貯めるアキュムレータとを備えた液圧源装置と、
そのポンプの作動を制御する制御装置と
を含んで構成される液圧源システムであって、
前記制御装置が、
アキュムレータ圧が下限閾圧を下回った場合に前記ポンプの作動を開始させ、アキュムレータ圧が上限閾圧を上回った場合に前記ポンプの作動を停止させることで、アキュムレータ圧を所定範囲内に維持するアキュムレータ圧維持制御部と、
前記下限閾圧と前記上限閾圧との少なくとも一方を、前記アキュムレータの温度に基づいて変更する閾圧変更部と
を有する液圧源システム。
【請求項2】
前記アキュムレータが、それの内部に前記区画部材としての金属製ベローズを有し、その金属製ベローズによって内部が前記作動液室と前記ガス室とに区画されるように構成された請求項1に記載の液圧源システム。
【請求項3】
前記閾圧変更部が、
前記アキュムレータの温度が、前記基準温度以下に設定された設定低温度よりも低い場合に、前記上限閾圧を、前記基準上限閾圧より低くなるように変更する請求項1または請求項2に記載の液圧源システム。
【請求項4】
前記閾圧変更部が、
前記アキュムレータの温度が、前記基準温度以上に設定された設定高温度よりも高い場合に、前記下限閾圧を、前記基準下限閾圧より高くなるように変更する請求項3に記載の液圧源システム。
【請求項5】
前記閾圧変更部が、
前記アキュムレータ圧がその下限閾圧となった場合の前記作動液室と前記ガス室との一方の容積とその上限閾圧となった場合のその一方の容積との差が、前記アキュムレータの温度に依らず一定となるように、前記下限閾圧と前記上限閾圧との少なくとも一方を変更する請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の液圧源システム。
【請求項6】
前記制御装置が、
前記アキュムレータの温度を、前記ポンプが作動している状態におけるアキュムレータ圧の昇圧速度に基づいて推定するアキュムレータ温度推定部を有し、閾圧変更部が、そのアキュムレータ温度推定部によって推定された前記アキュムレータの温度に基づいて、前記下限閾圧と前記上限閾圧との少なくとも一方を変更するように構成された請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載の液圧源システム。
【請求項1】
(a)作動液を吐出するポンプと、(b)区画部材によって内部が作動液室とガス室とに区画され、前記ポンプから吐出された作動液をその作動液室に貯めるアキュムレータとを備えた液圧源装置と、
そのポンプの作動を制御する制御装置と
を含んで構成される液圧源システムであって、
前記制御装置が、
アキュムレータ圧が下限閾圧を下回った場合に前記ポンプの作動を開始させ、アキュムレータ圧が上限閾圧を上回った場合に前記ポンプの作動を停止させることで、アキュムレータ圧を所定範囲内に維持するアキュムレータ圧維持制御部と、
前記下限閾圧と前記上限閾圧との少なくとも一方を、前記アキュムレータの温度に基づいて変更する閾圧変更部と
を有する液圧源システム。
【請求項2】
前記アキュムレータが、それの内部に前記区画部材としての金属製ベローズを有し、その金属製ベローズによって内部が前記作動液室と前記ガス室とに区画されるように構成された請求項1に記載の液圧源システム。
【請求項3】
前記閾圧変更部が、
前記アキュムレータの温度が、前記基準温度以下に設定された設定低温度よりも低い場合に、前記上限閾圧を、前記基準上限閾圧より低くなるように変更する請求項1または請求項2に記載の液圧源システム。
【請求項4】
前記閾圧変更部が、
前記アキュムレータの温度が、前記基準温度以上に設定された設定高温度よりも高い場合に、前記下限閾圧を、前記基準下限閾圧より高くなるように変更する請求項3に記載の液圧源システム。
【請求項5】
前記閾圧変更部が、
前記アキュムレータ圧がその下限閾圧となった場合の前記作動液室と前記ガス室との一方の容積とその上限閾圧となった場合のその一方の容積との差が、前記アキュムレータの温度に依らず一定となるように、前記下限閾圧と前記上限閾圧との少なくとも一方を変更する請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の液圧源システム。
【請求項6】
前記制御装置が、
前記アキュムレータの温度を、前記ポンプが作動している状態におけるアキュムレータ圧の昇圧速度に基づいて推定するアキュムレータ温度推定部を有し、閾圧変更部が、そのアキュムレータ温度推定部によって推定された前記アキュムレータの温度に基づいて、前記下限閾圧と前記上限閾圧との少なくとも一方を変更するように構成された請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載の液圧源システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−112459(P2012−112459A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262352(P2010−262352)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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