説明

液封マウント。

【課題】インテークマニホールドを流通する空気の負圧を利用して二つの流路の切換えを行うものにおいて、切換部材が流通する液体の圧力を受けないようにして簡単で確実に作動する。
【解決手段】仕切体3に受圧室2と平衡室6とを連通する第一流路9と第二流路10とを並列に形成した液封マウントにおいて、流動抵抗の小さい方の第二流路10の途中に制御流路14を形成し、この制御流路14に液の流通方向と直角な方向に進退して制御流路14を遮断、開通する遮断板15を弾性バッグ16の膨張、収縮で作動させるとともに、弾性バッグ16とインテークマニホールドとを連通し、インテークマニホールド内の空気圧が負圧になると弾性バッグ16が収縮して遮断板15を後退させて制御流路14を開通し、大気圧になると膨張状態に復元して遮断板15を進出させて制御流路14を遮断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の振動の抑制を図る液封マウントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車では、エンジンが発する振動や路面から伝わる様々な振動が車内に伝達される。このため、この振動を抑制して乗り心地を向上させるために要所に防振ゴムが用いられている。この防振ゴムの一つにエンジンと車体との間に介在させる防振マウントがある。
【0003】
ところが、上記したように車内に伝達される振動は種々の周波数を有している。例えば、車両が停止しているときに発生する20〜40Hz付近のアイドル振動、アクセルペダルを踏み込んで急加速するときに発せられる高周波域の加速時振動といったものがある。さらに、路面の凹凸等でエンジン自体を揺らせることで発せられるその質量等に起因する10Hz付近のシェイク振動といったものもある。
【0004】
そこで、これらの振動を抑制するために、ゴム弾性体の中に液が封入された受圧室と平衡室とを隔設し、両液室を流路で連通した液封マウントが用いられている。液封マウントによれば、入力振動に基づいて受圧室が膨張、収縮するときに流路に液が流れ、その流動抵抗によって減衰が図られる。
【0005】
すなわち、流路に液が流れる場合、その移動液の容量等に基づく共振周波数を有している。移動液の共振周波数と減衰係数との関係は、ある周波数で移動液が共振して減衰係数はピークを迎え、その後は周波数が高くなるにつれて漸減する。一方、移動液の共振周波数と動ばね定数との関係は、共振周波数(減衰ピーク)直前で動ばね定数はボトムを有し、その後は一気に高くなる性質がある。この周波数を抑制対象の周波数と一致させることで、当該周波数の振動における減衰効果或いは低動ばねを図っている。
【0006】
しかし、この現象を利用したとしても、一つの流路だけでは、異なる周波数の様々な振動すべてに対応するのは難しい。そこで、最近では、二つの液室を(断面積×流路長)に基づく流動抵抗の異なる二つの流路で連通し、抑制対象の周波数に応じてこれを切り換えるものが提案されている(下記特許文献1及び2)。具体的には、低動ばねを期待するときには流動抵抗の小さい方に液を流し、このときの移動液の共振周波数を対象周波数付近にチューニングしておくことで、動ばね定数のボトムを得るようにしている。
【0007】
一方、減衰効果を期待するときには流動抵抗の大きい方に液を流し、このときの移動液の共振周波数を抑制対象周波数にチューニングしておくことで、減衰のピークを得るようにしている。一般的には、低動ばねが求められる周波数は減衰が求められる周波数より高いことから、多くの場合、前者はアイドル振動か加速時振動、後者はシェイク振動等に設定されている。ところで、二本の並列した流路が存在する場合、液を流す流路を選択する切換え機構を有していないと、液は流動抵抗の小さい方の流路に優先的に流れるため、流動抵抗の大きい方の流路については期待する効果が得られない。このため、複数の流路を有する場合は何らかの切換え機構を必要とする。
【0008】
例えば、車両の停止時と走行時で流路の切換えを行う場合、エンジンの吸気圧を利用する場合がある。これは、吸気管(インテークマニホールド)内の圧力が、停止時はバタフライ弁が閉鎖されて気圧が下がり、走行時はバタフライ弁が開放されて気圧が大気圧に近い状態になることを利用するものであり、この気圧の変化によって流路の切換えを行うものである。
【0009】
このような気圧の変化を利用すると、マウント内に特別な電気機器も必要ないため、液体に対する信頼性も高い。そこで、最近では、この気圧の差を利用して二つの流路のうちの一方を遮断したり、開通させたりするものがあり、上記した特許文献1及び2の発明もそうである。しかし、これら特許文献1及び2の発明に共通して言えることは、流路の液の圧力が直接に切換機構を構成する切換部材(ゴム弾性壁70及びピストン48)に影響を与えるようになっている点である。
【0010】
このため、この圧力に抗して切換部材を動かすには、エンジンの吸気圧程度の負圧で必要な駆動力を得るために負圧室の受圧面は必然的に大きく(広く)せざるを得ず、そのために大きなスペースを要することになる。つまり、従来型の液封マウントよりは大きなサイズのものになってしまうことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−310274号公報
【特許文献2】特開平05−223139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、インテークマニホールドを流通する空気の負圧を利用して流路の切換えを行うものであるが、切換部材が流路を流れる液の圧力を受けないで作動するようにして従来と同じサイズに納まるようにしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以上の課題の下、本発明は、請求項1に記載した、ゴム弾性体の中に液が封入された受圧室と平衡室とを仕切体で仕切って隔設するとともに、仕切体に受圧室と平衡室とを連通する第一流路と第二流路とを並列に形成した液封マウントにおいて、流動抵抗の小さい方の第二流路の途中に制御流路を形成し、この制御流路に液の流通方向と直角な方向に進退して制御流路を遮断、開通する遮断板を弾性バッグの膨張、収縮で作動させるとともに、弾性バッグをインテークマニホールドとを連通し、インテークマニホールド内の空気圧が負圧になると弾性バッグが収縮して遮断板を後退させて制御流路を開通し、大気圧になると膨張状態に復元して遮断板を進出させて制御流路を遮断することを特徴とする液封マウントを提供したものである。
【0014】
また、本発明は、以上の液封マウントにおいて、請求項2に記載した、第一流路が仕切体の外周又は内周に周設されており、第二流路が仕切体の内部に形成されている手段、請求項3に記載した、弾性バッグがジャバラ状、ダイアフラム状又は袋状をしている手段を提供する。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明は、流路の切換えを流動抵抗の少ない方の第二流路に形成した制御流路を遮断、開通して行うものであるが、制御流路の遮断、開通を制御する遮断板の動きに対しては制御流路を流通する液の圧力を直接受けない。ただ、遮断板が進出するときには、液の摩擦抵抗は受けるが、僅かなものである。したがって、遮断板を動かすのに受圧面の大きな負圧室は必要ない。すなわち、従来型の液封マウントのサイズで足りることになり、液封マウントの取付けに変更を要しない。また、コスト、重量ともに僅かな上昇で止まる。
【0016】
請求項2の手段によれば、仕切体にすべての流路やこれを遮断、開通する部材を組み込むことができて構造やサイズの変更を要しない。また、第一流路の流路長を長くでき、流動抵抗を大きくするのが比較的容易である。さらに、遮断板を作動させる弾性バッグには請求項3のようなものが考えられ、いずれも簡単で小さなサイズのもので足りる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る液封マウントの断面図である。
【図2】図1のA−A矢視図である。
【図3】仕切体の正面図である。
【図4】本発明の作用を示す説明図である。
【図5】第一流路の形成を示す他の例の仕切体の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は本発明に係るエンジン用の液封マウントの断面図、図3はこれを構成する仕切体の正面図である。液封マウント自体は既に公知であり、ここでは詳細な説明は省略するが、要は、ゴム弾性体1の下部に凹みを形成し、これを受圧室2とする。受圧室2の下部には剛体からなる仕切体3をあてがい、仕切体3の下部を必要な個所のみに孔をあけた蓋板4で蓋をしてその下部にも空間を形成し、この空間に蓋板4側に弾性付勢されるダイアフラム5を装設し、蓋板4とダイアフラム5との間を平衡室6としたものである。
【0019】
以上の各部材は金属筒7に収容するとともに、ゴム弾性体1の上部に金属製の芯材8を挿設している。そして、金属筒7と芯材8とを振動部材と車体とに連結して防振を図るようになっている。本例では、受圧室2と平衡室6との間を二つ並列した流路で連通し、これらに液を充填して液封マウントとしている。二つの流路は第一流路9と第二流路10とからなり、このうち、第一流路9は第二流路10に対して断面積を小さく、流路長も長くして流動抵抗を大きくしている。本例では、第一流路9及び第二流路10ともに仕切体3に形成しており、第一流路9は仕切体3の外周に凹溝を形成して周設し、第二流路10は仕切体3の内部に形成している。
【0020】
図2は図1のA−A矢視図、図4は第一及び第二流路9、10を模式的に示す説明図であるが、第一流路9は受圧室2と平衡室6に臨む部分にそれぞれ流出入口11を形成して受圧室2と平衡室6とを連通させるものとしている。第二流路10は受圧室2に通ずる受圧室側縦孔12と平衡室6側に通ずる平衡室側縦孔13とを形成し、間の部分で水平に形成しており、これを制御流路14と称する。本例では、制御流路14にこの制御流路14を遮断、開通する遮断板15を設ける。遮断板15は制御流路14の中で液の流通方向と直角な方向に進退するものであり(進退に際して液の圧力を受けない)、進出すると液の流通を遮断し、後退すると液の流通を開通するものにしている。
【0021】
遮断板15の進退はこれに連結された弾性バッグ16で行う。本例の弾性バッグ16は制御通路14の傍に設けられたスペース17に収容されており、中が空洞になったジャバラ状のものである。そして、その先端に遮断板14が取り付けられ、後端は開口して中に空気管18が挿入されているものである。弾性バッグ16は制御流路14側に膨張状態で弾性付勢されており、中が大気圧となっているときには、膨張状態に復元して遮断板15は制御流路14を遮断しており、中が負圧になると、収縮して遮断板15を後退させて制御流路14を開通させる仕組みになっている。
【0022】
空気管18は適宜なホースやパイプ19で繋がれてエンジンのインテークマニホールド(図示省略)に連通しており、エンジンがアイドル回転してバタフライ弁が閉じているときには中が負圧になる。これに伴って弾性バッグ16は収縮し、遮断板15を後退させて制御流路14、すなわち、第二流路10を開通させる。したがって、受圧室2と平衡室6との液は流動抵抗の小さな第二流路10のみを流れ、このときの第二流路10の移動液の共振周波数を抑制対象周波数(例えば,20〜40Hz付近のアイドル振動)付近にチューニングしておくと、動ばね定数はこの周波数付近の周波数でボトムを呈し、低動ばねを最大限に得ることができる。
【0023】
一方、アクセルペダルを踏み込むと、バタフライ弁は開き、大気は大量にインテークマニホールド内に流れ込み、大気圧かそれに近い状態になる。この状態のときには弾性バッグ16は膨張状態に復元して遮断板15を進出させて第二流路10を遮断する。すると、液は流動抵抗の大きい第一流路9を流れざるを得なくなるが、このとき、第一流路9の移動液の共振周波数を抑制対象周波数(例えば、10Hz付近のシェイク振動)にチューニングしておくと、減衰はこの周波数でピークを呈し、大きな減衰効果を得られる。
【0024】
図6は第一流路9の形成を仕切体3の内周に形成したものであるが、これによっても十分な流路長がとれるものになる。これによると、第一流路9が仕切体3の外周で保護され、液漏れ等の少ないものになる。
【0025】
ところで、二つの流路の切換えによって抑制しようとする振動は上記したアイドル振動やシェイク振動に限定されるものではなく、他の周波数を有する振動であってもよい。要は、抑制対象とする振動に対して最大の減衰効果及び低動ばねを達成できればよいのである。そのために二つの流路におけるそれぞれの移動液の共振周波数は当該振動の周波数にチューニングされるのはいうまでもない。
【0026】
以上は本発明の基本的な形態であるが、本発明は、この他に種々の形態をとることがある。例えば、弾性バッグはジャバラ状のものにしたが、これは膨張量を大きくできるからであり、その他に単なる袋状のものやダイヤフラムのようなものであってもよい。要は、、中が負圧になると収縮して遮断板を後退させ、大気圧かそれに近い圧力になると、膨張状態に復元して遮断板を進出させるものであればよい。また、第二流路の流動抵抗を第一流路の流動抵抗より小さくしたが、チューニング周波数の関係で、第一流路、第二流路ともに同一の流動抵抗を有する流路とすることもある。
【符号の説明】
【0027】
1 ゴム弾性体
2 受圧室
3 仕切体
4 蓋板
5 ダイアフラム
6 平衡室
7 金属筒
8 芯材
9 第一流路
10 第二流路
11 流出入口
12 受圧室側縦孔
13 平衡室側縦孔
14 制御流路
15 遮断板
16 弾性バッグ
17 スペース
18 空気管
19 ホースやパイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム弾性体の中に液が封入された受圧室と平衡室とを仕切体で仕切って隔設するとともに、仕切体に受圧室と平衡室とを連通する第一流路と第二流路とを並列に形成した液封マウントにおいて、流動抵抗の小さい方の第二流路の途中に制御流路を形成し、この制御流路に液の流通方向と直角な方向に進退して制御流路を遮断、開通する遮断板を弾性バッグの膨張、収縮で作動させるとともに、弾性バッグとインテークマニホールドとを連通し、インテークマニホールド内の空気圧が負圧になると弾性バッグが収縮して遮断板を後退させて制御流路を開通し、大気圧になると膨張状態に復元して遮断板を進出させて制御流路を遮断することを特徴とする液封マウント。
【請求項2】
第一流路が仕切体の外周又は内周に周設されており、第二流路が仕切体の内部に形成されている請求項1の液封マウント。
【請求項3】
弾性バッグがジャバラ状、ダイアフラム状又は袋状をしている請求項1又は2の液封マウント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−13193(P2012−13193A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152550(P2010−152550)
【出願日】平成22年7月3日(2010.7.3)
【出願人】(000157278)丸五ゴム工業株式会社 (25)
【Fターム(参考)】