説明

液晶デバイスおよび液晶デバイスの駆動方法

【課題】光学応答速度を高くした場合であっても、コントラストの低下を効果的に抑制可能な液晶デバイスを提供する。
【解決手段】一対の基板と、該一対の基板の間に配置された液晶材料とを少なくとも含む液晶素子と、該液晶素子への電場を印加するための電場印加手段とを少なくとも含む液晶デバイス。該電場印加手段は、前記液晶素子において、印加電場方向間の配向エネルギー差異(TINT)をキャンセルするための逆方向の電場(−TINT)を印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた光学応答速度で、且つ優れたディスプレイ性能を実現可能な液晶デバイスに関する。より詳しくは、本発明は、優れた光学応答速度で、且つ、特に低階調における微小な光学応答速度の遅延を解消することが可能な液晶デバイスに関する。
【0002】
近年、いわゆる「ユビキタス社会」を目指す技術の進展とも相まって、ディスプレイ技術全般に対する高速化、小型化、高品質化等の種々のニーズが高度化している。このようなニーズに応えるために、小型化および省電力化の点でユビキタス対応の優位性を有する液晶デバイスの分野においても、優れた光学応答速度で、且つ優れたディスプレイ性能を実現可能な液晶デバイスに対する需要は高まる一方である。
【0003】
例えば、文献International Workshop on Active Matrix Liquid Crystal Display in Tokyo(1999), “Ferroelectric Liquid Crystal Display with Si Backplane”; A. Mochizuki, pp.181-184(非特許文献1); 同書(ibid.)“A Full-color FLC Display Based on Field Sequential Color with TFT’s”, T.Yoshiharaらpp.185-188(非特許文献2)等の、時分割カラー表示に関する論文に記載されているように、時分割カラーは同じ一つの画素を用いて時間的に順番に赤、緑、および青色を現す。時分割カラーを実現するための高速光学応答は、このシステムにおいて最も重要である。色割れ現象を起こすことなく自然なカラー画像を示すためには、(従来のマイクロカラーフィルタカラー再生方式のそれよりも3倍のフレーム周波数を有するために)液晶スイッチングにおいて少なくとも3倍速い光学応答が、通常は必要とされる。
【0004】
更に、TFTを用いたアナログ諧調表示可能なネマチック液晶を用いた時間分割カラー方式による表示方式においては、文献”Denshi Gijyutsu (Electronics Technology)”, July, 1998 in Tokyo “Liquid Crystal fast response technology and its application” ; M. Okita, pp.8-12(非特許文献4)に記載されているように高開口率および高解像度の両方を可能にする。
【0005】
しかしながら、この方式は図25に示すようなTN光学応答プロファイルの性質のため、高開口率の利点を充分に利用することができなかった。白色の連続発光バックライトを有する従来型カラーフィルタ方式と時分割カラー方式間には、バックライト処理能力に極めて大きな差がある。従来型カラー表示方式においては、パネルの開口率は直接的に光処理能力および画像品質を示す。
【0006】
他方、時分割カラー方式においては、光処理能力およびコントラスト比およびカラー純度等の画像品質は、液晶光学応答プロファイルとバックライト発光タイミング間の特性の組み合わせとして決定される。TN−LCDにおける立下りプロファイルのため、バックライト発光タイミングの大部分は光学応答として用いられない。更に、この「すそ引き立下り」プロファイルは、次のフレームバックライト発光に届くケースにおいて、混色の可能性があることを示す。また更に、「黒」レベルでの光漏洩のために、コントラスト比の優位な低下が混色と同時に起きる傾向があり、したがって、ディスプレイ性能の劣化を招くことがあった。
【0007】
【非特許文献1】International Workshop on Active Matrix Liquid Crystal Display in Tokyo(1999), “Ferroelectric Liquid Crystal Display with Si Backplane” A. Mochizuki, pp.181-184,
【非特許文献2】International Workshop on Active Matrix Liquid Crystal Display in Tokyo(1999), “A Full-color FLC Display Based on Field Sequential Color with TFT’s”, T.Yoshiharaら、pp.185-188
【非特許文献3】Denshi Gijyutsu (Electronics Technology)”, July, 1998 in Tokyo “Liquid Crystal fast response technology and its application” ; M. Okita, pp.8-12
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記した従来技術の欠点を解消可能な液晶デバイスを提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、光学応答速度を高くした場合であっても、コントラストの低下(特に、低階調におけるコントラストの低下)を効果的に抑制可能な液晶デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意研究の結果、高速動作可能な液晶デバイスにおいては、該液晶デバイスの構成要素である液晶素子において、印加電場方向間の配向エネルギー差(TINT)により、コントラストの低下が生じていることを見出した。
【0011】
本発明者は更に研究を進めた結果、このような印加電場方向間の配向エネルギー差異(TINT)をキャンセルするための逆方向の電場(s印加電場:−TINT)を印加することが、上記目的の達成のために極めて効果的なことを見出した。
【0012】
本発明の液晶デバイスは上記知見に基づくものであり、より詳しくは、一対の基板と、該一対の基板の間に配置された液晶材料とを少なくとも含む、高速動作可能な液晶素子と、該液晶素子への電場を印加するための電場印加手段とを少なくとも含む液晶デバイスであって;前記電場印加手段が、前記液晶素子において、印加電場方向間の配向エネルギー差異(TINT)をキャンセルするための逆方向の電場(−TINT)を印加することが可能な電場印加手段であることを特徴とするものである。
【0013】
本発明によれば、更に、一対の基板と、該一対の基板の間に配置された液晶材料とを少なくとも含む液晶素子と、該液晶素子への電場を印加するための電場印加手段とを少なくとも含む液晶デバイスの駆動方法であって;前記電場印加手段から、前記液晶素子において、印加電場方向間の配向エネルギー差異(TINT)をキャンセルするための逆方向の電場(−TINT)を印加することを特徴とする駆動方法が提供される。
【0014】
上記構成を有する本発明の液晶デバイスについて、その本発明者の推定による動作メカニズムを、以下に他の液晶デバイスの動作と比較しつつ述べる。
【0015】
(界面分極による内部電場)
液晶ディスプレイは、液晶分子の配向変化に伴う光学特性の変化を視覚変化に変換したものである。このため、液晶ディスプレイ技術においては、所望の初期分子配向を得ることが非常に重要である。
【0016】
従来より、液晶ディスプレイ技術において、液晶分子に関して所望の配向を得るための手法としては、機械式ラビング法、SiO蒸着法、化学処理法等、多岐にわたる手法が提案されてきた。
【0017】
これらの中で、例えば、機械式ラビング方法においては、液晶セル基板を直接、または基板上に設けた配向膜を不織布等で擦ることにより、該配向膜に対して、液晶への配向能力を付与している。しかしながら、この機械式ラビング手法において、上下各々の基板表面状態を完全に同一とすることは物理的にも不可能である。例えば片方の基板に薄膜トランジスタを用いたLCD装置において、上下基板における配向膜状態は、基板の凹凸に伴い異なることは容易に理解できる。
【0018】
一般的誘電体物性論においては、図1の模式断面図に示すように、異なる誘電体が接する界面近傍では、時間遅れを伴う表面電荷の蓄積が発生することが界面分極として知られている。各材料の誘電率と導電率を、それぞれε0、σ、ε1、σ、としたとき、発生する表面電荷密度(ρ)は、下記式(1)で記述することができる。
【数1】

【0019】
上記式(1)中、Jは界面に垂直な方向に流れる電流密度の成分である。この式(1)から、発生する表面電荷(ρ)は、各々の材料における誘電率と導電率比の差異に依存することが理解できよう。
【0020】
更に、実際の液晶ディスプレイにおいては、図2の模式断面図に示すように、上下基板界面近傍における、液晶層と配向膜が全く同一の誘電率と導電率でない限り、各々発生した界面分極の差異を無くすことは不可能であり、巨視的に見た内部電場として、少なからず基板内部に存在することが理解できよう。特に、外部から印加された電場強度が、本内部電場強度と近づくに従い、意図した電場強度が液晶に印加されない状態となり階調制御を目的とした電気光学応答に影響を及ぼす可能性があることとなる。
【0021】
(既存技術とPSS−LCDにおける微小光学応答遅延の影響)
もともと低速な応答を示すツイステッドネマチック液晶ディスプレイ(以下「TN−LCD」と略称する)等においては、特に微小な電気光学応答遅延は問題にならなかった。これは、本発明者の知見によれば、以下の理由によるものと考えられる。
【0022】
すなわち、TN−LCDは、一般に図3のグラフに示すような印加電圧の実効値に応じ、光強度が連続的に変化する技術(すなわち、アナログ階調表示が可能な技術)である。一般的に求められる動画表示書き換え時間は、通常は、60Hz、16.7msec程度とされているが、TN−LCDにおける電気光学応答速度は30msec程度と極めて遅く、適用されるアプリケーションが限定されるためにこれまで電気光学応答の微小な遅延は問題視されることは、事実上は無かった。例えば、図4のグラフに示すように、フレームレートに対する遅延時間が充分小さな場合には、累積としての光漏れは微小となる。他方、図5のグラフに示すように、フレームレートが「より高速」な用途においては、これら遅延のとしての光漏れがコントラスト低下の原因となり得る。
【0023】
また、図6のグラフに示すように、TN−LCDはフレデリクス転移による1V程度の閾値を有するために、特に低電圧時における光学応答の遅延については、実質的に問題にならなかった。
【0024】
他方、強誘電性液晶ディスプレイ(以下「FLCD」と略称する)は、一般的には高速に応答することが知られている。このFLCDにおいては、図7のグラフに示すように、一般的には、印加電場の強度による光強度は変わらずに、印加電場の極性のみに依存して明暗の区別が行われる。FLCDの場合は、図8の模式斜視図に示すように、自発分極が存在するため、自己の持つ自発分極を補償しようとする作用のひとつとしてDepolarization Field(反電場)が発生する。この反電場が、本明細書において議論の対象となる「内部電場」として作用する。
【0025】
本出願人が先に提案した分極遮蔽型スメクチック液晶表示(以下「PSS−LCD」と略称する;このPSS−LCDの詳細については、例えば、特表2006−515935号公報を参照することができる)技術は、上記した自発分極を有しない液晶素子を得ることが可能で、且つ、該液晶素子において、150マイクロ秒程度における電気光学応答が可能であり、しかも印加電圧に応じた連続的階調表示が可能な技術である。このPSS−LCDにおいては、本発明の「逆方向電場の印加」が(例えば、低階調における微小な光学応答速度の遅延による性能劣化の抑制の点において)特に効果的である。
【発明の効果】
【0026】
上述したように本発明によれば、光学応答速度を高くした場合であっても、コントラストの低下(特に、低階調におけるコントラストの低下)を効果的に抑制可能な液晶デバイスが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ本発明を更に具体的に説明する。以下の記載において量比を表す「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準とする。
【0028】
(液晶デバイス)
本発明の液晶デバイスは、一対の基板と、該一対の基板の間に配置された液晶材料とを少なくとも含む高速動作可能な液晶素子と、該液晶素子への電場を印加するための電場印加手段とを少なくとも含む液晶デバイスである。本発明において、この電場印加手段は、印加電場方向間の配向エネルギー差異(TINT)をキャンセルするための逆方向の電場(−TINT)を印加することが可能な電場印加手段である。
【0029】
(液晶素子)
本発明に適用可能な液晶素子は、一対の基板と、該一対の基板の間に配置された液晶材料とを少なくとも含む高速動作可能な液晶素子である。ここに、「高速動作可能な液晶素子」とは、電気光学応答の立下り時間が3msec以下の電気光学応答が可能な液晶素子を言う。本発明が適用可能な液晶素子は、更には同電気光学応答が1msec以下が可能な液晶素子であることが好ましい。この理由については以下の通りである。
【0030】
(立下り時間の定義)
理想的には図26の曲線aに示すように、電気光学応答の立上り・立下りが急峻であれば、充分な時間遮光状態を保持することが可能である。しかしながら、曲線bに示すように立下り時間に時間を要する場合、完全な遮光状態に到達する前に次の表示書き換え(曲線cで示す)が発生するために、光漏洩が発生しコントラストが低下することとなる。したがって、ここでいう立下り時間は光量100%が0%となるまでの時間と定義する。
【0031】
(高速応答の定義)
より具体的な説明として、放送波やビデオ信号における1画面の書き換え周期は16.7msecである。時分割カラー方式においては最低でもその3倍の書きかえ周期として5.6msecを必要とする。本発明における高速応答時間は、目標輝度に到達するまでの時間が5.6msecよりも充分速い応答速度を必要とすることを意味するが、立下り時間として要求される応答速度は、好ましくは5.6msecの半分である2.8msec以下、より好ましくは2.8msecよりも充分速い速度が好適である。本発明において、「2.8msecよりも充分速い速度」とは、例えば、1msec以下(更には0.5msec以下)の応答を言う。
【0032】
(電場印加手段)
本発明に適用可能な電場印加手段は、液晶素子における印加電場方向間の配向エネルギー差異(TINT)をキャンセルするための逆方向の電場(−TINT)を印加することが可能な電場印加手段である限り、特に制限されない。
【0033】
(電場印加手段の具体例)
本発明において使用可能な電場印加手段は、例えば、液晶素子を透過した透過光を利用して、該液晶素子の電気光学応答速度を解析するための応答速度解析手段と、該応答速度解析手段からの信号に応じて、前記液晶素子に印加すべき電圧を調節する印加電場調整手段とを少なくとも含むことが好ましい。
【0034】
(応答速度解析手段)
前記応答速度解析手段は、液晶素子を透過した透過光を測定するための受光手段(例えば、PMT=フォトマルチプライヤー、等)と、該受光手段からの信号を解析するための解析手段(例えば、デジタルオシロスコープ、コンピュータ、等)を含むことが好ましい。
【0035】
(印加電場調整手段)
前記印加電場調整手段は、前記液晶素子に印加すべき電圧を発生させるための波形発生手段と、該波形発生手段を制御するための制御手段(例えば、コンピュータ、等)を含むことが好ましい。前述した受光手段からの信号を解析するための解析手段と、この波形発生手段を制御するための制御手段とは、例えば、同一のコンピュータであってもよい。
【0036】
(電場印加手段の好ましい態様)
本発明において好適に使用可能な電場印加手段の一例を、後述する図18のブロック図に示す。
【0037】
(電場印加手段の好ましい様態)
本発明において好適に使用可能な電場印加手段の一例を、後述する図18のブロック図に示す。被測定対象となるLCDパネルをクロスニコル関係に配置される偏向子と検光子の間に挿入し、透過光の最小光量を与える角度を得るためにθ軸ステージを回転させ、LCDパネルの配置角度を決定する。
【0038】
波形発生装置からは任意波形をLCDパネルに対して印加する。コンピュータおよび該コンピュータにインストールされた任意波形生成ソフトウェアにより生成された波形データはコンピュータから波形発生装置へ転送、かつ波形発生装置を制御することにより、印加波形(例えば、パルス幅、波高値、波形形状、周期等)の制御を行う。電気光学応答を表示するためのデジタルオシロスコープ画面において、低諧調表示近傍におけるすそ引き立下がりの電気光学応答プロファイルを測定し、これを最小とするように印加電場波形を制御することにより、配向エネルギー差異(TINT)を相殺する電場印加条件を得ることが可能である。すそ引き立下りまでの時間については、前述の立下り時間の定義に従い、該輝度までの到達時間を比較することで定義することが可能である。
【0039】
(PSS−LCDにおける電気光学応答遅延)
本発明において特に好適に使用可能な液晶素子は、上記したPSS−LCDである。分子構造の対称性が最も低いスメクチックC相等の液晶を用いるPSS−LCDにおいては、図9の模式斜視図に示すように、分子内の各永久双極子モーメントが異なる方向を有するため四重極子モーメントが発生する。外部から印加された電場は、この四重極子モーメントとカップリングすることで、図10の模式斜視図に示すように、印加する電場方向に四重極子モーメントのベクトル方向が追従することとなり、電場による配向制御を行うことを可能となる。
【0040】
前述の通り、バルクとして自発分極を有しない態様で液晶材料を用いるPSS−LCDにおいても、界面近傍の液晶分子と配向膜材料間において内部電場が発生する。この内部電場は、四重極子モーメントとカップリングすることにより、配向制御の妨げに寄与するエネルギーをもたらす。これらについては、本発明者の知見によれば、以下のような合理的説明が可能である。
【0041】
(内部電場−四重極子モーメントのカップリング)
図11および12の模式断面図は、各電場印加方向に応じた液晶分子の動きを模式的に表した図である。図11においては、t0の時点で、外部電場:E=+Vが内部電場発生方向と同じ方向に印加されている状態を示す。外部電場:E=0となったとき、初期配向位置へ戻ろうとするエネルギーTによりt1へ配向が変化する。特表平06−515935号(米国出願特許公開公報2004−196428号に対応、タイトル:Liquid Crystal Display Device)で既に述べられているように、PSS−LCDにおける液晶分子配向の全自由エネルギー密度:Fは、下記式(2)で表すことができる。
【0042】
【数2】

【0043】
上記式(2)中、felasは分子間における弾性エネルギー密度、fsufは界面相互エネルギーである。電場によるエネルギーfelecが変化したとき、Fを最小とするためにfelasおよびfsurfが配向制御に関わる。
【0044】
一方で、四重極子モーメントを有するPSS−LCDは、TN−LCD同様に電場:Eに対する配向制御エネルギー:Tは、下記式(3)で表すことができる。
【0045】
【数3】

【0046】
上記式(3)中、Δεは、Δεは、液晶材料の誘電率異方性を表し、Eは電場の強度を表す。
【0047】
PSS−LCDにおいて内部電場が存在する場合、初期配向位置へ戻ろうとするエネルギーに対して、PSS液晶分子の四重極子モーメントが内部電場とカップリングすることにより、内部電場強度:EINT、およびベクトル成分である液晶材料の誘電率異方性を下記式(4)で表した場合に、PSS−LCDの配向制御エネルギー:TINTは、下記式(5)で表すことができる。
【0048】
【数4】

【0049】
【数5】

【0050】
したがって、発生する配向制御エネルギーTINTについてもベクトル成分であることがわかる。この配向制御エネルギーTINTは、図11の場合では、外部電場方向に対して逆らおうとする方向に発生していることがわかる。また、逆方向から外部電場を印加した図12の場合においては、内部電場により発生するエネルギー:TINTがTを強調する方向に発生することがわかる。
【0051】
外部電場印加方向における各々の配向制御に関わるエネルギー総和をT(+)、T(−)としたとき、これらは、下記式(6)および(7)で表すことができる。
【0052】
T(+)=T+TINT ・・・・・・・・(6)
T(−)=T−TINT ・・・・・・・・(7)
【0053】
したがって、下記式(8)の関係が成り立つ。
T(+)<T(−)・・・・・・・・(8)
【0054】
上記式(8)から、電場印加方向によって光学応答に寄与するエネルギー量に差異が発生することがわかる。このエネルギー差異は、一般的運動法則の観点からも、図11、12におけるt0からt1の時点へ液晶分子が移動するときの加速度に影響を及ぼす。
【0055】
以上の考えに基づき、PSS−LCDにおける電気光学応答を測定したところ、図13のグラフに示すように、正極性電場印加状態:E=+10Vから、印加電場不存在状態:E=0Vの推移時において電気光学応答速度に遅延が確認された。以上のことから、PSS−LCDにおいて発生する内部電場が外部印加電場による分子配向制御に好ましくない影響を及ぼすことを確認した。
【0056】
(PSS−LCDにおける内部電場キャンセル方法のコンセプト)
上述したように、PSS−LCDにおいて発生する内部電場は、特に外部電場強度と近接する場合において、四重極子モーメントとのカップリングにより電気光学応答速度を低下させる原因となる。PSS−LCDが動作する動作モードであるノーマリーブラックモードにおいて、低階調時における光学応答速度を下記の手段を用いることで補償することが可能となる。
【0057】
本発明では、図14の模式断面図に示すように、内部電場と四重極子モーメントがカップリングして発生する配向制御エネルギー:TINTに対し、逆方向に相当する−TINTを与える外部電場を印加することを特徴とする手段を提供する。
【0058】
(エネルギーを与える手法の一例)
図15のグラフは、外部電場の制御により逆方向に相当するエネルギーを与える手法の一例である。電気光学応答を期待する電圧:±V印加後に、外部印加電圧が不存在となる場合において、逆極性の電圧を印加することによりエネルギー量を相殺することが可能となる。これにより光学応答の速度差異を補償することが可能となる。
【0059】
印加される波形の波高値、パルス幅、波形形状は次のような手順で決定することが可能である。
【0060】
電気光学応答を表示するためのデジタルオシロスコープ画面において、低諧調表示近傍におけるすそ引き立下がりの電気光学応答プロファイルを測定し、これを最小とするように印加パルスを制御する。例えば、図26における電気光学応答波形のすそ引き立ち下がりが最小となるよう、波高値、パルス幅や波形形状を変更することにより、前述のエネルギー量を相殺し、光学応答の速度差異を補償するパルス波形を決定することが可能である。
【0061】
(内部電場キャンセル方法コンセプトの変形)
PSS−LCDにおける四重極子モーメントについては、印加電場の時間変化:dV/dtが大きいほど、より有効に印加電場とカップリングする。本発明における内部電場強度は、たとえ微小であるとしても、液晶分子の動きが急激であれば、図16の模式斜視図に示すように、四重極子モーメントの強調が発生する。これにより内部電場が原因となる光学応答遅延は、更に助長されることとなる。
【0062】
また、前項で述べた内部電場キャンセル方法についても、dV/dtが大きな外部電場を印加することで、図17のグラフに示すように、内部電場と四重極モーメントがカップリングして発生するエネルギーを相殺するための大きなエネルギーを提供することが可能となる。
【0063】
(電場印加手段の好適な一態様)
電場印加手段の好適な一態様を、図18のブロック図に示す。この図18において、装置系の構成は、以下の通りである。
【0064】
波形発生装置出力を少なくとも二つ以上に分岐し、オシロスコープ入力端子および被測定対象となるLCDパネル電極部へ接続する。フォトマルチプライヤー出力を前記オシロスコープの別チャンネル入力へ接続する。また、波形発生装置を制御するための制御ポートは、コンピュータと接続される。フォトマルチプライヤーは電源供給、温度制御を行うため、それぞれ電源、温度制御装置と接続される。これにより、コンピュータにより印加電場を制御し、当該印加電場に応じた電気光学応答をオシロスコープ波形表示部に表示することが可能である。
(各装置の好適な一態様)
図18の装置系を構成する各装置の具体例は、以下の通りである。
フォトマルチプライヤー(温度制装置、電源):浜松フォトニクス製
デジタルオシロスコープ:テクトロニクス製TDS2014
波形発生装置:エヌエフ回路設計ブロック製WF1946A
光学顕微鏡:オリンパス製CX31
任意波形発生ソフトウェア:ナショナルインスツルメンツ製LabView
コンピュータ:HP製
【0065】
(電場印加手段の好適な動作の一態様)
【0066】
図18の装置系において、その好適な動作の態様は、以下の通りである。
【0067】
コンピュータおよび該コンピュータにインストールされた任意波形生成ソフトウェアにより生成された任意の電圧波形パターンは、任意波形発生装置へ送られ、該任意波形発生装置が、90°クロスニコルに配置された偏光子、検光子の間にLCDパネルに対して電圧印加を行う。
【0068】
図18の装置系において、その好適な動作の様態は、以下の通りである。
【0069】
コンピュータおよび該コンピュータにインストールされた任意波形生成ソフトウェアにより生成された任意の電圧波形パターンは、任意波形発生装置へ送られ、該任意波形発生装置が90°クロスニコルに配置された偏向子、検光子の間にLCDパネルに対して電圧印加を行う。
【0070】
任意波形生成ソフトウェアは、再プログラミング可能(修正、変更が可能)なソフトウェアであり、波高値、周期、パルス幅の他に、電圧波形パターンをファイル化して保存、読み込みが可能なものを作成した。電圧波形パターンは、ASCIIテキスト形式としたことで任意の波形パターンを直接作成することも可能とした。コンピュータと接続された任意波形発生装置間では、波形データの転送ならびに任意波形発生装置を制御するためのコマンド送受信を行い、LCDパネルへ印加する任意波形制御を行った。
【0071】
このLCDパネルに対して、該任意波形発生装置から所望のパルス波(例えば、パルス幅1mSEC、周期16.7mSEC、外部印加電圧±10V、電圧の条件)を印加する。その際、+10V電圧印加状態から0Vとなる際、−10V、パルス幅50μSECの逆極性パルス電圧印加を行うことで電気光学応答の遅延が改善される。
【0072】
このような電気光学応答遅延の改善は、例えばPMT(フォトマルチプライヤー)により、LCDパネルを通過した透過光を検出し、該PMTからの信号を、デジタルオシロスコープにより解析することで確認することができる。この確認結果を元に、該コンピュータで生成する波形パターンを変更することにより、電気光学応答遅延が最小となるよう繰り返し作業を行うことで最適な電圧印加パターンを特定することが可能となる。
【0073】
また更には、デジタルオシロスコープで観測された電気光学応答遅延データを該コンピュータへフィードバックすることにより電気光学応答遅延が最小となる作業を自動化することも可能である。
【0074】
このLCDパネルに対して、任意波形発生装置から所望のパルス波(例えば、パルス幅1mSEC、周期16.7mSEC、外部印加電圧±10V、電圧の条件)を印加する。その際、+10V電圧印加状態から0Vとなる際、−10V、パルス幅50μSECの逆パルス電圧印加を行うことで電気光学応答の遅延が改善される。
【0075】
このような電気光学応答遅延の改善は、例えば、PMT(フォトマルチプライヤー)により、LCDパネルを透過した透過光を検出し、該PMTからの信号を、デジタルオシロスコープにより解析することで確認することができる。このPMTからの信号は、上記コンピュータにフィードバックされ、該コンピュータによる解析結果に基づいて、上記任意波形発生装置からのパルス波が制御可能となっている。
【0076】
図18において、温度制御装置は、上記PMTの温度を制御するために配置される。
【0077】
(液晶素子)
本発明の態様による液晶素子は、一対の基板と、該一対の基板の間に配置された液晶材料とを少なくとも含む。
【0078】
(液晶材料)
本発明においては、本発明の方式を適用するために、および印加電場の大きさと方向に応じた光学軸方位の回転を有する電気光学素子を構成可能な液晶材料である限り、特に制限なく使用することができる。本発明において、ある液晶材料が使用可能か否かは、以下の「光学軸方位の回転の確認方法」で確認することができる。また、本発明において所定の高速応答が可能な観点から好適に使用可能であるように、ある液晶材料が充分な速度での応答が可能か否かは、以下の「応答時間の確認方法」で確認することができる。
【0079】
(光学軸方位の回転の確認方法)
被測定対象となるLCDパネルをクロスニコル関係に配置される偏向子と検光子の間に挿入し、無電圧印加時において、透過光の最小光量を与える角度を得るためにθ軸ステージを回転させ、LCDパネルの配置角度を決定する。透過光検出のためには、例えばPMTを利用し、LCDパネルを通過した透過光を検出し、該PMTからの信号を、デジタルオシロスコープにより解析することで確認することができる。
【0080】
(応答時間の確認方法)
電圧印加状態(例えば+10V)の透過光量を100%としたとき、電圧印加から無電圧印加状態(0V)へ推移した後、透過光量が0%となるまでの時間を規定することで、応答時間の改善を確認することが可能である。
【0081】
(PSS−LC)
本発明において好適に使用可能な液晶材料は、PSS−LC、すなわち、該液晶材料中の初期分子配向が配向処理方向に対してほぼ平行な方向を有し、且つ液晶材料が、実質的に、外部印加電圧の不存在下で、一対の基板に対して少なくとも垂直な自発分極を全く示さないものである。
【0082】
(初期分子配列)
本発明において、液晶材料中の初期分子配向(または方向)では、液晶分子の長軸は液晶分子に対する配向処理方向にほぼ平行な方向を有する。液晶分子の長軸が配向処理方向に対してほぼ平行な方向を有するという事実は、例えば、以下のやり方で確認することができる。本発明による液晶素子が望ましい表示性能を示すことを可能とするために、以下の方法により測定されるラビング方向と液晶分子の配向方向間の角度(絶対値)は、好ましくは、3°以下、更に好ましくは2°以下、特に1°以下であることが可能である。厳密な意味で、ポリイミド膜等のポリマー配向膜がラビングを受ける場合、複屈折がポリイミド最表層に誘発され、それによって遅相軸を与えることは知られている。更に、一般に、液晶分子の長軸は遅相軸に平行に配向することは知られている。ポリマー配向膜の殆どすべてに関して、ある種の角度ずれがラビング方向と遅相軸間で起こることは知られている。一般に、ずれは比較的小さく、約1〜7度であることが可能である。しかしながら、この角度のずれは、極端な例として、ポリスチレンの場合のように90度であることができる。従って、本発明において、ラビング方向と液晶分子の長軸(すなわち、光軸)の配向方向間の角度は、好ましくは、3°以下であることが可能である。この時点で、液晶分子の長軸と、ラビング等によりポリマー(ポリイソミド等)、ポリマー配向膜中に提供される遅相軸の配向方向は、好ましくは、3°以下、更に好ましくは2°以下、特に1°以下であることが可能である。
【0083】
上述のように、本発明において、配向処理方向は、液晶分子長軸の配向方向を決める遅相軸(ポリマー最表層における)の方向を指す。
【0084】
<液晶分子に対する初期分子配向状態を測定する方法>
一般に、液晶分子の長軸は、光軸とよく一致する。従って、偏光子が検光子に垂直に配置されるクロスニコル配置中に液晶パネルを置く場合、透過光線の強度は、液晶の光軸が検光子の吸収軸とよく一致する場合に最小となる。初期配向軸の方向は、液晶パネルが透過光線の強度を測定しつつクロスニコル配置中で回転する方法により測定することができ、それによって、透過光線の最小強度を与える角度を測定することができる。
【0085】
<液晶分子長軸方向と配向処理方向との平行度を測定する方法>
ラビング方向は設定角により決定され、ラビングにより提供されるポリマー配向膜最表層の遅相軸は、ポリマー配向膜の種類、膜製造方法、ラビング強度、等により決定される。従って、消光位が遅相軸の方向と平行に提供される場合、分子長軸、すなわち、分子光軸が遅相軸の方向に平行にあることが確認される。
【0086】
(自発分極)
本発明において、初期分子配向では、自発分極(強誘電性液晶の場合の自発分極に類似している)は、少なくとも、基板に垂直である方向に対しては発生しない。本発明において、「実質的に自発分極を提供しない初期分子配向は、自発分極が発生しないものである」は、例えば、以下の方法により確認することができる。
【0087】
<基板に垂直な自発分極の存在を測定する方法>
液晶セル中の液晶が自発分極を有する場合、特に、自発分極が初期状態における基板方向、すなわち、初期状態における電場方向(すなわち、外部電場がない場合の)に垂直な方向に発生する場合において、低周波数三角波電圧(約0.1Hz)が液晶セルに印加される時、印加電圧の正から負へ、または負から正への極性変化と共に、自発分極の方向は上方方向から下方方向へ、または下方方向から上方方向へ反転する。こうした反転と共に、実際の電荷が輸送される(すなわち、電流が発生する)。自発分極は、印加電場の極性が反転する時だけ反転する。従って、図23に示されるようにピーク状電流が現れる。ピーク状電流の積分値は、輸送しようとする全量電荷、すなわち、自発分極の強度に対応する。この測定で非ピーク状電流が観察される場合、自発分極反転の発生がないことは、直接、こうした現象により証明される。更に、図24に示されるような電流の直線的な増加が観察される場合、液晶分子の長軸が、電場強度の増加に応じて、それらの分子配向方向において連続的にまたは引き続き変化することが見出される。換言すれば、図24に示されるようなこのケースでは、印加される電場強度に応じて、誘導分極等のために分子配向方向の変化が起こることが見出されてきた。
【0088】
(基板)
本発明において使用可能な基板は、それが上述の特定「初期分子配向状態」を与えることができる限り、特に限定されない。換言すれば、本発明において、適する基板は、LCDの使用法または用途、その材料およびサイズ、等の観点から適切に選択することができる。本発明において使用可能な特定例としては、以下のものが挙げられる。
【0089】
その上にパターン化透明電極(ITO等)を有するガラス基板
非晶質シリコンTFTアレイ基板
低温ポリシリコンTFTアレイ基板
高温ポリシリコンTFTアレイ基板
単結晶シリコンアレイ基板
【0090】
(好ましい基板例)
これらの中で、本発明が大型液晶表示パネルに適用される場合において、以下の基板を用いることは好ましい。
【0091】
非晶質シリコンTFTアレイ基板
【0092】
(PSS−LC材料)
本発明において好適に使用可能なPSS−LC液晶材料は、それが上述の特定「初期分子配向状態」を与えることができる限り、特に限定されない。換言すれば、本発明において、適する液晶材料は、物理的特性、電気または表示性能、等の観点から適切に選択することができる。例えば、文献に例示されるような種々の液晶材料(種々の強誘電性または非強誘電性液晶材料を含む)は、一般に、本発明において用いることが可能である。本発明において、用いることができるこうした液晶材料の特定の好ましい例には、以下が挙げられる。
【0093】
【化1】

【0094】
(好ましい液晶材料の例)
これらの中で、本発明が投影型液晶ディスプレイに適用される場合、以下の液晶材料を用いることが好ましい。
【0095】
【化2】

【0096】
(配向膜)
本発明において使用可能な配向膜は、それが上述の特定「初期分子配向状態」を与えることができる限り、特に限定されない。換言すれば、本発明において、適する配向膜は、物理的特性、電気または表示性能、等の観点から適切に選択することができる。例えば、文献に例示されるような種々の配向膜は、一般に、本発明において用いることが可能である。本発明において、用いることができるこうした配向膜の特定の好ましい例には、以下が挙げられる。
【0097】
ポリマー配向膜:ポリイミド、ポリアミド、ポリアミド−イミド
無機配向膜:SiO、SiO、Ta、等
【0098】
(好ましい配向膜例)
これらの中で、本発明が投影型液晶ディスプレイに適用される場合、以下の配向膜を用いることは好ましい。
【0099】
無機配向膜
【0100】
本発明において、上述の基板、液晶材料、および配向膜として、必要に応じて、日刊工業新聞社(日本、東京)発行の“Liquid Crystal Device Handbook”(1989)に記載されているそれぞれの項目に対応する材料、成分または構成要素を用いることは可能である。
【0101】
(他の構成要素)
本発明による液晶ディスプレイを構成するために用いられる透明電極、電極パターン、マイクロカラーフィルタ、スペーサ、および偏光子等の他の材料、構成要素または成分は、それらが本発明の目的に反しない限り(すなわち、それらが上述の特定「初期分子配向状態」を与えることができる限り)、特に限定されない。加えて、本発明において使用可能である液晶表示素子を製造するための方法は、液晶表示素子が上述の特定「初期分子配向状態」を与えるために構成されるべきであることを除き、特に限定されない。液晶表示素子を構成するための種々の材料、構成要素または成分の詳細に関しては、必要に応じて、日刊工業新聞社(日本、東京)発行の“Liquid Crystal Device Handbook”(1989)を参照することは可能である。
【0102】
(特定の初期配向を実現するための手段)
こうした配向状態を実現するための手段または方策は、それが上述の特定の「初期分子配向状態」を実現することができる限り、特に限定されない。換言すれば、本発明において、適する特定の初期配向を実現するための手段または方策は、物理的特性、電気または表示性能、等の観点から適切に選択することができる。
【0103】
以下の手段は、好ましくは、本発明が大型テレビパネル、小型高解像度表示パネル、および直視型ディスプレイに適用される場合に用いることが可能である。
【0104】
(初期配向を与えるための好ましい手段)
本発明者らの知見によれば、上述の適する初期配向は、以下の配向膜(焼成により形成される配向膜の場合、その厚さは焼付け後の厚さで示される)およびラビング処理を用いることにより、容易に実現することが可能である。他方、通常の強誘電性液晶ディスプレイにおいて、配向膜の厚さは3,000A(オングストローム)以下、ラビング強度(すなわち、ラビングの押し込み量)は0.3mm以下である。
【0105】
配向膜の厚さ:好ましくは4,000A以上、更に好ましくは5,000A以上(特に、6,000A以上)
【0106】
ラビング強度(すなわち、ラビングの押し込み量):好ましくは0.3mm以上、更に好ましくは0.4mm以上(特に、0.45mm以上)
【0107】
上述の配向膜厚さおよびラビング強度は、例えば、後述する製造例1に記載されるような方法で測定することが可能である。
【0108】
(使用可能なPSS−LCD−別の態様1)
本発明においては、下記の構成を有するPSS−LCDも、好適に使用することができる。
【0109】
少なくとも一対の基板と、一対の基板の間に配置された液晶材料と、一対の基板の外側に配置された一対の偏光フィルムを含む液晶素子であって;該一対の偏光フィルムの一つは液晶材料に対する配向処理方向に平行またはほぼ平行な初期分子配向を有し、一対の偏光フィルムの他方は液晶材料に対する配向処理方向に垂直な偏光吸収方向を有し、且つ
【0110】
液晶素子は外部印加電圧の不存在下で消光角を示すPSS−LCD。
【0111】
こうした態様による液晶ディスプレイは、上述のものに加えてその消光位が実質的に温度依存性を有しないという利点を有する。従って、この態様において、コントラスト比の温度依存性を比較的小さくすることが可能である。
【0112】
偏光フィルムの偏光吸収軸方向が実質的に液晶材料の配向処理方向に並べられる上述の関係において、偏光フィルムの偏光吸収軸と液晶材料の配向処理方向間の角度は、好ましくは2°以下、更に好ましくは1°以下、特に0.5°以下であることが可能である。
【0113】
加えて、液晶素子が外部印加電圧の不存在下での消光位を示す現象は、例えば、以下の方法により確認することが可能である。
【0114】
<消光位を確認する方法>
試験しようとする液晶パネルを、クロスニコル関係において配置される偏光子と検光子の間に挿入し、透過光の最小光量を与える角度を、液晶パネルが回転している間に測定する。このように測定された角度が消光位の角度である。
【0115】
(使用可能なPSS−LCD−別の態様2)
本発明においては、下記の構成を有するPSS−LCDも、好適に使用することができる。
【0116】
一対の基板と、該一対の基板の間に配置された液晶材料とを少なくとも含む液晶素子であって;該一対の基板を通過する電流は、実質的に、連続的、線形に変化する電圧波形が液晶素子に印加される場合、ピーク状電流を全く示さないPSS−LCD。
【0117】
一対の基板を通過する電流が、実質的に、その強度が連続的、線形に変化する電圧波形の印加下でピーク状電流を示さないことは、例えば、以下の方法により確認することが可能である。この態様において、「電流が実質的にピーク状電流を示さない」は、液晶分子配向変化において、自発分極が少なくとも直接的なやり方で液晶分子配向変化に関与しないことを意味する。こうした態様による液晶ディスプレイは、上述のものに加えて、それが能動駆動素子の中でも非晶質シリコンTFTアレイ素子等の最低の電子移動度を有する素子においてさえ、充分な液晶駆動を可能とする利点を有する。
【0118】
液晶それ自体がかなり高い表示性能を示すことができる時でさえ、その能力が比較的大きい場合、こうした液晶を、電子移動度に関する限定を有する非晶質シリコンTFTアレイ素子を用いることによって駆動することは難しい。結果として、高品質表示性能を与えることは実際上不可能である。このケースにおいてさえ、液晶を駆動する能力の観点から、非晶質シリコンよりも大きな電子移動度を有する低温ポリシリコンおよび高温ポリシリコンTFTアレイ素子、または、最大電子移動度を与えることができる単結晶シリコン(シリコンウエハー)を用いることにより、充分な表示性能を与えることは可能である。他方、非晶質シリコンTFTアレイは、製造コストの観点から経済的に有利である。更に、パネルのサイズが増大する場合、非晶質シリコンTFTアレイの経済的利点は、他のタイプの能動素子よりも一段と大きい。
【0119】
<ピーク状電流を確認する方法>
約0.1Hzの極端に低い周波数を有する三角波電圧を、試験しようとする液晶パネルに印加する。液晶パネルは、こうした印加電圧を、DC電圧がほぼ線形に増大し減少するように感じるであろう。パネル中の液晶が強誘電性液晶相を示す場合、光学応答、および電荷移動状態は、三角波電圧の極性に応じて決まるが、しかしながら、実質的に三角波電圧の頂点値(またはp−p値)には依存しない。換言すれば、自発分極の存在のために、液晶の自発分極は、印加電圧の極性が負から正へ、または正から負へ変わる場合のみに、外部印加電圧と連結される。自発分極が反転する場合、電荷は、パネル内部でピーク状電流を生成するように一時的に移動する。反対に、自発分極の反転が起こらない場合、ピーク状電流は全く見られず、電流は単調増加、減少または一定値を示す。従って、パネルの分極は、低周波数三角波電圧をパネルに印加し、正確に得られる電流を測定し、それによって電流波形のプロファイルを測定することにより決定することが可能である。
【0120】
(使用可能なPSS−LCD−別の態様3)
本発明においては、下記の構成を有するPSS−LCDも、好適に使用することができる。
【0121】
液晶材料用の液晶分子配向処理が低表面プレチルト角を与える液晶分子配向膜と関連づけて行われるPSS−LCD。
【0122】
この態様において、プレチルト角は、好ましくは1.5°以下、更に好ましくは1.0°以下(特に0.5°以下)であることが可能である。こうした態様による液晶ディスプレイは、上述の項目に加えて、それが広い面における均一な配向、および広視野角を与えることができるという利点を有する。何故広視野角が提供されるかという理由は以下の通りである。
【0123】
本発明による液晶分子配向において、液晶分子は円錐様領域内に動くことが可能であり、それらの電気光学応答は同じ平面内に留まらない。一般に、平面から離れるこうした分子挙動が起こる場合、複屈折の入射角依存が起こり、視野角が狭くなる。しかしながら、本発明による液晶分子配向において、液晶分子の分子光軸は、常に、図22に示すように、円錐の上部に関して、時計回りまたは反時計周りに、対称的に且つ高速で動くことが可能である。高速対称運動のために、極端な対称画像を時間平均の結果として得ることが可能である。従って、視野角の観点から、この態様は高対称および小さな角依存性を有する画像を与えることができる。
【0124】
(使用可能なPSS−LCD−別の態様4)
本発明においては、下記の構成を有するPSS−LCDも、好適に使用することができる。
【0125】
液晶材料が強誘電性液晶相転移系列に対してスメクチックA相を示す液晶素子。
【0126】
この態様において、液晶材料が「スメクチックA相−強誘電性液晶相転移系列」を有する現象は、例えば、以下の方法により確認することができる。こうした態様による液晶ディスプレイは、上述の項目に加えて、それがそのために保存温度のより高い上限値を与えることができるという利点を有する。更に詳細には、液晶表示用保存温度の上限値を決定しようとする場合、温度が強誘電性液晶相からスメクチックA相への転移温度を超える時でさえ、それは、温度がスメクチックA相からコレステリック相への転移温度を超えない限り、初期分子配向を取り戻すために強誘電性液晶相に戻ることができる。
【0127】
<相転移系列を確認する方法>
スメクチック液晶の相転移系列は以下のように確認することが可能である。
【0128】
クロスニコル関係下で、液晶パネルの温度を等方性相温度から下げる。この時、ラビング方向を検光子に平行にする。偏光顕微鏡による観測の結果として、花火様形状が円形状に変わる複屈折変化が最初に見られる。温度を更に下げる場合、消光方向はラビング方向に平行に起こる。温度を更に下げると、相はいわゆる強誘電性液晶相に変換する。この相において、パネルが消光位の近傍3〜4°の角度で回転する場合、温度低下と共に消光位から位置が外れる時に透過光強度が増大することが見出される。
【0129】
本明細書において、強誘電性液晶相のヘリカルピッチおよび基板のパネルギャップを、例えば、以下の方法により確認することは可能である。
【0130】
<ヘリカルピッチを確認する方法>
互いに平行にある配向処理を与えるためにラビングされた基板を有するセルにおいて、液晶材料を期待ヘリカルピッチの少なくとも5倍であるセルギャップを有するパネル間に注入する。結果として、ヘリカルピッチに対応する縞模様がディスプレイ表面に現れる。
【0131】
<パネルギャップを確認する方法>
液晶材料の注入前に、光干渉を用いる液晶パネルギャップ測定装置を用いることにより、パネルギャップを測定することは可能である。
【0132】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
【実施例】
【0133】
実施例1
直径が15mmの丸型透明電極ITOを有する厚さ0.7mmのガラス基板を用い、PSS−LCDパネルを作成した。このパネルに対し、図18のブロック図に示す測定環境を用いて、任意波形を印加したときの電気光学応答を測定した。
【0134】
任意波形生成ソフトウェアにより生成された任意電圧波形パターンは、任意波形発生装置へ送られ、任意波形発生装置がLCDパネルに対して電圧印加を行う。90°クロスニコルに配置した偏光子、検光子の間にLCDパネルを配置し、パルス波(パルス幅1mSEC、周期16.7mSEC、外部印加電圧±10V、電圧)を印加する。その際、+10V電圧印加状態から0Vとなる際、−10V、パルス幅50μSECの逆パルス電圧印加を行うことで電気光学応答の遅延が改善されることが、図19のグラフに示す測定結果の通り確認された。
【0135】
実施例2
直径が15mmの丸型透明電極ITOを有する厚さ0.7mmのガラス基板を用い、PSS−LCDパネルを作成した。このパネルに対し、実施例1と同じ測定環境を用い電気光学応答を測定した。
【0136】
図20に示すように、電圧の時間変化:dV/dtが小さくなるような波高値−10Vの逆パルス電圧に対する電気光学応答は遅延するが、図21に示すように、dV/dtが大きくなれば電気光学応答の遅延が改善されることが確認された。
【0137】
比較例1
直径が15mmの丸型透明電極ITOを有する厚さ0.7mmのガラス基板を用い、PSS−LCDパネルを作成した。
【0138】
このパネルに対し、実施例1と同じ測定環境を用い、本発明を適用せずパルス波(パルス幅1mSEC、周期16.7mSEC、外部印加電圧±10V、電圧)のみ印加した。この場合、図22のように低階調における電気光学応答遅延が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】表面分極を示す模式断面図である。
【図2】上下基板による内部電場の模式断面図である。
【図3】TN−LCDにおける電気光学応答の一例を示すグラフである。
【図4】低速応答LCDにおける遅延時間のフレームに占める時間を示すグラフである。
【0140】
【図5】高速応答LCDにおける遅延時間のフレームに占める時間の一例を模式的に示すグラフである。
【図6】1V閾値を有するLCDにおける電気光学応答の一例を模式的に示すグラフである。
【図7】FLCDの電気光学応答模式断面図である。
【図8】FLCD配向と自発分極の関係の一例を示す模式斜視図である。
【図9】四重極子モーメントを示す模式斜視図である。
【0141】
【図10】四重極子モーメントと外部電場のカップリングの例を示す模式斜視図である。
【図11】内部電場方向と印加電場が同じ方向のとき外部電場が不存在となったときの液晶動作を示す模式断面図である。
【図12】内部電場方向と印加電場が逆方向のとき外部電場が不存在となったときの液晶動作を示すである。
【図13】パルス波印加時における電気光学応答測定結果の一例を示すグラフである。
【図14】内部電場による配向エネルギーのキャンセル方法を説明するための模式断面図である。
【0142】
【図15】外部電圧印加による配向エネルギーのキャンセル方法の一例を示すグラフである。
【図16】液晶分子配向位置変化と静的電場による擬似的dV/dtの変化の一例を示す模式斜視図である。
【図17】外部印加電圧の時間変化:dV/dtの制御による内部電場による配向エネルギーのキャンセル方法の一例を示す模式斜視図である。
【図18】電気光学応答測定装置の一例を示すブロック図である。
【図19】逆方向パルス波印加時における電気光学応答の遅延改善の測定結果の一例を示すグラフである。
【0143】
【図20】逆方向パルス波のdV/dt制御による電気光学応答の遅延測定結果の一例を示すグラフである。
【図21】逆方向パルス波のdV/dt制御による電気光学応答の遅延改善の測定結果の一例を示すグラフである。
【図22】パルス波印加時における電気光学応答の遅延測定結果の一例を示すグラフである。
【図23】三角波電圧印加の下での分子配向スイッチングの間の分極スイッチング電流の例を示すグラフである。
【図24】従来のSSFLCDパネルの場合におけるスイッチングの間の分極スイッチングピーク電流の例を示すグラフである。
【図25】TN光学応答プロファイルの例を模式的に示すグラフである。
【図26】電気光学応答の「立上り」、「立下り」の例を模式的に示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の基板と、該一対の基板の間に配置された液晶材料とを少なくとも含む、高速動作可能な液晶素子と、該液晶素子への電場を印加するための電場印加手段とを少なくとも含む液晶デバイスであって;
前記電場印加手段が、前記液晶素子において、印加電場方向間の配向エネルギー差異(TINT)をキャンセルするための逆方向の電場(−TINT)を印加することが可能な電場印加手段であることを特徴とする液晶デバイス。
【請求項2】
前記電場印加手段が、外部電場が存在しない初期配向近傍において逆方向の電場を印加することが可能な電場印加手段である請求項1に記載の液晶デバイス。
【請求項3】
前記電場印加手段が、逆方向の電場の時間に対する増加率(dV/dt)を制御することが可能な電場印加手段である請求項1または2に記載の液晶デバイス。
【請求項4】
前記液晶素子が、該液晶素子における初期分子配向が、液晶材料に対する配向処理方向に平行またはほぼ平行な方向を有し、且つ前記液晶材料が、外部印加電圧の不存在(absence)下で、一対の基板に対して垂直な自発分極を殆ど示さない液晶素子(PSS−LCD)である請求項1〜3のいずれかに記載の液晶デバイス。
【請求項5】
印加電場方向間の配向エネルギー差異(TINT)が、前記液晶素子における内部電場と四重極子モーメントがカップリングすることにより発生する配向エネルギー差異である請求項4に記載の液晶デバイス。
【請求項6】
前記電場印加手段が、前記液晶素子を透過した透過光を利用して、該液晶素子の電気光学応答速度を解析するための応答速度解析手段と、
該応答速度解析手段からの信号に応じて、前記液晶素子に印加すべき電圧を調節する印加電場調整手段とを少なくとも含む請求項1〜5のいずれかに記載の液晶デバイス。
【請求項7】
前記応答速度解析手段が、液晶素子を透過した透過光を測定するための受光手段を少なくとも含む請求項1〜6のいずれかに記載の液晶デバイス。
【請求項8】
前記印加電場調整手段が、前記液晶素子に印加すべき電圧を発生させるための波形発生手段を少なくとも含む請求項1〜7のいずれかに記載の液晶デバイス。
【請求項9】
更に、前記受光手段の温度を制御するための温度制御手段を含む請求項7または8に記載の液晶デバイス。
【請求項10】
一対の基板と、該一対の基板の間に配置された液晶材料とを少なくとも含む液晶素子と、該液晶素子への電場を印加するための電場印加手段とを少なくとも含む液晶デバイスの駆動方法であって;
前記電場印加手段から、前記液晶素子において、印加電場方向間の配向エネルギー差異(TINT)をキャンセルするための逆方向の電場(−TINT)を印加することを特徴とする駆動方法。
【請求項11】
外部電場が存在しない初期配向近傍において、前記電場印加手段から、逆方向の電場を印加することにより配向エネルギー差異をキャンセルする請求項10に記載の駆動方法。
【請求項12】
前記電場印加手段からの電場印加において、逆方向の電場の時間に対する増加率(dV/dt)を制御することにより、配向エネルギー差異をキャンセルする請求項10または11に記載の駆動方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図23】
image rotate


【公開番号】特開2008−257047(P2008−257047A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−100752(P2007−100752)
【出願日】平成19年4月6日(2007.4.6)
【出願人】(505272490)ナノロア株式会社 (13)
【Fターム(参考)】