説明

液晶パネルの処理方法

【課題】液晶パネルにおけるガラス基板の表面への固着物の分離を容易にし、液晶パネルに用いられたガラスのリサイクル性を向上させることのできる液晶パネルの処理方法を提供する。
【解決手段】貼り合わされた2枚のガラス基板を分離するガラス基板分離工程と、金属電極および絶縁物が固着したガラス基板にレーザ光を照射して、ガラス基板と金属電極との固着界面を加熱し、当該固着界面近傍のガラスを溶融させた後、溶融したガラスを再凝固させてガラス基板表面に亀裂を発生させるレーザ光照射工程と、ガラス基板を破砕するガラス基板破砕工程と、ガラス基板の破砕物を分別する破砕物分別工程とを含む液晶パネルの処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶パネルの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶パネルを用いた家電製品、パソコン、携帯端末などの製品が急速に普及している。ここで、上述した液晶パネルとは、貼り合せた2枚のガラス基板の内側に液晶材料を注入、封入し、各ガラス基板の外側に偏光板(樹脂)を貼り付けたものを指す。液晶パネルを用いた製品の普及に伴い、液晶パネルの廃棄物(廃液晶パネル)の数量も急激に増加しているが、環境との共存が期待される循環型社会の形成の中、廃液晶パネルについてもリサイクルし資源を有効に利用することが要望されている。
【0003】
現在、家電製品や情報機器などの廃棄物に含まれる液晶表示装置や液晶パネルは、廃棄物の量としては少ないこともあって、廃棄物の処理施設にて製品ごとに破砕された後、プラスチックを多量に含むシュレッダーダストと共に、埋め立て処理あるいは焼却処理されている。
【0004】
液晶パネルの製造工場から排出される不良の廃液晶パネルや家電製品および情報機器などの廃棄物に含まれる液晶表示装置や液晶パネルの処理方法として、液晶パネルの製造工場や廃棄物の処理施設にて製品ごと破砕後、非鉄精錬炉に投入し珪石の代替材料として処理する方法が一部で実施されている(たとえば、特開2000−84531号公報(特許文献1)を参照。)。この特許文献1に開示された方法では、有機物は炉内で完全燃焼され、二酸化炭素や水素などに分解される。
【0005】
また液晶パネルに用いられているガラスを回収する方法として、たとえば、特開2005−292394号公報(特許文献2)には、塩酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸などの強酸溶液を用いてガラス表面に付着している金属薄膜などの無機成分を除去する方法が提案されている。
【0006】
また、特開2003−237653号公報(特許文献3)には、ガラスと黒色セラミックなどの固着部材との固着界面にレーザを照射して、その近傍のガラスを溶融、再凝固させ、固着部材をガラスから分離する方法が開示されている。この特許文献3に開示された方法は、レーザを透過するガラスとこのガラスに固着されレーザを吸収すると共にそのガラスよりも高い融点を有する固着部材とからなるガラス体に、ガラス側から固着部材へレーザを照射してガラスと固着部材との固着界面を加熱し、固着界面近傍のガラスを溶融させるレーザ照射工程と、レーザ照射工程で溶融したガラスの再凝固により固着部材を脆化させる固着部材脆化工程と、固着部材脆化工程で脆化した固着部材とガラスとを分離する分離工程を含む。
【特許文献1】特開2000−84531号公報
【特許文献2】特開2005−292394号公報
【特許文献3】特開2003−237653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
液晶パネルは、省電力・省資源に貢献できる表示装置であるので、今後、高度情報化社会の進展に伴って、急激に生産量が増大するとともに、その表示面積も大型化することが予測され、これに伴って、今後、廃液晶パネルも、数・量ともに急激に増大すると予想される。したがって、液晶パネルの重量の大半を占めるガラスについても、廃棄物の低減と資源を大切にする観点から、再生利用することが好ましい。
【0008】
しかしながら特許文献1に開示された方法では、液晶パネルのガラスはスラグとなりセメント材料として再利用することを意図しているため、ガラス自体として再生利用することはできない。
【0009】
また特許文献2に開示された方法は、液晶パネルのガラスをガラス自体として再生利用することは可能であるが、強酸を使用するため、発生する廃液の処理に多大な労力とエネルギーを必要とする。
【0010】
なお、液晶パネルのTFT(Thin Film Transistor)回路が形成された側のガラス基板(TFT側ガラス基板)では、Ta(タンタル)、Ti(チタン)、Al(アルミニウム)、Mo(モリブデン)などからなるゲート電極、ソース電極、ドレイン電極などの電極がガラス表面に形成されており、ゲート電極、および窒化ケイ素、窒化酸化ケイ素から選ばれる少なくとも1種からなる絶縁物(絶縁膜)がガラス表面に固着している。ガラスを再生利用する場合、ガラス本来の成分以外の不純物元素の混入は望ましくないため、液晶パネルのTFT側ガラス基板を再生利用する場合には、上述した電極の材料であるTa、Ti、Al、Moなどの金属元素だけでなく、炭素、窒素などの混入も問題となる。
【0011】
上述した特許文献3に開示された方法のようにTFT側ガラス基板にレーザを照射した場合、ガラス基板の表面に固着した金属材料はレーザを一部吸収するものの、窒化ケイ素からなる絶縁物はレーザを透過してしまう。このため、ゲート電極はレーザ照射によりガラス基板の表面から除去できるが、絶縁物はガラス基板の表面に残存してしまうこととなる。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、液晶パネルにおけるガラス基板の表面への固着物の分離を容易にし、液晶パネルに用いられたガラスのリサイクル性を向上させることのできる液晶パネルの処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の液晶パネルの処理方法は、貼り合わされた2枚のガラス基板を分離するガラス基板分離工程と、金属電極および絶縁物が固着したガラス基板にレーザ光を照射して、ガラス基板と金属電極との固着界面を加熱し、当該固着界面近傍のガラスを溶融させた後、溶融したガラスを再凝固させてガラス基板表面に亀裂を発生させるレーザ光照射工程と、ガラス基板を破砕するガラス基板破砕工程と、ガラス基板の破砕物を分別する破砕物分別工程とを含むことを特徴とする。
【0014】
本発明の液晶パネルの処理方法において、ガラス基板に固着した金属電極は、Ta、Ti、Al、Moから選ばれる少なくとも1種で形成されたものであることが好ましい。
【0015】
また本発明の液晶パネルの処理方法において、ガラス基板に固着した絶縁物が窒化ケイ素、窒化酸化ケイ素から選ばれる少なくとも1種からなるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の液晶パネルの処理方法によれば、本発明の液晶パネルの処理方法によれば、液晶パネルにおけるガラス基板の表面への固着物の分離を容易にし、液晶パネルに用いられたガラスのリサイクル性を向上させることができ。また、本発明の液晶パネルの処理方法では、少ない労力とエネルギーを用いて、液晶を完全に回収することができるとともに、透明導電膜に含まれる希少金属であるInを回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本発明の液晶パネルの処理方法の好ましい一例を示すフローチャートである。本発明の液晶パネルの処理方法は、ガラス基板分離工程(ステップS2)と、レーザ光照射工程(ステップS4b)と、ガラス基板破砕工程(ステップS6b)と、破砕物分別工程(ステップS7b)とを基本的に含む。本発明の液晶パネルの処理方法によれば、液晶パネルにおけるガラス基板の表面への固着物の分離を容易にし、液晶パネルに用いられたガラスのリサイクル性を向上させることができ。また、本発明の液晶パネルの処理方法では、少ない労力とエネルギーを用いて、液晶を完全に回収することができるとともに、透明導電膜に含まれる希少金属であるIn(インジウム)を回収することができる。
【0018】
本発明の液晶パネルの処理方法における各工程の具体的な説明に先立ち、本発明の液晶パネルの処理方法に供される液晶パネルの典型的な構造について、まずは説明する。図2は、本発明の液晶パネルの処理方法に供される典型的な一例の液晶パネル1を模式的に示す断面図である。本発明の液晶パネルの処理方法には、従来公知の適宜の構造の液晶パネルを特に制限されることなく供することができる。たとえば、液晶パネルの製造工場において廃棄される液晶パネル、液晶表示装置の組立工場にて廃棄された液晶表示装置を分解処理して排出される液晶パネル、液晶を応用した製品の製造工場にて廃棄された製品を分解処理して排出される液晶パネル、ならびに、市場にて廃棄された情報表示装置、映像表示装置などを解体処理して排出される液晶パネルを適用することができる。図2には、一例として、TFT(Thin Film Transistor)などのアクティブ素子(図示せず)を備えた液晶パネル1を示しているが、本発明の液晶パネルの処理方法は、TN(Tweisted Nematic)液晶パネル、STN(Super Twisted Nematic)液晶パネルなどのデューティ液晶パネルにも勿論適用可能である。
【0019】
図2に示す例の液晶パネル1は、たとえば、対向配置された厚さ0.4〜1.1mm程度の2枚のガラス基板(カラーフィルタ側ガラス基板2a、TFT側ガラス基板2b)を備える。これらガラス基板2a,2bは、対向配置された側(内面側)に、周縁部に沿ってシール樹脂体(図示せず)が設けられ、互いに貼り合わされてなる。また、これらガラス基板2a,2bとシール樹脂体とによって密封された領域には、液晶が封入され、厚さ4〜6μm程度の液晶4の層(液晶層)が形成されている。また、各ガラス基板2a,2bの対向配置された側とは反対側(外面側)に、厚さ0.2〜0.4mm程度の偏光板5が粘着剤により貼着されている。
【0020】
図2に示す例では、カラーフィルタ側ガラス基板2aの内面側には、カラーフィルタ6、ブラックマトリクス7、透明導電膜8および配向膜9が形成されている。カラーフィルタ6は有機物を主体とした材料からなる。ブラックマトリクス7は炭素を主成分とした薄膜などからなる。透明導電膜8はITO(Indium Tin Oxide)からなる。配向膜9はポリイミドなどの有機物からなる。
【0021】
また図2に示す例では、TFT側ガラス基板2bの内面側には、配向膜9、画素電極10、ゲート電極11、ソース電極12、ドレイン電極13、α−Si膜14、絶縁膜15、保護膜16が形成されている。画素電極10はITOからなる。またゲート電極11、ソース電極12、ドレイン電極13は、Ta、Ti、Al、Moなどの金属を主成分とする薄膜で形成される。また、絶縁膜15は、窒化ケイ素、窒化酸化ケイ素から選ばれる少なくとも1種の絶縁物の膜状物として形成される。
【0022】
ここで、図3は、図2に示した例の液晶パネル1におけるTFT側ガラス基板2bの上面図である。図3に示されるように、TFT側ガラス基板2bの表面に、ゲート電極11およびソース電極12がライン状に形成されており、このゲート電極11およびソース電極12に囲まれた領域に画素電極10、TFT17が形成される。
【0023】
本発明の液晶パネルの処理方法では、たとえば上述したような構造を備える液晶パネルの廃棄物(廃液晶パネル)を適用する。以下、本発明の液晶パネルの処理方法における各工程について、図2に示した例の液晶パネル1を適用する場合を主として例に挙げて詳細に説明する。
【0024】
図1に示した例のフローチャートは、偏光板剥離工程(ステップS1)、ガラス基板分離工程(ステップS2)、液晶回収工程(ステップS3)を行なった後、カラーフィルタ側ガラス基板2aを処理する場合とTFT側ガラス基板2bを処理する場合とで異なる手順で処理を行なう。図1に示す例では、カラーフィルタ側ガラス基板2aの場合には、スクレーピング工程(ステップS4a)、インジウム回収工程(ステップS5a)、ガラス基板選別工程(ステップS6a)およびガラス基板回収工程(ステップS7a)が行なわれる。また、図1に示す例では、TFT側ガラス基板2bの場合には、レーザ光照射工程(ステップS4b)、ガラス基板選別工程(ステップS5b)、ガラス基板破砕工程(ステップS6b)、破砕物分別工程(ステップS7b)およびインジウム回収工程(ステップS8b)が行なわれる。以下、図1に示す例について詳細に説明する。
【0025】
〔1〕偏光板剥離工程
本発明の液晶パネルの処理方法は、たとえば図2に示したように各ガラス基板2a,2bの外面側に偏光板5が貼着された液晶パネル1に適用する場合には、偏光板5を剥離する工程(ステップS1)を含むことが好ましい。偏光板5の剥離は、たとえば手作業で行なってもよく、また、偏光板剥離装置(たとえば、ペルチェ冷却装置の上に液晶パネルを載置し、冷却により偏光板の接着力を低下させて剥離するように構成された装置)を用いてもよい。
【0026】
なお、図1に示すフローチャートでは、この偏光板剥離工程(ステップS1)をガラス基板分離工程(ステップS2)(後述)の前に行なう場合を例示しているが、偏光板剥離工程は、カラーフィルタ側ガラス基板2aに関してはガラス基板回収工程(ステップS7a)の前のいずれかのステップで行なえばよく、また、TFT側ガラス基板2bに関してはレーザ光照射工程(ステップS4b)の前のいずれかのステップで行なえばよく、この順序に限定されるものではない。また、偏光板を有しない液晶パネルの場合には、この偏光板剥離工程を省略しても勿論よい。
【0027】
〔2〕ガラス基板分離工程
次に、貼り合わされたガラス基板(カラーフィルタ側ガラス基板2aおよびTFT側ガラス基板2b)を、2枚に分離する(ステップS2)。ガラス基板2a,2bを分離する方法としては、たとえば、シール樹脂体を加熱する方法、ガラス基板2a,2bのエッジ部分を切断する方法などが挙げられる。ガラス基板2a,2bを分離すると、ガラス基板2a,2bの隙間に封入されていた液晶4が表面に露出する。
【0028】
シール樹脂体を加熱して分離する方法では、シール樹脂体(図示せず)を加熱し、シール樹脂体の強度を低下させることにより分離する。上述したように、ガラス基板2a,2bは、通常、対向配置された側(内面側)に、周縁部に沿ってシール樹脂体が設けられ、互いに貼り合わされてなる。シール樹脂体としては、通常、エポキシ系樹脂などが用いられ、加熱することでシール樹脂体の強度を低下させることができる。シール樹脂体の加熱温度としては、シール樹脂体の形成材料に応じて適宜選択することができ、特に制限されるものではないが、たとえばエポキシ系樹脂で形成されたシール樹脂体の場合には、300℃以上が望ましく、400℃以上がより望ましい。加熱の方法としては、たとえば、ハロゲンヒーター加熱、ヒートプレスなどが挙げられる。加熱によりシール樹脂体の強度を低下させることで、手作業で容易にガラス基板2a,2bを分離することが可能となる。
【0029】
また、ガラス基板2a,2bのエッジ部分を切断することによってガラス基板2a,2bを分離する場合には、ガラス基板2a,2bの内部の四辺を切断することで、それぞれ1枚ずつガラスを切り出すようにすればよい。ガラス基板2a,2bの切断には、たとえばガラスカッター、ダイヤモンドソー、スクライバーなどを用いることができる。
【0030】
〔3〕液晶回収工程
次に、液晶4が露出したガラス基板2a,2bから液晶4を回収する(ステップS3)。液晶4は、たとえば、ガラス基板2a,2bの表面を樹脂性のスキージを用いてかき取ることによって回収できる。液晶回収用のスキージとしては、ガラス基板2a,2b上に形成されている配向膜9より柔らかいポリプロピレンゴム、ポリエチレンゴムなどで形成さてたスキージを好適に用いることができる。このようなゴム製のスキージを用いることにより、配向膜9を削り取らずに液晶のみを回収することができる。
【0031】
〔4A〕スクレーピング工程(カラーフィルタ側ガラス基板)
上述のように、以下の工程では、カラーフィルタ側ガラス基板2aの場合とTFT側ガラス基板2bの場合とで処理が異なってくる。カラーフィルタ側ガラス基板2aの場合には、上述した液晶回収工程(ステップS3)で液晶4を回収した後に、カラーフィルタ6、ブラックマトリクス7、透明導電膜8および配向膜9などの固着物を、カラーフィルタ側ガラス基板2aから除去する(ステップS4a)。
【0032】
上述した固着物を除去する方法としては、スクレーピングを好適に用いることができる。スクレパーを用いて、カラーフィルタ側ガラス基板2aの内面側に形成された上記固着物をそれぞれ削り取る。図4は、カラーフィルタ側ガラス基板2a側の固着物の除去方法の一例を模式的に示す図である。カラーフィルタ側ガラス基板2aの内面側には、カラーフィルタ6、ブラックマトリクス7、透明導電膜8および配向膜9が形成されているが、このうちカラーフィルタ側ガラス基板2aに直接付着している材料は、カラーフィルタ6およびブラックマトリクス7である。カラーフィルタ6およびブラックマトリクス7は、有機物を主体とした材料からなり、ファンデルワールス力によりカラーフィルタ側ガラス基板2aに付着しているため、スクレパー21を用いたスクレーピングによりカラーフィルタ6、ブラックマトリクス7、透明導電膜8および配向膜9のすべての薄膜を容易に除去することができる。薄膜除去用のスクレパー21としては、たとえばステンレス、チタン合金などの金属製スクレパーを好適に用いることができる。
【0033】
〔5A〕インジウム回収工程(カラーフィルタ側ガラス基板)
上述のように、Inは透明導電膜8に含まれる。スクレーピングによりガラスフィルタ側ガラス基板2aの内面側から除去されたこの透明導電膜8を含む固着物は、有機物とITO粉末とからなるIn含有粉末として回収される。このIn含有粉末を焼成することで、有機物を燃焼させて、残存したITO粉末を回収することができる(ステップS5a)。回収されたITO粉末は、非鉄精錬メーカなどにより金属Inに精製あるいはITOターゲットに加工される。また、スクレーピングによりカラーフィルタ6、ブラックマトリクス7、透明導電膜8および配向膜9が除去されたカラーフィルタ側ガラス基板2aは、後述のガラス回収工程(ステップS7a)でガラスへとリサイクルされる。
【0034】
〔6A〕ガラス基板選別工程(カラーフィルタ側ガラス基板)
次に、カラーフィルタ側ガラス基板2aをガラスの種類(品種)別に選別する(ステップS6a)。ガラスは、ガラスメーカによって、あるいはガラス品種、品番などによって組成が異なる。したがって、回収したガラスをたとえばガラス基板用の材料として再利用するためには、多種多様なガラスを品種別に選別することが必要となる。また、回収したガラスをたとえば一般ガラス用の材料として再利用する場合にも、ある程度、ガラスを品種別に選別することが要求される場合がある。
【0035】
本発明の液晶パネルの処理方法においては、蛍光X線装置を用いて、液晶パネルのカラーフィルタ側ガラス基板2aのガラスを品種別に選別するようにしてもよい。この場合、具体的には、エネルギー分散型蛍光X線分析装置を用いカラーフィルタ側ガラス基板2aに軟X線を直接照射することも挙げられる。これにより、カラーフィルタ側ガラス基板2aに含まれるそれぞれの元素に特有なエネルギーをもった蛍光X線が発せられる。この蛍光X線を蛍光X線センサにてエネルギーごとにカウントすることで、カラーフィルタ側ガラス基板2aにどのような元素がどのような割合で含まれているかを測定(分析)する。ガラスの化学組成を品種ごとに予め調べておき、それらの値とカラーフィルタ側ガラス基板2aでの測定値とを比較することにより、カラーフィルタ側ガラス基板2aをガラス品種ごとに短時間で、確実に、かつ経済的に選別することができる。また、液晶パネルにガラス品種の表示を予め設けておくようにしてもよい。
【0036】
なお、図1に示すフローチャートでは、このガラス基板選別工程(ステップS6a)をスクレーピング工程(ステップS4a)と後述するガラス基板回収工程(ステップS7a)との間に行なう場合を例示しているが、このカラーフィルタ側ガラス基板2aについてのガラス基板選別工程を行なう場合には、ガラス基板回収工程(ステップS7a)の前のいずれかのステップで行なえばよく、この順序に限定されるものではない。
【0037】
〔7A〕ガラス回収工程(カラーフィルタ側ガラス基板)
次に、表面の付着物が除去されたカラーフィルタ側ガラス基板2aからガラスを回収する(ステップS7a)。回収の方法としては、カラーフィルタ側ガラス基板2aの破砕を行ないガラスカレットにするのが、減溶化の点から好ましい。図1に示す例では、カラーフィルタ側ガラス基板2aは上述したガラス基板選別工程(ステップS6a)において既にガラス品種別に選別されているので、この選別された単一の品種のカラーフィルタ側ガラス基板2aごとに破砕を行なうようにすればよい。カラーフィルタ側ガラス基板2aの破砕には、市販の各種方式の破砕機を使用することができる。破砕機の種類は特に限定されるものではないが、塵の発生が少なく容易に破砕することができ、環境に悪影響を及ぼさず、かつ、ランニングコストが安価であるなどの観点から、2軸剪断方式の破砕機がより好ましい。該破砕機は、サイズの揃った破砕物が得られやすいこと、微粉末の発生比率が小さく、破砕物をガラスカレットとして最終的に再利用しやすいことなどの利点も有している。それ故、ガラスカレットを原料ガラスに添加混合することにより、または、原料ガラスに置き換えて、再使用(マテリアルリサイクル)することができる。再使用する際には、たとえば、ガラスカレットを原料ガラスと共に溶融炉で溶融させればよい。さらに、回収されたガラスカレットは、たとえば、一般ガラス用の材料として再使用することもできる。
【0038】
〔4B〕レーザ光照射工程(TFT側ガラス基板)
一方、TFT側ガラス基板2bの場合は、上述した液晶回収工程(ステップS3)で液晶4を回収した後、まずはTFT側ガラス基板2bの表面にレーザ光を照射する(ステップS4b)。ここで、図5は、本発明の液晶パネルの処理方法におけるTFT側ガラス基板2bの表面の固着物の除去方法を段階的に示す模式図である。上述したように、TFT側ガラス基板2bの内面側には、配向膜9、画素電極10、ゲート電極11、ソース電極12、ドレイン電極13、α−Si膜14および窒化ケイ素からなる絶縁膜15、保護膜16が形成されており、金属電極としてゲート電極11が固着しており、また、絶縁物として絶縁膜15が固着している。本発明におけるレーザ光照射工程では、このような金属電極および絶縁物が固着したガラス基板にレーザ光を照射して、ガラス基板と金属電極との固着界面を加熱し、当該固着界面近傍のガラスを溶融させた後、溶融したガラスを再凝固させてガラス基板表面に亀裂を発生させる。
【0039】
本発明の液晶パネルの処理方法においては、ガラス基板に固着した金属電極は、Ta(タンタル)、Ti(チタン)、Al(アルミニウム)、Mo(モリブデン)から選ばれる少なくとも1種で形成されたものであることが好ましい。金属電極であるゲート電極11は、アンカー効果または共有結合によりTFT側ガラス基板2bの表面に固着しており、容易に除去することができない。ゲート電極11は、通常、上述したTa、Ti、Al、Moから選ばれる少なくとも1種で形成されるため、酸性溶液などを用いてこれらの金属材料を溶解することでこれらを除去することも考えられるが、このような方法を採用すると、廃液処理に多大なエネルギーと労力を必要とし、環境に悪影響を及ぼす虞がある。本発明の液晶パネルの処理方法では、TFT側ガラス基板2bの表面の金属電極を含む固着物を、レーザ光の照射により除去することで、上述したような酸性廃液の発生がなく、環境負荷を低減することができ、当該金属電極がTa、Ti、Al、Moから選ばれる少なくとも1種で形成されたものである場合に特に好適である。
【0040】
また本発明の液晶パネルの処理方法においてはまた、ガラス基板に固着した絶縁物は、窒化ケイ素、窒化酸化ケイ素から選ばれる少なくとも1種で形成されたものであることが好ましい。絶縁物である絶縁膜15も、アンカー効果または共有結合によりTFT側ガラス基板2bの表面に固着しており、容易に除去することができない。絶縁膜15は通常、窒化ケイ素、窒化酸化ケイ素から選ばれる少なくとも1種で形成されるため、リン酸またはフッ酸を用いて除去する方法もあるが、この場合も、廃液処理に多大なエネルギーと労力を必要とし、環境に悪影響を及ぼす虞がある。本発明の液晶パネルの処理方法では、TFT側ガラス基板2bの表面の絶縁物を含む固着物を、レーザ光の照射により除去することで、上述したような酸性廃液の発生がなく、環境負荷を低減することができ、当該絶縁物が窒化ケイ素、窒化酸化ケイ素から選ばれる少なくとも1種で形成されたものである場合に特に好適である。
【0041】
当該工程では、具体的には、半導体レーザ素子(図示せず)から出射するレーザ光31を凸レンズなどを用いてTFT側ガラス基板2bと電極との界面近傍に集光させる(図5a)。この際、レーザ光31を照射した領域の温度が約600〜700℃になるように半導体レーザ素子の出力およびスキャン速度を調整しておき、ステージ32に設置したTFT側ガラス基板2bのガラス側から波長808nmのレーザ光31を照射して、ガラス基板と金属電極(ゲート電極11)との固着界面を加熱する。これにより、画素電極10を含む領域では、ポリイミドで形成された配向膜9の一部が炭化して炭化部33が形成され、また、加熱された固着界面近傍のガラス(図5に示す例では、TFT側ガラス基板2bのゲート電極11が固着している部分のガラス)が溶融し、ガラス溶融部34となってゲート電極11と分離する(図5(b))。レーザは、YAGレーザ(波長1064nm)、YAGレーザ第二高調波(波長523nm)なども用いることができる。
【0042】
レーザ光31が透過した後、ガラス溶融部35は再凝固して再凝固部が形成される。この際、ガラス表面にクラック(亀裂)36が入る。具体的には、応力によりガラス溶融部34が形成されていた周辺のガラス表面に深さ約0.1mm、直径約1mmの凹面状のクラック36が数珠つなぎに生じる(図5(c))。次いで、後述するガラス基板破砕工程(ステップS6b)で、TFT側ガラス基板2bを破砕機に投入し、破砕する際に、レーザ照射により生じたガラス表面の凹面状のクラック36から剥離が起こり、TFT側ガラス基板2bと剥離ガラス37とに分離する(図5(d))。
【0043】
本発明の液晶パネルの処理方法において、当該レーザ照射工程に用いられるレーザ素子としては、半導体レーザ素子を用いることが好ましく、このような半導体レーザ素子として、具体的には、17W CW Lensed Laser Diode Array(Cutting Edge Optinics社製)を用いることができる。半導体レーザ素子の出力、スキャン速度とガラス溶融の有無を調べた結果を以下の表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1から、ガラスが溶融し、かつ、表面だけにクラックが入るレーザ照射条件として、スキャン速度が50〜100cm/分の範囲内、出力が12〜17Wの範囲内であることが好ましいことが分かる。
【0046】
〔5B〕ガラス基板選別工程(TFT側ガラス基板)
次に、TFT側ガラス基板2bをガラスの種類(品種)別に選別する(ステップS5b)。選別の方法は、上述したカラーフィルタ側ガラス基板2aの場合(ステップS6a)と同様にして行なうことができる。
【0047】
なお、図1に示すフローチャートでは、このガラス基板選別工程(ステップS5b)をレーザ光照射工程(ステップS4b)と後述するガラス基板破砕工程(ステップS6b)との間に行なう場合を例示しているが、このTFT側ガラス基板2bについてのガラス基板選別工程を行なう場合には、ガラス基板破砕工程(ステップS6b)の前のいずれかのステップで行なえばよく、この順序に限定されるものではない。
【0048】
〔6B〕ガラス基板破砕工程(TFT側ガラス基板)
次に、TFT側ガラス基板2bの破砕を行なう(ステップS6b)。図1に示す例では、TFT側ガラス基板2bは、上述したガラス基板選別工程(ステップS5b)で既にガラス品種別に選別されているので、この選別された単一の品種のTFT側ガラス基板2bごとに破砕する。TFT側ガラス基板2bの破砕には、市販の各種方式の破砕機を使用することができる。破砕機の種類は特に制限されるものではないが、塵の発生が少なく容易に破砕することができ、環境に悪影響を及ぼさず、かつ、ランニングコストが安価であるなどの観点から、2軸剪断方式の破砕機がより好ましい。
【0049】
TFT側ガラス基板2bを破砕機に投入し、サイズ5〜15mmに破砕する際に、レーザ光の照射により生じたガラス表面の凹面状のクラック36から剥離が起こり、TFT側ガラス基板2bの表面から、配向膜9、画素電極10、ゲート電極11、ソース電極12、ドレイン電極13、α−Si膜14、絶縁膜15、保護膜16が、剥離ガラス37に固着した状態で除去される。
【0050】
〔7B〕破砕物分別工程(TFT側ガラス基板)
続く工程では、上述したガラス基板破砕工程(ステップS6b)で得られた破砕物を大きさで篩分けして、大きさ5〜15mm程度のガラスカレットと、大きさが約1mm程度の配向膜9、画素電極10、ゲート電極11、ソース電極12、ドレイン電極13、α−Si膜14、絶縁膜15、保護膜16が固着した剥離ガラス36とに分別する(ステップS7b)。
【0051】
回収されたガラスカレットは、上述したガラス基板選別工程(ステップS5b)において既にガラス品種別に選別されている。このため、回収されたガラスカレットは、単一の品種のガラスであり、かつ、固着物が剥離ガラスと共に除去されているので、ガラス基板用の原料ガラスと変わらない化学組成を有している。それ故、ガラスカレットを原料ガラスに添加混合することにより、または、原料ガラスに置き換えて、再使用(マテリアルリサイクル)することができる。再使用する際には、たとえば、ガラスカレットを原料ガラスと共に溶融炉で溶融させればよい。さらに、回収されたガラスカレットは、たとえば、一般ガラス用の材料として再使用することもできる。
【0052】
〔8B〕インジウム回収工程(TFT側ガラス基板)
剥離ガラス36には、ITOが付着しているため、たとえば塩酸に浸漬してITOを溶解し、インジウム含有溶液を中和することで、水酸化インジウムとして回収することができる(ステップS8b)。
【0053】
なお、本発明の液晶パネルの処理方法は、上述したようにガラス基板分離工程(ステップS2)、レーザ光照射工程(ステップS4b)、ガラス基板破砕工程(ステップS6b)および破砕物分別工程(ステップS7b)を少なくとも含んでいればよく、図1のフローチャートに示した手順に限定されるものではなく、図1に示したステップの一部が削除または置換されていてもよく、また、図1に示されていないステップが必要により付加されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、液晶パネルの廃棄物(廃液晶パネル)の埋立地への投棄量を極力抑え、資源を有効に利用することのできる液晶パネルの処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の液晶パネルの処理方法の好ましい一例を示すフローチャートである。
【図2】本発明の液晶パネルの処理方法に供される典型的な一例の液晶パネル1を模式的に示す断面図である。
【図3】図2に示した例の液晶パネル1におけるTFT側ガラス基板2bの上面図である。
【図4】カラーフィルタ側ガラス基板2a側の固着物の除去方法の一例を模式的に示す図である。
【図5】本発明の液晶パネルの処理方法におけるTFT側ガラス基板2bの表面の固着物の除去方法を段階的に示す模式図である。
【符号の説明】
【0056】
1 液晶パネル、2a カラーフィルタ側ガラス基板、2b TFT側ガラス基板、4 液晶、5 偏光板、6 カラーフィルタ、7 ブラックマトリクス、8 透明導電膜、9 配向膜、10 画素電極、11 ゲート電極、12 ソース電極、13 ドレイン電極、14 α−Si膜、15 絶縁膜、16 保護膜、17 TFT、21 スクレパー、31 レーザ光、32 ステージ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貼り合わされた2枚のガラス基板を分離するガラス基板分離工程と、
金属電極および絶縁物が固着したガラス基板にレーザ光を照射して、ガラス基板と金属電極との固着界面を加熱し、当該固着界面近傍のガラスを溶融させた後、溶融したガラスを再凝固させてガラス基板表面に亀裂を発生させるレーザ光照射工程と、
ガラス基板を破砕するガラス基板破砕工程と、
ガラス基板の破砕物を分別する破砕物分別工程とを含む、液晶パネルの処理方法。
【請求項2】
ガラス基板に固着した金属電極が、Ta、Ti、Al、Moから選ばれる少なくとも1種で形成されたものである、請求項1に記載の液晶パネルの処理方法。
【請求項3】
ガラス基板に固着した絶縁物が窒化ケイ素、窒化酸化ケイ素から選ばれる少なくとも1種からなる、請求項1または2に記載の液晶パネルの処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−268735(P2008−268735A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−114410(P2007−114410)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】