説明

液晶パネルの処理方法

【課題】少ない労力とエネルギーを用い液晶を回収、透明導電膜中のインジウムを回収するとともにガラスを再利用することが可能である液晶パネルの処理方法を提供する。
【解決手段】ガラス基板をガラスの種類別に選別する選別工程と、液晶パネルを破砕する破砕工程と、前記破砕された液晶パネル中のインジウム錫酸化物を溶解させる溶解工程と、インジウム、錫および液晶を含有する液とガラスとを分離するガラス分離工程と、インジウム、錫および液晶を含有する液から液晶を分離する液晶分離工程と、インジウムおよび錫を含有する液を濃縮する濃縮工程と、インジウムおよび錫の濃縮液からインジウムおよび錫を分離するインジウムおよび錫分離工程とを含む、液晶パネルの処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶パネルの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶パネルを用いた家電製品、パソコン、携帯端末などの製品が急速に普及している。ここで、上述した液晶パネルとは、貼り合わせた2枚のガラス基板の内側に液晶材料を注入、封入し、各ガラス基板の外側に偏光板(樹脂)を貼り付けたものを指す。液晶パネルを用いた製品の普及に伴い、廃液晶パネルの数量も急激に増加しているが、環境との共存が期待される循環型社会の形成の中、廃液晶パネルについてもリサイクルし資源を有効に利用することが要望されている。
【0003】
現在、家電製品や情報機器などの廃棄物に含まれる液晶表示装置や液晶パネルは、廃棄物の量としては少ないこともあって、廃棄物の処理施設にて製品ごとに破砕された後、プラスチックを多量に含むシュレッダーダストと共に、埋め立て処理あるいは焼却処理されている。
【0004】
液晶パネルの製造工場から排出される不良の廃液晶パネルや家電製品および情報機器などの廃棄物に含まれる液晶表示装置や液晶パネルの処理方法として、液晶パネルの製造工場や廃棄物の処理施設にて製品ごと破砕後、非鉄精錬炉に投入し珪石の代替材料として処理する方法が一部で実施されている(たとえば、特開2000−84531号公報(特許文献1)を参照。)。しかし、上述した特許文献1に開示された方法では、液晶パネルは、ガラス成分がスラグとなりセメント材料として再利用されるのみでガラス材料としては再利用されない。有機物は炉内で完全燃焼され、二酸化炭素や水素などに分解される。また、特許文献1に開示された方法では、透明導電膜に含まれるインジウムもリサイクルされていない。
【0005】
液晶は非常に高価な材料であり回収再利用する声がある。液晶パネルに使用されている液晶の量は微量であり、少ない労力とエネルギーで液晶を高純度で劣化を伴わずに回収し再利用することが望ましい。さらに、液晶はその毒性が問題にならないほど小さいことが分かってはいるが、自然には非常に分解しにくい材料であるため、高収率で回収し、環境中への拡散をできるだけ少なくすることが望ましい。
【0006】
液晶パネルに用いられている液晶材料の回収方法として、アセトン、イソプロピルアルコールなどの有機溶剤を用いて液晶パネル表面の液晶を溶解することにより回収する方法が提案されている(たとえば、特開2001−305502号公報(特許文献2)を参照。)。しかし、特許文献2では上述したような有機溶剤を用いて液晶を溶解させるため、液晶パネル表面の配向膜、カラーフィルタなどの有機物が溶解されてしまう。このため、不純物が混入してしまうことになり、高純度で液晶を回収することができない。また、アセトンなどの有機溶剤は、揮発性が高く、人体に有害である。さらに、この方法では、液晶が溶解させた有機溶剤を蒸留によって有機溶剤と液晶とに分離することで液晶を回収するものであるが、液晶は温度依存性が高いため、蒸留の際に変質してしまう虞がある。
【0007】
また特開2002−126688号公報(特許文献3)には、液晶パネルに用いられている液晶材料の回収方法として、超臨界流体を用いて、液晶材料を分解する方法が提案されている。しかし、このような方法を具現化する設備を用いる場合、耐圧、耐腐食性の要件から、通常設備のイニシャルコストが大きくなり、ランニングコストも高くなる。また、大量のエネルギーを使用するため二酸化炭素の排出量が増大し環境に対する負荷も大きくなる。
【0008】
液晶パネルには、通常、透明導電膜として有価物であるインジウムを含むITO(インジウム錫酸化物)が用いられる。インジウムはITO透明導電膜として液晶表示装置やプラズマディスプレイパネルなどの薄型表示装置に使用されており、近年の薄型テレビの急激な普及により供給が逼迫している。したがって、希少資源有効活用の観点から、インジウムについても、不要となった液晶パネルから高収率で回収することが望まれている。
【0009】
液晶パネルに用いられているインジウムの回収方法として、たとえば特開2002−159956号公報(特許文献4)には、ガラス表面のITO膜を金属ブラシで剥離し、インジウムを回収する方法が提案されている。しかしながらこの方法では、高純度、高収率ではインジウムを回収することはできない。
【0010】
またインジウム含有スクラップなどからインジウムを回収する方法として、塩酸、硝酸、硫酸などの無機酸によりITOを溶解し、溶媒抽出や水酸化物法、電解などの湿式製錬を行う方法が提案されている(たとえば、特開2000−169991号公報(特許文献5)を参照。)。しかしながら、この方法では無機酸を用いるため、インジウムを回収した後に発生する廃液の処理に多大な労力とエネルギーを必要とする。
【0011】
液晶パネルの製造工程で排出されるインジウムを含有するシュウ酸エッチング廃液から高純度シュウ酸溶液を回収する方法として、シュウ酸エッチング廃液を陰イオン交換樹脂と接触させる方法が提案されている(たとえば、特開2005−325082号公報(特許文献6)を参照。)。この方法では、インジウムおよび錫は陰イオン交換樹脂に吸着されるため、インジウムおよび錫を回収する際、陰イオン交換樹脂を焼成しなければならず、多大な労力とエネルギーを必要とする。
【特許文献1】特開2000−84531号公報
【特許文献2】特開2001−305502号公報
【特許文献3】特開2002−126688号公報
【特許文献4】特開2002−159956号公報
【特許文献5】特開2000−169991号公報
【特許文献6】特開2005−325082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
液晶パネルは、省電力・省資源に貢献できる表示装置であるので、今後、高度情報化社会の進展に伴って、急激に生産量が増大するとともに、その表示面積も大型化することが予測され、これに伴って、今後、廃液晶パネルも、数・量ともに急激に増大すると予想される。
【0013】
従来では、適切な液晶パネルの処理方法が確立されておらず、CRT(Cathode Ray Tube)その他の家電製品や部品と比較して技術確立などが遅れているのが実情である。したがって、今後、廃液晶パネルの増加に備えた処理方法の確立が早急に要求される。
【0014】
上述したように、複雑な設備を用いたり廃液処理に多大な労力およびエネルギーを必要とすることなく、液晶およびインジウムを液晶パネルから高純度、高収率で回収することのできる処理方法は未だ提案されていない。さらに、液晶パネルの重量の大半を占めるガラスについても、廃棄物の低減と資源を大切にする観点から、再生利用することが望ましい。
【0015】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、少ない労力とエネルギーを用い液晶を回収、透明導電膜中のインジウムを回収するとともにガラスを再利用することが可能である液晶パネルの処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の液晶パネルの処理方法は、ガラス基板をガラスの種類別に選別する選別工程と、液晶パネルを破砕する破砕工程と、前記破砕された液晶パネル中のインジウム錫酸化物を溶解させる溶解工程と、インジウム、錫および液晶を含有する液とガラスとを分離するガラス分離工程と、インジウム、錫および液晶を含有する液から液晶を分離する液晶分離工程と、インジウムおよび錫を含有する液を濃縮する濃縮工程と、インジウムおよび錫の濃縮液からインジウムおよび錫を分離するインジウムおよび錫分離工程とを含むことを特徴とする。
【0017】
本発明の液晶パネルの処理方法における前記溶解工程は、前記破砕された液晶パネルをギ酸溶液に浸漬することによって、液晶パネル中のインジウム錫酸化物を溶解させることが好ましい。
【0018】
本発明の液晶パネルの処理方法における前記液晶分離工程は、インジウム、錫および液晶を含有する液と疎水性の有機溶媒とを混合することによって、液晶を有機溶媒に溶解させて分離することが、好ましい。
【0019】
本発明の液晶パネルの処理方法における前記濃縮工程は、インジウムおよび錫を含有する液を陰イオン交換樹脂に接触させることにより、インジウムおよび錫を陰イオン交換樹脂に吸着させること含むことが好ましい。
【0020】
また前記濃縮工程は、前記陰イオン交換樹脂に吸着したインジウムおよび錫を脱離させて、インジウムおよび錫の濃縮液を得ることをさらに含むことがより好ましい。
【0021】
本発明の液晶パネルの処理方法における前記インジウムおよび錫分離工程は、インジウムおよび錫の濃縮液のpHを2〜4に調整して水酸化錫を沈殿させて錫を分離した後、錫を分離後のインジウムの濃縮液のpHを5〜6に調整して水酸化インジウムを沈殿させてインジウムを分離することが好ましい。
【0022】
また、本発明の液晶パネルの処理方法は、前記選別工程と前記破砕工程との間に、液晶パネルから偏光板を剥離する工程をさらに含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の液晶パネルの処理方法によれば、希少金属であるインジウムを経済的に高純度で回収することができ、インジウムを回収した後に発生する廃液処理が容易であるという効果が奏される。また、本発明の液晶パネルの処理方法によれば、経済的に高純度かつ高収率で、劣化を伴わずに液晶の回収を行うことができるという効果を奏する。さらに本発明の液晶パネルの処理方法によれば、ほとんど廃棄物を排出せず、ガラスを再利用することができるという効果を奏する。このような本発明の液晶パネルの処理方法によれば、少ない労力とエネルギーを用いて、液晶を完全に回収することができるとともに、透明導電膜に含まれる希少金属であるインジウムを回収することができ、さらにはガラスカレット(ガラス片)も再利用することができる。したがって、ほとんど廃棄物を排出しない経済的な廃液晶パネルの処理が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は、本発明の液晶パネルの処理方法を模式的に示すフローチャートである。本発明の液晶パネルの処理方法は、〔1〕選別工程(ステップS1)、〔2〕破砕工程(ステップS3)、〔3〕溶解工程(ステップS4)、〔4〕ガラス分離工程(ステップS5)、〔5〕液晶分離工程(ステップS6)、〔6〕濃縮工程(ステップS7)および〔7〕インジウムおよび錫分離工程(ステップS8)を基本的に含む。また、図1のフローチャートに示すように、選別工程(ステップS1)と破砕工程(ステップS3)との間に、液晶パネルから偏光板を剥離する剥離工程(ステップS2)をさらに含むことが好ましい。本発明の液晶パネルの処理方法によれば、少ない労力とエネルギーを用いて、液晶を完全に回収することができるとともに、透明導電膜に含まれる希少金属であるインジウムを回収することができ、さらにはガラスカレット(ガラス片)も再利用することができ、ほとんど廃棄物を排出しない経済的な廃液晶パネルの処理が可能となる。
【0025】
上記各工程の具体的な説明に先立ち、本発明の液晶パネルの処理方法に供される液晶パネルの典型的な構造について、まずは説明する。図2は、本発明の液晶パネルの処理方法に供される典型的な液晶パネル1を模式的に示す断面図である。本発明の液晶パネルの処理方法には、従来公知の適宜の構造の液晶パネルを特に制限されることなく供することができる。たとえば、液晶パネルの製造工場において廃棄される液晶パネル、液晶表示装置の組立工場にて廃棄された液晶表示装置を分解処理して排出される液晶パネル、液晶を応用した製品の製造工場にて廃棄された製品を分解処理して排出される液晶パネル、ならびに、市場にて廃棄された情報表示装置や映像表示装置などを解体処理して排出される液晶パネルを適用することができる。図2には、一例として、TFT(Thin Film Transistor)などのアクティブ素子(図示せず)を備えた液晶パネル1を示しているが、本発明の液晶パネルの処理方法は、TN(Twisted Nematic)液晶パネル、STN(Super Twisted Nematic)液晶パネルなどのデューティ液晶パネルにも勿論適用可能である。
【0026】
図2に示す例の液晶パネル1は、たとえば、対向配置された厚さ0.4〜1.1mm程度2枚のガラス基板(カラーフィルタ側ガラス基板2a、TFT側ガラス基板2b)を備える。これらガラス基板2a,2bは、対向配置された側(内面側)に、周縁部に沿ってシール樹脂体(シール材)3が設けられ、互いに貼り合わされてなる。また、これらガラス基板2a,2bとシール樹脂体3とによって密封された領域には、液晶が封入され、厚さ4〜6μm程度の液晶層4が形成されている。また、各ガラス板2a,2bの対向配置された側とは反対側(外面側)に、厚さ0.2〜0.4mm程度の偏光板5が粘着剤により貼着されている。
【0027】
また図2に示すような典型的な液晶パネル1では、カラーフィルタ側ガラス基板2aの内面側に、カラーフィルタ6、反射防止膜7、透明導電膜8および配向膜9が形成されている。カラーフィルタ6は有機物を主体とした材料からなる。反射防止膜7は金属クロムなどの薄膜からなる。透明導電膜8はインジウムなどを含む薄膜からなる。配向膜9は有機物からなる。
【0028】
また図2に示す例では、TFT側ガラス基板2bの内面側には、画素電極10、バス電極11および配向膜9が形成されている。画素電極10はインジウムなどを含む透明な薄膜からなる。バス電極11はタンタル、アルミニウムあるいはチタンなどのいずれかの金属薄膜からなる。前記カラーフィルタ6、反射防止膜7、透明導電膜8、配向膜9、画素電極10およびバス電極11の膜厚は、前記2枚のガラス基板2a,2bの厚さと比較して、十分に薄い。
【0029】
本発明の液晶パネルの処理方法では、たとえば上述したような構造を備える液晶パネルを適用する。以下、本発明の液晶パネルの処理方法における各工程について、図2に示した例の液晶パネル1を適用する場合を例に挙げて詳細に説明する。
【0030】
〔1〕選別工程
本発明の液晶パネルの処理方法では、まず、ガラス基板2a,2bをガラスの種類(品種)別に選別する(ステップS1)。ガラスは、ガラスメーカーによって、あるいはガラス品種や品番などによって組成が異なる。したがって、回収したガラスをたとえばガラス基板用の材料として再利用するためには、多種多様なガラスを品種別に選別することが必要となる。また、回収したガラスをたとえば一般ガラス用の材料として再利用する場合にも、ある程度、ガラスを品種別に選別することが要求される場合がある。
【0031】
液晶パネルのガラス基板のガラスを品種別に選別する具体的な方法としては、液晶パネルにガラス品種の表示を設けることによって行うことができる。ここで図3は、ガラス品種の表示を設ける場合を模式的に示す斜視図である。図3には、図2に示した例の液晶パネルの斜視図を示している。たとえば図3に示すように、ガラス基板2a,2bの少なくとも一方(図3に示す例では、カラーフィルタ側ガラス基板2a)に、ガラス品種表示21を設ける。ガラス品種表示21は、ガラス品種を印刷したシールなどを貼着したり、または文字・記号・バーコードなどの印刷もしくは刻印、または表面加工によってガラス基板に設けることが可能である。このガラス品種表示21を識別することで、ガラス基板を種類(品種)別に短時間で、確実に、かつ経済的に選別することができる。
【0032】
また本発明の液晶パネルの処理方法においては、蛍光X線装置を用いて、液晶パネルのガラス基板のガラスを品種別に選別するようにしてもよい。この場合、具体的には、エネルギー分散型蛍光X線分析装置を用いガラス基板に軟X線を直接照射することが挙げられる。これにより、ガラス基板に含まれるそれぞれの元素に特有なエネルギーをもった蛍光X線が発せられる。この蛍光X線を蛍光X線センサにてエネルギーごとにカウントすることで、ガラス基板にどのような元素がどのような割合で含まれているかを測定(分析)する。ガラスの化学組成を品種ごとに予め調べておき、それらの値と前記ガラス基板の測定値とを比較することにより、ガラス基板をガラス品種ごとに短時間で、確実に、かつ経済的に選別することができる。
【0033】
本発明の液晶パネルの処理方法においては、図1のフローチャートに示すように、上述した選別工程(ステップS1)と、後述する破砕工程(ステップS3)との間に、液晶パネル1から偏光板5を剥離する剥離工程をさらに含むことが好ましい。偏光板5の剥離は、機械的な手法によって行うことができる。機械的な手法によって偏光板5を剥離することで、液晶を加熱処理しないため、加熱処理による液晶の変質を防止でき、液晶を高品質な状態で回収することが可能となる。偏光板5の剥離は、たとえば手作業で行ってもよく、また市販の偏光板剥離装置を用いるようにしてもよい。
【0034】
〔2〕破砕工程
次に、液晶パネルを破砕する(ステップS3)。破砕工程は、上述した選別工程(ステップS1)で選別した単一の品種のガラス基板ごとに行う。上述した剥離工程(ステップS2)を経ない場合には、偏光板5を有したままのカラーフィルタ側ガラス基板2aおよびTFT側ガラス基板2bについて破砕を行う。液晶パネルの破砕には市販の各種方式の破砕機を用いることができ、破砕機の種類は特に制限されるものではないが、塵の発生が少なく容易に破砕することができ、環境に悪影響を及ぼさず、かつ、ランニングコストが安価であるなどの観点から、2軸剪断方式の破砕機がより好ましい。また2軸剪断方式の破砕機は、サイズの揃った破砕片が得られやすいこと、微粉末の発生比率が小さく、破砕片をガラスカレットとして最終的に再利用しやすいことなどの利点も有している。この破砕工程によって、液晶パネル1に封入されていた液晶4および配向膜9が露出し、破砕片として得られる。破砕片の大きさは特に制限されるものではないが、ITO溶解工程での溶解効率の観点から、15mm以下が好ましい。
【0035】
〔3〕溶解工程
次に、破砕された後の液晶パネル中のインジウム錫酸化物(ITO)を溶解させる(ステップS4)。ITOの溶解には、たとえばギ酸を含有する溶液(ギ酸溶液)を好ましく用いることができるが、これに制限されるものではない。また、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸やリン酸、シュウ酸などの有機酸をITOの溶解に用いることもできる。ITOの溶解にギ酸を用いると、希少金属であるインジウムを経済的に高純度で回収することができ、インジウムを回収した後に発生する廃液処理が容易であるという利点がある。
【0036】
ギ酸溶液を用いる場合、上述した破砕工程(ステップS3)で破砕された液晶パネルをギ酸溶液に浸漬することによって、当該液晶パネル中のITOを溶解させる。ギ酸溶液の濃度は、特に制限されるものではないが、濃度が小さくなると溶解速度が遅くなるため、5重量%以上であることが好ましく、さらに溶解速度や作業性を考慮すると、10〜50重量%であることがより好ましい。なお、ギ酸溶液における溶媒は、経済性および廃液処理の容易さの観点から、水が好ましいが、これに制限されるものではない。
【0037】
ギ酸溶液を用いる場合、ギ酸溶液の温度が高いほどITOの溶解速度は遅くなり、短時間での処理が可能となる反面、取り扱い時における危険性が増し、作業環境の悪化などの問題もより大きくなる。またギ酸溶液の温度が高いほど、加熱のためのエネルギーが必要となり環境負荷も大きくなる。したがって、ギ酸溶液を用いて溶解工程を行う際のギ酸溶液の加熱温度としては、80℃以下が望ましく、60℃以下がより望ましい。室温に近い温度にて当該溶解工程を行うことで、熱による液晶の変質を防ぐことができるという利点もある。またギ酸溶液を用いる場合における、ITOを溶解させるための処理時間については特に制限されるものではないが、好ましくは2時間以上、より好ましくは4時間以上である。
【0038】
ギ酸溶液を用いたITOの溶解は、当該ギ酸溶液中に破砕された液晶パネルを浸漬させ、攪拌しながら行うことが望ましい。攪拌の方法としては、たとえば、上記浸漬のための浸漬槽を上下、左右に振動させる方法、浸漬槽を密閉した状態で回転させる方法が挙げられるが、勿論これらに制限されるものではない。
【0039】
〔4〕ガラス分離工程
次に、インジウム、錫および液晶を含有する液と、ガラスとを分離する(ステップS5)。上述した溶解工程(ステップS4)でITOを溶解させたギ酸溶液から、ガラスを分離する。ガラスを分離させる方法としては、たとえばろ過によって固液分離する方法が挙げられる。ガラスを分離後のギ酸溶液は、インジウムおよび錫を主として含有し、また液晶が分散されてなる(本明細書では、このガラスを分離した後の液を「インジウム、錫および液晶を含有する液」と呼ぶ。)。なお、このインジウム、錫および液晶を含有する液には、電極材料に使用されるアルミニウム、チタンなどの金属イオンも含有される。
【0040】
〔5〕液晶分離工程
次に、インジウム、錫および液晶を含有する液から液晶を分離する(ステップS6)。液晶を分離する方法については特に制限されるものではなく、たとえば疎水性の有機溶媒を用いる方法、逆浸透膜(RO膜)を用いる方法などを挙げることができる。中でも、経済的に高純度かつ高収率で、劣化を伴わずに液晶の回収を行うことができる観点からは、疎水性の有機溶媒を用いる方法によって液晶を分離することが好ましい。
【0041】
疎水性の有機溶媒を用いる場合、具体的には、上述したガラス分離工程(ステップS5)で得られたインジウム、錫および液晶を含有する液に、疎水性の有機溶媒を混合し、当該液中に分散している液晶を有機溶媒に溶解させることで、液晶を分離する。疎水性の有機溶媒は、インジウム、錫および液晶を含有する液に含まれるギ酸溶液と室温における比重が異なるため、当該有機溶媒とギ酸溶液との混合物を室温で静置すると、有機溶媒層とギ酸溶液層との二層に分離する。この際、液晶は、有機溶媒層に溶解している。
【0042】
本発明における液晶分離工程に用いられる前記有機溶媒としては、疎水性であって、ギ酸溶液(比重:1.0)と異なる比重を有する有機溶媒であれば特に制限されるものではなく、たとえばリモネン(比重:0.84)、トルエン(比重:0.87)、ヘキサン(比重:0.66)などが挙げられる。中でも、取り扱い性が安全で人体に対する毒性が少ない、リモネンを用いることが好ましい。たとえば、有機溶媒としてリモネンを用いた場合、20℃における比重が0.84のリモネンが上層に、比重が約1.0のギ酸溶液が下層に分かれる。下層のギ酸溶液は、インジウムおよび錫を含有する液として回収される。また上層の有機溶媒層を回収して減圧下で留去することにより、有機溶媒を揮発させて液晶を回収する。
【0043】
〔6〕濃縮工程
次に、上述した液晶分離工程(ステップS6)で回収されたインジウムおよび錫を含有する液を濃縮する(ステップS7)。インジウムおよび錫を分離濃縮する方法としては特に制限されるものではなく、たとえばイオン交換法、電解法、溶媒抽出法、置換法等を挙げることができる。中でも、廃棄物が排出されず、エネルギー消費の少ないイオン交換法によって、インジウムおよび錫を含有する液を濃縮することが好ましい。
【0044】
イオン交換法を用いる場合、まず、上述した液晶分離工程(ステップS5)によって液晶を分離回収した後のインジウムおよび錫を含有する液を陰イオン交換樹脂と接触させ、インジウムおよび錫を陰イオン交換樹脂に吸着させる。この際、インジウムおよび錫を含有する液に含まれているアルミニウム、チタンなどの不純物金属はイオン交換樹脂に吸着されないため、これらの不純物金属を分離除去できる。インジウムおよび錫が分離されたギ酸溶液は、回収して上述した溶解工程(ステップS4)で再利用することができる。
【0045】
陰イオン交換樹脂としては、特に制限されるものではなく、従来公知の適宜の陰イオン交換樹脂を用いることができる。中でも、高収率かつ高純度でインジウムを回収するため、たとえばダイヤイオンSA10A(三菱化学社製)、アンバーライトIRA400(ローム・アンド・ハース社製)などの強塩基性の陰イオン交換樹脂を用いることが好ましい。次に、インジウムおよび錫を吸着させた陰イオン交換樹脂を純水に接触させる。これによりインジウムおよび錫が陰イオン交換樹脂から脱離され、インジウムおよび錫の濃縮液(以下、単に「濃縮液」と呼称する)を回収することができる。
【0046】
陰イオン交換樹脂と、インジウムおよび錫を含有する液ならびに純水とを接触させる具体的な方法としては、陰イオン交換樹脂を予め充填した円筒形のカラムに、インジウムおよび錫を含有する液または純水を通液する方法を挙げることができる。
【0047】
〔7〕インジウムおよび錫分離工程
次に、上述した濃縮工程(ステップS7)で回収された濃縮液から、インジウムおよび錫を分離回収する(ステップS8)。インジウムおよび錫を分離回収する方法として、具体的には、上記陰イオン交換樹脂から脱離された濃縮液(不純物金属が除去されている)を、pH2〜4に調整し、沈殿物として水酸化錫を生成させる。これによってたとえばろ過などの方法を用いて水酸化錫を固液分離した後、水素還元によって、金属錫を分離回収することができる。なお、上記pHが2未満である場合には、水酸化錫が沈殿せず、また、上記pHが4を超える場合には、水酸化錫に加えて水酸化インジウムも沈殿するため、インジウムと錫の分離回収が困難となる。
【0048】
その後、上述のようにして錫を分離後のインジウムの濃縮液を、pH5〜6に調整することで、水酸化インジウムが沈殿物として生成される。これによってたとえば遠心分離によって水酸化インジウムを分離後、水素還元により、金属インジウムを分離回収することができる。なお、上記pHが5未満であると、液中のインジウム量に対して水酸化インジウムとして沈殿する割合は少なく、またpHが6を超える場合には、沈殿する水酸化インジウムの量は変わらず、中和剤の消費量が増加するだけである。
【0049】
上述したpHの調整には、たとえば水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどの水酸化物塩を用いることができる。中でも、中和反応速度が速い、水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。なお、pHの調整には、たとえば市販のガラス電極を有するpH計などを用いてモニターしながら行うことが好ましい。
【0050】
濃縮工程(ステップS7)を経て、インジウムおよび錫を分離(ステップS8)した後の廃液(たとえばギ酸含有廃液)は、たとえば活性汚泥処理などの微生物処理に供することができる。ギ酸含有廃液の場合、上記微生物処理によって容易に酸化され、水と二酸化炭素に分解処理される。このように、本発明の液晶パネルの処理方法では、液晶パネルにおいて薄膜を形成していた希少金属であるインジウムおよび錫について、廃棄物の発生を伴うことなく、経済的に高純度で回収し、再生できるという利点がある。
【0051】
なお、本発明の液晶パネルの処理方法において、上述したガラス分離工程(ステップS5)で分離されたITO除去後のガラスは、その表面に付着している不純物(有機物、金属および金属薄膜)を除去することによって再利用することが可能である。上記不純物としては、たとえば反射防止膜、透明導電膜、画素電極、バス電極の薄膜などを挙げることができる。これらの不純物は、たとえば、ガラス分離工程で得られたガラスを酸性水溶液に浸漬することで、ガラス表面から除去することができる。酸性水溶液としては、たとえば、塩酸、硝酸、硫酸、フッ酸、フッ酸と硝酸との混酸などが例示される。
【0052】
表面に不純物が除去されたガラス(ガラスカレット)は、上述した選別工程(ステップS1)において既にガラス品種別に選別されている。つまり、ガラスカレットは、単一の品種のガラスであり、かつ、ガラス基板用の原料ガラスと変わらない化学組成を有している。それ故、本発明の液晶パネルの処理方法において分離回収されたガラスカレットは、原料ガラスに添加混合することにより、または、原料ガラスに置き換えて、再利用(マテリアルリサイクル)することができる。再利用する際には、たとえば、ガラスカレットを原料ガラスとともに溶融炉で溶融させればよい。さらに、本発明の液晶パネルの処理方法において回収されたガラスカレットは、たとえば一般ガラス用の材料として再利用することもできる。なお、液晶パネルのガラス基板は、ガラスカレットの状態で回収されるため、その保管、運搬および再利用に必要なスペースを小さくすることができ、かつ、保管作業および運搬作業を容易に行うことができる。このように本発明の液晶パネルの処理方法では、ほとんど廃棄物を排出することなく、液晶、および透明導電膜中のインジウムを回収でき、ガラスについても再利用することができる。
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
<実施例1>
約10mmのサイズに破砕した液晶パネル100gを、20重量%ギ酸溶液100mLが入ったビーカーに入れ、60℃で4時間攪拌したときのギ酸溶液中のインジウムおよび錫含有量を表1に示す。なお、インジウムおよび錫含有量の分析は、IPC発光分析装置を用いて行った。
【0055】
【表1】

【0056】
液晶パネル中のインジウムのうちギ酸溶液中に溶解した割合は99.5%であった。
ここで得られたインジウム、錫および液晶を含有する液100mLをリモネン100mLと混合した後、室温で静置し、リモネンの層とギ酸溶液の層とに分離した。リモネン層とギ酸溶液層のそれぞれについて液晶含有量の分析を行った結果を表2に示す。なお、液晶含有量の分析は、ガスクロマトグラフ装置を用いて行った。
【0057】
【表2】

【0058】
インジウム、錫および液晶を含有する液中に含まれていた液晶の99.5%以上がリモネン層に分離された。
【0059】
強塩基性陰イオン交換樹脂(ダイヤイオンSA−10A、三菱化学社製)30mLが充填されたカラム(内径:19mm×高さ:25cm)に、インジウムおよび錫含有液100mLを流速3mL/minで通液した。漏出した液のインジウムおよび錫の含有量を表3に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
インジウムおよび錫含有液中のインジウムおよび錫のうち99%が陰イオン交換樹脂に吸着され分離された。インジウムおよび錫を吸着させた陰イオン交換樹脂に純水を通液し、得られた濃縮液の組成を表4に示す。
【0062】
【表4】

【0063】
今回開示された実施の形態および実施例は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0064】
廃液晶パネルの埋立地への投棄量を極力抑え、資源を有効に利用することのできる液晶パネルの処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の液晶パネルの処理方法を模式的に示すフローチャートである。
【図2】本発明の液晶パネルの処理方法に供される典型的な液晶パネル1を模式的に示す断面図である。
【図3】ガラス品種の表示を設ける場合を模式的に示す斜視図である。
【符号の説明】
【0066】
1 液晶パネル、2a ガラス基板(カラーフィルタ側ガラス基板)、2b ガラス基板(TFT側ガラス基板)、3 シール樹脂体、4 液晶層、5 偏光板、6 カラーフィルタ、7 反射防止膜、8 透明導電膜、9 配向膜、10 画素電極、11 バス電極、21 ガラス品種表示。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板をガラスの種類別に選別する選別工程と、
液晶パネルを破砕する破砕工程と、
前記破砕された液晶パネル中のインジウム錫酸化物を溶解させる溶解工程と、
インジウム、錫および液晶を含有する液とガラスとを分離するガラス分離工程と、
インジウム、錫および液晶を含有する液から液晶を分離する液晶分離工程と、
インジウムおよび錫を含有する液を濃縮する濃縮工程と、
インジウムおよび錫の濃縮液からインジウムおよび錫を分離するインジウムおよび錫分離工程とを含む、液晶パネルの処理方法。
【請求項2】
前記溶解工程は、前記破砕された液晶パネルをギ酸溶液に浸漬することによって、液晶パネル中のインジウム錫酸化物を溶解させることを特徴とする、請求項1に記載の液晶パネルの処理方法。
【請求項3】
前記液晶分離工程は、インジウム、錫および液晶を含有する液と疎水性の有機溶媒とを混合することによって、液晶を有機溶媒に溶解させて分離することを特徴とする、請求項1に記載の液晶パネルの処理方法。
【請求項4】
前記濃縮工程は、インジウムおよび錫を含有する液を陰イオン交換樹脂に接触させることにより、インジウムおよび錫を陰イオン交換樹脂に吸着させること含む、請求項1に記載の液晶パネルの処理方法。
【請求項5】
前記濃縮工程は、前記陰イオン交換樹脂に吸着したインジウムおよび錫を脱離させて、インジウムおよび錫の濃縮液を得ることをさらに含む、請求項4に記載の液晶パネルの処理方法。
【請求項6】
前記インジウムおよび錫分離工程は、インジウムおよび錫の濃縮液のpHを2〜4に調整して水酸化錫を沈殿させて錫を分離した後、錫を分離後のインジウムの濃縮液のpHを5〜6に調整して水酸化インジウムを沈殿させてインジウムを分離することを特徴とする請求項5に記載の液晶パネルの処理方法。
【請求項7】
前記選別工程と前記破砕工程との間に、液晶パネルから偏光板を剥離する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の液晶パネルの処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−73619(P2008−73619A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−255782(P2006−255782)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】