説明

液晶ポリエステル繊維の製造方法、液晶ポリエステル繊維、ゴム補強材、タイヤコードおよびタイヤ

【課題】液晶ポリエステル繊維を長時間にわたって安定的に製造する。
【解決手段】液晶ポリエステル調製工程は、芳香族ジオールおよび芳香族ヒドロキシカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種のフェノール性ヒドロキシル基含有化合物を脂肪族無水物でアシル化し、対応するアシル化物を得るアシル化と、アシル化物と芳香族ジカルボン酸および芳香族ヒドロキシカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とをエステル交換して液晶ポリエステルを得るエステル交換とからなる。この際、アシル化およびエステル交換の少なくとも一方は、窒素原子を2原子以上含む複素環状有機塩基化合物の存在下に行われる。次に、特定の条件で測定した液晶ポリエステルの溶融粘度が70Pa・sを示す温度以上であって、370℃未満の温度で、流動開始温度が305℃以上380℃以下の液晶ポリエステルを溶融紡糸して繊維を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に自動車のタイヤを構成するタイヤコードに使用されるゴム補強材の原料となる液晶ポリエステルから構成される繊維、つまり液晶ポリエステル繊維の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の液晶ポリエステル繊維を製造する一手法として、溶融紡糸装置のノズル出口の雰囲気温度を特定の温度範囲内(液晶ポリエステルの流動開始温度より低く、かつ流動開始温度より100℃低い温度よりも高い温度範囲内)に制御しつつ、液晶ポリエステルを溶融紡糸する方法が提案されていた(例えば、特許文献1参照)。この方法によると、紡糸が極めて安定的に行われ、高強度、高弾性率の液晶ポリエステル繊維が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−138715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1で提案された技術によれば、溶融紡糸装置を厳格に温度管理する必要があるため、製造環境などの状況によっては、液晶ポリエステル繊維の製造を長時間にわたって安定的に継続することができない場合があり、この点を改良した液晶ポリエステル繊維の製造方法が望まれていた。
【0005】
そこで、本発明は、このような事情に鑑み、液晶ポリエステル繊維を長時間にわたって安定的に製造することが可能な液晶ポリエステル繊維の製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するため、本発明者は、鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、I-(i)芳香族ジオールおよび芳香族ヒドロキシカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種のフェノール性ヒドロキシル基含有化合物を脂肪族無水物でアシル化し、対応するアシル化物を得るアシル化と、I-(ii)前記アシル化物と芳香族ジカルボン酸および芳香族ヒドロキシカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とをエステル交換して液晶ポリエステルを得るエステル交換とからなる液晶ポリエステル調製工程であって、前記アシル化および前記エステル交換の少なくとも一方が、窒素原子を2原子以上含む複素環状有機塩基化合物の存在下に行われる液晶ポリエステル調製工程と、II 前記液晶ポリエステルを溶融紡糸して繊維を得る溶融紡糸工程とを含む液晶ポリエステル繊維の製造方法であって、前記液晶ポリエステルは、流動開始温度が305℃以上380℃以下の液晶ポリエステルであり、前記溶融紡糸工程は、(a)流れ特性試験機を用いてノズルの孔径0.5mm、せん断速度1000s-1の条件で測定した前記液晶ポリエステルの溶融粘度が70Pa・sを示す温度以上であって、(b)370℃未満の温度で実施する液晶ポリエステル繊維の製造方法を提供する。
【0008】
また、本発明は、上記製造方法によって製造された液晶ポリエステル繊維、当該繊維を含むゴム補強材、当該ゴム補強材を含むタイヤコードを提供し、さらに、当該タイヤコードを有するタイヤをも提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、液晶ポリエステルの調製に際して特定の触媒を用いるとともに、液晶ポリエステルの溶融紡糸に際して特定の流動開始温度および溶融粘度特性を有する液晶ポリエステルを特定の温度範囲で用いることから、液晶ポリエステル繊維を長時間にわたって安定的に製造することが可能な液晶ポリエステル繊維の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1に係るタイヤの断面図(端面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
【0012】
図1には、本発明の実施の形態1を示す。
<タイヤの構造>
【0013】
この実施の形態1に係るタイヤ1は、チューブレスラジアルタイヤの一例であり、図1に示すように、C字断面リング状のゴム本体2を備えている。ゴム本体2は、トレッド部2aを有しており、トレッド部2aの両側にはそれぞれサイドウォール部2b、2cが一体に連設されている。さらに、これらのサイドウォール部2b、2cの先端にはそれぞれビード部2d、2eが、自動車(図示せず)の円環状のホイールリム5に嵌合しうる形で一体に連設されている。また、ゴム本体2には、そのトレッド部2aの強度を増すと同時に、釘などの異物の貫通によるパンクの発生を未然に防止するため、トレッド部2aの近傍にブレーカーコード3がタイヤコードとして埋設されている。さらに、ゴム本体2には、その構造を保持するため、一方のビード部2dから一方のサイドウォール部2b、トレッド部2a、他方のサイドウォール部2cを経て他方のビード部2eに至る部位に、カーカスコード4がタイヤコードとして埋設されている。
【0014】
ここで、ブレーカーコード3およびカーカスコード4は、いずれも、特定の液晶ポリエステルから構成される繊維(つまり、液晶ポリエステル繊維)を用いた不織布から構成されるゴム補強材から構成される。
<液晶ポリエステル繊維の製造方法>
【0015】
この液晶ポリエステル繊維は、以下に述べるとおり、液晶ポリエステル調製工程、溶融紡糸工程などの工程を経て製造される。
【0016】
まず、液晶ポリエステル調製工程において、特定の液晶ポリエステルを調製する。
【0017】
この液晶ポリエステルは、芳香族ジオールおよび芳香族ヒドロキシカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種のフェノール性ヒドロキシル基(フェノール性水酸基)含有化合物を脂肪酸無水物でアシル化して得たアシル化物と、芳香族ジカルボン酸および芳香族ヒドロキシカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを、エステル交換により縮重合させて製造することができるが、アシル化およびエステル交換の少なくとも一方は、特定の触媒(窒素原子を2原子以上含む複素環状有機塩基化合物)の存在下に行う必要がある。
【0018】
まず、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシカルボン酸または芳香族ジオールと芳香族ヒドロキシカルボン酸との混合物におけるフェノール性ヒドロキシル基含有化合物を脂肪酸無水物でアシル化する方法について説明する。
【0019】
芳香族ジオールとしては、例えば、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、メチルハイドロキノン、クロロハイドロキノン、アセトキシハイドロキノン、ニトロハイドロキノン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−クロロフェニル)プロパン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3−クロロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)ケトン、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)ケトン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられる。これらは単独でも2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中で、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)スルホンが入手が容易であるため好ましく、4,4’−ジヒドロキシビフェニルがより好ましく使用される。
【0020】
芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、m−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸、1−ヒドロキシ−4−ナフトエ酸、4−ヒドロキシ−4’−カルボキシジフェニルエーテル、2,6−ジクロロ−p−ヒドロキシ安息香酸、2−クロロ−p−ヒドロキシ安息香酸、2,6−ジフルオロ−p−ヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシ−4’−ビフェニルカルボン酸等が挙げられる。これらは単独でも2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中で、p−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸が入手が容易であるため好ましく、p−ヒドロキシ安息香酸がより好ましく使用される。
【0021】
脂肪酸無水物としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水吉草酸、無水ピバル酸、無水2エチルヘキサン酸、無水モノクロル酢酸、無水ジクロル酢酸、無水トリクロル酢酸、無水モノブロモ酢酸、無水ジブロモ酢酸、無水トリブロモ酢酸、無水モノフルオロ酢酸、無水ジフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水β−ブロモプロピオン酸等が挙げられるが、特に限定されるものでなく、これらは2種類以上を混合して用いてもよい。価格と取扱い性の観点から、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸が好ましく使用され、無水酢酸がより好ましく使用される。
【0022】
芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシカルボン酸または芳香族ジオールと芳香族ヒドロキシカルボン酸との混合物におけるフェノール性ヒドロキシル基含有化合物に対する脂肪酸無水物の使用量は、1〜1.2倍当量が好ましく、1〜1.15倍当量がより好ましく、1.03〜1.12倍当量がさらに好ましく、1.05〜1.1倍当量が最も好ましい。脂肪酸無水物の使用量が、このフェノール性ヒドロキシル基に対して1倍当量未満の場合には、アシル化反応時の平衡が脂肪酸無水物側にずれてポリエステルへの重合時に未反応の芳香族ジオールまたは芳香族ジカルボン酸が昇華し、反応系が閉塞する傾向があり、また1.2倍当量を超える場合には、得られる液晶ポリエステル樹脂の着色が著しくなる傾向がある。
【0023】
アシル化反応は、130℃〜180℃で30分〜20時間反応させることが好ましく、140〜160℃で1〜5時間反応させることがより好ましい。
【0024】
次に、上記の方法で得られたアシル化物と、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸または芳香族ジカルボン酸と芳香族ヒドロキシカルボン酸との混合物のいずれかとをエステル交換する方法について説明する。エステル交換に使用される芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、メチルテレフタル酸、メチルイソフタル酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルケトン−4,4’−ジカルボン酸、2,2’−ジフェニルプロパン−4,4’−ジカルボン酸等が挙げられる。これらは単独でも2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中で、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸とイソフタル酸との混合物、2,6−ナフタレンジカルボン酸が入手が容易であるため好ましく、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸とイソフタル酸との混合物がより好ましく使用される。
【0025】
エステル交換に使用される芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、前記と同じものが挙げられる。
【0026】
前記アシル化物に対する、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸または芳香族ジカルボン酸と芳香族ヒドロキシカルボン酸との混合物の使用量は、0.8〜1.2倍当量であることが好ましい。
【0027】
エステル交換(重縮合)反応は、130〜400℃の範囲で0.1〜50℃/分の割合で昇温させながら反応させることが好ましく、150〜350℃の範囲で0.3〜5℃/分の割合で昇温しながら反応させることがより好ましい。
【0028】
エステル交換(重縮合)反応の後に、種々の物性を向上させるために固相重合を行なうことができる。固相重合の昇温速度、処理温度は樹脂が融着しない条件で行なうことが好ましく、最終処理温度Tfを変えることにより目的とする流動開始温度の液晶ポリエステル樹脂を得ることができる。例えば、流動開始温度がA℃の液晶ポリエステル樹脂を得るためには、Tfを(A−30)℃〜(A−60)℃とすればよい。
【0029】
アシル化により得られた脂肪酸エステルとカルボン酸とをエステル交換反応させる際、ル・シャトリエ‐ブラウンの法則(平衡移動の原理)により、平衡をずらすために、副生する脂肪酸と未反応の脂肪酸無水物は、蒸発させて系外へ留去することが好ましい。また、留出する脂肪酸の一部を還流させて反応器に戻すことによって、脂肪酸と同伴して蒸発または昇華する原料などを凝縮または逆昇華し、反応器に戻すこともできる。この場合、析出したカルボン酸を脂肪酸とともに反応器に戻すことが可能である。
【0030】
窒素原子を2原子以上含む複素環状有機塩基化合物としては、例えば、イミダゾール化合物、トリアゾール化合物、ジピリジリル化合物、フェナントロリン化合物、ジアザフェナントレン化合物、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデ−7−セン、N,N−ジメチルアミノピリジン等が挙げられる。
【0031】
イミダゾール化合物としては、式(1)で示されるイミダゾール化合物が好ましく使用される。


(式中、R1 〜R4 は、それぞれ独立に、水素原子を表すか、炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシメチル基、シアノ基、炭素数が2〜5のシアノアルキル基、炭素数が2〜5のシアノアルコキシ基、カルボキシル基、アミノ基、炭素数1〜4のアミノアルキル基、炭素数1〜4のアミノアルコキシ基、フェニル基、ベンジル基、フェニルプロピル基またはフォルミル基を表す。)
【0032】
式(1)で示されるイミダゾール化合物の具体例としては、例えば、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、4−エチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1,4−ジメチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、1−メチル−2−エチルイミダゾール、1−メチル−4エチルイミダゾール、1−エチル−2−メチルイミダゾール、1−エチル−2−エチルイミダゾール、1−エチル−2−フェニルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、4−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−アミノエチル−2−メチルイミダゾール、1−(シアノエチルアミノエチル)−2−メチルイミダゾール、N−[2−(2−メチル−1−イミダゾリル)エチル]尿素、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾールトリメリテート、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾールトリメリテート、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾールトリメリテート、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾールトリメリテート、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−S−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−ウンデシルイミダゾリル(−(1’))−エチル−S−トリアジン]、2,4−ジアミノ−6−[2−エチル−4−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−S−トリアジン、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド、N,N’−ビス(2−メチル−1−イミダゾリルエチル)尿素、N,N’−(2−メチル−1−イミダゾリルエチル)アジポアミド、2,4−ジアルキルイミダゾール−ジチオカルボン酸、1,3−ジベンジル−2−メチルイミダゾリウムクロライド、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニル−4,5−ビス(シアノエトキシメチル)イミダゾール、2−メチルイミダゾール・イソシアヌル酸付加物、2−フェニルイミダゾール・イソシアヌル酸付加物、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−S−トリアジン・イソシアヌル酸付加物、2−アルキル−4−フォルミルイミダゾール、2,4−ジアルキル−5−フォルミルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、イミダゾール−4−ジチオカルボン酸、2−メチルイミダゾール−4−ジチオカルボン酸、2−ウンデシルイミダゾール−4−ジチオカルボン酸、2−ヘプタデシルイミダゾール−4−ジチオカルボン酸、2−フェニルイミダゾール−4−ジチオカルボン酸、4−メチルイミダゾール−5−ジチオカルボン酸、4−ジメチルイミダゾール−5−ジチオカルボン酸、2−エチル−4−メチルイミダゾール−5−ジチオカルボン酸、2−ウンデシル−4−メチルイミダゾール−5−ジチオカルボン酸、2−フェニル−4−メチルイミダゾール−5−ジチオカルボン酸、1−アミノエチル−2−メチルイミダゾール、1−(シアノエチルアミノエチル)−2−メチルイミダゾール、N−(2−メチルイミダゾリル−1−エチル)尿素、N,N’−[2−メチルイミダゾリル(1)−エチル]−アジポイルジアミド、1−アミノエチル−2−エチルイミダゾール、4−フォルミルイミダゾール、2−メチル−4−フォルミルイミダゾール、4−メチル−5−フォルミルイミダゾール、2−エチル−4−メチル−5−フォルミルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−4−フォルミルイミダゾールなどが挙げられる。
【0033】
トリアゾール化合物としては、例えば、1,2,4−トリアゾール、1,2,3−トリアゾール、ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。ジピリジリル化合物としては、例えば、2,2’−ジピリジリル、4,4’−ジピリジリルなどが挙げられる。フェナントロリン化合物としては、例えば、ピリミジン、プリン、1,7−フェナントロリン、1,10−フェナントロリンなどが挙げられる。ジアザフェナントレン化合物としては、例えば、ピリダジン、トリアジン、ピラジン、1,8−ジアザフェナントレンなどが挙げられる。
【0034】
窒素原子を2原子以上含む複素環状有機塩基化合物としては、反応性の観点から式(1)で表されるイミダゾール化合物が好ましく、色調の観点からR1 が炭素数1〜4のアルキル基、R2 〜R4 が水素原子である式(1)で表されるイミダゾール化合物がさらに好ましく、さらに入手が容易であるため、1−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾールが最も好ましい。

【0035】
窒素原子を2原子以上含む複素環状含有機塩基化合物の添加量は、原料仕込みに用いる芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシカルボン酸の合計100質量部に対して、0.005〜1質量部が好ましく、色調、生産性の観点から0.05〜0.5質量部であることがより好ましい。添加量が0.005質量部未満では、衝撃強度等の改善効果が少ない傾向があり、1質量部を超える場合、反応の制御が困難となる傾向がある。窒素原子を2原子以上含む複素環状有機塩基化合物は、アシル化やエステル交換を行う際の一時期に存在しておればよく、その添加時期は特に限定されず、反応開始の直前であっても、反応中に添加してもよい。特に、300℃以上で窒素原子を2原子以上含む複素環状有機塩基化合物を添加してエステル交換反応の行なうことにより得られた液晶ポリエステル樹脂は、成形加工において優れた流動性を示すため好ましい。
【0036】
エステル交換反応を促進して重合速度を増加させる目的で、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で微量の触媒を添加してもよい。添加される触媒としては、例えば、酸化ゲルマニウムなどのゲルマニウム化合物、しゅう酸第一スズ、酢酸第一スズ、ジアルキルスズ酸化物、ジアリールスズ酸化物などのスズ化合物、二酸化チタン、チタンアルコキシド、アルコキシチタンケイ酸類などのチタン化合物、三酸化アンチモンなどのアンチモン化合物、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛、酢酸第一鉄などの有機酸の金属塩、トリフッ化ホウ素、塩化アルミニウムなどのルイス酸類、アミン類、アミド類、塩酸、硫酸などの無機酸などが挙げられる。
【0037】
アシル化反応およびエステル交換(重縮合)反応は、例えば、回分装置、連続装置などを用いて行なうことができる。
【0038】
このような液晶ポリエステルとしては、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位(I)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位(II)、テレフタル酸由来の構造単位(III)およびイソフタル酸由来の構造単位(IV)からなり、II/Iのモル比率が0.2〜1、(III+IV)/IIのモル比率が0.9〜1.1、IV/IIIのモル比率が0より大きく1以下である液晶ポリエステルが好ましい。
【0039】
また、この液晶ポリエステルの流動開始温度は、溶融紡糸時の発泡を防止する観点から、305℃以上であることがで、好ましくは310℃以上である。また、当該流動開始温度は、380℃以下であることができ、360℃以下であることが好ましく、より好ましくは350℃以下である。液晶ポリエステルの流動開始温度が305℃を下回ると、溶融紡糸時に分解ガスが発生し、樹脂の発泡が生じることで糸切れが発生する恐れがある。液晶ポリエステルの流動開始温度が380℃を超えると、同様の不都合が発生することに加えて、長期間溶融紡糸した際に粘度の増大が制御できず安定的に繊維化できない傾向がある。
【0040】
なお、この流動開始温度とは、当技術分野で周知の液晶ポリエステルの分子量を表す指標であり(例えば、小出直之編「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」第95〜105頁、(株)シーエムシー出版、1987年6月5日発行を参照)、液晶ポリエステルをパウダー状に加工して、内径1mm、長さ10mmのダイスを取り付けた毛細管型レオメータに充填し、これに9.8MPa(100kgf/cm2 )の荷重を加え、昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルを押し出しながらフローテスターを用いて溶融粘度を測定し、4800Pa・s(48000ポアズ)の溶融粘度が得られたときの温度を表す。
【0041】
次いで、こうして得られた液晶ポリエステルを繊維形状とするため、溶融紡糸工程において、この液晶ポリエステルを溶融紡糸して繊維を得る。
【0042】
液晶ポリエステルの紡糸は、(a)流れ特性試験機を用いてノズル(紡糸口金)の孔径0.5mm、せん断速度1000s-1の条件で測定した液晶ポリエステルの溶融粘度が70Pa・s温度以上であって、(b)370℃未満の温度で実施する。先の条件で測定した液晶ポリエステルの溶融粘度が70Pa・sとなる温度以上で紡糸を行うのは、そうすることで紡糸時の液晶ポリエステルの配向性が高まり、かつ低粘度化できるといった理由のためであり、好ましくは当該溶融粘度が60Pa・sとなる温度以上、さらに好ましくは40Pa・sとなる温度以上で紡糸を実施する。紡糸の下限温度は360℃以下であってもよい。一方、液晶ポリエステルの紡糸温度の上限は、370℃未満とし、この上限は、液晶ポリエステルの融点より50℃高い温度以下が好ましく、液晶ポリエステルの融点より30℃高い温度以下がさらに好ましい。
【0043】
液晶ポリエステルの溶融紡糸に際しては、液晶ポリエステルを流動開始温度以上で溶融させた後、溶融紡糸のノズルから吐出させることにより、繊維形状とし、さらに冷却することにより、繊維を形成する。こうして形成された繊維は、ボビン等を用いて巻き取ることにより、連続的に繊維を得ることができる。ここで、ノズルの孔径は、通常0.05〜1mm程度であり、0.1〜0.5mmであると好ましい。また、ノズルからの吐出量は通常1〜40g/分であり、10〜30g/分であると好ましく、吐出量は溶融紡糸時に糸切れが発生しないような範囲で調整すると好ましい。
【0044】
このようにして紡糸することにより、液晶ポリエステルが配向結晶化した繊維を得ることができる。ただし、液晶ポリエステル自身の分解を極力抑制するためには、溶融紡糸工程における液晶ポリエステルの溶融時間は、なるべく短く設定することが好ましく、溶融した液晶ポリエステルの移送時間は、なるべく短く設定することが好ましい。かかる溶融紡糸には、市販の溶融紡糸装置(例えば、(株)中部化学機械製作所製のマルチフィラメント装置「ポリマーメイトV」)を用いることができる。このような溶融紡糸装置を用いれば、液晶ポリエステルの溶融時間の短縮が容易であり、溶融した液晶ポリエステルを繊維形状とする移送時間も短縮することができる。また、溶融紡糸装置として、ノズルの直前部に加熱手段を備え、溶融された液晶ポリエステルが直ぐにノズルから吐出するようにすれば、溶融時間の短縮と移送時間の短縮とを両立させることができる。
【0045】
また、繊維を構成している液晶ポリエステルに、より高い配向性を付与するためには、ノズルにおけるせん断速度を1000s-1以上とすることが好ましく、さらに、ノズルの孔径が小さいほど好ましい。また、吐出された繊維をボビンで巻き取る場合は、その巻取速度が大きいほど好ましい。なお、ノズルの孔数は、特に制限されるものではなく、使用する溶融紡糸装置の種類や、必要とする生産量に応じて適宜選択すればよい。
【0046】
また、溶融紡糸する際の液晶ポリエステルには、繊維を製造する上での紡糸性や、後述する加熱処理により悪影響を及ぼさない範囲で、耐光剤、カーボンブラック、酸化チタンなど各種の粒子、顔料、染料などの着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤などを添加することもできる。
【0047】
このようにして得られた繊維は、そのままでも5〜8cN/dtex程度の強度を有しているので、ナイロンや液晶ポリエステル以外のポリエステルからなる有機繊維より強度が高いものである。
【0048】
こうして得られた繊維は、必要に応じて、さらに加熱処理してもよく、そうすることで繊維を高強度化することができる。
【0049】
このとき、加熱処理温度は、280℃以上の温度が好ましく、300℃以上400℃以下がより好ましく、310℃以上380℃以下がさらに好ましい。また、加熱処理時間は、概ね0.5〜50時間程度である。なお、加熱処理時の雰囲気としては、不活性気体雰囲気または13.3kPa(100mmHg)以下の真空度の真空が好ましい。
【0050】
繊維の加熱処理に際しては、ノズルから吐出された繊維をそのまま加熱炉中に通過させるようにする形式でも、繊維をボビンに巻き取った後、ボビンごと繊維を加熱するような形式でも、ボビンから繊維を引き出して、加熱するような形式でもよい。操作上の容易さおよび生産性を勘案すると、ボビンごと加熱する形式が好ましい。
【0051】
加熱処理に係る雰囲気ガスとしては、窒素やアルゴンなどの不活性ガスのほか、空気や酸素、炭酸ガスまたはこれらの混合気体を用いることもできる。ただし、液晶ポリエステルは加水分解を受けやすい傾向があるので、除湿された雰囲気ガスであることが好ましく、雰囲気ガスの露点は−20℃以下がより好ましく、−50℃以下が特に好ましい。
【0052】
繊維の加熱処理において、その処理時間は、処理温度および得られる液晶ポリエステル繊維の目的とする特性により適宜最適化できるが、一般的には1〜20時間程度である。この処理時間は生産性およびエネルギー消費量の点から、短時間の方が好ましい。なお、この処理時間をより短時間にするためには、多段階の加熱処理を行うことが好ましい。典型的には、120〜150℃程度で0.5〜1時間、次いで、180〜200℃で0.5〜3時間、さらには210〜230℃で1〜5時間、加熱処理するといった多段階の加熱処理を挙げることができる。なお、このような多段階の加熱処理においても、処理温度の最高値が230℃以下であることが必要である。また、処理温度の最高値は、後述する加熱処理前後の強度の増加率を勘案して設定すればよいが、典型的には200℃以上である。
【0053】
このようにして得られる液晶ポリエステル繊維は、加熱処理の前後で、その強度が2倍以上に向上する。なお、液晶ポリエステル繊維の強度とは、万能材料試験機(例えば、(株)島津製作所製の「オートグラフAG−1KNIS」)を用いて、測定温度23℃、試料間隔20cm、引張速度20cm/分で測定して求められる引張強度をいう。
【0054】
このような液晶ポリエステル繊維は、必要に応じて、ゴム本体2や他基材との接着性を高めるため、さらに表面処理を施してもよい。このとき、表面処理を施す液晶ポリエステル繊維の形態としては、繊維状の形態であっても布状の形態(例えば、繊維を織らずに絡み合わせたシート状のもの(不織布))であってもよい。この表面処理の方法としては、例えば、コロナ放電処理、火炎処理、スパッタリング処理、溶剤処理、UV処理、プラズマ処理などが挙げられる。
【0055】
また、こうした表面処理に代えて、接着剤を使用することも有効である。この接着剤としては、例えば、エポキシ化合物、イソシアネート化合物およびハロゲン化フェノール化合物などが挙げられる。
【0056】
なお、本発明の液晶ポリエステル繊維は、芯鞘型複合糸、バイメタル型複合糸、海島型や分割型の複合紡糸で得られた繊維であってもよく、極細繊維であってもよい。
【0057】
また、繊維の断面形状は特に限定されるものではなく、円形断面のほか、三角断面、マルチオーバル断面、扁平断面、中空糸など種々の形状が広く適用できる。このような繊維の断面形状は、溶融紡糸工程で使用するノズルの形状によって所望の形状とすることができる。
【0058】
ここで、液晶ポリエステル繊維の製造が終了する。
【0059】
このように、液晶ポリエステルの調製(液晶ポリエステル調製工程)に際して特定の触媒を用いるとともに、液晶ポリエステルの溶融紡糸(溶融紡糸工程)に際して特定の流動開始温度および溶融粘度特性を有する液晶ポリエステルを特定の温度範囲で用いることから、液晶ポリエステル繊維を長時間にわたって安定的に製造することが可能となる。
【0060】
しかも、このようにして得られる液晶ポリエステル繊維は、高強度という特徴を有するばかりでなく、液晶ポリエステル自身の特性、すなわち低吸水性、低誘電性、振動減衰性、寸法安定性、耐熱性、耐薬品性などの特性が十分維持されている。そのため、魚網、てぐす、ロープ等の水産資材、光ファイバーコードやプリント基板の補強材、タイヤコードやベルト等のゴム補強材のほか、プラスチックやコンクリートの補強剤としても有用である。また、防護服や手袋など衣料資材としても用いることができる。さらに、本発明の液晶ポリエステル繊維は、他のポリマーからなる繊維とより合わせて複合化繊維とした上で、各種の用途に使用することもできる。
【0061】
また、本発明における280℃以上の温度で加熱処理する液晶ポリエステル繊維は、高度の弾性率に優れているため、ゴム補強材、特にタイヤコードに適している。したがって、このような液晶ポリエステル繊維から構成されるタイヤコードを有するタイヤ1は、耐久性に優れた高品質なものとなる。
[発明のその他の実施の形態]
【0062】
なお、上述した実施の形態1では、必要に応じて、繊維に加熱処理や表面処理を施す液晶ポリエステル繊維の製造方法について説明した。しかし、繊維の高強度化が不要である場合、或いは、繊維の高強度化を別の手法で行う場合には、加熱処理工程を省くこともできる。また、ゴム本体2などとの接着性を高める必要がない場合、或いは、ゴム本体2などとの接着性を別の手法で高める場合には、表面処理を省くことも可能である。
【0063】
また、上述した実施の形態1では、タイヤコード(ブレーカーコード3、カーカスコード4)を構成するゴム補強材が、特定の液晶ポリエステル繊維を用いた不織布から構成される場合について説明したが、この液晶ポリエステル繊維を用いた織布からゴム補強材を構成しても構わない。
【0064】
また、上述した実施の形態1では、ブレーカーコード3とカーカスコード4の両方が、特定の液晶ポリエステル繊維を用いた不織布から構成されるゴム補強材から構成される場合について説明したが、ブレーカーコード3とカーカスコード4のいずれか一方のみをこのゴム補強材から構成してもよい。
【0065】
また、上述した実施の形態1では、タイヤ1がチューブレスタイヤである場合について説明したが、チューブタイヤに本発明を同様に適用することも可能である。
【0066】
さらに、上述した実施の形態1では、タイヤ1がラジアルタイヤである場合について説明したが、バイアスタイヤに本発明を同様に適用することもできる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0068】
なお、実施例の溶融粘度測定は、得られたペレットについて、(株)東洋機械製作所製の流れ特性試験機(キャピログラフ)1Bを用いて、各測定温度に対して、ノズルの孔径0.5mm、せん断速度1000s-1の条件で測定した。
【0069】
また、流動開始温度の測定は、粉末状の試料を用いて行った。すなわち、(株)島津製作所製の流動特性評価装置「フローテスターCFT−500型」を用いて、試料約2gを内径1mm、長さ10mmのダイスを取り付けた毛細管型レオメーターに充填する。9.8MPa(100kgf/cm2 )の荷重下において昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルをノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポアズ)を示す温度を流動開始温度とした。
<合成例1>
【0070】
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸911g(6.6モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル409g(2.2モル)、イソフタル酸91g(0.55モル)、テレフタル酸274g(1.65モル)、無水酢酸を1235g(12.1モル)を加えて攪拌した。次いで、触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを添加し、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、その温度を保持して1時間還流させた。その後、1−メチルイミダゾール1.7gを添加した後、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。
【0071】
その結果、プレポリマーの粉末(粒子径は約0.1mm〜約1mm)を得た。流動開始温度は257℃であった。
【0072】
得られた粉末を25℃から250℃まで1時間かけて昇温した後、同温度から280℃まで3時間34分かけて昇温し、次いで、同温度で5時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、液晶ポリエステルを粉末状で得た。こうして得られた液晶ポリエステルを液晶ポリエステル(A)−1とする。液晶ポリエステル(A)−1の流動開始温度は330℃であった。
<合成例2>
【0073】
合成例1で得られた液晶ポリエステル(A)−1を25℃から250℃まで1時間かけて昇温した後、同温度から270℃まで2時間23分かけて昇温し、次いで、同温度で5時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、液晶ポリエステルを粉末状で得た。こうして得られた液晶ポリエステルを液晶ポリエステル(A)−2とする。液晶ポリエステル(A)−2の流動開始温度は315℃であった。
<合成例3>
【0074】
合成例1で得られた液晶ポリエステル(A)−1を25℃から250℃まで1時間かけて昇温した後、同温度から275℃まで2時間58分かけて昇温し、次いで、同温度で5時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、液晶ポリエステルを粉末状で得た。こうして得られた液晶ポリエステルを液晶ポリエステル(A)−3とする。液晶ポリエステル(A)−3の流動開始温度は320℃であった。
<合成例4>
【0075】
合成例1で得られた液晶ポリエステル(A)−1を25℃から250℃まで1時間かけて昇温した後、同温度から277℃まで3時間13分かけて昇温し、次いで、同温度で5時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、液晶ポリエステルを粉末状で得た。こうして得られた液晶ポリエステルを液晶ポリエステル(A)−4とする。液晶ポリエステル(A)−4の流動開始温度は325℃であった。
<合成例5>
【0076】
合成例1で得られた液晶ポリエステル(A)−1を25℃から250℃まで1時間かけて昇温した後、同温度から285℃まで3時間13分かけて昇温し、次いで、同温度で5時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、液晶ポリエステルを粉末状で得た。こうして得られた液晶ポリエステルを液晶ポリエステル(A)−5とする。液晶ポリエステル(A)−5の流動開始温度は335℃であった。
<合成例6>
【0077】
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸995g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル447g(2.4モル)、イソフタル酸159g(0.96モル)、テレフタル酸239g(1.44モル)、無水酢酸1348g(13.2モル)を加えて攪拌した。次いで、触媒として1−メチルイミダゾール0.18gを添加し、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、その温度を保持して1時間還流させた。その後、1−メチルイミダゾール5.4gを添加した後、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。
【0078】
その結果、プレポリマーの粉末(粒子径は約0.1mm〜約1mm)を得た。流動開始温度は242℃であった。
【0079】
得られた粉末を25℃から200℃まで1時間かけて昇温した後、同温度から242℃まで5時間かけて昇温し、次いで、同温度で3時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、液晶ポリエステルを粉末状で得た。こうして得られた液晶ポリエステルを液晶ポリエステル(B)−1とする。液晶ポリエステル(B)−1の流動開始温度は288℃であった。
<合成例7>
【0080】
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸995g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル447g(2.4モル)、イソフタル酸40g(0.14モル)、テレフタル酸359g(2.16モル)、無水酢酸1348g(13.2モル)を加えて攪拌した。次いで、触媒として1−メチルイミダゾール0.18gを添加し、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、その温度を保持して1時間還流させた。その後、1−メチルイミダゾール5.4gを添加した後、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。
【0081】
その結果、プレポリマーの粉末(粒子径は約0.1mm〜約1mm)を得た。流動開始温度は260℃であった。
【0082】
得られた粉末を25℃から250℃まで1時間かけて昇温した後、同温度から300℃まで6時間かけて昇温し、次いで、同温度で8時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、液晶ポリエステルを粉末状で得た。こうして得られた液晶ポリエステルを液晶ポリエステル(C)−1とする。液晶ポリエステル(C)−1の流動開始温度は358℃であった。
<合成例8>
【0083】
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸911g(6.6モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル409g(2.2モル)、イソフタル酸91g(0.55モル)、テレフタル酸274g(1.65モル)、無水酢酸1235g(12.1モル)を加えて攪拌した。次いで、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、その温度を保持して1時間還流させた。その後、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。
【0084】
その結果、プレポリマーの粉末(粒子径は約0.1mm〜約1mm)を得た。流動開始温度は257℃であった。
【0085】
得られた粉末を25℃から250℃まで1時間かけて昇温した後、同温度から280℃まで3時間34分かけて昇温し、次いで、同温度で5時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、液晶ポリエステルを粉末状で得た。こうして得られた液晶ポリエステルを液晶ポリエステル(D)−1とする。液晶ポリエステル(D)−1の流動開始温度は330℃であった。
<実施例1>
【0086】
合成例1で得られた液晶ポリエステル(A)−1を溶融紡糸工程にてペレット状(つまり、繊維化しやすい形状)に造粒加工した。このペレットについて、流れ特性試験機を用いてノズルの孔径0.5mm、せん断速度1000s-1の条件で溶融粘度を測定すると、その溶融粘度は350℃で35Pa・sとなった。一般に、液晶ポリエステルについては、その温度が下がるほど溶融粘度が下がることから、合成例1で得られた液晶ポリエステル(A)−1が溶融粘度70Pa・sを示す温度は、350℃より低い温度であることがわかる。次いで、(株)中部化学機械製作所製のマルチフィラメント紡糸装置「ポリマーメイトV」を用いて、材質がステンレスからなるフィルターを通過させて350℃で溶融紡糸した。ノズルは、孔径0.3mm、孔数24個のものを用い、吐出量25g/分、紡速400m/分で巻き取った。
【0087】
その結果、液晶ポリエステル繊維の吐出開始から1時間までの間、液晶ポリエステル繊維の糸切れはなく安定的に紡糸することができた。また、液晶ポリエステル繊維の吐出開始から1時間後の液晶ポリエステル繊維の外観を観察したところ、繊維中の発泡等は散見されなかった。
<実施例2>
【0088】
合成例2で得られた液晶ポリエステル(A)−2を溶融紡糸工程にてペレット状に造粒加工した。このペレットについて、流れ特性試験機を用いてノズルの孔径0.5mm、せん断速度1000s-1の条件で溶融粘度を測定すると、その溶融粘度は340℃で15Pa・sとなった。一般に、液晶ポリエステルについては、その温度が下がるほど溶融粘度が下がることから、合成例1で得られた液晶ポリエステル(A)−1が溶融粘度70Pa・sを示す温度は、340℃より低い温度であることがわかる。次いで、(株)中部化学機械製作所製のマルチフィラメント紡糸装置「ポリマーメイトV」を用いて、材質がステンレスからなるフィルターを通過させて340℃で溶融紡糸した。ノズルは、孔径0.3mm、孔数24個のものを用い、吐出量25g/分、紡速400m/分で巻き取った。
【0089】
その結果、液晶ポリエステル繊維の吐出開始から1時間までの間、液晶ポリエステル繊維の糸切れはなく安定的に紡糸することができた。また、液晶ポリエステル繊維の吐出開始から1時間後の液晶ポリエステル繊維の外観を観察したところ、繊維中の発泡等は散見されなかった。
<実施例3>
【0090】
合成例3で得られた液晶ポリエステル(A)−3を溶融紡糸工程にてペレット状に造粒加工した。このペレットについて、流れ特性試験機を用いてノズルの孔径0.5mm、せん断速度1000s-1の条件で溶融粘度を測定すると、その溶融粘度は350℃で16Pa・sとなった。一般に、液晶ポリエステルについては、その温度が下がるほど溶融粘度が下がることから、合成例1で得られた液晶ポリエステル(A)−1が溶融粘度70Pa・sを示す温度は、350℃より低い温度であることがわかる。次いで、(株)中部化学機械製作所製のマルチフィラメント紡糸装置「ポリマーメイトV」を用いて、材質がステンレスからなるフィルターを通過させて350℃で溶融紡糸した。ノズルは、孔径0.3mm、孔数24個のものを用い、吐出量25g/分、紡速400m/分で巻き取った。
【0091】
その結果、液晶ポリエステル繊維の吐出開始から1時間までの間、液晶ポリエステル繊維の糸切れはなく安定的に紡糸することができた。また、液晶ポリエステル繊維の吐出開始から1時間後の液晶ポリエステル繊維の外観を観察したところ、繊維中の発泡等は散見されなかった。
<実施例4>
【0092】
合成例4で得られた液晶ポリエステル(A)−4を溶融紡糸工程にてペレット状に造粒加工した。このペレットについて、流れ特性試験機を用いてノズルの孔径0.5mm、せん断速度1000s-1の条件で溶融粘度を測定すると、その溶融粘度は350℃で25Pa・sとなった。一般に、液晶ポリエステルについては、その温度が下がるほど溶融粘度が下がることから、合成例1で得られた液晶ポリエステル(A)−1が溶融粘度70Pa・sを示す温度は、350℃より低い温度であることがわかる。次いで、(株)中部化学機械製作所製のマルチフィラメント紡糸装置「ポリマーメイトV」を用いて、材質がステンレスからなるフィルターを通過させて350℃で溶融紡糸した。ノズルは、孔径0.3mm、孔数24個のものを用い、吐出量25g/分、紡速400m/分で巻き取った。
【0093】
その結果、液晶ポリエステル繊維の吐出開始から1時間までの間、液晶ポリエステル繊維の糸切れはなく安定的に紡糸することができた。また、液晶ポリエステル繊維の吐出開始から1時間後の液晶ポリエステル繊維の外観を観察したところ、繊維中の発泡等は散見されなかった。
<実施例5>
【0094】
合成例5で得られた液晶ポリエステル(A)−5を溶融紡糸工程にてペレット状に造粒加工した。このペレットについて、流れ特性試験機を用いてノズルの孔径0.5mm、せん断速度1000s-1の条件で溶融粘度を測定すると、その溶融粘度は350℃で51Pa・sとなった。一般に、液晶ポリエステルについては、その温度が下がるほど溶融粘度が下がることから、合成例1で得られた液晶ポリエステル(A)−1が溶融粘度70Pa・sを示す温度は、350℃より低い温度であることがわかる。次いで、(株)中部化学機械製作所製のマルチフィラメント紡糸装置「ポリマーメイトV」を用いて、材質がステンレスからなるフィルターを通過させて350℃で溶融紡糸した。ノズルは、孔径0.3mm、孔数24個のものを用い、吐出量25g/分、紡速400m/分で巻き取った。
【0095】
その結果、液晶ポリエステル繊維の吐出開始から1時間までの間、液晶ポリエステル繊維の糸切れはなく安定的に紡糸することができた。また、液晶ポリエステル繊維の吐出開始から1時間後の液晶ポリエステル繊維の外観を観察したところ、繊維中の発泡等は散見されなかった。
<比較例1>
【0096】
合成例6で得られた液晶ポリエステル(B)−1を溶融紡糸工程にてペレット状に造粒加工した。このペレットについて、流れ特性試験機を用いてノズルの孔径0.5mm、せん断速度1000s-1の条件で溶融粘度を測定すると、その溶融粘度は320℃で22Pa・sとなった。一般に、液晶ポリエステルについては、その温度が下がるほど溶融粘度が下がることから、合成例1で得られた液晶ポリエステル(A)−1が溶融粘度70Pa・sを示す温度は、320℃より低い温度であることがわかる。次いで、(株)中部化学機械製作所製のマルチフィラメント紡糸装置「ポリマーメイトV」を用いて、材質がステンレスからなるフィルターを通過させて320℃で溶融紡糸した。ノズルは、孔径0.3mm、孔数24個のものを用い、吐出量25g/分、紡速400m/分で巻き取った。
【0097】
その結果、液晶ポリエステル繊維の吐出開始から1時間後の液晶ポリエステル繊維の外観を観察したところ、繊維中の発泡等は散見されなかったが、液晶ポリエステル繊維の吐出開始から1時間までの間、液晶ポリエステル繊維の糸切れが10回以上生じ、安定的に紡糸することができなかった。これは、流動開始温度が288℃(つまり、305℃以上380℃以下の範囲外)の液晶ポリエステル(B)−1を用いたことが原因であると推察される。
<比較例2>
【0098】
合成例7で得られた液晶ポリエステル(C)−1を溶融紡糸工程にてペレット状に造粒加工した。このペレットについて、流れ特性試験機を用いてノズルの孔径0.5mm、せん断速度1000s-1の条件で溶融粘度を測定すると、その溶融粘度は380℃で112Pa・sとなった。一般に、液晶ポリエステルについては、その温度が下がるほど溶融粘度が下がることから、合成例1で得られた液晶ポリエステル(A)−1が溶融粘度70Pa・sを示す温度は、380℃より高い温度であることがわかる。次いで、(株)中部化学機械製作所製のマルチフィラメント紡糸装置「ポリマーメイトV」を用いて、材質がステンレスからなるフィルターを通過させて380℃で溶融紡糸した。ノズルは、孔径0.3mm、孔数24個のものを用い、吐出量25g/分、紡速400m/分で巻き取った。
【0099】
その結果、液晶ポリエステル繊維の吐出開始から1時間までの間、液晶ポリエステル繊維の糸切れが10回以上生じ、安定的に紡糸することができなかった。また、液晶ポリエステル繊維の吐出開始から1時間後の液晶ポリエステル繊維の外観を観察したところ、繊維中の発泡もみられた。これは、液晶ポリエステルの紡糸温度が所定の温度範囲から外れたことが原因であると推察される。
<比較例3>
【0100】
合成例8で得られた液晶ポリエステル(D)−1を溶融紡糸工程にてペレット状に造粒加工した。このペレットについて、流れ特性試験機を用いてノズルの孔径0.5mm、せん断速度1000s-1の条件で溶融粘度を測定すると、その溶融粘度は350℃で42Pa・sとなった。一般に、液晶ポリエステルについては、その温度が下がるほど溶融粘度が下がることから、合成例1で得られた液晶ポリエステル(A)−1が溶融粘度70Pa・sを示す温度は、350℃より低い温度であることがわかる。次いで、(株)中部化学機械製作所製のマルチフィラメント紡糸装置「ポリマーメイトV」を用いて、材質がステンレスからなるフィルターを通過させて350℃で溶融紡糸した。ノズルは、孔径0.3mm、孔数24個のものを用い、吐出量25g/分、紡速400m/分で巻き取った。
【0101】
その結果、液晶ポリエステル繊維の吐出開始から1時間後の液晶ポリエステル繊維の外観を観察したところ、繊維中の発泡等は散見されなかったが、液晶ポリエステル繊維の吐出開始から1時間までの間、液晶ポリエステル繊維の糸切れが5回生じた。これは、液晶ポリエステルの調製に際して特定の触媒を用いなかったことが原因であると推察される。
<比較例4>
【0102】
合成例2で得られた液晶ポリエステル(A)−2を溶融紡糸工程にてペレット状に造粒加工した。このペレットについて、流れ特性試験機を用いてノズルの孔径0.5mm、せん断速度1000s-1の条件で溶融粘度を測定すると、その溶融粘度は330℃で406Pa・sとなった。一般に、液晶ポリエステルについては、その温度が下がるほど溶融粘度が下がることから、合成例1で得られた液晶ポリエステル(A)−1が溶融粘度70Pa・sを示す温度は、330℃より高い温度であることがわかる。次いで、(株)中部化学機械製作所製のマルチフィラメント紡糸装置「ポリマーメイトV」を用いて、材質がステンレスからなるフィルターを通過させて330℃で溶融紡糸した。ノズルは、孔径0.3mm、孔数24個のものを用い、吐出量25g/分、紡速400m/分で巻き取った。
【0103】
その結果、液晶ポリエステル繊維の吐出開始から1時間後の液晶ポリエステル繊維の外観を観察したところ、繊維中の発泡等は散見されなかったが、液晶ポリエステル繊維の吐出開始から1時間までの間、糸切れが10回以上生じ、安定的に紡糸することができなかった。これは、液晶ポリエステルの紡糸温度が所定の温度範囲から外れたことが原因であると推察される。
<比較例5>
【0104】
合成例5で得られた液晶ポリエステル(A)−5を溶融紡糸工程にてペレット状に造粒加工した。このペレットについて、流れ特性試験機を用いてノズルの孔径0.5mm、せん断速度1000s-1の条件で溶融粘度を測定すると、その溶融粘度は340℃で415Pa・sとなった。一般に、液晶ポリエステルについては、その温度が下がるほど溶融粘度が下がることから、合成例1で得られた液晶ポリエステル(A)−1が溶融粘度70Pa・sを示す温度は、340℃より高い温度であることがわかる。次いで、(株)中部化学機械製作所製のマルチフィラメント紡糸装置「ポリマーメイトV」を用いて、材質がステンレスからなるフィルターを通過させて340℃で溶融紡糸した。ノズルは、孔径0.3mm、孔数24個のものを用い、吐出量25g/分、紡速400m/分で巻き取った。
【0105】
その結果、液晶ポリエステル繊維の吐出開始から1時間後の液晶ポリエステル繊維の外観を観察したところ、繊維中の発泡等は散見されなかったが、液晶ポリエステル繊維の吐出開始から1時間までの間、糸切れが10回以上生じ、安定的に紡糸することができなかった。これは、液晶ポリエステルの紡糸温度が所定の温度範囲から外れたことが原因であると推察される。
<比較例6>
【0106】
合成例5で得られた液晶ポリエステル(A)−5を溶融紡糸工程にてペレット状に造粒加工した。このペレットについて、流れ特性試験機を用いてノズルの孔径0.5mm、せん断速度1000s-1の条件で溶融粘度を測定すると、その溶融粘度は380℃で24Pa・sとなった。一般に、液晶ポリエステルについては、その温度が下がるほど溶融粘度が下がることから、合成例1で得られた液晶ポリエステル(A)−1が溶融粘度70Pa・sを示す温度は、380℃より低い温度であることがわかる。次いで、(株)中部化学機械製作所製のマルチフィラメント紡糸装置「ポリマーメイトV」を用いて、材質がステンレスからなるフィルターを通過させて380℃で溶融紡糸した。ノズルは、孔径0.3mm、孔数24個のものを用い、吐出量25g/分、紡速400m/分で巻き取った。
【0107】
その結果、液晶ポリエステル繊維の吐出開始から1時間までの間、液晶ポリエステル繊維の糸切れが10回以上生じ、安定的に紡糸することができなかった。また、液晶ポリエステル繊維の吐出開始から1時間後の液晶ポリエステル繊維の外観を観察したところ、繊維中の発泡もみられた。これは、液晶ポリエステルの紡糸温度が所定の温度範囲から外れたことが原因であると推察される。
<比較例7>
【0108】
合成例5で得られた液晶ポリエステル(A)−5を溶融紡糸工程にてペレット状に造粒加工した。このペレットについて、流れ特性試験機を用いてノズルの孔径0.5mm、せん断速度1000s-1の条件で溶融粘度を測定すると、その溶融粘度は370℃で36Pa・sとなった。一般に、液晶ポリエステルについては、その温度が下がるほど溶融粘度が下がることから、合成例1で得られた液晶ポリエステル(A)−1が溶融粘度70Pa・sを示す温度は、370℃より低い温度であることがわかる。次いで、(株)中部化学機械製作所製のマルチフィラメント紡糸装置「ポリマーメイトV」を用いて、材質がステンレスからなるフィルターを通過させて370℃で溶融紡糸した。ノズルは、孔径0.3mm、孔数24個のものを用い、吐出量25g/分、紡速400m/分で巻き取った。
【0109】
その結果、液晶ポリエステル繊維の吐出開始から1時間までの間、液晶ポリエステル繊維の糸切れが5回生じた。また、液晶ポリエステル繊維の吐出開始から1時間後の液晶ポリエステル繊維の外観を観察したところ、繊維中の発泡もみられた。これは、液晶ポリエステルの紡糸温度が所定の温度範囲から外れたことが原因であると推察される。
<実施例6>
【0110】
実施例1で得た液晶ポリエステル繊維を用いて不織布を1枚作製した。この不織布の複数箇所に対してそれぞれ水滴を滴下し、その10秒後に、協和界面科学(株)製のFACE接触角計「CA−A型」を用いて水接触角(不織布に滴下する液体として水を用いた場合の接触角)を測定したところ、その平均値として101°を得た。また、この不織布に対して、ゴム本体との接着性を高める目的で、(株)日放電子製の平板用プラズマ表面処理装置「PCB2800」を用いて、CF4 /O2 混合ガス雰囲気下で60秒照射の条件にてプラズマ処理を施した。そして、このプラズマ処理済みの不織布について、水接触角を同様に測定したところ、すべての箇所で0°を得た。このように、実施例1で得た液晶ポリエステル繊維を用いて作製された不織布は、プラズマ処理により、水接触角が大幅に減少し、濡れ性(ゴム本体との接着性)が向上した。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、自動車(四輪自動車、三輪自動車、二輪自動車など)、地下鉄、モノレール、新交通システム、航空機、フォークリフト、建設機械、農耕機具その他、地上を移動する各種の輸送機器に装備されるタイヤを構成するタイヤコードのほか、ベルトコード、ホース補強材その他の用途に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0112】
1……タイヤ
2……ゴム本体
2a……トレッド部
2b、2c……サイドウォール部
2d、2e……ビード部
3……ブレーカーコード(タイヤコード)
4……カーカスコード(タイヤコード)
5……ホイールリム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
I-(i)芳香族ジオールおよび芳香族ヒドロキシカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種のフェノール性ヒドロキシル基含有化合物を脂肪族無水物でアシル化し、対応するアシル化物を得るアシル化と、
I-(ii)前記アシル化物と芳香族ジカルボン酸および芳香族ヒドロキシカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とをエステル交換して液晶ポリエステルを得るエステル交換とからなる液晶ポリエステル調製工程であって、
前記アシル化および前記エステル交換の少なくとも一方が、窒素原子を2原子以上含む複素環状有機塩基化合物の存在下に行われる液晶ポリエステル調製工程と、
II 前記液晶ポリエステルを溶融紡糸して繊維を得る溶融紡糸工程と
を含む液晶ポリエステル繊維の製造方法であって、
前記液晶ポリエステルは、流動開始温度が305℃以上380℃以下の液晶ポリエステルであり、
前記溶融紡糸工程は、(a)流れ特性試験機を用いてノズルの孔径0.5mm、せん断速度1000s-1の条件で測定した前記液晶ポリエステルの溶融粘度が70Pa・sを示す温度以上であって、(b)370℃未満の温度で実施することを特徴とする液晶ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項2】
前記液晶ポリエステルが、
p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位(I)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位(II)、テレフタル酸由来の構造単位(III)およびイソフタル酸由来の構造単位(IV)からなり、II/Iのモル比率が0.2〜1、(III+IV)/IIのモル比率が0.9〜1.1、IV/IIIのモル比率が0より大きく1以下の液晶ポリエステルであることを特徴とする請求項1に記載の液晶ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項3】
前記溶融紡糸工程で得た繊維を280℃以上の温度で加熱処理する加熱処理工程をさらに含むことを特徴とする請求項1または2に記載の液晶ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項4】
前記溶融紡糸工程で得た繊維を表面処理する表面処理工程をさらに含むことを特徴とする請求項1または2に記載の液晶ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の液晶ポリエステル繊維の製造方法によって製造された液晶ポリエステル繊維。
【請求項6】
請求項5に記載の液晶ポリエステル繊維を含むゴム補強材。
【請求項7】
請求項6に記載のゴム補強材を含むタイヤコード。
【請求項8】
請求項7に記載のタイヤコードを有するタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2012−31557(P2012−31557A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143661(P2011−143661)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】