説明

液晶光学素子およびその製造方法

【課題】簡便な構造により、液晶層中の液晶分子の配向状態をスプレイ配向からベンド配向に速やかに、安定に転移させるとともに初期転移動作後、安定にベンド配向状態を保持する。
【解決手段】第1基板11aの一面上に形成される第1電極12a上に形成される第1配向膜13aと、第1基板と対向する第2基板11bの一面上に形成される第2電極12b上に形成される第2配向膜13bと、第1基板と第2基板との間に介在される液晶層14とを備え、第1配向膜および第2配向膜の少なくとも一方の配向膜に、この配向膜の表面自由エネルギー値より小さい値の表面自由エネルギー値を持つ薄膜領域15をパターン状に有する液晶光学素子10を構成する。薄膜領域部分が転移核となり、低い電気エネルギーでベンド配向への転移が迅速、確実に行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶の旋光性や複屈折現象を利用して光の透過率または反射率を電気的に制御する液晶光学素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶の複屈折現象を利用した高速応答の光学素子として、強誘電性液晶および反強誘電性液晶を用いた液晶光学素子があげられる。
【0003】
液晶光学素子は、基板、電極、配向膜、液晶層、配向膜、電極、基板がこの順で積層された構成を有する。一般に、液晶層はネマティック液晶または強誘電性液晶により構成し、交流または直流の駆動電圧によって駆動する。
【0004】
上記液晶光学素子は、2つの電極間に電圧を印加した状態で入力光を一方の基板側から入射させると、印加電圧に応じて液晶の配向方向が変化するために、入力光が液晶層内で複屈折現象を生じその位相が変化し、その状態で他方の基板より出力される。この出力光を利用すれば光位相変調動作の液晶光学素子を提供できる。
【0005】
さらに、この液晶光学素子を偏光子と検光子の間に設置することで、強度変調動作も可能となる。また、この液晶光学素子は、液晶駆動用素子を画素毎に形成して液晶表示素子として構成される。
【0006】
しかしながら、従来の強誘電性液晶および反強誘電性液晶を用いた場合には、液晶の耐衝撃性が弱く、使用温度範囲が狭い、温度依存特性が大きいなど実用的な意味での課題が多く、現実的にはネマティック液晶を用いる液晶素子が適した動作モードとしてあげられる。しかし、ネマティック液晶は応答速度が遅く一般的な動画像表示を行うための十分な光学応答特性をもたないという問題を抱えている。
【0007】
一方、ネマティック液晶で最速の応答性を示す動作モードとしてベンド配向からなるπセルがあり、そのことを図8に基づいて説明する。
【0008】
図8は、ベンド配向で動作する液晶光学素子のバイアス電圧無印加時および電圧印加時における一対の基板1a,1b間に挟持された液晶層4の液晶分子4aの配向状態を表している。この液晶光学素子は、第1基板1aと、第1基板1aの一面上に形成される第1電極2aと、第1電極2a上に形成される第1配向膜3aと、第1基板1aの前記一面と対向する第2基板1bと、第2基板1bの一面上に形成される第2電極2bと、第2電極2b上に形成される第2配向膜3bと、第1基板1aと第2基板1bとの間に介在される液晶層4とを備えてなる。
【0009】
そして、ベンド配向モードにおいては、初期状態すなわち電圧無印加時には、図8(a)に示すように、一対の基板上1a,1bに形成された配向膜3a,3bに低いプレチルト角を有するように配向処理がなされており、液晶層4の液晶分子4aがスプレイ配向している。この液晶光学素子において、高速応答特性を持たせるには、図8(a)に示すようなスプレイ配向している液晶分子4aを、図8(b)に示すようなベンド配向に転移させる必要がある。つまり、液晶層4の液晶分子4aが配向膜3a,3bに略平行な配向から、略垂直な配向に転移させるものである。
【0010】
しかし、通常のπセルにおいては、第1に、スプレイ配向からベンド配向への転移速度が非常に遅い、第2に、転移させるためには高電圧を印加させなければならない、第3に、そのため特殊の駆動回路が必要である、など多くの実施上の課題を有する。
【0011】
上記の課題を解決するために、例えば、下記特許文献1に記載されているような低電圧で動作するベンド配向構造の液晶を用いた光学素子が提案されている。しかし、特許文献1に記載されている技術は、材料の特性改善による転移の高速化を図る方策であり、前述の本質的な課題は、残されたままである。
【0012】
また、下記特許文献2に記載されているような、液晶中に高分子材料系を分散して構成し、その分散構造を微細化することで高速化を図る液晶デバイスが提案されている。
【0013】
しかし、特許文献2に記載されている技術は、液晶中に高分子材料系が分散して構成されるために、散乱モードでの動作となり、高品質のディスプレイ用途としての表示デバイスとして応用する場合、コントラストおよび透過率が低下してしまい、あるいはその分散構造が画質の固定パターンノイズとなり画質劣化を引き起こす課題を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平8−87013号公報
【特許文献2】特開平6−222320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前述のように、液晶を用いた光学素子で高速動作に優れた動作モードを得ようとした場合に、通常の液晶光学素子は表面配向処理された一対の基板間に液晶層を挟持してなる素子構造だけであり、ネマティック液晶の動作では、液晶層中にバックフローが生じ、液晶分子が一旦本来緩和すべき方向とは逆方向に回転した後に緩和する。このため、バックフローによって液晶分子が本来転移すべき回転方向とは逆のトルクが液晶分子にかかるために、液晶分子の再配列が遅れて応答速度が遅れることになる。
【0016】
一方、バックフロー効果のないネマティック液晶を用いたπセルの場合には、駆動電圧のない初期配向状態では、スプレイ配向からベンド配向に転移させるために、初期転移のための高い電圧印加、転移時間、および転移のための特別な駆動回路が必要である。
【0017】
本発明は上記の点に鑑みてなされたもので、動画表示動作が可能な高速応答適性の液晶動作を、高透過率で安定・確実に実施できる液晶光学素子を得る際に、簡便な構造および簡便な工程により、液晶層中の液晶分子の配向状態をスプレイ配向状態からベンド配向状態に速やかに、安定に転移させることができるとともに初期転移動作後、安定にベンド配向状態を保持することができるようにした液晶光学素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決した本発明の液晶光学素子は、第1基板、第1電極、および第1配向膜を、この順に積層してなる第1積層体と、第2基板、第2電極、および第2配向膜を、この順に積層してなる第2積層体とを、前記第1配向膜および前記第2配向膜が対面するようにして、間に液晶層を介在させてなり、
前記第1配向膜および前記第2配向膜の少なくとも一方に、パターン状の薄膜領域を設け、該薄膜領域は、設けられた配向膜の表面自由エネルギー値より小さい値の表面自由エネルギー値を持つように設定されていることを特徴とする。
【0019】
本発明の液晶光学素子においては、前記薄膜領域の表面自由エネルギー値の上限が38mJ/mであり、また、前記第1配向膜および第2配向膜の表面自由エネルギー値の下限が38mJ/mであることが好ましい。
【0020】
また、前記薄膜領域のパターン形状がドット状構造、格子状構造、およびストライプ状構造のいずれかであることが好ましい。
【0021】
例えば、前記薄膜領域がストライプ状構造からなり、かつ当該ストライプ構造の平行方向が前記第1配向膜と前記第2配向膜の配向方向に対して直交するように構成することができる。
【0022】
また、前記第1配向膜に形成される前記薄膜領域と前記第2配向膜に形成される前記薄膜領域が対向する同位置に配置されているように構成することができる。
【0023】
一方、本発明の液晶光学素子においては、前記第2基板の前記一面に形成される複数のゲート線と、複数の前記ゲート線と交差する複数のデータ線と、前記ゲート線と前記データ線とに連結される複数の薄膜トランジスタと、をさらに備え、
前記第2電極は前記複数の薄膜トランジスタに連結される複数の画素電極であり、前記第1電極は前記複数の画素電極と対向する単一の共通電極であるように構成することができる。
【0024】
また、前記薄膜領域は、表示領域を区画する非表示領域に形成することが好ましい。
【0025】
また、前記薄膜領域が印刷工程または塗布工程によって形成されるのが好適である。
【0026】
本発明の液晶光学素子の製造方法は、前記本発明の液晶光学素子を作製する製造方法であって、
前記第1配向膜および第2配向膜の少なくとも一方の配向膜に、印刷工程によって前記配向膜の表面自由エネルギー値より小さい値の表面自由エネルギー値を持つ薄膜領域をパターン状に形成することを特徴とする。
【0027】
また、本発明の他の液晶光学素子の製造方法は、前記本発明の液晶光学素子を作製する製造方法であって、
前記第1電極および第2電極の少なくとも一方の電極に、印刷工程または塗布工程によって前記配向膜の表面自由エネルギー値より小さい値の表面自由エネルギー値を持つ薄膜領域をパターン状に形成し、該薄膜領域と同一平面内に第1配向膜および/または第2配向膜を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、第1基板の一面上に形成される第1電極上に形成される第1配向膜と、第1基板と対向する第2基板の一面上に形成される第2電極上に形成される第2配向膜と、第1基板と第2基板との間に介在される液晶層とを備え、第1配向膜および第2配向膜の少なくとも一方の配向膜に、この配向膜の表面自由エネルギー値より小さい値の表面自由エネルギー値を持つ薄膜領域をパターン状に有することにより、低い電気エネルギーでも、スプレイ配向からベンド配向への転移が、迅速、かつ確実に行われる液晶光学素子を構成することができる。
【0029】
また、初期転移後には、電圧無印加時においてもベンド配向または180°ツイスト配向に安定するために、省電力化を図ることができる。
【0030】
つまり、従前の通常の液晶光学素子では、表面配向処理された一対の基板間に液晶層を挟持してなる素子構造におけるネマティック液晶の動作では、液晶層中に生じるバックフローにより、液晶分子の再配列が遅れて応答速度が低下するのを、配向膜より表面自由エネルギー値が小さい薄膜領域において液晶分子の転移速度が高まり、この液晶層内の表面自由エネルギーが小さい薄膜領域での液晶分子の配向が転移核となることで、低電圧印加で安定して高速に転移動作が実現できる。同時に、初期転移後に電圧無印加の状態でも安定なベンド配向を得て、転移不要の高速動作のπセルを構成することができる。
【0031】
また、駆動電圧のない初期配向状態においても、スプレイ配向からベンド配向に転移させるために、初期転移のための高い電圧印加が不要となり、低電圧印加によって転移時間も短くなり、そのための特別な駆動回路が不要となり、簡素化が図れるものである。
【0032】
特に、薄膜領域の表面自由エネルギー値の上限が38mJ/m以下、第1配向膜および第2配向膜の表面自由エネルギー値の下限が38mJ/m以上となるような材料を選定して使用することで好適に構成することができる。
【0033】
また、薄膜領域のパターン形状をドット状構造、格子状構造、およびストライプ状構造のいずれかに設定することにより転移核としての機能を十分に確保することができる。特に、薄膜領域のパターン形状を格子状構造またはストライプ状構造とすることで、実質的に再ベンド化処理を不要とし、同時にベンド配向の保持電圧を低減することができる。
【0034】
さらに、薄膜領域がストライプ状構造からなり、そのストライプ構造の平行方向が第1配向膜と第2配向膜の配向方向に対して直交するように構成すると、薄膜領域が転移核として有効に機能し、初期転移後の電圧無印加時においてもベンド配向を安定に保持できる。
【0035】
また、第1配向膜に形成される薄膜領域と第2配向膜に形成される薄膜領域が対向する同位置に配置されているように構成すると、両側に薄膜領域が存在することで、その間の液晶分子が全体的にベンド配向に転移し、良好な特性を確保することができる。
【0036】
一方、第2基板の一面に形成される複数のゲート線と、このゲート線と交差する複数のデータ線と、前記ゲート線と前記データ線とに連結される複数の薄膜トランジスタとをさらに備え、第2電極は複数の薄膜トランジスタに連結される複数の画素電極であり、第1電極は複数の画素電極と対向する単一の共通電極であるように構成すると、前述の高速転移特性を有する液晶表示素子を得ることができる。その際、薄膜領域を非表示領域に形成すると、画素の形成を阻害することなく構成することができる。
【0037】
本発明の液晶光学素子の製造方法によれば、第1配向膜および第2配向膜の少なくとも一方の配向膜に、印刷工程によって薄膜領域をパターン状に形成することにより、または、第1電極および第2電極の少なくとも一方の電極に、印刷工程または塗布工程によって薄膜領域をパターン状に形成し、該薄膜領域と同一平面内に第1配向膜および/または第2配向膜を形成することにより、薄膜領域を所定のパターンに簡易に形成することができ、前述の高速転移特性を有する液晶光学素子を安定に確実に製造することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る液晶光学素子の概略構成を示す側面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る液晶光学素子の概略構成を示す側面図である。
【図3】配向膜に形成する薄膜領域のドット状構造(a)、格子状構造(b)およびストライプ状構造(c)のパターン例を示す図である。
【図4】本発明の第3の実施形態に係る液晶光学素子の概略構成を示す側面図(a)、および本発明の第4の実施形態に係る液晶光学素子の概略構成を示す側面図(b)である。
【図5】本発明の第5の実施形態に係る液晶光学素子の概略構成を示す側面図(a)、および本発明の第6の実施形態に係る液晶光学素子の概略構成を示す側面図(b)である。
【図6】本発明の第7の実施形態に係る液晶光学素子の概略構成を示す断面図である。
【図7】本発明の第7の実施形態に係る液晶光学素子の概略構成を示す上面図である。
【図8】従前の液晶光学素子に係る液晶分子のスプレイ配向を示したモデル図(a)、液晶分子のベンド配向を示したモデル図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に、本発明に係る液晶光学素子の各実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0040】
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態に係る液晶光学素子について、図1を参照して説明する。
【0041】
本実施形態の液晶光学素子10の基本構造は、図1に示すように、図中上方の第1基板11aと、第1基板11aの一面上(図で下面)に形成される第1電極12aと、第1電極12aの上(図で下面)に形成される第1配向膜13aとが積層され、また、上記第1基板11aの前記一面と対向する、図中下方の第2基板11bと、第2基板11bの一面上(図で上面)に形成される第2電極12bと、第2電極12bの上(図で上面)に形成される第2配向膜13bとが積層され、これらの2つの積層体が、第1基板11aおよび第2基板11bを外側に、第1配向膜13aと第2配向膜13bとを内側に対向配置させて、前記第1基板11aと前記第2基板11bとの間(具体的には第1配向膜13aと第2配向膜13bとの間)に液晶層14が介在されて一体に構成されてなる。
【0042】
そして、一体化される前に、図中下方の第2配向膜13bの上面、つまり液晶層14に接する面に、パターン状に薄膜領域15が形成されている。この薄膜領域15は、その表面自由エネルギー値が第1および第2配向膜13a,13bの表面自由エネルギー値と異なり、第1および第2配向膜13a,13bの表面自由エネルギー値より小さな表面自由エネルギー値に設定されている。この薄膜領域15の作製方法および組成(使用材料)については後述する。
【0043】
上記第1および第2基板11a,11bは、液晶層14を挟持するための部材であり、材料としてポリカーボネイト樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、エポキシ樹脂、アモルファスポリオレフィン樹脂、アクリル系UV硬化材料のプラスチック材料を両基板あるいはいずれか一方の基板として用いてもよい。両基板とも薄膜のプラスチック材料を用いた素子は、フレキシブルな特性をもたせることができる。また、基板材料としてガラス、シリコン等を両基板あるいはいずれか一方の基板として用いてもよい。
【0044】
上記の構成において、第1配向膜13aと第2配向膜13bは水平配向膜であり、その水平配向膜の表面自由エネルギー値がBであり、薄膜領域5の表面自由エネルギーがAである場合に、その大小関係は、A<Bに設定するものである。
【0045】
特に、後述の表1の材料選定に基づくと、薄膜領域15の表面自由エネルギー値の上限が38mJ/mであり、また、第1配向膜13aおよび第2配向膜13bの表面自由エネルギー値の下限が38mJ/mであるような材料を選定して使用することで構成することができる。
【0046】
さらに、上記液晶光学素子10を得るために、第2配向膜13bに対し薄膜領域15を印刷工程または塗布工程によってパターン状に形成する。
【0047】
この印刷工程として、フレキソ法、活版(凸版)印刷法、オフセット(平板)印刷法、グラビア(凹版)印刷法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、マイクロコンタクトプリント法、ナノインプリント法を用いることができる。一方、塗布工程として、スピンコート法、ディップコート法を用いることができる。
【0048】
例えば、第1の実施形態では、上記薄膜領域15の形成パターンは、図3(a)に示すようなドットパターン状に形成している。その形成法の一例としては、マイクロコンタクトプリント法により形成する。このマイクロコンタクトプリント法は、後述の実施例1で具体的に説明するが、ドットパターンに対応した凹凸構造の柔軟なスタンプを形成し、その凹凸スタンプ面に薄膜領域15を構成する素材を均一に塗布して塗膜を形成した後、この凹凸スタンプ面を第2配向膜13bを構成する水平配向膜上に押圧し、ドット状の凸部先端の塗膜を配向膜に転写するものであり、その後、配向膜を加熱して転写塗膜を熱硬化させ、ドットパターン状の薄膜領域15を形成してなる。
【0049】
なお、上記薄膜領域15の形成パターンは、図3(b)に示す格子状構造、または、図3(c)に示すストライプ状構造に形成してもよい。
【0050】
ここで、第1および第2配向膜13a,13bの水平配向膜は、プレチルト角が1°から13°の値をとることが好適である。水平配向膜の材料としては、ポリイミド(略称:PI)膜で、炭素数が10以下の直鎖アルキル基を有するシランカップリング剤で表面処理したもの、無機材料の薄膜形成により水平配向性を持たせた膜、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアミドイミド、ポリエステル、ポリカーカーボネート、ポリビニルアセタール、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリスチレン、セルロース樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アクリル樹脂などの樹脂膜、あるいは電子線フォトレジスト膜(ポリメチルメタクリレート、エポキシ化-1,4-ポリブタジエンなど)、酸化シリコンSiOx膜を用いることができる。配向処理法としては、ラビング処理、光配向処理、斜方蒸着などを用いることができる。
【0051】
一方、薄膜領域15の材料系としては、ポリイミド(略称:PI)、ポリエチレン(PE)、フッ素樹脂、シランカップリング剤、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ乳酸(PLA)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネイト(PC)、ポリウレタン(PU)、ポリスチレン(PS)、ポリエステル、ABS樹脂、アクリル樹脂(PMMA)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリシロキサン、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリシルセスキオキサン(PSQ)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)などを用いることができる。さらに、上記2種類以上の材料からなる混合物を使用してもよい。
【0052】
特に、上記材料系においてその分子構造に−F,−CF,−CH,−Phを含有するものが、その表面自由エネルギーが小さく望ましい材料系である。
【0053】
ポリイミド材料としては、側鎖に垂直配向性を示すアルキル鎖を含むポリイミド、フッ素置換基を有するポリイミド、フルオロアルキル鎖もしくはアルキル鎖をもつ分子構造を有しているものなどを用いることができる。
【0054】
フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(略称:PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(PFEP)、エチレン・クロロトリフルオロエチレンコポリマー(ECTFE)、ポリテトラフルオロエチレン・パーフルオロジオキソールコポリマー(PTFE/PDD)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、パーフルオロエチルビニルエーテル(PEVE)、テトラフルオロエチレン(TFE)、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)などを用いることができる。これらの具体的製品名(登録商標を含む)としては、CYTOP(旭硝子製品)、テフロン(デュポン製品)、カルレッツ(FFKM、デュポン製品)、テフゼル(ETFE、デュポン製品)、フルロン(ETFE:旭硝子製品)、カイラー(PVDF:Arkema,Inc.製品)、ハラー(ECTFE:Solvay Solexis製品)、ルミフロン(旭硝子製品)、アフラス(旭硝子製品)、バイトン(デュポン製品)、フローレル(3M製品)、ヴァイトン(FPM/FKM:デュポン製品)、テドラー(PVF:デュポン製品)、テクノフロン(FFKM:Solvay Solexis製品)などを用いることができる。
【0055】
シランカップリング剤としては、フッ素アルキルシラン化合物であるCF(CF)(CH)Si(OCH)(FAS-17:(heptadecafluoro-1,1,2,2-tetrahydrodecyl) trimethoxysilane),CF(CF)(CH)Si(OCH)(FAS-13:(tridecafluoro-1,1,2,2-tetrahydrooctyl) trimethoxysilane),CF(CH)Si(OCH)(FAS-3:3,3,3-trifluoropropyltrimethoxysilane),CF(CF)(CH)Si(OCH)(FAS-17:(heptadecafluoro-1,1,2,2-tetrahydrodecyl) trimethoxysilane),CF(CF)(CH)Si(OCH)(FAS-13:(tridecafluoro-1,1,2,2-tetrahydrooctyl) trimethoxysilane),CF(CH)Si(OCH)(FAS-3:3,3,3-trifluoropropyltrimethoxysilane)、フッ素化アルキルトリクロロシラン化合物であるCF(CF)(CH)SiCl(FOETS:perfluorodecyltrichlorosilane),CF(CF)(CH)SiCl(FOTS:tridecafluorooctyltrichlorosilane)、アルキルトリクロロシラン化合物であるCH(CH)28CHSiCl(TATS:n-triacontyltrichlorosilane),CH(CH)20CHSiCl(DOTS:n-dococyltrichlorosilane),CH(CH)18SiCl(NTS),CH(CH)16CHSiCl(OTS:n-octadecyltrichlorosilane),CH(CH)14CHSiCl(HDTS:n-hexadecyltrichlorosilane),CH(CH)10CHSiCl(DDTS:dodecyltrichlorosilane),CH(CH)SiCl(n-decyltrichlorosilane),CH(CH)CHSiCl(OTS-8:octyltrichlorosilane),CH(CH)SiCl(n-heptyltrichlorosilane),CH(CH)CHSiCl(hexyltrichlorosilane),CHCHCHCHSiCl(n-butyltrichlorosilane),CHCHCHSiCl(n-propyltrichlorosilane),CHCHSiCl(ethyltrichlorosilane),CHSiCl(methyltrichlorosilane)、C(CH)SiCl(β-PhTS:β-phenethyltrichlorosilane)、および(CH)SiNH(CH)(HMDS:hexamethyldisilazane)などを用いることができる。
【0056】
液晶光学素子10を光強度変調素子として用いる場合には、素子を偏光子と検光子の間に設置して使用できる。さらに、高コントラスト、視野角の広い素子とするために光学的な補償法である位相補償板を設置しても使用できる。
【0057】
上記構成によれば、前記第1および第2配向膜13a,13bは水平配向膜であり、上下の第1および第2基板11a,11bにおいて、それぞれの配向方向は同一方向となるπセル構造をとる。πセルでは、ネマティック液晶系で最速動作となるベンド配向の形態をとることを可能とする。後述の実施形態においても同様である。
【0058】
第2配向膜13bに形成されている表面自由エネルギー値の小さい薄膜領域15により、第1および第2基板11a,11bの間の液晶層14における液晶分子14aに対して、局所的な配向が変化する領域を形成することができる。この局所的な配向変化が、πセルにおける液晶分子14aのスプレイ配向からベンド配向への転移核となり、液晶層14の略全体の液晶分子14aを、低電圧で容易に、かつ高速にベンド配向へ転移させることができる。
【0059】
つまり、第1電極12aと第2電極12bとの間に初期転移電圧が印加されると、図1において薄膜領域15の上部に位置する液晶分子14aは、この薄膜領域15の表面自由エネルギー値が周囲の第2配向膜13bの表面自由エネルギー値より小さいために、両者の表面自由エネルギーの差異により、液晶分子14a自体が薄膜領域15の部分で局所的な配向乱れを引き起こすため、自発的に転移核として有効に作用し、薄膜領域15の間の第2配向膜13b上の液晶層14の液晶分子14aが、転移核の液晶分子14aの垂直方向の配向に倣って同様に垂直方向のベンド配向に短時間で転移する。
【0060】
また、この初期転移後に電圧を切った場合の無電圧状態においても、薄膜領域15の部分では図1に示す状態を保持し、ベンド配向からスプレイ配向への逆転移は発生せず、安定なベンド配向または180゜ツイスト配向で安定化され、薄膜領域15の間の第2配向膜13b上の液晶層14の液晶分子14aは、図1に示すようなスプレイ配向へ迅速に逆転移する。具体例としては、後述の実施例1が対応する。
【0061】
<第2の実施形態>
本発明の第2の実施形態に係る液晶光学素子について、図2を参照して説明する。
【0062】
本実施形態の液晶光学素子20の基本構造は、図2に示すように、図中上方の第1基板21aと、第1基板21aの一面上(図で下面)に形成される第1電極22aと、第1電極22aの上(図で下面)に形成される第1配向膜23aとが積層され、また、上記第1基板21aの前記一面と対向する、図中下方の第2基板21bと、第2基板21bの一面上(図で上面)に形成される第2電極22bと、第2電極22bの上(図で上面)に形成される第2配向膜23bとが積層され、これらの2つの積層体が、第1基板21aおよび第2基板21bを外側に、第1配向膜23aと第2配向膜23bとを内側に対向配置させて、前記第1基板21aと前記第2基板21bとの間(具体的には第1配向膜23aと第2配向膜23bとの間)に液晶層24が介在されて一体に構成されてなる。
【0063】
そして、上記第2配向膜23bには、その同一平面内にパターン状に薄膜領域25が形成されている。つまり、第2配向膜23bと薄膜領域25を第2基板21b上に個別に形成した構造である。
【0064】
本実施形態においても、薄膜領域25は、その表面自由エネルギー値が第1および第2配向膜23a,23bの表面自由エネルギー値と異なり、第1および第2配向膜23a,23bの表面自由エネルギー値より小さな表面自由エネルギー値に設定されている。また、薄膜領域25の表面自由エネルギー値の上限が38mJ/mであり、第1および第2配向膜23a,23bの表面自由エネルギー値の下限が38mJ/mであるような材料を選定して使用する。
【0065】
この薄膜領域25の組成(使用材料)は前記第1の実施形態と同様であり、作製方法の具体例については後述するが、基本的には、第2電極22bに対して先に薄膜領域25をパターン状に印刷形成した後、第2配向膜23bを塗布形成することにより行われる。詳細は実施例2,3により後述する。
【0066】
例えば、第2の実施形態では、上記薄膜領域25の形成パターンは、図3(b)に示すような格子状、または図3(c)に示すストライプ状構造に形成するのが好ましい。なお、図3(c)のストライプ状構造に形成する場合には、薄膜領域25のストライプ線の平行方向が第1および第2配向膜23a,23bの配向方向に対して直交するように形成する。
なお、上記薄膜領域25の形成パターンは、図3(a)に示すドットパターン状に形成してもよい。
【0067】
その他、第1および第2基板21a,21b、第1および第2電極22a,22b、第1および第2配向膜23a,23b、液晶層24、薄膜領域25の素材、形成方法などは第1の実施形態と同様に構成される。具体例としては、後述の実施例2,3が対応する。
【0068】
<第3の実施形態>
本発明の第3の実施形態に係る液晶光学素子について、図4(a)を参照して説明する。
【0069】
本実施形態の液晶光学素子30の基本構造は、図4(a)に示すように、図中上方の第1基板31aと、第1基板31aの一面上(図で下面)に形成される第1電極32aと、第1電極32aの上(図で下面)に形成される第1配向膜33aとが積層され、また、上記第1基板31aの前記一面と対向する、図中下方の第2基板31bと、第2基板31bの一面上(図で上面)に形成される第2電極32bと、第2電極32bの上(図で上面)に形成される第2配向膜33bとが積層され、これらの2つの積層体が、第1基板31aおよび第2基板31bを外側に、第1配向膜33aと第2配向膜33bとを内側に対向配置させて、前記第1基板31aと前記第2基板31bとの間(具体的には第1配向膜33aと第2配向膜33bとの間)に液晶層34が介在されて一体に構成されてなる。
【0070】
そして、上記第1配向膜33aおよび第2配向膜33bには、対向する内面の同位置にそれぞれパターン状に第1薄膜領域35aおよび第2薄膜領域35bが形成されている。
【0071】
本実施形態においても、第1および第2薄膜領域35a,35bは、その表面自由エネルギー値が第1および第2配向膜33a,33bの表面自由エネルギー値と異なり、第1および第2配向膜33a,33bの表面自由エネルギー値より小さな表面自由エネルギー値に設定されている。また、第1および第2薄膜領域35a,35bの表面自由エネルギー値の上限が38mJ/mであり、第1および第2配向膜33a,33bの表面自由エネルギー値の下限が38mJ/mであるような材料を選定して使用する。
【0072】
この第1および第2薄膜領域35a,35bの組成(使用材料)および作製方法は、前記第1の実施形態と同様であり、詳細は実施例4、5により後述する。
【0073】
上記第1および第2薄膜領域35a,35bの形成パターンは、図3(a)に示すドットパターン状、図3(b)に示す格子状、または図3(c)に示すストライプ状構造のいずれかに形成するものであり、その他、第1および第2基板31a,31b、第1および第2電極32a,32b、第1および第2配向膜33a,33b、液晶層34、第1および第2薄膜領域35a,35bの素材、形成方法などは第1の実施形態と同様に構成される。具体例としては、後述の実施例4,5が対応する。
【0074】
<第4の実施形態>
本発明の第4の実施形態に係る液晶光学素子について、図4(b)を参照して説明する。
【0075】
本実施形態の液晶光学素子40の基本構造は、図4(b)に示すように、図中上方の第1基板41aと、第1基板41aの一面上(図で下面)に形成される第1電極42aと、第1電極42aの上(図で下面)に形成される第1配向膜43aとが積層され、また、上記第1基板41aの前記一面と対向する、図中下方の第2基板41bと、第2基板41bの一面上(図で上面)に形成される第2電極42bと、第2電極42bの上(図で上面)に形成される第2配向膜43bとが積層され、これらの2つの積層体が、第1基板41aおよび第2基板41bを外側に、第1配向膜43aと第2配向膜43bとを内側に対向配置させて、前記第1基板41aと前記第2基板41bとの間(具体的には第1配向膜43aと第2配向膜43bとの間)に液晶層44が介在されて一体に構成されてなる。
【0076】
そして、上記第1配向膜43aおよび第2配向膜43bは、各々その同一平面内において、パターン状に第1薄膜領域45aおよび第2薄膜領域45bを配設されてなり、これら第1薄膜領域45aおよび第2薄膜領域45bは互いに対向する位置に形成される。つまり、第1配向膜43aと第1薄膜領域45aを第1基板41a上に個別に、第2配向膜43bと第2薄膜領域45bを第2基板41b上に個別に形成した構造である。
【0077】
本実施形態においても、第1および第2薄膜領域45a,45bは、その表面自由エネルギー値が第1および第2配向膜43a,43bの表面自由エネルギー値と異なり、第1および第2配向膜43a,43bの表面自由エネルギー値より小さな表面自由エネルギー値に設定されている。また、第1および第2薄膜領域45a,45bの表面自由エネルギー値の上限が38mJ/mであり、第1および第2配向膜43a,43bの表面自由エネルギー値の下限が38mJ/mであるような材料を選定して使用する。
【0078】
この第1および第2薄膜領域45a,45bの組成(使用材料)および作製方法は、前記第1の実施形態と同様であり、詳細は実施例6により後述する。
【0079】
上記第1および第2薄膜領域45a,45bの形成パターンは、図3(a)に示すドットパターン状、図3(b)に示す格子状、または図3(c)に示すストライプ状構造のいずれかに形成するものであり、その他、第1および第2基板41a,41b、第1および第2電極42a,42b、第1および第2配向膜43a,43b、液晶層44、第1および第2薄膜領域45a,45bの素材、形成方法などは第1の実施形態と同様に構成される。具体例としては、後述の実施例6が対応する。
<第5の実施形態>
本発明の第5の実施形態に係る液晶光学素子について、図5(a)を参照して説明する。
【0080】
本実施形態の液晶光学素子30の基本構造は、図5(a)に示すように、図中上方の第1基板51aと、第1基板51aの一面上(図で下面)に形成される第1電極52aと、第1電極52aの上(図で下面)に形成される第1配向膜53aとが積層され、また、上記第1基板51aの前記一面と対向する、図中下方の第2基板51bと、第2基板51bの一面上(図で上面)に形成される第2電極52bと、第2電極52bの上(図で上面)に形成される第2配向膜53bとが積層され、これらの2つの積層体が、第1基板51aおよび第2基板51bを外側に、第1配向膜53aと第2配向膜53bとを内側に対向配置させて、前記第1基板51aと前記第2基板51bとの間(具体的には第1配向膜53aと第2配向膜53bとの間)に液晶層54が介在されて一体に構成されてなる。
【0081】
そして、上記第1配向膜53aおよび第2配向膜53bには、対向する内面の異なる位置に交互に、それぞれパターン状に第1薄膜領域55aおよび第2薄膜領域55bが形成されている。
【0082】
本実施形態においても、第1および第2薄膜領域55a,55bは、その表面自由エネルギー値が第1および第2配向膜53a,53bの表面自由エネルギー値と異なり、第1および第2配向膜53a,53bの表面自由エネルギー値より小さな表面自由エネルギー値に設定されている。また、第1および第2薄膜領域55a,55bの表面自由エネルギー値の上限が38mJ/mであり、第1および第2配向膜53a,53bの表面自由エネルギー値の下限が38mJ/mであるような材料を選定して使用する。
【0083】
この第1および第2薄膜領域35a,35bの組成(使用材料)および作製方法は、前記第1の実施形態と同様である。
【0084】
上記第1および第2薄膜領域55a,55bの形成パターンは、図3(a)に示すドットパターン状、図3(b)に示す格子状、または図3(c)に示すストライプ状構造のいずれかに形成するものであり、その他、第1および第2基板51a,51b、第1および第2電極52a,52b、第1および第2配向膜53a,53b、液晶層54、第1および第2薄膜領域55a,55bの素材、形成方法などは第1の実施形態と同様に構成される。
【0085】
<第6の実施形態>
本発明の第6の実施形態に係る液晶光学素子について、図5(b)を参照して説明する。
【0086】
本実施形態の液晶光学素子60の基本構造は、図5(b)に示すように、図中上方の第1基板61aと、第1基板61aの一面上(図で下面)に形成される第1電極62aと、第1電極62aの上(図で下面)に形成される第1配向膜63aとが積層され、また、上記第1基板61aの前記一面と対向する、図中下方の第2基板61bと、第2基板61bの一面上(図で上面)に形成される第2電極62bと、第2電極62bの上(図で上面)に形成される第2配向膜63bとが積層され、これらの2つの積層体が、第1基板61aおよび第2基板61bを外側に、第1配向膜63aと第2配向膜63bとを内側に対向配置させて、前記第1基板61aと前記第2基板61bとの間(具体的には第1配向膜63aと第2配向膜63bとの間)に液晶層64が介在されて一体に構成されてなる。
【0087】
そして、上記第1配向膜63aおよび第2配向膜63bには、その同一平面内において、対向する内面の異なる位置に交互に、それぞれパターン状に第1薄膜領域65aおよび第2薄膜領域65bが形成されている。つまり、第1配向膜63aと第1薄膜領域65aを第1基板61a上に個別に、第2配向膜63bと第2薄膜領域65bを第2基板61b上に個別に形成した構造である。
【0088】
本実施形態においても、第1および第2薄膜領域65a,65bは、その表面自由エネルギー値が第1および第2配向膜63a,63bの表面自由エネルギー値と異なり、第1および第2配向膜63a,63bの表面自由エネルギー値より小さな表面自由エネルギー値に設定されている。また、第1および第2薄膜領域65a,65bの表面自由エネルギー値の上限が38mJ/mであり、第1および第2配向膜63a,63bの表面自由エネルギー値の下限が38mJ/mであるような材料を選定して使用する。
【0089】
この第1および第2薄膜領域65a,65bの組成(使用材料)および作製方法は、前記第1の実施形態と同様である。
【0090】
上記第1および第2薄膜領域65a,65bの形成パターンは、図3(a)に示すドットパターン状、図3(b)に示す格子状、または図3(c)に示すストライプ状構造のいずれかに形成するものであり、その他、第1および第2基板61a,61b、第1および第2電極62a,62b、第1および第2配向膜63a,63b、液晶層64、第1および第2薄膜領域65a,65bの素材、形成方法などは第1の実施形態と同様に構成される。
【0091】
<第7の実施形態>
本発明の第7の実施形態に係る液晶光学素子について、図6および図7を参照して説明する。
【0092】
本実施形態の液晶光学素子100の基本構造は、前述の図4(b)に示す第4の実施形態と同様であり、これに薄膜トランジスタ120を含む液晶駆動用素子を画素毎に形成して液晶表示素子として構成してなる。
【0093】
図6に示すように、図中上方の第1基板101aと、第1基板101aの一面上(図で下面)に形成される第1電極102aと、第1電極102aの上(図で下面)に個別に形成される第1配向膜103aおよび第1薄膜領域105aとが積層され、また、上記第1基板101aの前記一面と対向する、図中下方の第2基板101bと、第2基板101bの一面上(図で上面)に複数の各画素に分割形成される第2電極102b(画素電極)と、第2電極102bおよび液晶駆動用素子120の上(図で上面)に個別に形成される第2配向膜103bおよび第2薄膜領域105bとが積層され、これらの2つの積層体が、第1基板101aおよび第2基板101bを外側に、第1配向膜103aと第2配向膜103bとを内側に対向配置させて、前記第1基板101aと前記第2基板101bとの間(具体的には第1配向膜103aと第2配向膜103bとの間)に液晶層104が介在されて一体に構成されてなる。
【0094】
なお、上記第1配向膜103aおよび第2配向膜103bの対向する内面の同位置に、それぞれパターン状に第1薄膜領域105aおよび第2薄膜領域105bが形成されている。また、この第1および第2薄膜領域105a,105bが形成されている部分は、第2電極102b(画素電極)による表示領域を区画する非表示領域に形成するものであり、薄膜トランジスタ120を含む液晶駆動用素子(データ線112、ゲート線113等)もこの非表示領域に形成される。
【0095】
図7に示すように、上記液晶駆動用素子は、第2基板101bの一面に複数平行に形成されたゲート線113と、この複数のゲート線113と交差して複数平行に形成されたデータ線112と、両者の交差部位でゲート線113とデータ線112とに連結される複数の薄膜トランジスタ120とを備える。また、第1基板101aの第1電極102aは、複数の画素電極となる第2電極102bと対向する単一の共通電極である。
【0096】
また、図6および図7の薄膜トランジスタ120において、106は半導体薄膜、107はゲート絶縁膜、108はゲート電極、109はドレイン電極、110はソース電極、111はパッシベーション膜である。上記ドレイン電極109がデータ線112に接続され、ゲート電極108がゲート線113に接続され、さらに、ソース電極110が分割されマトリクス状に配置された各第2電極102b(画素電極)に接続されてなる。
【0097】
上記構成により、各ゲート線113には走査信号印加回路より順次走査選択信号(薄膜トランジスタ120のオン信号)を印加し、この走査選択信号と同期して情報信号印加回路よりデータ線112に所定の階調表示情報を持った情報信号を印加して選択されたラインの第2電極102b(画素電極)に書き込み、所定の電圧を液晶層104に印加して表示を行うように構成されてなる。
【0098】
本実施形態においても、第1および第2薄膜領域105a,105bは、その表面自由エネルギー値が第1および第2配向膜103a,103bの表面自由エネルギー値と異なり、第1および第2配向膜103a,103bの表面自由エネルギー値より小さな表面自由エネルギー値に設定されている。また、第1および第2薄膜領域105a,105bの表面自由エネルギー値の上限が38mJ/mであり、第1および第2配向膜103a,103bの表面自由エネルギー値の下限が38mJ/mであるような材料を選定して使用する。
【0099】
この第1および第2薄膜領域105a,105bの組成(使用材料)および作製方法は、前記第1の実施形態および第4の実施形態と同様であり、詳細は実施例7により後述する。
【0100】
上記第1および第2薄膜領域105a,105bの形成パターンは、図3(a)に示すドットパターン状、図3(b)に示す格子状、または図3(c)に示すストライプ状構造のいずれかに形成するものであり、その他、第1および第2基板101a,101b、第1および第2電極102a,102b、第1および第2配向膜103a,103b、液晶層104、第1および第2薄膜領域105a,105bの素材、形成方法などは第1の実施形態および第4の実施形態と同様に構成される。具体例としては、後述の実施例7が対応する。
【0101】
以下、具体的な実施例1〜7について説明する。
【実施例1】
【0102】
本実施例1は、前述の第1の実施形態に示した液晶光学素子10を基本構造として、薄膜領域を構成する材料を選定し、図1および図3(a)に示される透過型の液晶光学素子を次の構成で作製した。
【0103】
まず、透明電極(第2電極)付きガラス基板(第2基板)上に、プレチルト角4°のポリイミド膜(SE7992,日産化学工業製)を水平配向膜(第2配向膜)としてコーティングした。次に、この水平配向膜上にマイクロコンタクトプリント法によりフッ素樹脂膜(Cytop、旭硝子製)からなるドットパターン形状の薄膜領域を形成した。
【0104】
この時の、水平配向膜と薄膜領域の表面自由エネルギー値は、それぞれ44.4(mJ/m2)および19(mJ/m2)の関係であり、水平配向膜の表面自由エネルギーが薄膜領域より大きい。
【0105】
上記のマイクロコンタクトプリント法では、ポリジメチルシロキサン(PDMS)によって形成された凹凸構造の柔軟なスタンプの凹凸面にフッ素樹脂膜(薄膜領域材料)を均一に塗布後、凸面のフッ素樹脂膜を水平配向膜上に転写し熱硬化させた。この方式では、スタンプの凹凸形状に応じた微細なドットパターンを精度良く転写することができる。上記スタンプは、材料として2液性の熱硬化性シリコン樹脂であるダウ・コーニング社のSylgard184を用い、フォトリソグラフィで作製されたマスターモールドに、樹脂を注入・脱泡・熱硬化・剥離して形成した。形成したフッ素樹脂膜(薄膜領域)の微細化パターンは、10μmのドット径、周期500μmからなる。
【0106】
次に、上記のドットパターン形状の薄膜領域を第2配向膜に有する透明電極付きガラス基板(第2基板)の第2配向膜をラビング処理し、続いて、液晶光学素子を均一なセルギャップとするために球状のプラスチックスペーサー(径6μm)と紫外線硬化性樹脂の混合物を上下基板間の周辺に塗布後、セルギャップがプラスチックスペーサー径と同一になるようにコンタクトさせ、紫外線(波長365nm)を照射することで均一なセルギャップを実現した。最後に、ネマティック液晶(JB5006××、チッソ社製、Δn=0.237、n=1.52)をセル中に注入し、実施例1の液晶光学素子を作製した。また、液晶セル周辺部分をシーリングし液晶の流失を防いだ。
【0107】
また、比較例として、薄膜領域を形成していない従前の第2配向膜と透明電極付きガラス基板(第1基板)の第2配向膜をラビング処理し、その後は上記と同様にして、図8に示す従前の液晶光学素子を作製した。
【0108】
作製された液晶光学素子は、偏光顕微鏡観察下において、第1電極と第2電極間に電圧を印加しスプレイ配向からベンド配向に転移させた。この転移時間を測定した結果、転移時間は印加電圧により大きく変化し、比較例としての従前の液晶光学素子の場合、4Vの電圧では300秒以上、10Vの電圧では13秒であった。一方、本実施例1の液晶光学素子では、4V電圧および10V電圧での転移時間は、それぞれ8秒および0.8秒と高速化されていることが分かった。
【0109】
この転移現象は、表面自由エネルギー値が小さい部分であるフッ素膜領域(薄膜領域)より発生し、全体に拡大して行くことが確認されており、フッ素膜領域が転移核として機能していることが分かった。また、応答速度を測定したところ、立上りおよび立下り時間はそれぞれ0.5msおよび3msの高速動作を確認し、テレビ用途の動画ディスプレイへ適していることが分かった。また、実施例1の液晶光学素子では、液晶中に高分子材料が形成されていない構造であるために高い透過率特性と高分子と液晶との間の屈折率不整合による散乱のないコントラストの高い特性をもつことが確認された。
【実施例2】
【0110】
本実施例2は、前記第2の実施形態に基づき、図2および図3(b)に示される透過型の液晶光学素子を次の構成で作製した。
【0111】
まず、透明電極(第2電極)付きガラス基板(第2基板)の電極面上に、前述のマイクロコンタクトプリント法の工程を用いてフッ素樹脂膜(Cytop、旭硝子製、表面自由エネルギー19(mJ/m2))のパターンを転写・熱硬化し、薄膜領域を形成した。パターンは、線幅5μm、ピッチ100μmの格子形状とした。
【0112】
次に、フッ素樹脂膜パターン(薄膜領域)が形成された透明電極付きガラス基板上に、水平配向膜(SE7792、日産化学工業製、プレチルト角7°、表面自由エネルギー38.9(mJ/m2))をディップコート法により均一に形成した。このとき、あらかじめ形成されたフッ素樹脂膜パターン部分は表面自由エネルギーが小さいために、水平配向膜成分からなる溶媒が付着することなしにフッ素樹脂膜バターン領域以外にコートされ、熱硬化後に均一な第2配向膜が薄膜領域と同一平面内に個別に形成される。続いて、実施例1と同様の作製工程により、実施例2の液晶光学素子を作製した。
【0113】
実施例1の測定と同様にして、本実施例2の液晶光学素子の第1電極と第2電極間に電圧を印加しスプレイ配向からベンド配向に初期転移させた。実施例2の格子状形状の薄膜領域を有する液晶光学素子では、4V電圧および10V電圧での転移時間は、それぞれ1秒および0.1秒と高速化されていることが分かった。この転移現象は実施例1と同様に低い表面自由エネルギー値の部分であるフッ素膜領域より発生し、拡大して行くことが確認されており、フッ素樹脂膜領域(薄膜領域)が転移核として機能していることが確認できた。
【0114】
さらに、実施例2の光変調動作を測定したところ、液晶の配向状態はスプレイ配向からベンド配向へ初期転移されたものは全てベンド配向となり安定していた。初期転移後、印加電圧を切ってもスプレイ配向への逆転移現象は観測されずベンド配向または180°ツイスト配向が保たれた。この実施例2の液晶光学素子では、6ヶ月以上の長時間、電圧を切った状態でもベンド配向からスプレイ配向への逆転移はまったく生じなかった。従前の従来の液晶光学素子では、電圧無印加時では、スプレイ配向であり高電圧印加によるベンド転移を必要としていたが、本実施例では電圧なしの状態でも安定なベンド配向が得られており、0Vからの変調動作が可能であることが分かった。
【実施例3】
【0115】
本実施例3は、前記第2の実施形態に基づき、図2および図3(c)に示される透過型の液晶光学素子を次の構成で作製した。
【0116】
本実施例3の液晶光学素子における各構成部分の材料ならびに作製工程は、前述の実施例2と同様とした。ただし、フッ素樹脂膜領域(薄膜領域)の形状は線幅5μm、ピッチ100μmのストライプ構造とし、そのストライプ構造の平行方向が第2配向膜のラビング方向と直交する構成である。また、比較例として、ストライプ構造の平行方向が第2配向膜のラビング方向と平行となる構成の液晶光学素子を同時に作製した。
【0117】
本実施例3の液晶光学素子では、実施例2と同様に、ベンド転移への高速化が確認され、フッ素樹脂膜領域(薄膜領域)が転移核として機能していることが分かり、同時に、初期転移後の電圧無印加時においてもベンド配向に保持されることが確認された。
【0118】
一方、比較例の液晶光学素子では、ベンド転移への高速化が確認されたが、初期転移後の電圧無印加時ではベンド配向の安定化現象は確認することはできず、スプレイ配向への逆転移が観測された。この結果、ストライプ構造の場合、配向膜のラビング方向と直交する方向にストライプ線を配置する条件で液晶光学素子を構成することで、ベンド配向を安定に保持する液晶光学素子を提供できることが示された。
【実施例4】
【0119】
本実施例4は、前記第3の実施形態に基づき、図4(a)および図3(b)に示される透過型の液晶光学素子を次の構成で作製した。
【0120】
本実施例4の液晶光学素子における各構成部分の材料ならびに作製工程は、前述の実施例2と同様とした。ただし、この場合、上下の第1基板と第2基板の内面の第1配向膜および第2配向膜にそれぞれ同一の格子状パターンに薄膜領域を形成し、第1基板と第2基板を対向させて組み合わせる場合に、両基板間でのフッ素樹脂膜の格子構造を1対1に対向させるためにアライナーを用いて精度良く張り合わせた。
【0121】
また、本実施例4においては、上記のアライナーにより上下基板上の格子構造パターンの位置合せを行うとともに、セルギャップがプラスチックスペーサー径と同一になるようにコンタクトさせ、紫外線(波長365nm)を照射することで均一なセルギャップおよび微細化パターンの高精度な位置合せを同時に実現した。得られたセルギャップの一様性は±10%以下であった。
【0122】
本実施例4により作製した液晶光学素子では、上記実施例2と同様に、スプレイ配向からベンド配向への高速かつ安定な初期転移がなされ、初期転移後にはベンド配向の安定化が確認された。
【0123】
さらに、ベンド配向の安定化現象を確認するため、格子パターン形状におけるフッ素樹脂膜(薄膜領域)の格子ピッチを、100μm、500μm、800μm、1mm、1.5mm、および2mmまでそれぞれ変更して液晶光学素子を作製し、その特性を観測した。
【0124】
この結果、初期転移後の電圧無印加時において、フッ素樹脂膜(薄膜領域)の格子ピッチが1mm以下ではベンド配向の安定化現象が確認され、格子ピッチが1.5mm以上ではスプレイ配向への逆転移が発生し、ベンド配向の安定化が低減することが分かった。
【実施例5】
【0125】
本実施例5は、前記第3の実施形態に基づき、図4(a)および図3(b)に示される透過型の液晶光学素子を次の構成で作製した。その際、薄膜領域の表面自由エネルギー値の違いによる効果を確認するため、表1に示された材料系を用いた液晶光学素子をそれぞれ作製し、その動作特性を評価した。薄膜領域の材料として下記表1に示されるものを使用し、それ以外は、前述の実施例4と同じ材料、素子構成、ならびに作製工程とした。
【0126】
本実施例5において作成した各液晶光学素子について、初期転移後の電圧無印加時の液晶分子の配向状態を観測したところ、高分子膜を用いた場合、PDMS(ゲレスト製)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、ポリシルセスキオキサン(SR-3351、およびSR-3321)の低い表面自由エネルギー値(18mJ/m2〜27.3mJ/m2)でベンド配向の安定化が確認されたが、高い表面自由エネルギー値(45mJ/m2〜64mJ/m2)の材料であるアクリル樹脂(PMMA)とポリビニルアルコール(PVA)ではベンド配向の安定化は確認できずスプレイ配向への逆転移が確認された。
【0127】
同様に、ポリイミド膜を用いた場合、JAL204(JSR製)、SE4811(日産化学工業製)、SE5300(日産化学工業製)の低い表面自由エネルギー値(35mJ/m2〜37.3mJ/m2)でベンド配向の安定化が得られ、SE1410(日産化学工業製)、AL1254(JSR製)、SE150(日産化学工業製)、SE7992(日産化学工業製)、SE5291(日産化学工業製)、SE7792(日産化学工業製)の高い表面自由エネルギー値(38.9mJ/m2〜48.9mJ/m2)の材料でスプレイ配向への逆転移が確認された。
【0128】
さらに、自己組織化単分子膜を用いた場合には、FOETS(perfluorodecyltrichlorosilane)、OTS(n-octadecyltrichlorosilane)、HMDS(hexamethyldisilazane)、β-PhTS(β-phenethyltrichlorosilane)の低い表面自由エネルギー値(13.3mJ/m2〜35.5mJ/m2)でベンド配向の安定化が得られ、APTES(γ-アミノプロピルトリエトキシシラン)の高い表面自由エネルギー値(45mJ/m2)の材料でスプレイ配向への逆転移が発生することが分かった。
【0129】
以上の結果と表1の実験結果(表面自由エネルギー値)から薄膜領域を構成する材料として、その表面自由エネルギー値が38mJ/m2以下の小さいものを選択すれば良いことが実験的に見出された。表1からも分かるようにその分子構造において、-F、-CF3、-CH3、-Phのいずれか一つ以上持つ材料系がより有効であることが分かった。特に、水平配向膜の表面自由エネルギー値と薄膜領域の表面自由エネルギー値の差が大きいほど、その界面での液晶分子の配向乱れが大きくなり、ベンド配向への転移核として有効に作用させることができる。
【0130】
つまり、薄膜領域の表面自由エネルギー値は、第1配向膜および第2配向膜の表面自由エネルギー値より小さく、その上限が38mJ/m2であり、また、第1配向膜および第2配向膜の表面自由エネルギー値は、薄膜領域の表面自由エネルギー値より大きく、その下限が38mJ/m2となるように、それぞれ薄膜領域および配向膜の素材を選定するものである。
【0131】
上記薄膜領域を構成する材料を選定するに当たり、各種材料系を製膜しその表面自由エネルギー値を測定し、実験で用いた薄膜材料の種類とその評価した表面自由エネルギー値を下記表1に示す。
【0132】
【表1】

【0133】
表1におけるポリイミド膜の製膜は、ガラス基板上にスピンコート法により塗布し、200℃で1時間かけて熱硬化した。一方、高分子膜の製膜は、ポリイミド膜と同一とした。また、ポリシルセスキオキサン高分子膜は、置換基にメチル(-CH3)基とフェニル(−Ph)基の混合成分を有するSR-3351(分子量:23万、配合比:メチル基/フェニル基=5/1、小西化学工業)とSR-3321(分子量:1万、配合比:メチル基/フェニル基=2/1、小西化学工業)を用い、その製膜は、ポリイミド膜と同一とした。さらに、自己組織化単分子(SAM)膜の製膜は、SAM膜材料をトルエン溶媒で希釈し、その溶媒中にガラス基板を10時間以上浸漬することでSAM膜を形成した。製膜した薄膜の表面自由エネルギー値は、水とヨウ化メチレンの2液を膜面に滴下し、その接触角をそれぞれ測定し、計算により求めた。
【実施例6】
【0134】
本実施例6は、前記第4の実施形態に基づき、図4(a)および図3(b)に示される透過型の液晶光学素子を次の構成で作製した。
【0135】
本実施例6の液晶光学素子における各構成部分の材料ならびに作製工程は、前述の実施例1と同様とした。ただし、第1基板および第2基板の材料をポリカーボネイト樹脂(100μm厚)に変更している。なお、液晶の注入は、真空注入でも可能であるが、本実施例6では、印刷法を適用して素子作製を行った。
【0136】
まず、透明電極(第2電極)付きポリカーボネイト樹脂膜(第2基板)の上に水平配向膜のポリイミド膜(SE7992)による第2配向膜をコーティングし、その上にマイクロコンタクト法により格子状構造パターン(線幅10μm、ピッチ300μm)からなるフッ素樹脂膜(第2薄膜領域)を形成後、全面をラビング処理し、その上面に印刷法によりネマティック液晶と液晶性モノマーの混合液を塗布した。塗布に採用する印刷法は、フレキソ法、活版(凸版)印刷、オフセット(平板)印刷、グラビア(凹版)印刷のいずれの方式でも形成可能であった。
【0137】
次に、水平配向膜(第1配向膜)および格子状構造パターンのフッ素樹脂膜(第1薄膜領域)が形成された一方の透明電極(第1電極)付きポリカーボネイト樹脂基板(第1基板)を形成後、全面をラビング処理し、これを上記第2基板と張り合わせた後、アライナーにより上下配向膜の微細化格子状パターンの位置合わせを行い本実施例の液晶光学素子を作製した。
【0138】
本実施例6の液晶光学素子では、前述と同様にベンド配向の安定化が確認された。さらに、第1および第2基板の素材が可撓性を有することから液晶光学素子を丸めたり、巻き取った後で素子を広げても安定な高速動作を示した。
【実施例7】
【0139】
本実施例7は、前記実施例2において、その第2基板をTFT基板に変更し、前述の第7の実施形態における図6および図7に示される液晶表示素子としての液晶光学素子を作製し、その特性を評価した。
【0140】
本実施例7の液晶光学素子は、表示領域となる画素電極(第2電極)の間隙(非表示領域)に薄膜領域を設け、薄膜トランジスタの半導体層にはグロー放電CVD法によるa−Si膜を用いた。
【0141】
そして、各表示画素に独立に電圧を与えることができるように、各画素電極から独立にデータ線を引き出し、対向する第1電極については全面共通電極とした構成からなる。画素電極に対応する領域は水平配向領域とし、画素電極間の一部をフッ素樹脂膜からなる表面自由エネルギー値の小さい薄膜領域とした。
【0142】
この液晶光学素子に4Vの電圧を印加して、液晶を一旦ベンド配向させた後、電圧を切ると該当する画素のみベンド配向を保持した。
数ヶ月間、無電圧で放置しても各画素の配向状態は保持され、ベンド配向の安定化が図れることが分かった。
【符号の説明】
【0143】
10,20,30,40,50,60,100 液晶光学素子
11a,21a,31a,41a,51a,61a,101a 第1基板
11b,21b,31b,41b,51b,61b,101b 第2基板
12a,22a,32a,42a,52a,62a,102a 第1電極
12b,22b,32b,42b,52b,62b,102b 第2電極
13a,23a,33a,43a,53a,63a,103a 第1配向膜
13b,23b,33b,43b,53b,63b,103b 第2配向膜
14,24,34,44,54,64,104 液晶層
14a,24a,34a,44a,54a,64a 液晶分子
15,25,35a,35b,45a,45b,55a,55b,65a,65b,105a,105b 薄膜領域
106 半導体薄膜
107 ゲート絶縁膜
108 ゲート電極
109 ドレイン電極
110 ソース電極
111 パッシベーション膜
112 データ線
113 ゲート線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基板、第1電極、および第1配向膜を、この順に積層してなる第1積層体と、第2基板、第2電極、および第2配向膜を、この順に積層してなる第2積層体とを、前記第1配向膜および前記第2配向膜が対面するようにして、間に液晶層を介在させてなり、
前記第1配向膜および前記第2配向膜の少なくとも一方に、パターン状の薄膜領域を設け、該薄膜領域は、設けられた配向膜の表面自由エネルギー値より小さい値の表面自由エネルギー値を持つように設定されていることを特徴とする液晶光学素子。
【請求項2】
前記薄膜領域の表面自由エネルギー値の上限が38mJ/mであり、また、前記第1配向膜および第2配向膜の表面自由エネルギー値の下限が38mJ/mである、ことを特徴とする請求項1記載の液晶光学素子。
【請求項3】
前記薄膜領域のパターン形状がドット状構造、格子状構造、およびストライプ状構造のいずれかである、ことを特徴とする請求項1または2記載の液晶光学素子。
【請求項4】
前記薄膜領域がストライプ状構造からなり、かつ当該ストライプ構造の平行方向が前記第1配向膜と前記第2配向膜の配向方向に対して直交する、ことを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項記載の液晶光学素子。
【請求項5】
前記第1配向膜に形成される前記薄膜領域と前記第2配向膜に形成される前記薄膜領域が対向する位置に配されている、ことを特徴とする請求項1から4のうちいずれか1項記載の液晶光学素子。
【請求項6】
前記第2基板の前記一面に形成される複数のゲート線と、複数の前記ゲート線と交差する複数のデータ線と、前記ゲート線と前記データ線とに連結される複数の薄膜トランジスタと、をさらに備え、
前記第2電極は前記複数の薄膜トランジスタに連結される複数の画素電極であり、前記第1電極は前記複数の画素電極と対向する単一の共通電極である、ことを特徴とする請求項1から5のうちいずれか1項記載の液晶光学素子。
【請求項7】
前記薄膜領域は、表示領域を区画する非表示領域に形成される、ことを特徴とする請求項1から6のうちいずれか1項載の液晶光学素子。
【請求項8】
前記請求項1から7のうちいずれか1項記載の液晶光学素子を作製する製造方法であって、
前記第1配向膜および第2配向膜の少なくとも一方の配向膜に、印刷工程によって前記配向膜の表面自由エネルギー値より小さい値の表面自由エネルギー値を持つ薄膜領域をパターン状に形成することを特徴とする液晶光学素子の製造方法。
【請求項9】
前記請求項1から7のうちいずれか1項記載の液晶光学素子を作製する製造方法であって、
前記第1電極および第2電極の少なくとも一方の電極に、印刷工程または塗布工程によって前記配向膜の表面自由エネルギー値より小さい値の表面自由エネルギー値を持つ薄膜領域をパターン状に形成し、該薄膜領域と同一平面内に第1配向膜および/または第2配向膜を形成することを特徴とする液晶光学素子の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−262061(P2010−262061A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111210(P2009−111210)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】