液晶光学素子及び液晶光学素子の製造方法
【課題】表面凹凸を有するプリズム上において均一な液晶配向を有する液晶光学素子を提供する。
【解決手段】 液晶光学素子は、相互に対向する一対の第1及び第2の透明基板と、前記第1及び第2の透明基板上に形成され、前記第1及び第2の透明基板間に電圧を印加する一対の第1及び第2の透明電極と、前記第1及び第2の透明基板の一方の上方に形成されるプリズムを有するプリズム層と、前記プリズム層上に形成され、光配向により配向処理が施された配向膜と、前記第1及び第2の透明基板間に挟まれ、液晶分子を有する液晶層とを有し、前記第1及び第2の透明電極に印加する電圧を変化させることにより、前記液晶層の屈折率を変化させて前記プリズムの斜面と前記液晶層の界面を通過する光の屈折角が変化することを特徴とする。
【解決手段】 液晶光学素子は、相互に対向する一対の第1及び第2の透明基板と、前記第1及び第2の透明基板上に形成され、前記第1及び第2の透明基板間に電圧を印加する一対の第1及び第2の透明電極と、前記第1及び第2の透明基板の一方の上方に形成されるプリズムを有するプリズム層と、前記プリズム層上に形成され、光配向により配向処理が施された配向膜と、前記第1及び第2の透明基板間に挟まれ、液晶分子を有する液晶層とを有し、前記第1及び第2の透明電極に印加する電圧を変化させることにより、前記液晶層の屈折率を変化させて前記プリズムの斜面と前記液晶層の界面を通過する光の屈折角が変化することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶光学素子及び液晶光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配光切り替え方法として、液晶光学素子を用いた方法が提案されている。例えば特許文献1は、一対の基板の一方の内面にプリズムを形成した液晶セルを用いて、光偏向を行う技術を開示する。電圧無印加状態と電圧印加状態とを切り替えて、液晶層の屈折率を切り替えることにより、光の進行方向を切り替える。
【0003】
液晶は細長い分子形状を有しており、ある方向の偏光(液晶分子の長軸方向)は曲げることが出来るが、ある方向の偏光はそのまま透過する。光源が非偏光であり、光源の光を全て曲げたい場合はマイクロプリズム液晶光学素子を2組用意する必要がある(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
光源が偏光系もしくは光源とマイクロプリズム液晶光学素子の間に液晶表示装置など偏光系の光学系が配置される場合はマイクロプリズム液晶光学素子が1組あれば全ての光(画像)を曲げる事ができる。この時光源などから出射される偏光方向と、マイクロプリズム液晶光学素子において光源側に施される配向処理の方向が平行になるように配置しないと全ての光を曲げることはできなくなる。
【0005】
例えば、光源側から出射される偏光方向と、マイクロプリズム液晶光学素子において光源側に施される配向処理の方向が45度になるように配置した場合、約1/2の光は曲げられるが残りの光は制御することができなくなり、光源側から出射される偏光方向と、マイクロプリズム液晶光学素子において光源側に施される配向処理の方向が直交するように配置した場合には電気的に全く制御できなくなる。
【0006】
従って、光源側から出射される偏光方向と、マイクロプリズム液晶光学素子において光源側に施される配向処理の方向が平行になるように配置することが、非常に重要である。なお、それに対して、プリズムの向きは、画像全体をどちらの方向に動かすかと言う面では重要であるが、配向を切り替えることが可能かどうかと言う面ではあまり重要ではない。
【0007】
よって、マイクロプリズム液晶光学素子を透過する光(画像)の状態をなるべく鮮明になるようにするためには、きちんとした配向処理を行い、界面の液晶分子を一方向にきちんと並べることが非常に重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−147377号公報
【特許文献2】特開2010−145646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来はプリズム上に配向膜を形成することなく、直接ラビング処理を行っていたが、ラビングされたプリズム材料では液晶分子を配向させる配向規制力が十分でなく、全ての液晶分子がラビング方向に向いていない。プリズム上に配向膜を形成すれば問題ないと考えられるが、多くのプリズム用形成材料は耐熱性が低く、配向膜を形成する熱処理(180℃以上)により特性が劣化してしまう。
【0010】
また、プリズム上に配向規制力の高い配向膜(ポリイミドなど)を形成しラビング処理を行ったとしても完全に均一な液晶配向を得ることは困難である。それはプリズムの表面形状に起因していると考えられ、マイクロプリズム液晶光学素子で用いているプリズムには数μmから数十μmの表面凹凸があるため、ラビング処理で用いるラビング布の毛先がプリズム上(配向膜上)の全面にきちんと当たる事ができず、特に凹部においてきちんと配向されないためと考えられる。
【0011】
本発明の目的は、表面凹凸を有するプリズム上において均一な液晶配向を有する液晶光学素子を提供することである。
【0012】
本発明の他の目的は、表面凹凸を有するプリズム上に対しても均一な液晶配向を与えることが可能な液晶光学素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一観点によれば、液晶光学素子は、相互に対向する一対の第1及び第2の透明基板と、前記第1及び第2の透明基板上に形成され、前記第1及び第2の透明基板間に電圧を印加する一対の第1及び第2の透明電極と、前記第1及び第2の透明基板の一方の上方に形成されるプリズムを有するプリズム層と、前記プリズム層上に形成され、光配向により配向処理が施された配向膜と、前記第1及び第2の透明基板間に挟まれ、液晶分子を有する液晶層とを有し、前記第1及び第2の透明電極に印加する電圧を変化させることにより、前記液晶層の屈折率を変化させて前記プリズムの斜面と前記液晶層の界面を通過する光の屈折角が変化することを特徴とする。
【0014】
本発明の他の観点によれば、液晶光学素子の製造方法は、第1及び第2の透明基板を準備する工程と、前記第1及び第2の透明基板上に、前記第1及び第2の透明基板間に電圧を印加する一対の第1及び第2の透明電極を形成する工程と、前記第1の透明電極の上方に、プリズムを有するプリズム層を形成する工程と、前記プリズム層上に配向膜を形成する工程と、前記プリズム層上に形成した配向膜に対して、光配向により配向処理を施す工程と、前記第1及び第2の透明基板を、前記第1及び第2の透明電極が形成された側が向かい合うように重ね合わせる工程と、前記第1及び第2の透明基板間に、液晶を注入して封止する工程とを有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、表面凹凸を有するプリズム上において均一な液晶配向を有する液晶光学素子を提供することができる。
【0016】
また、本発明によれば、表面凹凸を有するプリズム上に対しても均一な液晶配向を与えることが可能な液晶光学素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施例による光偏向液晶セル100の概略断面図である。
【図2】プリズム層3の概略斜視図である。
【図3】ガラス基板1上のプリズム層3の概略平面図である。
【図4】本発明の第1の実施例による光偏向液晶セル100を組み込んだ光学系の構成を表す概念図である。
【図5】比較例による液晶セルA〜Eの配向に関する実験結果を示す表である。
【図6】本発明の第1の実施例による光偏向液晶セル100を透過する光(画像)の状態を観察した第1の実験結果を示す表である。
【図7】本発明の第1の実施例による光偏向液晶セル100を透過する光(画像)の状態を観察した第2の実験結果を示す表である。
【図8】本発明の第1の実施例による光配向の露光方向を説明するための概念図である。
【図9】本発明の第2の実施例による液晶セルの光配向処理を説明するための概念図である。
【図10】本発明の第2の実施例による液晶セルを透過する光(画像)の状態を観察した第3の実験結果を示す表である。
【図11】本発明の第3の実施例による液晶セルを透過する光(画像)の状態を観察した第4の実験結果を示す表である。
【図12】本発明の第3の実施例による液晶セルを透過する光(画像)の状態を観察した第5の実験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の第1の実施例による光偏向液晶セル(液晶光学素子)100を概略的に示す厚さ方向断面図である。
【0019】
透明電極が形成された一対のガラス基板(透明電極2が形成されたガラス基板1、及び、透明電極12が形成されたガラス基板11)を用意した。ガラス基板1、11は、それぞれ、厚さ0.7mmtであり、材質は無アルカリガラスである。透明電極2、12は、それぞれ、厚さ150nmであり、材質はインジウムスズ酸化物(ITO)であり、所望の平面形状にパターニングされている。
【0020】
片側のガラス基板1の透明電極2上に、プリズム層3を形成した。プリズム層3は、ベース層3b上にプリズム3aが並んだ形状を有する。ベース層3bの厚さは、例えば2μm〜30μm程度である。本実施例では、UV硬化型のアクリル系樹脂等の180℃以上の熱処理に対する特性(透過率)変化の少ない材料(以下、単に耐熱性プリズム材料と呼ぶ)を用いてプリズム層3を形成する。なお、UV硬化型のアクリル系樹脂等の180℃以上の熱処理に対する特性(透過率)変化の少ない(180℃以上の熱処理が可能な)材料を用いることにより、従来では非常に困難であったポリイミド等からなるLCD用配向膜をプリズム上に形成できる。なお、本明細書において、「特性(透過率)変化の少ない」とは、特性(透過率)変化が熱処理前に比べて概ね2%以内である状態を示す。UV硬化型のアクリル系樹脂は、耐熱性だけでなく、ガラスへの密着性も優れていると共に金属には密着しにくい(離型性が良い)という性質を有しており、本発明の第1の実施例によるプリズムを形成する材料として好適である。また、エポキシ系の樹脂も耐熱性に優れており、本発明の第1の実施例によるプリズムを形成する材料として使用可能であると考えられる。また、ポリイミドも使用可能である。
【0021】
図2は、プリズム層3の概略斜視図であり、右側部分にプリズム3aの断面形状の拡大図を示す。各プリズム3aは、例えば、頂角約45°、底角が約45°及び約90°の三角柱状であり、複数のプリズム3aが、プリズム長さ方向と直交する方向(この方向を、プリズム幅方向と呼ぶこととする)に、方向を揃えて並んでいる。プリズム3aの高さは約20μm(最低0μm〜最高20μm)であり、プリズム3aの底辺の長さ(プリズムのピッチ)は約20μmである。また、プリズム層3のベース層(2μm〜30μm)である。
【0022】
図3は、ガラス基板1上のプリズム層3の概略平面図である。プリズム層3の作製方法について説明する。ガラス基板1(縦150mm×横150mm×厚さ0.7mmt)の透明電極2上に、所定量の耐熱性プリズム材料3R(例えば、紫外線(UV)硬化型のアクリル系樹脂)を滴下し、その上の所定位置に、離型剤もしくはコーティング剤付きのプリズム層3の型が形成されたプリズム金型を置き、厚手の石英部材などを基板の裏側に配置して補強した状態でプレスを行った。金型のサイズ(プリズム形成領域のサイズ)は、縦80mm×横80mmである。
【0023】
プレスして1分以上放置し、耐熱性プリズム材料3Rを十分広げた後、ガラス基板1の裏側から紫外線を照射し、耐熱性プリズム材料3Rを硬化させた。紫外線の照射量は20mJ/cm2とした。紫外線の照射量は、樹脂が硬化するように適宜設定すればよい。なお、ITOは紫外線を吸収するため、透明電極の膜厚が変われば紫外線照射量も変える必要があろう。
【0024】
耐熱性プリズム材料3Rの硬化後、石英、プレス治具などを取り外し、プリズム層3が形成されたガラス基板1を押し下げることにより、プリズム金型から剥離する。
【0025】
なお、プリズム層3の大きさは、耐熱性プリズム材料3Rの滴下量を調整することにより行う。滴下量を調整してプリズム形成領域全体A1(縦80mm×横80mm)のうちの必要な領域A2(縦60mm×横60mm)にプリズム層3を形成した。なお、プリズム層3を構成するUV硬化型のアクリル系樹脂の屈折率は、1.51である。
【0026】
プリズム層3は液晶層15と協働して、頂角の角度により、1辺から入射し、他辺から出射する光の進行方向を変える機能を有する。
【0027】
図1に戻って説明を続ける。プリズム付きガラス基板1と、もう一方のITO付きガラス基板11を洗浄機にて洗浄した。洗浄方法は、アルカリ洗剤を用いたブラシ洗浄、純水洗浄、エアーブロー、紫外線照射、赤外線乾燥の順に行った。なお、洗浄方法はこれに限らず、高圧スプレー洗浄やプラズマ洗浄などを行ってもよい。
【0028】
次に、プリズム層3上及びもう一方のガラス基板11の透明電極12上に、ポリイミド等により配向膜13を形成した。プリズム層3上に配向膜13を形成することにより、配向規制力を十分なものにすることができる。ここでは、日産化学製のSE−130をフレキソ印刷法で厚さ80nm形成して、180℃で1.5時間焼成を行った。なお、配向膜の材料は上記のものに限らず市販の多くのポリイミド配向膜材料が使用可能である。
【0029】
次に、プリズム層3上の配向膜13に対して、配向処理として光配向を実施した。ここでは紫外線を偏光した光をガラス基板11に対して法線方向から照射する方法を用いた。すなわち、プリズム3aの斜面に対しては45°傾けた方向から照射した。露光に用いた偏光フィルタの波長は310nmであり、照度8.5mW/cm2で120秒間露光した(照射量:約1J/cm2)。なお、本実施例では、照度8.5mW/cm2(310nm)について120秒間露光した(照射量:約1J/cm2)が、波長254nmの偏光フィルタを用いて、照度1.3mW/cm2で露光するようにしても良い。また、照射量についてはそれぞれの波長について30秒、60秒、120秒、300秒と露光条件を変えて実験した。30秒では光配向のみの配向力は弱かったが、60秒でほぼ均一な配向が得られるようになった。但し僅かにずれた像が観察された。120秒では、ずれた像、ぼけた像ともほとんど観察されなくなった。それ以上露光量を増やしても結果に差は見られなかった。
【0030】
光配向方向は、露光に用いる偏光フィルタの偏光方向とプリズム方向(図2のx方向)が平行となるようにした。液晶分子の配向方向は紫外光の偏光方向に直交するように並ぶ。結果としてプリズム方向と直交する方向(図2のy方向)に液晶分子が配向するようにした。
【0031】
配向方法として光配向を用いることにより、凸凹のあるプリズム層3上においても、均一な液晶配向を得ることができるようになる。結果として、ラビング処理に比べて、投影像の画質が著しく向上する。
【0032】
もう一方のITO付きガラス基板11の配向膜13に対しては、配向処理としてラビング処理を実施した。ストロングアンカリングになるように、押し込み量0.8mmで、強めに押し込んでラビング処理を行った。ラビングの方向はプリズム層3の傾斜方向に対してアンチパラレルになるように、図1の矢印18の方向(図2のx方向とは逆方向)に行った。なお、ガラス基板11の配向膜13に対して光配向を行ってもよい。
【0033】
次に、プリズム層3を形成した側のガラス基板1上に、ギャップコントロール剤を2wt%〜5wt%含んだメインシール剤16を形成した。形成方法として、スクリーン印刷やディスペンサが用いられる。プリズムの高さ(0μm〜20μm)を含め液晶層15の厚さが、例えば10μm〜35μmとなるように、ギャップコントロール剤を選択した。なお、プリズム層3は位置によって高さが変化するので、それに応じて液晶層15の厚さも変化する。
【0034】
ここでは、ギャップコントロール剤として径が45μmの積水化学製のプラスチックボールを選択し、これを三井化学製のシール剤ES−7500に4wt%添加して、メインシール剤16とした。
【0035】
プリズムを形成しない側のガラス基板11上には、ギャップコントロール剤14として径が21μmの積水化学製のプラスチックボールを、乾式のギャップ散布機を用いて散布した。
【0036】
次に、両ガラス基板1、11の重ね合わせを行い、プレス機などで圧力を一定に加えた状態で熱処理することにより、メインシール剤を硬化させた。ここでは、150℃で3時間の熱処理を行った。
【0037】
このようにして作製された空セルに、液晶を真空注入して、液晶層15を形成した。第1の実施例では、液晶として、Δεが正でΔn=0.212、ne=1.716、no=1.504のメルク製のものを用いた。なお、液晶のΔnが大きな材料を用いるほど画像を大きく曲げることが可能であるが、Δnが大きな液晶は配向性があまりよくない場合があるため本実施例では比較的Δnが大きく配向性に優れた材料を用いた。
【0038】
液晶注入後、プレスを行い余分な液晶を吐き出してから、注入口にエンドシール剤を塗布し、封止した。封止後、120℃で1時間の熱処理を行い、液晶の配向状態を整えた。このようにして、光偏向液晶セル100を作製した。
【0039】
配向膜13の配向処理を光配向により行った場合には、液晶の注入から熱処理まではなるべく速やかに行う必要がある。なぜならばプリズム層3上の配向膜13の光配向の配向規制力はそれほど強くなく、液晶注入時の液晶の流れの影響を受ける方向に配向(流動配向)する現象が見られる。これを解消するためには、高温処理を行い、液晶を一旦等方相温度以上にすることで流動配向を消去して本来の光配向に起因した方向に再配向させることができる。しかし、この方法では液晶を注入してから時間がたってしまうと流動配向が安定してしまい、多少の熱処理では完全に消去できなくなる(これを配向のメモリー性と呼ぶ)。したがって、液晶の注入から熱処理まではなるべく速やかに行うことが望ましく、可能であれば3時間以内、遅くとも24時間以内に熱処理を行うことが望ましい。
【0040】
第1の実施例の光偏向液晶セル100において、電圧無印加状態で、液晶分子の長軸がプリズム長さ方向に直交し、電圧印加により、液晶分子の長軸が基板法線方向に立ち上がる。第1の実施例に用いた液晶は、電気ベクトルの振動方向が液晶分子の長軸方向に平行な偏光成分に対して、屈折率1.716を示し、電気ベクトルの振動方向が液晶分子の長軸方向に垂直な偏光成分に対して、屈折率1.504を示す。
【0041】
プリズム層3を構成するUV硬化型のアクリル系樹脂の屈折率は、1.51であり、電気ベクトルの振動方向が液晶分子の長軸方向に垂直な偏光成分に対する液晶の屈折率と同等である。なお、第1の材料の屈折率と第2の材料の屈折率との差が、第1の材料の屈折率または第2の材料の屈折率に対して3%以内(より好ましくは2%以内)であるとき、両材料の屈折率が同等であるとする。
【0042】
したがって、第1の実施例による光偏向液晶セル100は、液晶分子の長軸が基板法線方向に立ち上がる電圧印加時には、液晶層の屈折率(1.504)とプリズム層3の屈折率(1.51)が同等となるので、プリズムの作用は消滅し、入射光をほぼそのまま直進させることとなる。一方、電圧非印加時(低い電圧の印加時を含む)には、液晶層の屈折率(1.716、ただし45度の斜面上での実行屈折率は概ね1.6程度)とプリズム層3の屈折率(1.51)が異なるので、プリズムの作用が生じ、入射光を屈折させることとなる。
【0043】
なお、プリズム形成用の金型にはエア抜き用の微小な溝を形成してもよい。また、金型と基板とは真空中で重ね合わせてもよい。なお、液晶の注入方法は真空注入に限らず、例えばOne Drop Fill(ODF)法を用いてもよい。
【0044】
なお、第1の実施例の光偏向液晶セル100では、プリズムパターンより広く上下基板間で90°に交差した長方形状の電極パターンを用い、両基板側から端子を取り、また、メインシール部分で上下基板の電極が交差しないようにした。メインシール部分で上下基板の電極を交差させないことにより、短絡が抑制される。なお、片側から端子を取りたい場合は、メインシールに上下導通用の金ボールを添加する構造等とすればよい。
【0045】
制御部20は、例えば、外部からの情報に従い、光偏向液晶セル100の透明電極2、12に印加する電圧を制御することにより、光偏向液晶セル100を透過する光を曲げる角度を調整する。
【0046】
図4は、本発明の第1の実施例による光偏向液晶セル100を組み込んだ光学系の概念図である。
【0047】
上述した手法により作製した光偏向液晶セル100を図4に示す光学系に組み込んで画像23の変化の様子を観察した。背面に配置している液晶表示装置22の偏光板24の貼り方向と光偏向液晶セル100の液晶分子配向方向が平行になるように向きを合わせて配置した。光偏向液晶セル100の透明電極2、12にピン端子等をつなげることにより導通をとり、制御部20から光偏向液晶セル100に交流電圧を印加できるようにした。
【0048】
光偏向液晶セル100に電圧を印加したところ、液晶表示装置22の静止画像の位置が電圧により移動する様子が観察された。この時、画像23の画質はほとんど劣化することなく、その位置だけを移動させることができた。また二重像も観察されなかった。
【0049】
液晶表示装置22から出る光(画像)23が直線偏光であれば、光偏向液晶セル100により全ての光(画像)23を曲げることが可能である。なお、光偏向液晶セル100により光(画像)23を曲げることのできる角度は、セル構造(プリズム形状、液晶の屈折率異方性等)により制御可能な範囲が異なるが、18°程度まで曲げることが可能である。
【0050】
図5は、比較例による液晶セルA〜Eの配向に関する実験結果を示す表である。
【0051】
比較例による液晶セルA〜Eは、本実施例による光偏向液晶セル100のプリズム層3上の配向膜13を日産化学製のSE−410を用いて形成し、光配向の変わりにラビング処理で配向処理を行ったものである。液晶セルA〜Eは、それぞれラビング処理における押し込み量を、−0.8mm、−0.4mm、0mm、0.4mm、0.8mmと変化させて作製した液晶セルである。押し込み量については、ガラス基板表面を0とし、基板から離れる方向をマイナス、押し込む方向をプラスとした。
【0052】
ここでの評価実験は、液晶セルA〜Eに電圧を印加した場合と印加しなかった場合のそれぞれにおいて、液晶セルA〜Eを透過する光(画像)23(図4)の状態を観察したものであり、具体的には、ずれた像の有無(像が二重に見えるか否か)及びぼやけの有無(像が散乱しているか否か)の2点について観察した。
【0053】
ラビング処理における押し込み量を−0.8mmとした液晶セルAは、電圧無印加時には、ずれた像もぼやけも観察されなかったが、電圧印加時に白くぼやける現象が観察された。押し込み量を−0.4mmとした液晶セルBは、電圧無印加時及び無印加時の双方で、ずれた像とぼやけがわずかに観察された。押し込み量を0mmとした液晶セルCは、電圧無印加時にずれた像とぼやけが観察されたが、電圧印加時には、ずれた像もぼやけも観察されなかった。押し込み量を0.4mmとした液晶セルDは、電圧無印加時及び無印加時の双方で、ずれた像は観察されたが、ぼやけは観察されなかった。押し込み量を0.8mmとした液晶セルEは、電圧無印加時には、ずれた像もぼやけも観察されなかったが、電圧印加時にぼやけがわずかに観察された。以上のように、比較例A〜Eでは、いずれの場合においても、ずれた像、ぼやけの面で電圧印加/無印加時の全ての状態に対し良好な画像を得る事はできていないことがわかる。
【0054】
図6は、本発明の第1の実施例による光偏向液晶セル100を透過する光(画像)23(図4)の状態を観察した第1の実験結果を示す表である。上述の比較例と同様に、ずれた像の有無(像が二重に見えるか否か)及びぼやけの有無(像が散乱しているか否か)の2点について観察した。この第1の実験では、光偏向液晶セル100の配向膜13の材料及び光配向処理におけるUV波長を変化させて液晶セルF〜Kを実際に作製して観察を行った。なお、紫外線露光は120秒間行い、その時の照射量は150mJ/cm2であった。
【0055】
液晶セルFは、プリズム層3を形成した側のガラス基板1の配向膜13を日産化学製のSE−510を用いて形成し、紫外線露光に用いる偏光フィルタの波長を310nmとして作製した。液晶セルGは、液晶セルFと同様に、日産化学製のSE−510を用い、紫外線露光に用いた偏光フィルタの波長を254nmとして作製した。
【0056】
液晶セルHは、プリズム層3を形成した側のガラス基板1の配向膜13を日産化学製のSE−130を用いて形成し、紫外線露光に用いる偏光フィルタの波長を310nmとして作製した。液晶セルIは、液晶セルHと同様に、日産化学製のSE−130を用い、紫外線露光に用いた偏光フィルタの波長を254nmとして作製した。
【0057】
液晶セルJは、プリズム層3を形成した側のガラス基板1の配向膜13を日産化学製のSE−610を用いて形成し、紫外線露光に用いる偏光フィルタの波長を310nmとして作製した。液晶セルJは、液晶セルIと同様に、日産化学製のSE−610を用い、紫外線露光に用いた偏光フィルタの波長を254nmとして作製した。
【0058】
なお、紫外線の偏光方向はプリズム方向と平行、対向基板(ガラス基板11)はいずれもプリズム層3を形成した側のガラス基板1と同じ配向膜材料を用い、アンチパラレルになるようラビング処理を行っている(押し込み量0.8mm)。また、光配向時の偏光フィルタの偏光方向はプリズム方向と平行になるようにし、ラビング方向はプリズム方向とは直交になるようにした。光配向では液晶分子は偏光フィルタの偏光方向とは直交方向に並ぶため、上記関係よりアンチパラレル配向が得られる。なお、ここで用いた光配向ではプレティルト角は発生しないためプリズムの傾斜方向に対してアンチパラレルになるようラビング方向に注意した。
【0059】
液晶セルG(配向膜材料:SE−510、偏光フィルタ:254nm)において、電圧無印加時にずれた像がわずかに観察された。また、液晶セルK(配向膜材料:SE−610、偏光フィルタ:254nm)において、電圧印加時にぼやけがわずかに観察された。
【0060】
液晶セルF、H、I、Jでは、電圧無印加時及び電圧印加時の双方でずれた画像もぼやけも観察されず、電圧印加/無印加時の全ての状態に対し良好な画像を得る事ができた。
【0061】
図7は、本発明の第1の実施例による光偏向液晶セル100を透過する光(画像)23(図4)の状態を観察した第2の実験結果を示す表である。図8は、第1の実施例による光配向の露光方向を説明するための概念図である。
【0062】
上述の比較例及び第1の実験と同様に、ずれた像の有無(像が二重に見えるか否か)及びぼやけの有無(像が散乱しているか否か)の2点について観察した。この第2の実験では、光配向処理における露光方向を、プリズムと平行(図8の矢印Aの方向)、プリズムと直交(図8の矢印Bの方向)、左45°(図8の矢印Cの方向)、右45°(図8の矢印Dの方向)と変化させて、光偏向液晶セル100を作製した。
【0063】
図8の矢印Aのようにプリズム方向と平行な偏光を当てた場合、液晶の配向方向はUV光の偏光方向に直交するように並ぶため、配向状態はプリズム方向とは直交になり、液晶分子はプリズム3の斜面にそって並ぶことになる。電圧無印加時及び電圧印加時の双方でずれた画像もぼやけも観察されず、電圧印加/無印加時の全ての状態に対し良好な画像を得る事ができた。結果としてこの状態が、最も像を鮮明に保ったまま移動させることができた。
【0064】
図8の矢印Bのようにプリズム方向と直交する偏光を当てた場合、液晶の配向方向はUV光の偏光方向に直交するように並ぶため、配向状態はプリズム方向と平行になる。よって、液晶分子はプリズム3の斜面により傾斜されないためプレティルト角が無い状態と等価になる。結果として電圧印加時に僅かではあるが像がぼやける現象が見られた。なお、電圧ONから電圧OFFに切り替える時にはぼやけはあまり観察されなかったことから、電圧OFFから電圧ONへの立ち上がり時に見られやすい現象であると考えられる。
【0065】
図8の矢印C及びDのようにプリズム方向から左右45°傾けた偏光を当てた場合、液晶の配向方向はUV光の偏光方向に直交するように並ぶため、配向状態はプリズム方向と左右45°ずれた方向になる。電圧無印加時に本来とは違う方向にずれる像が僅かながら観察された。左右45°にずらした場合、プリズム形状効果による液晶の配向されやすさともっともかけ離れた配向方向であり、全面に均一な液晶配向が得られにくかったのではないかと考えられる。
【0066】
図9は、本発明の第2の実施例による液晶セルの光配向処理を説明するための概念図である。
【0067】
第2の実施例による液晶セルと第1の実施例による光偏向液晶セル100との相違点は、光配向処理におけるプリズム層3を形成した側のガラス基板1の配向膜13に対する紫外線露光時に、ガラス基板1を傾けて(プリズム3aの斜面に対して角度をつけて)露光したことのみであり、その他の工程及び構成は図1に示す第1の実施例による光偏向液晶セル100と同一である。
【0068】
第2の実施例では、図9(A)〜(C)に示すように、ガラス基板1を傾けて光配向を実施した。なお、この第2の実施例では紫外線を偏光した光を照射する方法を用いた。310nmの波長の偏光フィルタを用い、照度8.5mW/cm2(310nm)について120秒間露光した(照射量:約1J/cm2)。なお、波長254nmの時は、照度を1.3mW/cm2とすることが好ましい。
【0069】
図10は、本発明の第2の実施例による液晶セルを透過する光(画像)23(図4)の状態を観察した第3の実験結果を示す表である。
【0070】
ここでの評価実験は、ガラス基板1を紫外線照射方向に直交する面(本実施例では、水平面)に対して、プリズム方向と直交する方向に−60°〜+60°傾けて紫外線露光を行った液晶セルに、電圧を印加した場合と印加しなかった場合のそれぞれにおいて、液晶セルを透過する光(画像)23(図4)の状態を観察したものであり、具体的には、ずれた像の有無(像が二重に見えるか否か)及びぼやけの有無(像が散乱しているか否か)の2点について観察した。なお、ここでは、図9(A)に示すように、基板1の表面が紫外線照射方向に直交する面と平行な状態を、紫外線照射方向に直交する面に対する基板1の傾斜角(以下、単に基板傾斜角と呼ぶ)が0とみなし、図9(B)に示すように、基板1を左側に傾け、プリズム斜面に対する紫外線の入射角が小さくなる場合を基板傾斜角がマイナス、図9(C)に示すように基板1を右側に傾け、プリズム斜面に対する紫外線の入射角が大きくなる場合を基板傾斜角がプラスと定義する。また、本実施例では、基板傾斜角とプリズム3aの頂角(本実施例では45°)とを足したものが、プリズム3aの斜面の紫外線照射方向に直交する面に対する角度(以下、プリズム斜面に対する傾斜角ないし入射角と呼ぶ)となる。
【0071】
図10の表に示すように、この第3の実験において、基板傾斜角(水平面に対する角度)が0°付近(プリズム斜面に対する傾斜角が45°付近)、すなわち、基板傾斜角が−15°〜+30°の範囲(プリズム斜面に対する傾斜角が30°〜75°の範囲)の時は、ずれた像もぼやけも無い事がわかった。
【0072】
基板傾斜角が−30°以下の場合に、ずれた像やぼやけが観察されるのは、プリズム3aの一部が陰になってプリズム3aの斜面にUV光が全面に当たっていないためと考えられる。
【0073】
一方、基板傾斜角が45°以上の場合に、ぼやけが観察される理由は良くわかっていないが、例えば、基板傾斜角が45°の場合は、プリズム斜面に対する傾斜角は、ほぼ90°となるため、プリズム3aの斜面の紫外線照射方向に対する角度は、ほぼ0°となり、UV光がプリズム3aの斜面に十分に当たっていないと考えられる。また、基板傾斜角が60°では、プリズム斜面に対する傾斜角が90°以上になり、プリズム3aの斜面にきちんと光配向がなされていないためと考えられる。
【0074】
以上の実験結果より、光配向処理における紫外線照射方向とプリズム斜面に好ましい傾斜角範囲があることが考えられる。また、実験においては基板を傾斜させたが、同様の傾斜角範囲であれば紫外線照射方向の角度を変えても同様と考えられる。よって、実験における水平面は、紫外線照射方向と垂直な仮定された平面に置き換えて、傾斜角の基準とする。つまり、光配向処理におけるプリズム層3を形成した側のガラス基板1の配向膜13に対する紫外線露光時に、偏光性を有した紫外線を照射する場合には、紫外線照射方向に直交する面に対して、プリズム3aの斜面を15°より大きく90°より小さい範囲で傾斜させた状態で光照射することが好ましいと考えられる。
【0075】
図11は、本発明の第3の実施例による液晶セルを透過する光(画像)23(図4)の状態を観察した第4の実験結果を示す表である。
【0076】
第3の実施例による液晶セルと第1の実施例による光偏向液晶セル100との相違点は、光配向処理におけるプリズム層3を形成した側のガラス基板1の配向膜13に対する紫外線露光時に、無偏光の(偏光性を有さない)紫外線を照射して露光したこと、及び、無偏光の場合、異方性は基板面に当たる光の角度しか無く、傾斜面と平行になるような液晶配向規制力が生じるため、対向基板11の配向膜13の配向処理を第1の実施例とは90°変えた方向に行ったことのみであり、その他の工程及び構成は図1に示す第1の実施例による光偏向液晶セル100と同一である。なお、プレティルト角は基板同士を重ねたときプリズム3aの傾斜角と平行な方向になるよう(近づくよう)ラビング方向を決めた。配向膜13としては日産化学製のSE−130を用いた。
【0077】
第4の実験は、光配向処理における紫外線の露光時間を5秒、10秒、20秒として作製した液晶セルに電圧を印加した場合と印加しなかった場合のそれぞれにおいて、液晶セルを透過する光(画像)23(図4)の状態を観察したものであり、具体的には、ずれた像の有無(像が二重に見えるか否か)及びぼやけの有無(像が散乱しているか否か)の2点について観察した。この第4の実験では、露光は照度76mW/cm2(ピーク波長350nm)の条件で行った。また、基板傾斜角0°(プリズム斜面に対する傾斜角45°)で、無偏光の紫外線を露光した
図11に示す表から明らかなように、紫外線の照射時間が10秒以上(760mJ/cm2以上)であれば、ずれた像もぼやけも無い事がわかった。なお、それ以上露光量を増やしても結果に差は見られなかった。したがって、光配向処理におけるプリズム層3を形成した側のガラス基板1の配向膜13に対する紫外線露光時に、偏光性を有さない紫外線を照射する場合には、紫外線の照射時間が10秒以上(760mJ/cm2以上)とすることが好ましいことがわかった。
【0078】
次に、第2の実施例と同様に、光配向処理におけるプリズム層3を形成した側のガラス基板1の配向膜13に対する紫外線露光時に、プリズム3aの斜面に対して角度をつけて(ガラス基板1を傾けて)露光した。
【0079】
図12は、本発明の第3の実施例による液晶セルを透過する光(画像)23(図4)の状態を観察した第5の実験結果を示す表である。第2の実施例と同様に、基板傾斜角を−60°〜+60°として紫外線露光を行った液晶セルに、電圧を印加した場合と印加しなかった場合のそれぞれにおいて、液晶セルを透過する光(画像)23(図4)の状態を観察したものであり、具体的には、ずれた像の有無(像が二重に見えるか否か)及びぼやけの有無(像が散乱しているか否か)の2点について観察した。露光時間は、20秒に固定した。
【0080】
図12の表に示すように、この第5の実験において、基板傾斜角が0°〜+30°の範囲(プリズム斜面に対する傾斜角が45°〜75°の範囲)の時は、ずれた像もぼやけも無い事がわかった。一方、基板傾斜角が−15°以下(プリズム斜面に対する傾斜角が30°以下)の時、及び基板傾斜角が45°以上(プリズム斜面に対する傾斜角が90°以上)の時は、ずれた像やぼやけが観察された。
【0081】
以上の実験結果より、偏光性を有した紫外線を照射した場合と同様に、光配向処理における紫外線照射方向とプリズム斜面に好ましい傾斜角範囲があることが考えられる。また、実験においては基板を傾斜させたが、同様の傾斜角範囲であれば紫外線照射方向の角度を変えても同様と考えられる。よって、実験における水平面は、紫外線照射方向と垂直な仮定された平面に置き換えて、傾斜角の基準とする。つまり、光配向処理におけるプリズム層3を形成した側のガラス基板1の配向膜13に対する紫外線露光時に、偏光性を有さない紫外線を照射する場合には、紫外線照射方向に対して、プリズム3aのプリズム斜面に対する傾斜角を30°より大きく90°より小さい範囲で傾斜させた状態で光照射することが好ましいと考えられる。
【0082】
なお、全体として第1及び第2の実施例のように偏光フィルタを用いたとき(偏光性を有する紫外光を用いたとき)に比べぼやけの程度が悪かった。また傾斜角のマージンも狭い事がわかる。したがって、安定に均一像を得たい場合は偏光フィルタを用いた第1及び第2の実施例が好ましいといえる。
【0083】
ただし、光照射時間は第3の実施例の方が第1及び第2の実施例よりも短くできるため、製造上は好ましい。また、第1及び第2の実施例では、偏光性を有する紫外光を用いるために、製造設備において、偏光のための光学系(例えば、コリメータ、偏光フィルタ等)を省略することができる。
【0084】
以上、本発明の実施例によれば、光配向をプリズム層3上の配向膜13に施すことにより、均一な液晶配向を与えることにできる。よって、電気的に(機械的稼動部なしに)光(画像)の方向を、画像の歪み、ぼやけ、二重像等のない鮮明な状態で移動させることができる。
【0085】
また、一般に光配向は基板1を傾斜させるもしくは斜めから光を当てることで配向膜13に異方性を付与しているが、本発明の第1〜第3の実施例によれば、プリズム3aがあることで、プリズムの平坦な面が基板1の平面方向から傾斜しているため、紫外線を斜めから当てることなく基板1の平面方向に垂直な方向から照射したとしても(基板1が水平面にあり基板傾斜角を0°にしても)異方性を付与できる。
【0086】
また、本発明の第1〜第3の実施例によれば、プリズム層3を耐熱性に優れた材料で形成するので、ポリイミドなどの配向膜(光配向性に優れたもの)をプリズム上に形成できる。
【0087】
なお、上記実施例では、三角柱状のプリズムを用い、底角として、45°及び90°であるものを用いたが、底角はこれに限らない。基板に垂直入射した光線について、基板から適当に緩い角度で立ち上がる斜面がプリズムを構成し、垂直に近い底角で立ち上がる面はプリズムを構成しない。このような構成により、各セルで一方向への偏向が容易になる。
【0088】
また、上記実施例では、三角柱状プリズムのピッチを20μmとした。プリズムのピッチは1μm〜100μmの範囲であることが好ましい。
【0089】
なお、プリズムの形状は、実施例で示したものに限らず、例えば、断面形状がサインカーブ状でもよい。
【0090】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【0091】
本発明の各実施例による光偏向液晶セル100は、画像を用いる多くの製品(プロジェクター、ヘッドアップディスプレイ(HUD)、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)、デジタルスチルカメラ等の光学系、各種LCD(直視型)の表示機能追加)への応用が行える。
【0092】
また画像でなくても高精度な配光制御が求められる製品(車両用ヘッドライト・テールライト(自動車、二輪車、自転車など)、各種照明機器(一般照明、舞台照明、特殊照明、車両用インテリア・エクステリア照明等)、光を曲げたい用途(防眩サンバイザー、防眩ミラー、防眩サングラス、各種光通信等)にも適用可能である。
【符号の説明】
【0093】
1、11 ガラス基板
2、12 透明電極
3 プリズム層
3a プリズム
3b ベース層
13 配向膜
14 ギャップコントロール剤
15 液晶層
20 制御部
22 液晶表示装置
23 光(画像)
100 光偏向液晶セル
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶光学素子及び液晶光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配光切り替え方法として、液晶光学素子を用いた方法が提案されている。例えば特許文献1は、一対の基板の一方の内面にプリズムを形成した液晶セルを用いて、光偏向を行う技術を開示する。電圧無印加状態と電圧印加状態とを切り替えて、液晶層の屈折率を切り替えることにより、光の進行方向を切り替える。
【0003】
液晶は細長い分子形状を有しており、ある方向の偏光(液晶分子の長軸方向)は曲げることが出来るが、ある方向の偏光はそのまま透過する。光源が非偏光であり、光源の光を全て曲げたい場合はマイクロプリズム液晶光学素子を2組用意する必要がある(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
光源が偏光系もしくは光源とマイクロプリズム液晶光学素子の間に液晶表示装置など偏光系の光学系が配置される場合はマイクロプリズム液晶光学素子が1組あれば全ての光(画像)を曲げる事ができる。この時光源などから出射される偏光方向と、マイクロプリズム液晶光学素子において光源側に施される配向処理の方向が平行になるように配置しないと全ての光を曲げることはできなくなる。
【0005】
例えば、光源側から出射される偏光方向と、マイクロプリズム液晶光学素子において光源側に施される配向処理の方向が45度になるように配置した場合、約1/2の光は曲げられるが残りの光は制御することができなくなり、光源側から出射される偏光方向と、マイクロプリズム液晶光学素子において光源側に施される配向処理の方向が直交するように配置した場合には電気的に全く制御できなくなる。
【0006】
従って、光源側から出射される偏光方向と、マイクロプリズム液晶光学素子において光源側に施される配向処理の方向が平行になるように配置することが、非常に重要である。なお、それに対して、プリズムの向きは、画像全体をどちらの方向に動かすかと言う面では重要であるが、配向を切り替えることが可能かどうかと言う面ではあまり重要ではない。
【0007】
よって、マイクロプリズム液晶光学素子を透過する光(画像)の状態をなるべく鮮明になるようにするためには、きちんとした配向処理を行い、界面の液晶分子を一方向にきちんと並べることが非常に重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−147377号公報
【特許文献2】特開2010−145646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来はプリズム上に配向膜を形成することなく、直接ラビング処理を行っていたが、ラビングされたプリズム材料では液晶分子を配向させる配向規制力が十分でなく、全ての液晶分子がラビング方向に向いていない。プリズム上に配向膜を形成すれば問題ないと考えられるが、多くのプリズム用形成材料は耐熱性が低く、配向膜を形成する熱処理(180℃以上)により特性が劣化してしまう。
【0010】
また、プリズム上に配向規制力の高い配向膜(ポリイミドなど)を形成しラビング処理を行ったとしても完全に均一な液晶配向を得ることは困難である。それはプリズムの表面形状に起因していると考えられ、マイクロプリズム液晶光学素子で用いているプリズムには数μmから数十μmの表面凹凸があるため、ラビング処理で用いるラビング布の毛先がプリズム上(配向膜上)の全面にきちんと当たる事ができず、特に凹部においてきちんと配向されないためと考えられる。
【0011】
本発明の目的は、表面凹凸を有するプリズム上において均一な液晶配向を有する液晶光学素子を提供することである。
【0012】
本発明の他の目的は、表面凹凸を有するプリズム上に対しても均一な液晶配向を与えることが可能な液晶光学素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一観点によれば、液晶光学素子は、相互に対向する一対の第1及び第2の透明基板と、前記第1及び第2の透明基板上に形成され、前記第1及び第2の透明基板間に電圧を印加する一対の第1及び第2の透明電極と、前記第1及び第2の透明基板の一方の上方に形成されるプリズムを有するプリズム層と、前記プリズム層上に形成され、光配向により配向処理が施された配向膜と、前記第1及び第2の透明基板間に挟まれ、液晶分子を有する液晶層とを有し、前記第1及び第2の透明電極に印加する電圧を変化させることにより、前記液晶層の屈折率を変化させて前記プリズムの斜面と前記液晶層の界面を通過する光の屈折角が変化することを特徴とする。
【0014】
本発明の他の観点によれば、液晶光学素子の製造方法は、第1及び第2の透明基板を準備する工程と、前記第1及び第2の透明基板上に、前記第1及び第2の透明基板間に電圧を印加する一対の第1及び第2の透明電極を形成する工程と、前記第1の透明電極の上方に、プリズムを有するプリズム層を形成する工程と、前記プリズム層上に配向膜を形成する工程と、前記プリズム層上に形成した配向膜に対して、光配向により配向処理を施す工程と、前記第1及び第2の透明基板を、前記第1及び第2の透明電極が形成された側が向かい合うように重ね合わせる工程と、前記第1及び第2の透明基板間に、液晶を注入して封止する工程とを有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、表面凹凸を有するプリズム上において均一な液晶配向を有する液晶光学素子を提供することができる。
【0016】
また、本発明によれば、表面凹凸を有するプリズム上に対しても均一な液晶配向を与えることが可能な液晶光学素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施例による光偏向液晶セル100の概略断面図である。
【図2】プリズム層3の概略斜視図である。
【図3】ガラス基板1上のプリズム層3の概略平面図である。
【図4】本発明の第1の実施例による光偏向液晶セル100を組み込んだ光学系の構成を表す概念図である。
【図5】比較例による液晶セルA〜Eの配向に関する実験結果を示す表である。
【図6】本発明の第1の実施例による光偏向液晶セル100を透過する光(画像)の状態を観察した第1の実験結果を示す表である。
【図7】本発明の第1の実施例による光偏向液晶セル100を透過する光(画像)の状態を観察した第2の実験結果を示す表である。
【図8】本発明の第1の実施例による光配向の露光方向を説明するための概念図である。
【図9】本発明の第2の実施例による液晶セルの光配向処理を説明するための概念図である。
【図10】本発明の第2の実施例による液晶セルを透過する光(画像)の状態を観察した第3の実験結果を示す表である。
【図11】本発明の第3の実施例による液晶セルを透過する光(画像)の状態を観察した第4の実験結果を示す表である。
【図12】本発明の第3の実施例による液晶セルを透過する光(画像)の状態を観察した第5の実験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の第1の実施例による光偏向液晶セル(液晶光学素子)100を概略的に示す厚さ方向断面図である。
【0019】
透明電極が形成された一対のガラス基板(透明電極2が形成されたガラス基板1、及び、透明電極12が形成されたガラス基板11)を用意した。ガラス基板1、11は、それぞれ、厚さ0.7mmtであり、材質は無アルカリガラスである。透明電極2、12は、それぞれ、厚さ150nmであり、材質はインジウムスズ酸化物(ITO)であり、所望の平面形状にパターニングされている。
【0020】
片側のガラス基板1の透明電極2上に、プリズム層3を形成した。プリズム層3は、ベース層3b上にプリズム3aが並んだ形状を有する。ベース層3bの厚さは、例えば2μm〜30μm程度である。本実施例では、UV硬化型のアクリル系樹脂等の180℃以上の熱処理に対する特性(透過率)変化の少ない材料(以下、単に耐熱性プリズム材料と呼ぶ)を用いてプリズム層3を形成する。なお、UV硬化型のアクリル系樹脂等の180℃以上の熱処理に対する特性(透過率)変化の少ない(180℃以上の熱処理が可能な)材料を用いることにより、従来では非常に困難であったポリイミド等からなるLCD用配向膜をプリズム上に形成できる。なお、本明細書において、「特性(透過率)変化の少ない」とは、特性(透過率)変化が熱処理前に比べて概ね2%以内である状態を示す。UV硬化型のアクリル系樹脂は、耐熱性だけでなく、ガラスへの密着性も優れていると共に金属には密着しにくい(離型性が良い)という性質を有しており、本発明の第1の実施例によるプリズムを形成する材料として好適である。また、エポキシ系の樹脂も耐熱性に優れており、本発明の第1の実施例によるプリズムを形成する材料として使用可能であると考えられる。また、ポリイミドも使用可能である。
【0021】
図2は、プリズム層3の概略斜視図であり、右側部分にプリズム3aの断面形状の拡大図を示す。各プリズム3aは、例えば、頂角約45°、底角が約45°及び約90°の三角柱状であり、複数のプリズム3aが、プリズム長さ方向と直交する方向(この方向を、プリズム幅方向と呼ぶこととする)に、方向を揃えて並んでいる。プリズム3aの高さは約20μm(最低0μm〜最高20μm)であり、プリズム3aの底辺の長さ(プリズムのピッチ)は約20μmである。また、プリズム層3のベース層(2μm〜30μm)である。
【0022】
図3は、ガラス基板1上のプリズム層3の概略平面図である。プリズム層3の作製方法について説明する。ガラス基板1(縦150mm×横150mm×厚さ0.7mmt)の透明電極2上に、所定量の耐熱性プリズム材料3R(例えば、紫外線(UV)硬化型のアクリル系樹脂)を滴下し、その上の所定位置に、離型剤もしくはコーティング剤付きのプリズム層3の型が形成されたプリズム金型を置き、厚手の石英部材などを基板の裏側に配置して補強した状態でプレスを行った。金型のサイズ(プリズム形成領域のサイズ)は、縦80mm×横80mmである。
【0023】
プレスして1分以上放置し、耐熱性プリズム材料3Rを十分広げた後、ガラス基板1の裏側から紫外線を照射し、耐熱性プリズム材料3Rを硬化させた。紫外線の照射量は20mJ/cm2とした。紫外線の照射量は、樹脂が硬化するように適宜設定すればよい。なお、ITOは紫外線を吸収するため、透明電極の膜厚が変われば紫外線照射量も変える必要があろう。
【0024】
耐熱性プリズム材料3Rの硬化後、石英、プレス治具などを取り外し、プリズム層3が形成されたガラス基板1を押し下げることにより、プリズム金型から剥離する。
【0025】
なお、プリズム層3の大きさは、耐熱性プリズム材料3Rの滴下量を調整することにより行う。滴下量を調整してプリズム形成領域全体A1(縦80mm×横80mm)のうちの必要な領域A2(縦60mm×横60mm)にプリズム層3を形成した。なお、プリズム層3を構成するUV硬化型のアクリル系樹脂の屈折率は、1.51である。
【0026】
プリズム層3は液晶層15と協働して、頂角の角度により、1辺から入射し、他辺から出射する光の進行方向を変える機能を有する。
【0027】
図1に戻って説明を続ける。プリズム付きガラス基板1と、もう一方のITO付きガラス基板11を洗浄機にて洗浄した。洗浄方法は、アルカリ洗剤を用いたブラシ洗浄、純水洗浄、エアーブロー、紫外線照射、赤外線乾燥の順に行った。なお、洗浄方法はこれに限らず、高圧スプレー洗浄やプラズマ洗浄などを行ってもよい。
【0028】
次に、プリズム層3上及びもう一方のガラス基板11の透明電極12上に、ポリイミド等により配向膜13を形成した。プリズム層3上に配向膜13を形成することにより、配向規制力を十分なものにすることができる。ここでは、日産化学製のSE−130をフレキソ印刷法で厚さ80nm形成して、180℃で1.5時間焼成を行った。なお、配向膜の材料は上記のものに限らず市販の多くのポリイミド配向膜材料が使用可能である。
【0029】
次に、プリズム層3上の配向膜13に対して、配向処理として光配向を実施した。ここでは紫外線を偏光した光をガラス基板11に対して法線方向から照射する方法を用いた。すなわち、プリズム3aの斜面に対しては45°傾けた方向から照射した。露光に用いた偏光フィルタの波長は310nmであり、照度8.5mW/cm2で120秒間露光した(照射量:約1J/cm2)。なお、本実施例では、照度8.5mW/cm2(310nm)について120秒間露光した(照射量:約1J/cm2)が、波長254nmの偏光フィルタを用いて、照度1.3mW/cm2で露光するようにしても良い。また、照射量についてはそれぞれの波長について30秒、60秒、120秒、300秒と露光条件を変えて実験した。30秒では光配向のみの配向力は弱かったが、60秒でほぼ均一な配向が得られるようになった。但し僅かにずれた像が観察された。120秒では、ずれた像、ぼけた像ともほとんど観察されなくなった。それ以上露光量を増やしても結果に差は見られなかった。
【0030】
光配向方向は、露光に用いる偏光フィルタの偏光方向とプリズム方向(図2のx方向)が平行となるようにした。液晶分子の配向方向は紫外光の偏光方向に直交するように並ぶ。結果としてプリズム方向と直交する方向(図2のy方向)に液晶分子が配向するようにした。
【0031】
配向方法として光配向を用いることにより、凸凹のあるプリズム層3上においても、均一な液晶配向を得ることができるようになる。結果として、ラビング処理に比べて、投影像の画質が著しく向上する。
【0032】
もう一方のITO付きガラス基板11の配向膜13に対しては、配向処理としてラビング処理を実施した。ストロングアンカリングになるように、押し込み量0.8mmで、強めに押し込んでラビング処理を行った。ラビングの方向はプリズム層3の傾斜方向に対してアンチパラレルになるように、図1の矢印18の方向(図2のx方向とは逆方向)に行った。なお、ガラス基板11の配向膜13に対して光配向を行ってもよい。
【0033】
次に、プリズム層3を形成した側のガラス基板1上に、ギャップコントロール剤を2wt%〜5wt%含んだメインシール剤16を形成した。形成方法として、スクリーン印刷やディスペンサが用いられる。プリズムの高さ(0μm〜20μm)を含め液晶層15の厚さが、例えば10μm〜35μmとなるように、ギャップコントロール剤を選択した。なお、プリズム層3は位置によって高さが変化するので、それに応じて液晶層15の厚さも変化する。
【0034】
ここでは、ギャップコントロール剤として径が45μmの積水化学製のプラスチックボールを選択し、これを三井化学製のシール剤ES−7500に4wt%添加して、メインシール剤16とした。
【0035】
プリズムを形成しない側のガラス基板11上には、ギャップコントロール剤14として径が21μmの積水化学製のプラスチックボールを、乾式のギャップ散布機を用いて散布した。
【0036】
次に、両ガラス基板1、11の重ね合わせを行い、プレス機などで圧力を一定に加えた状態で熱処理することにより、メインシール剤を硬化させた。ここでは、150℃で3時間の熱処理を行った。
【0037】
このようにして作製された空セルに、液晶を真空注入して、液晶層15を形成した。第1の実施例では、液晶として、Δεが正でΔn=0.212、ne=1.716、no=1.504のメルク製のものを用いた。なお、液晶のΔnが大きな材料を用いるほど画像を大きく曲げることが可能であるが、Δnが大きな液晶は配向性があまりよくない場合があるため本実施例では比較的Δnが大きく配向性に優れた材料を用いた。
【0038】
液晶注入後、プレスを行い余分な液晶を吐き出してから、注入口にエンドシール剤を塗布し、封止した。封止後、120℃で1時間の熱処理を行い、液晶の配向状態を整えた。このようにして、光偏向液晶セル100を作製した。
【0039】
配向膜13の配向処理を光配向により行った場合には、液晶の注入から熱処理まではなるべく速やかに行う必要がある。なぜならばプリズム層3上の配向膜13の光配向の配向規制力はそれほど強くなく、液晶注入時の液晶の流れの影響を受ける方向に配向(流動配向)する現象が見られる。これを解消するためには、高温処理を行い、液晶を一旦等方相温度以上にすることで流動配向を消去して本来の光配向に起因した方向に再配向させることができる。しかし、この方法では液晶を注入してから時間がたってしまうと流動配向が安定してしまい、多少の熱処理では完全に消去できなくなる(これを配向のメモリー性と呼ぶ)。したがって、液晶の注入から熱処理まではなるべく速やかに行うことが望ましく、可能であれば3時間以内、遅くとも24時間以内に熱処理を行うことが望ましい。
【0040】
第1の実施例の光偏向液晶セル100において、電圧無印加状態で、液晶分子の長軸がプリズム長さ方向に直交し、電圧印加により、液晶分子の長軸が基板法線方向に立ち上がる。第1の実施例に用いた液晶は、電気ベクトルの振動方向が液晶分子の長軸方向に平行な偏光成分に対して、屈折率1.716を示し、電気ベクトルの振動方向が液晶分子の長軸方向に垂直な偏光成分に対して、屈折率1.504を示す。
【0041】
プリズム層3を構成するUV硬化型のアクリル系樹脂の屈折率は、1.51であり、電気ベクトルの振動方向が液晶分子の長軸方向に垂直な偏光成分に対する液晶の屈折率と同等である。なお、第1の材料の屈折率と第2の材料の屈折率との差が、第1の材料の屈折率または第2の材料の屈折率に対して3%以内(より好ましくは2%以内)であるとき、両材料の屈折率が同等であるとする。
【0042】
したがって、第1の実施例による光偏向液晶セル100は、液晶分子の長軸が基板法線方向に立ち上がる電圧印加時には、液晶層の屈折率(1.504)とプリズム層3の屈折率(1.51)が同等となるので、プリズムの作用は消滅し、入射光をほぼそのまま直進させることとなる。一方、電圧非印加時(低い電圧の印加時を含む)には、液晶層の屈折率(1.716、ただし45度の斜面上での実行屈折率は概ね1.6程度)とプリズム層3の屈折率(1.51)が異なるので、プリズムの作用が生じ、入射光を屈折させることとなる。
【0043】
なお、プリズム形成用の金型にはエア抜き用の微小な溝を形成してもよい。また、金型と基板とは真空中で重ね合わせてもよい。なお、液晶の注入方法は真空注入に限らず、例えばOne Drop Fill(ODF)法を用いてもよい。
【0044】
なお、第1の実施例の光偏向液晶セル100では、プリズムパターンより広く上下基板間で90°に交差した長方形状の電極パターンを用い、両基板側から端子を取り、また、メインシール部分で上下基板の電極が交差しないようにした。メインシール部分で上下基板の電極を交差させないことにより、短絡が抑制される。なお、片側から端子を取りたい場合は、メインシールに上下導通用の金ボールを添加する構造等とすればよい。
【0045】
制御部20は、例えば、外部からの情報に従い、光偏向液晶セル100の透明電極2、12に印加する電圧を制御することにより、光偏向液晶セル100を透過する光を曲げる角度を調整する。
【0046】
図4は、本発明の第1の実施例による光偏向液晶セル100を組み込んだ光学系の概念図である。
【0047】
上述した手法により作製した光偏向液晶セル100を図4に示す光学系に組み込んで画像23の変化の様子を観察した。背面に配置している液晶表示装置22の偏光板24の貼り方向と光偏向液晶セル100の液晶分子配向方向が平行になるように向きを合わせて配置した。光偏向液晶セル100の透明電極2、12にピン端子等をつなげることにより導通をとり、制御部20から光偏向液晶セル100に交流電圧を印加できるようにした。
【0048】
光偏向液晶セル100に電圧を印加したところ、液晶表示装置22の静止画像の位置が電圧により移動する様子が観察された。この時、画像23の画質はほとんど劣化することなく、その位置だけを移動させることができた。また二重像も観察されなかった。
【0049】
液晶表示装置22から出る光(画像)23が直線偏光であれば、光偏向液晶セル100により全ての光(画像)23を曲げることが可能である。なお、光偏向液晶セル100により光(画像)23を曲げることのできる角度は、セル構造(プリズム形状、液晶の屈折率異方性等)により制御可能な範囲が異なるが、18°程度まで曲げることが可能である。
【0050】
図5は、比較例による液晶セルA〜Eの配向に関する実験結果を示す表である。
【0051】
比較例による液晶セルA〜Eは、本実施例による光偏向液晶セル100のプリズム層3上の配向膜13を日産化学製のSE−410を用いて形成し、光配向の変わりにラビング処理で配向処理を行ったものである。液晶セルA〜Eは、それぞれラビング処理における押し込み量を、−0.8mm、−0.4mm、0mm、0.4mm、0.8mmと変化させて作製した液晶セルである。押し込み量については、ガラス基板表面を0とし、基板から離れる方向をマイナス、押し込む方向をプラスとした。
【0052】
ここでの評価実験は、液晶セルA〜Eに電圧を印加した場合と印加しなかった場合のそれぞれにおいて、液晶セルA〜Eを透過する光(画像)23(図4)の状態を観察したものであり、具体的には、ずれた像の有無(像が二重に見えるか否か)及びぼやけの有無(像が散乱しているか否か)の2点について観察した。
【0053】
ラビング処理における押し込み量を−0.8mmとした液晶セルAは、電圧無印加時には、ずれた像もぼやけも観察されなかったが、電圧印加時に白くぼやける現象が観察された。押し込み量を−0.4mmとした液晶セルBは、電圧無印加時及び無印加時の双方で、ずれた像とぼやけがわずかに観察された。押し込み量を0mmとした液晶セルCは、電圧無印加時にずれた像とぼやけが観察されたが、電圧印加時には、ずれた像もぼやけも観察されなかった。押し込み量を0.4mmとした液晶セルDは、電圧無印加時及び無印加時の双方で、ずれた像は観察されたが、ぼやけは観察されなかった。押し込み量を0.8mmとした液晶セルEは、電圧無印加時には、ずれた像もぼやけも観察されなかったが、電圧印加時にぼやけがわずかに観察された。以上のように、比較例A〜Eでは、いずれの場合においても、ずれた像、ぼやけの面で電圧印加/無印加時の全ての状態に対し良好な画像を得る事はできていないことがわかる。
【0054】
図6は、本発明の第1の実施例による光偏向液晶セル100を透過する光(画像)23(図4)の状態を観察した第1の実験結果を示す表である。上述の比較例と同様に、ずれた像の有無(像が二重に見えるか否か)及びぼやけの有無(像が散乱しているか否か)の2点について観察した。この第1の実験では、光偏向液晶セル100の配向膜13の材料及び光配向処理におけるUV波長を変化させて液晶セルF〜Kを実際に作製して観察を行った。なお、紫外線露光は120秒間行い、その時の照射量は150mJ/cm2であった。
【0055】
液晶セルFは、プリズム層3を形成した側のガラス基板1の配向膜13を日産化学製のSE−510を用いて形成し、紫外線露光に用いる偏光フィルタの波長を310nmとして作製した。液晶セルGは、液晶セルFと同様に、日産化学製のSE−510を用い、紫外線露光に用いた偏光フィルタの波長を254nmとして作製した。
【0056】
液晶セルHは、プリズム層3を形成した側のガラス基板1の配向膜13を日産化学製のSE−130を用いて形成し、紫外線露光に用いる偏光フィルタの波長を310nmとして作製した。液晶セルIは、液晶セルHと同様に、日産化学製のSE−130を用い、紫外線露光に用いた偏光フィルタの波長を254nmとして作製した。
【0057】
液晶セルJは、プリズム層3を形成した側のガラス基板1の配向膜13を日産化学製のSE−610を用いて形成し、紫外線露光に用いる偏光フィルタの波長を310nmとして作製した。液晶セルJは、液晶セルIと同様に、日産化学製のSE−610を用い、紫外線露光に用いた偏光フィルタの波長を254nmとして作製した。
【0058】
なお、紫外線の偏光方向はプリズム方向と平行、対向基板(ガラス基板11)はいずれもプリズム層3を形成した側のガラス基板1と同じ配向膜材料を用い、アンチパラレルになるようラビング処理を行っている(押し込み量0.8mm)。また、光配向時の偏光フィルタの偏光方向はプリズム方向と平行になるようにし、ラビング方向はプリズム方向とは直交になるようにした。光配向では液晶分子は偏光フィルタの偏光方向とは直交方向に並ぶため、上記関係よりアンチパラレル配向が得られる。なお、ここで用いた光配向ではプレティルト角は発生しないためプリズムの傾斜方向に対してアンチパラレルになるようラビング方向に注意した。
【0059】
液晶セルG(配向膜材料:SE−510、偏光フィルタ:254nm)において、電圧無印加時にずれた像がわずかに観察された。また、液晶セルK(配向膜材料:SE−610、偏光フィルタ:254nm)において、電圧印加時にぼやけがわずかに観察された。
【0060】
液晶セルF、H、I、Jでは、電圧無印加時及び電圧印加時の双方でずれた画像もぼやけも観察されず、電圧印加/無印加時の全ての状態に対し良好な画像を得る事ができた。
【0061】
図7は、本発明の第1の実施例による光偏向液晶セル100を透過する光(画像)23(図4)の状態を観察した第2の実験結果を示す表である。図8は、第1の実施例による光配向の露光方向を説明するための概念図である。
【0062】
上述の比較例及び第1の実験と同様に、ずれた像の有無(像が二重に見えるか否か)及びぼやけの有無(像が散乱しているか否か)の2点について観察した。この第2の実験では、光配向処理における露光方向を、プリズムと平行(図8の矢印Aの方向)、プリズムと直交(図8の矢印Bの方向)、左45°(図8の矢印Cの方向)、右45°(図8の矢印Dの方向)と変化させて、光偏向液晶セル100を作製した。
【0063】
図8の矢印Aのようにプリズム方向と平行な偏光を当てた場合、液晶の配向方向はUV光の偏光方向に直交するように並ぶため、配向状態はプリズム方向とは直交になり、液晶分子はプリズム3の斜面にそって並ぶことになる。電圧無印加時及び電圧印加時の双方でずれた画像もぼやけも観察されず、電圧印加/無印加時の全ての状態に対し良好な画像を得る事ができた。結果としてこの状態が、最も像を鮮明に保ったまま移動させることができた。
【0064】
図8の矢印Bのようにプリズム方向と直交する偏光を当てた場合、液晶の配向方向はUV光の偏光方向に直交するように並ぶため、配向状態はプリズム方向と平行になる。よって、液晶分子はプリズム3の斜面により傾斜されないためプレティルト角が無い状態と等価になる。結果として電圧印加時に僅かではあるが像がぼやける現象が見られた。なお、電圧ONから電圧OFFに切り替える時にはぼやけはあまり観察されなかったことから、電圧OFFから電圧ONへの立ち上がり時に見られやすい現象であると考えられる。
【0065】
図8の矢印C及びDのようにプリズム方向から左右45°傾けた偏光を当てた場合、液晶の配向方向はUV光の偏光方向に直交するように並ぶため、配向状態はプリズム方向と左右45°ずれた方向になる。電圧無印加時に本来とは違う方向にずれる像が僅かながら観察された。左右45°にずらした場合、プリズム形状効果による液晶の配向されやすさともっともかけ離れた配向方向であり、全面に均一な液晶配向が得られにくかったのではないかと考えられる。
【0066】
図9は、本発明の第2の実施例による液晶セルの光配向処理を説明するための概念図である。
【0067】
第2の実施例による液晶セルと第1の実施例による光偏向液晶セル100との相違点は、光配向処理におけるプリズム層3を形成した側のガラス基板1の配向膜13に対する紫外線露光時に、ガラス基板1を傾けて(プリズム3aの斜面に対して角度をつけて)露光したことのみであり、その他の工程及び構成は図1に示す第1の実施例による光偏向液晶セル100と同一である。
【0068】
第2の実施例では、図9(A)〜(C)に示すように、ガラス基板1を傾けて光配向を実施した。なお、この第2の実施例では紫外線を偏光した光を照射する方法を用いた。310nmの波長の偏光フィルタを用い、照度8.5mW/cm2(310nm)について120秒間露光した(照射量:約1J/cm2)。なお、波長254nmの時は、照度を1.3mW/cm2とすることが好ましい。
【0069】
図10は、本発明の第2の実施例による液晶セルを透過する光(画像)23(図4)の状態を観察した第3の実験結果を示す表である。
【0070】
ここでの評価実験は、ガラス基板1を紫外線照射方向に直交する面(本実施例では、水平面)に対して、プリズム方向と直交する方向に−60°〜+60°傾けて紫外線露光を行った液晶セルに、電圧を印加した場合と印加しなかった場合のそれぞれにおいて、液晶セルを透過する光(画像)23(図4)の状態を観察したものであり、具体的には、ずれた像の有無(像が二重に見えるか否か)及びぼやけの有無(像が散乱しているか否か)の2点について観察した。なお、ここでは、図9(A)に示すように、基板1の表面が紫外線照射方向に直交する面と平行な状態を、紫外線照射方向に直交する面に対する基板1の傾斜角(以下、単に基板傾斜角と呼ぶ)が0とみなし、図9(B)に示すように、基板1を左側に傾け、プリズム斜面に対する紫外線の入射角が小さくなる場合を基板傾斜角がマイナス、図9(C)に示すように基板1を右側に傾け、プリズム斜面に対する紫外線の入射角が大きくなる場合を基板傾斜角がプラスと定義する。また、本実施例では、基板傾斜角とプリズム3aの頂角(本実施例では45°)とを足したものが、プリズム3aの斜面の紫外線照射方向に直交する面に対する角度(以下、プリズム斜面に対する傾斜角ないし入射角と呼ぶ)となる。
【0071】
図10の表に示すように、この第3の実験において、基板傾斜角(水平面に対する角度)が0°付近(プリズム斜面に対する傾斜角が45°付近)、すなわち、基板傾斜角が−15°〜+30°の範囲(プリズム斜面に対する傾斜角が30°〜75°の範囲)の時は、ずれた像もぼやけも無い事がわかった。
【0072】
基板傾斜角が−30°以下の場合に、ずれた像やぼやけが観察されるのは、プリズム3aの一部が陰になってプリズム3aの斜面にUV光が全面に当たっていないためと考えられる。
【0073】
一方、基板傾斜角が45°以上の場合に、ぼやけが観察される理由は良くわかっていないが、例えば、基板傾斜角が45°の場合は、プリズム斜面に対する傾斜角は、ほぼ90°となるため、プリズム3aの斜面の紫外線照射方向に対する角度は、ほぼ0°となり、UV光がプリズム3aの斜面に十分に当たっていないと考えられる。また、基板傾斜角が60°では、プリズム斜面に対する傾斜角が90°以上になり、プリズム3aの斜面にきちんと光配向がなされていないためと考えられる。
【0074】
以上の実験結果より、光配向処理における紫外線照射方向とプリズム斜面に好ましい傾斜角範囲があることが考えられる。また、実験においては基板を傾斜させたが、同様の傾斜角範囲であれば紫外線照射方向の角度を変えても同様と考えられる。よって、実験における水平面は、紫外線照射方向と垂直な仮定された平面に置き換えて、傾斜角の基準とする。つまり、光配向処理におけるプリズム層3を形成した側のガラス基板1の配向膜13に対する紫外線露光時に、偏光性を有した紫外線を照射する場合には、紫外線照射方向に直交する面に対して、プリズム3aの斜面を15°より大きく90°より小さい範囲で傾斜させた状態で光照射することが好ましいと考えられる。
【0075】
図11は、本発明の第3の実施例による液晶セルを透過する光(画像)23(図4)の状態を観察した第4の実験結果を示す表である。
【0076】
第3の実施例による液晶セルと第1の実施例による光偏向液晶セル100との相違点は、光配向処理におけるプリズム層3を形成した側のガラス基板1の配向膜13に対する紫外線露光時に、無偏光の(偏光性を有さない)紫外線を照射して露光したこと、及び、無偏光の場合、異方性は基板面に当たる光の角度しか無く、傾斜面と平行になるような液晶配向規制力が生じるため、対向基板11の配向膜13の配向処理を第1の実施例とは90°変えた方向に行ったことのみであり、その他の工程及び構成は図1に示す第1の実施例による光偏向液晶セル100と同一である。なお、プレティルト角は基板同士を重ねたときプリズム3aの傾斜角と平行な方向になるよう(近づくよう)ラビング方向を決めた。配向膜13としては日産化学製のSE−130を用いた。
【0077】
第4の実験は、光配向処理における紫外線の露光時間を5秒、10秒、20秒として作製した液晶セルに電圧を印加した場合と印加しなかった場合のそれぞれにおいて、液晶セルを透過する光(画像)23(図4)の状態を観察したものであり、具体的には、ずれた像の有無(像が二重に見えるか否か)及びぼやけの有無(像が散乱しているか否か)の2点について観察した。この第4の実験では、露光は照度76mW/cm2(ピーク波長350nm)の条件で行った。また、基板傾斜角0°(プリズム斜面に対する傾斜角45°)で、無偏光の紫外線を露光した
図11に示す表から明らかなように、紫外線の照射時間が10秒以上(760mJ/cm2以上)であれば、ずれた像もぼやけも無い事がわかった。なお、それ以上露光量を増やしても結果に差は見られなかった。したがって、光配向処理におけるプリズム層3を形成した側のガラス基板1の配向膜13に対する紫外線露光時に、偏光性を有さない紫外線を照射する場合には、紫外線の照射時間が10秒以上(760mJ/cm2以上)とすることが好ましいことがわかった。
【0078】
次に、第2の実施例と同様に、光配向処理におけるプリズム層3を形成した側のガラス基板1の配向膜13に対する紫外線露光時に、プリズム3aの斜面に対して角度をつけて(ガラス基板1を傾けて)露光した。
【0079】
図12は、本発明の第3の実施例による液晶セルを透過する光(画像)23(図4)の状態を観察した第5の実験結果を示す表である。第2の実施例と同様に、基板傾斜角を−60°〜+60°として紫外線露光を行った液晶セルに、電圧を印加した場合と印加しなかった場合のそれぞれにおいて、液晶セルを透過する光(画像)23(図4)の状態を観察したものであり、具体的には、ずれた像の有無(像が二重に見えるか否か)及びぼやけの有無(像が散乱しているか否か)の2点について観察した。露光時間は、20秒に固定した。
【0080】
図12の表に示すように、この第5の実験において、基板傾斜角が0°〜+30°の範囲(プリズム斜面に対する傾斜角が45°〜75°の範囲)の時は、ずれた像もぼやけも無い事がわかった。一方、基板傾斜角が−15°以下(プリズム斜面に対する傾斜角が30°以下)の時、及び基板傾斜角が45°以上(プリズム斜面に対する傾斜角が90°以上)の時は、ずれた像やぼやけが観察された。
【0081】
以上の実験結果より、偏光性を有した紫外線を照射した場合と同様に、光配向処理における紫外線照射方向とプリズム斜面に好ましい傾斜角範囲があることが考えられる。また、実験においては基板を傾斜させたが、同様の傾斜角範囲であれば紫外線照射方向の角度を変えても同様と考えられる。よって、実験における水平面は、紫外線照射方向と垂直な仮定された平面に置き換えて、傾斜角の基準とする。つまり、光配向処理におけるプリズム層3を形成した側のガラス基板1の配向膜13に対する紫外線露光時に、偏光性を有さない紫外線を照射する場合には、紫外線照射方向に対して、プリズム3aのプリズム斜面に対する傾斜角を30°より大きく90°より小さい範囲で傾斜させた状態で光照射することが好ましいと考えられる。
【0082】
なお、全体として第1及び第2の実施例のように偏光フィルタを用いたとき(偏光性を有する紫外光を用いたとき)に比べぼやけの程度が悪かった。また傾斜角のマージンも狭い事がわかる。したがって、安定に均一像を得たい場合は偏光フィルタを用いた第1及び第2の実施例が好ましいといえる。
【0083】
ただし、光照射時間は第3の実施例の方が第1及び第2の実施例よりも短くできるため、製造上は好ましい。また、第1及び第2の実施例では、偏光性を有する紫外光を用いるために、製造設備において、偏光のための光学系(例えば、コリメータ、偏光フィルタ等)を省略することができる。
【0084】
以上、本発明の実施例によれば、光配向をプリズム層3上の配向膜13に施すことにより、均一な液晶配向を与えることにできる。よって、電気的に(機械的稼動部なしに)光(画像)の方向を、画像の歪み、ぼやけ、二重像等のない鮮明な状態で移動させることができる。
【0085】
また、一般に光配向は基板1を傾斜させるもしくは斜めから光を当てることで配向膜13に異方性を付与しているが、本発明の第1〜第3の実施例によれば、プリズム3aがあることで、プリズムの平坦な面が基板1の平面方向から傾斜しているため、紫外線を斜めから当てることなく基板1の平面方向に垂直な方向から照射したとしても(基板1が水平面にあり基板傾斜角を0°にしても)異方性を付与できる。
【0086】
また、本発明の第1〜第3の実施例によれば、プリズム層3を耐熱性に優れた材料で形成するので、ポリイミドなどの配向膜(光配向性に優れたもの)をプリズム上に形成できる。
【0087】
なお、上記実施例では、三角柱状のプリズムを用い、底角として、45°及び90°であるものを用いたが、底角はこれに限らない。基板に垂直入射した光線について、基板から適当に緩い角度で立ち上がる斜面がプリズムを構成し、垂直に近い底角で立ち上がる面はプリズムを構成しない。このような構成により、各セルで一方向への偏向が容易になる。
【0088】
また、上記実施例では、三角柱状プリズムのピッチを20μmとした。プリズムのピッチは1μm〜100μmの範囲であることが好ましい。
【0089】
なお、プリズムの形状は、実施例で示したものに限らず、例えば、断面形状がサインカーブ状でもよい。
【0090】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【0091】
本発明の各実施例による光偏向液晶セル100は、画像を用いる多くの製品(プロジェクター、ヘッドアップディスプレイ(HUD)、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)、デジタルスチルカメラ等の光学系、各種LCD(直視型)の表示機能追加)への応用が行える。
【0092】
また画像でなくても高精度な配光制御が求められる製品(車両用ヘッドライト・テールライト(自動車、二輪車、自転車など)、各種照明機器(一般照明、舞台照明、特殊照明、車両用インテリア・エクステリア照明等)、光を曲げたい用途(防眩サンバイザー、防眩ミラー、防眩サングラス、各種光通信等)にも適用可能である。
【符号の説明】
【0093】
1、11 ガラス基板
2、12 透明電極
3 プリズム層
3a プリズム
3b ベース層
13 配向膜
14 ギャップコントロール剤
15 液晶層
20 制御部
22 液晶表示装置
23 光(画像)
100 光偏向液晶セル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に対向する一対の第1及び第2の透明基板と、
前記第1及び第2の透明基板上に形成され、前記第1及び第2の透明基板間に電圧を印加する一対の第1及び第2の透明電極と、
前記第1及び第2の透明基板の一方の上方に形成されるプリズムを有するプリズム層と、
前記プリズム層上に形成され、光配向により配向処理が施された配向膜と、
前記第1及び第2の透明基板間に挟まれ、液晶分子を有する液晶層とを有し、
前記第1及び第2の透明電極に印加する電圧を変化させることにより、前記液晶層の屈折率を変化させて前記プリズムの斜面と前記液晶層の界面を通過する光の屈折角が変化することを特徴とする液晶光学素子。
【請求項2】
第1及び第2の透明基板を準備する工程と、
前記第1及び第2の透明基板上に、前記第1及び第2の透明基板間に電圧を印加する一対の第1及び第2の透明電極を形成する工程と、
前記第1の透明電極の上方に、プリズムを有するプリズム層を形成する工程と、
前記プリズム層上に配向膜を形成する工程と、
前記プリズム層上に形成した配向膜に対して、光配向により配向処理を施す工程と、
前記第1及び第2の透明基板を、前記第1及び第2の透明電極が形成された側が向かい合うように重ね合わせる工程と、
前記第1及び第2の透明基板間に、液晶を注入して封止する工程と
を有する液晶光学素子の製造方法。
【請求項3】
前記プリズムの斜面は平坦な傾斜面であり、
前記配向処理を施す工程は、偏光性を有した紫外線を前記プリズムの平坦な傾斜面上に形成された前記配光膜に照射することによって行われ、
前記プリズムの平坦な傾斜面は前記紫外線照射方向に直交すると仮定された平面から15°より大きく、90°より小さい範囲で傾斜している請求項2記載の液晶光学素子の製造方法。
【請求項4】
前記プリズムの斜面は平坦な傾斜面であり、
前記配向処理を施す工程は、偏光性を有さない紫外線を前記プリズムの平坦な傾斜面上に形成された前記配光膜に照射することによって行われ、
前記プリズムの平坦な傾斜面は前記紫外線照射方向に直交すると仮定された平面から30°より大きく、90°より小さい範囲で傾斜している請求項2記載の液晶光学素子の製造方法。
【請求項5】
前記プリズムの斜面は、前記第1の透明基板の平面方向に対して傾斜する平坦な傾斜面であり、
前記配向処理を施す工程は、紫外線を前記プリズム層上に形成された配光膜に照射することにより行われ、
前記紫外線照射方向は、前記第1の透明基板の平面方向と直交する方向である請求項2記載の液晶光学素子の製造方法。
【請求項1】
相互に対向する一対の第1及び第2の透明基板と、
前記第1及び第2の透明基板上に形成され、前記第1及び第2の透明基板間に電圧を印加する一対の第1及び第2の透明電極と、
前記第1及び第2の透明基板の一方の上方に形成されるプリズムを有するプリズム層と、
前記プリズム層上に形成され、光配向により配向処理が施された配向膜と、
前記第1及び第2の透明基板間に挟まれ、液晶分子を有する液晶層とを有し、
前記第1及び第2の透明電極に印加する電圧を変化させることにより、前記液晶層の屈折率を変化させて前記プリズムの斜面と前記液晶層の界面を通過する光の屈折角が変化することを特徴とする液晶光学素子。
【請求項2】
第1及び第2の透明基板を準備する工程と、
前記第1及び第2の透明基板上に、前記第1及び第2の透明基板間に電圧を印加する一対の第1及び第2の透明電極を形成する工程と、
前記第1の透明電極の上方に、プリズムを有するプリズム層を形成する工程と、
前記プリズム層上に配向膜を形成する工程と、
前記プリズム層上に形成した配向膜に対して、光配向により配向処理を施す工程と、
前記第1及び第2の透明基板を、前記第1及び第2の透明電極が形成された側が向かい合うように重ね合わせる工程と、
前記第1及び第2の透明基板間に、液晶を注入して封止する工程と
を有する液晶光学素子の製造方法。
【請求項3】
前記プリズムの斜面は平坦な傾斜面であり、
前記配向処理を施す工程は、偏光性を有した紫外線を前記プリズムの平坦な傾斜面上に形成された前記配光膜に照射することによって行われ、
前記プリズムの平坦な傾斜面は前記紫外線照射方向に直交すると仮定された平面から15°より大きく、90°より小さい範囲で傾斜している請求項2記載の液晶光学素子の製造方法。
【請求項4】
前記プリズムの斜面は平坦な傾斜面であり、
前記配向処理を施す工程は、偏光性を有さない紫外線を前記プリズムの平坦な傾斜面上に形成された前記配光膜に照射することによって行われ、
前記プリズムの平坦な傾斜面は前記紫外線照射方向に直交すると仮定された平面から30°より大きく、90°より小さい範囲で傾斜している請求項2記載の液晶光学素子の製造方法。
【請求項5】
前記プリズムの斜面は、前記第1の透明基板の平面方向に対して傾斜する平坦な傾斜面であり、
前記配向処理を施す工程は、紫外線を前記プリズム層上に形成された配光膜に照射することにより行われ、
前記紫外線照射方向は、前記第1の透明基板の平面方向と直交する方向である請求項2記載の液晶光学素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−173534(P2012−173534A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35928(P2011−35928)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】
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