説明

液晶性ポリエステル組成物およびそれからなる成形品

【課題】嵌合部での高いスナップフィット性を有し、耐トラッキング性に優れ、かつ成形品表面からの発生ガス量を示すフォギング性に優れた液晶性ポリエステル組成物およびそれから得られる成形品を提供する
【解決手段】p−ヒドロキシ安息香酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ヒドロキノン、テレフタール酸、イソフタール酸から構成される液晶性ポリエステル100重量部に対して、長径/短径比が2〜5であり断面積が直径6〜12μmの円に相当する非円形の断面形状を有するガラス繊維10〜200重量部を配合してなる液晶性ポリエステル組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嵌合性、絶縁耐力および低ガス性に優れた液晶性ポリエステル組成物およびそれから得られる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶性ポリエステルは、その液晶構造によって耐熱性、流動性、寸法安定性および難燃性に優れていることから電気・電子部品用途を中心に需要が拡大しており、特に近年ではそれら部品の小型化、精密化と、それに伴い部品点数低減やねじレス化のためにスナップフィット部の適用が拡大している。しかし、成形品の小型薄肉化のためスナップフィット部の強度が不足し嵌合性が不十分であったり、成形品の絶縁距離が短くなりトラッキング性が低下したり、また、小型の箱状の成形品などの密閉高温下での使用において成形品表面から発生する曇りによって、絶縁不良や接点不良を引き起こしたりする問題が生じ始め、それらに対する高い特性が求められている。
【0003】
これらの液晶性ポリエステルは、耐熱性や機械強度を向上させる目的でガラス繊維を配合することが広く行われており、ガラス繊維の中でも、円形断面を有するガラス繊維に代わり、まゆ形やだ円形などの扁平な断面を有するガラス繊維を結晶性または非晶性の熱可塑性樹脂に配合させ寸法安定性や機械的強度を向上させる検討がなされている。
【0004】
液晶性ポリエステルに非円形および円形断面を有するガラス繊維を配合することで成形品のガラス繊維充填密度を向上させ機械的強度、寸法安定性および耐熱性を向上させる検討(例えば特許文献1)や、液晶性ポリエステルに非円形の断面形状を有するガラス繊維を配合しウエルド強度や成型品のそり、表面実装におけるリフロー処理時のブリスターを低減させる検討(例えば特許文献2〜4)や、結晶性熱可塑性樹脂に非円形の断面形状を有するガラス繊維を配合することで低ソリや機械的強度、摺動性などを向上させる検討(例えば、特許文献5、6)などが知られており、これら特許文献に開示されている樹脂組成物については、成形後の低ソリなどの寸法安定性や表面実装におけるリフロー処理時に成形品のふくれの低減などはある程度改善されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−13702号公報
【特許文献2】特開平4ー103656号公報
【特許文献3】特開2007−161898号公報
【特許文献4】特開2003−268252号公報
【特許文献5】特開平2−173047号公報
【特許文献6】特開2008−214526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年、液晶性ポリエステル組成物で多く用いられる、コネクターやリレー、光ピックアップなどの電気・電子部品用途においては、更なる小型化、薄肉化のため嵌合性、絶縁耐力および低ガス性についてはより高性能化が求められ、公知の方法ではそれらの課題に対して十分満足するものではなかった。
【0007】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、嵌合部での高いスナップフィット性を有し、絶縁耐力の指標である耐トラッキング性に優れ、かつ成形品表面の発生ガスによる曇りを示すフォギング性に優れた液晶性ポリエステル組成物およびそれから得られる成形品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の範囲の断面積で非円形の断面形状を有するガラス繊維と、特定組成の液晶性ポリエステルとを配合してなる液晶性ポリエステル組成物が、特異的にスナップフィット性および耐トラッキング性に優れ、かつ成形品表面からの発生ガス量が少なくフォギング性に優れることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
即ち、本発明は
(1)下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成される液晶性ポリエステル(a)100重量部に対して、長径/短径比が2〜5であり断面積が直径6〜12μmの円に相当する非円形の断面形状を有するガラス繊維(b)10〜200重量部を配合してなる液晶性ポリエステル組成物、
【0010】
【化1】

【0011】
(2)さらに、ステアリン酸とペンタエリスリトールとのテトラエステル(c)を液晶性ポリエステル100重量部に対して0.1〜0.5重量部含有する(1)記載の液晶性ポリエステル組成物、
(3)繊維長0.1〜0.6mmのガラス繊維を全ガラス繊維中80重量%以上含有する(1)または(2)に記載の液晶性ポリエステル組成物、
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の液晶性ポリエステル組成物を溶融成形してなる成形品、
(5)成形品が嵌合部を有する部品であることを特徴とする(4)に記載の成形品を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、スナップフィット性および耐トラッキング性に優れ、かつ成形品表面からの発生ガス量が少なくフォギング性に優れた成形品が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の液晶性ポリエステル(a)は、溶融時に光学的異方性を示すサーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれるポリエステルであり、下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成される。
【0015】
【化2】

【0016】
上記構造単位(I)は、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位を、構造単位(II)は4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位を、構造単位(III)はハイドロキノンから生成した構造単位を、構造単位(IV)はテレフタル酸から生成した構造単位を、構造単位(V)はイソフタル酸から生成した構造単位を各々示す。
【0017】
本発明の液晶性ポリエステル(a)が上記の構造単位から成ることで、構造単位(I)からなるメソゲン長が制御されて結晶性と分子の剛直性のバランスに優れ、液晶性ポリエステル組成物からなる成形品が優れた寸法安定性を示すため、スナップフィット性に優れる。また、液晶性ポリエステル末端構造が制御されて低ガス性に優れる。上記液晶性ポリエステル(a)に、後述するガラス繊維(b)を配合することにより、両者の密着性の向上によりスナップフィット性、耐トラッキング性およびフォギング性が優れた液晶性ポリエステル組成物を得ることができる。
【0018】
構造単位(I)は、構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して65〜80モル%であるが、特に好ましくは68〜78モル%である。
【0019】
また、構造単位(II)は、構造単位(II)および(III)の合計に対して55〜85モル%であるが、好ましくは55〜78モル%であり、より好ましくは58〜73モル%である。
【0020】
また、構造単位(IV)は構造単位(IV)および(V)の合計に対して50〜95モル%であるが、好ましくは55〜90モル%であり、より好ましくは60〜85モル%である。
【0021】
また、構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計は実質的に等モルである。ここでいう実質的に等モルとは、末端を除くポリマー主鎖を構成する構造単位として等モルであることを示し、末端を構成する構造単位を加味した場合には必ずしも等モルとは限らないことを意味する。
【0022】
組成がより好ましい範囲をとる場合には、靭性と剛性のバランスに優れるため嵌合部でのスナップフィット性が良好であり、また液晶性ポリエステルの末端構造が制御され優れたフォギング性を発現する液晶性ポリエステル組成物が得られるため、好ましい。
【0023】
本発明の液晶性ポリエステル(a)の融点(Tm)は、加工性と耐熱性のバランスの観点から、好ましくは220〜350℃であり、より好ましくは270〜345℃、更に好ましくは300〜340℃である。
【0024】
ここで融点(Tm)とは示差熱量測定において、重合を完了したポリマーを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)を指す。
【0025】
本発明における液晶性ポリエステル(a)の溶融粘度は1〜200Pa・sが好ましく、10〜100Pa・sがより好ましく、さらには20〜50Pa・sが特に好ましい。
【0026】
なお、この溶融粘度は液晶性ポリエステルの融点+10℃の条件で、ずり速度1,000/秒の条件下で高化式フローテスターによって測定した値である。
【0027】
本発明の液晶性ポリエステル(a)の製造方法は、特に制限がなく、公知のポリエステルの重縮合法に準じて製造できる。公知のポリエステルの重縮合法としては、例えば次の製造方法が挙げられる。
(1)p−アセトキシ安息香酸および4,4’−ジアセトキシビフェニル、ジアセトキシベンゼンとテレフタル酸、イソフタル酸から脱酢酸縮重合反応によって液晶性ポリエステルを製造する方法。
(2)p−ヒドロキシ安息香酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニルおよびハイドロキノンとテレフタル酸、イソフタル酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアセチル化した後、脱酢酸重合することによって液晶性ポリエステルを製造する方法。
(3)p−ヒドロキシ安息香酸フェニルおよび4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンとテレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニルから脱フェノール重縮合反応により液晶性ポリエステルを製造する方法。
(4)p−ヒドロキシ安息香酸およびテレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に所定量のジフェニルカーボネートを反応させて、それぞれフェニルエステルとした後、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物を加え、脱フェノール重縮合反応により液晶性ポリエステルを製造する方法。
【0028】
なかでも(2)p−ヒドロキシ安息香酸および4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸、イソフタル酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアセチル化した後、脱酢酸重縮合反応によって液晶性ポリエステルを製造する方法が重合反応制御の点から好ましく用いられる。
【0029】
無水酢酸の使用量は、p−ヒドロキシ安息香酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニルおよびハイドロキノンのフェノール性水酸基の合計の1.00〜1.15モル当量であることが好ましく、1.03〜1.12モル当量がより好ましく、1.05〜1.12モル当量がさらに好ましい。無水酢酸の使用量を上記範囲にすることにより、アセチル化反応速度の小さいハイドロキノンのアセチル化率を容易に制御することができる。液晶性ポリエステルの末端構造を制御することにより、ガス発生量がより少なくフォギング性に優れた液晶性ポリエステル組成物を得ることができ好ましい。
【0030】
本発明の液晶性ポリエステル(a)を脱酢酸重縮合反応により製造する際に、液晶性ポリエステルが溶融する温度で減圧下反応させ、重縮合反応を完了させる溶融重合法が好ましい。溶融重合法は均一なポリマーを製造するために有利な方法であり、ガス発生量がより少なくフォギング性に優れたポリマーを得ることができ好ましい。
【0031】
例えば、所定量のp−ヒドロキシ安息香酸および4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸、イソフタル酸、無水酢酸を攪拌翼、留出管を備え、下部に吐出口を備えた反応容器中に仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら加熱し水酸基をアセチル化させた後、液晶性ポリエステルの溶融温度まで昇温し、減圧により重縮合し、反応を完了させる方法が挙げられる。アセチル化させる条件は、通常130〜300℃の範囲、好ましくは135〜200℃の範囲で1〜6時間、より好ましくは140〜180℃の範囲で2〜4時間反応させる。重縮合させる温度は、液晶性ポリエステルの溶融温度、例えば、250〜365℃の範囲であり、好ましくは液晶性ポリエステルの融点+10℃以上の温度である。重縮合させるときの減圧度は通常0.1mmHg(13.3Pa)〜20mmHg(2660Pa)であり、好ましくは10mmHg(1330Pa)以下、より好ましくは5mmHg(665Pa)以下である。なお、アセチル化と重縮合は同一の反応容器で連続して行っても良いが、アセチル化と重縮合を異なる反応容器で行っても良い。
【0032】
重合終了後、得られたポリマーを反応容器から取り出す方法としては、ポリマーが溶融する温度で反応容器内を、例えばおよそ0.02〜0.5MPaに加圧し、反応容器下部に設けられた吐出口よりストランド状に吐出し、ストランドを冷却水中で冷却して、ペレット上に切断し、樹脂ペレットを得る方法を挙げることができる。
【0033】
本発明の液晶性ポリエステル(a)を製造する際に、固相重合法により重縮合反応を完了させることも可能である。例えば、本発明の液晶性ポリエステルのポリマーまたはオリゴマーを粉砕機で粉砕し、窒素気流下、または、減圧下、液晶性ポリエステルの融点−5℃〜融点−50℃(例えば、200〜300℃)の範囲で1〜50時間加熱し、所望の重合度まで重縮合し、反応を完了させる方法が挙げられる。
【0034】
本発明の液晶性ポリエステル(a)の重縮合反応は無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸カリウムおよび酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、金属マグネシウムなどの金属化合物を使用することもできる。
【0035】
本発明で用いられるガラス繊維(b)は、長径/短径比が2〜5であり断面積が直径6〜12μmの円に相当する非円形の断面形状を有することを特徴とする。
【0036】
非円形の断面形状を有するガラス繊維(b)の長径/短径比は、ガラス繊維断面の最長直線寸法の、長径の中心点を通り長径に直交する直線寸法による商と定義され、例えば非円形な断面形状を有するガラス繊維の断面を走査型電子顕微鏡により観察し、例えば100本の非円形の断面形状を有するガラス繊維を選んで長径/短径比の数平均を算出することで求めた値である。
【0037】
非円形の断面形状を有するガラス繊維(b)の断面の長径(断面の最長径)と短径(長径の中心点を直交する最短径)の比は2〜5であり、好ましくは3.5〜4.5であり、更に好ましくは3.8〜4.2である。長径と短径の比が2より小さい場合には断面形状は円形に近くなるため非円形断面であることの効果が小さくなり、5より大きい場合には機械的強度の向上効果が得られない。
【0038】
非円形の断面形状を有するガラス繊維(b)は、同等の断面積で円形の断面形状を有するガラス繊維に比べ比表面積が増大する。また、ガラス繊維が成形品の流れ方向に配向、整列し易いため冷却後に液晶性ポリエステルとガラス繊維との界面剥離が抑制されると推定される。これらのことから、液晶性ポリエステルとガラス繊維との密着性が向上するため、得られる液晶性ポリエステル組成物は靭性と剛性のバランスに優れ、嵌合部でのスナップフィット性に優れる。また、液晶性ポリエステルとガラス繊維の密着性の向上により成形品表面へのガラス繊維の浮き出しが抑制されるため成形品の表面平滑性が向上する。そのため、嵌合部を有する成形品の嵌め合いが容易となりスナップフィット性が向上する。また、表面平滑性が向上することで、電圧印加時に成形品表面の凹凸からの微少放電が減少し耐トラッキング性が向上する。さらに、液晶性ポリエステルとガラス繊維との密着性が向上するため、液晶性ポリエステルとガラス繊維との界面に空隙が少なく、発生ガス量が抑制されフォギング性が向上する。
【0039】
また、非円形の断面形状を有するガラス繊維(b)は、円形の断面を有するガラス繊維と比較して液晶性ポリエステルへの配合時に液晶性ポリエステルの分子配向を乱して異方性を緩和させるため、液晶性ポリエステル組成物の成形時の寸法安定性が向上し、嵌合部を有する成形品での嵌め合いに優れスナップフィット性が向上する。
【0040】
そのため非円形の断面形状を有するガラス繊維の長径と短径の比が本発明の範囲内である場合、円形の断面形状を有するガラス繊維を用いた場合に比べ液晶性ポリエステルとガラス繊維との密着性に優れ、スナップフィット性、耐トラッキング性およびフォギング性が向上する。
【0041】
非円形の断面形状を有するガラス繊維(b)の断面積は、直径6〜12μmの円の断面積に相当する値である。非円形の断面形状を有するガラス繊維の断面積が、直径6μmのの円の断面積に相当する値よりも小さい場合にはガラス繊維製造での紡糸が困難となる。特に直径9μm以上の円の断面積に相当する値となる繊維径が好ましい。非円形の断面形状を有するガラス繊維の断面積が直径12μmの円の断面積よりも大きい場合には、本発明の範囲の断面積を有するガラス繊維(b)に比べて液晶性ポリエステルへの配合時にガラス繊維が折れにくくなり、液晶性ポリエステル組成物中に後述する範囲の繊維長より長いガラス繊維が増大することにより、成形品表面へのガラス繊維の浮きや突き出しが多く、表面平滑性が低下する。また上記ガラス繊維の場合には、本発明の範囲の断面積を有するガラス繊維(b)に比べて比表面積が小さくなるため液晶性ポリエステルとガラス繊維との密着性が低下する。それらによって、スナップフィット性、耐トラッキング性およびフォギング性が低下する。
【0042】
本発明品の範囲の長径/短径比および断面積であるガラス繊維(b)の非円形の断面形状としては、例えば長円形、まゆ形、だ円形、半円形、円弧形、またはこれらの類似形の断面形状である。好ましくは長円形、まゆ形であり、さらに好ましくは長円形である。ここでいう長円形とは、だ円形とは異なるものであり、角丸四角形や平行な直線部分を有するだ円や、長方形と2つの半円の組み合わせでできる形状など、2つ以上の平行な直線部分と円の一部を2箇所以上に有する形状が内包される。長円形の断面形状を有するガラス繊維を用いた場合、だ円形やまゆ形の断面形状のものに比べて強度や寸法安定性が高くなるため好ましい。
【0043】
非円形の断面形状を有するガラス繊維(b)の配合割合は液晶性ポリエステル(a)100重量部に対して、10〜200重量部であり、20重量部以上が好ましく、30重量部以上がより好ましい。一方、150重量部以下が好ましく、100重量部以下がより好ましい。ガラス繊維の配合割合が10重量部より小さい場合は、ガラス繊維の補強効果が小さく表面平滑性および寸法安定性が改良されず、本発明の効果が十分発現されない。また、ガラス繊維の配合割合が200重量部より多い場合は、液晶性ポリエステルの配向を大きく乱すため流動性が損なわれ、また靭性と剛性のバランスが悪くスナップフィット性が低下する。
【0044】
上記の好ましい範囲となる本発明のガラス繊維(b)を配合した液晶性ポリエステル組成物は、円形の断面を有するガラス繊維や本発明の範囲外の断面積の非円形の断面形状を有するガラス繊維を配合した場合には得られなかった、優れたスナップフィット性および耐トラッキング性を有し、さらにフォギング性が特異的に向上することを特徴としている。
【0045】
本発明の液晶性ポリエステル組成物中のガラス繊維長としては、0.1〜0.6mmの本数が80重量%以上であることが好ましく、より好ましくは85重量%以上であり、更に好ましくは90重量%以上である。非円形の断面形状であり、かつ本発明の範囲内の断面積を有するガラス繊維は、液晶性ポリエステルとの混練時にガラス繊維の折れ易さが制御され、上記の範囲のガラス繊維長の分布が得られる。
【0046】
ガラス繊維長が上記の範囲内であると、液晶性ポリエステル組成物中のガラス繊維長の分布がシャープになり繊維長が均一なガラス繊維が存在することになる。その結果、繊維長が0.6mm以上の長いガラス繊維が少なくなり、成形品表面へのガラス繊維の突き出しが少なくなるため、表面平滑性および寸法安定性に優れ、それに伴いスナップフィット性および耐トラッキング性がより向上する。また、繊維長が0.1mm以下の短いガラス繊維が少なくなり、液晶性ポリエステル組成物が十分な機械的強度、耐熱性を発現することが出来る。ここで、組成物中のガラス繊維の繊維長は、液晶性ポリエステル組成物からなるペレットをるつぼの中にとり、600℃の電気炉中で灰化させた後、残存したガラス繊維を石鹸水に分散させ光学顕微鏡下に観察し、写真撮影されたガラス繊維の繊維長を測定することで求めることが出来る。測定は500本以上測定し、その繊維長0.1〜0.6mmの重量%を算出する。
【0047】
本発明で用いられるガラス繊維(b)は、エポキシ系、ウレタン系、アクリル系などの被覆あるいは収束剤で処理されていることが好ましく、またその表面をカップリング剤、例えばγ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ビニルアセトキシシランなどのシランカップリング剤や、イソプロピルトリスイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネートなどのチタンカップリング剤、またアセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートなどのアルミニウムカップリング剤でカップリング処理していても良い。
【0048】
本発明で用いられるガラス繊維(b)の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものならば上記の非円形の断面形状と本発明の範囲内の断面積を有していること以外には特に限定はなく、例えば、長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランドおよびミルドファイバーなどから選択して用いることができる。本発明で使用されるガラス繊維としては、弱アルカリ性のものが機械的強度の点で優れており、好ましく使用できる。特に酸化ケイ素含有量が50〜80重量%のガラス繊維が好ましく用いられ、より好ましくは酸化ケイ素含有量が65〜77重量%のガラス繊維である。
【0049】
なお本発明で用いられるガラス繊維(b)は、エチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆あるいは集束されていてもよい。
【0050】
本発明の液晶性ポリエステル組成物には本発明の効果を損なわない範囲で、更に非円形断面を有するガラス繊維(b)以外の充填材を混合して樹脂組成物として使用することができる。ここでいう充填材とは、例えば繊維状、板状、粉末状、粒状などの充填材を挙げることができる。具体的には、円形断面を有するガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維や液晶性ポリエステル繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、針状酸化チタンなどの繊維状またはウィスカー状充填材、マイカ、タルク、カオリン、シリカ、ガラスビーズ、ガラスフレーク、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリリン酸カルシウムおよび黒鉛などの粉状、粒状あるいは板状の充填材が挙げられる。
【0051】
本発明に使用される上記の充填材は、その表面を上記の如きカップリング剤やその他の表面処理剤で処理して用いることもできる。また上記充填材は2種以上を併用して用いてもよい。
【0052】
本発明の液晶性ポリエステル組成物は、さらにステアリン酸とペンタエリスリトールとのテトラエステル(c)を含有していることが好ましい。それにより液晶性ポリエステル(a)と非円形の断面形状を有するガラス繊維(b)との界面の隙間が減少し密着性が向上するため、本発明の範囲の断面積と非円形の断面形状を有するガラス繊維を使用した液晶性ポリエステル組成物の成形品の表面平滑性の効果がより向上し、その結果、嵌合部を有する成形品の嵌め合いが容易となりスナップフィット性が向上する。また、表面平滑性がより向上することで、液晶性ポリエステル組成物の成形品への電圧印加時に、成形品表面の凹凸からの微少放電が減少し耐トラッキング性が向上する。さらに、液晶性ポリエステルとガラス繊維との密着性が向上することで、液晶性ポリエステルとガラス繊維との界面に空隙が少なく、成形品表面からの発生ガス量が抑制されフォギング性が向上する。また、ステアリン酸とペンタエリスリトールとのテトラエステルを含有していることで、離型時の成形品の表面剥離および突出ピンによる変形が抑制されるため、成形品の寸法安定性が優れ、嵌合部を有する成形品での嵌め合いに優れスナップフィット性がより向上する。
【0053】
ステアリン酸とペンタエリスリトールとのテトラエステル(c)の配合量は、液晶性ポリエステル100重量部に対して0.1〜0.5重量部であり、より好ましくは、0.3〜0.5重量部である。ステアリン酸とペンタエリスリトールとのテトラエステルの配合量が上記の範囲内であると、液晶性ポリエステルと非円形の断面形状を有するガラス繊維との界面の密着性に優れるため成形品の表面平滑性および寸法安定性が向上し、また液晶性ポリエステルとガラス繊維との界面の空隙が少なくなるため、本発明の効果の増加が得られる。
【0054】
本発明の液晶性ポリエステル組成物には本発明の効果を損なわない範囲でさらに酸化防止剤および熱安定剤(たとえばヒンダードフェノール、ヒドロキノン、ホスファイト類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(たとえばレゾルシノール、サリシレート)、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、滑剤およびステアリン酸とペンタエリスリトールとのテトラエステルを除く離型剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、染料および顔料を含む着色剤、導電剤あるいは着色剤としてカーボンブラック、結晶核剤、可塑剤、難燃剤(臭素系難燃剤、燐系難燃剤、赤燐、シリコーン系難燃剤など)、難燃助剤、および帯電防止剤などの通常の添加剤、液晶性ポリエステル以外の重合体を配合して、所定の特性をさらに付与することができる。
【0055】
本発明の液晶性ポリエステル組成物は、溶融混練により製造することが好ましく、溶融混練には公知の方法を用いることができる。たとえば、バンバリーミキサー、ゴムロール機、ニーダー、単軸もしくは二軸押出機などを用いることができる。これらのうち、液晶性ポリエステル組成物中のガラス繊維長の制御の観点から、押出機を用いることが好ましく、二軸押出機を用いることがより好ましく、なかでも非円形の断面形状を有するガラス繊維を押出機中間部から添加するためのサイドフィード部を有する二軸押出機を用いることが特に好ましい。混練方法としては、1)液晶性ポリエステル、非円形の断面形状を有するガラス繊維を除く充填材やその他の添加剤を元込めフィーダーから一括で投入して混練した後、非円形の断面形状を有するガラス繊維および必要であればその他の充填材および添加剤をサイドフィーダーから添加して混練する方法(サイドフィード法)、2)液晶性ポリエステルとその他の添加剤を高濃度に含む液晶性ポリエステル組成物(マスターペレット)を作成し、次いで規定の濃度になるようにマスターペレットを液晶性ポリエステルと混練した後、非円形の断面形状を有するガラス繊維および必要であればその他の充填材をサイドフィードする方法(マスターペレット+サイドフィード法)など、どの方法を用いてもかまわない。
【0056】
二軸押出機のスクリュー回転数としては、液晶性ポリエステル組成物中のガラス繊維長が0.1〜0.6mmの本数を80重量%以上得られれば特に制限はされないが、スクリュー回転数を大きくしすぎると、液晶性ポリエステル組成物に加わる剪断力が大きくなるためガラス繊維長は短くなり、また、スクリュー回転数が小さくしすぎると、吐出量が少なくなり生産性が低下するので、液晶性ポリエステル組成物や二軸押出機に合わせて適切な値とすることが好ましい。
【0057】
ただし、上記の添加剤については液晶性ポリエステル組成物とともに二軸押出機中で溶融混練させてもよいが、溶融混練押出後のペレットにブレンド(例えばタンブラーミキサ、リボンブレンダなど)を行ってもよい。
【0058】
本発明の液晶性ポリエステル組成物は、通常の射出成形、押出成形、プレス成形などの成形方法によって溶融成形し、優れた表面外観(色調)および機械的性質、耐熱性、難燃性を有する成形品に加工することが可能である。
【0059】
ここでいう成形品としては、射出成形品、押出成形品、プレス成形品、シート、パイプ、フィルム、繊維などが挙げられ、特に、コネクターやリレー、光ピックアップ、LEDランプ、コイルボビンなどの嵌合部を有する成形品に本発明の効果が顕著に得られるため、それら成形品に加工し易い、射出成形品が好ましい。
【0060】
このようにして得られた液晶性ポリエステル組成物からなる成形品は、例えば、各種ギヤー、各種ケース、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、リレーベース、リレー用スプール、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハウジング、半導体、液晶ディスプレー部品、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、HDD部品、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品、VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、オイルレス軸受、船尾軸受、水中軸受などの各種軸受、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品、オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディマー用ポテンショメーターベース、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキバット磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、エアコン用モーターインシュレーター、パワーウインド等の車載用モーターインシュレーター、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンべイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプベゼル、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケースなどの自動車・車両関連部品などに用いることができる。そのなかでも、本発明の範囲内の繊維径で非円形の断面形状を有するガラス繊維を配合させることによる優れたスナップフィット性、耐トラッキング性およびフォギング性の効果を発現させるため、嵌合部を有する小型電気・電子部品に有用であり、例えばコネクターやリレー、光ピックアップ、LEDランプ、コイルボビンなどが挙げられる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明をさらに詳述するが、本発明の骨子は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0062】
液晶性ポリエステルの組成分析および特性評価は以下の方法により行った。
【0063】
(1)液晶性ポリエステルの融点(Tm)測定
示差走査熱量計DSC−7(パーキンエルマー製)により、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)を融点とした。以下の製造例においては、融点をTmと記載する。
【0064】
(2)液晶性ポリエステルの溶融粘度測定
高化式フローテスターCFT−500D(オリフィス0.5φ×10mm)(島津製作所製)を用い、温度は液晶性ポリエステルの融点+10℃、剪断速度は1000/秒で測定した。
【0065】
製造例1
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸932重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル251重量部、ハイドロキノン99重量部、テレフタル酸284重量部、イソフタル酸90重量部および無水酢酸1252重量部(フェノール性水酸基合計の1.09当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら145℃で1時間反応させた後、145℃から350℃までを4時間で昇温させた。その後、重合温度を350℃に保持し、1.0時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に反応を続け、トルクが20kg・cmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0066】
この液晶性ポリエステル(a−1)は、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位(構造単位(I))と4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位(構造単位(II))とハイドロキノン由来の構造単位(構造単位(III))の合計に対するp−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位(構造単位(I))の割合が75モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位(構造単位(II))とハイドロキノン由来の構造単位(構造単位(III))の合計に対する4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位(構造単位(II))の割合が60モル%、テレフタル酸由来の構造単位(構造単位(IV))とイソフタル酸由来の構造単位(構造単位(V))に対するテレフタル酸由来の構造単位(構造単位(IV))の割合が76モル%であり、Tmは330℃、溶融粘度は28Pa・sであった。
【0067】
製造例2
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸845重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル322重量部、ハイドロキノン127重量部、テレフタル酸421重量部、イソフタル酸57重量部および無水酢酸1322重量部(フェノール性水酸基合計の1.09当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら145℃で1時間反応させた後、145℃から350℃までを4時間で昇温させた。その後、重合温度を350℃に保持し、1.0時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に反応を続け、トルクが20kg・cmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0068】
この液晶性ポリエステル(a−2)は、構造単位(I)と構造単位(II)と構造単位(III)の合計に対する構造単位(I)の割合が68モル%、構造単位(II)と構造単位(III)の合計に対する構造単位(II)の割合が60モル%、構造単位(IV)と構造単位(V)に対する構造単位(IV)の割合が88モル%であり、Tmは342℃、溶融粘度は21Pa・sであった。
【0069】
製造例3
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸870重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル352重量部、ハイドロキノン89重量部、テレフタル酸292重量部、イソフタル酸157重量部および無水酢酸1302重量部(フェノール性水酸基合計の1.09当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら145℃で1時間反応させた後、145℃から330℃までを4時間で昇温させた。その後、重合温度を330℃に保持し、1.0時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に反応を続け、トルクが20kg・cmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0070】
この液晶性ポリエステル(a−3)は、構造単位(I)と構造単位(II)と構造単位(III)の合計に対する構造単位(I)の割合が70モル%、構造単位(II)と構造単位(III)の合計に対する構造単位(II)の割合が70モル%、構造単位(IV)と構造単位(V)に対する構造単位(IV)の割合が65モル%であり、Tmは310℃、溶融粘度は30Pa・sであった。
【0071】
製造例4
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸994重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル126重量部、テレフタル酸112重量部、ポリエチレンテレフタレートイソフタル酸216重量部および無水酢酸960重量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら145℃で1時間反応させた後、145℃から320℃までを4時間で昇温させた。その後、重合温度を320℃に保持し、1.0時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に反応を続け、トルクが20kg・cmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0072】
この液晶性ポリエステル(a−4)は、構造単位(I)が66.7モル%、構造単位(II)が6.3モル%、ポリエチレンテレフタレート由来のエチレンジオキシ単位が10.4モル%、構造単位(IV)が16.6モル%であり、Tmは313℃、溶融粘度は13Pa・sであった。
【0073】
製造例5
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸24.9重量部、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を812.9重量部、4,4’−ジヒドロキシビフェニル419.0重量部、テレフタル酸373.8重量部および無水酢酸964.8重量部(フェノール性水酸基合計の1.05当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら145℃で1時間反応させた後、145℃から360℃までを4時間で昇温させた。その後、重合温度を360℃に保持し、1.0時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に反応を続け、トルクが20kg・cmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0074】
この液晶性ポリエステル(a−5)は、構造単位(I)が2モル%、6−オキシー2−ナフタレート単位が48モル%、構造単位(II)が25モル%、構造単位(IV)が25モル%であり、Tmは350℃、溶融粘度は25Pa・sであった。
【0075】
各製造例で得られた液晶性ポリエステルの組成を表1に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
各実施例および比較例において用いた充填材および添加剤を次に示す。
【0078】
充填材
(b−1):日東紡製フラットファイバー(CSG3J−831)、長円形(平行な直線部を有するトラック形)の断面形状、長径(20μm)/短径(5μm)比4、直径11μmの円形の断面形状のガラス繊維相当の断面積、繊維長3mm。
(b−2):日東紡製フラットファイバー(CSG3PA―820)、長円形(平行な直線部を有するトラック形)の断面形状、長径(28μm)/短径(7μm)比4、直径15μmの円形の断面形状のガラス繊維相当の断面積、繊維長3mm。
(b−3):日東紡製フラットファイバー(CSH3PA―870)、まゆ形の断面形状、長径(20μm)/短径(10μm)比2、直径15μmの円形の断面形状のガラス繊維相当の断面積、繊維長3mm。
(b−4):日本電気硝子製Eガラスチョップドストランド(ECS−03T790DE)、円形の断面形状(長径/短径比1)、繊維径6.5μm、繊維長3mm。
(b−5):日本電気硝子製Eガラスチョップドストランド(ECS−03T747H/P)、円形の断面形状(長径/短径比1)、繊維径10μm、繊維長3mm。
【0079】
添加剤
(c−1):ペンタエリスリトールテトラステアレート(コグニスジャパン製LOXIOLVPG861)
(c−2):モンタン酸グリコールエステル(クラリアント製リコワックスE)
【0080】
実施例1〜7、比較例1〜9
サイドフィーダーを備えた東芝機械製TEM35B型2軸押出機で、液晶性ポリエステル100重量部に対して表2に示す配合量で、製造例で得た液晶性ポリエステル(a−1〜a−5)および添加剤(c−1、c−2)をホッパーから投入し、充填材(b−1〜b−5)をサイドから投入し、シリンダー温度を液晶性ポリエステルの融点+10℃に設定し、スクリュー回転数を150rpmに設定し、溶融混練してペレットとした。但し、実施例3については、スクリュー回転数を175rpmとし、実施例4についてはスクリュー回転数を200rpmとして溶融混練した。得られた液晶性ポリエステル組成物のペレットを熱風乾燥機により130℃で3時間予備乾燥させた後、以下(1)〜(4)の評価を行った。結果は表2に示す。
【0081】
(1)スナップフィット性評価
実施例1〜7および比較例1〜9の液晶性ポリエステル組成物を、ファナックα30C射出成形機(ファナック製スクリュー径28mm)に供し、シリンダー温度を液晶性ポリエステルの融点+10℃で内径縦50×横80×高さ5×壁圧4mmの箱形で上部横内側に厚さ0.8mm×長さ2mmの爪のついた成形品と50×80×1mm厚の角板を成形し、角板の中心を押して箱形成形品へのはめ込みテストを30個行った。箱形成形品の爪が折れず、かつ角板がはまった個数でスナップフィット性を評価した。個数が多いほどスナップフィット性に優れる。
【0082】
(2)耐トラッキング性評価
実施例1〜7および比較例1〜9の液晶性ポリエステル組成物を、ファナックα30C射出成形機(ファナック製スクリュー径28mm)に供し、シリンダー温度を液晶性ポリエステルの融点+10℃で50×80×1mm厚の角板を成形し、IEC112(A液)の試験方法に従い、比較トラッキング指数(CTI)を測定した。この値が高いほど耐トラッキング性に優れていると言える。
【0083】
(3)フォギング性評価
実施例1〜7および比較例1〜9の液晶性ポリエステル組成物を、試験管(外径18.0mm×高さ75mm)に5g秤量して測定サンプルとした。穴径φ18.5mm×6個、深さ71mmのアルミブロックが2個入ったドライブロックバス(サイニクス社製)にサンプル試験管を挿入し、試験管開口上にスライドガラスを載せ、230℃で10時間加熱処理し、この際に発生したガスをスライドガラス上に付着させる。その後、このスライドガラスを直読ヘイズメーター(東洋精機社製)にてヘイズ値(曇り)を測定する。ヘイズ値は小さいほど曇りが少なくフォギング性に優れており、ヘイズ値が大きいほどガラスが曇り、フォギング性に劣る。
【0084】
(4)ガラス繊維長分布評価
実施例1〜7および比較例1〜9の液晶性ポリエステル組成物のペレット10gをるつぼの中にとり、600℃の電気炉中で灰化させた後、残存したガラス繊維を石鹸水に分散させ光学顕微鏡を用いて観察、10000倍で写真撮影し、画像解析ソフト(イノテック製“Quick Grain Standard”)を用いてガラス繊維1000本の繊維長を倍率120倍で測定し、繊維長0.1〜0.6mmの重量%を算出した。上記範囲のガラス繊維が多いほど、液晶性ポリエステル組成物中のガラス繊維長は均一で分布がシャープであることを示している。
【0085】
【表2】

【0086】
表2から、本発明の液晶性ポリエステル組成物は、スナップフィット性、耐トラッキング性、およびフォギング性に優れるため、嵌合部を有する電気・電子用途の小型精密成形品に適していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の液晶性ポリエステル組成物は、スナップフィット性や耐トラッキング性、フォギング性が要求されるコネクターやリレー、光ピックアップなどの嵌合部を有する電気・電子用途向け小型精密成形品などに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成される液晶性ポリエステル(a)100重量部に対して、長径/短径比が2〜5であり断面積が直径6〜12μmの円に相当する非円形の断面形状を有するガラス繊維(b)10〜200重量部を配合してなる液晶性ポリエステル組成物。
【化1】

【請求項2】
ステアリン酸とペンタエリスリトールとのテトラエステル(c)を液晶性ポリエステル100重量部に対して0.1〜0.5重量部含有する請求項1に記載の液晶性ポリエステル組成物。
【請求項3】
繊維長0.1〜0.6mmのガラス繊維を全ガラス繊維中80重量%以上含有する請求項1または2に記載の液晶性ポリエステル組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の液晶性ポリエステル組成物を溶融成形してなる成形品。
【請求項5】
成形品が嵌合部を有する部品であることを特徴とする請求項4に記載の成形品。

【公開番号】特開2013−35915(P2013−35915A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171696(P2011−171696)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】