説明

液晶物質若しくは光学異方性固体物質の状態変化の測定方法並びに測定装置

【課題】外部刺激によって起こる液晶物質若しくは光学異方性固体物質の状態変化を簡便に検出・解析するための測定方法並びに測定装置の提供。
【解決手段】外部刺激下に置かれた液晶物質若しくは光学異方性固体物質が与える偏光顕微鏡画像の輝度を数値化し、外部刺激を変化させながら連続的に測定することにより、前記外部刺激によって起こる前記液晶物質若しくは光学異方性固体物質の状態変化を検出し、前記偏光顕微鏡画像の輝度を前記外部刺激の関数として表示することを特徴とする、液晶物質若しくは光学異方性固体物質の状態変化の測定方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶テレビ等の表示素子、高分子繊維の前駆体、ドラッグデリバリーシステム等として用いられる液晶物質若しくは高分子物質、強誘電体、圧電体等の光学異方性を有する固体物質について、外部刺激によって起こる相転移、配向性の変化、結晶化、融解等の状態変化を簡便に検出・解析する測定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶は、分子性結晶が融解して分子の重心の位置に関する長距離的な秩序を失いながら、その配向に関する長距離的な秩序を保ち、光学的な異方性と力学的な流動性を示す状態をいう。液晶には、ある特定の温度域で液晶状態を示すサーモトロピック液晶と水等の溶媒との共存によって液晶状態を示すライオトロピック液晶の2種類に大別でき、前者は液晶テレビ等の表示素子として重要な工業材料ともなっている。
【0003】
液晶は、分子の集合様式によってネマチック、スメクチック、コレステリック、ヘキサゴナル等に分類される(非特許文献1、2)。分子が層状構造をとるスメクチック相にはさらに、分子軸が層に対して直交し層内ではランダム配向したA相、分子軸が層に対して直交し層内では斜方晶配列をしたB相、分子軸が層に対して傾き層内ではランダム配向したC相、分子軸が層に対して傾き層内では六方晶配列したH相など種々の相が知られている(非特許文献2)。
【0004】
このような様々な構造をもつ液晶を偏光顕微鏡で見ると、その構造に特有の光学組織が観察され、例えばネマチック相は繊維状やシュリーレン模様、スメクチックA相は扇状やはしご状小球状、スメクチックA相はモザイク状の組織を示す。さらにそのような光学組織から分子の集合構造も導かれている(非特許文献3)。液晶相のより詳細な構造の解明には通常X線回折法が用いられるが、液晶の特性に応じて磁化率、核磁気共鳴吸収、誘電特性、電気伝導度、熱伝導度等の測定による解析も行われる(非特許文献1、2)。また、このほかに、光散乱、粘性率、誘電特性、弾性、電気伝導度、熱伝導度、密度を用いた液晶状態の評価も行われている(非特許文献2、3)。しかし、以上に挙げた測定法は、いずれも対象とする物理量を瞬時に測ることができないため、液晶の相変化過程の追跡よりも、一定温度圧力下での液晶状態の評価に向いている。
【0005】
これに対して、示差走査熱量計(DSC)あるいは示差熱分析(DTA)は液晶相の変化に伴う熱量の出入りを連続的に測ることができ、特にDSCでは液晶の転移温度と転移熱量の両方を同時に測定できるため、転移温度を決定し、転移に関わる動的過程を評価するため基本的手段となっている(非特許文献1、2)。しかし、DSCには液晶の相転移温度は決定できても、その前後での液晶構造の同定ができないという難点がある。
【0006】
一方、本発明者らは、二種類の界面活性剤から成る液晶を鋳型として塩化白金酸を還元する手法を開発し、還元剤および白金塩の種類によって、外径6〜7nm、内径3〜4 nmの白金、パラジウムなどの貴金属ナノチューブおよびスポンジ状貴金属ナノ粒子およびスポンジ状貴金属ナノ粒子担持カーボンを製造してきた(特許文献1、2、3)。そして、これら白金ナノ材料の生成機構の解明に取り組む過程で、液晶内での反応成分の拡散速度を見積もり、制御する必要に迫られ、その指標となる液晶の構造と動的特性に関する知見を得るための有効な測定手段を求めていた。
【0007】
【非特許文献1】岩柳茂夫、化学One Point 10「液晶」、共立出版、1984年.
【非特許文献2】化学総説No.22「液晶の化学」、日本化学会編、1994年.
【非特許文献3】Steve Elston and Roy Sambles、 The Optics OF Thermotropic Liquid Crystals、Taylor & Francis (1998)
【非特許文献4】Kumar Satyen, Brock J., Finotello D., Fisch M.、Liquid Crystals:Experimental Study ofPhysical Properties and phase Transitions、Cambridge Univ Pr Published(2000).
【特許文献1】木島 剛、特開2004−034228号公報
【特許文献2】木島 剛 ほか1名、特開2006−045582号公報
【特許文献3】木島 剛 ほか1名、特開2006−228450号公報
【0008】
また、輝度等を数値化して評価する従来技術として「培地に育成した細菌や微生物のコロニーを写真撮影し、微生物の現れる部位の明るさあるいは色を数値化し、微生物の集落数と菌種判定を行う技術」(特許文献4)があるが、本発明の液晶物質若しくは光学異方性固体物質の状態変化の測定方法並びに測定装置とは、その目的および効果を全く別にするものである。「プラスチック成形品の色むら定量方法および装置
」(特許文献5)はプラスチック成形品の表面に生じる色むらの判別を機器による物理測定と数値化によって行うことを目的としたものであり、同様に、本発明とはその目的および効果を全く別にするものである。
【0009】
液晶等を用いた光学機器に関連する従来技術としては、「液晶表示装置の評価方法及び評価システム
」(特許文献6)と「パターン認識定量化装置 」(特許文献7)があるが、前者は液晶表示装置の評価方法及びシステムを提供すること、後者はCCDイメージセンサの色むらをより正しく定量化することを目的としたものであり、いずれもその目的および効果は本発明とは全く異なるものである。また、「蛍光ランプの輝度むら評価方法および蛍光ランプの輝度むら評価装置」(特許文献8)は、直管形蛍光ランプの輝度むらを数値化された指標を用い、一定の基準に基づいて正確に評価する方法および装置を提供すること、「光のちらつき具合の数値化システム、光のちらつき具合の数値化方法、及び光のちらつき具合の数値化装置」(特許文献9)は様々な照明器具について印加電圧の変動とフリッカとの関係を定量化することをねらいとしており、いずれも光源の安定化を図ることを目的としたものであり、本発明とは全く異なる。
【0010】
一方、高分子材料は、軽量性、成形性、絶縁性等多くの特徴を有し、電気製品、自動車、航空機等の小型化・軽量化に広く供されてきたが、偏光顕微鏡は、X線回折、DSC等の測定と並んで、このような優れた特性をもつ各種高分子材料の開発、加工、物性評価等々の分野において広く利用されてきている(非特許文献5)。特に、高分子の結晶化と融解過程での球晶の形態観察とそれに基づく結晶化速度の測定、球晶の変形過程の観察、配向性の評価などに用いられている。しかし従来、結晶化や融解のような状態変化を伴う動的過程については、液晶物質の場合と同様に、偏光顕微鏡による定点観察とDSCによる連続的な測定を併用した解析が行われている。したがって、偏光顕微鏡観察を両方の目的に利用できれば、高分子材料の開発研究を行う上での偏光顕微鏡の利用価値が格段に高まることになる。また、類似の従来技術として結晶化速度測定器(コタキ商事)があるが、結晶化速度測定器は一定温度に保った浴中で高分子の結晶化および結晶化速度を透過光量から測定するのに対して、本発明は偏光画像を撮影後、画像の輝度を数値化し、これを連続的に測定することにより、外部刺激によって起こる相転移、配向性の変化、結晶化、融解等の状態変化を簡便に検出・解析することを目的としており、本発明とは全く異なるものである(非特許文献6)。
【0011】
【特許文献4】特開2003−116593号公報
【特許文献5】特開平10−311756号公報
【特許文献6】特開2005−234111号公報
【特許文献7】特開平6−96213号公報
【特許文献8】特開2001−307637号公報
【特許文献9】特開2006−38762号公報
【非特許文献5】粟屋裕「高分子素材の偏光顕微鏡入門」アグネ技術センター(2002).
【非特許文献6】岩波輝夫、高井良三、金子六郎:高分子化学、29, 139 (1972)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上紹介したように、従来技術では、一つの装置で液晶の相転移温度と転移前後での液晶構造の同定を同時に行うことが不可能であり、そのため、そのような2つの機能を兼ね備えた測定装置の開発が望まれていた。
【0013】
また、偏光顕微鏡は液晶状態を同定する最も基本的な手段でありながら、特定条件下での液晶状態の画像的な同定、光学組織の決定あるいは構造の解析にもっぱら利用されており、液晶相の状態変化の追跡に供され、あるいはこれについて言及した例はない。これに対して、偏光顕微鏡観察を両方の目的に利用できれば、液晶状態の測定装置としてのその利用価値が飛躍的に高まるばかりでなく、液晶物質の開発研究を行う上での不可欠な手段となりうる。
さらに、本発明は、強誘電体や圧電体などの光学異方性を有する固体物質の研究開発においても極めて有用な測定手段を提供する。チタン酸バリウム等の強誘電体材料は携帯電話やパソコン等の電子機器に不可欠のコンデンサ部材等として、水晶等の圧電体材料は電子機器の発振素子や器材の位置をナノメートルあるいはマイクロメートル単位で制御する変位素子等として広く用いられている。強誘電体や圧電体に固有の特性は、構造の異方性に起因しており、これを偏光顕微鏡下に置くと物質特有の像が観察される。これら強誘電体や圧電体物質の相転移は、従来、誘電測定やX線回折測定、比熱の測定によって観測されているが、液晶の場合と同様に、偏光顕微鏡観察をこれに利用できれば、利用価値は飛躍的に高まる。
すなわち、本発明は、液晶物質若しくは光学異方性固体物質が与える偏光顕微鏡画像を用いて、外部刺激によって起こる液晶物質若しくは光学異方性固体物質の状態変化を簡便に検出・解析するための測定方法並びに測定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、先に述べたように、白金ナノ材料の生成機構の解明を進める過程で液晶の構造と動的特性に関する知見を得る必要に迫られ、各種組成の液晶について各種温度下でのX線回折パターンと偏光顕微鏡像を比較検討する研究に取り組む中で、偏光顕微鏡像の平均の輝度を数値化し、その温度変化を測定すれば液晶の構造と動的特性を同時に評価することができるのではないかとの着想に至った。そこで、この既往とは異なる新規な手法を創出すべく、鋭意研究を進めた。
【0015】
その結果、偏光顕微鏡に装着した加熱ステージにガラス板に挿みこんだ液晶試料を置き、クロスニコル下で、一定速度で試料温度を上昇あるいは降下させながら偏光顕微鏡画像を高精度カメラにより1秒間に30コマの割合で取り込み、各コマの平均輝度を数値化し、それから求めた相対輝度の温度変化をグラフ化することにより、液晶の相転移点、転移の温度幅等の相転移挙動に関する定量的知見を任意の温度での画像データと併せて極めて簡便に入手できることを究明した。
【0016】
本発明は、以上の着想と知見ならびに背景に基づいてなされたものであり、その構成は以下(1)から(9)に記載のとおりである。
液晶テレビ等の表示素子、高分子繊維の前駆体、ドラッグデリバリーシステム等として用いられる液晶物質若しくは高分子物質、強誘電体、圧電体等の光学異方性を有する固体物質(以下、「光学異方性固体物質」という。)が与える偏光画像の輝度を数値化し、これを連続的に測定することにより、外部刺激によって起こる相転移、配向性の変化等の状態変化を簡便に検出・解析する測定方法並びに測定装置に関する。
なお、本発明において、外部刺激とは、外部から物質に加わる温度、圧力、磁場、電場、応力等の刺激をいう。
【0017】
すなわち、第1の発明は、(1)外部刺激下に置かれた液晶物質若しくは光学異方性固体物質が与える偏光顕微鏡画像の輝度を数値化し、外部刺激を変化させながら連続的に測定することにより、前記外部刺激によって起こる前記液晶物質若しくは光学異方性固体物質の状態変化を検出し、前記偏光顕微鏡画像の輝度を前記外部刺激の関数として表示することを特徴とする、液晶物質若しくは光学異方性固体物質の状態変化の測定方法である。
【0018】
第2の発明は、(2)前記液晶物質若しくは光学異方性固体物質の偏光顕微鏡画像の輝度と前記外部刺激との関係を用いて、任意の外部刺激下における偏光顕微鏡画像を画面に表示することを特徴とする前記(1)の測定方法である。
【0019】
以下、第3ないし第8の発明は、第1及び第2の発明の測定方法を含み、対象とする物質の状態変化の測定に使用することを特徴とする方法の発明である。
すなわち、第3の発明は、(3)前記外部刺激が、温度、圧力、磁場、電場、及び応力よりなる群から選ばれた一つ以上の外部刺激であり、前記外部刺激によって起こる状態変化が、前記液晶物質若しくは光学異方性固体物質の相転移、配向性の変化、結晶化、及び融解よりなる群から選ばれた一つ以上の状態変化であることを特徴とする前記(1)又は(2)の測定方法を提供するものである。第4の発明は、(4)液晶物質若しくは光学異方性固体物質の加熱又は冷却に伴う前記状態変化を測定することを特徴とする前記(3)の測定方法を提供するものである。第5の発明は、(5)液晶物質若しくは光学異方性固体物質の加圧又は減圧に伴う前記状態変化を測定することを特徴とする前記(3)の測定方法を提供するものである。第6の発明は、(6)液晶物質若しくは光学異方性固体物質への磁場の印加に伴う前記状態変化を測定することを特徴とする前記(3)の測定方法を提供するものである。第7の発明は、(7)液晶物質若しくは光学異方性固体物質への電場の印加に伴う前記状態変化を測定することを特徴とする前記(3)の測定方法を提供するものである。第8の発明は、(8)液晶物質若しくは光学異方性固体物質への引っ張り応力または押し出し応力の印加に伴う前記状態変化を測定することを特徴とする前記(3)の測定方法を提供するものである。
【0020】
第9の発明は、前記第1〜第8の発明を実施するための装置を提示するものである。すなわち、(9)偏光顕微鏡、液晶物質若しくは光学異方性固体物質の試料を装填するステージ(加熱ステージ等)を含む外部刺激の保持及び制御装置、前記試料の偏光顕微鏡像を画像として撮影するカメラ、前記画像の平均輝度を測定し数値化する読み取り装置、前記数値化された輝度と前記外部刺激との関係を表示する装置、並びに、前記装置から得られる数値化されたデータを処理し、統合するパソコンを備えたことを特徴とする、液晶物質若しくは光学異方性固体物質の状態変化の測定装置である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の液晶物質若しくは光学異方性固体物質の状態変化の測定方法及び測定装置を用いることにより、外部刺激が例えば温度であり、状態変化が例えば相転移である場合に、相転移温度の決定と転移過程での構造変化の検出を同時に行うことが可能になるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
この出願の発明は、以上の特徴を持つものであるが、以下、本発明を実施例及び添付した図面に基づき、具体的に説明する。ただし、これらの実施例は、あくまでも本発明の一つの態様を開示するものであり、決して本発明を限定する趣旨ではない。
【0023】
図1は、この発明の装置の概略を示し、各部とその構成は図示のとおり、(1)偏光顕微鏡、(2)撮影部と(3)温調部、それに関連するコンピュータ機器からなっており、装置の骨子は、偏光顕微鏡本体、試料を装填する加熱ステージ及び制御装置(試料部及び温度調節器)、試料の偏光顕微鏡像を画像として高速撮影が可能な高精度カメラ(デジタルカメラ)、画像の平均輝度を数値化するソフト、数値化された輝度と温度および時間との関係を表示する機能を備えたソフト、さらに数値化されたデータを処理する機能を備え、これらの装置から得られる数値データを統合するパソコン(PC)で構成される装置であり、必要な画像の取り込み速度や温度、圧力等の外部刺激の種類、変化速度も対象とする物質の特性によって多様に変化する。対して、実施例は、(1)の光源としてハロゲン光源を用い、(2)の撮影部にはCCDカメラを用い画像はモノクロ(1392×104ピクセル、12bit)で取り扱う。波長域が異なる複数の光による画像であればなおよい。(3)の温調部(温度調節器)にはペルチェ式冷却・加熱装置を用いた。まず、測定試料を設置しないで装置固有の”むら”の補正を行う。次に、ペルチェ式冷却・加熱装置を60℃に保持し、薄いガラス基板上に液晶を載せカバーガラスを被せて測定試料とする。測定試料をペルチェ式冷却・加熱装置へ設置し、光学顕微鏡の倍率およびCCDカメラの感度調整を行い適切な画像および輝度を前記”むら”の補正に乗ずる透過率、反射率または実際に蓄積したデータによりあらかじめ設定しておく。
【0024】
次に、液晶の特徴を示す画像部位を選択、抽出する。多くの場合、液晶中に空気相を含むことがあり、その部分を避けて顕微鏡の焦点をあわせる。その後、偏光板を挿入し、画面全体の輝度がほぼ均一となるように調整を行う。ペルチェ式冷却・加熱装置の温度プログラムおよび画像撮影トリガーを兼ねたプログラムを用い、温度を変化させながら試料画像の撮影を行う。撮影後、各画像の平均輝度を計算し、予め組みこんだプログラムに基づいて、平均輝度と温度の関係を示す曲線を得る。
【0025】
図3と図6は、以下の実施例1と実施例2に記載した方法で調製した液晶試料について、前記の測定装置を用いて偏光顕微鏡下で撮影した画像の輝度を数値化して得られた相対輝度−温度曲線である。図2は実施例1で用いた試料のX線回折パターン、図4、図5、図7は輝度−温度曲線を基に抽出した温度における試料の偏光顕微鏡像である。これによると、本発明による相変化の測定方法および装置を用いて相対輝度の温度変化をグラフ化することにより、液晶試料の相転移点、転移の温度幅等の相転移挙動に関する定量的知見を任意の温度での画像データと併せて極めて簡便に入手できることがわかる。
【実施例1】
【0026】
ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレート(Tween80)とHOをモル比1:x(x=40,60,80)で混合し、60℃で15分攪拌した後、15℃で30分放置して液晶試料を調製した。いずれの試料でも15℃で液晶形成を示す偏光像が観察され、x=60試料のXRDパターンはヘキサゴナル構造の(100)および(110)反射に帰属される明瞭な回折ピークを与えた(図2)。x=40およびx=80試料もヘキサゴナル構造をとっているものと推定されるが、いずれもピーク強度が低下しており、構造が不規則化していることがわかる。これらの液晶試料を加熱ステージに取り付け、15℃から60℃まで昇温しながら、偏光顕微鏡画像の撮影と画像をもとにした輝度の測定を前述した手法で連続的に行った。その結果を図3に示す。縦軸は15℃での輝度を基準とする相対輝度で表示している。
x=60試料の輝度−温度曲線は、昇温に伴って液晶構造の規則性が徐々に低下し、47℃付近で急激な相変化を起こし等方性の溶液相に変わることを示している。このような構造変化は、輝度−温度曲線を基にして抽出した主要な温度での偏光顕微鏡画像の変化からも確認できる(図4)。一方、x=60試料に比べて規則性の低いx=80試料の輝度−温度曲線は、温度上昇につれて規則性がいったん増加し34℃付近で最大に達した後、x=60試料とほぼ同じ温度域で相転移に至ることを示し、この場合も偏光顕微鏡画像の変化からそのような構造の変化が確認される(図5)。輝度−温度曲線から求めたx=40、x=60およびx=80試料の相転移温度は、各々31.5℃、45.3℃、46.5℃である。
【実施例2】
【0027】
ノナエチレンオキシドドデシルエーテル(C12EO9)、Tween60およびHOをモル比1:1:x (x=20,40,60,80)で混合し、以下実施例1と同様な操作で液晶試料を調製した。これらの液晶試料を実施例1と同様な手順で昇温しながら、偏光顕微鏡画像の撮影と輝度の測定を行った。図6に示した輝度−温度データより、含水量の多いx=60とx=80試料では、残り2つの試料に比べて相転移温度が大幅に上昇しており、しかも相転移に至る前の昇温過程で構造の規則性の増大が起こることが示唆される。そのような構造変化はx=60試料の15℃と32℃での偏光像の比較からも確認できる(図7)。さらに輝度−温度曲線から、x=20,x=40,x=60およびx=80試料の相転移温度は,24.0℃、24.8℃、39.7℃、47.9℃の順に増大していることもわかる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の装置の概略を示す図である。
【図2】実施例1で調製した液晶試料のX線回折パターンである。
【図3】実施例1で調製した液晶試料の相対輝度−温度曲線である。
【図4】実施例1で調製したx=60試料の相対輝度−温度曲線を基に指定した温度での偏光顕微鏡像を抽出し、昇温とともに液晶構造が変化・消失していく過程を示す観察図である。
【図5】実施例1で調製したx=80試料の相対輝度−温度曲線を基に指定した温度での偏光顕微鏡像を抽出し、昇温とともに液晶構造が変化・消失していく過程を示す観察図である。
【図6】実施例2で調製した液晶試料の相対輝度−温度曲線である。
【図7】実施例2で調製したx=60試料の相対輝度−温度曲線を基に指定した温度での偏光顕微鏡像を抽出し、昇温とともに液晶構造が変化・消失していく過程を示す観察図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部刺激下に置かれた液晶物質若しくは光学異方性固体物質が与える偏光顕微鏡画像の輝度を数値化し、外部刺激を変化させながら連続的に測定することにより、前記外部刺激によって起こる前記液晶物質若しくは光学異方性固体物質の状態変化を検出し、前記偏光顕微鏡画像の輝度を前記外部刺激の関数として表示することを特徴とする、液晶物質若しくは光学異方性固体物質の状態変化の測定方法。
【請求項2】
前記偏光顕微鏡画像の輝度と前記外部刺激との関係を用いて、任意の外部刺激下における偏光顕微鏡画像を画面に表示することを特徴とする請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記外部刺激が、温度、圧力、磁場、電場、及び応力よりなる群から選ばれた一つ以上の外部刺激であり、前記外部刺激によって起こる状態変化が、前記液晶物質若しくは光学異方性固体物質の相転移、配向性の変化、結晶化、及び融解よりなる群から選ばれた一つ以上の状態変化であることを特徴とする請求項1又は2に記載の測定方法。
【請求項4】
前記液晶物質若しくは光学異方性固体物質の加熱又は冷却に伴う前記状態変化を測定することを特徴とする請求項3に記載の測定方法。
【請求項5】
前記液晶物質若しくは光学異方性固体物質の加圧又は減圧に伴う前記状態変化を測定することを特徴とする請求項3に記載の測定方法。
【請求項6】
前記液晶物質若しくは光学異方性固体物質への磁場の印加に伴う前記状態変化を測定することを特徴とする請求項3に記載の測定方法。
【請求項7】
前記液晶物質若しくは光学異方性固体物質への電場の印加に伴う前記状態変化を測定することを特徴とする請求項3に記載の測定方法。
【請求項8】
前記液晶物質若しくは光学異方性固体物質への引っ張り応力又は押し出し応力の印加に伴う前記状態変化を測定することを特徴とする請求項3に記載の測定方法。
【請求項9】
偏光顕微鏡、液晶物質若しくは光学異方性固体物質の試料を装填するステージを含む外部刺激の保持及び制御装置、前記試料の偏光顕微鏡像を画像として撮影するカメラ、前記画像の平均輝度を測定し数値化する読み取り装置、前記数値化された輝度と前記外部刺激との関係を表示する装置、並びに、前記装置から得られる数値化されたデータを処理し、統合するパソコンを備えたことを特徴とする、液晶物質若しくは光学異方性固体物質の状態変化の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−268095(P2008−268095A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−113741(P2007−113741)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年2月22日 宮崎大学工学部発行の「卒業論文発表要旨(平成18年度)」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【Fターム(参考)】