説明

液晶組成物

【課題】 液晶相温度範囲が広く、粘性が低く、誘電率異方性が負のアクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物を提供する。
【解決手段】 第一成分として構造式(1)、
【化1】


で表される化合物を20〜65%含有し、ネマチック−アイソトロピック転移温度が68℃〜120℃であり、クリスタル又はスメクチック−ネマチック転移温度が-80℃〜-20℃であり、屈折率異方性Δnが0.05〜0.15であり、誘電率異方性Δεが-2.0〜-8.0であることを特徴とするネマチック液晶組成物。本願発明の液晶組成物により、動作温度範囲が広いアクティブマトリクス型液晶表示素子が提供され、反射または半透過モード等の液晶ディスプレイとして非常に実用的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気光学的液晶表示材料として有用な誘電率異方性が負のネマチック晶組成物、これを用いた液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表示品質が優れていることから、アクティブマトリクス形液晶表示装置が携帯端末、液晶テレビ、プロジェクタ、コンピューター等の市場に出されている。アクティブマトリクス表示方式は、画素毎にTFT(薄膜トランジスタ)あるいはMIM(メタル・インシュレータ・メタル)等が使われており、この方式には高電圧保持率であることが重要視されている。また、更に広い視角特性を得るためにVA、IPS、OCBモードと組み合わせたTFT表示やより明るい表示を得るためにECBモードの反射型が提案されている。この様な表示素子に対応するために、現在も新しい液晶化合物あるいは液晶組成物の提案がなされている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
ツイステッドネマチック液晶表示素子(TN-LCD)やスーパーツイステッドネマチック液晶表示素子(STN-LCD)においては、表示の応答速度を高速化させるために低粘性化された液晶組成物への要望が強くなっている。また低温領域から高温領域まで広い動作温度範囲を可能にするためにネマチック温度範囲の広い液晶組成物が要求されている。
【0004】
低粘性液晶組成物は、Δn値の小さいシクロヘキサン環で構成されたビシクロヘキサン誘導体等の含有率を大きくすることで得ることができる。しかし、これらの化合物はスメクチック性が高く、ビシクロヘキサン系化合物の含有率を大きくした場合、ネマチック相下限温度(T-n)を低くすることが困難であり、広いネマチック温度範囲を有する液晶組成物を得ることが困難であった。
【0005】
比較的低粘性である液晶組成物は既に知られており、好ましい化合物の具体例が開示されている(特許文献3)。またビシクロヘキサン誘導体とフェニルビシクロヘキサン誘導体を組み合わせた屈折率異方性の小さい液晶組成物も既に知られており、好ましい化合物の具体例が開示されている(特許文献4)。しかしながら、これら組成物の粘性は十分に低いものではなかった。又、ビニル、プロピルビシクロヘキサンを用いた液晶組成物についても既に開示されている(特許文献5参照)。しかし、当該引用文献において記載される液晶組成物は誘電率異方性が正のものであり、性質の全く異なる誘電率異方性が負の液晶組成物に関する開示は全くない。
一方、誘電率異方性が負の液晶材料として、以下のような2,3-ジフルオロフェニレン骨格を有する液晶化合物(特許文献6及び7参照)が開示されている。
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、R及びR’は炭素数1から10のアルキル基又はアルコキシ基を表す。)
しかし、当該引用文献に記載される化合物のみで構成される誘電率異方性が負の液晶組成物は、液晶テレビ等の高速応答が要求される液晶組成物においては十分に低い粘性を実現するに至っていない。
以上のことから、液晶相温度範囲が広く、粘性が低い誘電率異方性が負の液晶組成物を得ることは困難であった。
【0008】
【特許文献1】特開平2−233626号公報
【特許文献2】特公表4−501575号公報
【特許文献3】特許第2882577号公報(32頁の例28)
【特許文献4】特開平10−259377(17頁の例A〜D)
【特許文献5】特開2006−328399号
【特許文献6】特開昭60−199840号
【特許文献7】特開平2−4725号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、液晶相温度範囲が広く、粘性が低く、誘電率異方性が負のアクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物を提供すること、また、この液晶組成物を使用した動作温度範囲が広いアクティブマトリクス型液晶表示素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、第一成分として構造式(1)、
【0011】
【化2】

で表される化合物を20〜65%含有し、ネマチック−アイソトロピック転移温度が68℃〜120℃であり、クリスタル又はスメクチック−ネマチック転移温度が-80℃〜-20℃であり、屈折率異方性Δnが0.05〜0.15であり、誘電率異方性Δεが-2.0〜-8.0であることを特徴とするアクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物及び当該液晶組成物を構成部材とする液晶表示素子を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の液晶化合物の組み合わせによって、非常に粘性が低く、低温で安定したネマチック相を持ち、液晶相温度範囲が広く、広い範囲で屈折率異方性(Δn=0.05〜0.15)を調整でき、かつ信頼性に優れたアクティブマトリクス型液晶表示素子用液晶組成物が得られた。この組成物を用いることにより、動作温度範囲が広いアクティブマトリクス型液晶表示素子が提供され、反射または半透過モード等の液晶ディスプレイとして非常に実用的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本願発明における液晶組成物において、第一成分として構造式(1)で表される化合物の含有率は20〜65%であるが、25〜50質量%の範囲であることが好ましい。
【0014】
組成物の物性値を調整するために第二成分としてとして一般式(2)、一般式(3)及び一般式(4)
【0015】
【化3】

(式中、R1〜R6はそれぞれ独立して炭素数1〜15のアルキル基又は炭素数2〜15のアルケニル基を表し、この基は非置換であるか、あるいは置換基として少なくとも1個のハロゲン基を有しており、そしてこれらの基中に存在する1個又は2個以上のCH2基はそれぞれ独立してO原子が相互に直接結合しないものとして-O-、-S-、-CO-により置き換えられても良く、
B1〜B7はそれぞれ独立して
(a) トランス-1,4-シクロへキシレン基(この基中に存在する1個のCH2基又は隣接していない2個以上のCH2基は -O- 又は -S- に置き換えられてもよい。)
(b) 1,4-フェニレン基(この基中に存在する1個のCH2基又は隣接していない2個以上のCH2基は -N- に置き換えられてもよい。)
からなる群より選ばれる基を表し、上記の基(a)、基(b)はCH3又はハロゲンで置換されていても良く、
L1〜L7はそれぞれ独立して単結合、-CH2CH2-、-(CH2)4-、-COO-、-OCH2-、-CH2O-、-OCF2-、-CF2O-又は-C≡C-を表し、
m、n、o、p、q及びrはそれぞれ独立して0、1又は2を表し、m+nは0、1又は2を表し、o+p、及びq+rはそれぞれ独立して0、1、2又は3を表し、
X1〜X7はそれぞれ独立してH、F又はClを表す。) で表される化合物からなる群から選ばれる1種もしくは2種以上の化合物を含有することが好ましい。これらの化合物を含有する場合、1種〜15種が好ましく、3種〜10種がより好ましく、5種〜10種がさらに好ましい。又、これらの化合物からなる群の含有率は、20〜70質量%の範囲であることが好まく、30〜60質量%の範囲であることがより好ましい。
【0016】
一般式(2)、一般式(3)又は一般式(4)において、R1〜R6は炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のアルキル基中に存在する1個のCH2基が-O-により置き換えられたものが好ましく、未置換の直鎖状炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数2〜8のアルキル基中に存在する1個のCH2基が-O-により置き換えられたものがより好ましく、アルケニル基では以下の式(a)〜(e)の構造がさらに好ましい。
【0017】
【化4】

(構造式は右端で環に連結しているものとする。)
【0018】
B1〜B7はトランス-1,4-シクロへキシレン基、1,4-フェニレン基、3-フルオロ-1,4-フェニレン基又は3,5-ジフルオロ-1,4-フェニレン基が好ましく、1,4-フェニレン基又はトランス-1,4-シクロへキシレン基がより好ましいL1〜L7は、単結合、-CH2CH2-、-(CH2)4-、-COO-、-OCH2-、-CH2O-、-OCF2-、-CF2O-又は-C≡C-であるが、-CH2CH2-、-OCH2-、-CH2O-、又は単結合が好ましく、-CH2CH2-、-OCH2-、-CH2O-又は単結合がより好ましく、-OCH2-、-CH2O-又は単結合が特に好ましい。
【0019】
m、n、o、p、q及びrはそれぞれ独立して0、1又は2を表し、m+nは0、1又は2を表し、o+p及びq+rはそれぞれ独立して0、1、2又は3を表すが、m+nは1が好ましくo+p及びq+rは2が好ましい。X1〜X7はそれぞれ独立してH、F又はClを表すが、-H又は-Fが好ましい。
さらに詳述すると、一般式(2)の具体的な構造として以下の化合物が好ましい。
【0020】
【化5】

(式中R1及びR2はそれぞれ独立して、炭素数1〜15のアルキル基、アルコキシル基、炭素数2〜15のアルケニル基又は炭素数2〜15のアルケニルオキシ基を表す。)
一般式(3)の具体的な構造として以下の一般式で表される化合物が好ましい。
【0021】
【化6】

(式中R3及びR4はそれぞれ独立して、炭素数1〜15のアルキル基、アルコキシル基又は炭素数2〜15のアルケニル基を表す。)
一般式(4)の具体的な構造として以下の一般式で表される化合物が好ましい。
【0022】
【化7】

(式中R5及びR6はそれぞれ独立して、炭素数1〜15のアルキル基、アルコキシル基又は炭素数2〜15のアルケニル基を表す。)
【0023】
本発明において、ネマチック相-等方性液体相転移温度(TN-I)は70℃以上であることがより好ましい。固体相又はスメクチック相−ネマチック相転移温度(T→N)は-20℃以下であることが好ましい。25℃における誘電率異方性(Δε)が-2.0〜-8.0であることが好ましく、-3.0〜-5.0であることがより好ましい。25℃における屈折率異方性(Δn)が0.08〜0.13であることが好ましい。
【0024】
上記ネマチック液晶組成物は、液晶表示素子に有用であり、特にアクティブマトリクス駆動用液晶表示素子に有用であり、反射モードまたは半透過モード用液晶表示素子に用いることができる。
本発明のネマテチック液晶組成物は、上記の化合物以外に、通常のネマチック液晶、スメクチック液晶、コレステリック液晶などを含有してもよい。
【実施例】
【0025】
以下にを挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらのに限定されるものではない。また、以下のおよび比較例の組成物における「%」は『質量%』を意味する。
TN-I :ネマチック相−等方性液体相転移温度(℃)を液晶相上限温度とする
T→N :固体相又はスメクチック相−ネマチック相転移温度(℃)を液晶相下限温度
とする。
Δε :誘電率異方性
Δn :屈折率異方性
η :粘性
HR :70℃での保持率(%)(セル厚3.5μmのVA-LCDに注入し、5V印加、フレームタ
イム16.7ms、パルス幅64μsで測定したときの測定電圧と初期印加電圧との
比を%で表した値。)
化合物記載に下記の略号を使用する。
末端のn(数字) CnH2n+1-
-2- -CH2CH2-
-1O- -CH2O-
-O1- -OCH2-
-On -OCnH2n+1
ndm- CnH2n+1-C=C-(CH2)m-1-
【0026】
【化8】

【0027】
(実施例 1〜2) 液晶組成物の調整
以下に示すネマチック液晶組成物(No.1)及び(No.2)を調整しその物性値を測定し、その結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
1〜2のネマチック液晶組成物(No.1)〜(No.2)特性は、ネマチック相-等方性液体相転移温度(TN-I)、固体相又はスメクチック相−ネマチック相転移温度(T→N)、誘電率異方性(Δε)、屈折率異方性(Δn)全ての特性において所望の値を示した。また粘性も低く、パネルの応答速度も良好であり、さらに電圧保持率の値も良好であり、高い信頼性を示した。
【0030】
(比較例1〜2) 液晶組成物の調整
比較例として以下に示すネマチック液晶組成物(R1)〜(R2)を調整しその物性値を測定し、その結果を表2に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
比較例1〜比較例2は第一成分を含まないものだが、実施例と比較して粘性が高いものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一成分として構造式(1)、
【化1】

で表される化合物を20〜65%含有し、ネマチック−アイソトロピック転移温度が68℃〜120℃であり、クリスタル又はスメクチック−ネマチック転移温度が-80℃〜-20℃であり、屈折率異方性Δnが0.05〜0.15であり、誘電率異方性Δεが-2.0〜-8.0であることを特徴とするネマチック液晶組成物。
【請求項2】
構造式(1)で表される化合物を25〜50%含有することを特徴とする請求項1記載のネマチック液晶組成物。
【請求項3】
第二成分としてとして一般式(2)、一般式(3)及び一般式(4)
【化2】

(式中、R1〜R6はそれぞれ独立して炭素数1〜15のアルキル基又は炭素数2〜15のアルケニル基を表し、この基は非置換であるか、あるいは置換基として少なくとも1個のハロゲン基を有しており、そしてこれらの基中に存在する1個又は2個以上のCH2基はそれぞれ独立してO原子が相互に直接結合しないものとして-O-、-S-、-CO-により置き換えられても良く、
B1〜B7はそれぞれ独立して
(a) トランス-1,4-シクロへキシレン基(この基中に存在する1個のCH2基又は隣接していない2個以上のCH2基は -O- 又は -S- に置き換えられてもよい。)
(b) 1,4-フェニレン基(この基中に存在する1個のCH2基又は隣接していない2個以上のCH2基は -N- に置き換えられてもよい。)
からなる群より選ばれる基を表し、上記の基(a)、基(b)はCH3又はハロゲンで置換されていても良く、
L1〜L7はそれぞれ独立して単結合、-CH2CH2-、-(CH2)4-、-COO-、-OCH2-、-CH2O-、-OCF2-、-CF2O-又は-C≡C-を表し、
m、n、o、p、q及びrはそれぞれ独立して0、1又は2を表し、m+nは0、1又は2を表し、o+p、及びq+rはそれぞれ独立して0、1、2又は3を表し、
X1〜X7はそれぞれ独立してH、F又はClを表す。) で表される化合物からなる群より選ばれる1種もしくは2種以上の化合物を含有することを特徴とする請求項1記載のネマチック液晶組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のネマチック液晶組成物を用いた液晶表示素子。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のネマチック液晶組成物を用いたアクティブマトリックス液晶表示素子。

【公開番号】特開2008−308581(P2008−308581A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157594(P2007−157594)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】