説明

液晶表示装置および液晶表示装置の駆動制御方法

【課題】精度よくフリッカを検出するためのテストパターンを、ユーザーに認識されないように遮光した際に、温度上昇を抑えた液晶表示装置を提供する。
【解決手段】光源と、光源からの光を変調し、画像を表示する液晶表示素子と、前記液晶表示素子で変調された光を遮光する遮光手段と、液晶表示素子で変調した光を利用する表示画像検出手段と、前記表示画像検出手段の出力に基づいて前記液晶表示素子の駆動条件を変更する表示画像制御手段からなり、光量が異なる複数のモードを持ち、前記遮光手段によって遮光された状態、かつ、
前記複数のモードのうち光量が少ない所定のモードにおいて表示画像制御手段による制御が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置に関してであり、特に液晶プロジェクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、投射型表示装置の画像変調手段として液晶表示素子を用いた液晶プロジェクタがある。液晶プロジェクタに用いる液晶表示素子としては、例えば共通電極を有する第1の透明基板と、画素を形成する透明電極及び配線,スイッチング素子等を有する第2の透明基板との間に誘電異方性が正のネマチック液晶を封入する。そして、液晶分子長軸を2枚のガラス基板間で連続的に90°ねじった、いわゆるTN(Twisted Nematic)液晶表示素子が用いられている。また、このような透過型の液晶表示素子の他に、共通電極を有する透明基板と、一方の基板に反射電極と配線、スイッチング素子等有する回路基板との間に誘電異方性が負のネマチック液晶を封入する。そして、液晶分子長軸を2枚の基板間に対してほぼ垂直にホメオトロピック配向させた、いわゆるVAN(Vertical Alignment Nematic)液晶型の反射型液晶表示素子を用いるものもある。
【0003】
液晶表示素子としては、ECB(Electrically Controlled Birefringence)効果を利用し、液晶層を通過する光波動に対してリタデーションを与えて、光波動の偏光状態を変化させる作用(変調)を制御して画像を形成する方法が主に用いられる。
【0004】
一般的な液晶表示素子の設計は、入射光をポラライザ等の偏光制御手段を介して波動の偏波を所定方向の直線偏光状態にした光波動を入射させ、この所定方向に振動する直線偏光状態の光が通過するときに、偏光変調を行う。例えばノーマリーホワイトを基準とする液晶表示素子は、液晶層へ電圧無印加状態で、入射光波長(ある光波長帯域の重心波長)において半波長だけのリタデーションを与えるよう設計されている。また、ノーマリーブラックを基準とする液晶表示素子は、液晶層へ電圧無印加状態で、入射光波長において与えるリタデーションを極小とし、液晶層へ所定電圧を印加した状態にて半波長だけのリタデーションを与えるよう設計されている。半波長のリタデーションを与えられた光は、入射する前の直線偏光の振動方向と直角の方向に振動方向が変換されて出射することとなる。その後、入射側に配された偏光制御手段とクロスニコル配置をとるポラライザ等の偏光制御手段を出射側に配することで偏光状態を選択し、選択された光は透過することとなるよう構成されている。
【0005】
この設計に対して、ECB効果を用いて、液晶層に印加する電圧を制御すると、液晶分子はチルト動作を起こし、液晶層厚方向の複屈折量が減少または増加する。そのため、液晶層を通過した光波動は、液晶層印加電圧に応じて楕円偏光状態となり、光出射側に配された偏光制御手段によって、振動方向が直交変換されなかった光成分が遮断されて、入射光の強度を変調するように構成されている。
【0006】
しかし、このECB効果を用いて光強度を変調する液晶表示素子においては、液晶層に電圧(電界、電位差)を印加するため、液晶層に存在するイオン性物質が移動する。もし直流電圧を液晶層に与え続けると、イオン性物質が対向する2つの電極のどちらかに引き寄せられてしまう。そうすると、液晶層に与えられた電圧の一部が移動したイオン性物質によって形成される電圧によって相殺されてしまい、所望の強度の電圧を液晶層に与えられなくなってしまう。
【0007】
この問題を避けるために、一般的には以下のような方法が用いられる。例えば、配列画素のラインごとに印加する電圧の正負極性を反転して特定の周波数で切り替えるライン反転ドライブ方法、配列画素の全てに印加する電圧の正負極性を特定の周波数で反転するフィールド反転ドライブ方法等である。このように液晶層にかかる電圧が一定の極性にならないようにして、イオン性物質の偏在(液晶層内のイオン性物質による電圧の発生)を防止している。
【0008】
しかしながら、液晶層へ印加する実効電圧(以後液晶層へ印加される実質的な電圧を実効電圧と称する)が変動する要因としては、上記のイオン性物質の移動だけは無い。例えば、絶縁体の非導電性膜(液晶配向膜、反射増強膜、金属溶出防止用の無機パッシベーション膜等)において、電子やホールの電荷そのものがトラッピングされることがある。電子やホールがトラップされてしまうと、膜の界面がチャージアップを引き起こし、この静電帯電によって液晶層への実効電圧が変化してしまうことがある。このように静電帯電が発生してしまった場合、前述の反転ドライブ方法で液晶表示素子を駆動すると、正の電位差(電圧)の絶対値と負の電位差(電圧)の絶対値との間の差が大きくなってしまい、フリッカが発生してしまう。
【0009】
つまり、正の電位差を付与した時の明るさと負の電位差を付与した時の明るさとが互いに異なるようになってしまい、反転ドライブ周波数で明るい画像と暗い画像とが交互に表示されるという現象(フリッカ)が発生する。この現象(フリッカ)は、一般的な120Hzで反転するフィールド反転ドライブ方法では、正の電位差の絶対値と負の電位差の絶対値との差が200mV以上になると人の目で視認できると言われている。
【0010】
例えば、特許文献1では、液晶表示装置内に輝度センサを投射光学系に入射しない変調光の光路上に配置し、液晶表示素子の変調光の輝度を検出させ、その輝度の最大値と最小値の差分をフリッカ値として求め、共通電極電圧を変化させ、最小フリッカ値に対応する電圧を設定する方法が提示されている。また、その調整を電源OFF時に実行する方法が提示されている。
【0011】
特許文献2では、合成プリズムと投射レンズ間に色合成された画像光の輝度を波長域毎に検出する複数の輝度センサ部を配置し、輝度センサの出力に基づいてフリッカが最小となるように、共通電極電圧の大きさを調整する方法が提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005-221569号公報
【特許文献2】特開2008-26613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述の特許文献に開示された従来技術では、検出するためのテストパターンの1例として50%ハーフトーン階調を用いることが挙げられている。しかしながら、例えば精度を上げるために表示領域全域を赤、緑、青などの均一階調を順次表示して調整を行うと外部に投影されてしまい不快感を与えてしまう。一方で上記テストパターン表示前に可動式の遮光部により光を遮るとプロジェクタ等の拡大投影装置においては遮光部に照射される光エネルギーが強いために熱源となり周辺部品の劣化に繋がってしまう。
【0014】
そこで、本発明の目的は、精度よくフリッカを検出するためのテストパターンを、ユーザーに認識されないように遮光した際に、温度上昇を抑えた液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の液晶表示装置は、
光源と、光源からの光を変調し、画像を表示する液晶表示素子と、
前記液晶表示素子で変調された光を遮光する遮光手段と、
液晶表示素子で変調した光を利用する表示画像検出手段と、
前記表示画像検出手段の出力に基づいて前記液晶表示素子の駆動条件を変更する表示画像制御手段からなり、
光量が異なる複数のモードを持ち、
前記遮光手段によって遮光された状態、かつ、
前記複数のモードのうち光量が少ない所定のモードにおいて
表示画像制御手段による制御が行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、
液晶表示装置においてフリッカを調整する際に、精度よく調整しながらテストパターンをユーザーに認識されないために遮光する際の温度上昇を抑えることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施例の画像調整手段を示すフローチャートである。
【図2】本発明の液晶表示装置の構成図である。
【図3】液晶表示素子の構成を示す断面図である。
【図4】フリッカの発生していない場合の液晶表示素子にかかる実行電圧とその変調光の波形である。
【図5】フリッカの発生している場合の液晶表示素子にかかる実行電圧とその変調光の波形である。
【図6】本発明の第1実施例による液晶表示装置の液晶表示素子の駆動制御部の構成図である。
【図7】光量調整手段の正面図である。
【図8】表示画像検出手段より取得した、フリッカが検出されている液晶表示素子の変調光の光応答波形である。
【図9】液晶表示素子に印加する共通電極電圧と、その電圧でのフリッカ量の相関性を示す図である。
【図10】本発明の第2の実施例の画像調整手段を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[実施例1]
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施例である液晶表示装置1を説明する。ここで、図2は、液晶表示装置1を示す構成図である。
【0019】
液晶表示装置1は、画像をスクリーン200に表示する機能を有する。液晶表示装置1は、本実施例では、反射型液晶表示素子(反射型液晶表示素子等の画像形成素子)を搭載した投射型液晶表示装置である。液晶表示装置1は、筐体1aと、ランプ10と、照明光学系20と、色分解合成光学系30と、投射レンズ光学系40と、液晶表示素子50と、記憶部60と、制御部70と、表示画像検出手段80と、光量調整手段90と、遮光手段91を有する。
【0020】
筐体1aは、液晶表示装置1を構成する部材を固定し収納する。筐体1aは、本実施例では、矩形状の立方体である。
【0021】
ランプ10は、光を生成する機能を有する。ランプ10は、発光管11と、リフレクタ12とを有する。この場合、γは、液晶表示装置1の光軸である。
【0022】
発光管11は、連続スペクトルで、白色光を発光する機能を有する。発光管11は、図示しない電源供給部によって電源を供給している。
【0023】
リフレクタ12は、発光管11からの光を所定の方向に集光する機能を有する。そのため、リフレクタ12は、反射率の高いミラー等によって構成されており、半球形状を有する。
【0024】
照明光学系20は、ランプ10からの光を色分解合成光学系30に伝達する機能を有する。照明光学系20は、シリンダアレイ21及び22と、紫外線吸収フィルタ23と、偏光変換素子24と、フロントコンプレッサ25と、全反射ミラー26と、コンデンサーレンズ27と、リアコンプレッサ28とを有する。
【0025】
シリンダアレイ21及び22は、カメラ、検出器、走査装置内等に組み込まれている感光素子の複合体である。シリンダアレイ21は、光軸γに対して垂直方向に屈折力を有するレンズアレイである。シリンダアレイ22は、シリンダアレイ21の個々のレンズに対応したレンズアレイを有する。本実施例では、シリンダアレイ21は、ランプ10の前方に配置され、シリンダアレイ22は、後述する紫外線吸収フィルタ23の前方に配置される。
【0026】
紫外線吸収フィルタ23は、紫外線を吸収する機能を有する。紫外線吸収フィルタ23は、シリンダアレイ21とシリンダアレイ22との間に配置される。
【0027】
偏光変換素子24は、無偏光光を所定の偏光光に変換する機能を有する。偏光変換素子24は、シリンダアレイ22の前方に配置される。
【0028】
フロントコンプレッサ25は、水平方向において屈折力を有するシリンドリカルレンズで構成されている。フロントコンプレッサ25は、偏光変換素子24の前方に配置される。
【0029】
全反射ミラー26は、ランプ10からの光を反射する機能を有する。全反射ミラー26は、本実施例では、光軸を90度変換する。全反射ミラー26は、フロントコンプレッサ25の前方に配置される。
【0030】
コンデンサーレンズ27は、ランプ10からの光を集め、投影レンズの瞳内に光源の像を結ばせることによって、物体を均等に照明する。コンデンサーレンズ27は、全反射ミラー26の前方に配置される。
【0031】
リアコンプレッサ28は、水平方向において屈折力を有するシリンドリカルレンズで構成されている。リアコンプレッサ28は、コンデンサーレンズ27の前方に配置されている。
【0032】
光量調整手段90は図7に示すような菱形の開口部を持った遮光部材であり、制御部70からの信号に応じて位置を変更し、色分解合成系30に入射する光量を調整する作用を持つ。
【0033】
色分解合成光学系30は、ランプ10からの光を分解及び合成する機能を有する。色分解合成光学系30は、ダイクロイックミラー31と、偏光板32と、偏光ビームスプリッター33と、1/4波長板35と、色選択性位相差板36とを有する。
【0034】
ダイクロイックミラー31は、青(B)と赤(R)の波長領域の光を反射し、緑(G)の波長領域の光を透過する。ダイクロイックミラー31は、リアコンプレッサ28の前面に配置される。
【0035】
偏光板32は、S偏光光のみを透過させる機能を有する。偏光板32は、偏光板32a、32b及び32cとを有する。偏光板32aは、透明基板に偏光素子を貼り合わせた緑用の入射側偏光板であり、S偏光光のみ透過する。偏光板32aは、ダイクロイックミラー31の前方に配置されている。偏光板32bは、透明基板に偏光素子を貼り合わせた赤青用の入射側偏光板であり、S偏光光のみ透過する。偏光板32bは、ダイクロイックミラー31の前方に配置されている。偏光板32cは、透明基板に偏光素子を貼り合わせた赤青用の出射側偏光板(偏光素子)であり、S偏光のみを透過する。
【0036】
偏光ビームスプリッター33は、P偏光光を透過し、S偏光光を反射する。偏光ビームスプリッター33は、偏光分離面を有する。偏光ビームスプリッター33は、偏光ビームスプリッター33a、33b及び33cを有する。偏光ビームスプリッター33aは、P偏光光を透過し、S偏光光を反射する。偏光ビームスプリッター33aは、偏光板32aの前面に配置される。偏光ビームスプリッター33bは、P偏光光を透過し、S偏光光を反射する。偏光ビームスプリッター33bは、色選択性位相差板36aの前面に配置される。偏光ビームスプリッター33cは、P偏光光を透過し、S偏光光を反射する。偏光ビームスプリッター33cは、偏光ビームスプリッター33aの前面に配置される。
【0037】
1/4波長板35は、位相差を与える機能を有する。1/4波長板35は、1/4波長板35R、35G及び35Bとを有する。1/4波長板35Rは、偏光ビームスプリッター33bと後述する液晶表示素子50Rとの間に配置される。1/4波長板35Gは、偏光ビームスプリッター33aと後述する液晶表示素子50Gとの間に配置される。1/4波長板35Bは、偏光ビームスプリッター33bと後述する液晶表示素子50Bとの間に配置される。
【0038】
色選択性位相差板36は、特定の光の偏光方向を90度変換する機能を有する。色選択性位相差板36aは、青色の光の偏光方向を90度変換し、赤色の光の偏光方向は変換しない。色選択性位相差板36aは、偏光板32bと偏光ビームスプリッター33bとの間に配置される。色選択性位相差板36bは、赤色の光の偏光方向を90度変換し、青色の光の偏光方向は変換しない。色選択性位相差板36bは、偏光板32cと偏光ビームスプリッター33bとの間に配置される。
【0039】
遮光手段91は色分離合成系30と投射レンズ光学系40の間に配置され、制御部70からの信号に応じて、投射レンズ光学系40への入射光を遮断するかを選択する作用を有する。
【0040】
投射レンズ光学系(投射手段)40は、照明光学系20及び色分解合成光学系30を介したランプ10からの光を照射する。投射レンズ光学系40は、鏡筒40aに図示しない複数の光学素子で構成されている。
【0041】
液晶表示素子50は、ランプ10からの光を反射すると共に画像を変調する機能を有する。液晶表示素子50は、液晶表示素子50R、50G及び50Bとを有する。また、液晶表示素子50(50R、50G及び50B)は、図3に示すように、対向基板51と、液晶材料(液晶層)55と、駆動基板56とから構成される。ここで、図3は、液晶表示素子50の構造を示す断面図である。
【0042】
ここで、画像表示を行う際の液晶表示素子の駆動について簡単に説明する。本実施例の液晶表示装置は、1/60秒周期(1フレーム)ごとに表示する画像を変化させることが可能であり、1/60秒ごとの画像信号が液晶表示素子に入力される。その際、本実施例の液晶表示装置は、同一の画像信号に基づいて、同じ大きさの正の電圧と負の電圧を1/120秒周期(1フィールド)で液晶層に印加することによって、画像を表示する。すなわち、1/60秒周期の1フレームの画像信号に基づいて、1/120秒周期で液晶層に対して正の電圧を印加して1フィールドの画像を表示し、その後液晶層に同じ大きさの負の電圧を印加して1フィールドの画像を表示する駆動を行っている。このような駆動を行う場合、本来同じ大きさである正の電圧(液晶層に印加される実効電圧、有効電界)と負の電圧との差がある一定値を超えて大きい場合には、フリッカが大きくなり、人間の目にも見えてしまう。
【0043】
但し、本発明においては、上述のような駆動ばかりではなく、1フレーム=1フィールドとして液晶表示素子を駆動しても構わない。すなわち、1/60秒に対応する画像信号ごとに(1/60秒ごとに)液晶表示素子に印加する電圧を正と負とで入れ替えるように制御しても構わない。その場合、同一の画像を長時間表示する(或いは徐々に変化するような変化が小さい画像を表示する)と、フリッカが人間の目にも見え易くなってしまう。
【0044】
尚、このような駆動を行う場合の、後述する液晶層に印加される実効電圧、つまり液晶層に実際に印加される電圧の正の電圧の絶対値と負の電圧の絶対値は、同一画像を表示し続ける状態での両者の絶対値の差と考える。また、本実施例において、「フリッカ」と言う言葉は、人間の目に見える程度のものだけではなく、人間の目には見えない小さな輝度変化もフリッカと称することとする。
【0045】
以下、図4(a)乃至図5(b)を参照して、フリッカの発生する原理を説明する。ここで、図4(a)は、液晶層55に印加される実効電圧の時間変化を表すグラフであり、図4(b)はそれに対応する輝度の時間変化を示すグラフである。図5(a)は、フリッカが発生している状態の液晶層に印加される実効電圧の時間変化を表すグラフであり、図5(b)はそれに対応する輝度の時間変化を示すグラフである。
【0046】
まず、液晶層55の共通電極53側の端部における電位(又は電圧)をα、液晶層55の画素電極58側の端部における電位(又は電圧)をβとする。ここで、電位βは、電位αに対して相対的に正の値である場合と負の値である場合とがある。電位βが正の値である場合に、液晶層55に印加される電位差(つまり”β−α”)と、電位βが負の値である場合に液晶層55に印加される電位差(つまり“α−β”)とが互いに等しければフリッカは発生しない。
【0047】
但し、液晶表示素子内の様々な帯電現象によって、液晶層55に印加される実効電圧(有効電界)と、両電極間に印加される電圧とが互いに異なる場合がある。つまり、共通電極の電位と液晶層の共通電極側の端部の電位とが互いに異なっていたり、画素電極の電位と液晶層の画素電極側の端部の電位とが互いに異なっていたり、共通電極、画素電極、その他の液晶表示素子の構成部材が帯電していたりする場合がある。このような現象は、液晶表示装置、特に液晶表示素子に照射される光が強い液晶プロジェクタにおいて、顕著に発生する。ここでの帯電現象とは、液晶表示素子内のイオン性物質の移動や構成要素の帯電現象等のことを総称することとする。
【0048】
ここで、図4(a)にフリッカが発生していない状態での液晶表示素子50の液晶層に対する実効電圧の波形を示す。このように、実効電圧が正側と負側とで互いに等しくなっていると、図4(b)に示したように画像の明るさが等しくなり、フリッカは発生しない。
【0049】
次に、図5(a)に実効電圧が正側と負側とで非対称になった(異なる)とき、つまりフリッカが発生しているときの実行電圧の波形を示す。このように、実効電圧が非対称になっていると、図5(b)に示したように、駆動周期毎に明るさが変化してしまい、フリッカが発生する。
【0050】
また、イオン性物質の移動や基板界面の膜の帯電は、液晶表示素子50の表示領域全面渡って均一ではない。そのため、表示領域のエリアによってフリッカを抑制する為の共通電極53の電位は異なっている。
【0051】
従来の液晶表示装置において、出荷時にはフリッカが発生しないように、実効電圧が正側と負側とで互いに等しくなるよう調整している。つまり、共通電極の電位、もしくは画素電極の電位を各々調整することで、フリッカを抑制するように駆動条件を調整していた。
【0052】
しかしながら、液晶表示装置、特に液晶プロジェクタにおいて、使用していくとイオン性物質の偏在やチャージアップが蓄積されることによって、実効電圧の非対称性、すなわちフリッカが発生してしまう。
【0053】
本実施例として、図6に構成図を記載する。液晶表示装置1に図示しない入力機器より画像が入力され、その画像を液晶表示素子50にて表示を行う。液晶表示素子50にて画像を表示する方法として、入力機器からの画像の入力信号(Vsig)を駆動手段にて液晶表示素子50に最適な駆動信号(Lcsig)にて、駆動させ、画像を表示する。駆動信号(LCsig)には、液晶表示素子50の画素電極に印加する信号電圧と共通電極に印加する共通電極電圧などが含まれる。
【0054】
表示画像検出手段80として、液晶表示素子50にて変調した光を検出するための、光センサと光センサの出力よりノイズ成分を除去するためのフィルタ、フィルタを通過した出力をデジタル値に変換するAD変換器を有する。表示画像調整手段73よりLCsigの共通電極電圧を変化させ、光センサの出力波形を取得する。
【0055】
また、図2に示すように、偏光ビームスプリッタ33cの横に表示画像調整手段80を配置する。この位置に配置することによって、投射画像を遮ることなく、液晶表示素子50の変調した光を取得することができる。
【0056】
ここで、図1に記載のフローチャートに沿って、本実施例の動作を説明する。ユーザーが電源をOFFにする動作を行う(step1)。そして、表示画像調整手段73にて液晶表示素子50に黒を表示するように、駆動手段74に命令を出す(step2)。制御部70からの信号により遮光手段91で遮光すると共に、光量調整手段90により色分離合成系30への光量が最低の状態となるようにする(step3、step4)。表示画像調整手段73にてフリッカを調整するためのテストパターンを表示するよう、駆動手段74に命令を出し、液晶表示素子50に駆動信号(LCsig)を印加する(step5)。
【0057】
表示画像検出手段80にて、液晶表示素子50の変調光の出力波形を検出する。その検出した出力波形からフリッカ量を検出し、記憶部60に記憶する(step6)。フリッカ量の解析手法としては、出力波形の振幅をフリッカ量(LVflk)として規定する。表示画像検出手段80にて検出するフリッカ量が略最小となるまで、表示画像調整手段73にて共通電極電圧を変化させる。その際、図9に示すように共通電極電圧(Vcom)を変化させた時のフリッカ量(LVflk)を記憶し、フリッカ量が最小となる共通電極電圧の条件を求める(step7)。フリッカを低減させるためのLCsigの変更手段としては、共通電極電圧を変化させることが一般的であるが、画素電極に印加する信号電圧を変化させても良い。
【0058】
そして、表示画像調整手段73にて求めたフリッカを低減させるための共通電極電圧を、駆動手段74より液晶表示素子50に印加するよう、表示画像調整手段73にて設定を行う。(Step8)
制御部70の指示によりランプ10を消灯させる動作を行う(Step9)。そして、液晶表示装置1の電源を確実にOFFさせる。
【0059】
前述したフリッカ量の解析手法に関して、以下に詳しく説明する。フリッカを低減させるためのテストパターンの変更手段としては、液晶表示素子50の共通電極電圧を変化させることが一般的である。従って、フリッカ調整用のテストパターンとして、最もフリッカを検出しやすい明るさ50%付近のベタ画像を表示し、その時の共通電極電圧を変化させる。その時の表示画像検出手段80より取得した出力波形を図8に示す。共通電極電圧を変化させると、この出力波形の振幅が異なる。この出力波形の振幅をフリッカ量として評価する。そして、テストパターン表示時の共通電極電圧と出力波形の振幅の関係を図9に示す。この関係より、フリッカ量が略最小となる共通電極電圧を求める。
【0060】
上記のフローチャートに従えば、液晶表示放置を使用する際にフリッカ調整用の画像を投影することなく、精度のよいフリッカ調整ができる。
【0061】
また、光センサの出力より、液晶表示素子50の駆動周波数成分をフーリエ変換にて抽出し、その周波数成分の強度をフリッカ量(LVflk)としてもよい。
【0062】
また、フリッカ制御手段にて液晶表示素子50のフリッカが低減する駆動手段を求める方法として、本実施例では、表示画像調整手段より液晶表示素子50の共通電極電圧を変化させ、その時のフリッカ量(LVflk)を計測し、フリッカ量が小さくなる共通電極電圧を求めたが、この方法だけに限定されず、例えば、画素電極電圧を変化させて、フリッカ量が小さくなる共通電極電圧を求めても良い。
【0063】
また、共通電極電圧を一方向から変化させ、フリッカ量が小さくなる共通電極電圧を求めても良い。さらには、共通電極電圧を2つの異なる電圧にした時フリッカ量と、共通電極電圧とフリッカ量の近似曲線式をフィッティングさせることで、フリッカ量が小さくなる共通電極電圧を求めても良い。
【0064】
なお、表示画像検出手段80を配置する場所は、偏光ビームスプリッタ33cの横に限らず、液晶表示素子50の変調後の光を検出できる箇所であればどこでもよい。
【0065】
例えば、投射レンズ40の内部に設置しても良いし、不要光を遮光するためのマスク等に取り付けても良い。また、液晶表示装置の投射画像を遮るシャッターや、投射レンズ40のカバーに設置しても良い。
【0066】
また、遮光手段91を配置する場所は、色分離合成系30と投射レンズ40の間に限定されるものではない。
【0067】
例えば、投射レンズ40の内部に配置してもよいし、投射レンズ40のカバーに配置してもよい。表示画像検出手段80の配置がいずれの場合においても、遮光手段91は液晶表示素子50への入射光を遮ることなく、スクリーン200側に投影されないように遮光出来る位置であればよい。
【0068】
また、液晶表示装置1の電源ONから電源OFFまでの時間が短い場合には、本表示画像調整を行わないようにすることが好ましい。これは、液晶表示素子50の電気光学特性が安定するまでには時間がかかることが知られており、電気光学特性が安定する前に表示画像調整を行ってしまうと、逆に不適切な調整をされてしまう可能性があるためである。
【0069】
本実施例においては光量調整手段90の移動により光量を調整しているが、それに限定されるものではない。例えば複数の光源からなる液晶表示装置において、使用している光源の個数を減らすことで光量を調整してもよい。
【0070】
また、光による温度上昇の観点からは光量が最低になる状態とすることが好ましいが、一定の基準以下の光量になるように光量が調整されていればよい。
【0071】
[実施例2]
実施例1においては液晶表示装置の電源オフの時に調整が行われる場合を示したが、本実施例では電源オフ時以外に調整行程を持つ場合についてフローチャートと共に説明する。
【0072】
なお、調整を行うために必要となる光学系、駆動系等の構成は実施例1と同様のため省略する。
【0073】
図11に記載のフローチャートに従って本実施例の動作を説明する。
【0074】
ユーザーが調整モードを開始する動作を行う(step1)。そして、表示画像調整手段73にて液晶表示素子50に黒を表示するように、駆動手段74に命令を出す(step2)。制御部70からの指示により遮光手段91で遮光すると共に、光量調整手段90により色分離合成系30への光量が最低の状態となるようにする(step3、step4)。表示画像調整手段73にてフリッカを調整するためのテストパターンを表示するよう、駆動手段74に命令を出し、液晶表示素子50に駆動信号(LCsig)を印加する(step5)。
【0075】
表示画像検出手段80にて、液晶表示素子50の変調光の出力波形を検出する。その検出した出力波形からフリッカ量を検出し、記憶部60に記憶する(step6)。フリッカ量の解析手法としては、出力波形の振幅をフリッカ量(LVflk)として規定する。表示画像検出手段80にて検出するフリッカ量が略最小となるまで、表示画像調整手段73にて共通電極電圧を変化させる。その際、図9に示すように共通電極電圧(Vcom)を変化させた時のフリッカ量(LVflk)を記憶し、フリッカ量が最小となる共通電極電圧の条件を求める(step7)。フリッカを低減させるためのLCsigの変更手段としては、共通電極電圧を変化させることが一般的であるが、画素電極に印加する信号電圧を変化させても良い。
【0076】
そして、表示画像調整手段73にて求めたフリッカを低減させるための共通電極電圧を、駆動手段74より液晶表示素子50に印加するよう、表示画像調整手段73にて設定を行う(Step8)。さらに表示画像調整手段73にて液晶表示素子50に黒を表示するように、駆動手段74に指示を出す(step9)。制御部70の指示により遮光手段91での遮光を終了し、画像が投影されるようにする(Step10)。
【0077】
上記のフローチャートに従えば、液晶表示放置を使用する際にフリッカ調整用の画像を投影することなく、精度のよいフリッカ調整ができる。さらには、調整終了後にはすぐに投影可能な状態とするものである。
【0078】
なお、上記フローチャート内で黒を表示するとしたが、例えばstep2において黒を背景とした画面に「調整開始」と文字を表示してユーザーに調整モードに入ることを認識させてもよい。あるいはstep9において黒を背景とした画面に「調整終了」と表示することで調整期間を知らせてもよいし、調整開始と終了を共に知らせてもよい。また、黒を背景にすることには限定されず、温度上昇が大きくない範囲で例えば青を背景とするような画像を表示してもよい。
【0079】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれらの実施の形態に限定されず、その要旨の範囲内で様々な変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0080】
1 液晶表示装置
10 ランプ
20 照明光学系
・ 30 色分解合成光学系
40 投射レンズ光学系
50G G用液晶表示素子
50R R用液晶表示素子
50B B用液晶表示素子
70 制御部
73 表示画像調整手段
74 駆動手段
75 記憶部
80 表示画像検出手段
90 光量調整手段
91 遮光手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
光源からの光を変調し、画像を表示する液晶表示素子と、
前記液晶表示素子で変調された光を遮光する遮光手段と、
液晶表示素子で変調した光を利用する表示画像検出手段と、
前記表示画像検出手段の出力に基づいて前記液晶表示素子の駆動条件を変更する表示画像制御手段からなり、
光量が異なる複数のモードを持ち、
前記遮光手段によって遮光された状態、かつ、
前記複数のモードのうち光量が少ない所定のモードにおいて
表示画像制御手段による制御が行われることを特徴とする液晶表示装置。










【請求項2】
前記光量が少ない所定のモードが液晶表示素子に入射する光量が最も少ないモードであることを特徴とする
請求項1に記載の液晶表示装置。

























【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−155054(P2012−155054A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12724(P2011−12724)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】