説明

液晶装置および投射型表示装置

【課題】液晶分子のプレチルト方向に対応する向きに位相差補償素子を配置することにより、コントラストを向上することのできる液晶装置および投射型表示装置を提供すること。
【解決手段】投射型表示装置の液晶装置3Gにおいて、液晶パネル11Gとワイヤーグリッド偏光ビームスプリッター10との間にOプレート54およびCプレート53を配置する。液晶分子33Bの素子基板32側からみたときの傾き方向と、Oプレート54のカラムの液晶パネル11G側からみたときの傾き方向とは、ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッター10の透過軸を挟んで逆向きであり、135°の角度を成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶装置および投射型表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、正面から観察したときのコントラストに優れているとして、VA(Vertical Alignment)モードの液晶装置が注目されている。VAモードの液晶装置は、一対の基板間に液晶分子を略垂直に配向させた液晶層を備えたものである。しかしながら、このようなVAモードの液晶装置でも、斜め方向から観察する場合には、コントラストの低下が起こり、表示特性が悪化してしまう。
【0003】
そこで、光学軸が厚さ方向に沿った負の一軸性の屈折率異方性を有する位相差補償素子、いわゆるCプレートを用いて、液晶層を斜めに通過する光の位相差を補償することが行われている。その際、液晶分子のプレチルト方向に対してCプレートの光軸が平行となるようにCプレートを傾けることにより、液晶の正面位相差をCプレートで補償するようにしている。このような構成の液晶装置では、Cプレートを傾斜させるための治具が必要になる。このため、治具の位置ズレ(傾斜ズレ)や、液晶配向の方位角ズレが生じた場合には、Cプレートの傾けだけでは十分な位相差補償を行うことができない等の問題がある。
【0004】
そこで、Cプレートに加えて、二軸性の屈折率異方性を有する位相差補償素子、いわゆるOプレートを用いてより高い位相差補償を行い、コントラストを高めることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、反射型の液晶装置を用いる偏光ビームスプリッターとして、ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッターを用い、ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッターの透過軸と位相差板の遅相軸とが10°程度の角度を成すように配置された構成が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−164754号公報
【特許文献2】特開2007−101764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の構成では、偏光ビームスプリッターとして偏光分離膜を備えたプリズムを用いているため、特許文献2に記載の技術のように、ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッターを用いた場合のチルト方向や光学軸等の配置については考慮されていない。このため、特許文献1に記載の構成のままでワイヤーグリッド偏光ビームスプリッターを用いると、十分なコントラストが得られないという問題点がある。
【0008】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、液晶分子のプレチルト方向に対応する向きに位相差補償素子を配置することにより、コントラストを向上することのできる液晶装置および投射型表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る液晶装置は、透光性の第1基板、該第1基板から入射した光を当該第1基板側に向けて反射する反射層を備えた第2基板と、負の誘電率異方性をもって前記第1基板と前記第2基板との間に設けられ、液晶分子が前記第1基板の基板面および前記第2基板の基板面に対する法線方向から斜めに傾いた液晶層を備えた液晶パネルと、前記第1基板の前記第2基板とは反対側に配置されたワイヤーグリッド偏光ビームスプリッターと、前記第1基板と前記ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッターとの間に配置され、無機材料からなるカラムの傾きによる二軸性の屈折率異方性を有する第1位相差補償素子と、を有し、前記液晶分子の前記第2基板側からみたときの傾き方向、前記カラムの前記液晶パネル側からみたときの傾き方向、および前記ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッターの透過軸を前記第1基板に垂直に投影したとき、前記液晶分子の前記第2基板側からみたときの傾き方向と、前記カラムの前記液晶パネル側からみたときの傾き方向とは、前記ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッターの透過軸を挟んで逆向きであることを特徴とする。
【0010】
ここで「逆向き」とは、液晶分子の第2基板側からみたときの傾き方向とカラムの前記液晶パネル側からみたときの傾き方向とがワイヤーグリッド偏光ビームスプリッターの透過軸を挟んで反対方向の成分を有するものであればよく、液晶分子の第2基板側からみたときの傾き方向とカラムの液晶パネル側からみたときの傾き方向とが正反対の方向でなくてよい。
【0011】
本発明では、液晶分子のプレチルト方向に対応する向きに位相差補償素子を配置したため、後述する評価結果からわかるように、光学差補償素子を傾けなくてもコントラストを向上することができる。
【0012】
本発明において、前記液晶分子の前記第2基板からみたときの傾き方向は、前記ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッターの透過軸に対して45°または135°の角度を成していることが好ましい。
【0013】
本発明において、前記第1位相差補償素子の遅相軸と前記ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッターの透過軸とは略平行であることが好ましい。本発明における「略平行」とは、完全に平行である構成に加えて、10°以内の範囲で交差している構成を含む意味である。
【0014】
本発明において、前記第1位相差補償素子と前記液晶パネルとの間には、光学軸が厚さ方向に沿った負の一軸性の屈折率異方性を有する第2位相差補償素子が設けられている構成を採用することができる。
【0015】
本発明に係る液晶装置は、直視型の表示装置や投射型表示装置等の電子機器に用いることができ、電子機器が投射型表示装置の場合、前記液晶装置に光を供給する光源と、前記液晶装置によって変調された光を投射する投射光学系と、を有することになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を適用した電子機器としての投射型表示装置の概略構成図である。
【図2】図1に示す投射型表示装置の液晶パネル周辺の構成を示す斜視図である。
【図3】図2に示す液晶パネル等を保持する三角柱ユニットの断面図である。
【図4】図1に示す投射型表示装置で用いた液晶パネルの断面構成を模式的に示す説明図である。
【図5】図1に示す投射型表示装置の液晶装置に用いる位相差補償板の説明図である。
【図6】図5に示す位相差補償素子の説明図である。
【図7】本発明を適用した液晶装置におけるチルト方向等を示す説明図である。
【図8】本発明を適用した液晶装置においてOプレートのチルト方向等を変更したときのコントラストレベルを評価した結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。なお、以下に参照する図面においては、各構成要素を見やすくするため、構成要素によって寸法の縮尺を異ならせて示すことがある。
【0018】
(投射型表示装置の構成)
図1は、本発明を適用した電子機器としての投射型表示装置の概略構成図である。
【0019】
図1に示す投射型表示装置1は、3枚の反射型液晶ライトバルブ(反射型の液晶パネル)を備えたプロジェクターであり、赤色光(R光)、緑色光(G光)、青色光(B光)からなる3色の色光を出射する照明装置2と、各色光による画像を形成する3組の液晶装置3R、3G、3Bと、3色の色光を合成する色合成素子4(色合成光学系)と、合成された光をスクリーン等の被投射面(図示せず)に投射する投射光学系5とを備えている。照明装置2は、光源6と、インテグレーター光学系7と、色分離光学系8とを備えている。液晶装置3R、3G、3Bは、入射側偏光板9と、ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッター10と、反射型の液晶パネル11R、11G、11B(ライトバルブ)と、位相差補償板12と、出射側偏光板13と、を備えている。
【0020】
かかる投射型表示装置1において、光源6から出射された白色光は、インテグレーター光学系7に入射する。インテグレーター光学系7に入射した白色光は、照度が均一化されるとともに偏光状態が所定の直線偏光に揃えられて出射される。インテグレーター光学系7から出射された白色光は、色分離光学系8によりR、G、Bの各色光に分離され、色光毎に異なる組の液晶装置3R、3G、3Bに入射する。各液晶装置3R、3G、3Bに入射した色光は、表示すべき画像の画像信号に基づいて変調された変調光となる。3組の液晶装置3R、3G、3Bから出射された3色の変調光は、色合成素子4により合成されて多色光となり、投射光学系5に入射する。投射光学系5に入射した多色光は、スクリーン等の被投射面に投射される。このようにして、被投射面にフルカラーの画像が表示される。
【0021】
このように構成した投射型表示装置1において、光源6は、光源ランプ15と放物面リフレクター16とを有している。光源ランプ15から放射された光は、放物面リフレクター16によって一方向に反射されて略平行な光束となり、光源光としてインテグレーター光学系7に入射する。光源ランプ15は、例えばメタルハライドランプ、キセノンランプ、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ等により構成される。放物面リフレクター16に代えて、楕円リフレクター、球面リフレクター等によりリフレクターを構成してもよい。リフレクターの形状に応じて、リフレクターから出射された光を平行化する平行化レンズを用いてもよい。
【0022】
インテグレーター光学系7は、第1レンズアレイ17と、第2レンズアレイ18と、偏光変換素子19と、重畳レンズ20とを有している。第1レンズアレイ17は、光源6の光軸L1に略直交する面に配列された複数のマイクロレンズ21を有している。第2レンズアレイ18は、第1レンズアレイ17と同様、複数のマイクロレンズ22を有している。各マイクロレンズ21、22はマトリクス状に配列されており、光軸L1に直交する平面における平面形状が、液晶パネル11R、11G、11Bの被照明領域と相似形状(略矩形)になっている。被照明領域とは、液晶パネル11R、11G、11Bにおいて複数の画素がマトリクス状に配列されて表示に実質的に寄与する領域のことである。
【0023】
偏光変換素子19は、複数の偏光変換ユニット23を有している。各偏光変換ユニット23は、その詳細な構造を省略するが、偏光分離膜、1/2位相板、および反射ミラーを有している。第1レンズアレイ17の各マイクロレンズ21は、第2レンズアレイ18の各マイクロレンズ22と1対1で対応している。第2レンズアレイ18の各マイクロレンズ22は、偏光変換素子19の各偏光変換ユニット23と1対1で対応している。
【0024】
インテグレーター光学系7に入射した光源光は、第1レンズアレイ17の複数のマイクロレンズ21に空間的に分かれて入射し、マイクロレンズ21に入射した光束毎に集光される。各マイクロレンズ21により集光された光源光は、マイクロレンズ21と対応する第2レンズアレイ18のマイクロレンズ22に結像する。すなわち、第2レンズアレイ18の複数のマイクロレンズ22の各々に二次光源像が形成される。マイクロレンズ22に形成された二次光源像からの光は、このマイクロレンズ22に対応する偏光変換ユニット23に入射する。
【0025】
偏光変換ユニット23に入射した光は、偏光分離膜に対するP偏光とS偏光とに分離される。分離された一方の偏光(例えばS偏光)は、反射ミラーで反射した後に1/2位相板を通ることで偏光状態が変換され、他方の偏光(例えばP偏光)に揃えられる。ここでは、偏光変換ユニット23を通った光の偏光状態が、後述する入射側偏光板9を透過する偏光状態に揃えられるようになっている。複数の偏光変換ユニット23から出射された光は、重畳レンズ20によって液晶パネル11R、11G、11Bの被照明領域上に重畳される。第1レンズアレイ17により空間的に分割された各光束が被照明領域の略全域を照明することにより照度分布が平均化され、被照明領域上の照度が均一化される。
【0026】
色分離光学系8は、波長選択面を有する第1ダイクロイックミラー25、第2ダイクロイックミラー26、第3ダイクロイックミラー27、および第1反射ミラー28、第2反射ミラー29を有している。第1ダイクロイックミラー25は、赤色光LRを反射させるとともに、緑色光LGおよび青色光LBを透過させる分光特性を有している。第2ダイクロイックミラー26は、赤色光LRを透過させるとともに、緑色光LGおよび青色光LBを反射させる分光特性を有している。第3ダイクロイックミラー27は、緑色光LGを反射させるとともに、青色光LBを透過させる分光特性を有している。第1ダイクロイックミラー25と第2ダイクロイックミラー26とは、各々の波長選択面が互いに略直交するように、かつ各々の波長選択面がインテグレーター光学系7の光軸L2と略45°の角度をなすように配置されている。
【0027】
色分離光学系8に入射した光源光に含まれる赤色光LR、緑色光LG、青色光LBは、以下のようにして分離され、分離された色光毎に対応する液晶装置3R、3G、3Bに入射する。すなわち、赤色光LRは、第2ダイクロイックミラー26を透過するとともに第1ダイクロイックミラー25で反射した後、第1反射ミラー28で反射し、赤色光用の液晶装置3Rに入射する。緑色光LGは、第1ダイクロイックミラー25を透過するとともに第2ダイクロイックミラー26で反射した後、第2反射ミラー29で反射し、第3ダイクロイックミラー27で反射して、緑色光用の液晶装置3Gに入射する。青色光LBは、第1ダイクロイックミラー25を透過するとともに第2ダイクロイックミラー26で反射した後、第2反射ミラー29で反射し、第3ダイクロイックミラー27を透過して、青色光用の液晶装置3Bに入射する。各液晶装置3R、3G、3Bで変調された各色光は色合成素子4に入射する。
【0028】
色合成素子4は、ダイクロイックプリズムにより構成されている。ダイクロイックプリズムは、4つの三角柱プリズムが互いに貼り合わされた構造になっている。三角柱プリズムにおいて貼り合わされる面は、ダイクロイックプリズムの内面になる。ダイクロイックプリズムの内面に、赤色光LRが反射して緑色光LGが透過するミラー面と、青色光LBが反射して緑色光LGが透過するミラー面とが互いに直交して形成されている。ダイクロイックプリズムに入射した緑色光LGは、ミラー面をそのまま直進して出射される。ダイクロイックプリズムに入射した赤色光LR、青色光LBは、ミラー面で選択的に反射あるいは透過して、緑色光LGの出射方向と同じ方向に出射される。このようにして3つの色光(画像)が重ね合わされて合成され、合成された色光が投射光学系5によってスクリーン等に拡大投写される。投射光学系5は、第1レンズ群44および第2レンズ群45を有している。
【0029】
(液晶パネル等の構成)
図2は、図1に示す投射型表示装置の液晶パネル周辺の構成を示す斜視図である。図3は、図2に示す液晶パネル等を保持する三角柱ユニットの断面図である。
【0030】
図1に示す赤色光用の液晶装置3R、緑色光用の液晶装置3G、青色光用の液晶装置3Bはいずれもユニット化されており、同様の構成になっている。また、ユニット化された3つの液晶装置3R、3G、3Bは、図2に示すように、色合成素子4の3つの光入射面に接合されている。ここで、液晶装置3R、3G、3Bの構成は同一であるため、以下、緑色光用の液晶装置3Gについて詳細な構成を説明し、赤色光用の液晶装置3R、および青色光用の液晶装置3Bの説明を省略する。
【0031】
赤色光用の液晶装置3R、緑色光用の液晶装置3G、青色光用の液晶装置3Bのうち、例えば、緑色光用の液晶装置3Gは、図3に示すように、入射側偏光板9と、ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッター10と、緑色光用の液晶パネル11Gと、位相差補償板12と、出射側偏光板13と、を備えている。これら構成要素のうち、入射側偏光板9を除いて、ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッター10、緑色光用の液晶パネル11G、位相差補償板12、および出射側偏光板13は、略三角柱の形状を有する筐体50に固定されている。筐体50は、例えばアルミニウム等の熱伝導性の高い材料で構成されている。
【0032】
筐体50の3つの側面50a、50b、50cには、光を通過させる開口部50at、50bt、50ctがそれぞれ設けられている。筐体50の3つの側面50a、50b、50cのうち、互いに直角に接する2つの面を第1側面50a、第2側面50bとし、第1側面50aおよび第2側面50bに対して45°の角度で接する面を第3側面50cとする。第1側面50aの外面側には開口部50atを塞ぐように緑色光用の液晶パネル11Gが固定され、第1側面50aの内面側には開口部50atを塞ぐように位相差補償板12が固定されている。第2側面50bの外面側には開口部50btを塞ぐように出射側偏光板13が固定されている。第3側面50cの外面側には開口部50ctを塞ぐようにワイヤーグリッド偏光ビームスプリッター10が固定されている。このような構成により、筐体50の内部は密閉された空間となっている。
【0033】
緑色光用の液晶装置3Gにおいて、光源光から分離された緑色光LGは入射側偏光板9に入射する。入射側偏光板9は所定の方向に振動する直線偏光を透過するものであり、次に説明するワイヤーグリッド偏光ビームスプリッター10の偏光分離面に対するP偏光を透過するように透過軸が設定されている。以下、ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッター10の偏光分離面に対するP偏光を単にP偏光と称し、ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッター10の偏光分離面に対するS偏光を単にS偏光と称する。上述したように、インテグレーター光学系7を通った光源光は、偏光状態がP偏光に揃えられているため、緑色光LGの略全てが入射側偏光板9を透過してワイヤーグリッド偏光ビームスプリッター10に入射する。
【0034】
ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッター10は、例えば、ガラス基板とその上に形成された複数の金属線とにより構成されている。複数の金属線は、全てが一方向に延在しており、互いに略平行に離間してガラス基板上に形成されている。複数の金属線が形成されたガラス基板の主面が偏光分離面となり、複数の金属線の延在方向が反射軸方向であり、複数の金属線の配列方向が透過軸方向である。偏光分離面は、偏光分離面に入射する緑色光LGの中心軸に対して略45°の角度をなしている。偏光分離面に入射した緑色光LGのうち、偏光方向が反射軸方向と一致するS偏光は偏光分離面で反射し、偏光方向が透過軸方向と一致するP偏光は偏光分離面を透過する。インテグレーター光学系7の偏光変換素子19および入射側偏光板9の作用によって、緑色光LGは、概ねP偏光になっているため、緑色光LGの略全てがワイヤーグリッド偏光ビームスプリッター10の偏光分離面を透過して緑色光用の液晶パネル11Gに入射する。なお、入射側偏光板9、出射側偏光板13も、耐熱性等を考慮してワイヤーグリッド型偏光板で構成されていることが望ましい。
【0035】
(液晶パネルの構成)
図4は、図1に示す投射型表示装置で用いた液晶パネルの断面構成を模式的に示す説明図である。図3に示す緑色光用の液晶パネル11Gは反射型の液晶パネルであり、液晶モードは、垂直配向(Vertical Alien)モードである。液晶パネル11Gは、対向基板31(第1基板)と、対向基板31に対向配置された素子基板32(第2基板)と、これら2枚の基板間に挟持された液晶層33とを有している。液晶層33は誘電率異方性が負の液晶材料で構成されている。
【0036】
図4に示すように、素子基板32を構成する基板本体35上には、複数のゲート線と複数のソース線とが直交するように配置され、ゲート線とソース線との交差に対応する複数の位置の各々にTFTおよび画素電極36を備えた画素が設けられている。なお、図4においては、ゲート線、ソース線、TFT等、画素電極36よりも下層側の構成要素の図示は省略してある。画素電極36は、例えばアルミニウム、銀、これらの合金等の光反射率の高い金属から構成され、反射電極(反射層)として機能する。一方、対向基板31を構成する基板本体38上には、インジウム錫酸化物(Indium Tin Oxide/ITO)等の透明導電材料からなる共通電極39が設けられている。
【0037】
素子基板32の画素電極36上には配向膜37が形成されている。同様に、対向基板31の共通電極39上には配向膜40が形成されている。これらの配向膜37、40は、シリコン酸化物(SiO2)を真空蒸着することにより形成されている。例えば真空蒸着時の真空度は5×103Pa、基板温度は100℃とする。配向膜37、40に異方性を付与するため、基板面から45度傾いた方向から蒸着を行う。このようにすると、蒸着方位と等しい方位において基板面から70度傾いた方向にシリコン酸化物のカラム(柱状構造体)が成長する。素子基板32上の配向膜37と対向基板31上の配向膜40とは、各々の配向方向が反平行となるように配置されている。以上の配向膜37、40により、液晶層33の液晶分子33Bは所定のプレチルト角をなすように配向する。なお、画素電極36の材料と共通電極39の材料との仕事関数差がフリッカーや焼き付きの原因となる場合には、画素電極36と配向膜37との間に絶縁膜を設けてもよい。
【0038】
(位相差補償板の構成)
図5は、図1に示す投射型表示装置1の液晶装置3Gに用いる位相差補償板12の説明図である。
【0039】
図3において、ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッター10と液晶パネル11Gとの間の光路上には位相差補償板12が配置されている。すなわち、液晶パネル11Gの対向基板31の素子基板32とは反対側にワイヤーグリッド偏光ビームスプリッター10が配置され、対向基板31とワイヤーグリッド偏光ビームスプリッター10との間に位相差補償板12が配置されている。かかる液晶装置3Gにおいて、ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッター10を透過した緑色光LGは、位相差補償板12、液晶パネル11Gの対向基板31を順次透過し、液晶層33に入射した後に素子基板32上で反射して折り返される。その際、緑色光LGは、液晶層33を透過する間に変調されて変調光となり、対向基板31、位相差補償板12を再度透過する。
【0040】
図5(a)に示すように、位相差補償板12は、石英ガラス製の基板52の一方の面にOプレート54(第1位相差補償素子)が形成され、他方の面にCプレート53(負のCプレート:第2位相差補償素子)が形成された構造を有している。このため、本形態では、Cプレート53とOプレート54とは一体化されている。このような構成からなる位相差補償板12は液晶パネル11G側にCプレート53が位置し、液晶パネル11Gと反対側にOプレート54が位置するように、液晶パネル11Gと平行に配置されている。
【0041】
なお、図5(b)に示すように、基板52の一方の面にCプレート53A(負のCプレート)を形成し、他方の面にはCプレート53B(負のCプレート)およびOプレート54をこの順に積層して形成してもよい。その場合に、Cプレート53A、53Bを合わせた光学特性が、図5(a)に示したCプレート53と同じになるように、基板52に対してCプレート53A、53Bをそれぞれ形成する。これにより、Cプレート53A、53Bによって1枚のCプレート53とみなすことができる。なお、図示を省略するが、図5(b)におけるCプレート53BとOプレート54とを入れ替えて積層してもよく、基板52の他方の面にOプレート54を形成した位相差補償板を用いてもよい。
【0042】
さらに、図5(c)に示すように、基板52AにCプレート53を形成し、別の基板52BにOプレート54を形成したものを用いてもよい。すなわち、これらを合わせて一つの位相差補償板12として用いてもよい。
【0043】
(位相差補償板の詳細構成)
図6は、図5に示す位相差補償素子の説明図であり、図6(a)、(b)、(c)は、Cプレートの光学異方性を説明するための模式図、Oプレートの光学異方性を説明するための模式図、およびOプレートのカラムの説明図である。
【0044】
図5を参照して説明したCプレート53は、スパッタ法等によって基板52上に高屈折率層と低屈折率層とが交互に積層された多層膜からなり、光学軸が厚さ方向に沿う一軸性の負の屈折率異方性を有する複屈折率体である。Cプレート53は、表面に対して垂直な光学軸を有し、緑色光用の液晶パネル11Gから出射された斜め方向の光の位相差を補償する。高屈折率層は相対的に高屈折率の誘電体であるTiOやZrO等からなり、低屈折率層は低屈折率の誘電体であるSiOやMgF等からなる。このような構成のCプレート53は、これを透過する光が各層間で反射して干渉するのを防ぐため、各屈折率層の厚さは薄いことが好ましい。
【0045】
かかるCプレート53は、図6(a)に屈折率楕円体で示すように、Cプレート53の各方向の屈折率の関係は、nx=ny>nzであり、Cプレート53の光学軸に平行に入射する光に対しては等方的であることから、位相差を補償することができない。すなわち、緑色光用の液晶パネル11GからCプレート53に垂直に入射した光に対しては、位相差を補償することができない。一方、緑色光用の液晶パネル11Gから出射された光のうち、斜め成分の光、つまりVAモードの液晶の斜め成分については、その位相差を光学補償する。なお、Cプレート53は、nx=nyを完全に満たす必要はなく、僅かに位相差を有していても良く、具体的には正面位相差値が0nmから3nm程度であってもよい。
【0046】
この種のCプレート53としては、厚み方向の位相差Rthが100nm以上300nm以下であるのが好ましく、180nmであるのがより好ましい。ここで、厚み方向の位相差Rthは、以下の式によって定義される。
【0047】
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
但し、nx、nyは、図6(a)に示したCプレート53において、面方向の主屈折率を示し、nzは、同じく厚さ方向の主屈折率を示している。また、dはCプレート53の厚さを示している。
【0048】
図5を参照して説明したOプレート54は、図6(c)に示すように、石英ガラス製の基板52に、Ta等の無機材料が斜方蒸着されて形成されたものである。このため、Oプレート54は、微視的に見て、無機材料が斜め方向に沿って成長したカラム54a(柱状構造体)を有する膜構造を有している。このような構造からなる無機膜54bは、その微細構造に起因して位相差を生じさせる。
【0049】
かかるOプレート54は、図6(b)に屈折率楕円体で示すように、各方向の屈折率の関係がnx<ny<nzであり、二軸の屈折率異方性を有する複屈折体である。Oプレート54は、上述のカラム54aを形成した無機膜54bにより遅相軸を有している。Oプレート54の遅相軸は、図6(b)に示した屈折率楕円体を、基板の法線方向から見て基板上(基板面)に垂直に投影した楕円形の長軸54cに一致する。
【0050】
(チルト方向等の設定)
図7は、本発明を適用した液晶装置3Gにおけるチルト方向等を示す説明図であり、図7(a)、(b)は、液晶分子33Bのチルト方向が液晶パネル11の中央から左下に向いているときの説明図、および液晶分子33Bのチルト方向が液晶パネル11の中央から左上に向いているときの説明図である。
【0051】
本形態の液晶装置3Gにおいて、図4を参照して説明した対向基板31および素子基板32は、例えば1.8μmのギャップに保持されて貼り合わされ、その間に誘電率異方性が負の液晶(△n=0.12)が注入されて液晶セルが形成されている。液晶分子33Bは、配向膜37、40間において、これら配向膜37、40のカラムの傾き方向(チルト方向)と同じ方向で基板面から85度傾くように、すなわちプレチルト角が85°になるように配向させられている。このようにプレチルト角が付与されることにより、液晶分子33Bは光学的な異方性を有し、液晶分子33Bからなる液晶層33は遅相軸を有したものとなる。
【0052】
液晶層33の遅相軸は、液晶分子33Bを対向基板31および素子基板32の法線方向から見て、対向基板31上あるいは素子基板32上に投影された楕円形状の液晶分子33Bの長軸の長さ方向に一致する。また、液晶分子33Bは、付与されたプレチルト角により、長軸の一端側に対し他端側が傾いている。この傾き方向(チルト方向)、すなわち素子基板32側から対向基板81側に向かうに連れて、素子基板32の法線から傾く。本形態では、素子基板32側からみたときの液晶分子33Bのチルト方向は、図7(a)、(b)に矢印LCで示すように、液晶パネル11Gの中央から左下側あるいは左上に向かうように傾いた方向となっている。
【0053】
このため、ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッター10の透過軸を液晶パネル11Gまたは対向基板31に投影したとき、ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッター10の透過軸は、図7(a)、(b)に矢印WGで示す方向となる。その結果、素子基板32側から液晶分子33Bをみたときのチルト方向LCは、ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッター10の透過軸に対して、45°(あるいは135°)の角度を成すことになる。ここで、45°とは、45°±10%程度の範囲を有するものとみなしてよく、135°とは、135°±10%程度の範囲を有するものとみなしてよい。このように、所定の角度配置に対して±10%の範囲内でずれていても、ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッター10は、液晶パネル11Gを反射してきた光に対して、面内回転による良好な位相差補償をなす。
【0054】
また、図6(b)に示した楕円球において、Oプレート54の遅相軸は、基板52の法線方向から見て基板52上(基板面)に投影した楕円形の長軸の長さ方向に一致し、ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッター10の透過軸と略平行である。なお、Oプレート54の遅相軸とワイヤーグリッド偏光ビームスプリッター10の透過軸とが略平行であるとは、完全に平行である構成に加えて、10°以内の範囲で交差している構成を含む意味である。
【0055】
また、図6(c)を参照して説明したように、無機膜54bでは、これを形成するカラム54aが傾いて形成されており、かかるカラム54aを液晶パネル11Gからみたときの傾き方向(チルト方向)は、図7(a)、(b)に矢印Toで示す方向である。
【0056】
すなわち、本形態では、液晶分子33Bの素子基板32側からみたときの傾き方向(矢印LCで示す方向)、Oプレート54のカラム54aの液晶パネル11G側からみたときの傾き方向(矢印Toで示す方向)、およびワイヤーグリッド偏光ビームスプリッター10の透過軸(矢印WGで示す方向)を素子基板32に垂直に投影したとき、各方向は、図7(a)、(b)に示す通りである。より具体的には、液晶分子33Bの素子基板32側からみたときの傾き方向(矢印LCで示す方向)と、Oプレート54のカラム54aの液晶パネル11G側からみたときの傾き方向(矢印Toで示す方向とは、ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッター10の透過軸(矢印WGで示す方向)を挟んで逆向きであり、135°あるいは225°の角度を成している。
【0057】
(コントラストの評価結果)
図8は、本発明を適用した液晶装置3GにおいてOプレートのチルト方向等を変更したときのコントラストレベルを評価した結果を示す説明図であり、図8(b)、(h)は、図7(a)、(b)に示す各実施例に対応し、図8(a)、(c)、(d)および図8(e)〜(g)は本発明の比較例に相当する。なお、各図においてCで示す値は、コントラストの測定結果を規格化した値である。
【0058】
図7(a)、(b)および図8(b)、(h)に示すように、液晶分子33Bの素子基板32側からみたときの傾き方向(矢印LCで示す方向)と、Oプレート54のカラム54aの液晶パネル11G側からみたときの傾き方向(矢印Toで示す方向とが、ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッター10の透過軸(矢印WGで示す方向)を挟んで逆向きである場合、高いコントラスト(コントラストのレベルC=100)を得ることができる。
【0059】
これに対して、図8(d)、(f)に示す参考例のように、液晶分子33Bの素子基板32側からみたときの傾き方向(矢印LCで示す方向)と、Oプレート54のカラム54aの液晶パネル11G側からみたときの傾き方向(矢印Toで示す方向とが、ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッター10の透過軸(矢印WGで示す方向)からみて同一の向きである場合、コントラストのレベルCは、90、86であり、本発明を適用した場合に比して低い。
【0060】
また、図8(a)、(c)、(e)、(g)に示す参考例を示すように、Oプレート54のカラム54aの液晶パネル11G側からみたときの傾き方向(矢印Toで示す方向)と、ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッター10の透過軸(矢印WGで示す方向)とが同一である場合、コントラストのレベルCは、57〜64であり、本発明を適用した場合に比してかなり低い。
【0061】
このように本形態によれば、液晶パネル11Gに対して光学差補償板12を傾けなくてもコントラストを向上することができる。それ故、本発明を適用した液晶装置3R、3G、3Bを備えた投射型表示装置1によれば、コントラストが高い投射画像を得ることができる。
【0062】
(他の電子機器)
上記実施の形態では、本発明に係る液晶装置を使用した電子機器として、投射型表示装置1を例示したが、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)、ビューファインダ(EVF)等の電子機器や、携帯情報端末等の電子機器において表示部を構成する直視型のディスプレイに本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0063】
1・・投射型表示装置、3R、3G、3B・・液晶装置、4・・色合成素子(色合成光学系)、5・・投射光学系、6・・光源、11R、11G、11B・・液晶パネル、12・・位相差補償板、31・・対向基板(第1基板)、32・・素子基板(第2基板)、33・・液晶層、33B・・液晶分子、53・・Cプレート(第2位相差補償素子)、54・・Oプレート(第1位相差補償素子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性の第1基板、該第1基板から入射した光を当該第1基板側に向けて反射する反射層を備えた第2基板と、負の誘電率異方性をもって前記第1基板と前記第2基板との間に設けられ、液晶分子が前記第1基板の基板面および前記第2基板の基板面に対する法線方向から斜めに傾いた液晶層を備えた液晶パネルと、
前記第1基板の前記第2基板とは反対側に配置されたワイヤーグリッド偏光ビームスプリッターと、
前記第1基板と前記ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッターとの間に配置され、無機材料からなるカラムの傾きによる二軸性の屈折率異方性を有する第1位相差補償素子と、を有し、
前記液晶分子の前記第2基板側からみたときの傾き方向、前記カラムの前記液晶パネル側からみたときの傾き方向、および前記ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッターの透過軸を前記第1基板に垂直に投影したとき、
前記液晶分子の前記第2基板側からみたときの傾き方向と、前記カラムの前記液晶パネル側からみたときの傾き方向とは、前記ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッターの透過軸を挟んで逆向きであることを特徴とする液晶装置。
【請求項2】
前記液晶分子の前記第2基板からみたときの傾き方向は、前記ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッターの透過軸に対して45°または135°の角度を成していることを特徴とする請求項1に記載の液晶装置。
【請求項3】
前記第1位相差補償素子の遅相軸と前記ワイヤーグリッド偏光ビームスプリッターの透過軸とは略平行であることを特徴とする請求項1または2に記載の液晶装置。
【請求項4】
前記第1位相差補償素子と前記液晶パネルとの間には、光学軸が厚さ方向に沿った負の一軸性の屈折率異方性を有する第2位相差補償素子が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の液晶装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の液晶装置を備えていることを特徴とする電子機器。
【請求項6】
前記液晶装置に光を供給する光源と、前記液晶装置によって変調された光を投射する投射光学系と、を有することを特徴とする請求項5に記載の電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−76849(P2013−76849A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216719(P2011−216719)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】