説明

液晶配向剤、液晶配向膜、液晶表示素子および光学部材

【課題】 ラビング処理を行わずに、偏光または非偏光の放射線照射によって液晶配向能を付与することが可能な液晶配向膜の形成に用いられる、液晶配向剤を提供すること。
【解決手段】 放射線により架橋反応の可能な構造を有する重合体、エチレン性不飽和結合を有する重合性化合物、および、感放射線重合開始剤、を含有する液晶配向剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜、液晶表示素子及び光学部材に関する。さらに詳しくは、ラビング処理を行わずに、偏光された放射線の照射によって液晶配向能を付与することが可能な液晶配向膜の形成に用いられる液晶配向剤、このような液晶配向膜、このような液晶配向膜を有する液晶表示素子及び光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、正の誘電異方性を有するネマチック型液晶を、液晶配向膜を有する透明電極付き基板でサンドイッチ構造にし、必要に応じて液晶分子の長軸が基板間で0〜360度連続的に捻れるようにしてなる、TN(Twisted Nematic)型、STN(Super Twisted Nematic)型、IPS(In Plane Switching)型などの液晶セルを有する液晶表示素子が知られている。(特許文献1,2参照)。
このような液晶セルにおける液晶を配向させる手段としては、基板表面に有機膜を形成し、次いでその有機膜表面をレーヨンなどの布材で一方向にこすることにより液晶配向能を付与する(ラビング処理を施す)方法、基板表面に酸化珪素を斜方蒸着する方法またはラングミュア・ブロジェット法(LB法)を用いて長鎖アルキル基を有する単分子膜を形成する方法などがある。このうち、基板サイズ、液晶の配向均一性、処理時間および処理コストの観点からラビング処理によるのが一般的である。
【0003】
しかし、液晶の配向をラビング処理により行うと、工程内でほこりが発生したり、静電気が発生したりしやすいために、配向膜表面にほこりが付着して表示不良発生の原因となるという問題があった。特にTFT(Thin Film Transistor)素子を有する基板の場合には、発生した静電気によってTFT素子の回路破壊が起こり、歩留まり低下の原因となるという問題もあった。さらに、今後ますます高精細化される液晶表示素子においては、画素の高密度化に伴い基板表面に凹凸が生じるために、均一にラビング処理を行うことが課題となる。
液晶セルにおける液晶を配向させる別の手段として、基板表面に形成したポリビニルシンナメート、ポリ(4’−メタクリロイロキシカルコン)などの感光性薄膜に偏光または非偏光の放射線を照射することにより、液晶配向能を付与する光配向技術が知られている。この方法によれば、静電気やほこりを発生することなく、均一な液晶配向を実現できる(特許文献3〜11参照)。
【0004】
また、従来、ディスプレイ、光エレクトロニクス、光学分野において、偏光板、位相差板、旋光性光学フィルムなどの光学部材が用いられている。これらの光学部材には様々な用途があり、例えば、液晶表示装置において偏光板、補償板、視野角改良フィルムなどの部材として多用されるほか、光ディスク装置において光ピックアップ素子用位相差板としても用いられている。
このような光学部材の製造方法としては、従来、延伸配向した樹脂フィルムを用いる方法など、多くの方法が知られている。しかし、このような方法により製造した光学部材は、その全面にわたって同一の光学特性を有するものであり、面内の異なる領域に異なる光学特性を有するものを得ることはできなかった。
【0005】
一方、先行発明(特許文献12〜13参照)は、光配向技術により基板上に形成した液晶配向膜上で、光学的機能をもつ液晶物質を配向させた後、配向状態を固定する方法を明らかにしている。この方法により、容易に、面内の異なる領域に異なる光学特性を有する光学部材を製造できる。
【0006】
このように、前記光配向技術により製造した液晶配向膜は、液晶表示素子及び光学部材に有効に適用されうるものである。しかしながら、ポリビニルシンナメートなどの光架橋性材料を利用する従来の光配向技術には、安定な液晶配向能を得るのに必要な放射線照射量が多いという問題があった。即ち、このような液晶配向膜においては、放射線照射により生じる架橋構造によって液晶配向膜の異方性が保持されているので、放射線照射量が十分大きくない場合には、その液晶配向能が不安定になる。
【特許文献1】特開昭56−91277号
【特許文献2】特開平1−120528号
【特許文献3】特開平6−287453号
【特許文献4】特開平10−251646号
【特許文献5】特開平11−2815号
【特許文献6】特開平11−152475号
【特許文献7】特開2000−144136号
【特許文献8】特開2000−319510号
【特許文献9】特開2000−281724号
【特許文献10】特開2003−307736号
【特許文献11】特開2004−163646号
【特許文献12】特開平6−289374号
【特許文献13】特開2004−20658号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ラビング処理を行わずに、偏光または非偏光の放射線照射によって液晶配向能を付与することが可能な液晶配向膜の形成に用いられる、液晶配向剤を提供することにある。
本発明の他の目的は、安定な液晶配向能を付与するのに必要な放射線照射量が少ない液晶配向膜の形成に用いられる、液晶配向剤を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、液晶配向膜を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、液晶表示素子を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、光学部材を提供することにある。
本発明のさらに他の目的および利点は、以下の説明から明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、
[A]放射線により架橋反応の可能な構造を有する重合体、
[B]エチレン性不飽和結合を有する重合性化合物、および、
[C]感放射線重合開始剤、
を含有することを特徴とする、液晶配向剤により達成される。
【0009】
また、本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、本発明の液晶配向剤を用いてなる液晶配向膜によって達成される。
さらにまた、本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、本発明の液晶配向膜を有する液晶表示素子によって達成される。
さらにまた、本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、本発明の液晶配向膜を用いてなる光学部材によって達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の液晶配向剤を用いると、従来の光配向法による場合に比べて、少ない放射線照射量で、液晶配向能の安定性の高い液晶配向膜を得ることができる。それゆえ、この液晶配向膜を液晶表示素子に適用した場合、表示特性の優れた液晶表示素子を、従来より安価に製造できる。また、本発明の液晶配向膜を光学部材の製造に適用した場合には、面内均一性の優れた光学部材を、従来より安価に製造できる。したがって、これらの液晶表示素子、および、光学部材は種々の装置に有効に適用でき、例えば卓上計算機、腕時計、置時計、計数表示板、ワードプロセッサ、パーソナルコンピューターまたは液晶テレビなどの表示装置に好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
液晶配向剤
本発明の液晶配向剤は、[A]放射線により架橋反応の可能な構造を有する重合体、[B]エチレン性不飽和結合を有する重合性化合物、および、[C]感放射線重合開始剤を含有することを特徴とする。[A]放射線架橋性重合体は、液晶配向膜に偏光または非偏光の放射線を照射したときに方位選択的に架橋反応し、液晶配向能を発現するものである。一方、[B]重合性化合物および[C]重合開始剤は、上記放射線照射工程で重合反応を起こし、強固な重合体のマトリックスを形成する。本発明の液晶配向膜においては、この重合体のマトリックスにより液晶配向膜の構造が安定化されるため、少ない放射線照射量でも、液晶配向能の安定性が高くなる。
【0012】
本発明の液晶配向剤に含有される[B]重合性化合物および[C]重合開始剤の合計量は、[A]放射線架橋性重合体100重量部に対し、0.1〜50重量部であることが好ましく、0.5〜20重量部であることがより好ましく、1〜10重量部であることがさらに好ましい。本発明の液晶配向剤に含有される[B]重合性化合物および[C]重合開始剤の合計量が上記の範囲より少ない場合には、配向膜の構造安定化効果が十分に得られず、この合計量が上記の範囲より多い場合には、結果的に配向中膜の[A]放射線架橋性重合体の比率が低くなるため、得られた配向膜の液晶配向能が低下することになる。また、本発明の液晶配向剤において、用いられる[B]重合性化合物と[C]重合開始剤の比率は、[B]重合性化合物100重量部に対し、[C]重合開始剤が1〜100重量部であることが好ましく、10〜50重量部であることがさらに好ましい。
【0013】
[A]放射線架橋性重合体
本発明の液晶配向剤に含有される[A]放射線架橋性重合体は、放射線に感応し、架橋しうる構造を側鎖又は主鎖に有する重合体である。このような、放射線に感応する構造としては、下記式(I)〜(III)で表される共役エノン構造;

−CH=CH−CO−Q− ・・・・・(I)

−P−CH=CH−CO−Q ・・・・・(II)

−P−CH=CH−CO−Q− ・・・・・(III)
【0014】
ここで、Q、P、P、および、Qは芳香環を有する2価の有機基であり、PおよびQは芳香環を有する1価の有機基である。

および、下記式(IV)で表される構造から水素原子1個または2個を除いて得られるフラボノイド構造;
【0015】
【化1】

ここで、Qは芳香環を有する1価の有機基であり、AおよびBは互いに独立に、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、シアノ基または炭素数1〜6の1価の有機基であり、bは0〜4の整数である、ただし、複数あるBは互いに同一でも異なっていてもよい。
を挙げることができる。
【0016】
上記式(I)〜(IV)におけるQ、P、PおよびQは芳香環を有する2価の有機基であり、P、QおよびQは芳香環を有する1価の有機基である。P、P、P、Q、Q、QおよびQとしては、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数6〜20の有機基、例えば炭化水素基が好ましい。芳香環を有する1価の有機基(P、Q、Q)としては、具体的には、フェニル基、4−メトキシフェニル基、4−ペンチルフェニル基、4−オクチルフェニル基、4−フルオロフェニル基、3−メトキシフェニル基、3−ペンチルフェニル基、3−オクチルフェニル基、3−フルオロフェニル基、3,4−ジフルオロフェニル基、3,4,5−トリフルオロフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、3−トリフルオロメチルフェニル基、ビフェニル基、4−ペンチルビフェニル基、4−オクチルビフェニル基、4−フルオロビフェニル基、3,4−ジフルオロビフェニル基、3,4,5−トリフルオロビフェニル基、1−ナフチル基、4−オクチル−1−ナフチル基、5−ペンチル−1−ナフチル基、2−ナフチル基、6−オクチル−2−ナフチル基、9−アントラセニル基、9−アントラセニル基、10−ペンチル−9−アントラセニル基を挙げることができる。また、芳香環を有する2価の有機基(Q、P、P、Q)としては、具体的には、1,2−フェニレン基、3−フルオロ−1,2−フェニレン基、4−フルオロ−1,2−フェニレン基、3−メトキシ−1,2−フェニレン基、4−メトキシ−1,2−フェニレン基、3−メチル−1,2−フェニレン基、4−メチル−1,2−フェニレン基、1,3−フェニレン基、2−フルオロ−1,3−フェニレン基、4−フルオロ−1,3−フェニレン基、5−フルオロ−1,3−フェニレン基、2−メトキシ−1,3−フェニレン基、4−メトキシ−1,3−フェニレン基、5−メトキシ−1,3−フェニレン基、2−メチル−1,3−フェニレン基、4−メチル−1,3−フェニレン基、5−メチル−1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基、2−フルオロ−1,4−フェニレン基、2−メトキシ−1,4−フェニレン基、2−メチル−1,4−フェニレン基、4,4’−ビフェニレン基、3,4’−ビフェニレン基、3,3’−ビフェニレン基などが挙げられる。
【0017】
また、上記式(IV)のAおよびBにおける1価の有機基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基の如き炭素数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、等の炭素数1〜6のアルコキシル基;トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル基の如き炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基;トリフルオロメトキシ基、2,2,2−トリフルオロエトキシ基、1,1,2,2,2−ペンタフルオロエトキシ基の如き炭素数1〜6のハロゲン化アルコキシル基等が好ましいものとして挙げられる。AおよびBのそれぞれは、特に好ましくは、水素原子、フッ素原子、メチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基等であり、さらに好ましくは水素原子である。
【0018】
さらに、本発明の液晶配向剤をTN(Twisted Nematic)型、STN(Super Twisted Nematic)型、VA(Vertical Alignment)型などの液晶セルを有する液晶表示素子に適用する場合には、当該液晶配向剤に含有される放射線架橋性重合体の側鎖に、炭素数10〜30のアルキル基、炭素数10〜30の脂環式骨格含有基および炭素数2以上のフッ素含有有機基よりなる群より選ばれる少なくとも1種の疎水性基を導入することにより、垂直配向性またはプレチルト角発現性を付与することが好ましい。なお、本発明における「プレチルト角」とは、基板面と平行な方向からの液晶分子の傾きの角度を表す。一方、本発明の液晶配向剤がIPS(In Plane Switching)型などの液晶セルを有する液晶表示素子、ないしは、位相差板などの光学部材に適用される場合には、プレチルト角が発現することは一般には好ましくなくないので、上記した疎水性基を含有しない重合体を用いることが好ましい。
【0019】
重合体の側鎖に上記疎水性基を導入する場合、重合体の全繰り返し単位に占める、上記疎水性基を有する繰り返し単位の割合は、垂直配向モードに用いる場合には、好ましくは3〜50%、より好ましくは5〜30%、特に好ましくは10〜15%である。また、垂直配向以外のモードに用いる場合には、目標とするプレチルト角によって好ましい含有割合が異なるが、その上限を30%とするのが好ましい。
【0020】
疎水性基の炭素数10〜30のアルキル基としては、例えば、n−デシル基、n−ドデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−オクタデシル基、n−エイコシル基などの直鎖状のアルキル基を挙げることができる。また、炭素数10〜30の脂環式骨格含有基としては、例えば、コレステリル基、コレスタニル基などを挙げることができる。また、炭素数2以上のフッ素含有有機基としては、例えば、1,1,1−トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、4−フルオロシクロヘキシル基、ペンタフルオロシクロヘキシル基、4−フルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基および下記式(VI)で表される基などを挙げることができる。上記アルキル基、脂環式骨格含有基およびフッ素含有有機基は、例えば、−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−NHCO−、−CONH−または−S−などの結合基を介して重合体に結合されていてもよい。
【0021】
【化2】

ここで式中、Aは−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−NHCO−、−CONH−または−S−で表される2価の結合基であり、Aはフッ素原子またはトリフルオロメチル基である。
【0022】
これらのうち、炭素数10〜30のアルキル基および炭素数10〜30の脂環式骨格含有基が好ましく、炭素数15〜20の直鎖状のアルキル基、コレステリル基、コレスタニル基がさらに好ましく、n−ヘキサデシル基及びn−オクタデシル基が特に好ましい。
【0023】
[A]放射線架橋性重合体の主鎖骨格には、特に制限はなく、具体的には、(1)ポリイミド、(2)ポリエステル、(3)ポリアミド、(4)ポリ(メタ)アクリレート、(5)ポリスチレン、(6)スチレン−フェニルマレイミド共重合体、(7)ポリアミック酸、(8)ポリアミック酸エステル、(9)ポリシロキサン、(10)ポリビニルアセタールなどを挙げることができる。これらのうち、(1)ポリイミド、(4)ポリ(メタ)アクリレート、(5)ポリスチレン、(6)スチレン−フェニルマレイミド共重合体、(7)ポリアミック酸または(8)ポリアミック酸エステルが好ましく、特に(5)ポリスチレン、(6)スチレン−フェニルマレイミド共重合体または(8)ポリアミック酸エステルがより好ましく、特に(8)ポリアミック酸エステルがさらに好ましい。
【0024】
前記の(8)ポリアミック酸エステル骨格を有する放射線架橋性重合体としては、下記式(V)で表される重合体を挙げることができる。
【0025】
【化3】

ここで、Sは2価の有機基であり、Tは4価の有機基であり、ZおよびZは互いに独立に水酸基または1価の有機基であり、ZおよびZのうち少なくとも1つは、前記式(I)〜(III)のそれぞれで表わされる共役エノン構造または前記式(V)で表わされる化合物から1つまたは2つの水素原子を除去して得られるフラボノイド構造を有する1価の有機基である。
【0026】
このような重合体としては、具体的には、特許文献10に記載の重合体、および特許文献11に記載のポリアミック酸エステルを挙げることができ、好ましいものとして特許文献10に記載の重合体を挙げることができ、さらに好ましいものとして、下記式(i)〜(iii)のそれぞれで表される構造から選ばれる少なくとも1つの構造を有する重合体を挙げることができる。
【0027】
【化4】

【0028】
前記の(5)ポリスチレン又は(6)スチレン−フェニルマレイミド共重合体骨格を有する放射線架橋性重合体としては、下記式(VII)で表される繰り返し単位を有する重合体を挙げることができる。
【0029】
【化5】

ここで、Sは水素原子または1価の有機基であり、rは0以上1以下の実数であり、ZおよびZは互いに独立に水素原子、水酸基または1価の有機基であり、ZおよびZのうち少なくとも1つは、前記式(I)〜(III)のそれぞれで表わされる共役エノン構造または前記式(V)で表わされる化合物から1つまたは2つの水素原子を除去して得られるフラボノイド構造を有する1価の有機基である。
【0030】
上記式(VII)で表される放射線架橋性重合体としては、具体的には特許文献9に記載の重合体および特許文献11に記載のポリスチレン誘導体およびポリ(スチレン−フェニルマレイミド)誘導体を挙げることができ、好ましいものとして特許文献9に記載の重合体を挙げることができ、さらに好ましいものとして、下記式(iv)〜(v)のそれぞれで表される構造から選ばれる少なくとも1つの構造を有する重合体を挙げることができる。
【0031】
【化6】

【0032】
また、前記の(4)ポリ(メタ)アクリレート骨格を有する放射線架橋性重合体としては、具体的には、特許文献4、6および7のそれぞれに記載のポリ(メタ)アクリレートを挙げることができる。これらのうち、特許文献6および7に記載のポリ(メタ)アクリレートが好ましく、下記式(vi)〜(viii)で表される構造から選ばれる少なくとも1つの構造を有する重合体がさらに好ましい。
【0033】
【化7】

【0034】
[B]重合性化合物
本発明で用いられる[B]重合性化合物としては、単官能、2官能または3官能以上の(メタ)アクリレートが、重合性が良好である点から、好ましく用いられる。
【0035】
上記単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、カルビトール(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレートなどが挙げられる。その市販品としては、例えばアロニックスM−101、同M−111、同M−114(東亜合成化学工業(株)製)、KAYARAD TC−110S、同TC−120S(日本化薬(株)製)、ビスコート158、同2311(大阪有機化学工業(株)製)が挙げられる。
【0036】
上記2官能(メタ)アクリレートとしては、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノキシエタノールフルオレンジアクリレートなどが挙げられる。その市販品としては、例えばアロニックスM−210、同M−240、同M−6200(東亜合成化学工業(株)製)、KAYARAD HDDA、同HX−220、同R−604(日本化薬(株)製)、ビスコート260、同312、同335HP(大阪有機化学工業(株)製)などが挙げられる。
【0037】
上記3官能以上の(メタ)アクリレートとしては、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリ((メタ)アクリロイロキシエチル)フォスフェート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。その市販品としては、例えばアロニックスM−309、同M−400、同M−402、同M−405、同M−450、同M−7100、同M−8030、同M−8060(東亜合成化学工業(株)製)、KAYARAD TMPTA、同DPHA、同DPCA−20、同DPCA−30、同DPCA−60、同DPCA−120(日本化薬(株)製)、ビスコート295、同300、同360、同GPT、同3PA、同400(大阪有機化学工業(株)製)などが挙げられる。
これらのうち、単官能(メタ)アクリレートより、2官能または3官能以上の(メタ)アクリレートが好ましく、3官能以上の(メタ)アクリレートが特に好ましい。これらの単官能、2官能または3官能以上の(メタ)アクリレートは、単独であるいは組み合わせて用いられる。
【0038】
[C]感放射線重合開始剤
本発明で用いられる[C]重合開始剤としては、感放射線ラジカル重合開始剤、感放射線カチオン重合開始剤などを挙げることができる。
これら重合開始剤の使用に際しては、放射線照射条件が酸素雰囲気下であるか、無酸素雰囲気下であるかを考慮することが必要である。放射線照射を無酸素雰囲気下で行う場合には、一般的なあらゆる種類の感放射線ラジカル重合開始剤および感放射線カチオン重合開始剤を使用することができる。一方、酸素雰囲気下で放射線照射を行うときには、感放射線ラジカル重合開始剤の種類によっては、酸素によりラジカルが失活して感度の低下が起こり、配向膜の構造安定化効果が充分に得られない場合がある。しかし、感放射線カチオン重合開始剤は、酸素による活性種の失活はほとんどなく、酸素雰囲気下でも、無酸素雰囲気下でも区別なく自由に使用できる。
【0039】
感放射線ラジカル重合開始剤としては、例えばベンジル、ジアセチルなどのα−ジケトン類;ベンゾインなどのアシロイン類;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのアシロインエーテル類;チオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、チオキサントン−4−スルホン酸、ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;アセトフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、α,α’−ジメトキシアセトキシベンゾフェノン、2,2’−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、p−メトキシアセトフェノン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オンなどのアセトフェノン類;アントラキノン、1,4−ナフトキノンなどのキノン類;フェナシルクロライド、トリブロモメチルフェニルスルホン、トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジンなどのハロゲン化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドなどのアシルホスフィンオキサイド;およびジ−t−ブチルパーオキサイドなどの過酸化物が挙げられる。
【0040】
この感放射線ラジカル重合開始剤の市販品としては、例えばIRGACURE−184、同369、同500、同651、同907、同1700、同819、同1000、同2959、同149、同1800、同1850、Darocur−1173、同1116、同2959、同1664、同4043(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、KAYACURE−DETX 、同 MBP、同 DMBI 、同 EPA、同 OA(日本化薬(株)製)、VICURE−10、同55(STAUFFER Co.LTD 製)、TRIGONALP1(AKZO Co.LTD 製)、SANDORAY 1000(SANDOZ Co.LTD 製)、DEAP(APJOHN Co.LTD 製)、QUANTACURE−PDO、同 ITX、同 EPD(WARD BLEKINSOP Co.LTD 製)等が挙げられる。
これらのうち、好ましいものとして、たとえば、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オンなどのアセトフェノン類をあげることができる。
【0041】
さらに、感放射線カチオン重合開始剤としては、例えばフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、フェニルジアゾニウムヘキサフルオロホスホネート、フェニルジアゾニウムヘキサフルオロアルセネート、フェニルジアゾニウムトリフルオロメタンスルホナート、フェニルジアゾニウムトリフルオロアセテート、フェニルジアゾニウム−p−トルエンスルホナート塩類;および(1−6−η−クメン)(η−シクロペンタジエニル)鉄(1+)六フッ化リン酸(1−)などのメタロセン化合物が挙げられる。
【0042】
この感放射線カチオン重合開始剤の市販品としては、例えばジアゾニウム塩であるアデカウルトラセットPP−33(旭電化工業(株)製)、スルホニウム塩であるOPTOMER SP−150、同−170(旭電化工業(株)製)、およびメタロセン化合物であるIrgacure261(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)などが挙げられる。
【0043】
また、これら感放射線ラジカル重合開始剤または感放射線カチオン重合開始剤と感放射線増感剤とを併用することによって酸素による失活の少ない、高感度の感放射線性樹脂組成物である液晶配向剤を得ることも可能である。
【0044】
溶剤
本発明の液晶配向剤は、上記[A]放射線架橋性重合体、[B]重合性化合物および[C]重合開始剤を含有してなる。この際用いられる溶媒としては、上記の各成分を溶解し得る有機溶剤であれば特に制限はない。このような溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、テトラメチル尿素およびヘキサメチルホスホルトリアミドなどの非プロトン系極性溶媒;m−クレゾール、キシレノール、フェノールおよびハロゲン化フェノールなどのフェノール系溶媒;クロロベンゼン、ジクロロエタンおよびテトラクロロエタンのようなハロゲン化溶媒;シクロヘキサノンのようなケトン系溶媒を例示することができる。これらの溶媒は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。なお、前記溶媒には、用いられる重合体の貧溶媒を、重合体が析出しない範囲で併用することができる。
【0045】
その他の添加剤
本発明において用いられる液晶配向剤は、プレチルト角の安定化および塗膜強度アップのために、種々の熱硬化性の架橋剤を含有することもできる。熱硬化架橋剤としては、多官能エポキシ含有化合物が有効であり、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、環状脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂、グリシジルジアミン系エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂およびエポキシ基含有アクリル樹脂などが使用できる。市販品では、例えばエポライト400E、同3002(共栄社油脂化学工業(株)製)、エピコート828、同152およびエポキシノボラック180S(油化シェルエポキシ(株)製)などを挙げることができる。
【0046】
さらに、前述の多官能エポキシ含有化合物を使用する際、架橋反応を効率良く起こす目的で、1−ベンジル−2−メチルイミダゾールなどの塩基性触媒を添加することができる。
【0047】
また、本発明の液晶配向剤は、液晶配向能の安定性をさらに高めるため、放射線硬化性の架橋剤を含有することもできる。このような架橋剤としては、具体的には、下記式(VIII)

−CH=CH−CO−Q (VIII)

ここで、PおよびQは同一もしくは異なり、芳香環を有する1価の有機基である、
で表される化合物を挙げることができる。
【0048】
ここで、PおよびQで表される芳香環を有する1価の有機基としては、具体的には、フェニル基、4−メトキシフェニル基、4−ペンチルフェニル基、4−オクチルフェニル基、4−フルオロフェニル基、3−メトキシフェニル基、3−ペンチルフェニル基、3−オクチルフェニル基、3−フルオロフェニル基、3,4−ジフルオロフェニル基、3,4,5−トリフルオロフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、3−トリフルオロメチルフェニル基、ビフェニル基、4−ペンチルビフェニル基、4−オクチルビフェニル基、4−フルオロビフェニル基、3,4−ジフルオロビフェニル基、3,4,5−トリフルオロビフェニル基、1−ナフチル基、4−オクチル−1−ナフチル基、5−ペンチル−1−ナフチル基、2−ナフチル基、6−オクチル−2−ナフチル基、9−アントラセニル基、9−アントラセニル基、10−ペンチル−9−アントラセニル基を挙げることができる。
【0049】
また、本発明の液晶配向剤は、基板との接着性を改善する目的で、官能性シラン含有化合物を含有することができる。官能性シラン含有化合物としては、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−トリエトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、N−トリメトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、10−トリメトキシイシリル−1,4,7−トリアザデカン、10−トリエトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリエトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−ビス(オキシエチレン)−3−アミノプロピルトリメトキシシランおよびN−ビス(オキシエチレン)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、および特開昭63ー291922号公報記載のテトラカルボン酸二無水物とアミノ基含有シラン化合物との反応物などを挙げることができる。
【0050】
液晶配向膜
本発明の液晶配向膜を形成する方法としては、例えば次の方法が挙げられる。まず、透明導電膜が設けられた基板の透明導電膜側に、本発明の液晶配向剤をロールコーター法、スピンナー法または印刷法等により塗布し、40〜200℃の温度で加熱して塗膜を形成する。塗膜の膜厚は、固形分(乾燥塗膜)として、好ましくは0.001〜1μm、より好ましくは0.005〜0.5μmである。前記基板としては、例えばガラスまたはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン若しくはポリカーボネート等のプラスチックフィルムからなる透明基板を用いることができる。前記透明導電膜としては酸化インジウム系や酸化スズ系の膜などを用いることができる。これらの透明導電膜のパターニングにはフォトリソ法や印刷法等が適用可能である。液晶配向剤の塗布に際しては、基板および透明導電膜と塗膜との接着性をさらに良好にするために、基板および透明導電膜上に、予め官能性シラン含有化合物またはチタネート等を塗布することもできる。
【0051】
次いで、前記塗膜に直線偏光ないしは部分偏光された放射線または無偏光の放射線を照射し、場合によってはさらに150〜250℃の温度で加熱処理を行い、液晶配向能を付与する。放射線としては、150nm〜800nmの波長を有する紫外線および可視光線を用いることができる。320nm〜450nmの波長を有する紫外線が好ましい。用いる放射線が直線偏光ないしは部分偏光である場合には、照射は基板面に垂直の方向から行ってもよいし、プレチルト角を付与するために斜め方向から行ってもよく、さらに、これらを組み合わせて行ってもよい。無偏光の放射線を照射する場合には、照射の方向は基板面に対し斜めとなる必要がある。また、液晶配向能を改善するために、基板を50〜250℃に加熱しつつ、照射を行ってもよい。
【0052】
また、前記放射線照射に際しては、面内の異なる領域に異なる配向方位を有する液晶配向膜を作製する目的で、偏光状態、光軸の方向、及びエネルギーの異なった放射線を、面内の各領域に照射することができる。照射される放射線の偏光状態、光軸の方向、及びエネルギーを面内で変化させる方法としては、フォトマスクを介して照射を行う方法、必要に応じて光強度、入射角等を変化させつつ、塗膜を光線により掃引する方法、などを挙げることができる。これらの方法は、単独で、又は、組み合わせて用いることができる。さらに、これらの方法の1つないしは両方と、基板全面への一括照射を組み合わせて行っても良い。特に好ましい方法は、フォトマスクを介しての照射により基板の一部に第一の配向性を付与した後、基板全面への露光により残部へ第二の配向性を付与することである。
【0053】
前記光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプまたはエキシマーレーザー等が使用できる。前記の好ましい波長領域の紫外線は、フィルターまたは回折格子を前記光源と併用する手段等により得ることができる。簡便には、例えばパイレックスガラス製偏光板などの320nmより短い波長の紫外線を透過しないものを、前記光源とともに用いることにより得られる。
【0054】
液晶表示素子
本発明の液晶表示素子は、例えば次のようにして製造される。まず、前記液晶配向膜が形成された基板2枚を先に照射した直線偏光放射線の偏光方向が所定の角度となるよう対向させてシール剤で貼り合わせた後、液晶を注入し、注入孔を封止して液晶セルを組み立てる。この際、液晶が等方相をとる温度までセルを加熱した後、室温まで冷却することにより、液晶注入時の流動配向を除去することが望ましい。次いで、セルの両面に、偏光板の偏光方向がそれぞれ前記直線偏光放射線の偏光方向と所定の角度をなすように偏光板を貼り付けて液晶表示素子とする。液晶配向膜が水平配向性である場合には、照射される直線偏光放射線の偏光方向のなす角度および各基板と偏光板との角度を調整することにより、任意にTN型、STN型またはIPS型などの液晶表示素子を得ることができる。一方、液晶配向膜が垂直配向性である場合には、液晶配向膜が形成された2枚の基板における配向容易軸の方向が平行となるようにセルを構成し、これに偏光板をその偏光方向が配向容易軸と45度の角度をなすように貼り合わせることにより、垂直配向型液晶セルを有する液晶表示素子とすることができる。
【0055】
前記シール剤としては、例えば硬化剤およびスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有したエポキシ樹脂等を用いることができる。
【0056】
前記液晶としては、ネマティック型液晶、スメクティック型液晶などを用いることができる。TN型液晶セル、STN型液晶セルおよびIPS型液晶セルの場合には、ネマティック型液晶を形成させる正の誘電異方性を有する液晶分子からなるものが好ましく、例えばシッフベース系液晶、アゾキシ系液晶、ビフェニル系液晶、フェニルシクロヘキサン系液晶、エステル系液晶、ターフェニル系液晶、ビフェニルシクロヘキサン系液晶、ピリミジン系液晶、ジオキサン系液晶、ビシクロオクタン系液晶またはキュバン系液晶等が用いられる。また前記液晶に、例えばコレステリルクロライド、コレステリルノナエートおよびコレステリルカーボネート等のコレステリック液晶や商品名C−15またはCB−15(メルク社製)として販売されているようなカイラル剤等をさらに添加して使用することもできる。さらに、p−デシロキシベンジリデン−p−アミノ−2−メチルブチルシンナメート等の強誘電性液晶も使用することができる。また、垂直配向型液晶セルの場合には、ネマティック型液晶を形成させる負の誘電異方性を有する液晶分子からなるものが好ましく、例えば、ジシアノベンゼン系液晶、ピリダジン系液晶、シッフベース系液晶、アゾキシ系液晶、ビフェニル系液晶またはフェニルシクロヘキサン系液晶等が用いられる。
【0057】
液晶セルの外側に使用される偏光板としては、例えばポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させたH膜と呼ばれる偏光膜を酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板、またはH膜そのものからなる偏光板等を挙げることができる。
【0058】
光学部材
本発明の光学部材は、例えば、特許文献13に記載されている種々の方法により製造することができる。それらのうち、特に好ましい方法は、本発明の液晶配向膜上で重合性液晶材料を配向させたのち、これを放射線照射により重合させることにより固化させる方法である。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0060】
合成例1
ポリアミック酸の重合
2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物0.1モル(22.4g)とp−フェニレンジアミン0.1モル(10.8g)をN−メチル−2−ピロリドン300gに溶解させ、60℃で6時間反応させた。次いで、反応混合物を大過剰のメタノールに注ぎ、反応生成物を沈澱させた。その後、メタノールで洗浄し、減圧下40℃で15時間乾燥させて、ポリアミック酸(以下、「重合体O」という)27.4gを得た。
【0061】
[A]感光性重合体の合成
16.6gの重合体OにN−メチル−2−ピロリドン350g、1−ブロモ−6−(4−カルコニルオキシ)ヘキサン38.7gおよび炭酸カリウム13.8gを添加し、120℃で4時間反応させた。次いで、反応混合液を水に注ぎ、反応生成物を沈澱させた。得られた沈殿物を水で洗浄し減圧下で15時間乾燥させて、ポリアミック酸エステル(以下、「[重合体A1」という)35.4gを得た。
【0062】
比較合成例1
イミド化反応
20.0gの重合体Oに、N−メチル−2−ピロリドン380g、ピリジン9.5gおよび無水酢酸12.3gを添加し、120℃で4時間イミド化反応を行った。次いで、反応混合液を大過剰のメタノールに注ぎ、反応生成物を沈澱させた。その後メタノールで洗浄し減圧下で15時間乾燥させて、ポリイミド(以下、「重合体Aa」という)15.3gを得た。
【0063】
参考例1
比較合成例1で得られた重合体Aaをγ−ブチロラクトンに溶解させて固形分濃度2.5重量%の溶液とし、この溶液を孔径1μmのフィルターで濾過して、液晶配向剤(以下、「液晶配向剤P」という。)を調製した。この溶液をITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面上に、膜厚が0.1μmになるようにスピンナーを用いて塗布し、180℃で1時間乾燥させて薄膜を形成した。この薄膜に、ナイロン製の布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンを用いて、ロールの回転数500rpm、ステージの移動速度1cm/秒でラビング処理を行った。次に、前記ラビング処理を行った一対の基板について、液晶配向膜を形成した面に直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷塗布した後、ラビング方向が直交するように基板を重ね合わせて圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より一対の基板間に、ネマティック型液晶(メルク社製、ZLI−1565)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止した。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを150℃で加熱してから室温まで徐冷した後、偏光板を、その偏光方向が各基板の液晶配向膜のラビング方向と一致するように、基板の外側両面に貼り合わせて液晶表示素子を作製したところ、液晶の配向性は良好であった。電圧5Vを印加すると、印加した電圧のON−OFFに応答して液晶表示素子の明暗の変化が観察された。
【0064】
参考例2
参考例1と同様にして、液晶配向剤Pをガラス基板上に膜厚が0.1μmになるようにスピンナーを用いて塗布し、180℃で1時間乾燥させて薄膜を形成した。この薄膜に、ナイロン製の布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンを用いて、ロールの回転数500rpm、ステージの移動速度1cm/秒でラビング処理を行った。
4(4−n−ブチルシクロヘキシル)シクロヘキシルアクリレート 50重量部、4(4−n−プロピルシクロヘキシル)フェニルアクリレート 50重量部、光重合開始剤IRGACURE907(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)(2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン)1重量部、および溶媒としてのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 100重量部を混合し、重合性液晶を調製した。
ラビング処理された配向膜上に、スピンナーを用いてこの重合性液晶を塗布して配向させた。次に、塗布された重合性液晶を重合、固化させるため、窒素雰囲気下、高圧水銀灯を用いて100mW/cmで1分間紫外線を照射した。重合性液晶中の溶媒は、紫外線照射による昇温により揮発、除去された。
このようにして、波長633nmでのリターデーションが317nmである位相差板が得られた。この位相差板は、無色透明であり、面内で均一な遅行軸方位およびリターデーションを有していた。
【0065】
実施例1
成分[A]としての合成例1え得られた重合体A1 100重量部に対し、成分[B]としてのKAYARAD DPHA(日本化薬(株)製)ジペンタエリソリトールヘキサアクリレート)5重量部と、成分[C]としてのIRGACURE907(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製)(2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン)3重量部とを混合したものをN−メチル−2−ピロリドンに溶解して固形分濃度2.5重量%の溶液とし、孔径1μmのフィルターで濾過して本発明の液晶配向剤(以下、「[液晶配向剤1」という)を調製した。
この液晶配向剤を用いて、参考例1と同様に基板上に薄膜を形成し、窒素雰囲気下、この薄膜表面にランテクニカルサービス製紫外線偏光露光装置LPU−2000Sを用いて、365nmの波長を主とする直線偏光した紫外線50mJ/cmを照射した。次に、液晶配向膜を重ね合わせる向きをラビング方向の代わりに紫外線の偏光方向に従った以外は、参考例1と同様の方法で液晶表示素子を作製したところ、液晶の配向性は良好であった。参考例1と同様の条件で電圧を印加すると、印加した電圧のON−OFFに応答して、液晶表示素子の明暗の変化が観察された。
【0066】
実施例2
液晶配向剤1を用いて、参考例2と同様に基板上に薄膜を形成し、窒素雰囲気下、この薄膜表面にランテクニカルサービス製紫外線偏光露光装置LPU−2000Sを用いて、365nmの波長を主とする直線偏光した紫外線50mJ/cmを照射した。次に、参考例2と同様にして、重合性液晶を塗布し、さらに重合、固化させて、位相差板を作成した。
このようにして、波長633nmでのリターデーションが317nmである位相差板が得られた。この位相差板は、無色透明であり、面内で均一な遅行軸方位およびリターデーションを有していた。
【0067】
比較例1
合成例1で得られた重合体A1をγ−ブチロラクトンに溶解させて固形分濃度2.5重量%の溶液とし、この溶液を孔径1μmのフィルターで濾過して、液晶配向剤(以下、「[液晶配向剤Q」という)を調製した。
この液晶配向剤を用いた以外は、実施例1と同様に液晶表示素子を作製したところ、液晶配向は認められなかった。
一方、紫外線照射量を1J/cmとした他は上記と同様な手順で液晶表示素子を作製したところ、液晶の配向性は良好であった。参考例1と同様の条件で電圧を印加すると、印加した電圧のON−OFFに応答して、液晶表示素子の明暗の変化が観察された。
【0068】
比較例2
液晶配向剤Qを用いた以外は、実施例2と同様にして位相差板を作製した。得られた位相差板は白濁しており、また、リタデーションを持たなかった。
一方、紫外線照射量を1J/cmとした他は上記と同様な手順で位相差板を作製したところ、波長633nmでのリターデーションが317nmである位相差板が得られた。この位相差板は、無色透明であり、面内で均一な遅行軸方位およびリターデーションを有していた。
【0069】
比較例3
液晶配向剤Pを用いた以外は、実施例1と同様に液晶表示素子を作製したところ、液晶配向は認められなかった。
【0070】
比較例4
液晶配向剤Pを用いた以外は、実施例2と同様に位相差板を作製した。得られた位相差板は白濁しており、また、リタデーションを持たなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
[A]放射線により架橋反応の可能な構造を有する重合体、
[B]エチレン性不飽和結合を有する重合性化合物、および、
[C]感放射線重合開始剤、
を含有することを特徴とする、液晶配向剤。
【請求項2】
[A]放射線により架橋反応の可能な構造を有する重合体が、下記式(I):

−CH=CH−CO−Q− ・・・・・(I)

ここで、Pは芳香環を有する一価の有機基を表し、Qは芳香環を有する二価の有機基を表す、
下記式(II)

−P−CH=CH−CO−Q ・・・・・(II)

ここで、Pは芳香環を含有する二価の有機基を表し、Qは芳香環を有する一価の有機基を表す、
および下記式(III)

−P−CH=CH−CO−Q− ・・・・・(III)

ここで、PおよびQは芳香環を有する二価の有機基を表す、
で表される共役エノン構造、および、下記式(IV):
【化1】

ここで、Qは芳香環を有する一価の有機基であり、AおよびBは互いに独立に水素原子、水酸基、ハロゲン原子、シアノ基、または炭素数1〜6の一価の有機基であり、bは0〜4の整数である、ただし、複数あるBは互いに同一でも異なっていてもよい、
で表される化合物から1つないしは2つの水素原子を除去して得られるフラボノイド構造、からなる群より選ばれる少なくとも1つの構造を有する重合体、であることを特徴とする、請求項1の液晶配向剤。
【請求項3】
[A]放射線により架橋反応の可能な構造を有する重合体が、下記式(V)
【化2】

(ここで、Sは2価の有機基であり、Tは4価の有機基であり、ZおよびZは互いに独立に水酸基または1価の有機基であり、ZおよびZのうち少なくとも1つは、上記式(I)〜(III)で表される構造、および、上記式(IV)で表される化合物から1つないしは2つの水素原子を除去して得られる構造、よりなる群から選ばれる少なくとも1つの構造を含む1価の有機基である。)
で表される構造を有する重合体であることを特徴とする、請求項2の液晶配向剤。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の液晶配向剤を用いてなる、液晶配向膜。
【請求項5】
請求項4に記載の液晶配向膜を有することを特徴とする液晶表示素子。
【請求項6】
請求項4に記載の液晶配向膜上で液晶物質を配向させた後、配向状態を固定してなる光学部材。

【公開番号】特開2006−126298(P2006−126298A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−311388(P2004−311388)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】