液滴吐出ヘッド及び画像形成装置
【課題】記録媒体上で互いに重なり合うように吐出される液滴の着弾干渉を防止する。
【解決手段】有機顔料微粒子を含む液滴を記録媒体上に打滴した少なくとも一部のドットが主走査方向に重なるよう前記ノズルを配列し、前記記録媒体上で主走査方向に隣接するドットを打滴する第1のノズルと第2のノズル及び第1のノズルと副走査方向に隣接する第3のノズルに対し、前記第1のノズルと第2のノズル間の副走査方向距離が少なくとも前記第1のノズルと第3のノズルの副走査方向距離の2以上の整数倍となるように配置することによって第1のノズルからの吐出液滴と第2のノズルからの吐出液滴との着弾時間差を長くし、互いに重なり合うように吐出される両者の着弾干渉を防ぐとともに前記第1のノズルと第3のノズルの間の主走査方向における距離が少なくとも前記第1のノズルから前記記録媒体に吐出される液滴の最大ドット径以上の距離となるように配置する。
【解決手段】有機顔料微粒子を含む液滴を記録媒体上に打滴した少なくとも一部のドットが主走査方向に重なるよう前記ノズルを配列し、前記記録媒体上で主走査方向に隣接するドットを打滴する第1のノズルと第2のノズル及び第1のノズルと副走査方向に隣接する第3のノズルに対し、前記第1のノズルと第2のノズル間の副走査方向距離が少なくとも前記第1のノズルと第3のノズルの副走査方向距離の2以上の整数倍となるように配置することによって第1のノズルからの吐出液滴と第2のノズルからの吐出液滴との着弾時間差を長くし、互いに重なり合うように吐出される両者の着弾干渉を防ぐとともに前記第1のノズルと第3のノズルの間の主走査方向における距離が少なくとも前記第1のノズルから前記記録媒体に吐出される液滴の最大ドット径以上の距離となるように配置する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッド及び画像形成装置に係り、特に有機顔料インクを液滴として吐出するノズルを2次元マトリクス状に配列した液滴吐出ヘッド及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、画像形成装置として、多数のノズルを配列させたインクジェットヘッド(インク吐出ヘッド)を有するインクジェット記録装置(インクジェットプリンタ)が知られている。このインクジェット記録装置は、インクジェットヘッドと記録媒体を相対的に移動させながら、ノズルからインクを液滴として吐出して、記録媒体上にドットを形成することにより、画像を形成するものである。
【0003】
このようなインクジェット記録装置におけるインク吐出方法として、従来から様々な方法が知られている。例えば、圧電素子(圧電アクチュエータ)の変形によって圧力室(インク室)の一部を構成する振動板を変形させて、圧力室の容積を変化させ、圧力室の容積増大時にインク供給路から圧力室内にインクを導入し、圧力室の容積減少時に圧力室内のインクをノズルから液滴として吐出する圧電方式や、インクを加熱して気泡を発生させ、この気泡が成長する際の膨張エネルギーでインクを吐出させるサーマルインクジェット方式などが知られている。
【0004】
このようにインクジェット記録装置においては、ノズルから吐出されたインクによって形成されるドットを組み合わせることによって1つの画像が表現されている。これらドットのサイズを小さくし、高密度化して、1画像あたりの画素数を多くすることによって高画質が実現されている。
【0005】
例えば、図19に、ノズルを2次元マトリクス状に配列したインクジェットヘッドの例をその一部を拡大して示す。図19に示すインクジェットヘッド90は、インクジェットヘッド90に対して相対的に搬送される図示を省略した記録媒体に対してノズル91(91a、91b、91c)からインクを吐出して画像を記録するものである。インクジェットヘッド90は、記録媒体の搬送方向(副走査方向)と垂直な記録媒体の幅方向(主走査方向)にその長手方向を一致させて配置される。
【0006】
インクジェットヘッド90の各ノズル91にはそれぞれ圧力室92が対応している。図19に示すように、ノズル91は主走査方向及び副走査方向にそれぞれ配置され、2次元マトリクス状に配列されている。このとき、副走査方向のノズル91の配列方向は、完全に副走査方向(主走査方向と垂直)と一致しているのではなく、副走査方向から斜めに少しずれて配列されている。例えば、ノズル91aとノズル91bのように副走査方向に隣接したノズル間の主走査方向の距離Pmは、ノズル91aに対し主走査方向に隣接したノズル91cとの距離L1(略圧力室92の大きさに等しい)よりもはるかに小さくすることができる。
【0007】
このようにノズル91を副走査方向に斜めにずらして配列したことにより、例えばノズル91aから記録媒体にインクを吐出してドット93aを形成した後、記録媒体を副走査方向に圧力室92の大きさL2分だけ搬送してノズル91bから記録媒体に向けてインクを吐出するとノズル91aによって先に形成されたドット93aの主走査方向のすぐ横にドット93bとして形成される。このドット間の距離(中心間距離)は上で述べた副走査方向に隣接したノズル(91a及び91b)間の主走査方向の距離Pmに等しい。このように、ノズル91をマトリクス状に、しかも斜めにずらして配列することにより、ノズル(同じことであるがそのノズルによって形成されるドット)を高密度化することができる。
【0008】
例えば、特許文献1には、このようにノズルをn行m列の2次元マトリクス状に配列して、各個別電極への接続を低減して高密度化を図るようにしたものが記載されている。
【0009】
また、ライン型インクジェットヘッドにおいて、複数のインクノズルが1列に配列された各ヘッドチップを同一基板上にライン配列方向に対してある角度をなす傾斜状態で2列千鳥状に配列するようにしたものが知られている(例えば、特許文献2等参照)。
【0010】
一方、インクジェットプリンターのインクを種類で大別すると、染料インクと顔料インクとがあり、インクジェット用インクの色材には染料が用いられてきたが、染料インクは耐水性や耐光性の面で難点があり、それを改良するために顔料が用いられるようになってきている。しかし、顔料インクにより得られた画像は、染料インクによる画像に較べて耐光性、耐水性に優れるという特筆すべき利点を有する反面、紙表面の空隙に染み込むことが可能なナノメートルサイズに顔料を均一に微細化(すなわち単分散化)することが難しく、紙への浸透性の低下及び彩度の高い画像が得られないという問題がある。
【0011】
この対策として、特許文献3にマイクロジェットリアクター法を用いて顔料を微粒子化する方法が提案されている。この方法は、顔料を溶解した溶液と沈殿媒体液を互いに対峙するマイクロメートルサイズの異なる二つノズルへ高圧(例えば5MPa)でポンプ導入し
、両液のジェット流が衝突する部分にはガス(圧縮空気等)を垂直に導入し、そのガス流(約0.5m3/h)で顔料懸濁液を排出する方法である。
【特許文献1】特表平9−507803号公報
【特許文献2】特開2002−273878号公報
【特許文献3】特開2002−146222公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、インクジェットプリンターの画像形成において、複数のドットを重ねて被記録媒体上に着弾させると、インク液滴が混合し、本来のドット形状である円形状が崩れてしまい(着弾干渉の発生)、所望の高精彩な画像を形成させることが困難であるという問題がある。
【0013】
しかしながら、特許文献1や特許文献2ではこの着弾干渉の問題を解決することができず、特に、インクとして顔料インクを使用する場合には、粒子径が大きく単分散性の悪い顔料微粒子では彩度の高い画像が得られないだけでなく着弾干渉を促進してしまう懸念がある。
【0014】
即ち、ノズルを高密度化するとラインヘッド型の高速インクジェット印刷においては、液滴同士の打滴間隔が非常に短いため、記録媒体上に吐出された液滴が記録媒体に定着する前に互いにくっついて重なり合い、凝集して一つの大きな液滴またはドット形状が崩れて記録媒体に浸透したり、滲みや混色が発生するいわゆる着弾干渉あるいは打滴干渉と呼ばれる現象が起きる場合があり、これにより品質劣化が引き起こされる。この液滴の結合が記録媒体の搬送方向である副走査方向だけでなく、これと直交する主走査方向でも発生し、2次元的にこのような液滴の結合が起こった場合には特に大きな画像劣化となる。 更に、前述した図19に示すような従来のインクジェットヘッドにおいては、各ノズルを副走査方向に単純に斜めにずらして並べただけであるため、記録媒体上において主走査方向に隣接するインク液滴同士が記録媒体上に着弾した後、定着する前に互いに結合し、大きな液滴となって画質劣化が引き起こされるという問題がある。
【0015】
また、上記特許文献1に記載のものは、単にノズルを2次元マトリクス状に配列するというだけで、そのノズル配列のしかたについては特に言及がなく、前記従来のインクジェットヘッドと同様の問題がある。
【0016】
さらに、上記特許文献2に記載のものは、ライン型ヘッドにおける高密度化を目標としたものであり、着弾干渉を防止するためのドット径とノズルの配置の関係等については記載されていない。したがって、特許文献2に記載のようなノズル配置のライン型ヘッドで印刷した場合には、やはり図19に示したような従来の単純なマトリクスヘッドと同様に主走査方向の距離が隣接したノズルから吐出されるドット同士が記録媒体上で定着する前に結合、凝集し、画質劣化する虞があるという問題がある。
【0017】
また、特許文献3に記載された顔料は、マイクロメートルスケールの小さな空間で粒子を生成させ、それを直ちに装置外に取り出すことにより顔料微粒子による装置の閉塞を防ぐように工夫されており、狭い粒径分布の微粒子を得るのに好ましいが、両液の接触時間をコントロールし難いため微妙な反応制御が難しいことから、微細粒子で単分散性に優れた顔料微粒子を安定して製造することが難しいという問題点がある。
【0018】
このように、従来は、着弾干渉の防止対策や顔料粒子の微細化対策の点において未だ解決されていない課題があり、顔料インクで彩度の高い高精細な画像を得ることが難しいという問題があった。
【0019】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、微細粒径で単分散性に優れた顔料微粒子を含有する顔料インクを記録ヘッドから打滴でき、しかもドットが重なることによる画像乱れを防止することができるので、顔料インクで彩度の高い高精細な画像を得ることのできる液滴吐出ヘッド及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、記録媒体に、アルカリ性または酸性の水溶媒体に溶解した有機顔料の溶液を、流路中を層流として流通させ、その層流過程で溶液の水素イオン指数(pH)を変化させる工程によって生成された有機顔料微粒子を含む液滴を打滴する記録ヘッドであって、前記記録媒体が前記液滴吐出ヘッドに対して相対的に搬送される搬送方向と直交する主走査方向及び前記搬送方向である副走査方向に2次元的に、かつ前記ノズルから前記記録媒体上に打滴された少なくとも一部のドットが主走査方向に重なるように、前記ノズルが配列され、前記記録媒体上で主走査方向に隣接するドットを打滴する第1のノズルと第2のノズル及び第1のノズルと副走査方向に隣接する第3のノズルに対し、前記第1のノズルと第2のノズルとの間の副走査方向における距離が、少なくとも、前記第1のノズルと第3のノズルの副走査方向における距離の2以上の整数倍の距離となるように前記第1のノズルと第2のノズルを副走査方向に離して配置するとともに、前記第1のノズルと第3のノズルの間の主走査方向における距離が、少なくとも、前記第1のノズル及び前記第3のノズルから前記記録媒体に吐出される液滴によって形成される最大ドット径以上の距離となるように前記第1のノズルと第3のノズルを主走査方向に離して配置したことを特徴とする液滴吐出ヘッドを提供する。
【0021】
また、請求項2に示すように、前記第1のノズルと第3のノズルとの間の主走査方向における距離が、少なくとも、前記第1のノズルと第2のノズルの間の主走査方向の距離の2以上の整数倍の距離であることを特徴とする。
【0022】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、流路(チャンネル)中で、反応成分を含む溶液を流通させ有機顔料を合成したところ、温和な条件下速やかに、また純度良く目的の有機顔料が得られることを見出した。また、有機顔料の溶液を層流が支配的である流路中で、pH変化の影響下、共沈法(再沈法)を実施することにより、フラスコ中で行うような従来法に比べて、より粒径が揃った有機顔料微粒子を得ることができることを見出した。
【0023】
このように微細粒径で単分散性の良い有機顔料微粒子から成る顔料インクを記録ヘッドから打滴することで、被記録媒体に対する浸透性が良くなるだけでなく、打滴干渉も抑制することができるので、彩度の高い高精細な画像を得ることができる。また、記録ヘッドのノズルの詰まりも従来の顔料インクに比べ大幅に減らすことができる。
【0024】
特に、顔料を色材としたインクと、顔料を凝集反応させる処理液とを打滴または付着させることを特徴とする2液凝集反応系の画像形成装置においては、微細粒径で単分散性の良い有機顔料微粒子から成る顔料インクを用いることによって、顔料が瞬時に凝集して記録媒体上に沈降し、インクの溶媒同士が混合・合体しても顔料の形状は保持されるので、着弾干渉の防止により効果的である。
【0025】
さらに、上記のようにノズルを配置することにより、主走査方向に隣接する液滴ドット間での着弾干渉を確実に防止できる。
【0026】
また、同様に前記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、記録媒体に、アルカリ性または酸性の水溶媒体に溶解した有機顔料の溶液を、流路中を層流として流通させ、その層流過程で溶液の水素イオン指数(pH)を変化させる工程によって生成された有機顔料微粒子を含む液滴を打滴する記録ヘッドであって、前記記録媒体が前記液滴吐出ヘッドに対して相対的に搬送される搬送方向と直交する主走査方向及び前記搬送方向である副走査方向に2次元的に、かつ前記ノズルから前記記録媒体上に打滴された少なくとも一部の液滴ドットが主走査方向に重なるように、前記ノズルが配列され、前記液滴吐出ヘッドにおけるノズル間の主走査方向における最小距離である主走査方向最小ノズル間距離をPmとし、主走査方向に1列に配列された複数個のノズル列をそれぞれ主走査方向にずらして副走査方向に隣接させて並べ、任意のノズル列に対して主走査方向に所定距離だけずらしたノズル列が必ず存在するように配置して形成された複数個のノズルブロックのうち副走査方向に隣接するノズルブロックを、副走査方向に所定の間隔ずらすとともに、主走査方向に前記主走査方向最小ノズル間距離Pmだけずらして配置したことを特徴とする液滴吐出ヘッドを提供する。
【0027】
また、請求項4に示すように、前記ノズル列を主走査方向にずらす前記所定距離を、前記主走査方向最小ノズル間距離Pm及び前記ノズルブロックの個数Nを用いて、N×Pmとなるように設定することが好ましい。
【0028】
さらに、請求項5に示すように、前記ノズルブロック間の副走査方向の前記所定の間隔を、前記ノズル配列における副走査方向に隣接するノズル間の距離である副走査方向最小ノズル間距離Ps及び各ノズルブロックを構成する前記ノズル列の個数Mを用いて、M×Psとなるように設定することが好ましい。
【0029】
これによれば、副走査方向のノズル配列ピッチが統一されるのでノズル駆動制御を簡略化することができる。
【0030】
また、請求項6に示すように、前記記録媒体上で主走査方向に重なり合う液滴ドットを打滴する第1のノズルと第2のノズルをそれぞれ有する第1のノズルブロックと第2のノズルブロックとの間の副走査方向の前記所定の間隔に対して、少なくとも、前記第1のノズルから着弾された第1のドットが前記記録媒体に定着して前記記録媒体表面上での液滴径が小さくなり、前記第1のドットの着弾後に前記第2のノズルから着弾する第2のドットの前記記録媒体表面上での液滴と接触しない大きさになるまでの時間になるように前記記録媒体が相対的に搬送される搬送速度を少なくとも記録媒体の種類に応じて設定することを特徴とする。
【0031】
これによれば、インクの定着時間の記録媒体の依存性を考慮することで、種々の記録媒体に対して主走査方向のドットの着弾干渉を防止することが可能となり、高画質記録が得られる。
【0032】
また、請求項7に示すように、前記ノズル配列を構成する任意のノズルから前記記録媒体上に打滴される液滴の最大ドット径をDmax とするとき、前記主走査方向最小ノズル間距離Pmに対し、Dmax ≦N×Pmとなるように前記ノズルブロックの個数Nを設定することを特徴とする。これによれば、副走査方向において隣接して配置されているノズルから、短時間差で着弾するドット間の着弾干渉を防止することができる。
【0033】
また、同様に前記目的を達成するために、請求項8に記載の発明は、記録媒体に、アルカリ性または酸性の水溶媒体に溶解した有機顔料の溶液を、流路中を層流として流通させ、その層流過程で溶液の水素イオン指数(pH)を変化させる工程によって生成された有機顔料微粒子を含む液滴を打滴する記録ヘッドであって、前記記録媒体が前記液滴吐出ヘッドに対して相対的に搬送される搬送方向と直交する主走査方向及び前記搬送方向である副走査方向に2次元的に、かつ前記ノズルから前記記録媒体上に打滴された少なくとも一部のドットが主走査方向に重なるように、前記ノズルが配列され、前記記録媒体上で主走査方向に隣接または重ねて打滴する第1のドットと第2のドットを打滴する第1のノズルと第2のノズルとの副走査方向の距離を、少なくとも前記第1のドットが前記記録媒体に着弾して定着して前記記録媒体表面上での液滴径が小さくなり、前記第1のドットの着弾後に打滴される前記第2のドットの前記記録媒体表面上での液滴と接触しない大きさになるまでの時間に前記記録媒体が相対的に搬送される距離以上となるように設定し、前記第1のノズルと副走査方向に隣接する第3のノズルとの主走査方向の距離が、少なくとも前記第1のノズル及び前記第3のノズルから前記記録媒体に打滴されて形成される最大ドット径以上の距離となるように前記第1のノズルと前記第3のノズルを配置することを特徴とする液滴吐出ヘッドを提供する。
【0034】
これにより、効果的に隣接ドット間の着弾干渉を防止することができる。
【0035】
また、請求項9に示すように請求項1〜8のいずれか1項に記載の発明において、前記有機顔料微粒子は少なくとも一つの分散剤を含有する有機顔料の溶液で生成されたことを特徴としている。
【0036】
即ち、有機顔料微粒子は少なくとも一つの分散剤を含有する有機顔料の溶液で生成されることにより、ナノサイズレベルの微細粒径で単分散性に優れた有機顔料微粒子を得ることができるので、彩度が更に良くなり且つ被記録媒体への浸透性も向上するだけでなく、打滴干渉の一層の抑制が可能となる。
【0037】
また、請求項10に示すように請求項1〜9のいずれか1項に記載の発明において、前記有機顔料微粒子はモード径が1μm以下であることを特徴としている。
【0038】
モード径が1μm以下であると、有機顔料微粒子内の化学組成や結晶構造にも粒子間にバラツキがないことを意味するので、有機顔料微粒子の物性が一定となり、顔料インクで彩度の高い高精細な画像を更に得ることができる。
【0039】
また、請求項11に示すように請求項1〜10いずれか1項に記載の発明において、前記有機顔料微粒子は前記有機顔料の溶液がアルカリ性であり、一般式(I)で表されるキナクリドン系顔料であることを特徴としている。
【0040】
請求項11は顔料インクに使用される顔料のうちでもキナクリドン系顔料が好ましく、キナクリドン系顔料で微細粒子を形成するようにしたものである。
【0041】
請求項12に示すように、請求項1〜11いずれか1項に記載の発明において、前記記録ヘッドより打滴される液滴はアルカリ性であり、前記記録ヘッドのうちの少なくとも前記液滴の液が接触する部分の材質が耐アルカリ性の材質で形成されていることを特徴とする。
【0042】
請求項12のように、記録ヘッドのうちの少なくとも前記液滴の液が接触する部分の材質が耐アルカリ性の材質で形成されていれば、キナクリドン系顔料のように、アルカリ性の有機顔料溶液をそのまま使用することができ、便利である。
【0043】
また、同様に前記目的を達成するために、請求項13に記載の発明は、請求項1〜12のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッドを備えたことを特徴とする画像形成装置を提供する。
【0044】
これにより、隣接ドット間での着弾干渉が防止され、高画質の画像記録を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、微細粒径で単分散性に優れた顔料微粒子を含有する顔料インクを記録ヘッドから打滴でき、記録媒体上で互いに重なり合う異なるノズルから吐出される液滴の着弾時間間隔を長くし、着弾干渉を防止し滲みをなくすことができるので、顔料インクで彩度の高い高精細な画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施形態について詳説する。
【0047】
本発明の特徴を成す顔料インクと液滴吐出ヘッド及び画像形成装置とのうち、先ず液滴吐出ヘッド及び画像形成装置について説明する。
【0048】
〔液滴吐出ヘッド及び画像形成装置の構成〕
本発明の液滴吐出ヘッドは、ノズルを2次元マトリクス状に並べる際、各ノズルを従来のように単純に斜めに並べるのではなく、以下詳しく説明するように互いにずらして並べることにより、異なるノズルから吐出され記録媒体上で重なり合う液滴が打滴される時間間隔を大きくして隣接ドット間の着弾干渉を防止するようにしたものである。
【0049】
図1は、本発明に係る画像形成装置の一実施形態としてのインクジェット記録装置の概略を示す全体構成図である。
【0050】
図1に示したように、このインクジェット記録装置10は、インクの色毎に設けられた複数の印字ヘッド12K、12C、12M、12Yを有する印字部12と、各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部14と、記録紙16を供給する給紙部18と、記録紙16のカールを除去するデカール処理部20と、前記印字部12のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙16の平面性を保持しながら記録紙16を搬送する吸着ベルト搬送部22と、印字部12による印字結果を読み取る印字検出部24と、印画済みの記録紙(プリント物)を外部に排紙する排紙部26とを備えている。
【0051】
図1では、給紙部18の一例としてロール紙(連続用紙)のマガジンが示されているが、紙幅や紙質等が異なる複数のマガジンを併設してもよい。また、ロール紙のマガジンに代えて、又はこれと併用して、カット紙が積層装填されたカセットによって用紙を供給してもよい。
【0052】
ロール紙を使用する装置構成の場合、図1のように、裁断用のカッター28が設けられており、該カッター28によってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター28は、記録紙16の搬送路幅以上の長さを有する固定刃28Aと、該固定刃28Aに沿って移動する丸刃28Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃28Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃28Bが配置されている。なお、カット紙を使用する場合には、カッター28は不要である。
【0053】
複数種類の記録紙を利用可能な構成にした場合、紙の種類情報を記録したバーコードあるいは無線タグ等の情報記録体をマガジンに取り付け、その情報記録体の情報を所定の読取装置によって読み取ることで、使用される用紙の種類を自動的に判別し、用紙の種類に応じて適切なインク吐出を実現するようにインク吐出制御を行うことが好ましい。
【0054】
給紙部18から送り出される記録紙16はマガジンに装填されていたことによる巻き癖が残り、カールする。このカールを除去するために、デカール処理部20においてマガジンの巻き癖方向と逆方向に加熱ドラム30で記録紙16に熱を与える。このとき、多少印字面が外側に弱いカールとなるように加熱温度を制御するとより好ましい。
【0055】
デカール処理後、カットされた記録紙16は、吸着ベルト搬送部22へと送られる。吸着ベルト搬送部22は、ローラ31、32間に無端状のベルト33が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する部分が平面(フラット面)をなすように構成されている。
【0056】
ベルト33は、記録紙16幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引孔(図示省略)が形成されている。図1に示したとおり、ローラ31、32間に掛け渡されたベルト33の内側において印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバ34が設けられており、この吸着チャンバ34をファン35で吸引して負圧にすることによってベルト33上の記録紙16が吸着保持される。
【0057】
ベルト33が巻かれているローラ31、32の少なくとも一方にモータ(図示省略)の動力が伝達されることにより、ベルト33は図1において、時計回り方向に駆動され、ベルト33上に保持された記録紙16は、図1の左から右へと搬送される。
【0058】
縁無しプリント等を印字するとベルト33上にもインクが付着するので、ベルト33の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部36が設けられている。ベルト清掃部36の構成について詳細は図示しないが、例えば、ブラシ・ロール、吸水ロール等をニップする方式、清浄エアーを吹き掛けるエアーブロー方式、あるいはこれらの組み合わせなどがある。清掃用ロールをニップする方式の場合、ベルト線速度とローラ線速度を変えると清掃効果が大きい。
【0059】
なお、吸着ベルト搬送部22に代えて、ローラ・ニップ搬送機構を用いる態様も考えられるが、印字領域をローラ・ニップ搬送すると、印字直後に用紙の印字面にローラが接触
するので、画像が滲み易いという問題がある。したがって、本例のように、印字領域では画像面と接触させない吸着ベルト搬送が好ましい。
【0060】
吸着ベルト搬送部22により形成される用紙搬送路上において印字部12の上流側には、加熱ファン40が設けられている。加熱ファン40は、印字前の記録紙16に加熱空気を吹きつけ、記録紙16を加熱する。印字直前に記録紙16を加熱しておくことにより、インクが着弾後乾き易くなる。
【0061】
印字部12は、4色(KCMY)に対応する印字ヘッド12K、12C、12M、12Yからなり、各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yは、それぞれ複数の吐出口(ノズル)を有し、記録紙16の全幅を担うように、各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yの長手方向を紙搬送方向(副走査方向)と直交する記録紙16の幅方向(主走査方向)に並べて配置され、最大紙幅に対応する長さを有する、いわゆるフルライン型ヘッドとなっている(図2参照)。
【0062】
図2に示すように、各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yは、インクジェット記録装置10が対象とする最大サイズの記録紙16の少なくとも一辺を超える長さにわたってインク吐出口(ノズル)が、その長手方向に複数配列されたライン型ヘッドとして構成されている。
【0063】
また詳しくは後述するが、各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yは、インクの吐出を検出するための検出手段や検出のための光束を所定の形状に形成するための光学系や、その他インク吐出状態やインク滴サイズ、インク吐出速度等の検出に関わる様々な手段を備えている。
【0064】
記録紙16の搬送方向(紙搬送方向)に沿って上流側(図の左側)から黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の順に各色インクに対応した印字ヘッド12K、12C、12M、12Yが配置されている。記録紙16を搬送しつつ各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yからそれぞれ色インクを吐出することにより記録紙16上にカラー画像を形成し得る。
【0065】
このように、紙幅の全域をカバーするフルラインヘッドがインク色毎に設けられてなる印字部12によれば、紙搬送方向について記録紙16と印字部12を相対的に移動させる動作を一回行うだけで(すなわち、一回の走査で)記録紙16の全面に画像を記録することができる。これにより、印字ヘッドが紙搬送方向と直交する方向に往復動作するシャトル型ヘッドに比べて高速印字が可能であり、生産性を向上させることができる。
【0066】
なお、本例では、KCMYの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態には限定されず、必要に応じて淡インク、濃インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタ等のライト系インクを吐出する印字ヘッドを追加する構成も可能である。
【0067】
図1に示したように、インク貯蔵/装填部14は、各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yに対応する色のインクを貯蔵するタンクを有し、各タンクは図示を省略した管路を介して各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yと連通されている。また、インク貯蔵/装填部14は、インク残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段等)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。
【0068】
印字検出部24は、印字部12の打滴結果を撮像するためのイメージセンサ(ラインセ
ンサ等)を含み、該イメージセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まりその他の吐出不良をチェックする手段として機能する。
【0069】
本例の印字検出部24は、少なくとも各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yによるインク吐出幅(画像記録幅)よりも幅の広い受光素子列を有するラインセンサで構成される。このラインセンサは、赤(R)の色フィルタが設けられた光電変換素子(画素)がライン状に配列されたRセンサ列と、緑(G)の色フィルタが設けられたGセンサ列と、青(B)の色フィルタが設けられたBセンサ列とからなる色分解ラインCCDセンサで構成されている。なお、ラインセンサに代えて、受光素子が二次元配列されて成るエリアセンサを用いることも可能である。
【0070】
印字検出部24は、各色の印字ヘッド12K、12C、12M、12Yにより印字されたテストパターンを読み取り、各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yの吐出検出を行う。吐出判定は、吐出の有無、ドットサイズの測定、ドット着弾位置の測定等で構成される。
【0071】
印字検出部24の後段には、後乾燥部42が設けられている。後乾燥部42は、印字された画像面を乾燥させる手段であり、例えば、加熱ファンが用いられる。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けたほうが好ましいので、熱風を吹きつける方式が好ましい。
【0072】
後乾燥部42の後段には、加熱・加圧部44が設けられている。加熱・加圧部44は、画像表面の光沢度を制御するための手段であり、画像面を加熱しながら所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラ45で加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
【0073】
このようにして生成されたプリント物は、排紙部26から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット記録装置10では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部26A、26Bへと送るために排紙経路を切り換える選別手段(図示省略)が設けられている。なお、大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列に形成する場合は、カッター(第2のカッター)48によってテスト印字の部分を切り離す。カッター48は、排紙部26の直前に設けられており、画像余白部にテスト印字を行った場合に、本画像とテスト印字部を切断するためのものである。カッター48の構造は前述した第1のカッター28と同様であり、固定刃48Aと丸刃48Bとから構成されている。
【0074】
また、図示を省略したが、本画像の排出部26Aには、オーダー別に画像を集積するソーターが設けられている。
【0075】
なお、本実施形態では図2に示したように印字ヘッド12K、12C、12M、12Yはインクジェット記録装置10が対象とする最大サイズの記録紙16の少なくとも一辺を超える長さにわたってインク吐出口(ノズル)が複数配列されたフルライン型ヘッドとして説明するが、さらに図3に示すように、短尺の2次元に配列されたヘッド50'を千鳥
状に配列して繋ぎ合わせて、記録媒体の全幅に対応する長さとするようにしてもよい。なお、この場合には各短尺ヘッド50'に対して本実施形態のノズル配列が適用される。
【0076】
次に、印字ヘッドの構造について説明する。インク色毎に設けられている各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yの構造は共通しているため、以下、これらを一つの印字ヘッド50で代表させて説明する事とする。
【0077】
図4は、印字ヘッド50を構成する一つの圧力室ユニット54を拡大して示す平面図である。図4に示すように圧力室ユニット54は、インクを吐出するノズル51とインク供給口53を有する圧力室52で構成されている。各ノズル51に対して設けられている圧力室52は、その平面形状が概略正方形となっており、その対角線上の両隅部にノズル51とインク供給口53が設けられている。各圧力室52はインク供給口53を介して共通流路(図4では図示省略)と連通されている。
【0078】
図5に、図4中のV-V 線に沿った圧力室ユニット54の断面図を示す。図5に示すように、圧力室52の天面を構成している振動板56には個別電極57を備えたアクチュエータ58が接合されている。個別電極57に駆動電圧を印加することによってアクチュエータ58が変形して圧力室52に連通したノズル51からインクが吐出される。
【0079】
一方、圧力室52はインク供給口53を通じて共通流路55と連通しており、インクが吐出されると共通流路55からインク供給口53を介して新しいインクが圧力室52に供給されるようになっている。
【0080】
なお、上で記録媒体の搬送方向を副走査方向とし、それに直交する記録媒体の幅方向(印字ヘッド長手方向)を主走査方向としたが、ノズルの駆動制御方法である主走査及び副走査の概念についてここで説明しておく。
【0081】
記録媒体(記録紙16)の全幅に対応したノズル列を有するフルラインヘッドでノズルを駆動する時には、(1)全ノズルを同時に駆動、(2)ノズルを片方から他方に向かって順次駆動、(3)ノズルをブロックに分割してブロック毎にそのブロック内のノズルを片方から他方に向かって順次駆動、等の駆動方法があり、記録媒体の幅方向(記録媒体の搬送方向と直交する方向)に1ラインまたは1個の帯状を印字するようなノズルの駆動方法を主走査と定義する。
【0082】
また、上述したフルラインヘッドと記録媒体とを相対的に移動することによって、上述した主走査で形成された1ライン(1列のドットによるラインまたは複数列のドットから成るライン)の印字を繰り返し行うようなノズルの駆動方法を副走査と定義する。
【0083】
図6は、本実施形態のインクジェット記録装置10のシステム構成を示す要部ブロック図である。インクジェット記録装置10は、通信インターフェース70、システムコントローラ72、画像メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78、プリント制御部80、画像バッファメモリ82、ヘッドドライバ84等を備えている。
【0084】
通信インターフェース70は、ホストコンピュータ86から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース70にはUSB、IEEE1394、イーサネット、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(図示省略)を搭載してもよい。ホストコンピュータ86から送出された画像データは通信インターフェース70を介してインクジェット記録装置10に取り込まれ、一旦画像メモリ74に記憶される。画像メモリ74は、通信インターフェース70を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ72を通じてデータの読み書きが行われる。画像メモリ74は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
【0085】
システムコントローラ72は、通信インターフェース70、画像メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78等の各部を制御する制御部である。システムコントローラ72は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、ホストコンピ
ュータ86との間の通信制御、画像メモリ74の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ88やヒータ89を制御する制御信号を生成する。
【0086】
モータドライバ76は、システムコントローラ72からの指示にしたがってモータ88を駆動するドライバ(駆動回路)である。ヒータドライバ78は、システムコントローラ72からの指示にしたがって後乾燥部42等のヒータ89を駆動するドライバである。
【0087】
プリント制御部80は、システムコントローラ72の制御に従い、画像メモリ74内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字制御信号(印字データ)をヘッドドライバ84に供給する制御部である。プリント制御部80において所要の信号処理が施され、該画像データに基づいてヘッドドライバ84を介して印字ヘッド50のインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
【0088】
プリント制御部80には画像バッファメモリ82が備えられており、プリント制御部80における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ82に一時的に格納される。なお、図6において画像バッファメモリ82はプリント制御部80に付随する態様で示されているが、画像メモリ74と兼用することも可能である。また、プリント制御部80とシステムコントローラ72とを統合して一つのプロセッサで構成する態様も可能である。
【0089】
ヘッドドライバ84はプリント制御部80から与えられる印字データに基づいて各色の印字ヘッド12K、12C、12M、12Yのアクチュエータ58を駆動する。ヘッドドライバ84にはヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでもよい。
【0090】
以下に、本発明のポイントである印字ヘッド50におけるノズル配列について詳細に説明する。
【0091】
図7に、本実施形態の印字ヘッド50におけるノズル配列をその一部を拡大した平面図で示す。前にも述べたように、本実施形態の印字ヘッド50は、その長手方向を記録紙16の幅方向に合わせて配置され、印字ヘッド50の長手方向に垂直な方向(短手方向)に記録紙16が搬送されるようになっている。したがって、印字ヘッド50の長手方向が主走査方向、短手方向が副走査方向である。印字ヘッド50は、主走査方向及び副走査方向に以下説明するような方法でノズル51を有する圧力室52を2次元マトリクス状に並べることにより、ノズル51の2次元マトリクス配列を実現している。なお、図7においては、表示の関係から副走査方向に20個の圧力室52のみが配列されているが、実際の印字ヘッド50にはもっとたくさんの圧力室52が主走査方向に繰り返し配列されている。
【0092】
また、図4に示したように圧力室52は略正方形状であるが、図7においては、各圧力室52の副走査方向の大きさを主走査方向に対して1/20に縮小して表示している。なお、図7中の左下の部分を図8に拡大して(圧力室52の縦横のサイズを)正規の縮尺で表示している。
【0093】
図7では主走査方向の最も左側の圧力室52のみを表示している。図7に表示する例では、印字ヘッド50は、副走査方向に20個の圧力室52(52−11A、52−12A、・・・、52−21A、・・・等)が並んでおり、各圧力室52はそれぞれ左下隅の一定の場所にノズル51(51−11A、51−12A、・・・等)を有している。
【0094】
したがって、印字ヘッド50は副走査方向に20個のノズル51(51−11A、51
−12A、・・・、51−21A、・・・等)が並んでいる。また、図8に示すように、主走査方向にも多数の圧力室52及びノズル51が並んでいる。例えば、図8において、最下段の主走査方向の列には左側から圧力室52が圧力室52−11A、52−11B、52−11C、・・・と並んでおり、また、その上の主走査方向の列には圧力室52が圧力室52−12A、52−12B、52−12C、・・・と並んでいる。
【0095】
また、これと同様にノズル51も最下段の主走査方向の列には、左側からノズル51−11A、51−11B、51−11C、・・・と並び、その上の段の主走査方向の列には、左側からノズル51−12A、51−12B、51−12C、・・・と並んでいる。
【0096】
このように、主走査方向に多数ノズル51が1列に並んだノズル51の列、例えばノズル51−11A、51−11B、51−11C、・・・の列等を本実施形態では、ノズル列という。
【0097】
図7に示す例では、このような主走査方向に多数のノズル51が並んだノズル列が、副走査方向に20列並んでおり、これら副走査方向に20列並んだノズル列を副走査方向に隣接して並ぶ4列のノズル列毎に分ける。そして、副走査方向に隣接して並ぶ4列のノズル列(例えば、最左端のノズル51がそれぞれ51−11A、51−12A、51−13A、51−14Aであるような4つのノズル列を1つのノズルブロックとする。したがって、図7に示す例では、図7に表示されている全ノズルが5つのノズルブロックに分けられることになる。
【0098】
図8で一番下から副走査方向に隣接して連続して斜め上方に並んだ4列のノズル列、それぞれ(51−11A、51−11B、51−11C、・・・)、(51−12A、51−12B、51−12C、・・・)、(51−13A、51−13B、51−13C、・・・)、(51−14A、51−14B、51−14C、・・・)からなるノズルブロックをノズルブロック1とし、その上に斜めに副走査方向に隣接して並ぶ4列のノズル列からなるノズルブロックをノズルブロック2とする。以下同様に、4列ずつのノズル列を有する5つのノズルブロックによって印字ヘッド50が構成される。
【0099】
図7に示すように、ノズルブロック1内の各ノズル列は、各ノズル列を代表する最左端側のノズル51−11A、51−12A、51−13A、51−14Aが示すように、主走査方向に距離Lmの間隔だけずれて副走査方向に隣接して斜めに配置されている。他のノズルブロック2等においても同様である。また、ノズルブロック1とノズルブロック2は、それぞれの対応するノズル51−11A及び51−21Aが示すように、主走査方向に距離Pmだけずらして、また副走査方向に距離Lsだけずらして配置されている。
【0100】
この主走査方向の距離Pmは、本実施形態の印字ヘッド50におけるノズル配列の主走査方向の最小ノズル間距離である。本実施形態においては、記録紙16上で主走査方向に隣接するドットは主走査方向に隣接して配置されたノズル51(例えばノズル51−11Aと51−21A等)によって打滴され、主走査方向の最小ノズル間距離Pmと記録紙16上での最小ドット間距離Pdとは等しい。
【0101】
一般的に、図9(a)に示すように、主走査方向に隣接した2つのノズルN100、N102の最小ノズル間距離Pmは、記録紙16上における主走査方向に隣合った2つのドットD100、D102の最小ドット間距離(ドットピッチ)Pdに等しい。しかし、常に最小ノズル間距離Pmと最小ドット間距離Pdは等しいとは限らない。すなわち、図9(b)に示すように、2つのノズルN100とN102の主走査方向の最小ノズル間距離Pmを2つのドットD100とD102の主走査方向の最小ドット間距離Pdよりも大きく、例えば、Pm=2×Pdとして、ノズル数を削減して印字ヘッドを構成し、プリント時に印字ヘッドを間欠的に主走査方向にコマ送りして移動してノズル位置を記録すべきドット位置までずらして打滴することも可能である。このようにすると、まず記録媒体上の第1のドットD100を記録すべき位置がノズルN100の位置に搬送された時にそのままノズルN100から打滴して第1のドットD100を形成する。次に記録媒体上の第2のドットD102を記録すべき位置がノズルN102の主走査方向に搬送されるタイミングで、印字ヘッドをPdの距離だけ図9(b)の左方向にステップ移動して第2のドットD102を第2のノズルN102から打滴することにより、図9(a)と同様の重なったドットD100、D102を形成することができる。この場合、最小ノズル間距離Pmと最小ドット間距離Pdは等しくない。
【0102】
本実施形態におけるノズル配置についてさらに詳しく説明するために、図7の左下の部分を拡大して図8に示す。図8では、各圧力室52(52−11A、・・・等)の大きさは縦横(主走査方向及び副走査方向)について同じ縮尺で表されている。
【0103】
各ノズルブロックにおいて副走査方向に隣接したノズル間の距離、例えば図8でノズルブロック1のノズル51−11Aとノズル51−12Aとの副走査方向の距離Psは、副走査方向の最小ノズル間距離(副走査方向のノズルピッチ)である。これは、正確には圧力室間の隔壁の厚さ等を考慮しなければならないが、ここでは略圧力室52−11Aの副走査方向の長さL2に等しいとする。
【0104】
また、圧力室52−11Aの主走査方向の長さをL1とすると、各ノズルブ列内でのノズルの主走査方向の最小配列間隔(例えば、ノズル51−11Aとノズル51−11Bとの間の距離)は略L1である。なお、前述したように、圧力室52は概略正方形であるので、L1=L2と考えてよい。
【0105】
ノズルブロック1とノズルブロック2の副走査方向の距離Lsは、本実施形態におけるノズル配列における副走査方向の最小ノズル間距離Psの、ノズルブロックを構成するノズル列数(正の整数M)倍である。すなわちLs=M×Psとなる。図8に示すように、この例では各ノズルブロックは副走査方向に4個のノズル列で構成されている(例えばノズルブロック1は、最左端のノズル51がそれぞれノズル51−11A、51−12A、51−13A、51−14Aである4列のノズル列によって構成される。)。したがって、M=4であり、Ls=4×Psとなる。
【0106】
ノズルブロック1のノズル51−11Aとノズルブロック2のノズル51−21Aは、主走査方向の距離が本例のノズル配列における最小ノズル間距離Pmであり、ノズル51−11Aによって打滴された記録紙16上のドットと、記録紙16を上述した副走査方向のノズルブロック間距離である距離Ls分だけ搬送してノズル51−21Aで打滴したドットとが重なることになる。したがって、記録紙16上で主走査方向に隣接して重なったドットを打滴するノズル51−11A及びノズル51−21A間の距離が図19に示す従来のノズル配列に比較して4倍となる。よって記録紙16の搬送速度が従来の場合と同じであれば、記録紙16上の主走査方向に隣接する液滴が着弾する時間間隔は図19に示す単純にノズルを斜めに配置した従来の場合の4倍となり、液滴を重ねて打滴しても着弾干渉を起こすことはない。
【0107】
また、ノズルブロック内の副走査方向に隣接したノズル間の主走査方向の距離Lmについては、本例のノズル配列における主走査方向の最小ノズル間距離Pmの整数N倍となるように設定される。すなわち、Lm=N×Pmとなる。具体的には、本実施形態では図7に示すように、ノズル51−11Aで打滴された記録紙16上のドットに対して、主走査方向に隣接して4個のドットがそれぞれノズル51−21A、51−31A、51−41A、51−51Aによって打滴される。したがって、ノズルブロック1内の副走査方向に
隣接したノズル51−11Aとノズル51−12Aとは、主走査方向にそれぞれ5つのノズルブロックに属する5ノズル分だけ離れて配置されることになる。よってNはノズルブロックの個数である。図7に示す例では、N=5であり、Lm=5×Pmとなる。これにより最大ドット径Dmax に対し、Dmax ≦Lmとなっている。これはノズルブロック1内の他のノズル、他のノズルブロックについても同様である。
【0108】
本実施形態ではノズルをこのように配置して着弾干渉を防止するようにしているが、一般的に記録媒体の搬送速度をV[μm/μsec ]とし、圧力室52の副走査方向の長さをL2[μm](L2≒Ps)としたとき、副走査方向においてMノズルだけ離れているノズルから記録媒体上の副走査方向の同じ位置に吐出される液滴ドットの着弾時間差は、Δt=(M×L2)/V[μsec ]で与えられる。よって、吐出されたドットが記録媒体に定着するまでの時間をt0 [μsec ]とすると、Δt>t0 となれば、これら2つのドットは互いに干渉せずに定着することとなる。
【0109】
図19に示す従来の単純なマトリクス配置の場合はM=1であるが、このΔt>t0 の条件を満たすようにMの値を設定することにより着弾干渉が防止される。上述したように、本実施形態ではM=4として、隣接する液滴が着弾する時間間隔を従来の4倍とすることにより着弾時間差を大きくしてこれを満たすようにしている。
【0110】
また、副走査方向のノズル密度(本ノズル配列における副走査方向の最小ノズル間距離Ps)が、副走査方向において同一位置に存在するノズル(例えば、図8においてノズル51−11Aとノズル51−11B)の主走査方向の間隔に等しいとする。すなわち、図8において、圧力室52の大きさが主走査方向(横)と副走査方向(縦)で等しい(L1=L2)とする。L1=L2(またはL1≒L2)とすることで、アクチュエータの変位量の確保と圧力室内の気泡滞流防止をすることが可能となる。
【0111】
例えば、いまL1=L2=200[μm]とする。また、副走査方向に20個のノズル(ノズル列)が並んでいる図8の場合において、主走査方向ノズル密度を2400[dpi]、吐出周波数を10[kHz]、すなわち記録媒体の搬送速度を100[mm/sec ]とすると、主走査方向に隣接したノズルから吐出される記録媒体上において、主走査方向に隣接する液滴の着弾時間間隔を算出すると、従来のように単にノズルを斜めに並べただけの場合には、0.2116[mm]/100[mm/sec ]=2.116[msec] であるのに対して、図7あるいは図8に示すような本実施形態の配列の場合には、0.2116×4[mm]/100[mm/sec ]=8.464[msec] となる。
【0112】
また図10に、本実施形態の液滴吐出ヘッド(印字ヘッド)におけるノズル配列の他の例を示す。図10も図7と同様に圧力室の副走査方向の大きさを主走査方向に対して1/20に縮小して表している。図10に示すように、このノズル配置は図7に示すノズル配置において、各ノズルブロックの副走査方向の2段目と3段目のノズル列を入れ替えたものである。例えば、図10のノズルブロック1は、図7に示すノズルブロック1においてノズル51−12Aを含むノズル列とノズル51−13Aを含むノズル列とを入れ替えたものである。またこのとき、他のノズルブロックにおいても同様にノズル列の配置を入れ替えるようにする。
【0113】
このノズル列の入れ替えは、それぞれ各ノズルブロック内でのみ行われ、各ノズルブロック間の関係は図7の場合と全く同じである。例えば、ノズルブロック1のノズル51−11Aとこれに対応するノズルブロック2内のノズル51−21Aとの関係(主走査方向、副走査方向の距離)は、図7あるいは図8で説明したものと全く同じである。
【0114】
また、ノズルブロック内の各ノズルの主走査方向における隣のノズルとは同一ノズルブ
ロック内でそのノズルに対し主走査方向における距離が最小となるノズルを言うものとする。例えば、図10において、ノズルブロック1のノズル51−11Aに対しては、主走査方向の距離が最小となるノズルは51−12Aであるので、ノズル51−11Aのノズルブロック1における隣のノズルはノズル51−13Aではなくノズル51−12Aである。
【0115】
同様にノズルブロック1内において、ノズル51−12Aに対してノズル51−13Aは主走査方向における隣のノズルであり、ノズル51−13Aに対しノズル51−14Aは主走査方向における隣のノズルである。図10に示すように、これら主走査方向における隣同士のノズル間の主走査方向の距離は前述した図7の場合と同様Lmである。
【0116】
この同一ノズルブロック内での主走査方向の隣のノズルとの距離Lmは、本ノズル配列における主走査方向の最小ノズル間距離Pmの正の整数N倍、すなわちLm=N×Pmとなるように設定される。図10の場合、図7と同様に、5個のノズルブロックから形成されており、N=5であるから、Lm=5×Pmとなる。
【0117】
図7に示す例では、各ノズルブロックを構成する複数のノズル列をそれぞれ主走査方向に所定距離Lmずつずらしながら副走査方向に隣接させて並べたが、これに対して図10に示す例では、各ノズルブロックを構成する複数のノズル列が副走査方向に隣接するか否かに関係なく、主走査方向に所定距離Lmで隣り合うように並べられる。このように、図10では、各ノズルブロック内のノズル列が図7のように階段状に並んでいるのではなく、主走査方向に交互にずらしながら、副走査方向に並べて配置されてノズルブロックを構成している。
【0118】
また図10に示すノズル配列について別の見方をすることもできる。すなわち、図11に示すノズル配列は図10のノズル配列と同じであるが、図10のように各ノズルを4つのノズル列で形成されるノズルブロックへ分けるのではなく、主走査方向に関して最も左側にあるノズル51−11A、51−21A、51−31A、51−41A、51−51Aで形成されるノズルの集まりを、図10のノズルブロックと区別してノズル群と呼ぶことにする。例えば、ノズル51−11A、51−21A、51−31A、51−41A、51−51Aで形成されるノズル群をノズル群B1とし、ノズル51−13A、51−23A、51−33A、51−43A、51−53Aの5つのノズルからなる群をノズル群B2とし、以下同様にノズル群B3・・・等とする。
【0119】
そして図11においては、これらの5つずつのノズルからなるノズル群B1、B2、・・・を図11に示すように副走査方向に交互にずらして互い違いに配置する。
【0120】
具体的には、ノズル群間の主走査方向の間隔Lmはいままでと同様にこの配列における主走査方向の最小ノズル間距離Pmに対し、正の整数N(各ノズル群のノズル数、この場合は5)によりLm=N×Pmとなる。
【0121】
また、ノズル群間の副走査方向の間隔Lsは、例えばノズル群B1とノズル群B2については、ノズル51−11Aとノズル51−13Aを比較して、副走査方向の最小ノズル間距離Ps(略、圧力室52の副走査方向の大きさL2と等しい)の2倍、Ls=2×Ps(=2×L2)となる。
【0122】
また、ノズル群B2と次のノズル群B3についての副走査方向の間隔Lsは丁度副走査方向の最小ノズル間隔Psとなっている。以下、これの繰り返しである。
【0123】
また、図7においてノズル51−11Aと51−12Aのように副走査方向において互
いに隣接したノズルあるいは近傍に配置されるノズルは、それらの主走査方向における距離を各ノズルから吐出される液滴の直径より大きく設定するものとする。
【0124】
ここでは例えばノズルの直径は30[μm]と仮定しており、液滴の直径も略これと同じである。具体的には、ノズルから記録媒体上に打滴される液滴の最大ドット径をDmax とするとき、主走査方向の最小ノズル間距離Pmに対し、Dmax ≦N×Pmが成り立つような正の整数Nをとることにより、主走査方向の各ノズルブロックのずれをN×Pmと設定する。
【0125】
このように、Nを設定して距離N×Pmだけノズルを主走査方向に離すようにすれば、各ノズルから吐出される液滴が吐出直後だけでなく、その後記録媒体が搬送されても互いに永久に重なることがなく、画像劣化を防止することができる。前述したように、この整数Nは、ノズルブロックの個数Nが用いられる。
【0126】
また、図7において、各ノズルブロック間の副走査方向の間隔Lsを設定する際、上記では副走査方向の最小ノズル間距離Psの整数倍としていた。具体的には、この整数Mはノズルブロック内の副走査方向に並ぶノズル列の個数Mが用いられた。
【0127】
これに対し、この副走査方向に隣接するノズルブロック間の間隔Lsを次のように設定するようにしてもよい。すなわち、図7においてノズルブロック1のノズル51−11Aで打滴した後その液滴の一部が記録紙16に浸透して記録紙16の表面上の液滴径が小さくなった場合には、記録紙16を搬送してノズルブロック2のノズル51−21Aから上記液滴に重ねて液滴を吐出することができる。詳しくは後述するが、すでに液滴が記録紙16の中に浸透した領域上に重ねて液滴を吐出しても浸透した液滴は定着しているので、その記録紙16の表面上に後から吐出された液滴が混ざり合い滲むことはないからである。
【0128】
すなわち、最初に打滴された液滴の一部(周囲)が記録紙16に浸透して記録紙16表面に残った液滴の半径と後から打滴された液滴の記録紙16表面での半径との和がドット間ピッチ(主走査方向の最小ノズル間距離Pm)より小であるという条件を満たせば、着弾干渉は発生しない。したがって、上記各ノズルブロック間の副走査方向の間隔Lsを、最初に打滴された液滴の記録紙16表面での半径が打滴後上記条件を満たす大きさとなるまでの時間(着弾干渉を発生させない打滴インターバル)内に記録紙16が搬送される距離となるように設定し、各ノズルブロックをこの距離の分だけ副走査方向に離して配置するようにしてもよい。
【0129】
このように、主走査方向に隣接して重ねて打滴される液滴ドットが干渉しないようにするための打滴インターバルについて以下説明する。
【0130】
主走査方向に隣接した液滴ドットを打滴するノズルとして図7あるいは図8のノズルブロック1のノズル51−11Aとノズルブロック2のノズル51−21Aを例にとって説明する。図12に、先にノズル51−11Aによって打滴されたインク滴100が示されている。インク滴100の記録紙16表面上の液滴直径をD1aとする。
【0131】
所定の時間Tが経過すると、記録紙16表面の溶媒がなくなり、インク滴100は記録紙16に完全に浸透される。ここで、所定の大きさ(本実施形態では、着弾時のインク滴直径と同じ直径)を有するドットが形成される。この時間Tを完全浸透時間とする。
【0132】
図13は、図12中XIII-XIII 線に沿う断面図であり、記録紙16にインク滴100が着弾した直後の状態を示している。図14には、インク滴100が記録紙16に着弾した
後、完全浸透時間T未満の所定の時間が経過して記録紙16表面のインク滴100の直径がD1bになった状態を示している。
【0133】
なお、図14中破線で示した円は、インク滴100によって形成されるドット102を示し、その大きさはインク滴100が記録紙16に着弾したときのインク滴の大きさとほぼ同一である。すなわち、インク滴100により直径D1aのドット102が形成される。
【0134】
また、図14には、続いてノズルブロック2のノズル51−21Aにより、直径D2aのインク滴110を打滴した状態を示している。先にインク滴100を打滴したノズル51−11Aとこのノズル51−21Aとの主走査方向の距離は、本ノズル配列における主走査方向最小ノズル間距離Pmであり、インク液滴110とドット102との中心間の間隔(ドットピッチ間隔)Ptは、この主走査方向最小ノズル間距離Pmとなる。
【0135】
先にノズル51−11Aによって打滴されたインク滴100が記録紙16に着弾してからの時間δTが経過した後の直径D1bと、記録紙16に着弾したときのインク滴110の直径D2a、インク滴100とインク滴110との間隔(インク滴100及びインク滴110より形成されるドットのピッチに相当)Ptの関係が次式(1)
Pt>(D1b/2)+(D2a/2) ・・・(1)
を満たす場合には、各インク液滴100、110の半径(それぞれ(D1b/2)及び(D2a/2)である。)の和がドット間ピッチPtより小となり、記録紙16の表面においてこれらインク滴100とインク滴110とは混合しないので、インク滴100及びインク滴110から形成されるドット102及びドット112(図14ではインク滴110と同じ大きさで同じ位置に形成)の形状が崩れない。したがって、所望のドット形状を得ることができる。
【0136】
なお、上記式(1)は、次の式(2)のように表現することもできる。
【0137】
D1b < 2×Pt − D2a ・・・(2)
すなわち、ノズル51−11から記録紙16上へ吐出されたインク滴100の直径D1aが、この式(2)を満たす直径D1bになるまでの時間を、着弾干渉が発生しないための打滴インターバルとすればよい。
【0138】
ここで、ドット102とドット112とが重なる条件は、式(1)とは逆に、Pt<(D1b/2)+(D2a/2)となる。すなわち、ドット102とドット112とが重なる条件は、ドット102の半径とドット112の半径との合計がドット間ピッチPtより大きい場合である。
【0139】
図14に示したドット102は、インク滴100が記録紙16に浸透していない領域(インク滴100として示されている領域)と、インク滴100の記録紙16への浸透が終了し、記録紙16の受像層内部にインク色素(溶質)が保持されている領域(破線で示されたドット102の領域からインク滴100として示した領域を除いた領域)と、が存在し、上述した2つの領域のうち、インク滴100の記録紙16への浸透が終了した領域には、他のインク滴110を着弾させることができる。
【0140】
図15は、図14中XV-XV 線に沿う、インク滴100及びインク滴110の断面を示す断面図である。インク滴110が記録紙16に浸透する際に、ドット102とインク滴110が重なる部分では、記録紙16の受像層内においてインク滴100とインク滴110との混合が発生しても、インク滴100は既に受像層内に浸透しておりインク色素(溶質)が受像層内で保持されているので、受像層内部でのドット102の形状はほとんど変化することがない。
【0141】
インク滴110が記録紙16に着弾してから前述した完全浸透時間Tが経過すると、インク滴110の記録紙16への浸透が終了し、図16に示すように、直径D1aのドット102と直径D2aのドット112が形成される。
【0142】
図17は、図16中XVII-XVII 線に沿うドット102及びドット112の断面を示す断面図である。
【0143】
このように、2つのドットが重なる場合に、先に打滴されたインク滴の浸透が終了する完全浸透時間Tを待たずに(D1b>0の状態において)、次のインクを打滴することができる。
【0144】
すなわち、先に着弾したインク滴100と次に着弾するインク滴110との間隔Pt、インク滴110の着弾時の直径D2a、からインク滴110着弾時に上記式(2)を満足するインク滴100の直径D1bを求め、求められたインク滴100の直径D1bと、インク滴100の着弾時の直径D1aと、から浸透時間δTが求められる。このように求められた浸透時間δTを打滴インターバルとしてノズル51−11Aから吐出されるインク滴100と、ノズル51−21Aから吐出されるインク滴110との打滴タイミングが制御される。
【0145】
また、このようにして求められた時間δTと記録紙16の搬送速度Vとの積、δT×Vを副走査方向の前記所定の間隔として、この距離の分だけノズル51−11Aとノズル51−21Aの副走査方向の距離を離すようにしてノズルブロック1とノズルブロック2を配置するようにすればよい。
【0146】
図18は、このような打滴制御を行うシステム(打滴制御部)を示すブロック図である。なお、この打滴制御部は図6に示したシステム(プリント制御部80)に含まれている。
【0147】
図6に示したホストコンピュータ86から画像データ202を取得すると、ドットデータ生成部210において、RGBデータからCMYデータへの変換、濃淡インクの振り分け、CMYKドットデータの生成が行われる。
【0148】
次に、不等式演算部212において、2つのドット(例えば、図16に示したインク滴100及びインク滴110)のピッチPt、後に打滴されるインク滴(図16のインク滴110)の直径D2aから、先に打滴されたインク滴(図16のインク滴100)の直径D1bが求められる。一方、ドット径演算・記憶部214に記憶されている使用するインク滴サイズの時間変化に関する情報が参照され、タイミング演算部216において、先に打滴されるドットを形成するインク滴における着弾時の液滴直径D1aから前述したD1bになるまでの浸透時間δT(打滴インターバル)が求められる。更に、該浸透時間δTから副走査方向のタイミング制御パラメータ(記録紙搬送速度等)、主走査方向のタイミング制御パラメータ等が決定される。
【0149】
このようにして求められた浸透時間δT、副走査方向のタイミング制御パラメータ、主走査方向のタイミング制御パラメータに基づいて、ノズル駆動信号生成部218において、各ノズル51−11A、51−21Aの駆動信号220が生成される。
【0150】
ここで、インク滴が記録紙16に浸透する速さは、主としてインクの種類、記録紙16の種類、環境温度、湿度等に依存する。ドット径演算・記憶部214ではこれらの情報をデータテーブル化して記憶すると共に、演算により算出された浸透時間δTを求める際の
パラメータをタイミング演算部216に提供している。
【0151】
なお、前記直径D1a及び前記直径D2a及びドット間隔Ptより前記直径D1bが予め計算されて登録されているデータベースから前記直径D1bのデータを参照して浸透時間δTを求めてもよい。このデータベースはインクジェット記録装置10内部に備えられてもよいし、外部に備えられていてもよい。
【0152】
上述したように、このようにして求められた浸透時間δTの間に記録紙16が搬送される距離(記録紙16の搬送速度Vにより、V×δTで計算される)の分だけノズルブロックを副走査方向にずらして図7あるいは図10のようにノズルを配置することにより、記録媒体上で互いに重なり合う、異なるノズルから吐出されるインク液滴の着弾時間間隔を長くして着弾した液滴の滲みを防止することができる。
【0153】
以上、記録媒体上に打滴されたドットの記録媒体表面上の液滴が浸透によって定着する系を記載したが、記録媒体上に打滴されたドットの記録媒体表面上の液滴が乾燥または硬化によって記録媒体表面上で固化することによって定着する系でも、浸透の場合と同様に打滴インターバルを制御することが可能である。
【0154】
また、主走査方向に隣接あるいは近傍に存在するノズル間の副走査方向距離をこのように液滴ドットが記録媒体に定着するだけの時間を稼げる距離だけ離して各ノズルを配置するようにしたことにより、確実に着弾干渉を防止して、高画質な画像記録を実現することができる。
【0155】
なお、言うまでもなく各部材には、アルカリ性のインクに対して耐液性のある材料を用いる。インク供給タンク(不図示)、や印字ヘッド50などに最適な樹脂材料としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂などがあげられる。また、圧力
室52などの接液部には、接液面をテフロン(登録商標)加工することや、金属材料としてSUS304、SUS316、SUS316Lを用いることが好ましい。インク供給系のゴムチューブに最適なゴム材料としては、ビニルメチルシリコーンゴム、フッ素化シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴムなどが挙げられる。
【0156】
以上、本発明の液滴吐出ヘッド及び画像形成装置について詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
【0157】
次に、顔料インクについて説明する。
【0158】
〔有機顔料微粒子及びそれを含有する分散液の製造〕
本発明に用いられる有機顔料を製造する装置は、層流を形成しうる流路を有するものであり、好ましくは等価直径10mm以下の流路(チャンネル)を有する装置であり、より好ましくは等価直径1mm以下の流路を有する装置である。まず、等価直径について以下に説明する。
【0159】
等価直径(equivalent diameter)は相当(直)径、とも呼ばれ、機械工学の分野で用いられる用語である。任意断面形状の配管(本発明では流路)に対し等価な円管を想定するとき、その等価円管の直径を等価直径という。等価直径(deq)は、A:配管の断面積、p:配管のぬれぶち長さ(周長)を用いて、deq=4A/pと定義される。円管に適用した場合、この等価直径は円管直径に一致する。等価直径は等価円管のデータを基に、その配管の流動あるいは熱伝達特性を推定するのに用いられ、現象の空間的スケール(代表的長さ)を表す。等価直径は、一辺aの正四角形管ではdeq=4a2/4a=a、一辺aの正三角形管では、
【0160】
【数1】
【0161】
流路高さhの平行平板間の流れではdeq=2hとなる(例えば、(社)日本機械学
会編「機械工学事典」1997年、丸善(株)参照)。
【0162】
管の中に水を流し、その中心軸状に細い管を挿入し着色した液を注入すると、水の流速が遅い間は、着色液は一本の線となって流れ、水は管壁に平行にまっすぐに流れる。しかし、流速を上げ、ある一定の流速に達すると急に水流の中に乱れが生じ、着色液は水流と混じって全体が着色した流れになる。前者の流れを層流(laminar flow)、後者を乱流(turbulent flow)という。
【0163】
流れが層流になるか乱流になるかは流れの様子を示す無次元数であるレイノルズ数(Reynolds number)が、ある臨界値以下であるかによって決まる。レイノルズ数が小さいほど層流を形成しやすい。管内の流れのレイノルズ数Reは次式で表される。
【0164】
Re=D<υx>ρ/μ
Dは管の等価直径、<υx>は断面平均速度、ρは流体の密度、μは流体の粘度を表す。
この式からわかるように等価直径が小さいほどレイノルズ数は小さくなるので、μmサイズの等価直径の場合は安定な層流を形成しやすくなる。また、密度や粘度の液物性もレイノルズ数に影響し、密度が小さく、粘度が大きいほどレイノルズ数は小さくなるので層流を形成しやすいことがわかる。
【0165】
臨界値を示すレイノルズ数を臨界レイノルズ数(critical Reynolds number)と呼ぶ臨界レイノルズ数は必ずしも一定とはいえないが、凡そ次の値が基準となる。
【0166】
Re<2300 層流
Re>3000 乱流
3000≧Re≧2300 過渡状態
流路の等価直径が小さくなるにつれ、単位体積あたりの表面積(比表面積)は大きくなるが、流路がマイクロスケールになると比表面積は格段に大きくなり、流路の器壁を通じた熱伝達効率は非常に高くなる。流路を流れる流体中の熱伝達時間(t)は、t=deq2/α(α:液の熱拡散率)で表されるので、等価直径が小さくなるほど熱伝達時間は短くなる。すなわち、等価直径が1/10になれば熱伝達時間は1/100になることになり、等価直径がマイクロスケールである場合、熱伝達速度は極めて速い。
【0167】
すなわち、等価直径がマイクロスケールであるマイクロサイズ空間ではレイノルズ数が小さいので安定な層流支配のもとでフロー反応を行うことができる。そして層流間の界面表面積が非常に大きいので、層流を保ったまま、界面間の分子拡散により高速で精密な成分分子の混合が可能となる。また、大きな表面積を有する流路壁の利用により精密温度制御、フロー反応の流速コントロールによる反応時間の精密制御なども可能となる。従って、本発明の層流を形成する流路のうち、高度に反応制御可能な場である等価直径を有するマイクロスケールの流路を、マイクロ反応場と定義する。
【0168】
前記レイノルズ数の説明で示したように、層流の形成は等価直径の大きさだけでなく粘度および密度という液物性を含めた流動条件にも大きく影響される。よって、本発明では流路を層流にできれば、流路の等価直径は限定されないが、容易に層流が形成できるサイズが好ましい。好ましくは10mm以下であり、より好ましくはマイクロ反応場を形成する1mm以下である。更に好ましくは10μm〜1mmであり、特に好ましくは20〜300μmである。
【0169】
本発明の特に好ましいマイクロスケールのサイズの流路(チャンネル)を有する反応装置の代表的なものは一般に「マイクロリアクター」と総称され、最近大きな発展を遂げている(例えば、W. Ehrfeld, V. Hessel, H. Loewe, " Microreactor ", 1Ed(2000) WILEY−VCH 参照)。
【0170】
前記一般のマイクロリアクターには、その断面を円形に換算した場合の等価直径が数μm〜数百μm程度の複数本のマイクロ流路、及びこれらのマイクロ流路と繋がる混合空間が設けられており、このようなマイクロリアクターでは、複数本のマイクロ流路を通して複数の溶液をそれぞれ混合空間へ導入することで、複数の溶液を混合し、又は混合と共に化学反応を生じさせる。
【0171】
次に、マイクロリアクターによる反応がタンク等を用いたバッチ方式と異なる主な点を説明する。液相の化学反応、二相系の液相の化学反応は、一般に反応液の界面において分子同士が出会うことによって反応が起こるので、微小空間(マイクロ流路)内で反応を行うと相対的に界面の面積が大きくなり、反応効率は著しく増大する。また分子の拡散そのものも拡散時間は距離の二乗に比例する。このことは、スケールを小さくするに従って、反応液を能動的に混合しなくても、分子の拡散によって混合が進み、反応が起こり易くなることを意味している。また、微小空間においては、レイノルズ数(流れを特徴づける無次元の数)が小さいために層流支配の流れとなり、溶液同士が層流状態となっている界面でそれぞれの溶液内に存在する分子の交換が起こり、移動した分子により析出や反応が引き起こされる。
【0172】
このような特徴を有するマイクロリアクターを用いれば、反応の場として大容積のタンク等を用いた従来のバッチ方式と比較し、溶液同士の反応時間及び温度の精密な制御が可能になる。またバッチ方式の場合には、特に、反応速度が速い溶液間では混合初期の反応接触面で反応が進行し、さらに溶液間の反応により生成された一次生成物が容器内で引き続き反応を受けてしまう場合があるから、生成物が不均一になったり、混合容器内で生成物の結晶が必要以上に成長して粗大化してしまうおそれがある。これに対して、本発明に用いられるマイクロリアクターによれば、溶液が混合容器内に殆ど滞留することなく連続的に流通するので、溶液間の反応により生成された一次生成物が混合容器内に滞留する間に引き続き反応を受けてしまうことを抑止でき、従来では取り出すことが困難であった純粋な一次生成物を取り出すことも可能になり、また混合容器内での結晶の凝集や粗大化も生じ難くなる。
【0173】
また、実験的な製造設備により製造された少量の化学物質を大規模の製造設備により多量に製造(スケールアップ)する際には、従来、実験的な製造設備に対し、バッチ方式による大規模の製造設備での再現性を得るために多大の労力及び時間を要していたが、必要となる製造量に応じてマイクロリアクーを用いた製造ラインを並列化(ナンバリングアップ)することにより、このような再現性を得るための労力及び時間を大幅に減少できる可能性がある。
【0174】
本発明に用いられる層流の流路の作製方法を以下に説明する。流路が1mm以上のサイズの場合は従来の機械加工技術を用いることで比較的容易に作成可能であるが、サイズが1mm以下のマイクロサイズ、特に500μm以下になると格段に作製が難しくなる。マイクロサイズの流路(マイクロ流路)は固体基板上に微細加工技術を用いて作成される場
合が多い。基板材料としては腐食しにくい安定な材料であれば何でも良い。例えば、金属(例えば、ステンレス、ハステロイ(Ni−Fe系合金)、ニッケル、アルミニウム、銀、金、白金、タンタルまたはチタン)、ガラス、プラスチック、シリコーン、テフロン(登録商標)またはセラミックスなどである。
【0175】
マイクロ流路を作製するための微細加工技術として代表的なものを挙げれば、X線リソグラフィを用いるLIGA(Roentgen−Lithographie Galvanik Abformung)技術、EPON SU−8(商品名)を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法(μ−EDM(Micro Electro Discharge Machining))、Deep RIE(Reactive Ion Etching)によるシリコンの高アスペクト比加工法、Hot Emboss加工法、光造形法、レーザー加工法、イオンビーム加工法、およびダイアモンドのような硬い材料で作られたマイクロ工具を用いる機械的マイクロ切削加工法などがある。これらの技術を単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。好ましい微細加工技術は、X線リソグラフィを用いるLIGA技術、EPON SU−8を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法(μ−EDM)、および機械的マイクロ切削加工法である。また、近年では、エンジニアリングプラスチックへの微細射出成型技術の適用が検討されている。
【0176】
マイクロ流路を作成する際、よく接合技術が用いられる。通常の接合技術は大きく固相接合と液相接合に分けられ、一般的に用いられている接合方法は、固相接合として圧接や拡散接合、液相接合として溶接、共晶接合、はんだ付け、接着等が代表的な接合方法である。さらに、組立に際しては高温加熱による材料の変質や大変形による流路等の微小構造体の破壊を伴わない寸法精度を保った高度に精密な接合方法が望ましいが、そのような技術としてはシリコン直接接合、陽極接合、表面活性化接合、水素結合を用いた直接接合、HF水溶液を用いた接合、Au−Si共晶接合、ボイドフリー接着などがある。
【0177】
本発明のマイクロ流路は、固体基板上に微細加工技術を用いて作成されたものに限らず、例えば、入手可能な数μm〜数百μmの内径を有する各種ヒューズドシリカキャピラリーチューブでも良い。高速液体クロマトグラフ用、ガスクロマトグラフ用部品として市販されている数μm〜数百μmの内径を有する各種シリコンチューブ、フッ素樹脂製管、ステンレス管、PEEK管(ポリエーテルエーテルケトン管)も同様に利用可能である。
【0178】
これまでにマイクロリアクターに関しては、反応の効率向上などを目指したデバイスに関する報告がなされている。例えば、特開2003−210960、特開2003−210963、特開2003−210959はマイクロミキサーに関するものであり、本発明はこれらのマイクロデバイスを利用することもできる。
【0179】
本発明で用いるマイクロ流路は目的に応じて表面処理してもよい。特に水溶液を操作する場合、ガラスやシリコンへの試料の吸着が問題になることがあるので表面処理は重要である。複雑な製作プロセスを要する可動部品を組み込むことなく、マイクロサイズの流路内における流体制御を実現することが望ましい。例えば、流路内に表面処理により親水性と疎水性の領域を作製し、その境界に働く表面張力差を利用して流体を操作することが可能である。ガラスやシリコンの表面処理する方法として多用されるのはシランカップリング剤を用いた疎水または親水表面処理である。
【0180】
流路中へ試薬やサンプルなどを導入して混合するためには、流体制御機能が必要である。特に、マイクロ流路内における流体の挙動は、マクロスケールとは異なる性質を持つため、マイクロスケールに適した制御方式を考えなければならない。流体制御方式は形態分類すると連続流動方式と液滴(液体プラグ)方式があり、駆動力分類すると電気的駆動方式と圧力駆動方式がある。
【0181】
これらの方式を以下に詳しく説明する。流体を扱う形態として、最も広く用いられるのが連続流動方式である。連続流動式の流体制御では、マイクロ流路内は全て流体で満たされ、外部に用意したシリンジポンプなどの圧力源によって、流体全体を駆動するのが一般的である。この方法は、デッドボリュームが大きいことなどが難点であるが比較的簡単なセットアップで制御システムを実現できることが大きな利点である。
【0182】
連続流動方式とは異なる方式として、液滴(液体プラグ)方式がある。この方式では、リアクター内部やリアクターに至る流路内で、空気で仕切られた液滴を動かすものであり、個々の液滴は空気圧によって駆動される。その際、液滴と流路壁あるいは液滴同士の間の空気を必要に応じて外部に逃がすようなベント構造、および分岐した流路内の圧力を他の部分と独立に保つためのバルブ構造などを、リアクターシステム内部に用意する必要がある。また、圧力差を制御して液滴の操作を行うために、外部に圧力源や切り替えバルブからなる圧力制御システムを構築する必要がある。このように液滴方式では、装置構成やリアクターの構造がやや複雑になるが、複数の液滴を個別に操作して、いくつかの反応を順次行うなどの多段階の操作が可能で、システム構成の自由度は大きくなる。
【0183】
流体制御を行うための駆動方式として、流路(チャンネル)両端に高電圧をかけて電気浸透流を発生させ、これによって流体移動させる電気的駆動方法と、外部に圧力源を用いて流体に圧力をかけて移動させる圧力駆動方法が一般に広く用いられている。両者の違いは、たとえば流体の挙動として、流路断面内で流速プロファイルが電気的駆動方式の場合にはフラットな分布となるのに対して、圧力駆動方式では双曲線状に、流路中心部が速くて、壁面部が遅い分布となることが知られており、サンプルプラグなどの形状を保ったまま移動させるといった目的には、電気的駆動方式の方が適している。電気的駆動方式を行う場合には、流路内が流体で満たされている必要があるため、連続流動方式の形態をとらざるを得ないが、電気的な制御によって流体の操作を行うことができるため、例えば連続的に2種類の溶液の混合比率を変化させることによって、時間的な濃度勾配をつくるといった比較的複雑な処理も実現されている。圧力駆動方式の場合には、流体の電気的な性質にかかわらず制御可能であること、発熱や電気分解などの副次的な効果を考慮しなくてよいことなどから、基質に対する影響がほとんどなく、その適用範囲は広い。その反面、外部に圧力源を用意しなければならないこと、圧力系のデッドボリュームの大小に応じて、操作の応答特性が変化することなど、複雑な処理を自動化する必要がある。
【0184】
本発明における流体制御方法として用いられる方法はその目的によって適宜選ばれるが、好ましくは連続流動方式の圧力駆動方式である。
【0185】
本発明の流路内の温度制御は、流路を持つ装置全体を温度制御された容器中に入れることにより制御してもよいし、金属抵抗線やポリシリコンなどのヒーター構造を装置内に作り込み、加熱についてはこれを使用し、冷却については自然冷却でサーマルサイクルを行ってもよい。温度のセンシングは、金属抵抗線を使用する場合はヒーターと同じ抵抗線をもう一つ作り込んでおき、その抵抗値の変化に基づいて温度検出を行うのが好ましく、ポリシリコンを使用する場合は熱電対を用いて検出を行うのが好ましい。また、ペルチェ素子を流路に接触させることによって外部から加熱、冷却を行ってもよい。どの方法を用いるかは用途や流路本体の材料などに合わせて選択される。
【0186】
本発明において顔料の製造又は顔料分散液の調製は、流路の中を流れながら、すなわち連続フロー法で行われる。そのため反応時間は流路中に滞留する時間で制御される。滞留する時間は等価直径が一定である場合、流路の長さと反応液の導入速度で決まる。流路の長さには特に制限はないが、好ましくは1mm以上10m以下であり、更に好ましくは5
mm以上10m以下で、特に好ましくは10mm以上5m以下である。
【0187】
本発明に用いられる流路の数量は、適宜反応装置にそなえられるものであり、勿論、1つでも構わないが、必要に応じて流路を何本も並列化し(ナンバリングアップ)、その処理量を増大させることが出来る。
【0188】
本発明に用いられる反応装置の代表例を図20(a)〜23に示した。尚、本発明がこれらに限定されないことは言うまでも無い。
【0189】
図20(a)はY字型流路を有する反応装置(1010)の説明図であり、図20(b)はそのI−I線の断面図である。流路の長さ方向に直交する断面の形は使用される微細加工技術により異なるが、台形または矩形に近い形である。流路幅・深さ(特にC,H)がマイクロサイズにて作られている場合、導入口1011及び導入口1012からポンプなどにより注入された溶液は導入流路1013aまたは導入流路1013bを経由して流体合流点1013dにて接触し、安定な層流を形成して反応流路1013cを流れる。そして層流として流れる間に層流間の界面における分子拡散により互いの層流に含まれる溶質の混合または反応が行われる。拡散の極めて遅い溶質は、層流間での拡散混合が起きず、排出口1014に達した後に初めて混合する場合もある。注入される2つの溶液がフラスコ中で容易に混合するような場合には、流路長Fを長く取れば排出口では液の流れは均一な流れになりうるが、流路長Fが短い時には排出口まで層流が保たれる。注入される2つの溶液がフラスコ中で混合せず層分離する場合は、当然ながら2つの溶液は層流として流れて排出口1014に到達する。
【0190】
図21(a)は片側に挿通した流路を設けた円筒管型流路を有する反応装置(1020)の説明図であり、図21(b)は同装置のIIa−IIa線の断面図であり、図21(c)は同装置のIIb−IIb線の断面図である。流路の長さ方向に直交する断面の形は円かそれに近い形である。円筒管の流路直径(D,E)がマイクロサイズの場合、導入口1021及び導入口1022からポンプなどにより注入された溶液は導入流路1023aと導入流路1023bを通じて流体合流点1023dにて接触し、安定な円筒層流を形成して反応流路1023cを流れる。そして円筒層流として流れる間に層流間の界面における分子拡散により互いの層流に含まれる溶質の混合または反応が行われるのは上記図20(a)の装置と同じである。円筒管型流路をもつ本装置は、上記図20(a)の装置に比べて2液の接触界面を大きく取れること、更に接触界面が装置壁面に接触する部分がないため、固体(結晶)が反応により生成する場合など壁面との接触部分からの結晶成長などがなく、流路を閉塞する可能性が低いのが特徴である。
【0191】
図22(a)および図23は、2液の流れが層流のまま出口まで到達する場合、それらを分離できるように図20(a)および図21(a)の装置に改良を加えたものであり、図20(b)は図20(a)におけるIII−III線の断面図である。これらの装置を用いると反応と分離が同時にできる。また、最終的に2液が混合してしまって反応が進みすぎたり、結晶が粗大化したりすることを避けることができる。一方の液中に選択的に生成物や結晶が存在する場合には、生成物や結晶を2液が混合してしまう場合に比べて高濃度の状態で得ることができる。また、これらの装置を幾つか連結することにより、抽出操作が効率的に行われるなどのメリットがある。
【0192】
(1)マイクロリアクターによる有機顔料微粒子分散液の製造
本発明において、アルカリ性または酸性の水性媒体に均一に溶解した有機顔料の溶液を、前記流路中を層流として流通させ、その過程で溶液の水素イオン指数(pH)を変化させて有機顔料微粒子およびそれを含有する分散液を製造するが、それについて以下詳しく説明する。
【0193】
本発明に用いられる有機顔料は、色相的に限定されるものではなく、マゼンタ顔料、イエロー顔料、またはシアン顔料であることができる。詳しくは、ペリレン、ペリノン、キナクリドン、キナクリドンキノン、アントラキノン、アントアントロン、ベンズイミダゾロン、ジスアゾ縮合、ジスアゾ、アゾ、インダントロン、フタロシアニン、トリアリールカルボニウム、ジオキサジン、アミノアントラキノン、ジケトピロロピロール、チオインジゴ、イソインドリン、イソインドリノン、ピラントロンまたはイソビオラントロン系顔料またはそれらの混合物などのマゼンタ顔料、イエロー顔料、またはシアン顔料である。
【0194】
好ましい顔料は、キナクリドン、ジケトピロロピロール、ジスアゾ縮合、またはフタロシアニン系顔料であり、特に好ましくはキナクリドン、ジスアゾ縮合、またはフタロシアニン系顔料である。
【0195】
本発明において、2種類以上の有機顔料または有機顔料の固溶体または有機顔料と無機顔料の組み合わせも使用することができる。
【0196】
有機顔料は、アルカリ性または酸性の水性媒体に均一に溶解されなければならないが、酸性で溶解するかアルカリ性で溶解するかは対象とする顔料がどちらの条件で均一に溶解し易いかで選択される。一般に分子内にアルカリ性で解離可能な基を有する顔料の場合はアルカリ性が、アルカリ性で解離する基が存在せず、プロトンが付加しやすい窒素原子を分子内に多く有するときは酸性が用いられる。例えば、キナクリドン、ジケトピロロピロール、ジスアゾ縮合系顔料はアルカリ性で、フタロシアニン系顔料は酸性で溶解される。
【0197】
アルカリ性で溶解させる場合に用いられる塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、もしくは水酸化バリウムなどの無機塩基、またはトリアルキルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、金属アルコキシドなどの有機塩基であるが、好ましくは無機塩基である。
【0198】
使用される塩基の量は、顔料を均一に溶解可能な量であり、特に限定されないが、無機塩基の場合、好ましくは顔料に対して1.0〜30モル当量であり、より好ましくは2.0〜25モル当量であり、さらに好ましくは3〜20モル当量である。有機塩基の場合は好ましくは顔料に対して1.0〜100モル当量であり、より好ましくは5.0〜100モル当量であり、さらに好ましくは20〜100モル当量である。
【0199】
酸性で溶解させる場合に用いられる酸は、硫酸、塩酸、もしくは燐酸などの無機酸、または酢酸、トリフルオロ酢酸、シュウ酸、メタンスルホン酸、もしくはトリフルオロメタンスルホン酸などの有機酸であるが好ましくは無機酸である。特に好ましくは硫酸である。
【0200】
使用される酸の量は、顔料を均一に溶解可能な量であり、特に限定されないが、塩基に比べて過剰量用いられる場合が多い。無機酸および有機酸の場合を問わず、好ましくは顔料に対して3〜500モル当量であり、より好ましくは10〜500モル当量であり、さらに好ましくは30〜200モル当量である。
【0201】
次に水性媒体について説明する。本発明における水性媒体とは水単独または水に可溶な有機溶媒の混合溶媒である。有機溶媒の添加は、顔料や分散剤を均一に溶解するために水のみでは不十分な場合、および流路中を流通するのに必要な粘性を得るのに水のみで不十分な場合、層流の形成に必要な場合に行われるものであり、必ずしも必要ではないが、多くの場合は水溶性有機溶媒が添加される。添加される有機溶媒は例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、グリセリン、もしくはトリメチロールプロパン等に代表される多価アルコール系溶媒、エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、もしくはトリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテル等の多価アルコールの低級モノアルキルエーテル系溶媒、エチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、もしくはトリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)等のポリエーテル系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、尿素、もしくはテトラメチル尿素等のアミド系溶媒、スルホラン、ジメチルスルホキシド、もしくは3−スルホレン等の含イオウ系溶媒、ジアセトンアルコール、ジエタノールアミン等の多官能系溶媒、酢酸、マレイン酸、ドコサヘキサエン酸、トリクロロ酢酸、もしくはトリフルオロ酢酸等のカルボン酸系溶媒、メタンスルホン酸、もしくはトリフルオロスルホン酸等のスルホン酸系溶媒が挙げられる。これらの溶媒を2種以上混合して用いてもよい。
【0202】
好ましい有機溶媒は、アルカリ性の場合はアミド系溶媒または含イオウ系溶媒であり、酸性の場合はカルボン酸系溶媒、イオウ系溶媒またはスルホン酸系溶媒であるが、更に好ましくはアルカリ性の場合は含イオウ系溶媒であり、酸性の場合はスルホン酸系溶媒である。特に好ましくは、アルカリ性の場合はジメチルスルホキシド(DMSO)、酸性の場合はメタンスルホン酸である。
【0203】
水と有機溶媒の混合比は均一溶解できれば良い比率であり、特に限定は無い。好ましくはアルカリ性の場合には水/有機溶媒=0.05〜10(質量比)である。酸性の場合で
無機酸を用いる場合は、有機溶媒を使わず、例えば硫酸単独で用いるのが好ましい。有機酸を用いるときは有機酸自身が有機溶媒であり、粘性と溶解性を調整するために複数の酸を混合したり、水を添加する。好ましくは水/有機溶剤(有機酸)=0.005〜0.1(質量比)である。
【0204】
本発明では、均一に溶解した溶液を流路に投入することが好ましい。懸濁液を投入すると粒子サイズが大きくなったり、粒子分布が広い顔料微粒子になる。場合によっては容易に流路を閉塞してしまう。「均一に溶解」の意味は可視光線下で観測した場合にほとんど濁りが観測されない溶液であり、本発明では1μm以下のミクロフィルターを通して得られる溶液、または1μmのフィルターを通した場合に濾過される物を含まない溶液を均一に溶解した溶液と定義する。
【0205】
次に水素イオン指数(pH)について説明する。水素イオン指数(pH)は、水素イオン濃度(モル濃度)の逆数の常用対数であり、水素指数と呼ばれることもある。水素イオン濃度とは、溶液中の水素イオンH+の濃度であり、1Lの溶液中に存在する水素イオンのモル数を意味する。水素イオン濃度は非常に広い範囲で変化するので通常は水素イオン指数(pH)を用いて表す。例えば、純粋な水は1気圧、25℃では10-7モルの水素イオンを含むから、そのpHは7で中性である。pH<7の水溶液は酸性、pH>7の水溶液はアルカリ性である。pHの値を測定する方法としては、電位差測定法および比色測定法がある。
【0206】
本発明では、流路中を流通する過程で水素イオン指数(pH)を変化させ、顔料微粒子を製造するが、その方法は有機顔料の均一溶液の導入口とは異なる導入口を有する流路、例えば図20(a)、又は図21(a)に示されるような少なくとも2つの導入口を有する流路を用いて行われる。詳しくは、図20(a)の導入口1011、または図19(a)の導入口1021に有機顔料の均一溶液を導入し、図20(a)の導入口1012、または図21(a)の導入口1022に中性、酸性またはアルカリ性の水、またはそれらに分散剤を溶解した水溶液を導入し、両液を流路1013c又は1023c中で接触させることにより有機顔料を含む溶液の水素イオン濃度、すなわち水素イオン指数(pH)を中性(pH7)の方向に変化させる。流路の等価直径がマイクロスケールの場合は、レイノルズ数が小さいため安定な層流(図21(a)では円筒層流)を形成し、両液の層間の安定界面を介して水やイオンが拡散移動して徐々に有機顔料を含む溶液の水素イオン指数(pH)が中性方向に変化する。顔料は低いアルカリ性または低い酸性では水性媒体に溶解しにくくなるため、有機顔料を含む溶液の水素イオン指数(pH)が中性方向に変化するに従い、徐々に微粒子として析出する。
【0207】
水素イオン指数(pH)の変化は、アルカリ性水性媒体に溶解した顔料から顔料微粒子を製造する場合は、おおむね変化はpH16.0から5.0の範囲内での変化であり、好ましくはpH16.0から10.0の範囲内での変化である。酸性水性媒体に溶解した顔料から顔料微粒子を製造する場合は、おおむね変化はpH1.5から9.0の範囲内での変化であり、好ましくはpH1.5から4.0の範囲内での変化である。変化の幅は有機顔料溶液の水素イオン指数(pH)の値によるが、有機顔料の析出をうながすのに十分な幅で良い。
【0208】
マイクロスケールの流路中で生成した顔料微粒子は、拡散せず一方の層流に含まれたまま出口へと流れるので、図22(a)または図23に示されるように設計された出口を持つ流路装置を用いると、有機顔料微粒子を含む層流を分離することが出来る。この方法を用いると、濃厚な顔料分散液を得ることができると同時に、均一溶液を調製するために用いた水溶性有機溶媒、アルカリ性や酸性水、および過剰な分散剤を除去できるので有利である。また、最終的に2液が混合してしまうことにより、結晶が粗大化したり、顔料の結晶が変質することを避けることができる。
【0209】
顔料微粒子を製造する場合の流路内における反応温度は、溶媒が凝固、あるいは気化しない範囲内であることが望ましいが、好ましくは、−20〜90℃、より好ましくは0〜50℃である。特に好ましくは5〜15℃である。
【0210】
顔料微粒子を製造する場合の流路内を流れる流体の速度(流速)は、有利には0.1mL〜300L/hr、好ましくは0.2mL〜30L/hr、更に好ましくは0.5mL〜15L/hr、特に好ましくは1.0mL〜6L/hrである。
【0211】
本発明において、流路を流れる基質(有機顔料やその反応成分)の濃度範囲は、通常0.5〜20質量%であり、好ましくは1.0〜10質量%である。
【0212】
本発明の有機顔料微粒子を製造する方法では、有機顔料を含む溶液の中、または/および水素イオン指数(pH)を変化させるための水溶液(水性媒体)の中に分散剤を添加することができる。分散剤は(1)析出した顔料表面に素早く吸着して、微細な顔料粒子を形成し、かつ(2)これらの粒子が再び凝集することを防ぐ作用を有するものである。本発明では、このような分散剤として、アニオン性、カチオン性、両イオン性、ノニオン性もしくは顔料性の、低分子または高分子分散剤を使用することができる。これらの分散剤は、単独あるいは併用して使用することができる。顔料の分散に用いる分散剤に関しては、「顔料分散安定化と表面処理技術・評価」(化学情報協会、2001年12月発行)の29〜46頁に詳しく記載されている。
【0213】
アニオン性分散剤(アニオン性界面活性剤)としては、N−アシル−N−アルキルタウリン塩、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナ
フタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等を挙げることができる。なかでも、N−アシル−N−アルキルタウリン塩が好ましい。N−アシル−N−アルキルタウリン塩としては、特開平3−273067号明細書に記載されているものが好ましい。これらアニオン性分散剤は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0214】
カチオン性分散剤(カチオン性界面活性剤)には、四級アンモニウム塩、アルコキシル化ポリアミン、脂肪族アミンポリグリコールエーテル、脂肪族アミン、脂肪族アミンと脂肪族アルコールから誘導されるジアミンおよびポリアミン、脂肪酸から誘導されるイミダゾリンおよびこれらのカチオン性物質の塩が含まれる。これらカチオン性分散剤は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0215】
両イオン性分散剤は、前記アニオン性分散剤が分子内に有するアニオン基部分とカチオン性分散剤が分子内に有するカチオン基部分を共に分子内に有する分散剤である。
【0216】
ノニオン性分散剤(ノニオン性界面活性剤)としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステルなどを挙げることができる。なかでも、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルが好ましい。これらノニオン性分散剤は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0217】
顔料性分散剤とは、親物質としての有機顔料から誘導され、その親構造を化学修飾することで製造される顔料性分散剤と定義する。例えば、糖含有顔料分散剤、ピペリジル含有顔料分散剤、ナフタレンまたはペリレン誘導顔料分散剤、メチレン基を介して顔料親構造に連結された官能基を有する顔料分散剤、ポリマーで化学修飾された顔料親構造、スルホン酸基を有する顔料分散剤、スルホンアミド基を有する顔料分散剤、エーテル基を有する顔料分散剤、あるいはカルボン酸基、カルボン酸エステル基またはカルボキサミド基を有する顔料分散剤などがある。
【0218】
高分子分散剤としては、具体的には、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリルアミド、ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール−部分ホルマール化物、ポリビニルアルコール−部分ブチラール化物、ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンオキシド/プロピレンオキシドブロック共重合体、ポリアクリル酸塩、ポリビニル硫酸塩、ポリ(4−ビニルピリジン)塩、ポリアミド、ポリアリルアミン塩、縮合ナフタレンスルホン酸塩、スチレン−アクリル酸塩共重合物、スチレン−メタクリル酸塩共重合物、アクリル酸エステル−アクリル酸塩共重合物、アクリル酸エステル−メタクリル酸塩共重合物、メタクリル酸エステル−アクリル酸塩共重合物、メタクリル酸エステル−メタクリル酸塩共重合物、スチレン−イタコン酸塩共重合物、イタコン酸エステル−イタコン酸塩共重合物、ビニルナフタレン−アクリル酸塩共重合物、ビニルナフタレン−メタクリル酸塩共重合物、ビニルナフタレン−イタコン酸塩共重合物、セルロース誘導体、澱粉誘導体などが挙げられる。その他、アルギン酸塩、ゼラチン、アルブミン、カゼイン、アラビアゴム、トンガントゴム、リグニンスルホン酸塩などの天然高分子類も使用できる。なかでも、ポリビニルピロリドンが好ましい。これら高分子は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0219】
好ましい態様として、アニオン性分散剤を水性媒体に含有させ、かつノニオン性分散剤および/または高分子分散剤を、有機顔料を溶解した溶液に含有させる態様を挙げることができる。
【0220】
分散剤の配合量は、顔料の均一分散性および保存安定性をより一層向上させるために、顔料100質量部に対して0.1〜1000質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜500質量部の範囲であり、さらに好ましくは10〜250質量部の範囲である。0.1質量部未満であると有機顔料微粒子の分散安定性の向上が見られない場合がある。
【0221】
このように製造された有機顔料微粒子を含む分散液は、そのまま顔料インクとして使用することもできるが、種々の添加剤を添加することができる。添加剤として、例えば乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等が挙げられる。pH調整剤、浸透剤、乾燥防止剤、防腐剤、防カビ剤等を添加して使用するようにしてもよい。
【0222】
(2)製造された有機顔料微粒子の粒子サイズ等の計測
微粒子の計測法において、数値化して集団の平均の大きさを表現する方法があるが、よく使用されるものとして、分布の最大値を示すモード径、積分分布曲線の中央値に相当するメジアン径、および各種の平均径(長さ平均、面積平均、重量平均など)がある。本発明の方法で製造される有機顔料微粒子の粒径サイズは流路を閉塞しない範囲で任意であるが、モード径で1μm以下が好ましい。好ましくは3nm〜800nmであり、特に好ましくは5nm〜500nmである。
【0223】
微粒子の粒子サイズが揃っていること、すなわち単分散微粒子系は、含まれる粒子の大きさが揃っているだけではなく、粒子内の化学組成や結晶構造にも粒子間の変動がないことを示すので粒子の性能を決める重要な要素である。特に粒子サイズがナノメートルの超微粒子においてはその粒子の特性を支配する因子として重視される。本発明の方法は粒子の大きさをコントロールできるだけでなく、そのサイズを揃える点でも優れた方法である。サイズが揃っていることを表す指標として算術標準偏差値が用いられるが、本発明により製造される顔料微粒子の算術標準偏差値は、好ましくは130nm以下であり、特に好ましくは80nm以下である。算術標準偏差値は、粒度分布を正規分布とみなして標準偏差を求める方法で、積算分布の84%粒子径から、16%粒子径を減じた値を2で除した値である。
【0224】
(3)有機顔料微粒子の一例であるキナクリドン顔料微粒子の製造方法
本発明の有機顔料の製造方法は、前述の顔料に広く適用可能であるが、具体的に無置換または置換キナクリドン顔料の製造方法を例に説明する。本発明においては、前記一般式(I)で表される無置換または置換キナクリドン顔料を層流を形成する流路を有する装置中で製造するが、一般式(I)の置換基について説明する。
【0225】
XおよびYは、フッ素原子、塩素原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基またはCOORa基(ここでRaは、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基である)を表すが、フッ素原子、塩素原子およびカルボキシル基以外の基を詳しく述べれば、メチル、エチル、プロピルもしくはイソプロピルのアルキル基、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシもしくはイソプロポキシのアルコキシ基、またはメトキシカルボニル、エトキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、もしくはオクチルオキシカルボニル等のアルコキシカルボニル基を表す。
【0226】
好ましくは、XおよびYは塩素原子、またはアルキル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0227】
mおよびnは、独立して、0、1または2を表すが、好ましくは1である。
【0228】
合成される好ましいキナクリドン系顔料の具体例としては、無置換キナクリドン、2,9−ジメチルキナクリドン、4,11−ジクロロキナクリドン等の無置換または置換キナクリドン、およびそれらの固溶体を含み、C.I.ナンバーで表すと、ピグメントバイオレット19、ピグメントレッド122、ピグメントレッド207、ピグメントオレンジ48、ピグメントオレンジ49、ピグメントレッド209、ピグメントレッド206、ピグメントバイオレット42等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0229】
無置換または置換キナクリドン顔料の製造は、通常の合成方法に従い、好ましくは等価直径10mm以下の流路を有する前述の装置に適用して行うことができる。
【0230】
本発明において利用できる溶媒は、それぞれ前述の、有機溶媒、分散剤、界面活性剤、または水、およびこれらを組み合わせたものが挙げられる。また、必要に応じて、例えばインク組成物に添加される水溶性有機溶媒、その他の成分をさらに添加してもよい。これら溶媒成分は、例えば、特開2002−194263、特開2003−26972の各公報に記載のあるような顔料分散剤の構成要素を適用することができる。
【0231】
反応流体は互いに混じり合う流体同士でもよく、混じり合わない流体同士でも構わない。混じり合う流体同士とは、同じもしくは比較的性質の近い有機溶媒を用いた溶液同士、あるいはメタノールなどの極性の高い有機溶媒を用いた溶液と水などであり、混じり合わない流体同士とは、ヘキサンなどの低極性の溶媒を用いた溶液とメタノールなどの高極性の溶媒を用いた溶液があげられる。
【0232】
空気または酸素などの気体を酸化剤として用いる場合、それらは反応流体に溶解させるか、あるいは流路内に気体として導入する方法を取ることができる。好ましくは気体として導入する方法が取られる。
【0233】
反応温度は、溶媒が凝固、あるいは気化しない範囲内であることが望ましいが、好ましくは、−20℃〜250℃、より好ましくは20℃〜150℃、更に好ましくは40℃〜120℃、最も好ましくは60℃〜100℃である。
【0234】
流速は有利には0.1mL〜300L/hr、好ましくは0.2mL〜30L/hr、更に好ましくは0.5mL〜15L/hr、特に好ましくは1.0mL〜6L/hrである。
【0235】
本発明においてマイクロリアクターに適用できるキナクリドン顔料の合成方法は種々あり、任意の方法を適用できるが、本発明のキナクリドン顔料の製造方法として、好ましい反応として二つの反応スキームを以下に示す。キナクリドン顔料は、好ましくは等価直径10mm以下、より好ましくは1mm以下の流路を有する装置中で製造することができる。
【0236】
6,13−ジヒドロキナクリドンの酸化反応により合成する方法(スキーム1)としては、空気、または酸素によるもの(参考反応例として特開平11−209641号、特開2001−115052の各公報に記載の方法)、過酸化水素を用いるもの(参考反応例として特開2000−226530公報に記載の方法)が環境負荷の点から好ましい。
【0237】
【化2】
【0238】
式中、X、Y、mおよびnは前記と同義の基を表す。
【0239】
ジアリールアミノテレフタル酸またはそのエステルの閉環反応(スキーム2)においては適切な縮合剤を用いて実施される(参考反応例として特開2001−335577、特開2000−103980の各公報に記載の方法)。
【0240】
【化3】
【0241】
式中、 X、Y、mおよびnは前記と同義の基を表す。置換基Rbは、水素原子または炭素数1〜10の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、もしくはアリール基である。例えば、アルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル等を挙げることができる。アルケニル基としては、ビニル、アリルを、アルケニル基としてはエチニル基を、アリール基としてはフェニル基が挙げられる。これら置換基はさらに置換基を有していてもよい。好ましくはアリール基であり、特に好ましくはフェニル基である。
【0242】
キナクリドン顔料において利用できる溶媒は、有機溶媒、分散剤、界面活性剤、または水、およびこれらを組み合わせたものが挙げられる。具体的には、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジグライムなどのエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、メチルエチルケトン、2−メチル−4−ペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類、エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのアルコール類、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルイミダゾリドンなどのアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホランなどの含硫黄系溶媒などが挙げられる。原料及び生成物の溶解性の観点から、アミド系溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホランなどが好ましい。また、必要に応じて、例えばインク組成物に添加される水溶性有機溶媒、その他の成分をさらに添加してもよい。これら溶媒成分は、例えば、特開2002−194263、同2003−26972の各公報に記載のあるような顔料分散剤の構成要素を適用することができる。また、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の添加剤をさらに加え、所望のインクを得ることができる。
【0243】
反応流体は互いに混じり合う流体同士でもよく、混じり合わない流体同士でも構わない。混じり合う流体同士とは、同じもしくは比較的性質の近い有機溶媒を用いた溶液同士、あるいはメタノールなどの極性の高い有機溶媒を用いた溶液と水などであり、混じり合わない流体同士とは、ヘキサンなどの低極性の溶媒を用いた溶液とメタノールなどの高極性の溶媒を用いた溶液があげられる。
【0244】
反応により得られたキナクリドン顔料微粒子を分散液から取り出したい場合には、濾過または遠心分離により反応液から分離され、例えばN,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒でよく洗浄して高純度で得られる。従って、取り出したキナクリドン顔料微粒子を好みのインクに調製してもよい。
【0245】
尚、ジスアゾ縮合顔料についても同様に製造できるが、ここでは省略する。
【実施例】
【0246】
以下に実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0247】
実施例に示すpHは、東亜電波工業(株)のガラス電極式水素イオン濃度計HM−40V(測定範囲pH0〜14)で測定した。粒径分布は日機装(株)のマイクロトラックUPA150で測定した。TEM測定には、日本電子(株)の透過型電子顕微鏡JEM−20
00FXを用いた。
【0248】
(実施例1)
2,9−ジメチルキナクリドン1.5gをジメチルスルホキシド13.5g、5mol/L水酸化ナトリウム水溶液 2.68mL、分散剤ポリビニルピロリドン(和光純薬(株)製、K30) 0.75gに室温で溶解した(IA液)。IA液のpHは測定限界(pH14)を超えており、測定不能であった。分散剤N−オレオイル−N−メチルタウリンナトリウム塩0.75gと蒸留水90mLを混合した(IIA液)。IIA液のpHは7.70であった。これらを0.45μmのミクロフィルター(富士写真フイルム(株)製)を通すことでごみ等の不純物を除いた。次に、図20(a)の反応装置を用いて下記の手順で反応を行った。等価直径500μmを有するテフロン(登録商標)製Y字コネクターの二つの入り口に長さ50cm、等価直径1mmのテフロン(登録商標)チューブ2本をコネクタを用いて接続し、その先にそれぞれIA液とIIA液を入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。コネクタの出口には長さ1m、等価直径500μmを有するテフロン(登録商標)チューブを接続した。IA液を1mL/h、IIA液を6mL/hの送液速度にて送り出すと流路内は層流(レイノルズ数;約5.0)となり、2,9−ジメチルキナクリドンの分散液が得られたのでこれをチューブの先端より捕集し、本発明の試料1とした。試料1のpHは13.06であった。また、モード径120nmで算術標準偏差58nmであった。
【0249】
(比較例1)
次にビーカー中のIIA液6mL中に、撹拌子を用いて撹拌しながら室温でIA液を添加すると2,9−ジメチルキナクリドンの分散液が得られた。これを比較試料1とした。試料1と比較試料1で得られた分散液の粒径と粒径分布を動的光散乱粒径測定装置を用いて比較したところ、試料1の分散液の粒径は比較試料1のモード径144nm、算術標準偏差77nmより小さく分布幅が小さいことがわかった。
【0250】
(実施例2)
2,9−ジメチルキナクリドン0.15gをジメチルスルホキシド13.35mL、0.8mol/L水酸化カリウム水溶液1.65mL、ポリビニルピロリドン(和光純薬(株)製、K30)0.75gに室温で溶解した(IB液)。IB液のpHは測定限界を超えており、測定不能であった。このIB液と実施例1で調製したIIA液を0.45μmのミクロフィルター(富士写真フイルム(株)製)を通すことでごみ等の不純物を除き、それぞれ透明な溶液を得た。次に、以下に説明する反応装置を用いて下記の手順で反応を行った。等価直径500μmを有するテフロン(登録商標)製Y字コネクターの二つの入り口に長さ50cm、等価直径1mmのテフロン(登録商標)チューブ2本をコネクタを用いて接続し、その先にそれぞれIB液とIIA液を入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。コネクタの出口には長さ1m、等価直径500μmを有するテフロン(登録商標)チューブを接続した。IB液を1.0mL/h、IIA液を30.0mL/hの送液速度にて送り出すと流路内は層流(レイノルズ数;約21.9)となり、2,9−ジメチルキナクリドンの分散液が得られたのでこれをチューブの先端より捕集し本発明の試料2とした。試料2のpHは10.49であった。これを動的光散乱粒径測定装置を用いて測定したところ、モード径51nm、算術標準偏差28nmであり分布幅が非常に小さいことがわかった。さらに、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、丸みを帯びた粒子形状を有していた。
【0251】
(比較例2)
次に、ビーカー中のIIA液3.0mL中に、撹拌子を用いて撹拌しながら室温でIB液0.5mLを添加すると2,9−ジメチルキナクリドンの分散液が得られた。これを比較試料2とした。比較試料2のpHは11.81であった。これを動的光散乱粒径測定装置を用いて測定したところ、モード径93nm、算術標準偏差57nmであり、粒径、分布幅のいずれも大きかった。さらに、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、針状であった。
【0252】
(比較例3)
更に、実施例2の反応装置に使用したテフロン(登録商標)チューブ、およびテフロン(登録商標)製Y字コネクターの等価直径をすべて20mmとして、IB液を26.49L/h、IIA液を122.4L/hの送液速度にて送り出すことで分散液を得た。流路内の流れ(レイノルズ数;約2639.6)は不安定であった。これを比較試料3とした。比較試料3のpHは12.56であった。これを動的光散乱粒径測定装置を用いて測定したところ、モード径277nm、算術標準偏差140nmであり粒径は大きく、分布幅が非常に広いことが分かった。
【0253】
本発明の試料2と比較試料2の比較は、流路中で顔料を調製すると粒子モード径と分布幅が小さくなり、かつ粒径が揃っていることを示した。また、本発明の試料2と比較試料3の比較は、流路の等価直径が10mm以下、特にマイクロスケールになると粒子モード径が小さくなり、かつ分布幅がかなり小さくなることを示した。
【0254】
(実施例3)
2,9−ジメチルキナクリドン0.01gをジメチルスルホキシド10.0mL、0.8N水酸化カリウム水溶液0.11mL、ポリビニルピロリドン(和光純薬(株)製、K30)0.05gに室温で溶解した(IC液)。IC液のpHは測定限界を超えており、測定不能であった。これを0.45μmのミクロフィルター(富士写真フイルム(株)製)を通すことでごみ等の不純物を除き、透明な溶液を得た。流路幅A;100μm、流路幅B;100μm、流路幅C;100μm、流路長F;12cm、流路深さH;40μmを有するガラスで作製した図20(a)記載のY字型流路を有する反応装置において、テフロン(登録商標)チューブ2本をコネクタを用いて導入口1011、および導入口1012に接続し、その先にそれぞれIC液と蒸留水のみを入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。排出口1014にもコネクタを用いてテフロン(登録商標)チューブを接続した。IC液を20μL/min、蒸留水を20μL/minの送液速度にて送り出すと流路内は層流(レイノルズ数;約8.5)となり、2,9−ジメチルキナクリドンの分散液が得られたのでこれをチューブの先端より捕集した。この分散液のpHは13.93であった。これを動的光散乱粒径測定装置を用いて測定したところ、モード径は50nmであった。
【0255】
(実施例4)
流路直径D;200μm、流路直径E;620μm、流路長G;10cmを有する図21(a)記載の円筒流路を有する反応装置を用い、テフロン(登録商標)チューブ2本をコネクタを用いて導入口1021、および導入口1022に接続し、その先にそれぞれ実施例1と2にて調製したIB液とIIA液を入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。IB液を1.0mL/h、IIA液を30.0mL/hの送液速度にて送り出すと流路内は層流(レイノルズ数;約17.7)となり、2,9−ジメチルキナクリドンの分散液が得られたのでこれを排出口1024より捕集した。この分散液のpHは10.44であった。これを動的光散乱粒径測定装置を用いて測定したところ、モード径94nm、算術標準偏差77nmであり分布幅が非常に小さいことがわかった。
【0256】
(参考例1)
2,9−ジメチルキナクリドン0.01gをジメチルスルホキシド10mL、0.8mol/L水酸化カリウム水溶液0.04mL、ポリビニルピロリドン(和光純薬(株)製、K30)0.05gに室温で混合した(ID液)。ID液のpHは12.74であった。このID液は懸濁していたが、0.45μmのミクロフィルター(富士写真フイルム(株)製)を通すことなく、そのまま使用した。流路幅A;100μm、流路幅B;100μm、流路幅C;100μm、流路長F;12cm、流路深さH;40μmを有する図20(a)記載のガラス製Y字型流路を有する反応装置において、テフロン(登録商標)チューブ2本をコネクタを用いて導入口1011、および導入口1012に接続し、その先にそれぞれID液と実施例1で調製したIIA液を入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。排出口1014にもコネクタを用いてテフロン(登録商標)チューブを接続した。ID液を20μL/min、IIA液を20μL/minの送液速度にて送り出したところ、これら二液が合流した時点で流路が閉塞してしまった。このことから、 Y字型流路を有する反応装置を用いる本発明の方法においては、均一に溶けた溶液を用いることが重要であることがわかる。
【0257】
(参考例2)
流路直径D;200μm、流路直径E;620μm、流路長G;10cmを有する図21(a)記載の円筒流路を有する反応装置において、テフロン(登録商標)チューブ2本をコネクタを用いて導入口1021、および導入口1022に接続し、その先にそれぞれ参考例1にて調製したID液と実施例1で調製したIIA液を入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。ID液を1.0mL/h、IIA液を30.0mL/hの送液速度にて送り出したところ、これら二液が合流した部分で流路が徐々に閉塞してしまった。このことから、円筒流路を有する反応装置を用いる本発明の方法においても均一に溶けた溶液を用いることが重要であることがわかる。
【0258】
(実施例5)
流路幅I;100μm、流路幅J;100μm、流路幅K;100μm、流路幅L;100μm、流路幅M;100μm、流路長Q;2cm、流路深さS;40μmを有する図22(a)記載のY字型流路を有する排出口で分離可能な反応装置において、テフロン(登録商標)チューブ2本をコネクタを用いて導入口1031、および導入口1032に接続し、その先に実施例3にて調製したIB液と実施例1で調製したIIA液をそれぞれ入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。排出口1034、排出口1035にもコネクタを用いてテフロン(登録商標)チューブを接続した。IB液を10μL/min、IIA液を60μL/minの送液速度にて送り出すと流路(1033)内で2,9−ジメチルキナクリドンの分散液層が層流(レイノルズ数;約14.9)として得られ、流体分流点1033eにて分散液層は排出口1034へ、その他の液層は排出口1035へ分離する事ができた。これにより、濃度の高い分散液を得ることが可能になった。排出口1034から得たサンプルのpHは12.46、排出口1035から得られたサンプルのpHは11.74であった。
【0259】
(実施例6)
流路直径N;100μm、流路直径P;300μm、流路直径O;100μm、流路長R;5cmを有する図23記載の円筒流路を有する排出口で分離可能な反応装置において、テフロン(登録商標)チューブ2本をコネクタを用いて導入口1041、および導入口1042に接続し、その先に実施例3にて調製したIC液と実施例1で調製したIIA液をそれぞれ入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。排出口1044、排出口1045にもコネクタを用いてテフロン(登録商標)チューブを接続した。ID液を10μL/min、IIA液を30μL/minの送液速度にて送り出すと流路(反応流路1043c)内で2,9−ジメチルキナクリドンの分散液が円筒層流(レイノルズ数;約2.83)として得られ、流体分流点1043eにて分散液を含む円筒層流は排出口1045へ、その他の液は排出口1044へ分離する事ができた。これにより、円筒管マイクロリアクターを用いても濃度の高い分散液を得ることが可能であった。
【0260】
(比較例4)
請求項9に係る発明の比較例
実施例2のIB液から、ポリビニルピロリドン(和光純薬(株)製、K30)、及びN−オレオイル−N−メチルタウリンナトリウム塩を除いたIE液および蒸留水をそれぞれ1.0mL/h及び6.0mL/hで送液し、実施例2で使用した反応装置において、テフロン(登録商標)製Y字コネクター、テフロン(登録商標)チューブなどの装置は変えないで実験を行った。得られた分散液を動的光散乱粒径測定装置を用いて測定したところ、モード径2.80μm、算術標準偏差0.89μmであり粒径・算術標準偏差とも非常に大きくなった。本結果は、本発明において分散剤はナノサイズの微粒子を得るのに重要であることを示す。
【0261】
(実施例7)
ピグメントイエロー93、1.0gをジメチルスルホキシド10.0g、5mol/L水酸化ナトリウム水溶液1.3mL、分散剤ポリビニルピロリドン(和光純薬(株)製、K30)0.5gに室温で溶解した(IF液)。一方、分散剤N−オレオイル−N−メチルタウリンナトリウム塩0.5gと蒸留水60mLを混合した(IIB液)。これらを0.45μmのミクロフィルター(富士写真フイルム(株)製)を通すことでごみ等の不純物を除いた。次に、以下に説明する反応装置を用い下記の手順で反応を行った。等価直径500μmを有するテフロン(登録商標)製Y字コネクターの二つの入り口に長さ50cm、等価直径1mmのテフロン(登録商標)チューブ2本をコネクタを用いて接続し、その先にそれぞれIF液とIIB液を入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。出口には長さ1m、等価直径500μmを有するテフロン(登録商標)チューブをコネクタを用いて接続した。IF液を1mL/h、IIB液を6mL/hの送液速度にて送り出し、流路内でピグメントイエロー93の分散液層が層流(レイノルズ数;約4.9)として得られた。これをチューブの先端より捕集した。これを本発明の試料3とした。このときのモード径は133nmで算術標準偏差は69nmであった。
【0262】
(比較例5)
次にIIB液6mL中に撹拌子を用いて撹拌しながら、室温でIF液を添加するとピグメントイエロー93の分散液が得られた。これを比較試料4とした。試料3と比較試料4の顔料粒径を動的光散乱粒径測定装置を用いて比較したところ、比較試料4のモード径は189nmで算術標準偏差は98nmであり、試料3の分散液の粒径は、比較試料4のそれより小さく分布幅が小さいことがわかった。
【0263】
(実施例8)
実施例4において、IB液中の2,9−ジメチルキナクリドンを等モル量のピグメントイエロー93に変えて、その他条件は変えずに顔料分散液を得た。透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、一次粒子の粒径が平均12nmの丸みを帯びた粒子形状を有していた。
【0264】
(実施例9)
実施例4において、IB液中の2,9−ジメチルキナクリドンを等モル量のピグメントレッド254に変えて、その他の条件は変えずに顔料分散液を得た。透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、一次粒子の粒径が平均9nmのやはり丸みを帯びた粒子形状を有していた。
【0265】
(実施例10)
ピグメントブルー15(東京化成工業製)1.2gを95%硫酸10mLに室温で溶解しIG液を調製した。ポリビニルピロリドン(和光純薬(株)製、K30)6.0g、N−オレオイル−N−メチルタウリンナトリウム塩6.0gと蒸留水240mLを混合しIIC液を調製した。これらを0.45μmのミクロフィルターを通すことでごみ等の不純物を除き、それぞれ透明な溶液を得た。実施例4で用いたIB液をIG液に、IIA液をIIC液に変えた以外は実施例4と同じ条件で分散液を調製した。透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、一次粒子の平均粒径が15nmの丸みを帯びた粒子形状を有していた。
【0266】
(実施例11)
酸化反応による2,9−ジメチルキナクリドンの合成
2,9−ジメチル−6,13−ジヒドロキナクリドン、2.0gに5mol/L水酸化ナトリウム水溶液 10.0mL、ポリエチレングリコール400を18g加えて室温下撹拌した。得られた深緑色の溶液を溶液Aとした。溶液Aをシリンジポンプを用いて、3.0mL/hで送液した。また、溶液Bとして30質量%過酸化水素水をシリンジポンプを用いて、0.5mL/hの速度で送液した。これらAおよびB液はIMM社製マイクロミキサー(流路幅45μm、深さ200μm)に接続され、内部のマイクロ空間にて混合され、出口より鮮やかなマゼンタ色の分散液の生成を確認した。分析したところ、純度96%以上の2,9−ジメチルキナクリドンが生成していた。
【0267】
(比較例6)
2,9−ジメチル−6,13−ジヒドロキナクリドン 2.0gに5N水酸化ナトリウム水溶液 10.0mL、ポリエチレングリコール400を18g加えて室温下撹拌した。得られた深緑色の溶液に、30質量%過酸化水素を2.0mLを滴下し、60℃にて1時間撹拌し、室温まで冷却した。分析したところ、転化率は80%であり、顔料純度94%以上の2,9−ジメチルキナクリドンが生成していた。
【0268】
(実施例12)
脱水縮合による2,9−ジメチルキナクリドンの合成2,5−ジ−(p−トルイジノ)−テレフタル酸 2.0g、p−トルエンスルホン酸0.1g、エチレングリコール15mL、ジメチルホルムアミド20mLを混合した溶液を調製した。フュースドシリカガラスキャピラリー(等価直径0.20mm、長さ4.0m)をリアクターとして用意し、その内、2.5mがオイルバス中を通過するよう固定した。オイルバスを150℃に加熱し、この溶液をシリンジポンプにて、速度1.1mL/h(滞留時間5分)にてリアクター内に送液した。キャピラリー出口より鮮やかなマゼンタ色を呈した顔料が得られた。
【0269】
(比較例7)
2,5−ジ−(p−トルイジノ)−テレフタル酸 2.0g、p−トルエンスルホン酸0.1g、エチレングリコール15mL、ジメチルホルムアミド20mLを混合した溶液を調製した。50mLフラスコにてオイルバスを150℃に加熱し、30分間撹拌した。生成した顔料は、分析したところ原料が僅かに残存していた。
【0270】
(実施例13)
アミド化反応によるC.I.ピグメントイエロー93の製造
【0271】
【化4】
【0272】
フェニルエステル誘導体(A)0.3gと3−クロロ−2−メチルアニリン0.1gをジメチルホルムアミド20mLに溶解した。マイクロリアクターとしてフューズド・シリカ・ガラス・キャピラリー(等価直径0.53mm、長さ1.5m)を用意し、その内、1.0mがオイルバス中を通過するよう固定した。オイルバスを150℃に加熱し、この溶液をシリンジポンプにて、速度2.2mL/h(滞留時間6分)にてリアクター内に送液した。キャピラリー出口より出てきた顔料は鮮やかなイエローを呈しており、分析したところ、純度は95%以上であった。
【0273】
(比較例8)
フェニルエステル誘導体(A)0.3gと3−クロロ−2−メチルアニリン0.1gをジメチルホルムアミド20mLに溶解した。50mLフラスコにてオイルバスを150℃に加熱し、1時間撹拌した。生成した顔料は、分析したところ、転化率は65%であり、顔料純度は93%以下で、ややくすんだイエロー色であった。
【0274】
(実施例14)
アミド化反応によるC.I.ピグメントレッド214の製造
【0275】
【化5】
【0276】
フェニルエステル誘導体(B)1.0gと2,5−ジクロロ−1,4−フェニレンジアミン0.2gをジメチルスルホキシド50mLに溶解した。マイクロリアクターとしてヒューズド・シリカ・ガラス・キャピラリー(等価直径0.53mm、長さ1.5m)を用意し、その内、1.0mがオイルバス中を通過するよう固定した。オイルバスを150℃に加熱し、この溶液をシリンジポンプにて、速度3.3mL/h(滞留時間4分)にてリアクター内に送液した。キャピラリー出口より出てきた顔料は鮮やかな赤色を呈しており、分析したところ、純度は96%以上であった。
【0277】
フタロシアニン顔料(ピグメントブルー16)の微粒子合成
(実施例15)
フタロシアニンジナトリウム塩(東京化成品)2.5g(0.45ml)をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解して50mlに調製した深緑色溶液を0.5μmのテフロン(PTFE)製ミクロフィルター(アドバンテック社製)で濾過し、IG液とした。次にポリビニルピロリドン(PVP。和光純薬(株)製K−90。平均分子量360,000)0.5gをDMSOに溶解して50mlに調製した無色透明溶液を0.5μmのテフロン(PTFE)製ミクロフィルター(アドバンテック社製)で濾過し、IH液とした。更にN−オレオイル−N−メチルタウリンナトリウム塩0.5g(1.17mmol)を蒸留水に溶解して50mlに調製した無色透明溶液を水系溶媒用の0.45μmのセルロースエステル製ミクロフィルター(ザルトリウス社製)で濾過し、IID液とした。
【0278】
流路直径D;100μm、流路直径E;400μm、流路長G;20cmを有する図21(a)記載の円筒流路を有する反応装置において、流路長Gの部分を5℃に冷却できるように冷媒を循環できるジャケットを装着した。そしてテフロンチューブ2本をコネクタにより導入口1021、および導入口1022に接続した。導入口1021に上記IG液とIH液を1:2(体積比)に混合した液を入れたシリンジを繋ぎ、シリンジポンプにセットした。導入口1022にIID液を入れたシリンジを繋ぎ、シリンジポンプにセットした。導入口1021から1.0mL/h、導入口1022からを10.0mL/hの送液速度にて送り出すと5℃に冷却した流路内は層流(レイノルズ数;約9.8)となり、フタロシアニンの分散液が得られたのでこれを排出口1024より捕集した。これを動的光散乱粒径測定装置を用いて測定したところ、モード径17.4nm、算術標準偏差8.6nmであり、粒径が小さく分布幅が非常に小さい分散液を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0279】
【図1】本発明に係る画像形成装置の一実施形態としてのインクジェット記録装置の概略を示す全体構成図である。
【図2】図1のインクジェット記録装置の印字部周辺の要部平面図である。
【図3】印字ヘッドの他の構造例を示す平面透視図である。
【図4】印字ヘッドを構成する圧力室ユニットを示す拡大図である。
【図5】図4のV-V 線に沿う断面図である。
【図6】図1のインクジェット記録装置のシステム構成図である。
【図7】本実施形態の印字ヘッドにおけるノズル配置を示す要部平面図である。
【図8】図7のノズル配置の一部を拡大して示す平面図である。
【図9】(a)、(b)はノズル配置とドット位置の関係を示す説明図である。
【図10】本実施形態の印字ヘッドにおける他のノズル配置を示す要部平面図である。
【図11】図10のノズル配置においてノズルブロックの他の分け方を示す平面図である。
【図12】本実施形態のインクジェット記録装置の打滴制御の説明図である。
【図13】図12中のXIII-XIII 線に沿う断面図である。
【図14】打滴制御の要部を説明するための平面図である。
【図15】図14中のXV-XV 線に沿う断面図である。
【図16】打滴制御の結果を説明する平面図である。
【図17】図16中のXVII-XVII 線に沿う断面図である。
【図18】本実施形態のインクジェット記録装置の打滴制御部のブロック図である。
【図19】従来のマトリクス状に配列されたノズルを示す要部平面図である。
【図20(a)】片側にY字型流路を有する反応装置の説明図である。
【図20(b)】図20(a)のI−I線の断面図である。
【図21(a)】片側に挿通した流路を設けた円筒管型流路を有する反応装置の説明図である。
【図21(b)】図21(a)のIIa−IIa線の断面図である。
【図21(c)】図21(a)のIIb−IIb線の断面図である。
【図22(a)】両側にY字型流路を有する反応装置の説明図である。
【図22(b)】図22(a)のIII−III線の断面図である。
【図23】両側に挿通した流路を設けた円筒管型流路を有する反応装置の説明図である。
【符号の説明】
【0280】
10…インクジェット記録装置、12…印字部、14…インク貯蔵/装填部、16…記録紙、18…給紙部、20…デカール処理部、22…吸着ベルト搬送部、24…印字検出部、26…排紙部、28…カッター、30…加熱ドラム、31、32…ローラ、33…ベルト、34…吸着チャンバ、35…ファン、36…ベルト清掃部、40…加熱ファン、42…後乾燥部、44…加熱・加圧部、45…加圧ローラ、48…カッター、50…印字ヘッド、51…ノズル、52…圧力室、53…インク供給口、54…圧力室ユニット、55…インク共通流路、56…振動板、58…アクチュエータ、1010,1020,1030,1040…反応装置本体、1011,1012,1021,1022,1031,1032,1041,1042…導入口、1013,1033…流路、1013a,1013b,1023a,1023b,1033a,1033b,1043a,1043b…導入流路、1013c,1023c,1033c,1043c…反応流路、1013d,1023d,1033d,1043d…流体合流点、1033e,1043e…流体分流点、1033f,1033g,1043f,1043g…排出流路、1014,1024,1034,1035,1044,1045…排出口
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッド及び画像形成装置に係り、特に有機顔料インクを液滴として吐出するノズルを2次元マトリクス状に配列した液滴吐出ヘッド及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、画像形成装置として、多数のノズルを配列させたインクジェットヘッド(インク吐出ヘッド)を有するインクジェット記録装置(インクジェットプリンタ)が知られている。このインクジェット記録装置は、インクジェットヘッドと記録媒体を相対的に移動させながら、ノズルからインクを液滴として吐出して、記録媒体上にドットを形成することにより、画像を形成するものである。
【0003】
このようなインクジェット記録装置におけるインク吐出方法として、従来から様々な方法が知られている。例えば、圧電素子(圧電アクチュエータ)の変形によって圧力室(インク室)の一部を構成する振動板を変形させて、圧力室の容積を変化させ、圧力室の容積増大時にインク供給路から圧力室内にインクを導入し、圧力室の容積減少時に圧力室内のインクをノズルから液滴として吐出する圧電方式や、インクを加熱して気泡を発生させ、この気泡が成長する際の膨張エネルギーでインクを吐出させるサーマルインクジェット方式などが知られている。
【0004】
このようにインクジェット記録装置においては、ノズルから吐出されたインクによって形成されるドットを組み合わせることによって1つの画像が表現されている。これらドットのサイズを小さくし、高密度化して、1画像あたりの画素数を多くすることによって高画質が実現されている。
【0005】
例えば、図19に、ノズルを2次元マトリクス状に配列したインクジェットヘッドの例をその一部を拡大して示す。図19に示すインクジェットヘッド90は、インクジェットヘッド90に対して相対的に搬送される図示を省略した記録媒体に対してノズル91(91a、91b、91c)からインクを吐出して画像を記録するものである。インクジェットヘッド90は、記録媒体の搬送方向(副走査方向)と垂直な記録媒体の幅方向(主走査方向)にその長手方向を一致させて配置される。
【0006】
インクジェットヘッド90の各ノズル91にはそれぞれ圧力室92が対応している。図19に示すように、ノズル91は主走査方向及び副走査方向にそれぞれ配置され、2次元マトリクス状に配列されている。このとき、副走査方向のノズル91の配列方向は、完全に副走査方向(主走査方向と垂直)と一致しているのではなく、副走査方向から斜めに少しずれて配列されている。例えば、ノズル91aとノズル91bのように副走査方向に隣接したノズル間の主走査方向の距離Pmは、ノズル91aに対し主走査方向に隣接したノズル91cとの距離L1(略圧力室92の大きさに等しい)よりもはるかに小さくすることができる。
【0007】
このようにノズル91を副走査方向に斜めにずらして配列したことにより、例えばノズル91aから記録媒体にインクを吐出してドット93aを形成した後、記録媒体を副走査方向に圧力室92の大きさL2分だけ搬送してノズル91bから記録媒体に向けてインクを吐出するとノズル91aによって先に形成されたドット93aの主走査方向のすぐ横にドット93bとして形成される。このドット間の距離(中心間距離)は上で述べた副走査方向に隣接したノズル(91a及び91b)間の主走査方向の距離Pmに等しい。このように、ノズル91をマトリクス状に、しかも斜めにずらして配列することにより、ノズル(同じことであるがそのノズルによって形成されるドット)を高密度化することができる。
【0008】
例えば、特許文献1には、このようにノズルをn行m列の2次元マトリクス状に配列して、各個別電極への接続を低減して高密度化を図るようにしたものが記載されている。
【0009】
また、ライン型インクジェットヘッドにおいて、複数のインクノズルが1列に配列された各ヘッドチップを同一基板上にライン配列方向に対してある角度をなす傾斜状態で2列千鳥状に配列するようにしたものが知られている(例えば、特許文献2等参照)。
【0010】
一方、インクジェットプリンターのインクを種類で大別すると、染料インクと顔料インクとがあり、インクジェット用インクの色材には染料が用いられてきたが、染料インクは耐水性や耐光性の面で難点があり、それを改良するために顔料が用いられるようになってきている。しかし、顔料インクにより得られた画像は、染料インクによる画像に較べて耐光性、耐水性に優れるという特筆すべき利点を有する反面、紙表面の空隙に染み込むことが可能なナノメートルサイズに顔料を均一に微細化(すなわち単分散化)することが難しく、紙への浸透性の低下及び彩度の高い画像が得られないという問題がある。
【0011】
この対策として、特許文献3にマイクロジェットリアクター法を用いて顔料を微粒子化する方法が提案されている。この方法は、顔料を溶解した溶液と沈殿媒体液を互いに対峙するマイクロメートルサイズの異なる二つノズルへ高圧(例えば5MPa)でポンプ導入し
、両液のジェット流が衝突する部分にはガス(圧縮空気等)を垂直に導入し、そのガス流(約0.5m3/h)で顔料懸濁液を排出する方法である。
【特許文献1】特表平9−507803号公報
【特許文献2】特開2002−273878号公報
【特許文献3】特開2002−146222公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、インクジェットプリンターの画像形成において、複数のドットを重ねて被記録媒体上に着弾させると、インク液滴が混合し、本来のドット形状である円形状が崩れてしまい(着弾干渉の発生)、所望の高精彩な画像を形成させることが困難であるという問題がある。
【0013】
しかしながら、特許文献1や特許文献2ではこの着弾干渉の問題を解決することができず、特に、インクとして顔料インクを使用する場合には、粒子径が大きく単分散性の悪い顔料微粒子では彩度の高い画像が得られないだけでなく着弾干渉を促進してしまう懸念がある。
【0014】
即ち、ノズルを高密度化するとラインヘッド型の高速インクジェット印刷においては、液滴同士の打滴間隔が非常に短いため、記録媒体上に吐出された液滴が記録媒体に定着する前に互いにくっついて重なり合い、凝集して一つの大きな液滴またはドット形状が崩れて記録媒体に浸透したり、滲みや混色が発生するいわゆる着弾干渉あるいは打滴干渉と呼ばれる現象が起きる場合があり、これにより品質劣化が引き起こされる。この液滴の結合が記録媒体の搬送方向である副走査方向だけでなく、これと直交する主走査方向でも発生し、2次元的にこのような液滴の結合が起こった場合には特に大きな画像劣化となる。 更に、前述した図19に示すような従来のインクジェットヘッドにおいては、各ノズルを副走査方向に単純に斜めにずらして並べただけであるため、記録媒体上において主走査方向に隣接するインク液滴同士が記録媒体上に着弾した後、定着する前に互いに結合し、大きな液滴となって画質劣化が引き起こされるという問題がある。
【0015】
また、上記特許文献1に記載のものは、単にノズルを2次元マトリクス状に配列するというだけで、そのノズル配列のしかたについては特に言及がなく、前記従来のインクジェットヘッドと同様の問題がある。
【0016】
さらに、上記特許文献2に記載のものは、ライン型ヘッドにおける高密度化を目標としたものであり、着弾干渉を防止するためのドット径とノズルの配置の関係等については記載されていない。したがって、特許文献2に記載のようなノズル配置のライン型ヘッドで印刷した場合には、やはり図19に示したような従来の単純なマトリクスヘッドと同様に主走査方向の距離が隣接したノズルから吐出されるドット同士が記録媒体上で定着する前に結合、凝集し、画質劣化する虞があるという問題がある。
【0017】
また、特許文献3に記載された顔料は、マイクロメートルスケールの小さな空間で粒子を生成させ、それを直ちに装置外に取り出すことにより顔料微粒子による装置の閉塞を防ぐように工夫されており、狭い粒径分布の微粒子を得るのに好ましいが、両液の接触時間をコントロールし難いため微妙な反応制御が難しいことから、微細粒子で単分散性に優れた顔料微粒子を安定して製造することが難しいという問題点がある。
【0018】
このように、従来は、着弾干渉の防止対策や顔料粒子の微細化対策の点において未だ解決されていない課題があり、顔料インクで彩度の高い高精細な画像を得ることが難しいという問題があった。
【0019】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、微細粒径で単分散性に優れた顔料微粒子を含有する顔料インクを記録ヘッドから打滴でき、しかもドットが重なることによる画像乱れを防止することができるので、顔料インクで彩度の高い高精細な画像を得ることのできる液滴吐出ヘッド及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、記録媒体に、アルカリ性または酸性の水溶媒体に溶解した有機顔料の溶液を、流路中を層流として流通させ、その層流過程で溶液の水素イオン指数(pH)を変化させる工程によって生成された有機顔料微粒子を含む液滴を打滴する記録ヘッドであって、前記記録媒体が前記液滴吐出ヘッドに対して相対的に搬送される搬送方向と直交する主走査方向及び前記搬送方向である副走査方向に2次元的に、かつ前記ノズルから前記記録媒体上に打滴された少なくとも一部のドットが主走査方向に重なるように、前記ノズルが配列され、前記記録媒体上で主走査方向に隣接するドットを打滴する第1のノズルと第2のノズル及び第1のノズルと副走査方向に隣接する第3のノズルに対し、前記第1のノズルと第2のノズルとの間の副走査方向における距離が、少なくとも、前記第1のノズルと第3のノズルの副走査方向における距離の2以上の整数倍の距離となるように前記第1のノズルと第2のノズルを副走査方向に離して配置するとともに、前記第1のノズルと第3のノズルの間の主走査方向における距離が、少なくとも、前記第1のノズル及び前記第3のノズルから前記記録媒体に吐出される液滴によって形成される最大ドット径以上の距離となるように前記第1のノズルと第3のノズルを主走査方向に離して配置したことを特徴とする液滴吐出ヘッドを提供する。
【0021】
また、請求項2に示すように、前記第1のノズルと第3のノズルとの間の主走査方向における距離が、少なくとも、前記第1のノズルと第2のノズルの間の主走査方向の距離の2以上の整数倍の距離であることを特徴とする。
【0022】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、流路(チャンネル)中で、反応成分を含む溶液を流通させ有機顔料を合成したところ、温和な条件下速やかに、また純度良く目的の有機顔料が得られることを見出した。また、有機顔料の溶液を層流が支配的である流路中で、pH変化の影響下、共沈法(再沈法)を実施することにより、フラスコ中で行うような従来法に比べて、より粒径が揃った有機顔料微粒子を得ることができることを見出した。
【0023】
このように微細粒径で単分散性の良い有機顔料微粒子から成る顔料インクを記録ヘッドから打滴することで、被記録媒体に対する浸透性が良くなるだけでなく、打滴干渉も抑制することができるので、彩度の高い高精細な画像を得ることができる。また、記録ヘッドのノズルの詰まりも従来の顔料インクに比べ大幅に減らすことができる。
【0024】
特に、顔料を色材としたインクと、顔料を凝集反応させる処理液とを打滴または付着させることを特徴とする2液凝集反応系の画像形成装置においては、微細粒径で単分散性の良い有機顔料微粒子から成る顔料インクを用いることによって、顔料が瞬時に凝集して記録媒体上に沈降し、インクの溶媒同士が混合・合体しても顔料の形状は保持されるので、着弾干渉の防止により効果的である。
【0025】
さらに、上記のようにノズルを配置することにより、主走査方向に隣接する液滴ドット間での着弾干渉を確実に防止できる。
【0026】
また、同様に前記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、記録媒体に、アルカリ性または酸性の水溶媒体に溶解した有機顔料の溶液を、流路中を層流として流通させ、その層流過程で溶液の水素イオン指数(pH)を変化させる工程によって生成された有機顔料微粒子を含む液滴を打滴する記録ヘッドであって、前記記録媒体が前記液滴吐出ヘッドに対して相対的に搬送される搬送方向と直交する主走査方向及び前記搬送方向である副走査方向に2次元的に、かつ前記ノズルから前記記録媒体上に打滴された少なくとも一部の液滴ドットが主走査方向に重なるように、前記ノズルが配列され、前記液滴吐出ヘッドにおけるノズル間の主走査方向における最小距離である主走査方向最小ノズル間距離をPmとし、主走査方向に1列に配列された複数個のノズル列をそれぞれ主走査方向にずらして副走査方向に隣接させて並べ、任意のノズル列に対して主走査方向に所定距離だけずらしたノズル列が必ず存在するように配置して形成された複数個のノズルブロックのうち副走査方向に隣接するノズルブロックを、副走査方向に所定の間隔ずらすとともに、主走査方向に前記主走査方向最小ノズル間距離Pmだけずらして配置したことを特徴とする液滴吐出ヘッドを提供する。
【0027】
また、請求項4に示すように、前記ノズル列を主走査方向にずらす前記所定距離を、前記主走査方向最小ノズル間距離Pm及び前記ノズルブロックの個数Nを用いて、N×Pmとなるように設定することが好ましい。
【0028】
さらに、請求項5に示すように、前記ノズルブロック間の副走査方向の前記所定の間隔を、前記ノズル配列における副走査方向に隣接するノズル間の距離である副走査方向最小ノズル間距離Ps及び各ノズルブロックを構成する前記ノズル列の個数Mを用いて、M×Psとなるように設定することが好ましい。
【0029】
これによれば、副走査方向のノズル配列ピッチが統一されるのでノズル駆動制御を簡略化することができる。
【0030】
また、請求項6に示すように、前記記録媒体上で主走査方向に重なり合う液滴ドットを打滴する第1のノズルと第2のノズルをそれぞれ有する第1のノズルブロックと第2のノズルブロックとの間の副走査方向の前記所定の間隔に対して、少なくとも、前記第1のノズルから着弾された第1のドットが前記記録媒体に定着して前記記録媒体表面上での液滴径が小さくなり、前記第1のドットの着弾後に前記第2のノズルから着弾する第2のドットの前記記録媒体表面上での液滴と接触しない大きさになるまでの時間になるように前記記録媒体が相対的に搬送される搬送速度を少なくとも記録媒体の種類に応じて設定することを特徴とする。
【0031】
これによれば、インクの定着時間の記録媒体の依存性を考慮することで、種々の記録媒体に対して主走査方向のドットの着弾干渉を防止することが可能となり、高画質記録が得られる。
【0032】
また、請求項7に示すように、前記ノズル配列を構成する任意のノズルから前記記録媒体上に打滴される液滴の最大ドット径をDmax とするとき、前記主走査方向最小ノズル間距離Pmに対し、Dmax ≦N×Pmとなるように前記ノズルブロックの個数Nを設定することを特徴とする。これによれば、副走査方向において隣接して配置されているノズルから、短時間差で着弾するドット間の着弾干渉を防止することができる。
【0033】
また、同様に前記目的を達成するために、請求項8に記載の発明は、記録媒体に、アルカリ性または酸性の水溶媒体に溶解した有機顔料の溶液を、流路中を層流として流通させ、その層流過程で溶液の水素イオン指数(pH)を変化させる工程によって生成された有機顔料微粒子を含む液滴を打滴する記録ヘッドであって、前記記録媒体が前記液滴吐出ヘッドに対して相対的に搬送される搬送方向と直交する主走査方向及び前記搬送方向である副走査方向に2次元的に、かつ前記ノズルから前記記録媒体上に打滴された少なくとも一部のドットが主走査方向に重なるように、前記ノズルが配列され、前記記録媒体上で主走査方向に隣接または重ねて打滴する第1のドットと第2のドットを打滴する第1のノズルと第2のノズルとの副走査方向の距離を、少なくとも前記第1のドットが前記記録媒体に着弾して定着して前記記録媒体表面上での液滴径が小さくなり、前記第1のドットの着弾後に打滴される前記第2のドットの前記記録媒体表面上での液滴と接触しない大きさになるまでの時間に前記記録媒体が相対的に搬送される距離以上となるように設定し、前記第1のノズルと副走査方向に隣接する第3のノズルとの主走査方向の距離が、少なくとも前記第1のノズル及び前記第3のノズルから前記記録媒体に打滴されて形成される最大ドット径以上の距離となるように前記第1のノズルと前記第3のノズルを配置することを特徴とする液滴吐出ヘッドを提供する。
【0034】
これにより、効果的に隣接ドット間の着弾干渉を防止することができる。
【0035】
また、請求項9に示すように請求項1〜8のいずれか1項に記載の発明において、前記有機顔料微粒子は少なくとも一つの分散剤を含有する有機顔料の溶液で生成されたことを特徴としている。
【0036】
即ち、有機顔料微粒子は少なくとも一つの分散剤を含有する有機顔料の溶液で生成されることにより、ナノサイズレベルの微細粒径で単分散性に優れた有機顔料微粒子を得ることができるので、彩度が更に良くなり且つ被記録媒体への浸透性も向上するだけでなく、打滴干渉の一層の抑制が可能となる。
【0037】
また、請求項10に示すように請求項1〜9のいずれか1項に記載の発明において、前記有機顔料微粒子はモード径が1μm以下であることを特徴としている。
【0038】
モード径が1μm以下であると、有機顔料微粒子内の化学組成や結晶構造にも粒子間にバラツキがないことを意味するので、有機顔料微粒子の物性が一定となり、顔料インクで彩度の高い高精細な画像を更に得ることができる。
【0039】
また、請求項11に示すように請求項1〜10いずれか1項に記載の発明において、前記有機顔料微粒子は前記有機顔料の溶液がアルカリ性であり、一般式(I)で表されるキナクリドン系顔料であることを特徴としている。
【0040】
請求項11は顔料インクに使用される顔料のうちでもキナクリドン系顔料が好ましく、キナクリドン系顔料で微細粒子を形成するようにしたものである。
【0041】
請求項12に示すように、請求項1〜11いずれか1項に記載の発明において、前記記録ヘッドより打滴される液滴はアルカリ性であり、前記記録ヘッドのうちの少なくとも前記液滴の液が接触する部分の材質が耐アルカリ性の材質で形成されていることを特徴とする。
【0042】
請求項12のように、記録ヘッドのうちの少なくとも前記液滴の液が接触する部分の材質が耐アルカリ性の材質で形成されていれば、キナクリドン系顔料のように、アルカリ性の有機顔料溶液をそのまま使用することができ、便利である。
【0043】
また、同様に前記目的を達成するために、請求項13に記載の発明は、請求項1〜12のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッドを備えたことを特徴とする画像形成装置を提供する。
【0044】
これにより、隣接ドット間での着弾干渉が防止され、高画質の画像記録を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、微細粒径で単分散性に優れた顔料微粒子を含有する顔料インクを記録ヘッドから打滴でき、記録媒体上で互いに重なり合う異なるノズルから吐出される液滴の着弾時間間隔を長くし、着弾干渉を防止し滲みをなくすことができるので、顔料インクで彩度の高い高精細な画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施形態について詳説する。
【0047】
本発明の特徴を成す顔料インクと液滴吐出ヘッド及び画像形成装置とのうち、先ず液滴吐出ヘッド及び画像形成装置について説明する。
【0048】
〔液滴吐出ヘッド及び画像形成装置の構成〕
本発明の液滴吐出ヘッドは、ノズルを2次元マトリクス状に並べる際、各ノズルを従来のように単純に斜めに並べるのではなく、以下詳しく説明するように互いにずらして並べることにより、異なるノズルから吐出され記録媒体上で重なり合う液滴が打滴される時間間隔を大きくして隣接ドット間の着弾干渉を防止するようにしたものである。
【0049】
図1は、本発明に係る画像形成装置の一実施形態としてのインクジェット記録装置の概略を示す全体構成図である。
【0050】
図1に示したように、このインクジェット記録装置10は、インクの色毎に設けられた複数の印字ヘッド12K、12C、12M、12Yを有する印字部12と、各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部14と、記録紙16を供給する給紙部18と、記録紙16のカールを除去するデカール処理部20と、前記印字部12のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙16の平面性を保持しながら記録紙16を搬送する吸着ベルト搬送部22と、印字部12による印字結果を読み取る印字検出部24と、印画済みの記録紙(プリント物)を外部に排紙する排紙部26とを備えている。
【0051】
図1では、給紙部18の一例としてロール紙(連続用紙)のマガジンが示されているが、紙幅や紙質等が異なる複数のマガジンを併設してもよい。また、ロール紙のマガジンに代えて、又はこれと併用して、カット紙が積層装填されたカセットによって用紙を供給してもよい。
【0052】
ロール紙を使用する装置構成の場合、図1のように、裁断用のカッター28が設けられており、該カッター28によってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター28は、記録紙16の搬送路幅以上の長さを有する固定刃28Aと、該固定刃28Aに沿って移動する丸刃28Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃28Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃28Bが配置されている。なお、カット紙を使用する場合には、カッター28は不要である。
【0053】
複数種類の記録紙を利用可能な構成にした場合、紙の種類情報を記録したバーコードあるいは無線タグ等の情報記録体をマガジンに取り付け、その情報記録体の情報を所定の読取装置によって読み取ることで、使用される用紙の種類を自動的に判別し、用紙の種類に応じて適切なインク吐出を実現するようにインク吐出制御を行うことが好ましい。
【0054】
給紙部18から送り出される記録紙16はマガジンに装填されていたことによる巻き癖が残り、カールする。このカールを除去するために、デカール処理部20においてマガジンの巻き癖方向と逆方向に加熱ドラム30で記録紙16に熱を与える。このとき、多少印字面が外側に弱いカールとなるように加熱温度を制御するとより好ましい。
【0055】
デカール処理後、カットされた記録紙16は、吸着ベルト搬送部22へと送られる。吸着ベルト搬送部22は、ローラ31、32間に無端状のベルト33が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する部分が平面(フラット面)をなすように構成されている。
【0056】
ベルト33は、記録紙16幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引孔(図示省略)が形成されている。図1に示したとおり、ローラ31、32間に掛け渡されたベルト33の内側において印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバ34が設けられており、この吸着チャンバ34をファン35で吸引して負圧にすることによってベルト33上の記録紙16が吸着保持される。
【0057】
ベルト33が巻かれているローラ31、32の少なくとも一方にモータ(図示省略)の動力が伝達されることにより、ベルト33は図1において、時計回り方向に駆動され、ベルト33上に保持された記録紙16は、図1の左から右へと搬送される。
【0058】
縁無しプリント等を印字するとベルト33上にもインクが付着するので、ベルト33の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部36が設けられている。ベルト清掃部36の構成について詳細は図示しないが、例えば、ブラシ・ロール、吸水ロール等をニップする方式、清浄エアーを吹き掛けるエアーブロー方式、あるいはこれらの組み合わせなどがある。清掃用ロールをニップする方式の場合、ベルト線速度とローラ線速度を変えると清掃効果が大きい。
【0059】
なお、吸着ベルト搬送部22に代えて、ローラ・ニップ搬送機構を用いる態様も考えられるが、印字領域をローラ・ニップ搬送すると、印字直後に用紙の印字面にローラが接触
するので、画像が滲み易いという問題がある。したがって、本例のように、印字領域では画像面と接触させない吸着ベルト搬送が好ましい。
【0060】
吸着ベルト搬送部22により形成される用紙搬送路上において印字部12の上流側には、加熱ファン40が設けられている。加熱ファン40は、印字前の記録紙16に加熱空気を吹きつけ、記録紙16を加熱する。印字直前に記録紙16を加熱しておくことにより、インクが着弾後乾き易くなる。
【0061】
印字部12は、4色(KCMY)に対応する印字ヘッド12K、12C、12M、12Yからなり、各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yは、それぞれ複数の吐出口(ノズル)を有し、記録紙16の全幅を担うように、各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yの長手方向を紙搬送方向(副走査方向)と直交する記録紙16の幅方向(主走査方向)に並べて配置され、最大紙幅に対応する長さを有する、いわゆるフルライン型ヘッドとなっている(図2参照)。
【0062】
図2に示すように、各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yは、インクジェット記録装置10が対象とする最大サイズの記録紙16の少なくとも一辺を超える長さにわたってインク吐出口(ノズル)が、その長手方向に複数配列されたライン型ヘッドとして構成されている。
【0063】
また詳しくは後述するが、各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yは、インクの吐出を検出するための検出手段や検出のための光束を所定の形状に形成するための光学系や、その他インク吐出状態やインク滴サイズ、インク吐出速度等の検出に関わる様々な手段を備えている。
【0064】
記録紙16の搬送方向(紙搬送方向)に沿って上流側(図の左側)から黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の順に各色インクに対応した印字ヘッド12K、12C、12M、12Yが配置されている。記録紙16を搬送しつつ各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yからそれぞれ色インクを吐出することにより記録紙16上にカラー画像を形成し得る。
【0065】
このように、紙幅の全域をカバーするフルラインヘッドがインク色毎に設けられてなる印字部12によれば、紙搬送方向について記録紙16と印字部12を相対的に移動させる動作を一回行うだけで(すなわち、一回の走査で)記録紙16の全面に画像を記録することができる。これにより、印字ヘッドが紙搬送方向と直交する方向に往復動作するシャトル型ヘッドに比べて高速印字が可能であり、生産性を向上させることができる。
【0066】
なお、本例では、KCMYの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態には限定されず、必要に応じて淡インク、濃インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタ等のライト系インクを吐出する印字ヘッドを追加する構成も可能である。
【0067】
図1に示したように、インク貯蔵/装填部14は、各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yに対応する色のインクを貯蔵するタンクを有し、各タンクは図示を省略した管路を介して各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yと連通されている。また、インク貯蔵/装填部14は、インク残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段等)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。
【0068】
印字検出部24は、印字部12の打滴結果を撮像するためのイメージセンサ(ラインセ
ンサ等)を含み、該イメージセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まりその他の吐出不良をチェックする手段として機能する。
【0069】
本例の印字検出部24は、少なくとも各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yによるインク吐出幅(画像記録幅)よりも幅の広い受光素子列を有するラインセンサで構成される。このラインセンサは、赤(R)の色フィルタが設けられた光電変換素子(画素)がライン状に配列されたRセンサ列と、緑(G)の色フィルタが設けられたGセンサ列と、青(B)の色フィルタが設けられたBセンサ列とからなる色分解ラインCCDセンサで構成されている。なお、ラインセンサに代えて、受光素子が二次元配列されて成るエリアセンサを用いることも可能である。
【0070】
印字検出部24は、各色の印字ヘッド12K、12C、12M、12Yにより印字されたテストパターンを読み取り、各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yの吐出検出を行う。吐出判定は、吐出の有無、ドットサイズの測定、ドット着弾位置の測定等で構成される。
【0071】
印字検出部24の後段には、後乾燥部42が設けられている。後乾燥部42は、印字された画像面を乾燥させる手段であり、例えば、加熱ファンが用いられる。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けたほうが好ましいので、熱風を吹きつける方式が好ましい。
【0072】
後乾燥部42の後段には、加熱・加圧部44が設けられている。加熱・加圧部44は、画像表面の光沢度を制御するための手段であり、画像面を加熱しながら所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラ45で加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
【0073】
このようにして生成されたプリント物は、排紙部26から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット記録装置10では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部26A、26Bへと送るために排紙経路を切り換える選別手段(図示省略)が設けられている。なお、大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列に形成する場合は、カッター(第2のカッター)48によってテスト印字の部分を切り離す。カッター48は、排紙部26の直前に設けられており、画像余白部にテスト印字を行った場合に、本画像とテスト印字部を切断するためのものである。カッター48の構造は前述した第1のカッター28と同様であり、固定刃48Aと丸刃48Bとから構成されている。
【0074】
また、図示を省略したが、本画像の排出部26Aには、オーダー別に画像を集積するソーターが設けられている。
【0075】
なお、本実施形態では図2に示したように印字ヘッド12K、12C、12M、12Yはインクジェット記録装置10が対象とする最大サイズの記録紙16の少なくとも一辺を超える長さにわたってインク吐出口(ノズル)が複数配列されたフルライン型ヘッドとして説明するが、さらに図3に示すように、短尺の2次元に配列されたヘッド50'を千鳥
状に配列して繋ぎ合わせて、記録媒体の全幅に対応する長さとするようにしてもよい。なお、この場合には各短尺ヘッド50'に対して本実施形態のノズル配列が適用される。
【0076】
次に、印字ヘッドの構造について説明する。インク色毎に設けられている各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yの構造は共通しているため、以下、これらを一つの印字ヘッド50で代表させて説明する事とする。
【0077】
図4は、印字ヘッド50を構成する一つの圧力室ユニット54を拡大して示す平面図である。図4に示すように圧力室ユニット54は、インクを吐出するノズル51とインク供給口53を有する圧力室52で構成されている。各ノズル51に対して設けられている圧力室52は、その平面形状が概略正方形となっており、その対角線上の両隅部にノズル51とインク供給口53が設けられている。各圧力室52はインク供給口53を介して共通流路(図4では図示省略)と連通されている。
【0078】
図5に、図4中のV-V 線に沿った圧力室ユニット54の断面図を示す。図5に示すように、圧力室52の天面を構成している振動板56には個別電極57を備えたアクチュエータ58が接合されている。個別電極57に駆動電圧を印加することによってアクチュエータ58が変形して圧力室52に連通したノズル51からインクが吐出される。
【0079】
一方、圧力室52はインク供給口53を通じて共通流路55と連通しており、インクが吐出されると共通流路55からインク供給口53を介して新しいインクが圧力室52に供給されるようになっている。
【0080】
なお、上で記録媒体の搬送方向を副走査方向とし、それに直交する記録媒体の幅方向(印字ヘッド長手方向)を主走査方向としたが、ノズルの駆動制御方法である主走査及び副走査の概念についてここで説明しておく。
【0081】
記録媒体(記録紙16)の全幅に対応したノズル列を有するフルラインヘッドでノズルを駆動する時には、(1)全ノズルを同時に駆動、(2)ノズルを片方から他方に向かって順次駆動、(3)ノズルをブロックに分割してブロック毎にそのブロック内のノズルを片方から他方に向かって順次駆動、等の駆動方法があり、記録媒体の幅方向(記録媒体の搬送方向と直交する方向)に1ラインまたは1個の帯状を印字するようなノズルの駆動方法を主走査と定義する。
【0082】
また、上述したフルラインヘッドと記録媒体とを相対的に移動することによって、上述した主走査で形成された1ライン(1列のドットによるラインまたは複数列のドットから成るライン)の印字を繰り返し行うようなノズルの駆動方法を副走査と定義する。
【0083】
図6は、本実施形態のインクジェット記録装置10のシステム構成を示す要部ブロック図である。インクジェット記録装置10は、通信インターフェース70、システムコントローラ72、画像メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78、プリント制御部80、画像バッファメモリ82、ヘッドドライバ84等を備えている。
【0084】
通信インターフェース70は、ホストコンピュータ86から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース70にはUSB、IEEE1394、イーサネット、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(図示省略)を搭載してもよい。ホストコンピュータ86から送出された画像データは通信インターフェース70を介してインクジェット記録装置10に取り込まれ、一旦画像メモリ74に記憶される。画像メモリ74は、通信インターフェース70を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ72を通じてデータの読み書きが行われる。画像メモリ74は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
【0085】
システムコントローラ72は、通信インターフェース70、画像メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78等の各部を制御する制御部である。システムコントローラ72は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、ホストコンピ
ュータ86との間の通信制御、画像メモリ74の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ88やヒータ89を制御する制御信号を生成する。
【0086】
モータドライバ76は、システムコントローラ72からの指示にしたがってモータ88を駆動するドライバ(駆動回路)である。ヒータドライバ78は、システムコントローラ72からの指示にしたがって後乾燥部42等のヒータ89を駆動するドライバである。
【0087】
プリント制御部80は、システムコントローラ72の制御に従い、画像メモリ74内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字制御信号(印字データ)をヘッドドライバ84に供給する制御部である。プリント制御部80において所要の信号処理が施され、該画像データに基づいてヘッドドライバ84を介して印字ヘッド50のインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
【0088】
プリント制御部80には画像バッファメモリ82が備えられており、プリント制御部80における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ82に一時的に格納される。なお、図6において画像バッファメモリ82はプリント制御部80に付随する態様で示されているが、画像メモリ74と兼用することも可能である。また、プリント制御部80とシステムコントローラ72とを統合して一つのプロセッサで構成する態様も可能である。
【0089】
ヘッドドライバ84はプリント制御部80から与えられる印字データに基づいて各色の印字ヘッド12K、12C、12M、12Yのアクチュエータ58を駆動する。ヘッドドライバ84にはヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでもよい。
【0090】
以下に、本発明のポイントである印字ヘッド50におけるノズル配列について詳細に説明する。
【0091】
図7に、本実施形態の印字ヘッド50におけるノズル配列をその一部を拡大した平面図で示す。前にも述べたように、本実施形態の印字ヘッド50は、その長手方向を記録紙16の幅方向に合わせて配置され、印字ヘッド50の長手方向に垂直な方向(短手方向)に記録紙16が搬送されるようになっている。したがって、印字ヘッド50の長手方向が主走査方向、短手方向が副走査方向である。印字ヘッド50は、主走査方向及び副走査方向に以下説明するような方法でノズル51を有する圧力室52を2次元マトリクス状に並べることにより、ノズル51の2次元マトリクス配列を実現している。なお、図7においては、表示の関係から副走査方向に20個の圧力室52のみが配列されているが、実際の印字ヘッド50にはもっとたくさんの圧力室52が主走査方向に繰り返し配列されている。
【0092】
また、図4に示したように圧力室52は略正方形状であるが、図7においては、各圧力室52の副走査方向の大きさを主走査方向に対して1/20に縮小して表示している。なお、図7中の左下の部分を図8に拡大して(圧力室52の縦横のサイズを)正規の縮尺で表示している。
【0093】
図7では主走査方向の最も左側の圧力室52のみを表示している。図7に表示する例では、印字ヘッド50は、副走査方向に20個の圧力室52(52−11A、52−12A、・・・、52−21A、・・・等)が並んでおり、各圧力室52はそれぞれ左下隅の一定の場所にノズル51(51−11A、51−12A、・・・等)を有している。
【0094】
したがって、印字ヘッド50は副走査方向に20個のノズル51(51−11A、51
−12A、・・・、51−21A、・・・等)が並んでいる。また、図8に示すように、主走査方向にも多数の圧力室52及びノズル51が並んでいる。例えば、図8において、最下段の主走査方向の列には左側から圧力室52が圧力室52−11A、52−11B、52−11C、・・・と並んでおり、また、その上の主走査方向の列には圧力室52が圧力室52−12A、52−12B、52−12C、・・・と並んでいる。
【0095】
また、これと同様にノズル51も最下段の主走査方向の列には、左側からノズル51−11A、51−11B、51−11C、・・・と並び、その上の段の主走査方向の列には、左側からノズル51−12A、51−12B、51−12C、・・・と並んでいる。
【0096】
このように、主走査方向に多数ノズル51が1列に並んだノズル51の列、例えばノズル51−11A、51−11B、51−11C、・・・の列等を本実施形態では、ノズル列という。
【0097】
図7に示す例では、このような主走査方向に多数のノズル51が並んだノズル列が、副走査方向に20列並んでおり、これら副走査方向に20列並んだノズル列を副走査方向に隣接して並ぶ4列のノズル列毎に分ける。そして、副走査方向に隣接して並ぶ4列のノズル列(例えば、最左端のノズル51がそれぞれ51−11A、51−12A、51−13A、51−14Aであるような4つのノズル列を1つのノズルブロックとする。したがって、図7に示す例では、図7に表示されている全ノズルが5つのノズルブロックに分けられることになる。
【0098】
図8で一番下から副走査方向に隣接して連続して斜め上方に並んだ4列のノズル列、それぞれ(51−11A、51−11B、51−11C、・・・)、(51−12A、51−12B、51−12C、・・・)、(51−13A、51−13B、51−13C、・・・)、(51−14A、51−14B、51−14C、・・・)からなるノズルブロックをノズルブロック1とし、その上に斜めに副走査方向に隣接して並ぶ4列のノズル列からなるノズルブロックをノズルブロック2とする。以下同様に、4列ずつのノズル列を有する5つのノズルブロックによって印字ヘッド50が構成される。
【0099】
図7に示すように、ノズルブロック1内の各ノズル列は、各ノズル列を代表する最左端側のノズル51−11A、51−12A、51−13A、51−14Aが示すように、主走査方向に距離Lmの間隔だけずれて副走査方向に隣接して斜めに配置されている。他のノズルブロック2等においても同様である。また、ノズルブロック1とノズルブロック2は、それぞれの対応するノズル51−11A及び51−21Aが示すように、主走査方向に距離Pmだけずらして、また副走査方向に距離Lsだけずらして配置されている。
【0100】
この主走査方向の距離Pmは、本実施形態の印字ヘッド50におけるノズル配列の主走査方向の最小ノズル間距離である。本実施形態においては、記録紙16上で主走査方向に隣接するドットは主走査方向に隣接して配置されたノズル51(例えばノズル51−11Aと51−21A等)によって打滴され、主走査方向の最小ノズル間距離Pmと記録紙16上での最小ドット間距離Pdとは等しい。
【0101】
一般的に、図9(a)に示すように、主走査方向に隣接した2つのノズルN100、N102の最小ノズル間距離Pmは、記録紙16上における主走査方向に隣合った2つのドットD100、D102の最小ドット間距離(ドットピッチ)Pdに等しい。しかし、常に最小ノズル間距離Pmと最小ドット間距離Pdは等しいとは限らない。すなわち、図9(b)に示すように、2つのノズルN100とN102の主走査方向の最小ノズル間距離Pmを2つのドットD100とD102の主走査方向の最小ドット間距離Pdよりも大きく、例えば、Pm=2×Pdとして、ノズル数を削減して印字ヘッドを構成し、プリント時に印字ヘッドを間欠的に主走査方向にコマ送りして移動してノズル位置を記録すべきドット位置までずらして打滴することも可能である。このようにすると、まず記録媒体上の第1のドットD100を記録すべき位置がノズルN100の位置に搬送された時にそのままノズルN100から打滴して第1のドットD100を形成する。次に記録媒体上の第2のドットD102を記録すべき位置がノズルN102の主走査方向に搬送されるタイミングで、印字ヘッドをPdの距離だけ図9(b)の左方向にステップ移動して第2のドットD102を第2のノズルN102から打滴することにより、図9(a)と同様の重なったドットD100、D102を形成することができる。この場合、最小ノズル間距離Pmと最小ドット間距離Pdは等しくない。
【0102】
本実施形態におけるノズル配置についてさらに詳しく説明するために、図7の左下の部分を拡大して図8に示す。図8では、各圧力室52(52−11A、・・・等)の大きさは縦横(主走査方向及び副走査方向)について同じ縮尺で表されている。
【0103】
各ノズルブロックにおいて副走査方向に隣接したノズル間の距離、例えば図8でノズルブロック1のノズル51−11Aとノズル51−12Aとの副走査方向の距離Psは、副走査方向の最小ノズル間距離(副走査方向のノズルピッチ)である。これは、正確には圧力室間の隔壁の厚さ等を考慮しなければならないが、ここでは略圧力室52−11Aの副走査方向の長さL2に等しいとする。
【0104】
また、圧力室52−11Aの主走査方向の長さをL1とすると、各ノズルブ列内でのノズルの主走査方向の最小配列間隔(例えば、ノズル51−11Aとノズル51−11Bとの間の距離)は略L1である。なお、前述したように、圧力室52は概略正方形であるので、L1=L2と考えてよい。
【0105】
ノズルブロック1とノズルブロック2の副走査方向の距離Lsは、本実施形態におけるノズル配列における副走査方向の最小ノズル間距離Psの、ノズルブロックを構成するノズル列数(正の整数M)倍である。すなわちLs=M×Psとなる。図8に示すように、この例では各ノズルブロックは副走査方向に4個のノズル列で構成されている(例えばノズルブロック1は、最左端のノズル51がそれぞれノズル51−11A、51−12A、51−13A、51−14Aである4列のノズル列によって構成される。)。したがって、M=4であり、Ls=4×Psとなる。
【0106】
ノズルブロック1のノズル51−11Aとノズルブロック2のノズル51−21Aは、主走査方向の距離が本例のノズル配列における最小ノズル間距離Pmであり、ノズル51−11Aによって打滴された記録紙16上のドットと、記録紙16を上述した副走査方向のノズルブロック間距離である距離Ls分だけ搬送してノズル51−21Aで打滴したドットとが重なることになる。したがって、記録紙16上で主走査方向に隣接して重なったドットを打滴するノズル51−11A及びノズル51−21A間の距離が図19に示す従来のノズル配列に比較して4倍となる。よって記録紙16の搬送速度が従来の場合と同じであれば、記録紙16上の主走査方向に隣接する液滴が着弾する時間間隔は図19に示す単純にノズルを斜めに配置した従来の場合の4倍となり、液滴を重ねて打滴しても着弾干渉を起こすことはない。
【0107】
また、ノズルブロック内の副走査方向に隣接したノズル間の主走査方向の距離Lmについては、本例のノズル配列における主走査方向の最小ノズル間距離Pmの整数N倍となるように設定される。すなわち、Lm=N×Pmとなる。具体的には、本実施形態では図7に示すように、ノズル51−11Aで打滴された記録紙16上のドットに対して、主走査方向に隣接して4個のドットがそれぞれノズル51−21A、51−31A、51−41A、51−51Aによって打滴される。したがって、ノズルブロック1内の副走査方向に
隣接したノズル51−11Aとノズル51−12Aとは、主走査方向にそれぞれ5つのノズルブロックに属する5ノズル分だけ離れて配置されることになる。よってNはノズルブロックの個数である。図7に示す例では、N=5であり、Lm=5×Pmとなる。これにより最大ドット径Dmax に対し、Dmax ≦Lmとなっている。これはノズルブロック1内の他のノズル、他のノズルブロックについても同様である。
【0108】
本実施形態ではノズルをこのように配置して着弾干渉を防止するようにしているが、一般的に記録媒体の搬送速度をV[μm/μsec ]とし、圧力室52の副走査方向の長さをL2[μm](L2≒Ps)としたとき、副走査方向においてMノズルだけ離れているノズルから記録媒体上の副走査方向の同じ位置に吐出される液滴ドットの着弾時間差は、Δt=(M×L2)/V[μsec ]で与えられる。よって、吐出されたドットが記録媒体に定着するまでの時間をt0 [μsec ]とすると、Δt>t0 となれば、これら2つのドットは互いに干渉せずに定着することとなる。
【0109】
図19に示す従来の単純なマトリクス配置の場合はM=1であるが、このΔt>t0 の条件を満たすようにMの値を設定することにより着弾干渉が防止される。上述したように、本実施形態ではM=4として、隣接する液滴が着弾する時間間隔を従来の4倍とすることにより着弾時間差を大きくしてこれを満たすようにしている。
【0110】
また、副走査方向のノズル密度(本ノズル配列における副走査方向の最小ノズル間距離Ps)が、副走査方向において同一位置に存在するノズル(例えば、図8においてノズル51−11Aとノズル51−11B)の主走査方向の間隔に等しいとする。すなわち、図8において、圧力室52の大きさが主走査方向(横)と副走査方向(縦)で等しい(L1=L2)とする。L1=L2(またはL1≒L2)とすることで、アクチュエータの変位量の確保と圧力室内の気泡滞流防止をすることが可能となる。
【0111】
例えば、いまL1=L2=200[μm]とする。また、副走査方向に20個のノズル(ノズル列)が並んでいる図8の場合において、主走査方向ノズル密度を2400[dpi]、吐出周波数を10[kHz]、すなわち記録媒体の搬送速度を100[mm/sec ]とすると、主走査方向に隣接したノズルから吐出される記録媒体上において、主走査方向に隣接する液滴の着弾時間間隔を算出すると、従来のように単にノズルを斜めに並べただけの場合には、0.2116[mm]/100[mm/sec ]=2.116[msec] であるのに対して、図7あるいは図8に示すような本実施形態の配列の場合には、0.2116×4[mm]/100[mm/sec ]=8.464[msec] となる。
【0112】
また図10に、本実施形態の液滴吐出ヘッド(印字ヘッド)におけるノズル配列の他の例を示す。図10も図7と同様に圧力室の副走査方向の大きさを主走査方向に対して1/20に縮小して表している。図10に示すように、このノズル配置は図7に示すノズル配置において、各ノズルブロックの副走査方向の2段目と3段目のノズル列を入れ替えたものである。例えば、図10のノズルブロック1は、図7に示すノズルブロック1においてノズル51−12Aを含むノズル列とノズル51−13Aを含むノズル列とを入れ替えたものである。またこのとき、他のノズルブロックにおいても同様にノズル列の配置を入れ替えるようにする。
【0113】
このノズル列の入れ替えは、それぞれ各ノズルブロック内でのみ行われ、各ノズルブロック間の関係は図7の場合と全く同じである。例えば、ノズルブロック1のノズル51−11Aとこれに対応するノズルブロック2内のノズル51−21Aとの関係(主走査方向、副走査方向の距離)は、図7あるいは図8で説明したものと全く同じである。
【0114】
また、ノズルブロック内の各ノズルの主走査方向における隣のノズルとは同一ノズルブ
ロック内でそのノズルに対し主走査方向における距離が最小となるノズルを言うものとする。例えば、図10において、ノズルブロック1のノズル51−11Aに対しては、主走査方向の距離が最小となるノズルは51−12Aであるので、ノズル51−11Aのノズルブロック1における隣のノズルはノズル51−13Aではなくノズル51−12Aである。
【0115】
同様にノズルブロック1内において、ノズル51−12Aに対してノズル51−13Aは主走査方向における隣のノズルであり、ノズル51−13Aに対しノズル51−14Aは主走査方向における隣のノズルである。図10に示すように、これら主走査方向における隣同士のノズル間の主走査方向の距離は前述した図7の場合と同様Lmである。
【0116】
この同一ノズルブロック内での主走査方向の隣のノズルとの距離Lmは、本ノズル配列における主走査方向の最小ノズル間距離Pmの正の整数N倍、すなわちLm=N×Pmとなるように設定される。図10の場合、図7と同様に、5個のノズルブロックから形成されており、N=5であるから、Lm=5×Pmとなる。
【0117】
図7に示す例では、各ノズルブロックを構成する複数のノズル列をそれぞれ主走査方向に所定距離Lmずつずらしながら副走査方向に隣接させて並べたが、これに対して図10に示す例では、各ノズルブロックを構成する複数のノズル列が副走査方向に隣接するか否かに関係なく、主走査方向に所定距離Lmで隣り合うように並べられる。このように、図10では、各ノズルブロック内のノズル列が図7のように階段状に並んでいるのではなく、主走査方向に交互にずらしながら、副走査方向に並べて配置されてノズルブロックを構成している。
【0118】
また図10に示すノズル配列について別の見方をすることもできる。すなわち、図11に示すノズル配列は図10のノズル配列と同じであるが、図10のように各ノズルを4つのノズル列で形成されるノズルブロックへ分けるのではなく、主走査方向に関して最も左側にあるノズル51−11A、51−21A、51−31A、51−41A、51−51Aで形成されるノズルの集まりを、図10のノズルブロックと区別してノズル群と呼ぶことにする。例えば、ノズル51−11A、51−21A、51−31A、51−41A、51−51Aで形成されるノズル群をノズル群B1とし、ノズル51−13A、51−23A、51−33A、51−43A、51−53Aの5つのノズルからなる群をノズル群B2とし、以下同様にノズル群B3・・・等とする。
【0119】
そして図11においては、これらの5つずつのノズルからなるノズル群B1、B2、・・・を図11に示すように副走査方向に交互にずらして互い違いに配置する。
【0120】
具体的には、ノズル群間の主走査方向の間隔Lmはいままでと同様にこの配列における主走査方向の最小ノズル間距離Pmに対し、正の整数N(各ノズル群のノズル数、この場合は5)によりLm=N×Pmとなる。
【0121】
また、ノズル群間の副走査方向の間隔Lsは、例えばノズル群B1とノズル群B2については、ノズル51−11Aとノズル51−13Aを比較して、副走査方向の最小ノズル間距離Ps(略、圧力室52の副走査方向の大きさL2と等しい)の2倍、Ls=2×Ps(=2×L2)となる。
【0122】
また、ノズル群B2と次のノズル群B3についての副走査方向の間隔Lsは丁度副走査方向の最小ノズル間隔Psとなっている。以下、これの繰り返しである。
【0123】
また、図7においてノズル51−11Aと51−12Aのように副走査方向において互
いに隣接したノズルあるいは近傍に配置されるノズルは、それらの主走査方向における距離を各ノズルから吐出される液滴の直径より大きく設定するものとする。
【0124】
ここでは例えばノズルの直径は30[μm]と仮定しており、液滴の直径も略これと同じである。具体的には、ノズルから記録媒体上に打滴される液滴の最大ドット径をDmax とするとき、主走査方向の最小ノズル間距離Pmに対し、Dmax ≦N×Pmが成り立つような正の整数Nをとることにより、主走査方向の各ノズルブロックのずれをN×Pmと設定する。
【0125】
このように、Nを設定して距離N×Pmだけノズルを主走査方向に離すようにすれば、各ノズルから吐出される液滴が吐出直後だけでなく、その後記録媒体が搬送されても互いに永久に重なることがなく、画像劣化を防止することができる。前述したように、この整数Nは、ノズルブロックの個数Nが用いられる。
【0126】
また、図7において、各ノズルブロック間の副走査方向の間隔Lsを設定する際、上記では副走査方向の最小ノズル間距離Psの整数倍としていた。具体的には、この整数Mはノズルブロック内の副走査方向に並ぶノズル列の個数Mが用いられた。
【0127】
これに対し、この副走査方向に隣接するノズルブロック間の間隔Lsを次のように設定するようにしてもよい。すなわち、図7においてノズルブロック1のノズル51−11Aで打滴した後その液滴の一部が記録紙16に浸透して記録紙16の表面上の液滴径が小さくなった場合には、記録紙16を搬送してノズルブロック2のノズル51−21Aから上記液滴に重ねて液滴を吐出することができる。詳しくは後述するが、すでに液滴が記録紙16の中に浸透した領域上に重ねて液滴を吐出しても浸透した液滴は定着しているので、その記録紙16の表面上に後から吐出された液滴が混ざり合い滲むことはないからである。
【0128】
すなわち、最初に打滴された液滴の一部(周囲)が記録紙16に浸透して記録紙16表面に残った液滴の半径と後から打滴された液滴の記録紙16表面での半径との和がドット間ピッチ(主走査方向の最小ノズル間距離Pm)より小であるという条件を満たせば、着弾干渉は発生しない。したがって、上記各ノズルブロック間の副走査方向の間隔Lsを、最初に打滴された液滴の記録紙16表面での半径が打滴後上記条件を満たす大きさとなるまでの時間(着弾干渉を発生させない打滴インターバル)内に記録紙16が搬送される距離となるように設定し、各ノズルブロックをこの距離の分だけ副走査方向に離して配置するようにしてもよい。
【0129】
このように、主走査方向に隣接して重ねて打滴される液滴ドットが干渉しないようにするための打滴インターバルについて以下説明する。
【0130】
主走査方向に隣接した液滴ドットを打滴するノズルとして図7あるいは図8のノズルブロック1のノズル51−11Aとノズルブロック2のノズル51−21Aを例にとって説明する。図12に、先にノズル51−11Aによって打滴されたインク滴100が示されている。インク滴100の記録紙16表面上の液滴直径をD1aとする。
【0131】
所定の時間Tが経過すると、記録紙16表面の溶媒がなくなり、インク滴100は記録紙16に完全に浸透される。ここで、所定の大きさ(本実施形態では、着弾時のインク滴直径と同じ直径)を有するドットが形成される。この時間Tを完全浸透時間とする。
【0132】
図13は、図12中XIII-XIII 線に沿う断面図であり、記録紙16にインク滴100が着弾した直後の状態を示している。図14には、インク滴100が記録紙16に着弾した
後、完全浸透時間T未満の所定の時間が経過して記録紙16表面のインク滴100の直径がD1bになった状態を示している。
【0133】
なお、図14中破線で示した円は、インク滴100によって形成されるドット102を示し、その大きさはインク滴100が記録紙16に着弾したときのインク滴の大きさとほぼ同一である。すなわち、インク滴100により直径D1aのドット102が形成される。
【0134】
また、図14には、続いてノズルブロック2のノズル51−21Aにより、直径D2aのインク滴110を打滴した状態を示している。先にインク滴100を打滴したノズル51−11Aとこのノズル51−21Aとの主走査方向の距離は、本ノズル配列における主走査方向最小ノズル間距離Pmであり、インク液滴110とドット102との中心間の間隔(ドットピッチ間隔)Ptは、この主走査方向最小ノズル間距離Pmとなる。
【0135】
先にノズル51−11Aによって打滴されたインク滴100が記録紙16に着弾してからの時間δTが経過した後の直径D1bと、記録紙16に着弾したときのインク滴110の直径D2a、インク滴100とインク滴110との間隔(インク滴100及びインク滴110より形成されるドットのピッチに相当)Ptの関係が次式(1)
Pt>(D1b/2)+(D2a/2) ・・・(1)
を満たす場合には、各インク液滴100、110の半径(それぞれ(D1b/2)及び(D2a/2)である。)の和がドット間ピッチPtより小となり、記録紙16の表面においてこれらインク滴100とインク滴110とは混合しないので、インク滴100及びインク滴110から形成されるドット102及びドット112(図14ではインク滴110と同じ大きさで同じ位置に形成)の形状が崩れない。したがって、所望のドット形状を得ることができる。
【0136】
なお、上記式(1)は、次の式(2)のように表現することもできる。
【0137】
D1b < 2×Pt − D2a ・・・(2)
すなわち、ノズル51−11から記録紙16上へ吐出されたインク滴100の直径D1aが、この式(2)を満たす直径D1bになるまでの時間を、着弾干渉が発生しないための打滴インターバルとすればよい。
【0138】
ここで、ドット102とドット112とが重なる条件は、式(1)とは逆に、Pt<(D1b/2)+(D2a/2)となる。すなわち、ドット102とドット112とが重なる条件は、ドット102の半径とドット112の半径との合計がドット間ピッチPtより大きい場合である。
【0139】
図14に示したドット102は、インク滴100が記録紙16に浸透していない領域(インク滴100として示されている領域)と、インク滴100の記録紙16への浸透が終了し、記録紙16の受像層内部にインク色素(溶質)が保持されている領域(破線で示されたドット102の領域からインク滴100として示した領域を除いた領域)と、が存在し、上述した2つの領域のうち、インク滴100の記録紙16への浸透が終了した領域には、他のインク滴110を着弾させることができる。
【0140】
図15は、図14中XV-XV 線に沿う、インク滴100及びインク滴110の断面を示す断面図である。インク滴110が記録紙16に浸透する際に、ドット102とインク滴110が重なる部分では、記録紙16の受像層内においてインク滴100とインク滴110との混合が発生しても、インク滴100は既に受像層内に浸透しておりインク色素(溶質)が受像層内で保持されているので、受像層内部でのドット102の形状はほとんど変化することがない。
【0141】
インク滴110が記録紙16に着弾してから前述した完全浸透時間Tが経過すると、インク滴110の記録紙16への浸透が終了し、図16に示すように、直径D1aのドット102と直径D2aのドット112が形成される。
【0142】
図17は、図16中XVII-XVII 線に沿うドット102及びドット112の断面を示す断面図である。
【0143】
このように、2つのドットが重なる場合に、先に打滴されたインク滴の浸透が終了する完全浸透時間Tを待たずに(D1b>0の状態において)、次のインクを打滴することができる。
【0144】
すなわち、先に着弾したインク滴100と次に着弾するインク滴110との間隔Pt、インク滴110の着弾時の直径D2a、からインク滴110着弾時に上記式(2)を満足するインク滴100の直径D1bを求め、求められたインク滴100の直径D1bと、インク滴100の着弾時の直径D1aと、から浸透時間δTが求められる。このように求められた浸透時間δTを打滴インターバルとしてノズル51−11Aから吐出されるインク滴100と、ノズル51−21Aから吐出されるインク滴110との打滴タイミングが制御される。
【0145】
また、このようにして求められた時間δTと記録紙16の搬送速度Vとの積、δT×Vを副走査方向の前記所定の間隔として、この距離の分だけノズル51−11Aとノズル51−21Aの副走査方向の距離を離すようにしてノズルブロック1とノズルブロック2を配置するようにすればよい。
【0146】
図18は、このような打滴制御を行うシステム(打滴制御部)を示すブロック図である。なお、この打滴制御部は図6に示したシステム(プリント制御部80)に含まれている。
【0147】
図6に示したホストコンピュータ86から画像データ202を取得すると、ドットデータ生成部210において、RGBデータからCMYデータへの変換、濃淡インクの振り分け、CMYKドットデータの生成が行われる。
【0148】
次に、不等式演算部212において、2つのドット(例えば、図16に示したインク滴100及びインク滴110)のピッチPt、後に打滴されるインク滴(図16のインク滴110)の直径D2aから、先に打滴されたインク滴(図16のインク滴100)の直径D1bが求められる。一方、ドット径演算・記憶部214に記憶されている使用するインク滴サイズの時間変化に関する情報が参照され、タイミング演算部216において、先に打滴されるドットを形成するインク滴における着弾時の液滴直径D1aから前述したD1bになるまでの浸透時間δT(打滴インターバル)が求められる。更に、該浸透時間δTから副走査方向のタイミング制御パラメータ(記録紙搬送速度等)、主走査方向のタイミング制御パラメータ等が決定される。
【0149】
このようにして求められた浸透時間δT、副走査方向のタイミング制御パラメータ、主走査方向のタイミング制御パラメータに基づいて、ノズル駆動信号生成部218において、各ノズル51−11A、51−21Aの駆動信号220が生成される。
【0150】
ここで、インク滴が記録紙16に浸透する速さは、主としてインクの種類、記録紙16の種類、環境温度、湿度等に依存する。ドット径演算・記憶部214ではこれらの情報をデータテーブル化して記憶すると共に、演算により算出された浸透時間δTを求める際の
パラメータをタイミング演算部216に提供している。
【0151】
なお、前記直径D1a及び前記直径D2a及びドット間隔Ptより前記直径D1bが予め計算されて登録されているデータベースから前記直径D1bのデータを参照して浸透時間δTを求めてもよい。このデータベースはインクジェット記録装置10内部に備えられてもよいし、外部に備えられていてもよい。
【0152】
上述したように、このようにして求められた浸透時間δTの間に記録紙16が搬送される距離(記録紙16の搬送速度Vにより、V×δTで計算される)の分だけノズルブロックを副走査方向にずらして図7あるいは図10のようにノズルを配置することにより、記録媒体上で互いに重なり合う、異なるノズルから吐出されるインク液滴の着弾時間間隔を長くして着弾した液滴の滲みを防止することができる。
【0153】
以上、記録媒体上に打滴されたドットの記録媒体表面上の液滴が浸透によって定着する系を記載したが、記録媒体上に打滴されたドットの記録媒体表面上の液滴が乾燥または硬化によって記録媒体表面上で固化することによって定着する系でも、浸透の場合と同様に打滴インターバルを制御することが可能である。
【0154】
また、主走査方向に隣接あるいは近傍に存在するノズル間の副走査方向距離をこのように液滴ドットが記録媒体に定着するだけの時間を稼げる距離だけ離して各ノズルを配置するようにしたことにより、確実に着弾干渉を防止して、高画質な画像記録を実現することができる。
【0155】
なお、言うまでもなく各部材には、アルカリ性のインクに対して耐液性のある材料を用いる。インク供給タンク(不図示)、や印字ヘッド50などに最適な樹脂材料としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂などがあげられる。また、圧力
室52などの接液部には、接液面をテフロン(登録商標)加工することや、金属材料としてSUS304、SUS316、SUS316Lを用いることが好ましい。インク供給系のゴムチューブに最適なゴム材料としては、ビニルメチルシリコーンゴム、フッ素化シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴムなどが挙げられる。
【0156】
以上、本発明の液滴吐出ヘッド及び画像形成装置について詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
【0157】
次に、顔料インクについて説明する。
【0158】
〔有機顔料微粒子及びそれを含有する分散液の製造〕
本発明に用いられる有機顔料を製造する装置は、層流を形成しうる流路を有するものであり、好ましくは等価直径10mm以下の流路(チャンネル)を有する装置であり、より好ましくは等価直径1mm以下の流路を有する装置である。まず、等価直径について以下に説明する。
【0159】
等価直径(equivalent diameter)は相当(直)径、とも呼ばれ、機械工学の分野で用いられる用語である。任意断面形状の配管(本発明では流路)に対し等価な円管を想定するとき、その等価円管の直径を等価直径という。等価直径(deq)は、A:配管の断面積、p:配管のぬれぶち長さ(周長)を用いて、deq=4A/pと定義される。円管に適用した場合、この等価直径は円管直径に一致する。等価直径は等価円管のデータを基に、その配管の流動あるいは熱伝達特性を推定するのに用いられ、現象の空間的スケール(代表的長さ)を表す。等価直径は、一辺aの正四角形管ではdeq=4a2/4a=a、一辺aの正三角形管では、
【0160】
【数1】
【0161】
流路高さhの平行平板間の流れではdeq=2hとなる(例えば、(社)日本機械学
会編「機械工学事典」1997年、丸善(株)参照)。
【0162】
管の中に水を流し、その中心軸状に細い管を挿入し着色した液を注入すると、水の流速が遅い間は、着色液は一本の線となって流れ、水は管壁に平行にまっすぐに流れる。しかし、流速を上げ、ある一定の流速に達すると急に水流の中に乱れが生じ、着色液は水流と混じって全体が着色した流れになる。前者の流れを層流(laminar flow)、後者を乱流(turbulent flow)という。
【0163】
流れが層流になるか乱流になるかは流れの様子を示す無次元数であるレイノルズ数(Reynolds number)が、ある臨界値以下であるかによって決まる。レイノルズ数が小さいほど層流を形成しやすい。管内の流れのレイノルズ数Reは次式で表される。
【0164】
Re=D<υx>ρ/μ
Dは管の等価直径、<υx>は断面平均速度、ρは流体の密度、μは流体の粘度を表す。
この式からわかるように等価直径が小さいほどレイノルズ数は小さくなるので、μmサイズの等価直径の場合は安定な層流を形成しやすくなる。また、密度や粘度の液物性もレイノルズ数に影響し、密度が小さく、粘度が大きいほどレイノルズ数は小さくなるので層流を形成しやすいことがわかる。
【0165】
臨界値を示すレイノルズ数を臨界レイノルズ数(critical Reynolds number)と呼ぶ臨界レイノルズ数は必ずしも一定とはいえないが、凡そ次の値が基準となる。
【0166】
Re<2300 層流
Re>3000 乱流
3000≧Re≧2300 過渡状態
流路の等価直径が小さくなるにつれ、単位体積あたりの表面積(比表面積)は大きくなるが、流路がマイクロスケールになると比表面積は格段に大きくなり、流路の器壁を通じた熱伝達効率は非常に高くなる。流路を流れる流体中の熱伝達時間(t)は、t=deq2/α(α:液の熱拡散率)で表されるので、等価直径が小さくなるほど熱伝達時間は短くなる。すなわち、等価直径が1/10になれば熱伝達時間は1/100になることになり、等価直径がマイクロスケールである場合、熱伝達速度は極めて速い。
【0167】
すなわち、等価直径がマイクロスケールであるマイクロサイズ空間ではレイノルズ数が小さいので安定な層流支配のもとでフロー反応を行うことができる。そして層流間の界面表面積が非常に大きいので、層流を保ったまま、界面間の分子拡散により高速で精密な成分分子の混合が可能となる。また、大きな表面積を有する流路壁の利用により精密温度制御、フロー反応の流速コントロールによる反応時間の精密制御なども可能となる。従って、本発明の層流を形成する流路のうち、高度に反応制御可能な場である等価直径を有するマイクロスケールの流路を、マイクロ反応場と定義する。
【0168】
前記レイノルズ数の説明で示したように、層流の形成は等価直径の大きさだけでなく粘度および密度という液物性を含めた流動条件にも大きく影響される。よって、本発明では流路を層流にできれば、流路の等価直径は限定されないが、容易に層流が形成できるサイズが好ましい。好ましくは10mm以下であり、より好ましくはマイクロ反応場を形成する1mm以下である。更に好ましくは10μm〜1mmであり、特に好ましくは20〜300μmである。
【0169】
本発明の特に好ましいマイクロスケールのサイズの流路(チャンネル)を有する反応装置の代表的なものは一般に「マイクロリアクター」と総称され、最近大きな発展を遂げている(例えば、W. Ehrfeld, V. Hessel, H. Loewe, " Microreactor ", 1Ed(2000) WILEY−VCH 参照)。
【0170】
前記一般のマイクロリアクターには、その断面を円形に換算した場合の等価直径が数μm〜数百μm程度の複数本のマイクロ流路、及びこれらのマイクロ流路と繋がる混合空間が設けられており、このようなマイクロリアクターでは、複数本のマイクロ流路を通して複数の溶液をそれぞれ混合空間へ導入することで、複数の溶液を混合し、又は混合と共に化学反応を生じさせる。
【0171】
次に、マイクロリアクターによる反応がタンク等を用いたバッチ方式と異なる主な点を説明する。液相の化学反応、二相系の液相の化学反応は、一般に反応液の界面において分子同士が出会うことによって反応が起こるので、微小空間(マイクロ流路)内で反応を行うと相対的に界面の面積が大きくなり、反応効率は著しく増大する。また分子の拡散そのものも拡散時間は距離の二乗に比例する。このことは、スケールを小さくするに従って、反応液を能動的に混合しなくても、分子の拡散によって混合が進み、反応が起こり易くなることを意味している。また、微小空間においては、レイノルズ数(流れを特徴づける無次元の数)が小さいために層流支配の流れとなり、溶液同士が層流状態となっている界面でそれぞれの溶液内に存在する分子の交換が起こり、移動した分子により析出や反応が引き起こされる。
【0172】
このような特徴を有するマイクロリアクターを用いれば、反応の場として大容積のタンク等を用いた従来のバッチ方式と比較し、溶液同士の反応時間及び温度の精密な制御が可能になる。またバッチ方式の場合には、特に、反応速度が速い溶液間では混合初期の反応接触面で反応が進行し、さらに溶液間の反応により生成された一次生成物が容器内で引き続き反応を受けてしまう場合があるから、生成物が不均一になったり、混合容器内で生成物の結晶が必要以上に成長して粗大化してしまうおそれがある。これに対して、本発明に用いられるマイクロリアクターによれば、溶液が混合容器内に殆ど滞留することなく連続的に流通するので、溶液間の反応により生成された一次生成物が混合容器内に滞留する間に引き続き反応を受けてしまうことを抑止でき、従来では取り出すことが困難であった純粋な一次生成物を取り出すことも可能になり、また混合容器内での結晶の凝集や粗大化も生じ難くなる。
【0173】
また、実験的な製造設備により製造された少量の化学物質を大規模の製造設備により多量に製造(スケールアップ)する際には、従来、実験的な製造設備に対し、バッチ方式による大規模の製造設備での再現性を得るために多大の労力及び時間を要していたが、必要となる製造量に応じてマイクロリアクーを用いた製造ラインを並列化(ナンバリングアップ)することにより、このような再現性を得るための労力及び時間を大幅に減少できる可能性がある。
【0174】
本発明に用いられる層流の流路の作製方法を以下に説明する。流路が1mm以上のサイズの場合は従来の機械加工技術を用いることで比較的容易に作成可能であるが、サイズが1mm以下のマイクロサイズ、特に500μm以下になると格段に作製が難しくなる。マイクロサイズの流路(マイクロ流路)は固体基板上に微細加工技術を用いて作成される場
合が多い。基板材料としては腐食しにくい安定な材料であれば何でも良い。例えば、金属(例えば、ステンレス、ハステロイ(Ni−Fe系合金)、ニッケル、アルミニウム、銀、金、白金、タンタルまたはチタン)、ガラス、プラスチック、シリコーン、テフロン(登録商標)またはセラミックスなどである。
【0175】
マイクロ流路を作製するための微細加工技術として代表的なものを挙げれば、X線リソグラフィを用いるLIGA(Roentgen−Lithographie Galvanik Abformung)技術、EPON SU−8(商品名)を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法(μ−EDM(Micro Electro Discharge Machining))、Deep RIE(Reactive Ion Etching)によるシリコンの高アスペクト比加工法、Hot Emboss加工法、光造形法、レーザー加工法、イオンビーム加工法、およびダイアモンドのような硬い材料で作られたマイクロ工具を用いる機械的マイクロ切削加工法などがある。これらの技術を単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。好ましい微細加工技術は、X線リソグラフィを用いるLIGA技術、EPON SU−8を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法(μ−EDM)、および機械的マイクロ切削加工法である。また、近年では、エンジニアリングプラスチックへの微細射出成型技術の適用が検討されている。
【0176】
マイクロ流路を作成する際、よく接合技術が用いられる。通常の接合技術は大きく固相接合と液相接合に分けられ、一般的に用いられている接合方法は、固相接合として圧接や拡散接合、液相接合として溶接、共晶接合、はんだ付け、接着等が代表的な接合方法である。さらに、組立に際しては高温加熱による材料の変質や大変形による流路等の微小構造体の破壊を伴わない寸法精度を保った高度に精密な接合方法が望ましいが、そのような技術としてはシリコン直接接合、陽極接合、表面活性化接合、水素結合を用いた直接接合、HF水溶液を用いた接合、Au−Si共晶接合、ボイドフリー接着などがある。
【0177】
本発明のマイクロ流路は、固体基板上に微細加工技術を用いて作成されたものに限らず、例えば、入手可能な数μm〜数百μmの内径を有する各種ヒューズドシリカキャピラリーチューブでも良い。高速液体クロマトグラフ用、ガスクロマトグラフ用部品として市販されている数μm〜数百μmの内径を有する各種シリコンチューブ、フッ素樹脂製管、ステンレス管、PEEK管(ポリエーテルエーテルケトン管)も同様に利用可能である。
【0178】
これまでにマイクロリアクターに関しては、反応の効率向上などを目指したデバイスに関する報告がなされている。例えば、特開2003−210960、特開2003−210963、特開2003−210959はマイクロミキサーに関するものであり、本発明はこれらのマイクロデバイスを利用することもできる。
【0179】
本発明で用いるマイクロ流路は目的に応じて表面処理してもよい。特に水溶液を操作する場合、ガラスやシリコンへの試料の吸着が問題になることがあるので表面処理は重要である。複雑な製作プロセスを要する可動部品を組み込むことなく、マイクロサイズの流路内における流体制御を実現することが望ましい。例えば、流路内に表面処理により親水性と疎水性の領域を作製し、その境界に働く表面張力差を利用して流体を操作することが可能である。ガラスやシリコンの表面処理する方法として多用されるのはシランカップリング剤を用いた疎水または親水表面処理である。
【0180】
流路中へ試薬やサンプルなどを導入して混合するためには、流体制御機能が必要である。特に、マイクロ流路内における流体の挙動は、マクロスケールとは異なる性質を持つため、マイクロスケールに適した制御方式を考えなければならない。流体制御方式は形態分類すると連続流動方式と液滴(液体プラグ)方式があり、駆動力分類すると電気的駆動方式と圧力駆動方式がある。
【0181】
これらの方式を以下に詳しく説明する。流体を扱う形態として、最も広く用いられるのが連続流動方式である。連続流動式の流体制御では、マイクロ流路内は全て流体で満たされ、外部に用意したシリンジポンプなどの圧力源によって、流体全体を駆動するのが一般的である。この方法は、デッドボリュームが大きいことなどが難点であるが比較的簡単なセットアップで制御システムを実現できることが大きな利点である。
【0182】
連続流動方式とは異なる方式として、液滴(液体プラグ)方式がある。この方式では、リアクター内部やリアクターに至る流路内で、空気で仕切られた液滴を動かすものであり、個々の液滴は空気圧によって駆動される。その際、液滴と流路壁あるいは液滴同士の間の空気を必要に応じて外部に逃がすようなベント構造、および分岐した流路内の圧力を他の部分と独立に保つためのバルブ構造などを、リアクターシステム内部に用意する必要がある。また、圧力差を制御して液滴の操作を行うために、外部に圧力源や切り替えバルブからなる圧力制御システムを構築する必要がある。このように液滴方式では、装置構成やリアクターの構造がやや複雑になるが、複数の液滴を個別に操作して、いくつかの反応を順次行うなどの多段階の操作が可能で、システム構成の自由度は大きくなる。
【0183】
流体制御を行うための駆動方式として、流路(チャンネル)両端に高電圧をかけて電気浸透流を発生させ、これによって流体移動させる電気的駆動方法と、外部に圧力源を用いて流体に圧力をかけて移動させる圧力駆動方法が一般に広く用いられている。両者の違いは、たとえば流体の挙動として、流路断面内で流速プロファイルが電気的駆動方式の場合にはフラットな分布となるのに対して、圧力駆動方式では双曲線状に、流路中心部が速くて、壁面部が遅い分布となることが知られており、サンプルプラグなどの形状を保ったまま移動させるといった目的には、電気的駆動方式の方が適している。電気的駆動方式を行う場合には、流路内が流体で満たされている必要があるため、連続流動方式の形態をとらざるを得ないが、電気的な制御によって流体の操作を行うことができるため、例えば連続的に2種類の溶液の混合比率を変化させることによって、時間的な濃度勾配をつくるといった比較的複雑な処理も実現されている。圧力駆動方式の場合には、流体の電気的な性質にかかわらず制御可能であること、発熱や電気分解などの副次的な効果を考慮しなくてよいことなどから、基質に対する影響がほとんどなく、その適用範囲は広い。その反面、外部に圧力源を用意しなければならないこと、圧力系のデッドボリュームの大小に応じて、操作の応答特性が変化することなど、複雑な処理を自動化する必要がある。
【0184】
本発明における流体制御方法として用いられる方法はその目的によって適宜選ばれるが、好ましくは連続流動方式の圧力駆動方式である。
【0185】
本発明の流路内の温度制御は、流路を持つ装置全体を温度制御された容器中に入れることにより制御してもよいし、金属抵抗線やポリシリコンなどのヒーター構造を装置内に作り込み、加熱についてはこれを使用し、冷却については自然冷却でサーマルサイクルを行ってもよい。温度のセンシングは、金属抵抗線を使用する場合はヒーターと同じ抵抗線をもう一つ作り込んでおき、その抵抗値の変化に基づいて温度検出を行うのが好ましく、ポリシリコンを使用する場合は熱電対を用いて検出を行うのが好ましい。また、ペルチェ素子を流路に接触させることによって外部から加熱、冷却を行ってもよい。どの方法を用いるかは用途や流路本体の材料などに合わせて選択される。
【0186】
本発明において顔料の製造又は顔料分散液の調製は、流路の中を流れながら、すなわち連続フロー法で行われる。そのため反応時間は流路中に滞留する時間で制御される。滞留する時間は等価直径が一定である場合、流路の長さと反応液の導入速度で決まる。流路の長さには特に制限はないが、好ましくは1mm以上10m以下であり、更に好ましくは5
mm以上10m以下で、特に好ましくは10mm以上5m以下である。
【0187】
本発明に用いられる流路の数量は、適宜反応装置にそなえられるものであり、勿論、1つでも構わないが、必要に応じて流路を何本も並列化し(ナンバリングアップ)、その処理量を増大させることが出来る。
【0188】
本発明に用いられる反応装置の代表例を図20(a)〜23に示した。尚、本発明がこれらに限定されないことは言うまでも無い。
【0189】
図20(a)はY字型流路を有する反応装置(1010)の説明図であり、図20(b)はそのI−I線の断面図である。流路の長さ方向に直交する断面の形は使用される微細加工技術により異なるが、台形または矩形に近い形である。流路幅・深さ(特にC,H)がマイクロサイズにて作られている場合、導入口1011及び導入口1012からポンプなどにより注入された溶液は導入流路1013aまたは導入流路1013bを経由して流体合流点1013dにて接触し、安定な層流を形成して反応流路1013cを流れる。そして層流として流れる間に層流間の界面における分子拡散により互いの層流に含まれる溶質の混合または反応が行われる。拡散の極めて遅い溶質は、層流間での拡散混合が起きず、排出口1014に達した後に初めて混合する場合もある。注入される2つの溶液がフラスコ中で容易に混合するような場合には、流路長Fを長く取れば排出口では液の流れは均一な流れになりうるが、流路長Fが短い時には排出口まで層流が保たれる。注入される2つの溶液がフラスコ中で混合せず層分離する場合は、当然ながら2つの溶液は層流として流れて排出口1014に到達する。
【0190】
図21(a)は片側に挿通した流路を設けた円筒管型流路を有する反応装置(1020)の説明図であり、図21(b)は同装置のIIa−IIa線の断面図であり、図21(c)は同装置のIIb−IIb線の断面図である。流路の長さ方向に直交する断面の形は円かそれに近い形である。円筒管の流路直径(D,E)がマイクロサイズの場合、導入口1021及び導入口1022からポンプなどにより注入された溶液は導入流路1023aと導入流路1023bを通じて流体合流点1023dにて接触し、安定な円筒層流を形成して反応流路1023cを流れる。そして円筒層流として流れる間に層流間の界面における分子拡散により互いの層流に含まれる溶質の混合または反応が行われるのは上記図20(a)の装置と同じである。円筒管型流路をもつ本装置は、上記図20(a)の装置に比べて2液の接触界面を大きく取れること、更に接触界面が装置壁面に接触する部分がないため、固体(結晶)が反応により生成する場合など壁面との接触部分からの結晶成長などがなく、流路を閉塞する可能性が低いのが特徴である。
【0191】
図22(a)および図23は、2液の流れが層流のまま出口まで到達する場合、それらを分離できるように図20(a)および図21(a)の装置に改良を加えたものであり、図20(b)は図20(a)におけるIII−III線の断面図である。これらの装置を用いると反応と分離が同時にできる。また、最終的に2液が混合してしまって反応が進みすぎたり、結晶が粗大化したりすることを避けることができる。一方の液中に選択的に生成物や結晶が存在する場合には、生成物や結晶を2液が混合してしまう場合に比べて高濃度の状態で得ることができる。また、これらの装置を幾つか連結することにより、抽出操作が効率的に行われるなどのメリットがある。
【0192】
(1)マイクロリアクターによる有機顔料微粒子分散液の製造
本発明において、アルカリ性または酸性の水性媒体に均一に溶解した有機顔料の溶液を、前記流路中を層流として流通させ、その過程で溶液の水素イオン指数(pH)を変化させて有機顔料微粒子およびそれを含有する分散液を製造するが、それについて以下詳しく説明する。
【0193】
本発明に用いられる有機顔料は、色相的に限定されるものではなく、マゼンタ顔料、イエロー顔料、またはシアン顔料であることができる。詳しくは、ペリレン、ペリノン、キナクリドン、キナクリドンキノン、アントラキノン、アントアントロン、ベンズイミダゾロン、ジスアゾ縮合、ジスアゾ、アゾ、インダントロン、フタロシアニン、トリアリールカルボニウム、ジオキサジン、アミノアントラキノン、ジケトピロロピロール、チオインジゴ、イソインドリン、イソインドリノン、ピラントロンまたはイソビオラントロン系顔料またはそれらの混合物などのマゼンタ顔料、イエロー顔料、またはシアン顔料である。
【0194】
好ましい顔料は、キナクリドン、ジケトピロロピロール、ジスアゾ縮合、またはフタロシアニン系顔料であり、特に好ましくはキナクリドン、ジスアゾ縮合、またはフタロシアニン系顔料である。
【0195】
本発明において、2種類以上の有機顔料または有機顔料の固溶体または有機顔料と無機顔料の組み合わせも使用することができる。
【0196】
有機顔料は、アルカリ性または酸性の水性媒体に均一に溶解されなければならないが、酸性で溶解するかアルカリ性で溶解するかは対象とする顔料がどちらの条件で均一に溶解し易いかで選択される。一般に分子内にアルカリ性で解離可能な基を有する顔料の場合はアルカリ性が、アルカリ性で解離する基が存在せず、プロトンが付加しやすい窒素原子を分子内に多く有するときは酸性が用いられる。例えば、キナクリドン、ジケトピロロピロール、ジスアゾ縮合系顔料はアルカリ性で、フタロシアニン系顔料は酸性で溶解される。
【0197】
アルカリ性で溶解させる場合に用いられる塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、もしくは水酸化バリウムなどの無機塩基、またはトリアルキルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、金属アルコキシドなどの有機塩基であるが、好ましくは無機塩基である。
【0198】
使用される塩基の量は、顔料を均一に溶解可能な量であり、特に限定されないが、無機塩基の場合、好ましくは顔料に対して1.0〜30モル当量であり、より好ましくは2.0〜25モル当量であり、さらに好ましくは3〜20モル当量である。有機塩基の場合は好ましくは顔料に対して1.0〜100モル当量であり、より好ましくは5.0〜100モル当量であり、さらに好ましくは20〜100モル当量である。
【0199】
酸性で溶解させる場合に用いられる酸は、硫酸、塩酸、もしくは燐酸などの無機酸、または酢酸、トリフルオロ酢酸、シュウ酸、メタンスルホン酸、もしくはトリフルオロメタンスルホン酸などの有機酸であるが好ましくは無機酸である。特に好ましくは硫酸である。
【0200】
使用される酸の量は、顔料を均一に溶解可能な量であり、特に限定されないが、塩基に比べて過剰量用いられる場合が多い。無機酸および有機酸の場合を問わず、好ましくは顔料に対して3〜500モル当量であり、より好ましくは10〜500モル当量であり、さらに好ましくは30〜200モル当量である。
【0201】
次に水性媒体について説明する。本発明における水性媒体とは水単独または水に可溶な有機溶媒の混合溶媒である。有機溶媒の添加は、顔料や分散剤を均一に溶解するために水のみでは不十分な場合、および流路中を流通するのに必要な粘性を得るのに水のみで不十分な場合、層流の形成に必要な場合に行われるものであり、必ずしも必要ではないが、多くの場合は水溶性有機溶媒が添加される。添加される有機溶媒は例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、グリセリン、もしくはトリメチロールプロパン等に代表される多価アルコール系溶媒、エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、もしくはトリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテル等の多価アルコールの低級モノアルキルエーテル系溶媒、エチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、もしくはトリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)等のポリエーテル系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、尿素、もしくはテトラメチル尿素等のアミド系溶媒、スルホラン、ジメチルスルホキシド、もしくは3−スルホレン等の含イオウ系溶媒、ジアセトンアルコール、ジエタノールアミン等の多官能系溶媒、酢酸、マレイン酸、ドコサヘキサエン酸、トリクロロ酢酸、もしくはトリフルオロ酢酸等のカルボン酸系溶媒、メタンスルホン酸、もしくはトリフルオロスルホン酸等のスルホン酸系溶媒が挙げられる。これらの溶媒を2種以上混合して用いてもよい。
【0202】
好ましい有機溶媒は、アルカリ性の場合はアミド系溶媒または含イオウ系溶媒であり、酸性の場合はカルボン酸系溶媒、イオウ系溶媒またはスルホン酸系溶媒であるが、更に好ましくはアルカリ性の場合は含イオウ系溶媒であり、酸性の場合はスルホン酸系溶媒である。特に好ましくは、アルカリ性の場合はジメチルスルホキシド(DMSO)、酸性の場合はメタンスルホン酸である。
【0203】
水と有機溶媒の混合比は均一溶解できれば良い比率であり、特に限定は無い。好ましくはアルカリ性の場合には水/有機溶媒=0.05〜10(質量比)である。酸性の場合で
無機酸を用いる場合は、有機溶媒を使わず、例えば硫酸単独で用いるのが好ましい。有機酸を用いるときは有機酸自身が有機溶媒であり、粘性と溶解性を調整するために複数の酸を混合したり、水を添加する。好ましくは水/有機溶剤(有機酸)=0.005〜0.1(質量比)である。
【0204】
本発明では、均一に溶解した溶液を流路に投入することが好ましい。懸濁液を投入すると粒子サイズが大きくなったり、粒子分布が広い顔料微粒子になる。場合によっては容易に流路を閉塞してしまう。「均一に溶解」の意味は可視光線下で観測した場合にほとんど濁りが観測されない溶液であり、本発明では1μm以下のミクロフィルターを通して得られる溶液、または1μmのフィルターを通した場合に濾過される物を含まない溶液を均一に溶解した溶液と定義する。
【0205】
次に水素イオン指数(pH)について説明する。水素イオン指数(pH)は、水素イオン濃度(モル濃度)の逆数の常用対数であり、水素指数と呼ばれることもある。水素イオン濃度とは、溶液中の水素イオンH+の濃度であり、1Lの溶液中に存在する水素イオンのモル数を意味する。水素イオン濃度は非常に広い範囲で変化するので通常は水素イオン指数(pH)を用いて表す。例えば、純粋な水は1気圧、25℃では10-7モルの水素イオンを含むから、そのpHは7で中性である。pH<7の水溶液は酸性、pH>7の水溶液はアルカリ性である。pHの値を測定する方法としては、電位差測定法および比色測定法がある。
【0206】
本発明では、流路中を流通する過程で水素イオン指数(pH)を変化させ、顔料微粒子を製造するが、その方法は有機顔料の均一溶液の導入口とは異なる導入口を有する流路、例えば図20(a)、又は図21(a)に示されるような少なくとも2つの導入口を有する流路を用いて行われる。詳しくは、図20(a)の導入口1011、または図19(a)の導入口1021に有機顔料の均一溶液を導入し、図20(a)の導入口1012、または図21(a)の導入口1022に中性、酸性またはアルカリ性の水、またはそれらに分散剤を溶解した水溶液を導入し、両液を流路1013c又は1023c中で接触させることにより有機顔料を含む溶液の水素イオン濃度、すなわち水素イオン指数(pH)を中性(pH7)の方向に変化させる。流路の等価直径がマイクロスケールの場合は、レイノルズ数が小さいため安定な層流(図21(a)では円筒層流)を形成し、両液の層間の安定界面を介して水やイオンが拡散移動して徐々に有機顔料を含む溶液の水素イオン指数(pH)が中性方向に変化する。顔料は低いアルカリ性または低い酸性では水性媒体に溶解しにくくなるため、有機顔料を含む溶液の水素イオン指数(pH)が中性方向に変化するに従い、徐々に微粒子として析出する。
【0207】
水素イオン指数(pH)の変化は、アルカリ性水性媒体に溶解した顔料から顔料微粒子を製造する場合は、おおむね変化はpH16.0から5.0の範囲内での変化であり、好ましくはpH16.0から10.0の範囲内での変化である。酸性水性媒体に溶解した顔料から顔料微粒子を製造する場合は、おおむね変化はpH1.5から9.0の範囲内での変化であり、好ましくはpH1.5から4.0の範囲内での変化である。変化の幅は有機顔料溶液の水素イオン指数(pH)の値によるが、有機顔料の析出をうながすのに十分な幅で良い。
【0208】
マイクロスケールの流路中で生成した顔料微粒子は、拡散せず一方の層流に含まれたまま出口へと流れるので、図22(a)または図23に示されるように設計された出口を持つ流路装置を用いると、有機顔料微粒子を含む層流を分離することが出来る。この方法を用いると、濃厚な顔料分散液を得ることができると同時に、均一溶液を調製するために用いた水溶性有機溶媒、アルカリ性や酸性水、および過剰な分散剤を除去できるので有利である。また、最終的に2液が混合してしまうことにより、結晶が粗大化したり、顔料の結晶が変質することを避けることができる。
【0209】
顔料微粒子を製造する場合の流路内における反応温度は、溶媒が凝固、あるいは気化しない範囲内であることが望ましいが、好ましくは、−20〜90℃、より好ましくは0〜50℃である。特に好ましくは5〜15℃である。
【0210】
顔料微粒子を製造する場合の流路内を流れる流体の速度(流速)は、有利には0.1mL〜300L/hr、好ましくは0.2mL〜30L/hr、更に好ましくは0.5mL〜15L/hr、特に好ましくは1.0mL〜6L/hrである。
【0211】
本発明において、流路を流れる基質(有機顔料やその反応成分)の濃度範囲は、通常0.5〜20質量%であり、好ましくは1.0〜10質量%である。
【0212】
本発明の有機顔料微粒子を製造する方法では、有機顔料を含む溶液の中、または/および水素イオン指数(pH)を変化させるための水溶液(水性媒体)の中に分散剤を添加することができる。分散剤は(1)析出した顔料表面に素早く吸着して、微細な顔料粒子を形成し、かつ(2)これらの粒子が再び凝集することを防ぐ作用を有するものである。本発明では、このような分散剤として、アニオン性、カチオン性、両イオン性、ノニオン性もしくは顔料性の、低分子または高分子分散剤を使用することができる。これらの分散剤は、単独あるいは併用して使用することができる。顔料の分散に用いる分散剤に関しては、「顔料分散安定化と表面処理技術・評価」(化学情報協会、2001年12月発行)の29〜46頁に詳しく記載されている。
【0213】
アニオン性分散剤(アニオン性界面活性剤)としては、N−アシル−N−アルキルタウリン塩、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナ
フタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等を挙げることができる。なかでも、N−アシル−N−アルキルタウリン塩が好ましい。N−アシル−N−アルキルタウリン塩としては、特開平3−273067号明細書に記載されているものが好ましい。これらアニオン性分散剤は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0214】
カチオン性分散剤(カチオン性界面活性剤)には、四級アンモニウム塩、アルコキシル化ポリアミン、脂肪族アミンポリグリコールエーテル、脂肪族アミン、脂肪族アミンと脂肪族アルコールから誘導されるジアミンおよびポリアミン、脂肪酸から誘導されるイミダゾリンおよびこれらのカチオン性物質の塩が含まれる。これらカチオン性分散剤は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0215】
両イオン性分散剤は、前記アニオン性分散剤が分子内に有するアニオン基部分とカチオン性分散剤が分子内に有するカチオン基部分を共に分子内に有する分散剤である。
【0216】
ノニオン性分散剤(ノニオン性界面活性剤)としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステルなどを挙げることができる。なかでも、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルが好ましい。これらノニオン性分散剤は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0217】
顔料性分散剤とは、親物質としての有機顔料から誘導され、その親構造を化学修飾することで製造される顔料性分散剤と定義する。例えば、糖含有顔料分散剤、ピペリジル含有顔料分散剤、ナフタレンまたはペリレン誘導顔料分散剤、メチレン基を介して顔料親構造に連結された官能基を有する顔料分散剤、ポリマーで化学修飾された顔料親構造、スルホン酸基を有する顔料分散剤、スルホンアミド基を有する顔料分散剤、エーテル基を有する顔料分散剤、あるいはカルボン酸基、カルボン酸エステル基またはカルボキサミド基を有する顔料分散剤などがある。
【0218】
高分子分散剤としては、具体的には、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリルアミド、ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール−部分ホルマール化物、ポリビニルアルコール−部分ブチラール化物、ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンオキシド/プロピレンオキシドブロック共重合体、ポリアクリル酸塩、ポリビニル硫酸塩、ポリ(4−ビニルピリジン)塩、ポリアミド、ポリアリルアミン塩、縮合ナフタレンスルホン酸塩、スチレン−アクリル酸塩共重合物、スチレン−メタクリル酸塩共重合物、アクリル酸エステル−アクリル酸塩共重合物、アクリル酸エステル−メタクリル酸塩共重合物、メタクリル酸エステル−アクリル酸塩共重合物、メタクリル酸エステル−メタクリル酸塩共重合物、スチレン−イタコン酸塩共重合物、イタコン酸エステル−イタコン酸塩共重合物、ビニルナフタレン−アクリル酸塩共重合物、ビニルナフタレン−メタクリル酸塩共重合物、ビニルナフタレン−イタコン酸塩共重合物、セルロース誘導体、澱粉誘導体などが挙げられる。その他、アルギン酸塩、ゼラチン、アルブミン、カゼイン、アラビアゴム、トンガントゴム、リグニンスルホン酸塩などの天然高分子類も使用できる。なかでも、ポリビニルピロリドンが好ましい。これら高分子は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0219】
好ましい態様として、アニオン性分散剤を水性媒体に含有させ、かつノニオン性分散剤および/または高分子分散剤を、有機顔料を溶解した溶液に含有させる態様を挙げることができる。
【0220】
分散剤の配合量は、顔料の均一分散性および保存安定性をより一層向上させるために、顔料100質量部に対して0.1〜1000質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜500質量部の範囲であり、さらに好ましくは10〜250質量部の範囲である。0.1質量部未満であると有機顔料微粒子の分散安定性の向上が見られない場合がある。
【0221】
このように製造された有機顔料微粒子を含む分散液は、そのまま顔料インクとして使用することもできるが、種々の添加剤を添加することができる。添加剤として、例えば乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等が挙げられる。pH調整剤、浸透剤、乾燥防止剤、防腐剤、防カビ剤等を添加して使用するようにしてもよい。
【0222】
(2)製造された有機顔料微粒子の粒子サイズ等の計測
微粒子の計測法において、数値化して集団の平均の大きさを表現する方法があるが、よく使用されるものとして、分布の最大値を示すモード径、積分分布曲線の中央値に相当するメジアン径、および各種の平均径(長さ平均、面積平均、重量平均など)がある。本発明の方法で製造される有機顔料微粒子の粒径サイズは流路を閉塞しない範囲で任意であるが、モード径で1μm以下が好ましい。好ましくは3nm〜800nmであり、特に好ましくは5nm〜500nmである。
【0223】
微粒子の粒子サイズが揃っていること、すなわち単分散微粒子系は、含まれる粒子の大きさが揃っているだけではなく、粒子内の化学組成や結晶構造にも粒子間の変動がないことを示すので粒子の性能を決める重要な要素である。特に粒子サイズがナノメートルの超微粒子においてはその粒子の特性を支配する因子として重視される。本発明の方法は粒子の大きさをコントロールできるだけでなく、そのサイズを揃える点でも優れた方法である。サイズが揃っていることを表す指標として算術標準偏差値が用いられるが、本発明により製造される顔料微粒子の算術標準偏差値は、好ましくは130nm以下であり、特に好ましくは80nm以下である。算術標準偏差値は、粒度分布を正規分布とみなして標準偏差を求める方法で、積算分布の84%粒子径から、16%粒子径を減じた値を2で除した値である。
【0224】
(3)有機顔料微粒子の一例であるキナクリドン顔料微粒子の製造方法
本発明の有機顔料の製造方法は、前述の顔料に広く適用可能であるが、具体的に無置換または置換キナクリドン顔料の製造方法を例に説明する。本発明においては、前記一般式(I)で表される無置換または置換キナクリドン顔料を層流を形成する流路を有する装置中で製造するが、一般式(I)の置換基について説明する。
【0225】
XおよびYは、フッ素原子、塩素原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基またはCOORa基(ここでRaは、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基である)を表すが、フッ素原子、塩素原子およびカルボキシル基以外の基を詳しく述べれば、メチル、エチル、プロピルもしくはイソプロピルのアルキル基、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシもしくはイソプロポキシのアルコキシ基、またはメトキシカルボニル、エトキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、もしくはオクチルオキシカルボニル等のアルコキシカルボニル基を表す。
【0226】
好ましくは、XおよびYは塩素原子、またはアルキル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0227】
mおよびnは、独立して、0、1または2を表すが、好ましくは1である。
【0228】
合成される好ましいキナクリドン系顔料の具体例としては、無置換キナクリドン、2,9−ジメチルキナクリドン、4,11−ジクロロキナクリドン等の無置換または置換キナクリドン、およびそれらの固溶体を含み、C.I.ナンバーで表すと、ピグメントバイオレット19、ピグメントレッド122、ピグメントレッド207、ピグメントオレンジ48、ピグメントオレンジ49、ピグメントレッド209、ピグメントレッド206、ピグメントバイオレット42等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0229】
無置換または置換キナクリドン顔料の製造は、通常の合成方法に従い、好ましくは等価直径10mm以下の流路を有する前述の装置に適用して行うことができる。
【0230】
本発明において利用できる溶媒は、それぞれ前述の、有機溶媒、分散剤、界面活性剤、または水、およびこれらを組み合わせたものが挙げられる。また、必要に応じて、例えばインク組成物に添加される水溶性有機溶媒、その他の成分をさらに添加してもよい。これら溶媒成分は、例えば、特開2002−194263、特開2003−26972の各公報に記載のあるような顔料分散剤の構成要素を適用することができる。
【0231】
反応流体は互いに混じり合う流体同士でもよく、混じり合わない流体同士でも構わない。混じり合う流体同士とは、同じもしくは比較的性質の近い有機溶媒を用いた溶液同士、あるいはメタノールなどの極性の高い有機溶媒を用いた溶液と水などであり、混じり合わない流体同士とは、ヘキサンなどの低極性の溶媒を用いた溶液とメタノールなどの高極性の溶媒を用いた溶液があげられる。
【0232】
空気または酸素などの気体を酸化剤として用いる場合、それらは反応流体に溶解させるか、あるいは流路内に気体として導入する方法を取ることができる。好ましくは気体として導入する方法が取られる。
【0233】
反応温度は、溶媒が凝固、あるいは気化しない範囲内であることが望ましいが、好ましくは、−20℃〜250℃、より好ましくは20℃〜150℃、更に好ましくは40℃〜120℃、最も好ましくは60℃〜100℃である。
【0234】
流速は有利には0.1mL〜300L/hr、好ましくは0.2mL〜30L/hr、更に好ましくは0.5mL〜15L/hr、特に好ましくは1.0mL〜6L/hrである。
【0235】
本発明においてマイクロリアクターに適用できるキナクリドン顔料の合成方法は種々あり、任意の方法を適用できるが、本発明のキナクリドン顔料の製造方法として、好ましい反応として二つの反応スキームを以下に示す。キナクリドン顔料は、好ましくは等価直径10mm以下、より好ましくは1mm以下の流路を有する装置中で製造することができる。
【0236】
6,13−ジヒドロキナクリドンの酸化反応により合成する方法(スキーム1)としては、空気、または酸素によるもの(参考反応例として特開平11−209641号、特開2001−115052の各公報に記載の方法)、過酸化水素を用いるもの(参考反応例として特開2000−226530公報に記載の方法)が環境負荷の点から好ましい。
【0237】
【化2】
【0238】
式中、X、Y、mおよびnは前記と同義の基を表す。
【0239】
ジアリールアミノテレフタル酸またはそのエステルの閉環反応(スキーム2)においては適切な縮合剤を用いて実施される(参考反応例として特開2001−335577、特開2000−103980の各公報に記載の方法)。
【0240】
【化3】
【0241】
式中、 X、Y、mおよびnは前記と同義の基を表す。置換基Rbは、水素原子または炭素数1〜10の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、もしくはアリール基である。例えば、アルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル等を挙げることができる。アルケニル基としては、ビニル、アリルを、アルケニル基としてはエチニル基を、アリール基としてはフェニル基が挙げられる。これら置換基はさらに置換基を有していてもよい。好ましくはアリール基であり、特に好ましくはフェニル基である。
【0242】
キナクリドン顔料において利用できる溶媒は、有機溶媒、分散剤、界面活性剤、または水、およびこれらを組み合わせたものが挙げられる。具体的には、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジグライムなどのエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、メチルエチルケトン、2−メチル−4−ペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類、エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのアルコール類、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルイミダゾリドンなどのアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホランなどの含硫黄系溶媒などが挙げられる。原料及び生成物の溶解性の観点から、アミド系溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホランなどが好ましい。また、必要に応じて、例えばインク組成物に添加される水溶性有機溶媒、その他の成分をさらに添加してもよい。これら溶媒成分は、例えば、特開2002−194263、同2003−26972の各公報に記載のあるような顔料分散剤の構成要素を適用することができる。また、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の添加剤をさらに加え、所望のインクを得ることができる。
【0243】
反応流体は互いに混じり合う流体同士でもよく、混じり合わない流体同士でも構わない。混じり合う流体同士とは、同じもしくは比較的性質の近い有機溶媒を用いた溶液同士、あるいはメタノールなどの極性の高い有機溶媒を用いた溶液と水などであり、混じり合わない流体同士とは、ヘキサンなどの低極性の溶媒を用いた溶液とメタノールなどの高極性の溶媒を用いた溶液があげられる。
【0244】
反応により得られたキナクリドン顔料微粒子を分散液から取り出したい場合には、濾過または遠心分離により反応液から分離され、例えばN,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒でよく洗浄して高純度で得られる。従って、取り出したキナクリドン顔料微粒子を好みのインクに調製してもよい。
【0245】
尚、ジスアゾ縮合顔料についても同様に製造できるが、ここでは省略する。
【実施例】
【0246】
以下に実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0247】
実施例に示すpHは、東亜電波工業(株)のガラス電極式水素イオン濃度計HM−40V(測定範囲pH0〜14)で測定した。粒径分布は日機装(株)のマイクロトラックUPA150で測定した。TEM測定には、日本電子(株)の透過型電子顕微鏡JEM−20
00FXを用いた。
【0248】
(実施例1)
2,9−ジメチルキナクリドン1.5gをジメチルスルホキシド13.5g、5mol/L水酸化ナトリウム水溶液 2.68mL、分散剤ポリビニルピロリドン(和光純薬(株)製、K30) 0.75gに室温で溶解した(IA液)。IA液のpHは測定限界(pH14)を超えており、測定不能であった。分散剤N−オレオイル−N−メチルタウリンナトリウム塩0.75gと蒸留水90mLを混合した(IIA液)。IIA液のpHは7.70であった。これらを0.45μmのミクロフィルター(富士写真フイルム(株)製)を通すことでごみ等の不純物を除いた。次に、図20(a)の反応装置を用いて下記の手順で反応を行った。等価直径500μmを有するテフロン(登録商標)製Y字コネクターの二つの入り口に長さ50cm、等価直径1mmのテフロン(登録商標)チューブ2本をコネクタを用いて接続し、その先にそれぞれIA液とIIA液を入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。コネクタの出口には長さ1m、等価直径500μmを有するテフロン(登録商標)チューブを接続した。IA液を1mL/h、IIA液を6mL/hの送液速度にて送り出すと流路内は層流(レイノルズ数;約5.0)となり、2,9−ジメチルキナクリドンの分散液が得られたのでこれをチューブの先端より捕集し、本発明の試料1とした。試料1のpHは13.06であった。また、モード径120nmで算術標準偏差58nmであった。
【0249】
(比較例1)
次にビーカー中のIIA液6mL中に、撹拌子を用いて撹拌しながら室温でIA液を添加すると2,9−ジメチルキナクリドンの分散液が得られた。これを比較試料1とした。試料1と比較試料1で得られた分散液の粒径と粒径分布を動的光散乱粒径測定装置を用いて比較したところ、試料1の分散液の粒径は比較試料1のモード径144nm、算術標準偏差77nmより小さく分布幅が小さいことがわかった。
【0250】
(実施例2)
2,9−ジメチルキナクリドン0.15gをジメチルスルホキシド13.35mL、0.8mol/L水酸化カリウム水溶液1.65mL、ポリビニルピロリドン(和光純薬(株)製、K30)0.75gに室温で溶解した(IB液)。IB液のpHは測定限界を超えており、測定不能であった。このIB液と実施例1で調製したIIA液を0.45μmのミクロフィルター(富士写真フイルム(株)製)を通すことでごみ等の不純物を除き、それぞれ透明な溶液を得た。次に、以下に説明する反応装置を用いて下記の手順で反応を行った。等価直径500μmを有するテフロン(登録商標)製Y字コネクターの二つの入り口に長さ50cm、等価直径1mmのテフロン(登録商標)チューブ2本をコネクタを用いて接続し、その先にそれぞれIB液とIIA液を入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。コネクタの出口には長さ1m、等価直径500μmを有するテフロン(登録商標)チューブを接続した。IB液を1.0mL/h、IIA液を30.0mL/hの送液速度にて送り出すと流路内は層流(レイノルズ数;約21.9)となり、2,9−ジメチルキナクリドンの分散液が得られたのでこれをチューブの先端より捕集し本発明の試料2とした。試料2のpHは10.49であった。これを動的光散乱粒径測定装置を用いて測定したところ、モード径51nm、算術標準偏差28nmであり分布幅が非常に小さいことがわかった。さらに、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、丸みを帯びた粒子形状を有していた。
【0251】
(比較例2)
次に、ビーカー中のIIA液3.0mL中に、撹拌子を用いて撹拌しながら室温でIB液0.5mLを添加すると2,9−ジメチルキナクリドンの分散液が得られた。これを比較試料2とした。比較試料2のpHは11.81であった。これを動的光散乱粒径測定装置を用いて測定したところ、モード径93nm、算術標準偏差57nmであり、粒径、分布幅のいずれも大きかった。さらに、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、針状であった。
【0252】
(比較例3)
更に、実施例2の反応装置に使用したテフロン(登録商標)チューブ、およびテフロン(登録商標)製Y字コネクターの等価直径をすべて20mmとして、IB液を26.49L/h、IIA液を122.4L/hの送液速度にて送り出すことで分散液を得た。流路内の流れ(レイノルズ数;約2639.6)は不安定であった。これを比較試料3とした。比較試料3のpHは12.56であった。これを動的光散乱粒径測定装置を用いて測定したところ、モード径277nm、算術標準偏差140nmであり粒径は大きく、分布幅が非常に広いことが分かった。
【0253】
本発明の試料2と比較試料2の比較は、流路中で顔料を調製すると粒子モード径と分布幅が小さくなり、かつ粒径が揃っていることを示した。また、本発明の試料2と比較試料3の比較は、流路の等価直径が10mm以下、特にマイクロスケールになると粒子モード径が小さくなり、かつ分布幅がかなり小さくなることを示した。
【0254】
(実施例3)
2,9−ジメチルキナクリドン0.01gをジメチルスルホキシド10.0mL、0.8N水酸化カリウム水溶液0.11mL、ポリビニルピロリドン(和光純薬(株)製、K30)0.05gに室温で溶解した(IC液)。IC液のpHは測定限界を超えており、測定不能であった。これを0.45μmのミクロフィルター(富士写真フイルム(株)製)を通すことでごみ等の不純物を除き、透明な溶液を得た。流路幅A;100μm、流路幅B;100μm、流路幅C;100μm、流路長F;12cm、流路深さH;40μmを有するガラスで作製した図20(a)記載のY字型流路を有する反応装置において、テフロン(登録商標)チューブ2本をコネクタを用いて導入口1011、および導入口1012に接続し、その先にそれぞれIC液と蒸留水のみを入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。排出口1014にもコネクタを用いてテフロン(登録商標)チューブを接続した。IC液を20μL/min、蒸留水を20μL/minの送液速度にて送り出すと流路内は層流(レイノルズ数;約8.5)となり、2,9−ジメチルキナクリドンの分散液が得られたのでこれをチューブの先端より捕集した。この分散液のpHは13.93であった。これを動的光散乱粒径測定装置を用いて測定したところ、モード径は50nmであった。
【0255】
(実施例4)
流路直径D;200μm、流路直径E;620μm、流路長G;10cmを有する図21(a)記載の円筒流路を有する反応装置を用い、テフロン(登録商標)チューブ2本をコネクタを用いて導入口1021、および導入口1022に接続し、その先にそれぞれ実施例1と2にて調製したIB液とIIA液を入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。IB液を1.0mL/h、IIA液を30.0mL/hの送液速度にて送り出すと流路内は層流(レイノルズ数;約17.7)となり、2,9−ジメチルキナクリドンの分散液が得られたのでこれを排出口1024より捕集した。この分散液のpHは10.44であった。これを動的光散乱粒径測定装置を用いて測定したところ、モード径94nm、算術標準偏差77nmであり分布幅が非常に小さいことがわかった。
【0256】
(参考例1)
2,9−ジメチルキナクリドン0.01gをジメチルスルホキシド10mL、0.8mol/L水酸化カリウム水溶液0.04mL、ポリビニルピロリドン(和光純薬(株)製、K30)0.05gに室温で混合した(ID液)。ID液のpHは12.74であった。このID液は懸濁していたが、0.45μmのミクロフィルター(富士写真フイルム(株)製)を通すことなく、そのまま使用した。流路幅A;100μm、流路幅B;100μm、流路幅C;100μm、流路長F;12cm、流路深さH;40μmを有する図20(a)記載のガラス製Y字型流路を有する反応装置において、テフロン(登録商標)チューブ2本をコネクタを用いて導入口1011、および導入口1012に接続し、その先にそれぞれID液と実施例1で調製したIIA液を入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。排出口1014にもコネクタを用いてテフロン(登録商標)チューブを接続した。ID液を20μL/min、IIA液を20μL/minの送液速度にて送り出したところ、これら二液が合流した時点で流路が閉塞してしまった。このことから、 Y字型流路を有する反応装置を用いる本発明の方法においては、均一に溶けた溶液を用いることが重要であることがわかる。
【0257】
(参考例2)
流路直径D;200μm、流路直径E;620μm、流路長G;10cmを有する図21(a)記載の円筒流路を有する反応装置において、テフロン(登録商標)チューブ2本をコネクタを用いて導入口1021、および導入口1022に接続し、その先にそれぞれ参考例1にて調製したID液と実施例1で調製したIIA液を入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。ID液を1.0mL/h、IIA液を30.0mL/hの送液速度にて送り出したところ、これら二液が合流した部分で流路が徐々に閉塞してしまった。このことから、円筒流路を有する反応装置を用いる本発明の方法においても均一に溶けた溶液を用いることが重要であることがわかる。
【0258】
(実施例5)
流路幅I;100μm、流路幅J;100μm、流路幅K;100μm、流路幅L;100μm、流路幅M;100μm、流路長Q;2cm、流路深さS;40μmを有する図22(a)記載のY字型流路を有する排出口で分離可能な反応装置において、テフロン(登録商標)チューブ2本をコネクタを用いて導入口1031、および導入口1032に接続し、その先に実施例3にて調製したIB液と実施例1で調製したIIA液をそれぞれ入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。排出口1034、排出口1035にもコネクタを用いてテフロン(登録商標)チューブを接続した。IB液を10μL/min、IIA液を60μL/minの送液速度にて送り出すと流路(1033)内で2,9−ジメチルキナクリドンの分散液層が層流(レイノルズ数;約14.9)として得られ、流体分流点1033eにて分散液層は排出口1034へ、その他の液層は排出口1035へ分離する事ができた。これにより、濃度の高い分散液を得ることが可能になった。排出口1034から得たサンプルのpHは12.46、排出口1035から得られたサンプルのpHは11.74であった。
【0259】
(実施例6)
流路直径N;100μm、流路直径P;300μm、流路直径O;100μm、流路長R;5cmを有する図23記載の円筒流路を有する排出口で分離可能な反応装置において、テフロン(登録商標)チューブ2本をコネクタを用いて導入口1041、および導入口1042に接続し、その先に実施例3にて調製したIC液と実施例1で調製したIIA液をそれぞれ入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。排出口1044、排出口1045にもコネクタを用いてテフロン(登録商標)チューブを接続した。ID液を10μL/min、IIA液を30μL/minの送液速度にて送り出すと流路(反応流路1043c)内で2,9−ジメチルキナクリドンの分散液が円筒層流(レイノルズ数;約2.83)として得られ、流体分流点1043eにて分散液を含む円筒層流は排出口1045へ、その他の液は排出口1044へ分離する事ができた。これにより、円筒管マイクロリアクターを用いても濃度の高い分散液を得ることが可能であった。
【0260】
(比較例4)
請求項9に係る発明の比較例
実施例2のIB液から、ポリビニルピロリドン(和光純薬(株)製、K30)、及びN−オレオイル−N−メチルタウリンナトリウム塩を除いたIE液および蒸留水をそれぞれ1.0mL/h及び6.0mL/hで送液し、実施例2で使用した反応装置において、テフロン(登録商標)製Y字コネクター、テフロン(登録商標)チューブなどの装置は変えないで実験を行った。得られた分散液を動的光散乱粒径測定装置を用いて測定したところ、モード径2.80μm、算術標準偏差0.89μmであり粒径・算術標準偏差とも非常に大きくなった。本結果は、本発明において分散剤はナノサイズの微粒子を得るのに重要であることを示す。
【0261】
(実施例7)
ピグメントイエロー93、1.0gをジメチルスルホキシド10.0g、5mol/L水酸化ナトリウム水溶液1.3mL、分散剤ポリビニルピロリドン(和光純薬(株)製、K30)0.5gに室温で溶解した(IF液)。一方、分散剤N−オレオイル−N−メチルタウリンナトリウム塩0.5gと蒸留水60mLを混合した(IIB液)。これらを0.45μmのミクロフィルター(富士写真フイルム(株)製)を通すことでごみ等の不純物を除いた。次に、以下に説明する反応装置を用い下記の手順で反応を行った。等価直径500μmを有するテフロン(登録商標)製Y字コネクターの二つの入り口に長さ50cm、等価直径1mmのテフロン(登録商標)チューブ2本をコネクタを用いて接続し、その先にそれぞれIF液とIIB液を入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。出口には長さ1m、等価直径500μmを有するテフロン(登録商標)チューブをコネクタを用いて接続した。IF液を1mL/h、IIB液を6mL/hの送液速度にて送り出し、流路内でピグメントイエロー93の分散液層が層流(レイノルズ数;約4.9)として得られた。これをチューブの先端より捕集した。これを本発明の試料3とした。このときのモード径は133nmで算術標準偏差は69nmであった。
【0262】
(比較例5)
次にIIB液6mL中に撹拌子を用いて撹拌しながら、室温でIF液を添加するとピグメントイエロー93の分散液が得られた。これを比較試料4とした。試料3と比較試料4の顔料粒径を動的光散乱粒径測定装置を用いて比較したところ、比較試料4のモード径は189nmで算術標準偏差は98nmであり、試料3の分散液の粒径は、比較試料4のそれより小さく分布幅が小さいことがわかった。
【0263】
(実施例8)
実施例4において、IB液中の2,9−ジメチルキナクリドンを等モル量のピグメントイエロー93に変えて、その他条件は変えずに顔料分散液を得た。透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、一次粒子の粒径が平均12nmの丸みを帯びた粒子形状を有していた。
【0264】
(実施例9)
実施例4において、IB液中の2,9−ジメチルキナクリドンを等モル量のピグメントレッド254に変えて、その他の条件は変えずに顔料分散液を得た。透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、一次粒子の粒径が平均9nmのやはり丸みを帯びた粒子形状を有していた。
【0265】
(実施例10)
ピグメントブルー15(東京化成工業製)1.2gを95%硫酸10mLに室温で溶解しIG液を調製した。ポリビニルピロリドン(和光純薬(株)製、K30)6.0g、N−オレオイル−N−メチルタウリンナトリウム塩6.0gと蒸留水240mLを混合しIIC液を調製した。これらを0.45μmのミクロフィルターを通すことでごみ等の不純物を除き、それぞれ透明な溶液を得た。実施例4で用いたIB液をIG液に、IIA液をIIC液に変えた以外は実施例4と同じ条件で分散液を調製した。透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、一次粒子の平均粒径が15nmの丸みを帯びた粒子形状を有していた。
【0266】
(実施例11)
酸化反応による2,9−ジメチルキナクリドンの合成
2,9−ジメチル−6,13−ジヒドロキナクリドン、2.0gに5mol/L水酸化ナトリウム水溶液 10.0mL、ポリエチレングリコール400を18g加えて室温下撹拌した。得られた深緑色の溶液を溶液Aとした。溶液Aをシリンジポンプを用いて、3.0mL/hで送液した。また、溶液Bとして30質量%過酸化水素水をシリンジポンプを用いて、0.5mL/hの速度で送液した。これらAおよびB液はIMM社製マイクロミキサー(流路幅45μm、深さ200μm)に接続され、内部のマイクロ空間にて混合され、出口より鮮やかなマゼンタ色の分散液の生成を確認した。分析したところ、純度96%以上の2,9−ジメチルキナクリドンが生成していた。
【0267】
(比較例6)
2,9−ジメチル−6,13−ジヒドロキナクリドン 2.0gに5N水酸化ナトリウム水溶液 10.0mL、ポリエチレングリコール400を18g加えて室温下撹拌した。得られた深緑色の溶液に、30質量%過酸化水素を2.0mLを滴下し、60℃にて1時間撹拌し、室温まで冷却した。分析したところ、転化率は80%であり、顔料純度94%以上の2,9−ジメチルキナクリドンが生成していた。
【0268】
(実施例12)
脱水縮合による2,9−ジメチルキナクリドンの合成2,5−ジ−(p−トルイジノ)−テレフタル酸 2.0g、p−トルエンスルホン酸0.1g、エチレングリコール15mL、ジメチルホルムアミド20mLを混合した溶液を調製した。フュースドシリカガラスキャピラリー(等価直径0.20mm、長さ4.0m)をリアクターとして用意し、その内、2.5mがオイルバス中を通過するよう固定した。オイルバスを150℃に加熱し、この溶液をシリンジポンプにて、速度1.1mL/h(滞留時間5分)にてリアクター内に送液した。キャピラリー出口より鮮やかなマゼンタ色を呈した顔料が得られた。
【0269】
(比較例7)
2,5−ジ−(p−トルイジノ)−テレフタル酸 2.0g、p−トルエンスルホン酸0.1g、エチレングリコール15mL、ジメチルホルムアミド20mLを混合した溶液を調製した。50mLフラスコにてオイルバスを150℃に加熱し、30分間撹拌した。生成した顔料は、分析したところ原料が僅かに残存していた。
【0270】
(実施例13)
アミド化反応によるC.I.ピグメントイエロー93の製造
【0271】
【化4】
【0272】
フェニルエステル誘導体(A)0.3gと3−クロロ−2−メチルアニリン0.1gをジメチルホルムアミド20mLに溶解した。マイクロリアクターとしてフューズド・シリカ・ガラス・キャピラリー(等価直径0.53mm、長さ1.5m)を用意し、その内、1.0mがオイルバス中を通過するよう固定した。オイルバスを150℃に加熱し、この溶液をシリンジポンプにて、速度2.2mL/h(滞留時間6分)にてリアクター内に送液した。キャピラリー出口より出てきた顔料は鮮やかなイエローを呈しており、分析したところ、純度は95%以上であった。
【0273】
(比較例8)
フェニルエステル誘導体(A)0.3gと3−クロロ−2−メチルアニリン0.1gをジメチルホルムアミド20mLに溶解した。50mLフラスコにてオイルバスを150℃に加熱し、1時間撹拌した。生成した顔料は、分析したところ、転化率は65%であり、顔料純度は93%以下で、ややくすんだイエロー色であった。
【0274】
(実施例14)
アミド化反応によるC.I.ピグメントレッド214の製造
【0275】
【化5】
【0276】
フェニルエステル誘導体(B)1.0gと2,5−ジクロロ−1,4−フェニレンジアミン0.2gをジメチルスルホキシド50mLに溶解した。マイクロリアクターとしてヒューズド・シリカ・ガラス・キャピラリー(等価直径0.53mm、長さ1.5m)を用意し、その内、1.0mがオイルバス中を通過するよう固定した。オイルバスを150℃に加熱し、この溶液をシリンジポンプにて、速度3.3mL/h(滞留時間4分)にてリアクター内に送液した。キャピラリー出口より出てきた顔料は鮮やかな赤色を呈しており、分析したところ、純度は96%以上であった。
【0277】
フタロシアニン顔料(ピグメントブルー16)の微粒子合成
(実施例15)
フタロシアニンジナトリウム塩(東京化成品)2.5g(0.45ml)をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解して50mlに調製した深緑色溶液を0.5μmのテフロン(PTFE)製ミクロフィルター(アドバンテック社製)で濾過し、IG液とした。次にポリビニルピロリドン(PVP。和光純薬(株)製K−90。平均分子量360,000)0.5gをDMSOに溶解して50mlに調製した無色透明溶液を0.5μmのテフロン(PTFE)製ミクロフィルター(アドバンテック社製)で濾過し、IH液とした。更にN−オレオイル−N−メチルタウリンナトリウム塩0.5g(1.17mmol)を蒸留水に溶解して50mlに調製した無色透明溶液を水系溶媒用の0.45μmのセルロースエステル製ミクロフィルター(ザルトリウス社製)で濾過し、IID液とした。
【0278】
流路直径D;100μm、流路直径E;400μm、流路長G;20cmを有する図21(a)記載の円筒流路を有する反応装置において、流路長Gの部分を5℃に冷却できるように冷媒を循環できるジャケットを装着した。そしてテフロンチューブ2本をコネクタにより導入口1021、および導入口1022に接続した。導入口1021に上記IG液とIH液を1:2(体積比)に混合した液を入れたシリンジを繋ぎ、シリンジポンプにセットした。導入口1022にIID液を入れたシリンジを繋ぎ、シリンジポンプにセットした。導入口1021から1.0mL/h、導入口1022からを10.0mL/hの送液速度にて送り出すと5℃に冷却した流路内は層流(レイノルズ数;約9.8)となり、フタロシアニンの分散液が得られたのでこれを排出口1024より捕集した。これを動的光散乱粒径測定装置を用いて測定したところ、モード径17.4nm、算術標準偏差8.6nmであり、粒径が小さく分布幅が非常に小さい分散液を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0279】
【図1】本発明に係る画像形成装置の一実施形態としてのインクジェット記録装置の概略を示す全体構成図である。
【図2】図1のインクジェット記録装置の印字部周辺の要部平面図である。
【図3】印字ヘッドの他の構造例を示す平面透視図である。
【図4】印字ヘッドを構成する圧力室ユニットを示す拡大図である。
【図5】図4のV-V 線に沿う断面図である。
【図6】図1のインクジェット記録装置のシステム構成図である。
【図7】本実施形態の印字ヘッドにおけるノズル配置を示す要部平面図である。
【図8】図7のノズル配置の一部を拡大して示す平面図である。
【図9】(a)、(b)はノズル配置とドット位置の関係を示す説明図である。
【図10】本実施形態の印字ヘッドにおける他のノズル配置を示す要部平面図である。
【図11】図10のノズル配置においてノズルブロックの他の分け方を示す平面図である。
【図12】本実施形態のインクジェット記録装置の打滴制御の説明図である。
【図13】図12中のXIII-XIII 線に沿う断面図である。
【図14】打滴制御の要部を説明するための平面図である。
【図15】図14中のXV-XV 線に沿う断面図である。
【図16】打滴制御の結果を説明する平面図である。
【図17】図16中のXVII-XVII 線に沿う断面図である。
【図18】本実施形態のインクジェット記録装置の打滴制御部のブロック図である。
【図19】従来のマトリクス状に配列されたノズルを示す要部平面図である。
【図20(a)】片側にY字型流路を有する反応装置の説明図である。
【図20(b)】図20(a)のI−I線の断面図である。
【図21(a)】片側に挿通した流路を設けた円筒管型流路を有する反応装置の説明図である。
【図21(b)】図21(a)のIIa−IIa線の断面図である。
【図21(c)】図21(a)のIIb−IIb線の断面図である。
【図22(a)】両側にY字型流路を有する反応装置の説明図である。
【図22(b)】図22(a)のIII−III線の断面図である。
【図23】両側に挿通した流路を設けた円筒管型流路を有する反応装置の説明図である。
【符号の説明】
【0280】
10…インクジェット記録装置、12…印字部、14…インク貯蔵/装填部、16…記録紙、18…給紙部、20…デカール処理部、22…吸着ベルト搬送部、24…印字検出部、26…排紙部、28…カッター、30…加熱ドラム、31、32…ローラ、33…ベルト、34…吸着チャンバ、35…ファン、36…ベルト清掃部、40…加熱ファン、42…後乾燥部、44…加熱・加圧部、45…加圧ローラ、48…カッター、50…印字ヘッド、51…ノズル、52…圧力室、53…インク供給口、54…圧力室ユニット、55…インク共通流路、56…振動板、58…アクチュエータ、1010,1020,1030,1040…反応装置本体、1011,1012,1021,1022,1031,1032,1041,1042…導入口、1013,1033…流路、1013a,1013b,1023a,1023b,1033a,1033b,1043a,1043b…導入流路、1013c,1023c,1033c,1043c…反応流路、1013d,1023d,1033d,1043d…流体合流点、1033e,1043e…流体分流点、1033f,1033g,1043f,1043g…排出流路、1014,1024,1034,1035,1044,1045…排出口
【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に、アルカリ性または酸性の水溶媒体に溶解した有機顔料の溶液を、流路中を層流として流通させ、その層流過程で溶液の水素イオン指数(pH)を変化させる工程によって生成された有機顔料微粒子を含む液滴を打滴する記録ヘッドであって、
前記記録媒体が前記液滴吐出ヘッドに対して相対的に搬送される搬送方向と直交する主走査方向及び前記搬送方向である副走査方向に2次元的に、かつ前記ノズルから前記記録媒体上に打滴された少なくとも一部のドットが主走査方向に重なるように、前記ノズルが配列され、
前記記録媒体上で主走査方向に隣接するドットを打滴する第1のノズルと第2のノズル及び第1のノズルと副走査方向に隣接する第3のノズルに対し、
前記第1のノズルと第2のノズルとの間の副走査方向における距離が、少なくとも、前記第1のノズルと第3のノズルの副走査方向における距離の2以上の整数倍の距離となるように前記第1のノズルと第2のノズルを副走査方向に離して配置するとともに、
前記第1のノズルと第3のノズルの間の主走査方向における距離が、少なくとも、前記第1のノズル及び前記第3のノズルから前記記録媒体に吐出される液滴によって形成される最大ドット径以上の距離となるように前記第1のノズルと第3のノズルを主走査方向に離して配置したことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記第1のノズルと第3のノズルとの間の主走査方向における距離が、少なくとも、前記第1のノズルと第2のノズルの間の主走査方向の距離の2以上の整数倍の距離であることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
記録媒体に、アルカリ性または酸性の水溶媒体に溶解した有機顔料の溶液を、流路中を層流として流通させ、その層流過程で溶液の水素イオン指数(pH)を変化させる工程によって生成された有機顔料微粒子を含む液滴を打滴する記録ヘッドであって、
前記記録媒体が前記液滴吐出ヘッドに対して相対的に搬送される搬送方向と直交する主走査方向及び前記搬送方向である副走査方向に2次元的に、かつ前記ノズルから前記記録媒体上に打滴された少なくとも一部の液滴ドットが主走査方向に重なるように、前記ノズルが配列され、
前記液滴吐出ヘッドにおけるノズル間の主走査方向における最小距離である主走査方向最小ノズル間距離をPmとし、
主走査方向に1列に配列された複数個のノズル列をそれぞれ主走査方向にずらして副走査方向に隣接させて並べ、任意のノズル列に対して主走査方向に所定距離だけずらしたノズル列が必ず存在するように配置して形成された複数個のノズルブロックのうち副走査方向に隣接するノズルブロックを、副走査方向に所定の間隔ずらすとともに、主走査方向に前記主走査方向最小ノズル間距離Pmだけずらして配置したことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
前記ノズル列を主走査方向にずらす前記所定距離を、前記主走査方向最小ノズル間距離Pm及び前記ノズルブロックの個数Nを用いて、N×Pmとなるように設定することを特徴とする請求項3に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
前記ノズルブロック間の副走査方向の前記所定の間隔を、前記ノズル配列における副走査方向に隣接するノズル間の距離である副走査方向最小ノズル間距離Ps及び各ノズルブロックを構成する前記ノズル列の個数Mを用いて、M×Psとなるように設定することを特徴とする請求項3または4に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
前記記録媒体上で主走査方向に重なり合う液滴ドットを打滴する第1のノズルと第2のノズルをそれぞれ有する第1のノズルブロックと第2のノズルブロックとの間の副走査方
向の前記所定の間隔に対して、少なくとも、前記第1のノズルから着弾された第1のドットが前記記録媒体に定着して前記記録媒体表面上での液滴径が小さくなり、前記第1のドットの着弾後に前記第2のノズルから着弾する第2のドットの前記記録媒体表面上での液滴と接触しない大きさになるまでの時間になるように前記記録媒体が相対的に搬送される搬送速度を少なくとも記録媒体の種類に応じて設定することを特徴とする請求項3または4に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項7】
前記ノズル配列を構成する任意のノズルから前記記録媒体上に打滴される液滴の最大ドット径をDmax とするとき、前記主走査方向最小ノズル間距離Pmに対し、Dmax ≦N×Pmとなるように前記ノズルブロックの個数Nを設定することを特徴とする請求項3〜6のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項8】
記録媒体に、アルカリ性または酸性の水溶媒体に溶解した有機顔料の溶液を、流路中を層流として流通させ、その層流過程で溶液の水素イオン指数(pH)を変化させる工程によって生成された有機顔料微粒子を含む液滴を打滴する記録ヘッドであって、
前記記録媒体が前記液滴吐出ヘッドに対して相対的に搬送される搬送方向と直交する主走査方向及び前記搬送方向である副走査方向に2次元的に、かつ前記ノズルから前記記録媒体上に打滴された少なくとも一部のドットが主走査方向に重なるように、前記ノズルが配列され、
前記記録媒体上で主走査方向に隣接または重ねて打滴する第1のドットと第2のドットを打滴する第1のノズルと第2のノズルとの副走査方向の距離を、少なくとも前記第1のドットが前記記録媒体に着弾して定着して前記記録媒体表面上での液滴径が小さくなり、前記第1のドットの着弾後に打滴される前記第2のドットの前記記録媒体表面上での液滴と接触しない大きさになるまでの時間に前記記録媒体が相対的に搬送される距離以上となるように設定し、
前記第1のノズルと副走査方向に隣接する第3のノズルとの主走査方向の距離が、少なくとも前記第1のノズル及び前記第3のノズルから前記記録媒体に打滴されて形成される最大ドット径以上の距離となるように前記第1のノズルと前記第3のノズルを配置することを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項9】
前記有機顔料微粒子は少なくとも一つの分散剤を含有する有機顔料の溶液で生成されたことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項10】
前記有機顔料微粒子はモード径が1μm以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項11】
前記有機顔料微粒子は前記有機顔料の溶液がアルカリ性であり、一般式(I)で表されるキナクリドン系顔料であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
【化1】
(式中、XおよびYは、独立してフッ素原子、塩素原子、炭素数1〜3のアルキル基、
炭素数1〜3のアルコキシ基及びCOORa基(ここでRaは、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基である)を表し、mおよびnは、独立して0、1または2を表す。)
【請求項12】
前記記録ヘッドより打滴される液滴はアルカリ性であり、前記記録ヘッドのうちの少なくとも前記液滴の液が接触する部分の材質が耐アルカリ性の材質で形成されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッドを備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項1】
記録媒体に、アルカリ性または酸性の水溶媒体に溶解した有機顔料の溶液を、流路中を層流として流通させ、その層流過程で溶液の水素イオン指数(pH)を変化させる工程によって生成された有機顔料微粒子を含む液滴を打滴する記録ヘッドであって、
前記記録媒体が前記液滴吐出ヘッドに対して相対的に搬送される搬送方向と直交する主走査方向及び前記搬送方向である副走査方向に2次元的に、かつ前記ノズルから前記記録媒体上に打滴された少なくとも一部のドットが主走査方向に重なるように、前記ノズルが配列され、
前記記録媒体上で主走査方向に隣接するドットを打滴する第1のノズルと第2のノズル及び第1のノズルと副走査方向に隣接する第3のノズルに対し、
前記第1のノズルと第2のノズルとの間の副走査方向における距離が、少なくとも、前記第1のノズルと第3のノズルの副走査方向における距離の2以上の整数倍の距離となるように前記第1のノズルと第2のノズルを副走査方向に離して配置するとともに、
前記第1のノズルと第3のノズルの間の主走査方向における距離が、少なくとも、前記第1のノズル及び前記第3のノズルから前記記録媒体に吐出される液滴によって形成される最大ドット径以上の距離となるように前記第1のノズルと第3のノズルを主走査方向に離して配置したことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記第1のノズルと第3のノズルとの間の主走査方向における距離が、少なくとも、前記第1のノズルと第2のノズルの間の主走査方向の距離の2以上の整数倍の距離であることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
記録媒体に、アルカリ性または酸性の水溶媒体に溶解した有機顔料の溶液を、流路中を層流として流通させ、その層流過程で溶液の水素イオン指数(pH)を変化させる工程によって生成された有機顔料微粒子を含む液滴を打滴する記録ヘッドであって、
前記記録媒体が前記液滴吐出ヘッドに対して相対的に搬送される搬送方向と直交する主走査方向及び前記搬送方向である副走査方向に2次元的に、かつ前記ノズルから前記記録媒体上に打滴された少なくとも一部の液滴ドットが主走査方向に重なるように、前記ノズルが配列され、
前記液滴吐出ヘッドにおけるノズル間の主走査方向における最小距離である主走査方向最小ノズル間距離をPmとし、
主走査方向に1列に配列された複数個のノズル列をそれぞれ主走査方向にずらして副走査方向に隣接させて並べ、任意のノズル列に対して主走査方向に所定距離だけずらしたノズル列が必ず存在するように配置して形成された複数個のノズルブロックのうち副走査方向に隣接するノズルブロックを、副走査方向に所定の間隔ずらすとともに、主走査方向に前記主走査方向最小ノズル間距離Pmだけずらして配置したことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
前記ノズル列を主走査方向にずらす前記所定距離を、前記主走査方向最小ノズル間距離Pm及び前記ノズルブロックの個数Nを用いて、N×Pmとなるように設定することを特徴とする請求項3に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
前記ノズルブロック間の副走査方向の前記所定の間隔を、前記ノズル配列における副走査方向に隣接するノズル間の距離である副走査方向最小ノズル間距離Ps及び各ノズルブロックを構成する前記ノズル列の個数Mを用いて、M×Psとなるように設定することを特徴とする請求項3または4に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
前記記録媒体上で主走査方向に重なり合う液滴ドットを打滴する第1のノズルと第2のノズルをそれぞれ有する第1のノズルブロックと第2のノズルブロックとの間の副走査方
向の前記所定の間隔に対して、少なくとも、前記第1のノズルから着弾された第1のドットが前記記録媒体に定着して前記記録媒体表面上での液滴径が小さくなり、前記第1のドットの着弾後に前記第2のノズルから着弾する第2のドットの前記記録媒体表面上での液滴と接触しない大きさになるまでの時間になるように前記記録媒体が相対的に搬送される搬送速度を少なくとも記録媒体の種類に応じて設定することを特徴とする請求項3または4に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項7】
前記ノズル配列を構成する任意のノズルから前記記録媒体上に打滴される液滴の最大ドット径をDmax とするとき、前記主走査方向最小ノズル間距離Pmに対し、Dmax ≦N×Pmとなるように前記ノズルブロックの個数Nを設定することを特徴とする請求項3〜6のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項8】
記録媒体に、アルカリ性または酸性の水溶媒体に溶解した有機顔料の溶液を、流路中を層流として流通させ、その層流過程で溶液の水素イオン指数(pH)を変化させる工程によって生成された有機顔料微粒子を含む液滴を打滴する記録ヘッドであって、
前記記録媒体が前記液滴吐出ヘッドに対して相対的に搬送される搬送方向と直交する主走査方向及び前記搬送方向である副走査方向に2次元的に、かつ前記ノズルから前記記録媒体上に打滴された少なくとも一部のドットが主走査方向に重なるように、前記ノズルが配列され、
前記記録媒体上で主走査方向に隣接または重ねて打滴する第1のドットと第2のドットを打滴する第1のノズルと第2のノズルとの副走査方向の距離を、少なくとも前記第1のドットが前記記録媒体に着弾して定着して前記記録媒体表面上での液滴径が小さくなり、前記第1のドットの着弾後に打滴される前記第2のドットの前記記録媒体表面上での液滴と接触しない大きさになるまでの時間に前記記録媒体が相対的に搬送される距離以上となるように設定し、
前記第1のノズルと副走査方向に隣接する第3のノズルとの主走査方向の距離が、少なくとも前記第1のノズル及び前記第3のノズルから前記記録媒体に打滴されて形成される最大ドット径以上の距離となるように前記第1のノズルと前記第3のノズルを配置することを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項9】
前記有機顔料微粒子は少なくとも一つの分散剤を含有する有機顔料の溶液で生成されたことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項10】
前記有機顔料微粒子はモード径が1μm以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項11】
前記有機顔料微粒子は前記有機顔料の溶液がアルカリ性であり、一般式(I)で表されるキナクリドン系顔料であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
【化1】
(式中、XおよびYは、独立してフッ素原子、塩素原子、炭素数1〜3のアルキル基、
炭素数1〜3のアルコキシ基及びCOORa基(ここでRaは、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基である)を表し、mおよびnは、独立して0、1または2を表す。)
【請求項12】
前記記録ヘッドより打滴される液滴はアルカリ性であり、前記記録ヘッドのうちの少なくとも前記液滴の液が接触する部分の材質が耐アルカリ性の材質で形成されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッドを備えたことを特徴とする画像形成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20(a)】
【図20(b)】
【図21(a)】
【図21(b)】
【図21(c)】
【図22(a)】
【図22(b)】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20(a)】
【図20(b)】
【図21(a)】
【図21(b)】
【図21(c)】
【図22(a)】
【図22(b)】
【図23】
【公開番号】特開2006−281775(P2006−281775A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−56805(P2006−56805)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.イーサネット
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.イーサネット
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】
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