説明

液滴吐出ヘッド

【課題】集束超音波による液滴吐出ヘッドにおける液面の開口部を広くし、液体の蒸発および漏洩を抑制し、しかも高速の液滴吐出を可能にする。
【解決手段】液体14を保持する液体保持手段14bと、液体と音響的に接続した圧電素子11を備える超音波発生手段と、圧電素子から発生する超音波を集束させる超音波集束手段12と、液体保持手段の一部に設けられ、集束された超音波が液体の液面から液滴を吐出する吐出口16と、を備えた液滴吐出ヘッド20において、吐出口16は網目構造体に形成され、超音波の波長をλとすると網目厚さdが(2/3)λ未満および網目開口幅wが(1/2)λ以上になっていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば記録インクのような液体を集束超音波の圧力によって小滴化し、その液滴を例えば記録媒体上に飛翔させる液滴吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
インク液に圧力を及ぼすエネルギー(圧力エネルギーとも称す)を与えインク液を小滴化し、その液滴を記録媒体上に飛翔させて画像を形成するインクジェット記録装置は、インクジェットプリンタとして実用化され広く使用されている。そして、これまでに上記記録装置に使用するための種々のインクジェット方式が考案されている。その中で、特に発熱体の熱により発生する圧力エネルギーで液滴を飛翔させる方式や、圧電素子を用いその振動による超音波の圧力エネルギーで液滴を飛翔させる方式等が代表的である。
【0003】
上記圧電素子を用いる方式の中に、該素子によって発生する超音波を音響レンズによりインク液面の近傍に集束させ、その集束超音波の圧力を用いて上記インク液面から小液滴を吐出させる方法がある(以下、集束超音波方式と呼称する)。集束超音波方式以外の通常のインクジェットヘッドでは、インク液滴の吐出する細いノズルが必要となり、ノズル内のインク液が溶媒の蒸発等で濃縮してインクの目詰まりを起こし易い。それに対して、集束超音波方式のインクジェットヘッドは、ノズルレスでありインクの目詰まりに対し極めて有効な構造になる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上記集束超音波方式のインクジェットヘッドについて図9および図10を参照して説明する。図9は、上記インクジェットヘッドの模式的な縦断面図である。そして、図10は、このインクジェットヘッドの先端部の拡大断面図である。
【0005】
図9に示すように、集束超音波方式のインクジェットヘッドは、圧電素子100の共振振動により発生する超音波(波長λ:μmオーダ)を集束する音響レンズ101が圧電素子100と結合した構造を有する。そして、上記圧電素子100と音響レンズ101とが、インク液102の液面103領域に集束超音波104を集束させ、その液面103からインク液102の液滴を吐出するようになっている。
【0006】
ここで、圧電素子100は平板状の圧電体100aとその対向する上下両面の電極100bおよび100cにより構成される。そして、圧電素子100を駆動する駆動回路105が、電極100bおよび100cに接続されている。また、音響レンズ101は凹面レンズの構造をしており、その有効面の口径は例えば3mm程度になる。そして、上記集束超音波の焦点距離は例えば4mm程度になる。
【0007】
上記インク液102は上蓋106を有するインク保持室に供給される。そして、上蓋106の一部に開口部107が形成されており、この開口部107にインク液102の液面103が露出するようになっている。
【0008】
上記インクジェットヘッドの動作では、圧電素子100は駆動回路105により間欠的な高周波電圧(バースト波)が印加されて振動する。この振動により放射された音波は、音響レンズ101によってインク液102の液面103付近で集束する集束超音波104となる。図10(a)に示すように、上蓋106に形設した開口部107に露出するインク液102の液面103において、集束超音波104の収束点が円錐状に盛り上がる。そして、メニスカス108が形成され、その頂点が分離吐出してインク液102の小さな液滴109が断続的に飛翔する。この小滴化したインク液の液滴109が記録媒体(不図示)上に飛翔し画点を形成する。
【0009】
ここで、図10(a)は開口部107の口径が広い場合であり、図10(b)は開口部107aの口径が狭くなった場合を示す。図10(b)の場合でも、図10(a)の場合と同様にメニスカス108が形成され液滴109が飛翔する。
【0010】
なお、上記高周波電圧の周波数は10MHz〜100MHzであり、そのバースト波の印加時間は、液体材料の粘度特性やメニスカス形成の高さ等を考慮して決められるが、0.5μsec〜200μsec程度になる。そして、上記集束超音波104の周波数は10MHz〜100MHz程度になる。
【特許文献1】特開平10−250110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
液滴の吐出する開口部の口径は、インク液102の種類(例えば、顔料インク、染料インク等)とくにその粘度や表面張力により異なるが、図10(a)に示した口径の広い開口部107は、通常ではその直径が1mm程度に設定される。そして、この場合は、液滴109の吐出周波数が低い場合に使用される。これは、1つの液滴109を吐出した後の液面103の振動が安定するまでに所定時間を要し、低速の液滴吐出に適するようになるからである。
【0012】
しかしながら、開口部107の口径が広くなると、この領域からのインク液の蒸発が無視できなくなり、インク液の粘度の経時変化が大きくなり長期安定した液滴吐出が難しくなるという問題を有している。また、この広い開口部107の場合、その保守あるいは点検時においてインク液漏れが生じ易く、そのメンテナンス作業性に問題があった。
【0013】
一方、上記図10(b)に示した口径の狭い開口部107aは、通常その直径が100μm〜500μm程度にされ、液滴109の吐出周波数が高い場合に使用されるようになる。これは、上記口径の縮減に伴い液面103の振動が小さくなって高速の液滴吐出が可能になるからである。
【0014】
しかしながら、この場合には、液滴109を吐出した際のメニスカス108の一部が開口部107aから溢れ、上蓋106の上面に付着し易くなる。そして、この付着したインクが次に形成されるメニスカスの裾と繋がり、メニスカスの継続的な形成が不安定になるという問題があった。また、上記開口部が狭いとメニスカスの頂点と開口部107aの中心部との位置合わせ精度を高くする必要が生じ、そのためにこの場合もその作業性に問題があった。
【0015】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、集束超音波による液滴吐出において、液面の開口部を広くし、吐出用の液体の蒸発および漏洩を抑制し、しかも高速の液滴吐出を可能にする液滴吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明にかかる液滴吐出ヘッドは、液体を保持する液体保持手段と、前記液体と音響的に接続した圧電素子を備える超音波発生手段と、前記圧電素子から発生する超音波を集束させる超音波集束手段と、
前記液体保持手段の一部に設けられ、前記集束された超音波が前記液体の液面から液滴を吐出する吐出口と、を備えた液滴吐出ヘッドにおいて、前記吐出口は網目構造体に形成され、前記超音波の波長をλとすると網目厚さが(2/3)λ未満および開口幅が(1/2)λ以上になる構成となっている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の構成により、集束超音波による液滴吐出において液面の開口部を広くし、吐出用の液体の蒸発および漏洩を抑制し、しかも高速の液滴吐出を可能にする液滴吐出ヘッドを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明の好適な実施形態の幾つかについて図面を参照して説明する。以下、吐出用の液体として顔料インク、染料インクのような記録インクの場合について説明するが、特にこのような液体材料に限定されるものではない。
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態について図1ないし図6を参照して説明する。図1は、2種類の液滴吐出ヘッドを示した模式的な縦断面図である。図2は、本実施形態の好適な一例を示す液滴吐出の先端部の上面図である。図3は、上記液滴吐出の先端部における図2に記すX−X矢視断面図である。図4ないし図6は網目寸法の説明である。
【0019】
図1(a)の液滴吐出ヘッド10では、インク保持室の底部において圧電素子11が平板状の圧電体11aとその対向する上下両面の電極11bおよび11cにより構成される。そして、超音波集束手段として凹面レンズである音響レンズ12が圧電素子11の電極11bに結合し、電極11bおよび11cは駆動回路13に接続する。また、インク源14aからインク保持室14bに供給された液体すなわちインク液14の表面に上蓋15が設けられ、その一部に吐出口となる開口部16が形成されている。更に、上記開口部16内にメッシュ部17が形設されている。
【0020】
ここで、上記圧電素子11の圧電体11aは、例えばチタン酸鉛系セラミックから成り平面形状が矩形の平板である。あるいは、その他に、ZnO、LiNbO等のセラミック圧電材料、フッ化ビニリデンと三フッ化エチレンとの共重合体等の高分子圧電材料から成るものであってもよい。そして、その電極11bおよび11cは、例えばTi/Auの積層電極から成る。その他に、Ni、Al、Cu等の電極材料から成るものであってもよい。また、上記音響レンズ12は、例えば厚さが1mm程度のガラス板、あるいは、エポキシ樹脂、ポリイミド等の高分子材料を基材としアルミナ、タングステンの粉末を混合したものから成る。
【0021】
そして、上記音響レンズ12の有効面の口径は例えば3mm程度で、集束超音波18の焦点距離は例えば4mm程度になる。また、上記圧電体11aは、振動の周波数に合わせた厚さに設定され、電極11bおよび11cは、スパッタ法、蒸着法等で成膜された膜厚が例えば1μm弱程度の薄膜である。
【0022】
そして、上蓋15は金属製あるいはセラミックス製、もしくは樹脂製であり、その厚さは例えば0.1mm程度である。また、開口部16の直径は例えば0.1mm〜3mmφ程度の範囲で決められる。
【0023】
そして、本実施形態で特徴的事項となる開口部16に形設されたメッシュ部17は、図2、図3に示すように、例えば矩形の網目17aを有する格子状の網目構造体になっている。この格子状の網目構造体は、例えば金属製の平板を格子状にエッチング加工して形成してもよいし金網のようなものであってもよい。ここで、網目17aは、インク液14に対し撥水性があり濡れ性の低い例えば樹脂のような撥水性材料から成る格子17bにより形成されると好適である。また網目は格子状のほかにハニカム状にして開口面積を大きくとることも有効な手段である。
【0024】
図3(a)に示すように、上記格子17bの断面形状は例えば円形である。あるいは図3(b)に示すように、格子17bの断面形状は例えば矩形であってもよい。そして、これ等の格子17bの間すなわち網目17aの領域にインク液14の液面19が露出するようになる。ここで、網目厚さdすなわち格子17bの断面の径あるいは断面の一辺の厚さ寸法は、その詳細は後述するが、集束超音波18の波長よりも小さくなるようにする。例えば、上記格子17bの上記径寸法は、集束超音波18の波長(λ)の2/3以下が好ましく、その1/3以下がさらに好ましい。
【0025】
これは、格子17bの上記厚さが大きくなると共に超音波が格子17bを通過抵抗が大きくなるからである。そして、この超音波通過抵抗は、液面19の被覆の度合いに強く関係することから、特に網目17bの上面から見た格子線パターンによって大きな影響を受ける。しかし、このような反射は格子17bの材質には関係しない。
【0026】
具体的には、集束超音波18の波長は、インク液14の液滴吐出の場合、所要の液滴の大きさにより例えば5μm〜150μmの範囲で設定されるが、例えば前記波長が60μmの場合であると、上記格子17bの格子面垂直方向から見た線幅寸法は20μm程度が好適になる。なお線幅が広すぎると超音波の焦点位置と開口部とを合わせにくくなり、ずれが生じると効率のよい吐出ができなくなる。ここで、格子17bは、集束超音波18の圧力に耐える必要がある。そこで、その表面が樹脂によりコーティングされた例えばステンレス製あるいはカーボン製の格子17bが好適になる。
【0027】
このようにすることにより、集束超音波18により上記液面19からメニスカスを形成する時に格子17bの影響が小さく、インク液の液滴の自在な飛翔が行える。
【0028】
上記メッシュ部17の網目17aの大きさについては、四辺形の網目開口幅wを、集束超音波18の波長の(1/2)λのよりも大きくなるように設定することが好ましい。開口幅は網目が方形の場合は短手方向幅、円形の場合は直径である。
【0029】
具体的には、集束超音波18の波長λが60μmの場合、矩形状の網目17aの開口幅の寸法が30μm以上になると、格子17bの濡れ性低下に伴う液面19の見かけ表面張力の増大の影響は問題のないレベルになり、インク液の好適な液滴飛翔が行える。しかし、上記開口幅の寸法が大きくなり過ぎると、図9(a)で説明した従来の技術の場合と同じ問題が生じることから、その大きさには限度がある。そこで、上限としては例えば500μm程度にすればよい。
【0030】
開口部16に形設される網目構造体において、集束超音波によるメニスカスは、例えば図2に示した開口部16の場合、その中心領域に配置の7個の網目17a、あるいはその周りに配置された網目を含む範囲の領域において形成される。そして、この網目構造体が上記メニスカスの頂点から分離吐出し飛翔する液滴の吐出口となる。
【0031】
図2および図3を参照して説明した網目構造体については、その他に種々の変形が可能である。例えば、網目17aはその平面形状が矩形に限られるものではなく、例えば多角形、円形あるいは楕円形等であっても構わない。このような場合、平板に上記所要の形状を有する複数の孔を形成したような構造体になる。また、格子17bの断面形状も円形あるいは矩形に限られるものではなく楕円形、三角形、多角形等でも構わない。また、格子17bの材質としては、インク液14の濡れ性がその一部において高くなるようにしてもよい。
【0032】
上記液滴吐出ヘッド10の動作では、圧電素子11が駆動回路13により間欠的な高周波電圧(バースト波)の印加を受けて振動する。この振動により、放射された音波は、音響レンズ12によってインク液14の表面付近で集束する集束超音波18となる。そして、インク液14の上蓋15の開口部16内部に形設したメッシュ部17において、集束超音波18の収束点が円錐状に盛り上がり、図9(a)で説明したのと略同様なメニスカスが生成され、その頂点から液滴が分離吐出し飛翔する。ここで、上記集束超音波18の周波数が10MHz〜500MHz程度の範囲になるように圧電体11aの材料および形状が決められている。
【0033】
上記バースト波は、駆動回路13により圧電素子7に断続的に与えられる。ここで、1個のバースト波における高周波電圧の印加時間は、液体材料の粘度特性やメニスカス形成の高さ等を考慮して決められるが、0.5μsec〜200μsec程度になる。また、高周波電圧の周波数は例えば20MHzに固定される。
【0034】
図1(b)の液滴吐出ヘッド20では、図1(a)の場合と同様にインク保持室の底部において圧電素子11が配置される。そして、音響レンズ12aが圧電素子11と一体に結合して形成される。更に、図1(a)の場合と同じように、この圧電素子11が駆動回路13に接続され、インク源14aからインク保持室14bに供給されたインク液14の表面に上蓋15が設けられる。そして、上蓋15の一部に開口部16およびその内部に図2、図3で説明したようなメッシュ部17が設けられている。
【0035】
ここで、上記音響レンズ12aは、ガラス板にフレネル輪帯理論に基づく所定のピッチの溝が形成されたフレネルレンズから成る。このような音響レンズ12aは、第2の実施形態で説明するように複数の圧電素子をアレイ状に配置した液滴吐出ヘッドにも有効に使用できる。なお、液滴吐出ヘッド20におけるその他の構造は図1(a)で説明したのと同様でよい。
【0036】
この液滴吐出ヘッド20の動作は、上述した液滴吐出ヘッド10の場合と同様になる。すなわち、音響レンズ12aと圧電素子11により生成した集束超音波18aが、開口部16に形設されたメッシュ部17付近で集束しインク液14のメニスカスを生成する。そして、上述した網目構造体を液滴の吐出口とし、インク液14の液滴が分離吐出し飛翔するようになる。
【0037】
<格子寸法>
図1(a)に示した液滴吐出ヘッド10の開口部16に形設した種々の寸法の種々の網目構造体を作製した。図4に示すように、作製した網目構造体は、6種類の試作品であり、図に試験例A〜Fとしてその画像の結果と共にまとめた。この網目構造体は、平織のステンレス金網の表面を樹脂でコーティングしたものであり、その網目厚さd、および開口幅wが超音波の波長(λ=60μm)に対する比で図示している。例えばAはd=20μm、w=45μmとなる。
図4は、横軸に図2に示した正方形の網目17a一辺の長さである網目開口幅の寸法の上記波長(λ)に対する比をとり、縦軸にそのときの画点の形成状態(印字レベル)をとって示している。ここで、印字レベルは、図1(a)の構造の液滴吐出ヘッド10に上記開口幅寸法の異なるメッシュ部17を形設し、それぞれの場合において、インク液滴を一定時間間隔に記録媒体上に飛翔させて調べた。
ここで、画点の状態は、図4に示しているような印字レベル1〜3に分類している。印字レベル1(◎)では、極めて良好な画点が時間的に規則的に連続して形成されるレベルである。このレベルでは、大きさの均一な液滴が開口部16から規則的に吐出し飛翔している。印字レベル2(○)では、画点に多少の乱れがあるものの充分に印字可能なレベルである。このレベルでは、ほぼ均一な大きさの液滴が吐出しているが、液滴により飛翔にわずかな遅れの生じる場合がある。印字レベル3(×)では、画点が不安定であり印字がやっと可能なレベルである。このレベルでは、液滴は飛翔するが飛翔した液滴のサテライト合体が時々見られる。また飛翔が生じない場合がある。
【0038】
図4の結果をもとに、図5に厚さと印字レベル、図6に開口幅と印字レベルの評価を示している。
【0039】
図5から、網目開口幅の寸法は上記波長(λ)に対する比が50%以上の(1/2)λ以上になると、画点の形成状態が印字レベル2あるいは印字レベル1になることが判る。このレベルになると良好な画像が高い信頼性のもとに形成できる。これに対して、網目開口幅が30%強程度に縮小すると印字レベル3になり良好な画像が形成できなくなる。このため、格子17bの厚さ寸法が上述したような好適な(1/3)λ以下になっても印字レベル3が生じることがある。これ等のことから、網目開口幅の寸法は集束超音波18の波長の(1/2)λ以上にするのが好適である。この網目開口幅と超音波の波長との関係は、網目がハニカム構造、平織金網構造等であっても同様である。
図5の試験例A、図6の試験例Bから明らかなように、網目厚さが(1/3)λで、開口幅が(2/3)λ以上となる液滴吐出ヘッド10は、印字レベル1になる。この場合の画像は(◎)印で示すように高精細であり高い信頼性のもとに形成できる。これ等のことから、網目厚さを(1/3)λ以下にし、しかも開口幅を(2/3)λ以上にした液滴吐出ヘッドでは、画点の形成が極めて安定し良質の画像が形成できることが判る。
【0040】
また、図6の試験例C,Dから明らかなように、網目厚さが(2/3)λ以下であって、しかも開口幅が(2/3)λ以上になる液滴吐出ヘッド10は、印字レベル2となり、画点にわずかな乱れが生じる場合があるが、(○)印で示すように精細な画像を形成することが判る。試験例Fの場合も、印字レベルは2である。
【0041】
そして、試験例Eから明らかなように、開口幅が1/3未満、網目厚さが1/3になると、印字レベル3になる。この場合には、(×)印で示すように良好な画像にはならないが精細でない粗い画像形成は可能であるか、液滴の飛翔が生じなくなるレベルである。
上記第1の実施形態では、集束超音波(18,18a)を用いる液滴吐出ヘッドにおいて、液滴が吐出する開口部16に上述したような網目構造体であるメッシュ部17を形設する。ここで、メッシュ部17の格子17bは、吐出用の液体に対して濡れ性の低い材料により構成され、開口部16の液面19を覆うようになる。このために、開口部16を広くしても、上記液体の蒸発および漏洩は例えば網目状の格子17bにより大幅に抑制できるようになる。そして、図9および図10(a)を参照して説明した従来の技術における問題は全て解決される。
【0042】
また、この実施形態においては、開口部16の液面19を覆う格子17bが、液面19の振動を抑制するようになる。このために、図9および図10(b)を参照し説明した従来の技術の場合と同様に高速の液滴吐出が可能となる。そして、本実施形態の場合には、液滴を吐出した際のメニスカスの一部が広い開口部16から溢れることはなく、また、格子17bの断面寸法が小さくそしてその濡れ性が低く撥水性があることから、その上面に付着することもない。このようにして、図9および図10(b)を参照して説明した従来の技術における問題が生じることはない。
【0043】
(実施の形態2)
次に、本発明の第2の実施形態について図7および図8を参照して説明する。本実施形態は、複数の圧電素子をアレイ状に配置した液滴吐出ヘッドに、図2および図3で説明したメッシュ部17を適用した一態様である。図7は、上記アレイ状の液滴吐出ヘッドを示す模式的な斜視図である。そして、図8は、本実施形態の好適な一例を示す液滴吐出の先端部の上面図である。
【0044】
図7に示すように、液滴吐出ヘッド30では、水平に延びた矩形板状の基材21を備え、基材21の上面に図中の矢印X方向に延びた複数の引き出し電極22が、矢印Y方向にアレイ状に所定ピッチで形成されている。そして、これらの引き出し電極22を介して、超音波を発生するための圧電素子23が基材21の上面に設けられている。
【0045】
圧電素子23は、図中の矢印Y方向にアレイ状に配列されたセラミック圧電材料からなる圧電体23a、個別電極23b、および共通電極23cが積層して形成されている。各個別電極23bは、基材21の上面に形成された引き出し電極22に対応して設けてある。また、共通電極23cは全ての個別電極23bをカバーするように設けられている。ここで、各個別電極23bと基材21上の各引き出し電極22とが一対一で重ねられて位置合せされ、圧電素子23および基材21の各電極が互いに圧着して電気的に接続されている。
【0046】
各引き出し電極22は、それぞれボンディングワイヤー24を介して、圧電素子23を駆動するための駆動回路25に接続されている。また、共通電極23cは、駆動回路25の図示しないコモン端子に接続されている。更に、各引き出し電極22を接続した駆動回路25には、図示しない信号源から入力される画像信号に基づくバースト波を各個別電極23bに出力する図示しない信号処理部が接続されている。
【0047】
圧電素子23の上には、圧電素子23から発生される超音波をインク保持室26の上蓋26aに形成したスリット27の中央に集束させるための矩形板状のフレネルレンズから成る音響レンズ28が積層されている。この音響レンズ28の上面には、フレネル輪帯理論に基づいて図中の矢印Y方向に延設された複数本の所定ピッチの溝が形成されている。また、上記スリット27も矢印Y方向に延設され、その内部にメッシュ部29が形設されている。
【0048】
そして、上記メッシュ部29は、図8に示すように、スリット27と共に矢印Y方向に延在する例えば矩形の網目29aを有する網目構造になっている。ここで、網目29aは、第1の実施形態で説明したのと同様に、例えば樹脂のようにインク液に対し撥水性を有し濡れ性の低い材料から成る格子29bにより形成される。そして、これらの網目29aおよび格子29bの寸法、その材質等の構造は、例えば図3(a)、(b)で説明したようになっており、第1の実施形態で説明したものと同様に形成される。
【0049】
上記第2の実施形態では、第1の実施形態で説明したのと全く同様な効果が生じる。この場合には、アレイ状の圧電素子23の個別電極23bを駆動回路25により同時に駆動させることにより複数箇所から液滴が同時に吐出される。このように、スリット27における液面の開口面積が増大し複数の液滴が同時に吐出する構造であっても、矢印Y方向に延在するスリット27に網目構造体が形成されることにより上記効果は同様に生じるようになる。
【0050】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明を限定するものでない。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
【0051】
上記実施形態では集束超音波を用いたインクジェットヘッドによる画点形成を念頭に説明しているが、本発明はこのような記録ヘッドに限定されるものではない。その他に、例えば原料液体を反応物質として用いる薄膜形成において、上記原料液体を反応領域に供給する場合の液滴吐出ヘッドとしても使用することができる。その好適な一例としては、いわゆる有機EL(エレクトロルミネセンス)素子用の有機薄膜の成膜における有機の液体原料を供給するための液滴吐出ヘッドが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかる集束超音波方式の液滴吐出ヘッドを示す模式的な縦断面図であって、(a)は凹面の音響レンズが圧電素子に結合した吐出ヘッドの縦断面図、(b)はフレネルレンズが圧電素子に結合した吐出ヘッドの縦断面図。
【図2】本発明の第1の実施形態の好適な一態様における液滴吐出の先端部の上面図。
【図3】本発明の第1の実施形態の好適な一態様における液滴吐出の先端部の断面図であって、(a)は液滴吐出の開口部の網目が円形の場合の断面図、(b)は液滴吐出の開口部の網目が矩形の場合の断面図。
【図4】本発明の第1の実施形態における網目構造体の網目厚さ、開口幅および印字レベルの関係を示すもので、(a)は表、(b)は写真。
【図5】本発明の第1の実施形態における網目開口幅の寸法と印字レベルの関係を示すもので、(a)は表、(b)はグラフ。
【図6】本発明の第1の実施形態における網目厚さの寸法と印字レベルの関係を示すもので、(a)は表、(b)はグラフ。
【図7】本発明の第2の実施形態にかかるアレイ状の液滴吐出ヘッドを示す模式的な斜視図。
【図8】本発明の第2の実施形態の好適な一態様における液滴吐出の先端部の上面図。
【図9】従来の技術における集束超音波方式のインクジェットヘッドを示す模式的な縦断面図。
【図10】従来の技術のインクジェットヘッドにおける液滴吐出の先端部の拡大断面図であって、(a)は液滴吐出の開口部が広い場合の断面図、(b)は液滴吐出の開口部が狭い場合の先端部の断面図。
【符号の説明】
【0053】
10,20,30…液滴吐出ヘッド,11,23…圧電素子,11a,23a…圧電体,11b,11c…電極,12,12a,28…音響レンズ,13,25…駆動回路,14…インク液,15,26a…上蓋,16…開口部,17,29…メッシュ部,18,18a…集束超音波,19…液面,21…基材,22…引き出し電極,23b…個別電極,23c…共通電極,24…ボンディングワイヤー,26…インク保持室,27…スリット,d…網目厚さ,w…網目開口幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を保持する液体保持手段と、
前記液体と音響的に接続した圧電素子を備える超音波発生手段と、
前記圧電素子から発生する超音波を集束させる超音波集束手段と、
前記液体保持手段の一部に設けられ、前記集束された超音波が前記液体の液面から液滴を吐出する吐出口と、を備えた液滴吐出ヘッドにおいて、
前記吐出口は網目構造体に形成され、前記超音波の波長をλとすると網目厚さが(2/3)λ未満および前記網目開口幅が(1/2)λ以上になっていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記網目厚さが(2/3)λ以下であり、前記網目開口幅が(2/3)λ以上であることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記網目厚さが(1/3)λ以下であり、前記網目開口幅が(2/3)λ以上であることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−93918(P2008−93918A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−277205(P2006−277205)
【出願日】平成18年10月11日(2006.10.11)
【出願人】(000113322)東芝ホクト電子株式会社 (172)
【Fターム(参考)】