説明

液滴吐出装置

【課題】残留振動および温度差の不均一性を解消し得る液滴吐出装置を提供する。
【解決手段】複数の圧力室がグループ化され、各グループが異なる吐出可能期間を有し、予め定める印字データに基づいて、吐出可能期間の液体を吐出させるグループに属する圧力室に第1の電圧波形を印加して前記圧力室を拡張させた後、非吐出可能期間のグループに属する圧力室に第2の電圧波形を印加して、液体を吐出させる圧力室を収縮させる制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体材料を液滴化して吐出する液滴吐出装置に関し、特にマルチノズルのシェアモード型インクジェットヘッドの液滴吐出特性の補正技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体を吐出する方法の一つとしてインクジェット方式があり、多数のノズルを配置したマルチノズルのインクジェットヘッド(以下、単に「ヘッド」とも称する)を用いることで、インク材料を紙などの媒体に吐出させて高速に印刷を行う液滴吐出装置(以下、「インクジェット装置」とも称する)が知られている。シェアモード形のインクジェットヘッド(特許文献1参照)は、インクを加圧する圧力室の構造が簡単であり、ノズルの高密度化に優れている。
【0003】
近年では、薄膜形成等の産業用途にインクジェット装置が応用されるようになってきている。たとえば、ガラス基板上にレッド、グリーン、ブルーなどの色材を塗り分けることで、液晶パネルのカラーフィルターの製造に利用されている。また有機ELパネル(EL:Electro Luminescence)の製造工程における発光層や電極の薄膜形成に応用されている。
【0004】
このような産業用塗では、所定の領域に均一に液滴を塗布する必要があり、吐出される液量を数%以下に抑える必要がある。高精細な媒体に対しては、インクジェットヘッドを数百m/秒の高速で走査しながらも、幅が同程度しかない領域に狙いを合わせて液滴を着弾させる必要がある。ノズルから吐出される液滴1つの体積は数ピコリットルから十数ピコリットルであり、液滴の直径は20〜30μm程度である。つまり高精細な媒体に対しては、液滴量の精度と液滴の着弾位置の精度とを、従来の民生用プリンタの精度より格段に高める必要がある。
【0005】
従来技術に係るシェアモード形インクジェットのヘッドである、液滴を吐出できる圧力室を連続的に配置したヘッドは、隣接する圧力室がアクチュエータである隔壁を構造上共有している。前記各圧力室を独立的に駆動させて、たとえば全ての圧力室から同時に液滴を吐出することはできない。したがって、隣接しない圧力室を一つのグループにして、二つあるいは三つ以上のグループに分割して圧力室を駆動する方法が採られている(特許文献2,3参照)。この際、液滴を吐出させる圧力室に正の電圧を印加してアクチュエータである隔壁を該圧力室の容積が拡大する方向に変形させた後、該圧力室の両隣の圧力室に正の電圧を印加して液滴を吐出させる圧力室の容積が縮小する方向に隔壁を変形させる。これにより、圧力室内に充填された液体に圧力波を生じさせ、圧力室の一端に配置したノズルによって液滴化されて吐出される。
【0006】
ところが、高周波数で圧力室を駆動する場合、直前に圧力室自身あるいは隣接する圧力室の駆動履歴によって、吐出される液滴の速度および体積といった吐出特性が影響されるという問題がある。この理由の一つとして、圧力室の駆動に伴う(圧電材料のヒステリシス損による)発熱がある。他の理由として、圧力室の駆動によって残留する圧力波の振動(これを、「残留振動」と呼ぶ)がある。
【0007】
図11は、従来技術に係るインクジェットの駆動方法を説明するためのタイミングチャートである。このため、図11に示すように、吐出しない圧力室とその両隣の圧力室に印加する電圧波形に位相差を設け、吐出しない程度に駆動することで圧力室を加熱し、吐出する圧力室との温度差を解消しようとする技術が提案されている(特許文献4参照)。
【0008】
図12は、従来技術に係るインクジェットの駆動方法を説明するためのタイミングチャートである。図12に示すように、吐出液滴量に階調性を有するインクジェットの駆動方法において、圧力室を縮小させるタイミングを全ての圧力室について同じにすることで、残留振動を均一化しようとする技術も提案されている(特許文献5参照)。
【0009】
【特許文献1】特開昭63−252750号公報
【特許文献2】特開平6−297708号公報
【特許文献3】特開2002−321362号公報
【特許文献4】特表平11−511410号公報
【特許文献5】特開2000−43251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献4に記載の技術では、残留振動の影響については考慮されていないので、高周波数で圧力室を駆動にし難いという問題がある。吐出する圧力室においては、吐出液滴によって、ある程度の熱量をヘッド外部に放出するので、非吐出ノズルにはその分を差し引いた加熱をすべきであるが、電圧波形の位相差による調整方法では、そのような中間調の加熱は難しい。
【0011】
特許文献5に記載の技術では、非吐出の圧力室の駆動方法については述べられておらず、駆動履歴による圧力室の温度差が吐出特性のばらつく原因になるという問題がある。また吐出液量毎に圧力室を拡大させるタイミングが異なるので、残留振動を完全に均一にすることは難しい。
【0012】
本発明の目的は、残留振動および温度差の不均一性を解消し得る液滴吐出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、内部に液体が充填される複数の圧力室と、
圧電材料から成り隣接する圧力室の間を隔てる複数の隔壁と、
前記圧力室内部の隔壁の側面部に設けられる駆動電極と、
前記駆動電極に、電圧波形を印加する駆動手段と、
前記複数の圧力室がグループ化され、各グループが異なる吐出可能期間を有し、予め定める印字データに基づいて、吐出可能期間の液体を吐出させるグループに属する圧力室に第1の電圧波形を印加して液体を吐出させる圧力室を拡張させた後、非吐出可能期間のグループに属する圧力室に第2の電圧波形を印加して、前記液体を吐出させる圧力室を収縮させる制御を行う制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記印字データに基づいて吐出可能期間に液体を吐出させないグループに属する圧力室には、前記第1または第2の電圧波形と異なる電圧値の第3の電圧波形を印加するように制御することを特徴とする液滴吐出装置である。
【0014】
また本発明は、前記第3の電圧波形の電圧値は、前記第1または第2の電圧波形の電圧値よりも小さい電圧値であることを特徴とする。
【0015】
また本発明は、前記第3の電圧波形は、第1の電圧波形と第2の電圧波形との排他的論理和であることを特徴とする。
【0016】
また本発明は、前記制御手段は、印字データに基づく吐出履歴の違いによる液滴の速度の差を少なくするように第3の電圧波形の電圧値を調整することを特徴とする。
【0017】
また本発明は、前記制御手段は、印字データに基づく吐出履歴の違いによる液滴の体積の差を少なくするように第3の電圧波形の電圧値を調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、制御手段は、第1または第2の電圧波形と異なる電圧値の第3の電圧波形を印加する制御を行うので、第1または第2の電圧波形と、第3の電圧波形との組合せにより、アクチュエータである隔壁間に新たに二種類の電位差を作り出すことができる。したがって複数の圧力室に電圧波形を印加する制御の自由度を高め、圧力室に残留する残留振動の均一化を図ることが可能となる。しかも液体を吐出させる圧力室と、液体を吐出させない圧力室との温度差の解消を図ることが可能となる。それ故、各圧力室から液体を吐出させる液量のばらつきを極力抑えることができる。
【0019】
また本発明によれば、第3の電圧波形の電圧値は、第1または第2の電圧波形の電圧値よりも小さい電圧値であるので、吐出させない程度の駆動がし易くなる。
【0020】
また本発明によれば、第3の電圧波形は、第1の電圧波形と第2の電圧波形との排他的論理和であるので、液体を吐出させる圧力室(吐出圧力室と称す)と、液体を吐出させない圧力室(非吐出圧力室と称す)とにおいて、圧力の発生するタイミングを一致させることができる。したがって吐出圧力室と非吐出圧力室との残留振動のモードが同じになり、残留振動の均一化を図ることができる。
【0021】
また本発明によれば、印字データに基づく吐出履歴の違いによる液滴の速度の差を少なくするように第3の電圧波形の電圧値が調整される。連続的に吐出させる圧力室から吐出される液滴と、断続的に吐出させる圧力室から吐出させる圧力室から吐出される液滴との速度差を解消して、着弾位置精度を従来技術のものより向上させることができる。
【0022】
また本発明によれば、吐出履歴の違いによる液滴の体積の差を少なくするように第3の電圧波形の電圧値が調整されるので、連続的に吐出させる圧力室から吐出される液滴と、断続的に吐出させる圧力室から吐出させる圧力室から吐出される液滴との体積差を直接的に解消して、塗布量の均一性を従来技術のものより向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を、複数の形態について説明する。以下の説明においては、各形態で先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する場合がある。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0024】
図1は、本発明の実施の一形態に係る液滴吐出装置1の外観構成を表す斜視図である。以下の説明は、液滴吐出制御方法についての説明をも含む。本液滴吐出装置1は、吸着盤2、主走査方向駆動手段3、キャリッジ4、副走査方向駆動手段5、メンテナンス部6および定盤7を含んで構成される。吸着盤2は、記録媒体であるたとえばガラス基板8を吸着保持する。主走査方向駆動手段3は、吸着盤2に保持されるガラス基板8を、矢符yにて表記する主走査方向に移動させる機能を有する。キャリッジ4は、インクジェットヘッドと、吐出されるべき液体を収容する液体収容タンクとを内蔵する。副走査方向駆動手段5は、キャリッジ4を、矢符xにて表記する副走査方向に移動させるガントリつまり門構造形式の駆動手段である。メンテナンス部6は、キャリッジ4に内蔵されるヘッドをメンテナンスするためのものである。定盤7の一表面部には、各手段および各部が設けられている。
【0025】
吸着盤2には、ガラス基板8が載置される面に開口する複数の孔が形成されている。吸着盤2のうち該孔の開口部の反対側に図示外の吸引装置、たとえば配管、真空ポンプなどが配管接続される。前記吸引装置の吸引動作によって、吸着盤2上に載置されるガラス基板8が吸着保持され、ガラス基板8は吸着盤2と一体的に移動することができる。
【0026】
主走査方向駆動手段3は、主走査方向スライド機構9、リニアサーボモータ、リニアエンコーダおよび主走査駆動制御部を含む。主走査方向スライド機構9は一対のスライドレール9a,9bを備え、一対のスライドレール9a,9bは定盤7上に平行に設けられる。各スライドレール9a(9b)の長手方向が、主走査方向に沿って配設される。主走査方向スライド機構9には、駆動源としてのリニアサーボモータが内蔵されている。リニアエンコーダは、主走査方向スライド機構9の位置状態を検出する。主走査駆動制御部は、リニアサーボモータの駆動動作を制御する。主走査方向駆動手段3は、リニアエンコーダを備えるので、吸着盤2すなわちガラス基板8の移動位置および移動速度を高精度に検出し制御することができる。本実施形態では、主走査方向の移動位置検出分解能は0.2μmである。
【0027】
副走査方向駆動手段5は、ガントリ10、副走査方向スライド機構11、リニアサーボモータおよび副走査駆動制御部を含む。ガントリ10は、吸着盤2およびガラス基板8を主走査方向に直交して跨ぐように設けられる。ガントリ10の梁部10aには、副走査方向スライド機構11が設けられる。前記リニアサーボモータは、副走査方向スライド機構11に係合するキャリッジ4を副走査方向に移動させる。副走査駆動制御部は、リニアサーボモータの駆動動作を制御する。キャリッジ4は、ノズルから液滴を吐出して記録を行うインクジェットヘッドと、吐出されるべき液体を収容する液体収容タンクとを有する。
【0028】
図2は、本実施形態に係るインクジェットヘッド12の分解斜視図である。図3は、インクジェットへッド12の構成を表す図であり、図3(a)は、インクジェットヘッド12の基板を表す斜視図、図3(b)はインクジェット12の断面図である。シェアモード形のインクジェットヘッド12は、圧電セラミックス(略称PZT)などの圧電体の板状体から成る基板13の上面をカバープレート14およびフィルタ15によって被覆する。これとともに基板13の前面に、複数のノズルを形成したノズルプレート16を固定して構成されている。
【0029】
図3(a)に示すように、基板13の上面には、たとえばダイモンドブレードなどを用いた切削加工によって、隔壁17を挟んで溝状の圧力室18が複数並設して形成されている。隔壁17の圧力室18に臨む両面部において、その上半分には、金属電極19がスパッタリングなどによって形成されている。この電極19には、圧力室18毎に駆動電圧波形つまり駆動パルスが印加される。ノズルプレート16には、各圧力室18に対向する位置にノズル16aが形成されている。各圧力室18には、図示外のタンクからフィルタ15およびカバープレート14に形成された孔部14aを経由して吐出されるべき液体が供給される。
【0030】
基板13の上面に並設して形成された各圧力室18は、二つの隔壁17に挟まれて形成されている。基板13を構成する圧電体は、図3(b)矢符zにて表記する基板厚み方向に分極されており、各圧力室18において互いに対向する電極19には同一電位の駆動パルスが印加される。このため、各圧力室18は背面側において深さを浅くされて底面にも電極が形成され、この部分が外部との電気的接続部となる。該電気的接続部は、ワイヤボンディングなどを用いて図示外の駆動回路、および図示外の制御手段に電気的に接続される。前記制御手段は、圧力室18を拡張または収縮させる制御を行う。そして圧力室18個別に駆動パルスが印加できる構成になっている(図6参照)。
【0031】
図4は、インクジェットヘッド12における吐出動作を説明する断面図であり、図4(a)は、連続する三個の圧力室18a,18b,18cのうち中間の圧力室18bから液滴を吐出する前段階の断面図、図4(b)は、前記圧力室18bを形成する隔壁17b,17cが互いに離間する方向に変形した段階の断面図、図4(c)は、前記圧力室18bを形成する隔壁17b,17cが互いに近接する方向に変形した段階の断面図である。図5は、インクジェットヘッド12の電極に印加される駆動パルスを示す図であり、図5(a)は、液滴を吐出する圧力室18bの電極19bに対して、時刻t1から時刻t2までの時間AL第1駆動パルスP1を印加する状態を示す図、図5(b)は、前記圧力室18bの両側に隣接する圧力室18a,18cの電極19a,19cに対して、時刻t2から時刻t3までの時間2AL第2駆動パルスP2を印加する状態を示す図である。図6は、圧力室個別に駆動パルスを印加できる構成を表す図である。
【0032】
図4(a)に示すように、シェアモード型のインクジェットヘッド12において、基板13上に形成された連続する三個の圧力室18a,18b,18cのうち中間の圧力室18bから液滴を吐出する場合を考える。図5(a)に示すように、圧力室18bから液滴を吐出すべき吐出期間である時刻tsから時刻teまでの間において、先ず、時刻t1から時刻t2までの時間AL、図5(a)に示す第1駆動パルスP1を圧力室18bの電極19bに対して印加する。これによって図4(b)に示すように、圧力室18bを形成する隔壁17bおよび隔壁17cが互いに離間する方向に剪断変形し、圧力室18bの容積が拡大することによって、該圧力室18b内に液体が流入する。
【0033】
次に、時刻t2から時刻t3までの時間2ALにおいて、図5(b)に示す第2駆動パルスP2を、圧力室18bの両側に隣接する圧力室18aおよび圧力室18cの電極19aおよび電極19cに印加する。これによって、図4(c)に示すように、圧力室18aを構成する一方の隔壁17bと、圧力室18cを構成する他方の隔壁17cとが互いに隣接する方向に剪断変形し、圧力室18bの容積が縮小することによって、圧力室18b内の液滴がノズルから吐出される。
【0034】
このとき、第1駆動パルスP1の印加時間ALは、容積が拡大した圧力室18bに液体が流入することによる圧力波が圧力室18bの全域を伝播してノズルに達するまでの時間であり、圧力室18bの長さを液体中の音速で除した時間である。これによって、液体の流入によって生じた圧力波を、液滴の吐出に効率的に活用できる。第2駆動パルスP2の印加時間2ALは、圧力室18bが収縮したときに発生する圧力波が圧力室18内を往復伝播する時間である。これによって、収縮した圧力室が復元する際の負圧によって液滴吐出後の残留振動を効率的にキャンセルするためである。しかし、残留振動を完全になくすことは難しい。さらに第2駆動パルスP2の立上がりのタイミングは、第1駆動パルスP1の立ち下がりタイミングに一致させることによって、圧力室が収縮した際に発生する圧力波を液滴の吐出に効率的に活用するようにしている。
【0035】
このように、第1駆動パルスP1の立上がりによって隔壁17に生じる拡大方向の剪断変形による圧力波と、第1駆動パルスP1の立ち下がりおよび第2駆動パルスP2の立上がりによって隔壁17に生じる縮小方向の剪断変形による圧力波との和によって、圧力室18内の液滴を吐出させるようにしている。
【0036】
ところで、このタイプのインクジェットヘッドは、互いに隣接する圧力室を隔てる隔壁を変形させて液滴を吐出するので、隣接する2つの圧力室を同時に動作させることはできない。そこで、並設された圧力室をたとえば三つおきにグループ化して、それぞれ異なる吐出可能な期間を設けて、選択的に駆動されることで、全ての圧力室からの液滴を吐出可能にしている。
【0037】
図7は、本発明の第1の実施形態に係るインクジェットの駆動方法を説明するためのタイミングチャートであり、図7(a)は外部から圧力室18に供給(印加)される電圧波形を示すタイミングチャート、図7(b)はその結果アクチュエータである隔壁17に生じる電位差を示すタイミングチャートである。図7(a)には、第1の電圧波形(Actパルス)、第2の電圧波形(COMパルス)および第3の電圧波形(Nonパルス)を示している。第1の電圧波形としてのActパルスは、選択された吐出可能なグループに属し、かつ、印字データに基づいて液滴の吐出を行う圧力室つまり吐出圧力室に印加される電圧波形である。第2の電圧波形としてのCOMパルスは、選択されていない非吐出期間の圧力室に印加される電圧波形である。第3の電圧波形としてのNonパルスは、選択された吐出可能なグループに属しながら、印字データに基づいて液滴の吐出を行わない圧力室つまり非吐出圧力室に印加される電圧波形である。
【0038】
ここでは、前述したように液滴の吐出を最も効率的に行うために、時刻t2においてActパルスの立下がりとCOMパルスの立上がりのタイミングが一致している場合である。換言すれば、時刻t2においてActパルスの立下がりとCOMパルスの立上がりのタイミングを一致させることで、液滴の吐出を最も効率的に行うことができる。
【0039】
【表1】

【0040】
Nonパルスの電圧値は、ActパルスまたはCOMパルスの電圧値より低く設定されている。またNonパルスの波形形状は、ActパルスおよびCOMパルスのいずれか一方がHighのとき、Highとなるように設定される。この場合では、ActパルスおよびCOMパルスの両方が同時にHighになることはない。この結果、非吐出圧力室の隔壁に生じる隣接圧力室との電位差は、吐出圧力室のそれに比べて全体的に小さい。これによって、誤吐出に対するマージンを確保している。非吐出圧力室の隔壁に生じる隣接圧力室との電位差を、吐出圧力室のそれに比べて全体的に小さくすることで、液滴の誤吐出を防止し得る。
【0041】
電圧波形は、吐出圧力室のものと縦軸(電圧)方向以外は同じ相似形になっている。換言すれば、圧力室を駆動するタイミングが全て一致するので、生じる圧力波の振動モードは同一となる。さらにNonパルスの電圧値を調整することで、残留振動の大きさを同じにすることが可能である。また、吐出圧力室と非吐出圧力室との温度差を少なくすることができる。
【0042】
この理由について、以下に説明する。時刻t2における電圧値の変化であって拡張された圧力室を収縮させる動作によって生じる圧力波は、時刻t1における電圧値の変化(つまり圧力室を拡張する動作)によって発生させた圧力波に共振するように設定されている。逆に、時刻t3における電圧値の変化は、それら圧力波を相殺する方向に設定されている。前記電圧値の変化とは、収縮された圧力室を中立の状態に復元させる動作と同義である。また、それぞれの電圧の変化量は、生じる圧力波の大きさに関係している。
【0043】
そしてNonパルスの電圧値の調整により、前記共振させる圧力波と相殺する圧力の配分を変化させることができる。したがって残留振動の大きさを制御することが可能となる。Nonパルスの電圧調整方法としては、ある圧力室を連続駆動させた場合と断続的に駆動させた場合の吐出液滴の速度の差または体積の差が小さくなるように行われる。これにより、駆動履歴差による圧力室の残留振動または温度の影響を最小化することができる。
【0044】
ところで、圧力室を駆動した場合、圧電体のヒステリシス損による発熱を生じるが、吐出圧力室では吐出される液滴によって一部の熱量が外部に放出される。このため、吐出圧力室と非吐出圧力室との温度差を少なくするためには、吐出圧力室より少ない発熱量にすることが望ましい。発熱量は電圧値にのみ関係しており、電圧変化の方向には影響しないので、NonパルスがActパルスおよびCOMパルスより低い電圧に設定されており、吐出圧力室と非吐出圧力室との温度差を少なくすることができる。
【0045】
本第1の実施形態では、非吐出圧力室と吐出圧力室との残留振動の合わせ込みに重点をおいて制御し、その連鎖的(二次的)な効果として、吐出圧力室と非吐出圧力室との温度差が少なくなる場合を記述したが、これに限定されるものではない。これとは逆に、温度差を少なくすることに重点をおいた制御も可能である。また最も好ましくは、残留振動および温度差双方の影響を同時に解消できるように、換言すれば無視できる程度に、ヘッドおよびインクの少なくともいずれか一方の特性を考慮して、Actパルス、COMパルスおよびNonパルスが全体的に調整されることである。
【0046】
図8は、本発明の第2の実施形態に係るインクジェットの駆動方法を説明するためのタイミングチャートであり、図8(a)は外部から圧力室に供給(印加)される電圧波形を示すタイミングチャート、図8(b)はその結果アクチュエータである隔壁に生じる電位差を示すタイミングチャートである。本第2の実施形態は、図7に示す第1の実施形態と比較して、Actパルスの立下がり(時刻t2)に遅れてCOMパルスの立上がり(時刻t2´)がある場合である。このような駆動パルスの位相差の調整は、吐出効率を多少犠牲にしても、たとえば駆動回路のノイズ対策で効果があるなどの理由から、意図的になされることがある。
【0047】
この場合においては、圧力波の生じるタイミングが一つ増えることで振動モードが多少複雑になるものの、吐出圧力室と非吐出圧力室の残留振動および温度差を解消つまり低減する観点で、基本的に実施形態1と同様の対応と効果を奏する。つまりNonパルスの電圧値は、ActパルスまたはCOMパルスの電圧値より低く設定されている。またNonパルスの波形形状は、ActパルスおよびCOMパルスのいずれか一方がHighのとき、表1に示すようにHighとなるように設定される。この場合では、ActパルスおよびCOMパルスの両方が同時にHighになることはない。
【0048】
この結果、非吐出圧力室の隔壁に生じる隣接圧力室との電位差は、吐出圧力室のそれに比べて全体的に小さい。これによって誤吐出に対するマージンを確保している。非吐出圧力室の電圧波形は、吐出圧力室の電圧波形と相似形になっている。このため、圧力室を駆動するタイミングが全て一致するので、生じる圧力波の振動モードは同一となる。さらに、Nonパルスの電圧値を調整することで、残留振動の大きさを同じにすることが可能である。また吐出圧力室と非吐出圧力室との温度差を少なくすることができる。
【0049】
図9は、本発明の第3の実施形態に係るインクジェットの駆動方法を説明するためのタイミングチャートであり、図9(a)は外部から圧力室に供給(印加)される電圧波形を示すタイミングチャート、図9(b)はその結果アクチュエータである隔壁に生じる電位差を示すタイミングチャートである。本第3の実施形態は、第1の実施形態と比較して、Actパルスの立下がり(時刻t2)に先行してCOMパルスの立上がり(時刻t2´)がある場合である。
【0050】
第3の実施形態においても、第1の実施形態の場合より圧力波の生じるタイミングが一つ増えることで、振動モードが多少複雑になるものの、吐出圧力室と非吐出圧力室の残留振動および温度差を解消するつまり低減する観点で、基本的に実施形態1と同様の対応および効果を奏する。つまり、Nonパルスの電圧値は、ActパルスまたはCOMパルスの電圧値より低く設定されている。Nonパルスの波形形状は、表1に示すように、ActパルスおよびCOMパルスのいずれか一方がHighのときHighとなるように設定される。この場合では、ActパルスおよびCOMパルスの両方が同時にHighになることがあり、Nonパルスの状態はLowに設定される。
【0051】
この結果、非吐出圧力室の隔壁に生じる隣接圧力室との電位差は、吐出圧力室のそれに比べて全体的に小さい。これによって、誤吐出に対するマージンを確保している。第3の実施形態では、非吐出圧力室の電圧波形は、吐出圧力室の電圧波形と相似形にはなっていないが、圧力室を駆動するタイミングが全て一致するので、生じる圧力波の振動モードは同一となる。ただし、時刻t2において、吐出圧力室と非吐出圧力室とで生じる圧力波の作用する方向は異なる。さらにNonパルスの電圧値を調整することで、残留振動の大きさを同じにすることが可能である。また吐出圧力室と非吐出圧力室との温度差を少なくすることができる。
【0052】
図10は、本発明の第4の実施形態に係るインクジェットの駆動方法を説明するためのタイミングチャートであり、図10(a)は外部から圧力室に供給(印加)される電圧波形を示すタイミングチャート、図10(b)はその結果アクチュエータである隔壁に生じる電位差を示すタイミングチャートである。本第4の実施形態は、図7に示す第1の実施形態と比較して、Nonパルスの電圧値がCOMパルスの電圧値より大きい場合である。第4の実施形態においても、吐出圧力室と非吐出圧力室の残留振動および温度差を解消するつまり低減する観点で、基本的に第1の実施形態と対応および効果を奏する。
【0053】
つまりNonパルスの電圧値はActパルスの電圧値より低く設定されている。またNonパルスの波形形状は、表1に示すように、ActパルスおよびCOMパルスのいずれか一方がHighのときHighとなるように設定される。第4の実施形態では、ActパルスおよびCOMパルスの両方が同時にHighになることはない。この結果、非吐出圧力室に生じる隣接圧力室との電位差は、吐出圧力室のそれに比べて全体的に小さい。これによって、誤吐出に対するマージンを確保している。第4の実施形態では、非吐出圧力室の電圧波形は吐出圧力室の電圧波形と相似形にはなっていないが、圧力室を駆動するタイミングが全て一致するので、生じる圧力波の振動モードは同一となる。ただし時刻t3において、吐出圧力室と非吐出圧力室とで生じる圧力波の作用する方向は異なる。さらにNonパルスの電圧値を調整することで、残留振動の大きさを同じにすることが可能である。また吐出圧力室と非吐出圧力室との温度差を少なくすることができる。
【0054】
以上説明した液滴吐出装置1によれば、複数の圧力室18がグループ化され、各グループが異なる吐出可能期間を有し、予め定める印字データに基づいて、吐出可能期間の液体を吐出させるグループに属する圧力室に第1の電圧波形を印加して前記圧力室を拡張させた後、非吐出可能期間のグループに属する圧力室に第2の電圧波形を印加して、液体を吐出させる圧力室を収縮させる制御を行う。第1または第2の電圧波形と、第3の電圧波形との組合せにより、アクチュエータである隔壁間に新たに二種類の電位差を作り出すことができる。したがって複数の圧力室に電圧波形を印加する制御の自由度を高め、圧力室に残留する残留振動の均一化を図ることが可能となる。しかも液体を吐出させる圧力室と、液体を吐出させない圧力室との温度差の解消を図ることが可能となる。それ故、各圧力室から液体を吐出させる液量のばらつきを極力抑えることができる。
【0055】
第3の電圧波形の電圧値は、第1または第2の電圧波形の電圧値よりも小さい電圧値であるので、吐出させない程度の駆動がし易くなる。表1に示すように、第3の電圧波形は、第1の電圧波形と第2の電圧波形との排他的論理和であるので、吐出圧力室と非吐出圧力室とにおいて、圧力の発生するタイミングを一致させることができる。したがって吐出圧力室と非吐出圧力室との残留振動のモードが同じになり、残留振動の均一化を図ることができる。
【0056】
第3の電圧波形であるNonパルスの電圧調整方法として、ある圧力室を連続駆動させた場合と断続的に駆動させた場合の吐出液滴の速度の差または体積の差が小さくなるように行われる。連続的に吐出させる圧力室から吐出される液滴と、断続的に吐出させる圧力室から吐出される液滴との速度差を解消して、液滴の着弾位置精度を従来技術のものより向上させることができる。連続的に吐出させる圧力室から吐出される液滴と、断続的に吐出させる圧力室から吐出させる圧力室から吐出させる液滴との体積差を直接的に解消して、塗布量の均一性を従来技術のものより向上させることができる。
【0057】
記録媒体は、ガラス基板だけに限定されるものではなく、たとえばアクリル樹脂などの樹脂基板を適用することも可能である。前記電気的接続部に接続される駆動回路を含む制御手段を適用することも可能である。この場合であっても、本実施形態と同様の効果を奏する。その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を付加した形態で実施することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施の一形態に係る液滴吐出装置1の外観構成を表す斜視図である。
【図2】本実施形態に係るインクジェットヘッド12の分解斜視図である。
【図3】インクジェットへッド12の構成を表す図であり、図3(a)は、インクジェットヘッド12の基板を表す斜視図、図3(b)はインクジェット12の断面図である。
【図4】インクジェットヘッド12における吐出動作を説明する断面図であり、図4(a)は、連続する三個の圧力室18a,18b,18cのうち中間の圧力室18bから液滴を吐出する前段階の断面図、図4(b)は、前記圧力室18bを形成する隔壁17b,17cが互いに離間する方向に変形した段階の断面図、図4(c)は、前記圧力室18bを形成する隔壁17b,17cが互いに近接する方向に変形した段階の断面図である。
【図5】インクジェットヘッド12の電極に印加される駆動パルスを示す図であり、図5(a)は、液滴を吐出する圧力室18bの電極19bに対して、時刻t1から時刻t2までの時間AL第1駆動パルスP1を印加する状態を示す図、図5(b)は、前記圧力室18bの両側に隣接する圧力室18a,18cの電極19a,19cに対して、時刻t2から時刻t3までの時間2AL第2駆動パルスP2を印加する状態を示す図である。
【図6】圧力室個別に駆動パルスを印加できる構成を表す図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係るインクジェットの駆動方法を説明するためのタイミングチャートであり、図7(a)は外部から圧力室18に供給(印加)される電圧波形を示すタイミングチャート、図7(b)はその結果アクチュエータである隔壁17に生じる電位差を示すタイミングチャートである。
【図8】本発明の第2の実施形態に係るインクジェットの駆動方法を説明するためのタイミングチャートであり、図8(a)は外部から圧力室に供給(印加)される電圧波形を示すタイミングチャート、図8(b)はその結果アクチュエータである隔壁に生じる電位差を示すタイミングチャートである。
【図9】本発明の第3の実施形態に係るインクジェットの駆動方法を説明するためのタイミングチャートであり、図9(a)は外部から圧力室に供給(印加)される電圧波形を示すタイミングチャート、図9(b)はその結果アクチュエータである隔壁に生じる電位差を示すタイミングチャートである。
【図10】本発明の第4の実施形態に係るインクジェットの駆動方法を説明するためのタイミングチャートであり、図10(a)は外部から圧力室に供給(印加)される電圧波形を示すタイミングチャート、図10(b)はその結果アクチュエータである隔壁に生じる電位差を示すタイミングチャートである。
【図11】従来技術に係るインクジェットの駆動方法を説明するためのタイミングチャートである。
【図12】従来技術に係るインクジェットの駆動方法を説明するためのタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0059】
1 液滴吐出装置
17 隔壁
18 圧力室
19 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に液体が充填される複数の圧力室と、
圧電材料から成り隣接する圧力室の間を隔てる複数の隔壁と、
前記圧力室内部の隔壁の側面部に設けられる駆動電極と、
前記駆動電極に、電圧波形を印加する駆動手段と、
前記複数の圧力室がグループ化され、各グループが異なる吐出可能期間を有し、予め定める印字データに基づいて、吐出可能期間の液体を吐出させるグループに属する圧力室に第1の電圧波形を印加して液体を吐出させる圧力室を拡張させた後、非吐出可能期間のグループに属する圧力室に第2の電圧波形を印加して、前記液体を吐出させる圧力室を収縮させる制御を行う制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記印字データに基づいて吐出可能期間に液体を吐出させないグループに属する圧力室には、前記第1または第2の電圧波形と異なる電圧値の第3の電圧波形を印加するように制御することを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項2】
前記第3の電圧波形の電圧値は、前記第1または第2の電圧波形の電圧値よりも小さい電圧値であることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
前記第3の電圧波形は、第1の電圧波形と第2の電圧波形との排他的論理和であることを特徴とする請求項1または2に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記制御手段は、印字データに基づく吐出履歴の違いによる液滴の速度の差を少なくするように第3の電圧波形の電圧値を調整することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
前記制御手段は、印字データに基づく吐出履歴の違いによる液滴の体積の差を少なくするように第3の電圧波形の電圧値を調整することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−23837(P2008−23837A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−198693(P2006−198693)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】