説明

液滴吐出装置

【課題】ステージと液滴吐出ヘッドの各々の振動の計測結果に基づいて、それらの間の相対的な位置関係を高精度に規定でき、簡易な構成で着弾位置ずれを防止して高精度な描画が可能な液滴吐出装置を提供する。
【解決手段】多数のノズルがX方向に沿って配列された液滴吐出ヘッドと、基材Wを搭載してXY方向に移動させるステージ4とを備え、液滴吐出ヘッドのノズルから所定の吐出タイミングに従って吐出された液滴を基材Wに着弾させて描画を行う液滴吐出装置1であって、ステージ4に設けられ該ステージ4の振動を計測する第1の振動計測手段8Aと、液滴吐出ヘッド側に設けられ該液滴吐出ヘッドの振動を計測する第2の振動計測手段8Bと、第1の振動計測手段8Aと第2の振動計測手段8Bの出力の差分からステージ4と液滴吐出ヘッドの間の相対的な変位の大きさを求め、その大きさに従って液滴吐出ヘッドからの液滴の着弾位置を補正する補正手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液滴吐出装置に関し、詳しくは、基材を搭載するステージを移動させた際に発生する振動による液滴の着弾位置ずれを防止して高精度の描画を行うことのできる液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微小な液滴を吐出する液滴吐出ヘッドを用いて基材(ワーク)上に液滴を着弾させることにより描画を行う液滴吐出装置は、半導体回路基板における配線パターンの描画等の産業用途にも広く利用されている。このような用途においては、断線や隣接する配線との短絡が生じることなく液滴をμmオーダーで正確な位置に着弾させる必要があり、その着弾精度に対する要求は近年ますます高まってきている。また、その一方で、生産性の向上を図るために描画の高速化を図り、タクトタイムを短くすることが要請されている。
【0003】
液滴の着弾精度を高める上では、液滴吐出ヘッドと基材との間の相対位置が正確に規定されていることが重要である。しかし、描画の高速化のために基材を搭載するステージの移動を高速に行うようにすると、振動が発生して液滴吐出ヘッドと基材との間の相対位置が乱れる問題がある。
【0004】
これを図8、図9を用いて説明する。
【0005】
例えば石定盤からなる装置基台100は四隅がそれぞれエアサス等の除振機構101を介してペースプレート102上に支持されている。装置基台100の表面には基材Wを搭載するステージ103がY方向(図中の左右方向)に沿って移動可能に設けられている。装置基台100上には、Y方向と直交するX方向(図中の紙面に対する垂直方向)に沿うガントリ104を介して液滴吐出ヘッド105が、ノズル面を下面に向けて取り付けられている。
【0006】
ここで、図8に示す初期位置にあるステージ103が描画のために液滴吐出ヘッド105の下方をY方向に沿って移動すると、その移動開始時の加速によって、移動方向後方側の除振機構101には沈み込む方向の力が作用し、移動方向前方側の除振機構101には浮き上がる方向の力が作用する。除振機構101に作用する各々の力は次に反対方向に作用することで、沈み込みと浮き上がりが交互に繰り返されることとなり、図9に示すように、装置基台100には主としてステージ103の移動方向に沿う方向の振動が発生し、この振動が装置基台100からガントリ104に伝達される。ガントリ104は装置基台100から立設されているため、その上端側がいわゆる振り子のように振動し、このガントリ104に支持されている液滴吐出ヘッド105も大きく振動する。このため、ステージ103上の基材Wと液滴吐出ヘッド105との間の相対的な位置関係が乱れてしまい、着弾位置ずれを発生させてしまう。
【0007】
ステージの移動に伴って発生する振動の影響が収まるまで液滴の吐出を停止してしまうと、タクトタイムが長くなって生産性を悪化させてしまう。また、振動を抑えるためには液滴吐出装置にカウンターマスやアクティブダンパーを設けることも有効であるが、これらは極めて高価な装置であるため、装置コストが大幅に増大化してしまう。このため、タクトタイムが長くならず、簡易な構成によって、このような振動による着弾位置ずれを防止できるようにすることが望まれている。
【0008】
従来、特許文献1には、液滴吐出ヘッドに対して力を付与するアクチュエータを設け、液滴吐出ヘッドの移動速度及び変位を検出する速度センサー及び位置センサーからの信号に基づいて、液滴吐出ヘッドに対して振動方向と逆方向の向きの力を付与するようにアクチュエータを駆動させることで、ステージを移動させた際に発生する液滴吐出ヘッドの振動を打ち消し、着弾位置ずれを防止することが開示されている。
【0009】
また、特許文献2には、液晶パネルを構成する基板に接着剤ペーストを塗布する塗布機であるが、ステージ上に支持された基板上に四角形状のペーストパターンを形成する場合に、ノズルと基板との相対速度が急激に変化する基板のコーナー部を塗布する時の振動によるペーストパターン形状の均一塗布が困難となる問題を解決するために、コーナー部の開始時において、ペーストを塗布するノズルとステージとの相対速度を低下させて振動の影響を抑制すると共に、その相対速度の低下に伴う基板上のペーストの塗布量の増加を、ペーストの吐出圧を低下させることによって補正することで、高精度のペーストパターンを描画できるようにすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−142237号公報
【特許文献2】特開2005−218971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ステージを高速に移動させた場合に発生する振動は、液滴吐出ヘッドを振動させるのみならず、ステージ自身にも影響を与え、ステージ自体の振動も発生させる。しかも、ステージの振動方向及び大きさと液滴吐出ヘッドの振動方向及び大きさとは必ずとも一致していないため、ステージを高速に移動させた場合のステージと液滴吐出ヘッドとの相対的な位置関係を高精度に規定するためには、ステージの振動と液滴吐出ヘッドの振動の両方を考慮する必要がある。
【0012】
しかしながら、特許文献1では、液滴吐出ヘッドに設けたアクチュエータを制御することにより、ステージを移動させた際の液滴吐出ヘッドの振動を打ち消すようにしているだけで、ステージ自体の振動は何ら考慮されていない。従って、ステージを高速に移動させた場合のステージと液滴吐出ヘッドとの相対的な位置関係を高精度に規定することはできず、着弾位置ずれを防止することができない問題がある。
【0013】
また、仮に、ステージの振動を打ち消すようにするために、液滴吐出ヘッドと同様のアクチュエータをステージにも設けたとしても、ステージ側のアクチュエータと液滴吐出ヘッド側のアクチュエータとはそれぞれが振動方向と逆の力を付与するように独立して制御されるだけであるため、制御後のステージの位置と液滴吐出ヘッドの位置とが一致している保証はなく、ステージと液滴吐出ヘッドとの間の相対的な位置関係を高精度に規定することができず、着弾位置ずれを防止できない問題があることに変わりはない。
【0014】
一方、特許文献2は、接着剤ペーストを均一に塗布するための技術であり、半導体回路基板の配線パターンを描画する場合のようなμmオーダーの高精度な着弾位置精度が要求されるものではない。しかも、基板のコーナー部においてノズルと基板との相対速度が急激に変化することによって発生する振動をステージの移動速度を落とすことによって抑制しているものであり、ステージの振動と液滴吐出ヘッド(ノズル)の振動の両方を考慮して、ステージと液滴吐出ヘッドとの相対的な位置関係の乱れを発生させないようにするものではない。従って、このような技術を半導体回路基板の配線パターンの描画等の高精度な描画を行う用途の液滴吐出装置に適用しても、ステージと液滴吐出ヘッドの両方が共に振動することによって発生する着弾位置ずれを防止することはできない問題がある。
【0015】
そこで、本発明は、ステージと液滴吐出ヘッドとの各々の振動の計測結果に基づいて、ステージと液滴吐出ヘッドとの間の相対的な位置関係を高精度に規定できるようにし、簡易な構成で着弾位置ずれを防止して高精度な描画を行うことができる液滴吐出装置を提供することを課題とする。
【0016】
本発明の他の課題は、以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0018】
請求項1記載の発明は、液滴を吐出する多数のノズルがX方向に沿って配列された液滴吐出ヘッドと、基材を搭載して前記X方向及び該X方向と交差するY方向に移動させるステージとを備え、前記液滴吐出ヘッドの前記ノズルから所定の吐出タイミングに従って吐出された液滴を前記基材に着弾させることによって描画を行う液滴吐出装置であって、
前記ステージに設けられ、該ステージの振動を計測する第1の振動計測手段と、
前記液滴吐出ヘッド側に設けられ、該液滴吐出ヘッドの振動を計測する第2の振動計測手段と、
前記第1の振動計測手段と前記第2の振動計測手段の出力の差分から前記ステージと前記液滴吐出ヘッドの間の相対的な変位の大きさを求め、その大きさに従って前記液滴吐出ヘッドから吐出される液滴の着弾位置を補正するための補正手段を備えることを特徴とする液滴吐出装置である。
【0019】
請求項2記載の発明は、前記補正手段は、前記第1の振動計測手段と前記第2の振動計測手段の出力の差分から前記ステージと前記液滴吐出ヘッドの間の相対的な変位のY方向成分を求め、その大きさに従って前記吐出タイミングを変更することを特徴とする請求項1記載の液滴吐出装置である。
【0020】
請求項3記載の発明は、前記ステージと前記液滴吐出ヘッドとの間のX方向に沿う相対位置を変更する相対位置変更手段を有し、
前記補正手段は、前記第1の振動計測手段と前記第2の振動計測手段の出力の差分から前記ステージと前記液滴吐出ヘッドの間の相対的な変位のX方向成分を求め、その大きさに従って前記相対位置変更手段によって前記ステージと前記液滴吐出ヘッドとの間のX方向に沿う相対位置を変更することを特徴とする請求項1又は2記載の液滴吐出装置である。
【0021】
請求項4記載の発明は、前記相対位置変更手段は、前記液滴吐出ヘッドに設けられ、該液滴吐出ヘッドのX方向に沿う位置を調整するアクチュエータによって構成されることを特徴とする請求項3記載の液滴吐出装置である。
【0022】
請求項5記載の発明は、前記第1の振動計測手段及び前記第2の振動計測手段は、加速度センサーによって構成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の液滴吐出装置である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ステージと液滴吐出ヘッドとの各々の振動の計測結果に基づいて、ステージと液滴吐出ヘッドとの間の相対的な位置関係を高精度に規定でき、簡易な構成で着弾位置ずれを防止して高精度な描画を行うことができる液滴吐出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る液滴吐出装置の一例を示す概略斜視図
【図2】液滴吐出装置1における吐出タイミング変更のための要部の構成を示すブロック図
【図3】吐出タイミングと振動との関係を示すタイミングチャート
【図4】着弾精度を補正なしの場合と補正ありの場合とで比較した結果を示すグラフ
【図5】ラインヘッドユニットの底面図
【図6】アクチュエータの駆動部の構成を示すブロック図
【図7】ステージとラインヘッドユニットとのX方向に沿う方向の振動とアクチュエータに与える電圧を示すタイミングチャート
【図8】液滴吐出装置における振動の発生を説明する図
【図9】液滴吐出装置における振動の発生を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0026】
本発明に係る液滴吐出装置は、液滴を吐出する多数のノズルがX方向に沿って配列された液滴吐出ヘッドと、基材を搭載してX方向及び該X方向と交差するY方向に移動させるステージとを備え、液滴吐出ヘッドのノズルから所定の吐出タイミングに従って吐出された液滴を基材に着弾させることによって描画を行う。
【0027】
描画対象となる基材は、ステージ上に搭載されて液滴吐出ヘッドのノズル面に対面し、ステージの移動によって液滴吐出ヘッドのノズル面に対して平行なXY方向に移動しながら、液滴吐出ヘッドから吐出される液滴によって所定の画像が形成されるものであり、例えば、インクを用いることによって一般的な写真や文字、図形等の画像が形成される紙、プラスチックシート等の他、液晶ディスプレイ等に用いられるカラーフィルタ用基板、導電性インクによって配線パターンが形成される半導体回路基板等が挙げられる。
【0028】
基材に対する描画は、ノズルから液滴を吐出する液滴吐出ヘッドに対して基材を搭載したステージのみをY方向(副走査方向)に移動させ、基材上に液滴吐出ヘッドのノズル列の幅に相当する幅で、Y方向に沿う所定のパターンを描画することによって行われる。ステージのX方向(主走査方向)の移動は、液滴吐出ヘッドと基材とのX方向の相対位置の変更のための移動であり、このときは液滴吐出ヘッドから液滴の吐出は行われない。
【0029】
ステージには、そのステージの振動を計測するための第1の振動計測手段がステージに設けられる。また、液滴吐出ヘッド側には、その液滴吐出ヘッドの振動を計測するための第2の振動計測手段が設けられる。これら第1の振動計測手段及び第2の振動計測手段としては、一般に振動計を用いることができるが、中でも、振動を電気的信号として容易に検出できる加速度センサーを用いることが好ましい。
【0030】
加速度センサーを用いる場合は、ステージ又は液滴吐出ヘッドの微細な振動を高精度に計測可能となるように設けることが重要であり、具体的な設置態様としては、例えば、WILCOXON社製のセンサー731−207のように、ステージの振幅のような低周波を測定できるセンサーを4個用意し、液滴吐出ヘッドが固定されているベースプレートのX方向、Y方向の加速度を確認できるように固定する。これらのセンサーの固定時にはX方向、Y方向を部品加工精度を高めて方向を厳密に規定できるようにしてもよいし、調整機構を設けるようにしてもよい。同様にステージ上の描画台の側面にもX方向、Y方向の加速度を確認できるように固定する。以上のようにして厳密に設置すること等が挙げられる。
【0031】
本発明における補正手段は、第1の振動計測手段によって検出された出力と第2の振動計測手段によって検出された出力との差分を算出して液滴吐出ヘッドとステージとの間の相対的な変位の大きさを求め、その求められた変位の大きさに従って液滴吐出ヘッドから吐出される液滴の着弾位置を補正する。
【0032】
このように、単に液滴吐出ヘッドの振動のみならず、第1の振動計測手段によって検出されるステージ側の振動と第2の振動計測手段によって検出される液滴吐出ヘッド側の振動との差分から両者間の相対的な変位の大きさを求め、液滴の着弾位置の補正を行うため、ステージと液滴吐出ヘッドとの両方の振動の計測結果に基づいて両者間の相対的な位置関係を把握することができる。従って、ステージと液滴吐出ヘッドの両方の振動の影響を精密にキャンセルして着弾位置ずれを防止することができ、高精度な描画が可能となる。しかも、外観的にはステージ側と液滴吐出ヘッド側にそれぞれ振動計測手段を設けるだけの構成付加で済むため、簡易に構成することができる。
【0033】
本発明における補正手段による着弾位置の補正には、液滴吐出ヘッドからの液滴の吐出タイミングの変更と、ステージと液滴吐出ヘッドとの間のX方向に沿う相対位置の変更とがあり、これらのいずれか一方によって行うことができるが、問題となる振動は、描画時のステージのY方向に沿う移動によって発生し、主としてY方向に沿う振動であるため、Y方向に沿う方向の着弾位置の補正を行う吐出タイミングの変更を行うことが好ましい。また、ステージの移動に伴う振動には少なからずX方向成分も含まれるため、X方向に沿う方向の着弾位置の補正も可能とするため、両方を組み合わせて行うことがより好ましい。
【0034】
前者の液滴吐出ヘッドからの液滴の吐出タイミングの変更は、第1の振動計測手段によって検出された出力と第2の振動計測手段によって検出された出力との差分からステージと液滴吐出ヘッドの間の相対的な変位のY方向成分を求め、その変位のY方向成分の大きさに従って、液滴吐出ヘッドからの液滴の吐出タイミングを、通常の吐出タイミングに対して所定時間だけ早く又は遅く変更することによって行うことができる。
【0035】
後者のステージと液滴吐出ヘッドとの間のX方向に沿う相対位置の変更は、第1の振動計測手段によって検出された出力と第2の振動計測手段によって検出された出力との差分からステージと液滴吐出ヘッドの間の相対的な変位のX方向成分を求め、その変位のX方向成分の大きさに従って、ステージと液滴吐出ヘッドとの間のX方向に沿う相対位置を、相対位置変更手段によって変更する。
【0036】
ステージと液滴吐出ヘッドとの間のX方向に沿う相対位置の変更は、液滴吐出ヘッドに対してステージのみをX方向に移動させることによって行うこともできるが、相対位置変更手段として液滴吐出ヘッドのX方向に沿う位置を調整するアクチュエータを液滴吐出ヘッドに設け、このアクチュエータを駆動することによって行うこともできる。このような相対位置変更手段は、ヘッドユニットに対する液滴吐出ヘッドのX方向に沿う取り付け位置を微調整するための微調整機構を兼用することができる。これは、X方向に沿う相対位置の変更のためのアクチュエータを格別に装備する必要をなくすことができるために好ましい態様である。
【0037】
複数の液滴吐出ヘッドをヘッドユニットにX方向に沿って配列することによってラインヘッドユニットを構成している場合、微調整機構は各液滴吐出ヘッド毎に個々に独立してX方向に沿う取り付け位置が調整可能となるように設けられていることが好ましい。
【0038】
次に、本発明に係る液滴吐出装置について図面を用いて説明する。
【0039】
図1は、本発明に係る液滴吐出装置の一例を示す概略斜視図であり、液滴吐出装置1は、石定盤からなる装置基台2上に、インクジェット描画を行うための複数の液滴吐出ヘッドがX方向に沿って配列されたラインヘッドユニット3、上面に基材Wを載置して支持するためのステージ4、ステージ4をθ方向に回転移動させるためのθ回転機構5、ステージ4及びθ回転機構5を共にY方向に沿って直線移動させるY移動機構6、ステージ4及びθ回転機構5を共にX方向に沿って直線移動させるX移動機構7、ステージ4に一体に設けられた第1の振動計測手段である加速度センサー8A、ラインヘッドユニット3に一体に設けられた第2の振動計測手段である加速度センサー8Bをそれぞれ備えている。
【0040】
本実施形態では、加速度センサー8A、8Bは、それぞれ振動のX方向成分及びY方向成分を検出可能となるように設けられるが、どちらか一方の成分のみが検出可能に設けられてもよい。
【0041】
なお、ここでは、X方向とY方向とは水平面上で互いに直交する方向である。
【0042】
ラインヘッドユニット3は、装置基台2上の端部近傍においてX方向に沿って装置基台2表面と平行に架設されたガントリ9に、スライダ10及びθ回転機構11を介して取り付けられており、スライダ10がガントリ9に沿ってスライド移動することによりX方向に沿って往復移動し、また、θ回転機構11によって、X、Y方向と直交する法線方向であるZ方向に沿う方向を軸としてθ方向に回転移動し、更に、Z移動機構12によってθ回転機構11と共にZ方向に昇降移動することができるようになっている。
【0043】
なお、ステージ4のX方向、Y方向及びθ方向の各位置座標並びにラインヘッドユニット3のX方向、Z方向及びθ方向の各位置座標は、X移動機構7、Y移動機構6、θ回転機構5、スライダ10、θ回転機構11、Z移動機構12にそれぞれ設けられた位置座標検出手段である不図示のエンコーダによってnmオーダーで高精度に検出可能となるように構成されている。
【0044】
また、図中、13は装置基台2の底面の四隅にそれぞれ配置されたエアサス等の除振機構、14は上面に除振機構13を介して装置基台2を支持するベースプレートである。
【0045】
図2は液滴吐出装置1における吐出タイミング変更のための要部の構成を示すブロック図、図3は吐出タイミングと振動との関係を示すタイミングチャートである。これらを用いて吐出タイミングの変更による着弾位置の補正について説明する。
【0046】
ラインヘッドユニット3に配列される各液滴吐出ヘッドは、ステージ4のY方向の移動によって出力されるエンコーダ出力15に対してパルス変調器16によって所定の変調がかけられた信号に基づいて、ヘッド駆動部17によって生成される吐出タイミング信号に従って吐出制御される。このときの通常の吐出タイミング信号を図3においてT1で示す。
【0047】
一方、加速度センサー8A、8Bの出力信号も、それぞれ増幅器18A、18Bを介してヘッド駆動部17に入力される。
【0048】
ヘッド駆動部17は、パルス変調器16からの信号に対して吐出パルスのタイミングに補正をかけるパルスタイミング演算器171を有し、このパルスタイミング演算器171の出力信号が信号増幅器175によって液滴吐出ヘッドをドライブするための電力に増幅され、この増幅信号がラインヘッドユニット3の各液滴吐出ヘッドに出力され、この出力信号と、描画データに基づく不図示のデータ信号とに基づいて各液滴吐出ヘッドを駆動するようになっている。
【0049】
ここで、加速度センサー8A、8Bからのアナログの出力信号は、ヘッド駆動部17においてそれぞれAD変換器172A、172Bによってデジタル信号に変換された後、両出力信号の差分が差分算出器173において算出される。図3において、加速度センサー8A、8Bからの各振動のY方向成分の出力信号をDy1、両出力信号の差分をDy2で示す。横軸は時間、縦軸は位置を示している。
【0050】
差分算出器173において算出された差分値は、更に二重積分器174において二重積分され、ステージ4とラインヘッドユニット3とのY方向に沿う相対的な変位が求められ、パルスタイミング演算器171に出力される。
【0051】
ステージ4の移動に伴って発生する振動の結果、ステージ4とラインヘッドユニット3とが共に振動して両者間の相対的な位置ずれが発生するため、通常の吐出タイミング信号T1に基づいて液滴を吐出すると、ステージ4とラインヘッドユニット3との間の相対的な変位の大きさに応じて、Y方向に沿って目標位置よりも早く着弾してしまったり遅れて着弾してしまったりすることによって着弾位置のずれが発生してしまう。
【0052】
そこで、パルスタイミング演算器171では、このステージ4とラインヘッドユニット3との相対的な変位の大きさに応じて、この変位を相殺するように通常の吐出タイミング信号T1に対して補正をかけ、通常の吐出タイミングに対して早く又は遅くした補正後の吐出タイミング信号T2を生成し、この補正後の吐出タイミング信号T2を信号増幅器175によってヘッドユニット3の各液滴吐出ヘッドをドライブするための電力に増幅し、ラインヘッドユニット3の各液滴吐出ヘッドに対して出力する。
【0053】
これにより、ステージ4がY方向に移動することによって発生するステージ4とラインヘッド3との間の相対的な位置関係の乱れによって生じるY方向の着弾位置ずれが補正され、ラインヘッドユニット3から吐出される液滴を基材W上のY方向に沿う方向に高精度に着弾させることができる。
【0054】
図4は、基材W上に500μmピッチで描画した際の着弾精度を補正なしの場合と補正ありの場合とで比較した結果を示すグラフである。同図に示すように、本発明によって補正をかけた場合は、補正をかけない場合に比べて、目標とする500μmピッチの位置に着弾する頻度が高くなっており、高い着弾精度を確保できていることがわかる。
【0055】
次に、ステージ4とラインヘッドユニット3との間のX方向に沿う相対位置の変更を、ラインヘッドユニット3における各液滴吐出ヘッドのX方向に沿う取り付け位置を微調整することによって行う場合について説明する。
【0056】
ここでラインヘッドユニット3の構造について説明する。図5はラインヘッドユニット3の底面図であり、ラインヘッドユニット3は、一枚の大判なベース部材であるベースプレート31の下面に多数の液滴吐出液滴吐出ヘッドHが個別に取り付け固定され、その下方に配置されるステージ4上の基材Wの表面と対向可能となるように配置されている。
【0057】
ここでは、12個の液滴吐出ヘッドHが、各ノズル列をX方向に沿わせ、且つ、各ノズルが均等ピッチとなるように2列に千鳥状に配列されており、これによりX方向に沿って長尺な記録幅を有するラインヘッドを構成している。
【0058】
ベースプレート31には一般に金属材が使用される。金属材としてはSUSを用いることもできるが、液滴吐出ヘッドHの取り付け位置精度を高精度に保つ要請からは、インバー材やノビナイト等の低熱膨張材が好ましく使用される。ベースプレート31は、液滴吐出ヘッドHの配列方向に沿う2列の開口枠32を有しており、その開口枠32内にヘッド取り付け部であるヘッド固定プレート33が、液滴吐出ヘッドHを個別に取り付け可能とするべく該液滴吐出ヘッドHと同数配置されている。
【0059】
各ヘッド固定プレート33は、液滴吐出ヘッドHのノズル列方向(図中X方向)の両側端辺における一方端辺において、該液滴吐出ヘッドHのノズル列方向に間隔をおいて配置された同一長さの2本の弾性ヒンジ34によってベースプレート31と一体に連結され、該ベースプレート31に保持されている。各ヘッド固定プレート33は、この弾性ヒンジ34のみでベースプレート31と繋がっており、それ以外の部位は開口枠32内においてベースプレート31から離間している。
【0060】
なお、図中、一つのヘッド固定プレート33は液滴吐出ヘッドHを取り付け前の状態が示されている。
【0061】
各ヘッド固定プレート33の他方端辺側の開口枠32内には、ベースプレート31との間にそれぞれアクチュエータ35が配置され、各ヘッド固定プレート33に対してアクチュエータ35がY方向に沿って並設されている。アクチュエータ35にはピエゾ素子が用いられており、印加電圧に応じて伸長動作する。ここでは、各ヘッド固定プレート33の他方端辺側の1つの隅角部において、液滴吐出ヘッドHのノズル列方向と交差する側方(図中Y方向)である開口枠32の内周に向けて張り出した押圧操作部となる突出部331が形成されており、一方、ベースプレート31には、開口枠32の内周から図中Y方向に沿いヘッド固定プレート33に向けて張り出した突出部311が形成されており、これらの突出部331、311の間で、図中X方向に沿う方向、すなわち液滴吐出ヘッドHのノズル列方向に対して平行な横方向の押圧力を作用させるようになっている。
【0062】
これらベースプレート31の開口枠32内に設けられたヘッド固定プレート33、弾性ヒンジ34、突出部311、331、アクチュエータ35によって、液滴吐出ヘッドHの取り付け位置を微調整するための微調整機構を構成している。この微調整機構は、アクチュエータ35の伸長動作によって突出部331に対して所定の押圧力を作用させると、ヘッド固定プレート33にはX方向に沿う横方向(水平方向)の力が作用し、この力によって2本の弾性ヒンジ34が微小に撓み変形して均等に傾倒することで、ヘッド固定プレート33のX方向への平行度を維持したまま、すなわち、液滴吐出ヘッドHのノズル列方向がX方向に対してなす角度を維持したまま、液滴吐出ヘッドHのX方向の位置が微調整されるようになっている。反対にアクチュエータ35が収縮動作すると、ヘッド固定プレート33は、弾性ヒンジ34が弾性復帰することによって元の位置に戻る。
【0063】
この微調整機構は、ラインヘッドユニット3を構成する各液滴吐出ヘッドHのX方向に沿う取り付け位置が適正位置となるように、予め各アクチュエータ35にそれぞれ適正電圧が与えられている。
【0064】
なお、332は、液滴吐出ヘッドHを取り付けるためにヘッド固定プレート33に形成された取り付け孔、36は、液滴吐出ヘッドHをヘッド固定プレート33に取り付ける取り付けビスである。
【0065】
図6はアクチュエータ35の駆動部の構成を示すブロック図、図7はステージ4とラインヘッドユニット3とのX方向に沿う方向の振動とアクチュエータ35に与える電圧を示すタイミングチャートである。
【0066】
各アクチュエータ35には、予め演算器19によって各液滴吐出ヘッドHのX方向の取り付け位置を微調整するための適正電圧信号が生成され、DA変換器20によって電圧値に変換された後に印加される。各アクチュエータ35の位置は変位センサー21によって監視され、演算器19にフィードバックされる。これによりラインヘッドユニット3における各液滴吐出ヘッドHのX方向に沿う相対的な取り付け位置は適正位置に調整される。この調整作業は、ラインヘッドユニット3を液滴吐出装置1に装着する際に既に実施されている。
【0067】
一方、ステージ4の移動に伴って発生する振動のX方向成分は、Y方向成分の場合と同様にして加速度センサー8A、8Bによって検出され、両者の差分からステージ4とラインヘッドユニット3とのX方向に沿う相対的な変位が求められる。図6において、加速度センサー8A、8Bからの各振動のX方向成分の出力信号をDx1、両出力信号の差分をDx2で示す。横軸は時間、縦軸は位置を示している。
【0068】
図6に示すように、DA変換器20からの電圧値は加算器22を介して各アクチュエータ35に与えられる。この加算器22には、ステージ4とラインヘッドユニット3とのX方向に沿う相対的な変位の値が与えられ、各アクチュエータ35に出力される電圧値に対して、このステージ4とラインヘッドユニット3とのX方向に沿う相対的な変位の大きさに応じて、この変位を相殺するような補正電圧値Vを生成し、各アクチュエータ35に対して等しく印加する。従って、ラインヘッド3を構成する各液滴吐出ヘッドHは、X方向に沿う方向に同一量だけ微調整される。
【0069】
これにより、ステージ4がY方向に移動することによって発生するステージ4とラインヘッドユニット3との間の相対的な位置関係の乱れによって生じるX方向の着弾位置ずれが補正され、ラインヘッドユニット3から吐出される液滴を基材W上のX方向に沿う方向に高精度に着弾させることができる。各液滴吐出ヘッドHは同一量だけ微調整されるので、各液滴吐出ヘッドH相互間の取り付け位置に変更は生じない。
【0070】
液滴吐出装置1は、以上のY方向に沿う着弾位置ずれの補正とX方向に沿う着弾位置ずれの補正の両方を同時に行うことにより、XY方向の着弾位置ずれを防止することができ、より高精度な描画を実現することができる。
【符号の説明】
【0071】
1:液滴吐出装置
2:装置基台
3:ラインヘッドユニット
4:ステージ
5:θ回転機構
6:Y移動機構
7:X移動機構
8A、8B:加速度センサー
9:ガントリ
10:スライダ
11:θ回転機構
12:Z移動機構
13:除振機構
14:ベースプレート
15:ステージエンコーダ出力
16:パルス変調器
17:ヘッド駆動部
18A、18B:増幅器
19:演算器
20:DA変換器
21:変位センサー
22:加算器
H:液滴吐出ヘッド
W:基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出する多数のノズルがX方向に沿って配列された液滴吐出ヘッドと、基材を搭載して前記X方向及び該X方向と交差するY方向に移動させるステージとを備え、前記液滴吐出ヘッドの前記ノズルから所定の吐出タイミングに従って吐出された液滴を前記基材に着弾させることによって描画を行う液滴吐出装置であって、
前記ステージに設けられ、該ステージの振動を計測する第1の振動計測手段と、
前記液滴吐出ヘッド側に設けられ、該液滴吐出ヘッドの振動を計測する第2の振動計測手段と、
前記第1の振動計測手段と前記第2の振動計測手段の出力の差分から前記ステージと前記液滴吐出ヘッドの間の相対的な変位の大きさを求め、その大きさに従って前記液滴吐出ヘッドから吐出される液滴の着弾位置を補正するための補正手段を備えることを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項2】
前記補正手段は、前記第1の振動計測手段と前記第2の振動計測手段の出力の差分から前記ステージと前記液滴吐出ヘッドの間の相対的な変位のY方向成分を求め、その大きさに従って前記吐出タイミングを変更することを特徴とする請求項1記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
前記ステージと前記液滴吐出ヘッドとの間のX方向に沿う相対位置を変更する相対位置変更手段を有し、
前記補正手段は、前記第1の振動計測手段と前記第2の振動計測手段の出力の差分から前記ステージと前記液滴吐出ヘッドの間の相対的な変位のX方向成分を求め、その大きさに従って前記相対位置変更手段によって前記ステージと前記液滴吐出ヘッドとの間のX方向に沿う相対位置を変更することを特徴とする請求項1又は2記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記相対位置変更手段は、前記液滴吐出ヘッドに設けられ、該液滴吐出ヘッドのX方向に沿う位置を調整するアクチュエータによって構成されることを特徴とする請求項3記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
前記第1の振動計測手段及び前記第2の振動計測手段は、加速度センサーによって構成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−269467(P2010−269467A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121213(P2009−121213)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】