説明

液滴吐出装置

【課題】スキャンを行う際に、液滴吐出ヘッドにおける液体の圧力変動を抑制する。
【解決手段】インク液滴を吐出するインクジェットヘッド2と、インクが貯留されるインクタンク3と、を備えるインクジェットプリンタにおいて、走査方向Sにおいてインクジェットヘッド2の中心とインクタンク3の中心とを、走査方向Sに垂直な略同一平面状に配置する。これにより、インクジェットヘッド2に対するインクタンク3の走査方向Sにおけるシフト量が微小またはゼロとなるため、スキャンを行う際に、インクジェット2ヘッドにおけるインクの圧力変動を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液滴を吐出する液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出する液滴吐出ヘッドと液体を貯留する液体貯留タンクとが一つのキャリッジに搭載されるオンキャリッジタンク方式の液体吐出装置では、液体貯留タンクの上部空間を負圧制御するなどして液滴吐出ヘッドの圧力調整を行い、液滴吐出ヘッドに供給された液体の圧力を指定水頭の許容範囲内に保持している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−088564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような液体吐出装置を用いて、粘度の高いインクやオイル、微粒子が含まれる液体などを吐出する場合は、ノズル詰まりや吐出不良を防止するために、ノズル径を大きくする必要がある。しかしながら、ノズル径を大きくすると、液体吐出ヘッドが適正に吐出できる水頭(圧力)の許容範囲が狭くなる。しかも、スキャンを行うためにキャリッジを走査方向に移動させると、液体に働く慣性力により圧力変動が生じるため、液滴吐出ヘッドの圧力調整が難しくなるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、スキャンを行う際に、液滴吐出ヘッドにおける液体の圧力変動を抑制することができる液滴吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究した結果、液滴吐出ヘッドにおける液体の圧力変動は、液滴吐出ヘッドに対する液体貯留装置の走査方向におけるシフト量(ズレ量)が大きく影響しているとの知見に至った。
【0007】
すなわち、液滴吐出ヘッドにおける液体の圧力変動は、キャリッジを走査方向に移動させると、液体貯留装置と液滴吐出ヘッドとを連通する流路内の液体には、走査方向の反対方向に慣性力が働くため、流路内で液体の圧力変動が生じる。しかしながら、この流路が走査方向において折り重なっていると、流路内でインクの慣性力が相殺される。このため、液滴吐出ヘッドにおける液体に作用する圧力変動は、実質的に、液滴吐出ヘッドに対する液体貯留装置の走査方向におけるシフト量に相当する液体の慣性力によるものであることが分かった。
【0008】
このような知見に鑑み、本発明に係る液体吐出装置は、液滴が吐出される複数のノズルを有する液滴吐出ヘッドと、液滴吐出ヘッドに供給する液体を貯留する液体貯留容器と、を備え、液滴吐出ヘッドを走査方向にスキャンしながら液滴吐出ヘッドから液体を吐出する液体吐出装置であって、走査方向において液滴吐出ヘッドの中心と液体貯留容器の中心とが所定の範囲内に配置されていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る液滴吐出装置によれば、走査方向において液滴吐出ヘッドの中心と液体貯留容器の中心とが所定の範囲内に配置することで、液滴吐出ヘッドに対する液体貯留装置の走査方向におけるシフト量を小さくすることができる。これにより、スキャンを行う際に、液滴吐出ヘッドにおける液体の圧力変動を抑制することができる。
【0010】
この場合、走査方向における液滴吐出ヘッドの中心と液体貯留容器の中心とは、ノズルに供給された液体の圧力が、液滴吐出ヘッドにおける指定水頭の許容範囲内となる範囲内に配置されていることが好ましい。このように、液滴吐出ヘッドと液体貯留容器を配置することで、ノズルに供給された液体のメニスカスを適切に保持することができる。
【0011】
そして、走査方向における液滴吐出ヘッドの中心と液体貯留容器の中心とは、走査方向に垂直な略同一平面上に配置されることが更に好ましい。このように、液滴吐出ヘッドと液体貯留容器を配置することで、液滴吐出ヘッドに対する液体貯留装置の走査方向におけるシフト量を微小又はゼロにすることができる。これにより、スキャンを行う際に、液滴吐出ヘッドにおける液体の圧力変動をより適切に抑制することができる。
【0012】
また、液滴吐出ヘッドには、複数のノズルに連通される共通流路が形成されており、液体貯留容器と共通流路の一方端部とを連通する第1の流路と、共通流路の他方端部と液体貯留容器とを連通する第2の流路と、第1の流路を通って液体貯留容器から共通流路の一方端部に液体を送るととともに、第2の流路を通って共通流路の他方端部から液体貯留容器に液体を送り、液体貯留容器と液滴吐出ヘッドとの間で液体を循環させる循環手段と、を更に備えることが好ましい。このように、第1の流路により液体貯留容器と共通流路の一方端部とが連通され、第2の流路により共通流路の他方端部と液体貯留容器とが連通されるため、循環手段を駆動させることで、液体貯留容器から液滴吐出ヘッドに供給される液体を、液体貯留容器、第1の流路、共通流路及び第2の流路を通る流路内で循環させることができる。これにより、例えば、高粘度の液体を用いた場合は、液体の移動を停止させることなく移動させ続けることができ、更に微粒子を含む液体を用いた場合は、微粒子の沈殿や沈降を抑制することができる。
【0013】
そして、液体貯留容器から第1の流路に液体が流出する流出口は、走査方向において液体貯留容器の略中心に配置されていることが好ましい。液体貯留容器が走査方向に移動すると、液体貯留容器内では、走査方向と反対方向への慣性力が働いて液体が揺れ圧力変動が生じるが、走査方向において液体貯留容器の略中心は液位の変動が少なく圧力変動が小さい。そこで、液体貯留容器の流出口を、走査方向において液体貯留容器の略中心に配置することで、液体貯留容器内の液体の揺れに伴う圧力変動の影響が、液滴吐出ヘッドに供給される液体に与える影響を最小限に抑えることができる。
【0014】
また、第2の流路から液体貯留容器に液体が流入する流入口は、走査方向において液体貯留容器の略中心に配置されていることが好ましい。液体貯留容器と液滴吐出ヘッドとの間で液体を循環させる場合に、液体貯留容器の流入口を、走査方向において液体貯留容器の略中心に配置することで、液体の揺れに伴う圧力変動の影響が、液滴吐出ヘッド供給される液体に与える影響を最小限に抑えることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、スキャンを行う際に、液滴吐出ヘッドにおける液体の圧力変動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成図である。
【図2】インクジェットヘッドとインクタンクとの配置を示す図である。
【図3】実施例のインクジェットプリンタの配置を示した図である。
【図4】比較例のインクジェットプリンタの配置を示した図である。
【図5】実施例の計測結果を示した図である。
【図6】比較例の計測結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明に係る液体吐出装置の好適な実施形態について詳細に説明する。本実施形態は、本発明に係る液体吐出装置を、液滴吐出装置であるインクジェットプリンタに適用したものである。なお、同一又は相当部分には同一符号を付すこととする。
【0018】
図1は、実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成図である。図1に示すように、インクジェットプリンタ1は、インクジェットヘッド2と、インクタンク3と、供給流路4と、還元流路5と、圧力センサ6と、差圧発生装置7と、を備えている。
【0019】
インクジェットヘッド2は、インク液滴を吐出するものである。このインクジェットヘッド2には、インク液滴が吐出される複数のノズル2aと、各ノズル2aに連通されて各ノズル2aに分配供給するインクが流れる共通インク流路2bと、が形成されている。なお、各ノズル2aは、図2記載の走査方向Sに垂直な方向に1列又は複数列に配列されている。このインクジェットヘッド2は、走査方向において往復移動可能に取り付けられたキャリッジ(不図示)に搭載されている。そして、キャリッジの走査方向への移動時に各ノズル2aからインク液滴を吐出することで、スキャンが行われる。
【0020】
インクタンク3は、インクジェットヘッド2に供給するインクが貯留されたインク容器である。そして、インクタンク3は、インクジェットヘッド2と同様にキャリッジ(不図示)に搭載されており、インクジェットヘッド2と一体となってスキャンが行われる。なお、インクタンク3は、バッファなどのように、インクジェットヘッド2に供給するインクの圧力変動を緩和するために微小なインクを一時的に貯留するものではなく、ある程度の容量のインクを貯留する所謂メインタンクである。そして、このインクタンク3は、インクジェットプリンタ1の使用状況に応じて、適宜インクを補充することが可能となっている。
【0021】
このインクタンク3には、供給流路4にインクが流出する流出口3aと、還元流路5からインクが流入する流入口3bと、が形成されている。なお、インクタンク3には、図示しないポンプなどの負圧制御装置が連結されており、ノズル部分におけるインクの圧力がインクジェットヘッド2の指定する水頭値の許容範囲内となるように、インクタンク3の上部空間が負荷制御されている。
【0022】
このインクタンク3内には、インクタンク3内を上部領域と下部領域とに分割する仕切板8が設けられている。この仕切板8は、インクタンク3の内壁面に密着された薄い円板状に形成されており、中央において上部領域と下部領域とを連通する中央開口8aと、周縁部において上部領域と下部領域とを連通する複数の周縁開口8bとが形成されている。
【0023】
供給流路4は、インクタンク3とインクジェットヘッド2とを連通して、インクタンク3に貯留されたインクをインクジェットヘッド2に供給するための流路である。この供給流路4は、細長い管状部材(チューブ)で構成されており、インクタンク3の流出口3aと、共通インク流路2bの一方端部2cとに接続されている。このため、インクタンク3内のインクは、流出口3aから供給流路4に流出され、更に、一方端部2cから共通インク流路2bに供給されることが可能となっている。
【0024】
還元流路5は、インクジェットヘッド2とインクタンク3とを連通して、インクジェットヘッド2に貯留されたインクをインクタンク3に還元するための流路である。この還元流路5は、細長い管状部材(チューブ)で構成されており、共通インク流路2bの他方端部2dと、インクタンク3の流入口3bとに接続されている。このため、共通インク流路2bに供給されたインクは、一方端部2cから供給流路4に排出され、更に、流入口3bからインクタンク3内に戻されることが可能となっている。
【0025】
圧力センサ6は、インクジェットヘッド2の一方端部2cの直上の供給流路に配置され、流路内のインク圧力を検出するセンサである。
【0026】
なお、本実施形態の方式は、インクの圧力を直接モニタすることによりタンク上部空間の圧力を制御してノズル部分の圧力を所定の範囲内に収まるようにしているが、本方式以外に、インクタンクの上部空間の圧力を制御し、ノズル部分の圧力を上記範囲内にしてもよい。
【0027】
差圧発生装置7は、インクタンク3に貯留されているインクに差圧を発生させて、インクタンク3、供給流路4、インクジェットヘッド2の共通インク流路2b及び還元流路5を通るインク流路内でインクを循環させるものである。この差圧発生装置7は、インクタンク3の内側であって仕切板8の下方に配置されるインペラ7aと、インクタンク3の外側に配置されてインペラ7aを回転駆動する駆動装置7bと、を備えている。なお、差圧発生装置7は、カップリング磁石などを用いることで、インクタンク3の外側に配置された駆動装置7bにより、インクタンク3の内側に配置されたインペラ7aを回転させることができる。
【0028】
そして、駆動装置7bによる回転駆動によりインペラ7aが回転すると、インクタンク3内のインクは、インペラ7aにより半径方向外側に向けて押し出され、仕切板8の周縁開口8bを通ってインクタンク3の下部領域から上部領域に上昇し、仕切板8の中央開口8aを通ってインクタンク3の上部領域から下部領域に下降する。このように、インペラ7aの回転によりインクタンク3内でインクが循環されることで、インクタンク3内のインクが攪拌され、例えば微粒子を含む液体であってもその沈殿や沈降を防ぐことができる。
【0029】
また、インペラ7aの回転によりインクが回転方向外側に押し出されることにより、インペラ7a外周部のインク圧が最も高くなるので、下部領域に配置された流出口3aと上部領域に配置された流入口3bとの間に差圧が発生する。これにより、流出口3aからインクが流出して流入口3bからインクが流入するため、インクが、インクタンク3、供給流路4、共通インク流路2b及び還元流路5を通るインク流路を循環する。
【0030】
図2は、インクジェットヘッドとインクタンクとの配置を示す図である。図2に示すように、本実施形態に係るインクジェットプリンタ1は、インクジェットヘッド2とインクタンク3とが、走査方向Sにおいて、それぞれの中心が所定の範囲内となるように配置されている。すなわち、図2(a)に示すように、走査方向Sにおいて、インクジェットヘッド2の中心Aとインクタンク3の中心Bとが同じ位置に配置され、又は、図2(b)(c)に示すように、走査方向Sにおける前後方向おいて、インクジェットヘッド2の中心Aに対してインクタンク3の中心Bが所定範囲内でシフトして(ずれて)配置されている。走査方向Sにおけるインクジェットヘッド2の中心とは、走査方向Sにおけるノズル2aの中心を意味している。この場合、ノズル2aが1列のノズル列に配列されている場合は、当該ノズル列の中心を意味し、ノズル2aが複数列のノズル列に配列されている場合は、走査方向Sにおいて最前方のノズル列と最後方のノズル列の中心を意味する。
【0031】
走査方向Sにおいて、インクジェットヘッド2の中心Aに対するインクタンク3の中心Bのシフト量の許容範囲は、インクジェットヘッド2とインクタンク3とが一体的に搭載されたキャリッジが走査方向Sに移動してスキャンする際に、インクジェットヘッド2におけるインク圧が、インクジェットヘッド2が指定する許容水頭の範囲内となる。
【0032】
ところで、スキャンするためにキャリッジを走査方向Sに移動すると、インクは走査方向Sの反対方向に慣性力が働くため、インク流路でインクの圧力変動が生じる。しかしながら、供給流路4及び還元流路5では、走査方向Sにおいて折り重なっている部分では、互いに圧力が相殺される。このため、インクジェットヘッド2におけるインクに作用する圧力変動は、実質的に、走査方向Sにおけるインクジェットヘッド2とインクタンク3とのシフト量に相当するインクの慣性力によるものと考えられる。
【0033】
一方、インクジェットヘッド2が指定する許容水頭は、吐出するインクの表面張力などの物性、ノズル2aの径などによって特定される。すなわち、インクの表面張力が低いと許容水頭の範囲が狭くなり、ノズル2aの径が大きくなると許容水頭の範囲が狭くなる傾向がある。
【0034】
また、圧力損失や配管の弾性などの外乱を除くと、原理的には、スキャンによるインクジェットヘッド2におけるインクの圧力変動量は、例えば、インクジェットヘッド2に対するインクタンク3のシフト量と、インクの密度と、スキャンの最大加速度とを掛け合わせた値となる。なお、この外乱には、例えば、流路の圧力損失、配管弾性、インクの粘度、液面変動(波)、圧力センサ6のレスポンス(応答速度)、配管長の差や設置における位置寸法誤差などが挙げられる。また、供給流路と還元流路とに圧力損失の差があると、流れが発生したときに、供給側と還元側とに圧力差が発生し外乱となるので注意が必要である。
【0035】
そこで、スキャンによるインク圧の変動が、インクの表面張力、ノズル2aの径などによって特定されるインクジェットヘッド2許容水頭の範囲内となるように、インクジェットヘッド2の中心Aに対するインクタンク3の中心Bの最大シフト量を設定する。
【0036】
なお、上述した理由から、図2(a)に示すように、走査方向Sにおいてインクジェットヘッド2の中心Aとインクタンク3の中心Bとが同じ位置、すなわち、インクジェットヘッド2の走査方向Sにおける中心Aとインクタンク3の走査方向Sにおける中心Bとが走査方向Sに垂直な略同一平面上に配置される場合に、インクジェットヘッド2におけるインクに作用する圧力変動が最も小さくなる。
【0037】
次に、本実施形態に係るインクジェットプリンタ1の動作について説明する。
【0038】
まず、差圧発生装置7の駆動装置7bを回転駆動して、インペラ7aを回転させる。これにより、インクタンク3内のインクは、流出口3aからインク流出されるとともに、流入口3bからインクが流入されるため、インクタンク3、供給流路4、共通インク流路2b及び還元流路5を通るインク流路を循環する。
【0039】
インクが十分に循環されると、キャリッジを走査方向Sに往復移動させてスキャンを行う。
【0040】
すると、インクタンク3では、キャリッジの移動に伴う加速度によりインクに慣性力が働くため、インクが揺れて液面が変動する。そして、キャリッジの移動方向前方は液面が低下して圧力が低下し、キャリッジの移動方向後方は液面が上昇して圧力が上昇するが、キャリッジの移動方向中央部は、液面の変動が小さく圧力変動も小さい。このため、インクタンク3の流出口3aから供給流路4に流出するインクは、インクタンク3内のインクの揺れに伴う圧力変動の影響を殆ど受けない。同様に、流入口3bからインクタンク3に流入する還元流路5のインクは、インクタンク3内のインクの揺れに伴う圧力変動の影響を殆ど受けない。
【0041】
また、インクタンク3から供給流路4に流出されたインクは、インクジェットヘッド2における共通インク流路2bの一方端部2cに供給されるが、走査方向Sにおいてインクタンク3の中心とインクジェットヘッド2の中心とが同じ位置に配置されているため、キャリッジの移動に伴う加速度に発生した慣性力が供給流路4内で相殺される。このようにしてインクに発生した圧力変動が小さく抑えられた状態で、供給流路4から共通インク流路2bの一方端部2cにインクが供給される。
【0042】
以上説明したように、本実施形態に係るインクジェットプリンタ1によれば、走査方向Sにおいてインクジェットヘッド2の中心とインクタンク3の中心とが所定の範囲内となるように配置することで、インクジェットヘッド2に対するインクタンク3の走査方向Sにおけるシフト量を小さくすることができる。これにより、スキャンを行う際に、インクジェットヘッド2におけるインクの圧力変動を抑制することができる。
【0043】
この場合、走査方向Sにおけるインクジェットヘッド2の中心に対するインクタンク3の中心のシフト量を、ノズル2aに供給されたインクの圧力が、インクジェットヘッド2における指定水頭の許容範囲内となる範囲内とすることで、ノズル2aに供給されたインクのメニスカスを適切に保持することができる。
【0044】
そして、走査方向Sにおけるインクジェットヘッド2の中心とインクタンク3の中心とを走査方向Sに垂直な略同一平面上に配置することで、インクジェットヘッド2に対するインクタンク3の走査方向におけるシフト量を微小またはゼロにすことができる。これにより、スキャンを行う際に、インクジェットヘッド2におけるインクの圧力変動をより適切に抑制することができる。
【0045】
また、供給流路4によりインクタンク3と共通インク流路2bの一方端部2cとが連通され、還元流路5により共通インク流路2bの他方端部2dとインクタンク3とが連通されるため、差圧発生装置7を駆動させることで、インクタンク3からインクジェットヘッド2に供給されるインクを、インクタンク3、供給流路4、共通インク流路2b及び還元流路5を通る流路内で循環させることができる。これにより、例えば、高粘度のインクを用いた場合は、インクの移動を停止させることなく移動させ続けることができ、更に微粒子を含むインクを用いた場合は、微粒子の沈殿や沈降を抑制することができる。
【0046】
そして、インクタンク3の流出口3aを、走査方向Sにおいてインクタンク3の略中心に配置することで、インクタンク3内のインクの揺れに伴う圧力変動の影響が、インクジェットヘッド2に供給されるインクに与える影響を最小限に抑えることができる。同様に、インクタンク3の流入口3bを、走査方向Sにおいてインクタンク3の略中心に配置することで、インクタンク3内のインクの揺れに伴う圧力変動の影響が、インクジェットヘッド2に供給されるインクの圧力変動に与える影響を最小限に抑えることができる。
【実施例1】
【0047】
次に、本実施形態に係るインクジェットプリンタ1の実施例について説明する。
【0048】
図3は、実施例のインクジェットプリンタの配置を示した図であり、図4は、比較例のインクジェットプリンタの配置を示した図である。なお、図3及び図4において、(a)は、インクジェットヘッド及びインクタンクを走査方向に垂直な平面で切断した図を示しており、(b)は、インクジェットヘッド及びインクタンクを走査方向に並行な平面で切断した図を示している。
【0049】
図3に示すように、実施例のインクジェットプリンタは、走査方向Sにおいて、インクジェットヘッドの中心とインクタンクの中心とが略同一平面上配置されている。そして、供給流路は、インクタンクの走査方向Sにおける中心に形成された流出口に接続されており、還元流路は、インクタンクの走査方向Sにおける中心に形成された流出口に接続されている。
【0050】
一方、図4に示すように、比較例のインクジェットプリンタは、走査方向Sにおいて、インクジェットヘッドの中心に対してインクタンクの中心が、走査方向Sの反対側に50mmシフトして配置されている。そして、供給流路は、インクタンクの走査方向Sにおける中心に形成された流出口に接続されており、還元流路は、インクタンクの走査方向Sにおける中心に形成された流出口に接続されている。
【0051】
そして、インクジェットヘッド及びインクタンクが搭載されたキャリッジを加速度1Gで走査方向に往復移動させて、インクジェットヘッドに供給されるインクに発生する圧力変動を計測することで、実施例のインクジェットプリンタと比較例のインクジェットプリンタとを比較した。インクの圧力変動の計測は、インクジェットヘッドの直上に配置された圧力センサの計測値に基づき行った。なお、圧力センサのダイアフラムが走査方向においてインクジェットヘッドの中心と同じ位置となるように、圧力センサを配置した。
【0052】
実施例の計測結果を図5に示し、比較例の計測結果を図6に示す。なお、図5及び図6において、矢印αは、キャリッジが走査方向における最後方に位置しているときの計測結果を示しており、矢印βは、キャリッジが走査方向における最前方に位置しているときの計測結果を示している。
【0053】
図6に示すように、比較例では、キャリッジの移動開始時に大きな圧力変動が生じており、往路及び復路でそれぞれ350Pa程度の圧力変動が生じ、往復では700Pa程度の圧力変動が生じて。このため、比較例では、ダンパなどの緩衝素子を用いて、インクジェットヘッドに供給されるインクの圧力変動を小さくしなければ、適切にインクを吐出することができない。
【0054】
これに対し、図5に示すように、実施例では、キャリッジの移動開始時に圧力変動が生じるものの、その程度は小さく、往路及び復路でそれぞれ25Pa程度の圧力変動しか生じず、往復では50Pa程度の圧力変動しか生じていない。このため、実施例では、特にダンパなどを用いなくても、インクジェットヘッドに供給されるインクの圧力変動が小さいため、適切にインクを吐出することができる。但し、実施例においてダンパの設置を排除するものではない。
【0055】
これらの計測結果から、走査方向Sにおいてインクジェットヘッドの中心に対してインクタンクの中心を大きくずらして配置すると、インクジェットヘッドに供給されるインクに発生する圧力変動が大きくなるが、走査方向Sにおいてインクジェットヘッドの中心とインクタンクの中心とを同じ位置に配置することで、インクジェットヘッドに供給されるインクに発生する圧力変動を極めて小さく抑えることができることが分かる。
【0056】
以上、本発明の好適な実施形態及び実施例について説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、供給流路4ほかに還元流路5を備え、インクをインクタンク3とインクジェットヘッド2との間で循環させるものとして説明したが、供給流路4のみを設け、インクタンク3からインクジェットヘッド2にインクが供給されるだけの1WAY方式としてもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、流出口3a及び流入口3bをインクタンク3の外周壁に設けるものとして説明したが、流出口3a及び流入口3bは、走査方向Sにおけるインクタンク3の略中心であれば、如何なる位置に設けられていてもよい。例えば、流出口3aをインクタンク3の外周壁に設け、還元流路5をインクタンク3内に貫通させて流入口3bをインクタンク3の内部に設けるものとしてもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、本発明の一例としてインクジェットプリンタについて説明したが、本発明を、食用オイルや接着剤などの高粘度液体を液滴として吐出する工業用液滴吐出装置などに適用してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1…インクジェットプリンタ(液滴吐出装置)、2…インクジェットヘッド(液滴吐出ヘッド)、2a…ノズル、2b…共通インク流路(共通流路)、2c…共通インク流路の一方端部、2d…共通インク流路の他方端部、3…インクタンク(液体貯留容器)、3a…インクタンクの流出口、3b…インクタンクの流入口、4…供給流路(第1の流路)、5…還元流路(第2の流路)、6…圧力センサ、7…差圧発生装置(循環手段)、7a…インペラ、7b…駆動装置、8…仕切板、8a…仕切板の中央開口、8b…仕切板の周縁開口、S…走査方向。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴が吐出される複数のノズルを有する液滴吐出ヘッドと、前記液滴吐出ヘッドに供給する液体を貯留する液体貯留容器と、を備え、前記液滴吐出ヘッドを走査方向にスキャンしながら前記液滴吐出ヘッドから液体を吐出する液体吐出装置であって、
走査方向において前記液滴吐出ヘッドの中心と前記液体貯留容器の中心とが所定の範囲内に配置されていることを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項2】
走査方向における前記液滴吐出ヘッドの中心と前記液体貯留容器の中心とは、前記ノズルに供給された液体の圧力が、液滴吐出ヘッドにおける指定水頭の許容範囲内となる範囲内に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
走査方向における前記液滴吐出ヘッドの中心と前記液体貯留容器の中心とは、走査方向に垂直な略同一平面上に配置されることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記液滴吐出ヘッドには、前記複数のノズルに連通される共通流路が形成されており、
前記液体貯留容器と前記共通流路の一方端部とを連通する第1の流路と、
前記共通流路の他方端部と前記液体貯留容器とを連通する第2の流路と、
前記第1の流路を通って前記液体貯留容器から前記共通流路の一方端部に液体を送るととともに、前記第2の流路を通って前記共通流路の他方端部から前記液体貯留容器に液体を送り、前記液体貯留容器と前記液滴吐出ヘッドとの間で液体を循環させる循環手段と、
を更に備えることを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
前記液体貯留容器から前記第1の流路に液体が流出する流出口は、走査方向において前記液体貯留容器の略中心に配置されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の液滴吐出装置。
【請求項6】
前記第2の流路から前記液体貯留容器に液体が流入する流入口は、走査方向において前記液体貯留容器の略中心に配置されていることを特徴とする請求項4又は5の何れか1項に記載の液滴吐出装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−98491(P2011−98491A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254021(P2009−254021)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(000137823)株式会社ミマキエンジニアリング (437)
【Fターム(参考)】