説明

液滴噴射ヘッド及び液滴噴射装置

【課題】耐久性が向上した液滴噴射ヘッド及び液滴噴射装置を提供すること。
【解決手段】ノズル孔12に連通する圧力室11が設けられた圧力室基板10と、第1面31と、該第1面31と対向する第2面とを有し、第1面31で圧力室11を覆う振動板30と、第1導電層40と、圧電体層50と、第2導電層60とを含み、第2導電層40は、第2方向220から見て、少なくとも第1領域面33と重なる領域内において、第1方向210においては圧電体層50を覆って連続的に形成され、かつ、第3方向230においては第1導電層40の一部と重なるように、圧電体層50の少なくとも一部を覆うように形成され、さらに、第2方向220から見て、隣り合う第1導電層40の間の領域の少なくとも一部において、第3方向230の両側に延出する延出部65a、65bを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴噴射ヘッド及び液滴噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばインクジェットプリンター等の液滴噴射装置において、インク等の液滴を噴射するために、圧電素子を備えた液滴噴射ヘッドが知られている。このような液滴噴射ヘッドは、例えば、駆動信号等によって圧電素子が振動板を変形させることにより、振動板の下方に形成された圧力室内の圧力を変化させることができる。これによって、ノズル孔から圧力室内に供給されたインクなどの液滴を噴射させることができる。このような液滴噴射ヘッドにおいて、例えば、湿気等の外的要因による破壊に対して弱い圧電素子の圧電体層を保護する目的として、圧電体層を上部電極で覆った構造を有したものがある(例えば、特許文献1(図2))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−172878公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示されているような圧電素子の上部電極構造をとると、下部電極と上部電極に電圧を印加して圧電層を変形させた時、逆に圧電層から上部電極に応力がかかる。圧電素子の長手方向を見た場合、上部電極の一方は自由端になっているのに対して、もう一方は圧力室や圧電体の外部まで延長されているので、上部電極と下部電極の重畳した領域で定義される活性領域の両端で、応力にアンバランスが生じ、特に自由端側では、耐久的にクラックを生じやすいという課題があった。
【0005】
本発明のいくつかの態様によれば、この耐久性が向上した液滴噴射ヘッド及び液滴噴射装置を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の態様の1つである液滴噴射ヘッドは、
ノズル孔に連通する圧力室が設けられた圧力室基板と、
第1面と、該第1面と対向する第2面とを有し、前記第1面で前記圧力室を覆う振動板と、
第1導電層と、
圧電体層と、
第2導電層とを含み、
前記圧力室基板には、前記圧力室が第1方向に複数並設され、
前記振動板は、前記第1方向と直交し、かつ、前記第1面の法線方向となる第2方向から見て、前記圧力室を覆う第1領域面を前記第1面に有するように形成され、
前記第1導電層は、前記第2方向から見て、前記第1方向においては前記第1領域面と重なる領域内で前記振動板の前記第2面を覆い、かつ、前記第1方向及び前記第2方向と直交する第3方向の少なくとも一方においては前記第1領域面と重なる領域外まで延出して前記振動板の前記第2面を覆うように複数形成され、
前記圧電体層は、前記第2方向から見て、少なくとも前記第1領域面と重なる領域内において前記第1導電層を覆うように形成され、
前記第2導電層は、
前記第2方向から見て、少なくとも前記第1領域面と重なる領域内において、前記第1方向においては前記圧電体層を覆って連続的に形成され、かつ、前記第3方向においては前記第1導電層の一部と重なるように、前記圧電体層の少なくとも一部を覆うように形成され、さらに、
前記第2方向から見て、隣り合う前記第1導電層の間の領域の少なくとも一部において、前記第3方向の両側に延出する延出部を有する。
【0007】
本発明によれば、第2方向から見て、隣り合う第1導電層の間の領域の少なくとも一部において、第3方向の両側に延出する延出部を有するため、第3方向における剛性バランスの調整が容易となる。したがって、耐久性が向上した液滴噴射ヘッドが実現できる。
【0008】
(2)本発明の態様の1つである液滴噴射ヘッドは、
前記延出部は、前記第2方向から見て、前記第1領域面の前記第3方向における端部よりも外側まで延出していてもよい。
【0009】
これにより、第3方向における剛性バランスが揃いやすくなる。
【0010】
(3)本発明の態様の1つである液滴噴射ヘッドは、
前記延出部は、前記第2方向から見て、前記第1領域面とは重ならない位置に設けられていてもよい。
【0011】
これにより、振動板の変形を妨げにくくなる。
【0012】
(4)本発明の態様の1つである液滴噴射ヘッドは、
前記第1導電層と前記第2導電層とが重なる領域は、前記第2方向から見て、前記第1領域面の前記第3方向における一端から他端までの範囲において、前記第1方向を対称軸として対称に設けられ、
前記延出部は、前記第2方向から見て、前記第3方向における前記第1領域面の一端から他端までの範囲内において、前記第1方向を対称軸として対称に設けられていてもよい。
【0013】
これにより、第3方向における剛性バランスがほぼ揃う。
【0014】
(5)本発明の態様の1つである液滴噴射ヘッドは、
前記第2導電層は、共通電極と電気的に接続され、
前記延出部のうち少なくとも一部は、延出先において前記共通電極と電気的に接続されていてもよい。
【0015】
これにより、第2導電層と共通電極との間の抵抗値を下げることができる。
【0016】
(6)本発明の態様の1つである液滴噴射ヘッドは、
前記第2方向から見て、隣り合う前記第1領域面の間の領域の少なくとも一部において、前記圧電体層が存在しない領域を有してもよい。
【0017】
これにより、圧電体層が振動板の変形を妨げにくくなる。
【0018】
(7)本発明の態様の1つである液滴噴射装置は、
これらのいずれかの液滴噴射ヘッドを含む。
【0019】
本発明によれば、第3方向における剛性バランスの調整が容易な液滴噴射ヘッドを含むため、耐久性が向上した液滴噴射ヘッドが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態に係る液滴噴射ヘッドを模式的に示す分解斜視図。
【図2(A)】本実施形態に係る液滴噴射ヘッドの要部を模式的に示す平面図。
【図2(B)】図2(A)のIIB−IIB線における要部を模式的に示す断面図。
【図2(C)】図2(A)のIIC−IIC線における要部を模式的に示す断面図。
【図2(D)】図2(A)のIID−IID線における要部を模式的に示す断面図。
【図2(E)】図2(A)のIIE−IIE線における要部を模式的に示す断面図。
【図2(F)】本実施形態の変形例に係る液滴噴射ヘッドの要部を模式的に示す平面図。
【図3】本実施形態に係る液滴噴射ヘッドの製造方法を模式的に示す断面図。
【図4】本実施形態に係る液滴噴射ヘッドの製造方法を模式的に示す断面図。
【図5】本実施形態に係る液滴噴射ヘッドの製造方法を模式的に示す断面図。
【図6】本実施形態に係る液滴噴射ヘッドの製造方法を模式的に示す断面図。
【図7】本実施形態に係る液滴噴射ヘッドの製造方法を模式的に示す断面図。
【図8】本実施形態に係る液滴噴射ヘッドの製造方法を模式的に示す断面図。
【図9】本実施形態に係る液滴噴射ヘッドの製造方法を模式的に示す断面図。
【図10】本実施形態に係る液滴噴射装置を模式的に示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0022】
1.液滴噴射ヘッド
1−1.構造
以下、図面を参照して、本実施形態に係る液滴噴射ヘッドの構造について説明する。
【0023】
なお、本実施形態に係る記載では、「上方」という文言を、例えば、「特定のもの(以下「A」という)の「上方」に他の特定のもの(以下「B」という)を形成する」などと用いている。本実施形態に係る記載では、この例のような場合に、A上に直接Bを形成するような場合と、A上に他のものを介してBを形成するような場合とが含まれるものとして、「上方」という文言を用いている。同様に、「下方」という文言は、A下に直接Bを形成するような場合と、A下に他のものを介してBを形成するような場合とが含まれるものとする。
【0024】
図1は、本実施形態に係る液滴噴射ヘッド300の分解斜視図である。
【0025】
図1に示すように、本実施形態に係る液滴噴射ヘッド300は、圧力室11を有する圧力室基板10と、圧力室基板10の上方に形成された振動板30と、振動板30の上方に形成された圧電素子100と、圧力室基板10の下方に形成されたノズル板20と、圧電素子100を封止する封止板90と、を含む。
【0026】
以下の説明においては、圧力室11が並設される方向を第1方向210、第1方向210と直交し、かつ、振動板30の第1面31の法線方向を第2方向220、第1方向210および第2方向220と直交する方向を第3方向230とし、「上方」及び「下方」の文言は、第2方向220が上下方向であるものとして用いている。
【0027】
圧力室基板10は、図1に示すように、ノズル孔21に連通する圧力室11を有する。圧力室基板10には、圧力室11が第1方向210に複数並設されている。図1に示すように、圧力室基板10は、圧力室11の側壁を構成する壁部12を有する。また、圧力室基板10は、圧力室11と供給路13および連通路14を介して連通したリザーバ15を有していてもよい。リザーバ15には、図示されない貫通孔が形成されてもよく、該貫通孔を通って外部からリザーバ15内に液体等(液体のみならず、各種の機能性材料を溶媒や分散媒によって適当な粘度に調整したもの、または、メタルフレーク等を含むものなどを含む。以下同じ。)が供給されてもよい。これによれば、リザーバ15に液体等を供給することによって、供給路13および連通路14を介して圧力室11に液体等を供給することができる。圧力室11の形状は、特に限定されない。圧力室11の形状は、例えば、第2方向220から見て、平行四辺形であってもよく、矩形であってもよい。圧力室11の数は特に限定されず、1つであってもよいし、複数設けられていてもよい。圧力室基板10の材質は、特に限定されない。圧力室基板10は、例えば、単結晶シリコン、ニッケル、ステンレス、ステンレス鋼、ガラスセラミックス、各種樹脂材料等から形成されてもよい。
【0028】
ノズル板20は、図1に示すように、圧力室10の下方に形成される。ノズル板20は、プレート状の部材であって、ノズル孔21を有する。ノズル孔21は、圧力室11に連通するように形成される。ノズル孔21の形状は、液体等を液滴として吐出することができる限り、特に限定されない。ノズル孔21を介することで、圧力室11内の液体等を、例えば、ノズル板20の下方に向けて吐出することができる。また、ノズル孔21の数は特に限定されず、1つであってもよいし、複数設けられていてもよい。ノズル板20の材質は、特に限定されない。ノズル板20は、例えば、単結晶シリコン、ニッケル、ステンレス、ステンレス鋼、ガラスセラミックス、各種樹脂材料等から形成されてもよい。
【0029】
振動板30は、図1に示すように、圧力室基板10の上方に形成される。したがって、振動板30は、圧力室11および壁部12の上方に形成される。振動板30は、プレート状の部材である。振動板30は、第1面31と、該第1面31と対向する(第1面31を表面とした場合の裏面となる)第2面32とを有し、第1面31で圧力室基板10を覆う。振動板30の構造及び材料は、特に限定されない。例えば、振動板30は、図1に示すように、複数の膜の積層体で形成されていてもよい。このとき、振動板30は、例えば、酸化ジルコニウムや酸化シリコンなどの絶縁膜、ニッケルなどの金属膜、ポリイミドなどの高分子材料膜、からなる複数の膜の積層体であってもよい。振動板30は、振動部を構成する。言い換えれば、後述される圧電素子100が変位することによって振動(変形)することができる。これにより、下方に形成された圧力室11の体積を変化させることができる。
【0030】
本実施形態に係る液滴噴射ヘッド300の圧電素子100は、図1に示すように、振動板30の第2面32の上において形成される。以下、本実施形態に係る液滴噴射ヘッド300の圧電素子100の詳細について説明する。
【0031】
図2(A)は、液滴噴射ヘッド300の要部である圧力室基板10、振動板30、および圧電素子100のみを便宜的に示した平面図である。図2(B)は、図2(A)に示す要部のIIB−IIB線断面図である。図2(C)は、図2(A)に示す要部のIIC−IIC線断面図である。図2(D)は、図2(A)に示す要部のIID−IID線断面図である。図2(E)は、図2(A)に示す要部のIIE−IIE線断面図である。
【0032】
以下に圧電素子100の構造についての詳細を説明する。図2(A)〜図2(E)に示すように、圧電素子100は、第1導電層40と、圧電体層50と、第2導電層60とを含む。
【0033】
図2(A)および図2(B)に示すように、振動板30は、第2方向220から見て、圧力室11を覆う第1領域面33を第1面31に有するように形成されている。本実施形態においては、図2(A)および図2(B)に示すように、第1領域面33は、第2方向220から見て、圧力室11と重なる。また、図2(A)および図2(B)に示すように、第1領域面33は圧力室11毎に形成されている。
【0034】
第1導電層40は、第2方向220から見て、第1方向210においては第1領域面33と重なる領域内で振動板30の第2面を覆い、かつ、第3方向230の少なくとも一方においては第1領域面33と重なる領域外まで延出して振動板30の第2面を覆うように複数形成されている。
【0035】
本実施形態においては、図2(A)および図2(C)に示すように、第1導電層40は、第2方向220から見て、第1領域面33と重なる領域外において、第3方向230における一方の端面である端面41を有している。端面41は、第1導電層40の第3方向230における側面である。端面41は、テーパー状の側面であってもよい。また、図示はしないが、端面41は、第2方向220から見て、第1領域面33と重なる領域内であってもよい。また、本実施形態においては、図2(A)および図2(B)に示すように、第1導電層40は、第2方向220から見て、第1領域面33と重なる領域内に第1方向210における両端部を有している。また、本実施形態においては、図2(A)および図2(C)に示すように、第1導電層40は、上面42を有している。
【0036】
第1導電層40は、図2(A)および図2(C)に示すように、第2方向220から見て、第1領域面33と重なる領域内に形成された第1導電部43と、第1領域面33と重なる領域の一方の短辺である第1の辺33aを境界として、第1領域面33と重なる領域内から領域外へ連続して延びた第2導電部44と、第1領域面33と重なる領域の他方の短辺である第2の辺33bを境界として、第1領域面33と重なる領域内から領域外へ連続して延びた第3導電部45と、から形成されている。したがって、端面41が、第2方向220から見て、第1領域面33と重なる領域外に形成される場合は、端面41は、第3導電部45の端部である。また、端面41が、第2方向220から見て、第1領域面33と重なる領域内に形成される場合は、端面41は、第1導電部43の端部である。第1導電層40は、圧電素子100において下部電極を構成する。
【0037】
第1導電層40の構造及び材料は、特に限定されない。例えば、第1導電層40は、単層で形成されていてもよい。あるいは、第1導電層40は、複数の膜の積層体で形成されていてもよい。第1導電層40は、例えば、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、金(Au)などのいずれかを含む金属層や、LaNiOやSrRuOなどの導電性酸化物電極であってもよい。
【0038】
圧電体層50は、第2方向220から見て、少なくとも第1領域面33と重なる領域内において第1導電層40を覆うように形成されている。本実施形態においては、図2(A)および図2(B)に示すように、圧電体層50は、第2方向220から見て、第1領域面33と重なる領域内において、第1方向210における両端部を有している。つまりは、圧電体層50は、第1方向210において、第1導電層40の幅より大きく、かつ、第1領域面33の幅より狭い幅を有している。圧電体層50は、図2(A)および図2(C)に示すように、第2方向220から見て、第1領域面33と重なる領域外においても、第3方向230に沿うように連続して延び、第1導電層40の第2導電部44および第3導電部45を覆うように形成されている。圧電体層50の形状は特に限定されないが、例えば図2(A)および図2(B)に示すように、第1導電層40の上方に上面51を有し、上面51と連続したテーパー状の側面52を有していてもよい。また、例えば図2(A)および図2(B)に示すように、第2方向220から見て、隣り合う第1領域面33の間の領域の少なくとも一部において、圧電体層50が存在しない領域を有していてもよい。
【0039】
圧電体層50は、圧電特性を有した多結晶体からなり、圧電素子100において電圧を印加されることにより振動することができる。圧電体層50の構造及び材料は、圧電特性を有していればよく、特に限定されない。圧電体層50は、公知の圧電材料から形成されればよく、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr、Ti)O)、チタン酸ビスマスナトリウム((Bi、Na)TiO)などを用いてもよい。
【0040】
また、圧電体層50は、図2(A)および図2(C)に示すように、第1導電層40の第2導電部44上において、第2導電部44の一部が露出するような開口部54を有してもよい。開口部54の位置は、第2導電部44上であって、後述される第2導電層60に離間していればよく、特に限定されない。開口部54の形状は、第2導電部である第1導電層40が露出させることができればよく、特に限定されない。
【0041】
開口部54の位置について、振動板30の対称性確保のため第1領域面33の外部にあることが望ましい。第1領域面33からの距離は、許容される配線抵抗値によって決まる。
【0042】
配線層70は、第1導電部43及び第2導電部44とは異なり、振動板30の変形に影響を与える構成要素ではないため、抵抗値を下げるための厚膜化に制約がない。より抵抗値を下げる必要がある場合は、製造上可能な限り、第1領域面33の近傍がよい。
【0043】
第2導電層60は、第2方向220から見て、少なくとも第1領域面33と重なる領域内において、第1方向210においては圧電体層50を覆って連続的に形成され、かつ、第3方向230においては第1導電層40の一部と重なるように、圧電体層50の少なくとも一部を覆うように形成され、さらに、第2方向220から見て、隣り合う第1導電層40の間の領域の少なくとも一部において、第3方向230の両側に延出する延出部65a、65bを有する。
【0044】
本実施形態においては、図2(A)および図2(B)に示すように、第2導電層60は、第2方向220から見て、第1方向210において、第1領域面33と重なる領域における圧電体層50を覆うように形成されている。また、本実施形態においては、図2(A)および図2(C)に示すように、第2方向220から見て、第1領域面33と重なる領域内の第3方向230において、第2導電層60は、2つの端面である端面61および端面62を有する。端面61および端面62は、第2方向220から見て、第1導電層40の上面42と重なるように配置される。2つの端面61および端面62は、第2導電層60がパターニングされる際、第2方向220から見て、第1領域面33と重なる領域内に形成される第3方向230の端面である。端面61は、第1導電層40の端面41が形成される側の端面であり、端面62は、開口部54が形成される側の端面である。また、本実施形態においては、図2(A)および図2(C)に示すように、第2方向220から見て、第1領域面33と重なる領域内における第2導電層60の第3方向230における幅は、第1導電層40の第1導電部43の第3方向230における幅より小さい。
【0045】
第2導電層60は、例えば図2(A)および図2(B)に示すように、複数の圧電体層50をそれぞれ覆うように、第1方向210において連続して形成されてもよい。また、図2(A)および図2(B)に示すように、第2導電層60は、第1方向210において、圧電体層50の一部において、圧電体層50の上面51と側面52を連続して覆うことができる。
【0046】
図2(A)および図2(C)に示すように、第2導電層60が設けられていない開口部63が形成されていてもよい。端面62は、開口部63の一部を構成してもよい。
【0047】
本実施形態においては、図2(A)および図2(C)に示すように、第2導電層60は、第2方向220から見て、第1領域面33と重なる領域内において、端面61と端面62とが第1導電層40の上面42と重なるように形成されている。その結果、第2方向220から見て、第1領域面33と重なる領域内の圧電体層50の一部の領域が第1導電層40の第1導電部42と第2導電層60とに挟まれる。このとき、圧電体層50において第1導電層40と第2導電層60とに挟まれた領域を駆動領域55とする。図2(A)および図2(C)に示すように、駆動領域55の第3方向230における一方の端部55aの位置は、第2導電層60の端面61の位置によって規定することができる。また、駆動領域55の第3方向230における他方の端部55bの位置は、第2導電層60の端面62の位置によって規定することができる。つまりは、駆動領域55を第1導電層40の第1導電部43の上面42の上に形成することができる。言い換えれば、第1導電層40の端面41上に駆動領域55が形成されない。図2(A)および図2(C)に示すように、第2導電層60は、第2方向220から見て、第1領域面33の第1の辺33aと重ならないように形成されてもよい。
【0048】
本実施形態においては、図2(A)および図2(E)に示すように、延出部65a、65bは、第2方向220から見て、第1領域面33の第3方向230における端部(第1の辺33a及び第2の辺33b)よりも外側まで延出している。また、本実施形態においては、図2(A)および図2(D)に示すように、延出部65a、65bは、第2方向220から見て、第1領域面33とは重ならない位置に設けられている。なお、図2(A)および図2(E)に示す例では、延出部65aは圧電体層50が無い領域内までの長さになっているが、圧電体層50と重なる領域まで伸びてもよい。
【0049】
本実施形態においては、図2(A)および図2(E)に示すように、第1導電層40と第2導電層60とが重なる領域(圧電素子100の駆動領域55を形成する領域)は、第2方向220から見て、第1領域面33の第3方向230における一端から他端までの範囲において、第1方向210を対称軸として対称に設けられている。また、延出部65a、65bは、第2方向220から見て、第3方向230における第1領域面33の一端から他端までの範囲内において、第1方向210を対称軸として対称に設けられている。
【0050】
第2導電層60は、共通電極(図示せず)と電気的に接続され、延出部65a、65bのうち少なくとも一部は、延出先において共通電極と電気的に接続されていてもよい。図2(A)および図2(E)に示す例では、延出部65bがいずれも延出先において共通電極と電気的に接続されている。
【0051】
図2(F)は、本実施形態の変形例に係る液滴噴射ヘッドの要部を模式的に示す平面図である。図2(F)に示す例では、延出部65bに加えて、延出部65aの一部である延出部65a−1が延出先において共通電極と電気的に接続されている。
【0052】
第2導電層60の構造及び材料は、特に限定されない。例えば、第2導電層60は、単層で形成されていてもよい。あるいは、第2導電層60は、複数の膜の積層体で形成されていてもよい。第2導電層60は、導電性を有した層からなり、圧電素子100において上部電極を構成する。第2導電層60は、例えば、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、金(Au)などを含む金属層であってもよい。図示はされないが、第2導電層60は、配線を介して、または連続して、例えば、共通電極(図示せず)と接続されていてもよい。第2導電層60は、圧電体層50の駆動領域55を含む部分を第1方向210において完全に覆うことができる。これによれば、駆動領域55の圧電体層50を大気中の水分(湿気)等の外的要因の影響から保護することができる。
【0053】
第3の導電層67は、図2(A)および図2(C)に示すように、少なくとも開口部54を覆うように形成されてもよい。また、第3の導電層67は、少なくとも開口部54における第2導電部43(第1導電層40)を覆うように形成されていてもよい(図示せず)。第3の導電層67の構造及び材料は、特に限定されない。第3の導電層67は、導電性を有した層であればよく、第2導電層60と同じであってもよい。第3の導電層67を形成することによって、製造工程において開口部54における第1導電層40の第2導電部43の表面を保護することができる。その詳細は製造方法において後述される。また、第3の導電層67は本実施形態に圧電素子100の必須な構成ではないため、開口部54において第1導電層40の上に第3の導電層67が形成されていなくてもよい(図示せず)。
【0054】
第4の導電層70は、図2(A)および図2(C)に示すように、第3の導電層67に電気的に接続されるように形成される。つまりは、第4の導電層70は、第2導電部43を介して第1導電部42と電気的に接続されている。第4の導電層70は、少なくとも開口部54を覆うように形成されてもよい。第4の導電層70の形状は、少なくとも開口部54内に形成される限り、特に限定されない。第4の導電層70の構造及び材料は、特に限定されない。例えば、第4の導電層70は、単層で形成されていてもよい。あるいは、第4の導電層70は、複数の膜の積層体で形成されていてもよい。第4の導電層70は、導電性を有した層からなり、圧電素子100において下部電極へのリード線を構成する。第4の導電層70は、例えば、金(Au)、ニッケル−クロム合金(Ni−Cr)、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、銅Cu、ニッケルNiなどを含む金属層であってもよい。第4の導電層70は、外部駆動回路95と接続されていてもよい。これによって、第1導電層40が、第4の導電層70を介して、例えば外部駆動回路95と電気的に接続されることができる。
【0055】
第4の導電層70と共通電極は同一の材料であることが望ましい。第4の導電層や共通電極を外部駆動回路95と接続するためのワイヤーボンディングやFPC接合に際し、接合面が同一金属であることが望ましいためである。
【0056】
第1導電層、第2導電層は振動板30の変形に影響を与える構成要素であることから、振動板30の適切な変位量及び駆動周波数を得るためには、その膜厚範囲に制約が生じるため、抵抗値を下げる目的での厚膜化には限度がある。このため、導電層70、共通電極は適切な材料、寸法、膜厚とすることで、駆動時に許容される抵抗値まで引き下げることが求められる。
【0057】
本実施形態に係る液滴噴射ヘッド300は、図1に示すように、圧電素子100を封止することができる封止板90を有していてもよい。封止板90は、圧電素子100を所定の空間領域に封止することができる封止領域91を有している。封止領域91は、圧電素子100の振動運動を阻害しない程度の空間領域であればよい。封止板90の構造及び材料は、特に限定されない。例えば、封止板90は、例えば、単結晶シリコン、ニッケル、ステンレス、ステンレス鋼、ガラスセラミックス、各種樹脂材料等から形成されてもよい。また、液滴噴射ヘッド300は、例えば、各種樹脂材料、各種金属材料からなり、上述された構成を収納することができる筐体を有していてもよい(図示せず)。
【0058】
以上のいずれかの構成により、本実施形態に係る液滴噴射ヘッド300の構成とすることができる。
【0059】
本実施形態に係る液滴噴射ヘッド300は、例えば、以下の特徴を有する。
【0060】
本実施形態に係る液滴噴射ヘッド300によれば、第2方向220から見て、隣り合う第1導電層40の間の領域の少なくとも一部において、第3方向230の両側に延出する延出部65a、65bを有するため、第3方向230における剛性バランスの調整が容易となる。したがって、耐久性が向上した液滴噴射ヘッドが実現できる。
【0061】
また、延出部65a、65bが、第2方向220から見て、第1領域面33の第3方向33における端部よりも外側まで延出していることにより、第3方向230における剛性バランスが揃いやすくなる。さらに、延出部65a、65bが、第2方向220から見て、第1領域面33とは重ならない位置に設けられていることにより、振動板30の振動を妨げにくくなる。
【0062】
また、延出部65a、65bを図2(A)に示すように隣り合う第2導電部44や第3導電部45を挟む形で配置することによって、隣り合う上部電極が固定の機能を発揮し、隣り合う圧電体層50のクロストークを軽減させる効果も有することができる。
【0063】
また、第1導電層40と第2導電層60とが重なる領域が、第2方向220から見て、第1領域面33の第3方向230における一端から他端までの範囲において、第1方向210を対称軸として対称に設けられ、延出部65a、65bが、第2方向220から見て、第3方向230における第1領域面33の一端から他端までの範囲内において、第1方向210を対称軸として対称に設けられていることにより、第3方向230における剛性バランスがほぼ揃う。
【0064】
さらに、第2導電層60が、共通電極と電気的に接続され、延出部65a、65bのうち少なくとも一部が、延出先において共通電極と電気的に接続されていることにより、第2導電層60と共通電極との間の抵抗値を下げることができる。
【0065】
なお、液滴噴射ヘッドとしてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドを一例として説明したが、本発明は、圧電素子を用いた液滴噴射ヘッドおよび液滴噴射装置全般を対象としたものである。液滴噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等を挙げることができる。
【0066】
1−2.製造方法
以下、図面を参照して、本実施形態に係る液滴噴射ヘッド300の製造方法について説明する。
【0067】
図3〜図10は、本実施形態に係る液滴噴射ヘッド300の製造方法を示す断面図である。
【0068】
本実施形態に係る液滴噴射ヘッドの製造方法は、圧力室基板10、ノズル板20を形成するために用いられる材質が単結晶シリコン等を用いる場合と、ステンレス等を用いる場合とによって異なる。以下において、単結晶シリコンを用いた場合の液滴噴射ヘッドの製造方法を一例として記載する。よって、本実施形態に係る液滴噴射ヘッドの製造方法は、特に以下の製造方法に限定されず、ニッケルやステンレス鋼、ステンレス等を材料として用いる場合は、公知の電鋳法等の工程を含んでいてもよい。また、各工程の先後は、以下に記載の製造方法に限定されるものではない。
【0069】
まず、図3(A)に示すように、準備された単結晶シリコンからなる基板1の上に、振動板30を形成する。図3(A)に示すように、後述される製造工程において、基板1の圧力室11が形成される領域を領域11aとする。振動板30は、公知の成膜技術によって形成される。図3(A)に示すように、例えば、振動板30は、弾性板を構成する弾性層30aをスパッタリング法等によって形成した後、絶縁層30bを弾性層30a上にスパッタリング法等によって形成してもよい。例えば、弾性層30aは酸化ジルコニウムを用い、絶縁層30bは酸化シリコンを用いてもよい。ここで、振動板30の基板1側の面を第1面31、第1面31の裏面を第2面とし、第2方向220から見て、第1面31において、領域11aと重なる領域を第1領域面33とする。
【0070】
振動板30を形成した後に、図3(B)に示すように、振動板30の第2の面32上に導電層を形成した後、エッチングによってパターニングを行い第1導電層40が形成される。ここで、第1導電層40は、第2方向220から見て、第1方向210においては領域11aと重なるように振動板30の第2面を覆い、かつ、第3方向230の少なくとも一方においては領域11aと重なる領域外まで延出して振動板30の第2面を覆うようにパターニングされる。
【0071】
第1導電層40がパターニングされる際、図3(B)に示すように、第3方向230における一方の端面41はテーパー状の側面を有するように形成される。これにより、端面41が形成される。また、第1導電層40がパターニングされた後、上面42も同時に形成される。端面41の位置は、第2方向220から見て、第1領域面33と重なる領域外であってもよいし、図示はしないが、第1領域面33と重なる領域内であってもよい。
【0072】
ここで、第1導電層40のうち、第2方向220から見て、第1領域面33と重なる領域内に形成された部分を第1導電部43とし、第1領域面33と重なる領域外に形成された部分であって、第1領域面33と重なる領域の第1の辺33aから延出して形成された部分を第2導電部44としてもよい。また、端面41が、第2方向220から見て、第1領域面33と重なる領域外に形成される場合、第1領域面33と重なる領域の第2の辺33bから延びるように形成された部分を第3導電部45とする。
【0073】
なお、第1導電層40の詳細な構成は、前述されているため、省略する。第1導電層40は、公知の成膜技術によって形成されてもよい。例えば、白金、イリジウム等をスパッタリング法等によって積層することによって導電層(図示せず)を形成し、導電層を所定の形状にエッチングすることによって第1導電層40を形成してもよい。
【0074】
ここで、図3(C)に示すように、第1導電層40を形成するための導電層がエッチングによってパターニングされる前に、該導電層の上にエッチング保護膜50aを形成してもよい。エッチング保護膜50aは、後述される圧電体層50と同じ圧電材料から形成された圧電体である。エッチング保護膜50aは、少なくとも、所望の形状にパターニングされる第1導電層40が形成される領域に形成されてもよい。これによれば、第1導電層40をパターニングするエッチング工程において、使用されるエッチャントによる化学的なダメージから第1導電層40の表面を保護することができる。
【0075】
次に、図4(A)に示すように、第1導電層40を覆うように圧電体層50bを形成する。圧電体層50bをパターニングすることによって、圧電体層50が形成される。詳細は後述される。圧電体層50bは、公知の成膜技術によって形成されてもよい。圧電体層50bは、例えば、公知の圧電材料である前駆体を振動板30の第2面の上に塗布して加熱処理されて形成されてもよい。用いられる前駆体としては、加熱処理によって焼成した後、分極処理され、圧電特性を発生させるものであれば特に限定されず、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛等の前駆体を用いてもよい。なお、エッチング保護膜50aが形成されている場合、エッチング保護膜50aは圧電体層50b(圧電体層50)と同じ圧電材料から形成されているため、焼成後、エッチング保護膜50aは圧電体層50bと一体化することができる。
【0076】
ここで、例えば圧電体層50b(圧電体層50)をチタン酸ジルコン酸鉛によって形成する場合、図4(B)に示すように、チタンからなる中間チタン層50cを振動板30の第2面の上の全面に形成した後に、圧電材料である前駆体を塗布してもよい。これによれば、前駆体を加熱処理によって、圧電体層50bを結晶成長させる際、該前駆体を結晶成長させる界面を中間チタン層50cで統一することができる。言い換えれば、振動板30上で結晶成長する圧電体層50bを無くすことができる。これによって、圧電体層50bの結晶成長の制御性を高めることができ、圧電体層50bが、より配向性の高い圧電体結晶となることができる。なお、中間チタン層50cは加熱処理時に圧電体層50bの結晶内に取り込まれることができる。
【0077】
次に、図5(A)に示すように、圧電体層50bがエッチングによって所望の形状にパターニングされる前に、圧電体層50bを覆うように導電性を有するマスク層60aを形成してもよい。マスク層60aは、後述される導電層60bと同じ材料から形成された金属層である。図5(B)に示すように、マスク層60aを形成後、圧電体層50bがエッチングによりパターニングされ、圧電体層50が所望の形成にパターニングされる。ここで、マスク層60aを形成することによって、マスク層60aがエッチング工程においてハードマスクとして作用するため、図5(B)に示すように圧電体層50にテーパー状の側面52を容易に形成することができる。なお、圧電体層50の詳細な構成は、前述されているため、省略する。
【0078】
図5(C)に示すように、圧電体層50をエッチングする際、第1導電層40の第2導電部43上において、第1導電層40を露出させる開口部54が同時に形成される。開口部54は、第2導電部43の上であって、第2導電層60に離間するように形成される。
【0079】
次に、図6に示すように、圧電体層50および開口部54を覆うように導電層60bが形成される。よって、導電層60bは、第2導電層60と同じ材料によって形成される。導電層60bは、公知の成膜技術によって形成されてもよい。例えば、白金、イリジウム等をスパッタリング法等によって積層することによって導電層60bを形成してもよい。マスク層60aが形成されていた場合、マスク層60aは導電層60bと同じ材料を用いているため、マスク層60aは、導電層60bとは一体化することができる。
【0080】
次に、図7に示すように、導電層60bをエッチングによって所望の形状にパターニングし、第2導電層60を形成する。導電層60bをパターニングする工程において、図7に示すように、第2方向220から見て、少なくとも第1領域面33と重なる領域内において、第1方向210においては第1導電層40と重なり、かつ、第3方向230においては第1導電層40の一部と重なるように、圧電体層50の少なくとも一部を覆うように導電層60bがパターニングされる。また、導電層60bをパターニングする工程において、第2方向220から見て、複数の第1導電層40と重なるように導電層60bがパターニングされる。さらに、導電層60bをパターニングする工程において、図2(A)および図2(E)に示すように、第2方向220から見て、第2導電層60が、隣り合う第1導電層40の間の領域の少なくとも一部において、第3方向230の両側に延出する延出部65a、65bを有するように導電層60bがパターニングされる。
【0081】
また、第2導電層60は、複数の圧電体層50をそれぞれ覆うように、連続して形成される。これによれば、第2導電層60が、例えば図示しない配線等を介して共通電極に接続されている場合、第2導電層60を圧電素子100の共通の上部電極として利用することができる。なお、第2導電層60の詳細な構成は、前述されているため、省略する。以上のように、第2導電層60をパターニングすることによって、端面61と端面62の配置から、圧電体層50の駆動領域55を第1導電層40の上面42に規定することができる。
【0082】
また、第2導電層60をパターニングする工程において、図7に示すように、導電層60bが少なくとも開口部54を覆うようにパターニングされてもよい。つまりは、開口部54の上方に形成された導電層60bを除去しないことで、第3の導電層67を形成してもよい。これによれば、例えばレジストを塗布した後、露光処理と現像処理を行ってレジスト膜を形成し、レジスト膜をマスクとしてエッチングを行う場合、有機アルカリ現像液、有機剥離液、洗浄液等が用いられる。したがって、開口部54の上方に形成された導電層60bを除去しないことで(言い換えれば、第3の導電層67を形成することで)、開口部54内の第1導電層40の表面が、オーバーエッチングされる可能性を無くすことができる。また、エッチングの後に、開口部54内の第1導電層40の露出部分が、有機剥離液、洗浄液等に晒されて化学的ダメージを受けることを防ぐことができる。なお、本実施形態の係る製造方法において、第3の導電層67は必須の構成ではなく、開口部54における導電層60bを除去し、第3の導電層67を形成しなくてもよい。
【0083】
次に、図8に示すように、少なくとも開口部54を覆うように、第4の導電層70を形成する。第3の導電層67が形成されている場合は、第4の導電層70は、第3の導電層67と電気的に接続されるように形成されればよい。第4の導電層70は、公知の成膜技術によって形成されてもよい。例えば、金、ニッケル・クロム合金等をスパッタリング法等によって積層することによって導電層(図示せず)を形成し、該導電層を所定の形状にエッチングすることによって第4の導電層70を形成してもよい。第4の導電層70は、図示されない外部駆動回路に接続されていてもよい。
【0084】
図9(A)に示すように、封止領域91が形成された封止板90を圧電素子100の上方より搭載する。ここで、圧電素子100は、封止領域91内に封止されることができる。封止板90は、例えば、接着剤によって圧電素子100を封止してもよい。次に、図9(B)に示すように、基板1を所定の厚みに薄くし、圧力室11などを区画する。例えば、所定の厚みを有した基板1に対し、所望の形状にパターニングされるようにマスク(図示せず)を振動板30が形成された面と反対の面に形成し、エッチング処理することによって、圧力室11を形成し、壁部12、供給路13、連通路14およびリザーバ15を区画する(図示せず)。以上によって、振動板30の下方に圧力室11を有した圧力室基板10を形成することができる。圧力室基板11を形成した後、図9(C)に示すように、ノズル孔21を有したノズル板20を、例えば接着剤等により所定の位置に接合する。これによって、ノズル孔21は、圧力室11と連通する。
【0085】
以上のいずれかの方法により、液滴噴射ヘッド300を製造することができる。なお、前述の通り、液滴噴射ヘッド300の製造方法は、上述の製造方法に限定されずに、圧力室基板10およびノズル板20を、電鋳法等を用いて一体形成してもよい。
【0086】
2.液滴噴射装置
次に、本実施形態に係る液滴噴射装置について説明する。本実施形態に係る液滴噴射装置は、本発明に係る液滴噴射ヘッドを有する。ここでは、本実施形態に係る液滴噴射装置1000がインクジェットプリンターである場合について説明する。図10は、本実施形態に係る液滴噴射装置1000を模式的に示す斜視図である。
【0087】
液滴噴射装置1000は、ヘッドユニット1030と、駆動部1010と、制御部1060と、を含む。また、液滴噴射装置1000は、装置本体1020と、給紙部1050と、記録用紙Pを設置するトレイ1021と、記録用紙Pを排出する排出口1022と、装置本体1020の上面に配置された操作パネル1070と、を含むことができる。
【0088】
ヘッドユニット1030は、例えば、上述した液滴噴射ヘッド300から構成されるインクジェット式記録ヘッド(以下単に「ヘッド」ともいう)を有する。ヘッドユニット1030は、さらに、ヘッドにインクを供給するインクカートリッジ1031と、ヘッドおよびインクカートリッジ1031を搭載した運搬部(キャリッジ)1032と、を備える。
【0089】
駆動部1010は、ヘッドユニット1030を往復動させることができる。駆動部1010は、ヘッドユニット1030の駆動源となるキャリッジモータ1041と、キャリッジモータ1041の回転を受けて、ヘッドユニット1030を往復動させる往復動機構1042と、を有する。
【0090】
往復動機構1042は、その両端がフレーム(図示せず)に支持されたキャリッジガイド軸1044と、キャリッジガイド軸1044と平行に延在するタイミングベルト1043と、を備える。キャリッジガイド軸1044は、キャリッジ1032が自在に往復動できるようにしながら、キャリッジ1032を支持している。さらに、キャリッジ1032は、タイミングベルト1043の一部に固定されている。キャリッジモータ1041の作動により、タイミングベルト1043を走行させると、キャリッジガイド軸1044に導かれて、ヘッドユニット1030が往復動する。この往復動の際に、ヘッドから適宜インクが吐出され、記録用紙Pへの印刷が行われる。
【0091】
制御部1060は、ヘッドユニット1030、駆動部1010および給紙部1050を制御することができる。
【0092】
給紙部1050は、記録用紙Pをトレイ1021からヘッドユニット1030側へ送り込むことができる。給紙部1050は、その駆動源となる給紙モータ1051と、給紙モータ1051の作動により回転する給紙ローラ1052と、を備える。給紙ローラ1052は、記録用紙Pの送り経路を挟んで上下に対向する従動ローラ1052aおよび駆動ローラ1052bを備える。駆動ローラ1052bは、給紙モータ1051に連結されている。制御部1060によって供紙部1050が駆動されると、記録用紙Pは、ヘッドユニット1030の下方を通過するように送られる。
【0093】
ヘッドユニット1030、駆動部1010、制御部1060および給紙部1050は、装置本体1020の内部に設けられている。
【0094】
液滴噴射装置1000では、耐久性が向上した液滴噴射ヘッド300を有することができる。そのため、耐久性が向上した液滴噴射装置1000を得ることができる。
【0095】
なお、上述した例では、液滴噴射装置1000がインクジェットプリンターである場合について説明したが、本発明のプリンターは、工業的な液滴噴射装置として用いられることもできる。この場合に吐出される液体(液状材料)としては、各種の機能性材料を溶媒や分散媒によって適当な粘度に調整したもの、または、メタルフレーク等を含むものなどを用いることができる。
【0096】
上記のように、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には容易に理解できよう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0097】
1 基板、10 圧力室基板、11 圧力室、11a 領域、12 壁部、13 供給路、14 連通路、15 リザーバ、20 ノズル板、21 ノズル孔、30 振動板、31 第1面、32 第2面、33 第1領域面、33a 第1の辺、33b 第2の辺、40 第1導電層、41 端面、42 上面、43 第1導電部、44 第2導電部、45 第3導電部、50 圧電体層、50a エッチング保護膜、50b 圧電体層、50c 中間チタン層、51 上面、52 側面、54 開口部、55 駆動領域、55a 端部、55b 端部、60 第2導電層、60a 導電層、60b 導電層、61,62 端面、63 開口部、65a,65a−1,65b 延出部、67 第3の導電層、70 第4の導電層、90 封止板、91 封止領域、95 外部駆動回路、100 圧電素子、210 第1方向、220 第2方向、230 第3方向、300 液体噴射ヘッド、1000 液体噴射装置、1010 駆動部、1020 装置本体、1021 トレイ、1022 排出口、1030 ヘッドユニット、1031 インクカートリッジ、1032 キャリッジ、1041 キャリッジモータ、1042 往復動機構、1043 タイミングベルト、1044 キャリッジガイド軸、1050 給紙部、1051 給紙モータ、1052 給紙ローラ、1060 制御部、1070 操作パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル孔に連通する圧力室が設けられた圧力室基板と、
第1面と、該第1面と対向する第2面とを有し、前記第1面で前記圧力室を覆う振動板と、
第1導電層と、
圧電体層と、
第2導電層とを含み、
前記圧力室基板には、前記圧力室が第1方向に複数並設され、
前記振動板は、前記第1方向と直交し、かつ、前記第1面の法線方向となる第2方向から見て、前記圧力室を覆う第1領域面を前記第1面に有するように形成され、
前記第1導電層は、前記第2方向から見て、前記第1方向においては前記第1領域面と重なる領域内で前記振動板の前記第2面を覆い、かつ、前記第1方向及び前記第2方向と直交する第3方向の少なくとも一方においては前記第1領域面と重なる領域外まで延出して前記振動板の前記第2面を覆うように複数形成され、
前記圧電体層は、前記第2方向から見て、少なくとも前記第1領域面と重なる領域内において前記第1導電層を覆うように形成され、
前記第2導電層は、
前記第2方向から見て、少なくとも前記第1領域面と重なる領域内において、前記第1方向においては前記圧電体層を覆って連続的に形成され、かつ、前記第3方向においては前記第1導電層の一部と重なるように、前記圧電体層の少なくとも一部を覆うように形成され、さらに、
前記第2方向から見て、隣り合う前記第1導電層の間の領域の少なくとも一部において、前記第3方向の両側に延出する延出部を有する、液滴噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液滴噴射ヘッドにおいて、
前記延出部は、前記第2方向から見て、前記第1領域面の前記第3方向における端部よりも外側まで延出している、液滴噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれかに記載の液滴噴射ヘッドにおいて、
前記延出部は、前記第2方向から見て、前記第1領域面とは重ならない位置に設けられた、液滴噴射ヘッド。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の液滴噴射ヘッドにおいて、
前記第1導電層と前記第2導電層とが重なる領域は、前記第2方向から見て、前記第1領域面の前記第3方向における一端から他端までの範囲において、前記第1方向を対称軸として対称に設けられ、
前記延出部は、前記第2方向から見て、前記第3方向における前記第1領域面の一端から他端までの範囲内において、前記第1方向を対称軸として対称に設けられた、液滴噴射ヘッド。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の液滴噴射ヘッドにおいて、
前記第2導電層は、共通電極と電気的に接続され、
前記延出部のうち少なくとも一部は、延出先において前記共通電極と電気的に接続された、液滴噴射ヘッド。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の液滴噴射ヘッドにおいて、
前記第2方向から見て、隣り合う前記第1領域面の間の領域の少なくとも一部において、前記圧電体層が存在しない領域を有する、液滴噴射ヘッド。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の液滴噴射ヘッドを含む、液滴噴射装置。

【図1】
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【図2(A)】
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【図2(B)】
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【図2(C)】
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【図2(D)】
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【図2(E)】
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【図2(F)】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−83995(P2011−83995A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239335(P2009−239335)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】