説明

液状エポキシ樹脂組成物及び半導体装置

【解決手段】 (A)液状エポキシ樹脂、
(B)芳香族アミン系硬化剤、
(C)酸無水物をマイクロカプセル化したマイクロカプセル型硬化促進剤
を必須成分とすることを特徴とする液状エポキシ樹脂組成物。
【効果】 本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、保存性を維持しつつ硬化時間を短縮することができる。また、シリコンチップの表面、特に感光性ポリイミド樹脂や窒化膜との密着性に優れた硬化物を与え、吸湿後のリフローの温度が従来温度240℃付近から260〜270℃に上昇しても不良が発生せず、更にPCT(120℃/2:1atm)等の高温多湿の条件下でも劣化せず、65℃/150℃の温度サイクルにおいて数百サイクルを超えても剥離、クラックが起こらない半導体装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体封止用として好適で、シリコンチップの素子表面(特に感光性ポリイミド、窒化膜、酸化膜)との密着性が非常に良好であり、耐湿性の高い硬化物を与え、特にリフロー温度260℃以上の高温熱衝撃に対して優れた封止材となり得る液状エポキシ樹脂組成物、及びこの組成物にて封止された半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器の小型化、軽量化、高機能化に伴い、半導体の実装方法もピン挿入タイプから表面実装が主流になっている。また、半導体素子の高集積化に伴い、ダイサイズの一辺が10mmを超えるものもあり、ダイサイズの大型化が進んできている。このような大型ダイを用いた半導体装置では、半田リフロー時にダイと封止材にかかる応力が増大し、封止材とダイ及び基板の界面での剥離、基板実装時にパッケージにクラックが入るといった問題がクローズアップされてきている。
【0003】
更に、近い将来に鉛含有半田が使用できなくなることから、鉛代替半田が多数開発されている。この種の半田は、溶融温度が鉛含有の半田より高くなることから、リフローの温度も260〜270℃で検討されており、従来の液状エポキシ樹脂組成物の封止材では、より一層の不良が予想される。このようにリフローの温度が高くなると、従来においては何ら問題のなかったフリップチップ型のパッケージもリフロー時にクラック発生、チップ界面、基板界面との剥離が発生するという重大な問題が起こるようになった。
【0004】
これらの要求を満たす材料として、液状エポキシ樹脂/アルキル置換芳香族ジアミン系の液状封止樹脂が提案されている(特許文献1:特開平9−176287号公報、特許文献2:特開平9−176294号公報参照)。この材料は、基板、金属、ソルダーレジスト等との接着性に優れ、更に耐リフロー性、耐温度サイクルクラック性に優れ、高信頼性パッケージを可能としている。
【0005】
しかし、上記の樹脂系は硬化時間が長く(150℃/3時間)、パッケージ生産性という観点からは問題であった。また、ゲル化時間が長いためにフィラーの沈降、それに伴う表面クラックの発生、可使時間が短い等の欠点があった。また、硬化時間を短くするために硬化促進剤の検討が考えられ、その例としてはフェノール類、サリチル酸のようなフェノール酸が挙げられるが、可使時間が短く、作業性が著しく低下する等の欠点があった。
【0006】
【特許文献1】特開平9−176287号公報
【特許文献2】特開平9−176294号公報
【特許文献3】特開平5−247179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、従来に比べて短時間に硬化が可能であり、シリコンチップの表面、特に感光性ポリイミド樹脂や窒化膜との密着性に優れ、かつ強靭性に優れた硬化物を与え、リフローの温度が従来温度240℃付近から260〜270℃に上昇しても不良が発生せず、更にプレッシャークッカーテスト(以下PCTという)において、120℃/2.1atmなどの高温多湿の条件下でも劣化せず、−65℃/150℃の温度サイクルにおいて数百サイクルを超えても剥離、クラックが発生しない半導体装置の封止材となり得る液状エポキシ樹脂組成物、及びこの組成物の硬化物で封止された半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、(A)液状エポキシ樹脂、(B)芳香族アミン系硬化剤、(C)酸無水物をマイクロカプセル化したマイクロカプセル型硬化促進剤、及び好ましくは(D)無機質充填剤を含有する液状エポキシ樹脂組成物を用いること、この場合、特に、(A)液状エポキシ樹脂のエポキシ当量と(B)芳香族アミン系硬化剤のアミン当量との当量比〔(A)/(B)〕を0.7以上1.2以下とすることにより、シリコンチップの表面、特に感光性ポリイミド樹脂や窒化膜との密着性に優れ、PCT(120℃/2.1atm)などの高温多湿の条件下でも劣化せず、熱衝撃に対して優れており、特に大型ダイサイズの半導体装置の封止材として有効となり得ることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0009】
従って、本発明は、(A)液状エポキシ樹脂、(B)芳香族アミン系硬化剤、(C)酸無水物をマイクロカプセル化したマイクロカプセル型硬化促進剤を必須成分とすることを特徴とする液状エポキシ樹脂組成物、及び上記液状エポキシ樹脂組成物の硬化物で封止した半導体装置を提供する。更に、上記液状エポキシ樹脂組成物の硬化物をアンダーフィル材として封止したフリップチップ型半導体装置を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、保存性を維持しつつ硬化時間を短縮することができる。また、シリコンチップの表面、特に感光性ポリイミド樹脂や窒化膜との密着性に優れた硬化物を与え、吸湿後のリフローの温度が従来温度240℃付近から260〜270℃に上昇しても不良が発生せず、更にPCT(120℃/2.1atm)等の高温多湿の条件下でも劣化せず、−65℃/150℃の温度サイクルにおいて数百サイクルを超えても剥離、クラックが起こらない半導体装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
[(A)液状エポキシ樹脂]
本発明の液状エポキシ樹脂組成物において、(A)液状エポキシ樹脂は、一分子内に3官能基以下のエポキシ基を含有する常温で液状のエポキシ樹脂であればいかなるものでも使用可能であるが、25℃における粘度が800Pa・s以下、特に500Pa・s以下のものが好ましく、具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェニルグリシジルエーテルなどが挙げられ、これらの中でも室温(25℃)で液状のエポキシ樹脂を使用することが好ましい。また、本発明の液状エポキシ樹脂は、1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
【0012】
また、本発明のエポキシ樹脂は、下記構造式(1),(2)で示されるエポキシ樹脂を侵入性に影響を及ぼさない範囲で含有していてもよい。
【0013】
【化1】

【0014】
ここで、R1は水素原子又は炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10、更に好ましくは炭素数1〜3の一価炭化水素基であり、一価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基等が挙げられる。また、xは1〜4の整数、特に1又は2である。
【0015】
なお、上記式(2)で示されるエポキシ樹脂を配合する場合、その配合量は、全エポキシ樹脂中25質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは75質量%以上であることが推奨される。25質量%未満であると組成物の粘度が上昇したり、硬化物の耐熱性が低下したりするおそれがある。なお、その上限は100質量%でもよい。
【0016】
上記一般式(2)で示されるエポキシ樹脂の例としては、RE600NM(日本化薬(株)製)等が挙げられる。
【0017】
上記液状エポキシ樹脂中の全塩素含有量は、1,500ppm以下、望ましくは1,000ppm以下であることが好ましい。また、100℃で50%エポキシ樹脂濃度における20時間での抽出水塩素が10ppm以下であることが好ましい。全塩素含有量が1,500ppmを超え、又は抽出水塩素が10ppmを超えると半導体素子の信頼性、特に耐湿性に悪影響を与えるおそれがある。
【0018】
[(B)芳香族アミン系硬化剤]
次に、本発明に使用する(B)芳香族アミン系硬化剤としては、芳香族ジアミノジフェニルメタン化合物、例えば、3,3’−ジエチル−4,4’ジアミノフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジアミノフェニルメタン、2,4−ジアミノトルエン、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン等の芳香族アミンであることが好ましい。これらは単独又は混合して用いても差し支えない。
【0019】
上記芳香族アミン系硬化剤において、常温で固体である場合はそのまま配合すると樹脂粘度が上昇し、作業性が著しく悪くなるため、予めエポキシ樹脂と溶融混合することが好ましく、後述する指定の配合量で、70〜150℃の温度範囲で1時間〜2時間溶融混合することが望ましい。混合温度が70℃未満であると芳香族アミン系硬化剤が十分に相溶しにくくなるおそれがあり、150℃を超える温度であるとエポキシ樹脂と反応して粘度上昇するおそれがある。また、混合時間が1時間未満であると芳香族アミン系硬化剤が十分に相溶せず、粘度上昇を招くおそれがあり、2時間を超えるとエポキシ樹脂と反応し、粘度上昇するおそれがある。
【0020】
なお、本発明に用いられる芳香族アミン系硬化剤の総配合量は、液状エポキシ樹脂と芳香族アミン系硬化剤との当量比〔(A)液状エポキシ樹脂のエポキシ当量/(B)芳香族アミン系硬化剤のアミン当量〕を0.7以上1.2以下、好ましくは0.7以上1.1以下にすることが好ましい。更に好ましくは0.85以上1.05以下の範囲であることが推奨される。当量比が0.7未満では、未反応のアミン基が残存し、ガラス転移温度の低下となり、また密着性が低下するおそれがある。逆に1.2を超えると硬化物が硬く脆くなり、リフロー時にクラックが発生するおそれがある。
【0021】
[(C)マイクロカプセル型硬化促進剤]
本発明において用いられる(C)成分としてのマイクロカプセル型硬化促進剤は、硬化促進剤(硬化触媒)として酸無水物がマイクロカプセル中に閉じ込められたもので、この場合、本発明で使用するマイクロカプセルは、(メタ)アクリレート系単量体、例えば(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸等の炭素数1〜8のアルキルエステル、このアルキルエステルのアルキル基がアリル基等の置換基を有するもの、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル等の単官能性単量体及びエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミド等の多官能単量体から選ばれる1種を単独で又は2種以上の単量体を(共)重合することにより得られたポリマーを殻材として、該ポリマー中に触媒として硬化触媒が閉じ込められたものである。なお、上記ポリマーの中では、(メタ)アクリレート系単量体の重合物が好ましい。
【0022】
一方、このマイクロカプセルに入れられる硬化促進剤(硬化触媒)としては、酸無水物が用いられる。酸無水物としては、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、へキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルハイミック酸、ピロメリット酸二無水物、マレイン化アロオシメン、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラビスベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物等が挙げられる。
【0023】
本発明の上記酸無水物系硬化触媒を含有するマイクロカプセル型硬化促進剤の製造方法としては様々な方法が挙げられるが、生産性及び球状度が高いマイクロカプセルを製造するためには、通常、懸濁重合法及び乳化重合法などの従来から公知の方法で製造することができる。例えばエポキシ樹脂硬化剤用アミン類を主成分とする固体状芯物質を重合性二重結合を有する有機酸を含有するラジカル重合性モノマーでマイクロカプセル化する方法が特開平5−247179号公報(特許文献3)に開示されている。
【0024】
この場合、一般的に使用されている触媒の分子構造から高濃度マイクロカプセル触媒を得るためには、硬化触媒10質量部に対して使用する上記単量体の総量は10〜200質量部程度が好ましく、より好ましくは10〜100質量部、更に好ましくは20〜50質量部である。10質量部未満では潜在性を十分に寄与することが困難となる場合があり、200質量部を超えると、触媒の比率が低くなり、十分な硬化性を得るためには多量に使用しなければならなくなるため、経済的に不利となる場合がある。即ち、マイクロカプセル中に含有される硬化触媒の濃度としては、約5〜50質量%、好ましくは約10〜50質量%程度のものを使用することができる。
【0025】
このような方法で得られるマイクロカプセルとしては、平均粒径が0.5〜10μm、最大粒径が50μm以下のものを使用することが好ましい。より好ましくは平均粒径が2〜5μm、かつ最大粒径が20μm以下のものが望ましい。硬化促進剤の粒径が小さすぎると、比表面積が大きくなり、混合した時の粘度が高くなるおそれがある。また平均粒径が10μmを超えると、樹脂への分散が不均一になり、信頼性の低下を引き起こすおそれがある。
【0026】
なお、この平均粒径は、例えばレーザー光回折法による粒度分布測定における重量平均値D50(又は、メジアン径)等として求めることができる(以下、同様)。
【0027】
また、上記マイクロカプセルとしては、下記性能を有するものを使用することが好ましい。即ち、硬化触媒を含有するマイクロカプセルを1g秤量し、これをo−クレゾール30gに混合した後、30℃で放置し、溶出する触媒をガスクロマトグラフィーで定量した場合、マイクロカプセルから溶出する触媒が30℃、15分でマイクロカプセル中に含まれる全触媒量の70質量%以上であるものを用いる。70質量%未満では、硬化時間が長くかかるおそれがあり、生産性が低下する場合がある。望ましくは、溶出量が75質量%以上である。
【0028】
上記本発明のマイクロカプセル型硬化促進剤の配合量は、(A)液状エポキシ樹脂と、(B)芳香族アミン系硬化剤との総量100質量部に対して0.5〜20質量部、特に1〜15質量部であることが好ましい。0.5質量部未満では硬化性が低下するおそれがあり、20質量部を超える量では硬化性に優れるが保存性が低下するおそれがある。
【0029】
また、硬化促進剤として、マイクロカプセル化しない上述の触媒を上記マイクロカプセル触媒と併用添加してもよい。その場合の配合量は、マイクロカプセル触媒とマイクロカプセル化していない触媒の合計が、(A)液状エポキシ樹脂と(B)芳香族アミン系硬化剤との総量100質量部に対して0.5〜20質量部、望ましくは0.5〜15質量部であることが好ましい。0.5質量部未満では硬化性が低下するおそれがあり、20質量部を超える量では硬化性に優れるが保存性が低下するおそれがある。なお、マイクロカプセル化していない触媒の添加量は全触媒添加量の1/10以下であることが好ましく、1/10を超える量では硬化性に優れるが保存性が低下するおそれがある。
【0030】
[(D)無機質充填剤]
本発明においては、膨張係数を小さくする目的から、公知の各種無機質充填剤(D)を添加することができる。無機質充填剤として具体的には、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、ボロンナイトライド、窒化アルミニウム、窒化珪素、マグネシア、マグネシウムシリケートなどが挙げられる。中でも真球状の溶融シリカが低粘度化のため望ましい。
【0031】
無機質充填剤は、樹脂と無機質充填剤との結合強度を強くするため、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などのカップリング剤で予め表面処理したものを配合することが好ましい。このようなカップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン、γ−メルカプトシラン等のメルカプトシランなどのシランカップリング剤を用いることが好ましい。ここで表面処理に用いるカップリング剤の配合量及び表面処理方法については、特に制限されるものではない。
【0032】
本発明の組成物をポッティング材として使用する場合、無機質充填剤は、平均粒径が2〜20μmで、最大粒径が75μm以下、特に50μm以下のものが望ましい。平均粒径が2μm未満では粘度が高くなり、多量に充填できない場合があり、一方、20μmを超えると粗い粒子が多くなり、リード線につまり、ボイドとなるおそれがある。
【0033】
この場合、無機質充填剤の充填量は、(A)液状エポキシ樹脂と(B)芳香族アミン系硬化剤との総量100質量部に対して50〜1,200質量部、特に100〜1,200質量部の範囲が好ましい。100質量部未満では、膨張係数が大きく冷熱試験においてクラックの発生を誘発させるおそれがある。1,200質量部を超えると、粘度が高くなり、流動性の低下をもたらすおそれがある。この場合の組成物の好ましい粘度としては、25℃で700Pa・s以下、好ましくは500Pa・s以下である。
【0034】
なお、アンダーフィル材として使用する場合には、無機質充填剤は、侵入性の向上と低線膨張化の両立を図るためフリップチップギャップ幅(基板と半導体チップとの隙間)に対して平均粒径が約1/10以下、最大粒径が1/2以下とすることが好ましい。
【0035】
この場合の無機質充填剤の配合量としては、(A)液状エポキシ樹脂と(B)芳香族アミン系硬化剤との総量100質量部に対して50〜400質量部で配合することが好ましく、より好ましくは100〜250質量部の範囲で配合する。50質量部未満では、膨張係数が大きく、冷熱試験においてクラックの発生を誘発させるおそれがある。400質量部を超えると、粘度が高くなり、薄膜侵入性の低下をもたらすおそれがある。この場合の組成物の好ましい粘度としては、25℃で250Pa・s以下、更に好ましくは100Pa・s以下である。
【0036】
[その他添加剤]
本発明のエポキシ樹脂組成物には、応力を低下させる目的でシリコーンゴム、シリコーンオイルや液状のポリブタジエンゴム、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレンよりなる熱可塑性樹脂などを配合してもよい。好ましくは、アルケニル基含有エポキシ樹脂又はフェノール樹脂のアルケニル基と下記平均組成式(3)で示される1分子中の珪素原子の数が20〜400であり、珪素原子に結合する水素原子(SiH基)の数が1〜5であるオルガノポリシロキサンのSiH基との付加反応により得られる共重合体を配合することが好ましい。
a2bSiO(4-a-b) (3)
(但し、式中R2は置換又は非置換の一価の炭化水素基、aは0.01〜0.1、bは1.8〜2.2、1.81≦a+b≦2.3である。)
【0037】
なお、R2の一価炭化水素基としては、炭素数1〜10、特に炭素数1〜8のものが好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、へキシル基、オクチル基、デシル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基、フェニル基、キシリル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基などや、これらの炭化水素基の水素原子の一部又は全部を塩素、フッ素、臭素等のハロゲン原子で置換したフロロメチル基、ブロモエチル基、トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換一価炭化水素基を挙げることができる。
【0038】
上記共重合体としては、中でも下記構造式(4)のものが望ましい.
【0039】
【化2】

【0040】
上記式(4)中、R2は上記と同じであり、R3は−CH2CH2CH2−、−OCH2−CH(OH)−CH2−O−CH2CH2CH2−又は−O−CH2CH2CH2−であり、R4は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である。nは4〜199、好ましくは19〜109の整数、pは1〜10の整数、qは1〜10の整数である。
【0041】
上記共重合体をジオルガノポリシロキサン量が、(A),(B)成分の合計100質量部に対して0〜20質量部、特には2〜15質量部含まれるように配合することで応力をより一層低下させることができる。ここで、ジオルガノポリシロキサン量は、下記式で示される。
ポリシロキサン量=(ポリシロキサン部分の分子量/(E)成分の分子量)×添加量
【0042】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物には、更に必要に応じ、接着向上用炭素官能性シラン、カーボンブラックなどの顔料、染料、酸化防止剤、その他の添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。但し、本発明においては、表面処理剤として使用する以外に接着向上用炭素官能性シラン等としてアルコキシ系シランカップリング剤を添加する場合には、特に、アンダーフィル材として用いる場合、ボイドの原因となるおそれがあるためできるだけ少量とする必要がある。
【0043】
[液状エポキシ樹脂組成物の調製等]
本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、例えば、液状エポキシ樹脂、芳香族アミン系硬化剤、マイクロカプセル型硬化促進剤、必要に応じて無機質充填剤及びその他の添加剤等を同時に又は別々に、必要により加熱処理を加えながら、撹拌、溶解、混合、分散させることにより得ることができる。これらの混合、撹拌、分散等の装置としては、特に限定されるものではないが、撹拌、加熱装置を備えたライカイ機、3本ロール、ボールミル、プラネタリーミキサー等を用いることができる。またこれら装置を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0044】
また、この組成物の成形方法、成形条件は、常法とすることができるが、好ましくは、先に100〜120℃、0.5時間以上、その後150〜175℃、0.5時間以上の条件で熱オーブンキュアを行う。100〜120℃での加熱が0.5時間未満では、硬化後にボイドが発生する場合がある。また150〜175℃での加熱が0.5時間未満では、十分な硬化物特性が得られない場合がある。この場合、キュアの時間は加熱温度に応じて適宜選定される。
【0045】
ここで、本発明に用いるフリップチップ型半導体装置としては、例えば図1に示したように、通常、有機基板1の配線パターン面に複数個のバンプ2を介して半導体チップ3が搭載されているものであり、上記有機基板1と半導体チップ3との隙間(バンプ2間の隙間)にアンダーフィル材4が充填され、その側部がフィレット材5で封止されたものとすることができるが、本発明の封止材は、特にこのようなアンダーフィル材として使用する場合に有効である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0047】
[実施例1〜3、比較例1〜3]
表1に示す成分を3本ロールで均一に混練することにより、6種の樹脂組成物を得た。これらの樹脂組成物を用いて、以下に示す試験を行った。その結果を表2に示す。
[粘度]
BH型回転粘度計を用いて4rpmの回転数で25℃における粘度を測定した。
[保存性]
25℃/60%RHにおいて樹脂組成物を保存し、上記測定条件で20%粘度上昇するのに要した時間の1/2の時間を保存性とした。
[ゲル化時間]
150℃のホットプレートに0.5ccの液状樹脂組成物を滴下し、スパチュラで撹拌して糸引きが切れるところでゲル化時間とした。
[Tg(ガラス転移温度)、CTE1(膨張係数)、CTE2(膨張係数)]
樹脂組成物を120℃/0.5時間+165℃/3時間で硬化させた5mm×5mm×15mmの硬化物試験片を用いて、TMA(熱機械分析装置)により毎分5℃の速さで昇温した時のTgを測定した。また、以下の温度範囲の膨張係数を測定した。
CTE1の温度範囲は50〜80℃、CTE2の温度範囲は200〜230℃である。
【0048】
[接着力テスト]
感光性ポリイミドをコートしたシリコンチップ上に、上面の直径2mm、下面の直径5mm、高さ3mmの円錐台形状の樹脂組成物試験片を載せ、120℃で0.5時間、次いで165℃で3時間硬化させた。硬化後、得られた試験片の剪断接着力を測定し、初期値とした。更に、硬化させた試験片をPCT(121℃/2.1atm)で336時間吸湿させた後、接着力を測定した。いずれの場合も試験片の個数は5個で行い、その平均値を接着力として表記した。
[PCT剥離テスト]
ポリイミドコートした10mm×10mmのシリコンチップを30mm×30mmのFR−4基板に約100μmのスペーサを用いて設置し、生じた隙間に組成物を侵入させて120℃/0.5時間+165℃/3時間の条件で硬化させ、30℃/65%RH/192時間後に最高温度265℃に設定したIRリフローにて5回処理した後の剥離、更にPCT(121℃/2.1atm)の環境下に置き、336時間後の剥離をC−SAM(SONIX社製)で確認した。
[熱衝撃テスト]
ポリイミドコートした10mm×10mmのシリコンチップを30mm×30mmのFR−4基板に約100μmのスペーサを用いて設置し、生じた隙間に組成物を侵入させて120℃/0.5時間+165℃/3時間の条件で硬化させ、30℃/65%RH/192時間後に最高温度265℃に設定したIRリフローにて5回処理した後、−65℃/30分、150℃/30分を1サイクルとし、250サイクル、500サイクル、750サイクル、1,000サイクル後の剥離、クラックを確認した。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
(A)液状エポキシ樹脂
RE303S−L:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製)
エピコート630H:下記式(5)で示される3官能型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製)
【0052】
【化3】

【0053】
(B)硬化剤
芳香族アミン系硬化剤A:ジエチルジアミノジフェニルメタン(日本化薬(株)製、カヤハードA−A)
芳香族アミン系硬化剤B:テトラエチルジアミノフェニルメタン(日本化薬(株)製、C−300S)
【0054】
(C)硬化触媒
BTDAのマイクロカプセル:BTDAを20質量%含有したメタクリル酸メチルの重合体,平均粒径が7μm、o−クレゾール中で30℃、15分間の処理でマイクロカプセルから溶出する触媒の量は87質量%
BTDA:ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物(Gulf Oil社製)
【0055】
(D)無機充填剤
球状シリカ:最大粒径53μm、平均粒径10μmの球状シリカ((株)龍森製)
【0056】
その他添加剤
共重合体:下記式(7)で示されるアルケニル基含有エポキシ樹脂のアルケニル基と、下記式(6)で示されるSiH基含有オルガノポリシロキサンのSiH基との付加反応により得られる共重合体(オルガノポリシロキサン部分の含有率=81.5質量%)
【化4】

【0057】
シランカップリング剤:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM403)
カーボンブラック:デンカブラック(電気化学工業(株)製)
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】フリップチップ型半導体装置の概略図である。
【符号の説明】
【0059】
1 有機基板
2 バンプ
3 半導体チップ
4 アンダーフィル材
5 フィレット材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)液状エポキシ樹脂、
(B)芳香族アミン系硬化剤、
(C)酸無水物をマイクロカプセル化したマイクロカプセル型硬化促進剤
を必須成分とすることを特徴とする液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
(A)液状エポキシ樹脂と(B)芳香族アミン系硬化剤との総量100質量部に対し、(C)酸無水物をマイクロカプセル化したマイクロカプセル型硬化促進剤の添加量が0.1〜50質量部であることを特徴とする請求項1記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
上記マイクロカプセル型硬化促進剤が、平均粒径が0.5〜10μmであり、かつオルソクレゾール中におけるマイクロカプセルからの触媒の溶出量が30℃、15分でマイクロカプセル中に含まれる全触媒量の70質量%以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
上記酸無水物が、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルハイミック酸、ピロメリット酸二無水物、マレイン化アロオシメン、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラビスベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物から選ばれる酸無水物である請求項1乃至3のいずれか1項記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
更に、(D)無機質充填剤を(A)液状エポキシ樹脂と(B)芳香族アミン系硬化剤との総量100質量部に対して50〜1,200質量部配合してなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項記載の液状エポキシ樹脂組成物の硬化物で封止された半導体装置。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか1項記載の液状エポキシ樹脂組成物の硬化物をアンダーフィル材として封止したフリップチップ型半導体装置。

【図1】
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【公開番号】特開2006−2138(P2006−2138A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121979(P2005−121979)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】