説明

液状化合物を内包した微粒子の製造方法

【課題】両親媒性液体であっても容易に空孔内に封入することができる液状化合物を内包した微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】メタノール吸液率が60%以上である中空樹脂微粒子と、目的とする液状化合物又は液状化合物を溶解した溶液とを混合して、前記液状化合物を前記吸液率が60%以上である中空樹脂微粒子の空孔内に浸透させる浸透工程と、前記浸透工程後に、前記メタノール吸液率が60%以上である中空樹脂微粒子のシェルの外側にアウターシェルを形成する、又は、内側にインナーシェルを形成して、中空樹脂微粒子のメタノール吸液率を30%以下とする封入工程とを有する液状化合物を内包した微粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両親媒性液体であっても容易に中空樹脂微粒子の空孔内に封入することができる、液状化合物を内包した微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中空樹脂微粒子の製造方法は、例えば、親水性モノマー、架橋性モノマー及び油溶性溶剤を重合開始剤と共に均一溶解してモノマー溶液を調製し、該モノマー溶液を水相中で乳化分散させ、重合した後、加熱乾燥して油溶性溶剤を気散させる方法が代表的である(例えば、特許文献1等)。この製造方法は、生成するポリマーと油溶性溶剤との相分離効果を利用する方法である。
【0003】
中空樹脂微粒子のバリエーションの1つとして、中空樹脂微粒子の空孔内に各種の液状化合物を封入した微粒子が検討されている。このような液状化合物を内包した微粒子として、例えば、中空樹脂微粒子の空孔内にエポキシ樹脂等の硬化促進剤を封入した微粒子が挙げられる。硬化促進剤を内包した微粒子をエポキシ樹脂等と組み合わせた硬化性組成物は、硬化促進剤が中空樹脂微粒子の空孔内に封入されていることから通常の状態ではエポキシ樹脂と反応できず高い貯蔵安定性を発揮できる。一方、熱や圧力等により硬化促進剤を内包した微粒子のシェルを破壊すると、封入されていた硬化促進剤が漏出してエポキシ樹脂と速やかに反応し、硬化させることができる。
【0004】
液状化合物を内包した微粒子を製造するには、中空樹脂微粒子を製造する際の油溶性溶剤として、目的とする液状化合物を選択すればよい。しかしながら、例えば代表的な硬化促進剤であるイミダゾール化合物は両親媒性液体であり、親水性溶媒や疎水性溶媒とも親和性が高い。従って、生成するポリマーと油溶性溶剤との相分離効果を利用する特許文献1等に記載された従来の中空樹脂微粒子の製造方法においては、油溶性溶剤としてイミダゾール化合物を選択することは好ましくない。両親媒性液体であっても容易に封入することができる、液状化合物を内包した微粒子の製造方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2801312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、両親媒性液体であっても容易に中空樹脂微粒子の空孔内に封入することができる、液状化合物を内包した微粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、メタノール吸液率が60%以上である中空樹脂微粒子と、目的とする液状化合物又は液状化合物を溶解した溶液とを混合して、前記液状化合物を前記吸液率が60%以上である中空樹脂微粒子の空孔内に浸透させる浸透工程と、前記浸透工程後に、前記メタノール吸液率が60%以上である中空樹脂微粒子のシェルの外側にアウターシェルを形成する、又は、内側にインナーシェルを形成して、中空樹脂微粒子のメタノール吸液率を30%以下とする封入工程とを有する液状化合物を内包した微粒子の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者は、中空樹脂微粒子のメタノール吸液率が一定以上である場合には、目的とする液状化合物が中空樹脂微粒子のシェルを透過できることを見出した。そして、メタノール吸液率が一定以上である中空樹脂微粒子に目的とする液状化合物を浸透させた後、シェルを補強してメタノール吸液率を低下させれば、液状化合物を内包した微粒子を容易に製造できることを見出した。この方法は、従来の液状化合物を内包した微粒子の製造方法のように生成するポリマーと油溶性溶剤との相分離効果を利用しなくてもよいことから、目的とする液状化合物がイミダゾール化合物等の両親媒性液体であっても、問題なく利用することができる。
【0009】
本発明の液状化合物を内包した微粒子の製造方法は、メタノール吸液率が60%以上である中空樹脂微粒子(以下、「原料中空樹脂微粒子」ともいう。)と、目的とする液状化合物又は液状化合物を溶解した溶液と混合して、液状化合物を原料中空樹脂微粒子の空孔内に浸透させる浸透工程を有する。
なお、上記浸透工程において、上記中空樹脂微粒子を目的とする液状化合物又は液状化合物を溶解した溶液に浸漬し、混合してもよい。また、目的とする液状化合物又は液状化合物を溶解した溶液を、上記中空樹脂微粒子に添加して混合してもよい。
【0010】
上記原料中空樹脂微粒子は、液状化合物を内包できる空孔と該空孔を覆うシェルとを有する微粒子であれば、1つのみの空孔を有する単孔中空微粒子であってもよく、2以上の空孔を有する多孔中空微粒子であってもよい。
【0011】
上記原料中空樹脂微粒子は、メタノール吸液率が60%以上である。上記原料中空樹脂微粒子のメタノール吸液率が60%未満であると、上記目的とする液状化合物を浸透させることができないか、浸透させることができるとしても長時間を要することがある。好ましくは上記原料中空樹脂微粒子のメタノール吸液率が90%以上であり、より好ましくは150%以上である。
【0012】
上記原料中空樹脂微粒子のメタノール吸液率は以下のように測定できる。乾燥した原料中空樹脂微粒子5gとメタノール100gとを混合してから15分間攪拌し、混合液を調整する。得られた混合液をろ過して、原料中空樹脂微粒子のケーク表面からメタノールが揮発したことを確認してから30〜60秒以内に、原料中空樹脂微粒子の重量(Ag)を測定し、以下の式を用いて、メタノール吸液率を測定できる。
メタノール吸液率(%)=[(A−5)/5]×100
【0013】
上記原料中空樹脂微粒子のシェルの吸液率を調製する方法は特に限定されないが、例えば、シェルの厚さを調整する方法が挙げられる。上記シェルの厚さが薄い場合には吸液率は高くなり、シェルの厚さが厚くなると吸液率は低くなる傾向にある。
【0014】
上記原料中空樹脂微粒子を調製する方法は特に限定されず、例えば、親水性モノマー、架橋性モノマー及び油溶性溶剤を重合開始剤と共に均一溶解してモノマー溶液を調製し、該モノマー溶液を水相中で乳化分散させ、重合する方法等が挙げられる。また、粒子径の制御が容易であることから、シード重合法を用いることが好ましい。上記シード重合法において用いられるシード粒子は非架橋粒子であることが好ましく、例えば、ポリスチレン粒子であることが好ましい。上記シード重合法では、シード粒子分散液と、親水性モノマー、架橋性モノマー、油溶性溶剤及び重合開始剤を含む乳化液とを混合することにより、膨潤粒子液滴を調製する工程と、膨潤粒子液滴を重合する工程とを有することが好ましい。
【0015】
上記親水性モノマーは特に限定されず、例えば、ビニルピリジン、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、アクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、酢酸ビニル、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のビニルモノマー等が挙げられる。
【0016】
上記架橋性モノマーは特に限定されず、例えば、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、プロペニル基、ビニリデン基、及びビニレン基から選ばれる1種以上の不飽和炭化水素基を2個以上有するモノマーが挙げられる。架橋性モノマーの具体例として、例えば、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、アリルアクリレート、ビス(アクリロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、ビス(アクリロキシネオペンチルグリコール)アジペート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジアクリロキシプロパン、2,2−ビス〔4−(アクリロキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(アクリロキシエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(アクリロキシエトキシ・ジエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(アクリロキシエトキシ・ポリエトキシ)フェニル〕プロパン、ヒドロキシビバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ジシクロペンタニルジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、テトラブロモビスフェノールAジアクリレート、トリグリセロールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシエトキシジエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシエトキシポリエトキシ)フェニル〕プロパン、テトラブロモビスフェノールAジメタクリレート、ジシクロペンタニルジメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、グリセロールジメタクリレート、ヒドロキシビバリン酸ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタメタクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、トリグリセロールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリス(メタクリロキシエチル)イソシアヌレート、アリルメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルイソフタレート、又はジエチレングリコールビスアリルカーボネート等が挙げられる。
【0017】
また、上記モノマーの重合の際には、必要に応じて界面活性剤又は分散安定剤等を用いてもよい。
【0018】
上記油溶性溶剤は特に限定されず、例えば、上記モノマーに応じて適宜選択することができる。上記油溶性溶剤として、例えば、アルコール、セロソルブ、ケトン、酢酸エステル又は炭化水素等が挙げられる。上記油溶性溶剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
上記アルコールとして、例えば、メタノール、エタノール又はプロパノール等が挙げられる。上記セロソルブとして、例えば、メチルセロソルブ又はエチルセロソルブ等が挙げられる。上記ケトンとして、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン又は2−ブタノン等が挙げられる。上記酢酸エステルとして、例えば、酢酸エチル又は酢酸ブチル等が挙げられる。上記炭化水素として、例えば、飽和炭化水素、不飽和炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等が挙げられる。
【0019】
上記重合開始剤は、油溶性重合開始剤であることが好ましい。上記油溶性重合開始剤として、例えば、有機過酸化物又はアゾ化合物等が挙げられる。
上記有機過酸化物の具体例として、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、オルソメトキシ過酸化ベンゾイル、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート又はジ−t−ブチルパーオキサイド等が挙げられる。上記アゾ化合物の具体例として、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサカルボニトリル又はアゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。
上記モノマーの合計100重量部に対して、上記重合開始剤は0.1〜5重量部の範囲内で用いられることが好ましい。
【0020】
なお、上記製造方法により製造した中空樹脂微粒子は、上記油溶性溶剤を中空樹脂微粒子の空孔内に内包するが、加熱乾燥して上記油溶性溶剤を揮発させてから原料中空樹脂微粒子として用いてもよいし、油溶性溶剤を内包したままで原料中空樹脂微粒子として用いてもよい。
【0021】
上記原料中空樹脂微粒子の粒子径の好ましい下限は0.05μm、好ましい上限は10μmである。上記原料中空樹脂微粒子の粒子径が0.05μm未満であると、中空樹脂微粒子の空孔内に十分な量の液状化合物を内包することができないことがあり、10μmを超えると、浸透圧の問題から中空樹脂微粒子の空孔内に液状化合物を封入できないことがある。上記原料中空樹脂微粒子の粒子径のより好ましい下限は0.5μm、より好ましい上限は5μmである。
【0022】
上記原料中空樹脂微粒子の粒子径のCV値の好ましい上限は10%である。上記原料中空樹脂微粒子の粒子径のCV値が10%を超えると、内包できる液状化合物の量が均一にならないことがある。上記原料中空樹脂微粒子の粒子径のCV値のより好ましい上限は5%である。
【0023】
上記原料中空樹脂微粒子の空隙率の好ましい下限は20%、好ましい上限は80%である。上記原料中空樹脂微粒子の空隙率が20%未満であると、内包できる液状化合物の量が少なくなることがあり、80%を超えると、シェルの強度が不足することがある。上記原料中空樹脂微粒子の空隙率のより好ましい下限は30%である。
上記空隙率とは、(空孔の最大径)/(原料中空樹脂微粒子の粒子径)により算出された値を百分率で示した数値である。上記空孔の最大径及び上記原料中空樹脂微粒子の粒子径は、任意の原料中空樹脂微粒子50個を電子顕微鏡で観察することにより得られた最大径及び粒子径の平均値である。なお、上記最大径とは、空孔が円形であると仮定した場合、最も大きな円形の最大径を示す数値を意味する。
【0024】
上記浸透工程では、上記原料中空樹脂微粒子と、目的とする液状化合物又は液状化合物を溶解した溶液とを混合する。これにより、目的とする液状化合物が上記原料中空樹脂微粒子の空孔内に浸透して、上記原料中空樹脂微粒子の空孔内に保持される。
【0025】
上記目的とする液状化合物は特に限定されず、例えば、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)2,4,8,10−テトラスピロ[5.5]ウンデカン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン等の脂肪族アミン化合物や、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族アミン化合物や、2−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウム・トリメリテート、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウム・トリメリテート、2−メチルイミダゾリウム・イソシアヌレート、2−フェニルイミダゾリウム・イソシアヌレート、2,4−ジアミノ−6−[2−メチルイミダゾリル−(1)]エチルS−トリアジン、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール化合物や、3−フェニル−1,1−ジメチル尿素、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジクロロ尿素等の尿素化合物や、コハク酸ヒドラジド、アジピン酸ヒドラジド、イソフタル酸ヒドラジド等のヒドラジド化合物や、ジシアンジアミド、o−トリルビグアニド、2,5−ジメチルビグアニド等のジシアンジアミド化合物や、ジアミノマレオニトリル、N−ベンジルジアミノマレオニトリル、N−イソブチルジアミノマレオニトリル等のジアミノマレオニトリル化合物や、メラミン、ジアリルメラミン等のメラミン化合物や、付加物のエポキシ樹脂用硬化剤等が挙げられる。また、液状化合物として、有機溶媒、染料、ビタミン類、触媒、香料、酸化防止剤、消臭剤、農薬、殺虫剤等を用いてもよい。なかでも、上記目的とする液状化合物が両親媒性液体である場合には、本発明の液状化合物を内包した微粒子の製造方法は特に有効である。上記両親媒性液体は、例えば、イミダゾール化合物等の硬化促進剤が挙げられる。
【0026】
上記目的とする液状化合物の粘度が高い場合には、浸透に長時間を要する場合がある。そのような場合は、適当な溶媒に上記目的とする液状化合物を溶解した溶液と、上記原料中空樹脂微粒子とを混合することが好ましい。
【0027】
上記浸透工程の条件は特に限定されないが、浸透を促進する目的で50℃程度に加熱してもよい。また、浸透を促進する目的で1MPa程度に加圧してもよい。更に、上記浸透工程の時間は特に限定されず、諸条件を勘案のうえ、充分に上記目的とする液状化合物が空孔内に浸透するまでの時間を設定すればよい。
【0028】
本発明の液状化合物を内包した微粒子の製造方法では、上記浸透工程後に、上記原料中空樹脂微粒子のシェルの外側にアウターシェルを形成する、又は、内側にインナーシェルを形成して、中空樹脂微粒子のメタノール吸液率を30%以下とする封入工程を行う。
上記浸透工程により、上記目的とする液状化合物を空孔内に内包した微粒子は得られた。しかしながら、上記原料中空樹脂微粒子は、メタノール吸液率が60%以上であることから、せっかく内包した目的とする液状化合物が再び透過して外へ漏れ出してしまう可能性があり、貯蔵安定性の点で問題がある。そこで、上記原料中空樹脂微粒子のシェルの外側にアウターシェルを形成する、又は、内側にインナーシェルを形成することにより中空樹脂微粒子のメタノール吸液率を30%以下にして、内包した目的とする液状化合物が漏出しないようにする。好ましくは中空樹脂微粒子のメタノール吸液率を20%以下にすることである。
なお、中空樹脂微粒子のメタノール吸液率とは、上記原料中空樹脂微粒子がもともと有していたシェルと、新たに形成されたアウターシェル又はインナーシェルとを含む微粒子全体でのメタノール吸液率を意味する。
【0029】
上記アウターシェル、インナーシェルを形成する材料は特に限定されず、上記原料中空樹脂微粒子のシェルと同じ樹脂により形成されていてもよく、異なる樹脂により形成されていてもよい。また、上記アウターシェル、インナーシェルは、無機酸化物により形成されていてもよく、上記樹脂と上記無機酸化物とを併用して、上記アウターシェル、インナーシェルを形成してもよい。上記アウターシェル、インナーシェルが上記原料中空樹脂微粒子のシェルと同じ樹脂により形成されている場合であっても、シェル全体の厚さを厚くすることにより吸液率を低下させることができる。
【0030】
上記アウターシェルを形成させる具体的方法は、例えば、懸濁重合法、ミニエマルション重合法、乳化重合法、ソープフリー乳化重合法、分散重合法、界面重合法、界面縮合法、液中硬化法、液中乾燥法、コアセルベーション法、ヘテロ凝集法、スプレードライ法等が挙げられる。
上記インナーシェルを形成させる具体的方法は、例えば、中空樹脂微粒子の空孔内でのコアセルベーション法等が挙げられる。
上記液状化合物に影響されることなく容易に吸液率を低下できることから、上記原料中空樹脂微粒子のシェルの外側にアウターシェルを形成することが好ましい。
【0031】
本発明の液状化合物を内包した微粒子の製造方法によれば、簡便かつ容易に大量の目的とする液状化合物を内包した微粒子を製造することができる。また、本発明の液状化合物を内包した微粒子の製造方法は、従来の液状化合物を内包した微粒子の製造方法のように生成するポリマーと油溶性溶剤との相分離効果を利用しなくてもよいことから、目的とする液状化合物がイミダゾール化合物等の両親媒性液体であっても、問題なく利用することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、両親媒性液体であっても容易に中空樹脂微粒子の空孔内に封入することができる、液状化合物を内包した微粒子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0034】
(実施例1)
(1)原料中空樹脂微粒子の調製
スチレン100重量部、過硫酸カリウム3重量部、n−オクチルメルカプタン25重量部、水2500重量部を混合し、撹拌しながら70℃で24時間反応させ、粒径0.5μm、CV値15%、球状、かつ、非架橋のポリスチレン粒子が1.5重量%の濃度で水に分散された種粒子分散液を調製した。
【0035】
親水性モノマーとしてアクリロニトリル50重量部、架橋性モノマーとしてトリメチロールプロパントリメタクリレート50重量部、油溶性溶剤としてヘプタン100重量部、及び、重合開始剤として過酸化ベンゾイル4重量部を均一に溶解し、乳化剤(ラウリル硫酸トリエタノールアミン)2重量部と水とを加えて混合し、乳化液を調製した。
【0036】
得られた種粒子分散液に、ポリスチレン粒子重量の200倍の油性成分となるように乳化液を加え、24時間撹拌して、親水性モノマー、架橋性モノマー、油溶性溶剤及び重合開始剤を吸収した種粒子の膨潤粒子液滴の分散液を得た。
得られた膨潤粒子液滴の分散液を撹拌しながら85℃で、10時間反応させることにより、コアとしてヘプタン、シェルとしてポリアクリロニトリル/トリメチロールプロパントリメタクリレート共重合体からなる微粒子分散液を得た。
得られた微粒子を、イオン交換水で繰り返して洗浄し、真空乾燥してヘプタンを揮発させて、原料中空樹脂微粒子を得た。
【0037】
原料中空樹脂微粒子を、走査型電子顕微鏡により、1視野に約100個が観察できる倍率で観察し、任意に選択した50個の微粒子についてノギスを用いて粒子径を測定し、数平均粒子径、CV値を算出した。得られた原料中空樹脂微粒子は、1つのみの空孔を有する単孔中空樹脂微粒子であって、平均粒子径は3.0μm、粒子径のCV値は4.0%、空隙率は40%であった。
【0038】
(2)原料中空樹脂微粒子のメタノール吸液率の測定
得られた原料中空樹脂微粒子5gとメタノール100gとを混合してから15分間攪拌した。その混合液をろ過し、原料中空樹脂微粒子のケーク表面からメタノールが揮発したことを確認してから50秒後に、原料中空樹脂微粒子の重量(A(g))を測定し、以下の式を用いて、メタノール吸液率(%)を測定した。得られた原料中空樹脂微粒子のメタノール吸液率は、91%であった。
メタノール吸液率(%)={(A−5)/5}×100
【0039】
(3)原料中空樹脂微粒子の空孔内に硬化促進剤を浸透させる浸透工程
硬化促進剤としてイミダゾール化合物(2−エチル−4−メチルイミダゾール)をメタノールに溶解して、濃度30重量%のイミダゾール化合物が溶解したメタノール溶液を調製した。
このメタノール溶液20mLに、得られた原料中空樹脂微粒子4.5gを加え、25℃で、15時間撹拌した
【0040】
(4)硬化促進剤を封入する封入工程
メタノール溶液に、ジビニルベンゼン4.5重量部、重合開始剤として2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]4水和物(VA−057)9.0重量部を加え、70℃で、12時間重合を行い、アウターシェルを形成して硬化促進剤を内包した微粒子を得た。得られた硬化促進剤を内包した微粒子は、平均粒子径は3.1μm、粒子径のCV値は4.2%であった。なお、硬化促進剤を内包した微粒子の平均粒子径、CV値は、原料中空樹脂微粒子と同様に測定した。
【0041】
(5)アウターシェルを形成した原料中空樹脂微粒子のメタノール吸液率の測定
上記(3)を行なわずに、上記(4)と同様にして、原料中空樹脂微粒子に、アウターシェルを形成した。次いで、上記(2)と同様にして、アウターシェルを形成した原料中空樹脂微粒子のメタノール吸液率を測定した。
アウターシェルを形成した原料中空樹脂微粒子のメタノール吸液率は、21%であった。
【0042】
(実施例2)
上記(1)において、親水性モノマーとしてアクリロニトリル50重量部、メチルメタクリレート20重量部とし、架橋性モノマーとしてトリメチロールプロパントリメタクリレート30重量部とし、油溶性溶剤としてイソオクタン100重量部とした以外は、実施例1と同様にして硬化促進剤を内包した微粒子を得た。
得られた硬化促進剤を内包した微粒子は、平均粒子径3.0μm、粒子径のCV値は4.3%であった。また、原料中空樹脂微粒子のメタノール吸液率は65%であり、アウターシェルを形成した原料中空樹脂微粒子のメタノール吸液率は18%であった。
【0043】
(実施例3)
上記(4)において、シェル材としてジビニルベンゼン2.5重量部、スチレン2.0重量部とした以外は、実施例1と同様にして硬化促進剤を内包した微粒子を得た。
得られた硬化促進剤を内包した微粒子は、平均粒子径3.1μm、粒子径のCV値は4.3%であった。また、原料中空樹脂微粒子のメタノール吸液率は91%であり、アウターシェルを形成した原料中空樹脂微粒子のメタノール吸液率は29%であった。
【0044】
(比較例1)
上記(4)において、アウターシェルを設けない以外は、実施例1と同様にして硬化促進剤を内包した微粒子を得た。
得られた硬化促進剤を内包した微粒子は、平均粒子径3.0μm、粒子径のCV値は4.0%であった。また、原料中空樹脂微粒子のメタノール吸液率は91%であり、アウターシェルを形成した原料中空樹脂微粒子のメタノール吸液率は91%であった。
【0045】
(比較例2)
上記(1)において、親水性モノマーとしてアクリロニトリル30重量部、メチルメタクリレート50重量部とし、架橋性モノマーとしてトリメチロールプロパントリメタクリレート20重量部とし、油溶性溶剤としてトルエンとした以外は、実施例1と同様にして硬化促進剤を内包した微粒子を得た。
得られた硬化促進剤を内包した微粒子の平均粒子径は3.0μm、粒子径のCV値は5.1%であった。また、原料中空樹脂微粒子のメタノール吸液率は57%であり、アウターシェルを形成した原料中空樹脂微粒子のメタノール吸液率は19%であった。
【0046】
(比較例3)
上記(4)において、シェル材としてジビニルベンゼン1重量部、メチルメタクリレート3.5重量部として、重合開始剤として過硫酸カリウム7.5重量部とした以外は、実施例1と同様にして硬化促進剤を内包した微粒子を得た。
得られた硬化促進剤を内包した微粒子の平均粒子径は3.2μm、粒子径のCV値は4.2%であった。また、原料中空樹脂微粒子のメタノール吸液率は91%であり、アウターシェルを形成した原料中空樹脂微粒子のメタノール吸液率は34%であった。
【0047】
(評価)
実施例1〜3、比較例1〜3で得られた硬化促進剤を内包した微粒子について、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0048】
(1)貯蔵安定性試験
得られた硬化促進剤を内包した微粒子とビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製「jER828」)とを1:2の重量割合で混合し、樹脂組成物を調製した後、樹脂組成物の25℃における粘度(貯蔵前粘度)をB型粘度計により測定した。その後、樹脂組成物を25℃で30日間放置し、25℃における粘度(貯蔵後粘度)をB型粘度計により測定した。貯蔵後粘度と貯蔵前粘度との差を算出し、貯蔵安定性を評価した。
【0049】
(2)硬化性評価試験
得られた硬化促進剤を内包した微粒子とビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製「jER828」)とを1:2の重量割合で混合し、樹脂組成物を調製した。樹脂組成物を150℃で30分間硬化させることにより、厚さ200μmのフィルム状の測定サンプルを作製した。テンシロン試験機(オリエンテック社製「RTC−1310A」)を用いて、JIS K−6911に準拠した方法により、引張速度5mm/minにおける、測定サンプルの引張強度を測定した。
【0050】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、両親媒性液体であっても容易に中空樹脂微粒子の空孔内に封入することができる、液状化合物を内包した微粒子の製造方法を提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタノール吸液率が60%以上である中空樹脂微粒子と、目的とする液状化合物又は液状化合物を溶解した溶液とを混合して、前記液状化合物を前記吸液率が60%以上である中空樹脂微粒子の空孔内に浸透させる浸透工程と、
前記浸透工程後に、前記メタノール吸液率が60%以上である中空樹脂微粒子のシェルの外側にアウターシェルを形成する、又は、内側にインナーシェルを形成して、中空樹脂微粒子のメタノール吸液率を30%以下とする封入工程とを有する
ことを特徴とする液状化合物を内包した微粒子の製造方法。
【請求項2】
液状化合物は、両親媒性液体であることを特徴とする請求項1記載の液状化合物を内包した微粒子の製造方法。
【請求項3】
液状化合物は、イミダゾール化合物であることを特徴とする請求項1記載の液状化合物を内包した微粒子の製造方法。


【公開番号】特開2010−189606(P2010−189606A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38068(P2009−38068)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】