説明

淡水化装置、膜の監視方法および淡水化装置の運転方法

【課題】膜面上へのスケールの析出を効率的に抑制することができる淡水化装置、膜の監視方法および淡水化装置の運転方法を提供する。
【解決手段】本発明の淡水化装置10は、海水11を逆浸透膜12に通水させて透過水13と濃縮水19とに分離する逆浸透膜装置16を有し、逆浸透膜装置16から濃縮水19を抜き出す濃縮水送給ライン22と、濃縮水送給ライン22から濃縮水19の少なくとも一部を抜き出す濃縮水分岐ライン31と、濃縮水分岐ライン31に設けられ、濃縮水19を透過させる監視用分離膜32を備えた水監視用膜装置33と、海水11に酸性薬剤41を供給する酸性薬剤供給部42とを有する。監視用分離膜32の膜状態から逆浸透膜12の膜面におけるスケールの析出を監視する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、淡水化装置、膜の監視方法および淡水化装置の運転方法に関するものであり、特に、海水の淡水化装置に用いられる逆浸透膜の監視方法、淡水化装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原水である海水から淡水を得る装置として、海水に圧力をかけて逆浸透膜(RO膜:Reverse Osmosis Membrane)と呼ばれる濾過膜の一種に通し、海水の塩分を濃縮して除去することにより海水を淡水化させて上水として使用する淡水(透過水)を生産する淡水化装置が用いられている。
【0003】
この淡水化装置では、逆浸透膜の表面部分で海水が濃縮されることにより海水中に含まれる無機成分が析出して析出物(スケール)が逆浸透膜に付着すると、逆浸透膜が閉塞するため、逆浸透膜における原水の透過性能が低下する。そのため、淡水化装置は運転の際に得られる逆浸透膜の透過性能を計算し、その逆浸透膜の透過性能の低下の度合いから逆浸透膜表面でのスケールの析出の有無を判断する。
【0004】
逆浸透膜を監視する方法の一例として、例えば、供給液および濃縮液の各々の一部を用いて逆浸透膜に付着する有機物、無機物、菌類などを目視で直接監視すると共に、逆浸透膜に生じるスケール等を目視で直接監視する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。逆浸透膜の前流側で供給液の一部を有機物、無機物、菌類などを膜分離する供給側分離手段に供給し、染色剤を供給液に添加することによって供給側分離手段の逆浸透膜に付着する有機物、無機物、菌類などの監視を行う。また、逆浸透膜の後流側で濃縮液の一部を濃縮液中のスケールなどを膜分離する濃縮側分離手段に供給し、濃縮液中のスケールなどを膜分離する濃縮液側分離膜の膜面への堆積具合を目視によって直接的に監視する。また、スケール生成の有無については、供給側膜分離手段の逆浸透膜の前後における透過流量の関係からスケール生成の有無を判断することも記載されている。これにより、供給液の評価を可能としつつ、逆浸透膜に生じるスケール等を監視するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−253953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、特許文献1の逆浸透膜を監視する方法では、異物(有機物、無機物、菌類など)に染色剤を添加することにより着色し、目視により直接監視することに特徴があり、有機物と菌類に対しては具体的に染色剤を開示しているが、無機物に対しては無機物に吸着性のある染料等としか記載が無い。仮に適切な染色剤があった場合であっても、定期的に染色剤を添加して監視する方法では、染色剤の処理に問題を生じる。異常を生じた際に染色剤を添加して監視する方式では染色剤の処理の負担は減少するものの、逆浸透膜の性能低下が判別できる程度まで逆浸透膜の透過性能が低下した時には、洗浄により回復が困難なレベルまでスケール析出が進行している場合がある。そのため、逆浸透膜に析出したスケールを除去し、逆浸透膜を洗浄するためには、ろ過装置のろ過処理運転を停止しなければならず、透過水の生産効率が悪いという問題がある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、膜面上へのスケールの析出を効率的に抑制することができる淡水化装置、膜の監視方法および淡水化装置の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、原水をろ過膜に通水させて透過水と濃縮水とに分離する膜分離装置を有する淡水化装置であり、前記膜分離装置から前記濃縮水を抜き出す濃縮水送給ラインと、前記濃縮水送給ラインから前記濃縮水の少なくとも一部を抜き出す濃縮水分岐ラインと、前記濃縮水分岐ラインに設けられ、前記濃縮水を透過させる監視用分離膜と、前記原水に酸性薬剤を添加する酸性薬剤供給部とを有することを特徴とする淡水化装置である。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、前記酸性薬剤が、前記監視用分離膜の膜性能に応じて供給される淡水化装置である。
【0010】
第3の発明は、第2の発明において、前記監視用分離膜の膜性能が、前記監視用分離膜を透過する前記濃縮水の透過水量の絶対値とその変化率との何れか一方または両方と、前記監視用分離膜を透過する前後における前記濃縮水の差圧の絶対値とその差圧の変化率との何れか一方または両方との少なくとも一つ以上に基づいて判断される淡水化装置である。
【0011】
第4の発明は、第1から第3の発明の何れか1つにおいて、前記濃縮水分岐ラインに設けられ、前記濃縮水を前記監視用分離膜に供給する前にアルカリ性薬剤を供給するアルカリ性薬剤供給部を有する淡水化装置である。
【0012】
第5の発明は、原水をろ過膜に通水させて透過水と濃縮水とに分離する膜の監視方法であり、前記濃縮水の少なくとも一部を監視用分離膜を透過させ、前記監視用分離膜の膜状態から前記濃縮水に含まれるスケールの析出を監視し、原水が濃縮されることで前記ろ過膜の膜面にスケールが析出するのを予め監視することを特徴とする膜の監視方法である。
【0013】
第6の発明は、第5の発明において、前記監視用分離膜の膜性能を、前記監視用分離膜を透過する前記濃縮水の透過水量の絶対値とその変化率との何れか一方または両方と、前記監視用分離膜を透過する前後における前記濃縮水の差圧の絶対値とその変化率との何れか一方または両方との少なくとも一つ以上に基づいて判断する膜の監視方法である。
【0014】
第7の発明は、第5又は第6の発明において、前記濃縮水を前記監視用分離膜に供給する前に前記濃縮水にアルカリ性薬剤を供給する膜の監視方法である。
【0015】
第8の発明は、第5から第7の発明の何れか1つの膜の監視方法を用いて、前記濃縮水の透過水量の絶対値とその変化率と前記濃縮水の差圧の絶対値とその変化率との少なくとも1つ以上が、予め設定された値以上の場合、酸性薬剤を前記原水に添加することを特徴とする淡水化装置の運転方法である。
【0016】
第9の発明は、第8の発明において、前記原水のpHを7.5以上とし、前記酸性薬剤を供給することにより前記原水のpHを7.2以下とする淡水化装置の運転方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、濃縮水の少なくとも一部を監視用分離膜を透過させ、監視用分離膜の膜状態から濃縮水に含まれるスケールが監視用分離膜の膜面に析出するのを監視することで、原水が濃縮されることでろ過膜の膜面にスケールが析出することを予め監視し、ろ過膜の膜面にスケールが析出するのを効率的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明による実施形態に係る淡水化装置の構成を簡略に示す図である。
【図2】図2は、本発明による実施形態に係る淡水化装置の他の構成を簡略に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を好適に実施するための形態(以下、実施形態という。)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に記載した内容により限定されるものではない。また、以下に記載した下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、以下に記載した下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0020】
図1は、本発明による実施形態に係る淡水化装置の構成を簡略に示す図である。図1に例示される淡水化装置10は、海水(原水)11を逆浸透膜(RO膜:Reverse Osmosis Membrane)12に通し、海水11の塩分を濃縮して除去することにより透過水(淡水)13を得る装置である。淡水化装置10は、前処理装置14と、昇圧ポンプ15と、逆浸透膜装置16とを有している。
【0021】
前処理装置14は、海水11中の濁質分をろ過する前処理膜17を有する。海水11は海水ライン18−1を介して前処理装置14に送給され、前処理装置14で海水11中の濁質分がろ過される。その後、前処理装置14で処理された海水11は昇圧ポンプ15により加圧されて海水ライン18−2を介して逆浸透膜装置16に送給される。
【0022】
逆浸透膜装置16は、昇圧ポンプ15で加圧された海水11から塩分を除去して透過水13を得る逆浸透膜12を有する。逆浸透膜装置16は、例えば逆浸透膜12を備えた逆浸透膜エレメントを耐圧容器に装填した逆浸透膜モジュールで構成される。逆浸透膜12は、膜を介する溶液間の浸透圧差以上の圧力を高濃度側にかけて、溶質を阻止し、溶媒を透過する液体分離膜である。逆浸透膜装置16に供給した海水11は昇圧ポンプ15を用いて逆浸透膜12の海水11側に浸透圧以上の圧力をかけ、海水11を逆浸透膜12に通水させることにより、海水11を透過水13と濃縮水19とに分離して透過水13を得る。
【0023】
透過水13は、透過水送給ライン21を介して外部の水使用設備等に供給される。逆浸透膜装置16で濃縮された濃縮水19は、濃縮水送給ライン22を介して系外に排出される。
【0024】
逆浸透膜12の膜構造としては、複合膜、相分離膜などの高分子膜などを挙げることができる。逆浸透膜12の素材としては、例えば、芳香族系ポリアミド、脂肪族系ポリアミド、これらの複合材などのポリアミド系素材、酢酸セルロースなどのセルロース系材料などを挙げることができる。これらの中でも、芳香族系ポリアミドを用いた逆浸透膜12を好適に適用することができる。
【0025】
逆浸透膜12としては、上述のように、RO膜を挙げることができるが、特にこれに限定されるものではなく、NF膜(Nanofiltration Membrane)などを用いてもよい。
【0026】
逆浸透膜12を備える逆浸透膜装置16の逆浸透膜モジュールの形状については、特に制限はなく、例えば直径3mmから7mm程度の太さで中が空胴の糸状に成型した中空糸膜を逆浸透膜12として、外側から内側へろ過する中空糸膜モジュール、1枚の逆浸透膜12を、丈夫なメッシュ状のサポートと重ね合わせて袋状に閉じ、これをロールケーキ状に巻いてその断面方向から加圧するスパイラル膜モジュール、管状膜モジュール、平面膜モジュールなどを適用することができる。
【0027】
海水ライン18−2には、海水11の流量を測定する流量計23−1と、海水11の温度を測定する温度計24と、海水11の電気伝導度を測定する電気伝導率計(EC(Electric Conductivity)メーター)25と、海水11の圧力を測定する圧力計26−1と逆浸透膜装置16の入口付近の海水11のpHを計測するためのpH計27とが設けられている。透過水送給ライン21には、逆浸透膜12の出口付近の透過水13の流量を計測する流量計23−2と、透過水13の圧力を測定する圧力計26−2とが設けられている。濃縮水送給ライン22には、濃縮水19の圧力を測定する圧力計26−3が設けられている。流量計23−1、23−2、温度計24、電気伝導率計25、圧力計26−1〜26−3、pH計27により測定された情報は制御装置28に伝達される。制御装置28は、流量計23−1、23−2の測定結果から、逆浸透膜12の透過水量を算出し、温度計24の測定結果から、海水11の温度を算出し、電気伝導率計25の測定結果から海水11の電気伝導度を算出し、圧力計26−1〜26−3の測定結果から海水11、透過水13、濃縮水19の圧力を算出し、pH計27の測定結果から海水11のpHを算出することができる。
【0028】
濃縮水送給ライン22には、エネルギー回収装置30を設けている。濃縮水19は、濃縮水送給ライン22に圧力が高いまま送給される(昇圧ポンプ15による海水11の供給圧力が例えば6MPa程度の場合には、少し低下した5.5MPa程度)。濃縮水19の高圧を利用することで、エネルギー回収装置30は濃縮水19からエネルギーを回収することができる。エネルギー回収装置30で濃縮水19から回収されたエネルギーは、例えば昇圧ポンプ15を高圧で駆動させるためのエネルギーの確保や、透過水13を高圧に変換するための圧力変換用として利用することができ、淡水化装置10などを含む海水淡水化設備のエネルギー効率を向上させることに寄与する。
【0029】
エネルギー回収装置30としては、例えばPeltonWheel型エネルギー回収装置、Turbochager型エネルギー回収装置、PX(Pressure Exchanger)型エネルギー回収装置、DWEER(Dual Work Exchanger Energy Recovery)型エネルギー回収装置など公知のものを挙げることができる。
【0030】
淡水化装置10は、濃縮水送給ライン22に濃縮水送給ライン22から分岐した濃縮水分岐ライン31を設けている。濃縮水分岐ライン31には、濃縮水19の少なくとも一部が濃縮水送給ライン22から分岐して供給される。濃縮水分岐ライン31には、調節弁V11、V12が設けられ、濃縮水分岐ライン31に抜き出される濃縮水19の流量は、調節弁V11、V12により調整される。
【0031】
濃縮水分岐ライン31には、濃縮水19を透過させる監視用分離膜32を備えた水監視用膜装置33が設けられている。水監視用膜装置33は、供給される濃縮水19を全量、監視用分離膜32でろ過し、透過させている。濃縮水分岐ライン31は、水監視用膜装置33の前流側および後流側に一対の圧力計34−1、34−2を設けている。圧力計34−1、34−2は、差圧計35と接続しており、これら2つの圧力計34−1、34−2により検出されたそれぞれの圧力値が差圧計35に伝達され、水監視用膜装置33の前後における濃縮水19の圧力の値の絶対値の差(差圧)を算出する。差圧計35で算出された情報は制御装置28に伝達される。制御装置28は、圧力計34−1、34−2で測定された水監視用膜装置33の前後における濃縮水19の差圧から濃縮水19の流量の変化を測定することで、監視用分離膜32の膜面にスケールが析出したことを確認することができる。
【0032】
なお、本実施形態におけるスケールとは、海水11に含まれるマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)などの無機成分等が逆浸透膜装置16内で濃縮され、濃度が高くなり、ある回収率以上でMg(OH)2、CaCO3などの塩の濃度が溶解度以上になったときに逆浸透膜12の膜面に析出する無機塩類をいう。
【0033】
スケール成分は海水11に比べ濃縮水19に高濃度に濃縮して含まれているため、海水11中に含まれる無機成分が濃縮して逆浸透膜12の膜面にスケールが析出するよりも濃縮水19中に含まれる無機成分が監視用分離膜32の膜面に濃縮してスケールが析出するほうが早い。よって、監視用分離膜32の膜面にスケールが析出したことを確認することで、逆浸透膜12の膜面に海水11中に含まれる無機成分が濃縮してスケールが析出し始めているか否かを監視することができる。
【0034】
水監視用膜装置33の前後における濃縮水19の差圧と膜の膜面へのスケールの析出量との関係を予め算出しておき、スケールが析出し始める濃縮水19の差圧の閾値を求めておく。水監視用膜装置33の前後における濃縮水19の差圧が予め設定された値以上の場合には、制御装置28は、監視用分離膜32の膜面にスケールが析出したことを検知することができる。このとき、水監視用膜装置33の前流側の調節弁V11、V12を全閉し、監視用分離膜32を取り出して監視用分離膜32の膜面の付着物を分析する。このとき、逆浸透膜12には、まだスケールが析出していないか析出し始めている段階であるため、逆浸透膜装置16は継続して運転することができる。
【0035】
このため、逆浸透膜装置16を停止することなく監視用分離膜32の分析結果から監視用分離膜32の膜面の付着物がスケールが析出したことに起因したものであることを特定することができる。
【0036】
よって、監視用分離膜32の膜状態を監視し、監視用分離膜32の膜面にスケールが析出したことを確認することで、逆浸透膜12の膜面に海水11中に含まれる無機成分が濃縮してスケールが析出し始めているか析出したことを予め検知することができる。
【0037】
海水ライン18には、海水ライン18の海水11に酸性薬剤41を供給する酸性薬剤供給部42が設けられている。酸性薬剤41としては、例えば硝酸、硫酸、塩酸等を挙げることができるが、最も安価であるという理由から、特に硫酸を用いるのが好ましい。酸の注入は適宜行われているが、監視用分離膜32の表面にスケールの析出が認められた場合には、酸の注入量を一時的に増加することで逆浸透膜12の膜面へのスケールの析出を抑制することができる。よって、洗浄のために淡水化装置10の運転を中断する必要がない。
【0038】
制御装置28は、酸性薬剤供給部42から海水11に供給される酸性薬剤41の供給量を制御するようにしている。制御装置28は酸性薬剤供給部42から海水11に酸性薬剤41を供給することで、海水11のpHを下げることができるため、逆浸透膜12の膜面に析出したスケールを分解・除去することができ、逆浸透膜12の膜面を洗浄することができる。淡水化装置10の運転中に、所定時間、海水11に酸性薬剤41を供給して、逆浸透膜装置16の入口付近における海水11のpHを中性又は酸性領域の所定の範囲に調整しながら、この海水11を逆浸透膜12に通水させることにより、逆浸透膜12に無機成分に起因して析出したスケールを逆浸透膜12から溶解・除去する。これにより、逆浸透膜12の透過流束の低下を招くことなく、長期間にわたってスケール析出の危険性のない状態で安定して逆浸透膜装置16を運転し、透過水13を製造することができる。
【0039】
酸性薬剤41が添加される前、通常の淡水化処理運転を行う際の海水11のpHは、約7.2である。制御装置28は、逆浸透膜装置16に供給する海水11のpHが2.0以上7.2以下、好ましくは、5.0以下となるように、酸性薬剤供給部42から海水11に供給される酸性薬剤41の供給量を制御するようにしている。海水11のpHを、7.2以下とすることで、スケールを溶解・除去することができ、十分な洗浄効果が得られる。また、逆浸透膜12に付着したスケールの量が比較的多い場合には、逆浸透膜12の殺菌効果を得る観点から、海水11のpHを5.0以下にすることで、確実にスケールを溶解・除去することができると同時に、有機物と無機物の複合汚れも効果的に除去することが可能となる。その結果、逆浸透膜12を所望の透水性能に維持することができる。また、海水11のpHを2.0以上にすることで、逆浸透膜12の劣化を抑制することができる。
【0040】
制御装置28は、差圧計35で測定される測定結果から監視用分離膜32の膜面へのスケールの析出の有無とスケールの析出量に基づいて海水11に添加される酸性薬剤41の供給量を供給する。具体的には、例えば、酸性薬剤41を海水11に供給することで、所定時間、pH計27の測定値がpH5.0を維持するように、酸性薬剤41を海水11に供給する。また、制御装置28は、所定時間、酸性薬剤41を一定の供給速度で供給するようにしてもよい。このとき、酸性薬剤41の供給速度と海水11のpHの値との関係を予め算出しておき、酸性薬剤41の供給速度と海水11のpHの値との関係に基づいて酸性薬剤41の供給速度を決定する。
【0041】
ここで、海水11中に析出したスケールは、pH7.2前後の中性溶液中でもある程度は溶解する。このため、逆浸透膜12に付着したスケールの量が比較的少ないと検知された場合には、海水11が中和される程度(例えば、pH7.2前後)に酸性薬剤41を添加することにより、逆浸透膜12に付着したスケールを十分に溶解させることができ、逆浸透膜12の透過水量を所望の値まで回復させることが可能である。
【0042】
監視用分離膜32の膜状態は、水監視用膜装置33の前後における濃縮水19の差圧から求める方法に限定されるものではなく、水監視用膜装置33の前後における濃縮水19の所定時間における差圧の微分値(変化率)から濃縮水19の流量の変化を測定し、監視用分離膜32の膜面のスケールの析出の有無を監視してもよい。また、監視用分離膜32を透過する濃縮水19の透過水量の絶対値、または監視用分離膜32を透過する濃縮水19の透過水量の所定時間における変化率から濃縮水19の流量の変化を測定して監視用分離膜32の膜状態を監視し、監視用分離膜32の膜面におけるスケールの析出の有無を確認するようにしてもよい。また、本実施形態では、これらの監視用分離膜32の膜面へのスケールの析出の有無の監視方法を2種類以上組み合わせて用いるようにしてもよい。
【0043】
濃縮水分岐ライン31には、水監視用膜装置33の前流側の濃縮水19にアルカリ性薬剤43を供給するアルカリ性薬剤供給部44が設けられている。アルカリ性薬剤43としては、例えば、NaOH、Ca(OH)2、KOH等を挙げることができるが、特に、最も安価であるという理由から、NaOHを用いるのが好ましい。
【0044】
制御装置28はアルカリ性薬剤供給部44から濃縮水19に供給されるアルカリ性薬剤43の供給量を制御している。アルカリ性薬剤供給部44から濃縮水19にアルカリ性薬剤43を供給することで、濃縮水19のpHは上昇する。スケールは溶液がアルカリ性側であるほど、析出しやすい。このため、水監視用膜装置33に供給される濃縮水19のpHを上昇させ、濃縮水19中にスケールを析出しやすい状態にすることで、監視用分離膜32の膜面にスケールを析出させ易くすることができる。これにより、監視用分離膜32の膜面にスケールが析出したか否かをより確実に監視し易くできるため、逆浸透膜12の膜面にスケールが析出し始める前であることを事前により確実に検知することができる。
【0045】
制御装置28は、濃縮水19のpHは7.5以上11.0以下が好ましく、より好ましくは、7.8以上8.5以下となるように、アルカリ性薬剤供給部44からアルカリ性薬剤43を濃縮水19に添加する。
【0046】
制御装置28は、pH計27の測定値に基づいてアルカリ性薬剤43を供給する。具体的には、pH計27の測定pHが8.2を維持するように、アルカリ性薬剤43を濃縮水19に供給する。
【0047】
また、制御装置28は、所定の時間の間、アルカリ性薬剤43を一定の供給速度で供給するようにしてもよい。この場合、アルカリ性薬剤43の供給速度と海水11のpHの値との関係を予め算出しておき、アルカリ性薬剤43の供給速度と海水11のpHの値との関係に基づいてアルカリ性薬剤43の供給速度を決定する。
【0048】
また、本実施形態に係る淡水化装置10においては、濃縮水分岐ライン31にアルカリ性薬剤43を添加するようにしているが、本実施形態は、これに限定されるものではなく、図2に示すように、濃縮水分岐ライン31にアルカリ性薬剤43を添加しないようにしてもよい。
【0049】
このように、本実施形態に係る淡水化装置10によれば、逆浸透膜12にスケールが析出するのを監視しつつ、逆浸透膜12に付着したスケールを淡水化装置10の淡水化処理中に効率的に除去することができるため、逆浸透膜12の透水性能を常に所望の状態に保持することができる。また、本実施形態に係る淡水化装置10は、淡水化装置10の運転中に海水11の淡水化処理を行いながら逆浸透膜12へのスケールの析出を監視しつつ逆浸透膜12の洗浄を行うことができる。このため、本実施形態に係る淡水化装置10は、逆浸透膜12の洗浄のために淡水化装置10の運転を一時的に停止させたり、淡水化装置10から逆浸透膜装置16を取り外して洗浄を行う必要がないため、透過水13の生産効率を低下させず、長期間にわたって逆浸透膜装置16を安定して運転し、透過水13を製造することができる。
【0050】
さらに、スケール防止剤を添加せずに、透過水13を製造することができるため、洗浄中に生産した透過水13は通常の淡水製造運転(通常運転)で生産した透過水13と同様に使用することが可能であると共に、洗浄処理中に生成した濃縮水19は特別な処理を必要とせず、通常運転で生成した濃縮水19の処理コストと同程度で処理することができる。
【0051】
なお、本実施形態に係る淡水化装置10は、海水を脱塩して淡水を得る淡水化装置に用いられる逆浸透膜に析出するスケールを監視する場合について説明したが、本実施形態はこれに限定されるものではなく、ろ過する原水は海水以外にかん水などを脱塩して淡水化する淡水化装置であってもよい。また、淡水化装置以外に、例えば超純水の製造等、廃液処理、汚水処理、その他の水処理などの装置に用いられる逆浸透膜に析出する析出物を監視する場合にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上のように、本発明の淡水化装置、膜の監視方法および淡水化装置の運転方法は、海水の淡水化装置で用いる逆浸透膜へのスケールの析出を監視するのに有用である。
【符号の説明】
【0053】
10 淡水化装置
11 海水(原水)
12 逆浸透膜(RO過膜)
13 透過水
14 前処理装置
15 昇圧ポンプ
16 逆浸透膜装置
17 前処理膜
18−1、18−2 海水ライン
19 濃縮水
21 透過水送給ライン
22 濃縮水送給ライン
23−1、23−2 流量計
24 温度計
25 電気伝導率計
26−1〜26−3、34−1、34−2 圧力計
27 pH計
28 制御装置
30 エネルギー回収装置
31 濃縮水分岐ライン
32 監視用分離膜
33 水監視用膜装置
35 差圧計
41 酸性薬剤
42 酸性薬剤供給部
43 アルカリ性薬剤
44 アルカリ性薬剤供給部
V11、V12 調節弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水をろ過膜に通水させて透過水と濃縮水とに分離する膜分離装置を有する淡水化装置であり、
前記膜分離装置から前記濃縮水を抜き出す濃縮水送給ラインと、
前記濃縮水送給ラインから前記濃縮水の少なくとも一部を抜き出す濃縮水分岐ラインと、
前記濃縮水分岐ラインに設けられ、前記濃縮水を透過させる監視用分離膜と、
前記原水に酸性薬剤を添加する酸性薬剤供給部とを有することを特徴とする淡水化装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記酸性薬剤が、前記監視用分離膜の膜性能に応じて供給される淡水化装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記監視用分離膜の膜性能が、前記監視用分離膜を透過する前記濃縮水の透過水量の絶対値とその変化率との何れか一方または両方と、前記監視用分離膜を透過する前後における前記濃縮水の差圧の絶対値とその差圧の変化率との何れか一方または両方との少なくとも一つ以上に基づいて判断される淡水化装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1つにおいて、
前記濃縮水分岐ラインに設けられ、前記濃縮水を前記監視用分離膜に供給する前にアルカリ性薬剤を供給するアルカリ性薬剤供給部を有する淡水化装置。
【請求項5】
原水をろ過膜に通水させて透過水と濃縮水とに分離する膜の監視方法であり、
前記濃縮水の少なくとも一部を監視用分離膜を透過させ、前記監視用分離膜の膜状態から前記濃縮水に含まれるスケールの析出を監視し、原水が濃縮されることで前記ろ過膜の膜面にスケールが析出するのを予め監視することを特徴とする膜の監視方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記監視用分離膜の膜性能を、前記監視用分離膜を透過する前記濃縮水の透過水量の絶対値とその変化率との何れか一方または両方と、前記監視用分離膜を透過する前後における前記濃縮水の差圧の絶対値とその変化率との何れか一方または両方との少なくとも一つ以上に基づいて判断する膜の監視方法。
【請求項7】
請求項5又は6において、
前記濃縮水を前記監視用分離膜に供給する前に前記濃縮水にアルカリ性薬剤を供給する膜の監視方法。
【請求項8】
請求項5から7の何れか1つの膜の監視方法を用いて、前記濃縮水の透過水量の絶対値とその変化率と前記濃縮水の差圧の絶対値とその変化率との少なくとも1つ以上が、予め設定された値以上の場合、酸性薬剤を前記原水に添加することを特徴とする淡水化装置の運転方法。
【請求項9】
請求項8において、
前記原水のpHを7.5以上とし、前記酸性薬剤を供給することにより前記原水のpHを7.2以下とする淡水化装置の運転方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−130823(P2012−130823A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282469(P2010−282469)
【出願日】平成22年12月18日(2010.12.18)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】