説明

深さ方向線量分布測定装置、粒子線治療装置及び粒子線照射装置

【課題】治療照射中においても粒子線の深さ方向線量分布を測定できる深さ方向線量分布測定装置、粒子線治療装置及び粒子線照射装置を提供する。
【解決手段】照射野形成装置20はブロックコリメータ45のコリメータ部材44b上流側に取り付けられた複数電離箱型検出器30を備える。検出器30は、ビームの飛程を連続的又は段階的に変更する遮蔽体33とその後段に電離箱37を複数設置した構造を有し、信号処理装置31と共に深さ方向線量分布測定装置39を構成する。照射野形成装置20内に到達した粒子線の一部はビーム通路48を通過して患者60に照射され、残りの粒子線の一部が複数電離箱型検出器30に入射し、電離箱37内で電荷が発生する。個々の電離箱37内で発生した電荷量に基づいて、信号処理装置31で深さ方向線量分布が求められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子線の深さ方向線量分布測定装置、粒子線を加速し、照射する粒子線治療装置及び粒子線を照射対象に照射する粒子線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
陽子線または重粒子線(炭素粒子線等)等の粒子線を加速器で加速し、この粒子線を用いて癌を治療する粒子線治療装置は、粒子線を癌の患部に照射する照射野形成装置を有する。粒子線は、荷電粒子ビーム或いはイオンビームとも呼ばれている。照射野形成装置は、粒子線を、患部の大きさに合せて粒子線の進行方向と直行する方向に拡大させる。これを照射野の拡大という。照射野の拡大法としては、散乱体法(非特許文献1)及びウォブラー法(特許文献1及び非特許文献1)がある。散乱体法とは、照射野形成装置のビーム経路に散乱体を設置し、粒子線を散乱体による散乱により拡大する方法である。他方、ウォブラー法とは、照射野形成装置に設けられた一対の走査用電磁石を用いて、粒子線を、円を描くように走査し、その粒子線を拡大する方法である。散乱体法とワブラー法を組み合わせて行なうこともある。照射野形成装置は、他に、エネルギー分布を広げて粒子線進行方向に飛程を広げるブラッグピーク拡大装置(例えば、レンジモジュレーションホイール及びリッジフィルタ)、粒子線のエネルギー(飛程)を最終照射エネルギー飛程に調整するファインディグレーダ、照射に不要な粒子線をカットするコリメータ、線量モニタ及びビーム位置モニタが設置されている。
【0003】
患部に照射する粒子線の深さ方向線量分布は、照射野形成装置に取り付けた水ファントム装置(特許文献2)で、治療照射の事前に測定することができる。線量検出器を水ファントム中で深さ方向に走査しながらビーム照射を多数回行なうことによって、深さ方向線量分布を測定する。
【0004】
ビームの進行方向に高電圧電極と電荷集電極を交互に配置した構造の多層電離箱を用いて、深さ方向線量分布を治療照射の事前に測定することができる。この多層電離箱の場合、各深部での電荷収集電極からの信号を同時に処理することで、1回の照射で深さ方向線量分布を測定することができる(非特許文献2)。
【0005】
ビーム進行方向に積層した金属板を照射野形成装置内に設置し、患者に照射しないビームの一部を利用して、各積層板から得られる電荷量を計測することで、治療照射と同時にビームエネルギー(飛程)を測定することができる(特許文献3)。また前記装置を照射野形成装置内に設置して得られた結果から、エネルギー(飛程)を計測して、治療計画通りのエネルギー(飛程)で照射が行われていることを監視して、計画と異なる場合はビームを停止させる安全装置を構成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−202047号公報
【特許文献2】特開平11−64530号公報
【特許文献3】特開2005−124852号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】レビュー オブ サイエンティフィック インスツルメンツ64巻8号(1993年8月)の第2076〜2086頁(REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS VOLUME 64 NUMBER 8(AUGUST 1993)P2076-2086)
【非特許文献2】Kaori Yajima, etc. 「Development of a multi-layer ionization chamber for heavy-ion radiotherapy」, Physics in Medicine and Biology, Vol.54(2009)107-114
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の水ファントム装置(特許文献2)による深さ方向線量分布の測定は、患部の治療を行なう前に、照射野形成装置出口のビーム経路に取り付けることにより行われる。深さ方向線量分布の測定終了後に、水ファントム装置は、治療用の粒子線を遮らないようにビーム経路より遠ざけられる。また深さ方向線量分布を測定するためには多数回の照射が必要である。このような従来技術は、治療照射中においては粒子線の深さ方向線量分布を測定することは不可能である。
【0009】
照射野形成装置内にビーム進行方向に積層した金属板を設置し、患者に照射されないビームの一部を利用して、各積層板から得られる電荷量を計測しエネルギー(飛程)を計測する方法(特許文献3)では、治療照射中におけるビームエネルギーは測定できるが、その出力信号はビームの最大飛程近傍に集中するため、深さ方向線量分布の測定を行なうことはできない。
【0010】
多層電離箱(非特許文献2)は、1回の照射で深さ方向線量分布が測定できるが、有感領域(空気層)を確保しつつ電極を積層する構造であるため、ビーム進行方向の寸法が大きくなる。そのため照射野形成装置内に設置することは困難である。
【0011】
本発明の第1の目的は、治療照射中においても粒子線の深さ方向線量分布を測定できる深さ方向線量分布測定装置、粒子線治療装置及び粒子線照射装置を提供することにある。
【0012】
また、本発明の第2の目的は、前記深さ方向線量分布測定装置を使用し、得られた結果をビームインターロックとして使用する、安全性の高い粒子線治療装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、粒子線照射装置が、粒子線の一部を通過させるコリメータと、コリメータの上流側に配置され、コリメータを通過しない残りの粒子線の少なくとも一部を入射するビーム入射部を有する深さ方向線量分布検出器とを備え、深さ方向線量分布検出器の検出結果に基づいて入射した粒子線の深さ方向の線量分布を算出する演算処理装置を設けたことにある。
【0014】
上記深さ方向線量分布検出器は、粒子線の飛程を連続的又は段階的に減衰する遮蔽体と、遮蔽体の後方かつ飛程の減衰量が変化する方向に配列された複数の電荷収集電極を有する電離箱型電荷量検出器とを有し、上記演算処理装置が電離箱型電荷量検出器の複数の電荷収集電極からの出力を信号処理することにより、粒子線のエネルギー(飛程)と同時に、粒子線の深さ方向の線量分布を測定することができる。また、得られた分布からSOBP幅及び飛程を算出することができる。
【0015】
上記した深さ方向線量分布検出器は、遮蔽材として質量阻止能の大きな材料を選び、遮蔽対中における単位長さ辺りの粒子線エネルギー損失を大きくし、電離箱型電荷量検出器に至るまでの深さ方向の間隔を小さくする。このようにすることで照射野形成装置内に設置可能な大きさにすることができる。
【0016】
本発明は、コリメータによって遮られる粒子線の一部をビーム入射部に入射させて粒子線の深さ方向線量分布を測定するため、コリメータで形成されるビーム通路を通過した粒子線を照射対象(例えば、患者)に照射しながら粒子線の深さ方向線量分布を測定することができる。
【0017】
好ましくは、コリメータの上流側に配置されたビーム入射部をコリメータに取り付ける。これにより、ビーム入射部をコリメータと一緒に移動させることができ、粒子線照射装置の構成を単純化できる。
【0018】
好ましくは、治療計画で設定した深さ方向線量分布(或いはSOBP幅及び飛程)と、深さ方向線量分布測定装置で測定した深さ方向線量分布(或いはSOBP幅及び飛程)の偏差が、予め設定した許容値を超えるとき、粒子線発生装置からの粒子線の出射を停止させる安全装置を備える。粒子線の照射対象への照射中に、万が一、深さ方向線量分布が変化した場合に、上記安全装置の機能によって照射対象への粒子線の照射を直ちに停止することができる。上記の安全装置を設けることによって、治療計画と異なる深さ方向線量分布で粒子線を照射することを防止できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、粒子線を照射しながら粒子線の深さ方向線量分布を測定することができる。
【0020】
また、測定した深さ方向線量分布が計画した線量分布と異なる場合は、インターロックを作動させ、ビームを停止させる。これによって、安全性の高い粒子線治療装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施の形態である粒子線治療装置の概略構成図である。
【図2】本発明の一実施の形態である粒子線治療装置の照射野形成装置の概略構成図である。
【図3】図1のブロックコリメータ部材及び深さ方向線量分布検出器の縦断面図である。
【図4】ブロックコリメータに入射する直前のビーム強度分布を示し、その分布中で深さ方向検出器及びブロックコリメータ部材に入射するビームの範囲と、ビーム通路を通過するビームの範囲を示した図である。
【図5】遮蔽体の厚さを連続で変化させた場合の深さ方向線量分布測定器の概略図である。
【図6】深さ方向線量分布測定装置において各電離箱から電荷量を検出した後の信号処理フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施の形態を図面を用いて説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施の形態である粒子線治療装置の概略構成図である。本実施の形態の粒子線治療装置1は、粒子線発生装置2、ビーム輸送系19及び照射ノズル装置である照射野形成装置20を備える。粒子線発生装置2は、イオン源(図示せず)、前段加速器(例えば直線加速器)8及びシンクロトロン23を有する。イオン源で発生したイオン(例えば、陽子または炭素イオン)は前段加速器8で加速される。本実施の形態は、具体的には陽子線を粒子線として用いる陽子線治療装置である。前段加速器8から出射された粒子線は加速器であるシンクロトロン23に入射される。
【0024】
シンクロトロン23は、偏向電磁石5及び四極電磁石6等の電磁石、高周波加速空胴7、入射セプタム電磁石9、静電インフレクタ10、高周波電源11、スイッチ12,13、高周波印加装置14、静電デフレクタ15、出射セプタム電磁石16を有している。前段加速器8から出射された粒子線は入射セプタム電磁石9及び静電インフレクタ10を通ってシンクロトロン23に入射される。
【0025】
シンクロトロン23に入射した粒子線は、シンクロトロン23において、高周波加速空胴7から印加される高周波電力によってエネルギーを与えられて加速される。シンクロトロン23内を周回する粒子線のエネルギーが設定されたエネルギーまでに高められた後、加速器制御装置3からの出射指令に基づいてスイッチ12が閉じられる。高周波電源11からの高周波電力が、スイッチ12,13を介して高周波印加装置14に導かれ、高周波印加装置14から周回する粒子線に高周波が印加される。スイッチ13はインターロック装置4により開閉するスイッチで、照射条件成立で閉となる。シンクロトロン23において安定限界内で周回している粒子線は、この高周波の印加によって安定限界外に移行し、静電デフレクタ15、出射セプタム電磁石16を通ってシンクロトロン23から出射される。粒子線の出射の際には、シンクロトロン23に設けられた四極電磁石6及び偏向電磁石5等の電磁石に導かれる電流が設定値に保持され、安定限界もほぼ一定に保持されている。加速器制御装置3からの出射停止指令に基づいてスイッチ12及びインターロック装置4の停止指令に基づいてスイッチ13を開き、高周波印加装置14への高周波電力の印加を停止することによって、シンクロトロン23からの粒子線の出射が停止される。
【0026】
シンクロトロン23から出射された粒子線は、ビーム輸送系19を経て照射野形成装置20に達する。ビーム輸送系19の一部である偏向電磁石18を有する逆U字部及び照射野形成装置20は、回転ガントリー(図示せず)に設置される。粒子線は、照射野形成装置20から治療台(ベッド)62に乗っている患者60の患部61に照射される。ビーム輸送系19にはビームを遮断するビームシャッタ17を設置する。ビームシャッタ17はシャッタ制御装置21で開閉され、開閉指令はインターロック装置4から発行される。粒子線を照射野形成装置20から患部61に照射しているときには、ビームシャッタ17は開いている。
【0027】
本実施の形態に用いられる照射野形成装置20の詳細構成を図1に基づいて説明する。照射野形成装置20は、ビーム輸送系19の逆U字部の先端に取り付けられる。照射野形成装置20は、レンジモジュレーションホイール(以下RMW)41と二重散乱体42を有する照射野形成装置である。粒子線進行方向の上流側より順次、RMW41、二重散乱体42、レンジシフタ43、ブロックコリメータ45、ボーラス46及び患者コリメータ47を配置する。深さ方向線量分布検出器(複数電離箱型検出器)30はブロックコリメータ45の上流側に配置されてブロックコリメータ45に取り付けられている。
【0028】
ブロックコリメータ45は、一対のコリメータ部材44a,44bを有する。コリメータ部材44a,44bは鉛またはタングステン等の粒子線を遮蔽する放射線遮蔽材で作られている。コリメータ部材44a,44bは、ビーム中心軌道に垂直な面に配置され、コリメータ部材44a,44bの端部がビーム中心軌道49で接触するようになっている。またコリメータ部材44a,44bは駆動装置55a,55bによってビーム中心軌道に垂直な面上で駆動される。コリメータ部材44a及びコリメータ部材44bが、互いに離反する方向に移動した場合には、それらの間に形成される間隙、すなわちビーム通路48が拡大される。逆に、コリメータ部材44a及びコリメータ部材44bが、互いに接近する方向に移動した場合には、ビーム通路48が狭められる。ビーム通路48の幅は患部61の大きさによって調節される。
【0029】
深さ方向線量分布検出器30の構成を、ブロックコリメータ部材及び深さ方向線量分布検出器の縦断面図である図3を用いて説明する。
【0030】
深さ方向線量分布検出器30は深さ方向線量分布測定装置39の一部を構成している。深さ方向線量分布測定装置39は深さ方向線量分布検出器30と、信号処理装置31と高圧電源32とで構成されている。深さ方向線量分布検出器30はコリメータ45の上流側でコリメータ部材44に取り付けられ、コリメータ45を通過しない残りの粒子線の少なくとも一部を入射するビーム入射部30aを有し、入射した粒子線の深さ方向の線量分布を検出する。
【0031】
深さ方向線量分布検出器30は、ビームの進行方向36に対して階段状に厚さを変化させ、ビームの飛程を段階的に減衰する遮蔽体33と、遮蔽体33の下流(遮蔽体33の後方)かつ飛程の減衰量が変化する方向(図示左右方向)に配列された複数の小型の電離箱(電離箱型電荷量検出器)37とから構成される。ビーム入射部30aは遮蔽体33のビームが入射する面によって構成されている。遮蔽体33は検出器を小型化するため、阻止能の大きな真鍮を材料に選んだ。この遮蔽体33は鉛又はタングステン等の阻止能の大きな材料で代用することが可能である。また電離箱37の下流側にも遮蔽体を配置し、粒子線の進行方向36に対し遮蔽体の厚さの和が検出器全体で均一となる構造とした。各電離箱37はビームの進行方向36に対して上流側に高圧電極34、下流側に信号電極35が配置されている。電離箱37の内部は大気で満たされている。コリメータ部材44bが深さ方向線量分布検出器30の下流側に配置されているため、もし、深さ方向線量分布検出器30を通過する粒子線があった場合でも、その粒子線はコリメータ部材44bで完全に遮蔽できる。
【0032】
信号処理装置31は、アナログ信号処理装置65及びデジタル信号処理装置66を有する。各電荷収集電極35は、配線63にてそれぞれアナログ信号処理装置65に接続される。アナログ信号処理装置65は、それぞれの電荷収集電極35ごとに増幅器(図示せず)を有している。配線63は電荷収集電極35と該当する増幅器を接続している。各増幅器はデジタル信号処理装置66に接続され、量子化される。
【0033】
図2に戻り、本実施の形態において、照射制御装置51、RMW駆動制御装置52、レンジシフタ駆動制御装置53、ブロックコリメータ駆動制御装置54を含む制御システム58を備える。信号処理装置31内のデジタル信号処理装置66は図2に示すように安全装置であるインターロック装置4に接続される。インターロック装置4は、シャッタ制御装置21及びスイッチ13に接続される。
【0034】
次に、本実施の形態の粒子線治療装置の動作を説明する。
【0035】
照射野形成装置20に対する患者60の位置決め前に、照射制御装置51は、治療計画装置50から患者60に対する治療計画情報(照射野サイズ(照射野情報)、飛程(飛程情報)、SOBP幅(SOBP幅情報)等)を入力し、メモリ59に記憶させる。これらの治療計画情報は、粒子線の照射条件を現している。照射制御装置51は、治療計画情報に基づいて照射条件情報より必要な厚みの二重散乱体42及びレンジシフタ43をそれぞれ選定する。粒子線の入射エネルギーが大きくなる程、厚みの厚い二重散乱体42が選定され、要求される飛程が短い程、厚みの厚いレンジシフタ43が選定される。それぞれの駆動制御装置が、選定された二重散乱体42及びレンジシフタ43を、ビーム経路(ビーム中心軌道49)まで移動させる。これにより、二重散乱体42及びレンジシフタ43がビーム中心軌道49上に配置される。RMW41は照射中回転しており、RMWの回転角度に応じてビームをON/OFFすることによりSOBPを形成する。
【0036】
また、照射制御装置51は、照射野情報に基づいてコリメータ部材44a,44bに対する第1移動指令をブロックコリメータ駆動制御装置54に出力する。ブロックコリメータ駆動制御装置54は、第1移動指令に基づいて駆動装置55a,55bを駆動し、コリメータ部材44a,44bを所定位置まで移動させる。このとき、コリメータ部材44aとコリメータ部材44bの間に形成されるビーム通路48は、患者60に対する照射野サイズに対応した幅となる。深さ方向線量分布検出器30も、コリメータ部材44bと共に移動し、所定位置(粒子線通過領域のうち図4で破線よりも左側に位置する粒子線の通過領域と交差する位置)まで移動される。
【0037】
その後、回転ガントリーが回転され、照射野形成装置20のビーム中心軌道49が所定の角度に合わされる。患者60の患部61が位置決めにより照射野形成装置20のビーム中心軌道49と一致させられる。これで、粒子線を患者60に照射する準備が完了する。前述したように、前段加速器8からシンクロトロン23に入射された粒子線はシンクロトロン23から出射され、照射野形成装置20に達する。このとき、ビームシャッタ17は開いている。
【0038】
照射野形成装置20において、粒子線は、RMW41によりSOBPが形成され、二重散乱体42によりビーム中心軌道49と直交する方向に広げられて、レンジシフタ43により飛程が調整される。この粒子線の一部はビーム通路48を通過する。ビーム通路48を通過した粒子線は、ボーラス46及び患者コリメータ47を通過して、患部61に照射される。このようにして、粒子線によって患部61が治療される。
【0039】
ブロックコリメータ45の上方に到達した残りの粒子線は、一部がコリメータ部材44aによって遮られ、残りが深さ方向線量分布検出器30に入射される。深さ方向線量分布検出器30は、患部に照射されない不要な粒子線を入射して粒子線の深さ方向線量分布を検出する。この状態を、図4を用いて説明する。RMW41、二重散乱体42、レンジシフタ43を通過した粒子線は、図4に実線で示されたビーム強度の分布を有する。この分布のうち、一対の破線間に形成された範囲内の粒子線は患部61に照射される。図4で破線よりも右側に位置する部分の粒子線は、コリメータ部材44aに当って遮られる。図4で破線よりも左側に位置する部分の粒子線(不要な粒子線)は、深さ方向線量分布検出器30に入射される。
【0040】
深さ方向線量分布検出器30に入射された粒子線(図4で破線よりも左側に位置する部分の粒子線)は遮蔽体33に入射し、遮蔽体33を通過した粒子線は、遮蔽体33を通過した距離にしたがってエネルギーが減衰された後、電離箱37を通過する。粒子線のエネルギーが大きい程、粒子線は進行方向(ビーム中心軌道49の方向)に対して、より深い位置の電離箱37に達する。電離箱37に入射した粒子線は電離箱37中の気体と衝突し、気体分子の外殻電子を電離する。高圧電極34と電荷収集電極35の間に形成された電界により前記電離電子は、電荷収集電極35に向かって加速され、電荷として電荷収集電極35に収集される。すなわち、粒子線が入射した電離箱37からは、各電離箱中での粒子線のエネルギー損失量に応じた電荷が検出される。
【0041】
前記深さ方向線量分布検出器30は図5に示すように、遮蔽体72の厚さを連続で変化させた構造とすることもできる。図5の実施の形態の場合、電荷量検出器は、高圧電極73は連続な形状とし、電荷収集電極74は高圧電極73と平行になるように分割して配置した細長い電離箱79から構成されている。図3の実施の形態と同様に、高圧電極73は高圧電源75に、電荷収集電極74は信号処理装置76のアナログ信号処理装置77に接続され、検出した電荷量がデジタル信号処理装置78で深さ方向線量分布に分布に変換される。深さ方向線量分布検出器70と信号処理装置76と高圧電源75とで深さ方向線量分布測定装置80が構成される。
【0042】
また、図5の実施の形態ように、検出器70をコリメータ部材の一部としてコリメータ部材44bの端部に組み込む設置方法も可能である。この場合、検出器70の粒子線71に対する阻止能を、コリメータ部材44bと同等以上にする必要がある。
【0043】
各電離箱37(或いは電離箱79;以下同)から検出された電荷量と深さ方向線量分布の関係は試験等により予め求められているものとする。例えば、予め水ファントムの線量計測器を用いて深さ方向線量分布計測を行い、同一の照射条件で深さ方向線量分布測定装置39を用いて計測を行う。この試験結果に基づいて、電離箱37で得られた電荷量を線量に換算するための校正情報、及び電離箱の位置(粒子線が通過した遮蔽体の厚み)を水中での深さ方向位置に換算するための校正情報を取得する。これらの校正情報は、デジタル信号処理装置66のメモリ(図示せず)に記憶しておく。
【0044】
前記の各電離箱37から電荷を検出した後の信号処理フローを図6に示す。各電離箱37で発生した各電荷は、各配線63を介して信号処理装置31のアナログ信号処理装置65内の該当する増幅器で増幅され、デジタル信号処理装置66に伝えられる。デジタル信号処理装置66は、上記のように予め求めてメモリに記憶しておいた校正情報(電荷量を線量に換算する校正情報及び電離箱の位置を深さ方向位置に換算する校正情報)に基づいて、粒子線が入射されたときに各電離箱37が検出した電荷量から、粒子線の深さ方向線量分布を演算する。また、得られた分布からSOBP幅及び飛程を算出する。
【0045】
図6のデジタル信号処理装置66内の図示左側は、深さ方向線量分布検出器30の各電離箱37の位置(横軸)と各電離箱で得られた電荷量(縦軸)との関係を示し、図示右側は、デジタル信号処理装置66のメモリに記憶した上記校正情報に基づいて、その電離箱位置と電荷量から演算して求めた粒子線の深さ府置こう分布(深さ方向位置と線量との関係)を示している。このように事前に求めた校正情報をメモリに記憶しておくことで、このメモリ内の校正情報に基づいて、粒子線が入射されたときに各電離箱37が検出した電荷量から、デジタル信号処理装置66は、その粒子線の深さ方向線量分布を求めることができる。また、得られた分布からSOBP幅及び飛程を算出できる。
【0046】
デジタル信号処理装置66は、求めた深さ方向線量分布の情報を安全装置であるインターロック装置4に出力する。インターロック装置4は、粒子線を照射して治療を行っている患者60に対する、治療計画装置50からの深さ方向線量分布情報(分布、SOBP幅、飛程)を、偏差許容値と共に入力しており、この深さ方向線量分布情報とデジタル信号処理装置66からの深さ方向線量分布測定情報とを比較する。インターロック装置4は深さ方向線量分布測定値が偏差許容値を超えている場合にスイッチ13を開く。このため、高周波印加装置14への高周波電力の印加が停止され、シンクロトロン23からの粒子線の出射が強制的に停止される。また、インターロック装置4は、深さ方向線量分布測定値が偏差許容値を超えている場合に、シャッタ制御装置21にシャッタ閉信号を出力する。シャッタ制御装置21はシャッタ閉信号に基づいてビームシャッタ17を閉じる。
【0047】
インターロック装置4は深さ方向線量分布測定情報が偏差許容値以下の場合には、インターロック装置4はスイッチ13を開かない。このため、シンクロトロン23からの粒子線の出射が継続され、照射野形成装置20から出射される粒子線が患者60に照射される。ビームシャッタ17は開いたままである。
【0048】
本実施の形態は、ブロックコリメータ45によって遮られる粒子線の一部を深さ方向線量分布検出器30に入射させて粒子線の深さ方向線量分布を検出するため、ビーム通路48を通過した粒子線を患者60に照射しながら粒子線の深さ方向線量分布を測定することができる。また、粒子線を照射して患者60を治療しているときで、粒子線の深さ方向線量分布測定情報が偏差許容値を超えた場合には、シンクロトロン23からの粒子線の出射を停止することができる。これによって、偏差許容値を超える深さ方向線量分布の粒子線の患者60への照射を回避することができる。
【0049】
本実施の形態では、深さ方向線量分布検出器30がコリメータ部材44bに設置されているため、1つの駆動装置39で深さ方向線量分布検出器30及びコリメータ部材44bの両方を移動できる。このため、深さ方向線量分布検出器30及びコリメータ部材44bのそれぞれに別々の駆動装置を設置する必要がないので、照射野形成装置の構成を単純化できる。
【0050】
深さ方向線量分布検出器30を、コリメータ部材44bから分離して、ブロックコリメータ45の上流側に別に設置しても良い。この場合には、深さ方向線量分布検出器30及びコリメータ部材44bを別々に移動させる駆動装置をそれぞれ設置する必要がある。
【0051】
上記した実施の形態に用いた照射野形成装置20は、回転ガントリーを有しない治療室でも使用することができる。例えば、目に粒子線を照射する照射野形成装置は、回転ガントリーに設置されていなく回転されない。このような眼球に生じた癌の治療に用いられる照射野形成装置に、前述の照射野形成装置20を適用することができる。目の治療に用いられる照射野形成装置20にも、シンクロトロン23から出射された粒子線が導かれる。
【0052】
本実施の形態の照射野形成装置20は、SOBPの形成をRMW41を用いて行なっているが、リッジフィルタを用いたSOBP形成方法においても同様な効果が得られる。また横方向(ビーム進行方向に対して垂直になる方向)の荷電粒子密度分布の平坦化は、本実施の形態では二重散乱体法で行なっているが、ワブラー法を用いる方法でも良い。
【0053】
本実施の形態における深さ方向線量分布測定装置39は、シンクロトロンの替りにサイクロトロンを用いた粒子線治療装置にも適用することができる。サイクロトロンを用いた場合において、インターロック装置4は、深さ方向線量分布測定値が深さ方向線量分布偏差許容値を超えているとき、サイクロトロンに粒子線を入射するイオン源の電源のスイッチを開き、シャッタ制御装置21にシャッタ閉信号を出力する。スイッチを開くことによってイオン源からの粒子線の出射が停止され、患者60への粒子線の照射が停止される。イオン源の電源のスイッチを開くのは、サイクロトロンには高周波印加装置が設けられていないからである。
【符号の説明】
【0054】
1…粒子線治療装置
2…粒子線発生装置
3…加速器制御装置
4…インターロック装置
5…偏向電磁石
6…四極電磁石
7…高周波加速空洞
8…前段加速器
9…入射セプタム電磁石
10…静電インフレクタ
11…高周波電源
12,13…スイッチ
14…高周波印加装置
15…静電デフレクタ
16…出射セプタム電磁石
17…ビームシャッタ
18…偏向電磁石
19…ビーム輸送系
20…照射野形成装置
21…シャッタ制御装置
22…ガントリービーム輸送系
23…シンクロトロン
30…深さ方向線量分布検出器
30a…ビーム入射部
31…信号処理装置
32…高圧電源
33…遮蔽体
34…高圧電極
35…電荷収集電極
36…粒子線
37…電離箱
39…深さ方向線量分布測定装置
41…レンジモジュレーションホイール(RMW)
42…二重散乱体
43…レンジシフタ
44a,44b…ブロックコリメータ部材
45…ブロックコリメータ
46…ボーラス
47…患者コリメータ
48…ビーム通路
49…ビーム中心軌道
50…治療計画装置
51…照射制御装置
52…RMW駆動制御装置
53…レンジシフタ駆動制御装置
54…ブロックコリメータ駆動制御装置
55a,55b,56,57…駆動装置
58…制御システム
59…メモリ
60…患者
61…患部
62…治療台
63,64…配線
65…アナログ信号処理装置
66…デジタル信号処理装置
70…深さ方向線量分布検出器
71…粒子線
72…遮蔽体
73…高圧電極
74…電荷収集電極
75…高圧電源
76…信号処理装置
77…アナログ信号処理装置
78…デジタル信号処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子線の飛程を連続的又は段階的に減衰する遮蔽体と、
前記遮蔽体の後方かつ飛程の減衰量が変化する方向に配列された複数の電荷収集電極を有する電離箱型電荷量検出器と、
前記遮蔽体に粒子線が入射したとき、前記遮蔽体による飛程の減衰量と前記電離箱型電荷量検出器の複数の荷電収集電極で検出した電荷量を基に、入射した粒子線の深さ方向の線量分布を求める演算処理装置とを備えることを特徴とする深さ方向線量分布測定装置。
【請求項2】
前記演算処理装置は、更に、前記線量分布からSOBP幅及び飛程を求めることを特徴とする請求項1記載の深さ方向線量分布測定装置。
【請求項3】
粒子線発生装置と、この粒子線発生装置で生じた粒子線を照射対象に照射する粒子線照射装置とを備え、前記粒子線照射装置は前記粒子線の一部を通過させるコリメータを有する粒子線治療装置において、
前記粒子線照射装置内の前記コリメータの上流側に配置され、かつ前記コリメータを通過しない残りの粒子線の少なくとも一部を入射するビーム線入射部を有する深さ方向線量分布検出器と、
前記深さ方向線量分布検出器の検出結果に基づいて入射した粒子線の深さ方向の線量分布を算出する演算処理装置とを備えることを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項4】
前記深さ方向線量分布検出器は前記コリメータに取り付けられていることを特徴とする請求項3記載の粒子線治療装置。
【請求項5】
前記コリメータを前記深さ方向線量分布検出器と一緒に前記粒子線が通過するビーム経路と交差する方向に移動させる移動装置を更に備えることを特徴とする請求項3記載の粒子線治療装置。
【請求項6】
前記深さ方向線量分布検出器は、
粒子線の飛程を連続的又は段階的に減衰する遮蔽体と、
前記遮蔽体の後方かつ飛程の減衰量が変化する方向に配列された複数の電荷収集電極を有する電離箱型電荷量検出器とを有することを特徴とする請求項3記載の粒子線治療装置。
【請求項7】
前記演算処理装置は、前記遮蔽体に粒子線が入射したとき、前記遮蔽体による飛程の減衰量と前記電離箱型電荷量検出器の複数の電荷収集電極で検出した電荷量を基に、入射した粒子線の深さ方向の線量分布を求めることを特徴とする請求項3記載の粒子線治療装置。
【請求項8】
前記演算処理装置は、更に、前記線量分布からSOBP幅及び飛程を求めることを特徴とする請求項7記載の粒子線治療装置。
【請求項9】
治療計画で設定した深さ方向線量分布と、前記演算処理装置で求めた深さ方向線量分布との偏差が、予め設定した許容値を超えるとき、前記粒子線発生装置からの粒子線の出射を停止させる安全装置を更に備えることを特徴とする請求項7記載の粒子線治療装置。
【請求項10】
治療計画で設定したSOBP幅及び飛程と、前記演算処理装置で求めたSOBP幅及び飛程との偏差が、予め設定した許容値を超えるとき、前記粒子線発生装置からの粒子線の出射を停止させる安全装置を更に備えることを特徴とする請求項9記載の粒子線治療装置。
【請求項11】
粒子線発生装置から出射した粒子線を照射対象に照射する粒子線照射装置において、
前記粒子線の一部を通過させるコリメータと、
前記コリメータの上流側に配置され、かつ前記コリメータを通過しない残りの粒子線の少なくとも一部を入射するビーム入射部を有する深さ方向線量分布検出器とを備えることを特徴とする粒子線照射装置。
【請求項12】
前記深さ方向線量分布検出器は、
粒子線の飛程を連続的又は段階的に減衰する遮蔽体と、
前記遮蔽体の後方かつ飛程の減衰量が変化する方向に配列された複数の電荷収集電極を有する電離箱型電荷量検出器とを有し、
前記遮蔽体に粒子線が入射したとき、前記遮蔽体による飛程の減衰量と前記電離箱型電荷量検出器の複数の電荷収集電極で検出した荷電量を基に、入射した粒子線の深さ方向の線量分布を求めることを特徴とする請求項11記載の粒子線照射装置。
【請求項13】
前記深さ方向線量分布検出器は前記コリメータに取り付けられていることを特徴とする請求項11記載の粒子線照射装置。
【請求項14】
前記コリメータを前記深さ方向線量分布検出器と一緒に前記粒子線が通過するビーム経路と交差する方向に移動させる移動装置を更に備えることを特徴とする請求項11記載の粒子線照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−2772(P2012−2772A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140424(P2010−140424)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】