説明

深冷空気分離装置への導入に先立って空気を前処理する方法、および対応する装置

本発明は深冷空気分離装置に導入するに先立って空気を前処理する方法、および対応する装置に関する。水(12)との直接熱交換によってCOを含有する空気(4)を冷却する方法において、用いられる水の酸塩基平衡を、水のpHが7を上回り、水が空気中に含まれるCOの殆どの部分を吸収するように変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は大気中の空気を前処理する方法、特に大気中の空気を深冷分離する前に特に深冷蒸留によって前記空気を前処理する方法、前処理装置およびこのような前処理装置を組み入れる分離装置に関する。
【発明の開示】
【0002】
大気中の空気は、空気分離装置におけるコールドボックスの熱交換器に前記空気を導入する前に除去しなければならない化合物を含むことが知られており、その化合物は特に二酸化炭素(CO)および水蒸気(HO)である。
【0003】
これは空気の不純物すなわちCOおよび水を除去するこのような空気の前処理が無いと、これらの不純物は空気を極低温に冷却する際に凝縮して氷のように固化し、装置内、特に熱交換器内、蒸留カラム内、その他の中で詰まりの問題に帰着するであろうからだ。
【0004】
現在、この空気前処理はエアコンプレッサーの下流において二段階で達成される。
【0005】
a)コンプレッサーによって、チューブ式熱交換器によっておよび/または水と直接接触する冷却塔によって空気のアウトプットを予冷する。
【0006】
通常、この予冷は二工程で行う。
【0007】
第1段階において、以下のいずれかにより空気を室温近くまで冷却する。
【0008】
−大気中空気との間接熱交換(空冷塔)による。
【0009】
−またはチューブ式交換器内で冷却水との間接熱交換(この冷却水は直接熱交換(大気塔)または間接熱交換(水冷塔)によって冷却される)による。
【0010】
−または充填塔内(塔内の充填剤は疎ら(loose)または規則的(ordered)で、金属(ステンレス鋼)またはプラスチック(ポリプロピレン)の温度レベルに依存する)で冷却水との直接熱交換による。
【0011】
第2段階(場合によっては任意)において、以下のいずれかにより空気を実質的に室温以下の温度まで冷却する。
【0012】
−チューブ式熱交換器内で気化する冷媒(NH、R134a、他)との熱交換による。次にこの冷媒を膨張させてチューブ式交換器に導入(これを空気冷却と呼ぶ)する前に室温に近い温度で圧縮し、再凝縮する。
【0013】
−またはチューブ式交換器内で「冷たい」水との間接熱交換による。
【0014】
−または充填塔内で「冷たい」水との直接熱交換による。第1工程で充填塔が選択されているならば、2段塔を用いる。すなわち、2つの予冷段階を1つの同じ塔に統合する。
【0015】
この「冷たい」水は、以下のいずれかの方法により、いくつかの方法で得られる。
【0016】
−チューブ式熱交換器内で気化する冷媒(NH、R134a、他)との熱交換による。次にこの冷媒を、膨張させてチューブ式交換器に導入(これを空気冷却と呼ぶ)する前に室温に近い温度で圧縮し、再凝縮する。
【0017】
−または充填塔内で深冷空気蒸留装置から発生する乾燥脱炭酸流体との熱交換による。この流体は通常、空気からの酸素製造の副生成物としての利用されない「廃」窒素である(この塔を水−窒素塔と呼ぶ)。
【0018】
b)TSA法(温度スイング吸着)またはPSA法(圧力スイング吸着)による水蒸気および二酸化炭素の吸着によって空気を精製する。
【0019】
一般に、COおよび水蒸気の除去をいくつかの吸着床上、すなわち優先的に水を除くことを意図した第1の吸着剤(たとえば活性化アルミナ吸着床)、および優先的にCOを除くことを意図した第2の吸着剤(たとえばゼオライト吸着床)によって達成する。大気中の空気は約350ppmのCOを含み、この値は大量のCO(600ppmに及ぶCO)を放出する、一部の工業地帯において実質的により高くなる。
【0020】
本発明の1つの目的は水との直接熱交換によってCOを含有する空気を前処理し、空気を冷却する方法を提供することであって、この熱交換に使われる水の酸塩基平衡を水のpHが7を超えるように変更し、水が空気中に含まれる殆どのCO分を吸収することを特徴とする。
【0021】
他の任意の態様によれば、
−直接接触による熱交換を疎充填剤または規則充填剤によって達成する。
【0022】
−水中のCO吸収は以下の化学平衡の少なくとも1つに関係する。
【0023】
CO(g) ⇔ CO(aq) (1) (ここでgおよびaqはそれぞれ気相または溶解相を示す)。,
CO(aq) + HO ⇔ HCO (2),
CO ⇔ H + HCO- (3),
HCO ⇔ H + CO2− (4)。
−水の温度は実質的に室温を下回る、および/または大気中の空気との直接熱交換によって得られる冷却水の温度を下回る。
【0024】
−水の酸塩基平衡を水のpHが8を上回るように変更する。
【0025】
−水はカルシウムを含有し、水と空気の直接接触の間に以下の平衡が生じる。
【0026】
CaCO ↓⇔ Ca2+ + CO2-
【0027】
−COを吸収した後の水を乾燥脱炭酸流体と接触させ、入れ替わりにこれをCOで充填する。
【0028】
−乾燥脱炭酸流体は深冷空気分離装置から発生する。
【0029】
−乾燥脱炭酸流体は窒素リッチである。
【0030】
−乾燥脱炭酸流体は冷却された空気の圧力を下回る圧力である。
【0031】
−乾燥脱炭酸流体は大気圧に近い圧力である。
【0032】
−炭酸カルシウム(CaCO)の沈殿が水と空気の直接接触の際に起こる。
【0033】
−固体の炭酸カルシウムを水から分離する。
【0034】
−第1生成物を水中に注入して水の吸収性を維持し、そのpHを変更する。
【0035】
−前記第1生成物は塩基性タイプで、特に石灰、水酸化ナトリウムまたはアンモニア水である。
【0036】
−前記生成物は酸性タイプで、特に塩酸である。
【0037】
−乾燥脱炭酸流体は、空気を対象とするのと同じ空気分離装置によって産出される。
【0038】
他の任意の態様によれば、この予冷は以下のように特徴付けられる。
【0039】
−COの吸収に使われる水は「冷たい」水である。なぜならばより低い温度の水ほど、より多量のCOを吸収することができるためである。
【0040】
−水のpHは8を上回る。
【0041】
−また、吸収はたとえば以下のようなカルシウム化学平衡の1つに関係する。
【0042】
CaCO ↓⇔ Ca2+ + CO2- (5)。
【0043】
−CO含有水を乾燥脱炭酸流体に接触させることによってCOを脱着し、除去する。乾燥脱炭酸流体はCOで充填されるようになる。前記流体は好ましくは深冷空気蒸留装置および充填塔内の直接熱交換による水の冷却に付随して発生する。
【0044】
−この乾燥脱炭酸流体は窒素リッチである。
【0045】
−この乾燥脱炭酸流体は空気の圧力を下回る圧力であり、脱着をより容易にする。
【0046】
−COを脱着し、同時に(5)のタイプのカルシウム化学平衡に関係する固体の炭酸カルシウム沈殿物の形態で除去する。
【0047】
−COを脱着し、同時にCO含有水と乾燥脱炭酸流体(これは次にCOで充填される)との接触と固体炭酸カルシウムの沈殿の組み合わせによって除去する。
【0048】
−生成物を特に水のpHを変更することによって水の吸収性を維持する意図でこの予冷システムに注入する。
【0049】
−水の吸収性を維持するこの生成物は塩基性タイプである。
【0050】
−塩基性タイプのこの生成物は水酸化ナトリウム(NaOH)であり、場合によっては希釈される。
【0051】
−塩基性タイプのこの生成物は石灰(Ca(OH))であり、場合によっては水相溶液および/または懸濁液の形態で予め希釈される。
【0052】
−塩基性タイプのこの生成物はNH(aq)(アンモニア水)またはNH(アンモニウム塩)の形態でアンモニアを含有する。
【0053】
−水の吸収性を維持するこの生成物は水があまりに塩基性となる場合は酸性タイプである。
【0054】
本発明の他の目的は、CO含有空気と水の間の直接熱交換によって冷却する冷却塔を含む空気前処理装置を提供することにあり、この熱交換に使われる水はpH>7の塩基性であり、これは少なくとも第1の塩基性生成物を塔の上流の水に加えることによって水の酸塩基平衡を変更する手段を含むことを特徴とする。
【0055】
本発明のさらに他の目的はCO含有空気と水の間の直接熱交換によって冷却する冷却塔を含む装置を含む、極低温で空気から気体を分離する分離装置を提供することにあり、この熱交換に使われる水はpH>7の塩基性であって、これは少なくとも第1の塩基性生成物を塔の上流の水に加えることによって水の酸塩基平衡を変更する手段を含むことを特徴とする。
【0056】
いくつかの圧縮段2および中間冷却機3からなる圧縮機1は空気を通常6bar absオーダー(場合によっては3.5〜35abs)の圧力に圧縮し、100℃付近の温度で最終圧縮段を出る。次にこの空気4を2段充填塔5に導入し、最初に冷却水8との直接熱交換によってこの塔の下部6において35℃付近にまで冷却する。この冷却水8は冷却水本管11から来て、ポンプ10によって予め圧縮されている。冷却水8は塔5の下部6から45℃の温度で出て行く(流体9)。空気はこの下部6から35℃付近の温度で出て行く。塔の下部におけるこの冷却手段は本文の冒頭部に記述した手段と置き換えられることが理解されるだろう。
【0057】
塔の上部7において、空気を著しい塩基性のpH(8〜12)にあり空気中に含まれるCOの殆どを吸収する「冷たい」水12との直接接触によって冷却する。塔の上部7から出た水13は30℃付近の温度である。水13は下部6には戻らないが、完全にまたは少なくとも殆どを塔5の中腹部で回収される。空気14のCO含有量は典型的に10〜50ppm付近で、この空気の温度は12℃付近である。CO含有水13を部分的にパージしてもよく(15)、次にバルブ16内で大気圧近くまで膨張させ、充填塔17に導入し、その内部で深冷空気分離装置(図示していない)による乾燥廃窒素18のアウトプットとの直接接触によって冷却する。。同じ塔内で、CO含有水13は自身が含むCOを少なくとも部分的に脱着する。塔17から発生した廃窒素19は水で飽和され、水によって脱着されたCOを含む。塔から出る際、水20は12℃の温度である。水をポンプ21内で圧縮し、石灰、水酸化ナトリウムまたはアンモニア水のような塩基性タイプの第1生成物22の注入を受ける。生成物の注入により水のpHをCO吸収が効果的になるように変更する。生成物を塔5の直前で注入してもよく、水のサイクル12、13、20のどこにでも注入してもよい。塩基性生成物の注入を水のpHを測定する検出器または精製空気14のCO含有量を測定する検出器のいずれかによって制御する。同じく、過剰の塩基性生成物が水中に送られた場合は、水のCO吸収容量を維持する目的で塩酸のような酸性タイプの第2生成物を加えることによるpHを修正することが必要なことがわかるだろう。生成物22の注入のポイントの上流または下流において、場合によっては本質的にCaCOからなる固体の沈殿物の少なくとも一部を水から取り去る。固体の一部を水相の懸濁液中に沈殿核として保持することは有用である。
【0058】
次に塔5を出た空気14を乾燥し、典型的にアルミナ吸着床およびモリキュラーシーブ吸着床を含む2つの吸着器23のうちの1つにおいて完全に脱炭酸する。同時に、他方の吸着器を深冷空気分離装置による乾燥脱炭酸廃窒素24アウトプットの他の部分によって再生してもよい。前記窒素を場合によっては交換器25内で加熱する。吸着器は弁26システムによって交互に吸着モードで、次に再生モードで使用される。吸着器23から出た空気27は乾燥し、脱炭酸されており、それゆえに深冷空気分離装置に導入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】−図1は特に深冷蒸留により空気を深冷分離する前に、大気中の空気を圧縮、予冷、前処理および/または精製する方法を図示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水(12)との直接熱交換で冷却することによってCOを含有する空気(4)を前処理する方法であって、この熱交換に使われる水の酸塩基平衡を水のpHが7を上回るように変更し、水が空気中に含まれるCOの殆どを吸収する方法において、
COを吸収した後に水を深冷空気分離装置から生じる乾燥脱炭酸流体(18)と接触させ、入れ替わりにこれをCOで充填し、前処理された空気を空気分離装置に送ることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、直接接触による熱交換を疎充填剤または規則充填剤によって達成する方法。
【請求項3】
先行する請求項のいずれかに記載の方法であって、水中へのCO吸収は以下の化学平衡の少なくとも1つ
CO(g) ⇔ CO(aq) (1) (ここでgおよびaqは各々気相または溶解相を示す)、
CO(aq) + HO ⇔ HCO (2)、
CO ⇔ H + HCO- (3)、
HCO ⇔ H + CO2− (4)
に関係する方法。
【請求項4】
先行する請求項のうちの1項に記載の方法であって、水(12)の温度は実質的に室温を下回る、および/または大気中の空気との直接熱交換によって得られる冷却水の温度を下回る方法。
【請求項5】
先行する請求項のうちの1項に記載の方法であって、水の酸塩基平衡を水のpHが8を上回るように変更する方法。
【請求項6】
先行する請求項のうちの1項に記載の方法であって、水はカルシウムを含有し、水と空気の直接接触の間に以下の化学平衡
CaCO ↓⇔ Ca2+ + CO2-
が生じる方法。
【請求項7】
請求項1ないし5の1項に記載の方法であって、乾燥脱炭酸流体(18)は窒素リッチである方法。
【請求項8】
請求項1ないし7の1項に記載の方法であって、乾燥脱炭酸流体(18)は冷却された空気の圧力を下回る圧力である方法。
【請求項9】
請求項1ないし7の1項に記載の方法であって、乾燥脱炭酸流体(18)は大気圧に近い圧力である方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法であって、炭酸カルシウム(CaCO)の沈殿が水と空気の直接接触の際に起こる方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、固体の炭酸カルシウムを水から分離する方法。
【請求項12】
先行する請求項のうちの1項に記載の方法であって、第1生成物(22)を水中に注入し、水の吸収性を維持し、そのpHを変更する方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって、前記生成物(22)は塩基性タイプであり、特に石灰、水酸化ナトリウムまたはアンモニア水である方法。
【請求項14】
請求項12に記載の方法であって、前記生成物は酸性タイプであり、特に塩酸である方法。
【請求項15】
空気前処理装置を含む深冷空気分離装置であって、前記空気前処理装置はCO含有空気と水の間の直接熱交換によって冷却する冷却塔(5)を含み、この熱交換に用いる水はpH>7の塩基性であり、
空気前処理装置は少なくとも第1の塩基性生成物を塔の上流の水に加えることによって水の酸塩基平衡を変更する手段(22)と、COを吸収した水を深冷空気分離装置から生じる乾燥脱炭酸流体(18)と接触させる手段と、前処理した空気を空気分離装置に送る手段とを含むことを特徴とする深冷空気分離装置。

【図1】
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【公表番号】特表2008−527295(P2008−527295A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−549939(P2007−549939)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【国際出願番号】PCT/FR2006/050005
【国際公開番号】WO2006/072753
【国際公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(591036572)レール・リキード−ソシエテ・アノニム・プール・レテュード・エ・レクスプロワタシオン・デ・プロセデ・ジョルジュ・クロード (438)
【Fターム(参考)】