説明

清掃用布材

【課題】本発明は、粘着性のある汚れを拭き取るとともに拭き取った汚れを保持することができ清掃する表面を傷付けることのない清掃用布材を提供することを目的とするものである。
【解決手段】経糸1及び緯糸2により織成された地組織にモノフィラメントからなるカットパイル3を多数本織り込む。カットパイル3の両端部は、互いに離間するように傾斜した状態で突出し、経糸方向又は緯糸方向からみて他のカットパイルと互いに交差するように保持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、台所や浴室等において清掃を行う場合に汚れを拭き取るために用いられる清掃用布材に関する。
【背景技術】
【0002】
台所や浴室等を清掃する場合ガスレンジの表面に付着した油汚れや浴槽の表面に付着した皮脂汚れといった粘着性のある汚れは水拭きや水をかけるだけではきれいに拭き取ることが困難であった。そのため従来よりたわしやモップといった清掃用具が用いられており、汚れた表面にこうした清掃用具を摺接させて汚れを拭き取るようにすることが行われているが、摺接することで表面に擦り傷が付いてしまったり、一度拭き取った汚れが何度も擦っているうちに再び付着するといった問題がある。
【0003】
こうした従来の清掃用具の他に、パイル地を用いた清掃用布材が提案されている。例えば、特許文献1及び2では、スロットマシン等の遊技機で使用されるコインや硬貨の表面に付着した汚れを拭き取るために、パイル地を備えた清拭材が記載されている。また、特許文献3では、基布の表面にタフティングによってパイルを密に植設し、裏面にバッキング材を固着したたわしが記載されている。
【特許文献1】特開平7−8432号公報
【特許文献2】特開平7−23886号公報
【特許文献3】特開2000−350689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した先行文献では、生地の表面に密植されたパイルにより従来のたわしやモップと同様に汚れを拭き取るようにされているが、従来の清掃用具と同様に一度拭き取った汚れが再び付着してしまうことが避けられない。また、たわしの毛と同様の剛性のあるパイル糸を使用すると、清掃した表面に擦り傷をつけてしまうおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、粘着性のある汚れを拭き取るとともに拭き取った汚れを保持することができ清掃する表面を傷付けることのない清掃用布材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る清掃用布材は、経糸及び緯糸により織成された地組織と、地組織に織り込まれ地組織より両端部が突出したモノフィラメントからなる多数のカットパイルとを備え、カットパイルの両端部は、互いに離間するように傾斜した状態で突出し、経糸方向又は緯糸方向からみて他のカットパイルと互いに交差するように保持されていることを特徴とする。さらに、前記カットパイルは、突出した先端部のカット面につば状の突起部が形成されていることを特徴とする。さらに、前記カットパイルは、繊度が56デシテックス〜330デシテックスのモノフィラメントであることを特徴とする。さらに、前記カットパイルは、100本/cm2〜1000本/cm2の密度で地組織より両端部が突出していることを特徴とする。さらに、前記地組織の前記カットパイルが突出した面とは反対側の面には、合成樹脂製シートが貼着されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、上記のような構成を備えることで、地組織に織り込まれ地組織より両端部が突出したモノフィラメントからなる多数のカットパイルを備え、カットパイルの両端部を、互いに離間するように傾斜した状態で突出させて経糸方向又は緯糸方向からみて他のカットパイルと互いに交差するように保持しているので、清掃する表面を傷付けることなく油汚れ等の粘着性のある汚れをきれいに拭き取ることができる。
【0008】
すなわち、モノフィラメントからなる多数のカットパイルの突出した両端部が傾斜した状態にされているため、清掃表面に押し付けるとその両端部が容易に地組織側に撓むようになって、清掃表面にカットパイルの先端だけではなく側面も圧接した状態になり、この状態で清掃する表面を摺接することで油汚れ等の粘着性の強い汚れを掻き取ることできれいに拭き取ることができる。そして、カットパイルが寝た状態で摺接されるので、カットパイルの先端が清掃表面に突き当たることはなく、剛性の高いモノフィラメントを用いても清掃表面が傷付くことは避けられる。
【0009】
また、掻き取られた汚れは、カットパイルが互いに交差した部分に絡め取られたり、地組織の表面まで押し込まれて保持されるようになり、こうして保持された汚れは清掃動作中に脱落して再び付着することは抑えられる。掻き取られた汚れが地組織の表面まで押し込まれるとカットパイルが互いに交差した状態で表面が覆われているため、表面から剥がれたとしてもカットパイルの交差部分に阻止されて脱落することが抑えられる。
【0010】
そして、カットパイルの突出した先端部のカット面につば状の突起部を形成することで、汚れの掻き取りを効率的に行うことができる。
【0011】
また、カットパイルとして、繊度が56デシテックス〜330デシテックスのモノフィラメントを用いることで、汚れの掻き取り及び掻き取った汚れの保持に好適な剛性のあるものを得ることができる。また、カットパイルを、100本/cm2〜1000本/cm2の密度で設けることで、汚れの掻き取り及び掻き取った汚れの保持に好適な交差状態を実現することができる。
【0012】
また、地組織のカットパイルが突出した面とは反対側の面に合成樹脂製シートを貼着することで、カットパイルの抜け防止とともに清掃用布材の取り扱いを容易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施形態について詳述する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0014】
図1は、本発明に係る実施形態に関する布材の組織構造を模式的に示した拡大斜視図である。経糸1及び緯糸2からなる地組織に経糸方向にパイル長が数mm程度のカットパイル3が織り込まれた構造をしている。カットパイル3は、緯糸2にW字状に織り込まれており、経糸方向に隣接するカットパイルが1本の緯糸で重なるように配置されている。なお、図1では、カットパイル3を識別しやすくするためにハッチングをしたものがあるが、すべて同じものである。地組織のカットパイル3が突出した面とは反対側の面には、カットパイルの抜け防止のために合成樹脂製シートを貼着してもよい。合成樹脂製シートとしては、清掃する際の操作性が悪くならないように柔軟性があるものが好ましく、また手を押し当てて汚れをふき取る際にずれない程度の滑り止め作用を有するものがよい。
【0015】
カットパイル3の両端部は、地組織から突出して互い離間するように傾斜した状態に保持されている。図1では、カットパイル3の両端部が経糸方向で互いに反対側に向かって傾斜するようになっている。図2及び図3は、図1に示す組織構造を有する清掃用布材についてそれぞれ緯糸方向及び経糸方向から撮影した断面構造に関する拡大写真である。これらの写真を見ると、カットパイルの突出した両端部が互いに交差するように傾斜した状態に保持されていることがわかる。この例では、いずれの方向からみてもカットパイルの傾斜状態は互いに交差状態とされており、このようにカットパイルが様々な方向に傾斜した状態に保持されてもよく、カットパイル同士が交差した状態が実現すればよい。
【0016】
カットパイル3の両端部の傾斜した状態は、モノフィラメントからなるカットパイル3を緯糸2に織り込むことで、モノフィラメントの曲げ剛性により所定の角度に傾斜した状態で保持されるようになる。モノフィラメントの傾斜角度は、緯糸の太さ(繊度)を変化させることで調整することができ、緯糸を太くすればカットパイルは立った状態に近づいていき、緯糸を細くすればカットパイルは寝た状態に近づいていく。
【0017】
カットパイル3の突出した先端部のカット面には、図1に示すように、つば状の突起部4が形成されている。つば状の突起部4は、カットパイルの長手方向に対してほぼ直交する方向に張り出すように形成されており、パイル糸の切断時に形成されるためその形状は一定した形状となっていないが、先端部でつば状に張り出して形成されることで、清掃表面の汚れを効率よく掻き取ることができる。
【0018】
図4は、図1に示す組織構造を有する清掃用布材についてカットパイルが突出した面を上方から撮影した電子顕微鏡の写真であり、図5は、カットパイルの先端部を撮影した電子顕微鏡の写真である。これらの写真を見ると、カットパイルの先端には、ほぼ円形又は楕円形状の切断面が形成されてその周縁部では外方に張り出すようにつば状の突起部が一部又は全部に形成されている。
【0019】
こうしたつば状の突起部は、カットパイルの切断工程において形成することができる。図6は、カットパイルの切断工程の一例を示しているが、上下1対の地組織10a及び10bを所定の間隔を空けてパイル糸20で連結して織成された織地をナイフ状の超硬カッター30に対してパイル糸20を等分に切断するように位置決めし(図6(a))、パイル糸20を超硬カッター30に押し当てるように織地を矢印方向に搬送することでパイル糸20が切断されていく。そして、パイル糸20の切断時に溶融して切断されて、切断面には織地の搬送方向とは反対側に超硬カッター30に引きずられるようにつば状の突起部20aが形成されるようになる(図6(b))。こうしたつば状の突起部20aは、パイル糸20の状態や切断速度及び加熱温度によって様々な形状に形成され、一様な形状とはならないが、カットパイルの先端部において外方に張り出すようにつば状に形成されれば汚れの掻き取り作用を向上させることができる。
【0020】
本発明に係る清掃用用布材の地組織としては、レーヨンに代表される再生繊維、綿に代表される天然繊維、アセテート等の半合成繊維、ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステル系合成繊維、ナイロンに代表される脂肪族ポリアミド系合成繊維あるいはこれらの混合繊維を用いた薄地または厚地の織物が採用できる。織物組織としては、パイル糸が織り込めるのであればよく特に限定されないが、図1に示すような綾織り構造を用いるのが好ましい。
【0021】
地組織に用いる経糸及び緯糸は、長繊維糸の場合56〜220デシテックス(50〜200デニール)の範囲のものが好ましく、長繊維糸としては、例えばビスコースレーヨン糸、キュプラ糸が用いられる。また、紡績糸の場合経糸及び緯糸として綿番手が双糸140番手〜単糸10番手のものが好ましい。
【0022】
パイル糸としては、ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステル系合成繊維又はナイロンに代表される脂肪族ポリアミド系合成繊維等のモノフィラメントを使用する。使用するモノフィラメントの繊度は、56〜330デシテックス(50〜300デニール)の範囲のものが好ましい。繊度が56デシテックスより小さくなると、モノフィラメントの剛性が小さくなって掻き取り作用が弱くなり、また掻き取った汚れを保持する作用も弱くなる。また、繊度が330デシテックスより大きくなると、上述したようなヒータカッタによるパイル糸の切断が難しくなり、カットパイルの先端につば状の突起部の形成が難しくなる。
【0023】
カットパイルのパイル長は、1〜5mmの範囲に設定することが好ましく、1mmより小さくなるとカットパイルの交差状態を実現するのが困難になり、5mmより大きくなると撓みやすくなって掻き取り作用が弱まる。
【0024】
また、カットパイルは、100本/cm2〜1000本/cm2の密度で地組織より両端部が突出するように分布させるのが好ましい。100本より小さい密度になるとカットパイルの交差状態を実現するのが困難になり、1000本より大きくなるとカットパイルが密生して互いに押し合い傾斜した状態が形成されにくくなる。
【0025】
図7は、以上説明した清掃用布材を用いた清掃過程を示す説明図である。清掃用布材は、上述したようにカットパイル3の両端部が互いに離間するように傾斜して他のカットパイルと交差した状態となるように保持されており(図7(a))、この状態で清掃表面100に清掃用布材を押し当てると、カットパイル3は地組織側に撓んだ状態となり、カットパイルの先端及び外周面が清掃表面に接触するようになる(図7(b))。
【0026】
この場合カットパイルが傾斜した状態に保持されているため、清掃表面に押し当ててもカットパイルの先端が清掃表面に突き当たった状態とはならず、摺接しても清掃表面を傷つけることがない。また、清掃表面に押し当てられてカットパイル3が撓んだ状態で清掃用布材を摺動させれば、カットパイルが先端及び外周面が当接した状態で清掃表面を摺接するため粘着性のある汚れ101はきれいに掻き取られるようになる。また、カットパイルが撓んだ状態となっているためカットパイルの交差部分が清掃表面に近接した位置に下がり、交差した部分に汚れが絡め取られていく。
【0027】
そして、清掃用布材を清掃表面から離間させると、カットパイルは元の傾斜した状態に戻る(図7(c))。そのため、カットパイルの先端部が突き出るようになり、カットパイルの交差部分に絡め取られた汚れ101はカットパイルの内部に保持された状態となって外部に露出することがなく脱落を抑止することができる。また、カットパイルに掻き取られて地組織の表面に付着した汚れの場合にも、カットパイルが元の状態に戻ることで汚れに対して交差したカットパイルが覆うようになり、地組織から汚れが剥がれたとしてもカットパイルの交差部分に絡め取られて脱落が抑止される。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳しく説明するが、実施例は本発明を限定するものと解してはならない。
【0029】
[実施例1]
経糸として、ポリエステル繊維からなる110デシテックス(100デニール)の長繊維糸を使い、緯糸として、ポリエステル繊維からなる110デシテックス(100デニール)の長繊維糸を使って、経糸密度25本/cm、緯糸密度33本/cmで綾織りに織られた地組織を用いた。パイル糸として、ポリエステル繊維からなる108デシテックス(98デニール)のモノフィラメントを使用し、周知の織機により図1に示すW字型で地組織に織り込んだ。
【0030】
作成された織布をパイル長は2mmとなるように図6で説明した切断工程により切断し、生地重量が272g/cm2、単位面積当りのパイルフィラメントの本数が550本/cm2の清掃用布材を作成した。
【0031】
こうして作成された清掃用布材を用いて台所に設置されているガスレンジの上面を乾拭きしたところ、表面に付着していた油汚れ等の粘着性のある汚れがきれいに拭き取ることができ、複数回拭き取るようにしても拭き取った汚れが再び付着することがなかった。また、拭き取った後の清掃面を肉眼で観察したところ拭き取り動作による擦り傷等は見られなかった。
【0032】
図8は、汚れを拭き取った後の清掃用布材の断面を撮影した拡大写真である。この写真を見ると、カットパイルの交差した部分に汚れが絡め取られていることがわかる。また、カットパイルの先端には汚れの付着がほとんどなく、掻き取った汚れが内部に保持されているため、外部に再付着したり脱落することが抑えられる。
【0033】
[実施例2]
実施例1と同様の地組織に同じパイル糸を織り込んで織布を作成した。パイル長は1mmとなるように図6で説明した切断工程により切断し、生地重量が238g/cm2、単位面積当りのパイルフィラメントの本数が550本/cm2の清掃用布材を作成した。
【0034】
作成された清掃用布材を用いて実施例1と同様に汚れを拭き取ったところ、汚れがきれいに拭き取られて擦り傷等も見当たらなかった。
【0035】
[実施例3]
実施例1と同様の地組織に同じパイル糸を織り込んで織布を作成した。パイル長は5mmとなるように図6で説明した切断工程により切断し、生地重量が506g/cm2、単位面積当りのパイルフィラメントの本数が550本/cm2の清掃用布材を作成した。
【0036】
作成された清掃用布材を用いて実施例1と同様に汚れを拭き取ったところ、汚れがきれいに拭き取られて擦り傷等も見当たらなかった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る実施形態に関する布材の組織構造を模式的に示した拡大斜視図である。
【図2】清掃用布材を緯糸方向から撮影した断面構造に関する拡大写真である。
【図3】清掃用布材を経糸方向から撮影した断面構造に関する拡大写真である。
【図4】カットパイルが突出した面を上方から撮影した電子顕微鏡の写真である。
【図5】カットパイルの先端部を撮影した電子顕微鏡の写真である。
【図6】カットパイルの切断工程を示す説明図である。
【図7】清掃用布材を用いた清掃過程を示す説明図である。
【図8】汚れを拭き取った後の清掃用布材の断面を撮影した拡大写真である。
【符号の説明】
【0038】
1 経糸
2 緯糸
3 カットパイル
4 突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸及び緯糸により織成された地組織と、地組織に織り込まれ地組織より両端部が突出したモノフィラメントからなる多数のカットパイルとを備え、カットパイルの両端部は、互いに離間するように傾斜した状態で突出し、経糸方向又は緯糸方向からみて他のカットパイルと互いに交差するように保持されていることを特徴とする清掃用布材。
【請求項2】
前記カットパイルは、突出した先端部のカット面につば状の突起部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の清掃用布材。
【請求項3】
前記カットパイルは、繊度が56デシテックス〜330デシテックスのモノフィラメントであることを特徴とする請求項1又は2に記載の清掃用布材。
【請求項4】
前記カットパイルは、100本/cm2〜1000本/cm2の密度で地組織より両端部が突出していることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の清掃用布材。
【請求項5】
前記地組織の前記カットパイルが突出した面とは反対側の面には、合成樹脂製シートが貼着されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の清掃用布材。

【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−80012(P2008−80012A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−265997(P2006−265997)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(393028302)揚原織物工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】