説明

減圧チャンバ、流延膜の形成方法及び溶液製膜方法

【課題】厚みムラを防止しつつ、現状のエンドレスバンドの幅一杯に流延膜を形成する。
【解決手段】エンドレスバンド26は、Y方向におけるローラ中央部24bcに巻きかけられ、Y方向におけるロール端部24beは露出する。減圧チャンバ47は箱状のチャンバ本体50と外シール部材とからなる。チャンバ本体50は、ビードのX方向上流側を囲い、流延面26aと近接するように設けられる。外シール部材は、チャンバ本体50内のシーリング性を高めるためのものであり、外幅シール64とからなる。外サイドシール65は、側方遮風板54のX方向全域にわたって、ロール端部24beの周面に近接するように側方遮風板54から突出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減圧チャンバ、流延膜の形成方法及び溶液製膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光透過性を有する熱可塑性フィルム(以下、フィルムと称する)は、軽量であり、成形が容易であるため、光学フィルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレートなどを用いたセルロースエステル系フィルムは、写真感光用フィルムの他、液晶表示装置の光学フィルム(偏光板保護フィルムや位相差フィルム等)として用いられている。
【0003】
フィルムは、溶液製膜方法により製造される。溶液製膜方法では、フィルム形成工程とフィルム乾燥工程とを順次行う。フィルム形成工程では、ポリマーと溶剤とを含むポリマー溶液(以下、ドープと称する)から湿潤フィルムをつくる。そして、フィルム乾燥工程では、湿潤フィルムから溶剤を蒸発させてフィルムとする。
【0004】
また、フィルム形成工程では、流延工程と膜加熱工程と剥取工程とが順次行われる。流延工程では、水平ロールに掛け渡され水平ロールの駆動により移動する支持体に対し、流延室内に配された流延ダイを用いて、ドープを流し、帯状の流延膜を支持体上に形成する。膜加熱工程では、流延膜の加熱により、流延膜が剥ぎ取り可能となるまで支持体上の流延膜から溶剤を蒸発させる。剥取工程では、剥ぎ取り可能となった流延膜を支持体から剥がして湿潤フィルムとする。そして、フィルム乾燥工程では、湿潤フィルムから溶剤を蒸発させてフィルムとする。
【0005】
湿潤フィルムを効率よく形成するため、フィルム形成工程では、流延工程と膜加熱工程と剥取工程とを連続に行い、更にこの一連の工程を繰り返す。このため、溶液製膜方法用の支持体としては、エンドレスバンドが用いられる。エンドレスバンドは、1枚のステンレス製シート(厚さ:0.5mm〜2.5mm)の両端を連結することにより得られる。また、エンドレスバンドは、前述の膜乾燥工程において、流延膜が剥ぎ取り可能となるまでに要する時間が確保できる程度の長さが必要となる。このため、エンドレスバンドの形成部材であるステンレス製シートは、長尺(例えば、幅が約2mであり、長さが20m以上)のものが用いられる。
【0006】
図15に示すように、流延工程において、流出したドープは流延ダイ201の流出口からエンドレスバンド202にかけてビード203を形成する。ところが、ビード203が振動してしまうと、厚みムラが流延膜204に生じてしまう。この厚みムラは、流延膜204の幅方向にのび、長手方向に所定の間隔で並ぶように形成される。そして、このような厚みムラを有する流延膜204に対し、剥取工程及び乾燥工程を行っても、最終的に得られるフィルムには厚みムラが残ってしまう。こうした経緯から、フィルムの厚みムラを抑えるために、ビード203の振動を抑制する策が講じられている。特許文献1には、ビード203の振動の防止策として、減圧チャンバ205を用いてビードの支持体の移動方向上流側を減圧する方法が開示されている。
【0007】
減圧チャンバ205は、流延ダイ201よりもエンドレスバンド202の移動方向上流側に設けられる。減圧チャンバ205は、図15及び図16に示すように、チャンバ本体205aと外サイドシール205bと外幅シール205cとからなる。チャンバ本体205aは、ビード203の移動方向上流側を囲むように設けられる。外サイドシール205b及び外幅シール205cはチャンバ本体205aに取り付けられる。チャンバ本体205aをエンドレスバンド202の流延面202aに近接して配することにより、チャンバ本体205aのシーリング効果が生まれる。また、外サイドシール205bのエンドレスバンド202側の先端にラビリンス溝205x(図17参照)を設けて、チャンバ本体205aのシーリング効果を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−246721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、液晶表示装置の大型化に伴い、光学フィルムの大型化が求められている。しかしながら、従来に比べて大型の光学フィルムをつくるためには、流延ダイやエンドレスバンドを幅方向に大きくする(以下、幅広化と称する)必要がある。1枚のステンレス製シートを用いて幅広のエンドレスバンドをつくるためには、ステンレス製シートの幅広化が必要となる。しかしながら、長尺であり、厚みが均一であることが求められるステンレス製シートの幅広化は、現実的に難しい。そこで、現状のエンドレスバンドにおいて、流延するエリアをエンドレスバンドの幅一杯に設定する必要が生じている。
【0010】
ところで、流延工程と膜加熱工程と剥取工程とを順次繰り返す場合、剥取工程から次の流延工程までの間、先に行った膜乾燥工程において加熱されたエンドレスバンドを、流延工程に適した温度範囲となるまで冷却する必要がある。ところが、1つのエンドレスバンドにおいて、加熱により膨張した部分と冷却により収縮した部分とが存在する。このような状態のエンドレスバンドが、水平ロールの駆動により循環移動すると蛇行が生じやすくなる。
【0011】
そして、図18に示すように、水平ロール206に掛け渡されたエンドレスバンド202の蛇行により、エンドレスバンド202の端202eが外サイドシール205bよりも幅方向内側に位置することとなると、外サイドシール205bによるシーリング効果が小さくなるため、チャンバ本体205a内における空気の圧力変動を生ずることとなる。チャンバ本体205a内における空気の圧力変動は、ビード203の振動を誘発する。このため、エンドレスバンド202の端202eが外サイドシール205bよりも幅方向内側に位置することとなれば、フィルムの厚みムラが問題となる。このようなエンドレスバンドの蛇行を考慮すると、現状のエンドレスバンドの幅一杯にドープを流延するエリアを設定することは困難となる。
【0012】
本発明はこのような課題を解決するものであり、減圧チャンバ、流延膜の形成方法及び溶液製膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、水平ロールに掛け渡された状態で移動するエンドレスバンドのうち前記水平ロールにより支持された部分へ向けて流延ダイを用いてドープを流出し、前記ドープからなる帯状の前記流延膜を前記エンドレスバンド上に形成する際、前記流出したドープによって前記流延ダイから前記エンドレスバンドにかけて形成されるビードよりも前記エンドレスバンドの移動方向上流側を減圧する減圧チャンバにおいて、前記ビードよりも前記移動方向上流側にて前記エンドレスバンドの幅方向に延設される上流側遮風板及び前記上流側遮風板から前記ビードの両外側にかけて設けられる1対の側方遮風板を備え、前記ビードの前記エンドレスバンドの移動方向上流側を囲むチャンバ本体と、前記エンドレスバンドの幅方向両外側に露出した前記水平ロールの周面に近接するように前記側方遮風板から突出する外シール部材とを有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、水平ロールに掛け渡された状態で移動するエンドレスバンドのうち前記水平ロールに支持された部分へ向けて流延ダイを用いてドープを流出し、前記ドープからなる帯状の前記流延膜を前記エンドレスバンドの表面上に形成する際、前記流出したドープによって前記流延ダイから前記エンドレスバンドにかけて形成されるビードよりも前記エンドレスバンドの移動方向上流側を減圧する減圧チャンバにおいて、前記ビードよりも前記移動方向上流側にて前記エンドレスバンドの幅方向に延設される上流側遮風板及び前記上流側遮風板から前記ビードの両外側にかけて設けられる1対の側方遮風板を備え、前記ビードの前記エンドレスバンドの移動方向上流側を囲むチャンバ本体と、前記側方遮風板から突出して前記エンドレスバンドの表面に近接するように設けられる外シール部材とを有し、前記外シール部材の突端には、前記エンドレスバンドの表面に向かって突設し前記エンドレスバンドの幅方向端側から順次並べられた第1〜2凸条部と前記凸条の間に形成された溝部とからなるラビリンス溝を備え、蛇行状態の前記エンドレスバンドの端よりも前記第1凸条部の先端が前記幅方向内側に位置するように、前記外シール部材が配されたことを特徴とすることを特徴とする。
【0015】
前記エンドレスバンドは前記水平ロールに巻き掛けられたことが好ましい。また、前記エンドレスバンドは、前記流延膜が前記エンドレスバンド上に形成される流延エリアと、前記エンドレスバンド上の流延膜を加熱する加熱エリアと、前記流延膜が剥離された後の前記エンドレスバンドを冷却する冷却エリアとを順次循環移動することが好ましい。
【0016】
本発明の流延膜の形成方法は、上記の減圧チャンバを用いて、前記流延膜を形成することを特徴とする。
【0017】
本発明の溶液製膜方法は、上記の流延膜の形成方法の後に、前記流延膜を前記エンドレスバンドから剥ぎ取って湿潤フィルムとする剥取工程と、前記湿潤フィルムから溶剤を蒸発させる乾燥工程とを順次行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、チャンバ本体からエンドレスバンド側に突出する外シール部材を、蛇行状態のエンドレスバンドの端よりも幅方向内側となるような位置に設けたため、エンドレスバンドが蛇行しても、チャンバ本体のシーリング効果は変動しない。このように、本発明によれば、エンドレスバンドの幅一杯にドープを流延するエリアを設定しても、エンドレスバンドの蛇行に起因するフィルムの厚みムラの発生を防止することができる。したがって、本発明によれば、幅広のフィルムを効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【図2】ケーシングの概要を示す部分断面図である。
【図3】水平ロールに巻き掛けられたエンドレスバンドの概要を示す斜視図である。
【図4】第1の流延室の概要を示すケーシングの部分断面図である。
【図5】第1の流延室の概要を示す斜視図である。
【図6】第1の減圧チャンバの概要を示す斜視図である。
【図7】天面側からみたときの減圧チャンバの概要を示す斜視図である。
【図8】チャンバ本体に設けられた外サイドシール及び外幅シールの概要を示す斜視図である。
【図9】チャンバ本体に設けられた外サイドシールの概要を示すIX−IX線断面図である。
【図10】チャンバ本体に設けられた外サイドシールの概要を示すX−X線断面図である。
【図11】第2の減圧チャンバの概要を示す斜視図である。
【図12】第3の減圧チャンバの概要を示す斜視図である。
【図13】第4の減圧チャンバの概要を示す斜視図である。
【図14】エンドレスバンドの端が、外サイドシールよりも幅方向内側に位置したときの概要を示す断面図である。
【図15】流延工程にて用いられる流延ダイ及び従来の減圧チャンバの概要を示す側面図である。
【図16】従来の減圧チャンバの概要を示す平面図である。
【図17】従来の減圧チャンバに設けられた外サイドシールの概要を示す説明図である。
【図18】従来の減圧チャンバに設けられた外サイドシールの概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(溶液製膜設備)
図1に示すように、溶液製膜設備10は、ドープ12から湿潤フィルム13をつくる流延装置15と、湿潤フィルム13の乾燥によりフィルム16を得るクリップテンタ17と、湿潤フィルム13の乾燥を行う乾燥装置18と、フィルム16を巻き芯に巻き取る巻取装置19とを有する。
【0021】
(流延装置)
図1及び図2に示すように、流延装置15は、ケーシング23と、ケーシング23内にて略水平に並べられた水平ロール24、25とを有する。水平ロール24は、駆動軸24aと、駆動軸24aに軸着されたロール本体24bとからなる。水平ロール25は、駆動軸25aと、駆動軸25aに軸着されたロール本体25bとからなる。水平ロール24、25には環状のエンドレスバンド26が巻きかけられる。エンドレスバンド26は、帯状のシート材の両端を連結することにより得られる。
【0022】
駆動軸24aは、ロール駆動用モータ27と接続する。制御部28は、ロール駆動用モータ27を制御して、水平ロール24を所定の速度で回転させる。エンドレスバンド26は、水平ロール24の回転に伴い所定の方向へ循環移動し、水平ロール25は、エンドレスバンド26の移動に従って回転する。以下、エンドレスバンド26の移動方向をX方向と称する。
【0023】
エンドレスバンド26の表面(以下、流延面と称する)26aの移動速度Vは以上200m/分以下であることが好ましい。移動速度Vが200m/分を超えると、ビードを安定して形成することが困難となる。移動速度Vの下限値は、目標とするフィルムの生産性を考慮すればよい。移動速度Vの下限値は、例えば、10m/分以上である。
【0024】
図3に示すように、エンドレスバンド26の幅方向(以下、Y方向と称する)において、ローラ本体24bはエンドレスバンド26よりも長い。エンドレスバンド26は、Y方向におけるローラ中央部24bcに巻きかけられ、Y方向における両ロール端部24beは露出する。
【0025】
エンドレスバンド26は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するSUS316製であることがより好ましい。エンドレスバンド26の幅は、例えば、1800mm以上2400mm以下であることが好ましい。エンドレスバンド26の長さは、例えば、20m以上200m以下であることが好ましく、エンドレスバンド26の厚みは、例えば、0.5mm以上〜2.5mm以下であることが好ましい。なお、エンドレスバンド26の厚みムラは、全体の厚みに対して0.5%以下のものを用いることが好ましい。流延面26aは、研磨されていることが好ましく、流延面26aの表面粗さは0.05μm以下であることが好ましい。
【0026】
(シール部材)
図2及び図4に示すように、ケーシング23内には、X方向上流側から下流側に向かって、第1〜第3シール部材31〜33が順次配される。第1〜第3シール部材31〜33により、ケーシング23内は、X方向上流側から下流側に向かって、流延室23a、乾燥室23b、及び剥取室23cに仕切られる。
【0027】
第1シール部材31は、ケーシング23内に取り付けられた遮風板31aと、遮風板31aに取り付けられたラビリンスシール31bとからなる。遮風板31aは、流延面26aに対し起立した姿勢で配され、ケーシング23内の気体の流れを遮る遮風面を有する。遮風面は、X方向と直交するものでもよいし、X方向と交差するものでもよい。遮風板31aは、ケーシング23にて、X方向における一方の内壁面から突出し、エンドレスバンド26の流延面26aに向かって延設される。また、遮風板31aは、ケーシング23にて、Y方向における一方の内壁面からY方向における他方の内壁面まで延びる。なお、天井から突出するように遮風板31aを設けても良い。ラビリンスシール31bは、流延面26aと近接するように、遮風板31aの先端に設けられる。ラビリンスシール31bは、エンドレスバンド26のうち水平ロール24に巻き掛けられた部分の流延面26aと近接するように設けられることが好ましい。
【0028】
第2シール部材32は、ケーシング23内に取り付けられた遮風板32aと、遮風板32aに取り付けられたラビリンスシール32bとからなる。遮風板32aは、ケーシング23内の天井から突出し、エンドレスバンド26の流延面26aに向かって延設される。また、遮風板32aは、ケーシング23にて、Y方向における一方の内壁面からY方向における他方の内壁面まで延びる。ラビリンスシール32bは、ラビリンスシール31bと同様の形状であり、流延面26aと近接するように遮風板32aの先端に設けられる。ラビリンスシール32bは、エンドレスバンド26のうち水平ロール24に巻き掛けられた部分の流延面26aと近接するように設けられることが好ましい。
【0029】
同様に、第3シール部材33は、ケーシング23内に取り付けられた遮風板33aと、遮風板33aに取り付けられたラビリンスシール33bとからなる。遮風板33aは、ケーシング23内の内壁面から突出し、エンドレスバンド26の流延面26aに向かって延設される。ラビリンスシール33bは、ラビリンスシール31bと同様の形状であり、流延面26aと近接するように遮風板33aの先端に設けられる。
【0030】
図4及び図5に示すように、ラビリンスシール31bは、遮風板31aの先端に取り付けられたラビリンス本体31gと、ラビリンス本体31gに取り付けられたシール板31hとからなる。シール板31hは、エンドレスバンド26の流延面26aに対し起立した姿勢で設けられる。複数のシール板31hを設ける場合には、互いに離隔するようにX方向へ並べることが好ましい。シール板35hとエンドレスバンド26の間隔CL1は、例えば、0.5mm以上3.0mm以下である。
【0031】
ラビリンスシール32bは、ラビリンスシール31bと同様に、ラビリンス本体32gとシール板32hとからなり、ラビリンスシール33bはラビリンス本体33gとシール板33hとからなる。ラビリンス本体32g、33gは、ラビリンス本体31gと同様の構造であり、シール板32h、33hは、シール板31hと同様の構造である。
【0032】
流延室23aにて、エンドレスバンド26のY方向両側に、サイドラビリンス36が設けられる。サイドラビリンス36は、流延室23aの内壁面とエンドレスバンド26との間における空気の移動を防ぐためものであり、流延室23aの内壁面から突出し、エンドレスバンド26に向かって延設される。
【0033】
流延室23aの気密性は、第1〜第2シール部材31〜32及びサイドラビリンス36により維持される。同様に、乾燥室23bの気密性は、第2〜第3シール部材32〜33により維持される。
【0034】
流延室23a内にて、エンドレスバンド26の上方には流延ダイ40が設けられる。流延ダイ40は、ドープ12を流出するドープ流出口40aを有し、ドープ流出口40aがエンドレスバンド26と近接するように配される。流延ダイ40は、ドープ流出口40aからエンドレスバンド26に向けてドープ12を流出する。ドープ流出口40aから流出し流延面26aに到達するまでのドープ12は、ビード42を形成する。流延面26aに到達したドープ12は、流延面26a上でX方向に延ばされる結果、帯状の流延膜43を形成する。
【0035】
(乾燥室)
図2に示すように、乾燥室23bには、流延膜43に所定の乾燥風を供給する第1乾燥装置53a〜第4乾燥装置53dが、エンドレスバンド26の移動方向上流側から下流側に向かって、順次設けられる。第1〜4乾燥装置53a〜53dは、流延膜43に対し所定の乾燥風を供給し、流延膜43から溶剤を蒸発させる。流延膜43における溶剤の蒸発により、流延膜43は、剥ぎ取り可能な状態となる。
【0036】
(剥取室)
剥取室23cには、剥取ローラ56が設けられる。剥取ローラ56は、剥ぎ取り可能な状態となった流延膜43をエンドレスバンド26から剥ぎ取って湿潤フィルム13とし、剥取室23cに設けられた出口23oから湿潤フィルム13を送り出す。
【0037】
ケーシング23内の雰囲気に含まれる溶剤を凝縮する凝縮装置、凝縮した溶剤を回収する回収装置を、流延装置15に設けてもよい。これにより、ケーシング23内の雰囲気に含まれる溶剤の濃度を一定の範囲に保つことができる。
【0038】
また、エンドレスバンド26の流延面26aの温度を所定の値にするために、水平ロール24、25に温調装置(図示しない)が取り付けられていることが好ましい。温調装置は、制御部の制御の下、所望の温度に調節された伝熱媒体を、ロール本体24b、25b内に設けられる流路中を循環させる。この伝熱媒体の循環により、ロール本体24b、25bの温度を所望の温度に保つことができる。
【0039】
流延膜43における溶剤の蒸発を促進させるため、温調装置は、周面温度が所定の範囲となるようにロール本体25bを加熱する。こうして、乾燥室23b内では、各乾燥装置53a〜53dからの乾燥風やロール本体25bとの接触により、エンドレスバンド26の温度が上昇する。しかしながら、温度が過度に上昇した状態のエンドレスバンド26に新たなドープ12を流延すると発泡が生じてしまう。そこで、温調装置は、周面温度が所定の範囲となるようにロール本体24bを冷却する。
【0040】
ロール本体25aの周面温度は、3℃以上30℃以下の範囲にすることが好ましく、5℃以上25℃以下の範囲にすることがより好ましく、8℃以上20℃以下の範囲にすることがさらに好ましい。ロール本体25bの周面温度は、20℃以上50℃以下の範囲にすることが好ましく、25℃以上45℃以下の範囲にすることがより好ましく、30℃以上40℃以下の範囲にすることがさらに好ましい。
【0041】
(減圧ユニット)
流延装置15には、減圧ユニット45が取り付けられる。図4に示すように、減圧ユニット45は、減圧チャンバ47と、減圧チャンバ47内の気体を吸引するための減圧ファン48と、減圧ファン48及び減圧チャンバ47とを接続する吸引管49とを有する。
【0042】
(減圧チャンバ)
図4に示すように、減圧チャンバ47は、X方向において流延ダイ40よりも上流側に、流延面26aの法線方向(以下、Z方向と称する)において、流延面26aに近接するように配される。図6に示すように、減圧チャンバ47は、箱状のチャンバ本体50と、シール部材と、整流部材とからなる。
【0043】
(チャンバ本体)
図6及び図7に示すように、チャンバ本体50は、ビード42のX方向上流側を囲うためのものであり、上流側遮風板53と、1対の側方遮風板54と、天板55と、前面板56a〜56cとからなる。上流側遮風板53は、ドープ流出口40aよりもX方向上流側にて、流延面26aに対して起立した姿勢で、Z方向において流延面26aと近接するように設けられる。上流側遮風板53は、Y方向において一方のロール端部24beから他方のロール端部24beにかけて延設され、Y方向における上流側遮風板53の両端部53eは、それぞれ、ロール端部24beと正対する。1対の側方遮風板54は、それぞれ、ロール端部24beの周面に対して起立した姿勢で、上流側遮風板53の両端部53eからビード42のY方向両外側に向かって延設される。1対の側方遮風板54には、天板55と、前面板56a〜56cとが掛け渡される。
【0044】
こうして、上流側遮風板53と、1対の側方遮風板54と、天板55と、前面板56a〜56cとによって囲まれる減圧ゾーンがチャンバ本体50内に形成される。減圧ファン48により、チャンバ本体50内の気体が吸引されると、減圧ゾーンの気圧が下がる。こうして、ビード42の上流側及び下流側の圧力差ΔPを生じさせる。
【0045】
(シール部材)
シール部材は、チャンバ本体50に設けられた外シール部材と減圧ゾーンに配された内シール部材とからなる。
【0046】
外シール部材は、チャンバ本体50内のシーリング性を高めるためのものであり、外幅シール64と外サイドシール65とからなる。図6及び図8に示すように、外サイドシール65は側方遮風板54に取り付けられる。外サイドシール65は、側方遮風板54のX方向全域にわたって、ロール端部24beの周面に近接するように側方遮風板54から突出する。外幅シール64は上流側遮風板53に取り付けられる。外幅シール64は、Y方向全域にかけて、流延面26aに近接するように上流側遮風板53から突出する。
【0047】
図9及び図10に示すように、外サイドシール65は、2つの凸板68と凹板69とからなる。凸板68は、ロール端部24beの周面に対し起立する姿勢でX方向に延設される。凹板69は、複数の凸板68の間に設けられ、ロール端部24beの周面に対し起立する姿勢でX方向に延設される。凸板68のロール端部24be側の先端部分68tは、凹板69のロール端部24be側の先端部分69tよりも、ロール端部24be側へ突出する。こうして、複数の凸板68の間には、X方向に延びるシール溝65aが形成される。外幅シール64も、外サイドシール65と同様の構造であり、Y方向に延びるシール溝を有する。
【0048】
外サイドシール65の端部、すなわち凸板68の先端部分68tは、外幅シール64の端部64tよりもロール端部24be側へ突出することが好ましい。また、凸板68の先端部分68tとロール端部24beの周面との距離CLxは、エンドレスバンド26の厚みよりも小さいほうが好ましい。更に、距離CLxは、外幅シール64と流延面26aとの距離CLyと等しいことが好ましい。例えば、距離CLxは0.1mm以上3.0mm以下であり、距離CLyは0.1mm以上3.0mm以下であることが好ましい。
【0049】
図6及び図7に示すように、内シール部材は、減圧ファン48(図4参照)による吸気により、ビード42のY方向両側42eのX方向上流側へ気体が流れることを防ぎ、ビード42のX方向上流側及び下流側の圧力差ΔPの変動を抑えるためのものである。内シール部材は、内サイドシール71を有する。
【0050】
1対の内サイドシール71はチャンバ本体50に取り付けられる。1対の内サイドシール71は、Y方向におけるビード42の両端42eのX方向上流側にて、流延面26aに対し起立した姿勢でX方向に配される。内サイドシール71のX方向上流端71eは、ビード42のY方向両端42eと近接する。内サイドシール71により、ビード42のX方向上流側への気体の流入を防ぐことができる。
【0051】
(整流部材)
チャンバ本体50内に配される整流部材は、図6及び図7に示すように、整流フィン75と、内幅シール板76とからなる。内幅シール板76は、1対の内サイドシール71の間において1対の内サイドシール71と離れてY方向に配され、流延面26aに起立した姿勢で、チャンバ本体50に取り付けられる。内幅シール板76により、エンドレスバンド26の移動により発生し、流延面26aの近傍にてX方向に流れる風を遮り、ビード42の振動を抑えることができる。整流フィン75は内幅シール板76のY方向両端部に設けられる。整流フィン75は内幅シール板76からX方向下流側に向かい、ビード42bに近接するように延設される。整流フィン75を複数設ける場合には、Y方向に離隔して並べることが好ましい。
【0052】
図1に示すように、流延装置15とクリップテンタ17との間の渡り部81には、湿潤フィルム35を支持する支持ローラ82が複数並べられている。支持ローラ82は、図示しないモータにより、軸を中心に回転する。支持ローラ82は、流延装置15から送り出された湿潤フィルム35を支持して、クリップテンタ17へ案内する。なお、図1では、渡り部81に2つの支持ローラ82を並べた場合を示しているが、本発明はこれに限られず、渡り部81に1つ、または3つ以上の支持ローラ82を並べてもよい。また、支持ローラ82は、フリーローラでもよい。
【0053】
クリップテンタ17は、湿潤フィルム13の幅方向両側縁部を把持する多数のクリップを有し、このクリップが延伸軌道上を移動する。クリップテンタ17では、クリップにより移動する湿潤フィルム13に対し乾燥風が送られ、湿潤フィルム13には、幅方向への延伸処理とともに乾燥処理が施される。
【0054】
クリップテンタ17と乾燥装置18との間には耳切装置84が設けられている。耳切装置84に送り出されたフィルム16の幅方向の両端は、クリップによって形成された把持跡が形成されている。耳切装置84は、この把持跡を有する両端部分を切り離す。この切り離された部分は、送風によりカットブロワ(図示しない)及びクラッシャ(図示しない)へ順次に送られて、細かく切断され、ドープ等の原料として再利用される。
【0055】
乾燥装置18は、フィルム16の搬送路を備えるケーシングと、フィルム16の搬送路を形成する複数のローラ18aと、ケーシング内の雰囲気の温度や湿度を調節する空調機(図示しない)とからなる。ケーシング内に導入されたフィルム16は、複数のローラ18aに巻き掛けられながら搬送される。この雰囲気の温度や湿度の調節により、ケーシング内を搬送されるフィルム16から残留した溶剤が蒸発する。更に、乾燥装置18に、フィルム16から蒸発した溶剤を吸着により回収する吸着回収装置が接続される。
【0056】
乾燥装置18及び巻取装置19の間には、上流側から順に、冷却室85a、除電バー(図示しない)、ナーリング付与ローラ85b、及び耳切装置(図示しない)が設けられる。冷却室85aは、フィルム16の温度が略室温となるまで、フィルム16を冷却する。除電バーは、冷却室16から送り出され、帯電したフィルム16から電気を除く除電処理を行う。ナーリング付与ローラ85bは、フィルム16の幅方向両端に巻き取り用のナーリングを付与する。耳切装置は、切断後のフィルム16の幅方向両端にナーリングが残るように、フィルム16の幅方向両端を切断する。
【0057】
巻取装置19は、プレスローラ19aと巻き芯19bを有する。巻取装置19に送られたフィルム16は、プレスローラ19aによって押し付けられながら巻き芯19bに巻き取られ、ロール状となる。
【0058】
次に、本発明の作用を説明する。図2に示すように、第1〜第3シール部材31〜33により、ケーシング23内には、気密性を有する各23a〜23bが形成される。エンドレスバンド26は、各23a〜23cを循環移動する。
【0059】
流延室23aでは、流延ダイ40が、ドープ流出口40aからドープ12を連続的に流出する。流出したドープ12は、流延ダイ40からエンドレスバンド26にかけてビード42(図3参照)を形成し、エンドレスバンド26上では流延膜43を形成する。図示しない制御部の制御の下、減圧ファン48の回転により、減圧チャンバ47内の気体が吸引管49を通って吸引される。この結果、減圧ユニット45は、ビード42の上流側の気体を吸引する。この減圧ユニット45によれば、ビード42の上流側の圧力がビード42の下流側の圧力よりも低い状態をつくることができる。ビード42の上流側及び下流側の圧力差ΔPは、10Pa以上2000Pa以下であることが好ましい。
【0060】
乾燥室23bでは、剥ぎ取り可能となるまで流延膜43から溶剤を蒸発させる。流延膜43から溶剤を蒸発するために、乾燥風(30℃〜80℃)を流延膜43にあてる。また、水平ロール25や乾燥風を介して、エンドレスバンド26を加熱することで、流延膜43における溶剤の蒸発を促進させる。
【0061】
剥取室23cでは、剥取ローラ56が剥ぎ取り可能となった流延膜43をエンドレスバンド26から剥ぎ取って湿潤フィルム13とする。クリップテンタ17では、湿潤フィルム13に延伸処理及び乾燥処理を施してフィルム16を得る。水平ロール24は、次の流延工程のために、エンドレスバンド26を冷却する。
【0062】
各室23a〜23cを順次繰り返し通過するエンドレスバンド26には、加熱により膨張した部分と冷却により収縮する部分とが存在する。このような状態のエンドレスバンド26を循環移動させると蛇行が生じやすくなる。本発明では、Y方向の長さがエンドレスバンド26よりも長いロール本体24bを用いて、エンドレスバンド26を中央部24bcに巻きかけ(図3参照)、露出したロール本体24bのロール端部24beに近接するように外サイドシール65を設けた(図7参照)。このため、エンドレスバンド26の蛇行が生じても、外サイドシール65とロール端部24beとの間隔は一定値で維持され、外サイドシール65によるシーリング効果の変動は起こらない。すなわち、本発明は、エンドレスバンド26の蛇行に起因するチャンバ本体50内における空気の圧力変動を防ぐことができる。
【0063】
更に、本発明の減圧チャンバは、外サイドシール65によるシーリング効果をロール端部24beの周面を用いて奏させるものである。このため、本発明によれば、外サイドシール65によるシーリング効果をエンドレスバンド26の流延面26aを用いて奏させていた従来に比べ、エンドレスバンド26のY方向一杯に流延膜43を形成することができる。
【0064】
したがって、本発明によれば、1つのエンドレスバンドを用いて、幅が広く、厚みが均一のフィルム16を製造することができる。
【0065】
なお、Y方向におけるエンドレスバンド26と外サイドシール65との間隔CLwは、エンドレスバンド26の蛇行幅よりも小さいほうが好ましい(図9参照)。エンドレスバンド26の蛇行幅を、後述する間隔CLs−dとしてもよい。
【0066】
なお、内サイドシール71や整流フィン75をY方向に移動自在に設けても良い。図11に示すように、内幅シール76は、固定板76aと可動板76bとを有する。固定板76aは、チャンバ本体50に取り付けられる。可動板76bは、固定板76aのY方向両端に設けられ、Y方向に移動自在に固定板76aに取り付けられる。可動板76bには、整流フィン75がX方向に設けられる。また、内サイドシール71は、チャンバ本体50にてY方向に移動自在に取り付けられる。内サイドシール71や整流フィン75は、図示しない制御部により接続する。制御部の制御の下、内サイドシール71や整流フィン75についてY方向の位置調節をすることができる。これにより、ビード42(図4参照)のY方向の長さが変更となったとき、変更後のY方向の長さに応じて、内サイドシール71や整流フィン75の位置調節をすることが容易となる。
【0067】
また、図12に示すように、内幅シール76において、一の端に設けられた整流フィン75と、他の端に設けられた整流フィン75との間に、遮風ブロック90を設けても良い。遮風ブロック90は、流延面26aに対し起立した遮風面を有する。遮風ブロック90を設けることにより、エンドレスバンド26の移動により発生し、流延面26aの近傍にてX方向に流れる風を遮り、ビード42の振動を抑えることができる。
【0068】
図13に示すように、外サイドシール65をエンドレスバンド26と正対するように設けてもよい。ここで、蛇行が生じていないエンドレスバンド26の端26eの位置を基準位置Psと、蛇行が生じたときのエンドレスバンド26の端26eの位置を位置Pdと、基準位置Psから位置Pdまでの間隔CLs−dとするときに、基準位置PsからY方向内側に間隔CLs−d以上離れた位置にシール溝65が配されるように、外サイドシール65を設ければよい。これにより、エンドレスバンド26が蛇行しても、エンドレスバンド26と外サイドシール65との正対状態は維持される。
【0069】
上記実施形態では、外サイドシール65に一条のシール溝65aを設けたが、本発明はこれに限られず、複数条のシール溝65aを設けてもよい。外サイドシール65に設けられたシール溝65aの数が増えるに従って、得られるシーリング効果が増大する点で好ましい。ただし、複数のシール溝65aを有する外サイドシール65を設けたときであっても、基準位置PsからY方向内側に間隔CLs−d以上離れた位置に外サイドシール65を設けることが好ましい。エンドレスバンド26の蛇行により、外サイドシール65のシール溝65aの一部がエンドレスバンド26の端26eと重なる(図14参照)と、当該シール溝65aによるシーリング効果が常に得られない結果、外サイドシール65全体としてのシーリング効果が変動してしまうためである。そこで、基準位置PsからY方向内側に間隔CLs−d以上離れた位置に、Y方向において最も外側のシール溝65aを設けることが好ましい。図14の場合、外サイドシール65のY方向の寸法を小さくする、外サイドシール65の設置位置をY方向内側へ寄せる、または最も外側のシール溝65aを省く、のいずれでもよい。
【0070】
上記実施形態では、図2に示すように、流延ダイ40の設置位置を、水平ロール24の上方としたが、本発明はこれに限られない。ラビリンスシール31b、32bをエンドレスバンド26のうち水平ロール25に巻き掛けられた部分の流延面26aと近接するように設けたときには、流延ダイ40の設置位置を水平ロール24の上方としてもよい。また、エンドレスバンド26を支持するサポートロールを水平ロール24、25の間に設け、ラビリンスシール31b、32bをエンドレスバンド26のうちサポートロールに支持された部分の流延面26aと近接するように設けたときには、流延ダイ40の設置位置をサポートロールの上方としても良い。
【0071】
上記実施形態では、ドープ12からなる流延膜43を剥ぎ取り可能な状態にするために、流延膜43から溶剤を蒸発させたが、本発明はこれに限られず、流延膜43を冷却させてもよい。
【0072】
本発明は、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時に共流延させて積層させる同時積層共流延、または、複数のドープを逐次に共流延して積層させる逐次積層共流延を行うことができる。なお、両共流延を組み合わせてもよい。同時積層共流延を行う場合には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いてもよいし、マルチポケット型の流延ダイを用いてもよい。
【0073】
上記実施形態では、溶液製膜方法における流延工程に用いたが、本発明はこれに限られず、塗布液を支持体に塗布して、支持体上に塗布膜を形成する塗布工程にも適用可能である。
【0074】
(ポリマー)
ポリマーとしては、セルロースアシレートや環状ポリオレフィン等を用いることができる。
【0075】
(セルロースアシレート)
セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、すなわち、アシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBは、アシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.0≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0076】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1である)を意味する。
【0077】
全アシル化置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)である。
【0078】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位及び6位の水酸基による置換度の総和をDSAとし、2位,3位及び6位の水酸基のアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DSBは0.30以上であり、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBはその20%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは25%以上が6位水酸基の置換基であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位の置換度が0.75以上であり、さらには0.80以上であり特には0.85以上であるセルロースアシレートも挙げることができる。これらのセルロースアシレートにより溶解性の好ましい溶液(ドープ)が作製できる。特に非塩素系有機溶剤において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低く、濾過性の良い溶液の作製が可能となる。
【0079】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでも良い。
【0080】
本発明のセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル、ブタノイルである。
【0081】
(溶剤)
ドープを調製する溶剤としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマーを溶剤に溶解または分散して得られるポリマー溶液,分散液を意味している。
【0082】
これらの中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度など及びフィルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶剤全体に対し2質量%〜25質量%が好ましく、5質量%〜20質量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0083】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶剤組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく用いられる。これらを適宜混合して用いることがある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶剤が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶剤として用いることができる。
【0084】
(添加剤)
ドープに所定の添加剤を添加してもよい。本発明で用いられる添加剤としては、可塑剤、紫外線吸収剤などがある。可塑剤として重縮合エステルを用いることが好ましい。
【0085】
フィルム16の厚みは、20μm以上120μm以下であることが好ましく、40μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0086】
フィルム16の幅は、700mm以上3000以下mmであることが好ましく、1000mm以上2800mm以下であることがより好ましく、1500mm以上2500mm以下であることが特に好ましい。なお、フィルム16の幅は、3000mm以上であってもよい。
【0087】
(ヘイズ)
フィルム16のヘイズは、0.20%未満であることが好ましく、0.15%未満であることがより好ましく、0.10%未満であることが特に好ましい。ヘイズを0.2%未満とすることにより、液晶表示装置に組み込んだ際のコントラスト比を改善することができる。また、フィルムの透明性がより高くなり、光学フィルムとしてより用いやすくなるという利点もある。
【0088】
(Re、Rth)
フィルム16の面内方向のレターデーションは、25nm≦|Re(590)|≦100nmであり、かつ、50nm≦|Rth(590)|≦250nmであることが好ましい。そして、30nm≦|Re(590)|≦80nmであることがより好ましく、35nm≦|Re(590)|≦70nmであることが特に好ましい。また、70nm≦|Rth(590)|≦240nmであることがより好ましく、90nm≦|Rth(590)|≦230nmであることが特に好ましい。
【0089】
本明細書におけるRe(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。本願明細書においては、特に記載がないときは、波長λは、590nmとする。Re(λ)はKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHが算出する。尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(A−1)、式(A−2)及び式(B)より、Re及びRthを算出することもできる。ここで平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0090】
【数1】

【0091】
ここで、上記のRe(γ)は法線方向から角度γ傾斜した方向におけるレターデーション値を表し、nx、ny、nzは、屈折率楕円体の各主軸方位の屈折率を表し、dはフィルム厚を表す。
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d 式(B)
【符号の説明】
【0092】
10 溶液製膜設備
15 流延装置
23 ケーシング
23a 流延室
24 水平ロール
24b ローラ本体
24be ロール端部
26 エンドレスバンド
26a 流延面
31〜33 第1〜3シール部材
40 流延ダイ
47 減圧チャンバ
64 外幅シール
65 外サイドシール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平ロールに掛け渡された状態で移動するエンドレスバンドのうち前記水平ロールにより支持された部分へ向けて流延ダイを用いてドープを流出し、前記ドープからなる帯状の前記流延膜を前記エンドレスバンド上に形成する際、前記流出したドープによって前記流延ダイから前記エンドレスバンドにかけて形成されるビードよりも前記エンドレスバンドの移動方向上流側を減圧する減圧チャンバにおいて、
前記ビードよりも前記移動方向上流側にて前記エンドレスバンドの幅方向に延設される上流側遮風板及び前記上流側遮風板から前記ビードの両外側にかけて設けられる1対の側方遮風板を備え、前記ビードの前記エンドレスバンドの移動方向上流側を囲むチャンバ本体と、
前記エンドレスバンドの幅方向両外側に露出した前記水平ロールの周面に近接するように前記側方遮風板から突出する外シール部材とを有することを特徴とする減圧チャンバ。
【請求項2】
水平ロールに掛け渡された状態で移動するエンドレスバンドのうち前記水平ロールに支持された部分へ向けて流延ダイを用いてドープを流出し、前記ドープからなる帯状の前記流延膜を前記エンドレスバンドの表面上に形成する際、前記流出したドープによって前記流延ダイから前記エンドレスバンドにかけて形成されるビードよりも前記エンドレスバンドの移動方向上流側を減圧する減圧チャンバにおいて、
前記ビードよりも前記移動方向上流側にて前記エンドレスバンドの幅方向に延設される上流側遮風板及び前記上流側遮風板から前記ビードの両外側にかけて設けられる1対の側方遮風板を備え、前記ビードの前記エンドレスバンドの移動方向上流側を囲むチャンバ本体と、
前記側方遮風板から突出して前記エンドレスバンドの表面に近接するように設けられる外シール部材とを有し、
前記外シール部材の突端には、前記エンドレスバンドの表面に向かって突設し前記エンドレスバンドの幅方向端側から順次並べられた第1〜2凸条部と前記凸条の間に形成された溝部とからなるラビリンス溝を備え、
蛇行状態の前記エンドレスバンドの端よりも前記第1凸条部の先端が前記幅方向内側に位置するように、前記外シール部材が配されたことを特徴とすることを特徴とする減圧チャンバ。
【請求項3】
前記エンドレスバンドは前記水平ロールに巻き掛けられたことを特徴とする請求項1または2記載の減圧チャンバ。
【請求項4】
前記エンドレスバンドは、前記流延膜が前記エンドレスバンド上に形成される流延エリアと、前記エンドレスバンド上の流延膜を加熱する加熱エリアと、前記流延膜が剥離された後の前記エンドレスバンドを冷却する冷却エリアとを順次循環移動することを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載の減圧チャンバ。
【請求項5】
請求項1ないし4のうちいずれか1項記載の減圧チャンバを用いて、前記流延膜を形成することを特徴とする流延膜の形成方法。
【請求項6】
請求項5記載の流延膜の形成方法の後に、
前記流延膜を前記エンドレスバンドから剥ぎ取って湿潤フィルムとする剥取工程と、
前記湿潤フィルムから溶剤を蒸発させる乾燥工程とを順次行うことを特徴とする溶液製膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−152979(P2012−152979A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13083(P2011−13083)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】