説明

減圧下におけるガス分析システム

【課題】 最小限の機器を用いてコストの増大を抑えつつ、製造プロセスの圧力条件いかんにかかわらず最適な測定環境圧力のもとで高感度・高精度な分析を実現でき、かつ、分析計自体の耐久性向上も図れるようにする。
【解決手段】 減圧下の製造プロセスを経たプロセスガスを吸引し排気する排気系統2に介在される真空ポンプ3を、ガス排気方向に直列配置して各圧縮室6隔壁9で区画してなる複数段のルーツポンプ3A〜3Eから構成し、これら複数段のルーツポンプ3A〜3Eにおける圧縮室6の排気口の何れか一つに選択的に接続可能とした赤外線ガス分析計4によりガス成分を測定するように構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造プロセスや液晶製造プロセスのように、環境の清浄化(クリーン化)のために大気圧よりも低い減圧領域で行われる製造プロセスを経てプロセスガスを真空ポンプにより排気する際、その排気ガスの成分を赤外線ガス分析計により測定するように構成されている減圧下におけるガス分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の減圧下におけるガス分析システムとして、従来は、図4に示すように、クリーンな製造プロセス環境を作るためのターボ分子ポンプ20がRFマッチングボックス21を介してプロセスチャンバー22に接続されており、製造プロセスを経たプロセスガスを前記ターボ分子ポンプ20の下流にバルブ26を介して接続されたドライポンプ(真空ポンプ)23により吸引し大気に放出するための排気系統24中に、フーリエ変換型赤外線ガス分析計(FTIR)あるいは非分散型赤外線ガス分析計(NDIR)等の赤外線ガス分析計25を設置することによって、ドライポンプ23の排気速度のみに依存する環境のもとでガス分析を行うように構成されていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記したような構成の従来の減圧下におけるガス分析システムでは、赤外線ガス分析計25の設置場所によってガスの測定環境圧力が一義的に決まり、任意の測定環境圧力に調整することができない。そのため、被測定ガスの分圧や測定環境圧力に性能及び耐久性が大きく依存する赤外線ガス分析計25の測定感度・精度及び耐久性の低下を招きやすい。殊に、製造プロセスにおける圧力条件(減圧の度合い)は、製造技術内容によって種々異なる独自のものであり、製造プロセス毎に異なる種々圧力条件を経た後のプロセスガスを常に赤外線ガス分析計25による最適測定環境圧力に調整するためには、ポンプ以外に特殊な圧力調整機器を設けたり、あるいは、耐圧性能や耐久性の異なる複数種類の赤外線ガス分析計を準備しておき、それら分析計の中から製造プロセスの圧力条件に応じたものを使用選択したりするといったように、非常にコストのかかる手段を採用しなければならない。しかし、製造プロセスのエンドポイントを測定するための機器等に製造プロセス用の機器類と同等なコストをかけることは実質的に不可能に近く、それゆえに、ガス分析のための測定感度・測定精度の低下及び測定機器の耐久性の低下は避けられないという問題があった。
【0004】
また、従来のシステムでは、ドライポンプ23とは別に排気系統24中に赤外線ガス分析計25を介在させていたので、その赤外線ガス分析計25が空間的に邪魔になり、ガス測定のために大きなスペースが費やされるという問題もあった。
【0005】
本発明は上述の実情に鑑みてなされたもので、その目的は、最小限の機器を用いてコストの増大を抑えつつ、いかなる圧力条件の製造プロセスであっても、最適な測定環境圧力を現出させて高感度・高精度な分析を実現できるとともに、分析計自体の耐久性向上も図ることができる減圧下におけるガス分析システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る減圧下におけるガス分析システムは、大気圧よりも低い減圧領域で行われる製造プロセスを経たプロセスガスを真空ポンプにより吸引排気する排気系統に、そのガス成分を測定するための赤外線ガス分析計が設けられている減圧下におけるガス分析システムであって、前記真空ポンプが、ガス排気方向の上流から下流にかけて直列に配置した複数段の容積移送式ポンプの各圧縮室を隔壁を介して区画するとともに、上流側の圧縮室の排気口とそれに隣接する下流側の圧縮室の吸気口とを順次接続して構成されており、前記赤外線ガス分析計が前記複数段の容積移送式ポンプにおける圧縮室のいずれか一つに選択的に接続可能に構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
上記のような特徴構成を有する本発明によれば、製造プロセスチャンバー内からプロセスガスを吸引排気する真空ポンプが、ガス排気方向に直列に配置された複数段の容積移送式ポンプの各圧縮室で、隔壁を介して区画された複数段の圧縮室により形成されるので、この真空ポンプ全体としての圧縮率を十分に大きくとれ、真空ポンプの内部には、製造プロセス圧力(大気圧よりも低い圧力)から大気圧までの広い範囲に亘って階段状の勾配を有する圧力を発生させることが可能である。この広い範囲で発生される圧力のうち、大気圧またはそれに近い圧力を発生する圧縮室に赤外線ガス分析計を選択的に接続することにより、製造プロセスにおける圧力条件の変化にかかわらず、赤外線ガス分析計による測定環境圧力を大気圧または大気圧に近い状態に設定(調整)することができる。したがって、製造プロセス個々で異なる圧力条件に対応して最適測定環境圧力を作り出すための特殊な圧力調整機器を設置したり、耐圧性能や耐久性の異なる複数種類の赤外線ガス分析計を準備しておき、それら分析計の中から製造プロセスの圧力条件に応じたものを使用選択したりする必要がなく、単一の真空ポンプ及び一種類の赤外線ガス分析計という最小限の機器を用いてコストを可及的に削減しつつ、赤外線ガス分析計を常に最適環境圧力下で使用して測定感度・測定精度の向上を実現することができるとともに、赤外線ガス分析計自体の耐久性の向上も達成することができるという効果を奏する。
【0008】
本発明に係る減圧下におけるガス分析システムにおいて、真空ポンプを構成する複数段の容積移送式ポンプとしては、油回転ポンプやピストンポンプ、エジェクターポンプなどの各種ブースターポンプを用いてもよいが、請求項2に記載のように、圧縮室内に二個の繭型ロータを互いに反対方向に同期駆動回転可能に設けたルーツポンプを用いることが好ましい。このルーツポンプの場合は、オイルフリーな真空排気が可能であるとともに、ロータの高速回転により大きな排気速度を保つことが可能で、排気速度の変化、特に落ち込みによる製造プロセスへの悪影響を防ぐことができる。
【0009】
また、本発明に係る減圧下におけるガス分析システムにおいて、請求項3に記載のように、前記赤外線ガス分析計を、複数段の容積移送式ポンプからなる真空ポンプに一体に組み込むことにより、システム全体の取り扱い機器数をより少なくしてコストの一層の削減及び機器類の設置スペースの削減化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は本発明に係る減圧下におけるガス分析システムの概略構成図であり、クリーンな製造プロセス環境を作るためのターボ分子ポンプ20がRFマッチングボックス21を介してプロセスチャンバー1に接続されているとともに、このターボ分子ポンプ20の下流にバルブ26を介してガス配管からなる排気系統2が接続され、この排気系統2にプロセスガスを吸引し大気に放出するためのドライポンプ(真空ポンプ)3が設けられ、この真空ポンプ3に前記排気ガスの成分を測定するためのフーリエ変換型赤外線ガス分析計(FTIR)あるいは非分散型赤外線ガス分析計(NDIR)等の赤外線ガス分析計4が一体に組み込まれている。
【0011】
前記真空ポンプ3は、図2に示すように、前記排気系統2におけるガス排気方向(矢印a)に沿って5段のルーツポンプ(容積移送式ポンプの一例)3A,3B,3C,3D,3Eを直列に配置するとともに、各隣接ポンプ間にそれぞれ隔壁9を介在させてボルト・ナットの締付け等により一体に固定連結することにより構成されている。前記各ルーツポンプ3A,3B,3C,3D,3Eは、図3に明示するように、ケーシング5で囲まれた圧縮室6内に二個の繭型ロータ7,7をそれらの軸端に固定のタイミングギア8,8により互いに反対方向に同期駆動回転可能に構成されており、これによって、真空ポンプ3の内部には、互いに区画された5段の圧縮室6が形成されている。
【0012】
ここで、前記真空ポンプ3を構成する5段のルーツポンプ3A,3B,3C,3D,3Eにおける各昇圧能力が、100mm Torrと一定で、かつ、1段目のルーツポンプ3Aにおける圧縮室6での到達圧力が10-3 mm Torrとすると、2段目のルーツポンプ3Bにおける圧縮室6での到達圧力は10-2 mm Torr、3段目のルーツポンプ3Cにおける圧縮室6での到達圧力は10-1 mm Torr、4段目のルーツポンプ3Dにおける圧縮室6での到達圧力は10 mm Torr、5段目のルーツポンプ3Eにおける圧縮室6での到達圧力は1000 m Torrとなる。
【0013】
前記1段目のルーツポンプ3Aにおける圧縮室6には、前記排気系統2からガスを吸い込む吸気口3Aaが形成され、5段目のルーツポンプ3Eにおける圧縮室6には、昇圧されたガスを排気系統2に排出する排気口3Ebが形成されている。また、1段目のルーツポンプ3Aにおける圧縮室6の排気口3Abと2段目のルーツポンプ3Bにおける圧縮室6の吸気口3Ba、2段目のルーツポンプ3Bにおける圧縮室6の排気口3Bbと3段目のルーツポンプ3Cにおける圧縮室6の吸気口3Ca、3段目のルーツポンプ3Cにおける圧縮室6の排気口3Cbと4段目のルーツポンプ3Dにおける圧縮室6の吸気口3Da、及び、4段目のルーツポンプ3Dにおける圧縮室6の排気口3Dbと5段目のルーツポンプ3Eにおける圧縮室6の吸気口3Eaとは、各隔壁9に形成したガス流路(図示省略する)を介して接続されている。
【0014】
また、前記2段目から4段目の各ルーツポンプ3B〜3Dのケーシング5には、それら各ルーツポンプ3B〜3Dにおける圧縮室6の排気口3Bb,3Cb,3Db側に連通するガス取出口11B,11C,11Dが形成されているとともに、3段目から5段目の各ルーツポンプ3C〜3Eのケーシング5には、それら各ルーツポンプ3C〜3Eにおける圧縮室6の吸気口3Ca,3Da,3Ea側に連通するガス還元口13C,13D,13Eが形成されている。なお、図3は、5段のルーツポンプ3A,3B,3C,3D,3Eの基本的な構造とともに、2段目から4段目のルーツポンプ3B〜3Dのケーシング5に設けられたガス取出口11B,11C,11D及び3段目から5段目各ルーツポンプ3C〜3Eのケーシング5に設けられたガス還元口13C,13D,13Eを同時に示している。
【0015】
さらに、前記赤外線ガス分析計4の入口側に接続されたガス導入管10の上流端部には、前記ガス取出口11B,11C,11Dに対する接続用口金10Aが取り付けられているとともに、この赤外線ガス分析計4の出口側に接続されたガス導出管12の下流端部には、前記ガス還元口13C,13D,13Eに対する接続用口金12Aが取り付けられており、一方の接続用口金10Aを前記ガス取出口11B,11C,11Dの何れか一つに選択的に接続するとともに、他方の接続用口金12Aを前記ガス還元口13C,13D,13Eの何れか一つに選択的に接続することによって、2段目から4段目までのルーツポンプ3B〜3Dにおける圧縮室6の排気口3Bb,3Cb,3Dbのいずれかから排出されるガスを前記赤外線ガス分析計4に導いて成分測定した後、その測定後のガスを3段目から5段目までのルーツポンプ3C〜3Eにおける圧縮室6の吸気口3Ca,3Da,3Eaのいずれかに還元して排気すべく構成されている。なお、前記赤外線ガス分析計4が接続されないガス取出口11B,11C,11D及びガス還元口13C,13D,13Eはそれぞれ図示省略した目栓等により閉塞可能とされている。
【0016】
上記のように構成された減圧下におけるガス分析システムにおいては、真空ポンプ3が、排気方向に直列に配置されたルーツポンプ3A,3B,3C,3D,3Eから構成されているので、この真空ポンプ3全体の圧縮率を非常に大きくとれ、真空ポンプ3の内部には、例えば製造プロセスのエンド圧力(大気圧よりも低い圧力)から大気圧までの広い範囲に亘って階段状の勾配を有する圧力が発生されている。この広い範囲で発生される圧力のうち、大気圧またはそれに近い圧力を発生する圧縮室6の排気口3Bb,3Cb,3Dbのいずれか一つに赤外線ガス分析計4を選択的に接続して用いることによって、製造プロセスにおける圧力条件の変化にかかわらず、赤外線ガス分析計4による測定環境圧力を大気圧または大気圧に近い状態に容易に調整することが可能である。したがって、製造プロセス個々で異なる圧力条件に応じて最適測定環境圧力を作り出すために特殊な圧力調整機器の設置や耐圧性能や耐久性の異なる複数種類の赤外線ガス分析計の準備及び選択使用が全く不要で、単一の真空ポンプ3及び一種類の赤外線ガス分析計4という最小限の機器を用いてシステムコストの削減を図りつつ、赤外線ガス分析計4を常に最適の測定環境圧力下におき、測定感度・測定精度の向上を実現できるとともに、赤外線ガス分析計4自体の耐久性向上も達成することができる。
【0017】
また、前記赤外線ガス分析計4を、複数段のルーツポンプ3A,3B,3C,3D,3Eからなる真空ポンプ3に一体に組み込むことにより、システム全体の取り扱い機器数が少なくなり、コストの一層の削減及び機器類の設置スペースの削減化を図ることができる。
【0018】
なお、上記実施の形態では、真空ポンプ3をガス排気方向に直列に配置した5段のルーツポンプにより構成したものについて説明したが、3段や4段、さらには、6段以上のルーツポンプを直列に配置して真空ポンプ3を構成してもよい。
【0019】
また、前記ルーツポンプのケーシング5には、二つのロータ7,7の摩擦熱による温度上昇を抑制するために冷却水流路(図示省略する)が形成されており、その冷却水温度を変えてロータ7,7とケーシング5との間の僅かな隙間を調整することにより、各ルーツポンプ3A,3B,3C,3D,3E個々の昇圧能力を変更することが可能である。このようなルーツポンプ個々の昇圧能力変更手段を組み合わせることによって、真空ポンプ3全体としての圧力調整範囲を一層大きく確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る減圧下におけるガス分析システムの概略構成図である。
【図2】同上システムにおける真空ポンプの構成を説明する側面図である。
【図3】同上真空ポンプを構成するルーツポンプの拡大縦断正面図である。
【図4】従来の減圧下におけるガス分析システムの概略構成図である。
【符号の説明】
【0021】
1 プロセスチャンバー
2 排気系統
3 ドライポンプ(真空ポンプ)
3A〜3E ルーツポンプ(容積移送式ポンプ)
3Aa〜3Ea 吸気口
3Ab〜3Eb 排気口
4 赤外線ガス分析計
6 ポンプケーシング
7 繭型ロータ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧よりも低い減圧領域で行われる製造プロセスを経たプロセスガスを真空ポンプにより吸引排気する排気系統に、そのガス成分を測定するための赤外線ガス分析計が設けられている減圧下におけるガス分析システムであって、
前記真空ポンプが、ガス排気方向の上流から下流にかけて直列に配置した複数段の容積移送式ポンプの各圧縮室を隔壁を介して区画するとともに、上流側の圧縮室の排気口とそれに隣接する下流側の圧縮室の吸気口とを順次接続して構成されており、前記赤外線ガス分析計が前記複数段の容積移送式ポンプにおける圧縮室のいずれか一つに選択的に接続可能に構成されていることを特徴とする減圧下におけるガス分析システム。
【請求項2】
前記複数段の容積移送式ポンプが、その圧縮室内に二個の繭型ロータを互いに反対方向に同期駆動回転可能に設けたルーツポンプから構成されている請求項1に記載の減圧下におけるガス分析システム。
【請求項3】
前記赤外線ガス分析計が、複数段の容積移送式ポンプからなる真空ポンプに一体に組み込まれている請求項1または2に記載の減圧下におけるガス分析システム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−343262(P2006−343262A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−170581(P2005−170581)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(000127961)株式会社堀場エステック (88)
【Fターム(参考)】