説明

減圧蒸留方法及び減圧蒸留装置

【課題】蒸留釜内での突沸を抑制し、不純物を含まない純度の高い溶剤を回収する。
【解決手段】蒸留釜10内から熱交換部である二重管構造体30の内管31に溶剤蒸気を送る溶剤蒸気吸引管路20に溶剤蒸気バルブ21を設け、蒸留釜10内の上部空間にはサーミスタ14を配設する。加熱室11による溶剤の加熱開始後、サーミスタ14による検出温度が急に上昇したときに沸騰が始まったことを認識し、その少し後に溶剤蒸気バルブ21を閉じて溶剤蒸気を蒸留釜10に充満させる。突沸により盛んに発生する溶剤蒸気は温度の低い蒸留釜10の天面や側面で凝縮液化し、その際に凝縮熱を与えるために天面や側面の温度上昇は促進される。天面や側面の温度が十分に上がると突沸は収まるから、その後にバルブ21を開いて溶剤蒸気を熱交換部である二重管構造体30に送り始める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばドライクリーナで使用される溶剤や各種電子部品などの洗浄に利用される溶剤等の被処理液を浄化するために用いられる減圧蒸留方法及び減圧蒸留装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クリーニング店舗等で用いられるドライクリーナでは、洗濯物を洗浄することで汚れた溶剤(シリコーンオイル、石油系溶剤など)を繰り返し使用するために、溶剤を浄化する減圧蒸留装置が使用されている。例えば特許文献1に記載の減圧蒸留装置は、底部に加熱部を備える蒸留釜と、溶剤を貯留するバッファタンク及び該タンク内の溶剤を吸引・加圧しエジェクタを通して循環させるポンプを含む減圧器と、バッファタンク内の溶剤を冷却する冷却部及び溶剤蒸気が通過する冷却管路を含むコンデンサ(熱交換部)と、を備え、減圧器により蒸発釜内を減圧し、その減圧雰囲気の下で加熱により発生した溶剤蒸気がコンデンサで冷却されて凝縮液化され、エジェクタを通してバッファタンクに回収されるようになっている。
【0003】
このような減圧蒸留装置では、蒸留釜の底部に加熱源が配置され、蒸留釜に導入された溶剤はこの加熱源により加熱されることで沸騰し、溶剤蒸気が盛んに発生して蒸留釜から取り出されて熱交換部に送られる。蒸留を開始するときにおける蒸留釜内での溶剤の沸騰状態は、当該蒸留装置が非使用状態で長時間放置された後に最初に蒸留が行われる場合と繰り返し連続的に蒸留が行われている場合とでは異なり、前者の場合に急激な沸騰、つまり突沸が発生し易いことが経験的に知られている。蒸留釜内にスラッジやソープ、或いは撥水加工剤などの多量の不純物が入っている状態で突沸が発生すると、沸騰に伴って異常に多量の発泡が生じ易く、この泡が上記不純物を伴って熱交換部まで到達すると蒸留回収された溶剤に不純物が混じってしまうことになる。
【0004】
また、特許文献1に記載の減圧蒸留装置のようにポンプ及びエジェクタを用いた減圧器を利用した構成では、バッファタンク内の溶剤にソープが混入すると、バッファタンク内で溶剤が異常に泡立ってポンプがエア噛みを生じ、減圧ができなくなるという不具合にもつながる。
【0005】
こうしたことから、減圧蒸留装置においては突沸をいかに防止するか、或いは、突沸に伴う不純物の混入をいかに防止するかというのが大きな課題であった。
【0006】
従来、突沸に伴う不純物の混入を防止するために、例えば、突沸時に蒸留釜内で生じる異常な発泡を光センサで監視し、異常発泡が検知されたならば蒸留釜内を一旦大気開放して真空度を下げることにより沸騰を停止させる方法が知られている。しかしながら、一旦、溶剤の沸騰を停止させた後に再度、蒸留釜内を減圧して蒸留を試みても、再び突沸による異常発泡が起こる場合もある。このように、上記方法は確実に突沸を抑え得るものではなく、蒸留作業の効率を落とす一因にもなる。
【0007】
【特許文献1】特開2006−141546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、不純物が熱交換器にまで運ばれるような異常発泡やこれを起こす突沸を確実に抑制することができる減圧蒸留方法及び減圧蒸留装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従来、突沸を確実に抑える対策が採られていなかった大きな要因は、蒸留釜内で突沸の生じる根本的な原因が解明されていなかったことによる。これに対し、本願発明者は、この突沸の主要な要因を解明し、これに基づいてその発生を防止するための減圧蒸留方法及び減圧蒸留装置を想到するに至った。突沸の主要な要因は次の通りである。
【0010】
即ち、蒸留行程として溶剤を蒸発(沸騰)させるため、溶剤を蒸留釜内に例えば1/3程度導入し減圧を行う(溶剤の沸点を下げる)とともに蒸留釜底部を加熱するが、このとき、蒸留釜内の側面や天面では表面に付着している溶剤が減圧によって蒸発する。それに伴い、そうした壁面から気化熱が奪われるために、それら壁面の温度は底部に比べて上がりにくい。さらにまた、減圧蒸留の場合には、熱伝導に寄与する空気の分子密度が低いので、熱伝導による壁面の温度上昇もあまり見込めない。特に、例えば朝の装置使用開始時など、蒸留釜が十分に冷えた状態から蒸留行程が開始された場合には、溶剤沸騰開始直前の蒸留釜底部の温度が120℃程度であるのに対し、蒸留釜内の側面上部は60℃程度までしか上がらず、大きな温度差が生じていることが判明した。
【0011】
こうした状態で溶剤の沸騰が始まると、気化した溶剤蒸気が蒸留釜の天面や側面で冷やされて凝縮液化を起こす。すると、蒸留釜内のガス圧は急に下がり、これによって溶剤の沸点も急に下がり、沸騰が一気に激しくなって突沸が起こる。溶剤蒸気が凝縮する際に凝縮熱が蒸留釜の天面や側面に与えられるから、天面や側面は次第に暖まって温度が上昇してゆき、凝縮が起こらない程度まで温度が上昇すると、突沸も収まり通常の沸騰状態となる。なお、連続的に繰り返し蒸留を行う場合には、蒸留釜内の天面や側面がその前の蒸留行程によって或る程度暖められている(つまり予熱されている)ため、溶剤の沸騰開始時に上記のような天面や側面での溶剤蒸気の凝縮は起こらず、それ故に突沸も起こらない。
【0012】
上記と同様の現象が、熱交換部や蒸留釜と熱交換部とを接続する連結配管部でも発生する。即ち、当該減圧蒸留装置が非使用状態で長時間放置された後には熱交換部や連結配管部も十分に冷えているため、これら部位に溶剤蒸気が導入されると凝縮が一気に起こり、ガス圧の急激な低下、溶剤の沸点の低下が連鎖的に起こって蒸留釜内での突沸につながる。
【0013】
そこで、上述の要因で起こる突沸を抑えるために、第1発明は、底部に加熱部を有する蒸留釜内で被処理液を減圧雰囲気の下で加熱蒸発させ、この被処理液蒸気を前記蒸留釜の外部に取り出し熱交換部で冷却することにより凝縮液化させ、蒸留された被処理液を回収する減圧蒸留方法において、
前記蒸留釜内に被処理液が導入される前、又は前記蒸留釜内に導入された被処理液が前記加熱部による加熱及び前記熱交換部による冷却によって実質的に蒸留される前に、前記蒸留釜にあって前記加熱部で直接的に加熱されない内壁面の全て又は一部を加温することを特徴としている。
【0014】
また、第2発明は上記第1発明に係る減圧蒸留方法を具現化した装置であって、内部に導入された被処理液を加熱して気化させるために底部に加熱部を有する蒸留釜と、該蒸留釜に接続された被処理液蒸気吸引管路を通して該蒸留釜内のガスを吸引することで該釜内を減圧する減圧手段と、前記被処理液蒸気吸引管路の途中に配設され、前記減圧手段による吸引作用により前記蒸留釜から取り出された被処理液蒸気を冷却して凝縮液化させる熱交換手段と、を具備し、蒸留された被処理液を回収する減圧蒸留装置において、
前記蒸留釜内に被処理液が導入される前、又は前記蒸留釜内に導入された被処理液が前記加熱部による加熱及び前記熱交換手段による冷却によって実質的に蒸留される前に、前記蒸留釜にあって前記加熱部で直接的に加熱されない内壁面の全て又は一部を加温する加温手段を備えることを特徴としている。
【0015】
ここで「前記加熱部で直接的に加熱されない内壁面」とは具体的には蒸留釜内の天面や側面である。好ましくは、加熱部で直接的に加熱されない内壁面の全てを加温するのがよいが、加熱部に近い部位は加熱部から離れた部位に比べれば熱伝導による温度上昇が比較的大きいため、そうした部位は加温しなくても実質的に問題はない。
【0016】
第1発明に係る減圧蒸留方法及び第2発明に係る減圧蒸留装置では、蒸留釜内で加熱により溶剤が沸騰し始め、突沸で発生した泡により不純物が熱交換手段に運ばれる状況に至る前に、冷えている蒸留釜内の壁面が加温手段により暖められて温度が上昇する。それにより、その壁面近傍での被処理液蒸気の凝縮液化が起こらなくなるため、蒸留釜内でのガス圧の急激な低下、溶剤の沸点の急な低下、という連鎖を断ち切ることができる。その結果、少なくともそれ以降の突沸の発生を防止することができ、通常の沸騰状態に抑えることができる。
【0017】
第2発明に係る減圧蒸留装置において、前記加温手段は様々な方法、形態を用いることができる。例えば、前記加温手段は、前記加熱部と同一の又は別の熱源を利用した補助加熱手段である構成とすることができる。具体的には、多くのドライクリーナ用蒸留装置に使用されている加熱蒸気を利用した熱源としたり、或いは、抵抗加熱などのヒータを熱源として用いてもよい。
【0018】
これに対し、突沸を積極的に利用することで蒸留釜内の天面や側面を加温することもできる。即ち、本発明に係る減圧蒸留装置の一態様として、前記加温手段は、
前記被処理液蒸気吸引管路にあって前記蒸留釜と前記熱交換手段との間に配設された管路開閉手段と、
前記加熱部での加熱による前記蒸留釜内での被処理液の沸騰の開始を検知する沸騰検知手段と、
少なくとも前記蒸留釜内での被処理液の沸騰の開始を検知した後の所定時間の間、前記管路開閉手段により前記被処理液蒸気吸引管路を閉鎖するように該管路開閉手段を制御する制御手段と、
から成り、前記蒸気釜内で沸騰により発生した被処理液蒸気から与えられる熱により前記蒸留釜の上部の内壁面を加温する構成とすることができる。
【0019】
例えば運転開始前に装置全体が冷えている等、突沸が起こり易い状況である場合には、通常、蒸留釜内で被処理液の沸騰が始まると間もなく突沸が起こり始める。そこで、沸騰検知手段により被処理液の沸騰の開始を検知し、制御手段は沸騰の開始を検知すると、それから少し遅れて管路開閉手段により被処理液蒸気吸引管路を閉鎖する。これにより、蒸留釜内で発生した被処理液蒸気は熱交換手段に流れなくなり、蒸留釜の内部及び蒸留釜から管路開閉手段に至るまでの被処理液蒸気吸引管路内に充満する。この状態で、被処理液蒸気は蒸留釜の天面や側面などで冷やされて盛んに凝縮液化するが、その際に凝縮熱が天面や側面に与えられるために温度上昇が促進される(つまり加温される)。なお、蒸留釜内のガス圧低下が急に進むことで蒸留釜内では激しい突沸が起こり得るが、被処理液蒸気吸引管路は閉鎖されているので被処理液に混入している不純物は熱交換手段には到達しない。
【0020】
そうして、或る程度の時間が経過して蒸留釜の天面と側面との温度が十分に、つまり被処理液蒸気の凝縮液化が起こらない程度にまで上がれば突沸は収まり、通常の沸騰状態となる。この後に、制御手段は管路開閉手段を開放し、蒸留釜内の被処理液蒸気を被処理液蒸気吸引管路を通して熱交換手段に送る。それにより、被処理液蒸気が熱交換手段で冷却されて凝縮液化し、蒸留した被処理液が回収される。このときには、蒸留釜内の被処理液に混入している不純物は蒸留釜内に残るから、不純物を含まない被処理液を回収することができる。
【0021】
上記態様において、前記沸騰検知手段は、前記蒸留釜内の上部空間の温度を検出する温度検出手段と、該温度検出手段による温度上昇を判定することにより沸騰の開始を認識する判定手段と、を含む構成とすることができる。一般に蒸留釜内の被処理液が沸騰し始めると、それにより立ち昇った被処理液蒸気に晒されて温度検出手段による検出温度は急に上昇する。そこで、判定手段はその温度上昇を判定する、具体的には例えば温度が所定値に達したことを検知する、或いは、温度の変化量がそれまでの変化量に比べて増大したことを検知する、といった処理により被処理液の沸騰開始のタイミングを確実に捉えることができる。
【0022】
また上記態様において、前記沸騰検知手段は、前記蒸留釜内の上部空間の温度を検出する第1温度検出手段と、前記蒸留釜内の被処理液の温度を検出する第2温度検出手段と、前記第1及び第2温度検出手段の温度差を判定することにより沸騰の開始を認識する判定手段と、を含む構成とすることがさらに好ましい。第1温度検出手段による検出温度は前述のように被処理液の沸騰開始に伴い急に上昇するが、それから被処理液の温度とほぼ同じになるから、例えば第1及び第2温度検出手段の温度差が規定値以下になることを判定することにより、被処理液の沸騰の開始をより一層正確に捉えることができる。
【0023】
また本発明に係る減圧蒸留装置の別の態様として、前記加温手段は、
前記被処理液蒸気吸引管路にあって前記蒸留釜と前記熱交換手段との間に配設された管路開閉手段と、
前記蒸留釜内での被処理液の異常な発泡を検知する発泡検知手段と、
少なくとも前記蒸留釜内での被処理液の異常な発泡を検知した後の所定時間の間、前記管路開閉手段により前記被処理液蒸気吸引管路を閉鎖するように該管路開閉手段を制御する制御手段と、
から成り、前記蒸気釜内で沸騰により発生した被処理液蒸気から与えられる熱により前記蒸留釜の上部の内壁面を加温する構成としてもよい。
【0024】
ここで発泡検知手段は、例えば、蒸留釜内で異常発泡が生じた際にその泡によって遮られるように蒸留釜内空間に光路を設定する発光部と受光部とから成る光センサを用いることができる。また、蒸留釜内で異常発泡が生じた際にその泡に接触する位置に一対の電極を設け、その電極間の電気抵抗を検出することで異常発泡を検知するようにすることもできる。
【0025】
上記態様の減圧蒸留装置では、蒸留釜内で突沸による異常発泡が発生し始めた後に加温を開始することになるが、管路開閉手段により前記被処理液蒸気吸引管路を閉鎖するため、泡が不純物を伴って熱交換手段に流れることはなく、突沸が収まった後に被処理液蒸気を熱交換手段に送ることができる。
【0026】
管路開閉手段を開放して熱交換手段に被処理液蒸気を送り始めたとき、熱交換手段や管路開閉手段と熱交換手段との間の被処理液蒸気吸引管路が冷えていると、前述のように、そこでの急な凝縮液化によって再び突沸が発生するおそれがある。
【0027】
そこで、熱交換手段や上記管路内を暖めながら突沸を回避するために、前記制御手段は、前記管路開閉手段を一旦閉鎖してから開放するに際し、その開放の初期に間欠的な開放動作を行い、その後に開放状態に移行するように前記管路開閉手段を制御する構成とするとよい。また、前記制御手段は、前記管路開閉手段を一旦閉鎖してから開放するに際し、その開放の初期に、開度を徐々に又は段階的に大きくするように前記管路開閉手段を制御する構成としてもよい。これら構成によれば、管路開閉手段が閉鎖状態から開放されたときに、多量の被処理液蒸気が一気に熱交換手段に流れ込むことがないので、蒸留釜内の急なガス圧低下を防止することができ、それによって突沸の再発生も回避することができる。
【発明の効果】
【0028】
第1発明に係る減圧蒸留方法及び第2発明に係る減圧蒸留装置によれば、蒸留釜内で被処理液の突沸が発生しそうになっても、或いは仮に蒸留釜内で突沸が一旦発生しても、それにより生じる泡が熱交換手段に至ることを防止することができ、さらに突沸を抑えて通常の沸騰状態にして被処理液蒸気を熱交換手段に送るようにすることができる。従って、例えば溶剤等の被処理液にスラッジやソープ、或いは撥水加工剤などの不純物が混じっていても、こうした不純物が熱交換部に流れ込むことを防止し、こうした不純物を含まない純粋な被処理液を安定的に蒸留回収することができる。
【0029】
また、回収された被処理液にソープやスラッジが含まれないので、減圧手段としてポンプ、エジェクタなどを用いた場合でも、被処理液が異常に泡立ってポンプがエア噛みを生じ減圧ができなくなる、或いは、エジェクタのノズルにスラッジが詰まるといった不具合の発生も防止することができる。さらに、第1発明に係る減圧蒸留方法及び第2発明に係る減圧蒸留装置によれば、加温を行うための時間を或る程度確保する必要があるものの、それ以降は確実に突沸の発生を防止することができるので、蒸留作業を効率的に行うことができるという利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明に係る減圧蒸留装置の一実施例について、図1〜図4を参照して説明する。図1は本実施例の減圧蒸留装置の配管経路を中心とする構成図、図2は本実施例の減圧蒸留装置の制御系構成図である。ここでは本発明における被処理液はドライクリーナに使用される石油系又はシリコーン系などの溶剤である。
【0031】
本実施例の減圧蒸留装置1において、密閉可能な蒸留釜10の底部には、スチーム供給バルブ13が開放状態であるときにスチーム供給管12を通して供給される高温のスチームにより加熱される加熱室11が設けられている。この蒸留釜10には、蒸留対象である汚れた溶剤を導入するために溶剤供給管15と溶剤吸い込み管17とが接続されており、溶剤供給バルブ16が開放されると溶剤供給管15を通して汚れた溶剤が蒸留釜10内に降り注ぐように導入される。一方、溶剤吸い込みバルブ18が開放された状態で蒸留釜10内が減圧されると、溶剤タンク52に貯留されている溶剤が溶剤吸い込み管17を通して吸い上げられ、上記と同様に蒸留釜10内に降り注ぐように導入される。
【0032】
蒸留釜10の天面には溶剤蒸気吸引管路(本発明における被処理液蒸気吸引管路)20の一端が接続され、その他端は後述する二重管構造体30の内管31に接続され、その途中には溶剤蒸気バルブ(本発明における管路開閉手段)21が設けられている。また、蒸留釜10内の上部空間には、内方に突出するように蒸留釜上部サーミスタ14が本発明における温度検出手段又は第1温度検出手段として設けられている。
【0033】
溶剤蒸気吸引管路20を通して蒸留釜10から送られて来る高温(90〜110℃程度)の溶剤蒸気を凝縮液化するための熱交換手段として、円筒状の内管31と同じく円筒状の外管32との二重管が螺旋状に形成された二重管構造体30と、例えば屋外に設置された室外機33と、室外機33から低温(例えば−20〜0℃程度)の冷媒ガスを外管32に供給する冷媒供給管34と、外管32を通過して熱交換を行った後の冷媒ガスを室外機33に戻すための冷媒回収管35と、を有している。二重管構造体30は溶剤が貯留されるバッファタンク40の内部に配設され、定常的な状態では、二重管構造体30はバッファタンク40内に貯留される溶剤中に完全に浸漬するようになっている。従って、外管32に流通される冷媒ガスは内管31に導入される溶剤蒸気を冷却するとともに、バッファタンク40内の溶剤も冷却する。また、溶剤蒸気吸引管路20と二重管構造体30の内管31との接続部から内管31側にせり出すように冷却部入口サーミスタ36が設置されており、凝縮液化される直前の溶剤蒸気の温度が検出可能となっている。
【0034】
二重管構造体30の内管31を通過する際に凝縮液化した溶剤は再生溶剤回収管路41を経てエジェクタ44に導入される。このエジェクタ44は、バッファタンク40に出口端と入口端とが接続された再生溶剤循環管路42の途中に設けられ、そのエジェクタ44の上流側に設置されたエジェクタポンプ43とともに、本発明における減圧手段として機能する。即ち、エジェクタポンプ43が作動すると、再生溶剤循環管路42に図1中に矢印で示す方向にバッファタンク40内の溶剤が循環圧送され、それによりエジェクタ44で生じる負圧によって、凝縮液化されたばかりの溶剤が再生溶剤回収管路41から再生溶剤循環管路42に引き込まれる。これに伴い、溶剤蒸気吸引管路20内の溶剤蒸気は二重管構造体30の内管31に引き込まれ、蒸留釜10内は真空引きされて減圧される。このときの減圧作用により、上述したように溶剤タンク52内の溶剤を溶剤吸い込み管路17を通して吸い上げて蒸留釜10に導入することができる。
【0035】
凝縮液化された直後で再生溶剤回収管路41を通って来る溶剤の温度は比較的高いが、エジェクタ44を介して再生溶剤循環管路42中の溶剤と混合されることで温度は下がる。一方、再生溶剤循環管路42中の溶剤は、上記のように再生溶剤から与えられる熱量とエジェクタポンプ43等から与えられる熱量とによって温度が上がってバッファタンク40に戻る。しかしながら、前述のようにバッファタンク40内の溶剤は二重管構造体30の外管32に供給されている冷媒ガスにより冷却されるので、全体としては溶剤の温度は安定的に保たれる。蒸留によって回収された再生溶剤の追加によってバッファタンク40内の溶剤の液位は上昇してゆくが、溶剤溢流管路50の上端開口を越えた溶剤はバッファタンク40から流れ出て水分離器51に送られ、ここで水が分離されて溶剤タンク52に戻される。従って、溶剤タンク52には比較的温度の安定した溶剤を戻すことができる。
【0036】
次に、図2により、この減圧蒸留装置1の制御系構成を説明する。制御の中心には、CPUを中心に構成される制御部(本発明における制御手段に相当)60が据えられ、制御部60には、作業者が操作する各種ボタンが設けられた操作部62から操作信号が入力され、さらに、蒸留釜上部サーミスタ14及び冷却部入口サーミスタ36からそれぞれ温度検出信号が入力される。また、制御部60は表示部63に対し、運転状況などをモニタするための表示制御信号を送る。また、制御部60は、負荷駆動部61を介して、上述したスチーム供給バルブ13、溶剤供給バルブ16、溶剤吸い込みバルブ18、溶剤蒸気バルブ21などの各バルブの開閉動作を制御するとともに、エジェクタポンプ43の運転を制御する。さらに、二重管構造体30の外管32に冷媒ガスを適切なタイミングで送るために、室外機33の運転も制御する。
【0037】
次に本実施例による減圧蒸留装置の特徴的な動作について図3、図4を参照して説明する。図4は本実施例の減圧蒸留装置の蒸留行程の初期の制御フローチャート、図3は蒸留行程の初期における蒸留釜上部空間の温度及び蒸留釜内の溶剤の温度の変化の一例を示す図である。いま、ここでは、この減圧蒸留装置1全体が冷えた状態を初期状態とする。これは、例えば朝に減圧蒸留装置1を起動して運転を開始する際の状態であると想定できる。
【0038】
まず、蒸留釜10内に適宜量の溶剤を初期的に導入するために、溶剤吸い込みバルブ18を閉鎖した状態で溶剤供給バルブ16を開放する。すると、溶剤供給管15を通して蒸留釜10内に供給される。なお、この減圧蒸留装置1では、溶剤供給管15を通して蒸留釜10内に溶剤を供給する際に溶剤が蒸留釜上部サーミスタ14に降り掛かるようにすることにより、連続繰り返し運転時にも蒸留釜上部サーミスタ14の温度を初期的に下げるようにしている。
【0039】
適宜量の溶剤が蒸留釜10内に導入された後に作業者が例えば操作部62で蒸留行程の開始の指示を行うと、この指示を受けて制御部60はエジェクタポンプ43の運転を開始する(ステップS1)。これにより、エジェクタ44を通して再生溶剤回収管路41内の空気が吸引されるため、蒸留釜10中の空気も吸引されて蒸留釜10内のガス圧は下がり始める。なお、溶剤蒸気バルブ21が閉じている場合には、エジェクタポンプ43の作動に先立ってこれを開放しておく。それから、スチーム供給バルブ13を開放して加熱室11に高温のスチームを導入し、これにより蒸留釜10に導入された溶剤の加熱を開始する(ステップS2)。加熱開始後、制御部60は蒸留釜上部サーミスタ14により検出される蒸留釜上部空間温度Taを読み込み(ステップS3)、その温度Taが予め定めた閾値温度である100℃以上になったか否かを繰り返し判定する(ステップS4)。
【0040】
ここで、加熱開始後の溶剤温度と蒸留釜10内上部空間温度(蒸留釜上部サーミスタ14による検出温度Ta)との変化を図3により説明する。加熱室11は蒸留釜10の底部を直接的に加熱するため、蒸留釜10内に貯留されている溶剤の温度は加熱室11からの熱伝導により加熱開始時点から急に上昇する。この溶剤の沸点は常圧下では約170℃であるが、低真空雰囲気の下では約120℃に下がる。上述のように蒸留釜10内は減圧されるために溶剤の沸点は下がり、図3に示すように120℃付近に漸近する。一方、蒸留釜10内上部空間の温度は当初、緩やかにしか上昇しない。特に、蒸留釜10内が減圧されると熱伝導に寄与する空気中の各種分子密度が低くなるため、余計に熱が伝導しにくくなり上部空間の温度上昇は緩やかである。さらにまた、蒸留釜10内の天面や側面の温度は、付着していた溶剤が減圧により気化することで奪われる気化熱の影響で上がりにくいため、この影響も受けて蒸留釜10内上部空間の温度は上がりにくい。
【0041】
溶剤の温度が上昇して溶剤が沸騰し始めると溶剤から蒸気が盛んに発生し、蒸留釜上部サーミスタ14は多量の溶剤蒸気に次々に晒される。溶剤蒸気が蒸留釜上部サーミスタ14に触れて凝縮液化すると凝縮熱が蒸留釜上部サーミスタ14に与えられるため、蒸留釜上部サーミスタ14の温度は上昇する。そのため、溶剤の沸騰が始まると、図3に示すように、蒸留釜10内上部空間の温度はそれまでの緩やかな上昇から転じて急に上昇するようになる。そして、溶剤の温度とほぼ同じ温度まで上昇し、それ以降は溶剤の温度とほぼ同じにように推移する。従って、この蒸留釜上部サーミスタ14の検出温度Taの急な上昇を以て溶剤の沸騰の開始を判断することができる。ここでは、この検出温度Taが100℃に達したときに溶剤が沸騰したと判断し、ステップS4からS5に進む。
【0042】
溶剤が沸騰し始めてもすぐに問題となるような突沸が発生するわけではなく、問題がない限りはできるだけ蒸留釜10内の減圧を促進することが効率的な蒸留のためには望ましい。そこで制御部60は、ステップS4による沸騰開始の検知後、所定時間t1だけ待機し(ステップS5)、所定時間t1経過後に溶剤蒸気バルブ21を閉鎖する(ステップS6)。ここで、所定時間t1は蒸留釜10の体積や熱交換手段である二重管構造体30の熱容量などの構造的な要素に応じて変えることが好ましいから、実際の装置を用いて実験的に決めるとよく、ここでは例えば5秒とすることができる。
【0043】
溶剤蒸気バルブ21が閉鎖されるとエジェクタ44による吸引作用が蒸留釜10に及ばず、溶剤蒸気は蒸留釜10から流出しないために、蒸留釜10内及び溶剤蒸気吸引管路20で蒸留釜10と溶剤蒸気バルブ21との間に充満する。当初、蒸留釜10内の天面や側面は冷えており、前述したように気化熱を奪われることもあってその温度上昇は遅い。そのために、溶剤蒸気は蒸留釜10内の天面や側面で冷却されてその表面に凝縮液化する。溶剤蒸気の量が多いために凝縮液化する量も多くなり、それによって蒸留釜10内のガス圧は下がるため、溶剤の沸点はさらに下がる。従って、溶剤蒸気バルブ21が閉鎖されてから蒸留釜10内では突沸が起こり、それに伴い泡も発生するが、溶剤蒸気バルブ21が閉鎖されているために泡に混じっているスラッジ、ソープ等の不純物が二重管構造体30に運ばれるおそれはない。
【0044】
一方、上記のように蒸留釜10内の天面や側面で溶剤蒸気が凝縮液化すると凝縮熱が与えられるから、凝縮液化が盛んに行われるほど、その温度上昇は速くなる。そして、その天面や側面の温度が十分に上昇すると、溶剤蒸気の凝縮液化が起こらなくなり、それ故に蒸留釜10内のガス圧は下がらなくなり(場合によってはガス圧が高くなり)、突沸は収まって通常の沸騰状態となる。
【0045】
制御部60はステップS6で溶剤蒸気バルブ21を閉鎖してから、所定時間t2が経過するまで待機し(ステップS7)、所定時間t2が経過したならば上記のように通常の沸騰状態に収まったものと判断して溶剤蒸気バルブ21を開放する。蒸留釜10内で突沸が収まるに要する時間も蒸留釜10の体積などに依存するから、実際の装置を用いて実験的に決めるとよく、ここでは例えば2分とすることができる。
【0046】
溶剤蒸気バルブ21を開放すると溶剤蒸気が蒸留釜10から二重管構造体30の内管31に流れるが、二重管構造体30の内管31の壁面や溶剤蒸気吸引管路20で溶剤蒸気バルブ21と内管31との間の壁面が冷えていると、ここで溶剤蒸気が一気に凝縮液化して蒸留釜10内のガス圧が急に下がり、突沸が再発生するおそれがある。そこで、溶剤蒸気バルブ21を開けたままにするのではなく、例えば数秒間の開放と数秒間の閉鎖とを2〜3回又はそれ以上繰り返す間欠的な開閉を行う(ステップS8、S9)。溶剤蒸気バルブ21を開放した際に流出した溶剤蒸気は上記内管31や溶剤蒸気吸引管路20の壁面で一気に凝縮液化する可能性はあるが、溶剤蒸気の供給は続かず、溶剤蒸気バルブ21が閉鎖されると蒸留釜10内のガス圧は下がらなくなるため、蒸留釜10内での溶剤の突沸は起こらず通常の沸騰が続く。
【0047】
そうして溶剤蒸気バルブ21の間欠的な開閉が繰り返される間に二重管構造体30の内管31や溶剤蒸気吸引管路20の壁面の温度は十分に上昇するから、溶剤蒸気の凝縮液化は起こりにくくなる。そして、その後に溶剤蒸気バルブ21を完全に開いて(ステップS10)、溶剤蒸気を連続的に二重管構造体30の内管31に流し始める。制御部60は適宜のタイミングで室外機33を作動させ、二重管構造体30の外管32に冷媒ガスを流し始め、内管31を通る溶剤蒸気を冷却して凝縮液化させる。これにより、実質的な溶剤の蒸留が実行され、内管31で凝縮液化した溶剤がエジェクタ44に吸引されてバッファタンク40に回収される(ステップS11)。
【0048】
なお、蒸留釜10内の溶剤が無くなると二重管構造体30の内管31に供給される溶剤蒸気の量が急に減るため、冷却部入口サーミスタ36での検出温度は急に下がる。そこで、制御部60はこの検出温度により蒸留釜10内の溶剤の残量がないことを判定し、連続的な蒸留を行う場合には溶剤吸い込みバルブ18を一定時間だけ開放する。すると、溶剤タンク52内に貯留されている溶剤が減圧下にある蒸留釜10内に吸い上げられ、引き続いてその溶剤の蒸留が実行されることになる。このようにして溶剤の蒸留を繰り返し行うことができる。
【0049】
以上のように本実施例の減圧蒸留装置1によれば、蒸留釜10内での溶剤の突沸により溶剤に混入しているスラッジやソープが二重管構造体30の内管31に入るのを防止することができるので、バッファタンク40に回収される溶剤の純度を高めることができる。また、バッファタンク40の溶剤のソープ混入量を抑えることができるので、この溶剤の泡立ちによるエジェクタポンプ43のエア噛みを防止して減圧ができなくなる不具合の発生を回避することができる。また、スラッジがエジェクタ44のノズルに詰まることも防止することができる。さらにまた、溶剤蒸気吸引管路20に溶剤蒸気バルブ21を追加する以外は、従来の減圧蒸留装置に対し構造上大きな変更を加えずに済むため、突沸の抑制のために要するコストの増加を抑えることができるという利点もある。
【0050】
なお、溶剤蒸気バルブ21として、開度つまりそのバルブ21を通過し得るガスの流量を調節可能なバルブを用いる場合には、ステップS8、S9で溶剤蒸気バルブ21を間欠的に開閉する代わりに、開度を徐々に或いは段階的に大きくしてゆき、所定時間後に溶剤蒸気バルブ21を全開にするような制御を行っても上記と同様の効果を得ることができる。
【0051】
また上記実施例では、蒸留釜10内の溶剤の沸騰の開始を検知するために、蒸留釜上部サーミスタ14による検出温度のみを利用していたが、より正確に溶剤の沸騰開始のタイミングを判定するには溶剤の温度も利用したほうがよい。
【0052】
図5は、本発明に係る他の実施例による減圧蒸留装置における蒸留釜を中心とする要部の構成図である。ここで図示した以外の構成は図1と同じであるので記載を省略している。この構成では、蒸留釜10内に、蒸留釜上部サーミスタ14aのほかに、蒸留釜10内に導入される溶剤に浸漬するような位置に溶剤温度検出用のサーミスタ14bを設けている。そして、制御部60において両サーミスタ14a、14bの検出温度の温度差を計算し、その温度差が所定の閾値以下になったときに沸騰開始であると判断し、それに応じて溶剤蒸気バルブ21を閉鎖し、蒸留釜10に溶剤蒸気を閉じ込めてその天面や側面の温度上昇を促す。
【0053】
また、上記実施例では、蒸留釜10内の溶剤の沸騰開始を検知して溶剤蒸気バルブ21を閉鎖するタイミングを決めるようにしていたが、それ以外の現象を検知して溶剤蒸気バルブ21を閉鎖するタイミングを決めてもよい。図6は本発明に係る他の実施例による減圧蒸留装置における蒸留釜を中心とする要部の構成図である。ここで図示した以外の構成は図1と同じであるので記載を省略している。
【0054】
特に溶剤の汚れが酷い場合、蒸留釜10内で突沸が起こると図示するように異常に多量の泡が発生し、これが蒸留釜10から溢れて二重管構造体30の内管31にまで到達することがある。そこで、図6の構成では、蒸留釜10内での異常発泡を早い段階で検知するために、蒸留釜10の壁面に取り付けた発光部71と受光部72とから成る光センサ70を利用する。即ち、異常発泡がない場合には発光部71から発した光は殆ど減衰することなく受光部72に到達するために大きな受光強度が得られるが、異常発泡によって光路上に泡が存在すると光の一部が反射や散乱、吸収を受け、受光強度が減少する。そこで、制御部60は光センサ70の受光強度を判定することにより異常発泡の有無を判断し、異常発泡が発生していると判断した場合には溶剤蒸気バルブ21を閉鎖する。これにより、泡に伴って不純物が二重管構造体30の内管31まで運ばれるのを回避することができ、それと同時に蒸留釜10内の天面や側面の温度上昇を促して突沸を収めるようにすることができる。
【0055】
図7は異常発泡を検知するために別の手段を用いた減圧蒸留装置における蒸留釜を中心とする要部の構成図である。この構成では、蒸留釜10内で通常の溶剤の液面よりも高い所定の位置に2本の棒状の電極73を配設しておき、この2本の電極73間の電気抵抗を制御部60により判定する。異常発泡が起こり2本の電極73間に泡が満ちると電気抵抗が低下するから、これにより異常発泡を検知して溶剤蒸気バルブ21を閉鎖すればよい。
【0056】
さらにまた、上記各実施例に係る減圧蒸留装置では、溶剤蒸気バルブ21を閉鎖することで蒸留釜10内に溶剤蒸気を充満させ、蒸留釜10内の溶剤を激しく沸騰させ続けることで蒸留釜10内の天面や側面に凝縮熱を与えて加温するようにしていたが、より直接的に蒸留釜10内の天面や側面を加熱する手段を用いてもよい。図8はそうした手段を採用した減圧蒸留装置における蒸留釜を中心とする要部の構成図である。
【0057】
この構成において、蒸留釜10は、内側に設けられた蒸留室10aの外側ほぼ全体を、底部の加熱室11と連通した採暖室10bで囲まれた構造となっており、この採暖室10bに供給される高温のスチームにより蒸留室10aの天面や側面も周囲から加熱される。そのため、蒸留室10a内に導入された溶剤が加熱されるに伴って、蒸留室10aの天面や側面の温度も上昇し、溶剤が沸騰して溶剤蒸気が盛んに発生し始めたときには天面や側面の温度は十分に高くなっている。それにより、天面や側面での溶剤蒸気の凝縮液化が起こらず、突沸を起こす要因が除去されているので突沸を防止することができる。
【0058】
また、上記構成では、高温のスチームを利用して蒸留室10aの天面や側面を加温したが、電気ヒータなどの一般に知られている他の熱源を利用して蒸留釜10内の天面や側面を加温してもよいことは明らかである。こうした他の熱源を利用する場合には、加熱室11にスチームを導入して溶剤を加熱し始める以降でなく、それ以前に蒸留釜10を予熱しておくようにすることもできる。なお、このように溶剤蒸気を利用して加温を行うのではなく、別の熱源を利用して加温を行う場合には、溶剤蒸気を蒸留釜10内に閉じ込める必要はなく、また突沸を全く起こさないようにすることができるから、溶剤蒸気バルブ21を設ける必要はない。
【0059】
さらにまた別の構成として、溶剤蒸気バルブ21を設けずに(又は設けても閉じずに)、蒸留釜10内に導入した溶剤を加熱して激しく沸騰させ続ける(つまり突沸させる)ことで蒸留釜10内の天面や側面に凝縮熱を与えて加温するようにすることもできる。即ち、溶剤の繰り返し連続蒸留運転が指示されて運転開始されると、まず1回目の蒸留行程では2回目以降の蒸留行程よりも少ない量の溶剤を蒸留釜10内に導入し、加熱室にスチームを供給して溶剤の加熱を開始する。重要なのはこのときに導入する溶剤の量であり、蒸留釜10内で突沸が生じてもそれにより異常発生する泡が溶剤蒸気吸引管路20内に溢れ出ない程度の量に抑える。具体的には、2回目以降の蒸留行程の際に導入される量に比べて1/5程度以下の量に抑えるとよい。
【0060】
このように少量の溶剤が蒸留釜10内で突沸すると、当初、溶剤蒸気の大部分は冷えた蒸留釜10内の側面や天面で凝縮されて液化してしまい、さらに溶剤蒸気吸引管路20に流れ出た溶剤蒸気も殆どがその壁面で凝縮液化してしまう。そのため、二重構造体30の内管31にまで到達する溶剤蒸気は殆どなく、実質的に蒸留及び液化した溶剤は殆ど回収されない。また、突沸により泡が発生してもその量は少ないために、泡に混じった不純物が溶剤蒸気吸引管路20を経て二重構造体30の内管31にまで入り込むことは回避できる。そうして溶剤蒸気が液化する際の凝縮熱により蒸留釜10の天面や側面が暖まってくると溶剤蒸気吸引管路20へと流れ出す溶剤蒸気が多くなり、溶剤蒸気吸引管路20の壁面も同様に温度が上昇する。そして、二重構造体30の内管31にまで到達する溶剤蒸気の量も徐々に増えて内管31壁面の温度も徐々に上昇する。このようにして配管内の温度が上昇するに従い、蒸留釜10内の突沸も次第に収まり通常の沸騰状態に移行し、本格的な溶剤の蒸留、回収が行われる。
【0061】
この構成では、蒸留釜10内に導入する溶剤の量を制御するだけで、つまりは制御部60の制御プログラムを変更するだけで再生溶剤への不純物の混入を軽減できるため、装置のコスト増加が少なくて済むという利点がある。
【0062】
また、上記各実施例はいずれも本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施例である減圧蒸留装置の配管経路を中心とする構成図。
【図2】本実施例の減圧蒸留装置の制御系構成図。
【図3】本実施例の減圧蒸留装置にあって蒸留行程の初期における蒸留釜上部空間の温度及び蒸留釜内の溶剤の温度の変化の一例を示す図。
【図4】本実施例の減圧蒸留装置の蒸留行程の初期の制御フローチャート。
【図5】他の実施例による減圧蒸留装置の蒸留釜を中心とする要部の構成図。
【図6】他の実施例による減圧蒸留装置の蒸留釜を中心とする要部の構成図。
【図7】他の実施例による減圧蒸留装置の蒸留釜を中心とする要部の構成図。
【図8】他の実施例による減圧蒸留装置の蒸留釜を中心とする要部の構成図。
【符号の説明】
【0064】
1…減圧蒸留装置
10…蒸留釜
10a…蒸留室
10b…採暖室
11…加熱室
12…スチーム供給管
13…スチーム供給バルブ
14、14a…蒸留釜上部サーミスタ
14b…溶剤温度検出用サーミスタ
15…溶剤供給管
16…溶剤供給バルブ
17…溶剤吸い込み管
18…溶剤吸い込みバルブ
20…溶剤蒸気吸引管路
21…溶剤蒸気バルブ
30…二重管構造体
31…内管
32…外管
33…室外機
34…冷媒供給管
35…冷媒回収管
36…冷却部入口サーミスタ
40…バッファタンク
41…再生溶剤回収管路
42…再生溶剤循環管路
43…エジェクタポンプ
44…エジェクタ
50…溶剤溢流管路
51…水分離器
52…溶剤タンク
60…制御部
61…負荷駆動部
70…光センサ
71…発光部
72…受光部
73…電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部に加熱部を有する蒸留釜内で被処理液を減圧雰囲気の下で加熱蒸発させ、この被処理液蒸気を前記蒸留釜の外部に取り出し熱交換部で冷却することにより凝縮液化させ、蒸留された被処理液を回収する減圧蒸留方法において、
前記蒸留釜内に被処理液が導入される前、又は前記蒸留釜内に導入された被処理液が前記加熱部による加熱及び前記熱交換部による冷却によって実質的に蒸留される前に、前記蒸留釜にあって前記加熱部で直接的に加熱されない内壁面の全て又は一部を加温することを特徴とする減圧蒸留方法。
【請求項2】
内部に導入された被処理液を加熱して気化させるために底部に加熱部を有する蒸留釜と、該蒸留釜に接続された被処理液蒸気吸引管路を通して該蒸留釜内のガスを吸引することで該釜内を減圧する減圧手段と、前記被処理液蒸気吸引管路の途中に配設され、前記減圧手段による吸引作用により前記蒸留釜から取り出された被処理液蒸気を冷却して凝縮液化させる熱交換手段と、を具備し、蒸留された被処理液を回収する減圧蒸留装置において、
前記蒸留釜内に被処理液が導入される前、又は前記蒸留釜内に導入された被処理液が前記加熱部による加熱及び前記熱交換手段による冷却によって実質的に蒸留される前に、前記蒸留釜にあって前記加熱部で直接的に加熱されない内壁面の全て又は一部を加温する加温手段を備えることを特徴とする減圧蒸留装置。
【請求項3】
前記加温手段は、
前記被処理液蒸気吸引管路にあって前記蒸留釜と前記熱交換手段との間に配設された管路開閉手段と、
前記加熱部での加熱による前記蒸留釜内での被処理液の沸騰の開始を検知する沸騰検知手段と、
少なくとも前記蒸留釜内での被処理液の沸騰の開始を検知した後の所定時間の間、前記管路開閉手段により前記被処理液蒸気吸引管路を閉鎖するように該管路開閉手段を制御する制御手段と、
から成り、前記蒸気釜内で沸騰により発生した被処理液蒸気から与えられる熱により前記蒸留釜の上部の内壁面を加温することを特徴とする請求項2に記載の減圧蒸留装置。
【請求項4】
前記沸騰検知手段は、前記蒸留釜内の上部空間の温度を検出する温度検出手段と、該温度検出手段による温度上昇を判定することにより沸騰の開始を認識する判定手段と、を含むことを特徴とする請求項3に記載の減圧蒸留装置。
【請求項5】
前記沸騰検知手段は、前記蒸留釜内の上部空間の温度を検出する第1温度検出手段と、前記蒸留釜内の被処理液の温度を検出する第2温度検出手段と、前記第1及び第2温度検出手段の温度差を判定することにより沸騰の開始を認識する判定手段と、を含むことを特徴とする請求項3に記載の減圧蒸留装置。
【請求項6】
前記加温手段は、
前記被処理液蒸気吸引管路にあって前記蒸留釜と前記熱交換手段との間に配設された管路開閉手段と、
前記蒸留釜内での被処理液の異常な発泡を検知する発泡検知手段と、
少なくとも前記蒸留釜内での被処理液の異常な発泡を検知した後の所定時間の間、前記管路開閉手段により前記被処理液蒸気吸引管路を閉鎖するように該管路開閉手段を制御する制御手段と、
から成り、前記蒸気釜内で沸騰により発生した被処理液蒸気から与えられる熱により前記蒸留釜の上部の内壁面を加温することを特徴とする請求項2に記載の減圧蒸留装置。
【請求項7】
前記加温手段は、前記加熱部と同一の又は別の熱源を利用した補助加熱手段であることを特徴とする請求項2に記載の減圧蒸留装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記管路開閉手段を一旦閉鎖してから開放するに際し、その開放の初期に間欠的な開放動作を行い、その後に開放状態に移行するように前記管路開閉手段を制御することを特徴とする請求項3又は6に記載の減圧蒸留装置。
【請求項9】
前記制御手段は、前記管路開閉手段を一旦閉鎖してから開放するに際し、その開放の初期に、開度を徐々に又は段階的に大きくするように前記管路開閉手段を制御することを特徴とする請求項3又は6に記載の減圧蒸留装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−237943(P2008−237943A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77558(P2007−77558)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(505188227)三洋電機テクノクリエイト株式会社 (68)
【Fターム(参考)】