説明

減速機構及び電動パワーステアリング装置

【課題】ウォームホイールの回転方向に拘らず、歯面間の潤滑状態を良好に維持することができる減速機構を提供する。
【解決手段】バックラッシ除去のためにウォーム軸20の第1端部22を中心としてウォーム軸20をウォームホイール21側(予圧方向Y1)へ付勢する。ウォーム軸20がウォームホイール21の手前に見える状態で減速機構19を見たときに、第1回転方向J1に回転するウォーム軸20により回転されたウォームホイール21の噛み合い領域MAの移動方向が、ウォーム軸20の第1端部22側に向く左手中指方向LMFに向く。予圧方向Y1が左手人指し指方向LIFに向き、オフセット方向Z1が左手親指方向SFに向く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は減速機構および電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、ウォームギヤ機構によって操舵補助用の電動モータの回転を減速する電動パワーステアリング装置において、ウォームホイール側へ偏倚可能なウォーム軸を偏倚方向へ付勢して、バックラッシを除去する技術が提案されている。
特許文献2では、電動パワーステアリング装置において、ウォーム軸のモータ側端部である第1端部を中心として、ウォーム軸の第2端部を、ウォームホイールの歯幅方向側へ揺動変位させることにより、ウォームホイールの歯幅の両端寄りの位置で、ウォームの歯をウォームホイールの歯に歯当たりさせる技術が提案されている。
【0003】
特許文献3では、電動パワーステアリング装置の減速機構において、ウォームホイールのギヤ進み角に対して、ウォームのギヤ進み角をプラスに増やすことにより、噛み合い入口側の隙間を確保して、グリースの油膜を形成し易くする技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−43739号公報
【特許文献2】特開2006−103391号公報
【特許文献3】特開2007−292086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように、ウォーム軸をウォームホイール側へ偏倚可能に構成した場合、ウォーム軸は偏倚方向とは直交する方向(ウォームホイールの歯幅方向)側へも、若干量、揺動偏倚する。このため、ウォームホイールの歯溝に対して、ウォーム軸の歯が傾く。
このため、ウォームホイールの歯溝に対して、ウォーム軸の歯が入り込む側である入口部において、両歯面が強く接触し、歯面間に潤滑剤が入り難くなって歯面間の潤滑状態が悪くなるおそれがある。
【0006】
一方、電動パワーステアリング装置では、ウォームホイールが双方向に回転されるため、ウォームホイールの回転方向に応じて、噛み合い領域の歯溝における入口部と出口部とが、交互に切り換わる。
特許文献2や特許文献3のように、ウォームホイールの歯溝に対して、ウォーム軸の歯をウォームホイールの歯幅方向の一方向へ傾ける場合、ウォームホイールの双方向の回転に対して、歯面間の潤滑状態を良好にすることが困難であった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、ウォームホイールの回転方向に拘らず、歯面間の潤滑状態を良好に維持することができる減速機構および電動パワーステアリング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、請求項1の発明は、電動モータ(18)により回転駆動されるウォーム軸(20)と、前記ウォーム軸と噛み合うウォームホイール(21)と、前記ウォーム軸および前記ウォームホイールをそれぞれ軸受(30,31)を介して回転可能に支持するハウジング(29)と、を備え、前記ウォームホイールの中心軸線(C2)と直交し且つ前記ウォームホイールの歯幅方向(W1)の中央位置(WC)を通過する平面(P)に対して、前記ウォーム軸の中心軸線(C1)が平行にオフセットされている減速機構(19)を提供する。
【0009】
なお、括弧内の英数字は、後述する実施形態における対応構成要素等を表すが、このことは、むろん、本発明がそれらの実施形態に限定されるべきことを意味するものではない。以下、この項において同じ。
また、請求項2のように、前記ウォーム軸は、噛み合い領域(MA)を挟んで軸方向(X1)に対向する第1端部(22)および第2端部(23)を含み、前記第1端部は、前記第2端部よりも前記電動モータ側に配置され、前記ウォーム軸の第2端部は、前記第1端部を中心として、ウォーム軸およびウォームホイールの中心間距離(D1)を増減する方向に揺動可能に支持されるとともに、付勢部材(35)によって前記中心間距離を減じる予圧方向(Y1)に付勢されており、前記ウォームホイールの噛み合い領域における歯溝(44)は、歯すじ方向(H1)に対向する第1歯溝端部(441)と、第2歯溝端部(442)と、を含み、前記第1歯溝端部が、前記第2歯溝端部よりも、前記ウォーム軸の第1端部側に配置されており、前記ウォーム軸からの駆動力を受けている状態で前記ウォームホイールの噛み合い領域の移動方向が、前記ウォーム軸を手前にして前記ウォームホイールを見て前記ウォーム軸の第1端部側に向く左手中指方向(LMF)であるときに、前記予圧方向を左手人指し指方向(LIF)として、前記ウォーム軸の中心軸線のオフセット方向(Z1)が左手親指方向(LTF)に向くとともに、前記ウォームホイールの第1歯溝端部が、前記ウォーム軸の歯が入りこむ入口部になっていてもよい。
【0010】
また、請求項3の発明は、電動モータの駆動力を請求項1または2に記載の減速機構を用いて減速する電動パワーステアリング装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、無負荷のときに、ウォームホイールの中心軸線と直交し且つウォームホイールの歯の歯幅方向の中央位置を通過する平面に対して、ウォーム軸の中心軸線が、平行にオフセットされている。したがって、ウォームホイールの回転方向に拘らず、ウォームホイールの歯溝の入口部において、両歯面の当たりを弱くすることができる。これにより、ウォームホイールの回転方向に拘らず、両歯面間に潤滑剤を入り込み易くして歯面間の潤滑性を向上することができる。
【0012】
具体的には、請求項2の発明のように、バックラッシ除去のために、ウォーム軸の第2端部が第1端部を中心として中心間距離を減じる予圧方向(左手人指し指方向)へ移動可能となっている場合、ウォーム軸は、第1端部を中心として、予圧方向(左手人指し指方向)およびウォームホイールの噛み合い領域の移動方向(左手中指の方向)の双方に直交する方向(左手親指の方向またはその反対方向)にも、若干量、揺動変位する傾向にある。
【0013】
すなわち、ウォームホイールが一方の回転方向に回転されるとき、ウォーム軸は第1端部を中心として、左手親指側へ揺動変位する。これに対して、ウォームをウォームホイールの歯幅方向(左手親指方向)にオフセットしているので、前記第1歯溝端部(入口部)において、歯面間の当たりを弱くすることができる。これにより、歯面間に潤滑剤を入り易くして歯面間の潤滑性を向上することができる。
【0014】
一方、ウォームホイールが他方の回転方向に回転されるとき、ウォーム軸は第1端部を中心として、左手親指方向とは反対側へ揺動変位する。その結果、前記のオフセットと相まって、ウォームホイールの噛み合い領域の歯溝の出口部となっている第2歯溝端部において、歯面間の当たりが強まるが、歯溝の入口部となっている第1歯溝端部において、歯面間の当たりが弱くされるので、歯面間への潤滑剤の入り込みが抑制されることがなく、歯面間の潤滑に支障がない。
【0015】
また、請求項3の発明によれば、電動モータの駆動力を請求項1または2に記載の減速機構を用いて減速する電動パワーステアリング装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態の減速機構を含む電動パワーステアリング装置の模式図であり、電動パワーステアリング装置の概略構成を示している。
【図2】減速機構の概略断面図である。
【図3】図2のIII −III 線に沿って切断された、ウォーム軸の第2端部およびハウジングの断面図である。
【図4】ウォーム軸およびウォームホイールの概略斜視図である。
【図5】ステアリングシャフトの出力軸に一体に連結されたウォームホイールの概略側面図である。
【図6】ウォーム軸を手前にして見た減速機構の模式的側面図である。
【図7】ウォーム軸とウォームホイールの噛み合い領域の模式図であり、無負荷の状態を示している。
【図8】ウォーム軸とウォームホイールの噛み合い領域の模式図であり、ウォーム軸によってウォームホイールが第1回転方向に駆動された状態を示している。
【図9】ウォーム軸とウォームホイールの噛み合い領域の模式図であり、ウォーム軸によってウォームホイールが第2回転方向に駆動された状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下には、添付図面を参照して、本発明の実施形態を具体的に説明する。
図1は、本発明の一実施形態の減速機構19を含む電動パワーステアリング装置1の概略構成を示す模式図である。図1を参照して、電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2に連結されるステアリングシャフト3と、中間軸4を介してステアリングシャフト3と連結されるピニオン軸5と、ピニオン軸5に形成されたピニオン6に噛み合うラック7を有し、自動車の左右方向に延びる転舵軸としてのラックバー8とを備える。ピニオン軸5およびラックバー8により操舵機構としてのラックアンドピニオン機構Aが構成されている。
【0018】
ステアリングシャフト3は、操舵部材2に連なる入力軸9と、ピニオン軸5に連なる出力軸10とに分割されている。これら入力軸9および出力軸10はトーションバー11を介して同一軸線上で相対回転可能に連結されている。
ラックバー8は、図示しない複数の軸受を介して直線往復自在にラックハウジング12に支持されている。ラックバー8の両端部はハウジング12の両側へ突出し、各端部にはそれぞれタイロッド13およびナックルアーム(図示せず)を介して転舵輪14が連結されている。
【0019】
操舵部材2を操作することによりステアリングシャフト3が回転する。このステアリングシャフト3の回転は、ピニオン6およびラック7を介してラックバー8の車体の左右方向への直線往復運動に変換される。これにより、操向輪14の転舵が達成される。
また、操舵部材2に与えられる操舵トルクは、入力軸9および出力軸10間の相対回転変位量に基づいて、ステアリングシャフト3の近傍に設けられたトルクセンサ15が検出する。トルクセンサ15が検出したトルク値は、ECU16(Electronic Control Unit :電子制御ユニット)に与えられる。ECU16は、トルク値や図示しない車速センサから与えられる車速等に基づいて、駆動回路17を介して操舵補助用の電動モータ18を駆動制御する。
【0020】
ECU16の制御によって出力される電動モータ18の回転は、減速機構19により減速され、ステアリングシャフト3の出力軸10に伝達される。出力軸10に伝達された力は、ピニオン軸5を介してラックバー8に伝達される。これにより操舵が補助される。
図2は、図1の電動パワーステアリング装置1に備えられた減速機構19およびその近傍の構成を示す断面図である。図2を参照して、減速機構19は、電動モータ18により回転駆動される駆動ギヤとしてのウォーム軸20と、このウォーム軸20に噛み合う従動ギヤとしてのウォームホイール21とを備える。ウォーム軸20とウォームホイール21の少なくとも噛み合い領域MAには、グリース等の潤滑剤が充填されている。
【0021】
ウォーム軸20は、第1端部22および第2端部23を有し、第1端部22および第2端部23の間である中間部に、ウォーム24が形成されている。第1端部22は、電動モータ18の回転軸25に動力伝達継手26を介して同軸上に連結されている。これにより、電動モータ18の出力が、ウォーム軸20に伝達される。
ウォームホイール21は、出力軸10に一体回転可能に結合された環状の合成樹脂部材27と、合成樹脂部材27の周囲を取り囲み外周に歯が形成された金属部材28とを備える。金属部材28は、例えば合成樹脂部材27の樹脂成形時に金型内にインサートされる。ウォームホイール21は、出力軸10に対して一体回転可能に且つ軸方向移動不能に連結されている。これらウォーム軸20およびウォームホイール21は、ハウジング29内に収容されている。
【0022】
ウォーム軸20の第1端部22には、第1軸受30が配置されている。また、ウォーム軸20の第2端部23には、第2軸受31が配置されている。第1軸受30および第2軸受31としては、例えば転がり軸受が用いられている。
第1軸受30の内輪30bは、第1端部22の外周22aに嵌め合わされ、外輪30aはハウジング29の第1支持孔32に支持されている。また、外輪30aは、第1支持孔32の一端に形成された段部32aと、第1支持孔32に連なるねじ孔33に螺合されたねじ部材34とによってウォーム軸20の軸方向X1に挟持されている。
【0023】
一方、第2軸受31の内輪31bは、第2端部23の外周23aに嵌め合わされ、外輪31aは、付勢部材としての湾曲板バネ35を介してハウジング29の第2支持孔36に支持されている。すなわち、ウォーム軸20は、第1軸受30および第2軸受31を介して、ハウジング29に回転自在に支持されている。
図2および図2のIII −III 線に沿う断面図である図3を参照して、付勢部材としての湾曲板バネ35は、第2軸受31の外輪31aの周囲を取り囲み周方向に有端である主体部37と、主体部37の一対の端部37a,37bによって片持ち状に支持された鉤形(L字形)の弾性舌片38,39とを備えている。
【0024】
ハウジング29の第2支持孔36は、湾曲板バネ35の主体部37により取り囲まれた第2軸受31を、ウォーム軸20とウォームホイール21の中心間距離D1(ウォーム軸20の中心軸線C1とウォームホイール21の中心軸線C2との距離に相当)が増減する方向(中心間距離D1が減少する方向が湾曲板バネ35の付勢方向である予圧方向Y1に相当し、中間間距離D1が増大する方向が予圧方向Y1の反対方向に相当)に移動可能に収容している。
【0025】
ハウジング29の第2支持孔36の内周面36aには、ウォームホイール21とは反対側に凹部40が形成されている。湾曲板バネ35の両弾性舌片38,39は、凹部40内に収容され、凹部40の底40aにより受けられて、弾性変形している。弾性舌片38,39の弾性復元力によって、湾曲板バネ35は、第2軸受31を介して、ウォーム軸20を、ウォーム軸20とウォームホイール21との中心間距離D1を減じる予圧方向Y1に弾性付勢している。これにより、ウォーム軸20のウォームホイール21とのバックラッシがゼロに保たれている。
【0026】
図2に示すように、動力伝達継手26は、電動モータ18の回転軸25に一体回転可能に連結された第1係合部材41と、減速機構19のウォーム軸20の第1端部22に一体回転可能に連結された第2係合部材42と、両係合部材41,42の間に介在し、第1係合部材41から第2係合部材42にトルクを伝達する弾性部材43とを備える。
本実施形態の主に特徴とするところは、図4に示すように、ウォームホイール21の中心軸線C2と直交し且つウォームホイール21の歯46の歯幅方向W1の中央位置WCを通過する平面Pに対して、ウォーム軸20の中心軸線C1が、オフセット方向Z1(ウォームホイール21の中心軸線C2に平行な方向の一方側)にオフセットされている点にある。ウォーム軸20の中心軸線C1は、無負荷のときに、平面Pに対して平行にオフセット量E1でオフセットされている。
【0027】
具体的には、図4に示すように、ウォーム軸20がウォームホイール21の手前に見える状態で減速機構19を見たときに、第1回転方向J1に回転しているウォーム軸20からの駆動力を受けているウォームホイール21の噛み合い領域MAの移動方向が、ウォーム軸20の第1端部22側に向く左手中指方向LMFであるときに、予圧方向Y1を左手人指し指方向LIFとして、オフセット方向Z1が、左手親指方向LTFに向くようにしてある。オフセット方向Z1へのオフセット量E1は、ウォームホイール21の歯幅が例えば12.5mmであるときに、例えば0.1mmである。
【0028】
図4および概略図である図5を参照して、ウォームホイール21の歯溝44は、歯すじ方向H1に対向する第1歯溝端部441と、第2歯溝端部442とを含んでいる。ウォームホイール21の噛み合い領域MAにおける歯溝44では、その第1歯溝端部441が、その第2歯溝端部442よりも、ウォーム軸20の第1端部22側に配置されている。
ウォーム軸20の歯およびウォームホイール21の歯には、互いに等しい進み角が設けられているため、ウォーム軸20がウォームホイール21に駆動力を与えたときに、ウォーム軸20の歯面がウォームホイール21の歯面から受ける駆動反力によって、図6に矢符で示すように、ウォーム軸20が、第1端部22を支点として(具体的には、第1端部22を支持する第1軸受30の軸受中心30cを支点として)、ウォームホイール21の歯幅方向W1へ揺動変位する。駆動反力によるウォーム軸20の揺動の方向は、ウォームホイール21の回転方向に応じて異なる向きとなる。図6では、理解を容易にするため、模式的にウォーム軸20の揺動角を大きくして示してあるが、ウォーム軸20は、実際には、非常に僅かな揺動角で揺動変位する。
【0029】
ウォーム軸20からウォームホイール21に回転駆動力が伝達されていない無負荷の状態では、模式図である図7に示すように、歯溝44の角度に等しい角度でウォーム軸20の歯45が、歯溝44内に入り込んでいる。
一方、通例、右ねじに相当する螺旋の歯45を有するウォーム軸20が右回転して、ウォームホイール21に駆動力を伝達する場合を図8に示す。図8に示すように、ウォーム軸20の歯45の右歯面45Rが、ウォームホイール21の歯46の左歯面46Lと噛み合う。ウォーム軸20の右歯面45Rがウォームホイール21の左歯面47Lから受ける駆動反力RFが、図8において上方向に向く成分RF1を持っているため、ウォーム軸20が、図8において、第1端部22を中心として、上方向(オフセット方向Z1へ)へ揺動変位する。
【0030】
このため、仮に、ウォーム軸20をオフセットさせていない場合には、ウォームホイール21の歯溝44の入口部(この場合、第1歯溝端部441が、ウォーム軸20の歯45が入り込む入口部になっている)において、ウォーム軸20の右歯面45Rとウォームホイール21の左歯面46Lとの当たりが強くなるおそれがある。
これに対して、図8に示すように、ウォーム軸20からの駆動力を受けている状態でウォームホイール21の噛み合い領域MAの移動方向が、ウォーム軸20を手前にしてウォームホイール21を見てウォーム軸20の第1端部22側に向く左手中指方向LMFであるときに、予圧方向Y1を左手人指し指方向LIFとして、ウォーム軸20の中心軸線C1のオフセット方向Z1が左手親指方向LTF(図8において上方向に相当)に向く。
【0031】
このオフセット方向Z1(入口部となっている第1歯溝端部441側)へのオフセットにより、入口部(第1歯溝端部441)において、両歯面45R,46L間の当たりを弱くすることができる。その結果、両歯面45R,46L間への潤滑剤の導入が抑制されることがないので、両歯面45R,46L間の潤滑性を向上することができる。
他方、右ねじに相当する螺旋の歯45を有するウォーム軸20が左回転して、ウォームホイール21に駆動力を伝達する場合を図9に示す。図9に示すように、ウォーム軸20の歯45の左歯面45Lが、ウォームホイール21の歯46の右歯面46Rと噛み合う。ウォーム軸20の左歯面45Lがウォームホイール21の右歯面46Rから受ける駆動反力RGが、図9において上方向に向く成分RG1を持っているため、ウォーム軸20が、図9において、第1端部22を中心として、下方向(オフセット方向Z1の反対方向)へ揺動変位する。
【0032】
このため、ウォームホイール21の歯溝44の入口部(この場合、第2歯溝端部442が入口部になっている)において、ウォーム軸20の左歯面45Lとウォームホイール21の右歯面46Rとの当たりが弱くなる傾向にある。
また、ウォームホイール21の歯溝44の出口部(この場合、第1歯溝端部441が、ウォーム軸20の歯45が歯溝44から出て行く出口部になっている)において、ウォーム軸20の左歯面45Lとウォームホイール21の右歯面46Rとの当たりが強くなる傾向にある。本実施形態では、ウォーム軸20の中心軸線C1のオフセット方向Z1が左手親指方向LTF(図9において上方向に相当)であるため、出口部(第1歯溝端部441)において、両歯面45L,46Rの当たりがより強くなる傾向にあるが、入口部(第2歯溝端部442)において、両歯面45L,46Rの当たりが弱くなるため、歯面45L,46R間への潤滑剤の導入が抑制されることがない。
【0033】
以上のように、本実施形態によれば、無負荷のときに、ウォームホイール21の中心軸線C2と直交し且つウォームホイール21の歯幅方向W1の中央位置WCを通過する平面Pに対して、ウォーム軸20の中心軸線C1が、平行にオフセットされている。したがって、ウォームホイール21の回転方向に拘らず、ウォームホイール21の歯溝44の入口部(図8に示す第1歯溝端部441ないし図9に示す第2歯溝端部442が相当)において、両歯面45R,46L:45L,46R間の当たりを弱くすることができる。これにより、両歯面45R,46L:45L,46R間への潤滑剤の入り込みが抑制されることがないので、両歯面45R,46L:45L,46R間の潤滑性を向上することができる。
【0034】
具体的には本実施形態のようにバックラッシ除去のために、ウォーム軸20の第2端部23が第1端部22を中心として中心間距離D1を減じる予圧方向Y1(左手人指し指方向LIF)へ移動可能となっている場合、ウォーム軸20は、第1端部22を中心として、予圧方向Y1(左手人指し指方向LIF)およびウォームホイール21の噛み合い領域MAの移動方向(左手中指方向LMF)の双方に直交する方向(左手親指方向LTFまたはその反対方向)にも若干量、揺動変位する傾向にある。
【0035】
すなわち、図8に示すように、ウォーム軸20が第1回転方向J1に回転してウォームホイール21が第1回転方向K1に回転されるとき、ウォーム軸20は、第1端部22を中心として、左手親指側へ揺動変位する。これに対して、ウォーム軸20をウォームホイール21の歯幅方向W1(左手親指方向LTF)にオフセットしているので、入口部となっている第1歯溝端部441において、両歯面45R,46L間の当たりを弱くすることができる。その結果、両歯面45R,46L間への潤滑剤の入り込みが抑制されることがないので、両歯面間45R,46Lの潤滑性を向上することができる。
【0036】
一方、図9に示すように、ウォーム軸20が第2回転方向J2に回転してウォームホイール21が第2回転方向K2に回転されるとき、ウォーム軸20は、第1端部22を中心として、左手親指方向LTFとは反対側へ揺動変位する。その結果、ウォームホイール21の噛み合い領域MAの歯溝44の出口部となっている第1歯溝端部441において、両歯面45L,46R間の当たりが強まるが、歯溝44の入口部となっている第2歯溝端部442において、両歯面45L,46R間の当たりが弱くなっている。したがって、両歯面45L,46R間への潤滑剤の入り込みが抑制されることがないので、歯面45L,46R間の潤滑に支障がない。
【0037】
また、電動モータ18の駆動力を前記減速機構19を用いて減速する電動パワーステアリング装置1において、耐久性を向上することができる。
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の請求項記載の範囲内で種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0038】
1…電動パワーステアリング装置、3…ステアリングシャフト、10…出力軸、18…電動モータ、19…減速機構、20…ウォーム軸、21…ウォームホイール、22…第1端部、23…第2端部、29…ハウジング、30…第1軸受、30c…軸受中心(支点)、31…第2軸受、35…湾曲板バネ(付勢部材)、44…歯溝、441…第1歯溝端部、442…第2歯溝端部、45…(ウォーム軸の)歯、45L…左歯面、45R…右歯面、46…(ウォームホイール)の歯、46L…左歯面、46R…右歯面、C1…(ウォーム軸の)中心軸線、C2…(ウォームホイールの)中心軸線、D1…中心間距離、E1…オフセット量、H1…歯すじ方向、MA…噛み合い領域、P…平面、W1…歯幅方向、WC…(歯幅方向の)中央位置、X1…軸方向、Y1…予圧方向、Z1…オフセット方向、LIF…左手人指し指方向、LMF…左手中指方向、LTF…左手親指方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータにより回転駆動されるウォーム軸と、
前記ウォーム軸と噛み合うウォームホイールと、
前記ウォーム軸および前記ウォームホイールをそれぞれ軸受を介して回転可能に支持するハウジングと、を備え、
無負荷のときに、前記ウォームホイールの中心軸線と直交し且つ前記ウォームホイールの歯の歯幅方向の中央位置を通過する平面に対して、前記ウォーム軸の中心軸線が平行にオフセットされている減速機構。
【請求項2】
請求項1において、前記ウォーム軸は、噛み合い領域を挟んで軸方向に対向する第1端部および第2端部を含み、前記第1端部は、前記第2端部よりも前記電動モータ側に配置され、
前記ウォーム軸の第2端部は、前記第1端部を中心として、ウォーム軸およびウォームホイールの中心間距離を増減する方向に揺動可能に支持されるとともに、付勢部材によって前記中心間距離を減じる予圧方向に付勢されており、
前記ウォームホイールの噛み合い領域における歯溝は、歯すじ方向に対向する第1歯溝端部と、第2歯溝端部と、を含み、前記第1歯溝端部が、前記第2歯溝端部よりも、前記ウォーム軸の第1端部側に配置されており、
前記ウォーム軸からの駆動力を受けている状態で前記ウォームホイールの噛み合い領域の移動方向が、前記ウォーム軸を手前にして前記ウォームホイールを見て前記ウォーム軸の第1端部側に向く左手中指方向であるときに、前記予圧方向を左手人指し指方向として、前記ウォーム軸の中心軸線のオフセット方向が左手親指方向に向くとともに、前記ウォームホイールの第1歯溝端部が、前記ウォーム軸の歯が入りこむ入口部になっている減速機構。
【請求項3】
電動モータの駆動力を請求項1または2に記載の減速機構を用いて減速する電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−108569(P2013−108569A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254334(P2011−254334)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】