説明

減速機等の故障予知装置

【課題】 転がり軸受や減速機を対象として、センサを内蔵させてグリース鉄粉含有量を検知し、故障を予知するオンライン用の故障予知装置を提供する。
【解決手段】 励磁コイル11,12と検知コイル13を空気中における相互インダクタンスがゼロになるように配置して形成したセンサコイル部1と励磁回路2と測定回路3とを備え、センサコイル部1は測定対象部品内の潤滑グリースの液中に浸漬するとグリースが流通する1個の貫通孔14を備えて、励磁コイルを励磁回路2に接続して高周波電流を供給し、検知コイル3の誘導電流が貫通孔中の鉄粉量に関連して変化することに基づいて測定回路でグリース中の鉄粉濃度を測定し、その結果から測定対象部品の故障予知をすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受や減速機における故障を予知する装置に関し、特に軸受や減速機のグリースに含まれる鉄粉をオンラインで検出して摩耗による故障を予知する減速機等の故障予知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、自動車産業などの流れ作業による生産ラインには大量のロボットが使用されている。これらロボットが故障すると、生産に及ぼす影響が重大である。
ロボットには、転がり軸受や減速機が大量に用いられており、これらの部品が故障するとロボットが動かなくなり、生産ラインに大きな影響を与える。
なお、軸受や減速機の故障が重大な損害をもたらす分野は、ロボットに限らないことはいうまでもない。
【0003】
こうした重大な損害を防ぐため、故障しそうな部品を見つけ出して故障する前に補修する予防保全を行うことが望まれる。軸受や減速機の異常は振動やこれらに連結された電動機の電流の異常によりオンラインで検知することができる。しかし、振動や電流に異常が発生したときには既に減速機等は故障寸前であることが多く、予防保全に用いる指標としては十分でない。
【0004】
転がり軸受や減速機は運転時間にしたがって転動部などが摩耗し潤滑用のグリースに混ざるようになる。これら部品は異常摩耗による故障が多く、異常摩耗が生じるとグリース中により大量の鉄粉が混ざるようになることから、グリース中の鉄粉量を測定して異常を予知する方法が開発されている。グリース中の鉄粉量は摩耗の進行にしたがって徐々に増加するが、減速機などが故障状態になるかなり前に鉄粉の異常増加として検知することができる。したがって、グリース鉄粉濃度を利用すれば、十分な時間余裕を持って予防保全を行うことができる。
【0005】
グリース鉄粉濃度計やフェログラフィをこのような目的に利用することができる。フェログラフィは、減速機などからサンプリングした潤滑油中の鉄粉を溶剤に溶かして磁石の上に傾けたガラス板の上に流すと鉄粉を大きさ順に分類した状態で捕集することができるので、分取した鉄粉を分析することにより摩耗発生部位の摩耗量や摩耗状態を診断するものである。
【0006】
また、グリース鉄粉濃度計は、図8に示すように、逆接続した同じ形態をした2つの励磁コイルの一方にサンプリングした潤滑油を収納した容器を挿入すると、2つの励磁コイルの差出力を検知する検出コイルに容器中の鉄分濃度にしたがった誘導出力が得られる原理を利用した、いわゆる磁気バランス式電磁誘導型濃度計である。
これらの計器は、潤滑油をサンプリングしてオフラインで計測するもので、保全管理に用いるには不便であって、オンライン計測できる装置が望まれる。
【0007】
特許文献1には、転がり軸受用に開発した、オンラインで使用する磁気バランス式電磁誘導型センサが開示されている。開示されたグリース鉄粉含有量検出センサは、1対の励磁コイルにそれぞれ触針が設けられていて、一方の触針を転がり軸受のシール部材に設けられた軸方向貫通孔を通してグリス内に挿入して使用する。グリス中に挿入された触針が鉄粉を含む磁気回路を形成し、他方の触針は空気中に磁気回路を形成するので、検知コイルには鉄粉の濃度に応じた不平衡起電力が発生する。この起電力を増幅して検知信号とする。
【0008】
磁気バランスの要求から、触針が貫通させられるシール部材はたとえば合成樹脂など透磁率が空気と同じものでなければならないので、測定できる対象が限られ、たとえば減速機など鉄系のハウジングを持つものには適していない。
【特許文献1】特開2003−269470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、転がり軸受や減速機において、センサを内蔵させてグリース鉄粉含有量を検知し、故障予知するオンライン用の故障予知装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の故障予知装置は、励磁コイルと検知コイルを空気中における相互インダクタンスがゼロになるように経絡して形成するセンサコイル部と励磁回路と測定回路とを備え、センサコイル部は測定対象部品内の潤滑グリースの液中に浸漬するとグリースが流通する1個の貫通孔を備えて、励磁コイルを励磁回路に接続して高周波電流を供給し、検知コイルの誘導電流が貫通孔中の鉄粉量に関連して変化することに基づいて測定回路でグリース中の鉄粉濃度を測定し、その結果から測定対象部品の故障予知をすることを特徴とする。
【0011】
空気中や比透磁率が1に近い純粋なグリース中では相互インダクタンスがゼロに近いので、励磁コイルを高周波で励磁しても検知コイルには電流が発生しない。しかし、センサコイル部は測定対象部品内の潤滑グリース中に浸漬され、励磁コイルと検知コイルを貫く貫通孔に潤滑グリースが流通するので、減速機や軸受など測定対象部品の摩耗が進んでグリース中の鉄粉濃度が大きくなると、貫通孔のある部分に磁束が偏り磁気バランスが崩れて相互インダクタンスが現れ、検知コイルに誘導電流が発生する。この誘導電流は鉄粉量に関連するので、測定結果から摩耗量を推定することができる。
【0012】
減速機などは従来から蓄積された技術的知識から摩耗状態と寿命の関係が知られているので、鉄粉濃度から部品の寿命を推定することができる。
そこで、摩耗により劣化の進んだ減速機が見つかったときには、予防的に早期の補修を施すことにより、稼働中の突然の故障を防ぎ減速機の延命を図ることができる。
【0013】
本発明第1の実施態様に係る故障予知装置のセンサコイル部は、第1巻線コイルと第2巻線コイルからなる第1コイル群と、これら1対の巻線コイルを囲繞する第3巻線コイルからなる第2コイル群を備える。第1巻線コイルと第2巻線コイルは合同になっていて互いに逆方向に電流が流れるように直列に結線され、第1巻線コイルにグリースが流通する貫通孔を備える一方、第2巻線コイルはメクラになっていてグリースが流れる通路を備えない。第1コイル群と第2コイル群は前記貫通孔を残して絶縁被覆を施して保護されている。第1コイル群と第2コイル群は、いずれか一方が励磁コイルとして励磁回路に接続され他方が検知コイルとして測定回路に接続される。
【0014】
なお、絶縁被覆は、グリースと同等の1に近い比透磁率を有する材料を用いて形成する。また、検知コイル側の被覆は十分厚くして、鉄粉を含むグリースが検知コイルに影響を与えないようにすることが好ましい。
センサコイル部は転がり軸受や減速機内のグリース中に浸漬するように設置される。
また、2個の巻線コイルを持った第1コイル群を励磁側に使っても、2個の巻線コイルと囲繞する第3の巻線コイルを励磁側に使っても良い。
巻線コイルはプリント基板上に印刷により形成することができる。
【0015】
第1巻線コイルと第2巻線コイルからなる第1コイル群と第3巻線コイルからなる第2コイル群で構成されるセンサコイル部は、転がり軸受や減速機の内部に、潤滑グリースに浸るように設置される。
第1巻線コイルの貫通孔には潤滑グリースが流入し、グリースに含まれる鉄分が第1巻線コイルと第3巻線コイルの間の相互インダクタンスに影響を与える。一方、第2巻線コイルは潤滑グリース中に浸されてもコイルを貫通する芯材が変わらないので、第3巻線との間の相互インダクタンスに大きな変化はない。
【0016】
第1巻線コイルと第2巻線コイルはコイルを流れる電流の向きが逆になっているため、第3巻線コイルにおける総合的な相互インダクタンスは、第1巻線コイルと第2巻線コイルによる相互インダクタンスの差になる。したがって、第3巻線コイルの相互インダクタンスは、第2巻線コイルにおける相互インダクタンスを基準とした第1巻線コイルの相互インダクタンスの値となり、実質的にグリースに含まれる鉄分に対応して決まる値となる。
【0017】
そこで、第1コイル群を励磁回路に接続し第2コイル群を測定回路に接続して、励磁回路から高周波電流を第1巻線コイルと第2巻線コイルに直列に流すと、貫通孔中の鉄粉量に対応した起電力が第3巻線コイルに発生し、測定回路から機器内のグリースに含まれる鉄粉濃度を表す出力信号を得ることができる。
なお、第3巻線コイルに高周波電流を流して、第1巻線コイルと第2巻線コイルに誘起される起電力の差を第1コイル群の端子間の起電力によって観察するようにしても、同じ結果を得ることができる。
【0018】
印刷回路技術を用いてプリント基板上に巻線コイルを形成すると、たとえば10μm程度の精度で極めて精密にコイルを形成することができるので、第1巻線コイルと第2巻線コイルは極めて正確な合同形あるいは対称形になり、微妙で難しい調整を行わなくても、簡単に両者間の電磁バランスを得ることができる。
【0019】
本発明第2の態様に係る故障予知装置は、第1巻線コイルと第2巻線コイルからなるセンサコイル部と、励磁回路と、測定回路とを備えるもので、センサコイル部の第1巻線コイルと第2巻線コイルは、対称軸を共有して互いに直交させて空気中では相互インダクタンスがゼロになるように配置され、共有された対称軸を通る貫通孔が第1巻線コイルと第2巻線コイルに挟まれた位置から対向する位置に当たる第1巻線コイルと第2巻線コイルに挟まれた位置まで形成され、第1巻線コイルと第2巻線コイルはこの貫通孔を残して絶縁被覆を施して保護される。
【0020】
第1巻線コイルが励磁回路に接続され、第2巻線コイルが出力測定回路に接続されて、貫通孔を通るグリース内の鉄粉を検知する。
センサコイル部は、1個の貫通孔が中心を貫く小さな球の形になっていて、減速機等の内部のグリース液面中に浸漬するように設置され、減速機の運転中は貫通孔をグリースが流通する。
【0021】
本発明第2の故障予知装置のセンサコイル部は、空気中や純度の高いグリース中では第1巻線コイルを高周波励磁しても相互インダクタンスがゼロであるため第2巻線コイルには起電力が発生しないが、グリースに鉄粉が含まれるようになると第2巻線コイル中に発生する磁束が貫通孔内の鉄粉に引かれて非対称になり相互インダクタンスが生じるので、第2巻線コイルの両端の間に起電力を発生させる。こうして、この起電力は貫通孔内の鉄粉量と対応するので、電流測定値からグリース鉄粉濃度を知ることができる。
【0022】
本発明の故障予知装置は、センサ部が十分小型に形成できるので、減速機や軸受の中に予め設置しておくことができる。センサを設置した減速機等にグリースを充填して運転すれば、運転時間の経過に従い摩耗した鉄分がグリースに含まれた状態で、貫通孔を通って故障予知装置に検知され、鉄粉含有量から摩耗の進行具合が推定できる。摩耗状態から減速機などの寿命が推定できるので、事前に時間をとって補修することにより、減速機などの延命を図って効率的な運転を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の故障予知装置は、減速機や減速ユニット、あるいは転がり軸受など、摩擦により摩耗した内壁や転動部の磁性体材料が粉末となって潤滑用グリースに混入するような部品を対象として、センサ部分を部品内部のグリースに浸漬する位置に設置して、いわゆる磁気バランス式電磁誘導法によってオンラインで磁性体粉末濃度を検知し、部品の故障を事前に予知して知らせる装置である。
【0024】
以下、図面を用いて本発明の故障予知装置を実施例に基づいて詳細に説明する。
図1から図5は、本発明の第1実施例に係る故障予知装置の説明をする図面、図6と図7は本発明の第2実施例のセンサ部分を示す図面である。
なお、図8は従来のオフライン用グリース鉄粉濃度計の原理図である。
【実施例1】
【0025】
図1は第1実施例のセンサコイル部の平面図、図2は図1におけるII−II切断断面図、図3は故障予知装置のブロック図、図4は本実施例の設置状態を示す断面図、図5は故障予知システムの構成図である。
本実施例の故障予知装置では、図1と図2に示すように、センサコイル部1は、回路基板10上にプリント回路技術によって形成された3個の巻線コイルで構成される。
【0026】
第1の巻線コイル11と第2の巻線コイル12は、互いに合同形もしくは対称形で、電磁気的特性が全く同じになるように形成される。
プリント基板を製作する技術を適用すれば、10μm水準で正確に導線部及び絶縁部を形成することができるので、簡単に全く同形あるいは対称形であって電磁気的に等価の巻線コイルを形成することができる。このため、微妙な磁気バランス調整が不要になる。
また、プリント回路技術を用いることにより、減速機や軸受内部のごく狭い空間に設置できる極めて小型の薄いセンサコイル部1を製作することができる。
【0027】
第1巻線コイル11の中心部には貫通孔14が設けられている。この貫通孔14は、センサコイル部1が減速機内に設置されたときに、潤滑油が流通する部分である。なお、第2巻線コイル12の中心部15は比透磁率が1に近いプリント基板材料で塞がれていて、グリースは第2巻線コイル12の芯部には侵入することができない。
【0028】
2つの巻線コイル11,12を囲繞して第3の巻線コイル13が形成されている。
巻線コイル11,12,13の上から保護被覆16が施されていて、減速機内に設置されたときに鉄粉等がコイルや電気配線部に直接接触しないようにしている。また、保護被覆16はたとえば合成樹脂などグリースと同等の透磁率を持つ材料で形成され、基準となる第2巻線コイル12の電磁気的特性をグリース中の鉄粉濃度の変化に対して安定させる機能も持っている。
また、第2巻線コイル12側の被覆16は十分厚くして、鉄粉を含むグリースが基準となる検知コイルに影響を与えないようになっている。
【0029】
図3に示すように、第1巻線コイル11と第2巻線コイル12は直列接続した上、励磁コイルとして励磁回路2に接続される。また、第3巻線コイル13は検出コイルとして測定回路3に接続される。
第1巻線コイル11と第2巻線コイル12が対称形であるときは一方のコイルの巻き始め位置の端子と他方のコイルの巻き終わり位置の端子を接続し、両コイルが合同形であるときには対称位置にある1端子同士を接続する。
【0030】
このように結線された巻線コイル11,12に励磁回路2から高周波電流を供給すると、両コイルに逆方向の同じ電流が流れる。したがって、両コイルが共に清浄なグリースに浸っているときには、等量の磁束がそれぞれ反対方向に生じるので、磁束が互いに相殺し、2つの巻線コイル11,12を一緒に囲っている第3巻線コイル13には結局磁束が発生しないことになり、測定回路3には検出信号が伝達されない。
【0031】
グリースに鉄粉が含有されているときは、貫通孔を有する第1巻線コイル11の発生する磁束が、第2巻線コイル12で発生する逆方向の磁束より多くなるので、第3巻線コイル13はこの差分の磁束に応じて誘導された電流を測定回路3に伝送する。
【0032】
第3巻線コイル13の誘導電流は、貫通孔14における鉄粉量が多いほど大きくなり、電流値からグリース中の鉄粉量が推定できる。なお、励磁電流の周波数が高い方が検出感度も高いので、励磁電流周波数を用いて装置の感度調整を行うこともできる。
グリース中の鉄粉は、減速機内で摩耗により発生した鉄粉であるから、本実施例の故障予知装置の測定回路3の出力によって減速機内の摩耗状態が推定できる。
【0033】
図4は、ロボットアームに設備される減速機に本実施例のセンサコイル部を設置した状態を示す断面図である。
第1ロボットアーム52に回動可能に第2ロボットアーム53が接続され、第1ロボットアーム52には第2ロボットアーム53を軸周りに回転させるモータ51が設備されている。第1ロボットアーム52と第2ロボットアーム53の関節部にはモータ51の回転を逓減する減速機4が設けられている。
減速機4内には、潤滑用のグリース41が注入されていて、グリースレベル42が形成されている。
【0034】
第1ロボットアーム52が動くと減速機4が回転してグリースレベル42も変動するが、センサコイル部1は、減速機4内のグリースレベル42以下にあって常にグリースに漬かっている位置に固定され、常時グリース中の鉄粉濃度を検知するようにされる。
センサコイル部1で発生した電流は、通信線により測定回路3まで伝送される。測定回路3では、電流値と鉄粉濃度の関係を使って解析して減速機4の摩耗状態を推定し、結果を報知する。
【0035】
なお、第2巻線コイル12が鉄粉を含むグリースに囲まれると、コイルの周りに存在する鉄粉に影響されて検出感度を低下させるので、貫通孔14のある第1巻線コイル11のみがグリース中に漬かり、第2巻線コイル12の部分は空気中に出ているように、センサコイル部1を設置しても良い。
さらに、第1巻線コイル11と第2巻線コイル12に励磁電流を供給する代わりに、これらを囲繞する第3巻線コイル13に励磁電流を供給して、直列接続した第1巻線コイル11と第2巻線コイル12を検出コイルとして使用するようにしても良い。この方法では、モータなどから出る磁気ノイズが2つの逆巻コイルで相殺されるので、検出コイルの出力電流がノイズに影響されにくい利点がある。
【0036】
図5は、ロボットの減速機について故障をオンラインで監視するシステムを表したブロック図である。
ロボットに設置された減速機4にそれぞれセンサコイル部1を組み込んで、センサ出力を測定回路3に伝送する。測定回路3は、センサコイル部1毎に信号増幅器を備えても良いがスキャナアンプを用いて共有化しても良い。測定回路3で生成した鉄粉濃度に対応する濃度値信号は、ロボットコントローラ31に伝送される。
ロボットコントローラ31は入出力装置、演算装置、記憶装置を備えた電子計算機で構成され、減速機の寿命を判断する故障予知演算装置が備えられる。
【0037】
個々の減速機について、グリース中の鉄粉濃度計測データを、稼働中、定期的にロボットのコントローラに取り込み、予め与えた閾値と比較することで、個々の減速機の寿命を判断することができる。
たとえば、鉄粉濃度が0.5%〜1%の範囲では軽微な損傷が発生したと判断し、2%〜4%になると重度の損傷が発生したと判断する。判断結果はコントローラのモニタに表示することができる。
【実施例2】
【0038】
本発明第2実施例の故障予知装置は、センサコイル部を2コイルを用いて球状に形成したもので、センサコイル部以外は上に説明した第1実施例の故障予知装置と変わらない。
図6は第2実施例のセンサ部分の透視図、図7は本実施例の作動原理を説明する概念図である。
【0039】
本実施例のセンサコイル部6は、励磁コイル61と検出コイル62を中心軸を共有して直角に配置し、その中にグリースの流通する1本の貫通孔63を形成したものである。貫通孔63は励磁コイルと検出コイルに対して45度傾くように配置される。
センサコイル部6は貫通孔63を除いてグリースが侵入しない球形に形成されて、減速機などの潤滑グリースの液中に浸漬するように設置される。
【0040】
図7(a)はコイルを貫通する磁束のバランスがとれている場合を示す。図に示すように、貫通孔63に鉄粉が存在しないときに励磁コイル61に励磁電流を流しても、発生した磁束はバランスがとれていて検出コイル62を横切る磁束がないので、検出コイル62における誘導電流はゼロで出力が出ない。
これに対して両コイルに45度で交叉する貫通孔63に流通するグリースに鉄粉が含まれる場合は、図7(b)に示すように、励磁コイル61に発生する磁束の通路が貫通孔63に引きずられてバランスが崩れ、検出コイル62に電流が流れて、信号が出力される。
信号の大きさは、貫通孔63内の鉄粉量に対応する。
【0041】
検出信号は、図5に示したと同様に、増幅回路で増幅して濃度信号に変換し、デジタル化してロボットコントローラに送信される。ロボットコントローラは各減速機について寿命判定をして結果を表示する。
保全担当者は、寿命判断に基づいて寿命が問題になる減速機について、適正な保全計画を作成し、早期に対処することができる。
【0042】
本実施例のセンサコイル部6は、2つのコイルしか使用しないため、センサ部の体積を小さくすることができ、設置場所を選ばないので、各種部品に広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1実施例に係る故障予知装置のセンサコイル部の平面図である。
【図2】図1におけるII−II切断断面図である。
【図3】第1実施例の故障予知装置のブロック図である。
【図4】第1実施例のセンサコイル部の設置状態を示す断面図である。
【図5】第1実施例を利用した故障予知システムの構成図である。
【図6】本発明の第2実施例に係る故障予知装置のセンサコイル部の透視図である。
【図7】第2実施例の作動原理を説明する概念図である。
【図8】従来技術に係るオフライン用グリース鉄粉濃度計の原理図である。
【符号の説明】
【0044】
1 センサコイル部
10 回路基板
11 第1巻線コイル
12 第2巻線コイル
13 第3巻線コイル
14 貫通孔
15 中心部ダミー
16 保護被覆
2 励磁回路
3 測定回路
31 ロボットコントローラ
4 減速機
41 潤滑用グリース
42 グリースレベル
51 モータ
52 第1ロボットアーム
53 第2ロボットアーム
6 センサコイル部
61 励磁コイル
62 検出コイル
63 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励磁コイルと検知コイルを空気中では相互インダクタンスがゼロになるように経絡して形成するセンサコイル部と励磁回路と測定回路とを備え、該センサコイル部は測定対象部品内の潤滑グリースの液中に浸漬するように設置したときに該グリースが流通する1個の貫通孔を備えて、前記励磁コイルを前記励磁回路に接続して高周波電流を供給したときに該貫通孔中の鉄粉により前記励磁コイルと検知コイルにおける磁気バランスが崩れて鉄粉量に関連して発生する前記検知コイルの誘導電流の変化を前記測定回路で検出して前記グリース中の鉄粉濃度から前記測定対象部品の故障予知をする故障予知装置。
【請求項2】
前記センサコイル部は、第1の巻線コイルと第2の巻線コイルからなる第1のコイル群と、これら1対の巻線コイルを囲繞する第3の巻線コイルからなる第2のコイル群を備え、前記励磁コイルと検知コイルはいずれか一方が前記第1コイル群、他方が前記第2コイル群で構成されるもので、前記第1巻線コイルと第2巻線コイルは合同になっていて互いに逆方向に電流が流れるように直列に結線され、該第1巻線コイルに前記貫通孔を備え、第2巻線コイルはグリースが流れないようになっていて、前記第1コイル群と第2コイル群は前記貫通孔を残してグリースと同等の透磁率を有する材料で保護されていることを特徴とする請求項1記載の故障予知装置。
【請求項3】
前記第1から第3の巻線コイルはプリント基板上に印刷により形成されることを特徴とする請求項2記載の故障予知装置。
【請求項4】
前記第1コイル群を励磁回路に接続し、前記第2コイル群を測定回路に接続することを特徴とする請求項2または3記載の故障予知装置。
【請求項5】
前記第1コイル群を測定回路に接続し、前記第2コイル群を励磁回路に接続することを特徴とする請求項2または3記載の故障予知装置。
【請求項6】
前記センサコイル部の前記励磁コイルと検知コイルは、対称軸を共有して互いに直交するように配置され、前記貫通孔が該励磁コイルと検知コイルに挟まれた位置から前記センサコイル部の中心を通って対向する位置に当たる該励磁コイルと検知コイルに挟まれた位置まで形成され、前記センサコイル部は前記貫通孔を残してグリースと同等の透磁率を有する材料で保護されていることを特徴とする請求項1記載の故障予知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−249549(P2008−249549A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−92347(P2007−92347)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】