説明

渦巻きコイル

【課題】内周側の巻線ピッチよりも外周側の巻線ピッチを密にした渦巻きコイルであって且つ支持板やスペーサのような部材を用いないでコイル形状を維持する。
【解決手段】管状の編組線を用い、内周側のターンではコイル径方向の幅が広くなるように編組線を変形させ、外周側のターンではコイル径方向の幅が狭くなるように編組線を変形させ、且つ、各ターンを当接させて、編組線を渦巻き状に巻回する。
【効果】内周側のターンより外周側のターンの編組線のコイル径方向の幅が狭く且つ各ターンが当接しているため、内周側の巻線ピッチよりも外周側の巻線ピッチを密にした渦巻きコイルとなる。各ターンが当接しているため、隣接するターンを融着または接着することで、支持板やスペーサのような部材を用いないで、コイル形状を維持することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦巻きコイルに関し、さらに詳しくは、内周側の巻線ピッチ(隣接するターンの巻線中心間距離)よりも外周側の巻線ピッチを密にした渦巻きコイルであって且つ支持板やスペーサのような部材を用いないでコイル形状を維持しうる渦巻きコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内周側の巻線ピッチよりも外周側の巻線ピッチを密にした渦巻きコイルが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平6−280029号公報([0030]、図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の渦巻きコイルは、石英ガラス面上に固着されることによりコイル形状を維持している。
しかし、石英ガラス面上に固着される前は、各ターンの間に空隙があるため、支持板やスペーサのような部材を用いないとコイル形状を維持できない問題点がある。
そこで、本発明の目的は、内周側の巻線ピッチよりも外周側の巻線ピッチを密にした渦巻きコイルであって且つ支持板やスペーサのような部材を用いないでコイル形状を維持しうる渦巻きコイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1の観点では、本発明は、自己融着絶縁被覆素線(1)を管状に編んだ編組線(2)または自己融着でない絶縁被覆素線(3)を管状に編んだ編組線(4)の外周を絶縁層(5)で被覆しその外周を接着層(6)で被覆した被覆編組線(7)が、各ターンを当接させて渦巻き状に巻回されると共に、最内周ターンでのコイル径方向の前記編組線(2,7)の幅(W1)よりも最外周ターンでのコイル径方向の前記編組線(2,7)の幅(Wn)が狭いことを特徴とする渦巻きコイル(10,20,30,40)を提供する。
上記第1の観点による渦巻きコイルでは、柔らかな管状の編組線を用いるため、容易に変形させることが出来る。そこで、内周側のターンではコイル径方向の幅が広くなるように編組線を変形させ、外周側のターンではコイル径方向の幅が狭くなるように編組線を変形させ、且つ、各ターンを当接させて、編組線を渦巻き状に巻回すれば、内周側の巻線ピッチよりも外周側の巻線ピッチを密にした渦巻きコイルとすることが出来る。そして、各ターンが当接しているため、隣接するターンを融着または接着することで、支持板やスペーサのような部材を用いないで、コイル形状を維持することが出来る。
なお、絶縁被覆素線を編んだ編組線を用いるため、高周波損失を低減できる効果もある。
また、コイル厚は、中心部で薄く、周縁部で厚くなるため、渦巻きコイルの両面または片面は凹面になるから、例えばIHコンロに用いた場合に、渦巻きコイルの凹面を鍋底面の凸面に合わせるように利用することが出来る。
【0005】
第2の観点では、本発明は、前記第1の観点による渦巻きコイルにおいて、各ターンでのコイル径方向の前記編組線(2,7)の幅(Wi)が、前記最内周ターンでのコイル径方向の前記編組線(2,7)の幅(W1)から前記最外周ターンでのコイル径方向の前記編組線(2,7)の幅(Wn)まで連続的に変化していることを特徴とする渦巻きコイル(10)を提供する。
上記第2の観点による渦巻きコイル(10)では、最内周ターンから最外周ターンまで連続的に巻線ピッチ(P1〜Pn)を変化させることが出来る。
【0006】
第3の観点では、本発明は、前記第1の観点による渦巻きコイルにおいて、各ターンでのコイル径方向の前記編組線(2,7)の幅(Wi)が、前記最内周ターンでのコイル径方向の前記編組線(2,7)の幅(W1)から前記最外周ターンでのコイル径方向の前記編組線(2,7)の幅(Wn)まで2段以上で段階的に変化していることを特徴とする渦巻きコイル(20)を提供する。
上記第3の観点による渦巻きコイル(20)では、最内周ターンから最外周ターンまで段階的に巻線ピッチ(P1,P2,P3)を変化させることが出来る。
【0007】
第4の観点では、本発明は、前記第1から第3のいずれかの観点による渦巻きコイルにおいて、渦巻きコイルの一方面で各ターンの端部を平面に揃えたことを特徴とする渦巻きコイル(30,40)を提供する。
上記第4の観点による渦巻きコイル(30,40)では、平面上に設置する場合に、平面と渦巻きコイルの各ターンとを密着させることが出来る。また、例えばワイヤレス給電装置の一次コイルとして用いた場合に、給電対象物の平面状の二次コイルと好適に電磁結合させることが出来る。
【発明の効果】
【0008】
本発明の渦巻きコイルは、内周側の巻線ピッチよりも外周側の巻線ピッチを密にした渦巻きコイルのコイル形状を、支持板やスペーサのような部材を用いないで維持することが出来る。また、編組線を用いてコイルとするため、高周波損失を低減することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0010】
図1は、本発明の渦巻きコイルに用いる編組線2を示す斜視図である。
この編組線2は、自己融着絶縁被覆素線1を管状に編んだものである。
【0011】
図2は、本発明の渦巻きコイルに用いる被覆編組線7を示す斜視図である。
この被覆編組線7は、自己融着でない絶縁被覆素線3を管状に編んだ編組線4の外周を、常温で柔軟性のある例えばフッ素樹脂や塩化ビニル樹脂などの絶縁層5で被覆し、その外周を接着層6で被覆したものである。
【0012】
編組線2は、被覆編組線7よりも柔軟性に優れている。他方、被覆編組線7は、編組線2よりも耐電圧特性および絶縁信頼性に優れている。
【0013】
図3は、実施例1に係る渦巻きコイル10を示す上面図である。図4は、図3のA−A’断面図である。
この渦巻きコイル10は、編組線2または被覆編組線7を、各ターンを当接させて渦巻き状に巻回すると共に、各ターンでのコイル径方向の編組線2,7の幅Wiを、最内周ターンでのコイル径方向の編組線2,7の幅W1から最外周ターンでのコイル径方向の編組線2,7の幅Wnまで連続的に変化させたものである。
【0014】
実施例1に係る渦巻きコイル10によれば、各ターンが当接しているため、隣接するターンを融着(編組線2を用いた場合)または接着(被覆編組線7を用いた場合)することで、支持板やスペーサのような部材を用いないで、コイル形状を維持することが出来る。また、絶縁被覆素線を編んだ編組線を用いるため、高周波損失を低減できる。
【実施例2】
【0015】
図5は、実施例2に係る渦巻きコイル20を示す上面図である。図6は、図5のA−A’断面図である。
この渦巻きコイル20は、編組線2または被覆編組線7を、各ターンを当接させて渦巻き状に巻回すると共に、全ターンの内の内周側の半分ではコイル径方向の編組線2,7の幅を、最内周ターンでのコイル径方向の編組線2,7の幅W1とし、全ターンの内の外周側の半分ではコイル径方向の編組線2,7の幅を、最外周ターンでのコイル径方向の編組線2,7の幅Wnとし、編組線2,7の幅を実質的に2段階に変化させたものである(実質的に2段階というのは、幅がW1からWnへと変化する途中部分を含むターンがあるから)。
【0016】
実施例2に係る渦巻きコイル20によれば、各ターンが当接しているため、隣接するターンを融着(編組線2を用いた場合)または接着(被覆編組線7を用いた場合)することで、支持板やスペーサのような部材を用いないで、コイル形状を維持することが出来る。また、絶縁被覆素線を編んだ編組線を用いるため、高周波損失を低減できる。
【実施例3】
【0017】
図7は、実施例3に係る渦巻きコイル30を示す上面図である。図8は、図7のA−A’断面図である。
この渦巻きコイル30は、実施例1の渦巻きコイル10と同様の構成であるが、渦巻きコイル30の一方面で各ターンの端部を平面に揃えたものである。
【0018】
実施例3に係る渦巻きコイル30によれば、平面上に設置する場合に、平面と渦巻きコイル30の平面に揃えた各ターンの端部とを密着させることが出来る。従って、例えばワイヤレス給電装置やIH装置に用いた場合に渦巻きコイル30から給電対象物や加熱対象物までの距離を短くすることが出来る。
【実施例4】
【0019】
図9は、実施例4に係る渦巻きコイル40を示す上面図である。図10は、図9のA−A’断面図である。
この渦巻きコイル40は、実施例2の渦巻きコイル20と同様の構成であるが、渦巻きコイル40の一方面で各ターンの端部を平面に揃えたものである。
【0020】
実施例4に係る渦巻きコイル40によれば、平面上に設置する場合に、平面と渦巻きコイル40の平面に揃えた各ターンの端部とを密着させることが出来る。従って、例えばワイヤレス給電装置やIH装置に用いた場合に渦巻きコイル40から給電対象物や加熱対象物までの距離を短くすることが出来る。
【実施例5】
【0021】
外径0.1mmの自己融着絶縁被覆素線1の7本単位(概略横に並べる)のものを24組用いて編みピッチ30mmで丸編みとした編組線2にて、内径20mm、外径50mm、ターン数7の渦巻きコイルAを作成した。各ターンでのコイル径方向の編組線2の幅Wiは、最内周ターンでのコイル径方向の編組線2の幅W1≒1mmから最外周ターンでのコイル径方向の編組線2の幅Wn≒4mmまで略直線的に変化させた。従って、巻きピッチPiは、最内周ターンでの巻きピッチP1≒1mmから最外周ターンでの巻きピッチPn≒4mmまで略直線的に変化する。
【0022】
他方、比較例として、各ターンでのコイル径方向の編組線2の幅Wiを、最内周ターンでのコイル径方向の編組線2の幅W1≒2mmから最外周ターンでのコイル径方向の編組線2の幅Wn≒2mmまで一定とし、それ以外の要素は変えないで渦巻きコイルBを作成した。従って、巻きピッチPiは、最内周ターンでの巻きピッチP1≒2mmから最外周ターンでの巻きピッチPn≒2mmまで一定になる。
【0023】
実施例5の渦巻きコイルAについて、各周波数における直列実効抵抗RsとインダクタンスLを測定し、インダクタンス当りの高周波損失係数Rs/Lを求めた。また、比較例の渦巻きコイルBについて、各周波数における直列実効抵抗RsとインダクタンスLを測定し、インダクタンス当りの高周波損失係数Rs/Lを求めた。
【0024】
図11は、実施例5の渦巻きコイルAについての高周波損失係数Rs/Lを比較例の渦巻きコイルBについての高周波損失係数Rs/Lで割った「(Rs/L)の比」の周波数特性図である。
これによれば、約200kHzまでは、実施例5の渦巻きコイルAの方が、比較例の渦巻きコイルBよりも、インダクタンス当りの損失が軽減されている(Qが高くなることと等価)。
【0025】
なお、Rs/Lを指標としたのは、巻きピッチを変えるとインダクタンスLが変化するため、直列実効抵抗Rsのみの単純比較では、コイル動作としての意味が無いためである。
【実施例6】
【0026】
図12は、実施例1に係る渦巻きコイル10を製造する方法の説明図である。
回転する巻芯50に取り付けられた第一フランジ61と第二フランジ62の間に形成される巻線隙間63に、巻きテンションを調節しながら、編組線2,7を巻き込んでゆく。巻線隙間63の隙間幅が中心部では狭く、周縁部では広くなっているため、コイル径方向の編組線2,7の幅は、内周側では広くなり、外周側では狭くなる。
かくして、巻線隙間63の隙間幅と巻きテンションとによって、内周側の巻線ピッチよりも外周側の巻線ピッチを密にした渦巻きコイルを巻回することが出来る。
【0027】
図13に示すように、所定のターン数だけ渦巻き状に巻き終わると、渦巻きコイル10の外形を規制するための押し板71,72により、巻芯50に巻いた渦巻きコイル10の外周面に加圧する。そして、巻き初め側の端部と巻き終わり側の端部の絶縁被覆を除去し、それら端部に通電加熱装置を接続し、通電加熱し、隣接するターンを自己融着させるか接着し、冷却する。これにより、巻芯50から取り外しても、支持板やスペーサのような部材を用いないで、渦巻きコイル10のコイル形状を維持することが出来る。
【0028】
実施例2の渦巻きコイル20は、巻線隙間63の隙間幅を中心部から周縁部へ段階的に変化させれば製造できる。
実施例3の渦巻きコイル30は、第一フランジ61の下面を巻芯50の軸に直交する平面とし、第二フランジ62の上面を中心部から周縁部へ連続的に傾斜させれば製造できる。
実施例4の渦巻きコイル40は、第一フランジ61の下面を巻芯50の軸に直交する平面とし、第二フランジ62の上面を中心部から周縁部へ段階的に変化させれば製造できる。
実施例5の渦巻きコイルAは巻線隙間63の隙間幅を中心部から周縁部へ略直線的に変化させれば製造できるし、比較例の渦巻きコイルBは巻線隙間63の隙間幅を中心部から周縁部まで一定にすれば製造できる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の渦巻きコイルは、例えば電力伝送電気回路や電源回路における空芯のコイル又はトランス、或いはIHヒーターコイル等に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】自己融着絶縁被覆素線を用いた編組線を示す斜視図である。
【図2】自己融着でない絶縁被覆素線を用いた編組線を示す斜視図である。
【図3】実施例1に係る渦巻きコイルを示す斜視図である。
【図4】図3のA−A’断面図である。
【図5】実施例2に係る渦巻きコイルを示す斜視図である。
【図6】図5のA−A’断面図である。
【図7】実施例3に係る渦巻きコイルを示す斜視図である。
【図8】図7のA−A’断面図である。
【図9】実施例4に係る渦巻きコイルを示す斜視図である。
【図10】図9のA−A’断面図である。
【図11】実施例5の渦巻きコイルAについての高周波損失係数Rs/Lを比較例の渦巻きコイルBについての高周波損失係数Rs/Lで割った「(Rs/L)の比」の周波数特性図である。
【図12】巻線のための金型を示す一部破断斜視図である。
【図13】整形のための押し板を示す上面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 自己融着絶縁被覆素線
2,4 編組線
3 自己融着でない絶縁被覆素線
5 絶縁層
6 接着層
7 被覆編組線
10,20,30,40 渦巻きコイル
P1〜Pn 巻きピッチ
W1〜Wn 編組線のコイル径方向の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己融着絶縁被覆素線(1)を管状に編んだ編組線(2)または自己融着でない絶縁被覆素線(3)を管状に編んだ編組線(4)の外周を絶縁層(5)で被覆しその外周を接着層(6)で被覆した被覆編組線(7)が、各ターンを当接させて渦巻き状に巻回されると共に、最内周ターンでのコイル径方向の前記編組線(2,7)の幅(W1)よりも最外周ターンでのコイル径方向の前記編組線(2,7)の幅(Wn)が狭いことを特徴とする渦巻きコイル(10,20,30,40)。
【請求項2】
請求項1に記載の渦巻きコイルにおいて、各ターンでのコイル径方向の前記編組線(2,7)の幅(Wi)が、前記最内周ターンでのコイル径方向の前記編組線(2,7)の幅(W1)から前記最外周ターンでのコイル径方向の前記編組線(2,7)の幅(Wn)まで連続的に変化していることを特徴とする渦巻きコイル(10)。
【請求項3】
請求項1に記載の渦巻きコイルにおいて、各ターンでのコイル径方向の前記編組線(2,7)の幅(Wi)が、前記最内周ターンでのコイル径方向の前記編組線(2,7)の幅(W1)から前記最外周ターンでのコイル径方向の前記編組線(2,7)の幅(Wn)まで2段以上で段階的に変化していることを特徴とする渦巻きコイル(20)。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の渦巻きコイルにおいて、渦巻きコイルの一方面で各ターンの端部を平面に揃えたことを特徴とする渦巻きコイル(30,40)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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