説明

渦磁界を抑制する超伝導フィルム及び積層強磁性体コアを有する電磁石

強磁性体コア(50,72)と、導電性巻線(34,76)を流れる電流が強磁性体コアを磁化するように強磁性体コアの周囲に備えられた導電性巻線と、導電性巻線が強磁性体コアを磁化するときに、強磁性体コアにおける渦電流生成を抑制する渦電流キャンセル超伝導電流を支援するように備えられた超伝導フィルム(60,80,82)と、を有する電磁石について開示している。磁気共鳴スキャナの実施形態は、静止磁界を生成する主磁石(20)と、静止磁界に選択された磁界勾配を重畳する複数の前記電磁石(34,50,60)を有する磁界勾配システム(30)と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴及び関連技術に関する。本発明は、磁気共鳴スキャナへのアプリケーションを得るものであり、以下、特定のアプリケーションを参照して詳述している。しかしながら、以下においては、電磁石又は強磁性体構造を用いる他のアプリケーションへのアプリケーションを得ることができる。
【背景技術】
【0002】
電磁石は、導電性巻線を流れる電流が強磁性体コアを磁化するように、強磁性体コアを貫通する導電性巻線及び強磁性体コアを有する。電磁石は、動的に変化可能な磁界であって、その極性及び磁界強度が導電性巻線を通る電流の方向及び大きさに依存する、磁界を与える(何れかのヒステリシス又は残留磁化効果を無視する)ことが可能である。強磁性体コアは、駆動磁界をかなり強化する又は改善する導電性巻線により生成される磁界の存在下でアライメントする、従って、比較的低い電流で大きい磁界の効率的な生成を可能にする、アライメント化電子スピンの領域を含む強磁性体材料から成る。
【0003】
電磁石は、電子システム及び方法、電磁システム及び方法、電気機械システム及び方法及び他のシステム及び方法における広範なアプリケーションに適用される。そのような一アプリケーションについては、スキャナの検査領域における静止磁界(B0)(または、主磁界と呼ばれる)に選択せれた磁界勾配を重畳する強磁性体コアを磁化するように磁気共鳴スキャナが採用された電磁石について記載されている、2005年12月29日に公開されたOverwegによる国際公開第2005/124381A2号パンフレットに開示されている。他の例示としてのアプリケーションは、交流(AC)モードで動作する電磁石を有するパワーインダクタである。
【0004】
電磁石においては、強磁性体材料は通常、ロッド、バー、又は磁化方向に伸長している他の伸長された要素として形成される鋼等の強磁性体材料であることが可能である。バルクの鋼コア又は他の連続的な強磁性体材料を用いることは、そのような構造が、渦電流、即ち、そのような構造は放熱をもたらす誘起電流ループ、並びに磁界変換効率に対する電力の低減及び損失をもたらす、誘起された電流ループを強く支援するために、厄介である。渦電流を抑制するためには、強磁性体コアを形成するように積層化された強磁性体積層構造を用い、その積層構造は渦電流を散逸することが知られている。
【0005】
しかしながら、そのコアがそれ自体において閉じている場合、端部における磁束の発散及びその結果としての渦電流が積層構造の面内に誘起される。国際公開第2005/124381A2号パンフレットに開示されているタイプの磁気共鳴スキャナの場合、積層構造内を流れる渦電流は、許容できない程に大きい散逸をもたらす程大きい。渦電流は、強磁性体バーの長手方向に沿って意図された磁界方向から磁界が実質的に発散して外れるコアの端部近傍で最も大きい問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2005/124381A2号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、上記の短所及び他の短所を克服する磁界生成、磁界エネルギー蓄積等について意図された、改善された鉄心電磁石について当該技術分野で実現されていない要請が存在している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書において実施例として記載し、図示している特定の例示としての実施形態に従って、電磁石であって:積層強磁性体コアと;導電性巻線内を流れる電流が強磁性体コアにおいて磁界を生成するように強磁性体コアの周囲に備えられた導電性巻線と、導電性巻線が強磁性体コアを磁化するとき、強磁性体コア積層構造における渦電流の発生を抑制することを目的として、超伝導フィルムに誘起された電流が強磁性体コアの積層構造に対して垂直方向の磁界成分を抑制するように備えられた超伝導フィルムと;を有する電磁石について開示している。
【0009】
本明細書における実施例として記載し、図示している特定の更なる例示としての実施形態に従って、磁気共鳴スキャナであって:静止磁界を生成する主磁石と;静止磁界における選択された磁界勾配を重畳する上記の複数の電磁石を有する磁界勾配システムと;を有する磁気共鳴スキャナについて開示している。
【0010】
本明細書における実施例として記載し、図示している特定の例示としての実施形態に従って、磁気共鳴スキャナであって:検査領域において静止磁界を生成する主磁石と;検査領域において磁界勾配を重畳するように備えられた磁界勾配システムであって、磁界勾配システムは、超伝導フィルムが渦電流キャンセル超伝導電流を支援する強磁性体コアを各々有する複数の電磁石を有する、磁界勾配システムと;を有する磁気共鳴スキャナについて開示している。
【0011】
本明細書における実施例として記載し、図示している特定の例示としての実施形態に従って、AC磁界生成方法であって:積層強磁性体コアを有する電磁石が強磁性体コアにおいて磁界を生成することを可能にする段階と;強磁性体コアにおいて渦電流をもたらす積層構造に対して垂直に方向付けられた磁性体コアにおける磁界成分をキャンセルするように積層強磁性体コアの積層構造を平行に備えられた超伝導層において電流を誘起する段階と;を有するAC磁界生成方法について開示している。
【0012】
本発明の一有利点は低減された電磁石加熱にある。
【0013】
本発明の他の有利点は、磁気共鳴スキャナにおける改善された磁界勾配品質にある。
【0014】
更なる本発明の有利点は、以下の詳細説明を読んで理解することにより当業者に明らかになる。
【0015】
本発明の上記の及び他の特徴については、添付図と関連付けて以下の実施形態に基づいて例示として以下の詳述している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】上に斜視図を、そして下の一部切除斜視図に磁気共鳴スキャナ10を示す図である。
【図2】渦電流抑制超伝導電流を支援するように備えられた超伝導フィルムを有するバータイプ電磁石を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1を参照するに、磁気共鳴スキャナ10は、外側磁束帰還シールド12及び内側ボアチューブ14を有するハウジングを有する。図1は、上の斜視図及び下の一部切除斜視図で磁気共鳴スキャナ10を示している。図1の下の図においては、内側ボアチューブ14及び外側磁束帰還シールド12の一部が、選択された内部の構成要素を現すように取り除かれている。
【0018】
外側磁束帰還シールド12及び内側ボアチューブ14は共に真空ジャケットを規定するように密封される。内側ボアチューブ14の内部は検査領域18であり、その検査領域内に、対象物が磁気共鳴イメージング、磁気共鳴分光等のために備えられている。主磁石20が、ボアチューブ14を囲む真空ジャケット16の内側に備えられている。主磁石20は、複数の間隔を置いて離れている一般円環状磁石巻線部22であって、図1においては6つの磁石巻線部を有する。各々の巻線部22は、伝導体であって、好適には超伝導体である複数のターンを有する。例示されている主磁石20は、磁束帰還シールド12より、ボアチューブ14により近接している。図1の実施形態においては6つの巻線部22が含まれているが、円環状磁石巻線部22の数は変更可能である。主磁石20の巻線部22は、主磁界ベクトルがボアチューブ14の軸に対して平行な軸方向又はz方向に沿って方向付けられた、検査領域における実質的に空間的に均一な磁界を生成するように、電磁界シミュレーション、モデリング等を用いて、磁束帰還シールド12と連携してデザインされる。ボアチューブ14は非磁性材料から成るが、外側磁束帰還シールド12は強磁性材料から成り、磁束ループを完成させるための磁束帰還経路を提供する。即ち、主磁石20により生成される磁束は、検査領域18を含むボアチューブ14の内側を通過する閉ループを辿り、磁束帰還シールド12を通過することにより戻って閉じるのである。その結果、主磁石20と磁束帰還シールド12との間の真空ジャケット16内には低磁界領域が存在する。図1の実施形態においては、磁束帰還シールド12はまた、真空ジャケット16の外側部分としての役割を果たすが、他の実施形態においては、別個の磁束帰還シールドが備えられることが可能である。
【0019】
磁界勾配システム30が、主磁石20の外側に且つ磁束帰還シールド12の内側に存在する低磁界領域に備えられている。磁界勾配システム30は、主磁石の軸に対して一般に平行に備えられている強磁性体クロスバー50の周囲に巻かれた複数の磁界勾配コイル34を有する。例示されている実施形態においては、磁界勾配システム30は、複数の一般円環状磁石巻線部22間に備えられた3つの強磁性体リング40、42、44を有するが、それらは省かれることが可能である。磁界勾配コイル34は、クロスバー50を横断するワイヤターン又は他の導体を有する。強磁性体クロスバー50及び導電性巻線34は、主磁石20により生成される均一な磁界に重畳される磁界勾配を生成する電磁石を規定する。磁界勾配システム30は、構造的に左右対称であり、主磁石20と同じ左右対称の面を有する。例示されている磁界勾配システム30は、90°の円環間隔での4つのクロスバー50の配列により与えられた4回回転対称性を有する。各々のクロスバー50は、左右対称な面の両側において巻かれた磁界勾配コイル34を有する。クロスバー/勾配コイルユニット34、50の数は、より多い数に、好適には4の整数倍に増加されることも可能であり、主磁石20の対称軸について等しい角度のインクリメントにより分割されることが可能である。
【0020】
ボアチューブ14により支持されているRF送信/受信コイル52は、真空ジャケット16の外側のボアチューブ14の表面上に備えられた複数のストリップライン導体54を有する。それらのストリップライン導体は、トランスバース電磁(TEM)コイルを構成する周囲の円筒状無線周波数シールド又はバードケージコイルを構成するトランスバース導体リングなどの電流帰還経路(図示せず)と接続される。ストリップライン導体54は、非導電性ボアチューブ14に備えられた又はプリントされた、若しくはボアチューブ14に固定された内側のボアライナ又は別個のプリント回路基板に備えられた又はプリントされた、プリント回路として多様に実施される、又は、ボアチューブ14に接着されたフォイルストリップとして形成されることが可能である。無線周波数シールド又はスクリーン(図示せず)が、ボアチューブ14の周囲に、例えば、ボアチューブ14の真空側に又は主磁石20を囲むシリンダの内側表面上に、備えられる。
【0021】
上記の磁気共鳴スキャナ10に関する更なる情報については、2007年9月20日に公開されたOverwegによる米国特許出願公開第2007/0216409A1号明細書、及び2005年12月29日に公開されたOverwegによる国際公開第2005/124381A2号パンフレットに開示されている。スキャナ10は、強磁性体クロスバー50及び導電性巻線34により規定される電磁石がクロスバー50の表面に近接して備えられる又は位置付けられる超伝導フィルム60を有する点で、上記の参考文献のスキャナと比べて改善されている。本明細書で説明しているように、そのような超伝導フィルム60は、超伝導フィルム60に対して直交するように方向付けられた強磁性体クロスバー50における磁界成分をキャンセルする磁界を生成するように流れる超伝導電流を有利に支援し、クロスバー50におけるそのトランスバース磁界は、そのようにキャンセルされない場合には、強磁性体クロスバー50の積層構造物において渦電流を発生させる。
【0022】
図2を参照するに、バータイプ電磁石70は、図1の磁気共鳴スキャナ10の磁界勾配システム30等の、バータイプ電磁石を用いる何れかのアプリケーションで用いるにはかなり適切である。電磁石70は、Finemet(登録商標)(日立金属株式会社(日本、東京)製)等の高透磁性ナノ結晶性強磁性材料又は鋼等の強磁性材料から成る強磁性体積層構造物74のスタックとして形成されたバータイプ強磁性体コア72を有する。前者のタイプの材料は、鋼材料から成る同等の強磁性体コアに比べて高い透磁性及び低い損失に関連する特定の有利点を有する。導電性巻線76が、導電性巻線76において流れる電流がバータイプ強磁性体コア72の長手方向に沿って一般に方向付けられる磁界Bを生成するように強磁性体コアを磁化するように、強磁性体コア72の周囲に備えられる。導電性巻線76における電流の方向に依存して、磁界Bは、図2に示している方向と比べて、同じ極性か又は逆の極性のどちらかを有することが可能である。導電性巻線76における電流が完全にオフに切り換えられた場合、磁界Bは、実質的にゼロ振幅(強磁性体コア72における何れかのヒステリシス又は残留磁化を無視する)になる。
【0023】
導電性巻線76の線形ソレノイド構成及び強磁性体コア72の細長いバータイプの形状は、強磁性体コア72において誘起される磁界Bが、図示されているように、強磁性体コア72の長手方向と実質的に平行であることを保証するように、組み合わされる。しかしながら、一部の磁界成分は、その長手方向に対して直交するように現れる。これは、バータイプ強磁性体コア72の両端部において最も優勢である。図2においては、強磁性体コア72の長手方向に対して直交するが、強磁性体積層構造物74とは平行である、トランスバース磁界成分Bが示されている。磁界成分Bは強磁性体積層構造物74と平行であるため、強磁性体積層構造物74で実質的な渦電流を誘起することはない。実際には、これは、積層構造物を使用する有利点である。
【0024】
しかしながら、図2に更に示しているように、もうひとつのトランスバース磁界成分Beddyが、強磁性体コア72の端部に優勢に現れ、強磁性体積層構造物74に対して及び強磁性体コア72の長手方向に対して直交している。磁界成分Beddyは強磁性体積層構造物74に対して直交しているため、強磁性体積層構造物74における渦電流を誘起する。そのような渦電流は抵抗的に熱として散逸し、その熱は、能動冷却又は受動冷却の、ある様式で磁性体コア72から取り除かれる必要がある。この熱は、磁界発生装置が室温よりかなり低い温度で動作するようになっている場合に、特に厄介である。超伝導MRI磁石/勾配システムは、そのような低温アプリケーションの実施例である。
【0025】
図2に更に示されているように、電磁石70は、磁性体コア72を構成する強磁性体積層構造物74のスタックの最も外側の2つの積層構造物に近接して備えられる又は位置付けられる。超伝導フィルム80、82は、例えば、図1の磁気共鳴スキャナ10の磁界勾配システム30の電磁石の強磁性体コアにおける超伝導フィルム60に対応することが可能である。超伝導フィルム80、82は、超伝導電流の流れを供給する超伝導相又は超伝導状態にある超伝導材料から成る。超伝導電流は超伝導性電流であり、超伝導体において損失なく流れる電流である。超伝導体の表面に対して垂直に方向付けられた磁界を課すように試みることは、超伝導体を貫通する磁界の垂直成分をキャンセルする又は略キャンセルする磁界を生成する超伝導電流を流すようにする。
【0026】
それらの特性は、下記のような図2の電磁石70に適用されることが可能である。電磁石70が電力供給されるとき、その電磁石は超伝導フィルム80、82がない場合には磁界Beddyを生成し、磁界Beddyはまた、強磁性体積層構造物74における禍電流を散逸させるパワーを生成する。しかしながら、電磁石70は超伝導フィルム80、82を有し、それらの超伝導フィルムは、超伝導フィルム82の面において流れる誘起超伝導電流Jにより磁界Beddyを補償する(そして、明確に図示していないが、超伝導フィルム80の面内でも)。強磁性体積層構造物74に存在する強磁性体積層構造物74に対して直交する正味の磁界は、それ故、第1近似で、Beddy+Bcancel=0である。強磁性体積層構造物74に対して直交する正味の磁界が0であるため、強磁性体積層構造物74の面内に重大な禍電流は生成されないことが理解できる。その散逸は渦電流の電流密度の2乗に比例するため、強磁性体積層構造物74における渦電流の振幅の減少がその散逸をかなり低減する。
【0027】
超伝導フィルム80、82は何れかの超伝導体から成ることが可能である。技術的利便性のために、イットリウムバリウム銅酸化物(YBCO、例えば、YBa2Cu3O7)等の高温超伝導体が利用可能である。超伝導材料は、超伝導電流の大きさが増加するにつれて減少する臨界温度以下で達成される超伝導状態にあるときにのみ、超伝導電流を支援する。YBCO等の高温超伝導材料は、液体窒素の77Kの沸点以下にある低超伝導電流の大きさについての臨界温度を有する。例えば、YBCOは、約95Kの低超伝導電流の大きさについての高臨界温度を示す。超伝導層遷移についての臨界温度以下に超伝導フィルム80、82を維持するように、クライオスタット86(図2にファントムで示されている)が電磁石70を適切に囲んでいる。YBCOが適切な例示としての超伝導材料として説明されているが、特定の他の銅塩材料等の他の高温超伝導材料も超伝導フィルム80、82について用いられることが可能である。更に、高温超伝導材料は実際的に有利である一方、超伝導性を維持する適切に低い温度を提供するように選択されたクライオスタット86を用いて、低温又は中温超伝導材料から成る超伝導フィルム80、82についても考慮されている。
【0028】
図2においては、超伝導フィルム80、82は、強磁性体積層構造物74のスタックの2つの最も外側の積層物の露出している主表面と実質的に同一の広がりを有する。しかしながら、最も大きい渦電流は、バータイプ強磁性体コア72の端部に又はその近傍に形成されるため、一部の実施形態においては、それらの超伝導フィルムは、最も外側の強磁性体積層構造物の端部近傍のみに備えられるように考慮されている。他の考慮された実施形態においては、2つの超伝導フィルム80、82のうちの一のみが備えられることが可能である。
【0029】
例示としての超伝導フィルム80、82は、最も外側の強磁性体積層構造物の露出している主表面にコーティングされる、堆積される、接着される、整形される又は取り付けられる。しかしながら、強磁性体積層構造物74と平行である超伝導フィルムの他の処理も適合することができる。例えば、超伝導フィルムは、強磁性体積層構造物74と平行な表面に且つ強磁性体コア72近傍に備えられることが可能である。強磁性体積層構造物74のスタックの隣接する強磁性体積層構造物間に1つ又はそれ以上の超伝導フィルムを交互配置することも考慮されている。
【0030】
十分に低い温度に超伝導フィルムを維持するように、それらの超伝導フィルムは冷却システムに熱的に接続され、その冷却システムは主磁石20を冷却する冷却システムと同一であることが可能である。効率的に超伝導層から熱を取り出すように、その超伝導層は、好適には、良好な熱伝導性を有する基板(図示せず)と密な熱的接触状態にある。そのような基板は、良好な熱伝導性を有するセラミック材料又は銅等の金属から成ることが可能である。冷却基板が導電性であるが、超伝導性でない場合、その冷却基板は、散逸電流がその冷却基板において誘起されることが回避されるように、磁性体コア72に対向していない超伝導フィルムの側に位置付けられる必要がある。冷却基板は、銅バスバー又は銅ブレード等の熱輸送メンバーにより冷却器に熱的に接続される。代替として、超伝導層の冷却は、液体の凝縮及び蒸着が熱輸送機構としての役割を果たす冷気体の循環又は熱パイプにより達成される。磁性体コア72においては、ある程度の交流磁界により誘起された熱が現れるため、好適には、磁性体コア72の表面と超伝導フィルムとの間に熱遮断薄膜が存在する。この熱遮断薄膜は、予想される磁性体コア72の平衡温度において、超伝導フィルムの温度が、超伝導フィルムが必要なシールド電流を維持することがもはやできない超伝導体の遷移温度以下に保たれる。
【0031】
超伝導フィルム80、82において誘起される超伝導電流は、磁性体コア72から発生する磁界による磁力に繋がる。それらの磁力の方向は、超伝導フィルムが磁性体コア72の表面から押しやられるようなものである。超伝導フィルムのための適切にデザインされた機械的支持構造が、磁性体コア72と接触している位置に又は磁性体コア72の近傍に留まることを保証するように備えられる必要がある。例えば、機械的クランプ構成(図示せず)が、超伝導フィルム80、82をそれらの動作温度に保つために要求される構造から距離を置く又はその構造と一体化されることが可能である。超伝導フィルムの機械的支持はまた、磁性体コア72に対する所定位置に磁化コイル34を保持する構造の一体部品であることも可能である。
【0032】
図示されている超伝導フィルム80、82は、連続的なフィルムとして例示されている。しかしながら、超伝導フィルムにおける渦電流をキャンセルする超伝導電流Jの流れを回避するのに不連続性が実質的に十分でない限り、超伝導フィルムにおけるスリット、孔又は他の不連続性を有することも考慮されている。超伝導フィルムは、目的のために、磁性体コア72から発せられる磁界の垂直成分をキャンセルする、誘起された超伝導電流の方向にスリットラインが平行であるようなパターンのスリットであることが可能である。そのようなスリットパターンは、他の電流パターンが誘起されないようにする有利点を有する。そのようなスリットパターンは、超伝導フィルムを、ネスト化され、短絡された超伝導巻線のアセンブリに変換する。その概念の更なる変更は、そのようにして得られた巻線の各々を広げ、フィンガープリント形状平面超伝導コイルを構成するように直列にそれらを接続することである。本明細書で用いているように、用語“超伝導フィルム”は、フィンガープリント形状平面超伝導コイル又は他の一般の平面超伝導構造等を包含している。上記の超伝導コイルは、それ自体において接地されることが可能であり、その超伝導コイル内を流れる電流は、磁性体コア72から発せられる直交磁界の大きさに比例する。超伝導表面コイルはまた、磁界生成装置の外側に位置付けられた能動電源により任意に駆動されることも可能である。超伝導フィルムが、ネスト化されたターンの各々における動作電流が磁化コイル34における電流に等しいように、個々の巻線に対して副分割される場合、超伝導コイルを規定する駆動コイル及び超伝導表面フィルム80、82は、全ての動作条件下で電流が等しく維持されることを保証するように、直列に接続されることが可能である。そのようにすることにより、磁化コイル及び超伝導表面フィルム80、82は、磁性体コア72が長手方向に磁化される一方、同時に、積層構造物に対して垂直な磁界成分を抑制するという特性を有する1つの単独の複合磁界生成コイルに組み合わされる。そのような複雑な磁化及びシールドコイル等の巻線をどのように整形するかというデザイン上の課題は、磁気共鳴イメージングシステムで一般に用いられるような能動シールド勾配コイルのデザインについての課題と類似している。
【0033】
更に、超伝導フィルムが、能動駆動離散型巻線の形に整形されていない場合、持続的な超伝導電流を回避するように、超伝導フィルム80、82が、銅等の抵抗性導体により橋渡しされた狭いスリットの形にある分散された垂直(normal)領域(図示せず)を有することが考慮されている。そのように備えられる場合、分散された垂直(normal)領域は、磁界Bの変化のレート又は動作周波数を辿るのに十分なレートで、渦電流キャンセル超伝導電流Jの生成及び散逸を可能にするようにする。図1の磁気共鳴スキャナの実施形態においては、例えば、超伝導層60は、電気的時定数が1100秒のオーダーであるように十分な残留表面抵抗を与えるように、分散された垂直(normal)領域を用いて任意にデザインされる。超伝導層60の内側にトラップされた何れかのDC(直流)電流は、その場合、主磁石20により生成された静止磁界(B0)の静止均一性が損なわれないように、減衰する。
【0034】
図1の磁気共鳴スキャナ10に戻って参照するに、電磁石は、一般に円環状の磁石巻線部22を冷却するように用いられる同じクライオスタットを用いることにより、超伝導フィルム60についての超伝導状態を維持するように適切に冷却される。外側の磁束帰還シールド12及び内側のボアチューブ14は、真空ジャケットを規定するように共に密封されている。このジャケットについては図1に詳細に示されていないが、その真空ジャケットは、液体窒素又は液体ヘリウム等の1つ又はそれ以上の極低温液体を有する1つ又はそれ以上の冷却層を有する複数の層と、極低温層のための熱遮断を提供する、囲んでいる真空層又は領域と、を有することが可能である。従って、超伝導フィルム60の冷却は、磁気共鳴スキャナ10への実質的な極低温ハードウェアの付加を必要としない。
【0035】
渦電流を散逸するために本明細書で開示されている技術は、他のアプリケーションにおいて、例えば、鋼又は他の強磁性体材料、若しくはFinemet(登録商標)等の高透磁性ナノ結晶性強磁性体材料から構成される強磁性体積層構造物のスタックから構成される開ループ強磁性体コアを有するパワーインダクタにおいて用いられることが可能である。そのようなパワーインダクタにおける導電性巻線は、開ループ強磁性体コアと一次巻線との組み合わせが電磁石としての役割を果たすように、その導電性巻線の端子においてAC一次電圧を印加することによりエネルギー供給される。そのような装置の目的は、種々のアプリケーションについて用いられることが可能である強磁性体コアの端部間の適切に整形されたAC磁界を生成することである。この場合、強磁性体コアの端部は、有効磁界の形状を規定する上で支援するように整形されることが可能である。有効なアプリケーションは、荷電粒子ステアリング、電磁性加熱、磁気整形、磁気推進、磁気分離等についての装置に含まれる。パワーインダクタはまた、例えば、電力分配システムにおけるサージを抑制するように、高電流回路における低損失反力負荷として用いられることが可能である。そのようなパラーインダクタにおいてはまた、渦電流を散逸させるエネルギーを生成する強磁性体積層構造物に対して直交して方向付けられた偶発性の磁界Beddyを生成する可能性がある。実際には、パワーインダクタンスにおける渦電流は、それらのパワーインダクタンスに悪影響を及ぼす既知の因子である。渦電流を抑制するように、渦電流キャンセル超伝導電流を支援するように、パワーインダクタンスの強磁性体積層構造物のスタックの最も外側の強磁性体積層構造物の露出した主表面に又はその主表面に近接して適切に備えられる。
【0036】
例示としての超伝導フィルム60、80、82は、関連電磁石における渦電流を抑制する上でかなりの効果を有することが予測される。しかしながら、他の対策が任意に、渦電流を更に抑制するためにとられることが可能である。例えば、渦電流を更に抑制するための強磁性体積層構造物74の使用については既に例示している。他の手段としては、渦電流を誘起するように方向付けられた磁界Beddyを低減するようにバータイプ強磁性体コアの端部近傍に導電性巻線を適合させることがある。例えば、渦電流を誘起するように方向付けられた磁界Beddyを推測的に決定することにより、補償の導電性巻線が、渦電流キャンセル超伝導電流Jに対応するように付加されることが可能である。換言すれば、その超伝導フィルムは、渦電流キャンセル超伝導電流Jに等しい電流を生成する非超伝導導電性巻線により置き換えられる又は補完されることが可能である。
【0037】
例示としての超伝導フィルム60、80、82は渦電流を抑制する。しかしながら、超伝導フィルムは、磁気感応性構成要素又は領域と対向している電磁石の一部の終結が存在しない浮遊磁界を確かなものとするシールドとしての役割を果たすように、他の目的で電磁石に組み込まれることが可能である。
【0038】
本発明については上で、好適な実施形態を参照して詳述している。上記の詳細説明を読んで理解するときに、当業者には、修正及び変形が想起できる。本発明は、同時提出の特許請求の範囲に入るような修正及び変形、又はそれらと同等のものを全て包含するように意図されている。表現“を有する”は、請求項において挙げられた以外の要素又はステップの存在を排除するものではない。要素の単数表現は、それらの要素の複数の存在を排除するものではない。開示されている方法は、複数の別個の要素を有するハードウェアにより、そして適切にプログラムされたコンピュータにより実行されることが可能である。複数の手段を列挙している装置請求項においては、それらの手段の幾つかが、コンピュータ読み出し可能ソフトウェア又はハードウェアと同一のアイテムにより実施されることが可能である。特定の手段が互いに異なる独立請求項に挙げられていないことのみで、それらの手段の組み合わせが有利に用いられないことを示さない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層強磁性体コア;
導電性巻線における電流が前記強磁性体コアにおいて磁界を生成するように、前記強磁性体の周囲に備えられた導電性巻線;及び
超伝導フィルムにおいて誘起された電流が前記強磁性体コアの積層構造に対して垂直な、前記強磁性体コアにおける前記磁界の成分を抑制するように、積層強磁性体コアの積層構造と平行に備えられている超伝導フィルム;
を有する電磁石。
【請求項2】
前記積層強磁性体コアは伸長されていて、導電性巻線は、強磁性体コアの伸長方向に対して直交して方向付けられた導電性ループを規定し、前記超伝導フィルムは前記強磁性体コアの前記伸長方向と平行に方向付けられている、請求項1に記載の電磁石。
【請求項3】
前記超伝導フィルムは:
前記積層強磁性体コアの反対の面に備えられた2つの超伝導フィルム;
を有する、請求項2に記載の電磁石。
【請求項4】
前記超伝導フィルムは、前記積層構造と平衡に前記積層強磁性体コアの表面に備えられている、請求項1に記載の電磁石。
【請求項5】
前記導電性巻線における電流は実質的に磁化方向に沿って前記強磁性体コアを磁化し、前記超伝導フィルムは前記磁化方向と平行であるように電気強磁性体コアの周囲に前記導電性巻線が備えられている、請求項1に記載の電磁石。
【請求項6】
前記積層強磁性体コアの前記積層構造はナノ結晶強磁性体材料から成る、請求項1に記載の電磁石。
【請求項7】
前記積層強磁性体コアはナノ結晶強磁性体材料から成る平行な積層構造のスタックを有し、前記超伝導フィルムは、前記スタックの反対側に備えられた2つの超伝導フィルムを有する、請求項1に記載の電磁石。
【請求項8】
前記超伝導フィルムは、永久超伝導電流を抑制するのに有効な垂直領域を有する、請求項1に記載の電磁石。
【請求項9】
磁気共鳴スキャナのための磁界勾配システムであって、該磁界勾配システムは請求項1に記載の複数の電磁石を有する、磁界勾配システム。
【請求項10】
静止磁界を生成する主磁石と、静止磁界において選択された磁界勾配を重畳する請求項1に記載の複数の電磁石を有する磁界勾配システムと、を有する磁気共鳴スキャナ。
【請求項11】
前記磁界勾配システムの少なくとも前記複数の電磁石及び前記主磁石の両方を有する真空ジャケット;
を更に有する請求項10に記載の磁気共鳴スキャナ。
【請求項12】
強磁性体コアにおいて磁界を生成するように積層強磁性体コアを有する電磁石に電力供給する段階;及び
前記強磁性体コアにおいて渦電流を生成する積層構造に対して垂直に方向付けられた強磁性体コアにおける磁界の電流をキャンセルするように前記積層強磁性体コアの前記積層構造と平行に設定された電流を誘起する段階;
を有するAC磁界生成方法。
【請求項13】
前記強磁性体コアにおいて渦電流を生成する積層構造に対して垂直に方向付けられた強磁性体コアにおける磁界の電流をキャンセルするように前記積層強磁性体コアの前記積層構造と平行に設定された超伝導層における電流を誘起する段階;
を有する請求項12に記載のAC磁界生成方法。
【請求項14】
前記積層構造に対して垂直に方向付けられた前記強磁性体コアにおける前記磁界の成分を推測的に決定する段階;
前記積層構造に対して垂直に方向付けられた前記強磁性体コアにおける前記磁界の前記成分をキャンセルするように電力供給のために用いられる導電性巻線を調整する段階;
を有する請求項12に記載のAC磁界生成方法。
【請求項15】
主磁界を生成し、前記主磁界に選択された磁界勾配を重畳するのに有効であるように誘起する段階;
を有する請求項12に記載のAC磁界生成方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−508415(P2011−508415A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−539030(P2010−539030)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【国際出願番号】PCT/IB2008/055445
【国際公開番号】WO2009/081361
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】