説明

渦電流式組織判別方法

【課題】標準試料や被測試料の測定装置へのセッティングが比較的ラフでも正確な材料比較判別を実現する。
【解決手段】標準試料と被測試料を貫通型渦流センサの内部に配置し、貫通型渦流センサのセンサコイルの抵抗値成分とインダクタンス成分のデータを測定することにより標準試料と被測試料との組織差を検出する渦電流式組織判別方法において、標準試料と被測試料を貫通型渦流センサの内部で移動させて標準試料データ動特性関数f(Xs)と被測試料データ動特性関数f(Xm)を求め、標準試料データ動特性関数と被測試料データ動特性関数の距離Lを算出し、この距離Lに基づいて標準試料と被測試料の組織差を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の非破壊判別方法に関し、特に、渦電流を使用して基準となる試料に対して材料の違いを検出する渦電流式組織判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非破壊の金属組織比較判別方法として、渦電流式組織判別方法が知られている。
以下、従来の渦電流式組織判別方法の一例について説明する。
【0003】
図1は、渦電流式組織判別方法において使用される渦流センサの例を示す図である。渦流センサ1a,1bは、ケース2a,2bの中央部を貫通して設けられた円形状(図1(a))または角形状(図1(b))の筒状部に励磁コイルと検出コイルとの二重構造で構成されたコイル3a,3bが巻装された構成を有しており、筒状部の内側が測定エリア4a,4bとなっている。渦流センサ1a,1bのコイル3a,3bからはコイルリード線5a,5bが導出されている。なお、渦流センサ1a,1bを区別する必要がないときは、渦流センサ1と総称し、測定エリア4a,4bを区別する必要がないときは、測定エリア4と総称する。
【0004】
検査に際しては、渦流センサ1a,1bの測定エリア4a,4bに被測試料(図示せず)を配置し、コイルリード線5a,5bを介してコイル3a,3bに交流電流を流して測定エリア4a,4b内の被測試料に交流磁界をかけ、被測試料で発生する渦電流の違いにより被測試料の材料比較判別を行う。
【0005】
具体的には、まず、被測試料で発生する渦電流によって被測試料の導電率・比透磁率を測定するために、被測試料に対する渦流センサのコイルのインピーダンスをベクトル量としてX−Y平面に表示する。
【0006】
次に、標準試料に対しても同様にベクトルインピーダンスを測定し、標準試料のベクトルインピーダンスと被測試料のベクトルインピーダンスとを比較することによって材料判別を行う。
【0007】
なお、一般に測定感度を高めるために、別に用意した基準試料(図示せず)に対して同様に測定し、標準試料或いは被測試料のベクトルインピーダンス対して、基準試料のベクトルインピーダンスを差し引き、この差分をX−Y平面に表示するようにしている。
【0008】
以下、従来の組織比較判別方法について、エンジンなどで使用されるカムシャフトのジャーナル部の組織比較判別を例に挙げて説明する。
【0009】
図2は、測定の対象となるカムシャフト6の形状を示す図である。カムシャフト6は、軸部7の中間にカム部8が設けられ、端部にカムシャフト端部9が設けられている。なお、図2、図3において、符号15はジャーナル部である。
【0010】
図3は、渦電流測定装置においてカムシャフト6を測定する際のカムシャフト6と渦流センサ1との位置的な関係を模式的に示す図である。測定に際しては、3種類のカムシャフトを用意する。すなわち、基準試料として基準カムシャフト6aを用意し、被測試料として、標準試料となる標準カムシャフト6bと、検査の対象となる、すなわち、組織判別する被測カムシャフト6cを用意する。なお、カムシャフトの種類を区別する必要がないときはカムシャフト6と総称する。
【0011】
また、渦流センサ1として、基準渦流センサ1cと被測渦流センサ1dを用意する。なお、基準渦流センサ1cと被測渦流センサ1dを区別する必要がないときは、渦流センサ1と総称する。
【0012】
測定に際しては、渦流センサ1c,1dの貫通部(図1参照)にカムシャフト6a,6b,6cのカムシャフト端部9a,9b,9cが潜った状態として、カムシャフト端部9a,9b,9cが測定エリア4a,4b(図1参照)内に位置するようにする。
【0013】
以下、従来の組織比較判別方法による測定手順について説明する。
ステップ1:基準試料となる基準カムシャフト6aを基準ベクトルインピーダンス測定側、すなわち基準渦流センサ1c側にセットする。
ステップ2:被測カムシャフトとして、標準試料(標準カムシャフト6b)を、被測ベクトルインピーダンス測定側(被測渦流センサ1d)側にセットする。
ステップ3:基準渦流センサ1c、被測渦流センサ1dをカムシャフト6a,6bの所定カムシャフト端部9a,9bに移動させる(図3参照)。
ステップ4:この状態で、基準ベクトルインピーダンスと被測ベクトルインピーダンスとの差を求め、X−Y平面上に記録する。
ステップ5:基準渦流センサ1cと被測渦流センサ1dの両方を元の位置に戻す。
ステップ6:別の標準試料(標準カムシャフト)を用いて前記ステップ2〜ステップ5を繰り返し、被測ベクトルインピーダンスとの差を求め、X−Y平面上に記録する。図4は、ベクトルインピーダンスの測定結果の例を示すグラフである。X軸は抵抗成分を示す実軸であり、Y軸はインダクタンス成分を示す虚軸である。複数の標準試料(標準カムシャフト)の測定結果がデータR1(Xr1,Yr1)、・・・・、Rn(Xrn,Yrn)として示されている。
ステップ7:ステップ2〜ステップ5を操り返すことによって得られたベクトルインピーダンスに基づいて公差域ref(図4参照)を設定する。
ステップ8:組織判別するカムシャフト(被測カムシャフト6c)を被測ベクトルインピーダンス測定側(被測渦流センサ1d側)にセットし、渦流センサをカムシャフト端部に移動させる。
ステップ9:基準ベクトルインピーダンスと被測ベクトルインピーダンスとの差を求め、X−Y平面上に記録する。
ステップ10:ステップ9のX−Yデータが公差域ref内にあれば合格(良品)、公差域ref外であれば不合格(不良品)と判定する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記の従来の測定方法では次のような問題がある。
a.鋳物のカムシャフトなどでは鋳肌の荒れや寸法のバラツキがあるため、測定するカムシャフト(標準試料や被測カムシャフト)を被測ベクトルインピーダンス測定側にセットする場合、被測センサに対して毎回セット位置が若干変動してしまう。この変動により、基準ベクトルインピーダンスと被測ベクトルインピーダンスとの差に違いが発生し、正確な材料判別ができないことがある。
b.上記a.の問題を解消するために、マイクロメータ等を用いて被測カムシャフトのセット位置を定めても鋳肌が荒れた試料であるため、マイクロメータの測定端子が接触する位置によってはセット位置は変動してしまう。
c.カムシャフトのカム部を測定する場合、被測カムシャフトを正しくセットしても、製品バラツキにより当該カム位置が異なる場合があり、組織判別の正確さに大きな影響を及ぼしてしまう。
【0015】
本発明は、上記の従来の測定方法の問題点に鑑み、被測試料のセット位置が変動しても正確に組織比較判別を行える渦電流式組織判別方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1においては、標準試料と被測試料を貫通型渦流センサの内部に配置し、前記貫通型渦流センサのセンサコイルの抵抗値成分とインダクタンス成分のデータを測定することにより前記標準試料と前記被測試料との組織差を検出する渦電流式組織判別方法において、前記標準試料を前記貫通型渦流センサの内部で移動させ、前記標準試料に対する前記センサコイルの複数組の抵抗値成分とインダクタンス成分のデータを測定し、前記標準試料のセンサコイルの抵抗値成分とインダクタンス成分をX−Y平面上で表したときの標準試料データ動特性関数を求め、前記被測試料を前記貫通型渦流センサの内部で移動させ、前記被測試料に対する前記センサコイルの複数組の抵抗値成分とインダクタンス成分のデータを測定し、前記被測試料のセンサコイルの抵抗値成分とインダクタンス成分をX−Y平面上で表したときの被測試料データ動特性関数を求め、前記標準試料データ動特性関数と前記被測試料データ動特性関数の距離を算出し、前記距離に基づいて前記標準試料と前記被測試料の組織差を検出するものである。
【0017】
請求項2においては、前記標準試料データ動特性関数を、前記センサコイルの2組の抵抗値成分とインダクタンス成分のデータから求め、前記被測試料データ動特性関数を、前記センサコイルの1組の抵抗値成分とインダクタンス成分のデータと、前記標準試料データ動特性関数の傾きから求めるものである。
【0018】
請求項3においては、標準試料と被測試料を貫通型渦流センサの内部に配置し、前記貫通型渦流センサのセンサコイルの抵抗値成分とインダクタンス成分のデータを測定することにより前記標準試料と被測試料との組織差を検出する渦電流式組織判別方法において、前記標準試料を前記貫通型渦流センサの内部で長軸を中心に回転させ、前記標準試料に対する前記センサコイルの複数組の抵抗値成分とインダクタンス成分のデータを測定し、前記標準試料のセンサコイルの抵抗値成分とインダクタンス成分をX−Y平面上で表したときの標準試料データ軌跡を求め、前記標準試料を前記貫通型渦流センサの内部で移動させ、前記標準試料に対する前記センサコイルの複数組の抵抗値成分とインダクタンス成分のデータを測定し、前記標準試料のセンサコイルの抵抗値成分とインダクタンス成分をX−Y平面上で表したときの標準試料データ動特性関数を求め、前記被測試料を前記貫通型渦流センサの内部で長軸を中心に回転させ、前記被測試料に対する前記センサコイルの複数組の抵抗値成分とインダクタンス成分のデータを測定し、前記被測試料に対する前記センサコイルの抵抗値成分とインダクタンス成分をX−Y平面上で表したときの被測試料データ軌跡を求め、前記標準試料データ軌跡と前記被測試料データ軌跡と前記標準試料データ動特性関数に基づいて、前記標準試料データ軌跡と前記被測試料データ軌跡との間の距離を算出し、前記距離に基づいて前記標準試料と前記被測試料の組織差を検出するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明においては、貫通型渦流センサに対して標準試料を移動させてデータ動特性関数を求め、この標準試料データ動特性関数に基づいて組織差を検出しているので、貫通型渦流センサに対する試料の位置がずれた場合でも、試料の良否を正確に判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】渦電流式組織判別方法において使用される渦流センサの例を示す図である。
【図2】測定の対象となるカムシャフトの形状の一例を示す図である。
【図3】カムシャフトと渦流センサとの位置的な関係を示す図である。
【図4】ベクトルインピーダンスの測定結果の例を示す図である。
【図5】複数の標準カムシャフトの測定データと複数の被測カムシャフトの測定データを示す図である。
【図6】第1の実施例の組織判別方法を説明するための図である。
【図7】第2の実施例において検査の対象となるカムシャフトの形状の一例を示す図である。
【図8】カムシャフトを測定する際のカムシャフトと渦流センサとの位置的な関係を示す図である。
【図9】軸中心のずれに起因する判別誤りを説明するための図である。
【図10】カムシャフトの回転に伴ってベクトルインピーダンスのデータが変動することを説明するための図である。
【図11】第2の実施例による組織判別手順を説明するための図である
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の渦電流式組織判別方法の第1の実施例について説明する。
【0022】
本発明の第1の実施例における基本的な測定系の構成は、図3に示されるものとほぼ同じあるので重複説明は省略するが、渦流センサ1dに対するカムシャフト6bのカムシャフト端部9bの位置を、矢印Z1で示されるように、カムシャフト6bの長軸方向に移動させることが可能になっている点が異なっている。
【0023】
以下、第1の実施例による判別方法について説明する。
【0024】
ステップ11:基準試料である基準カムシャフト6aを基準ベクトルインピーダンス測定側(基準渦流センサ1c側)にセットする。
【0025】
ステップ12:標準試料である標準カムシャフト6bを被測ベクトルインピーダンス測定側(被測渦流センサ1d側)にセットする。
【0026】
ステップ13:基準渦流センサ1cと被測渦流センサ1dを基準カムシャフト6a,標準カムシャフト6bのカムシャフト端部9a,9bに移動させる。
【0027】
ステップ14:この状態で基準ベクトルインピーダンスと被測ベクトルインピーダンスとの差を求め、X(実軸)−Y(虚軸)平面上に記録する。
【0028】
ステップ15:標準カムシャフト6bを被測渦流センサ1dの内部で(矢印Z1方向)長軸方向に若干移動させ、再度基準ベクトルインピーダンスと被測ベクトルインピーダンスとの差を求め、データをX−Y平面上に記録する。必要に応じて、標準カムシャフト6bを更に移動させ複数組のベクトルインピーダンス差をX−Y平面上に記録する。
【0029】
ステップ16:基準渦流センサ1cと被測渦流センサ1dを元の位置に戻す。
【0030】
ステップ17:測定するカムシャフト(標準カムシャフト6b)を別の標準カムシャフトと交換し、上記ステップ13〜16を繰り返し、公差巾W(図6参照)を設定する。
【0031】
ステップ18:組織判別するカムシャフト(被測カムシャフト6c)を被測ベクトルインピーダンス測定側(被測渦流センサ1d側)にセットし、渦流センサをカムシャフト端部に移動させる。
【0032】
ステップ19:基準ベクトルインピーダンスと被測ベクトルインピーダンスとの差を測定し、X−Y平面上に記録する。図5は、複数の標準カムシャフトの測定データS1(Xs1,Ys1)、・・・、Sn(Xsn,Ysn)と複数の被測カムシャフトの測定データM1(Xm1,Ym1)、・・・、Mn(Xmn,Ymn)を示す図である。
【0033】
ステップ20:ステップ19のX−Y平面データから算出される標準試料(標準カムシャフト6b)のX,Y領域でのデータ動特性関数f(Xs)からの距離Lが、公差巾W内にあれば合格(良品)、公差巾W外であれば不合格(不良品)と判定する(図6参照)。
【0034】
次に、組織判別方法について詳細に説明する。図6は第1の実施例の組織判別方法を説明するための図である。
【0035】
標準試料(標準カムシャフト6b)のX,Y領域でのデータ動特性関数f(Xs)は、下式に示すように、標準試料を測定して得た2組のX,YデータS1(X1,Y1),S2(X2,Y2)から求めている。
【0036】
(数1)
f(Xs)=m・X+C
(数2)
m=(Y2−Y1)/(X2−X1)
(数3)
C=(f(X1)+f(X2)−m・(X1+X2))/2
【0037】
また、被測試料(被測カムシャフト6c)のX,Y領域でのデータ動特性関数f(Xm)は被測試料を測定して得た1組のX,YデータMa(Xa,Ya)と、標準試料のデータ動特性関数f(Xs)の傾きmから求めている。
【0038】
金属材料の組織が異なると、金属の導電率より比透磁率が大きく変化し、センサコイルのインダクタンスが比較的大きく変動するため、データ動特性関数f(Xm)の軌跡はデータ動特性関数f(Xs)と一定の距離を保った直線状になるので、1組のX,YデータMa(Xa,Ya)とデータ動特性関数f(Xs)の傾きmからデータ動特性関数f(Xm)を求めることができる。
【0039】
先に述べたように、被測試料の合否の判定は、データ動特性関数f(Xs)からの距離Lに基づいて行われるが、データ動特性関数f(Xs)とf(Xm)との間の距離は、下の式により求められる。なお、データMa(Xa,Ya)を通るY軸方向の直線が、データ動特性関数f(Xs)と交わる位置のデータをA1(Xα,Yβ)とする。
(数4)
L=D・Cosθ
(数5)
D=Yβ−Ya=m・Xa+C−Ya
(数6)
Cosθ=(X2−X1)/√((X2−X1)+(Y2−Y1)
【0040】
上述した第1の実施例には以下の効果がある。
(1)標準試料や被測試料の測定装置へのセッティングが比較的ラフでも正確な材料比較判別を実現することができ、材料比較判別を短時間で実施可能である。
(2)図4の例のように、二つの被測カムシャフトの被測データM1(Xm1,Ym1)とM2(Xm2,Ym2)を比較した場合、従来の測定法では被測データM1に対応する被測試料(被測カムシャフト)の方が標準材質に近い金属組織と判定されてしまうが、第1の実施例の判定方法ではデータ動特性関数f(Xm)の軌跡を判定情報とするため、被測データM2に対応する被測試料(被測カムシャフト)が標準材質に近いと正しく判定される。
【0041】
なお、上記第1の実施例においては、基準試料を固定して標準試料と被測試料を移動させているが、標準試料と被測試料を渦流センサの内部に固定し、基準試料を移動させるようにしてもよい。
【0042】
以下、この第1の実施例の変形例について簡単に説明する。
標準試料(標準カムシャフト)は渦流センサの内部に固定し、基準試料(基準カムシャフト)を渦流センサの内部で移動させることによって、基準試料に対するセンサコイルの複数組のX(抵抗値成分)データ,Y(インダクタンス成分)データを測定し、標準試料のX,Y領域でのデータ動特性関数f(Xs)を求める。
次に、被測試料(被測カムシャフト)に対しても前記と同様に基準試料を移動させて複数組のX(抵抗値成分)データ,Y(インダクタンス成分)データを測定し、被測試料のX,Y領域でのデータ動特性関数f(Xm)を求める。
そして、上記関数f(Xs)とf(Xm)との距離を算出し、この距離の違いによって標準試料と被測試料との組織差を検出する。
【0043】
上記した第1の実施例によれば試料のセット位置の影響を受け難くなるが、セット位置のずれの方向によっては影響が生じる場合がある。
【0044】
以下、その理由について説明する。
A.渦電流測定装置(第8図参照)を使用する場合には、カムシャフト固定治具14と基準渦流センサ1c、被測渦流センサ1dの貫通部の中心が一致しない場合がある。このため、標準カムシャフト10b、被測カムシャフト10cの取り付け方によっては、カムシャフトの長軸を回転中心とした回転位相が変化し、標準ベクトルインピーダンスと被測ベクトルインピーダンスとの差に違いが生じ、正確な組織判別ができないことがある。
B.仮に、カムシャフト固定治具と基準渦流センサの貫通部の中心が一致した渦電流測定装置で、標準カムシャフト、被測カムシャフトを装置にセットする際に、長軸を回転中心とした回転位相が同じになるようにしても、鋳肌の荒れた試料や寸法にバラツキがある試料の場合には、カムシャフト固定治具の中心と被測カムシャフト(標準カムシャフト)の軸方向中心が一致しない場合がある。
このようなことが原因となって、標準ベクトルインピーダンスと被測ベクトルインピーダンスとの差に適いが生じ、正確な組織判別ができない場合がある。
【0045】
図9は、軸中心のずれに起因する判別誤りを説明するための図である。
たとえば、図8に示される基準渦流センサ1c、被測渦流センサ1dの貫通部が真円でも、カムシャフト固定治具14の中心位置(セット位置)がずれていると、図7に示されるような扇型のカムシャフト端部13の場合には被測試料(標準カムシャフト10b、被測カムシャフト10c)を測定装置に固定する際に、長軸を回転中心とした回転角度(位相)が変わると、被測試料とセンサコイルとの距離が変化し、図10に示されるように、カムシャフトの回転に伴ってベクトルインピーダンスのデータが変動してしまう。図10において、S11(Xs11,Ys11),・・・,S1n(Xs1n,Ys1n)は、第1の標準カムシャフトを回転させたときのデータ群を示し、S21(Xs21,Ys21),・・・,S2n(Xs2n,Ys2n)は、第2の標準カムシャフトを回転させたときのデータ群を示す。
【0046】
そこで、以下に説明する第2の実施例においては、カムシャフト固定治具と基準渦流センサの貫通部の中心が一致しない測定装置であっても、また、被測試料(標準カムシャフト,被測カムシャフトのセット位置(カムシャフトの長軸を回転中心とした回転位相)が変動しても、正確に組織比較判別を行えるようにしたものである。
【0047】
以下、本発明の第2の実施例について説明する。
図7は、測定の対象となるカムシャフトの形状の一例を示す図である。カムシャフト10は、軸部11の中間にカム部12が設けられ、端部に扇状のカムシャフト端部13が設けられている。なお、図7、図8において、符号16はジャーナル部である。
【0048】
図7(a)はカムシャフト10を側面から見た図、図7(b)はカムシャフト10をジャーナル部側の軸方向から見た図である。カムシャフト10の軸部11には、貫通穴11aが設けられている。
【0049】
以下、第2の実施例による判別方法について説明する。
【0050】
第2の実施例による判別方法は、基本的には第1の実施例における判別方法と同様であるが、試料を長軸を中心して回転させて測定する点が異なっている。
【0051】
図8は、カムシャフト10を測定する際のカムシャフト10と貫通型の渦流センサ1との位置的な関係を示す図である。
【0052】
測定に際しては、3種類のカムシャフトを用意する。すなわち、基準試料として基準カムシャフト10aを用意し、被測試料として、標準試料となる標準カムシャフト10bと、検査の対象となる、すなわち、組織判別する被測カムシャフト10cを用意する。なお、カムシャフトの種類を区別する必要がないときはカムシャフト10と総称する。
【0053】
また、渦流センサ1として、基準渦流センサ1cと被測渦流センサ1dを用意する。なお、基準渦流センサ1cと被測渦流センサ1dを区別する必要がないときは、渦流センサ1と総称する。
【0054】
測定に際しては、渦流センサ1の貫通部(図1参照)にカムシャフト10のジャーナル部13が潜った状態として、カムシャフト端部13が測定エリア4(図1参照)内に位置するようにする。
【0055】
次に、第2の実施例による測定手順について図8〜図11を参照して説明する。
【0056】
ステップ21:基準試料となる基準カムシャフト10aを基準ベクトルインピーダンス測定側、すなわち基準渦流センサ1c側にセットする。
【0057】
ステップ22:被測カムシャフトとして、標準試料(標準カムシャフト10b)を、被測ベクトルインピーダンス測定側(被測渦流センサ1d)側にセットする。
【0058】
ステップ23:基準渦流センサ1c、被測渦流センサ1dをカムシャフト10a,10b,10cの所定カムシャフト端部13a,13b,13cに移動させる。
【0059】
ステップ24:この状態で、基準ベクトルインピーダンスと被測ベクトルインピーダンスとの差を求め、X−Y平面上に記録する。
【0060】
ステップ25:標準カムシャフト10bを渦流センサ1dの内部で長軸を中心に、図7に矢印Z3で示される方向に回転させ、図11に示されるように、標準カムシャフト10bに対するセンサコイルの複数組のX(抵抗値成分)データ,Y(インダクタンス成分)データS11(Xs11,Ys11),・・・,S1n(Xs1n,Ys1n)を測定し、標準カムシャフト10bのX,Y領域でのデータ軌跡Ts(図11参照)を求める。例えば、標準試料(標準カムシャフト10b)を1回測定する毎に45度回転させ、1回転で8組のX,Yデータを取得する。
【0061】
ステップ26:標準試料(標準カムシャフト10b)を被測渦流センサ1dの内部で、図8の矢印Z1で示されるように試料の軸方向に若干移動させ、再度 基準ベクトルインピーダンスと被測ベクトルインピーダンスとの差を求め、データをX−Y平面上に記録する。必要に応じて、標準試料(標準カムシャフト10b)を更に移動させ複数組のベクトルインピーダンス差をX−Y平面上に記録し、標準試料のX,Y領域でのデータ動特性関数f(Xs)(図11参照)を求める。データ動特性関数f(Xs)は例えば、データ軌跡Ts[(Xs11),・・・,(Xs1n),・・・,(Ys11),・・・,(Ys1n),・・・]の中央部を通る関数とする。
【0062】
ステップ27:渦流センサ(基準渦流センサ1c、被測渦流センサ1d)を元の位置に戻す。
【0063】
ステップ28:測定するカムシャフト(標準カムシャフト10b)を別の標準カムシャフトと交換し、上記ステップ23〜27を繰り返し、公差巾W(図11参照)を設定する。
【0064】
ステップ29:組織判別するカムシャフト(被測カムシャフト10c)を被測渦流センサ1d側にセットし、渦流センサをカムシャフト端部に移動させる。
【0065】
ステップ30:被測試料(被測カムシャフト10c)を渦流センサ1dの内部で長軸を中心に回転させ、被測試料(被測カムシャフト10c)に対するセンサコイルの複数組のX(抵抗値成分)データ,Y(インダクタンス成分)データを測定し、被測試料(被測カムシャフト10c)のX,Y領域でのデータ軌跡Tmとデータ動特性関数f(Xm)(図11参照)を求める。被測カムシャフト10cのデータ動特性関数f(Xm)の傾きは、標準カムシャフト10bのデータ動特性関数f(Xs)とほぼ等しい。なお、データ動特性関数f(Xm)もデータ軌跡Tm[(Xm11),・・・,(Xm1n),・・・,(Ym11),・・・,(Ym1n),・・・]の中央部を通る関数とする。
そして、ステップ30のX−Yデータから算出される被測試料のX,Y領域でのデータ軌跡Tm、データ動特性関数f(Xm)、及び、ステップ24〜ステップ26で得られる標準試料(標準カムシャフト10b)のX,Y領域でのデータ軌跡Ts、標準試料(標準カムシャフト10b)のX,Y領域でのデータ動特性関数f(Xs)から、被測試料のデータ軌跡Tmと標準試料のデータ軌跡Tsとの中心距離Lが、公差巾W内にあれば合格(良品)、公差巾W外であれば不合格(不良品)と判定する。
【0066】
図11は、第2の実施例による組織判別手順を説明する図である。
【0067】
上述の標準試料(標準カムシャフト10b)のX,Y領域でのデータ動特性関数f(Xs)は、2点の座標から求める。すなわち、2組のX,YデータS11(Xs11,Ys11),S1Z(Xs1Z,Ys1Z)から求める。また、被測カムシャフト10cのX,Y領域でのデータ動特性関数f(Xm)は、1点の座標と傾きから求める。すなわち、1組のX,YデータMa(Xa,Ya)とデータ動特性関数f(Xs)の傾きから求める。
【0068】
金属材料の組織が異なると、金属の導電率より比透磁率が大きく変化し、センサコイルのインダクタンスが比較的大きく変動するため、データ動特性関数f(Xm)の軌跡はデータ動特性関数f(Xs)と一定の距離を保った直線状になるので、1組のX,Yデータ(Xa,Ya)とf(Xs)の傾きmからデータ動特性関数f(Xm)を求めることができる。
先に述べたように、被測試料の合否の判定は、データ動特性関数f(Xs)からの距離Lに基づいて行われるが、データ動特性関数f(Xs)とf(Xm)との間の距離は、下の式により求められる。なお、データMa(Xa,Ya)を通るY軸方向の直線が、データ動特性関数f(Xs)と交わる位置のデータをA1(Xα,Yβ)とする。
(数7)
L=D・Cosθ
(数8)
D=Yβ−Ya=m・Xa+C−Ya
(数9)
Cosθ=(X2−X1)/√((X2−X1)+(Y2−Y1)
【0069】
上述した第2の実施例によれば、以下の効果を得ることができる。
渦電流測定装置(図8参照)において、カムシャフト固定治具と基準渦流センサと貫通部の中心が一致しない場合でも、
(1)標準試料や被測試料を測定装置へセットする際、被測試料の軸に直交する方向すなわち半径方向に関する位置が異なっても、正確な材料比較判別を実現することができ、材料比較判別を短時間で実施可能である。
(2)標準試料や被測試料を測定装置へセットする際、被測試料の軸を中心とする回転角度(位相)が異なっても、正確な材料比較判別を実現することができ、材料比較判別を短時間で実施可能である。
(3)図9に示す例のように、被測データM1(Xm1,Ym1)とM2(Xm2,Ym2)を比較した場合、従来の測定法では不良品である被測カムシャフトの被測データMlの方が、不良品でない被測カムシャフトの被測データM2よりも標準材質に近い金属組織と判定されてしまうが、第2の実施例の判定方法においては、データ動特性関数f(Xm)(図11参照)を判定情報とするため、被測データM2が標準材質に近いと正しく判定される。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、たとえばエンジンのシャフトの非破壊検査に利用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1,1a,1b,1c,1d 貫通型渦流センサ
2a,2b ケース
3a,3b コイル(励磁コイル、検出コイル)
4a,4b 測定エリア
5a,5b コイルリード線
6 カムシャフト
6a 基準カムシャフト
6b 標準カムシャフト
6c 被測カムシャフト
7 軸部
8 カム部
9 カムシャフト端部
10 カムシャフト
11 軸部
12 カム部
13 カムシャフト端部
14 カムシャフト固定治具
15、16 ジャーナル部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標準試料と被測試料を貫通型渦流センサの内部に配置し、前記貫通型渦流センサのセンサコイルの抵抗値成分とインダクタンス成分のデータを測定することにより前記標準試料と前記被測試料との組織差を検出する渦電流式組織判別方法において、
前記標準試料を前記貫通型渦流センサの内部で移動させ、前記標準試料に対する前記センサコイルの複数組の抵抗値成分とインダクタンス成分のデータを測定し、前記標準試料のセンサコイルの抵抗値成分とインダクタンス成分をX−Y平面上で表したときの標準試料データ動特性関数を求め、
前記被測試料を前記貫通型渦流センサの内部で移動させ、前記被測試料に対する前記センサコイルの複数組の抵抗値成分とインダクタンス成分のデータを測定し、前記被測試料のセンサコイルの抵抗値成分とインダクタンス成分をX−Y平面上で表したときの被測試料データ動特性関数を求め、
前記標準試料データ動特性関数と前記被測試料データ動特性関数の距離を算出し、
前記距離に基づいて前記標準試料と前記被測試料の組織差を検出する
ことを特徴とする渦電流式組織判別方法。
【請求項2】
前記標準試料データ動特性関数を、前記センサコイルの2組の抵抗値成分とインダクタンス成分のデータから求め、
前記被測試料データ動特性関数を、前記センサコイルの1組の抵抗値成分とインダクタンス成分のデータと、前記標準試料データ動特性関数の傾きから求める
ことを特徴とする請求項1に渦電流式組織判別方法。
【請求項3】
標準試料と被測試料を貫通型渦流センサの内部に配置し、前記貫通型渦流センサのセンサコイルの抵抗値成分とインダクタンス成分のデータを測定することにより前記標準試料と被測試料との組織差を検出する渦電流式組織判別方法において、
前記標準試料を前記貫通型渦流センサの内部で長軸を中心に回転させ、前記標準試料に対する前記センサコイルの複数組の抵抗値成分とインダクタンス成分のデータを測定し、前記標準試料のセンサコイルの抵抗値成分とインダクタンス成分をX−Y平面上で表したときの標準試料データ軌跡を求め、
前記標準試料を前記貫通型渦流センサの内部で移動させ、前記標準試料に対する前記センサコイルの複数組の抵抗値成分とインダクタンス成分のデータを測定し、前記標準試料のセンサコイルの抵抗値成分とインダクタンス成分をX−Y平面上で表したときの標準試料データ動特性関数を求め、
前記被測試料を前記貫通型渦流センサの内部で長軸を中心に回転させ、前記被測試料に対する前記センサコイルの複数組の抵抗値成分とインダクタンス成分のデータを測定し、前記被測試料に対する前記センサコイルの抵抗値成分とインダクタンス成分をX−Y平面上で表したときの被測試料データ軌跡を求め、
前記標準試料データ軌跡と前記被測試料データ軌跡と前記標準試料データ動特性関数に基づいて、前記標準試料データ軌跡と前記被測試料データ軌跡との間の距離を算出し、
前記距離に基づいて前記標準試料と前記被測試料の組織差を検出する
ことを特徴とする渦電流式組織判別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−2770(P2012−2770A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140367(P2010−140367)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000139023)株式会社リケン (101)
【Fターム(参考)】