説明

渦電流検査装置および検査方法

【課題】肉厚の厚い被検体でも減肉が検査できつつ、きずや割れなどの欠陥が同時に測定可能となり、検査の作業効率が向上する渦電流検査装置および検査方法を提供することにある。
【解決手段】検査装置1の、時間変動磁場発生手段12は、時間的に周期的なパルス状波形の励磁電圧に基づき励磁コイルの励磁電流を制御し、時間変動磁場を発生させる。時間変動磁場発生手段12によって被検体に発生させた渦電流による磁場の変化に対し、過渡情報抽出手段13は過渡的な磁場情報を抽出し、周期情報抽出手段15は周期的な磁場情報を抽出する。肉厚評価部19は、過渡情報抽出手段13によって抽出された過渡的な磁場情報を演算処理し、被検体の肉厚を評価する。欠陥評価部20は、周期情報抽出手段15によって抽出された周期的な磁場情報を演算処理し、被検体のきず及びや割れなどの欠陥を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦電流検査装置および検査方法に係り、特に、パルス励磁型により、被検体の肉厚評価及び欠陥検出をするに好適な渦電流検査装置および検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラント等では、配管設備の健全性が定期的に検査される。定期検査の中には、配管の肉厚に関する減肉の有無を確認する減肉検査と、配管の溶接部などに関するきず、割れなどの欠陥の有無確認する欠陥検査などがある。減肉検査として超音波探傷装置を用いる場合は、探触子を配管に押し当て、反射波の時間遅れから被検体である配管の肉厚を測定しながら配管全長を検査する。また、欠陥検査は、減肉検査とは別に、目視検査法,浸透探傷法などを実施する。このように、減肉検査と欠陥検査は、異なる検査手法で行うが、同一箇所で実施する必要があるため、両者は同時に行うことが困難である。これにより、検査作業全体として長い時間と多大な労力を要する。
【0003】
最近の減肉検査においては、電磁気的に被検体の肉厚を測定するパルス励磁型渦電流探傷法が用いられてきている。パルス励磁型渦電流探傷法では、プローブの励磁コイルにパルス励磁電圧の印加によるパルス状の励磁電流で、時間的に変動する磁場を発生させる。パルス励磁電圧を矩形波とすると、プローブ周辺の磁場の時間的変動は、パルス励磁電流波形は渦電流による遅延特性を示す。パルス励磁電圧の立下りを考えてみると、パルス励磁電流は、パルス励磁電圧に比べて緩やかに減衰する。この減衰により磁束分布が変化し、その磁束の変化を妨げるように磁性材内には渦電流が発生する。肉厚測定では、パルス励磁電流による磁束が減衰した後、被検体の渦電流による磁束を測定し、その特性から肉厚を評価する。このように、パルス励磁型渦電流探傷法では、非接触で配管等の肉厚を測定できるため、超音波検査での接触媒質塗布や保温材脱着などの付帯作業が不要で、特に自動配管検査技術として有効である。
【0004】
そもそも一般的に行われる渦電流探傷法は、連続した正弦波電圧の印加によりプローブの励磁コイルに正弦波状の励磁電流を連続して流し、時間的に変動する磁場を発生させる。この場合、プローブ周辺の磁場も渦電流の時間的変動は、連続した正弦波状になる。欠陥検査では、連続した正弦波状に時間変動する磁束の振幅と位相が変化を測定し、その特性から欠陥の存在や材質変化を評価する。このように、一般的に行われる正弦波電圧を印加する渦電流探傷法では、非接触できずや割れなどの欠陥を測定でき、特に表面欠陥に対する検出感度が優れていることが知られている。これと同様の方法による減肉の評価は、渦電流が充分に浸透させることができる肉厚の薄い被検体に適用されている。
【0005】
パルス励磁による肉厚測定として、電気伝導性材料からなる物体の肉厚の測定で、パルス時間の間一定の電流を放出器コイルに流し、電流及び関連電磁場がパルスの立ち下がりでオフされた後の受信器コイル間の出力電圧を時間関数として測定し、既知の肉厚における基準信号の減衰と比較するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
パルス波励磁に近い欠陥検査として、三角波などの非正弦波を用いて励磁し、検出信号波形に対してフィルターやフーリエ変換を用いて、単一周波数の正弦波励磁に対する応答を抽出し、欠陥を検出する(例えば、特許文献2参照)。抽出する正弦波成分を変更することで複数周波数にわたる測定をする。
【0007】
肉厚と欠陥を同時に検査手法として、配管を対象にして、内壁面から超音波センサで肉厚を測定し、外壁面から渦電流センサで欠陥を検査するものが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公表2000−514559号公報
【特許文献2】特開平6−94681号公報
【特許文献3】特開昭61−133856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1記載のものは、パルス励磁による渦電流減衰に着目しているため、厚い金属部材の肉厚が測定できる一方で、プローブ位置近傍の欠陥の情報が混在するため、減肉と欠陥の測定が困難となる。また、特許文献2記載のものは、パルス波励磁に類似した手法である非正弦波励磁の応答を周波数解析して欠陥検査するため、減肉検査へ応用した場合、従来の薄肉管材の減肉検査と同等の感度性能となると考えられる。さらに、特許文献3記載のものは、被検体を挟んで超音波センサと渦電流センサを併用して、減肉と欠陥を測定できるが、検査を実施する面が、被検査体の片側だけの場合、応用が困難である。
【0010】
本発明の目的は、肉厚の厚い被検体でも減肉が検査できつつ、きずや割れなどの欠陥が同時に測定可能となり、検査の作業効率が向上する渦電流検査装置および検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、パルス状の時間変動磁場による渦電流で金属の被検体を検査する渦電流検査装置であって、時間的に周期的なパルス状波形の励磁電圧に基づき励磁コイルの励磁電流を制御し、時間変動磁場を発生させる時間変動磁場発生手段と、該時間変動磁場発生手段によって前記被検体に発生させた渦電流による磁場の変化に対し、過渡的な磁場情報を抽出する過渡情報抽出手段と、周期的な磁場情報を抽出する周期情報抽出手段と、前記過渡情報抽出手段によって抽出された過渡的な磁場情報を演算処理し、被検体の肉厚を評価する肉厚評価部と、前記周期情報抽出手段によって抽出された周期的な磁場情報を演算処理し、被検体のきず及びや割れなどの欠陥を評価する欠陥評価部とを備えるようにしたものである。
かかる構成により、肉厚の厚い被検体でも減肉が検査できつつ、きずや割れなどの欠陥が同時に測定可能となり、検査の作業効率が向上するものである。
【0012】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記時間変動磁場発生手段は、励磁電圧波形を生成する波形発生器と、前記励磁電圧波形を電力増幅して励磁コイルに励磁電流を供給する電力増幅器と、前記励磁電流の通電及び遮断を制御するスイッチと、前記波形発生器と、前記スイッチを制御するトリガ発生器とで構成し、前記トリガ発生器は、一定の時間周期で同期信号を出力し、前記波形発生器に接続して時間的に周期的な励磁電圧波形を生成させ、また、前記スイッチと接続して、励磁電流の通電時間及び遮断時間を制御して、時間的に周期的なパルス状の磁場を発生させるようにしたものである。
【0013】
(3)上記(1)において、好ましくは、前記過渡情報抽出手段は、少なくとも1つの磁場検出素子を有し、時間変動磁場の信号を取得するセンサ部と、励磁電流の通電及び遮断の時間に基づき前記時間変動磁場の信号の過渡的な情報をとして渦電流減衰情報を抽出する渦電流減衰情報抽出部とで構成するようにしたものである。
【0014】
(4)上記(2)において、好ましくは、前記渦電流減衰情報抽出部は、前記スイッチの励磁電流の遮断時刻から通電開始時刻の時刻と、前記時刻間の時間変動磁場の信号値を演算処理し、渦電流の減衰情報を抽出するようにしたものである。
【0015】
(5)上記(4)において、好ましくは、前記渦電流減衰情報抽出部は、予め設定された所定の基準信号を記憶する記憶手段を備え、前記スイッチの励磁電流の遮断時刻から通電開始時刻の時刻と、前記時刻間の時間変動磁場の信号値を演算処理した結果と、前記基準信号に対して同一の前記演算処理した結果とを比較することにより、渦電流の減衰情報を抽出するようにしたものである。
【0016】
(6)上記(1)において、好ましくは、前記周期情報抽出手段は、少なくとも1つの磁場検出素子を有し、時間変動磁場の信号を取得するセンサ部と、励磁電流の通電もしくは遮断の時間に基づき前記時間変動磁場の信号の周期的な情報をとして、振幅情報を抽出する振幅情報抽出部と、位相情報を抽出する位相情報抽出部とで構成するようにしたものである。
【0017】
(7)上記(6)において、好ましくは、前記振幅情報抽出部は、予め設定された所定の基準信号を記憶する記憶手段を備え、前記基準信号と前記時間変動磁場の信号値との差分演算で振幅差を求め、時間変動磁場の振幅情報を抽出し、前記位相情報抽出部は、予め設定された所定の基準信号を記憶する記憶手段を備え、前記基準信号と前記時間変動磁場の信号値との差分演算で、信号値の上昇又は下降する時間の差を求め、時間変動磁場の位相情報を抽出するようにしたものである。
【0018】
(8)上記(1)において、好ましくは、前記過渡情報抽出手段は、少なくとも1つの磁場検出素子を有し、時間変動磁場の信号を取得するセンサ部を備え、前記周期情報抽出手段は、少なくとも1つの磁場検出素子を有し、時間変動磁場の信号を取得するセンサ部とを備え、前記過渡情報抽出手段と前記周期情報抽出手段とで用いる磁場検出素子は、同一のものを用いるようにしたものである。
【0019】
(9)上記(1)において、好ましくは、前記過渡情報抽出手段は、少なくとも1つの磁場検出素子を有し、時間変動磁場の信号を取得するセンサ部を備え、前記周期情報抽出手段は、少なくとも1つの磁場検出素子を有し、時間変動磁場の信号を取得するセンサ部とを備え、前記過渡情報抽出手段と前記周期情報抽出手段とで用いる磁場検出素子は、異なる磁場感度の特性を有するものを用いるようにしたものである。
【0020】
(10)上記(1)において、好ましくは、前記肉厚評価部は、予め設定された異なる肉厚に対する前記過渡的な磁場情報を記憶する記憶手段を備え、前記被検体の測定で抽出された過渡的な磁場情報と比較することにより、被検体の肉厚を評価し、前記欠陥評価部は、予め設定された形状の異なるきずや割れなどの欠陥に対する前記周期的な磁場情報を記憶する記憶手段を備え、前記被検体の測定で抽出された周期的な磁場情報とを比較することにより、被検体の欠陥を評価するようにしたものである。
【0021】
(11)また、上記目的を達成するために、本発明は、パルス状の時間変動磁場による渦電流で金属の被検体を検査する渦電流検査装置を用いる渦電流検査方法において、一定の時間周期で出力した同期信号と同期するパルス状波形の励磁電圧を用いて、励磁コイルの励磁電流をスイッチで制御して時間変動磁場を生成し、前記被検体に発生させた渦電流による磁場の変化に対し、少なくとも1つの磁場検出素子で前記磁場を測定し、前記励磁電流の通電及び遮断の時間に基づき演算処理して得られる渦電流減衰情報を取得し、これと同時に、少なくとも1つの磁場検出素子で前記磁場を測定し、励磁電流の通電もしくは遮断の時間に基づき演算処理して得られる振幅情報と位相情報を取得し、前記渦電流減衰情報は、予め設定された異なる肉厚に対する渦電流減衰情報と比較して、前記被検体の減肉を評価し、前記振幅情報と前記位相情報は、予め設定された形状の異なるきずや割れなどの欠陥に対する振幅情報と位相情報と比較して、前記被検体の欠陥を評価するようにしたものである。
かかる構成により、肉厚の厚い被検体でも減肉が検査できつつ、きずや割れなどの欠陥が同時に測定可能となり、検査の作業効率が向上するものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、肉厚の厚い被検体でも減肉が検査できつつ、きずや割れなどの欠陥が同時に測定可能となり、検査の作業効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施形態による渦電流検査装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態による渦電流検査装置に用いる渦電流プローブの構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施形態による渦電流検査装置の渦電流プローブを用いた配管検査の一形態を示す斜視図である。
【図4】本発明の第1の実施形態による渦電流検査装置における信号波形を示す波形図である。
【図5】本発明の第1の実施形態による渦電流検査装置における時間変動磁場信号の減衰波形の説明図である。
【図6】本発明の第1の実施形態による渦電流検査装置における、欠陥の有無による時間変動磁場信号波形の説明図である。
【図7】本発明の第1の実施形態による渦電流検査装置における信号波形を示す波形図である。
【図8】本発明の第1の実施形態による渦電流検査装置における渦電流減衰情報の抽出の説明図である。
【図9】本発明の第1の実施形態による渦電流検査装置の肉厚評価部で板厚を評価した一例の説明図である。
【図10】本発明の第1の実施形態による渦電流検査装置における信号波形を示す波形図である。
【図11】本発明の第1の実施形態による渦電流検査装置における振幅情報取得部での振幅情報の抽出、位相情報取得部での位相情報の抽出の説明図である。
【図12】本発明の第1の実施形態による渦電流検査装置の欠陥評価部20で欠陥を評価した一例の説明図である。
【図13】本発明の第1の実施形態による渦電流検査装置による減肉と欠陥の同時測定結果の説明図である。
【図14】本発明の第2の実施形態による渦電流検査装置の全体構成を示すブロック図である。
【図15】本発明の第3の実施形態による渦電流検査装置の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図1〜図12を用いて、本発明の第1の実施形態による渦電流検査装置の構成及び動作について説明する。なお、図1〜図12において、同一符号は同一部分を示している。
〔時間変動磁場信号〕
最初に、図1〜図5を用いて、本実施形態による渦電流検査装置で用いる時間変動磁場信号について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態による渦電流検査装置の全体構成を示すブロック図である。
【0025】
図1において、プローブ制御部5は、渦電流プローブ2を移動すべき位置の情報を、走査制御装置4に出力する。走査制御装置4は、その位置情報に基づいて、走査機構3を制御し、渦電流プローブ2を走査する。走査制御装置4は、走査機構3により移動される渦電流プローブ2の位置を検出するためのエンコーダ等を備えており、走査位置信号をプローブ制御部5に出力する。
【0026】
検査装置1には、検査時における渦電流プローブ2によって検出される時間変動磁場信号が入力し、後述するようにして、肉厚や欠陥を評価する。また、検査装置1には、プローブ制御部5からプローブの走査位置信号が入力する。検査装置1は、評価された肉厚や欠陥の情報を、走査位置信号に対応づけて、出力部21に出力し、表示する。
【0027】
渦電流プローブ2は、励磁コイル6と、磁場検出素子7,8(図2にて後述)を有するセンサ部9,10で構成されている。被検体11(図2にて後述)に渦電流を発生させるために、時間変動磁場発生手段12で励磁電圧を発生することで、励磁電流を励磁コイル6に供給する。被検体11に発生した渦電流は、被検体の厚さ,きず,割れなどで変化し、その結果、磁場分布が変化する。そのため、磁場検出素子7,8で、時間変動磁場を測定することとで渦電流の変化に応じた情報が得られる。
【0028】
肉厚測定をするパルス励磁型の渦電流探傷では、時間変動磁場発生手段12にて、パルス状の励磁電圧を生成し、励磁電流を励磁コイルに供給し、パルス状の時間変動磁場を与え、被検体11に渦電流を発生させる。渦電流の強度は、板厚方向に対して指数関数的に減衰しながら浸透する。渦電流が浸透していく時間は、被検体11の深部ほど、渦電流が時間的に遅れて浸透し、さらに、浸透した渦電流によって2次的に発生する磁場が被検体11の表面に循環する。そのため、肉厚の情報は、板厚の厚い場合は、時間的に遅れた成分に、板厚の薄い場合は、板厚の厚い場合と比較して早い成分に、情報が含まれる。
【0029】
この現象を取得するために、本検査装置1では、渦電流の減衰時に起こる時間的特性抽出するために、過渡情報抽出手段13を備え、渦電流減衰情報取得部14にて時間変動磁場の信号を演算し、渦電流減衰の情報を取得する。過渡情報抽出手段13の詳細動作については、図6〜図8を用いて後述する。
【0030】
一方、きず,割れなどの欠陥検出を行う渦電流探傷では、一般に連続した正弦波電圧の印加によりプローブの励磁コイルに正弦波状の励磁電流を連続して流し、時間的に変動する磁場を発生させる。この場合、プローブ周辺の磁場も渦電流の時間的変動は、連続した正弦波状になり、欠陥検出は、時間変動磁場の振幅と位相が変化を測定する。
【0031】
パルス励磁型の渦電流探傷の場合、パルス励磁波形が周期的であれば、その波形は、数学的手法の一つであるフーリエ変換によって、複数の周波数の正弦波の和として表現することができるため、単一周波数の励磁情報を含むことになる。この場合の出力、すなわち、磁場検出素子7,8で得られる時間変動磁場の情報も同様にフーリエ変換の手法を用いて、複数の周波数の正弦波の和として表現することができるため、単一周波数の励磁情報を含むことになる。同一周波数成分の励磁電流と時間変動磁場の情報は、その周波数単体で励磁した場合の入出力関係とほぼ対応していると考えられるため、パルス励磁型の渦電流探傷においても、波形が周期的であれば、単一周波数による従来型の渦電流探傷が可能である。故に、単一周波数励磁の渦電流探傷における振幅情報と位相情報を取得することによって、従来渦電流探傷が得意としているきず,割れなどの欠陥検査が可能である。
【0032】
これを実行するために、本検査装置1では、時間変動磁場の信号のうち、周期的な情報を抽出するために、周期情報抽出手段15を備え、振幅情報抽出部16で時間変動磁場の信号の周期的な成分の振幅情報を抽出し、位相情報抽出部17で時間変動磁場の信号の周期的な成分の位相情報を抽出する。周期情報抽出手段15の詳細動作については、図9〜図11を用いて後述する。
【0033】
過渡情報抽出手段13で抽出された渦電流減衰情報と、周期情報抽出手段15で抽出された周期的な時間変動磁場の振幅情報と位相情報は、解析部18へ送られる。
【0034】
過渡情報抽出手段13で抽出された渦電流減衰情報は、被検体11の肉厚情報を有するので、肉厚評価部19で、演算処理することで肉厚が評価される。肉厚評価部19の詳細動作については、図6〜図8を用いて後述する。
【0035】
また、周期情報抽出手段15で抽出された振幅情報と位相情報は、被検体11の欠陥情報を有するので、欠陥評価部20で、演算処理することで欠陥が評価される。欠陥評価部20の詳細動作については、図9〜図11を用いて後述する。
【0036】
肉厚評価部19で評価された肉厚の評価結果と、欠陥評価部20で評価された欠陥の評価結果は、出力部21で表示及び提示される。
【0037】
次に、図2及び図3を用いて、本実施形態による渦電流検査装置に用いる渦電流プローブ2の構成とそれを用いた配管検査の一形態について説明する。
図2は、本発明の第1の実施形態による渦電流検査装置に用いる渦電流プローブの構成を示すブロック図である。図3は、本発明の第1の実施形態による渦電流検査装置の渦電流プローブを用いた配管検査の一形態を示す斜視図である。
【0038】
図2に示すように、渦電流プローブ2は、励磁コイル6と、磁場検出素子7,8とで構成されており、被検体11に対して、同一検査面に非接触で配置している。プラントに設置されている配管などでは、被検体の裏側からアクセスできない場合があり、片側の面より、減肉も欠陥も検査しなければならない場合がある。
【0039】
励磁コイル6は、エナメル線やホルマル線などのコイル巻線導体を同心軸22に複数回巻いたものを用いている。励磁コイル6の中心部や周辺にフェライトコアや電磁鋼板などの磁性材料を利用して、磁路(磁束の経路)を形成して構成してもよい。また、同様のコイルを複数使用して磁場強度の増大や形成磁場の制御を行ったものを使用してもよい。
【0040】
磁場検出素子7は、図1に示した過渡情報抽出手段13のセンサ部9を構成するもので、コイル,ホール素子,MI素子,GMR素子,TMR素子,AMR素子,SQUID素子などが用いられる。過渡情報抽出手段13で扱われる時間変動磁場は、渦電流減衰に係り、磁場強度が比較的小さくなるため、コイルのように、信号出力が磁場の時間的変化率に依存したものを利用すると、十分な信号出力電圧が得られない場合がある。そこで磁場強度の絶対値で信号出力が得られるホール素子,MI素子,GMR素子,TMR素子,AMR素子,SQUID素子は、渦電流減衰情報抽出に精度が得られる磁場検出素子であることが言える。測定に必要な磁場強度の範囲が広い場合は、測定の対象となる磁場強度の範囲に適した磁場検出素子を複数用いて、センサ部を構成して測定してもよい。その場合、使用する磁場検出素子の特性を補正する処理やフィルター回路を接続して時間変動磁場の信号を取得することが好ましい。また、磁場検出素子7の配置は、小さい磁場信号を得る必要があるため、励磁コイル6の近傍に配置されているが、肉厚の情報を感度良く得られる配置であれば、図2に示したものに限らない。
【0041】
磁場検出素子8は、図1に示した周期情報抽出手段15のセンサ部10を構成するもので、コイル,ホール素子,MI素子,GMR素子,TMR素子,AMR素子,SQUID素子などが用いられる。周期情報抽出手段15で扱われる時間変動磁場は、その振幅情報,位相情報を取得できるように、広い磁場強度範囲にわたり測定する必要がある。GMR素子,TMR素子,AMR素子,SQUID素子のように、磁場強度に対する分解能は高いものの動作範囲が小さいものよりも、コイル,ホール素子,MI素子などの磁場強度に対する動作範囲が広いものの方が利用しやすいと言える。測定に必要な磁場強度の範囲が広い場合は、測定の対象となる磁場強度の範囲に適した磁場検出素子を複数用いて、センサ部を構成して測定してもよい。その場合、使用する磁場検出素子の特性を補正する処理やフィルター回路を接続して時間変動磁場の信号を取得することが好ましい。特に、コイルを用いる場合には、コイルの出力電圧は、時間変動磁場の時間微分で得られるため、センサ部に積分回路などの補正処理を施すことがその後段の演算処理にとって好ましい。また、磁場検出素子8の配置は、欠陥情報に係る磁場信号を得る必要があるため、測定対象の欠陥で変動する磁場分布に適した位置に配置する。図2の場合には、励磁コイル6の中心軸22とずらして、中心軸23のコイル8が近傍に配置されており、この場合、励磁コイル6と磁場検出素子としてのコイル8の間に欠陥が存在した場合、渦電流が大きく乱れた磁場をコイル8で測定する形となり、振幅情報を位相情報に大きな変化が得られる。しかし、欠陥の情報を感度良く得られる配置であれば、図2に示したものに限らない。
【0042】
図3に示すように、図2に示した渦電流プローブ2は、スキャナメカとなる走査機構3に取り付けられ、自動検査することができる。走査機構3は、被検体となる配管24に取り付けられ、配管の外壁面を周方向及び軸方向に走査している。配管24には、配管内部に流れる流体により配管肉厚が薄くなる減肉25や、金属疲労などで起こるきずや割れ26などの欠陥が存在している可能性がある。これらをいち早く検出し、補修や交換などの適切な処置をする必要があり、検査では、これらを短時間で検出することが好ましい。したがって、渦電流プローブ2など検査センサが通過したと同時に減肉も欠陥も同時に検出できることが最良の検査方法である。そこで、本実施形態の図1に示した検査装置1は、減肉と欠陥を同時に、かつ、渦電流探傷の高速性をより、迅速に検査できるものである。
【0043】
次に、図4を用いて、本実施形態による渦電流検査装置における信号波形について説明する。
図4は、本発明の第1の実施形態による渦電流検査装置における信号波形を示す波形図である。
【0044】
図4(a)は、パルス電圧として、正負の矩形波からなる励磁電圧を示し、図4(b)は励磁電流を示し、図4(c)は磁場検出素子7,8で得られる時間変動磁場を示している。横軸は、時間軸としており、図中の破線は、同一時間を示している。
【0045】
図1において、時間変動磁場生成手段12は、励磁電圧及び励磁電流を発生させるものである。時間変動磁場生成手段12は、任意波形を生成できる波形発生器26と、トリガ信号を発生するトリガ発生器27とを有する。トリガ発生器27は、トリガ信号を任意波形発生器26に出力する。波形発生器26は、トリガ信号を受け、あらかじめ設定した任意の励磁電圧波形を電力増幅器28に出力する。電力増幅器28は、設定した倍率で増幅したパルス励磁電圧波形を渦電流プローブ2の励磁コイル6に出力し、励磁電流を供給する。励磁電流は、トランジスタ、サイリスター、リレーなどのスイッチ29で、通電及び遮断を制御することができ、その制御は、トリガ発生器27の信号によって実行される。
【0046】
図4(a)に示す励磁電圧30aに対し、図4(b)に示す励磁電流30bは、コイルのインダクタンスに影響により波形が緩やかに上昇または下降している。被検体に発生していた渦電流は、時間的に遅れて流れているため、励磁電流30bを遮断、すなわち零にすると、図4(c)に示すように、時間変動磁場30cは、緩やかに零へ減衰する。被検体の厚みが変わったときには、この減衰の特性が変化するため、この減衰部分に係る時間変動磁場信号を演算処理及び評価することで肉厚の評価ができる。
【0047】
次に、図5を用いて、本実施形態による渦電流検査装置における時間変動磁場信号の減衰波形について説明する。
図5は、本発明の第1の実施形態による渦電流検査装置における時間変動磁場信号の減衰波形の説明図である。
【0048】
図5は、被検体の厚みが変わったときの、時間変動磁場信号の減衰波形を拡大して図示している。板厚小の場合と、板厚大の場合で、減衰時間が変化するため、同一の磁場強度T1に達する時間を測定すると、板厚小の場合は到達時間t1、板厚大の場合は到達時間t2となり、減衰の時間に係る演算処理及び評価をすることで肉厚の評価をすることができる。
【0049】
次に、図6を用いて、本実施形態による渦電流検査装置における、欠陥の有無による時間変動磁場信号の波形について説明する。
図6は、本発明の第1の実施形態による渦電流検査装置における、欠陥の有無による時間変動磁場信号波形の説明図である。
【0050】
図6は、欠陥が存在しない場合の時間変動磁場波形32aと、欠陥が存在する場合の時間変動磁場波形32bを図示したものである。単一周波数の正弦波に基づいた渦電流探傷では、欠陥の有無は、振幅と位相が変化することを利用して検出される。パルス励磁の渦電流探傷においても、数学的手法であるフーリエ変換で単一周波数に分解した情報で分析すれば、同様の現象が得られるため、図6のように波形全体として、振幅差ΔBと位相差Δtが得られる傾向にある。したがって、振幅差ΔBと位相差Δtを、図5に示した渦電流減衰に係る時間差の情報31の信号の測定に影響することなく測定できれば、肉厚の測定と欠陥の検出をすることができる。
〔過渡情報抽出手段と肉厚評価部〕
次に、図1及び図7〜図9を用いて、本実施形態による渦電流検査装置に用いる過渡情報抽出手段13と肉厚評価部19の構成及び動作について説明する。
図7は、本発明の第1の実施形態による渦電流検査装置における信号波形を示す波形図である。図8は、本発明の第1の実施形態による渦電流検査装置における渦電流減衰情報の抽出の説明図である。図9は、本発明の第1の実施形態による渦電流検査装置の肉厚評価部で板厚を評価した一例の説明図である。
【0051】
図7において、図7(a)は、パルス電圧として、正負の矩形波からなる励磁電圧を示し、図7(b)はトリガ信号を示し、図7(c)は励磁電流を示し、図7(d)は磁場検出素子7で得られる時間変動磁場を示している。横軸は、時間軸としており、図中の破線は、同一時間を示している。
【0052】
図1及び図2で説明した渦電流プローブ2の磁場検出素子7で構成されるセンサ部9は、図7(d)に示す時間変動磁場35dを取得する。この時間変動磁場35dに対し、渦電流減衰に磁場成分を抽出するために、図1の渦電流減衰情報取得部14の演算部14aに取り込まれる。
【0053】
一方、図1に示した時間変動磁場発生手段12のトリガ発生器27は、図7(b)に示すトリガ信号35bを任意波形発生器26に出力し、波形発生器26は、トリガ信号35bを受け、あらかじめ設定した任意の励磁電圧35a(図7(a))を電力増幅器28に出力する。電力増幅器28は、設定した倍率で増幅したパルス励磁電圧波形を渦電流プローブ2の励磁コイル6に出力し、図7(a)の励磁電流35cを供給する。
【0054】
図1の演算部14aは、図1に示したトリガ発生器27からスイッチ29の励磁電流35cに関する遮断時間ts及び通電時間teの情報をトリガ信号35bとして、渦電流減衰に磁場成分を取り込み、時間変動磁場のうち、渦電流減衰に係る成分36のみを演算することができる。
【0055】
これにより、後述する周期情報抽出手段15で、振幅情報と位相情報を取得する時間周期と無関係に、渦電流減衰に係る時間変動磁場の成分のみを演算することができる。
【0056】
次に、図8を用いて、渦電流減衰情報の抽出処理について説明する。図8(a)は、図7(d)に示した時間変動磁場の信号を示している。図8(b)は、図8(a)の要部を拡大した信号を示している。
【0057】
図8(b)に示すように、板厚が変更,すなわち、減肉が検出された場合、健全部での減衰波形38aに対して、減肉時の減衰波形38bは図示のように変化する。
【0058】
比較部14bは、演算部14aにより抽出された渦電流減衰に係る成分と、渦電流減衰情報取得部14の記憶部14cに記憶されている健全部測定のデータとを差分処理して、渦電流減衰情報の変化分のみを抽出することができ、変化が微小となる板厚の厚い被検体の評価や、肉厚測定の測定精度の桁数が必要なときに利用できる。
【0059】
図9は、過渡情報抽出手段13で得られた渦電流減衰情報に基づき、肉厚評価部19で板厚を評価した一例を示している。
【0060】
図9(a)に示すように、板厚が空間的に変化している被検体39に対して、渦電流プローブ2の位置を変更すると、測定している板厚の変化に対応して、渦電流減衰パラメタが変化する。このパラメタ値をあらかじめ板厚が既知の対比試験体で測定しておき、渦電流パラメタを記憶部19cに記憶しておく。
【0061】
図9(b)は、渦電流減衰パラメタと板厚の関係をグラフに表したものである。記憶部19cに記憶しているあらかじめ板厚が既知の対比試験体で測定したデータの検量線41を用いることにより、渦電流減衰パラメタがpのとき板厚a(mm)、渦電流減衰パラメタがqのとき板厚b(mm)というように板厚を定量評価することができる。
【0062】
演算部19aは、トリガ信号に基づき抽出された渦電流減衰の成分を示す波形の時間に対して、少なくとも2点の時刻に関して磁場の値の変化率を計算し、渦電流減衰のパラメタとすることができる。たとえば、時間t2の時の磁場強度B2,B2’と時間t1の時の磁場強度B1,B1’の値を用いて変化率を求めれば、一次関数での近似で評価することができる。その他、減衰信号が指数関数であるため、べき級数展開など指数関数を表現するパラメタを利用すれば減衰信号の時間特性をパラメタ化することができる。
【0063】
そして、比較部19bは、演算部19aによる算出結果を、記憶部19cに記憶された検量線41と比較することで、減肉量あるいは、残肉厚の評価をすることができる。
〔周期情報抽出手段と欠陥評価部〕
次に、図1及び図10〜図12を用いて、本実施形態による渦電流検査装置に用いる周期情報抽出手段14と欠陥評価部20の構成及び動作について説明する。
図10は、本発明の第1の実施形態による渦電流検査装置における信号波形を示す波形図である。図11は、本発明の第1の実施形態による渦電流検査装置における振幅情報取得部での振幅情報の抽出、位相情報取得部での位相情報の抽出の説明図である。図12は、本発明の第1の実施形態による渦電流検査装置の欠陥評価部で欠陥を評価した一例の説明図である。
【0064】
図10において、図10(a)は、パルス電圧として、正負の矩形波からなる励磁電圧を示し、図10(b)はトリガ信号を示し、図10(c)は励磁電流を示し、図10(d)は磁場検出素子8で得られる時間変動磁場を示している。横軸は、時間軸としており、図中の破線は、同一時間を示している。
【0065】
図1に示した渦電流プローブ2の磁場検出素子8で構成されるセンサ部10は、図10(d)に示す時間変動磁場42dを取得する。この時間変動磁場42dに対し、周期的な磁場成分を抽出するために、図1の振幅情報取得部16の演算部16aと位相情報取得部17の演算部17aに取り込まれる。ここで、時間変動磁場発生手段12のトリガ発生器27から周期的に生成したトリガ信号42bに基づき、演算部16a,17aに取り込まれ、時間変動磁場のうち、周期的な時間変動磁場成分に係る成分43(図10(d))のみを演算することができる。これにより、過渡期情報抽出手段13は、渦電流減衰に係る時間変動磁場の成分の抽出とは無関係に周期的な時間変動磁場成分に係る成分43のみを演算することができる。
【0066】
図11は、振幅情報取得部での振幅情報の抽出、位相情報取得部での位相情報の抽出の一演算例を示している。
【0067】
図11において、図11(a)は、磁場検出素子8で得られる時間変動磁場を示し、図11(b)は被演算データを示し、図11(c)は乗算データを示し、図11(d)は演算処理結果を示している。横軸は、時間軸としており、図中の破線は、同一時間を示している。
【0068】
図10に示したトリガ信号の周期43に同じ周期の余弦波45aと正弦波45b(図11(b))を図1の演算部16a,17aで生成し、センサ部10で得られる時間変動磁場の信号44(図11(a))とそれぞれ乗算する。図11(c)に示すように、余弦波45aと演算は乗算結果46aとなり、正弦波45bと演算は乗算結果46bとなり、それぞれ約2倍の高調波波形となる。これに対して、フィルターで平均化すると、図11(d)に示すように、乗算結果46aは演算処理結果47aとなり、乗算結果46bは演算処理結果47bとなる。
【0069】
ここで得られる一定値成分は、被演算データである余弦波45aと正弦波45bのそれぞれの内積演算であるため、振幅情報と位相情報を抽出できる。振幅情報は、演算処理結果47aと演算処理結果47bの二乗平均であり、位相情報は、演算処理結果47aと演算処理結果47bで決まる偏角となり、汎用測定器であるロックインアンプと同様の演算結果となる。ここで、図1の記憶部16c,17cに健全部などの基準信号を記憶しておき、比較部16b,17bで差分処理することにより、振幅情報及び位相情報の変化分のみを抽出することができ、変化が微小となる微小な欠陥を有する被検体の評価や、その測定精度の桁数が必要なときに利用できる。
【0070】
一般的に、渦電流探傷の場合、演算処理結果47aはX信号、演算処理結果47bはY信号と呼ばれ、両者をそれぞれ縦軸、横軸としたグラフでリサージュ図と呼ばれる表示方法の信号軌跡でできずや割れなどの欠陥を評価する。
【0071】
図12は、周期情報抽出手段14で得られた振幅情報,位相情報に基づき、欠陥評価部20で欠陥を評価した一例を示している。
【0072】
図12(a)に示すように、欠陥48を有する被検体49に対し、渦電流プローブ2を走査する。
【0073】
図12(b)は、振幅情報,位相情報をリサージュ図で表示したものである。欠陥48を有する被検体49に対し、渦電流プローブ2を走査すると、演算処理結果47aをX信号、演算処理結果47bをY信号として縦軸、横軸としたグラフとしたリサージュ図において、欠陥48の直上付近で図12(b)のような軌跡50a(破線)を描く。欠陥の深さが深くなると、軌跡50b(点線)、軌跡50c(一点鎖線)、のように振幅51や位相52が変化する。軌跡に対してあらかじめ欠陥深さなどが既知の対比試験体で測定しておき、記憶部20cに記憶しておく。記憶している軌跡のデータを図12(b)の検量線53(実線)として、実際の測定で得られる信号と比較部20bで比較することで欠陥の深さなどの評価が可能である。
【0074】
また、位相情報取得部16,位相情報取得部17で、比較部16b,17bにより基準信号との差分を行った結果で検量線53を作成した場合、基準信号を健全部の信号とすれば、その信号との差となり、健全部と欠陥に関する状態の差異の評価をすることができる。
〔減肉と欠陥の同時測定〕
次に、図13を用いて、本実施形態による渦電流検査装置による減肉と欠陥の同時測定結果について説明する。
図13は、本発明の第1の実施形態による渦電流検査装置による減肉と欠陥の同時測定結果の説明図である。
【0075】
図13(a)に示すように、板厚が空間的に変化している被検体54に、深さdの欠陥55が存在する。この被検体に対し渦電流プローブ2を空間的に移動させる。
【0076】
その場合の図1の出力部21の例は、図13(b)に示す板厚評価結果56と、欠陥信号57a,57bとなる。本検査装置における、板厚を測定するための過渡情報取得手段13と、欠陥情報を取得する周期情報取得手段14は、時間変動磁場発生手段12で生成するトリガ信号を利用して、渦電流減衰に係る時間と周期的な時間を切り分けて処理することで肉厚と欠陥の同時測定が可能となる。
【0077】
以上説明したように、本実施形態によれば、板厚を測定するための過渡情報取得手段13と、欠陥情報を取得する周期情報取得手段14を設けることにより、時間変動磁場発生手段12で生成するトリガ信号を利用して、渦電流減衰に係る時間と周期的な時間を切り分けて処理することできる。そして、厚い金属部材の肉厚の測定ができるパルス励磁型渦電流探傷法の利点を活用でき、元来の渦電流探傷法の特長であるきず及び割れなどの欠陥検出の性能をもち、特に、被検体に対する検査位置が同一でも、減肉と欠陥を同時に検査することができる。
【0078】
次に、図14を用いて、本発明の第2の実施形態による渦電流検査装置の構成及び動作について説明する。なお、図14において、図1と同一符号は同一部分を示している。
【0079】
図14は、本発明の第2の実施形態による渦電流検査装置の全体構成を示すブロック図である。
【0080】
本実施例では、過渡情報抽出手段13と周期情報抽出手段14を構成する磁場検出素子を統一したセンサ部58で構成している。
【0081】
本実施例は、渦電流減衰情報の磁場強度と、周期的な時間変動磁場信号の磁場強度がほぼ同じ範囲である場合、異なる磁場範囲の感度を持つ磁場検出素子を使用する必要がなく、磁場検出素子を同一にすることができる。このことにより、図2に示した渦電流プローブ2における磁場検出素子7,8は、1つに統一され、プローブに占める体積、面積が及び結線数が少なくなり、狭いスペースでの被検体や、曲面半径の小さい被検体でも、プローブの密着性を保つことができる。
【0082】
この場合、センサ部58の磁場検出素子としては、一般に、図2に示した磁場検出素子7のみを用いる。但し、測定する磁場強度によっては、磁場検出素子8のみを用いることもできる。
【0083】
以上説明したように、本実施形態によれば、厚い金属部材の肉厚の測定ができるパルス励磁型渦電流探傷法の利点を活用でき、元来の渦電流探傷法の特長であるきず及び割れなどの欠陥検出の性能をもち、特に、被検体に対する検査位置が同一でも、減肉と欠陥を同時に検査することができる。
【0084】
また、狭いスペースでの被検体や、曲面半径の小さい被検体でも、プローブの密着性を保つことができる。
【0085】
次に、図15を用いて、本発明の第3の実施形態による渦電流検査装置の動作について説明する。なお、本実施形態による渦電流検査装置の全体構成は、図1若しくは図14も示したものと同様である。
【0086】
図15は、本発明の第3の実施形態による渦電流検査装置の動作説明図である。
【0087】
図15を用いて、渦電流減衰情報取得手段14における渦電流減衰情報の抽出処理について説明する。図15(a)は、図7(d)に示した時間変動磁場の信号を示している。図15(b)は、図15(a)の破線59で示す要部を拡大し、縦軸を対数目盛で示した信号を示している。
【0088】
本実施例は、図1若しくは図14に示した渦電流減衰情報取得手段14の演算部14aにおいて、渦電流減衰情報が指数関数的な変化であることに着目し、対数演算を用いることで、指数関数の指数部、すなわち、システム制御理論におけるシステムの時定数を直接評価したものである。複数の時間で対数処理した時間変動磁場の信号値は、時間とともに時定数の変動を評価することができ、複数の材料が混在する場合など、板厚の評価の精度向上に利用することができる。
【0089】
図15(b)に示すように、板厚が変更,すなわち、減肉が検出された場合、健全部での減衰波形60aに対して、減肉時の減衰波形60bは図示のように変化する。トリガ信号に基づき抽出された渦電流減衰の成分を示す波形の時間に対して、少なくとも2点の時刻に関して磁場の値の変化率を計算し、渦電流減衰のパラメタとすることができる。たとえば、時間t2の時の磁場強度B2,B2’と時間t1の時の磁場強度B1,B1’の値を用いて変化率を求めれば、減衰信号の時間特性をパラメタ化することができる。
【0090】
そして、渦電流減衰情報取得部14の記憶部14cに健全部測定のデータを記憶しておき、比較部14bで差分処理することにより、渦電流減衰情報の変化分のみを抽出することができ、変化が微小となる板厚の厚い被検体の評価や、肉厚測定の測定精度の桁数が必要なときに利用できる。
【符号の説明】
【0091】
1…検査装置
2…渦電流プローブ
3…走査機構
4…走査制御装置
5…プローブ制御部
6…励磁コイル
7,8…磁場検出素子
9,10…センサ部
11,39,49,54…被検体
12…時間変動磁場発生手段
13…過渡情報抽出手段
14…渦電流減衰情報取得部
15…周期情報抽出手段
16…振幅情報抽出部
17…位相情報抽出部
18…解析部
19…肉厚評価部
20…欠陥評価部
30a,35a,42a…励磁電圧
35b,42b…トリガ信号
35c,42c…励磁電流
35d,42d…時間変動磁場

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス状の時間変動磁場による渦電流で金属の被検体を検査する渦電流検査装置であって、
時間的に周期的なパルス状波形の励磁電圧に基づき励磁コイルの励磁電流を制御し、時間変動磁場を発生させる時間変動磁場発生手段と、
該時間変動磁場発生手段によって前記被検体に発生させた渦電流による磁場の変化に対し、過渡的な磁場情報を抽出する過渡情報抽出手段と、周期的な磁場情報を抽出する周期情報抽出手段と、
前記過渡情報抽出手段によって抽出された過渡的な磁場情報を演算処理し、被検体の肉厚を評価する肉厚評価部と、
前記周期情報抽出手段によって抽出された周期的な磁場情報を演算処理し、被検体のきず及びや割れなどの欠陥を評価する欠陥評価部とを備えることを特徴とする渦電流検査装置。
【請求項2】
請求項1記載の渦電流検査装置において、
前記時間変動磁場発生手段は、
励磁電圧波形を生成する波形発生器と、
前記励磁電圧波形を電力増幅して励磁コイルに励磁電流を供給する電力増幅器と、
前記励磁電流の通電及び遮断を制御するスイッチと、
前記波形発生器と、前記スイッチを制御するトリガ発生器とで構成し、
前記トリガ発生器は、一定の時間周期で同期信号を出力し、前記波形発生器に接続して時間的に周期的な励磁電圧波形を生成させ、また、前記スイッチと接続して、励磁電流の通電時間及び遮断時間を制御して、時間的に周期的なパルス状の磁場を発生させることを特徴とする渦電流検査装置。
【請求項3】
請求項1記載の渦電流検査装置において、
前記過渡情報抽出手段は、
少なくとも1つの磁場検出素子を有し、時間変動磁場の信号を取得するセンサ部と、
励磁電流の通電及び遮断の時間に基づき前記時間変動磁場の信号の過渡的な情報をとして渦電流減衰情報を抽出する渦電流減衰情報抽出部とで
構成することを特徴とする渦電流検査装置。
【請求項4】
請求項2記載の渦電流検査装置において、
前記渦電流減衰情報抽出部は、前記スイッチの励磁電流の遮断時刻から通電開始時刻の時刻と、前記時刻間の時間変動磁場の信号値を演算処理し、渦電流の減衰情報を抽出することを特徴とする渦電流検査装置。
【請求項5】
請求項4記載の渦電流検査装置において、
前記渦電流減衰情報抽出部は、予め設定された所定の基準信号を記憶する記憶手段を備え、
前記スイッチの励磁電流の遮断時刻から通電開始時刻の時刻と、前記時刻間の時間変動磁場の信号値を演算処理した結果と、前記基準信号に対して同一の前記演算処理した結果とを比較することにより、渦電流の減衰情報を抽出することを特徴とする渦電流検査装置。
【請求項6】
請求項1記載の渦電流検査装置において、
前記周期情報抽出手段は、
少なくとも1つの磁場検出素子を有し、時間変動磁場の信号を取得するセンサ部と、
励磁電流の通電もしくは遮断の時間に基づき前記時間変動磁場の信号の周期的な情報をとして、振幅情報を抽出する振幅情報抽出部と、位相情報を抽出する位相情報抽出部とで
構成することを特徴とする渦電流検査装置。
【請求項7】
請求項6記載の渦電流検査装置において、
前記振幅情報抽出部は、予め設定された所定の基準信号を記憶する記憶手段を備え、
前記基準信号と前記時間変動磁場の信号値との差分演算で振幅差を求め、時間変動磁場の振幅情報を抽出し、
前記位相情報抽出部は、予め設定された所定の基準信号を記憶する記憶手段を備え、
前記基準信号と前記時間変動磁場の信号値との差分演算で、信号値の上昇又は下降する時間の差を求め、時間変動磁場の位相情報を抽出することを特徴とする渦電流検査装置。
【請求項8】
請求項1記載の渦電流検査装置において、
前記過渡情報抽出手段は、少なくとも1つの磁場検出素子を有し、時間変動磁場の信号を取得するセンサ部を備え、
前記周期情報抽出手段は、少なくとも1つの磁場検出素子を有し、時間変動磁場の信号を取得するセンサ部とを備え、
前記過渡情報抽出手段と前記周期情報抽出手段とで用いる磁場検出素子は、同一のものを用いることを特徴とする渦電流検査装置。
【請求項9】
請求項1記載の渦電流検査装置において、
前記過渡情報抽出手段は、少なくとも1つの磁場検出素子を有し、時間変動磁場の信号を取得するセンサ部を備え、
前記周期情報抽出手段は、少なくとも1つの磁場検出素子を有し、時間変動磁場の信号を取得するセンサ部とを備え、
前記過渡情報抽出手段と前記周期情報抽出手段とで用いる磁場検出素子は、異なる磁場感度の特性を有するものを用いることを特徴とする渦電流検査装置。
【請求項10】
請求項1記載の渦電流検査装置において、
前記肉厚評価部は、予め設定された異なる肉厚に対する前記過渡的な磁場情報を記憶する記憶手段を備え、
前記被検体の測定で抽出された過渡的な磁場情報と比較することにより、被検体の肉厚を評価し、
前記欠陥評価部は、予め設定された形状の異なるきずや割れなどの欠陥に対する前記周期的な磁場情報を記憶する記憶手段を備え、
前記被検体の測定で抽出された周期的な磁場情報とを比較することにより、被検体の欠陥を評価することを特徴とする渦電流検査装置。
【請求項11】
パルス状の時間変動磁場による渦電流で金属の被検体を検査する渦電流検査装置を用いる渦電流検査方法において、
一定の時間周期で出力した同期信号と同期するパルス状波形の励磁電圧を用いて、励磁コイルの励磁電流をスイッチで制御して時間変動磁場を生成し、
前記被検体に発生させた渦電流による磁場の変化に対し、少なくとも1つの磁場検出素子で前記磁場を測定し、前記励磁電流の通電及び遮断の時間に基づき演算処理して得られる渦電流減衰情報を取得し、
これと同時に、少なくとも1つの磁場検出素子で前記磁場を測定し、励磁電流の通電もしくは遮断の時間に基づき演算処理して得られる振幅情報と位相情報を取得し、
前記渦電流減衰情報は、予め設定された異なる肉厚に対する渦電流減衰情報と比較して、前記被検体の減肉を評価し、
前記振幅情報と前記位相情報は、予め設定された形状の異なるきずや割れなどの欠陥に対する振幅情報と位相情報と比較して、前記被検体の欠陥を評価することを特徴とする渦電流検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−2633(P2012−2633A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137169(P2010−137169)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】