説明

温度センサ及びその製造方法

【課題】高温耐熱性に優れ、信頼性の高い温度センサ及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】感温素子2に一対の電極線3を接合し、感温素子2と一対の電極線3の一部とを共に封止するガラスよりなる保護層4を形成し、保護層4の表面の一部又は全部を覆う被覆層5を形成することにより温度検出素子6を得る温度検出素子作製工程と、温度検出素子6を、予め内部に充填材用スラリー71を充填した金属カバー7内に挿入し配置する配置工程と、充填材用スラリー71を乾燥させる乾燥工程とを有する。温度検出素子作製工程において、被覆層5は、保護層4の表面のうち、少なくとも感温素子2の後端部21に相当する位置よりも先端側の部分に形成される。被覆層5は、撥水性及び耐熱性を有するものである。充填材用スラリー71は、脱水縮合により硬化するスラリーである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車排ガス等の被測定流体が流通する流路内に突出するように配置され、非測定流体の温度を検出する温度センサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジンの排ガス規制に対応するため、NOxの発生を抑制する排ガス再循環システム(以下、EGRシステム)や、触媒等を用いた排ガス処理システムが広く利用されている。これらのシステムでは、EGRガス又は排ガス流路内に温度センサを設けてEGRガス又は排ガス温度に基づく最適な制御を実施することで、排気エミッションの低減を図っている。このような用途に用いられる温度センサには、高応答で検出温度範囲の広い温度センサが求められ、温度により抵抗が変化する感温素子を用いた温度センサが用いられる。
【0003】
上記の温度により抵抗が変化する感温素子を用いた温度センサは、一般的に、一対の電極が接合されたサーミスタ素子と、上記サーミスタ素子の電極に接合された一対の電極線と、該一対の電極線にそれぞれ接続された一対の信号線と、該信号線を内蔵する碍子管と、上記サーミスタ素子を覆うように先端部に配設されたカバーとを有する。
【0004】
そして、電極線のサーミスタ素子への接合は、例えば、サーミスタ素子の表面にPtペースト(白金ペースト)を塗布して電極線を貼り付けた後、焼き付けることにより行われる。ところが、エンジン付近に温度センサを設置する場合などにおいては、大きな振動が温度センサに伝わり、サーミスタ素子が振動して、サーミスタ素子と電極線との接合部が断線してしまうおそれがある。また、カバー内の還元ガスによってサーミスタ素子が変質し、抵抗特性が変化してしまうおそれがある。
そこで、感温素子を、電極線との接合部を含めて、ガラスによって封止した構造を有する感温体を用いた温度センサがある(特許文献1、2参照)。このような構造を有する感温体は、ガラスの固着力により感温素子と電極線の安定した導通特性を確保することができる。
【0005】
感温素子をガラス封止した構造を有する感温体は、上述したように安定した導通特性を確保することができるが、感温素子と電極線を封止、固定しているガラスに感温素子まで達するクラックが発生すると、感温素子の温度に対する電気的特性が変化し、抵抗異常を引き起こし、温度検出誤差に至るという問題がある。
このような問題に対し、従来は、金属カバーと感温体の隙間を拡大し充填材による振動の抑制や、使用温度域の低下によりガラスクラックの発生を防止していた(特許文献3)。
【0006】
また、特許文献4には、充填材と検出素子との間、あるいは、充填材と金属ケースの内面との間の少なくとも一方にコーティング材を設けてなることにより、温度検出による金属ケースの伸縮がそのまま充填材を介して温度検出素子に伝達されることによる温度検出素子の損傷を防止することができる温度検出装置が記載されている。そして、充填材としてアルカリ性の溶剤を含むものを用いた場合にはコーティング材は用いなくても良いことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−92735号公報
【特許文献2】特開2002−350241号公報
【特許文献3】特開平7−43220号公報
【特許文献4】特開平7−159250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらの技術では、ガラスクラックの発生の防止効果は不十分である。
そして、鋭意研究を重ねたところ、ガラスクラックは、使用開始時にガラスの表面に微小クラックが存在しており、使用開始後にガラスの内部応力、振動等の外部応力、熱応力等の応力がガラス表面に存在する微小クラックに集中し、微小クラックが進展、拡大することにより発生していることがわかった。
【0009】
また、上記ガラス表面に存在するクラックは、上記温度センサの作製時に形成されることを見出した。具体的には、上記感温体は、一般的に、予め内部に充填材を構成するスラリーを配置した上記金属カバー内に挿入し、上記スラリーを乾燥させることにより、上記金属カバー内に配置される。そして、上記スラリーを乾燥させる際に発生する水分と、ガラスのSiO2とが反応し、SiO2がSiOHに置換されることにより、結合力の低下が生じ、ガラス表面に微小なクラックが発生する。
【0010】
また、上記ガラスの内部応力は、溶融状態から固まる際に、ガラス自体が歪むことにより必ず発生するため、その発生を防止することは困難である。また、使用時における上記外部応力、熱応力等はなくすことができない。そのため、一度微小クラックが発生してしまうと、特に高温においては、その進展(拡大)を確実に抑制することは困難である。
【0011】
また、使用前(車両搭載前)の時点では、微小クラックが存在していても、感温素子の抵抗値特性に影響はない。しかし、その微小クラックが、のちに進展、拡大し、抵抗異常を引き起こすおそれがある。そのため、従来は、微小クラックの存在が確認された温度検出素子は廃棄しなければならず、信頼性が低く、生産性が悪く、生産コストも高くなるという問題があった。
【0012】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであって、高温耐熱性に優れ、信頼性の高い温度センサ、及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の発明は、感温素子に一対の電極線を接合し、上記感温素子と上記一対の電極線の一部とを共に封止するガラスよりなる保護層を形成し、該保護層の表面の一部又は全部を覆う被覆層を形成することにより温度検出素子を得る温度検出素子作製工程と、
上記温度検出素子を、予め内部に充填材用スラリーを充填した金属カバー内に挿入し配置する配置工程と、
上記充填材用スラリーを乾燥させる乾燥工程とを有し、
上記温度検出素子作製工程において、上記被覆層は、上記保護層の表面のうち、少なくとも上記感温素子の後端部に相当する位置よりも先端側の部分に形成され、
且つ、上記被覆層は、撥水性及び耐熱性を有するものであり、
上記充填材用スラリーは、脱水縮合により硬化するスラリーであることを特徴とする温度センサの製造方法にある(請求項1)。
【0014】
第2の発明は、感温素子と、該感温素子に接続された一対の電極線と、上記感温素子と上記一対の電極線の一部とを共に封止するガラスよりなる保護層と、該保護層の表面の一部又は全部を覆う被覆層とを有する温度検出素子と、
上記一対の電極線に接続された一対の信号線と、
該信号線を内蔵する碍子管と、
上記温度検出素子及び上記碍子管を覆うように先端部に配設された金属カバーと、
該金属カバーと上記温度検出素子あるいは上記碍子管との間に介在させた充填材とを有し、
上記被覆層は、上記保護層の表面のうち、少なくとも上記感温素子の後端部に相当する位置より先端側の部分に形成されており、且つ、撥水性及び耐熱性を有することを特徴とする温度センサにある(請求項4)。
【発明の効果】
【0015】
上述したように、保護層の表面に微小クラックが存在する場合には、ガラスの内部応力、振動等の外部応力、熱応力等の応力がガラス表面に存在する微小クラックに集中し、微小クラックの進展、拡大が発生し易くなるため、一度発生した微小クラックの進展、拡大を確実に抑制することは困難である。
【0016】
そして、第1の発明の温度センサの製造方法は、保護層の表面における微小クラックの発生の防止に着目したものである。本発明において最も注目すべき点は、上記温度検出素子作製工程において、上記保護層の表面の特定の部位に、予め特定の性質を有する上記被覆層を設けることにある。これにより、温度センサの作製過程において保護層上の特定部分に微小クラックが発生することを抑制し、感温素子の抵抗異常を引き起こすガラスクラックの発生を防止することができ、高温耐熱性に優れ、信頼性の高い温度センサを得ることができる。
【0017】
温度センサにおいて、温度検出素子は、金属カバー内に充填材を介して外部との気密確保された状態で収容されている。つまり、上記充填材スラリーの乾燥後は、温度検出素子が水分と接触することはほとんどない。そのため、使用中(車両登載中)に水分と保護層のガラスとが反応し、微小クラックが発生することは考え難い。
このことから、温度センサ作製過程において微小クラックの発生を防ぐことができれば、使用中(車両搭載中)に、ガラスの内部応力、振動等の外部応力、熱応力等の応力が局所的に集中することを防ぎ、抵抗異常を引き起こすクラックの発生を効果的に抑制することができると考えられる。
【0018】
本発明では、上述したように、上記温度検出素子を、予め内部に充填材用スラリーを配置させた金属カバー内に挿入し配置した後、上記充填材用スラリーを乾燥させる。
そして、上記充填材用スラリーは、脱水縮合により硬化するスラリーである。
そのため、上記乾燥工程においては、上記充填材用スラリーの脱水縮合により、水分が発生する。発生した水分は乾燥工程で排除するが工程中は、上記温度検出素子は水蒸気に曝されることとなる。
【0019】
しかし、本発明では、上記ガラスよりなる保護層の表面上の特定の部位を覆う上記被覆層を予め設ける。これにより、上記乾燥工程において、上記被覆層で覆われた部分の保護層が水分に曝されることを防ぐことができる。そして、水分との接触を遮断し、水分と保護層を構成するガラスとの反応を抑制することにより、温度センサの作製過程において上記特定の部位に微小クラックが発生することを抑制することができる。そのため、使用中(車両搭載中)に、ガラスの内部応力、振動等の外部応力や、熱応力等の応力がかかったとしても、その応力が局所的に集中することを防ぎ、抵抗異常を引き起こすクラックの発生を抑制することができる。
【0020】
また、上記被覆層は、保護層と水分との接触を防止するだけでなく、温度センサの作製過程等において、他物質と接触すること等により保護層に傷がつくことを防ぐ効果も有する。
【0021】
なお、上記被覆層は、撥水性及び耐熱性を有するものである。
上記被覆層は、水を透過させない撥水性、及び、水が蒸発する温度条件において耐性を有する耐熱性を有することにより、上記乾燥工程において、被覆層形成部分での水分と保護層との接触を遮断することができる。また、上記耐熱性は、水分の乾燥条件である100℃以上の耐熱性が必要である。
【0022】
また、上記被覆層は、上記保護層の表面のうち、少なくとも上記感温素子の後端部に相当する位置よりも先端側の部分に形成される。つまり、上記感温素子の先端面、側面方向の保護層は被覆層により覆われた状態となる。
抵抗異常は感温素子近傍のクラックで発生するため、少なくとも上記保護層の表面のうち感温素子の後端部に相当する位置より先端側の範囲を覆うように被覆層を形成すれば、たとえ被覆層の非被覆部で微小クラックが発生したとしても、抵抗異常を引き起こすクラックの発生は抑制することができる。
ここで、先端側とは、温度センサにおける軸方向先端側である。
【0023】
本発明は、上述したように、上記保護層の必要な部分に、予め上記被覆層を形成しておくことにより、脱水縮合により硬化するスラリーを用いても、上記被覆層形成部分における微小クラックの発生を防止することかできる。
このように、抵抗異常を引き起こすクラックの発生原因となる微小クラックの発生を防止することにより、従来と比較して、信頼性を格段に向上させることができる。また、高温での使用であっても、クラック発生の抑制効果を得ることができ、高温耐熱性を有することができる。
【0024】
また、本発明の製造方法は、上記被覆層の形成領域、及び上記被覆層の構成材料を制限することにより、抵抗異常を引き起こすクラックの発生を抑制するものである。そのため、保護層を形成するガラスの材質や、充填材スラリーの材質等に特に制限はなく、公知の種々の材料を用いることができる。
【0025】
また、近年では、自動車エンジンからの排ガス規制が強化される傾向にあり、NOx発生量の大幅な削減が求められている。また、EGRシステムの高精度化、制御温度域の拡大化に伴い、温度センサは高応答性、高温耐熱性の要求が大きくなっている。そして、高応答性要求から金属カバーの細径化が必要となり、金属カバーの細径化のみならず、感温体の径小化、また、金属カバーと感温体の隙間縮小が求められている。
【0026】
本発明の製造方法により得られる高温耐熱性、信頼性の効果は、金属カバーの細径化、感温体の径小化、金属カバーと感温体の隙間縮小を行う場合であっても、同様に得ることができる。そのため、本発明の製造方法を採用し、金属カバーの細径化、感温体の径小化、金属カバーと感温体の隙間縮小を行う場合には、高温耐熱性に優れ、信頼性が高いのみならず、高応答性を有する温度センサを製造することができる。
【0027】
このように、本発明によれば、高温耐熱性に優れ、信頼性の高い温度センサの製造方法を提供できることがわかる。
【0028】
第2の発明の温度センサは、保護層の表面の特定の部分に被覆層が形成されている。そのため、温度センサの作製過程において、上記被覆層形成部分の保護層が水分に曝されることはなく、水分との反応が防止されているため、保護層表面に微小クラックが発生しているとは考え難い。そして、上記被覆層形成部分に微小クラックが存在していない温度センサは、使用中(車両搭載中)に、ガラスの内部応力、振動等の外部応力、熱応力等の応力が局所的に集中することを防ぎ、感温素子の抵抗異常を引き起こすクラックの発生を抑制することができる。そのため、本発明によれば、高温耐熱性に優れ、信頼性の高い温度センサを提供できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1における、温度センサの製造方法を示す説明図。
【図2】実施例1における、温度センサを示す説明図。
【図3】比較例1における、温度センサを示す説明図。
【図4】実験例1における、冷熱耐久試験の結果を示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
第1の発明の温度センサの製造方法は、上述したように、温度検出素子作製工程と、配置工程と、乾燥工程とを有する。
上記温度検出素子作製工程は、感温素子に一対の電極線を接合し、上記感温素子と上記一対の電極線の一部とを共に封止するガラスよりなる保護層を形成し、該保護層の表面の一部又は全部を覆う被覆層を形成することにより温度検出素子を得る。
上記感温素子としては、サーミスタ素子を用いることが好ましい。
【0031】
また、上記電極線としては、ジュメット線(銅被覆ニッケル鋼線)や白金線を用いることができ、ジュメット線を用いることが好ましい。ジュメット線は、Fe−Ni合金からなる線材の表面にCu中間層を被覆し、さらにCu2O層、あるいはCu2O層上に硼砂(Na247)を焼き付けたものである。
【0032】
また、上記保護層を形成するガラスとしては、従来より感温素子の被覆に用いられている種々のガラスを用いることができ、例えば、鉛系ガラス、鉛を含まないビスマス系ガラス等を用いることが好ましい。
【0033】
また、上記被覆層を構成する材料としては、撥水性及び耐熱性を有するものを用いる必要がある。そして、上記被覆層は、主成分がシリコーンレジンよりなることが好ましい(請求項2)。
シリコーンレジンは、特に、耐熱性、撥水性に優れるため、上記被覆層を形成する材料として好ましい。シリコーンレジンは、分子構造の主骨格を形成するシロキサン結合の結合エネルギーが大きく、熱分解温度が高いため非常に耐熱性に優れている。また、分子中のメチル基配向により、硬化物の表面は優れた撥水効果を有することができる。シリコーンレジンとしては、メチルシリコーンレジン、メチルフェニルシリコーンレジン等を用いることができる。
【0034】
また、上記配置工程は、上記温度検出素子を、内部に充填材用スラリーを充填した金属カバー内に挿入して配置する。
上記金属カバーとしては、ステンレス鋼またはNi基耐熱合金からなるものを用いることが好ましい。
【0035】
また、上記充填材用スラリーは、脱水縮合により硬化するスラリー状の充填材である。
硬化性、生産性の観点から、脱水縮合反応により硬化する充填材用スラリーを用いることが最適である。
そして、脱水縮合により硬化するスラリー状の充填材としては、例えば、Al23、SiO2を主成分とし、Li2Oを含有するスラリーや、Al23、SiO2を主成分とし、MgO、Zr2Oを含有するスラリー等を用いることができる。
【0036】
また、一般的に、アルカリ性を示す充填材用スラリーは、ガラスとの相性が悪いとされており、従来は用いられることはなかったが、上記被覆層を設けることにより、その接触を遮断することができるため、アルカリ性を示す充填材用スラリーを適用する場合にも、保護層の表面における微小クラックの発生を防止することができるという効果を得ることができる。また、上記アルカリ性の度合いは、pH10〜12程度であることが好ましい。
【0037】
脱水縮合以外の反応で硬化する充填材用スラリー、例えば、加水縮合反応(金属アルコキシド反応)により硬化するスラリー(溶媒がアルコール系であるスラリー)を用いる場合には、空気中の水分(湿度)と反応することにより硬化させるため、空気との接触面積が少なく、長時間の乾燥が必要であるという問題や、チューブ先端の素子周りは硬化が不安定となるという問題がある。
【0038】
また、上記金属カバー内に上記温度検出素子を挿入する際には、一般的に、上記温度検出素子における一対の電極線は、一対の信号線に接続され、そして、Al23等を主成分とし、2穴部を有する碍子管の該2穴部に、上記一対の信号線が挿入固定された状態となっている。
上記信号線としては、例えば、ステンレス鋼またはNi基耐熱合金からなるものを用いることができる。
また、上記碍子管は、温度検出素子の一対の電極線の絶縁を確保するものである。そして、例えば、上述したように、上記信号線を配置するための2穴部を有し、Al23を主成分とする碍子管等を用いることができる。
【0039】
また、上記乾燥工程では、上記充填材用スラリーを乾燥させる。
上記充填材用スラリーを乾燥させる方法としては、室温で15〜20分以上風乾した後、100〜150℃で30分以上保持する方法等がある。
【0040】
また、上記温度検出素子作製工程において、上記被覆層は、上記保護層の表面のうち、少なくとも上記感温素子の後端部に相当する位置よりも先端側の部分に形成される。
上記感温素子の後端部に相当する位置よりも先端側の部分に被覆層が形成されない場合には、上記乾燥工程において、被覆層の非形成部分に微小クラックが発生するおそれがある。そして、その微小クラックが、後に進展、拡大し、感温素子の抵抗異常を引き起こすクラックを発生させるおそれがあり、信頼性の低下につながる。
なお、上記被覆層は、上記感温素子の後端部に相当する位置より先端側の部分さえ被覆していれば、上記保護層の表面全部が被覆されていても良いし、上記保護層の表面の一部が露出していてもよい。そして、上記被覆層は、上記保護層の表面全面に形成されていることが最も好ましい。
【0041】
また、上記被覆層は厚みが2μm以上であることが好ましい(請求項3)。
この場合には、上記被覆層を設けた部分において、上記保護層と、水分との接触を確実に防止することができる。
上記被覆層の厚みが2μm未満である場合には、上記乾燥工程において、上記充填材用スラリーを乾燥させる際に発生する水分と、上記保護層を構成するガラスとの接触を十分に防ぐことができないおそれがある。
【0042】
また、上記被覆層を形成する効率的な方法は、上記保護層に液状でディッピングし、乾燥、加熱により形成する方法である。そして、被覆層の厚さは加工前の液体の粘度等により変化するが、1回のディッピングで最大20μm程度の被覆層が形成される。被覆層の厚さが過剰な設置は経済的ではないが、被覆層の確実な設置のため、ディッピング処理を2回実施することが好ましく、被覆層は40μm以下であることが好ましい。
【0043】
第2の発明の温度センサは、上述したように、温度検出素子と、信号線と、碍子管と、金属カバーと、充填材とを有し、上記温度検出素子は、感温素子と、該感温素子に接続された一対の電極線と、上記感温素子と上記一対の電極線の一部とを共に封止するガラスよりなる保護層と、該保護層の表面の一部又は全部を覆うように配設された被覆層とを有する。
これらを構成する好ましい材料は、上述した通りである。
【0044】
そして、本発明の温度センサは、上記第1の発明の温度センサの製造方法を行うことによって確実に得ることができる。
また、上記温度センサが自動車排ガス等の被測定流体が流通する流路内に配置される際には、金属カバー内に充填材を介して収容した温度検出素子が流路内に突出するように配置される。
【実施例】
【0045】
(実施例1)
本例は、本発明の実施例にかかる温度センサの製造方法について図1、及び図2を用いて説明する。
本例の温度センサの製造方法は、温度検出素子作製工程、配置工程、及び乾燥工程を有する。
以下、これを詳説する。
【0046】
図1に示すように、上記温度センサ1の製造方法を行うに当たり、まず、感温素子2としてサーミスタ素子を用意した。また、感温素子2は、略直方体形状を有し、互いに平行な一対の面に、AuやPtを主成分としてなる一対の電極が形成されている。
【0047】
また、電極線3として、直径0.3mmのジュメット線を用意した。
また、保護層4を形成するガラスとして、鉛系ガラスを用意した。
また、被覆層5を形成する材料として、信越化学工業株式会社製シリコーンコーティング材KR−251を用意した。この材料は、撥水性及び耐熱性を有するものである。
また、充填材用スラリー71として、表1に示す水系充填材である、朝日化学工業株式会社製スミセラム S−30A−3を用意した。上記充填材用スラリー71は、脱水縮合により硬化するものである。
また、後述の、碍子82と信号線81とを固定するセメントとして、表1に示すアルコール系充填材である、株式会社スリーボンド製スリーボンド3732を用意した。このセメントは、水縮合反応(金属アルコキシド反応)により硬化するものである。
【0048】
【表1】

【0049】
そして、図1(a)に示すように、上記温度検出素子作製工程において、上記感温素子2に一対の電極線3を接合した。
具体的には、上記感温素子2の電極面に、Auを主成分とするペーストを塗布し、上記電極線3を貼付け、750℃にて焼き上げることにより上記感温素子2と上記電極線3とを接合した。
【0050】
次に、図1(b)に示すように、上記感温素子2と上記一対の電極線3の一部とを共に封止するガラスよりなる保護層4を形成した。
具体的には、電極線3を接合した感温素子2をガラス管内に配置し、ガラスの溶融温度である約900℃にて熱処理することで保護層4を形成した。
【0051】
その後、図1(c)に示すように、上記保護層4の表面の一部を覆う被覆層5を形成し、温度検出素子6を得た。
具体的には、上記被覆層を形成する材料をディッピングすることにより上記保護層4に塗布し、乾燥させて被覆層5を形成した。
上記被覆層5の厚みは10μmであった。
【0052】
また、本例では、上記被覆層5は、上記保護層4の表面のうち、少なくとも上記感温素子2の後端部21に相当する位置よりも先端側の部分を含む範囲に形成した。
なお、被覆層5の形成は、今回の場合のように上記保護層4の形成直後に行っても良いし、後述する電極絶縁性確保工程の後に行ってもよい。
また、本例においては、上記被覆層5は上記保護層4の表面のうち上記特定の部分を含む一部に形成したが、上記保護層4の表面全部に形成してもよい。
【0053】
そして、図1(d)〜(h)に示すように、得られた温度検出素子6に、電極線絶縁性確保工程を施した。
具体的には、図1(d)に示すように、温度検出素子6の一対の電極線3と、ステンレス鋼またはNi基耐熱合金からなる2本の信号線81とを溶接した。
また、図1(e)に示すように、温度検出素子6の一対の電極線3、及び上記信号線81を一対の孔(2穴部821)を有する碍子管82に挿入し、絶縁を確保した。
碍子管82は、2穴部821を有し、円柱形状を有する。そして、上記2穴部821に上記信号線81を挿入し、上記セメントにより固定した。また、上記信号線81は、碍子管82の2穴部821から後端側に露出している。
【0054】
また、図1(f)、(g)に示すように、信号線81の後端は、かしめ及び溶接により外部リード線83と接続した。
そして、図1(h)に示すように、上記信号線81と上記外部リード線83との接続部を、テフロン(登録商標)チューブ86を用いて被覆した。また、上記リード線83をブッシュ85に挿通させ、該ブッシュ85をチューブホルダ84に挿通させた。
チューブホルダ84は、シリコーンワニスでコーティングしたガラス繊維からなる。
また、ブッシュ85はフッ素ゴムからなる。
また、図1(h)に示すように、内部に充填材用スラリー71を充填した金属カバー7を用意した。金属カバー7の外周には、内燃機関への取付けるためのネジ部73が配されている。金属カバー7は、ネジ部73の内側に挿嵌されている。ネジ部73は、ステンレス鋼またはFeのNiメッキ材からなる。
【0055】
そして、配置工程において、図1(i)に示すように、上記温度検出素子6を、内部に充填材用スラリー71を充填した金属カバー7内に挿入し配置した。
その後、乾燥工程において、80℃で1.0時間、150℃で1.5時間加熱することにより上記充填材用スラリー71を乾燥させた。
【0056】
そして、最後に、上記金属カバー7、チューブホルダ84、ブッシュ85、及び外部リード線83を、外方から、一体的にかしめ固定することにより、温度センサ1を得た。
【0057】
本例により得られた温度センサ1は、感温素子2と、該感温素子2に接続された一対の電極線3と、上記感温素子2と上記一対の電極線3の一部とを共に封止するガラスよりなる保護層4と、該保護層4の表面の一部又は全部を覆う被覆層5とを有する温度検出素子6と、上記一対の電極線3に接続された一対の信号線81と、該信号線81を内蔵する碍子管82と、上記温度検出素子6を覆うように先端部に配設された金属カバー7と、該金属カバー7と上記温度検出素子6あるいは上記碍子管82との間に介在させた充填材72とを有する。上記被覆層5は、上記保護層4の表面のうち、少なくとも上記感温素子2の後端部21に相当する位置より先端側の部分に形成されており、上記被覆層5は、撥水性及び耐熱性を有する。
【0058】
また、本例の温度センサ1の製造方法では、上記温度検出素子作製工程において、上記保護層4の表面の特定の部位に、予め特定の性質を有する被覆層5を設けた。これにより、温度センサ1の作製過程において保護層4上の特定の部分に微小クラックが発生することを抑制し、感温素子2の抵抗異常を引き起こすガラスクラックの発生を防止することができ、高温耐熱性に優れ、信頼性の高い温度センサ1を得ることができる。
【0059】
上記ガラスよりなる保護層4の表面上の特定の部位を覆うように、予め上記被覆層5を設けることにより、上記乾燥工程において、上記被覆層5で覆われた部分の保護層4が水分に曝されることを防ぐことができる。そして、水分との接触を遮断し、水分と保護層4を形成するガラスとの反応を抑制することにより、上記特定の部位において微小クラックが発生することを抑制することができる。そのため、使用中(車両搭載中)に、ガラスの内部応力、振動等の外部応力、熱応力等の応力が局所的に集中することを防ぎ、抵抗異常を引き起こすクラックの発生を抑制することができる。
また、上記被覆層5は、保護層4と水分との接触を防止するだけでなく、温度センサ1の作製過程等において、他物質と接触すること等により保護層4に傷がつくことを防ぐ効果も有する。
【0060】
なお、上記被覆層5は、撥水性及び耐熱性を有するものである。
上記被覆層5は、水を透過させない撥水性、及び、水が蒸発する温度条件において耐性を有する耐熱性を有することにより、上記乾燥工程における保護層4を構成するガラスと水分との接触を防ぐことができる。
【0061】
また、上記被覆層5は、上記保護層4の表面のうち、少なくとも上記感温素子2の後端部21に相当する位置よりも先端側の部分に形成される。つまり、少なくとも、上記感温素子2の先端面、側面方向の保護層4は被覆層5により覆われた状態となる。
抵抗異常は感温素子2近傍のクラックで発生するため、少なくとも上記保護層4の表面のうち感温素子2の後端部21に相当する位置より先端側の範囲を覆うように被覆層5を形成すれば、たとえ被覆層5の非被覆部で微小クラックが発生したとしても、抵抗異常を引き起こすクラックの発生は抑制することができる。
【0062】
本発明は、上述したように、上記保護層4の必要な部分に、予め上記被覆層5を形成しておくことにより、脱水縮合により硬化する充填材用スラリー71を用いても、上記乾燥工程において、上記保護層4の特定の部位における微小クラックの発生を防止することができる。
このように、抵抗異常を引き起こすクラックの発生原因となる微小クラックの発生を防止しているため、従来と比較して、信頼性を格段に向上させることができる。また、高温での使用であっても、クラック発生の抑制効果を得ることができ、高温耐熱性を有することができる。
【0063】
(比較例1)
本例では、比較のために、図3に示すように、上記実施例1において作製した温度センサ1における被覆層5を形成しない温度検出素子906を有する温度センサ9を作製した例である。
本例は、上記被覆層を形成しない以外は、上記実施例1と同様の方法で行った。
【0064】
(実験例1)
本例では、上記実施例1及び上記比較例1において作製された温度センサについて、冷熱耐久試験を行った。
<冷熱耐久試験>
冷熱耐久試験は、実施例1及び比較例1において得られる温度センサを4個ずつ用意し、温度センサ1(試料E1〜試料E4)、及び温度センサ9(試料C1〜試料C4)のそれぞれについて、加熱時間を2分間として最高温度500℃となるように加熱し、冷却時間を2分間として最低温度50℃となるように冷却することを1サイクルとして、これを1000サイクル行うことにより実施した。そして、冷熱耐久試験後の抵抗値変化を測定した。
【0065】
測定結果を、表2及び図4に示す。図4は、測定結果をプロットによって表したものであり、横軸にサイクル数(サイクル)、縦軸に温度誤差(℃)をとった。図4における曲線E1は試料E1の結果を示し、曲線E2は試料E2の結果を示し、曲線E3は試料E3の結果を示し、曲線E4は試料E4の結果を示し、曲線C1は試料C1の結果を示し、曲線C2は試料C2の結果を示し、曲線C3は試料C3の結果を示し、曲線C4は試料C4の結果を示す。
【0066】
評価は、冷熱耐久試験後(1000サイクル後)の温度誤差が、初期温度に対して±5℃の範囲内である場合を合格とし、冷熱耐久試験後(1000サイクル後)の温度誤差が、初期温度に対して±5℃の範囲を外れる場合を不合格とした。
【0067】
【表2】

【0068】
表2及び図4より知られるように、実施例としての温度センサ1(試料E1〜試料E4)は、いずれの温度センサも、温度誤差が小さく、良好な結果を示し、高温耐熱性に優れ、信頼性が高いことがわかる。
また、比較例としての温度センサ9(試料C1〜試料C4)のうち、試料C3及び試料C4は良好な結果を示したが、試料C1及び試料C2は温度誤差が大きく不合格であるため、感温素子の抵抗異常が起きていることがわかる。つまり、信頼性が低いことがわかる。
【0069】
このように、本発明によれば、高温耐熱性に優れ、信頼性の高い温度センサ、及びその製造方法を提供できることが分かる。
【0070】
(実験例2)
本例では、脱水縮合により硬化するスラリー状の充填材と、加水縮合反応(金属アルコキシド反応)により硬化するスラリーの硬化性を比較する実験を行った。
脱水縮合により硬化するスラリー状の充填材としては、上記実施例1で用いた表1に示す水系充填材を用意した。
また、加水縮合反応(金属アルコキシド反応)により硬化するスラリーとしては、上記実施例1で用いた表1に示すアルコール系充填材を用意した。
【0071】
上記水系充填材については、上記実施例1における金属カバーと同様の金属カバー内に上記水系充填材を配置し、上記実施例1と同様の方法で温度検出素子を金属カバー内に挿入し配置した後、硬化条件を80℃で1時間以上、150℃で1.5時間以上として、充填材の硬化を行った。
【0072】
また、アルコール系充填材については、上記実施例1における金属カバーと同様の金属カバーに上記アルコール系充填材を配置し、上記実施例1と同様の方法で温度検出素子を金属カバー内に挿入し配置した後、硬化条件を常温で20時間以上、50℃、80%RHで100時間以上として、充填材の硬化を行った。
【0073】
その結果、脱水縮合により硬化する上記水系充填材は、乾燥により均等に硬化し、水分の残存もなく、優れた硬化性を示した。
一方、上記アルコール系充填材は、空気中の水分(湿度)と反応することにより硬化する。そして、本実験例では、一端が閉じた金属チューブに充填するため、空気との接触面積が少なく、長時間の乾燥が必要であり、金属チューブ先端の素子周りは硬化も不安定であり、硬化性が劣った。
【符号の説明】
【0074】
1 温度センサ
2 感温素子
21 後端部
3 電極線
4 保護層
5 被覆層
6 温度検出素子
7 金属カバー
71 充填材用スラリー
72 充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感温素子に一対の電極線を接合し、上記感温素子と上記一対の電極線の一部とを共に封止するガラスよりなる保護層を形成し、該保護層の表面の一部又は全部を覆う被覆層を形成することにより温度検出素子を得る温度検出素子作製工程と、
上記温度検出素子を、予め内部に充填材用スラリーを充填した金属カバー内に挿入し配置する配置工程と、
上記充填材用スラリーを乾燥させる乾燥工程とを有し、
上記温度検出素子作製工程において、上記被覆層は、上記保護層の表面のうち、少なくとも上記感温素子の後端部に相当する位置よりも先端側の部分に形成され、
且つ、上記被覆層は、撥水性及び耐熱性を有するものであり、
上記充填材用スラリーは、脱水縮合により硬化するスラリーであることを特徴とする温度センサの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、上記被覆層は、主成分がシリコーンレジンよりなることを特徴とする温度センサの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記被覆層は、厚みが2μm以上であることを特徴とする温度センサの製造方法。
【請求項4】
感温素子と、該感温素子に接続された一対の電極線と、上記感温素子と上記一対の電極線の一部とを共に封止するガラスよりなる保護層と、該保護層の表面の一部又は全部を覆う被覆層とを有する温度検出素子と、
上記一対の電極線に接続された一対の信号線と、
該信号線を内蔵する碍子管と、
上記温度検出素子及び上記碍子管を覆うように先端部に配設された金属カバーと、
該金属カバーと上記温度検出素子あるいは上記碍子管との間に介在させた充填材とを有し、
上記被覆層は、上記保護層の表面のうち、少なくとも上記感温素子の後端部に相当する位置より先端側の部分に形成されており、且つ、撥水性及び耐熱性を有することを特徴とする温度センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−169544(P2010−169544A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12583(P2009−12583)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】